説明

ドーパミントランスポーターレベルを評価することによるレビー小体型認知症の診断およびレビー小体型認知症の処置のモニタリングのための方法

患者の中枢神経系の少なくとも1つの領域におけるドーパミントランスポーターのレベルを評価することでヒト患者のレビー小体型認知症を診断する方法であって、患者のドーパミントランスポーターのレベルが低いことによりレビー小体型認知症が示唆される。本発明の実施形態では、ドーパミントランスポーターのレベルの評価は、PETまたはSPECTを用いてドーパミントランスポーターに対するドーパミントランスポーターリガンドの結合を評価することを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連する事例の情報)
本願は、2007年10月31日に出願された米国仮特許出願第60/984194号の利益を主張する。米国仮特許出願第60/984194号の教示は、その全体が参考により本明細書中に援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明はドーパミントランスポーターと、ドーパミントランスポーターのイメージングと、レビー小体型認知症の診断およびモニタリングとに関する。
【背景技術】
【0003】
レビー小体型認知症はレビー小体型痴呆症(DLB:Dementia with Lewy Bodies)とも呼ばれ、高齢者の変性認知症の原因としてアルツハイマー病に次いで多く、認知症の入院の原因としてもアルツハイマー病に次いで多い。DLBは、脳の一部の領域で見られる異常な構造物(レビー小体)に関連した神経変性障害である。レビー小体(LB:Lewy bodies)は、神経細胞に認められる円形好酸性の細胞質内封入体である。LBが好発する領域は脳幹、皮質下諸核、辺縁皮質および新皮質である。LBが蓄積すると、線条体の機能的なドーパミン作動性ニューロンの終末が脱落する。
【0004】
現在の基準によるDLBの診断は本質的に主観的であり、診断に不一致が生じる。DLBの診断には、詳細な既往歴、および認知症に熟練した臨床医による十分な精神状態検査、認知検査および理学的検査など十分な臨床評価が必要となる。DLB患者には他の認知症の患者と異なる特定の処置要件および機能障害であり、特殊な処置、多くの場合、集学的処置が必要となる。
【0005】
DLBでは、アルツハイマー病(AD:Alzheimer’s disease)および血管性認知症(VaD:vascular dementia)の患者には稀な認知の変動、幻覚および/または睡眠障害が認められる。このことがDLB患者およびその介護者にとって特に問題になる恐れがある。DLB患者はアルツハイマーの患者よりも急速に悪化し、および/またはより集中的かつ専門的なケアを必要とする場合がある。
【0006】
神経細胞の細胞質内封入体レビー小体は強い好酸性であり、通常ヘマトキシリンエオジン染色される。レビー小体は脳幹の有色素核、黒質および青斑核のほか、迷走神経の運動核、マイネルト基底核、脊髄および交感神経節に発生する。その構造および組成は脳の様々な部分で異なり、脳幹では、皮質の封入体には通常認められないくっきりとした暈輪を伴っている。超微細構造は主に、中心に芯と呼ばれる緻密な領域を持つフィラメントからなる。免疫細胞化学的には、レビー小体は、リン酸化および非リン酸化神経フィラメントサブユニット、チューブリン、微小管結合タンパク質1および2と同じエピトープを持ち、ウビキウチンで陽性に免疫染色される。
【0007】
現在の推計では、認知症と診断された約60〜75%がアルツハイマー型および混合型(アルツハイマー型および血管性認知症)、10〜15%がレビー小体型であり、残りが前頭側頭葉変性症、アルコール性認知症、純粋な血管性認知症など認知症の全領域である。
【0008】
任意の特定の理論に拘泥するわけではないが、DLBはアルツハイマー病とパーキンソン病との間で臨床的に重複する部分がある。(黒質の)ドーパミン産生ニューロンの脱落はパーキンソン病の場合と類似しており、(マイネルト基底核などの)アセチルコリン産生ニューロンの脱落はアルツハイマー病の場合と類似していることに留意されたい。また、大脳皮質が変性すると脳萎縮(または収縮)が起こる。剖検シリーズでは、DLBの病因がアルツハイマー病の病因と同時に認められることが多いことが明らかになっている。すなわち、レビー小体封入体が皮質に認められると、神経原線維のもつれ(異常リン酸化タウタンパク質)、老人斑(沈着したβアミロイドタンパク質)および顆粒空胞変性など、主に海馬に見られるアルツハイマー病の病因が同時に認められる場合が多い。
【0009】
DLBではアルツハイマー病の場合と同様にコリン作動性(アセチルコリン産生)ニューロンの脱落が認知機能および情緒的機能の低下に関係し、ドーパミン作動性(ドーパミン産生)ニューロンの脱落はパーキンソン病の場合と同様に運動制御の低下に関係していると考えられている。したがって、DLBは、いくつかの点でアルツハイマー病が原因の認知症にもパーキンソン病が原因の認知症にも似ている。実際に、初期のDLBはアルツハイマー病および/または血管性認知症(多発梗塞性認知症)と混同されることが多い。神経病理学的変化と、呈する症状(認知、情緒および運動)とが重複するため、正確な鑑別診断に至ることが難しい場合がある。
【0010】
神経病理学的変化はレビー小体の形成ならびに脳幹および他の皮質下諸核における神経細胞の選択的脱落を示すほか、新皮質および辺縁皮質にレビー小体が現れる場合もあるが、頻度はびまん性レビー小体病での報告を大きく下回る。老人斑はよく見られる一方、もつれは稀であり、この斑は、神経突起要素を伴わないびまん性であることが多い。こうした例は、皮質および皮質下のレビー小体、老人斑の形成ならびに側頭皮質の海綿状空胞形成を特徴とする、アルツハイマー病のレビー小体変異体として報告されているものと類似している。
【0011】
当然のことながら時が経てば知識が増えて、開業医の臨床症候が変化する。だが、前述または関連する診断に共通する構成要素は、レビー小体の数および位置またはレビー小体が存在しないことをインビボで判定するための手段となる。また、レビー小体の増加、減少または状態を経時的に、および/または、治療処置および環境要因に応じてインビボで判定できれば、大きな利益となる。さらに、ヒト被験者でこうした判定を行うだけでなく動物モデルでもこうした判定を行えば、処置研究が加速するであろう。
【0012】
非特許文献1;非特許文献2;および非特許文献3については、本明細書に引用する全刊行物と同様に参照によってその全体を本明細書に援用する。イオプルパンまたはFP−CITに関しては、123I−2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)−N−(3−フルオロプロピル)ノルトロパンとも呼ばれる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Gaig,et al.,「123I−Ioflupane SPECT in the diagnosis of suspected psychogenic Parkinsonism」,Movement Disorders,21(11),1994 −1998(2006)
【非特許文献2】Costa,et al.,「Dementia with Lewy bodies versus Alzheimer’s disease:Role of dopamine transporter imaging」,Movement Disorders,18(S7),S34 −S38(2004)
【非特許文献3】Walker et al.,「Dementia with lewy bodies:A comparison of clinical diagnosis,FP−CIT SPECT imaging and autopsy」 J Neurol Neurosurg Psychiatry 17353255(March 12,2007)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0014】
我々は、ヒト脳内のドーパミントランスポーターが異常レベルであると、レビー小体型認知症が示唆されることを発見した。よって、脳内のドーパミンレベルを評価すれば、レビー小体型認知症の診断を確認したり、またはレビー小体型認知症の処置のモニタリングを支援したりすることができる。
【0015】
本発明は2β−カルボメトキシ−3β−(4’−フルロフェニル)−N−(3−ヨード−E−アリル)ノルトロパン(ALTROPANE(登録商標),Alseres Pharmaceuticals,Inc.Hopkinton,MA)を特に参照しながら米国特許第5,493,026号に開示されているように123I化合物を用いて、probableレビー小体型痴呆症をアルツハイマー病および/またはパーキンソン病認知症と鑑別しやすいようにする。本発明は、これと同じ機能のため、米国特許第6,171,576号および米国特許第6,548,041号に開示されているように放射標識としてテクネチウム(99mTc)を組み込んだトロパンも用いる。
【0016】
様々なドーパミントランスポーター造影剤をレビー小体型認知症の生物学的マーカーとしてドーパミントランスポーターのアッセイに使用することができる。たとえば、患者が成熟し、および/または長期的に処置を受けるのに伴い、こうしたイメージングを用いてレビー小体型認知症を診断し、モニターする。
【0017】
本発明は、ヒト患者の中枢神経系の少なくとも1つの領域におけるドーパミントランスポーター活性を評価または判定することで、前記患者のレビー小体型認知症を診断する方法を提供する。
【0018】
一態様では、この方法は標識(すなわち、放射能標識)ドーパミントランスポーターリガンドを患者に投与することを含み、この評価はドーパミントランスポーターに結合する標識ドーパミントランスポーターリガンドの量を判定することを含む。ドーパミントランスポーターに結合する標識ドーパミントランスポーターリガンドの量については対照と比較する。前記患者のドーパミントランスポーターが高レベルであれば、レビー小体型認知症が示唆される。任意の評価技法としてPET(positron emission tomography)またはSPECT(single photon emission computed tomography)イメージングがある。ドーパミントランスポーターリガンドは、ドーパミントランスポーターに結合する化合物を含む。好適なリガンドの例としては、(11C)CFT((11C)WIN35,428)、123I−Altropane(登録商標)および(18F)CFTが挙げられる。PETに用いるのに特に好適なリガンドには、(11C)Altropaneがあるが、これに限定されるものではない。SPECTに用いるのに好適なリガンドには、(99mTc)テクネピン、O−1505および同様の化合物などのテクネチウム標識フェニルトロパンプローブがあるが、これに限定されるものではない。本発明の方法に有用な化合物の他の例については、参照によってその開示内容を本明細書に援用する米国特許第5,493,026号;同第5,506,359号;同第5,770,180号;同第5,853,696号;同第5,948,933号;同第6,171,576号;同第6,548,041号および同第7,081,238号に記載されている。下記を開示するMaculaire et al.への米国特許第6,180,083号も参照されたい。
【化1】

【0019】
式中、RはI、Iの放射性同位元素または式Sn(Rを持つ基を表し、Rはアルキル基であり;RはH、C〜Cアルキル基、フェニル基、ハロゲン原子で置換されているフェニル基、メチル基またはメトキシ基、そのアルキルまたはアルケニル基が1〜6個の炭素原子を含み、そのフェニル基はハロゲン原子で置換されていてもよいフェニルアルキル基またはフェニルアルケニル基、C〜Cシクロアルキル基またはアルキニル基を表し;XはClまたはFを表し;YはCHを表す。
【0020】
評価する患者の中枢神経系の部分は、好ましくはヒト脳、たとえば、線条体の部分である。
【0021】
ドーパミントランスポーターのレベルを判定するためのドーパミントランスポーターの評価は、ドーパミントランスポーター利用能または結合能を評価することを含んでもよい。たとえば、ドーパミントランスポーター利用能を評価する方法では、患者のドーパミントランスポーター利用能を対照のドーパミントランスポーター利用能と比較し、患者のドーパミントランスポーター利用能が低ければ、レビー小体型認知症が示唆される。同様に、ドーパミントランスポーター結合能を測定する場合、患者のドーパミントランスポーター結合能を対照のドーパミントランスポーター結合能と比較し、患者のドーパミントランスポーター結合能が低ければ、レビー小体型認知症が示唆される。
【0022】
本発明はまた、ヒト患者に対するレビー小体型認知症の処置の有効性の判定方法を提供する。この方法は、患者の中枢神経系の少なくとも1つの領域において最初のドーパミントランスポーターのレベルを判定または評価し、患者を処置し、次いで、たとえば、処置から2週間以上後に同じ領域のドーパミントランスポーターのレベルを判定または評価することを含む。次に、最初のドーパミントランスポーターのレベルとその後のドーパミントランスポーターのレベルを比較して処置の有効性を判定または評価する。ドーパミントランスポーターのレベルの低下速度が抑制されれば、処置が有効であることが示唆される。一実施形態では、最初のドーパミントランスポーターのレベルを評価する前に標識ドーパミントランスポーターリガンドを患者に投与し、さらに、必要に応じてその後のドーパミントランスポーターのレベルを評価する前に標識ドーパミントランスポーターリガンドを患者に投与する。この方法では、評価は、ドーパミントランスポーターに結合する標識ドーパミントランスポーターリガンドの量を判定することを含む。ドーパミントランスポーターのレベルを評価するこのその後のステップでは、処置の経過に従って複数回繰り返してもよい。
【0023】
レビー小体型認知症の処置は、たとえば、リバスチグミン(Novartis AG)、ドネペジル(Eisai Co Ltd)およびタクリン(Warner−Lambert Co)およびNamenda(登録商標)(Mematine HCl、Forest Pharmaceuticals)などの医薬品の投与を含んでもよい。有効性の評価は、PETまたはSPECT技法によるイメージングを含んでもよい。
【0024】
処置の有効性については、処置の前にドーパミントランスポーター利用能を評価し、その値を、その後の評価ステップのドーパミントランスポーター利用能と比較することで判定することができる。その後の評価でドーパミントランスポーター利用能が上昇するか、またはドーパミントランスポーター結合能の低下速度が抑制されれば、処置が有効であることが示唆される。同様に、結合能を用いてドーパミントランスポーターのレベルを評価してもよく、最初の評価のドーパミントランスポーター結合能をその後の評価の結合能と比較して、その後の評価でドーパミントランスポーター結合能が上昇するか、またはドーパミントランスポーター結合能の低下速度が抑制されれば、処置が有効であることが示唆される。
【0025】
本発明はまた、レビー小体型認知症に至る恐れがあるレビー小体の初期形成が個体に発生しているかどうかを判定する方法も提供する。この方法は、患者の中枢神経系の少なくとも1つの領域におけるドーパミントランスポーターのレベルを評価し、患者のドーパミントランスポーターのレベルと予め設定した正常なドーパミントランスポーターのレベルとを比較する。正常レベルよりも低いと、レビー小体型認知症になる可能性が高いことが示唆される。標識ドーパミントランスポーターリガンドについては評価ステップの前に投与し、評価ステップは、ドーパミントランスポーターに結合する標識ドーパミントランスポーターリガンドの量を判定することを含む。
【0026】
本発明はさらに、ヒト患者のレビー小体型認知症に対する処置の進行をモニターする方法も提供する。この方法は、処置の過程で複数回、患者の中枢神経系の少なくとも1つの領域におけるドーパミントランスポーターのレベルを判定または評価することを含む。処置過程の様々な時点で脳の同じ領域におけるドーパミントランスポーターレベルの試験結果を比較すれば、処置の進行をモニターすることができる。この方法では、患者に標識ドーパミントランスポーターリガンドを投与してもよく、ドーパミントランスポーターに結合する標識ドーパミントランスポーターリガンドの量を測定してドーパミントランスポーターのレベルを評価する。結合した標識ドーパミントランスポーターリガンドの量は、任意のイメージング法、好ましくはPETまたはSPECTイメージングを用いて測定する。
【0027】
本発明の方法は、以下の利点の1つまたは複数を提供する可能性がある。たとえば、ドーパミントランスポーターのレベルの評価により、レビー小体型認知症の診断が生物学に基づく客観的なものなる。ドーパミントランスポーターのレベルに基づく診断は、あらゆる年齢の患者にも、さらに男性にも女性にも用いることができる。本発明の方法は、成人だけでなく小児のレビー小体型認知症の診断にも有用である。一実施形態では、以下に限定されるものではないが、123I−Altropaneなどドーパミントランスポーターレベルの評価に用いる造影剤が安全かつ患者における忍容性が良好である。
【0028】
以下の好ましい実施形態の説明および特許請求の範囲から、当業者には本発明の他の特徴と利点が明らかになるであろう。
【0029】
本明細書で使用する場合、「ドーパミントランスポーターリガンド」という語は、ドーパミントランスポーターに結合する化合物を意味する。一実施形態では、化合物は、セロトニントランスポーターよりもドーパミントランスポーターに選択的に結合する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ドーパミントランスポーターのレベルの評価は、たとえば、PET(陽電子放射断層撮影)またはSPECT(単光子放出コンピューター断層撮影)を用いてドーパミントランスポーター利用能を評価して行う。ドーパミントランスポーター利用能を測定するには、このトランスポーターを標的とする標識プローブを脳に、たとえば、静脈内に導入し、PETまたはSPECTを実施する。PETまたはSPECTイメージから結合能を測定してドーパミントランスポーターの密度を定量する。結合能は最大結合部位数Bmaxを解離定数Kで除した商と定義する。結合能は、プローブの導入から約15分後に開始する連続スキャンにより算出する。関心領域を特定し、その領域のカウントを判定する。適切なモデリングにより、結合能の数値を算出し、そうした値を同様の処置およびスキャンプロトコルを受けている被検体間で比較する。123I−Altropaneの線条体の結合能(k3/k4)は、Farde,et al.(Farde,et al.,1989,J.Cereb.Blood Flow Metab 9:696 708)が記載しているような参照領域アプローチにより算出する。
【0031】
分かりやすくいうと、ドーパミントランスポーター(ドーパミンアクティブトランスポーター、DAT、SLC6A3とも呼ばれる)とは神経伝達物質ドーパミンに結合し、シナプスからニューロンに移動させる膜貫通タンパク質である。ドーパミントランスポーターに関連するイメージングでは、ある領域、たとえば、脳の領域のドーパミントランスポーターの密度を判定する。
【0032】
ドーパミントランスポーターを標的とする造影剤には、(11C)Altropane、(11Cまたは18F)WIN35,428((11C)CFT)、123I−Altropane、(99mTc)O−1505、(99mTc)テクネピンおよび同様の化合物がある。こうした薬は様々な親和性でドーパミントランスポーターに結合するため、複数の異なる評価を行うことができる。上記の薬の一部の構造、合成および/または供給源については、たとえば、各々を参照によって本明細書に援用するFischman et al.,1998,Synapse 29:125 41(123I−Altropane);Madras et al.,1996,Synapse 22:239 46;Meltzer et al.,1993,J.Med.Chem.36:855 62;and Milius et al.,1990,J.Medicinal Chem.34:1728 31に記載されている。別の有用な化合物としてNycomed−Amersham製の123I イオフルパン(DatSCAN)がある。
【0033】
本発明の方法の造影剤として有用な化合物には、その全体を参照によって本明細書に援用する米国特許第6,548,041号に記載されている化合物がある。こうした化合物は、8位の窒素原子を介してキレート配位子に結合するトロパン部分を持っている。キレート配位子はテクネチウムまたはレニウム放射性核種と錯体を形成し、ドーパミントランスポーターに選択的に結合する中性標識錯体を生成することができる。ドーパミントランスポーターに結合するのはトロパン部分である。
【0034】
ドーパミントランスポーターのレベルを評価すれば、伝統的なレビー小体型認知症の診断法を補完し、場合によっては、取って代わることもできる。PETまたはSPECTを用いたドーパミントランスポーターのレベルの評価は、レビー小体型認知症の診断の客観的な生物学的基準となり、これを用いればInternational Consensus Criteria(ICC)標準に基づきレビー小体型認知症の診断を確認することができる。(その各々の全体を参照によって本明細書に援用するMcKeith IG,et al.「Consensus guidelines for the clinical and pathologic diagnosis of dementia with Lewy bodies」,Neurology 1996;47:1113−1114,McKeith IG,et al.「Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies」,Neurology 2005;65(12):1863−72,and McKeith IG,et al.「Prospective validation of consensus criteria for the diagnosis of dementia with Lewy bodies」,Neurology.2000a;54:1050−8を参照されたい。また、こうした評価を用いれば、診断の不一致を解消したり、レビー小体型認知症との診断またはそれではないとの診断に異議を唱えたりすることもできる。さらに、ドーパミントランスポートの評価を用いれば、レビー小体型認知症の主観的な検査基準も改良される。
【0035】
ICCには既に、DLBを示唆する特徴としてSPECTまたはPETイメージングにより確認される、大脳基底核におけるドーパミントランスポーター取り込み量が少ないことが含まれている。1つまたは複数の中核症状(認知の変動、再発性幻視および特発性のパーキンソニズム)に加えてこの示唆する特徴の1つまたは複数が認められる場合、probable DLBと診断される。probable DLBに対するICC基準については剖検データに基づきプロスペクティブな確認が行われており、感度が83%および特異度が95%であることが明らかになっている。
【0036】
さらに、ドーパミントランスポーターのPETおよびSPECTイメージングを用いれば、レビー小体型認知症の処置のモニタリングおよび調整を行うことができる。個々の患者の処置の有効性については、投与の前後にドーパミントランスポーターのレベルを評価することでモニターする。たとえば、処置の直前にドーパミントランスポーターのレベルを評価し、その後、たとえば、処置剤を投与してから2週間後、数ヶ月後またはそれ以上後にドーパミントランスポーターのレベルを評価する。ドーパミントランスポーターの利用能の低下はPETまたはSPECTイメージにおいて結合能の低下として現れる。こうした客観的なデータは、個々の患者に対して医師が最も効果的な薬剤および最も効果的な投薬量を判定するのに役立つ。
【0037】
また、処置を長期的にモニターするのにドーパミントランスポーターレベルの評価を用いれば、処置がトランスポーターレベルに作用しているかどうか、さらに処置を停止できるかどうかを医師および患者が判定するのに役立つ。
【0038】
最後に、ドーパミントランスポーターレベルの評価により、レビー小体型認知症のリスクがある個体が同定される。ドーパミントランスポーターのレベルが低いことが分かった患者は、通常のレビー小体型認知症検査を受けるように紹介される。
【実施例】
【0039】
以下の実施例は本発明のいくつかの有用な実施形態および態様の説明に資するものであり、その範囲を限定するものと解釈してはならない。また、別の材料および方法を用いても同様の結果が得られる。
(実施例1)
【0040】
以前にレビー小体型認知症と診断された6人の被検体およびレビー小体型認知症と診断されていない対照個体について、123I−Altropaneを用いたドーパミントランスポーターのSPECTイメージングを行う。123I−Altropane、E−2β−カルボメトキシ−3β−(4−フルオロフェニル)−N−1(1−ヨードプロプ−1−エン−3)ノルトロパンは、N−アリルCFT(WIN35,428)、フェニルトロパンアナログのヨードアナログである。Altropaneの分子式はC1821IFNOである。Altropaneをヒト被験者または患者に投与する前に、13.2時間の半減期でγ線を放出する放射性同位体123I−で標識する。イメージングの開始時に試験対象の個体ごとに1mCiを超える123I−Altropaneを静脈内注射で投与する。線条体のイメージを収集し、線条体の結合能を判定するため放射線科医に解析してもらう。一般に、SPECTイメージングに用いる手法は、参照によって本明細書に援用するFischman et al.,1998,Synapse 29:125 41に記載されている方法と同じである。
【0041】
イメージングにより判定すると、この6人のレビー小体型認知症の個体は年齢を一致させた正常個体の予想レベルと比較して結合能が低く、したがって、ドーパミントランスポーターのレベルも低いことが示される。
(実施例2)
【0042】
サルを用いたインビボおよびインビトロでの前臨床試験から、Altropaneは、ドーパミントランスポーターに対して報告された範囲内にある密度でドーパミンに富んだ線条体の領域に優先的に結合することが明らかにされる。Madras,et al.,1998,Synapse 29:105 115。Altropaneはセラトニントランスポーターと比較してドーパミントランスポーターに対する選択性が高くことが明らかになっている。Madras,et al.,1998,Synapse 29:93 104。さらに、インビトロでの結合試験では、Altropaneがドーパミントランスポーターの特異的高親和性部位に結合することも明らかにされている。Elmaleh,et al.,1996,J.Nucl.Med.37:1197 1202;Madras,et al.,1998,Synapse 29:116 127。
【0043】
診断評価
各被検体は、ICCに記載されているような標準化された臨床評価を受ける。この評価には、認知症の他の原因を排除するため既往歴および臨床検査による評価が含まれる。比較を行うには、レビー小体型認知症を診断する任意の方法を用いればよい。臨床評価は、レビー小体型認知症を知り、その処置を行う臨床医が行う。
【0044】
被検体をSSKIすなわちルゴール液で処置して123Iによる甲状腺曝露を抑える。
【0045】
手順:
1)注射前に簡単な神経学的評価を行う
2)頭部を適当に固定して被検体をスキャナーに配置する。
3)約30秒にわたり放射性医薬品を投与し、続いて20mLの食塩水フラッシュを約30秒にわたり投与し、Altropaneと食塩水フラッシュの合計注入時間を約60秒とする。
4)2分間の一連の連続SPECTスキャンを実施する。
5)123I−−Altropaneの投与およびSPECTイメージングの約60〜90分後に注射後の簡単な神経学的評価を行う。
【0046】
約8mCiの123I−−Altropaneを約30秒にわたり静脈内に注入し、続いて約30秒にわたり20mLの食塩水フラッシュを投与し、Altropaneおよび食塩水フラッシュの合計投与時間を約60秒とする。8mCiの注射量は約5〜20mLの幅があってもよいことに留意されたい)。
【0047】
静脈内(i.v.)注射用の123I−−Altropane滅菌パイロジェンフリー溶液の臨床用量はそれぞれ下記を含有した:
123I−−Altropane8mCi 123I− 約15ngのAltropane。
U.S.Pエタノール 7体積%
U.S.P注射用0.9%塩化ナトリウム 90体積%
U.S.P注射用水 3体積%
【0048】
イメージングには頭部を効果的に固定化することが有用である。眼窩耳孔線を回転面と一致させる。注入終了直後にダイナミックSPECTイメージングを開始する。123I−Altropane注入終了直後から約15回SPECTスキャンを連続して実施する。SPECTスキャンはそれぞれ2分かけて実施し、イメージング時間は各SPECT試験間のリセット時間を考慮して合計60分間とする。
【0049】
スキャン時間に関しては、ドーパミントランスポーターリガンドの注射後約15分から約45分の時間帯にドーパミントランスポーターリガンドのSPECTスキャンの信号対雑音(S/N)比が最適であることが発見された。
【0050】
イメージの取得にはいくつかの選択肢が利用できる。一実施形態では、SPECTスキャニングは1回の連続スキャンまたは一連の比較的短いスキャンである。別の実施形態では、SPECTスキャニングは、1回または複数回の2分間の一連のスキャンを含む。別の実施形態では、SPECTスキャニングは1回または複数回の一連の10分間スキャンを含む。特定の一実施形態では、SPECTイメージを1回の30分間の連続スキャンにより作成する。別の特定の実施形態では、SPECTイメージを60分かけて2分間の一連のスキャンにより作成する。別の特定の実施形態では、SPECTイメージを40分かけて4分間の一連のスキャンにより作成する。
【0051】
15回のSPECTスキャンそれぞれの横断スライスセットについては、Butterworthフィルターを用い、開始時に推奨される次数4.0およびカットオフ周波数0.26cycles/pixelとするか、またはそれに準ずるものとして再構成する。イメージは、使用するγカメラごとに最適化すると有用である。減弱補正は、Changアルゴリズムを用いて行う。
【0052】
主要解析
ベースラインの人口統計学的データおよび既往歴データについて、レビー小体型認知症被検体と非レビー小体型認知症被検体との比較を行う。量的変数の比較には必要に応じてt検定またはウィルコクソン順位和検定のどちらかを用いる。質的変数の比較はフィッシャーの正確確率検定に基づく。
【0053】
I−−Altropaneイメージの定量解析
123I−−Altropaneの線条体の結合能(k3/k4)は、Farde,et al.(Farde,et al.,1989,J.Cereb.Blood Flow Metab 9:696 708)が記載したような参照領域アプローチにより計算する。簡単に説明すると、受容体に対する特異的結合は、受容体の密度(Bmax)およびリガンドの解離定数(K)の関数である。リガンドの特異的結合はイメージング手順の時間中に最大になる。リガンドの特異的および非特異的結合の時間放射能曲線(TAC:time−activity curve)から最大特異的結合の時間を判定する。線条体および後頭皮質における非特異的結合が無視できる程度であると仮定することによって、線条体の時間放射能曲線(StrTAC)が特異的に結合したリガンドと遊離リガンドの動態を表すのに対し、後頭皮質のTAC(OccTAC)は遊離リガンドの動態しか表さない。こうした仮定に基づき、関数(StrTAC−OccTAC)は線条体における時間依存性の結合リガンドと定義される。この曲線をガンマバリエイト関数(Atn−mt)にフィッティングさせ、その最大値を同じ時間のOccTACの値で除すと、(k3/k4)の推定平衡状態が得られる。
【0054】
再構成したSPECTスキャンは主要な読影施設により処理される。各時点の線条体を含む横断イメージを標準化基準により合わせる。関心領域(ROI:regions of interest)は左線条体、右線条体の周囲に描き、後頭皮質上に第3のROIを描く。線条体および後頭皮質の放射能の平均と定義されるTACを用いて以下の式:k3/k4=Max{StrTAC OccTAC}時間=t/{(OccTAC)}時間=tにより線条体の結合能を計算した。
【0055】
24例の患者から収集した結合能(BP:Binding Potential)データを解析する。その結果を表にする。
【0056】
123I−−Altropaneは、健常志願者、パーキンソン病の患者、パーキンソニズムの運動障害でない患者、ADHDの成人患者およびレビー小体型認知症を対象とした複数の臨床試験で試験する。大部分の試験では123I−−Altropaneを約5〜約8mCi(8mCiは14.4ngまたは34pmolのAltropaneに相当)の用量で用いる。
【0057】
123I−−Altropaneを用いた単光子放出コンピューター断層撮影(SPECT)による上述の試験から、線条体の結合の増加とレビー小体型認知症の成人患者の診断との間に高い相関性が明らかにされる。したがって、たとえば、123I−−Altropane SPECTを用いた本発明の方法は、レビー小体型認知症の臨床診断を補完する独立かつ客観的な診断検査となる可能性があるようだ。
(実施例3)
【0058】
参加者
この試験はレビー小体型認知症の成人20例および年齢を一致させた対照の健常志願者20例を対象とする。
【0059】
手順
3回の来院時に参加者全員の診察を行う。初診のおりに、基本的な人口統計学的データおよび既往/手術歴と共に書面によるインフォームドコンセントを得る。適格基準を検討し、確定する。12誘導心電図と共に血液および尿サンプルを採取する。一部のレビー小体型認知症被検体は、レビー小体型認知症の管理のため処方された刺激薬を服用する。医師の許可を得て、SPECTスキャンが予定される前の4週間、こうした参加者の投薬を中止する。
【0060】
最初の来院から15週間後に2回目の来院を計画し、その際にSPECTスキャンを行う。考えられる有害事象のベースライン時に各参加者を評価し、全適格基準を再度検討される。次いで、過去24時間以内にルゴール液を服用したことを全員に問い合わせる。女性はその後尿による妊娠検査を受けた。注射前のバイタルサインおよび簡単な神経学的検査を行ってから、参加者をスキャナーに配置する。30秒かけて123I−−Altropaneを静脈内に注入する。次いで、2分間の一連の連続SPECTスキャンを60分間実施し、その後バイタルサインを再度試験し、12誘導ECGを再度採取し、簡単な神経学的検査を繰り返す。
【0061】
翌日に3回目の臨床来院を計画し、その時に考えられる有害事象について参加者を問診し、理学的検査を行った。バイタルサインおよび12誘導ECGを繰り返し、血液サンプルを採取する。
【0062】
SPECTスキャン
スキャナー内で水平に保ちながら、123I−Altropaneを注射する。2分間の連続スキャンを60分かけて実施する。
【0063】
線条体領域(STR:striatal region)の時間放射能曲線(TAC)を後頭皮質(OCC)領域と比較して、時間依存性の123I−Altropane結合STRから(OCC)を差し引いた差を計算する。こうしたデータをガンマバリエイト関数にフィッティングさせ、OCCのTACの最大値で除してDAT結合能(Bmax/)の推定平衡状態を判定する。次いで結合能の測定値を28.4歳に標準化してレビー小体型認知症群および対照群を比較した。
【0064】
結果
SPECTデータはレビー小体型認知症群8例および対照群16例の成人24例から成功裏に取得する。片側t検定(不等分散)により、レビー小体型認知症群は対照群よりも123I−Altropaneに対する結合能が有意に低いことが明らかになった。
【0065】
年齢で補正した結合能の分類における正診率を判定するため、結合能のカットオフスコアを、レビー小体型認知症診断の判定の正常平均を+1SD上回るものとして選択する。
【0066】
今回の結果から、レビー小体型認知症の成人の線条体におけるドーパミントランスポーター密度が、年齢を一致させた対照群と比較して高いことが示される。レビー小体型認知症の被検体は線条体の123I−Altropane取り込みが対照成人よりも少ない。さらに、Altropane結合能は不注意症状および多動性−衝動性症状のどちらの程度も有意にも関係しており、ドーパミントランスポーター密度の低下がこのサンプル内のレビー小体型認知症症状の程度と関連しているとの結論がさらに裏付けられる。
(実施例4)
【0067】
試験デザイン
この試験は多施設、非盲検、非ランダム化、単回投与臨床試験とし、DLBの被検体における123I−Altropaneの診断有効性および安全性を評価する。
【0068】
主要目的は、コンセンサスパネル(CP:consensus panel)により標準として確立された臨床診断と比較して「probable DLB」被検体と非DLB被検体とを鑑別するに当たり、123I−Altropane(登録商標)SPECTイメージの視覚評価の診断有効性を判定することである。副次的な目的は、陽性および陰性適中率を判定することを含む。
【0069】
スクリーニング前の6ヶ月以内に行われた大脳磁気共鳴画像(MRI:magnetic resonance imaging)またはコンピューター断層撮影(CT:computed tomography)により、大脳基底核で構造的異常がない場合は除外する。大脳基底核の領域に梗塞を示唆する血管異常に対して結果が陰性である必要がある。
【0070】
123I−Altropaneの注射はオープンとしたが、臨床診断および画像解析は非盲検とした。
【0071】
方法
有効性評価のため、123I−Altropane画像解析の結果を臨床診断と比較する。
【0072】
試験対象集団
試験対象集団は、probableまたはpossible DLBを特徴とする痴呆の被検体(55〜90歳)および非DLB(たとえば、ADまたはVaD)を特徴とする被検体である。このDLB被検体は、スクリーニングのため運動障害の診療所データベース、認知症施設、もの忘れ外来および他の一般的な神経科診療所から選択される。評価可能なDLBおよび非DLB被検体の分布については、試験中に随時評価して現場の医師の臨床診断により判定される。
【0073】
被検体は、Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorder−Fourth Edition(DSM−IV)の基準に従って認知症評価が陽性であり、以下の少なくとも1つを満たすものとする:probableまたはpossible DLBのICC、ADのNINCDS−ADRDAまたはVaDのNational Institute of Neurological Disorders and Stroke−Association Internationale Pour la Recherche et l’Enseignement en Neurosciences(NINDS−AIREN)。PDD患者は除外した(PD診断から少なくとも1年後に発症した認知症)。
【0074】
臨床診断および「真の標準」
臨床診断はICCを用い、標準化された包括的臨床および神経精神医学的評価に基づき確立する。「真の標準」または「ゴールドスタンダード」は、特に認知症およびDLBの診断で国際的に認められた3名の専門家からなる独立のCP(ICP:independent CP)により確立されたDLB(「probable」または「possible」)と非DLB(probableまたはpossible AD、probableまたはpossible VaD)の臨床診断である。「probable」および「possible」DLB患者を共にDLB患者と見なす。
【0075】
123I−Altropane SPECTイメージング
SPCで推奨される通り123I−Altropane SPECTイメージを取得する。マルチヘッド型(2ないし3ヘッド型)γカメラを用いてイメージを取得して、イメージングは注射から約15分後に開始し、注射から約45分後に終了する。
【0076】
独立の3名の読影者(神経イメージングの専門知識を持つ核医師)が行う盲検の画像評価(BIE:blind image evaluation)の一環として独立の画像審査センター(IRC:image review center)で8種類のイメージを評価する。イメージは視覚評価および半定量的評価(ROI)の両方を行う。視覚評価では、3名の盲検の各読影者がイメージを以下に記載する正常、異常またはその他(前述のクラスに割り当てられなかったイメージ)に分類する。
【0077】
正常イメージ:正常イメージは、左右の両方の被殻および尾状核におけるこのトレーサーの取り込みを特徴とする。イメージはおおむね対称的で、左右両側の取り込みのレベルがほぼ同等である。放射能はイメージの中心近くに限られ、半月状の取り込み領域を2つ形成している。
【0078】
異常イメージタイプ1:取り込みが非対称的で、一方の半球の被殻の放射能は正常またはほぼ正常であるが、他方の半球には顕著な変化が見られる。
【0079】
異常イメージタイプ2:左右両側の被殻で取り込みが著しく減少している。放射能は尾状核に限られ、ほぼ対称的な円形領域が2つ形成されている。
【0080】
異常イメージタイプ3:対照的に取り込みが脳の各側の被殻および尾状核で共に認められず、著しく減少しており、残りのイメージを通じてバックグラウンド放射能を可視化するものである。
【0081】
その他:上述のカテゴリーのどれにもイメージを割り当てられない場合に選択される。
【0082】
半定量的評価は線条体のDAT密度を判定するROIベースの解析であり、線条体の全特異的放射能/非特異的放射能の比として計算される。読影者が線条体のROIデータを解析し、各半球における線条体、尾状核および被殻の全取り込み量を調べる。共通する有効性の主要評価項目、感度および特異度の解析は、BIEの結果を踏まえて上述のクラスを正常または異常に分けることのみに基づく。各イメージが順不同に独立の3名の盲検の読影者に提示され、読影者は個別にイメージを解釈する。読影者は、被検体の年齢を除き個人情報および臨床情報を知らされていない。加齢に伴い、黒質線条体の123I−Altropane取り込み量が減少し、循環容量全体の減少により非特異的取り込み量が増加するため、SPECTイメージを適切に評価するには年齢が必要となる。
【0083】
有効性変数
共通する有効性の主要評価項目は感度および特異度であった。
【表1】

【0084】
123I−Altropane SPECTの視覚評価およびコンセンサスパネルの臨床診断における)感度および特異度を以下の通り定義した:
感度=TP/(TP+FN)すなわち、臨床診断がDLBであるのに照らしてイメージ診断がDLBである回数の割合。
特異度=TN/(TN+FP)すなわち、臨床診断が非DLBであるのに照らしてイメージ診断が非DLBである回数の割合。
【0085】
副次的有効性評価項目
1.正診率=(TP+TN)/(TP+FP+TN+FN)すなわち、イメージ診断が臨床診断に一致した回数の割合
陽性適中率(PPV:Positive Predictive Value)=TP/(TP+FP)すなわち、イメージ診断がDLBであることに照らして臨床診断がDLBである回数の割合
陰性適中率(NPV:Negative Predictive Value)=TN/(TN+FN)すなわち、イメージ診断が非DLBであることに照らして臨床診断が非DLBである回数の割合
【0086】
2.probableDLB、possibleDLBおよび非DLB3群間で個々の関心領域(すなわち、両半球の線条体、尾状核および被殻)におけるAltropaneの線条体の取り込み比率を比較するためのAltropaneイメージの半定量的解析(ROI)
【0087】
3.現場の治験責任医師が診断を確立し、管理上の意志決定を行う能力およびイメージングの結果の前後を比較することによる診断の信頼度の評価に対してAltropane SPECTの視覚評価の知見が与える影響に関する評価
【0088】
4.独立のCPにより確立されたprobableDLB群、possible DLB群および非DLB群においてAltropane SPECTの視覚評価が異常とされる比率の概要
【0089】
統計解析
2つの診断パラメーターでは、正確な片側二項検定を用いて帰無仮説H0:p≦p0を検定する。この場合、p0は事前に設定した感度または特異度の閾値を表す。対立仮説はH1:p>p0となる。パラメーターpは、123I−Altropane SPECTイメージングに参加する独立の盲検の読影者の診断に対する感度または特異度を表す。
【0090】
現場の臨床診断
現場の臨床診断は、Altropaneイメージングの前後に治験責任医師によって確立される。この診断は利用可能なすべての認知データ、神経精神医学的データ、神経学的データおよび臨床データに基づく。ベースライン試験の終了後、probable DLB、possible DLBまたは他の形態の認知症(たとえば、AD、VaD)について国際的に認められた診断基準(ICCなど)により診断を確立するように治験責任医師に依頼する。その後、現場の治験責任医師に、Altropaneイメージの知見を含む利用可能なすべての被検体情報に基づき最終の臨床診断を行うように求める。
【0091】
サブ集団の結果の比較
以下のサブグループ:年齢、パーキンソニズム、重度の認知症/認知機能障害の有無、治験実施施設および投与する放射線量について、感度、特異度および正診率の解析を行う。
(実施例5)
【0092】
レビー小体型認知症被検体および対照被検体を対象とするALTROPANE(登録商標)SPECTイメージング
以下の実施例では、単光子放出コンピューター断層撮影(SPECT)イメージの取得、レビー小体型認知症研究の参加者の解析方法、および123I−Altropane SPECTイメージング試験に参加している健常対照について要約する。この実験はオープン試験とし、レビー小体型認知症被検体および年齢の近い健常対照被検体を対象に時間高速分解ダイナミックSPECTにより123I−Altropaneのボーラス注射から最初の1時間における時間放射能曲線および線条体のドーパミントランスポーターの占有率を評価する。レビー小体型認知症被検体ではさらに、別々の試験日に各被検体に第2の注射およびスキャンを行い、視覚的解析と定量解析との試験/再試験の再現性データを評価する。
【0093】
A.被検体および薬剤投与
この試験に組み入れるため、地元の広告および口コミを通じて15人の特発性レビー小体型認知症被検体を募集する。約296mBq(8mCi)の123I−Altropaneにより15人の被検体全員に2回の注射およびSPECTスキャンセッションを行う。被検体は神経科の専門医による評価を受ける。
【0094】
レビー小体型認知症被検体と同一のSPECTイメージ取得プロトコルを用いた123I−Altropaneによる1回のスキャンセッションへの参加を求めて、12人の健常対照被検体を募集する。健常被検体は神経科の専門医による評価を受けて、神経性疾病がないことを確認される。
【0095】
B.SPECTイメージングおよび解析
296mBq(8.0mCi)の123I Altropaneの静脈内注射後に、SPECTスキャンを60分間実施する。1実行当たり6分のスキャンを5回とし、続いて1実行当たり10分のスキャンを3回として一連のダイナミックSPECTスキャンを行う。スキャンの実施中は被検体をカメラ内に入れたままにしておく。各SPECT試験は、ファンビームコリメーターを装着したPhilips PRISM3000XP3ヘッド型SPECTカメラ(Cleveland, Ohio,USA)で行う。各ヘッドを360度回転させ、1ヘッド当たり合計120種の未加工投影画像を得るため3度ごとにサンプリングする。投影データは、159kEv(+/−10%)を中心に対称エネルギーウインドウ内でマトリックス128×128にて収集する。この取得プロトコルであれば、1ヘッド、2ヘッドまたは3ヘッド全部の情報を用いて各時点でのイメージングデータの事後解析が可能となり、したがってそれぞれ2.7mCi、5.3mCiおよび8.0mCiでの123I Altropaneの異なる注射量の影響をモデル化できる。
【0096】
データは、フィルター逆投影および単純なランプフィルター、続いて事後(3−D)標準化低周波通過型フィルターを用いて再構成する。標準または特注のソフトウェアによりChang0補正およびμ=0.11cm−1を適用して減弱補正を行う。左右の尾状核および被殻ならびにバックグラウンドの後頭領域のROIサンプリングを個別に用いて、3ヘッド型データスキャンに関心領域(ROI)を設定する。次いで、注射セッションの全イメージ(合計24=8時点×3ヘッド条件(1、1および2、1および2および3)にROIを適用する。各スキャンセッションにおけるヘッドの移動を点検するため、各SPECTスキャンの前に外眼角耳孔線に沿って1μCiの123Iを含む外部の皮膚基準マーカー5個(右側2個、左側3個)を設定する。ROI内の総カウント、総容積およびカウント密度(カウント/ボクセル)を各スキャンから抽出し、データスプレッドシートに記録して線条体の取り込み率(SBR:striatal uptake ratio)を判定する。SBRは、線条体領域のカウント密度(1分間の1ボクセル当たりのカウント)をバックグラウンドの後頭領域のカウント密度で除した商と定義する。線条体のSBRスコアの平均値は、左右の尾状核および被殻のSBRスコアの平均値として計算される。線条体の小領域のサンプリングは同じサイズのROIを用いるため、SBRの平均値に対する左右の尾状核および被殻の寄与は等しい。
【0097】
注射後のサンプリング期間60分で得られた8種類の各イメージに対する線条体のカウント密度の平均値および後頭バックグラウンドの時間放射能曲線データをプロットすると、各レビー小体型(Lew Body)認知症および対照における123I−Altropaneの取り込みおよび洗い出しの特徴の信号を視覚化できる。さらに、注射後の8つの時点で得られたSBR比をそれぞれプロットする。1ヘッド、2ヘッドおよび3ヘッド全部のイメージングデータにより得られたデータのSBRのピークを各被検体ごとに評価する。
【0098】
注射後約13〜40分(合計27分)にかけて収集したデータに対応する各レビー小体型認知症被検体の複合SBR比を判定する。こうした時点は、60分間のイメージ取得におけるSBRのピークおよび持続性と、線条体の構造の同定に最適なスキャンの視覚信号との検討に基づく。次いで各被検体の第1および第2の123I−Altropane注射日におけるこの複合SBRを比較し、以下の式を用いてSBRの再現性を検討する:
(第1の注射の複合SBR−第2の注射の複合SBR)/
(第1の注射の複合SBR)。
【0099】
C.結果
組み入れられたすべてのレビー小体型認知症被検体がベースラインの試験を終了したら、123I−Altropane SPECT試験を再試験し、すべての健常対照は123I Altropaneによる単回試験のイメージング評価をすべて終了する。解析にはイメージングデータをすべて含める。
【0100】
レビー小体型認知症における123I Altropaneのダイナミック時間放射能データ
対照およびレビー小体型認知症被検体を対象とした123I−Altropaneのボーラス注射後、線条体のカウント密度ピークが注射から10分後に認められる。特定の意見に拘泥するわけではないが、これは大部分の被検体がAltropaneを脳から速やかに排除するためと想定される。線条体構造体の取り込みの局在は本試験の全被検体ではっきりと確認され、対照では線条体の取り込みは「コンマ」状の特徴的な外観を呈し、レビー小体型認知症被検体では取り込みの非対称的が強く(左右非対称で非対称性は尾状核>被殻)、Altropaneを用いた他のドーパミントランスポーター試験およびレビー小体型認知症の他のSPECT試験と一致している。123I−Altropaneの注射から20〜30分後には、線条体およびバックグラウンドの後頭領域の洗い出し率が類似しているため、線条体の結合率が安定する。
【0101】
SPECTの再構成ではイメージングヘッド3台の投影データからイメージングヘッド2台の投影データに移行すると、結合率がやや低下し、イメージングヘッドを1台しか用いない場合、さらに低下する。イメージングヘッドを3台から2台に減らすと、SBR曲線の形状に対する影響が軽微になり、1ヘッドでも2ヘッドでもSBRのピークは注射から15分後に起こるため、信号対雑音の観点から、結合率が最も高い時点でのスキャンプロトコルが最適であることが示唆される。データから、レビー小体型認知症および対照被検体のSBRピーク(1回のスキャンに基づく)は、再構成に組み込むイメージングヘッドが少ない方がSBRピークの低下がわずかであることが示される。
【0102】
半定量的なSBRピークの検討から、レビー小体型認知症と健常対照との違いが明らかにされる。
【0103】
レビー小体型認知症を対象とした123I−Altropane注射の試験−再試験の再現性
15人のレビー小体型認知症被検体全員を対象に全体の平均結合率を用いてSPECTイメージングの試験−再試験の再現率を評価する。全体の平均結合率は、123I−Altropaneのボーラス注射から約15分後に開始するおおよそ30分のイメージングに相当するスキャン数3〜6の平均と見なす。この測定の試験/再試験の再現率は、(試験率−再試験率)/(試験率)と定義する。3台、2台および1台のイメージングヘッドのデータ再構成の条件に基づき、レビー小体型認知症被検体全員の結果を要約する。
【0104】
123I−Altropane注射後15分から約30分に相当する時点で得られる線条体の全体の結合から、試験対象のレビー小体型認知症被検体15人の再現性が明らかにされる。
【0105】
参照による援用
本明細書に言及される特許および科学文献により、当業者に利用可能な知識が確認される。本明細書に引用する発行された特許、特許出願、公開された外国出願および公開された参考文献についてはすべて、その全体を参照によって援用するために各々が具体的に個々に示してしてあるのと同じ程度に参照によって本明細書に援用する。
【0106】
等価物
当業者であれば、ごく通常の実験を用いるのみで、本明細書に具体的に記載した実施形態に対する等価物を数多く認識するか、あるいは確認することができることであろう。このような等価物は以下の請求の範囲の包含するところとして意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)標識ドーパミントランスポーターリガンドを患者に投与するステップ;および
(b)前記患者の中枢神経系の少なくとも1つの領域においてドーパミントランスポーターに結合する前記標識ドーパミントランスポーターリガンドの量を評価するステップ
によりヒト患者のレビー小体型認知症を診断する方法であって、
前記患者の前記ドーパミントランスポーターのレベルが低いことがレビー小体型認知症の診断となる、
方法。
【請求項2】
前記評価はSPECTイメージングによるものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記方法は、
(c)ドーパミントランスポーターに結合する標識ドーパミントランスポーターリガンドの量を対照と比較するステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ドーパミントランスポーターリガンドは前記ドーパミントランスポーターに結合する化合物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記リガンドは123I−Altropaneを含み、前記評価はSPECTによるイメージングを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記患者の中枢神経系の前記少なくとも1つの領域は脳の一部を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記脳の一部は線条体を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(c)ドーパミントランスポーター利用能を対照のドーパミントランスポーター利用能と比較することをさらに含み、前記患者のドーパミントランスポーター利用能が低いことがレビー小体型認知症の診断となる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記患者のドーパミントランスポーター結合能が低いことがレビー小体型認知症の診断となる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ある個体にレビー小体の形成の指標があるどうかを判定する方法であって、前記方法は:
(a)患者に標識ドーパミントランスポーターリガンドを投与するステップ;および
(b)前記患者の中枢神経系の少なくとも1つの領域においてドーパミントランスポーターに結合する前記標識ドーパミントランスポーターリガンドの量を評価するステップ
を含み、
前記患者の前記ドーパミントランスポーターのレベルが低いことがレビー小体型認知症の可能性が高いことの診断となる、
方法。
【請求項11】
前記ドーパミントランスポーターリガンドは123I−Altropaneである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
レビー小体の形成またはレビー小体型認知症の進行に対する治療レジメンの有効性を判定する方法であって、前記方法は:
(a)第1の時点で患者に標識ドーパミントランスポーターリガンドを投与するステップ;
(b)前記患者の中枢神経系の少なくとも1つの領域においてドーパミントランスポーターに結合する前記標識ドーパミントランスポーターリガンドの量を評価するステップ;
(c)前記第1の時点後の第2の時点で前記患者に標識ドーパミントランスポーターリガンドを投与するステップ;および
(d)前記患者の中枢神経系の同じ少なくとも1つの領域においてドーパミントランスポーターに結合する前記標識ドーパミントランスポーターリガンドの量を評価するステップ;および
(e)前記患者の中枢神経系の前記少なくとも1つの領域においてドーパミントランスポーターに結合する標識ドーパミントランスポーターリガンドの相対量を比較するステップ
を含み、
前記患者の前記少なくとも1つの領域におけるドーパミントランスポーターのレベルの増加または前記患者におけるドーパミントランスポーターの低下速度の抑制が前記レジメンの有効性を示唆する、
方法。

【公表番号】特表2011−502966(P2011−502966A)
【公表日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−531330(P2010−531330)
【出願日】平成20年10月29日(2008.10.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/081569
【国際公開番号】WO2009/058851
【国際公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(510098320)アルセレス ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】