説明

ドリル・タップ加工装置

【課題】ドリルやタップ等の工具の折損を防止し、穴加工やめねじ切り加工、あるいは加工後の工具の引き抜きを確実に行うことができるドリル・タップ加工装置の提供。
【解決手段】水平な面内を旋回自在な第1ビーム7と、この第1ビームに水平面内を旋回自在に連結されるとともに垂直面内を旋回可能な平行リンクとして構成された第2ビーム9と、この第2ビーム9に支持されたツールユニットとを有する。前記第2ビーム9には、これと一体に水平面内を旋回可能なストッパプレート10が設けられており、このストッパプレートには、第2ビームを垂直面内上方に押し上げるためのリフタ13が配置されている。このリフタ13の作動で第2ビーム9を垂直面内上方に押し上げることにより、工具をワークから引き抜くことが可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークに穴加工又はめねじ切りを行うドリル・タップ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワークに穴加工やめねじ切りを行う上で、その工具であるドリルやタップの折損が問題となっており、こうした問題に対して特許文献1に示す穴加工方法およびその装置が提案されている。
【0003】
特許文献1の穴加工方法およびその装置は、ドリルを回転させるスピンドルモータを電磁石などの復原要素とアクチュエータなどの減衰要素とで支持して設け、スピンドルモータがX,Y,Z直交座標系内(3次元空間内)で変位できるように構成したものである。そして、ドリルがワーク表面に接触する段階では復原要素と減衰要素による支持力を弱め、ドリルがワークに接触した時の反力をスピンドルモータの変位で吸収しつつ、スピンドルモータの振動を抑えてドリルの折損を防止する。その後、ドリルがワークを切削可能な程度に接触圧が高まると、スピンドルモータの支持力を瞬時に高めてドリルの軸振れを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−71509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示された穴加工方法およびその装置によれば、ドリルがワークに接触する段階でのドリルの折損は防止できるものの、穴加工後にドリルをワークから引き抜く時の折損を防止することができない。すなわち、穴加工後のドリル引き抜き時にはドリルと穴との接触等によってドリルの軸心を移動させる方向の力が作用するが、穴加工段階以降はスピンドルモータの支持力を強化しているため、ドリルに作用する力を吸収することができず、ドリルの折損を招く結果となってしまう。また特許文献1には、ばねとダンパによってスピンドルモータをXY平面内で移動可能に支持する実施例も示されているが、この場合でも複合応力によるドリルの複雑な動きをばねとダンパで完全に減衰して吸収することは不可能であり、やはりドリルを折損してしまうことになる。むしろ、複雑な力の影響でばねの振動が増幅され、ドリルの折損を助長してしまうことにもなりかねない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みて創成されたものであり、加工後の引き抜き動作におけるドリルやタップ等の工具の折損を防止し、確実に穴加工やめねじ切りを行うことができるドリル・タップ加工装置の提供を目的とする。この目的を達成するために本発明は、水平な面内を旋回自在な第1ビームと、この第1ビームに水平面内を旋回自在に連結されるとともに垂直面内を旋回可能な平行リンクで構成された第2ビームと、この第2ビームに支持され回転駆動源の駆動を受けて回転する工具を備えたツールユニットとを有し、前記ツールユニットによりワークに穴加工又はめねじ切りを行うドリル・タップ加工装置であって、前記第2ビームに隣接してこれと一体に水平面内を旋回可能にストッパプレートを設け、このストッパプレートに第2ビームを垂直面内上方に押し上げ可能なリフタを配置したことを特徴とする。
【0007】
なお、前記リフタは、ワークから工具を抜き取る時に作動して第2ビームを垂直面内上方に押し上げることが望ましい。また、前記リフタは、カメラシャッタ操作用のレリーズであることが望ましい。さらに、前記回転駆動源は、リフタの作動時に工具を回転駆動することが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のドリル・タップ加工装置によれば、垂直面内を旋回可能な平行リンクで構成された第2ビームを垂直面内上方に押し上げるリフタを設け、かつ第2ビームと第1ビームとをそれぞれ水平旋回可能に構成しているため、リフタの作動により工具を調心しながら穴またはめねじから引き抜くことができ、引き抜き時の工具の折損を防止することができる等の利点がある。また、リフタは第2ビームの水平旋回動作と一体に移動できるため、工具引き抜き時における第1ビームや第2ビームの水平旋回動作を妨げることがない。よって、第1ビームと第2ビームの微細な水平旋回動作を許容し、特に微小径の工具についても折損を防止することができる。また、リフタとしてカメラシャッタ操作用のレリーズを適用していることから、リフタを安価に構成できるとともに、第2ビームと一体に水平旋回可能なストッパプレートに配置しやすくなる等の利点がある。さらに、工具がドリルである場合に引き抜き時に工具を回転させているため、ドリルが穴壁面に接触した時に刃部が穴壁面にかじり付くことを防止でき、ドリルの折損防止効果を高めることができる等の利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るドリル・タップ加工装置の斜視図である。
【図2】本発明に係るドリル・タップ加工装置の正面図である。
【図3】本発明に係るドリル・タップ加工装置の平面図である。
【図4】第2ビームが下死点まで下方に旋回した状態を示す、図3のB−B線に係る拡大一部切欠断面図である。
【図5】第2ビームがリフタに押し上げられて上方に旋回した状態を示す、図3のB−B線に係る拡大一部切欠断面図である。
【図6】本発明に係るドリル・タップ加工装置の斜視説明図である。
【図7】図2のA−A線に係る拡大一部切欠断面図である。
【図8】穴加工時のばね連結部材の状態を示す要部拡大一部切欠断面図である。
【図9】めねじ切り加工時のばね連結部材の状態を示す要部拡大一部切欠断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
図1乃至図9において、1はドリル・タップ加工装置であり、バランスアーム2と、このバランスアーム2に連結されたツールユニット3とを備えて成る。バランスアーム2は、十分に強度のある基台やフレーム等(図示せず)に立設固定される支柱4を有し、この支柱4にはビームホルダ5が固定されている。このビームホルダ5は支柱4に沿って位置調整可能に構成される。そして、このビームホルダ5には回転軸6が垂直に延びて回転自在に取り付けてあり、この回転軸6には、水平に延びる第1ビーム7が一体に連結されている。これにより、第1ビーム7は図3の矢印Y1方向、すなわち水平面内を旋回自在に構成されている。また、第1ビーム7の先端には垂直上方に延びる回転軸8を介して第2ビーム9が連結されており、この第2ビーム9は、回転軸8を支点に図3の矢印Y2方向、すなわち水平面内を旋回自在に構成されている。
【0011】
前記第2ビーム9は、回転軸8に嵌合支持されたエルボ9aと、このエルボ9aに垂直面内を旋回可能にそれぞれ軸支されて平行に配置された2本のリンク9b,9cと、これらリンク9b,9cの先端をそれぞれ垂直面内で旋回可能に軸支するツールホルダ9dとから構成される。この構造により第2ビーム9は平行リンクを構成し、図4及び図5に示すように、リンク9bとリンク9cとは相対的に、またツールホルダ9dはエルボ9aに対して、それぞれ平行関係を保って垂直面内を旋回できるように構成されている。
【0012】
前記エルボ9aには板状のストッパプレート10がリンク9b,9cに隣接して、これと平行に延びて固定されている。このストッパプレート10の先端下部には、ストッパブロック11が固定してあり、このストッパブロック11には、ツールホルダ9dの下方に位置してストッパボルト12が螺合してある。第2ビーム9は、図4に示すように、このストッパボルト12に当接するまで下方に旋回できるようになっており、このストッパボルト12を回してその突出量を調節することにより、第2ビーム9の下死点を任意に設定することができる。また、このストッパボルト12には、その軸心に沿って中空穴12aが貫通成形してあり、ここにはリフタ13が圧入固定されている。このリフタ13は、カメラシャッタ操作用のケーブルレリーズであり、図示しないレリーズボタンを操作することで先端のピン13aが突出するように構成されている。このリフタ13のピン13aの突出動作により、図5に示すように、第2ビーム9を垂直面内上方に旋回させることができるよう構成されている。なお、図5では、第2ビーム9がリフタ13によって押し上げられた状態を示しているが、ツールユニット3を手で持って操作すれば、第2ビーム9をさらに上方に旋回させることができる。
【0013】
図6に示すように、前記ストッパプレート10には垂直方向に延びてばね連結部材14が設けられ、このばね連結部材14の両端にはそれぞれ引っ張りばね15a,15bが連結してある。この引っ張りばね15a,15bは、それぞれ前記リンク9b,9cに連結されており、引っ張りばね15aは、その引っ張り力により第2ビーム9を上方に旋回するよう付勢可能であり、引っ張りばね15bは、その引っ張り力により第2ビーム9を下方に旋回するよう付勢可能である。また、前記ばね連結部材14は、ストッパプレート10に固定された調整板16の溝16aに嵌合して配置されており、常時はストッパプレート10と調整板16とで挟持固定されている。この調整板16をストッパプレート10に止めるねじの一つは蝶ボルト17になっており、この蝶ボルト17を緩めることで、ばね連結部材14が溝16aに沿って上下方向に移動可能となるように構成されている。これにより、ばね連結部材14を上下方向任意の位置に位置決め固定し、引っ張りばね15a,15bによって第2ビーム9に付与される引っ張り力を調節できるように構成されている。
【0014】
前記引っ張りばね15aは、ばね連結部材14を上限位置まで移動させて固定した状態で、めねじ切り加工を行う場合に後記する工具25に付与すべきスラスト荷重(工具25に作用する軸荷重)が得られる性能のものが採用されている。めねじ切り加工においては、工具25となるタップがワークに喰い付いてめねじを切りながら進行することと、めねじ切り方向に2〜3回転する毎にタップを約1回転逆転させる必要があることとから、工具25に付与するスラスト荷重は僅かでよい。そうしておかないと、特にタップを逆転させる時に、それまでに切っためねじに沿ってタップが戻らず、ワークに喰い付いてしまうことがある。このことから引っ張りばね15aは、ばね連結部材14上限位置において、ツールユニット3の自重によるスラスト荷重を適正に減じられるよう構成されている。また、引っ張りばね15bは、ばね連結部材14を下限位置まで移動させて固定した状態で、穴加工を行う場合に後記する工具25に付与すべきスラスト荷重が得られる性能のものが採用されている。穴加工においては、工具25となるドリルを相応のスラスト荷重でワークに押圧しなければ、初期段階でドリルが穴加工位置から逃げたり、穿孔中の切削抵抗による衝撃で容易に折れてしまう。このことから引っ張りばね15bは、ばね連結部材14下限位置において、ツールユニット3の自重によるスラスト荷重に適正なスラスト荷重を追加できるように構成されている。
【0015】
一方、ツールユニット3は、前記ツールホルダ9dと一体に取り付けられたモータマウント18を有し、図7に示すように、このモータマウント18には回転駆動源の一例であるACサーボモータ19(以下、単にモータ19という)が固定されている。このモータ19の駆動軸19aには、カップリング20を介して中空軸状のツールホルダ21が一体に回転可能に連結されており、このツールホルダ21には、コレットホルダ22が一体に回転可能に保持されている。このコレットホルダ22は、常時、ツールホルダ21の下部に設けられた鋼球23によって抜け止めされているが、鋼球23を押さえているカラー24を上方へ逃がして鋼球23を動作可能にすることで、ツールホルダ21から取り外せるように構成されている。このコレットホルダ22の先端には、穴加工用のドリルやめねじ切り加工用のタップ等の工具25が一体に回転可能に保持されている。また、前記モータ19にはエンコーダ19bが備えられており、このエンコーダ19bは、モータ19の駆動軸19aの回転回数に応じた信号を発するように構成されている。このエンコーダ19bは、モータ駆動制御用のコントローラ(図示せず)に接続されている。これらモータ19乃至工具25は同軸線上に配置されており、第2ビーム9の平行リンクの作用により、常時軸線垂直な姿勢に保たれるよう構成されている。
【0016】
ツールユニット3は、軸線垂直な姿勢、すなわち工具25の軸線が垂直方向となる姿勢で前記ツールホルダ9dに連結されている。このため、バランスアーム2の第1,第2ビーム7,9の各水平旋回と、第2ビーム9の垂直旋回との組み合わせで、軸線垂直な姿勢を保ったまま当該軸線方向に上下移動できるよう構成されている。
【0017】
上記ドリル・タップ加工装置1は、バランスアーム2に保持されたツールユニット3の姿勢からもわかるように、ワークに垂直方向の穴加工又はめねじ切り加工を行うものである。第1の作業例として、穴加工を行う例を以下に示す。
【0018】
ワークWに穴加工を行う場合には、ツールホルダ21に工具25としてドリルを保持するとともに、図8に示すように、ばね連結部材14を下限位置までスライドさせて固定する。これにより下側の引っ張りばね15bがリンク9cを引き下げるように付勢し、加工時、ツールユニット3等の自重によるスラスト荷重に加えて引っ張りばね15bの力によるスラスト荷重を工具25に付与し、工具25をワークWに押圧することが可能となる。この状態で、ツールユニット3を操作してワークWの穴加工位置に工具25の先端を配置する。この時、第1ビーム7と第2ビーム9とは、平面視における角度θが約90°となる水平旋回状態に設定され、かつ第2ビーム9は、リンク9b,9cがほぼ水平方向に延びるように設定される。
【0019】
而して、ツールユニット3のスタートスイッチ(図示せず)を入れてモータ19が駆動すると、カップリング20を介してツールホルダ21乃至工具25(ドリル)が回転する。この時、工具25にはツールユニット3等の自重と引っ張りばね15bの力とによるスラスト荷重が付与されるため、回転により工具25はワークWに穿孔する。この穴加工中、ツールユニット3やバランスアーム2はフリーな状態に置かれる。つまり、作業者がツールユニット3を把持したり、バランスアーム2の動きを規制したりすることはない。
【0020】
穴加工中、工具25には、切り粉の噛み込みや工具25自体の形状、ワークWの組成、モータ19固有のトルクリップル等の様々な要因が絡み合って複雑な抗力が作用する。このような抗力が作用した場合、これを受けてバランスアーム2は水平・垂直方向に微妙に旋回動作し、ツールユニット3の位置を微調整する。これにより、工具25は抗力に抗うことなく常に最適な状態に自動調心されてワークWに穿孔する。また、工具25がワークWに穿孔するにともなうツールユニット3の下降や、前述の抗力によるツールユニット3の軸線方向の微細動に対しては、第2ビームがほぼ水平に設定されていることから、第1ビーム7、第2ビーム9を僅かな力で水平旋回させて工具25を調心していくことが可能である。
【0021】
また、工具25に作用する抗力の中でも回転負荷の占める割合は大きく、加工中の変動も細かく複雑である。この回転負荷は、ツールユニット3の回転反力としてバランスアーム2に伝達される。この時、バランスアーム2は第1ビーム7と第2ビーム9とが平面視で約90°を成すように設定されているため、この回転反力を圧力角0°で第1ビーム7によって受けることが可能になる。これにより、回転反力すなわち工具25に作用する回転負荷による第1,第2ビーム7,9の旋回動作は生じさせず、ツールユニット3の位置ずれを防止する。
【0022】
回転反力を圧力角0°で受けるべく、第1ビーム7と第2ビーム9の成す平面視の角度θは90°とするのが最適であるが、実際には各ビーム7,9連結部分の摩擦抵抗の影響が存在するため、角度θが厳密に90°でなくとも回転反力による第1,第2ビーム7,9の旋回は起こらない。実作業においては、前述のように工具25が受ける抗力や穿孔にともなってバランスアーム2が微妙に水平旋回動作するが、この程度では回転反力の影響でツールユニット3の位置ずれを生じさせることはない。工具25が受ける抗力に対し、バランスアーム2を十分に強度のあるものとすれば、第1ビーム7と第2ビーム9とが成す平面視の角度θは90±5°の範囲で設定しても実用上の問題はない。
【0023】
工具25により所望の深さまで穿孔がなされると、モータ19の駆動を継続しつつ、リフタ13のピン13aを上方に突出させる。これにより、第2ビーム9は上方に持ち上げられ、工具25がワークWから引き抜かれる。この時、第2ビーム9が平行リンクであることから工具25の軸線は少し平行移動しつつ上昇する。このため、工具25が穴に接触するが、これによって生じる工具25の軸線と交差する方向の力は、第1ビーム7と第2ビーム9の各水平旋回動作によって吸収できる。しかも、リフタ13は第2ビーム9と一体に水平旋回可能なストッパプレート10に配置されているため、第2ビーム9が水平旋回する時はこれと一体に移動する。よって、第2ビーム9に接触するピン13aが第2ビーム9の水平旋回動作の抵抗要素となることがなく、第1ビーム7と第2ビーム9の微細な水平旋回動作すらも許容できる。これらにより、工具25を調心しつつワークWの穴から引き抜き、工具25の折損を防止することができる。特に前述のように第1ビーム7と第2ビーム9の微細な水平旋回動作も許容されることから、工具25に作用する力が微小となる微小径の工具25の引き抜きにおいても、その折損を防止することができる。また、引き抜き時にはモータ19の駆動により工具25が回転しているため、工具25が穴に接触した時のかじり付きが防止され、工具25の折損防止効果がより一層高まる。
【0024】
次に第2の作業例としてワークにめねじ切り加工を行う例を示す。
ワークWにめねじ切りを行う場合には、まず、前述のように工具25としてドリルを用いてワークWに下穴を形成する。その後、工具25をタップに交換するとともに、図9に示すように、ばね連結部材14を上限位置までスライドさせて固定する。これにより上側の引っ張りばね15aがリンク9bを引き上げるように付勢し、加工中、工具25(タップ)に付与されるスラスト荷重(ツールユニット3等の自重による荷重)が適度に減じられる。
【0025】
続いて、ツールユニット3を操作して工具25先端をワークWの下穴入口に位置させる。この時も、上述同様の理由から第1,第2ビーム7,9が平面視で約90°を成し、かつ第2ビーム9のリンク9b,9cがほぼ水平になるよう、バランスアーム2とワークWとの位置・高さ関係を設定する。そして、モータ19を正転駆動して工具25をねじ切り方向に回転させると、工具25は下穴に沿ってめねじを成形する。
【0026】
めねじ切りの過程においては、コントローラでエンコーダ19bの出力パルスが読み取られ、これによりモータ19が所定の回転回数正転駆動したことが検知されると、モータ19が逆転駆動に切り替えられる。而して、正転駆動時の回転回数よりも少ない回転回数だけモータ19を逆転駆動させた後は、再度モータが正転駆動に戻される。これを繰り返して、所望の深さまで工具25によるねじ切りを行う。これにより、工具25は所定回転ねじ切りを行う度に、それよりも少ない回転分ねじ戻されるため、切り粉の噛み込みを防ぎ、安定しためねじの成形が可能となる。また、引っ張りばね15aの作用により、ツールユニット3の自重等による工具25へのスラスト荷重は適正に減じられているため、工具25のねじ切り、ねじ戻しのそれぞれにおいて、工具25は既に成形しためねじに沿って回転することができる。よって、工具25が既に成形されためねじに噛み込んで、別のめねじを切ってしまうような不具合の発生も防止できる。
【0027】
このめねじ切り加工においても、工具25の下穴への喰い付き当初からめねじの切り終わりまで、上述の穴加工の時と同様にバランスアーム2による自動調心効果と、回転反力によるツールユニット3の位置ずれを防止する効果とが得られる。このため、タップの折損を防止し、確実にめねじを切ることが可能となる。
【0028】
ワークWに所望の深さのめねじが成形されると、モータ19の駆動が逆転駆動に切り換えられてタップをめねじから抜き取る。この時も、バランスアーム2による工具25の自動調心効果が得られるため、工具25の折損を防止して確実に引き抜くことができる。そして、工具25がめねじの入口付近までねじ戻されると、リフタ13をピン13aが上方に突出するように作動させ、第2ビーム9を上方に押し上げる。これにより工具25をめねじから速やかに離脱させ、工具25がめねじ入口で空転し、めねじの入口端部を傷付けるような不具合の発生を防止できる。
【0029】
以上のように本ドリル・タップ加工装置1は、穿孔中やめねじ切り加工中に工具25に作用する純粋な回転負荷によるバランスアーム2の旋回(ツールユニット3の位置ずれ)は防止し、それ以外の工具25に作用する力、例えば工具25を平行移動させる力や曲げモーメント等に対してはバランスアーム2の水平面内及び垂直面内の微妙な旋回動作を許容し、ツールユニット3を最適位置に調心することができるものである。このため、穿孔中やめねじ切り加工中に作用する複雑な力によって工具25が折損することを防止し、確実に穴加工を行うことができる。また、工具25の引き抜き時には、前述の自動調心作用に加え、リフタ13により第2ビーム9を垂直面内上方に旋回させる力を与えることができるため、引き抜き時25においても工具25の折損を防止することができる。特に穴加工でφ2mm以下、めねじ切り加工でM2以下の微小径の穴やめねじを加工する場合には、ドリルやタップの折損率が高くなるが、本ドリル・タップ加工装置1によれば、こうした微小径の工具25の折損も防止することが可能となる。
【0030】
なお、上記の工具25としてはドリルとタップを同軸上に一体構造としたドリルタップを使用することもでき、これにより下穴加工とめねじ切り加工とを1本の工具で連続的に行ってもよい。また、本実施形態においては、第1,第2のばねとして引っ張りばね15a,15bを例示したが、ここに用いるばね部材としては圧縮ばねや流体ばね等の他のばねを採用することができる。こうしたばねを上下各方向から第2ビームを付勢するよう、ばね連結部材14の両端に連結することにより、ばね連結部材の上下位置調整で、上記引っ張りばね15a,15bの場合と同様に第2ビーム9の付勢方向と付勢力とを調節することができる。さらに、リフタ13としては、本実施形態で例示したカメラシャッタ操作用のレリーズ以外にも、エアシリンダなどの他の直動型アクチュエータを利用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1 ドリル・タップ加工装置
2 バランスアーム
3 ツールユニット
4 支柱
5 ビームホルダ
6 回転軸
7 第1ビーム
8 回転軸
9 第2ビーム
9a エルボ
9b リンク
9c リンク
9d ツールホルダ
10 ストッパプレート
11 ストッパブロック
12 ストッパボルト
13 リフタ
14 ばね連結部材
15a 引っ張りばね
15b 引っ張りばね
16 調整板
17 蝶ボルト
18 モータマウント
19 ACサーボモータ
20 カップリング
21 ツールホルダ
22 コレットホルダ
23 鋼球
24 カラー
25 工具
W ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平な面内を旋回自在な第1ビームと、この第1ビームに水平面内を旋回自在に連結されるとともに垂直面内を旋回可能な平行リンクで構成された第2ビームと、この第2ビームに支持され回転駆動源の駆動を受けて回転する工具を備えたツールユニットとを有し、前記ツールユニットによりワークに穴加工又はめねじ切りを行うドリル・タップ加工装置であって、
前記第2ビームに隣接してこれと一体に水平面内を旋回可能にストッパプレートを設け、このストッパプレートに第2ビームを垂直面内上方に押し上げ可能なリフタを配置したことを特徴とするドリル・タップ加工装置。
【請求項2】
リフタは、ワークから工具を抜き取る時に作動して第2ビームを垂直面内上方に押し上げることを特徴とする請求項1に記載のドリル・タップ加工装置。
【請求項3】
リフタは、カメラシャッタ操作用のレリーズであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のドリル・タップ加工装置。
【請求項4】
回転駆動源は、リフタの作動時に工具を回転駆動することを特徴とする請求項1ないし請求項3の何れかに記載のドリル・タップ加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−6113(P2012−6113A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144187(P2010−144187)
【出願日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(000227467)日東精工株式会社 (263)
【Fターム(参考)】