ドリル工具用ドリル本体
【課題】内側インサートと外側インサートとの間の距離が近くなっても、重畳する領域で内側インサートと外側インサートとが交互に突出する現象を防止するドリル工具及びドリル本体を提供する。
【解決手段】ドリルは、ドリル本体の先端部に前記回転軸に近接して装着され、4つの切削刃及び4つの丸いコーナー部からなる軸対称の輪郭線を有する内側インサートと、前記内側インサートと同一のインサートであって、前記内側インサートより前記回転軸から遠く装着される外側インサートとを備え、前記内側インサートと前記外側インサートとは、その回転軌跡が一部重畳する。前記回転軌跡が重畳する領域で前記内側インサートの切削刃と前記外側インサートの切削刃とは、前記回転軸に向かって被削材方向に延び、前記内側インサートの切削刃の軌跡は前記外側インサートの切削刃の軌跡に比べてドリル本体の回転軸に沿って被削材方向に突出する。
【解決手段】ドリルは、ドリル本体の先端部に前記回転軸に近接して装着され、4つの切削刃及び4つの丸いコーナー部からなる軸対称の輪郭線を有する内側インサートと、前記内側インサートと同一のインサートであって、前記内側インサートより前記回転軸から遠く装着される外側インサートとを備え、前記内側インサートと前記外側インサートとは、その回転軌跡が一部重畳する。前記回転軌跡が重畳する領域で前記内側インサートの切削刃と前記外側インサートの切削刃とは、前記回転軸に向かって被削材方向に延び、前記内側インサートの切削刃の軌跡は前記外側インサートの切削刃の軌跡に比べてドリル本体の回転軸に沿って被削材方向に突出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル工具用のドリル本体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインサート型ドリル工具では、図1Aに示したような正方形切削インサート二つをドリル本体の内側と外側に一つずつ配置して用いた。内側インサートと外側インサートとは、ドリル本体の回転軸を基準に互いに反対側に配置されるが、図1B及び図1Cはそれぞれ内側インサートをドリル本体の回転軸に対して180°回転移動させて外側インサートの切削刃と共に示したものであり、ドリル作業時の内側インサート切削刃と外側インサート切削刃の相対的な位置関係を示す。
【0003】
インサート型ドリル工具の直径は、内側インサートと外側インサートとの間の距離に応じて変わる。内側インサートと外側インサートとが図1Cに示した通りに配置された場合には、内側インサートと外側インサート切削刃との間に回転軌跡が重畳する領域で内側インサートの切削刃のみが突出し、ドリル作業時に内側インサートによる切削のみが生じる。しかし、図1Bに示した通り、内側インサートと外側インサートとの距離をさらに近く配置する場合には、内側インサートと外側インサートとの回転軌跡が重畳する領域で内側インサートの切削刃と外側インサートの切削刃とがいずれも突出しており、ドリル作業時に被削材が両切削刃によって交互に切削される現象が発生する。これによって、ドリル作業時に該部分で長くて細いチップが生成され、分節せずにドリル本体の側面を取り囲み、ドリル本体と加工中である孔の間に挟まってドリルの切削作業を妨害し、被削材を損傷させる問題があった。このような現象は被削材が軟鋼などの比較的薄い素材の場合に特に問題となる。また、内側インサートと外側インサートとの回転軌跡が重畳する領域でドリル本体の回転軸方向に交互に突出した内側インサート及び外側インサートとの端部に切削抵抗が集中し、切削インサートの使用寿命が短縮されて安定した切削性能を保障できない。
【0004】
韓国特許出願公開第2005−7569号には、これとは異なるインサート型ドリル工具が開示されている。該ドリル工具は、図2Aに示した通り、各切削刃が遷移部分刃2を介して互いにつながる第1及び第2部分刃4、6を備えるインサートを内側インサートとして用い、通常の正方形インサートを外側インサートとして用いる。図2Bは、2切削インサートの配置関係を示す。図2Cは、図2Bの内側インサートを回転軸を基準に180°回転移動させて内側インサートと外側インサートとの切削刃の相対的な位置関係を示したものである。
【0005】
韓国特許出願公開第2005−7568号には、他のインサート型ドリル工具が開示されている。このドリル工具では図3に示した通り、各切削刃が遷移部分刃2′を介して互いにつながる第1及び第2部分刃4′、6′を備えるインサートを内側インサートとして用い、これと鏡対称形であるインサートを外側インサートとして用いる。
【0006】
該ドリル工具では、内側インサートと外側インサートとの回転軌跡が重畳する領域で内側インサートと外側インサートの切削刃とが概ね平行に配置されているので、内側インサートと外側インサートとの間の距離が近くなってもドリル本体の回転軸方向に内側インサート及び外側インサートが交互に突出せず、内側インサートのみが突出した状態を維持することができる。これによって、図1Bで示した場合のように内側インサートと外側インサートとの回転軌跡が重畳する領域で内側インサートと外側インサートとの切削刃が互いに反対方向に配置された構造に比べ、内・外側インサートの間の距離が近くなっても、内・外側インサートが交互に突出し、その部分から小さくて細いチップが発生する現象及びその部分に切削抵抗が局部的に集中する現象を防止することができる。
【0007】
しかし、内側インサートと外側インサートとが相違し、それぞれのインサートを製造するために別途の粉末冶金用金型を備えなければならず、生産工程を別途に管理しなければならない不便がある。また、インサートの在庫を2種類に分けて管理しなければならず、インサートの装着または交換時に内側と外側とのインサートを注意深く選別して装着しなければならない不便がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はこのような従来技術の問題を解決し、内側インサートと外側インサートとの間の距離が近くなっても内側インサートと外側インサートとが重畳する領域で内側インサートと外側インサートとが交互に突出する現象を防止すると同時に、内側インサートと外側インサートとの形状を同一の形状にしてインサートの生産性を向上し、顧客のインサート在庫管理及び装着または交換の便宜を図る切削インサートを備えるドリル工具及びドリル本体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、回転軸を有するドリル工具用ドリル本体であって、前記ドリル本体の先端部に前記回転軸に近接して形成される内側ポケットと、前記ドリル本体の先端部に前記内側ポケットより前記回転軸から遠い位置に形成される外側ポケットとを備え、各ポケットは、被削材と対向する第1壁部と、前記第1壁部に垂直でドリル本体の回転軸に近接して配置される第2壁部と、底面とを備え、第1壁部と第2壁部とのそれぞれは、前記底面に隣接して平らな下部側面と、前記下部側面から延びて屈曲した上部側面とを備え、内側ポケットの第1壁部と外側ポケットの第1壁部とは同一の表面形状を備え、内側ポケットの第2壁部と外側ポケットの第2壁部とは同一の表面形状を備え、内側ポケットの第1壁部の上部側面と外側ポケットの第1壁部の上部側面とはそれぞれ、ドリル本体の回転軸から遠くなる方向に第1部分面、遷移部分面、第2部分面とを備え、内側ポケットの第1壁部の上部側面の第1部分面と外側ポケットの第1壁部の上部側面の第2部分面とは、ドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に傾くことを特徴とするドリル工具用ドリル本体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
後述する切削インサートを有するドリル工具によると、内側インサートと外側インサートとの間の距離が近くなっても内側インサートと外側インサートとが重畳する領域で内側インサートと外側インサートとが交互に突出する現象を防止すると同時に、内側インサートと外側インサートとの形状を同一の形状にしてインサートの生産性を向上し、顧客のインサート在庫管理及び装着または交換の便宜を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来のインサート型ドリル工具の切削インサートを示した図面である。
【図2】従来のインサート型ドリル工具の切削インサートを示した図面である。
【図3】従来のインサート型ドリル工具の切削インサートを示した図面である。
【図4】本発明の一実施例における切削インサートの平面図である。
【図5】本発明の一実施例における切削インサートの形状を説明するための模式図である。
【図6】本発明の一実施例におけるドリル工具の切削インサートが装着された部分を示した部分側面図である。
【図7】図6のドリル工具の切削インサート装着部分を示した部分斜視図である。
【図8】図6のドリル工具の切削インサートの位置関係を示した図面である。
【図9】図6の切削インサートの斜視図である。
【図10】図6の切削インサートの背面斜視図である。
【図11】図6の内側インサートが装着されるポケットの斜視図である。
【図12】図6の外側インサートが装着されるポケットの斜視図である。
【図13】図11に示したポケットの拡大図である。
【図14】図12に示したポケットの拡大図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下では、本発明を添付された図面に示した実施例を参照して説明する。
【0013】
図4は、本発明の一実施例による切削インサート10の平面図である。切削インサート10は略正方形であって、対称軸を備え、4つの切削刃11、11′、11″、11”’ 及び4つの丸いコーナー部からなる軸対称の輪郭線を有する。即ち、切削刃11、11′、11″、11”’はインサートの回転軸に対して互いに回転対称形である。各切削刃11、11′、11″、11”’は遷移部分刃12を介してつながる第1及び第2部分刃14、16を備える。遷移部分刃12及び第1及び第2部分刃14、16は部分直線状である。第1部分刃14と遷移部分刃12とのカップリング部は凸部をなし、遷移部分刃12と第2部分刃16とのカップリング部は凹部をなすように屈曲する。各切削刃11、11′、11″、11”’は仮想内接円(c)と接点T1、T2、T3、T4で接する。互いに対向する接点T2とT4またはT1とT3を結ぶ線は、切削インサートの中心(O)を過ぎる基準線(LまたはL′)になる。好ましくは、遷移部分刃12は第2部分刃16から、遷移部分刃12に対向する基準線(L)に対して遠くなる方向に延び、第2部分刃16は遷移部分刃12から、第2部分刃16に対向する部分基準線(L)に対して遠くなる方向に延びる。また、好ましくは、第1部分刃14は遷移部分刃12から、第1部分刃14に対向する基準線(L)に対して近くなる方向に延びる。
【0014】
好ましくは、遷移部分刃12の基準線(L)に対する角度θ1は第2部分刃16の基準線(L)に対する角度θ3と同一である。このような場合、切削インサート10の形状は、本発明の一実施例による切削インサートの形状を説明するための模式図である図5に示した通り、基準線(L)を基準に上下左右対称である蝶形状のインサートの各角を点線に沿って面取り処理した形状と類似する。
【0015】
好ましくは、遷移部分刃12の基準線(L)に対する角度θ1及び第2部分刃16の基準線(L)に対する角度θ3は約5〜7度であり、第1部分刃14の基準線(L)に対する角度θ2は約14〜16度である。前記角度範囲は切削インサートが本発明のドリル本体内に装着され、切削を行う時に有利な角度範囲である。角度θ1、角度θ3及び角度θ2があまりにも大きければ切削刃が部分的に突出して切削抵抗が集中する可能性があり、あまりにも小さければ直線状切削刃に近くなり、図1に示した従来の正方形切削インサートでのような問題が発生する。
【0016】
図6及び図7は、切削インサート10、10′が装着されたドリル工具1を示す。内側切削インサート10と外側切削インサート10′とは固定ネジ18、18′によってドリル本体の先端部のドリル本体ヘッド部のポケット内に装着される。内側インサート10はドリル本体の回転軸に近接して装着され、外側インサート10′は内側インサート10より前記回転軸から遠い位置に装着される。内側インサート10と外側インサート10′とは形状、サイズ、材質などがいずれも同一である。インサート10、10′は、第2部分刃16、16′が第1部分刃14、14′よりドリル本体の回転軸に近く位置するように配置される。内側インサート10は第1部分刃14が第2部分刃16より被削材方向に突出するように配置され、外側インサート10′は第2部分刃16′が第1部分刃14′より被削材方向に突出するように配置される。図6(A)は本発明のドリル本体の回転軸近くに配置された内側インサート10を示し、図6(B)は本発明のドリル本体の外側面近くに配置された外側インサート10′を示す。
【0017】
このように、本発明に用いることが好ましいドリル工具は内側インサートと外側インサートとが同一の切削インサートからなっているので、インサート生産工程や在庫管理が単純化され、ドリル工具へのインサート装着・交換作業も単純になる。
【0018】
図8は、ドリル本体ヘッド部に装着された内側インサート10と外側インサート10′との相対的な切削刃の位置関係を示す。内側インサート10と外側インサート10′は実際に図6及び図7に示した通りドリル本体の回転軸を基準に互いに反対側に配置されるが、図8にはドリル作業中の両切削インサートの相対的な切削刃位置関係をわかりやすく示すために内側インサート10をドリル本体の回転軸を基準に180°回転移動させて示す。図8で両インサートの前方面が同一の仮想面上に配置されるように見えるが、実際に両インサートの前方面はより好ましい切削刃角度を提供するために前記仮想面に対して若干傾いたり前記仮想面から若干オフセットされ得る。このような場合、上述した通りドリル本体の回転軸を基準に内側インサート10を回転移動させた角度は、厳密には180°に制限されない。
【0019】
被削材と向かい合う内側インサート10と外側インサート10′との切削刃の回転軌跡は一部領域で重畳する。前記重畳領域で内側インサート10の第1部分刃14と外側インサート10′の第2部分刃16′とはいずれもドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に所定角度傾いている。内側インサート10の第1部分刃14は、外側インサート10′)の第2部分刃16′よりドリル本体の回転軸に沿って被削材に向かう方向に突出する。
【0020】
このような技術構成によって、内側インサート10の中心と外側インサート10′の中心とが近くなっても、ドリル作業中に内側インサートと外側インサートとが重畳した領域で両インサートの切削刃が交互に突出せず、内側インサート10の切削刃のみが突出した状態を維持できる。即ち、内側インサート10と外側インサート10′とが重畳する領域で、内側インサート10の有効前方切削刃によって外側インサート10′の最前方コーナー部が被削材に接しない状態を維持しながら、両インサート間の半径方向距離を調節することが容易になる。従って、両インサートの重畳領域で細長いチップが発生するのを防止できる。また、従来技術でのように内側インサートと外側インサートとが重畳する領域で切削刃の端部にのみ切削抵抗が集中する現象を防止できる。
【0021】
一方、内側インサート10の第1部分刃14がドリル本体の回転軸と垂直な面に平行であるか、或いはドリル本体の回転軸に向かって被削材の反対方向に傾く場合と比較し、第1部分刃14がドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に傾く方が、第1部分刃14が被削材に最初に進入して被削材内に定着するのに有利である。これは第1部分刃14が上述した方向に傾けば、第1部分刃14と遷移部分刃12がV字形態を形成して被削材に進入して定着するのが容易なためである。
【0022】
内側インサート10の第1部分刃14のうち、遷移部分刃12に隣接した部分は、外側インサート10′の第2部分刃16′のうち遷移部分刃12′の反対側にある部分より距離dだけ突出する。距離(d)は望ましくは約0.12〜0.15mmである。これは切削時のドリルの移送量(mm/回転数)を考慮して選定された適正な数値範囲である。
【0023】
内側インサートの第1部分刃14は、ドリル本体の回転軸に垂直な面に対して角度θ4ほど傾いている。角度θ4は5度以下であり、より好ましくは3〜5度である。角度θ4があまりにも大きければ切削抵抗は減るが、安定したドリル作業が困難であり、あまりにも小さければドリル作業は安定的であるが、切削抵抗が増加され得る。
【0024】
このように、内側インサート10の第1部分刃14はドリル本体の回転軸に垂直な面に対し、比較的小さい角度に傾いて延びているので、内側インサートの第1部分刃14が被削材に進入する時に切削抵抗を均一に分散させることができる。
【0025】
一方、外側インサート10′の第1部分刃14′は、回転軸に向かって被削材方向に傾く。具体的には、外側インサート10′の第1部分刃14′はドリル本体の回転軸に垂直な面に対して角度θ5で傾いている。角度θ5は望ましくは18〜19度である。前記数値範囲は外側インサート10′の第1部分刃14′が被削材に進入するのに有利な角度である。角度θ5があまりにも大きければ安定したドリル作業が困難である。
【0026】
外側インサート10′の遷移部分刃12′は、第1部分刃14′と反対に、回転軸に向かって被削材の反対方向に傾く。これによって外側インサート10′の第1部分刃14′と遷移部分刃12′がV字形態を形成して被削材に進入して安定するのが容易になる。また、第1部分刃14′と遷移部分刃12′に作用する切削抵抗が部分的に相殺されて切削抵抗が減少する効果がある。
【0027】
外側インサート10′の遷移部分刃12′は、内側インサート10の第2部分刃16より被削材方向に前方に位置する。これによって、外側インサート10′の遷移部分刃12′と内側インサート10の第2部分刃16とが順次被削材に進入するようになり、同時に進入するのに比べて切削抵抗を減らすことができる。
【0028】
図9は、本発明の一実施例による切削インサートの上部面を示す斜視図であり、図10は本発明の一実施例による切削インサートの底面を示す斜視図である。切削インサートは互いに回転対称形である4つの側壁を備える。各側壁は、切削インサートの上部面から四つの切削刃11、11′、11″、11”’の幾何学的形状に沿って延長する上部側面21、21′、21″、21”’と、切削インサートの底面から延びる平らな下部側面31、31′、31″、31”’を備える。隣接する下部側面31、31′、31″、31”’間のコーナー部は面取りされ、面取り面41、41′、41″、41”’が形成される。切削インサートの底面30は、図10に示すように平たい。
【0029】
図11及び図12は、本発明の一実施例による切削インサート10、10′が装着されるドリル本体ヘッド部のポケットの斜視図である。図11は、内側インサート10が装着される内側ポケット20を示し、図12は外側インサート10′が装着される外側ポケット20′を示す。内側ポケット20はドリル本体の先端部に回転軸に近接して形成され、外側ポケット20′はドリル本体の先端部に内側ポケット20より回転軸から遠い位置に形成される。各ポケット20、20′は被削材と対向する第1壁部51、61、51””、61””と、第1壁部と垂直でドリル本体の回転軸に近接して配置された第2壁部51′、61′、51”’、61”’と、被削材と対向する第2壁部51、61、51””、61””と、底面71、71′とを備える。内側ポケット20は第2壁部51′、61′と対向する第3壁部51″、61″をさらに備えることができる。第1壁部、第2壁部及び第3壁部は、切削インサート10、10′の上部側面21、21′、21″、21”’に対応して屈曲した形状の上部側面51、51′、51″、51”’、51””と、切削インサート10、10′の下部側面31、31′、31″、31”’に対応する平らな下部側面61、61′、61″、61”’、61””及び切削インサート10、10′の底面30に対応する平らな底面71、71′とを備える。
【0030】
内側ポケット20と外側ポケット20′には同一の形状とサイズの切削インサート10、10′が装着されるので、内側ポケットの第1壁部51,61と外側ポケットの第1壁部51””、61””は少なくとも部分的に同一の表面形状を含み、内側ポケットの第2壁部51′、61′と外側ポケットの第2壁部51”’、61”’は少なくとも部分的に同一の表面形状を備える。
【0031】
好ましくは、切削インサート10、10′がポケット20、20′に装着される時、切削インサート10、10′はポケット20、20′の平らな底面71、71′と第1壁部の平らな下部側面61、61””及び第2壁部の平らな下部側面61′、61”’でのみ接触支持される。即ち、切削インサート10、10′の切削刃の幾何学的形状に沿って延長する上部側面21、21′、21″、21”’とこれに対応するポケット20、20′の上部側面51、51′、51″、51”’、51””は接触せず、離隔する。
【0032】
例えば、内側インサート10が内側ポケット20に装着される時、内側インサート10の平らな下部側面31、31′がそれぞれ内側ポケット20の平らな下部側面61、61′と接触して支持され、内側インサートの平らな底面30が内側ポケット20の平らな底面71と接触して支持される。また、例えば、外側インサート10′が外側ポケット20′に装着される時、外側インサート10′の平らな下部側面31、31′がそれぞれ外側ポケット20′の平らな下部側面61”’、61””と接触して支持され、外側インサートの平らな底面30が外側ポケット20′の平らな底面71′と接触して支持される。
【0033】
このような技術構成を通じ、屈曲した複雑な形状を有する切削インサート10、10'の上部側面61、61'、61''、61'''、61''''に対応するポケットの上部側面51、51'、51''、51'''、51''''は比較的余裕のある公差で加工し、切削インサート10、10'と接触して切削インサートを支持する平らで単純な形状のポケット20、20'の底面71、71'と下部側面61、61'、61''、61'''、61''''のみを精密な公差で加工すればいいという利点がある。これにより、時間及び費用の面で効率的にポケット20、20'を製作できる。ただし、屈曲した形状を有する切削インサート10、10'の上部側面61、61'、61''、61'''、61''''とこれに対応するポケットの上部側面51、51'、51''、51'''、51''''との間隔は、その間にチップ破片が狭まらない程度に小さくなければならない。
【0034】
図13及び図14は図11及び図12に示した内側ポケット20と外側ポケット20'の拡大図である。図13及び図14に示した通り、内側ポケット20の第1壁部の上部側面51と外側ポケット20'の第1壁部の上部側面51''''とはドリル本体の回転軸から遠くなる方向に第1部分面82、82''''、遷移部分面84、84''''、第2部分面86、86''''を備える。また、内側ポケット20の第2壁部の上部側面51'と外側ポケット20'の第2壁部の上部側面51'''とはそれぞれ、被削材から遠くなる方向に第1部分面82'、82'''、遷移部分面84'、84'''、第2部分面86'、86'''を備える。内側ポケット20の第1壁部の上部側面51の第1部分面82と外側ポケット20'の第1壁部の上部側面51''''の第2部分面86''''はドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に傾く。また、内側ポケット20の第2壁部の上部側面51'の第1部分面82'は被削材に向かってドリル本体の回転軸方向に傾き、外側ポケット20'の第2壁部の上部側面51'''の第2部分面86'''は被削材に向かってドリル本体の回転軸の反対方向に傾く。これは図8に示した通り、内側ポケット20に装着される内側インサート10が外側インサート10'と重畳する領域で内側インサート10の第1部分刃14と外側インサート10'の第2部分刃16'はいずれもドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に所定角度傾いており、内側インサート10と外側インサート10'との4つの切削刃は互いに回転対称形である点に起因する。即ち、内側ポケット20の第1壁部の上面51の第1部分面82と外側ポケット20'の第1壁部の上面51''''の第2部分面86''''とはそれぞれ、図8で互いに回転軌跡が重畳する内側インサート10と外側インサート10'との切削刃部分に180°回転対称関係にある切削刃部分を収容するのに適した形状を有するので、上述した方向性を有するようになる。また、内側ポケット20の第2壁部の上面51'の第1部分面82'と外側ポケット20'の第2壁部の上面51'''の第2部分面86'''とはそれぞれ、図8で互いに回転軌跡が重畳する内側インサート10と外側インサート10'との切削刃部分に90°回転対称関係にある切削刃部分を収容するのに適した形状を有するので、上述した方向性を有するようになる。
【0035】
本発明を望ましい実施例を通じて説明し例示したが、当業者であれば添付の特許請求の範囲及び範疇を逸脱せずに様々な変形及び変更がなされることが分かるはずである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
上述した切削インサートを備えるドリル工具によって、内側インサートと外側インサートとの間の距離が近くなっても内側インサートと外側インサートとが重畳する領域で内側インサートと外側インサートとが交互に突出する現象を防止すると同時に、内側インサートと外側インサートとの形状を同一の形状にしてインサートの生産性を向上し、顧客のインサート在庫管理及び装着または交換の便宜を図ることができる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドリル工具用のドリル本体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインサート型ドリル工具では、図1Aに示したような正方形切削インサート二つをドリル本体の内側と外側に一つずつ配置して用いた。内側インサートと外側インサートとは、ドリル本体の回転軸を基準に互いに反対側に配置されるが、図1B及び図1Cはそれぞれ内側インサートをドリル本体の回転軸に対して180°回転移動させて外側インサートの切削刃と共に示したものであり、ドリル作業時の内側インサート切削刃と外側インサート切削刃の相対的な位置関係を示す。
【0003】
インサート型ドリル工具の直径は、内側インサートと外側インサートとの間の距離に応じて変わる。内側インサートと外側インサートとが図1Cに示した通りに配置された場合には、内側インサートと外側インサート切削刃との間に回転軌跡が重畳する領域で内側インサートの切削刃のみが突出し、ドリル作業時に内側インサートによる切削のみが生じる。しかし、図1Bに示した通り、内側インサートと外側インサートとの距離をさらに近く配置する場合には、内側インサートと外側インサートとの回転軌跡が重畳する領域で内側インサートの切削刃と外側インサートの切削刃とがいずれも突出しており、ドリル作業時に被削材が両切削刃によって交互に切削される現象が発生する。これによって、ドリル作業時に該部分で長くて細いチップが生成され、分節せずにドリル本体の側面を取り囲み、ドリル本体と加工中である孔の間に挟まってドリルの切削作業を妨害し、被削材を損傷させる問題があった。このような現象は被削材が軟鋼などの比較的薄い素材の場合に特に問題となる。また、内側インサートと外側インサートとの回転軌跡が重畳する領域でドリル本体の回転軸方向に交互に突出した内側インサート及び外側インサートとの端部に切削抵抗が集中し、切削インサートの使用寿命が短縮されて安定した切削性能を保障できない。
【0004】
韓国特許出願公開第2005−7569号には、これとは異なるインサート型ドリル工具が開示されている。該ドリル工具は、図2Aに示した通り、各切削刃が遷移部分刃2を介して互いにつながる第1及び第2部分刃4、6を備えるインサートを内側インサートとして用い、通常の正方形インサートを外側インサートとして用いる。図2Bは、2切削インサートの配置関係を示す。図2Cは、図2Bの内側インサートを回転軸を基準に180°回転移動させて内側インサートと外側インサートとの切削刃の相対的な位置関係を示したものである。
【0005】
韓国特許出願公開第2005−7568号には、他のインサート型ドリル工具が開示されている。このドリル工具では図3に示した通り、各切削刃が遷移部分刃2′を介して互いにつながる第1及び第2部分刃4′、6′を備えるインサートを内側インサートとして用い、これと鏡対称形であるインサートを外側インサートとして用いる。
【0006】
該ドリル工具では、内側インサートと外側インサートとの回転軌跡が重畳する領域で内側インサートと外側インサートの切削刃とが概ね平行に配置されているので、内側インサートと外側インサートとの間の距離が近くなってもドリル本体の回転軸方向に内側インサート及び外側インサートが交互に突出せず、内側インサートのみが突出した状態を維持することができる。これによって、図1Bで示した場合のように内側インサートと外側インサートとの回転軌跡が重畳する領域で内側インサートと外側インサートとの切削刃が互いに反対方向に配置された構造に比べ、内・外側インサートの間の距離が近くなっても、内・外側インサートが交互に突出し、その部分から小さくて細いチップが発生する現象及びその部分に切削抵抗が局部的に集中する現象を防止することができる。
【0007】
しかし、内側インサートと外側インサートとが相違し、それぞれのインサートを製造するために別途の粉末冶金用金型を備えなければならず、生産工程を別途に管理しなければならない不便がある。また、インサートの在庫を2種類に分けて管理しなければならず、インサートの装着または交換時に内側と外側とのインサートを注意深く選別して装着しなければならない不便がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的はこのような従来技術の問題を解決し、内側インサートと外側インサートとの間の距離が近くなっても内側インサートと外側インサートとが重畳する領域で内側インサートと外側インサートとが交互に突出する現象を防止すると同時に、内側インサートと外側インサートとの形状を同一の形状にしてインサートの生産性を向上し、顧客のインサート在庫管理及び装着または交換の便宜を図る切削インサートを備えるドリル工具及びドリル本体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明は、回転軸を有するドリル工具用ドリル本体であって、前記ドリル本体の先端部に前記回転軸に近接して形成される内側ポケットと、前記ドリル本体の先端部に前記内側ポケットより前記回転軸から遠い位置に形成される外側ポケットとを備え、各ポケットは、被削材と対向する第1壁部と、前記第1壁部に垂直でドリル本体の回転軸に近接して配置される第2壁部と、底面とを備え、第1壁部と第2壁部とのそれぞれは、前記底面に隣接して平らな下部側面と、前記下部側面から延びて屈曲した上部側面とを備え、内側ポケットの第1壁部と外側ポケットの第1壁部とは同一の表面形状を備え、内側ポケットの第2壁部と外側ポケットの第2壁部とは同一の表面形状を備え、内側ポケットの第1壁部の上部側面と外側ポケットの第1壁部の上部側面とはそれぞれ、ドリル本体の回転軸から遠くなる方向に第1部分面、遷移部分面、第2部分面とを備え、内側ポケットの第1壁部の上部側面の第1部分面と外側ポケットの第1壁部の上部側面の第2部分面とは、ドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に傾くことを特徴とするドリル工具用ドリル本体を提供する。
【発明の効果】
【0010】
後述する切削インサートを有するドリル工具によると、内側インサートと外側インサートとの間の距離が近くなっても内側インサートと外側インサートとが重畳する領域で内側インサートと外側インサートとが交互に突出する現象を防止すると同時に、内側インサートと外側インサートとの形状を同一の形状にしてインサートの生産性を向上し、顧客のインサート在庫管理及び装着または交換の便宜を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来のインサート型ドリル工具の切削インサートを示した図面である。
【図2】従来のインサート型ドリル工具の切削インサートを示した図面である。
【図3】従来のインサート型ドリル工具の切削インサートを示した図面である。
【図4】本発明の一実施例における切削インサートの平面図である。
【図5】本発明の一実施例における切削インサートの形状を説明するための模式図である。
【図6】本発明の一実施例におけるドリル工具の切削インサートが装着された部分を示した部分側面図である。
【図7】図6のドリル工具の切削インサート装着部分を示した部分斜視図である。
【図8】図6のドリル工具の切削インサートの位置関係を示した図面である。
【図9】図6の切削インサートの斜視図である。
【図10】図6の切削インサートの背面斜視図である。
【図11】図6の内側インサートが装着されるポケットの斜視図である。
【図12】図6の外側インサートが装着されるポケットの斜視図である。
【図13】図11に示したポケットの拡大図である。
【図14】図12に示したポケットの拡大図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下では、本発明を添付された図面に示した実施例を参照して説明する。
【0013】
図4は、本発明の一実施例による切削インサート10の平面図である。切削インサート10は略正方形であって、対称軸を備え、4つの切削刃11、11′、11″、11”’ 及び4つの丸いコーナー部からなる軸対称の輪郭線を有する。即ち、切削刃11、11′、11″、11”’はインサートの回転軸に対して互いに回転対称形である。各切削刃11、11′、11″、11”’は遷移部分刃12を介してつながる第1及び第2部分刃14、16を備える。遷移部分刃12及び第1及び第2部分刃14、16は部分直線状である。第1部分刃14と遷移部分刃12とのカップリング部は凸部をなし、遷移部分刃12と第2部分刃16とのカップリング部は凹部をなすように屈曲する。各切削刃11、11′、11″、11”’は仮想内接円(c)と接点T1、T2、T3、T4で接する。互いに対向する接点T2とT4またはT1とT3を結ぶ線は、切削インサートの中心(O)を過ぎる基準線(LまたはL′)になる。好ましくは、遷移部分刃12は第2部分刃16から、遷移部分刃12に対向する基準線(L)に対して遠くなる方向に延び、第2部分刃16は遷移部分刃12から、第2部分刃16に対向する部分基準線(L)に対して遠くなる方向に延びる。また、好ましくは、第1部分刃14は遷移部分刃12から、第1部分刃14に対向する基準線(L)に対して近くなる方向に延びる。
【0014】
好ましくは、遷移部分刃12の基準線(L)に対する角度θ1は第2部分刃16の基準線(L)に対する角度θ3と同一である。このような場合、切削インサート10の形状は、本発明の一実施例による切削インサートの形状を説明するための模式図である図5に示した通り、基準線(L)を基準に上下左右対称である蝶形状のインサートの各角を点線に沿って面取り処理した形状と類似する。
【0015】
好ましくは、遷移部分刃12の基準線(L)に対する角度θ1及び第2部分刃16の基準線(L)に対する角度θ3は約5〜7度であり、第1部分刃14の基準線(L)に対する角度θ2は約14〜16度である。前記角度範囲は切削インサートが本発明のドリル本体内に装着され、切削を行う時に有利な角度範囲である。角度θ1、角度θ3及び角度θ2があまりにも大きければ切削刃が部分的に突出して切削抵抗が集中する可能性があり、あまりにも小さければ直線状切削刃に近くなり、図1に示した従来の正方形切削インサートでのような問題が発生する。
【0016】
図6及び図7は、切削インサート10、10′が装着されたドリル工具1を示す。内側切削インサート10と外側切削インサート10′とは固定ネジ18、18′によってドリル本体の先端部のドリル本体ヘッド部のポケット内に装着される。内側インサート10はドリル本体の回転軸に近接して装着され、外側インサート10′は内側インサート10より前記回転軸から遠い位置に装着される。内側インサート10と外側インサート10′とは形状、サイズ、材質などがいずれも同一である。インサート10、10′は、第2部分刃16、16′が第1部分刃14、14′よりドリル本体の回転軸に近く位置するように配置される。内側インサート10は第1部分刃14が第2部分刃16より被削材方向に突出するように配置され、外側インサート10′は第2部分刃16′が第1部分刃14′より被削材方向に突出するように配置される。図6(A)は本発明のドリル本体の回転軸近くに配置された内側インサート10を示し、図6(B)は本発明のドリル本体の外側面近くに配置された外側インサート10′を示す。
【0017】
このように、本発明に用いることが好ましいドリル工具は内側インサートと外側インサートとが同一の切削インサートからなっているので、インサート生産工程や在庫管理が単純化され、ドリル工具へのインサート装着・交換作業も単純になる。
【0018】
図8は、ドリル本体ヘッド部に装着された内側インサート10と外側インサート10′との相対的な切削刃の位置関係を示す。内側インサート10と外側インサート10′は実際に図6及び図7に示した通りドリル本体の回転軸を基準に互いに反対側に配置されるが、図8にはドリル作業中の両切削インサートの相対的な切削刃位置関係をわかりやすく示すために内側インサート10をドリル本体の回転軸を基準に180°回転移動させて示す。図8で両インサートの前方面が同一の仮想面上に配置されるように見えるが、実際に両インサートの前方面はより好ましい切削刃角度を提供するために前記仮想面に対して若干傾いたり前記仮想面から若干オフセットされ得る。このような場合、上述した通りドリル本体の回転軸を基準に内側インサート10を回転移動させた角度は、厳密には180°に制限されない。
【0019】
被削材と向かい合う内側インサート10と外側インサート10′との切削刃の回転軌跡は一部領域で重畳する。前記重畳領域で内側インサート10の第1部分刃14と外側インサート10′の第2部分刃16′とはいずれもドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に所定角度傾いている。内側インサート10の第1部分刃14は、外側インサート10′)の第2部分刃16′よりドリル本体の回転軸に沿って被削材に向かう方向に突出する。
【0020】
このような技術構成によって、内側インサート10の中心と外側インサート10′の中心とが近くなっても、ドリル作業中に内側インサートと外側インサートとが重畳した領域で両インサートの切削刃が交互に突出せず、内側インサート10の切削刃のみが突出した状態を維持できる。即ち、内側インサート10と外側インサート10′とが重畳する領域で、内側インサート10の有効前方切削刃によって外側インサート10′の最前方コーナー部が被削材に接しない状態を維持しながら、両インサート間の半径方向距離を調節することが容易になる。従って、両インサートの重畳領域で細長いチップが発生するのを防止できる。また、従来技術でのように内側インサートと外側インサートとが重畳する領域で切削刃の端部にのみ切削抵抗が集中する現象を防止できる。
【0021】
一方、内側インサート10の第1部分刃14がドリル本体の回転軸と垂直な面に平行であるか、或いはドリル本体の回転軸に向かって被削材の反対方向に傾く場合と比較し、第1部分刃14がドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に傾く方が、第1部分刃14が被削材に最初に進入して被削材内に定着するのに有利である。これは第1部分刃14が上述した方向に傾けば、第1部分刃14と遷移部分刃12がV字形態を形成して被削材に進入して定着するのが容易なためである。
【0022】
内側インサート10の第1部分刃14のうち、遷移部分刃12に隣接した部分は、外側インサート10′の第2部分刃16′のうち遷移部分刃12′の反対側にある部分より距離dだけ突出する。距離(d)は望ましくは約0.12〜0.15mmである。これは切削時のドリルの移送量(mm/回転数)を考慮して選定された適正な数値範囲である。
【0023】
内側インサートの第1部分刃14は、ドリル本体の回転軸に垂直な面に対して角度θ4ほど傾いている。角度θ4は5度以下であり、より好ましくは3〜5度である。角度θ4があまりにも大きければ切削抵抗は減るが、安定したドリル作業が困難であり、あまりにも小さければドリル作業は安定的であるが、切削抵抗が増加され得る。
【0024】
このように、内側インサート10の第1部分刃14はドリル本体の回転軸に垂直な面に対し、比較的小さい角度に傾いて延びているので、内側インサートの第1部分刃14が被削材に進入する時に切削抵抗を均一に分散させることができる。
【0025】
一方、外側インサート10′の第1部分刃14′は、回転軸に向かって被削材方向に傾く。具体的には、外側インサート10′の第1部分刃14′はドリル本体の回転軸に垂直な面に対して角度θ5で傾いている。角度θ5は望ましくは18〜19度である。前記数値範囲は外側インサート10′の第1部分刃14′が被削材に進入するのに有利な角度である。角度θ5があまりにも大きければ安定したドリル作業が困難である。
【0026】
外側インサート10′の遷移部分刃12′は、第1部分刃14′と反対に、回転軸に向かって被削材の反対方向に傾く。これによって外側インサート10′の第1部分刃14′と遷移部分刃12′がV字形態を形成して被削材に進入して安定するのが容易になる。また、第1部分刃14′と遷移部分刃12′に作用する切削抵抗が部分的に相殺されて切削抵抗が減少する効果がある。
【0027】
外側インサート10′の遷移部分刃12′は、内側インサート10の第2部分刃16より被削材方向に前方に位置する。これによって、外側インサート10′の遷移部分刃12′と内側インサート10の第2部分刃16とが順次被削材に進入するようになり、同時に進入するのに比べて切削抵抗を減らすことができる。
【0028】
図9は、本発明の一実施例による切削インサートの上部面を示す斜視図であり、図10は本発明の一実施例による切削インサートの底面を示す斜視図である。切削インサートは互いに回転対称形である4つの側壁を備える。各側壁は、切削インサートの上部面から四つの切削刃11、11′、11″、11”’の幾何学的形状に沿って延長する上部側面21、21′、21″、21”’と、切削インサートの底面から延びる平らな下部側面31、31′、31″、31”’を備える。隣接する下部側面31、31′、31″、31”’間のコーナー部は面取りされ、面取り面41、41′、41″、41”’が形成される。切削インサートの底面30は、図10に示すように平たい。
【0029】
図11及び図12は、本発明の一実施例による切削インサート10、10′が装着されるドリル本体ヘッド部のポケットの斜視図である。図11は、内側インサート10が装着される内側ポケット20を示し、図12は外側インサート10′が装着される外側ポケット20′を示す。内側ポケット20はドリル本体の先端部に回転軸に近接して形成され、外側ポケット20′はドリル本体の先端部に内側ポケット20より回転軸から遠い位置に形成される。各ポケット20、20′は被削材と対向する第1壁部51、61、51””、61””と、第1壁部と垂直でドリル本体の回転軸に近接して配置された第2壁部51′、61′、51”’、61”’と、被削材と対向する第2壁部51、61、51””、61””と、底面71、71′とを備える。内側ポケット20は第2壁部51′、61′と対向する第3壁部51″、61″をさらに備えることができる。第1壁部、第2壁部及び第3壁部は、切削インサート10、10′の上部側面21、21′、21″、21”’に対応して屈曲した形状の上部側面51、51′、51″、51”’、51””と、切削インサート10、10′の下部側面31、31′、31″、31”’に対応する平らな下部側面61、61′、61″、61”’、61””及び切削インサート10、10′の底面30に対応する平らな底面71、71′とを備える。
【0030】
内側ポケット20と外側ポケット20′には同一の形状とサイズの切削インサート10、10′が装着されるので、内側ポケットの第1壁部51,61と外側ポケットの第1壁部51””、61””は少なくとも部分的に同一の表面形状を含み、内側ポケットの第2壁部51′、61′と外側ポケットの第2壁部51”’、61”’は少なくとも部分的に同一の表面形状を備える。
【0031】
好ましくは、切削インサート10、10′がポケット20、20′に装着される時、切削インサート10、10′はポケット20、20′の平らな底面71、71′と第1壁部の平らな下部側面61、61””及び第2壁部の平らな下部側面61′、61”’でのみ接触支持される。即ち、切削インサート10、10′の切削刃の幾何学的形状に沿って延長する上部側面21、21′、21″、21”’とこれに対応するポケット20、20′の上部側面51、51′、51″、51”’、51””は接触せず、離隔する。
【0032】
例えば、内側インサート10が内側ポケット20に装着される時、内側インサート10の平らな下部側面31、31′がそれぞれ内側ポケット20の平らな下部側面61、61′と接触して支持され、内側インサートの平らな底面30が内側ポケット20の平らな底面71と接触して支持される。また、例えば、外側インサート10′が外側ポケット20′に装着される時、外側インサート10′の平らな下部側面31、31′がそれぞれ外側ポケット20′の平らな下部側面61”’、61””と接触して支持され、外側インサートの平らな底面30が外側ポケット20′の平らな底面71′と接触して支持される。
【0033】
このような技術構成を通じ、屈曲した複雑な形状を有する切削インサート10、10'の上部側面61、61'、61''、61'''、61''''に対応するポケットの上部側面51、51'、51''、51'''、51''''は比較的余裕のある公差で加工し、切削インサート10、10'と接触して切削インサートを支持する平らで単純な形状のポケット20、20'の底面71、71'と下部側面61、61'、61''、61'''、61''''のみを精密な公差で加工すればいいという利点がある。これにより、時間及び費用の面で効率的にポケット20、20'を製作できる。ただし、屈曲した形状を有する切削インサート10、10'の上部側面61、61'、61''、61'''、61''''とこれに対応するポケットの上部側面51、51'、51''、51'''、51''''との間隔は、その間にチップ破片が狭まらない程度に小さくなければならない。
【0034】
図13及び図14は図11及び図12に示した内側ポケット20と外側ポケット20'の拡大図である。図13及び図14に示した通り、内側ポケット20の第1壁部の上部側面51と外側ポケット20'の第1壁部の上部側面51''''とはドリル本体の回転軸から遠くなる方向に第1部分面82、82''''、遷移部分面84、84''''、第2部分面86、86''''を備える。また、内側ポケット20の第2壁部の上部側面51'と外側ポケット20'の第2壁部の上部側面51'''とはそれぞれ、被削材から遠くなる方向に第1部分面82'、82'''、遷移部分面84'、84'''、第2部分面86'、86'''を備える。内側ポケット20の第1壁部の上部側面51の第1部分面82と外側ポケット20'の第1壁部の上部側面51''''の第2部分面86''''はドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に傾く。また、内側ポケット20の第2壁部の上部側面51'の第1部分面82'は被削材に向かってドリル本体の回転軸方向に傾き、外側ポケット20'の第2壁部の上部側面51'''の第2部分面86'''は被削材に向かってドリル本体の回転軸の反対方向に傾く。これは図8に示した通り、内側ポケット20に装着される内側インサート10が外側インサート10'と重畳する領域で内側インサート10の第1部分刃14と外側インサート10'の第2部分刃16'はいずれもドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に所定角度傾いており、内側インサート10と外側インサート10'との4つの切削刃は互いに回転対称形である点に起因する。即ち、内側ポケット20の第1壁部の上面51の第1部分面82と外側ポケット20'の第1壁部の上面51''''の第2部分面86''''とはそれぞれ、図8で互いに回転軌跡が重畳する内側インサート10と外側インサート10'との切削刃部分に180°回転対称関係にある切削刃部分を収容するのに適した形状を有するので、上述した方向性を有するようになる。また、内側ポケット20の第2壁部の上面51'の第1部分面82'と外側ポケット20'の第2壁部の上面51'''の第2部分面86'''とはそれぞれ、図8で互いに回転軌跡が重畳する内側インサート10と外側インサート10'との切削刃部分に90°回転対称関係にある切削刃部分を収容するのに適した形状を有するので、上述した方向性を有するようになる。
【0035】
本発明を望ましい実施例を通じて説明し例示したが、当業者であれば添付の特許請求の範囲及び範疇を逸脱せずに様々な変形及び変更がなされることが分かるはずである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
上述した切削インサートを備えるドリル工具によって、内側インサートと外側インサートとの間の距離が近くなっても内側インサートと外側インサートとが重畳する領域で内側インサートと外側インサートとが交互に突出する現象を防止すると同時に、内側インサートと外側インサートとの形状を同一の形状にしてインサートの生産性を向上し、顧客のインサート在庫管理及び装着または交換の便宜を図ることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を有するドリル工具用ドリル本体であって、
前記ドリル本体の先端部に前記回転軸に近接して形成される内側ポケットと、
前記ドリル本体の先端部に前記内側ポケットより前記回転軸から遠い位置に形成される外側ポケットと、を備え、
各ポケットは、被削材と対向する第1壁部と、前記第1壁部に垂直でドリル本体の回転軸に近接して配置される第2壁部と、底面とを備え、
第1壁部と第2壁部とのそれぞれは、前記底面に隣接して平らな下部側面と、前記下部側面から延びて屈曲した上部側面とを備え、
内側ポケットの第1壁部と外側ポケットの第1壁部とは同一の表面形状を備え、内側ポケットの第2壁部と外側ポケットの第2壁部とは同一の表面形状を備え、
内側ポケットの第1壁部の上部側面と外側ポケットの第1壁部の上部側面とはそれぞれ、ドリル本体の回転軸から遠くなる方向に第1部分面、遷移部分面、第2部分面とを備え、
内側ポケットの第1壁部の上部側面の第1部分面と外側ポケットの第1壁部の上部側面の第2部分面とは、ドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に傾くことを特徴とするドリル工具用ドリル本体。
【請求項2】
内側ポケットの第2壁部の上部側面と外側ポケットの第2壁部の上部側面とはそれぞれ、被削材から遠くなる方向に第1部分面、遷移部分面、第2部分面とを備え、
内側ポケットの第2壁部の上部側面の第1部分面は、被削材に向かってドリル本体の回転軸方向に傾き、外側ポケットの第2壁部の上部側面の第2部分面は被削材に向かってドリル本体の回転軸の反対方向に傾くことを特徴とする請求項1に記載のドリル工具用ドリル本体。
【請求項1】
回転軸を有するドリル工具用ドリル本体であって、
前記ドリル本体の先端部に前記回転軸に近接して形成される内側ポケットと、
前記ドリル本体の先端部に前記内側ポケットより前記回転軸から遠い位置に形成される外側ポケットと、を備え、
各ポケットは、被削材と対向する第1壁部と、前記第1壁部に垂直でドリル本体の回転軸に近接して配置される第2壁部と、底面とを備え、
第1壁部と第2壁部とのそれぞれは、前記底面に隣接して平らな下部側面と、前記下部側面から延びて屈曲した上部側面とを備え、
内側ポケットの第1壁部と外側ポケットの第1壁部とは同一の表面形状を備え、内側ポケットの第2壁部と外側ポケットの第2壁部とは同一の表面形状を備え、
内側ポケットの第1壁部の上部側面と外側ポケットの第1壁部の上部側面とはそれぞれ、ドリル本体の回転軸から遠くなる方向に第1部分面、遷移部分面、第2部分面とを備え、
内側ポケットの第1壁部の上部側面の第1部分面と外側ポケットの第1壁部の上部側面の第2部分面とは、ドリル本体の回転軸に向かって被削材方向に傾くことを特徴とするドリル工具用ドリル本体。
【請求項2】
内側ポケットの第2壁部の上部側面と外側ポケットの第2壁部の上部側面とはそれぞれ、被削材から遠くなる方向に第1部分面、遷移部分面、第2部分面とを備え、
内側ポケットの第2壁部の上部側面の第1部分面は、被削材に向かってドリル本体の回転軸方向に傾き、外側ポケットの第2壁部の上部側面の第2部分面は被削材に向かってドリル本体の回転軸の反対方向に傾くことを特徴とする請求項1に記載のドリル工具用ドリル本体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−143866(P2012−143866A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−77102(P2012−77102)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【分割の表示】特願2010−512049(P2010−512049)の分割
【原出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(508151781)デグテック エルティーディー (30)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【分割の表示】特願2010−512049(P2010−512049)の分割
【原出願日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(508151781)デグテック エルティーディー (30)
【Fターム(参考)】
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