説明

ドリル

【課題】 切刃強度を向上させるとともに、切屑の排出方向を穴上方向に制御して効率よく排出されるようにすることにより高速加工が可能で長寿命なドリルを実現する。
【解決手段】 ドリル1の切刃14は、ドリル1の外周方向に向かうに従い径方向のすくい角が大きくなるように、ドリル1の回転方向後方に向かって後退して形成されており、外周端部における径方向のすくい角αが−50°≦α≦−15°を満足するように形成されている。切刃14は、ドリルの外周方向に向かうに従い先端角が大きくなるように形成されており、第2切刃14bとチャンファー部19とを併せた領域において先端角βが50°≦β≦110°であるように形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穴の高速加工に適したドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属材料などに穴加工を行うために、先端に切刃が形成され、外周部に螺旋状に形成された切屑排出溝を備えたツイストドリルが広く使用されている。このようなドリルによれば、このドリルを回転させ、切刃によって金属材料などの被削材を切削し、切刃によって切削された切屑を、切屑排出溝を介して穴の外部に排出することにより穴加工を行うことができる。
近年、高速で穴加工を行うニーズが増大しているが、ドリルの送り量を増大させると、切刃、特に切刃の外周端部に大きな負荷がかかり、ドリルが欠損しやすいという問題があった。そこで、例えば、特許文献1には、切刃外周にコーナー切れ刃を形成して、外周端部の強度を向上させることにより切刃の強度を向上させたツイストドリルが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−198011号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、切刃の強度を向上させるためにコーナー切れ刃を大きく形成すると、切屑が外周方向に向かって排出されるため、切屑が穴の壁面にぶつかって熱を発生したり、外部に排出されにくくなったりして、ドリルに大きな抵抗が加わり、切削性能の低下、ドリルの折損などが生じ、ドリルの寿命が短くなってしまう。そのため、ドリルの送り量を増大させることができず、十分に高速な穴加工を行うことができないという問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、切刃強度を向上させるとともに、切屑の排出方向を穴上方向に制御して効率よく排出されるようにすることにより高速加工が可能で長寿命なドリルを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、ドリルの外周部に切屑排出溝が形成され、切屑排出溝の内周面のすくい面とドリル先端に形成された逃げ面とにより稜線部に切刃が形成されたドリルにおいて、切刃は、外周方向に向かって、ドリルの回転方向後方に向かって後退して形成されており、ドリル先端を正面視したときの切刃の外周端部における径方向のすくい角αが−50°≦α≦−15°であるとともに、切刃の先端角は中央部が最大であり、切刃の外周端部からの幅Wが0.2D≦W≦0.4D(D:ドリルの直径)を満足する領域において先端角βが50°≦β≦110°であるように形成されている、という技術的手段を用いる。
【0007】
請求項1に記載の発明によれば、切刃を、外周方向に向かって、ドリルの回転方向後方に向かって後退して形成し、ドリル先端を正面視したときの切刃の外周端部における径方向のすくい角αが−50°≦α≦−15°であるように構成することにより、被削材と切刃との接触長さを長くして切刃の単位長さ当りの負荷を低減するとともに、切刃の外周端部の強度を向上させることができる。
また、切刃の先端角は中央部が最大であり、切刃の外周端部からの幅Wが0.2D≦W≦0.4D(D:ドリルの直径)を満足する領域において先端角βが50°≦β≦110°であるように構成することにより、切屑の排出方向を穴上方向に制御して効率よく排出されるようにすることができる。
これにより、切刃強度を向上するとともに、切屑を効率的に排出することができるので、ドリルの送り量を増大させることが可能となり、高速加工が可能で長寿命なドリルとすることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のドリルにおいて、前記切刃の外周端部に面取りされたチャンファー部を備え、チャンファー部の幅Lが0.05D≦L≦0.3Dである、という技術的手段を用いる。
【0009】
本発明のドリルでは、切屑の排出方向を穴上方向に制御して効率よく排出されるようにすることができるので、請求項2に記載の発明のように、従来のドリルよりも幅が広いチャンファー部を設けることができる。これにより、切刃の外周端部の強度を更に向上させることができるので、高速加工が可能で長寿命なドリルとすることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、請求項1または請求項2に記載のドリルにおいて、前記切刃は、ドリルの外周方向に向かうに従い先端角及び径方向のすくい角が小さくなる複数の直線状の切刃により構成されている、という技術的手段を用いる。
【0011】
請求項3に記載の発明のように、切刃を複数の直線状の切刃により構成することにより、ドリルの製造及び使用後の切刃の再研磨を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態に係るドリルの先端部の正面図(A)及び側面図(B)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のドリルについて、図を参照して説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
図1に示すように、軸線回りに回転され穴加工を行うドリル1は、外周部の軸線方向にらせん状に形成された一対の切屑排出溝11と、切屑排出溝11のすくい面11aとドリル先端に形成された逃げ面(本実施形態では、第1逃げ面12、第2逃げ面13)とにより稜線部に所定の先端角を有する切刃14が形成されている。
【0015】
ドリル1の先端中央には、第1逃げ面12が交差することによりチゼルエッジ15が形成されている。また、切刃14の先端部の内周側には、すくい面11aの内壁面が切り欠かれてシンニング部16が形成されている。
【0016】
切刃14の外周面には、マージン部17と、マージン部17よりも外径が一段小さくされた二番取り面18が形成されている。
【0017】
切刃14は、ドリルの外周方向に向かうに従い径方向のすくい角が小さくなるように、ドリルの回転方向後方に向かって後退して形成されている。本実施形態では、切刃14は、直線状に形成された複数の切刃が連なって構成されており、中心側から、第1逃げ面12とすくい面11aとにより形成される第1切刃14a、第2逃げ面13とすくい面11aとにより形成される第2切刃14bが設けられている。
ここで、切刃14を複数の直線状の切刃により構成することにより、ドリルの製造及び使用後の切刃の再研磨を容易にすることができる。
【0018】
切刃14の外周端部には、ドリルの回転方向後方に向かって面取りされたチャンファー部19が形成されている。チャンファー部19は、径方向のすくい角αが−50°≦α≦−15°を満足するように形成されている。また、チャンファー部の幅Lは、ドリルの直径Dに対し、0.05D≦L≦0.3Dとなるように形成されている。
ここで、チャンファー部19を形成しない場合には、切刃14は外周端部における径方向のすくい角αが上記の条件を満足するように形成されている。
【0019】
切刃14は、ドリルの外周方向に向かうに従い先端角が小さくなるように形成されている。本実施形態では、第1切刃14aの先端角θは118°〜150°に形成されている。
また、切刃14は、切刃の外周端部からの幅Wが0.2D≦W≦0.4D(D:ドリルの直径)を満足する領域において先端角βが50°≦β≦110°であるように構成されている。
本実施形態では、第2切刃14b及びチャンファー部19(切刃14の外周端部からの幅Wの領域)が上記領域に相当する。
【0020】
切刃14は、外周方向に向かってドリルの回転方向後方に向かって後退して形成することにより、被削材と切刃14との接触長さを長くして切刃の単位長さ当りの負荷を低減することができる。
すくい角αが大きすぎると外周端部の欠損などを防止する効果が低減し、すくい角αが小さすぎると切削抵抗が増大するため、−50°≦α≦−15°、好ましくは−40°≦α≦−20°であるように構成することが好適である。
【0021】
本発明のドリル1では、後述のように切屑の排出方向を穴上方向に制御して効率よく排出されるようにすることができるので、従来のドリルよりも幅Lが広いチャンファー部19を設けることができる。これにより、切刃14の外周端部の強度を更に向上させることができる。
チャンファー部19の幅Lが小さすぎると外周端部の欠損などを防止する効果が低減し、幅Lが大きすぎると切削抵抗が増大するため、幅Lはドリル1の直径Dに対し、0.05D≦L≦0.3Dとなるように形成することが好適である。
【0022】
本実施形態において、径方向のすくい角が負の値となる領域は、第1切刃14a、第2切刃14b及びチャンファー部19が相当する。径方向のすくい角が負の値となる領域では、切屑が外周方向に向かって排出されるが、切刃の外周端部からの幅Wが0.2D≦W≦0.4D(D:ドリルの直径)を満足する領域において先端角βが50°≦β≦110°、好ましくは60°≦β≦100°であるように構成することにより、切屑の排出方向を穴上方向に制御して効率よく排出されるようにすることができる。
ここで、先端角βが50°未満であると、切屑が中心方向に排出されやすくなるとともに、切刃が長くなるため切削抵抗が増大してしまう。
また、先端角βが100°を超えても、切屑を穴面上方へ排出する作用が小さくなる。
【0023】
これにより、切刃14の強度を向上するとともに、切屑を効率的に排出することができ、ドリルの送り量を増大させることができるので、高速加工が可能で長寿命なドリルとすることができる。また、切屑が切屑排出溝11を通して効率よく排出されるため、切屑排出溝11を大きくしなくてもよいので、芯厚を大きくしてドリル1の剛性を高めることができる。これにより、ドリル1の寿命を長くすることができる。
【0024】
(変更例)
上述の実施形態では、切刃14が第1切刃14a及び第2切刃14bからなり、チャンファー部19が形成された構成を例示したが、これに限定されるものではない。
例えば、切刃14は、ドリル1の外周方向に向かうに従い先端角β及び径方向のすくい角αが小さくなるような3以上の直線状の切刃により構成してもよい。
また、切刃14は、回転方向に凸な円弧や滑らかな曲線により形成することができる。これによれば、切刃14に角部がないため応力集中が小さく、切刃14の長さが長くなるので、切刃14の強度を向上させることができる。この場合、チャンファー部19を形成しなくてもよい。
先端角βが連続的に減少するような曲線状に形成することもできる。この場合、先端角βが110°以下になる箇所から外方が幅Wの領域に相当する。
【0025】
(実施例1)
本発明の実施例に係るドリルと従来のドリルとを使用して穴加工を行い、各ドリルの寿命を評価した。
【0026】
実施例のドリルは、上述の実施形態におけるドリル1において、直径Dが1mm、すくい角αが−38°、第1切刃14aの先端角θが140°、第2切刃14bの先端角βが90°、チャンファー部19の幅Lが0.13mm(0.13D)としたものを用いた。また、比較例のドリルとして、チャンファー部が形成されていない直線状の切刃からなり、先端角120°のツイストドリルを用いた。
【0027】
被削材はS50Cを用い、直径1mm、深さ4mmの穴加工を行い、加工が可能であった穴数により寿命を評価した。加工条件及び寿命を表1に示す。
高速加工条件として、送り量を一般的な加工条件として採用されている0.05mm/revの2倍の0.1mm/revとした。
実施例1及び比較例1は同一加工条件であり、実施例2は回転数を増大させた条件である。
【0028】
【表1】

【0029】
従来のドリルによれば、比較例1に示すように3000穴の加工により刃先が欠損し加工できなくなった。一方、本発明のドリルによれば、実施例1、2に示すように17000穴以上の加工が可能であり、大幅に寿命が長くなった。
また、1穴当たりの加工時間は従来加工条件では2秒程度必要であったが、0.4秒以内と大幅に短縮することができた。
【0030】
以上より、本発明のドリルは、高速加工条件において従来のドリルよりも長寿命であることが確認された。
【0031】
[実施形態の効果]
本発明のドリルによれば、切刃14を、外周方向に向かって、ドリル1の回転方向後方に向かって後退して形成し、切刃14の外周端部における径方向のすくい角αが−50°≦α≦−15°であるように構成することにより、被削材と切刃14との接触長さを長くして切刃14の単位長さ当りの負荷を低減するとともに、切刃14の外周端部の強度を向上させることができる。
また、切刃の外周端部からの幅Wが0.2D≦W≦0.4D(D:ドリルの直径)を満足する領域において先端角βが50°≦β≦110°であるように構成することにより、切屑の排出方向を穴上方向に制御して効率よく排出されるようにすることができる。
これにより、切刃強度を向上するとともに、切屑を効率的に排出することができるので、ドリルの送り量を増大させることが可能となり、高速加工が可能で長寿命なドリルとすることができる。
【符号の説明】
【0032】
1…ドリル
11…切屑排出溝
11a…すくい面
12…第1逃げ面
13…第2逃げ面
14…切刃、
14a…第1切刃
14b…第2切刃
15…チゼルエッジ
16…シンニング部
17…マージン部
18…二番取り面
19…チャンファー部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリルの外周部に切屑排出溝が形成され、切屑排出溝の内周面のすくい面とドリル先端に形成された逃げ面とにより稜線部に切刃が形成されたドリルにおいて、
切刃は、外周方向に向かって、ドリルの回転方向後方に向かって後退して形成されており、
ドリル先端を正面視したときの切刃の外周端部における径方向のすくい角αが−50°≦α≦−15°であるとともに、
切刃の先端角は中央部が最大であり、切刃の外周端部からの幅Wが0.2D≦W≦0.4D(D:ドリルの直径)を満足する領域において先端角βが50°≦β≦110°であるように形成されていることを特徴とするドリル。
【請求項2】
前記切刃の外周端部に面取りされたチャンファー部を備え、チャンファー部の幅Wが0.05D≦W≦0.3Dであることを特徴とする請求項1に記載のドリル。
【請求項3】
前記切刃は、ドリルの外周方向に向かうに従い先端角及び径方向のすくい角が小さくなる複数の直線状の切刃により構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のドリル。

【図1】
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【公開番号】特開2012−35359(P2012−35359A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−176946(P2010−176946)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(509214779)株式会社イワタツール (1)
【Fターム(参考)】