説明

ドラム式洗濯機

【課題】 回転ドラムを収容した水槽が洗濯物の偏り等により振動して異常振動や異常騒音の発生にならないように水槽の変位を精度よく検知する変位検知手段を設けたドラム式洗濯機を提供する。
【解決手段】 水槽と洗濯機筐体の基底部との間に変位センサ36を配設し、水槽の変位によって変位ロッド部41が検知コイル部40内で進退移動させる。変位ロッド部41にはフェライト42が設けられ、それが検知コイル部40に設けられた3つの巻線(コイル)61,62,63内で移動すると、1つの一次巻線61に印加された励磁信号が2つの二次巻線62,63から励起される信号出力が変化するので、信号出力を処理した電圧変化から水槽の変位情報を得ることができる。検知コイル部40に対する変位ロッド部41の基準位置の調整は、シリンダ体58に嵌挿させたコイル体57を保持するナット79の回転により容易に実施できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗濯物を収容した回転ドラムを回転駆動して洗濯、すすぎ、脱水の各工程を行うドラム式洗濯機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ドラム式洗濯機は回転ドラムをその回転軸心が水平方向あるいは水平方向から前上がりさせた状態にして水槽内に配設されているため、回転ドラム内に洗濯物を収容して回転させると、洗濯物や水が下方に偏りがちになるため振動が発生しやすくなる。特に、回転ドラムを高速回転させて脱水工程を実施するとき、洗濯工程を終えて水を含んだ洗濯物が回転ドラム内に収容されており、洗濯物の種類や生地あるいは形状によって脱水工程の回転によって回転ドラムの偏った位置に集まりやすい状態があり、洗濯物に偏りが生じると回転ドラムを収容する水槽に大きな振動が生じ、洗濯機に異常振動や異常騒音を発生させる。大きな振動が生じた場合には、回転ドラムの回転を一時停止させた後に再回転させる駆動制御や回転ドラムの回転数を減少させる駆動制御などにより洗濯物の偏りを解消させる制御動作が実施されている。
【0003】
大きな振動が発生した場合には、振動を速やかに検知して対応する制御を行う必要があり、振動検知の手段として、回転ドラムを回転駆動する誘導モータをインバータ制御するインバータ回路の出力電流から振動発生を検知し、過振動警告を出力する洗濯機の異常振動検出方法が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
また、水槽の振れを検知するセンサを設け、このセンサによって検知される振動検知出力に基づいて洗濯工程から脱水工程への移行制御を行い、脱水工程中の異常振動検知により脱水動作を停止する制御を行う洗濯機の運転方法が知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平06−170080号公報(第2〜3頁、図1)
【特許文献2】特開昭61−098286号公報(第1〜3頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インバータ回路の出力電流の変化から振動を検知する方法は、異常振動を間接的に推定する方法であり、洗濯物の偏りが誘導モータの電流実効値に現れ、そのアンバランス状態が異常振動につながるという推定でなりたっている。しかし、誘導モータの電流実効値の変化は洗濯物の偏りが原因となっている場合以外にモータの軸受けなど機械的要素の影響を受け、そのバラツキを踏まえた上で過振動検知の電流設定値を決定しているので、必要以上に過振動警告が出て回転を停止することになる課題があった。
【0006】
また、センサによって水槽の振動を検知する運転方法では、低速回転によりバランス取り工程を行う場合に、洗濯物のドラム内面への張り付き方によって回転ドラムにアンバランスがあっても振動の振幅が小さいため異常振動が検知できず、回転ドラムを高速回転させたときに大きな振動となり、そこで初めて異常振動として検知することになるため、高速回転に至る以前に異常振動が発生するか否かを検知することができない。従って、異常振動が発生して停止するまでに洗濯物や洗濯機に損傷を与える恐れがあり、回転ドラムを停止させるまでに多くの無駄時間が生じる課題があった。
【0007】
本発明が目的とするところは、回転ドラムを収容した水槽の振動を精度よく検知する変位検知手段を備えたドラム式洗濯機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明に係るドラム式洗濯機は、洗濯物を収容して水平方向又は傾斜方向を回転軸心として回転駆動される回転ドラムと、この回転ドラムを回転自在に内包して洗濯機筐体内に揺動可能に支持された水槽と、洗濯機の運転動作を制御する制御手段と、前記洗濯機筐体の基底部と水槽との間に配設されて水槽の変位を検知する変位検知手段とを備え、前記変位検知手段は、ボビン内を水槽の変位に対応して進退移動する磁性体と、前記ボビンの外周に巻回されたコイルとを備え、前記磁性体とコイルとの相対位置を調整する位置調整手段が設けられてなることを特徴とする。
【0009】
上記構成による変位検知手段は、水槽の変位に対応して磁性体をコイル内で進退移動させたとき、コイルに生じる信号の出力変化から水槽の変位を検知するように構成しているので、水槽に変位が生じていないときの基準位置を設定する必要があり、磁性体に対するコイルの位置を所定位置に調整するために、磁性体の位置又はコイルの位置を調整する位置調整手段を設けると、基準位置の設定が容易に実施できる。
【0010】
上記構成において、位置調整手段は、コイル位置を磁性体の進退移動方向に移動させるように構成するのが好適で、ネジの回転などの手段により位置移動を簡単に行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、コイルに対する磁性体の進退移動位置から水槽の変位を検知する変位検知手段の基準位置の調整を簡単に行うことができ、変位検知手段による検知出力のバラツキをなくして精度のよい変位検知を実施することができるので、水槽内に収容した回転ドラム内に投入された洗濯物の量や洗濯物位置の偏りなどに起因する振動の発生などを精度よく検知することができ、変位検知に基づく制御により異常振動の発生による洗濯物や洗濯機に損傷を与えず、異常騒音が生じないドラム式洗濯機を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は、実施形態に係るドラム式洗濯機1の要部構成を示すものである。洗濯機筐体6内には、水槽3内に回転ドラム2を収容し、回転ドラム2の回転軸2aを水槽3の背面に設けられた軸受68で軸支すると共に回転軸2aにドラム駆動モータ5を連結した水槽ユニット7を前上がりの状態に傾斜させて配設している。この水槽ユニット7は、その背面側に軸受68やドラム駆動モータ5などの重量の大きな構成要素が取り付けられているため、重心位置は背面寄りになって不安定な状態になるが、防振ダンパー70により水槽ユニット7をその重心位置より正面側寄りの下方で支持し、水槽3の上部に固定された上部支持金具75と洗濯機筐体6の上面との間に架設した第1のコイルバネ71により水槽ユニット7を正面側に向けて付勢し、更に防振ダンパー70による支持高さ位置より下方の背面と、洗濯機筐体6の背面との間に第2のコイルバネ72を架設することにより、重心位置より正面側寄りで防振ダンパー70により支持された水槽ユニット5が背面側に倒れる状態になることを補正し、制振効果の高い支持構造に構成されている。
【0013】
前記水槽3内には有底円筒形に形成された回転ドラム2が回転自在に支持され、回転ドラム2は水槽3の背面に取り付けられたドラム駆動モータ5によって回転速度可変及び回転方向切換可能に回転駆動される。また、回転ドラム2は、その回転軸方向が図示するように正面側から背面側に向けて下向き傾斜となるように傾斜配置されているため、洗濯機筐体6の正面側に形成された傾斜面に開閉自在に設けられた扉体9を開くと、回転ドラム2に対して洗濯物を出し入れする作業に際して腰を屈める必要がなく、ドラム式洗濯機1の正面側に余裕のある空間を確保する必要もないので、洗面所などの狭い空間にも設置可能なドラム式洗濯機1に構成することができる。
【0014】
上記ドラム式洗濯機は、図示省略しているが回転ドラム2内に温風を送風する送風ファンや温風を生成するヒータなどを設けた乾燥機能を備え、洗濯、すすぎ、脱水、乾燥にわたる一連の運転動作を使用者からの指示入力と各部の動作状態監視に基づいて制御する制御装置が設けられている。
【0015】
前記制御装置は、図2に示すように、交流電力31を整流器32により整流し、チョークコイル33及び平滑コンデンサ34からなる平滑回路により平滑化された直流電力を駆動電力として、インバータ回路26によりドラム駆動モータ5を回転駆動すると共に、入力設定手段21から入力される運転指示及び各検知手段により検知される運転状態の監視情報に基づいてドラム駆動モータ5の回転を制御し、負荷駆動手段37により給水弁14、排水弁13、送風ファン17、ヒータ18の動作を制御する。
【0016】
ドラム駆動モータ5は、3相巻線5a,5b,5cを有するステータと、2極の永久磁石を有するロータとを備え、3つの位置検出素子24a,24b,24cを設けた直流ブラシレスモータとして構成され、スイッチング素子26a〜26fにより構成されたPWM制御インバータ回路26により回転制御される。前記位置検出素子24a,24b,24cが検出するロータ位置検出信号は制御手段20に入力され、このロータ位置検出信号に基づいて駆動回路25によりスイッチング素子26a〜26fのオン/オフ状態をPWM制御することにより、ステータの3相巻線5a,5b,5cに対する通電を制御してロータを所要回転数で回転させる。
【0017】
上記構成になるドラム式洗濯機1は、扉体9を開いて回転ドラム2内に洗濯物を投入し、洗濯機筐体6の正面側上部に設けられた入力設定手段21から運転コースの選択入力や運転開始入力を行うことにより、指示された運転コースに対応する運転動作を開始し、制御手段20の制御により所要の動作を実行する。回転ドラム2内に投入された洗濯物の量は布量検知手段30によって検知され、制御手段20により洗濯物の量に応じた給水量が得られるように給水弁14の開閉が制御され、水位検知手段16により水槽3内への給水量が監視される。前記布量検知は、回転ドラム2を所定回転数で立ち上げるときにドラム駆動モータ5が受ける負荷状態に応じてインバータ回路26に流れる電流が変化するので、電流回路と直列に接続された抵抗器28の両端電圧から電流検知回路29により電流量を検知し、布量検知手段30は電流量から洗濯物の量を検知する。尚、布量検知は後述する変位センサ36によって検知することもできるので、抵抗器28及び電流検知回路29によって構成された電流検知手段27は、ドラム駆動モータ5のトルク検出に用いるように構成することもできる。
【0018】
回転ドラム2内に収容した洗濯物が偏った位置に偏在した状態になると、特に脱水工程において洗濯物の偏りに伴って回転ドラム2に振れ運動が発生し、同時に水槽ユニット7にも振れが生じるので、異常振動や異常騒音が発生する。従って、所定量以上の振れが水槽ユニット7に生じたときには、回転ドラム2の回転駆動を一時停止して再駆動する操作により洗濯物の偏りを解消させる制御や回転ドラム2の回転数を減少させる制御などを行う必要がある。この水槽ユニット7の振れ振動を検知するために、図1に示すように、水槽ユニット7を下方から支持する防振ダンパー70を取り付けた下部支持金具74と洗濯機筐体6の基底部に固定された支持台73との間に変位センサ(変位検知手段)36が取り付けられている。
【0019】
前記変位センサ36は、図3、図4に示すように、検知コイル部40と、この検知コイル部40内に進退移動自在に構成された変位ロッド部41とを備えて構成されている。この変位センサ36は、検知コイル部40の下端に下方自在継手44を設けた下部取付板46を前記支持台73に装着し、変位ロッド部41の上端に上方自在継手45を設けた上部取付板47を前記下部支持金具74に装着することにより、水槽ユニット7の三次元方向への振れに対しても追従して振れによる水槽ユニット7の変位量を検知する。
【0020】
前記検知コイル部40は、図4に示すように、ボビン60に巻回された3つの巻線61,62,63をコネクタ65に配線接続したコイル体57を樹脂モールド体67によって被覆したものを、前記変位ロッド部41のロッド体43が進退移動自在に嵌入するシリンダ体58の外周に摺動移動可能に嵌挿して構成されている。
【0021】
前記コイル体57は、図4、図5に示すように、巻線接続鍔59a,59b,59cを設けたボビン60の略中央部に一次巻線61を巻回し、この一次巻線61の上に一部が重なるようにして第2二次巻線63を巻回し、巻線接続鍔59a,59bの間に第1二次巻線62を巻回し、各巻線の端末を各巻線接続鍔59a,59b,59cにそれぞれ埋設された6枚の接続部材64に半田付けすることにより、3つの巻線をボビン60に巻回した3巻線コイルを得ている。一次巻線61、第1二次巻線62、第2二次巻線63の3つの巻線は、図8の変位量検出回路に示すように、それぞれの一方線端は接地電位、他方線端はそれぞれ単独に外部に引き出すために、4端子のコネクタ65に配線接続される。図5に示すように、一端がコネクタ65の4端子の接続刃の延長部分である4枚の接続板66a,66b,66c,66dをそれぞれ接続部材64の所定箇所に半田付けすることにより、リード配線を伴うことなく各巻線がコネクタ65に配線接続された状態に仕上られる。このコイル体57は、図3、図4に示すように、コネクタ65の差込部分を外部露出させて樹脂モールド体67により被覆し、防湿性及び耐振性の向上を図っている。
【0022】
図4に示すように、有底円筒軸状に形成されたシリンダ体58の下方に形成されたフランジ69上に押し上げバネ78を配し、その上に前記コイル体57を嵌挿させると、コイル体57は押し上げバネ78によって上方に付勢された状態になるので、シリンダ体58の上端に形成されたネジ部58aにナット(位置調整手段)79を螺入することにより、シリンダ体58にコイル体57を保持させることができ、シリンダ体58に嵌挿したコイル体57の高さ位置はナット79の螺入位置によって調整することができる。尚、コイル体57の樹脂モールド体67より下方に露出するボビン60の下端には、図5に示すように、切り割りが形成され、シリンダ体58の押し上げバネ78の嵌め込み部分に形成された凸部(図示せず)が切り割りの切欠き部分に嵌め合わされるので、コイル体57はシリンダ体58上で回転しないように保持される。
【0023】
上記構成になる検知コイル部40のシリンダ体58内に進退移動自在に嵌入される変位ロッド部41は、図4に示すように、有底円筒軸状に形成されたロッド体43の中に円柱状に形成されたフェライト(磁性体)42を嵌挿し、その上に非磁性体材料によって形成したスペーサ48を挿入し、スペーサ48上に押圧バネ49を配して一端に上方自在継手45の球状体45aを形成したキャップ50をロッド体43の上端に形成されたネジ部に螺入することにより、フェライト42を一定位置に固定した状態に構成される。このバネ付勢によりフェライト42を所定位置に固定する構造により、樹脂材料であるロッド体43とフェライト42との熱膨張率の差によって変位ロッド体41が変形するのを防止することができる。洗濯機は温度変化が激しいので、このような熱膨張による変形を防止する構造は洗濯機に適用するのに好適なものとなる。
【0024】
また、フェライト42は原材料物質の粉末を加圧成形して焼結したものであるため、衝撃等によって折損しやすいものであるが、例えロッド体43内で折損したとしても押圧バネ49によって中空部の段差上に押圧されているため、電気的な影響が出ない状態が維持される。従って、フェライト42は必ずしも所定長さのものを適用しなくても、短い長さのものを複数本積み重ねて収納することもでき、規格サイズ品の適用や折損し難い短いサイズの適用など柔軟な対応が可能である。また、押圧バネ49は非磁性体材料によって形成することが望ましく、押圧バネ49が磁性体であるフェライト42の延長部のように作用してフェライト42の長さを規制した効果を損なうことがない。ここでは非磁性体であるスペーサ48を介して押圧バネ49によってフェライト42を付勢しているので、押圧バネ49が磁性体、非磁性体のいずれであってもよく、材料選択の範囲を拡大することができる。また、ロッド体43の内部先端側に空間を設け、その空間から外部に向けて開口する水抜き穴51を形成しておくことにより、温度変化によりロッド体43の内部に結露が生じた場合でも結露水を排出させることができる。
【0025】
上記構成になる変位ロッド部41のロッド体43は、検知コイル部40のシリンダ体58内に進退移動自在に嵌挿され、ピストンとシリンダとの関係のように動作するので、ロッド体43とシリンダ体58との間の摩擦係数を小さくする必要がある。一般的には摺動部分にグリス等の潤滑材料を塗布することにより摩擦係数の減少が図られるが、塗布された潤滑材料に繊維粉や塵埃が付着しやすく、長期間にわたって性能維持を図ることが困難である。ここでは、ロッド体43とシリンダ体58とを、両者間の摩擦係数が小さく、耐摩耗性のよい材料の組み合わせによって構成している。例えば、一方をポリアセタール、他方をポリアミドによって形成することにより、潤滑材料を用いることなく摺動摩擦が少ない状態が得られ、これらの材料は耐摩耗性にも優れているので、耐久性の向上にも有効である。また、シリンダ体58内にロッド体43が急激に進退移動したとき、シリンダ体58内の空気を圧縮又は膨張させることになるので、それによる変位ロッド部41の加わる進退移動に対する抵抗を排除するために、シリンダ体58の下端側には中空部内から外部に向けて開口する空気抜き穴80を設けることが好適な構造となる。この空気抜き穴80は、シリンダ体58内に侵入した水分や結露水の排出にも有効である。
【0026】
上記変位センサ36は、図1に示したように水槽ユニット7と洗濯機筐体6の基底部との間に配設されて水槽ユニット7の変位量を検出するが、水槽ユニット7に生じる振れは三次元方向であり、洗濯機筐体6の基底部は一定状態にあるため、水槽ユニット7の振れによって破損したり配設位置から外れたりすることがない取付構造が必要となる。
【0027】
変位ロッド部41は、図3、図4に示すように、ロッド体43の上端に螺合されたキャップ50の上端に球状体45aを形成し、水槽ユニット7に固定された下部支持金具74に装着される上部取付板47に球状体45aの直径に対応する内径の椀状体45bを形成して、前記球状体45aを椀状体45bに嵌め込んだ上方自在継手45が形成されている。また、検知コイル部40は、シリンダ体58の下端に球状体44aを形成し、洗濯機筐体6の基底部に固定された支持台73に装着される下部取付板46に椀状体44bを形成して、前記球状体44aを椀状体44bに嵌め込んだ下方自在継手44が形成されている。この上下に自在継手を設けた変位センサ36の取付構造により、変位センサ36は水槽ユニット7の振れに対して柔軟に追従し、振れ量に対応する変位ロッド部41の検知コイル部40に対する進退移動量が得られる。
【0028】
前述したように検知コイル部40にはコネクタ65が設けられ、コネクタ65にリード接続がなされるため、検知コイル部40が回転するとコネクタ65に接続したリードが断線したり接続が外れる恐れがある。そこで、下方自在継手44には、自在運動を維持しつつ検知コイル部40の回転を阻止する回転阻止構造が形成されている。
【0029】
図6に示すように、下方自在継手44を構成する球状体44aにはロッド体43の軸心方向に直交する直径方向に球面から両側に突出する円柱形状の一対の円柱突起52a、52bが形成されている。この球状体44aに対応する椀状体44bには、前記円柱突起52a,52bに対応する位置に係合溝53a,53bが形成されている。この係合溝53a,53bは、図7に断面図として示すように、椀状内周面をロッド体43の軸心Cが球状体44aの中心を回動中心として円柱突起52a,52bの形成位置方向に倒れたときの円柱突起52a,52bの軌跡上に形成している。円柱突起52a,52bが球状体44aの直径方向に形成されていることにより、ロッド体43の軸心Cが360度方向に倒れても円柱突起52a,52bを係合溝53a,53b内に保持することができる。従って、自在継手44として検知コイル部40の360度方向の振れに対して球状体44aと椀状体44bとが係合して自在移動する状態は維持されるが、検知コイル部40がその軸心回りに回転することは円柱突起52a,52bが係合溝53a,53bに嵌り合っていることから阻止される。また、球状体44aから両側に突出する円柱突起52a、52bは、その直径が互いに異なるように形成し、各円柱突起52a,52bに対応する係合溝53a,53bの幅も異なるように形成することにより、検知コイル部40の装着方向を規制することができ、コネクタ65に対する配線接続を一定に保つことができる。
【0030】
上記下方自在継手44を構成する球状体44a及び椀状体44b、上方自在継手45を構成する球状体45a及び椀状体45bについても、前述したロッド体43とシリンダ体58との摺動関係と同様に摩擦係数が小さくなるように、球状体44a,45aと椀状体44b、45bとは摩擦係数が小さくなる材料の組み合わせに構成される。本構成ではシリンダ体58の一端に球状体44aを一体に形成しているので、椀状体44bを一体に形成した下部取付板46とシリンダ体58の形成材料は摩擦係数が小さくなる異なる種類の組み合わせで構成することにより、摺動部分にグリス等の潤滑材を塗布することなく摺動性のよい係合関係が得られる。同様に、上方自在継手45についても、椀状体45bを一体に形成した上部取付板47と、球状体45aを一体に形成したキャップ50とは、異なる形成材料の組み合わせに構成される。摩擦係数が小さくなる形成材料の組み合わせは、例えば、一方がポリアセタールであり、他方がポリアミドとするのが好適なものとなる。
【0031】
上述のように摺動接触部分の対向部材を摩擦係数が小さくなる材質の組み合わせになるように構成するために、変位センサ36全体での各構成要素の形成材料は、次に説明するように形成材料を選択するのが好適となる。摺動接触部分とは、前述したように上下の各自在継手44,45部分であり、ロッド体43とシリンダ体58との摺動部分である。
【0032】
下方取付板46に設けた椀状体44bには係合溝53a,53bを形成して検知コイル部40の回転を阻止する構造としているが、上方取付板47に設けた椀状体45bに前記係合溝53a,53bが形成されていても球状体45aの自在移動に支障は生じない。従って、上方取付板47及び下方取付板46は共通部品とすることが可能である。この上方取付板47及び下方取付板46を樹脂成形により形成する材料区分を(B)とすると、椀状体44b、45bにそれぞれ対向する球状体44a,45aを一体に形成したシリンダ体58及びキャップ50を樹脂成形により形成する材料区分は(C)となる。更に、シリンダ体58内を摺動移動するロッド体43を樹脂成形する形成材料は、シリンダ体58の形成材料と異なるものとするため材料区分は(B)となる。ロッド体43はキャップ50を設けてキャップ50に球状体45aを一体形成しているので、このような材料区分が可能となり、摺動接触部分は摩擦係数が小さくなる材料(B)(C)でそれぞれ対向させることが可能になる。前記材料区分(B)は例えばポリアセタール、材料区分(C)は例えばポリアミドとして選択することができる。
【0033】
上記構成になる変位センサ36は、図1に示したように、防振ダンパー70が取り付けられている下部支持金具74と支持台73との間に装着される。防振ダンパー70は前述したように水槽ユニット7をその重心よりも前方で支持しているので、変位センサ36は水槽ユニット7の重心位置の垂下線上近傍、即ち、防振ダンパー70より後方寄りの位置に装着することにより、水槽ユニット7の平均的な動きを検出することができ、変位検知精度の向上を図ることができる。因みに防振ダンパー70より前方寄りの位置に変位センサ36を装着した場合には、脱水工程において回転ドラム2の前側が大きく旋回運動する擂粉木現象が発生したとき、必要以上に大きな振動が検知されることになる。また、変位センサ36を水槽ユニット7の重心位置の垂下線上近傍に設けることにより、後述するように変位センサ36によって回転ドラム2に投入された洗濯物の量を検知する場合の検知精度を向上させ得る効果もある。
【0034】
また、変位センサ36は、防振ダンパー70の軸心方向と略同一方向の変位を検知することができるので、水槽ユニット7の振動を的確に検知することができる。更に、変位センサ36の装着は、防振ダンパー70を取り付けるための金具を共用することができるので、変位センサ36を取り付けるために別途取付部材を設ける無駄がなく、確実な装着が可能となる。変位センサ36の下部支持金具74及び支持台73への装着は、図3、図4に示すように、上部取付板47及び下部取付板46にそれぞれ同一構造に形成された係合片54及び係止突起55を下部支持金具74又は支持台73に形成された装着穴に差し込むだけの簡単な作業で実施することができる。即ち、折り曲げ形状に形成された係合片54を下部支持金具74又は支持台73に形成された穴に斜め方向から差し込み、装着面と取付面とが平行になるように係止突起55を下部支持金具74又は支持台73に形成された穴に押し込むと、係止突起5に形成された戻り止めが穴の縁に係止されるので、ネジ等の締結手段を用いることなく装着することができる。
【0035】
本実施形態に係るドラム式洗濯機のように、水槽ユニット7を前上がりの斜め方向に配置し、その重心位置より正面寄りの位置を下方から防振ダンパー70によって支持し、第1及び第2の各コイルバネ71,72で水槽ユニット7を所定位置に弾性保持する制振構造が適用されたものでは、特に防振ダンパー70の作用が顕著に現れるため、本構成のように防振ダンパー70の制振方向と略同一方向に変位センサ36を装着することにより、水槽ユニット7の変位をより確実に検知することができる。
【0036】
変位センサ36による水槽ユニット7の変位検知は、図8に示すように、検知コイル部40に設けられたコネクタ65に発振回路81及び検出回路82を接続することによりなされる。水槽ユニット7が所定位置にあって変位していない場合には、変位ロッド部41の検知コイル部40に対する進退移動量が変化しない基準位置にフェライト42があるので、発振回路81から一次巻線61に一定出力の励磁信号を印加すると、第1二次巻線62に励起される信号出力及び第2二次巻線63に励起される信号出力は一定の状態にある。前記発振回路81は所定周波数の正弦波あるいは三角波を励磁信号として一次巻線61に印加し、それによって第1二次巻線62及び第2二次巻線63に励起される信号出力をそれぞれ検出回路82で整流、平滑化することにより変位に対応する電圧出力が得られる。
【0037】
ここでは、前記基準位置は、回転ドラム2内に洗濯物が収容されていない空の状態で、フェライト42の下端が一次巻線61の下端とほぼ同じ位置にある状態としているので、基準位置の設定に際しては、図3に示すように、ナット79を回転させて押し上げバネ78によって上方に付勢されている検知コイル部40の変位ロッド部41に対する高さ位置を調整すると、フェライト42のコイル内での位置を調節することができる。フェライト42は目視できないので、設定作業では回転ドラム2が空の状態で第1二次巻線62及び第2二次巻線63それぞれの出力信号が検出回路82から基準位置に対応する電圧として出力されるようにナット79を回転させることにより容易に調整できる。
【0038】
図9に示すように、水槽ユニット7が変位するのに伴って変位ロッド部41が検知コイル部40内で進退移動すると、フェライト42の位置が変化するので、第1二次巻線62に励起される出力信号から検知回路82によって得られる電圧は図示A1に示すような変化曲線となる。図示例では基準位置を境にして伸び側で10mm、圧縮側で15mmの範囲内ではほぼ直線的な変化態様となっている。この伸縮範囲は回転ドラム2に洗濯物を収容できる範囲内なので、回転ドラム2内に投入された洗濯物の量によって水槽ユニット7の沈み込み位置が変位するので、第1二次巻線62から得られる検知回路82の出力電圧を布量検知に用いることができる。
【0039】
一方、第2二次巻線63に励起される出力信号から検知回路82で得られる出力電圧は、図示A2に示すような変化となる。基準位置から伸び側で10mm、圧縮側で40mmの範囲ではほぼ直線的な変化を示しており、これは回転ドラム2内に洗濯物を収容し、洗濯工程で水槽3内に水が入った最大荷重状態までカバーできる範囲内なので、第2二次巻線63の出力信号から検知回路82で得られる出力電圧の変化は、水槽ユニット7の振動に伴う変位検知に好適なものとなる。
【0040】
前記検出回路82で得られる2つの電圧変化を制御手段20(図2参照)に入力することにより、制御手段20は布量検知と水槽ユニット7の振動検知の2つの変位検知情報を得ることができ、ドラム式洗濯機1の制御を的確に実施することができる。即ち、運転開始にあたっては、回転ドラム2内に投入された洗濯物の量によって水槽ユニット7が沈み込む量が変化するので、制御手段20は水槽ユニット7の変位量を第1二次巻線62から得られる検知回路82の出力電圧を用いて布量検知し、それに対応する給水量が得られるように給水弁14の開閉を制御し、布量に対応する洗濯工程、すすぎ工程、脱水工程の時間設定などの制御動作を的確に実施することができる。また、制御手段20は一連の工程を制御している間に、変位センサ36の第2二次巻線63に励起される出力信号から得られる電圧の変化量が大きくなったときには、異常と判断してドラム駆動モータ5の回転を停止する制御を行い、小さい変化量であれば回転ドラム2の回転数を減少させる制御を行ったり、回転を一時停止した後に再び低速度で回転開始するなどの制御を行うことができるので、異常振動や異常騒音の発生を未然に抑えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明した通り本発明によれば、コイルに対する磁性体の進退移動位置から水槽の変位を検知する変位検知手段の基準位置の調整を簡単に行うことができる。従って、変位検知手段による検知出力のバラツキをなくして精度のよい変位検知を実施することができるので、水槽内に収容した回転ドラム内に投入された洗濯物の量や洗濯物位置の偏りなどに起因する振動の発生などを精度よく検知することができ、変位検知に基づく制御により異常振動の発生による洗濯物や洗濯機に損傷を与えず、異常騒音が生じないドラム式洗濯機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施形態に係るドラム式洗濯機の要部構成を示す断面図。
【図2】同上ドラム式洗濯機の制御装置の構成を示す回路図。
【図3】変位センサの構成を示す斜視図。
【図4】変位センサの構成を示す断面図。
【図5】変位センサを構成するコイル体の構成を示す斜視図。
【図6】下方自在継手の構造を示す斜視図。
【図7】下方自在継手を構成する椀状体の断面図。
【図8】変位センサを用いた変位検出回路の構成を示す回路図。
【図9】変位検出回路から得られる出力電圧の変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0043】
1 ドラム式洗濯機
2 回転ドラム
3 水槽
5 ドラム駆動モータ
6 洗濯機筐体
7 水槽ユニット
36 変位センサ(変位検知手段)
40 検知コイル部
41 変位ロッド部
42 フェライト(磁性体)
60 ボビン
61 一次巻線(コイル)
62 第1二次巻線(コイル)
63 第2二次巻線(コイル)
79 ナット(位置調整手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗濯物を収容して水平方向又は傾斜方向を回転軸心として回転駆動される回転ドラムと、この回転ドラムを回転自在に内包して洗濯機筐体内に揺動可能に支持された水槽と、洗濯機の運転動作を制御する制御手段と、前記洗濯機筐体の基底部と水槽との間に配設されて水槽の変位を検知する変位検知手段とを備え、前記変位検知手段は、ボビン内を水槽の変位に対応して進退移動する磁性体と、前記ボビンの外周に巻回されたコイルとを備え、前記磁性体とコイルとの相対位置を調整する位置調整手段が設けられてなることを特徴とするドラム式洗濯機。
【請求項2】
位置調整手段は、コイル位置を磁性体の進退移動方向に移動させるように構成されてなる請求項1に記載のドラム式洗濯機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−75462(P2006−75462A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264997(P2004−264997)
【出願日】平成16年9月13日(2004.9.13)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】