ドリル
【課題】金属部材と繊維強化樹脂複合材とを重ねた被削材を一度に穿孔するにあたり、長期にわたり、安定して精度良く穿孔することができるドリルを提供する。
【解決手段】切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルaであって、先端から第1段目の切刃10は、第2段目以降の切刃20,30対し、切刃枚数が少ないか、先端角が大きいか、又は逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数、同先端角、同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリルである。例えば第1段目は2枚刃、第2段目は4枚刃、第3段目は4枚刃とされ、先端角はθ1>θ2>θ3の条件、逃げ角はγ1≧γ2≧γ3の条件とされ、第1,2段目はそれぞれ先端角一定、第3段目はドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成される。
【解決手段】切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルaであって、先端から第1段目の切刃10は、第2段目以降の切刃20,30対し、切刃枚数が少ないか、先端角が大きいか、又は逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数、同先端角、同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリルである。例えば第1段目は2枚刃、第2段目は4枚刃、第3段目は4枚刃とされ、先端角はθ1>θ2>θ3の条件、逃げ角はγ1≧γ2≧γ3の条件とされ、第1,2段目はそれぞれ先端角一定、第3段目はドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切刃が軸方向に分割された段付き状のドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように穿孔工具としてドリルが利用されている。2枚刃ドリルは多用されている(例えば特許文献1)。
従来の典型的なドリルは、図10及び図11に示すドリルbのように一定の先端角の2枚の切刃を先端部に有している。
一方、各種産業において図10及び図11に示す金属部材W1と繊維強化樹脂複合材W2とを重ねた被削材Wを同一ドリルで一度に穿孔加工することが要請される。これは、例えば、繊維強化樹脂複合材が適用されることで軽量化を図りつつ、内表面や外表面に金属面が配置された構造を、双方の部材に穿孔した孔にボルトなどの締結具を挿通して構成するためであり、各部材の対応位置に効率及び精度良く穿孔作業を行うためである。金属部材W1の例としてはアルミニウム、繊維強化樹脂複合材W2の例としてはカーボン繊維強化樹脂複合材を挙げることができる。
【0003】
被削材Wとしては、図示したものに限らず、金属部材W1が複数層である場合及び繊維強化樹脂複合材W2が複数層である場合、並びにそれぞれの場合に異なる材料層が交互に重なる場合など、様々に考えられるが、いずれの場合にも対応できるドリルが望まれる。
また、穿孔作業を行う時に被削材Wを固定する方法としては、図10及び図11に示す固定具CLのように穿孔位置から離れた位置で固定して行い、ドリルが抜ける側に当て材を配置して支持することは行わないことが望ましい。当て材を使用すると、材料の無駄、ドリルに余計な切削作業をさせる、余分な切削屑が出るなどの不都合があるためである。
【0004】
図10及び図11に示すように、片側表面に金属部材W1が配置され、反対側表面に繊維強化樹脂複合材W2が配置される被削材Wの場合は、金属部材W1から穿孔するか、繊維強化樹脂複合材W2から穿孔するかを選択することができる。しかしながら、例えば航空機製造業など、これらの部材を用いた構造物の製造現場においては、その構造物の構造上、あるいは周囲の部材との位置関係などに起因して、どちら側の表面から穿孔するかを選択することができない場合も多く、どちらでも良好に穿孔することができるドリルが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−36759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10及び図11に示すように、一定の先端角の2枚の切刃を先端部に有した従来の典型的なドリルbにより、繊維強化樹脂複合材W2から穿孔する場合には次のような現象が生じる。
まず、図10(b1)に示すように、ドリルbにより繊維強化樹脂複合材W2から切削し、ドリルbが先端方向へと送られていく。
図10(b2)に示すように、ドリルbの先端が金属部材W1に触れると、図10(b2)さらには図10(b3)に示すように、金属部材W1をドリルbの先端方向に膨らむように撓ませながら、ドリルbによる金属部材W1の切削が進行していく。この時、金属の切削屑は長く繋がりやすいので、金属の切削屑を繊維強化樹脂複合材W2に既にあいた孔を通してドリルbの後方へ排出することができるかが懸念される。切削屑の排出性が悪化すれば、切削効率も落ちる。また、金属部材W1と繊維強化樹脂複合材W2との間に切削屑を残すと問題である。
その後、ドリルbの先端が金属部材W1の表面に到達して小さな孔が開口することをきっかけに、それまでの撓み変形により金属部材W1中に生じていた張力によって、図11(b4)に示すように金属部材W1が元の位置に戻ろうとする。この時、負荷が急激に高まりドリルの駆動が停止したり、切刃を損傷したりするおそれがある。また、このように一旦撓んで戻ったままの孔では高い加工精度が望めない。図11(b4)に示す時点で金属部材W1にあけられた孔をさらに仕上げ加工する切刃をドリルbは備えておらず、ドリルbでの加工終了後に、それ相応の仕上げ加工を要する。その後、図11(b5)に示すように、ドリルbの切刃最大径部が金属部材W1を抜け、穿孔加工が終了する。
【0007】
金属部材W1と繊維強化樹脂複合材W2のどちらから穿孔するにしても、以上の従来の典型的なドリルbでは、繊維強化樹脂複合材W2にデラミネーションを発生させるおそれがあり、精度良く孔を仕上げることは難しく、金属部材W1に対しても繊維強化樹脂複合材W2に対しても高精度に穿孔加工を行うには限界がある。
【0008】
なお、以上のように金属部材W1がドリルの先端方向に膨らむように撓むときの撓み量は、金属部材W1の特性のみならず、ドリルの特性に依存する。
表1に、以下の各条件に対応する金属部材W1の撓み量(mm)を示す。
金属部材W1の材料をアルミニウム(A7075)、チタン合金(6-4Ti)の2種、金属部材W1の厚みを3(mm)、4(mm)、ドリルbの直径を4(mm)、5(mm)とする条件の各組合せに対応する金属部材W1の最大撓み量が表1に記載される。図10(b2)(b3)に示したように金属部材W1はドリルbの先端に押されて撓むが、表1に記載される撓み量は、金属部材W1のドリル軸方向の最大変位である。なお、図10(b1)に示した固定具CL間の距離Sを100(mm)とし、ドリルの送りを0.15(mm/rev)とした条件による。
表1を参照すればわかるように、ドリルによる穿孔加工時の金属部材W1の撓み量は、アルミニウム(A7075)よりチタン合金(6-4Ti)の方が大きくなり、金属部材W1の厚みが薄くなるほど大きくなる。これは金属部材W1の曲げ剛性によるものである。
一方、ドリル径が大きいほど、ドリルによる穿孔加工時の金属部材W1の撓み量は大きくなる。これは、ドリル径が大きいほどドリルbによって金属部材W1に加えられる金属部材W1を撓ませようとする力、すなわち、スラスト力が大きくなるからである。
【0009】
【表1】
【0010】
本発明は、以上の従来技術に鑑みてなされてものであって、金属部材と繊維強化樹脂複合材とを重ねた被削材を一度に穿孔するにあたり、長期にわたり、安定して精度良く穿孔することができるドリルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、切刃枚数が少ないか、先端角が大きいか、又は逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数、同先端角、同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリルである。
【0012】
請求項2記載の発明は、切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、切刃枚数が少なく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリルである。
【0013】
請求項3記載の発明は、切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、先端角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同先端角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリルである。
【0014】
請求項4記載の発明は、切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリルである。
【0015】
請求項5記載の発明は、切刃を軸方向に分割して3段以上有し、
第2段目以降の切刃は、先端側の段の切刃に対し、切刃枚数が等しいか増加するか、先端角が等しいか減少するか、又は逃げ角が等しいか減少していることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0016】
請求項6記載の発明は、ドリル先端と第2段目の切刃とのドリル軸方向の離間距離は、第1段目の切刃の直径以上である請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0017】
請求項7記載の発明は、第1段目の切刃は2枚刃である請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0018】
請求項8記載の発明は、第2段目の切刃は4枚刃である請求項1から請求項7のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0019】
請求項9記載の発明は、第3段目の切刃を有し、第3段目の切刃は4枚刃である請求項1から請求項8のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0020】
請求項10記載の発明は、被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃は、そのドリル先端側端において、先端側の段の切刃の先端角より小さい先端角を有し、ドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成された請求項1から請求項9のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0021】
請求項11記載の発明は、被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃のドリル後端側端における先端角がゼロである請求項1から請求項10のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0022】
請求項12記載の発明は、被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃の先端角がゼロの位置でドリル最大径となる請求項11に記載のドリルである。
【0023】
請求項13記載の発明は、前記最終穿孔切刃は、そのドリル先端側端の最小直径とそのドリル後端側端の最大直径との差が1mm以上である請求項11又は請求項12に記載のドリルである。
【0024】
請求項14記載の発明は、前記最終穿孔切刃は第3段目である請求項10から請求項13のうちいずれか一に記載のドリルである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、切刃を軸方向に分割して2段以上有するため、第1段目の切刃の直径は穿孔する孔径より小さくなり、穿孔する孔径と同径の切刃により切削する場合に比較して、切削のスラスト抵抗が小さくなる。
また、第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、切刃枚数が少ないか、先端角が大きいか、又は逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数、同先端角、同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されている。
したがって、先行して被削材を切削する第1段目の切刃による切削のスラスト抵抗は小さくされており、被削材に大きなスラスト方向の負荷を与えることなく安定して切削を進めることができる。
穿孔側から見て裏面に金属部材が配置されていても、これを第1段目の切刃によって撓ませる撓み量は切削のスラスト抵抗が小さいため自ずと小さくなる。
そして、この金属部材の撓みが減少してドリル後端方向へ移動した時にも、第2段目の切刃は、第1段目の切刃に対しドリル軸方向に離れて配置されているから、この金属部材が第2段目の切刃に当たりにくく、切刃への負荷が急激に高まってドリルの駆動が停止したり、第2段目の切刃を損傷する可能性は低減される。金属部材の撓みが減少してドリル後端方向へ移動した時に金属部材が第2段目の切刃に当たりにくくするために、ドリル先端と第2段目の切刃とのドリル軸方向の離間距離は、第1段目の切刃の直径以上を確保することが好ましい。
さらに、第1段目の切刃が先行して切削した孔に対し、第2段目以降の切刃が切削して被加工孔を拡径し、最終段の切刃によって仕上げ加工を行い、最終段の切刃が被削材を抜けることで穿孔加工が終了する。
【0026】
被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃は、被加工孔内面の仕上げ加工を行うため、先端側のいずれの段に対しも先端角が小さいもの、特に、ドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成され、ドリル後端側端で先端角がゼロに収束するものが好ましく、これにより維強化樹脂複合材にデラミネーションを生じさせることなく、金属部材及び繊維強化樹脂複合材に対して良好な精度で仕上げ加工することができ、被加工孔の面粗度を向上することができる。
なお、最終穿孔切刃は被加工孔を貫通して被加工孔の孔径を決定する切刃であり、最終穿孔切刃より後方に被加工孔の開口縁部を面取りする、サラザグリする切刃などの被加工孔を貫通しない切刃をドリルに設けることは任意である。
【0027】
第1段目の切刃の枚数は、切削のスラスト抵抗を少なくするため2枚が好ましい。
第2段目の切刃の枚数は、4枚が好ましい。仮に、上述の現象により金属部材が第2段目の切刃に当たっても、より多い枚数で受けるために損傷しにくくなり、ドリルの駆動停止になりにくい。切刃の枚数が多い方が、繊維強化樹脂複合材に対してはデラミネーションを発生させにくい。
最終段の切刃よりドリル先端に4枚刃の切刃を配置することにより、この4枚刃が求心力をもって最終段の仕上げ切刃を軸精度よく保持して案内することで、寸法精度の良い孔を加工し終了することができる。
最終穿孔切刃の枚数は、繊維強化樹脂複合材のデラミネーションを抑制するために、4枚以上が好ましい。切刃枚数が多いほど一枚の切刃当たり切削量が減少し、1回転当たりの切刃が増え、被削材を細かく分断しデラミネーションを抑制できるからである。また、軸精度よく安定して切削を終えるためにも、最終段の切刃の枚数は、4枚以上が好ましい。また、4枚以上とすることで、1枚当たりの切削量が減少し、刃先摩耗の進行を遅らせることができるから、長期に亘り孔径精度を良好に確保することができる。
【0028】
また、切刃はドリル軸方向に分割されているため、金属部材の切削屑も細かく分断され、切削屑の排出性が良好である。
第1段目の切刃は、上述したように切削のスラスト抵抗を小さくした方がよく、最終穿孔切刃は、仕上げ加工の安定性のために切削抵抗を小さくした方がよい。そのため、第1段目の次に最終穿孔切刃を配置するのではなく、第1段目と最終穿孔切刃との間に一又は複数の切刃を配置することによって、第1段目及び最終穿孔切刃の切刃長をそれぞれ短くしてその切削抵抗を低減することが好ましい。その場合でも、仕上げ加工を十分にするために、最終穿孔切刃により直径で1mm以上拡径加工させることが好ましい。
以上のように摩耗、欠け等の抑制により工具寿命の長期化も図られ、工具の交換サイクルを長期化することで、作業効率を向上できる。
以上により、本発明によれば、金属部材と繊維強化樹脂複合材とを重ねた被削材を一度に穿孔するにあたり、長期にわたり、安定して精度良く穿孔することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係るドリルの刃部の正面図である。図2に示す矢印C方向からの見た図に相当する。
【図2】図1に示す矢印A方向から見たドリルの側面図(a)、第1段目の切刃断面図(b1)、第2段目の切刃断面図(b2)、及び第3段目の切刃断面図(b3)である。
【図3】図1に示す矢印B方向から見たドリルの側面図(a)、第2段目の切刃断面図(b1)、及び第3段目の切刃断面図(b2)である。
【図4】図2に示す直径φD1部までを描いた矢印C方向からの見た正面図(a)、図2に示すα‐α線(φD2部内)についての断面図(b)、及び図2に示すβ‐β線(φD3部内)についての断面図(c)である。
【図5】本発明の一実施形態に係るドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図6】図5に続く、本発明の一実施形態に係るドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図7】図6に続く、本発明の一実施形態に係るドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図8】図7に続く、本発明の一実施形態に係るドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図9】本発明例及び比較例に関し、ドリルの進行位置に対するスラスト抵抗の変化を示すグラフである。
【図10】従来の典型的なドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図11】図10に続く、従来の典型的なドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図12】図1に示す矢印A方向から見たドリルの側面図(a)、第1段目の切刃断面図(b1)、第2段目の切刃断面図(b2)、及び第3段目の切刃断面図(b3)である。但し、第3段目の切刃の刃先稜線を直線形状に変更した他の形態について作成したものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
図1、図2及び図3に示すように、本実施形態のドリルaは、のみ刃部1とシャンク部2とを有する。のみ刃部1からシャンク部2に至る4条のストレートV溝3a,3b,3a,3bが形成されている。
【0031】
本実施形態のドリルaは、軸方向に分割して3段の切刃10,20,30を有する。
第1段目の切刃10は、ドリル軸回りの互いに180度異なる位置に配置された2枚刃であり、ドリル先端から形成され、最大直径φD1を有する。
第2段目の切刃20は、ドリル軸回りに90度ずつ異なる位置に配置された4枚刃であり、ドリル先端からドリル後端方向へ距離h1(図2に図示)だけ隔てた位置から形成され、ドリル先端側端で最小直径φD1を、ドリル後端側端で最大直径φD2を有する。
第3段目の切刃30は、ドリル軸回りに90度ずつ異なる位置に配置された4枚刃であり、ドリル先端からドリル後端方向へ距離h1+h2(図2に図示)だけ隔てた位置から形成され、ドリル先端側端で最小直径φD2を、ドリル後端側端で最大直径φD3を有する。
第2段目の切刃20及び第3段目の切刃30のそれぞれのうち、2枚の切刃はドリル軸回りの位置について第1段目の切刃10と同位置に配置されている。
【0032】
第1段目の切刃10の先端角を、図2(a)に示すようにθ1とする。
第2段目の切刃20の先端角を、図2(a)に示すようにθ2とする。
第3段目の切刃30の先端角を、図2(a)に示すようにθ3とする。
第1段目の切刃10の逃げ角を、図2(b1)に示すようにγ1とする。
第2段目の切刃20の逃げ角を、図2(b2)及び図3(b1)に示すようにγ2とする。
第3段目の切刃30の逃げ角を、図2(b3) 及び図3(b2)に示すようにγ3とする。
【0033】
各段における切刃枚数、先端角及び逃げ角について説明する。
本実施形態のドリルaのように、切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルを構成する場合に、単純に各段における切刃枚数、先端角及び逃げ角を共通にしてしまうと、第1段目の切刃10を特別に切削のスラスト抵抗が小さい特性にすることができない。
第1段目の切刃10を、第2段目以降の切刃と同切刃枚数、同先端角、同逃げ角とした場合を基準に、第1段目の切刃10の切削のスラスト抵抗が小さい特性にするには、以下の条件1,2,3及びこれらの組合せによって成し得る。
【0034】
(条件1)条件1としては、切刃枚数を少なくすることである。切刃枚数が少ない方が、被削材に当たる切刃の合計長さが短くなるために、切削抵抗が減少するからである。なお、第2段目以降の切刃の切刃枚数が異なる場合は、いずれの切刃枚数よりも、切刃枚数を少なくすること、すなわち、第2段目以降の切刃で最少の切刃枚数より切刃枚数を少なくすることを条件とする。但し、被加工孔を貫通して被加工孔の孔径を決定する最終穿孔切刃までを考慮する。本実施形態では、第3段目の切刃30が最終穿孔切刃である。
【0035】
(条件2)条件2としては、先端角を大きくすることである。一定の切刃形成直径(本実施形態の場合φD1)内にあっては、先端角を小さくするほど切刃長は長くなってしまう。したがって、先端角が大きい方が、被削材に当たる切刃の合計長さが短くなるために、切削抵抗が減少するからである。なお、第2段目以降の切刃の先端角が異なる場合は、いずれの先端角よりも大きくすること、すなわち、第2段目以降の切刃で最大の先端角(本実施形態ではθ2)より先端角を大きくすることを条件とする。但し、被加工孔を貫通して被加工孔の孔径を決定する最終穿孔切刃までを考慮する。
【0036】
(条件3)条件3としては、逃げ角を大きくすることである。逃げ角が大きい方が、被削材に対して鋭利に切り込み、切削抵抗が小さいからである。なお、第2段目以降の切刃の逃げ角が異なる場合は、いずれの逃げ角よりも大きくすること、すなわち、第2段目以降の切刃で最大の逃げ角より逃げ角を大きくすることを条件とする。但し、被加工孔を貫通して被加工孔の孔径を決定する最終穿孔切刃までを考慮する。
【0037】
(単独又は組合せ)以上の条件1,2,3のうちいずれか1つのみを実施してもよいし、いずれか2つ又はすべてを実施してもよい。
【0038】
本実施形態のドリルaにあっては、上述したとおり先端から2枚刃、4枚刃、4枚刃の三段構成であるから、条件1を実施する。また、本実施形態のドリルaにあっては、θ1>θ2>θ3の条件を有する。すなわち、条件2を実施するものである。
本実施形態のドリルaにあっては、γ1≧γ2≧γ3である。条件3を実施しない場合でも、γ1=γ2=γ3とすることが好ましい。γ1=γ2>γ3の関係としてもよい。条件3を実施する場合は、γ1>γ2>γ3、又はγ1>γ2=γ3、の関係で実施する。
【0039】
切刃を軸方向に分割して3段以上有する場合、第2段目以降の切刃は、先端側の段の切刃に対し、切刃枚数が等しいか増加し、先端角が等しいか減少し、逃げ角が等しいか減少している条件で実施するとよい。
本実施形態にあっては、第3段目の切刃30は、第2段目の切刃20に対し切刃枚数が等しい、先端角が減少する。逃げ角は等しいか減少している条件で実施する。
【0040】
距離h1については以下の条件とされる。
すなわち、ドリル先端と第2段目の切刃20とのドリル軸方向の離間距離h1は、第1段目の切刃10の直径φD1以上である。これにより、被削材を構成する金属部材の撓みが減少してドリル後端方向へ移動した時に金属部材が第2段目の切刃に当たりにくくすることできる。
【0041】
本実施形態においては、第1段目の切刃10の先端角θ1を一定とし、第2段目の切刃20の先端角θ2を一定とする。したがって、第1段目の切刃10及び第2段目の切刃20の刃先稜線は直線形状となる。
第3段目の切刃30は、被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃であり、この第3段目の切刃30をもって精度良く被加工孔を仕上げたい。そのため、先端側の段の切刃、すなわち、第2段目の切刃20に対して、近い先端角から切削を開始しながらも、最終的に先端角ゼロで終了して被加工孔の面粗度を向上したい。
そのため、本実施形態の最終穿孔切刃である第3段目の切刃30は、そのドリル先端側端(=φD2位置)において、先端側の段の切刃(=第2段目の切刃20)の先端角θ2より小さい先端角を有し、ドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成された切刃形状とされ、ドリル後端側端(=φD3位置)における先端角がゼロである。
したがって、第3段目の切刃30の刃先稜線は、外に膨らんだ滑らかな曲線形状であり、その接線が、ドリル先端側端(=φD2位置)からドリル後端側に移るに従ってドリル軸方向へ次第に近づくように傾き、ドリル後端側端(=φD3位置)でドリル中心軸と平行となる。
最終穿孔切刃である第3段目の切刃30は、そのドリル先端側端の最小直径φD2とそのドリル後端側端の最大直径φD3との差が1mm以上である。すなわち、(φD3−φD2)>1mmである。第3段目の切刃30により仕上げ加工量を十分に確保するためである。
なお、本実施形態のドリルaにあっては、φD3がドリル最大径である。これに拘わらず、最終穿孔切刃より後方に被加工孔の開口縁部を面取りする、サラザグリする切刃などの被加工孔を貫通しない切刃をドリルに設けて、φD3よりドリル最大径を大きくすることは任意である。
【0042】
さて、以上の構成を有する本発明実施形態のドリルaによって、図10及び図11に記載したものと共通の被削材Wを穿孔する場合につき説明する。図10及び図11に示した一定の先端角の2枚の切刃を先端部に有した従来の典型的なドリルbの場合と同様に、繊維強化樹脂複合材W2から穿孔する場合である。被削材Wは金属部材W1と繊維強化樹脂複合材W2とを重ねたもので共通である。固定具CL間の距離Sなどその他の条件も共通であり、両者とも同じ径の孔φD3を加工する場合で比較する。
【0043】
図5から図8に本ドリルaによる穿孔加工過程を示した。これに対する比較例はドリルbであり、その穿孔加工過程は図10及び図11に示した通りである。
また、穿孔加工過程における金属部材W1の切削に関するスラスト抵抗の変化を、本ドリルaによる場合と、比較例のドリルbによる場合とを併せて図9のグラフに示した。
図9のグラフにおいて縦軸は金属部材W1の切削に関するスラスト抵抗である。
図9のグラフにおいて横軸は被削材Wに対するドリルの位置である。図9のグラフの横軸において本発明例ドリルaの番号「1」は、図5に示す図(a1)に示すドリル位置に対応し、本発明例ドリルaの番号「2」は、図5に示す図(a2)に示すドリル位置に対応し、以下順に対応して、最後の本発明例ドリルaの番号「11」は、図8に示す図(a11)に示すドリル位置に対応する。
図9のグラフの横軸において比較例のドリルbの番号「1」は、図10に示す図(b1)に示すドリル位置に対応し、ドリルbの番号「2」は、図10に示す(b2)図に示すドリル位置に対応し、以下順に対応して、最後のドリルbの番号「5」は、図11に示す(b5)図に示すドリル位置に対応する。
以下それぞれ、ドリル位置「a4」、ドリル位置「b2」のように指定する。
図9において本ドリルaのグラフは実線で示され、比較例のドリルbのグラフは破線で示される。
【0044】
比較例のドリルbの場合、先端角一定の2枚刃によって穿孔する。ドリル位置「b1」→「b5」の送り行程で金属部材W1にφD3の穿孔を完了する。スラスト抵抗は比較的大きなものとなり、ドリル位置「b2」→「b3」の送り行程で切刃のほぼ全体が金属部材W1に接触しているため、最大のスラスト抵抗となる。
【0045】
これに対し、本ドリルaにあっては、「b1」→「b5」の送り行程と同距離の送り行程に相当するドリル位置「a1」→「a5」の送り行程で、第1段目の切刃10により金属部材W1にφD1の穿孔を行う。したがって、第1段目の切刃10による切削のスラスト抵抗は、ドリルbによるそれに比較して小さなものとなり、それ故に、図5(a2)(a3)に示すように金属部材W1の撓み量は、ドリルbのそれ(図10(b2)(b3)参照)に比較して小さなものとなる。
ドリル位置「a4」若しくは「a5」において、金属部材W1が撓み量を減少させて元の位置に戻っても、最大撓み量が小さいことに加え、第2段目の切刃20がドリル先端から距離h1だけ離れていることもあり、金属部材W1が第2段目の切刃20に当たることなく、切刃への負荷が急激に高まってドリルaの駆動が停止したり、第2段目の切刃を損傷したりすることは防がれる。
【0046】
その後、ドリル位置「a6」から第2段目の切刃20による金属部材W1の切削が始まる。ドリル位置「a6」→「a9」の送り行程で第2段目の切刃20が金属部材W1の孔をφD1からφD2まで拡径する。続いて、ドリル位置「a9」→「a11」の送り行程で第3段目の切刃30が金属部材W1の孔をφD3まで拡径し、寸法精度、面精度よく穿孔を完了する。
【0047】
第2段目の切刃20による切削量(φD2−φD1)や、第3段目の切刃30による切削量(φD3−φD2)が第1段目の切刃10による切削削量φD1のより小さいため、第2段目、第3段目の切刃20,30による切削のスラスト抵抗は、第1段目の切刃10によるそれに比較して小さなものとなる。
【0048】
以上の本ドリルaによる切削過程において、本ドリルaの切刃はドリル軸方向に3つに分割されているため、金属部材の切削屑も細かく分断され、切削屑の排出性が良好である。
【0049】
また、仮に第2段目の切刃20が無いドリルを想定すると、第2段目の切刃20による切削量(φD2−φD1)の分を、第1段目の切刃10の切削量又は/及び第3段目の切刃30の切削量に振り分けなければならない。そうすると、例えば第1段目の切刃10の直径をφD2にすれば、第1段目の切刃10による切削のスラスト抵抗が大きくなり、金属部材W1の撓み量も大きくなってしまう。また、第3段目の切刃30の最小直径をφD1にすることが考えられる。第3段目の切刃30は仕上げ加工を十分にするために、直径で1mm以上拡径加工させることが好ましい。しかし、それを超えてあまり大きくすると切削抵抗が大きくなりすぎて、仕上げ精度が悪化するおそれがある。
また、第3段目の切刃30によって、被削材Wを切削する時に、先行して4枚刃の第2段目の切刃20が求心力をもって第3段目の切刃30を軸精度よく保持して案内することで、寸法精度の良い孔を加工し終了することができる。第2段目の切刃20が無いとすれば、第3段目の切刃30に先行するのは、第1段目の切刃10となり、第1段目の切刃10は2枚刃であるから、4枚刃に比較すると軸保持性が良好でない。
【0050】
以上の実施形態にあっては、ドリルの溝をストレート溝としたが、ねじり溝としてもよいことは勿論である。
また以上の実施形態にあっては、第1段目の切刃と最終段との間に中間の段として1段の切刃を設けたが、加工する孔径によっては、中間の段を設けない、中間の段を2段以上にするなどの変更を適宜に行って実施してもよい。
さらに以上の実施形態にあっては、第3段目の切刃は、ドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成された切刃形状とされ、ドリル後端側端における先端角がゼロとされた。要求される被加工孔の面粗度によっては、図12に示すように、第2段目の切刃と同様に先端角を一定として第3段目の切刃の刃先稜線を直線形状としてもよい。
なお、本発明のドリルは、繊維強化樹脂複合材のみからなる被削材を穿孔する場合、金属部材のみからなる被削材を穿孔する場合にも有効に使用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
1 のみ刃部
2 シャンク部
3a,3b ストレートV溝
10 第1段目の切刃
20 第2段目の切刃
30 第3段目の切刃
a ドリル(本発明)
b ドリル(比較例)
CL 固定具
W 被削材
W1 金属部材
W2 繊維強化樹脂複合材
【技術分野】
【0001】
本発明は、切刃が軸方向に分割された段付き状のドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように穿孔工具としてドリルが利用されている。2枚刃ドリルは多用されている(例えば特許文献1)。
従来の典型的なドリルは、図10及び図11に示すドリルbのように一定の先端角の2枚の切刃を先端部に有している。
一方、各種産業において図10及び図11に示す金属部材W1と繊維強化樹脂複合材W2とを重ねた被削材Wを同一ドリルで一度に穿孔加工することが要請される。これは、例えば、繊維強化樹脂複合材が適用されることで軽量化を図りつつ、内表面や外表面に金属面が配置された構造を、双方の部材に穿孔した孔にボルトなどの締結具を挿通して構成するためであり、各部材の対応位置に効率及び精度良く穿孔作業を行うためである。金属部材W1の例としてはアルミニウム、繊維強化樹脂複合材W2の例としてはカーボン繊維強化樹脂複合材を挙げることができる。
【0003】
被削材Wとしては、図示したものに限らず、金属部材W1が複数層である場合及び繊維強化樹脂複合材W2が複数層である場合、並びにそれぞれの場合に異なる材料層が交互に重なる場合など、様々に考えられるが、いずれの場合にも対応できるドリルが望まれる。
また、穿孔作業を行う時に被削材Wを固定する方法としては、図10及び図11に示す固定具CLのように穿孔位置から離れた位置で固定して行い、ドリルが抜ける側に当て材を配置して支持することは行わないことが望ましい。当て材を使用すると、材料の無駄、ドリルに余計な切削作業をさせる、余分な切削屑が出るなどの不都合があるためである。
【0004】
図10及び図11に示すように、片側表面に金属部材W1が配置され、反対側表面に繊維強化樹脂複合材W2が配置される被削材Wの場合は、金属部材W1から穿孔するか、繊維強化樹脂複合材W2から穿孔するかを選択することができる。しかしながら、例えば航空機製造業など、これらの部材を用いた構造物の製造現場においては、その構造物の構造上、あるいは周囲の部材との位置関係などに起因して、どちら側の表面から穿孔するかを選択することができない場合も多く、どちらでも良好に穿孔することができるドリルが望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−36759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図10及び図11に示すように、一定の先端角の2枚の切刃を先端部に有した従来の典型的なドリルbにより、繊維強化樹脂複合材W2から穿孔する場合には次のような現象が生じる。
まず、図10(b1)に示すように、ドリルbにより繊維強化樹脂複合材W2から切削し、ドリルbが先端方向へと送られていく。
図10(b2)に示すように、ドリルbの先端が金属部材W1に触れると、図10(b2)さらには図10(b3)に示すように、金属部材W1をドリルbの先端方向に膨らむように撓ませながら、ドリルbによる金属部材W1の切削が進行していく。この時、金属の切削屑は長く繋がりやすいので、金属の切削屑を繊維強化樹脂複合材W2に既にあいた孔を通してドリルbの後方へ排出することができるかが懸念される。切削屑の排出性が悪化すれば、切削効率も落ちる。また、金属部材W1と繊維強化樹脂複合材W2との間に切削屑を残すと問題である。
その後、ドリルbの先端が金属部材W1の表面に到達して小さな孔が開口することをきっかけに、それまでの撓み変形により金属部材W1中に生じていた張力によって、図11(b4)に示すように金属部材W1が元の位置に戻ろうとする。この時、負荷が急激に高まりドリルの駆動が停止したり、切刃を損傷したりするおそれがある。また、このように一旦撓んで戻ったままの孔では高い加工精度が望めない。図11(b4)に示す時点で金属部材W1にあけられた孔をさらに仕上げ加工する切刃をドリルbは備えておらず、ドリルbでの加工終了後に、それ相応の仕上げ加工を要する。その後、図11(b5)に示すように、ドリルbの切刃最大径部が金属部材W1を抜け、穿孔加工が終了する。
【0007】
金属部材W1と繊維強化樹脂複合材W2のどちらから穿孔するにしても、以上の従来の典型的なドリルbでは、繊維強化樹脂複合材W2にデラミネーションを発生させるおそれがあり、精度良く孔を仕上げることは難しく、金属部材W1に対しても繊維強化樹脂複合材W2に対しても高精度に穿孔加工を行うには限界がある。
【0008】
なお、以上のように金属部材W1がドリルの先端方向に膨らむように撓むときの撓み量は、金属部材W1の特性のみならず、ドリルの特性に依存する。
表1に、以下の各条件に対応する金属部材W1の撓み量(mm)を示す。
金属部材W1の材料をアルミニウム(A7075)、チタン合金(6-4Ti)の2種、金属部材W1の厚みを3(mm)、4(mm)、ドリルbの直径を4(mm)、5(mm)とする条件の各組合せに対応する金属部材W1の最大撓み量が表1に記載される。図10(b2)(b3)に示したように金属部材W1はドリルbの先端に押されて撓むが、表1に記載される撓み量は、金属部材W1のドリル軸方向の最大変位である。なお、図10(b1)に示した固定具CL間の距離Sを100(mm)とし、ドリルの送りを0.15(mm/rev)とした条件による。
表1を参照すればわかるように、ドリルによる穿孔加工時の金属部材W1の撓み量は、アルミニウム(A7075)よりチタン合金(6-4Ti)の方が大きくなり、金属部材W1の厚みが薄くなるほど大きくなる。これは金属部材W1の曲げ剛性によるものである。
一方、ドリル径が大きいほど、ドリルによる穿孔加工時の金属部材W1の撓み量は大きくなる。これは、ドリル径が大きいほどドリルbによって金属部材W1に加えられる金属部材W1を撓ませようとする力、すなわち、スラスト力が大きくなるからである。
【0009】
【表1】
【0010】
本発明は、以上の従来技術に鑑みてなされてものであって、金属部材と繊維強化樹脂複合材とを重ねた被削材を一度に穿孔するにあたり、長期にわたり、安定して精度良く穿孔することができるドリルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、切刃枚数が少ないか、先端角が大きいか、又は逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数、同先端角、同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリルである。
【0012】
請求項2記載の発明は、切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、切刃枚数が少なく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリルである。
【0013】
請求項3記載の発明は、切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、先端角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同先端角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリルである。
【0014】
請求項4記載の発明は、切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリルである。
【0015】
請求項5記載の発明は、切刃を軸方向に分割して3段以上有し、
第2段目以降の切刃は、先端側の段の切刃に対し、切刃枚数が等しいか増加するか、先端角が等しいか減少するか、又は逃げ角が等しいか減少していることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0016】
請求項6記載の発明は、ドリル先端と第2段目の切刃とのドリル軸方向の離間距離は、第1段目の切刃の直径以上である請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0017】
請求項7記載の発明は、第1段目の切刃は2枚刃である請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0018】
請求項8記載の発明は、第2段目の切刃は4枚刃である請求項1から請求項7のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0019】
請求項9記載の発明は、第3段目の切刃を有し、第3段目の切刃は4枚刃である請求項1から請求項8のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0020】
請求項10記載の発明は、被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃は、そのドリル先端側端において、先端側の段の切刃の先端角より小さい先端角を有し、ドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成された請求項1から請求項9のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0021】
請求項11記載の発明は、被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃のドリル後端側端における先端角がゼロである請求項1から請求項10のうちいずれか一に記載のドリルである。
【0022】
請求項12記載の発明は、被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃の先端角がゼロの位置でドリル最大径となる請求項11に記載のドリルである。
【0023】
請求項13記載の発明は、前記最終穿孔切刃は、そのドリル先端側端の最小直径とそのドリル後端側端の最大直径との差が1mm以上である請求項11又は請求項12に記載のドリルである。
【0024】
請求項14記載の発明は、前記最終穿孔切刃は第3段目である請求項10から請求項13のうちいずれか一に記載のドリルである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、切刃を軸方向に分割して2段以上有するため、第1段目の切刃の直径は穿孔する孔径より小さくなり、穿孔する孔径と同径の切刃により切削する場合に比較して、切削のスラスト抵抗が小さくなる。
また、第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、切刃枚数が少ないか、先端角が大きいか、又は逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数、同先端角、同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されている。
したがって、先行して被削材を切削する第1段目の切刃による切削のスラスト抵抗は小さくされており、被削材に大きなスラスト方向の負荷を与えることなく安定して切削を進めることができる。
穿孔側から見て裏面に金属部材が配置されていても、これを第1段目の切刃によって撓ませる撓み量は切削のスラスト抵抗が小さいため自ずと小さくなる。
そして、この金属部材の撓みが減少してドリル後端方向へ移動した時にも、第2段目の切刃は、第1段目の切刃に対しドリル軸方向に離れて配置されているから、この金属部材が第2段目の切刃に当たりにくく、切刃への負荷が急激に高まってドリルの駆動が停止したり、第2段目の切刃を損傷する可能性は低減される。金属部材の撓みが減少してドリル後端方向へ移動した時に金属部材が第2段目の切刃に当たりにくくするために、ドリル先端と第2段目の切刃とのドリル軸方向の離間距離は、第1段目の切刃の直径以上を確保することが好ましい。
さらに、第1段目の切刃が先行して切削した孔に対し、第2段目以降の切刃が切削して被加工孔を拡径し、最終段の切刃によって仕上げ加工を行い、最終段の切刃が被削材を抜けることで穿孔加工が終了する。
【0026】
被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃は、被加工孔内面の仕上げ加工を行うため、先端側のいずれの段に対しも先端角が小さいもの、特に、ドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成され、ドリル後端側端で先端角がゼロに収束するものが好ましく、これにより維強化樹脂複合材にデラミネーションを生じさせることなく、金属部材及び繊維強化樹脂複合材に対して良好な精度で仕上げ加工することができ、被加工孔の面粗度を向上することができる。
なお、最終穿孔切刃は被加工孔を貫通して被加工孔の孔径を決定する切刃であり、最終穿孔切刃より後方に被加工孔の開口縁部を面取りする、サラザグリする切刃などの被加工孔を貫通しない切刃をドリルに設けることは任意である。
【0027】
第1段目の切刃の枚数は、切削のスラスト抵抗を少なくするため2枚が好ましい。
第2段目の切刃の枚数は、4枚が好ましい。仮に、上述の現象により金属部材が第2段目の切刃に当たっても、より多い枚数で受けるために損傷しにくくなり、ドリルの駆動停止になりにくい。切刃の枚数が多い方が、繊維強化樹脂複合材に対してはデラミネーションを発生させにくい。
最終段の切刃よりドリル先端に4枚刃の切刃を配置することにより、この4枚刃が求心力をもって最終段の仕上げ切刃を軸精度よく保持して案内することで、寸法精度の良い孔を加工し終了することができる。
最終穿孔切刃の枚数は、繊維強化樹脂複合材のデラミネーションを抑制するために、4枚以上が好ましい。切刃枚数が多いほど一枚の切刃当たり切削量が減少し、1回転当たりの切刃が増え、被削材を細かく分断しデラミネーションを抑制できるからである。また、軸精度よく安定して切削を終えるためにも、最終段の切刃の枚数は、4枚以上が好ましい。また、4枚以上とすることで、1枚当たりの切削量が減少し、刃先摩耗の進行を遅らせることができるから、長期に亘り孔径精度を良好に確保することができる。
【0028】
また、切刃はドリル軸方向に分割されているため、金属部材の切削屑も細かく分断され、切削屑の排出性が良好である。
第1段目の切刃は、上述したように切削のスラスト抵抗を小さくした方がよく、最終穿孔切刃は、仕上げ加工の安定性のために切削抵抗を小さくした方がよい。そのため、第1段目の次に最終穿孔切刃を配置するのではなく、第1段目と最終穿孔切刃との間に一又は複数の切刃を配置することによって、第1段目及び最終穿孔切刃の切刃長をそれぞれ短くしてその切削抵抗を低減することが好ましい。その場合でも、仕上げ加工を十分にするために、最終穿孔切刃により直径で1mm以上拡径加工させることが好ましい。
以上のように摩耗、欠け等の抑制により工具寿命の長期化も図られ、工具の交換サイクルを長期化することで、作業効率を向上できる。
以上により、本発明によれば、金属部材と繊維強化樹脂複合材とを重ねた被削材を一度に穿孔するにあたり、長期にわたり、安定して精度良く穿孔することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係るドリルの刃部の正面図である。図2に示す矢印C方向からの見た図に相当する。
【図2】図1に示す矢印A方向から見たドリルの側面図(a)、第1段目の切刃断面図(b1)、第2段目の切刃断面図(b2)、及び第3段目の切刃断面図(b3)である。
【図3】図1に示す矢印B方向から見たドリルの側面図(a)、第2段目の切刃断面図(b1)、及び第3段目の切刃断面図(b2)である。
【図4】図2に示す直径φD1部までを描いた矢印C方向からの見た正面図(a)、図2に示すα‐α線(φD2部内)についての断面図(b)、及び図2に示すβ‐β線(φD3部内)についての断面図(c)である。
【図5】本発明の一実施形態に係るドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図6】図5に続く、本発明の一実施形態に係るドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図7】図6に続く、本発明の一実施形態に係るドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図8】図7に続く、本発明の一実施形態に係るドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図9】本発明例及び比較例に関し、ドリルの進行位置に対するスラスト抵抗の変化を示すグラフである。
【図10】従来の典型的なドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図11】図10に続く、従来の典型的なドリルによる穿孔加工の過程を示した被削材断面視模式図である。
【図12】図1に示す矢印A方向から見たドリルの側面図(a)、第1段目の切刃断面図(b1)、第2段目の切刃断面図(b2)、及び第3段目の切刃断面図(b3)である。但し、第3段目の切刃の刃先稜線を直線形状に変更した他の形態について作成したものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に本発明の一実施形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
図1、図2及び図3に示すように、本実施形態のドリルaは、のみ刃部1とシャンク部2とを有する。のみ刃部1からシャンク部2に至る4条のストレートV溝3a,3b,3a,3bが形成されている。
【0031】
本実施形態のドリルaは、軸方向に分割して3段の切刃10,20,30を有する。
第1段目の切刃10は、ドリル軸回りの互いに180度異なる位置に配置された2枚刃であり、ドリル先端から形成され、最大直径φD1を有する。
第2段目の切刃20は、ドリル軸回りに90度ずつ異なる位置に配置された4枚刃であり、ドリル先端からドリル後端方向へ距離h1(図2に図示)だけ隔てた位置から形成され、ドリル先端側端で最小直径φD1を、ドリル後端側端で最大直径φD2を有する。
第3段目の切刃30は、ドリル軸回りに90度ずつ異なる位置に配置された4枚刃であり、ドリル先端からドリル後端方向へ距離h1+h2(図2に図示)だけ隔てた位置から形成され、ドリル先端側端で最小直径φD2を、ドリル後端側端で最大直径φD3を有する。
第2段目の切刃20及び第3段目の切刃30のそれぞれのうち、2枚の切刃はドリル軸回りの位置について第1段目の切刃10と同位置に配置されている。
【0032】
第1段目の切刃10の先端角を、図2(a)に示すようにθ1とする。
第2段目の切刃20の先端角を、図2(a)に示すようにθ2とする。
第3段目の切刃30の先端角を、図2(a)に示すようにθ3とする。
第1段目の切刃10の逃げ角を、図2(b1)に示すようにγ1とする。
第2段目の切刃20の逃げ角を、図2(b2)及び図3(b1)に示すようにγ2とする。
第3段目の切刃30の逃げ角を、図2(b3) 及び図3(b2)に示すようにγ3とする。
【0033】
各段における切刃枚数、先端角及び逃げ角について説明する。
本実施形態のドリルaのように、切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルを構成する場合に、単純に各段における切刃枚数、先端角及び逃げ角を共通にしてしまうと、第1段目の切刃10を特別に切削のスラスト抵抗が小さい特性にすることができない。
第1段目の切刃10を、第2段目以降の切刃と同切刃枚数、同先端角、同逃げ角とした場合を基準に、第1段目の切刃10の切削のスラスト抵抗が小さい特性にするには、以下の条件1,2,3及びこれらの組合せによって成し得る。
【0034】
(条件1)条件1としては、切刃枚数を少なくすることである。切刃枚数が少ない方が、被削材に当たる切刃の合計長さが短くなるために、切削抵抗が減少するからである。なお、第2段目以降の切刃の切刃枚数が異なる場合は、いずれの切刃枚数よりも、切刃枚数を少なくすること、すなわち、第2段目以降の切刃で最少の切刃枚数より切刃枚数を少なくすることを条件とする。但し、被加工孔を貫通して被加工孔の孔径を決定する最終穿孔切刃までを考慮する。本実施形態では、第3段目の切刃30が最終穿孔切刃である。
【0035】
(条件2)条件2としては、先端角を大きくすることである。一定の切刃形成直径(本実施形態の場合φD1)内にあっては、先端角を小さくするほど切刃長は長くなってしまう。したがって、先端角が大きい方が、被削材に当たる切刃の合計長さが短くなるために、切削抵抗が減少するからである。なお、第2段目以降の切刃の先端角が異なる場合は、いずれの先端角よりも大きくすること、すなわち、第2段目以降の切刃で最大の先端角(本実施形態ではθ2)より先端角を大きくすることを条件とする。但し、被加工孔を貫通して被加工孔の孔径を決定する最終穿孔切刃までを考慮する。
【0036】
(条件3)条件3としては、逃げ角を大きくすることである。逃げ角が大きい方が、被削材に対して鋭利に切り込み、切削抵抗が小さいからである。なお、第2段目以降の切刃の逃げ角が異なる場合は、いずれの逃げ角よりも大きくすること、すなわち、第2段目以降の切刃で最大の逃げ角より逃げ角を大きくすることを条件とする。但し、被加工孔を貫通して被加工孔の孔径を決定する最終穿孔切刃までを考慮する。
【0037】
(単独又は組合せ)以上の条件1,2,3のうちいずれか1つのみを実施してもよいし、いずれか2つ又はすべてを実施してもよい。
【0038】
本実施形態のドリルaにあっては、上述したとおり先端から2枚刃、4枚刃、4枚刃の三段構成であるから、条件1を実施する。また、本実施形態のドリルaにあっては、θ1>θ2>θ3の条件を有する。すなわち、条件2を実施するものである。
本実施形態のドリルaにあっては、γ1≧γ2≧γ3である。条件3を実施しない場合でも、γ1=γ2=γ3とすることが好ましい。γ1=γ2>γ3の関係としてもよい。条件3を実施する場合は、γ1>γ2>γ3、又はγ1>γ2=γ3、の関係で実施する。
【0039】
切刃を軸方向に分割して3段以上有する場合、第2段目以降の切刃は、先端側の段の切刃に対し、切刃枚数が等しいか増加し、先端角が等しいか減少し、逃げ角が等しいか減少している条件で実施するとよい。
本実施形態にあっては、第3段目の切刃30は、第2段目の切刃20に対し切刃枚数が等しい、先端角が減少する。逃げ角は等しいか減少している条件で実施する。
【0040】
距離h1については以下の条件とされる。
すなわち、ドリル先端と第2段目の切刃20とのドリル軸方向の離間距離h1は、第1段目の切刃10の直径φD1以上である。これにより、被削材を構成する金属部材の撓みが減少してドリル後端方向へ移動した時に金属部材が第2段目の切刃に当たりにくくすることできる。
【0041】
本実施形態においては、第1段目の切刃10の先端角θ1を一定とし、第2段目の切刃20の先端角θ2を一定とする。したがって、第1段目の切刃10及び第2段目の切刃20の刃先稜線は直線形状となる。
第3段目の切刃30は、被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃であり、この第3段目の切刃30をもって精度良く被加工孔を仕上げたい。そのため、先端側の段の切刃、すなわち、第2段目の切刃20に対して、近い先端角から切削を開始しながらも、最終的に先端角ゼロで終了して被加工孔の面粗度を向上したい。
そのため、本実施形態の最終穿孔切刃である第3段目の切刃30は、そのドリル先端側端(=φD2位置)において、先端側の段の切刃(=第2段目の切刃20)の先端角θ2より小さい先端角を有し、ドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成された切刃形状とされ、ドリル後端側端(=φD3位置)における先端角がゼロである。
したがって、第3段目の切刃30の刃先稜線は、外に膨らんだ滑らかな曲線形状であり、その接線が、ドリル先端側端(=φD2位置)からドリル後端側に移るに従ってドリル軸方向へ次第に近づくように傾き、ドリル後端側端(=φD3位置)でドリル中心軸と平行となる。
最終穿孔切刃である第3段目の切刃30は、そのドリル先端側端の最小直径φD2とそのドリル後端側端の最大直径φD3との差が1mm以上である。すなわち、(φD3−φD2)>1mmである。第3段目の切刃30により仕上げ加工量を十分に確保するためである。
なお、本実施形態のドリルaにあっては、φD3がドリル最大径である。これに拘わらず、最終穿孔切刃より後方に被加工孔の開口縁部を面取りする、サラザグリする切刃などの被加工孔を貫通しない切刃をドリルに設けて、φD3よりドリル最大径を大きくすることは任意である。
【0042】
さて、以上の構成を有する本発明実施形態のドリルaによって、図10及び図11に記載したものと共通の被削材Wを穿孔する場合につき説明する。図10及び図11に示した一定の先端角の2枚の切刃を先端部に有した従来の典型的なドリルbの場合と同様に、繊維強化樹脂複合材W2から穿孔する場合である。被削材Wは金属部材W1と繊維強化樹脂複合材W2とを重ねたもので共通である。固定具CL間の距離Sなどその他の条件も共通であり、両者とも同じ径の孔φD3を加工する場合で比較する。
【0043】
図5から図8に本ドリルaによる穿孔加工過程を示した。これに対する比較例はドリルbであり、その穿孔加工過程は図10及び図11に示した通りである。
また、穿孔加工過程における金属部材W1の切削に関するスラスト抵抗の変化を、本ドリルaによる場合と、比較例のドリルbによる場合とを併せて図9のグラフに示した。
図9のグラフにおいて縦軸は金属部材W1の切削に関するスラスト抵抗である。
図9のグラフにおいて横軸は被削材Wに対するドリルの位置である。図9のグラフの横軸において本発明例ドリルaの番号「1」は、図5に示す図(a1)に示すドリル位置に対応し、本発明例ドリルaの番号「2」は、図5に示す図(a2)に示すドリル位置に対応し、以下順に対応して、最後の本発明例ドリルaの番号「11」は、図8に示す図(a11)に示すドリル位置に対応する。
図9のグラフの横軸において比較例のドリルbの番号「1」は、図10に示す図(b1)に示すドリル位置に対応し、ドリルbの番号「2」は、図10に示す(b2)図に示すドリル位置に対応し、以下順に対応して、最後のドリルbの番号「5」は、図11に示す(b5)図に示すドリル位置に対応する。
以下それぞれ、ドリル位置「a4」、ドリル位置「b2」のように指定する。
図9において本ドリルaのグラフは実線で示され、比較例のドリルbのグラフは破線で示される。
【0044】
比較例のドリルbの場合、先端角一定の2枚刃によって穿孔する。ドリル位置「b1」→「b5」の送り行程で金属部材W1にφD3の穿孔を完了する。スラスト抵抗は比較的大きなものとなり、ドリル位置「b2」→「b3」の送り行程で切刃のほぼ全体が金属部材W1に接触しているため、最大のスラスト抵抗となる。
【0045】
これに対し、本ドリルaにあっては、「b1」→「b5」の送り行程と同距離の送り行程に相当するドリル位置「a1」→「a5」の送り行程で、第1段目の切刃10により金属部材W1にφD1の穿孔を行う。したがって、第1段目の切刃10による切削のスラスト抵抗は、ドリルbによるそれに比較して小さなものとなり、それ故に、図5(a2)(a3)に示すように金属部材W1の撓み量は、ドリルbのそれ(図10(b2)(b3)参照)に比較して小さなものとなる。
ドリル位置「a4」若しくは「a5」において、金属部材W1が撓み量を減少させて元の位置に戻っても、最大撓み量が小さいことに加え、第2段目の切刃20がドリル先端から距離h1だけ離れていることもあり、金属部材W1が第2段目の切刃20に当たることなく、切刃への負荷が急激に高まってドリルaの駆動が停止したり、第2段目の切刃を損傷したりすることは防がれる。
【0046】
その後、ドリル位置「a6」から第2段目の切刃20による金属部材W1の切削が始まる。ドリル位置「a6」→「a9」の送り行程で第2段目の切刃20が金属部材W1の孔をφD1からφD2まで拡径する。続いて、ドリル位置「a9」→「a11」の送り行程で第3段目の切刃30が金属部材W1の孔をφD3まで拡径し、寸法精度、面精度よく穿孔を完了する。
【0047】
第2段目の切刃20による切削量(φD2−φD1)や、第3段目の切刃30による切削量(φD3−φD2)が第1段目の切刃10による切削削量φD1のより小さいため、第2段目、第3段目の切刃20,30による切削のスラスト抵抗は、第1段目の切刃10によるそれに比較して小さなものとなる。
【0048】
以上の本ドリルaによる切削過程において、本ドリルaの切刃はドリル軸方向に3つに分割されているため、金属部材の切削屑も細かく分断され、切削屑の排出性が良好である。
【0049】
また、仮に第2段目の切刃20が無いドリルを想定すると、第2段目の切刃20による切削量(φD2−φD1)の分を、第1段目の切刃10の切削量又は/及び第3段目の切刃30の切削量に振り分けなければならない。そうすると、例えば第1段目の切刃10の直径をφD2にすれば、第1段目の切刃10による切削のスラスト抵抗が大きくなり、金属部材W1の撓み量も大きくなってしまう。また、第3段目の切刃30の最小直径をφD1にすることが考えられる。第3段目の切刃30は仕上げ加工を十分にするために、直径で1mm以上拡径加工させることが好ましい。しかし、それを超えてあまり大きくすると切削抵抗が大きくなりすぎて、仕上げ精度が悪化するおそれがある。
また、第3段目の切刃30によって、被削材Wを切削する時に、先行して4枚刃の第2段目の切刃20が求心力をもって第3段目の切刃30を軸精度よく保持して案内することで、寸法精度の良い孔を加工し終了することができる。第2段目の切刃20が無いとすれば、第3段目の切刃30に先行するのは、第1段目の切刃10となり、第1段目の切刃10は2枚刃であるから、4枚刃に比較すると軸保持性が良好でない。
【0050】
以上の実施形態にあっては、ドリルの溝をストレート溝としたが、ねじり溝としてもよいことは勿論である。
また以上の実施形態にあっては、第1段目の切刃と最終段との間に中間の段として1段の切刃を設けたが、加工する孔径によっては、中間の段を設けない、中間の段を2段以上にするなどの変更を適宜に行って実施してもよい。
さらに以上の実施形態にあっては、第3段目の切刃は、ドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成された切刃形状とされ、ドリル後端側端における先端角がゼロとされた。要求される被加工孔の面粗度によっては、図12に示すように、第2段目の切刃と同様に先端角を一定として第3段目の切刃の刃先稜線を直線形状としてもよい。
なお、本発明のドリルは、繊維強化樹脂複合材のみからなる被削材を穿孔する場合、金属部材のみからなる被削材を穿孔する場合にも有効に使用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0051】
1 のみ刃部
2 シャンク部
3a,3b ストレートV溝
10 第1段目の切刃
20 第2段目の切刃
30 第3段目の切刃
a ドリル(本発明)
b ドリル(比較例)
CL 固定具
W 被削材
W1 金属部材
W2 繊維強化樹脂複合材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、切刃枚数が少ないか、先端角が大きいか、又は逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数、同先端角、同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリル。
【請求項2】
切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、切刃枚数が少なく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリル。
【請求項3】
切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、先端角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同先端角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリル。
【請求項4】
切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリル。
【請求項5】
切刃を軸方向に分割して3段以上有し、
第2段目以降の切刃は、先端側の段の切刃に対し、切刃枚数が等しいか増加するか、先端角が等しいか減少するか、又は逃げ角が等しいか減少していることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項6】
ドリル先端と第2段目の切刃とのドリル軸方向の離間距離は、第1段目の切刃の直径以上である請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項7】
第1段目の切刃は2枚刃である請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項8】
第2段目の切刃は4枚刃である請求項1から請求項7のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項9】
第3段目の切刃を有し、第3段目の切刃は4枚刃である請求項1から請求項8のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項10】
被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃は、そのドリル先端側端において、先端側の段の切刃の先端角より小さい先端角を有し、ドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成された請求項1から請求項9のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項11】
被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃のドリル後端側端における先端角がゼロである請求項1から請求項10のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項12】
被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃の先端角がゼロの位置でドリル最大径となる請求項11に記載のドリル。
【請求項13】
前記最終穿孔切刃は、そのドリル先端側端の最小直径とそのドリル後端側端の最大直径との差が1mm以上である請求項11又は請求項12に記載のドリル。
【請求項14】
前記最終穿孔切刃は第3段目である請求項10から請求項13のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項1】
切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、切刃枚数が少ないか、先端角が大きいか、又は逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数、同先端角、同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリル。
【請求項2】
切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、切刃枚数が少なく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同切刃枚数とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリル。
【請求項3】
切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、先端角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同先端角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリル。
【請求項4】
切刃を軸方向に分割して2段以上有する段付き状のドリルであって、
先端から第1段目の切刃は、第2段目以降の切刃に対し、逃げ角が大きく形成されていることにより、第2段目以降の切刃と同逃げ角とした場合に比較して切削のスラスト抵抗が小さい特性に構成されたドリル。
【請求項5】
切刃を軸方向に分割して3段以上有し、
第2段目以降の切刃は、先端側の段の切刃に対し、切刃枚数が等しいか増加するか、先端角が等しいか減少するか、又は逃げ角が等しいか減少していることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項6】
ドリル先端と第2段目の切刃とのドリル軸方向の離間距離は、第1段目の切刃の直径以上である請求項1から請求項5のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項7】
第1段目の切刃は2枚刃である請求項1から請求項6のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項8】
第2段目の切刃は4枚刃である請求項1から請求項7のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項9】
第3段目の切刃を有し、第3段目の切刃は4枚刃である請求項1から請求項8のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項10】
被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃は、そのドリル先端側端において、先端側の段の切刃の先端角より小さい先端角を有し、ドリル後端側に移るに従って先端角が漸減することにより刃先稜線が滑らかな曲線形状に形成された請求項1から請求項9のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項11】
被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃のドリル後端側端における先端角がゼロである請求項1から請求項10のうちいずれか一に記載のドリル。
【請求項12】
被加工孔を最終的に拡径する最終穿孔切刃の先端角がゼロの位置でドリル最大径となる請求項11に記載のドリル。
【請求項13】
前記最終穿孔切刃は、そのドリル先端側端の最小直径とそのドリル後端側端の最大直径との差が1mm以上である請求項11又は請求項12に記載のドリル。
【請求項14】
前記最終穿孔切刃は第3段目である請求項10から請求項13のうちいずれか一に記載のドリル。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−843(P2013−843A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135153(P2011−135153)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(594143271)マコトロイ工業株式会社 (5)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(594143271)マコトロイ工業株式会社 (5)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】
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