説明

ドリルガイド治具

【課題】部品数が少なく、安価で製造することができるドリルガイド治具を提供することを課題とする。
【解決手段】ドリルガイド治具20は、ドリルをガイドするガイド孔21が備えられているガイド部材22と、このガイド部材22を保持すると共に、側面に作業者が把持することができる握り部23を備え、下部にワークに当接する当接部25が備えられている保持部材26とからなる。
【効果】ドリルガイド治具は手で持って使用する。手で持って使用することができる大きさであるため、固定式の治具に比べ使用する部品の量が少ない。使用する部品の量が少ないため、安価で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンドドリル装置のドリルをガイドするドリルガイド治具に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の機体は、骨格に板を貼って構成される。板は航空機の形状に倣った湾曲板である。湾曲板はリベットを用いて骨格に固定される。湾曲板とリベットとの関係を図面で説明する。
【0003】
図12は湾曲板とリベットとの関係を説明する図であり、(a)に示すように、湾曲板101にリベット孔102を開け、このリベット孔102にリベット103を打ち込む。リベット103の頭の端部104、105(想像線で示す三角形断面の部分)が不可避的に突出する。そこで、シェービング作業を施すことにより、端部104、105を削除する。この結果、リベット103の頭が丸くなり、空気抵抗を下げることができる。
【0004】
ところで、曲面にドリルを立てると、ドリルの先端が滑る又は振れるため、リベット孔102が斜めに開くことがある。すると、(b)に示すように、リベット103の軸106が湾曲面101の法線107に対して角度θ傾く。この結果、一方の端部104が大きく突出し、切削量が大きくなり、シェービングコストが嵩む。また、リベット103の締結性能に影響が出る。(a)であれば角度θは、0又は十分に小さいため、問題ない。したがって、角度θを小さくすることができる技術が求められている。
【0005】
角度θを小さくすることができるドリルガイド治具が、各種提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2003−39217公報(図1、図2)
【0006】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図13は従来の技術の基本構成を説明する図であり、(a)に示すようにワークを固定して使用する固定式治具110は、支持台111、111と、この支持台111、111に支持される支柱112、112と、これらの支柱112、112に支持される作業台113と、この作業台113上に配置される複数の治具部114とからなる。
【0007】
治具部114には、(a)のb部拡大図である(b)に示すように、ワーク115の下面にワーク115の形状に合わせて製造された固定部116と、ワーク115にリベットで締結される第2ワーク117と、ドリルを通すガイド孔118を有する治具本体119とが配置される。
治具本体119は、固定部116上に設けられた支持溝121により支持される。
【0008】
図14は図13の14部拡大図であり、治具本体119は、端部に支持溝121(図13(b)の支持溝121)に嵌合する突起部122を有する基体123と、この基体123に挿入される球面ベアリング124と、この球面ベアリング124に挿入されドリルをガイドするガイドブシュ125とから構成される。
【0009】
ワーク115(図13(b)のワーク115。以下同じ。)に対してガイドブシュ125の先端を当接させると、球面ベアリング124の作用でガイドブシュ125が揺動し、ワーク115に対してガイド孔118の位置決めがなされる。
【0010】
即ち、この固定式治具110によれば、ガイド孔118に沿ってドリルを挿入することにより、所定の角度でリベット孔を開けることができる。作業者の能力に関係なく所定の角度でリベット孔を開けることができ有益である。
【0011】
しかし、この固定式治具110はリベット孔の数に合わせて治具部114を設けなければならない。治具部114に必須の部品である固定部116は、ワーク115の形状に合わせて、その都度製造されるため非常に高価である。また、治具部114に必須の部品である球面ベアリング124は、複雑な機構を有し非常に高価である。開けるべきリベット孔の数が増えることにより治具部114の数も増え、製造費用が嵩む。
【0012】
そこで部品数が少なく、安価で製造することができるドリルガイド治具の提供が望まれる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、部品数が少なく、安価で製造することができるドリルガイド治具を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に係る発明は、ワークの曲面にハンドドリル装置を用いて孔を開ける際に、前記曲面に直交するようにドリルをガイドさせるドリルガイド治具であって、
このドリルガイド治具は、前記ドリルをガイドするガイド孔が備えられているガイド部材と、このガイド部材を保持すると共に作業者が把持することができ、前記曲面に当てる当接部が備えられている保持部材とからなり、
前記当接部は、前記曲面に接触する左右2個の接触点を有しており、前記ガイド孔は、前記2個の接触点を結んだ線分の中点に直交する中心軸に沿って設けられていることを特徴とする。
【0015】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載のドリルガイド治具であって、曲面は、複数の半径からなる複合曲面であり、当接部には、複数の曲げ半径の各々に対応する左の複数の接触点及び右の複数の接触点が設けられていることを特徴とする。
【0016】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載のドリルガイド治具であって、複合曲面は、半径が段階的に増加する複数の曲面を連続させてなり、中心軸から最短距離の左の接触点を左第1接触点とし、この点に対応する右の接触点を右第1接触点とし、左第1接触点が接触する曲面と右第1接触点が接触する曲面との半径が異なることに起因して、左第1接触点と右第1接触点を結んだ線分の中点に直交する中心軸が所望の法線からずれるときに、この法線と前記中心軸とのなす角度が予め定めた基準の範囲に収まるように、前記左第1接触点と右第1接触点を結んだ線分の長さを制限することを特徴とする。
【0017】
請求項4に係る発明は、請求項2又は請求項3に記載のドリルガイド治具であって、当接部は、複数の接触点を順に結んで定めた湾曲面を含むことを特徴とする。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項3又は請求項4に記載のドリルガイド治具であって、湾曲面は、左第1接触点と右第1接触点とを含むV字形状を呈していることを特徴とする。
【0019】
請求項6に係る発明は、請求項1〜5のうちいずれか1項に記載のドリルガイド治具であって、当接部には、弾性変形可能で摩擦係数の大きな滑り止め部材が付設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明では、2個の接触点は、中心軸に対して対称となるよう配置されワークの曲面に接触する。ガイド孔は中心軸に沿って設けられている。ワークの曲面にドリルガイド治具を置きガイド孔にドリルを通すと、曲面を有するワークに対し垂直にリベット孔を開けることができる。
このドリルガイド治具は、少ない部品で製造することができる。また、複雑で高価な部品を使用せずに製造することができる。即ち、少数の廉価な部品により製造することができるため、安価で製造することができる。
【0021】
請求項2に係る発明では、曲面は、複数の半径からなる複合曲面であり、当接部には、複数の曲げ半径の各々に対応する左の複数の接触点及び右の複数の接触点が設けられている。当接部には、複数の曲げ半径の各々に対応する左の複数の接触点及び右の複数の接触点が設けられているため、各々の曲げ半径に対応した左及び右の接触点が接触し、ワークに対し垂直にリベット孔を開けることができる。一つのドリルガイド治具により、複数の半径からなる複合曲面を有するワークにも対応することができ有益である。
【0022】
請求項3に係る発明では、法線及び中心軸のずれが基準の範囲に収まるように線分の長さを制限した。隣接する半径の異なる曲面の影響により、法線及び中心軸のずれが生ずる。ドリル部は中心軸を通り、ワークにリベット孔を開ける。ワークの曲面にほぼ90°の範囲でリベット孔を開けることができる。
【0023】
請求項4に係る発明では、当接部は、複数の接触点を結んで湾曲面とした。この湾曲面のどこかが、ワークに接触する。すなわち、治具をワークに容易にセットすることができる。
【0024】
請求項5に係る発明では、湾曲面はV字形状を呈する。治具をワークに一層容易にセットすることができる。
【0025】
請求項6に係る発明では、当接部に滑り止め部材を付設した。ワークの曲面に治具を当てる際、滑り止め部材の滑り止め作用により、治具がワーク上を滑る心配はない。結果、ハンドドリル装置による孔開け作業が円滑に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
図1は本発明に係るドリルガイド治具の使用方法を説明する図であり、下方に示されるドリルガイド治具20は、ワーク10の曲面11にハンドドリル装置12を用いて孔を開ける際に、曲面11に直交するようにドリル13をガイドさせる治具であり、例えば、作業者は、左手15でドリルガイド治具20を握りながらワーク10に当て、右手16でハンドドリル装置12を操作する。なお、ワーク10には予めポンチマーク17が打刻されている。作業者は、ドリル13の先端(図では下端)をポンチマーク17に当てながら、孔開けを行う。ドリルガイド治具20の構造を次に説明する。
【0027】
図2は本発明に係るドリルガイド治具の斜視図であり、ドリルガイド治具20は、ドリルをガイドするガイド孔21が備えられているガイド部材22と、このガイド部材22を保持すると共に、側面に作業者が把持することができる握り部23を備え、下部にワークに当接する当接部25が備えられている保持部材26とからなる。当接部25の形状に特徴がある。当接部25の形状は後述する。
【0028】
図3は図2の3−3線断面図であり、ガイド部材22は、保持部材26に上から挿入された後に、ガイド部材22を所定の角度だけ回転させ、抜け止めピン27で保持される。
【0029】
又、保持部材26の下部には滑り止め部材28が付設されている。この滑り止め部材28の詳細を次図で説明する。
図4は図3の4部拡大図であり、保持部材26の下部の当接部25に滑り止め部材収納溝29が設けられ、この滑り止め部材収納溝29に滑り止め部材28が収納されている。滑り止め部材28の材質は、弾性変形性能に富むゴム系材料や軟質樹脂が好ましい。
【0030】
そのような滑り止め部材28は滑り止め部材収納溝29からTだけ突出している。滑り止め部材28に矢印(1)の力が作用すると、滑り止め部材28は圧縮されて滑り止め部材収納溝29に収納される。圧縮された結果、滑り止め部材28は図面表裏方向に若干膨出する。滑り止め部材28の作用で、保持部材26はワーク上を滑る心配がなくなる。
【0031】
図5は図2の5矢視図であり、当接部25には部分的に切欠き溝31が切欠き形成されている。滑り止め部材28も切欠き溝31の分だけ欠落している。図4で矢印(1)の外力が作用すると、滑り止め部材28は逃げ場を求めて軸長が増大する。この軸長の変化は、滑り止め部材の端部が切欠き溝31に出入りすることで、吸収される。
また、当接部25には、対向位置に各々V字形状部32、32を備えている。このV字形状部32を以下に詳しく説明する。
【0032】
図6は当接部とワークとの接触状態を説明する図であり、半径rのワーク10に当接部25を接触させる。すると、当接部25は接触点Aと接触点Bとの2点でワーク10に接触する。この左右の接触点A、Bを結んだ線分の中点Mを定める。この中点Mに直交させた中心軸33はガイド孔21の中心軸に合致している。
【0033】
すなわち、当接部25は、ワーク10の曲面に接触する左右2個の接触点A、Bを有しており、ガイド孔21は、2個の接触点A、Bを結んだ線分の中点Mに直交する中心軸33に沿って設けられている。
ガイド孔21にドリルを通すと、ドリルは中心軸33に沿って進み、ワーク10に正確に孔を開けることができる。
【0034】
図7は複合曲面で構成したワークの説明図であり、航空機の機体には複合曲面が存在する。(a)に示すように、ワーク10は複合曲面34を有する。この複合曲面34は半径r1の第1曲面35と、半径r2(ただし、r1<r2)の第2曲面36と、半径rm(ただし、rm−1<rm)の第m曲面37とからなるn個の曲面35〜37を複合させて滑らかな曲面にしたものである。これらの曲面35〜37にドリル13でリベット孔を開けるときに、(b)に示すドリルガイド治具20が役立つ。
【0035】
(b)に示すように、ドリルガイド治具20のV字形状部32には、半径r2の第2曲面36に接触する左右一対の接触点A2、B2が存在する。2個の接触点A2、B2を結んだ線分の中点Mに直交する中心軸33が、ガイド孔21の中心軸に合致している。
同様に、小さな半径r1に対応する左右一対の接触点A1、B1が存在する。2個の接触点A1、B1を結んだ線分の中点Mに直交する中心軸33が、ガイド孔21の中心軸に合致している。
【0036】
さらに、大きな半径rmに対応する左右一対の接触点Am、Bmが存在する。2個の接触点Am、Bmを結んだ線分の中点Mに直交する中心軸33が、ガイド孔21の中心軸に合致している。
このように、ドリルガイド治具20は多数の曲面35〜37に、1個で対応させることができる。以上の説明は、V字形状部32の形状が確定していることを前提とした。次に、V字形状部32の形状の決定方法を説明する。
【0037】
図8は本発明に係るV字形状部の決定方法を説明する図であり、(a)に示すように小さな半径r1の第1曲面(正確には曲線であるが、便宜的に曲面と記す。以下同じ)35を描く。(b)に示すように第1曲面35に接線38を描き、この接線38から距離hをおいて平行線39を描く。この平行線39と第1曲面35との交点を接触点A1、B1とする。
(c)に示すように、接触点A1、B1を結ぶ線分から、任意の距離Hを置いて原点O1を定める。接触点A1、B1を結ぶ線分の中点Mに直交する線は原点O1を通る。このようにして二等辺三角形A1・B1・O1(A1、B1、O1は三角形の頂点。以下同じ)を定めることができる。
【0038】
次に、(d)に示すように半径r2の第2曲面36を描く。(e)に示すように第2曲面36に接線38を描き、この接線38から距離hをおいて平行線39を描く。この平行線39と第2曲面36との交点を接触点A2、B2とする。接触点A2、B2を結ぶ線分から、距離Hを置いて原点O2を定める。接触点A2、B2を結ぶ線分の中点Mに直交する線は原点O2を通る。このようにして二等辺三角形A2・B2・O2を定める。
【0039】
同様に、(f)に示すように大きな半径rmの第m曲面37を描く。(g)に示すように第m曲面37に接線38を描き、この接線38から距離hをおいて平行線39を描く。この平行線39と第m曲面37との交点を接触点Am、Bmとする。接触点Am、Bmを結ぶ線分から、距離Hを置いて原点O3を定める。接触点Am、Bmを結ぶ線分の中点Mに直交する線は原点O3を通る。このようにして、横長の大きな二等辺三角形Am・Bm・O3を定める。
【0040】
図9は図8に続く説明図であり、(a)に示すように二等辺三角形A1・B1・O1を描く。この二等辺三角形A1・B1・O1の接触点A1、B1に、左右の斜辺が接するようにして、二等辺三角形A2・B2・O2を重ねる。同様に、この二等辺三角形A2・B2・O2の接触点A2、B2に、左右の斜辺が接するようにして、二等辺三角形Am・Bm・Omを重ねる。
【0041】
次に、(b)に示すように(a)に描かれた接触点A1、B1、接触点A2、B2、接触点Am、Bmを抜きがきする。そして、(c)に示すように接触点Am、A2、A1、B1、B2、Bmをこの順に近似曲線41で結ぶ。この近似曲線41に準拠した湾曲面40が、図7(b)に示したV字形状部32に形成される。
【0042】
図9において、mを3、4、・・・、nのように、定めることより、近似曲線41はrnまでのn個の曲面に接触する左右の2つの接触点Am、Bmを有している。すなわちn個の曲面に対応させることができる。
【0043】
次に、本発明に係る発展的実施例を説明する。
図10は本発明に係る発展的実施例の必要性を説明する図であり、(a)に示すように、ポンチマーク17を付した曲面が、例えば第1曲面35であるとする。この第1曲面35に当接部25を当てると、左右対称に接触点A1、B1が定まる。第1曲面35の法線42と中心軸33とは合致するためワーク10に正確に孔を開けることができる。半径r1が、別の大きさの半径に代わっても同様の効果が得られる。
【0044】
ところで、航空機の翼端などには、(b)に示すように狭い範囲で半径が段階的に変化することがある。このような複雑な複合曲面に当接部25を当てても、当接部25は、2つの接触点で接触する。これらの接触点を、左の接触点A1と右の接触点Btであると仮定する。接触点Btは半径rt(tは1とは異なる数字)に対応する点である。
【0045】
図から明らかなように、半径r1と半径rtとの差が大きいほど、中心軸33は、法線42から外れ、交差する角度θが大きくなる。この角度θが過大になると、図12(b)で説明したような不具合が起こる。
【0046】
その対策を、次図で説明する。
図11は複雑な複合曲線に対する対応を説明する図であり、(a)に示すように、複合曲線43にポンチマーク17を定め、このポンチマーク17における曲率半径に基づいて法線42を定める。(b)に示すように任意の半径Rの円を描き、複合曲線43との交点Ap、Bqを定める。複合曲線43が二次元情報で与えられていれば、ポンチマーク17、交点Ap、Bqは全てx−y座標で与えられる。
【0047】
次に、(c)に示すように、2つの交点Ap、Bqを線分で結び、この線分の中点Mに直交する中心軸33を定める。(d)に示すように、中心軸33と法線42とのなす角度θは、幾何学的又は数位計算で求めることができる。
この角度θは、ある種の航空機機体では、±1°の範囲に収めることが、予め定められている。
【0048】
幾何学的又は数値計算で求めた角度θが、仮に+1.5°であったとする。この場合には次の修正を行う。(b)において、交点Apにおける曲率半径と交点Bqにおける曲率半径は、半径Rが大きいほど差が大きくなり、半径Rが小さいほど差が小さくなることが理解できる。差が小さくなれば、(d)に示す角度θは小さくなる。
【0049】
そこで、(b)において、半径Rを小さくする。小さな半径Rに基づいて、(b)〜(d)を再計算する。計算で求めた角度θが±1°に収まった時点で、計算を終了し、確定した交点Apを接触点A1に置き換え、交点Bqを接触点B1に置き換える。
次に、(e)に示すように置き換えた接触点A1と接触点B1を通るように半径r1の第1曲面を描く。そして、(f)に示すように、第1曲面35に接線38を描く。最後に、平行線39から接線38までの距離hsを調べる。
【0050】
以上の手順で定められた距離hsを、図8(b)、(e)、(g)に示す距離hに適用する。距離hsに基づいて、図9(c)の近似曲線41を修正すれば、この修正された近似曲線41は、図10(b)に示される複雑な複合曲線43に対応させることができる。すなわち、図10(b)における角度θが、予め定めた基準の範囲(例えば、±1°の範囲)を超えることはない。
【0051】
次に、図10(b)において、接触点A1と接触点Btとの距離は、一定であるが、半径r1、rtが共に小さい場合と、共に大きい場合とを比較検討する。
共に小さい場合は、r1が30mmでrtが40mmと仮定する。半径の変化率は(rt−r1)/r1で計算することができ、(40−30)/30=0.33=33%となる。
【0052】
共に大きい場合は、r1が300mmでrtが320mmと仮定する。半径の変化率は(320−300)/300=0.067=6.7%となる。
半径の変化率が大きいほど角度θが大きくなることから、角度θは最小の半径r1で検討すれば、その他の半径r2〜rn(又はrm)では角度θは、予め定めた基準の範囲(例えば、±1°の範囲)に必然的に収まる。
以上の理由により、図11に基づく検討は、図7(b)に示される接触点のうち、中心軸33から最短距離の左の接触点A1と右の接触点B1について行えばよいことが分かる。
【0053】
そこで、図11で説明した技術は、次のように整理することができる。
図11において、複合曲面43は、半径が段階的に増加する複数の曲面を連続させてなり、中心軸33から最短距離の左の接触点Apを左第1接触点Ap(A1に相当。)とし、この点Apに対応する右の接触点Bqを右第1接触点Bq(B1に相当。)とし、左第1接触点Apが接触する曲面と右第1接触点Bqが接触する曲面との半径が異なることに起因して、左第1接触点Apと右第1接触点Bqを結んだ線分の中点Mに直交する中心軸33がポンチマーク17における法線42からずれるときに、この法線42と中心軸33とのなす角度θが予め定めた基準の範囲(例えば±1°の範囲)に収まるように、半径Rを短縮することで、左第1接触点Apと右第1接触点Bqを結んだ線分の長さを制限することを特徴とする。
【0054】
尚、本発明のドリルガイド治具は、ハンドドリル装置を用いて曲面を有するワークに孔を開ける際に用いることができ、ワークの種類や開ける孔の種類は任意である。
【0055】
本発明のドリルガイド治具は、航空機の機体にリベット孔を開ける作業に用いる治具に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明に係るドリルガイド治具の使用方法を説明する図である。
【図2】本発明に係るドリルガイド治具の斜視図である。
【図3】図2の3−3線断面図である。
【図4】図3の4部拡大図である。
【図5】図2の5矢視図である。
【図6】当接部とワークとの接触状態を説明する図である。
【図7】複合曲面で構成したワークの説明図である。
【図8】本発明に係るV字形状部の決定方法を説明する図である。
【図9】図8に続く説明図である。
【図10】本発明に係る発展的実施例の必要性を説明する図である。
【図11】複雑な複合曲線に対する対応を説明する図である。
【図12】湾曲板とリベットとの関係を説明する図である。
【図13】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【図14】図13の14部拡大図である。
【符号の説明】
【0057】
10…ワーク、11…曲面、12…ハンドドリル装置、13…ドリル、20…ドリルガイド治具、21…ガイド孔、22…ガイド部材、23…握り部、25…当接部、26…保持部材、28…滑り止め部材、32…V字形状部、33…中心軸、40…湾曲面、41…近似曲線、42…法線、43…複合曲線、A1〜Am、An…左の接触点、A1…左第1接触点、B1〜Bm、Bn…右の接触点、B1…右第1接触点、M…中点、θ…法線と中心軸のなす角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークの曲面にハンドドリル装置を用いて孔を開ける際に、前記曲面に直交するようにドリルをガイドさせるドリルガイド治具であって、
このドリルガイド治具は、前記ドリルをガイドするガイド孔が備えられているガイド部材と、このガイド部材を保持すると共に作業者が把持することができ、前記曲面に当てる当接部が備えられている保持部材とからなり、
前記当接部は、前記曲面に接触する左右2個の接触点を有しており、前記ガイド孔は、前記2個の接触点を結んだ線分の中点に直交する中心軸に沿って設けられていることを特徴とするドリルガイド治具。
【請求項2】
請求項1に記載のドリルガイド治具であって、
前記曲面は、複数の半径からなる複合曲面であり、前記当接部には、前記複数の曲げ半径の各々に対応する左の複数の接触点及び右の複数の接触点が設けられていることを特徴とする特徴とするドリルガイド治具。
【請求項3】
請求項2に記載のドリルガイド治具であって、
前記複合曲面は、半径が段階的に増加する複数の曲面を連続させてなり、前記中心軸から最短距離の左の接触点を左第1接触点とし、この点に対応する右の接触点を右第1接触点とし、左第1接触点が接触する曲面と右第1接触点が接触する曲面との半径が異なることに起因して、左第1接触点と右第1接触点を結んだ線分の中点に直交する中心軸が所望の法線からずれるときに、この法線と前記中心軸とのなす角度が予め定めた基準の範囲に収まるように、前記左第1接触点と右第1接触点を結んだ線分の長さを制限することを特徴とするドリルガイド治具。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載のドリルガイド治具であって、
前記当接部は、前記複数の接触点を順に結んで定めた湾曲面を含むことを特徴とするドリルガイド治具。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載のドリルガイド治具であって、
前記湾曲面は、前記左第1接触点と右第1接触点とを含むV字形状を呈していることを特徴とするドリルガイド治具。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか1項に記載のドリルガイド治具であって、
前記当接部には、弾性変形可能で摩擦係数の大きな滑り止め部材が付設されていることを特徴とするドリルガイド治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2009−50946(P2009−50946A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219306(P2007−219306)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】