説明

ドットラインプリンタ

【課題】印字速度を低下させることなく、桁方向にわたって均一で高い印字品質の得られるドットラインプリンタを提供する。
【解決手段】フロントヨーク21が電磁鋼板の積層構造によりサイドヨーク22を一体に構成し、フロントヨーク21のハンマピン26の貫通穴23近傍に前方へ突き出した凸状部24を設けたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、桁方向に複数並べて配列された印字ハンマ群によりドット印字を行うドットラインプリンタからなる印字装置に係り、特にそれのハンマ機構部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドット印字を行う代表的な印字装置であるドットラインプリンタは、ドット印字を行う印字ハンマを搭載したハンマ機構部を、シャトル機構部により桁方向に往復運動させて印字を行うプリンタである。印字ハンマは、板バネの先端に印字ピンを取り付けた構成となっており、板バネに予め持たせた撓みエネルギーを開放することで印字ハンマを動作させ、桁方向に走行しているインクリボンを介して印字用紙にドット印字を行う。
【0003】
図5は上面から見たドットラインプリンタの概略構成図、図6はそのドットラインプリンタのハンマ機構部の前面図である。
【0004】
図5に示すように、ドット印字を行う印字ハンマ2を実装したハンマ機構部1は、シャトル機構部3に搭載され、桁方向に往復移動可能になっている。印字ハンマ2の印字力を支持するプラテン4は、桁方向に走行しているインクリボン5及び印字用紙6を介してハンマ機構部1に対向し、所定のギャップを設けて配置されている。インクリボン5と印字用紙6との間にはセパレータ7(図1参照)を設け、印字用紙6が直接インクリボン5に接触して汚れないようになっている。
【0005】
図6に示すように、インクリボン5は桁方向の印字において印字濃度に差が発生しないように、水平方向に対して所定のスキュー角θを持って走行するように、リボンガイド14Aとリボンガイド14Bを上下方向に若干ずらしている。
【0006】
また図5に示すように、リボン機構部11はエンドレス状のインクリボン5を収納したリボンカセット12の出口に設けたリボンブレーキ13と、ハンマ機構部1の両側にてインクリボン5を支持・ガイドするリボンガイド14A,14Bによって、ハンマ機構部1の前面にてインクリボン5に張力を与えており、インクリボン5はリボンローラ15により巻き取られリボンカセット12に戻る仕組みになっている。
【0007】
ここで印字を行った場合、インクリボン5は各印字ハンマ2の打撃力により走行抵抗を受けて、インクリボン5は上下方向の位置ずれを起こすようになり、全体としてはインクリボン5が弓状に撓むように位置が変化する。これは印字パターンの種類によって、特に高密度の印字を行った場合に顕著に現れる現象である。
【0008】
図1に示すように、インクリボン5はハンマ機構部1の前面とプラテン4との微小ギャップβ(約0.2〜0.3mm)において、セパレータ7と共に挟まれた状態にあり、またハンマ機構部1はセパレータ7と共にシャトル機構部3(図5参照)により桁方向に往復運動している。
【0009】
そのため、インクリボン5はハンマ機構部1の前面の走行においても、走行抵抗を受ける。その他、印字を行った部分の印字用紙6が印字ハンマ2の打撃力により図2に示したようにエンボス状の凹凸となり、その影響によってもインクリボン5は走行抵抗を受けることもある。
【0010】
そこでインクリボン5の走行安定性を維持するため、図5に示すリボンブレーキ13による張力、リボンローラ15の回転速度、すなわちリボン速度を適正化することにより、インクリボン5の走行安定性を図るよう構成されている。
【0011】
ここで、ハンマ機構部1の前面においてインクリボン5に与えておく張力が、印字ハンマ2の打撃力による走行抵抗、及びハンマ機構部1の前面による走行抵抗に対して充分でない場合、印字に伴いインクリボン5の走行位置ずれを起こすようになる。
【0012】
その結果、インクリボン5の前記スキュー角θが適正に維持されることができなくなり、インクリボン5が均一にハンマピン26に打撃されないため、印字濃度が不均一な印字となってしまう。
【0013】
さらにインクリボン5の走行位置ずれが極端に大きくなった場合、ハンマピン列16の一部からインクリボン5の走行進路が逸脱して桁方向片端の一部の印字が行われなくなる印字欠け、あるいはインクリボン5の走行不良によるリボンローラ15へのインクリボン5の巻き付きなどが起こり、インクリボン5の走行障害の原因となることが考えられる。
【0014】
このような場合、従来技術においては、インクリボン5の走行位置ずれをセンサによって感知し、インクリボン5の走行位置ずれが生じた場合には、一時的に印字動作を中断してインクリボン5の巻き取り動作を継続し、インクリボン5の走行位置を復帰させる。
【0015】
あるいは一時的に高密度印字パターンを所定の制限値に基づき数回に分割して印字動作を行うデューティ制限を行い、インクリボン5への印字ハンマ2の打撃力の影響を低減させることにより、インクリボン5の走行位置ずれを解消させる提案がある。
【0016】
また、ハンマ機構部1の前面にインクリボン5の走行不安定性を抑制するガイドを設けることにより、高密度印字パターンの印字時にも適正なインクリボン5の走行位置を確保しようとする提案もある(例えば特許文献1参照)。
【0017】
また、ハンマピン列16の配置は図6に示すように、行方向にシフトさせた配置とし、1ストロークのシャトル動作によって、複数のドット印字を行なうものもある。この場合、ハンマスプリング25(図1参照)の配列はハンマピン列16のような配列として、モジュール単位での構成で、生産性を高めている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
前述したようにドットラインプリンタにおいて桁方向に均一な印字を得るためには、インクリボンの走行位置を適正に保つことが必要となる。
【0019】
インクリボンの走行位置ずれが起こることにより、高密度印字パターンの印字時に桁方向にわたって均一な印字を得ることができなくなる可能性がある。
【0020】
本発明の目的は、このような従来技術の欠点を解消し、印字速度を低下させることなく、桁方向にわたって均一で高い印字品質が得られるドットラインプリンタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するため本発明は、
桁方向に所定のピッチで並設されて、先端にドット印字を行うハンマピンを設けた磁性体であるハンマスプリングからなる印字ハンマと、
前記印字ハンマの前方に配置されたフロントヨーク、及びそのフロントヨークに形成され各ハンマスプリングの両側に側壁状に設けられたサイドヨークと、
前記印字ハンマを非印字位置に保持するために磁気吸引力を発生する永久磁石と、
前記印字ハンマを駆動するために各印字ハンマに設けられ、所定の釈放電流が供給されて前記永久磁石による磁束を打ち消す釈放用電磁コイルを有するハンマ機構部を備えたドットラインプリンタを対象とするものである。
【0022】
そして本発明の第1の手段は、
前記フロントヨークは電磁鋼板の積層構造により前記サイドヨークを一体として構成したもので、該フロントヨークをハンマピンの貫通穴近傍のみを凸状に前方に突き出すよう形成したことを特徴とするものである。
【0023】
本発明の第2の手段は前記第1の手段において、
前記印字ハンマと、その印字ハンマと対向するように配置されたプラテンとの間にインクリボンと用紙が挿入され、
前記インクリボンは桁方向に走行可能で、かつ水平方向に対して所定のスキュー角度をもって配置され、
前記ハンマピンの列が行方向にも所定のピッチでシフト配置され、そのハンマピン列の水平方向に対する角度γが、前記インクリボンのスキュー角度θと正負逆方向になっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は前述のような構成になっており、印字速度を低下させることなく、桁方向にわたって均一で高い印字品質が得られるドットラインプリンタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係るハンマ機構部付近の側断面図である。
【図2】そのハンマ機構部のハンマピン先端部付近の拡大側断面図である。
【図3】そのハンマ機構部に使用するフロントヨークとサイドヨークの積層体の一部側面図である。
【図4】図3A−A線上の断面図である。
【図5】ドットラインプリンタの上面から見た概略構成図である。
【図6】そのドットラインプリンタのハンマ機構部の前面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に本発明の実施形態に係るドットラインプリンタを図面と共に説明する。
【0027】
この実施形態に係るドットラインプリンタの全体的な構成は図5に示すように、ドット印字を行う印字ハンマ2を実装したハンマ機構部1はシャトル機構部3に搭載され、桁方向に往復移動可能になっている。
【0028】
印字ハンマ2の印字力を支持するプラテン4は、桁方向に走行しているインクリボン5及び印字用紙6を介してハンマ機構部1と対向し、所定のギャップを設けて配置されている。
【0029】
また同図に示すように、エンドレス状のインクリボン5を収納したリボンカセット12の出口に設けたリボンブレーキ13と、ハンマ機構部1の両側にてインクリボン5を支持・ガイドするリボンガイド14A,14Bにより、ハンマ機構部1の前面にてインクリボン5に張力を与えている。そのインクリボン5は、リボンローラ15により巻き取られて、再びリボンカセット12に戻る仕組みになっている。
【0030】
図6に示すように、インクリボン5は桁方向の印字にわたって印字濃度に差が発生しないように、水平方向に対して所定のスキュー角θを持って走行するように構成されている。
【0031】
図1ならびに図2に示すように、インクリボン5と印字用紙6との間にはセパレータ7を設け、印字用紙6が直接インクリボン5に接触して汚れないようになっている。
【0032】
図1に示すように、ハンマ機構部1は、桁方向に所定のピッチで並設され、先端にドット印字を行うハンマピン26を設けた磁性体であるハンマスプリング25からなる印字ハンマ2と、印字ハンマ2を非印字位置に保持する場合に当接するコムヨーク29と、印字ハンマ2を非印字位置に保持するために磁気吸引力を発生させる永久磁石27と、その永久磁石27を支持するヨークベース30と、印字ハンマ2の前方に配置されたフロントヨーク21、及びそのフロントヨーク21に形成され前記各ハンマスプリング25の両側に側壁状に設けられたサイドヨーク22(図3ならびに図4参照)によって磁気回路を形成する。
【0033】
更に、コムヨーク29には、各印字ハンマ2に対応するように釈放用電磁コイル28が装着されている。そして、前記印字ハンマ2は、永久磁石27によって所定の撓み量を持つコムヨーク29に磁気吸引され、非印字位置に保持された状態にあり、釈放用電磁コイル28に永久磁石27による磁束を打ち消す所定の釈放電流が供給されることにより、印字ハンマ2の撓みを解放し、ハンマピン26がインクリボン5を介して印字用紙6を打撃することによりドット印字を行う。
【0034】
前記印字ハンマ2の磁気回路を構成する部品であるフロントヨーク21は図4に示すように、電磁鋼板を複数枚(本実施形態では4枚)積層し、さらに2枚のサイドヨーク22が一体に付設された構造になっており、ロール状の電磁鋼板を順送プレス加工することで、一度の工程にて加工できる。
【0035】
また図1〜4に示すように、フロントヨーク21には、ハンマスプリング25に設けられたハンマピン26を通す貫通穴23が形成されている。
【0036】
さらにフロントヨーク21を構成する各電磁鋼板の前記貫通穴23の周囲近傍を凸状に変形することにより、各電磁鋼板を所定枚数積層してフロントヨーク21を構成した場合、フロントヨーク21の前記貫通穴23の周囲近傍にプラテン4側へ向けて突出した段部24を形成することができる。
【0037】
この段部24は、貫通穴23の周囲全体にわたって傾斜面を有する凸状(山形)の段部24である。本実施形態では、凸状段部24の突出高さα(図4参照)は約0.2mmとしている。
【0038】
図1に示すように、インクリボン5はハンマ機構部1の前面とプラテン4との微小ギャップβ(約0.2〜0.3mm)において、セパレータ7と共に挟まれた状態にある。本実施形態のような構成によれば、ハンマピン26の貫通穴23近傍を除いて前記ギャップβを凸状段部24の高さαの寸法を拡大して確保でき、インクリボン5の走行抵抗を低減することができる。
【0039】
またハンマ機構部1はセパレータ7と共にシャトル機構部3により桁方向に往復運動しているが、ハンマ機構部1の前面とインクリボン5が面接触する面積を減らせるため、インクリボン5の走行抵抗を低減させることができる。
【0040】
よって、ハンマ機構部1の前面の走行においてインクリボン5が受ける走行抵抗が低減できるため、ハンマ機構部1の前面にてインクリボン5に与えた張力を印字ハンマ2の打撃力によるインクリボン5の走行抵抗に対し、有効に使えるようにすることができ、インクリボン5の走行位置ずれが抑制できる。
【0041】
また、本実施形態においては、従来技術で実施していた高密度印字パターンの印字時のデューティ制限を行わずに済む、あるいはデューティ制限の所定の制限値を緩和することが可能となる。そのため、デューティ制限に伴う印刷速度の低下を防止、あるいは緩和することができる。
【0042】
本発明は前述のように、ハンマ機構部1を構成するフロントヨーク21の前面にインクリボン5の走行負荷を低減させる凸状の段部24を設けることにより、インクリボン5の走行位置ずれを抑制し、高密度印字パターンの印字時にも適正なインクリボン5の走行位置を確保することで、印字速度を低下させることなく、桁方向にわたって均一で高い印字品質が得られる。
【0043】
また、上記構成に加えて図6に示すように、ハンマピン列16が行方向にもシフトした配置とし、ハンマピン列16の角度γを、インクリボン5のスキュー角度θと正負逆方向としている。本実施形態の場合図6に示すように、インクリボン5のスキュー角度θが水平方向に対して右下がりの方向(−方向)に傾斜している場合、ハンマピン列16の角度γを逆に右上がりの方向(+方向)に設定することで、全体として(θ+γ)の角度を確保できるようにして、インクリボン5の幅方向L(図6参照)にハンマピン列16が均一に当たるようにしている。
【0044】
つまり、a×sin(θ+γ)<L
の範囲で、前記(θ+γ)が可能な限り大きければ、インクリボン5の幅方向全体にハンマピンが当り、ハンマピン列16がインクリボン5に与える走行抵抗の力を分散させることができ、インクリボン5の走行位置ずれが抑制できる。
【符号の説明】
【0045】
1:ハンマ機構部、2:印字ハンマ、3:シャトル機構部、4:プラテン、5:インクリボン、6:印字用紙、7:セパレータ、11:リボン機構部、12:リボンカセット、13:リボンブレーキ、14:リボンガイド、15:リボンローラ、16:ハンマピン列、21:フロントヨーク、22:サイドヨーク、23:貫通穴、24:段部、25:ハンマスプリング、26:ハンマピン、27:永久磁石、28:釈放用電磁コイル、α:段部の突出高さ、β:ハンマ機構部の前面とプラテンとのギャップ、θ:インクリボンのスキュー角度、γ:ハンマピン列の角度。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【特許文献1】特開2004−155038号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
桁方向に所定のピッチで並設されて、先端にドット印字を行うハンマピンを設けた磁性体であるハンマスプリングからなる印字ハンマと、
前記印字ハンマの前方に配置されたフロントヨーク、及びそのフロントヨークに形成され各ハンマスプリングの両側に側壁状に設けられたサイドヨークと、
前記印字ハンマを非印字位置に保持するために磁気吸引力を発生する永久磁石と、
前記印字ハンマを駆動するために各印字ハンマに設けられ、所定の釈放電流が供給されて前記永久磁石による磁束を打ち消す釈放用電磁コイルを有するハンマ機構部を備えたドットラインプリンタにおいて、
前記フロントヨークは電磁鋼板の積層構造により前記サイドヨークを一体に構成し、前記フロントヨークの前記ハンマピンの貫通穴近傍に前方へ突き出した凸状部を設けたことを特徴とするドットラインプリンタ。
【請求項2】
請求項1記載のドットラインプリンタにおいて、
前記印字ハンマと、その印字ハンマと対向するように配置されたプラテンとの間にインクリボンと用紙が挿入され、
前記インクリボンは桁方向に走行可能で、かつ水平方向に対して所定のスキュー角度をもって配置され、
前記ハンマピンの列が行方向にも所定のピッチでシフト配置され、そのハンマピン列の水平方向に対する角度γが、前記インクリボンのスキュー角度θと正負逆方向になっていることを特徴とするドットラインプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−194878(P2011−194878A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3928(P2011−3928)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(302057199)リコープリンティングシステムズ株式会社 (1,130)
【Fターム(参考)】