説明

ナイロン中空糸膜モジュール及びその製造方法

【課題】ナイロン中空糸膜を熱可塑性樹脂でポッティングした耐薬品性および溶出性能に優れたナイロン中空糸膜フィルタを提供すること。
【解決手段】ナイロン中空糸膜を複数結束してナイロン中空糸膜束を形成し、このナイロン中空糸膜束の結束端部を熱可塑性樹脂でポッティングして封止部を設けたナイロン中空糸膜モジュールであり、このモジュールは、前記ポッティング部近傍のナイロン中空糸膜の引張強度が、それ以外の部分のナイロン中空糸膜の80%以上であり、前記ポッティング部近傍のナイロン中空糸膜の引張伸度が、それ以外の部分のナイロン中空糸膜の50%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造分野、化学工業分野、医療分野、食品工業分野、水処理分野などに利用されるナイロン(ポリアミド樹脂)中空糸膜モジュール及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体分野における微細化技術の進歩に伴い、その製造工程で使用されるフォトレジスト、洗浄液、超純水等の高純度薬品の清浄度に対する要求が高まり、それに伴って、フィルタに対する要求性能も一段と厳しくなっている。フォトレジストを例にとると、半導体リソグラフィ技術の進歩により、DRAMハーフピッチは1990年初頭に500nmレベルであったものが、2008年には50nmレベルまで微細化され、この間、フォトレジストはg線用、i線用、KrF用、ArF用、さらにはEUV用へと変遷している。ArF用以降の先端フォトレジストでは篩い効果のあるポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン膜フィルタと吸着効果のあるナイロン膜フィルタを組み合わせて使用することが多い。
【0003】
この分野で使用されるナイロン膜フィルタは平膜プリーツ型が主流であり、また、フォトレジストのろ過には、DRAMハーフピッチの1/2以下、好ましくは1/10以下のろ過精度を有するフィルタが要求され、先端フォトレジストでは10nmまたは5nmのろ過精度を有するフィルタが要求されている。このような中、平膜プリーツフィルタでは高いろ過精度と高流量とを両立することが困難となっている。そのため、平膜プリーツフィルタは、特許文献1及び2に示すように、プリーツ折りを高密度化してろ過面積を増加し、高流量化を図るようにしている。
【0004】
すなわち、特許文献1のフィルタは、長手方向の軸線、第1及び第2の端面、及び複数の長手方向のプリーツを有する円筒形のフィルタ部材を有し、しかも、プリーツの各々は、一対の脚部を有し、前記脚部の各々は、第1と第2の面を有し、前記プリーツは、各脚部の高さを全体にわたって、またフィルタ部材の軸線方向の長さの少なくとも50%にわたって伸びている連続領域にわたって、1つの前記脚部の第1の面が前記プリーツの隣接脚部の第1の面に緊密に接触しており、前記脚部の第2の面が隣接するプリーツの1つの隣接脚部の第2の面に緊密に接触しているレイドオーバー状態のフィルタである。
【0005】
特許文献2のフィルター要素は長手方向に延びる複数のプリーツを備え、プリーツは外方へ放射状の第1プリーツと内方へ放射状の第2プリーツとを包含し、少なくとも1個の第2プリーツが2個の隣接した第1プリーツの間に位置している。各第1プリーツは前もって定められている半径方向高さを持ち、各第2プリーツは半径方向高さを持ち、高さは各第1プリーツの高さより低くかつ少なくとも他の第2プリーツの半径方向高さとは相違しているフィルタである。
【0006】
一方、中空糸膜フィルタは多数本の中空糸膜を束ねて、ケースに収納し、片端または両端部分を樹脂でポッティングして封止される。一般的な中空糸膜フィルタは、熱硬化性のウレタンまたはエポキシ樹脂でポッティングされており、その耐薬品性および溶出を理由に、水、空気および一部の薬品にしか適用できなかったが、この問題を解決するため、特許文献3乃至特許文献6において、中空糸膜を熱可塑性樹脂のポリエチレンでポッティングし、中空糸膜フィルタを構成する部材を全てポリオレフィンとすることで、幅広い薬品に使用できるようにした中空糸膜フィルタおよびその製造方法が提案されている。
【0007】
また、ナイロンまたはポリアミドを素材とする中空糸膜の製造方法が特許文献7に開示されているが、ナイロン中空糸膜を用いた中空糸膜フィルタは、熱硬化性のウレタンまたはエポキシ樹脂でポッティングされており、その耐薬品性および溶出を理由に、水、空気および一部の薬品にしか適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3699475号公報
【特許文献2】特表2002−534243号公報
【特許文献3】特許第3077020号公報
【特許文献4】特許第2939644号公報
【特許文献5】特許第3196152号公報
【特許文献6】特許第3532662号公報
【特許文献7】特開2010−104983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
各種の特許文献が提案されているが、上述の特許文献1〜7には、各種の課題点が存在している。
まず、特許文献1,2は、平膜プリーツフィルタが中空糸膜フィルタと相対して、ろ過面積が小さく、要求されるろ過精度が10nm、5nmと高精度化される中、ろ過精度の向上と高流量を両立することが困難である。また、プリーツ折りを高密度化しても、現在のフィルタ外形寸法すなわち容積に収納するため、自ずと限界があり、飛躍的にろ過面積を増やすことが困難である。仮に、フィルタ外形寸法を大きくして、ろ過面積を増やそうとした場合、現在のフィルタハウジングが使用できなくなるという問題がある。
【0010】
特許文献3は、天然高分子又は合成高分子よりなる中空糸膜を熱可塑性樹脂でポッティングし、溶融したポッティング材が、中空糸膜の外表面の微細な凹凸によりなる支持層へ侵入することによるアンカー効果で物理的な液密シールを可能としている。また、中空糸膜の材質として、セルロース、セルロースエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアミド、ポリアクリルニトリル等の高分子、ポッティング材の材質として、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂が好ましいと記載されている。しかしながら、ナイロンまたはポリアミド中空糸膜と熱可塑性樹脂によるポッティングに関して開示されていない。
【0011】
特許文献4は、中空糸膜の材質をポリプロピレン、ポッティング材の材質をポリエチレンとしたポリオレフィン膜フィルタであり、したがって、吸着効果によるフォトレジスト中の異物ろ過は期待できない。
【0012】
特許文献5及び特許文献6は、中空糸膜フィルタの製造方法であり、ナイロン中空糸膜と熱可塑性樹脂によるポッティングという具体的な組合せについて、開示されていない。
【0013】
特許文献7は、ナイロン中空糸膜に関するものであり、ポッティングまたは中空糸膜フィルタに関する具体的な記載がなく、仮に従来技術のように熱硬化性のウレタンまたはエポキシ樹脂でポッティングされた場合、その耐薬品性および溶出を理由に、水、空気および一部の薬品にしか適用できないという欠点を有している。
【0014】
本発明は、従来の課題を解決しようとするものであり、その目的とするところは、ナイロン中空糸膜を熱可塑性樹脂でポッティングした耐薬品性および溶出性能に優れたナイロン中空糸膜フィルタを提供することであり、より具体的には、ナイロン中空糸膜とポッティング材である熱可塑性樹脂とが液密にシールされたポッティング部位を有し、フォトレジスト、洗浄液、超純水等の高純度薬品に対して、高いろ過精度を有するナイロン中空糸膜モジュールとその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を達成するため、請求項1に係る発明は、ナイロン中空糸膜を複数結束してナイロン中空糸膜束を形成し、このナイロン中空糸膜束の結束端部を熱可塑性樹脂でポッティングして封止部を設けたナイロン中空糸膜モジュールである。
【0016】
請求項2に係る発明は、ポッティング部近傍のナイロン中空糸膜の引張強度が、それ以外の部分のナイロン中空糸膜の80%以上であり、前記ポッティング部近傍のナイロン中空糸膜の引張伸度が、それ以外の部分のナイロン中空糸膜の50%以上であるナイロン中空糸膜モジュールである。
【0017】
請求項3に係る発明は、ポッティングに用いる前記熱可塑性樹脂をポリエチレンとしたナイロン中空糸膜モジュールである。
【0018】
請求項4に係る発明は、ナイロン中空糸膜を複数結束して、この中空糸膜束の結束端部を熱可塑性樹脂でポッティングして封止することにより製造するナイロン中空糸膜モジュールの製造方法である。
【0019】
請求項5に係る発明は、ポッティングして封止する際のポッティング金型温度をナイロン中空糸膜の融点以下で、150℃以上の温度とし、結束端部以外の中空糸膜に加わる温度を150℃以下の温度でポッティングした中空糸膜モジュールの製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
したがって、本発明によると、ナイロン中空糸膜を熱可塑性樹脂でポッティングすることにより、耐薬品性および溶出性能に優れた中空糸膜フィルタを得ることができた。
【0021】
しかも、ナイロン中空糸膜フィルタとすることにより、平膜プリーツフィルタと比較して、高いろ過精度と高流量を両立することができた。
【0022】
また、ナイロン中空糸膜を熱可塑性樹脂でポッティングする際に、製造条件を最適化することにより、高い液密性と耐久性を有する中空糸膜フィルタを得ることができる等の有用な効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明における熱処理温度とナイロン中空糸膜の強度を示すグラフである。
【図2】本発明における熱処理温度とナイロン中空糸膜の伸度を示すグラフである。
【図3】本発明における微粒子捕捉性能試験装置の概略図である。
【図4】本発明におけるポッティング模式図である。
【図5】本発明におけるポッティング部の温度変化を示すグラフである。
【図6】本発明におけるポッティング金型深さとポッティング部強度の関係を示すグラフである。
【図7】本発明におけるポッティング金型深さと引張強度変化率の関係を示すグラフである。
【図8】本発明におけるポッティング金型深さと引張伸度変化率の関係を示すグラフである。
【図9】本発明におけるポッティング金型温度とポッティング部強度の関係を示すグラフである。
【図10】本発明におけるポッティング金型温度と引張強度変化率の関係を示すグラフである。
【図11】本発明におけるポッティング金型温度と引張伸度変化率の関係を示すグラフである。
【図12】本発明における微粒子捕捉性能試験結果を示すグラフである。
【図13】本発明における有機物溶出試験結果を示すグラフである。
【図14】ハウジングに取付けて使用するカートリッジタイプを示した半断面図である。
【図15】ハウジングと一体に設けたカプセルタイプを示した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明におけるナイロン中空糸膜モジュールとその製造方法における好ましい実施形態を図面に基いて詳述する。
まず、高純度薬品用の中空糸膜フィルタに対する要求性能としては、ろ過精度が高いすなわちフィルタ孔径が小さいこと、高流量すなわち圧力損失が低いこと、耐薬品性が高いこと、低溶出であることが挙げられる。フィルタ孔径が小さいことは、高純度薬品中のパーティクル、ゲル等の異物を確実の捕捉することであり、フィルタ孔径の測定には、一般にバブルポイント法が用いられる。バブルポイントは、フィルタを2−プロパノール等の有機溶剤で充分湿潤化した後、フィルタに空気を送り込み徐々に加圧し、フィルタより気泡が発生した時の空気圧を読み取ることで測定される。フィルタ孔径とバブルポイントとは、反比例の関係があり、バブルポイントが高いほど、フィルタ孔径が小さくなる。したがって、高純度薬品用中空糸膜フィルタとしては、バブルポイントが高いことが要求される。
【0025】
高純度薬品としては、主に半導体、液晶等の電子工業分野で使用されるフォトレジスト、現像液、洗浄液、剥離液、エッチング液等が挙げられる。具体的な薬品としては、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリジノン、γ−ブチロラクトン、メタノール、2−プロパノール、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、アンモニア水、超純水等の単体または混合物またはこれらに特定の樹脂および/または添加剤が溶解された溶液である。
【0026】
また、本発明の中空糸膜フィルタでは、ポッティング部に耐薬品性の高い熱可塑性樹脂を用いているため、高純度薬品に対しても、優れた耐薬品性および溶出性能を発揮する。また、フィルタの溶出性能は、一般に高純度薬品にフィルタを一定時間浸漬し、浸漬液に溶出する無機および有機物を分析することで測定される。高純度薬品に対するフィルタの溶出量は限りなく少ないことが要求され、フォトレジストを例にとると、金属溶出量は10ppb以下、好ましくは1ppb以下が要求されている。したがって、フィルタを構成する部材の清浄度、フィルタ製造工程での有機溶剤、酸、超純水等を使用した洗浄処理が必要となる。
【0027】
上記の条件下において、本発明におけるナイロン中空糸膜モジュールの構成について説明すると、ナイロン中空糸膜フィルタの基本構造は、ナイロン中空糸膜1が複数結束されてフィルタケース3又はハウジング6内に収納され、端部が熱可塑性樹脂にてポッティングされて封止部2(ポッティング部)が形成される。ナイロン中空糸膜1の素材としては、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610等が用いられる。中でもナイロン6、ナイロン66が好ましい。封止部2を形成する熱可塑性樹脂は、ナイロン中空糸膜より融点が低く、耐薬品性が高いものであれば特に問わないが、耐薬品性および溶出性能に優れることからポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンが好ましい。中でもポリエチレンが最も好ましい。代表的な構造として、ハウジングに取り付けて使用するカートリッジタイプと、ハウジングと一体となったカプセルタイプとがある。
【0028】
ナイロン中空糸膜1にナイロン6(融点225℃),ポッティング部2に用いる熱可塑性樹脂に低密度ポリエチレン(融点115℃)とした場合,異材質であるため互いに相溶し合わない。したがって、この種の組合せでポッティングしようとする場合、ナイロン中空糸膜1表面の微細な凹凸へのアンカー効果により、ナイロン中空糸膜1と低密度ポリエチレンを接着させる必要がある。
【0029】
アンカー効果はポッティング部2に用いる熱可塑性樹脂が低粘度、すなわち高温となるほど高くなるため、ポッティング温度をナイロン中空糸膜1の融点近傍まで高温とすることで、高い接着力が発揮される。しかしながら、ナイロン中空糸膜1は高温にて劣化を生じるため、ナイロン中空糸膜1に加わる熱履歴を低減しつつ、ナイロン中空糸膜1と低密度ポリエチレンが高い接着力を発揮するポッティング条件が必要となる。
【0030】
次に本発明におけるナイロン中空糸膜フィルタの製造方法について説明する。
まず、ナイロンを150℃以上の沸点を有し、100℃未満の温度ではナイロンと相溶せず、かつ100℃以上の温度でナイロンと相溶する有機溶媒に、100℃以上の温度で溶解して、製膜原液を作製する。有機溶媒としては、スルホラン、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、エチレンカーボネートなどの非プロトン系極性溶媒、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどの多価アルコール類が好ましく、特にスルホランが好ましい。有機溶媒は単独あるいは2種類以上を混合して用いられる。
【0031】
ナイロンを有機溶媒に溶解する際の濃度としては、ナイロンを5〜50重量%とすることが好ましく、さらに15〜30重量%とすることが最も好ましい。
ナイロンを高温で有機溶媒に溶解した製膜原液を中空糸紡糸ノズルを用いて、中空部となる芯部に液体または気体を注入しながら、100℃未満の凝固液中に押し出すことで中空糸を形成する。設定された凝固液の温度にまで製膜原液が冷却されることによって、相分離が誘起され、多孔質構造が形成される。得られた中空糸を溶媒に浸漬して、中空糸内で相分離を起こしている有機溶媒を抽出除去することで、最終的にナイロン中空糸膜1を作製することができる。
【0032】
次いで、ナイロン中空糸膜1を複数結束し、フィルタケース3またはフィルタハウジング6に挿入し、このナイロン中空糸膜1の結束端部における中空糸膜相互の隙間および中空糸膜束8の端部とフィルタケース3またはフィルタハウジング6との隙間を、ポリエチレンからなる封止材によってポッティングして封止部2を形成する。
【0033】
ポッティングは、予め加熱溶融したポリエチレンが入ったポッティング金型9にナイロン中空糸膜1からなる中空糸膜束8の端部およびフィルタケース3またはフィルタハウジング6を挿入し、所定位置に一定時間保持した後、ポリエチレンを冷却固化し、ポッティング金型9から取り外し、固化したポッティング部2の端部を切断して、中空糸膜束8を開口させることで行われる。或いは、予めナイロン中空糸膜1の結束端部にポリエチレン粉末またはフィルム等を付着または貼り付けたものを、フィルタケース3またはフィルタハウジング6とともに、所定の温度に加熱されたポッティング金型9に挿入し、一定時間保持した後、ポリエチレンを冷却固化し、ポッティング金型9から取り外し、固化したポッティング部2の端部を切断して、中空糸膜束8を開口させることで行われる。
【0034】
ナイロン中空糸膜1がポッティングされたフィルタケース3またはフィルタハウジング6には必要に応じて、配管接続部を備え、かつOリング4を装着したキャップ5(図14参照)またはキャップ7a,7b(図15参照)が接続され、中空糸膜フィルタとなる。この際、ナイロン中空糸膜1とポリエチレンは異材質であり、互いに相溶し合わず、ナイロン中空糸膜1とポリエチレンとの接着力が不充分なため、確実にポッティングすることが困難である。ナイロン中空糸膜1とポリエチレンとが液密にシールされたことを確認するため、本発明ではポッティング部2の強度を測定している。ポッティング部2の強度はポッティング部2を押しピンで圧縮し、ポッティング部2が破壊または座屈した時の荷重を測定し、押しピンの面積で割ることで算出される。ポッティング部2の強度はフィルタ使用時の圧力に対して充分であることが必要であり、10MPa以上が好ましい。ポッティング部強度が10MPa未満ではフィルタ使用時の圧力および脈動により、ナイロン中空糸膜1とポリエチレンとの接着界面に剥離を生じ、フィルタの完全性を損ねる恐れがある。
【0035】
そこで、種々ポッティング条件を検討したところ、下記が好ましいことがわかった。ポッティング金型温度は、ナイロン中空糸膜の融点以下、150℃以上で、ポッティング部2の近傍すなわち中空糸膜束8の根元部の温度が150℃以下であることが好ましい。ポッティング加熱時間は前記ポッティング金型温度において40分間以上であることが好ましい。ポッティング金型深さはポッティング部2に用いられる熱可塑性樹脂が充分に溶融可能な深さであれば特に問わないが、ポッティング部2の近傍すなわち中空糸膜束8の根元部が150℃を超えない深さである必要がある。
【0036】
ポッティング金型温度が150℃未満ではアンカー効果が不充分でナイロン中空糸膜1と低密度ポリエチレンとの高い接着力が得られない。また、ポッティング金型温度がナイロン中空糸膜1の融点を超える場合は、ナイロン中空糸膜1が溶融してしまう。ポッティング部2の近傍すなわち中空糸膜束8の根元部の温度が150℃を超える場合はナイロン中空糸膜1の熱劣化によりポッティング部2の近傍のナイロン中空糸膜1が柔軟性を失い、中空糸膜フィルタの製造時または使用時に加わる物理的応力によってナイロン中空糸膜1に損傷を生じ、フィルタの完全性を損ねる恐れがある。ポッティング加熱時間が40分間未満ではアンカー効果が不充分でナイロン中空糸膜1と低密度ポリエチレンとの高い接着力が得られない。また、ポッティング加熱時間を極端に長くするとポッティング部2の近傍のナイロン中空糸膜1が柔軟性を失い、フィルタの完全性を損ねたり、生産性を悪化させたりして好ましくない。
【0037】
ポッティング部2の近傍のナイロン中空糸膜1が充分な柔軟性を有するためには、引張強度がそれ以外の部分のナイロン中空糸膜の80%以上、引張伸度がそれ以外の部分のナイロン中空糸膜の50%以上であることが必要である。引張強度の変化率は、ポッティング部2の近傍すなわち中空糸膜束8の根元部の引張強度をそれ以外の部分の引張強度で割ることで算出される。同様に、引張伸度の変化率は、ポッティング部2の近傍すなわち中空糸膜束8の根元部の引張伸度をそれ以外の部分の引張伸度で割ることで算出される。
【0038】
図1および2にナイロン中空糸膜1を熱処理した際の引張強度および引張伸度の変化を示す。ナイロン中空糸膜1を空気中にて各温度で15分間熱処理した後、引張試験することで引張強度および引張伸度の変化を測定した。引張強度および引張伸度ともに150℃前後より急激に低下することがわかる。熱処理により、引張強度が80%に低下する温度は150〜160℃、引張伸度が50%に低下する温度は150℃である。したがって、150℃を超える熱履歴がナイロン中空糸膜1に加わる場合、ナイロン中空糸膜1が著しく柔軟性を失い、破損する恐れがある。
【実施例】
【0039】
本発明における中空糸膜フィルタについて、中空糸膜の引張試験、ポッティング部強度、バブルポイント、無機および有機物の溶出、微粒子捕捉性能をそれぞれ測定し、実施例1〜11と比較例1〜5の試験結果を得た。
【0040】
(中空糸膜の引張試験)
中空糸膜フィルタよりポッティング部近傍およびそれ以外の部分から中空糸膜を採取し、中空糸膜を島津社製オートグラフにセットし、速度500mm/minで引っ張り、破断時の強度および伸度を測定し、ポッティング部近傍の中空糸膜の値をそれ以外の部分の中空糸膜の値で割ることで変化率を算出した。
【0041】
(ポッティング部強度)
中空糸膜フィルタよりポッティング部を厚さ10mmに切り出し、乳酸エチルに1.5時間浸漬した。その後、切り出し片を島津社製オートグラフにセットし、直径5mmの押しピンを用い、速度1mm/minで圧縮し、破壊時の荷重を測定し、その荷重を押しピンの面積で割ることで算出した。
【0042】
(バブルポイント)
中空糸膜フィルタに、2−プロパノールを10分間循環通液した後、中空糸膜フィルタ1次側より空気を送り込み徐々に加圧し、中空糸膜フィルタ2次側より気泡が発生した時の空気圧を測定した。
【0043】
(無機および有機物の溶出)
中空糸膜フィルタに電子工業グレードの乳酸エチルを充填し、室温で一週間静置した。溶出液の一部を採取し、加熱して蒸発処理した後、残渣を硝酸で溶解し、誘導結合プラズマ発光分析法で無機物を分析した。溶出液の残りの一部を採取し、熱分解ガスクロマトグラフ法で有機物を分析した。
【0044】
(微粒子捕捉性能)
図3は、微粒子捕捉性能試験装置を示したものであり、図中、10は中空糸膜フィルタ、11は疑似レジスト、12はプレフィルタ(5μm)、13はパーティクルカウンター、14はポンプである。試験流体に擬似レジスト(乳酸エチルとプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートの1:1の混合溶媒に12.5%のノボラック樹脂を溶解したもの)を用い、差圧0.04MPaで試験流体を中空糸膜フィルタでろ過し、パーティクルカウンターにてろ液中の微粒子を計測した。
【0045】
ナイロン6中空糸膜1を一定間隔に配列し、上下2枚の幅15mmの帯状の低密度ポリエチレンフィルムで挟んで、熱融着によりスダレ状に一体化した後、2つ折りして螺旋状に巻き込み、端部に低密度ポリエチレンフィルムが貼り付けられた中空糸膜束8を作製した。その中空糸膜束8を高密度ポリエチレン製のフィルタハウジング6に挿入し、図4に示すような形態で、端部を200℃に加熱された深さ20mmのポッティング金型9内で70分間加熱し、冷却した後、ポッティング金型9から取り外し、固化したポッティング部2の端部を切断し、中空糸膜束8を開口させた。その中空糸膜がポッティングされたフィルタハウジング6に入口ポートおよび出口ポートを各々有する高密度ポリエチレン製のキャップ7a,7bを溶着し、中空糸膜フィルタを作製した。
【0046】
この中空糸膜フィルタはバブルポイント0.40MPa、ポッティング部強度17.5MPaであった。ポッティング部近傍のナイロン中空糸膜の引張強度が16.9MPa、それ以外の部分のナイロン中空糸膜の引張強度が17.5MPaで強度変化率は97%であった。また、ポッティング部近傍のナイロン中空糸膜の引張伸度が120%、それ以外の部分のナイロン中空糸膜の引張伸度が130%で伸度変化率は92%であった。
【0047】
また、実施例1と同様の条件にてポッティングした際のポッティング部2および中空糸膜根元部8aの温度を測定した結果を図5に示す。中空糸膜根元部8aの最高温度は135℃であった。
【0048】
【表1】

【0049】
表1における実施例および比較例より、ポッティング金型深さとポッティング部強度、ナイロン中空糸膜の引張強度変化率およびナイロン中空糸膜の引張伸度変化率をグラフにまとめたものを図6〜図8に示す。
【0050】
前記実施例および比較例より、ポッティング金型温度とポッティング部強度、ナイロン中空糸膜の引張強度変化率およびナイロン中空糸膜の引張伸度変化率をグラフにまとめたものを図9〜図11に示す。
【0051】
表1において、比較例1〜5は、実施例に対比して次の条件の何れかに課題を有している。金型温度が150〜225℃、ポッティング部強度10MPa以上、引張強度の変化率80%以上、引張伸度の変化率が50%以上である条件を欠如している。
【0052】
実施例1で作製したナイロン6中空糸膜フィルタを、電子工業グレードの2−プロパノールを60分間循環通液した後、比抵抗値17MΩ・cmの超純水を10L通水し、再び電子工業グレードの2−プロパノールを5L通液して洗浄処理した。その後、クリーンドライエアを24h通風し、乾燥した。このナイロン6中空糸膜フィルタについて、無機および有機物の溶出試験を行った結果を表2および図13に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
実施例1で作製したナイロン6中空糸膜フィルタを同様に洗浄したものについて、微粒子捕捉性能試験を行った結果を図12に示す。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明における中空糸膜フィルタの用途は次のとおりである。
本発明の中空糸膜フィルタは主に半導体、液晶等の電子工業分野で使用されるフォトレジスト、現像液、洗浄液、剥離液、エッチング液等のろ過に使用される。具体的には、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、2−ヘプタノン、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリジノン、γ−ブチロラクトン、メタノール、2−プロパノール、硫酸、塩酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、アンモニア水、超純水等の単体または混合物またはこれらに特定の樹脂および/または添加剤が溶解された溶液のろ過に使用される。
【0056】
また、本発明の中空糸膜フィルタは、タンクまたは容器、ポンプ、配管、バルブからなるろ過装置に設置される。フィルタは、本発明の中空糸膜フィルタ単体またはプレフィルタを配した多段ろ過システムで使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 ナイロン中空糸膜
2 封止部(ポッティング部)
3 フィルタケース
4 Oリング
5 カートリッジタイプのキャップ
6 フィルタハウジング
7a カプセルタイプの入口キャップ
7b カプセルタイプの出口キャップ
8 中空糸膜束
8a 中空糸膜束の根元部
9 ポッティング金型
9a ポッティング金型の深さ
10 中空糸膜フィルタ
11 擬似レジスト
12 プレフィルタ
13 パーティクルカウンター
14 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナイロン中空糸膜を複数結束してナイロン中空糸膜束を形成し、このナイロン中空糸膜束の結束端部を熱可塑性樹脂でポッティングして封止部を設けたことを特徴とするナイロン中空糸膜モジュール。
【請求項2】
前記ポッティング部近傍のナイロン中空糸膜の引張強度が、それ以外の部分のナイロン中空糸膜の80%以上であり、前記ポッティング部近傍のナイロン中空糸膜の引張伸度が、それ以外の部分のナイロン中空糸膜の50%以上である請求項1に記載のナイロン中空糸膜モジュール。
【請求項3】
ポッティングに用いる前記熱可塑性樹脂をポリエチレンとした請求項1又は2に記載のナイロン中空糸膜モジュール。
【請求項4】
ナイロン中空糸膜を複数結束して、この中空糸膜束の結束端部を熱可塑性樹脂でポッティングして封止することにより製造することを特徴とするナイロン中空糸膜モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記ポッティングして封止する際のポッティング金型温度をナイロン中空糸膜の融点以下で、150℃以上の温度とし、結束端部以外の中空糸膜に加わる温度を150℃以下の温度でポッティングした請求項4に記載の中空糸膜モジュールの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2012−183501(P2012−183501A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−49198(P2011−49198)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(504253669)株式会社キッツマイクロフィルター (9)
【Fターム(参考)】