説明

ドレープ付き開瞼器

【課題】眼球や周囲組織への安全性、個体差を吸収して多くの人に適用可能な汎用性、他のドレープを不用とするなどの利便性を備えると共に、術野に溜まる水や分泌物を、人手を掛けずに容易かつ確実に排除することのできるドレープ付き開瞼器を提供すること。
【解決手段】眼瞼を囲繞し、顔面に接して装着される可撓性を有する上リングと、結膜嚢内に挿入され、瞼結膜側に接して装着される下リングと、柔軟な筒型薄膜の端部の一方を前記上リングへ、他方を下リングへ各々取り付け、顔面側から瞼結膜側にかけて位置する弾性シートとにより構成され、前記弾性シートの最小部の外径を、瞼裂(上眼瞼と下眼瞼の間)とほぼ同等とするか、あるいは、大きく形成してなる開瞼器において、弾性シートの一部を親水性処理したり、あるいは、吸水性材料を付設したりすることにより、術野に溜まる排液を外部に自然排出可能な排液通路を形成して構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科における内眼手術のさいに、感染予防の観点から睫毛等を術野に出さないため、及び、手術中の視野を確保しておくため、眼瞼を開いた状態で保持するドレープ機能を有する開瞼器に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科における眼球への手術や治療のさいには、瞼を上下に強制的に開いた状態に置き、術野を確保する必要があり、そのための器具として開瞼器が用いられる。従来の開瞼器としては、金具などのフック部分を上眼瞼及び下眼瞼に引っ掛けて、上下に引張り、瞼を大きく開いた状態に維持するもの等が一般的であったが、開瞼器の一部を結膜嚢内に挿入して用いる器具として、顔面に接して装着される可撓性を有する上リングと、結膜嚢内に挿入され瞼結膜側に接して装着される下リングと、端部の一方を前記上リングへ、他方を下リングへ各々拡張等して取り付けて、顔面側から瞼結膜側にかけて位置させる柔軟な筒型薄膜の弾性シートとにより構成し、該弾性シートの最小部の外径を、瞼裂(上眼瞼と下眼瞼の間)とほぼ同等とするか、あるいは、大きく形成してなる器具であって、該器具に取り付けるなどしたチューブにより術野に溜まる水や分泌物を外部に排液するとしたドレープ機能を備えた開瞼器が本発明者らにより提案された。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO2008/056662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記文献1の開瞼器は、フックを引っ掛けるなどする開瞼器に比較して、眼球や周囲組織への負担が少なく安全で、また、感染防止のため、睫毛やマイボーム腺を術野に出さないように覆うドレープが不要となるなど装着が容易であるといった点、また、個体差を吸収して眼瞼や顔面にフィットさせての開瞼を可能とするなど多くの利点を備える器具であるが、手術中眼球の乾燥防止や血液の洗浄のために注入され、手術部に溜まってしまう水や分泌物を外部に排液するための手段として、従来と同様にチューブを用いており、この排液のためには吸引器が必要となること、また、排液チューブの操作や吸引器の操作に人手が必要となるといった問題がある。また、吸引操作時のチューブの存在が眼球という狭い術野を一層狭くする可能性があり、操作によっては手術を停滞させるなど障害となることが懸念される。
【0005】
そこで、本発明は、前記開瞼器の利点である、眼球や周囲組織への安全性、ドレープを不要とするなどの手術の容易性、個体差を吸収して多くの人にフィットする利便性をそのままに、術野に溜まる水や分泌物を、人手を掛けずに容易かつ確実に排除することのできるドレープ付き開瞼器を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のドレープ付き開瞼器は、眼瞼を囲繞し、顔面に接して装着される可撓性を有する上リングと、結膜嚢内に挿入され、瞼結膜側に接して装着される下リングと、柔軟な筒型薄膜の端部の一方を前記上リングへ、他方を下リングへ各々取り付け、顔面側から瞼結膜側にかけて位置する弾性シートとにより構成され、前記弾性シートの最小部の外径を、瞼裂(上眼瞼と下眼瞼の間)とほぼ同等とするか、あるいは、大きく形成してなる開瞼器において、前記弾性シートの一部に、術野に溜まる排液を外部に自然排出可能な一連の排液通路を備えて構成する。
【0007】
また、各部は次の構成とすることが好ましい。
・上リング及び下リングは、円形または楕円形、あるいは、楕円類似形状に形成する。
尚、楕円類似形状とは、楕円の定義からは外れているが、全体としての概観が楕円に類似して見える形状を示し、例えば、弾性体円形リングを2方向から押しつぶす、あるいは引っ張って形成される形状を示している。
・下リングの最大直径部は、上リングの最大直径部の25%以上、60%以下の長さに形成する。
・弾性シートは、透明あるいは半透明なシートより形成する。
・弾性シートは、引張り伸び率600%以上の樹脂より形成する。
【0008】
また、前記弾性シートに備える排液通路は、該排液通路の部分は親水性に形成し、他の部位は疎水性に形成する。具体的には、弾性シートは疎水性材料で形成し、排液通路となる部位のシート表面を、親水性物質でコーティングする、親水性物質をグラフト重合処理する、または、プラズマ重合処理による薄膜形成するなどにより親水性化処理して形成する。
あるいは、前記弾性シートに備える排液通路の部分に吸水性材料を付設し、他の部位は疎水性に形成する。具体的には、弾性シートは疎水性材料で形成し、排液通路となる部位に高親水性吸水スポンジ、あるいは、高親水性シートを付設して構成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のドレープ付き開瞼器によると、従来の特許文献1の開瞼器の主要構成はそのままに、弾性シートの一部に、術野に溜まる排液を外部に自己排出可能な一連の排液通路を備えて構成することにより、従来の眼球や周囲組織への安全性、ドレープを不要とするなどの手術の容易性、個体差を吸収してフィットする利便性に加え、手術中眼球の乾燥防止や血液の洗浄のために注入され、手術部に溜まってしまう水や分泌物を、該排液通路を通じて外部に自然排出することが可能となり、チューブ等の吸引管や吸引器、及び、該吸引器やチューブを操作する人手が不用となり、また、チューブにより術野が隠される懸念もなくなることで、クリアな術野を確保するための排液処理を、人手を必要としない容易で、かつ、確実なものとすることができる。
また、弾性シートを疎水性素材により形成し、排液通路のみを親水性に形成したり、吸収性材料で形成したりすると、疎水性部位で撥水される排液が親水性の通路部あるいは吸収性材料の通路部に自然に集液され、該通路を通って術野外部に自然排出されることで一層の排液効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第一の実施の形態を示す全体構成図。(正面図、底面図)
【図2】前記実施の形態の一部断面図。
【図3】前記実施の形態の変形例を示す底面図。
【図4】本発明の第二の実施の形態を示す全体構成図。(正面図、底面図)
【図5】本発明の第三の実施の形態を示す一部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参考にしながら詳細に説明する。
図1は、本発明の第一の実施の形態を示すドレープ付き開瞼器の全体構成図(Aが正面図、Bが底面図)で、図2はその一部断面図を示している。
本実施の形態のドレープ付き開瞼器は、眼瞼に装着したさいに、顔面側に位置する上リング1と、結膜嚢内に挿入される(瞼結膜側に位置する)下リング2と、両端部を前記上リング1と下リング2に取り付けた顔面側から結膜嚢に位置する、ドレープの役割も兼ねる弾性シート3により構成され、該弾性シート3の一部に、術野となる開口部4から上リング1までを一連につなぐ排液通路31が形成されてなる。
【0012】
上リング1は、下リング2を結膜嚢内に挿入するさいの操作性(後記)、あるいは、眼瞼に装着したさいに顔面形状にフィットして変形可能なように、2つ折れ可能の程度で、かつ、形状復元可能な可撓性を有する樹脂等(本例においては、ポリアセタール樹脂)により、薄い(0.6mm〜1.2mm程度、実施例では、1.0mm)楕円形状あるいは楕円類似形状(以下、楕円形状)のリング状プレートとして形成した上プレート11に、後記する弾性シート3の一方端部を拡張して、前記上プレート11全周囲を被覆し、溶着あるいは接着して取付け形成されるもので、そのリングのサイズは特定するものではないが、一般的な大人への使用を考慮し、また、本用途に適合してドレープ機能を満足させ、顔面にフィットして使用しやすい大きさとして、楕円の長径50mm〜80mm程度(本例では、65mm)、短径45mm〜75mm程度(本例では、62mm)として形成した。また、上プレート11の幅を1mm〜3mm程度(本例では、2.1mm)とした。
【0013】
下リング2は、瞼結膜側(結膜嚢)に挿入したさいの装着安定性を考慮して、比較的硬質な樹脂(本例においては、ポリアセタール樹脂)等により、薄い(0.5mm〜1.0mm程度、実施例では、0.8mm)楕円形状のリング状プレートとして形成した下プレート21に、前記上リング1と同様に弾性シート3のもう一方の端部を僅かに拡張して被覆し、溶着あるいは接着により取付けて形成されるもので、そのリングのサイズは特定するものではないが、一般的な大人への使用を考慮したとき、結膜嚢内への無理のない挿入と、手術に十分な視野の展開が可能で、かつ、装着したさい安定して保持可能な大きさとして、楕円の長径20mm〜30mmm(本例では、25mm)、短径18mm〜28mm(本例では、23mm)として形成した。また、下プレート21の幅を0.8mm〜1.5mm程度(本例では、1.2mm)とした。
尚、該下リング2と上リング1の大きさは、前記した各々の役割を考慮して、下リング2の最大直径部は、上リングの最大直径部の25%以上、60%以下として形成すると適切な大きさとなる。
【0014】
弾性シート3は、強い疎水性を有し、柔軟で十分な引張り伸び率(600%以上、実施例においては、800%)を備えた、厚さ0.18mm以上、0.38mm以下程度(本例では、0.25mm)の薄膜状で半透明のシリコーンゴムからなる円筒体のシートとして形成し、前記の通り、一方端部は上プレート11と、他方端部は下プレート21と、それぞれの端部を拡張して取り付けて構成し、各々のプレート1、2に取り付けたさいに、上プレート側の表側を形成する表面の一部(眼瞼に装着したさいに目尻側にあたる位置)に、術野となる中心の開口部4から辺縁となる上リング1までをつなぐ幅0.5mm〜15mm程度(本例においては、8mm)の帯状の範囲に後記するような手段で親水性加工を施した排液通路31を設けて本発明のドレープ付き開瞼器の一例とした。
尚、上下のプレートに取付ける前の該円筒体の弾性シート3の形状は、特定するものではないが、本例においては、製造時に該プレートへの取り付けを容易とするため、上プレート11に取付ける側の径は大きく、下プレート21に取付ける側の径は小さく形成された円筒状シートを用いている。即ち、下プレート21に取り付ける側となる、下部の半分程度は径が小さく一定の円筒状に形成され、上プレート11に取付ける側となる、上部の半分程度は、前記下側の円筒の径から、放射状に径を拡大して成形されたシートを使用した。
また、前記下半分の円筒の内径は、瞼を開いた状態に維持するといった目的から当然、上眼瞼と下眼瞼の間の瞼裂と同等か、あるいは、大きく形成されるが、本例においては適正な大きさとして20mmとした。そして、この大きさはそのまま開瞼器の開口部4の大きさとなっている。
尚、本例では、上リング1、下リング2を楕円形状に形成しているため、該開口部4は、眼瞼に装着されていない自然状態にあっても、該リングに連係する形で楕円形状となっている。また、協働して瞼を内外から挟持する上リング1と下リング2との間(上リングと下リングの隙間の長さ)の弾性シート3の長さを、装着したさいに確実に、かつ無理なく安全に保持できる長さとして、装着前の自然状態で、2mm以上、6mm以下程度(本例においては、4mm)に設定し構成した。また、弾性シート3を形成する円筒体のシートは、拡張することにより薄くなり透明性が高まることから、拡張したさいに透明性が確保可能であれば、自然状態(拡張前の状態)では、透明、あるいは半透明である必要はない。
【0015】
前記弾性シート3の一部に施す排液通路31を形成するための親水性化手段としては、該排液通路31部位に、例えばPVA(ポリビニルアルコール)のような親水性高分子を含浸し、熱処理により固定化する手段、排液通路31部位表面に高エネルギーを照射後、照射部位から親水性分子をグラフト重合する手段、あるいは、プラズマ重合により該排液通路31に親水性有機薄膜を形成する手段などの公知の手段があげられるが、本例においては、排液通路31を形成する部位に吸収線量200kGy以上、3,000kGy以下の電子線を照射した後、接着を強固にするためのシランカップリング剤を添加した親水性材料(例えば、PVA)含有のコーティング液を塗布して該排液通路31に親水性層を形成した。
尚、親水性化手段としては、弾性シート3の表面(本例においては、シリコーンゴム表面)を親水性化処理可能な加工手段であえば、前記PVA、MPC(2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)ポリマーなどの親水性高分子や酸化チタンなどの親水性材料などを利用する化学的処理(薬品処理、多層重合、グラフト重合、コーティング、印刷)でも、また、物理的処理(コロナ処理、フレーム処理、紫外線照射、プラズマ)でも良い。
【0016】
尚、当然、前述したサイズ、素材などの記述は、特定されるのではなく目的により最適となるものが選択されれば良い。
【0017】
前記実施の形態の開瞼器によると、前記弾性シートの最小部(上リングと、下リングの間の括れ部分)の外径が、瞼裂とほぼ同等か、それよりも大きな径に形成されており、また、該弾性シートが上リングと下リングに拡張等により取付けて固定された構造であることにより、該開瞼器の下リングを結膜嚢内部に挿入し、眼瞼に装着すると、前記上下のリング及び弾性シートの張力によって、瞼裂が外側方向に引っ張られるため、上眼瞼と下眼瞼の閉じようとする力に抗して、開瞼状態を保持することができる。また、前記弾性シートの最小部は、前記上眼瞼と下眼瞼の閉じようとする力により僅かに押し縮められるため、顔面側に位置する上リングと瞼結膜側に位置する下リングの間隔が狭まり、弾性シートによる眼瞼内外への密着度が増し、該眼瞼の一層確実な挟持ができ、また、該弾性シートによる皮膚側から瞼結膜側までの密着度も増すことで確実な装着状態が自然に形成される。
また、上リングは、可撓性を有していることにより、前記のように上下の眼瞼により弾性シートが押し縮められると、該弾性シートにリングが引っ張られることで撓み、自然に顔面形状に適合して密着するため、顔面に一層フィットした装着状態となる。
【0018】
また、上リングを楕円、あるいは楕円類似形状とすることにより、上リングの顔面横方向への大きさを確保しても、突起部となる鼻に器具が掛かるなどにより装着を不安定にすることなく、顔面に適合させての装着ができる。一方、下リングを楕円、あるいは楕円類似形状とすることにより、眼球への縦方向の長さを変えることなく、横方向のより広い領域の視野を展開することが可能となる。
また、下リングの最大直径部を、上リングの最大直径部の25%以上、60%以下の長さに形成すると、下リングを眼球内に挿入するのに適正な大きさとしたときに、上リングが顔面の適正な範囲を覆うことのできる大きさとなり、本発明の用途に最も適合する器具とすることができる。例えば、これを逆に、下リングの直径を上リングの25%未満とすると、下リングを眼球内に挿入したさいに、上リングが大きすぎ、顔面より大きくはみ出す可能性が高くなり、一方、60%より大きくした場合は、下リングの眼球内挿入時に、上リングが十分に顔面を覆うことができない可能性が高くなってしまう。
更に、弾性シートが透明あるいは半透明であるため、術中、眼瞼や眼球の状態を確認しながらの処置が可能で、充血や乾燥などの異常状態を容易に把握して、直に対応することができる。
加えて、弾性シートの引張り伸び率を600%以上とすると、製造段階で拡張してのリングへの取り付けが容易となり、また、装着後の前記弾性に起因する作用を無理なく達成することができ、適正な開瞼状態を獲得することができる。例えば、これを逆に、伸び率が600%未満のものとすると、拡張しての製造が困難であることに加え、結膜嚢内部へ装着したさいの張力が大きくなることで、必要以上の開孔状態となって眼瞼に負担をかけてしまう懸念があり、また、弾性シートの柔軟性も損なわれるため装着時にシワが発生してしまい術野が確保し難くなることが懸念される。
また、本開瞼器では、顔面(皮膚)側から瞼結膜側までを覆う弾性シート部分がドレープとしての役割も担っており、睫毛の露出や、マイボーム腺分泌物等により引き起こされる感染を、別途ドレープを用いることなく防止することができる。
【0019】
前記構成により、確実な開瞼状態の保持と、眼瞼への装着が可能となることに加え、下リングを除き全体がフレキシブルであるため、本器具を眼瞼に装着すると、装着された人に適合して無理のない形状が自然に形作られることで、一つのサイズの器具により、幅広く個体差を吸収した、眼瞼及び顔面にフィットさせての保持が可能な器具とすることができる。
また、結膜嚢内に挿入され瞼結膜側に接触する下リングの面積を小さくしても、前記作用のように眼瞼をしっかり挟持して、確実な装着を可能とすることができるため、該下リングを従来のものと比較して小さくすることができ、結果、眼球への接触面積が小さくなり、該眼球に対する負担を小さくすることができる。
更に、弾性シートが透明、あるいは半透明であるため眼瞼の状態を確認しながらの手術が可能であり、また、弾性シートにより、睫毛やマイボーム腺が覆われ、術野に出ないため、感染予防が図られるなど安全性の高い器具とすることができる。
【0020】
更に、弾性シート3の一部に、術野に溜まる水や分泌物を外部に自然排出可能な排液通路31を設け、器具を眼瞼に挿着するさい該排液通路31を目尻側に向けてセットし、患者の顔を目頭側(鼻側)より目尻側が低くなるように位置させると、溜まった排液は目尻側の該排液通路31方向に流れやすく、また、該排液通路31を親水性とし周囲を疎水性としていることで、排液は、疎水性部分で撥かれて自然に親水性部位の通路に集液され、該通路31を通して外部に自然排出することが可能となる。
また、排液通路31を目尻側に位置させることは、排出された排液の処理等を考慮すると最も手術の邪魔にならない位置となっている。
【0021】
図3は、前記実施の形態の変形例を示すドレープ付き開瞼器の底面図で、上リング、あるいは、下リングの形状が楕円形状でないものの例を示しており、図Aが円形、図Bが楕円類似形状の一例として、トラック状の形状を示すものである。
【0022】
図4は、本発明の第二の実施形態を示すドレープ付き開瞼器の全体構成図(Aが正面図、Bが底面図)を示している。
本例のドレープ付き開瞼器は、器具を眼瞼に装着したさい、装着部位の顔面形状に一層フィットしやすいように、上リング1の形状を、予め円形あるいは楕円でなく、変形された液滴形状とし、また、装着したさいに、顔面の曲線に沿うように鼻側から耳側に低く下がるように傾斜させて形成したものを示している。
予め、このような形状に形成された上リング1を用いると、器具を眼瞼に装着したさいに、より確実な顔面との密着状態が得られると共に、手術中の洗眼のさい、洗眼水の逃げ道になり、手術部位に洗眼した水が一層溜まりにくい形状となっている。
上記されるように、上リング1の形状は本例(円形、楕円等を含む)に限定するものではなく、顔面装着部を考慮して適切となる、どの様な形状も採ることができる。
【0023】
図5は、本発明の第三の実施の形態を示す一部断面の模式図を示している。
本例のドレープ付き開瞼器は、前述の第一の実施の形態と同様の上リング1、下リング2及び弾性シート3と、本例独自の形態となる、排液通路31となる部位に付設される帯状に形成された吸引スポンジ5により構成される。
本例の吸引スポンジ5は、吸水性に富んだ医療用セルローススポンジを幅1mm以上、15mm以下(本例においては、8mm)、長さ30mm以上(本例においては100mm)、厚さ1mm以上、6mm以下(本例においては、3mm)の帯状に形成するもので、予め、弾性シート3の所定の位置に取り付けられたものでも、別部品として形成され、使用時に所定の位置に取り付けて使用するものでも良い。
弾性シート3への該吸引スポンジ5の取り付けは、該吸引スポンジ5の一方端部を術野であって排液の溜まる開口部4内の辺縁に接して位置させ、他端部は、上リング1を超えて長く引き出し器具外部に位置させて、該先端は排液を収容する排液容器6内に入れられて設けられることが好ましい。また、該吸引スポンジ5は、器具を眼瞼に装着したさいに手術の邪魔にならない目尻側に位置されることが好ましい。
排液通路として吸引スポンジ5を付設することで、術野に溜まる水や分泌物は自然に該吸引スポンジ5に吸収され、毛細管現象により通路(スポンジ)を通って外部(排液容器6)に排出されることになる。また、周囲が疎水性であることで一層吸引スポンジに排液が集液される効果が期待できる。
【0024】
次に、本例のドレープ付き開瞼器を眼瞼に装着しての使用状態に付いて、作用等含め再度まとめて説明する。
本器具を眼瞼に装着するさいは、瞼裂を大きく開き、上リング1を半分に折り曲げるように大きく撓ませると共に、下リング2の一部を手指で掴み、該下リング2を掴んだ側と反対側から結膜嚢内(瞼結膜側)に挿入し、眼瞼内に固定するが、挿入のさいには、排液通路31が目尻側になるように挿入する。
挿入すると、該下リング2は眼球及び瞼結膜側に接触して位置し、上リング1は眼瞼を囲繞して顔面に接触して位置することになり、弾性シート3は、皮膚側から瞼結膜側に接触して位置することになる。そして、この状態で、弾性シート3により、上眼瞼及び下眼瞼は外方方向に開かれ、開瞼状態が維持され、前記弾性シート3の開口を手術のための開口部4として用い、手術が行われることになる。
そして、このように装着されると、前述の通り、弾性シート3が上リング1と下リング2に拡張して取り付けられていることにより、該弾性シート3が上下瞼の閉じようとする力に抗して、瞼裂を開いた状態に維持すると同時に、同じ上下瞼の閉じようとする力により、該弾性シート3が僅かに押しつぶされ、該シートに連結している上リング1及び下リング2が近接する方向に引っ張られることにより、リング間の距離が小さくなり、結果、上リング1と下リング2とにより眼瞼を挟持する力が強くなり、装着状態が安定したものとなり、また、上リング1が可撓性を有しているため、この引っ張りの作用により、撓む等の変形が自然におこることで、顔面との密着状態を高め、顔面形状(例えば、鼻側が高く、耳側に低く傾斜する形状)に適合した装着状態を獲得することができる。
また、排液通路31を通って術野に溜まる排液が自然排出されることで、手術中眼球の乾燥防止や血液の洗浄のために注入され、手術部に溜まってしまう水や分泌物を外部に排液するために特に作業をする必要がない。
尚、以上全ての実施の形態を含め本発明の開瞼器は、ディスポーザブル(一回使い捨て)の器具を想定しており、従来の開瞼器で一般的な滅菌して複数回使用するものに比較して、清潔であり、使用勝手に優れ、使用のための面倒もない。
【産業上の利用可能性】
【0025】
また、本発明は人間への手術に限定することなく、動物の手術に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1. 上リング
11. 上プレート
2. 下リング
21. 下プレート
3. 弾性シート
31. 親水性通路
4. 開口部
5. 吸引スポンジ
6. 排液容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼瞼を囲繞し、顔面に接して装着される可撓性を有する上リングと、
結膜嚢内に挿入され、瞼結膜側に接して装着される下リングと、
柔軟な筒型薄膜の端部の一方を前記上リングへ、他方を下リングへ各々取り付け、顔面側から瞼結膜側にかけて位置する弾性シートより構成し、
前記弾性シートの最小部の外径を、瞼裂(上眼瞼と下眼瞼の間)とほぼ同等とするか、あるいは、大きく形成してなる開瞼器において、
前記弾性シートの一部に、術野に溜まる排液を術野外部に自然排出可能な排液通路を備えることを特徴とするドレープ付き開瞼器。
【請求項2】
前記上リング及び下リングは、円形または楕円形、あるいは楕円類似形状に形成される請求項1のドレープ付き開瞼器。
【請求項3】
前記下リングの最大直径部は、前記上リングの最大直径部の25%以上、60%以下の長さに形成される請求項1乃至2のいずれかのドレープ付き開瞼器。
【請求項4】
前記弾性シートは、透明あるいは半透明である請求項1乃至3のいずれかのドレープ付き開瞼器。
【請求項5】
前記弾性シートは、引張り伸び率600%以上の樹脂より形成する請求項1乃至4のいずれかのドレープ付き開瞼器。
【請求項6】
前記弾性シートに備える排液通路の部分は親水性に形成され、他の部位は疎水性に形成されてなる請求項1乃至5のいずれかのドレープ付き開瞼器。
【請求項7】
前記排液通路の親水性は、前記弾性シートの排液通路となる部位の表面を親水性化処理することにより形成する請求項6のドレープ付き開瞼器。
【請求項8】
前記弾性シートに備える排液通路の部分は吸水性材料を付設し、他の部位は疎水性に形成されてなる請求項1乃至5のいずれかのドレープ付き開瞼器。
【請求項9】
前記吸水性材料は、吸引スポンジである請求項8のドレープ付き開瞼器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−55990(P2011−55990A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207873(P2009−207873)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(599045903)学校法人 久留米大学 (72)
【出願人】(000153823)株式会社八光 (45)