説明

ドラッグデリバリー用のキャリア化合物、当該キャリア化合物が薬剤を内包する脂質膜に結合した薬剤、及び、当該薬剤を用いたドラッグデリバリーシステム

【解決課題】
ドラッグデリバリーシステムにおけるリポソームの利用率を実質的に向上させるキャリア化合物を提供する。
【解決手段】本発明は、内部に薬物を有する脂質膜に親和性を有する第1の領域と、前記第1の領域と結合し、そして、自己磁性有機分子を含む第2領域と、を有するドラッグデリバリー用キャリア化合物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤を内包する脂質膜に自己磁性有機分子を結合させて、これを磁場によって目的の患部領域に誘導可能なドラッグデリバリーシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
長時間の血液滞留性を有するリポソーム内に薬物を内封させたドラッグデリバリーシステムが知られている。例えば、リポソーム内に制癌剤を内封させ、リポソームの粒径を調整することによって、リポソームを癌細胞周辺に集積し易くする。
【0003】
特に、薬剤を内封したリポソーム表面に、ターゲットの細胞の受容体に結合親和性を有するリガンドを結合したシステムが知られている。一例として、リポソーム表面にトランスフェリンを結合することによって、リポソームの血中滞留性を向上させると共に、癌細胞表面に多く存在するトランスフェリン受容体と結合し易くすることで、リポソームが癌細胞へ薬物を運搬し、癌細胞に薬物を集積し易くするシステムが知られている(例えば、特開2006−248978号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−248978号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既述のように、患部組織に対するターゲッティング機能が改良されたリポソームを用いたドラッグデリバリーシステムであっても、患部組織へのリポソームの到達率が十分ではなく、結果的に、ドラッグデリバリーシステムにおいて、リポソームの利用率が実質的に向上されないという課題があった。
【0006】
そこで、本発明は、ドラッグデリバリーシステムにおけるリポソームの利用率を実質的に向上させる、キャリア化合物を提供することを目的とする。さらに、本発明は、当該キャリア化合物が結合されたリポソーム等の脂質膜に結合した薬剤を提供することを第2の目的とする。さらにまた、本発明の第3の目的は、当該薬剤を利用したドラッグデリバリーシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、第1の発明は、内部に薬物を有する脂質膜に親和性を有する第1の領域と、前記第1の領域と結合し、そして、自己磁性有機分子を含む第2領域と、を有するドラッグデリバリー用キャリア化合物であることを特徴とする。脂質膜は脂質二重膜であることが好ましく、特に、リポソームが好ましい。リソソームであってもよい。
【0008】
さらに、第2の発明は、脂質膜に前記ドラッグデリバリー用キャリア化合物が結合した薬剤であることを特徴とし、第3の発明は、当該薬剤を利用したドラッグデリバリーシステムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ドラッグデリバリーシステムにおけるリポソームの利用率を実質的に向上させるキャリア化合物、当該キャリア化合物が結合されたリポソーム等の脂質膜に結合した薬剤、そして、当該薬剤を利用したドラッグデリバリーシステム(薬物移送方法)を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第1の発明において、第1の領域の好適な形態は親水性分子であり、例えば、ポリエチレングリコール、タンパク質、オリゴヌクレオチド、ポリペプチド、ポリアミド、オリゴヌクレオチド、多糖類、グリコール酸、そして、乳酸の少なくとも一つである。
【0011】
親水性分子は、ポリエチレングリコール等の誘導体でもよい。親水性分子はリポソーム表面の親水性部分、特に、リン酸基に親和性を有し、リン酸基と結合(共有結合又はインオン結合)する。親水性分子がポリマーから構成される場合、ポリマーはコポリマーでもよい。
【0012】
さらに、第2の領域を構成する自己磁性分子の好適な形態は金属サレン錯体化合物である。金属サレン錯体化合物は磁性を備える有機分子であり、例えば、WO2010/058280号国際公開公報で詳しく説明されている。
【0013】
金属サレン錯体を個体(ヒト又は動物)に適用後、患部組織に外部磁場を与えると、自己磁性分子(金属サレン錯体化合物)を磁場適用領域に誘導・集積することができる。したがって、親水性分子を介して自己磁性分子と結合する、薬物を内包するリポソームのターゲット細胞に対する到達率を向上させることができる。ターゲット細胞として代表的なものは癌細胞である。
【0014】
WO2010/058280号国際公開公報に記載のように、金属サレン錯体化合物に官能基を結合させると、官能基は親水性分子に直接又は中間分子を介して結合(共有結合)する。
【0015】
金属サレン錯体化合物を有するキャリアは、その疎水性のために、水中では、疎水性分子同士が凝集し、その結果、キャリアは細胞膜に対してアクセスできないことになる。しかしながら、キャリアがポリエチレングルコール等の親水性分子を備えることによって、疎水性分子の水中での凝集を防ぎ、キャリアが細胞膜にアクセスすることができる。
【実施例】
【0016】
次に本発明の実施形態について説明する。
(リポソームの製造)
抗癌剤を内包したリポソームの製造に必要な脂質を、“Prodrugs Formings High Drug loading Mulutifunctional Nanocapsules for Intracellular cancer Drug Delivery ” J Am Chem Soc.132(2010)4259-4265を参照して製造した。
【0017】
(キャリアの製造)
次に、リポソームのキャリア化合物の製造例について説明する。下記は、キャリア化合物の分子式である。


【0018】
このキャリアはポリエチレングルコール(親水性分子)に塩化スクニシル(中間分子)を介して鉄サレン錯体分子を結合させたものである。
【0019】
ポリエチレングルコール

【0020】
塩化スクシニル

【0021】
鉄サレン錯体分子(フェノール基が付加された誘導体)

【0022】
鉄サレン錯体分子は、“DNA cleavage by hydroxyl - salicylidene - ethylendiamine - iron complex Nucleic Acids”Res.27(1997)4160-4166にしたがって製造された。
【0023】
(リポソーム―キャリア複合体の製造)
先ず、ポリエチル・グルコール・モノメチル・エステル(5.50g 10mmol)を無水テトラヒドロフラン20mlに溶解した。その得られた溶液を摂氏−20度に冷却した後、ナトリウム水素化物(0.3g 12mmol)を撹拌しながら冷却溶液に添加した。30分後、得られたポリエチレングリコールに、無水テトラヒドロフラン20mlに溶解した塩化スクシニル(1.55g 10mmol)を添加した。
【0024】
混合した溶液を2時間、摂氏−20度で撹拌し、その後1日、室温で撹拌した。次いで、フィルターで溶液をろ過させて塩化ナトリウム結晶を取り除いたところ、ポリエチレングリコールと塩化スクシニルの縮合体を得た。
【0025】
次いで、この縮合体(600mg)と既述の鉄サレン錯体分子(350mg)と脱塩化水素化反応の反応試剤であるジアザビシクロウンデセン(780mg)を無水ジクロロメタン200mlに溶解させた。その混合溶液に、リポソーム(700mg)と抗癌剤であるドキソルビシン(500mg)とを混合し、窒素雰囲気で24時間、摂氏零度で撹拌した。得られた懸濁液を32μmのフィルタを用いてろ過を行い、遠心分離機により合成物を沈殿させた。その上澄み液を除去することで、未反応の余剰リポソーム、サレン錯体分子、ドキソルビシン、グリコール−塩化スクシニルを分離除去した。その後、その溶液を無水エーテルに溶解させたところ、ドキソルビシンを内包したリポソーム−キャリア化合物の複合体が得られた。金属サレン錯体化合物と第1領域を構成する化合物(ポリエチレングルコール)との間の結合は、両者の側鎖又は官能基同士の間でのアミド結合、エステル結合、エーテル結合、ジスルフィド結合等に基づく。
【0026】
(リポソーム−キャリア化合物の複合体の抗癌効果の確認試験)
がん細胞であるPOS−1細胞を24穴プレートに1.0×104/wellに適用して培養した。培養24時間後に上記で合成したリポソーム―キャリア(金属サレン錯体化合物)複合体の濃度を換え投与した。24時間後に細胞回収し、細胞生存アッセイ用のMTT試薬を投与し、45分後に0.04mol/HCl/イソプロピルアルコールを400μl加え、96穴プレートへ100μl分注し、570nmの吸光度を測定し、生存細胞率を計算した。その結果、コントロールでは、細胞生存率は100%であっが、リポソーム―キャリア化合物の複合体の濃度(10μM)程度から癌細胞殺傷効果が増大し、抗癌作用が認められることがわかった。
【0027】
なお、自己磁性キャリア分子が、抗癌効果を有することが知られている鉄サレン錯体化合物である場合には、リポソームに内包される抗癌剤の量を低減させるか、あるいは、リポソーム内への抗癌剤の内包を省略して抗癌剤の副作用を低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に薬物を有する脂質膜に親和性を有する第1の領域と、前記第1の領域と結合し、そして、自己磁性有機分子を含む第2領域と、を有するドラッグデリバリー用キャリア化合物。
【請求項2】
前記脂質膜はリポソームである、請求項1記載のドラッグデリバリー用キャリア化合物。
【請求項3】
前記第1の領域は親水性分子を含む、請求項1記載のドラッグデリバリー用キャリア化合物。
【請求項4】
前記親水性分子は、ポリエチレングリコール、タンパク質、オリゴヌクレオチド、ポリペプチド、ポリアミド、オリゴヌクレオチド、多糖類、グリコール酸、そして、乳酸の少なくとも一つである、請求項3記載のドラッグデリバリー用キャリア化合物。
【請求項5】
前記自己磁性有機分子は金属サレン錯体化合物からなる、請求項1記載のドラッグデリバリー用キャリア化合物。
【請求項6】
前記自己磁性有機分子に、細胞膜に結合親和性を有する疎水性分子が結合している、請求項5記載のドラッグデリバリー用キャリア化合物。
【請求項7】
内部に薬剤を有する脂質膜と、当該脂質膜に、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のドラッグデリバリー用キャリア化合物が結合している薬剤。
【請求項8】
請求項7記載の薬剤を個体に適用後、外部磁場によって前記薬剤を目的の患部領域に誘導するドラッグデリバリーシステム。

【公開番号】特開2013−63926(P2013−63926A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203497(P2011−203497)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(505328683)
【Fターム(参考)】