説明

ドライブプレートの制振構造

【課題】クランキング音を効果的に減衰させることができるドライブプレートの制振構造を提供する。
【解決手段】エンジンのクランク軸10とトルクコンバータ20とを連結し、外周部にスタータモータギヤと噛み合うリングギヤ1bが設けられたドライブプレート1において、ドライブプレート1とトルクコンバータ20との間であって、ドライブプレート1のトルクコンバータ20へのボルト締結部22のほぼ円周方向中間位置に緩衝材6が配置されている。緩衝材6によってクランキング時に発生する膜振動を減衰させ、クランキング音を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はドライブプレートの制振構造、特にクランキング時に発生するドライブプレートの膜振動を抑える構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、エンジンの駆動力を自動変速機のトルクコンバータに伝達するため、ドライブプレートが用いられている。すなわち、ドライブプレートの内径部はエンジンのクランク軸にボルトで締結され、外径部はトルクコンバータにボルトで締結されている。そして、ドライブプレートの外周部にはスタータモータギヤと噛み合うリングギヤが設けられている。
【0003】ドライブプレートには、2ピース型ドライブプレートと1ピース型ドライブプレートとがある。2ピース型ドライブプレートでは、プレス成形されたプレートの外周部にリングギヤが溶接された構造となっており、1ピース型ドライブプレートでは、プレート部とリングギヤ部とが一体成形されている。1ピース型ドライブプレートは2ピース型のドライブプレートに比べて部品点数が少なくなるので、製造コストを低減できる利点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】エンジン始動(クランキング)時には、スタータモータによってリングギヤを駆動し、ドライブプレートを回転させるが、クランキング時にドライブプレートに加わるトルクによって膜振動が発生し、この膜振動のためにクランキング音が残響するという問題がある。このクランキング音は、一般に、2ピース型ドライブプレートに比べて1ピース型ドライブプレートの方が大きい。
【0005】そこで、本発明の目的は、クランキング音を効果的に減衰させることができるドライブプレートの制振構造を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、エンジンのクランク軸とトルクコンバータとを連結し、外周部にスタータモータギヤと噛み合うリングギヤが設けられたドライブプレートにおいて、上記ドライブプレートとトルクコンバータとの間であって、ドライブプレートのトルクコンバータとの連結部のほぼ円周方向中間位置に緩衝材が配置されていることを特徴とするドライブプレートの制振構造を提供する。
【0007】請求項1に記載の発明の場合、ドライブプレートのトルクコンバータとの連結部(例えばボルト締結部)は、トルクコンバータによって動きが拘束されているので振動しないが、連結部のほぼ円周方向中間位置は最も膜振動が起こりやすく、クランキング音が発生しやすい。そこで、この部位に緩衝材を配置することで、クランキング時に発生するドライブプレートの膜振動を減衰させ、クランキング音の残響を抑えることができる。緩衝材としては、例えばゴム状弾性体を使用することができる。ドライブプレートとトルクコンバータとの連結方法としては、ボルトによる締結の他に、リベット等によって連結してもよい。
【0008】また、請求項2に記載の発明は、エンジンのクランク軸とトルクコンバータとを連結し、外周部にスタータモータギヤと噛み合うリングギヤが設けられたドライブプレートにおいて、上記ドライブプレートのトルクコンバータとの連結部のほぼ円周方向中間位置であって、その法線方向と直角方向にスリットを形成し、対向するスリット面を互いに摺接可能としたことを特徴とするドライブプレートの制振構造を提供する。
【0009】請求項2では、緩衝材によって膜振動を減衰させるのではなく、ドライブプレートにスリットを形成し、クランキング時に発生する膜振動によってスリットを間にしてその両側の部位が相対変位した時、スリット面同士を摺接させることで、その摩擦抵抗により膜振動を減衰させるようにしたものである。この場合には、緩衝材のような別部品を必要としないので、構造が簡素となり、コスト低減を図ることができる。
【0010】請求項2に記載の発明の場合、膜振動が頻繁に加わると、スリットの端部に剪断応力による亀裂が発生する可能性があるので、請求項3のようにスリットの長さ方向両端部に応力緩和穴を形成するのが望ましい。この場合には、スリットの端部に亀裂が発生するのを防止できるとともに、スリットの対向面が動きやすくなり、減衰効果が増すという利点がある。
【0011】本発明は1ピース型ドライブプレートおよび2ピース型ドライブプレートのいずれにも適用可能である。特に、1ピース型ドライブプレートの場合、溶接部が存在しないので、クランキング時に発生するドライブプレートの膜振動が減衰されにくいという性質があるが、本発明を適用することで、膜振動を効果的に抑制できる。
【0012】
【発明の実施の形態】図1〜図3は本発明にかかるドライブプレートの制振構造の第1実施例を示す。この実施例のドライブプレート1は1ピース型ドライブプレートであり、プレート部1aとその外周部に一体形成されたリングギヤ部1bとで構成されている。プレート部1aの内径部にはエンジンのクランク軸10にボルト11で締結するためのクランク軸取付穴2が複数個(この実施例では6個)形成されており、外周部にはトルクコンバータ20のナット部21にボルト22で締結するためのトルクコンバータ取付穴3が適数個(この実施例では120°間隔で3個)形成されている。トルクコンバータ取付穴3の円周方向のほぼ中間部には、複数の剛性調整用穴4が適数個(この実施例では6個)形成されており、これによりドライブプレート1に可撓性を付与し、トルクコンバータ20が内圧変化によって膨張と収縮を繰り返した時に、トルクコンバータ20の軸方向変形に追従できるようになっている。
【0013】ドライブプレート1のプレート部1aには、トルクコンバータ取付穴3の円周方向中間位置に適数個(この実施例では120°間隔で3個)の緩衝材取付穴5が形成され、この取付穴5には、図3に示すように弾性ゴムよりなる緩衝材6の頭部6aが挿入されて抜け止めされている。緩衝材6の胴部6bはドライブプレート1とトルクコンバータ20との間で挟着されており、ボルト22の締結によって二点鎖線状態から実線状態へと撓み、ドライブプレート1の膜振動を減衰させるようになっている。
【0014】エンジン始動時には、スタータモータによってリングギヤ部1bを駆動し、ドライブプレート1を回転させるが、ドライブプレート1に加わるトルクによって膜振動が発生し、この膜振動のためにクランキング音が発生する。特に、ボルト締結部の間の部位が最も大きく振動する。ところが、ドライブプレート1の振幅の最も大きな部位とトルクコンバータ20との間には緩衝材6が配置されているので、膜振動が緩衝材6によって減衰され、クランキング音を抑制できる。
【0015】図4,図5は本発明にかかるドライブプレートの制振構造の第2実施例を示す。この実施例のドライブプレート1も1ピース型ドライブプレートであり、第1実施例と同一部分には同一符号を付して重複説明を省略する。この実施例では、膜振動を減衰させるため、ドライブプレート1に緩衝材6を取り付けるのに代えて、トルクコンバータ取付穴3の円周方向中間位置に適数本(この実施例では120°間隔で3本)のスリット7をドライブプレート1の法線方向と直角方向に剪断加工し、対向するスリット面7aを互いに摺接可能としたものである。スリット7の長さ方向両端部に応力緩和穴8が形成され、スリット7の両端に亀裂が生じるのを防止している。この実施例では、スリット7を直線状としたが、円周方向に湾曲していてもよい。
【0016】この実施例では、クランキング時に発生するドライブプレート1の膜振動によってスリット7を間にしてその両側の部位が相対変位した時、スリット面7a同士を摺接させることで、その摩擦抵抗により膜振動を減衰させることができる。スリット面7aの摺動方向は膜振動の形態によって円周方向および板厚方向の両方向が考えられるが、いずれの場合もクランキング音の抑制効果を有する。また、スリット7の両端に応力緩和穴8を形成することで、スリット7の両端での亀裂の発生を防止できるとともに、スリット面7aが変位しやすくなり、膜振動を一層効果的に減衰させることができる。
【0017】第1,第2の実施例では、緩衝材6およびスリット7をトルクコンバータ取付穴3とほぼ同一円周上に取り付け、あるいは形成したが、緩衝材6およびスリット7を設ける位置はこれに限るものではなく、かつその個数も3個に限らない。いずれにしても、ドライブプレートの最も膜振動の振幅の大きい部位に設けるのが望ましい。
【0018】
【発明の効果】以上の説明で明らかなように、請求項1に記載の発明によれば、ドライブプレートとトルクコンバータとの間であって、ドライブプレートのトルクコンバータとの連結部のほぼ円周方向中間位置に緩衝材を配置したので、クランキング時に発生するドライブプレートの膜振動を緩衝材によって減衰させることができ、クランキング音の残響を抑えることができる。また、請求項2に記載の発明によれば、ドライブプレートのトルクコンバータとの連結部のほぼ円周方向中間位置であって、その法線方向と直角方向にスリットを形成し、対向するスリット面を互いに摺接可能としたので、クランキング時に発生する膜振動をスリット面の摩擦抵抗によって減衰させることができ、クランキング音の残響を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるドライブプレートの制振構造の第1実施例の正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図2のB部拡大図である。
【図4】本発明にかかるドライブプレートの制振構造の第2実施例の正面図である。
【図5】図4のC部拡大図である。
【符号の説明】
1 ドライブプレート
1a プレート部
1b リングギヤ部
2 クランク軸取付穴
3 トルクコンバータ取付穴
5 緩衝材取付穴
6 緩衝材
7 スリット
7a スリット面
8 応力緩和穴
10 クランク軸
20 トルクコンバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】エンジンのクランク軸とトルクコンバータとを連結し、外周部にスタータモータギヤと噛み合うリングギヤが設けられたドライブプレートにおいて、上記ドライブプレートとトルクコンバータとの間であって、ドライブプレートのトルクコンバータとの連結部のほぼ円周方向中間位置に緩衝材が配置されていることを特徴とするドライブプレートの制振構造。
【請求項2】エンジンのクランク軸とトルクコンバータとを連結し、外周部にスタータモータギヤと噛み合うリングギヤが設けられたドライブプレートにおいて、上記ドライブプレートのトルクコンバータとの連結部のほぼ円周方向中間位置であって、その法線方向と直角方向にスリットを形成し、対向するスリット面を互いに摺接可能としたことを特徴とするドライブプレートの制振構造。
【請求項3】上記スリットの長さ方向両端部に応力緩和穴を形成したことを特徴とする請求項2に記載のドライブプレートの制振構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2001−132817(P2001−132817A)
【公開日】平成13年5月18日(2001.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−314592
【出願日】平成11年11月5日(1999.11.5)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)