説明

ドットラインプリンタのギャップ調整機構

【課題】
ドットラインプリンタは、製品出荷前にはゲージ等を使用して印字素子とプラテン間のギャップを精密に調整する必要があり、作業者の熟練と多くの作業時間を要しているとともに、プラテンは印字素子の打撃力により損傷を受けて定期的に交換が必要となるものがあり、この場合も交換時の印字素子とプラテン間の基準ギャップ調整が交換作業を難しくする要因となっている。
【解決手段】
用紙の厚さに対応して印字素子とプラテン間のギャップを調整する偏心カムに通常印刷時に用紙の厚さに対応させるために使用する範囲と基準ギャップを調整するために使用する範囲を個別に設定し、基準ギャップを規定する前記偏心カムの特定位置と基準ギャップを調整する範囲のカム位置におけるプラテンのギャップ方向の位置変化量を基準ギャップと同一にし、プラテン打撃面を印字素子に突き当てた位置で固定することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドットラインプリンタの紙送り機構に関するものであり、さらに詳しくは印字素子とプラテン間のギャップ調整機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3に従来のドットラインプリンタの概略構成を示す。印字素子1を有するハンマバンク2は、図示しないシャトル機構部により桁方向に往復運動する。また、ハンマバンク2は、インクリボン12と印字用紙13とを間に挟み、印字力を支持するためのプラテン4と対向した位置に配置されている。
【0003】
プラテン4は、スプリング6の張力によりプラテン4を保持するプラテンストッパ7および印刷する用紙の厚さに対応して印字素子1とプラテン4間のギャップを変化させる偏心カム3に突き当たることで位置が拘束されており、偏心カム3の特定位置で規定する基準となるギャップ(以後、基準ギャップという。)を調整するための基準偏心カム11と合わせて2種類の偏心カムにて印刷する各種用紙に対して印字素子1の打撃力および打撃に必要となる時間が適正な範囲内に収まるよう数十μmの精度で印字素子1との間のギャップが管理されている。
【0004】
通常、ドットラインプリンタでは印刷する用紙の厚さに対応して印字素子1とプラテン4間のギャップを調整する偏心カム3はドットラインプリンタの操作者が印刷結果を見ながら操作ノブ5にて調整するが、基準偏心カム11で調整する基準ギャップは、偏心カム3にて変動可能な印字素子1とプラテン4間のギャップ範囲を決定するため、印字素子1の打撃力および打撃に必要となる時間の実力に相応する範囲になるよう製品出荷前にゲージ等を使用して精密に調整を行っている。このため、基準ギャップの調整は作業者の熟練と多くの時間を要する作業の一つとなっている。また、プラテン4は印字素子1の打撃による損傷のために定期的に交換が必要となるものがあり、この場合も基準ギャップの調整が交換作業を難しくする要因となっている。
【0005】
しかし、既存の技術においては、特許文献1に示す印字素子1とプラテン4間ギャップの精度向上を図る構成や、特許文献2に示される偏心カム3を用いて印刷する用紙の厚さに対応して自動でギャップを調整する機構のものは存在するが、上記基準ギャップの調整容易化に関する技術は知られていない。
【0006】
【特許文献1】特開2004−351928号公報
【0007】
【特許文献2】特開2004−202825号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、ドットラインプリンタで使用されるプラテンは、印字素子の打撃力および打撃に必要となる時間を適正な範囲内に収めるため印字素子とプラテン間のギャップを数十μmの精度で管理している。このため、製品出荷前にはゲージ等を使用して印字素子とプラテン間のギャップを精密に調整する必要があり、作業者の熟練と多くの作業時間を要している。
【0009】
また、プラテンは印字素子の打撃力により損傷を受けて定期的に交換が必要となるものがあり、この場合も交換時の印字素子とプラテン間の基準ギャップ調整が交換作業を難しくする要因となっている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、用紙の厚さに対応して印字素子とプラテン間のギャップを調整する偏心カムに通常印刷時に用紙の厚さに対応させるために使用する範囲と基準ギャップを調整するために使用する範囲を個別に設定し、基準ギャップを規定する前記偏心カムの特定位置と基準ギャップを調整するカム位置におけるプラテンのギャップ方向の位置変化量を基準ギャップと同一にし、プラテン打撃面を印字素子に突き当てた位置で固定することで解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、偏心カムに基準ギャップ調整専用のカムプロフィール範囲を設けて、基準ギャップを規定する偏心カム位置における印字素子とプラテン間のギャップと調整専用のカム位置における印字素子とプラテン間距離の差が基準ギャップと等しくなるように設定することで、プラテン打撃面を印字素子に突き当てた位置で固定すれば容易に基準ギャップを調整することが可能となり、工場出荷時の調整時間短縮および定期交換部品としてのプラテン交換作業の容易化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施例を図1および図2を用いて説明する。
【実施例】
【0013】
印字素子1の打撃力を支持するプラテン4は用紙走行のガイドを兼ねるペーパガイド8上に固定されていて、ペーパガイド8がスプリング6の張力によりプラテン4を保持するプラテンストッパ7および印刷する用紙の厚さに対応して印字素子1とプラテン4間のギャップを調整する偏心カム3に突き当てられることで位置が拘束されており、偏心カム3のカムプロフィールに従い印字素子1とプラテン4間のギャップを変化させることが可能な構成となっている。
【0014】
また、偏心カム3はオペレータ操作が可能なようにシャフトを介してノブ5が取付けてあり、このノブ5を操作することにより偏心カム3が回転し、所望の印字素子1とプラテン4間のギャップが得られるようになっている。
【0015】
本発明では、ノブ5の動きを拘束する2個のストッパが設けてあり、通常印刷にて使用する場合は上段のストッパ10を使用し、基準ギャップの調整を行う場合は、上段のストッパ10を取外して下段のストッパ9を使用するようになっている。このとき偏心カム3のカムプロフィールは基準ギャップを規定する偏心カム3の位置に比較して基準ギャップと同じ分だけペーパガイド8が印字素子1側に変位するように設定してある。
【0016】
この状態でプラテン4の打撃面を印字素子1に突き当てて固定し、基準ギャップを規定する偏心カム3の位置にノブ5を位置させることで印字素子1とプラテン4間の基準ギャップを特殊な工具を必要とせずに容易に調整することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施例を示す側面図。
【図2】本発明における基準ギャップ調整用の偏心カム範囲を使用している1例を示す側面図。
【図3】従来のドットラインプリンタの概略構成を示す側面図。
【符号の説明】
【0018】
1は印字素子、2はハンマバンク、3は偏心カム、4はプラテン、5はノブ、6はスプリング、7はプラテンストッパ、8はペーパガイド、9は下段ストッパ、10は上段ストッパ、11は基準偏心カム、12はインクリボン、13は印字用紙を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個の印字素子を搭載したハンマバンクと、該ハンマバンクを桁方向に往復移動させるためのシャトル機構と、印字素子の印字力を保持するプラテンと、前記印字素子と前記プラテン間のギャップを変化させる偏心カムと、シャフトを介して前記偏心カムを回転させるノブと、オペレータが操作できるノブの範囲を拘束するストッパと、各用紙に対応する目印が記されているインジケーターとを有し、オペレータが前記ノブを印刷する用紙に対応する前記インジケーター上の目印に合わせるように操作することで用紙の厚さに対応する前記印字素子と前記プラテン間のギャップを調整可能なドットラインプリンタにおいて、前記ストッパで規定されたオペレータのノブ操作範囲とは異なる領域に、工場調整時および保守調整時に前記印字素子と前記プラテン間のギャップ調整を行うためのノブ操作位置または範囲を有することを特徴とするドットラインプリンタのギャップ調整機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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