説明

ナトリウム利尿ペプチドに関係するポリペプチド、その同定および使用

本発明は目的の所望のポリペプチドに対する抗体に結合するポリペプチドの同定および使用に関する。ナトリウム利尿ペプチドおよびその前駆体、特にBNPを例として使用し、本発明はBNPに対する抗体に結合する生体サンプル(最も好ましくは血液由来サンプル)から生成される多くのナトリウム利尿ペプチドフラグメントについて記載する。それらのフラグメントの生成は進行中の過程であり、特に以下の関数:ナトリウム利尿ペプチドの組織への放出を誘発する事象の開始からサンプルを採取または分析するまでの経過時間;サンプル採取からサンプルを分析するまでの経過時間;問題となる組織サンプルの型;保存状態;存在するタンパク分解酵素の量;などなので、それらのフラグメントを使用して1つ以上のナトリウム利尿ペプチドのためのアッセイを設計し、それらのアッセイを実施して、正確な予後または診断の結果を得てもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物学的に活性なペプチド、生体ペプチドが生成される際に生成されるペプチド、および前記のペプチドの前駆体から誘導されるポリペプチドの同定および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
以下の本発明の背景に関する討議は、単に読者が本発明を理解することを助けるために提供するものであり、本発明の先行技術を記載または構成することを容認するものではない。
【0003】
ナトリウム利尿ペプチドは、体内で作用してレニン-アンジオテンシン系の活性を阻害する一群の天然に存在する物質である。3つの主要なナトリウム利尿ペプチドがある:心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)(心房で合成される);脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)(心室で合成される);およびC型利尿ペプチド(CNP)(脳で合成される)。
【0004】
成熟A型ナトリウム利尿ペプチド(ANP)(心房性ナトリウム利尿ペプチドとも呼ばれる)は28アミノ酸ペプチドであり、心房拡張、アンジオテンシンII刺激、エンドセリン、およびβ-アドレノセプターが介在する交感神経刺激に応答して心房筋細胞で合成、貯蔵、および放出される。成熟ANPは前駆体分子(プロANP)として合成され、タンパク分解による開裂によって活性型に変換される。心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP99-126)そのものに加え、そのN-末端プロホルモンセグメント由来の直鎖ペプチドフラグメントも生理活性を有することが報告されている。
【0005】
成熟B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)(脳性ナトリウム利尿ペプチドとも呼ばれる)は32アミノ酸、4kDaのペプチドであり、血圧および体液平衡を調節するためのナトリウム利尿系に関与する(Bonow, R.O., Circulation 93:1946-1950, 1996)。BNPの前駆体は108アミノ酸分子として合成され(本明細書ではプロBNPと記載)、これはタンパク分解されて76アミノ酸のN-末端ペプチド(アミノ酸1-76)(“NTプロBNP”と記載)および32アミノ酸の成熟ホルモン(BNPまたはBNP32と記載)(アミノ酸77-108)となる。これらの種(NTプロBNP、BNP-32、およびプレプロBNP)はそれぞれヒト血漿中で循環し得ることが示唆されている(Tateyamaら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 185:760-7, 1992; Huntら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 214:1175-83, 1995)。
【0006】
成熟C型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)は22アミノ酸ペプチドでヒト脳における主要な活性ナトリウム利尿ペプチドであるが、これは内皮から誘導される弛緩因子であり、酸化窒素(NO)と同様に作用すると考えられている(Davidsonら, Circulation 93:1155-9, 1996)。CNPはA型ナトリウム利尿ペプチド(ANP)およびB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)と構造的に関係がある;しかし、ANPおよびBNPは主として心筋で合成されるのに対し、CNPは血管内皮で前駆体(プロCNP)として合成される(Prickettら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 286:513-7, 2001)。CNPは動脈および静脈のいずれに対しても血管拡張作用を有すると考えられ、血管平滑筋細胞中の細胞内cGMP濃度を増加させることによって、主に静脈で作用することが報告されている。
【0007】
ANPおよびBNPはそれぞれ心房および心室の伸張に応答して放出され、血管弛緩、副腎皮質におけるアルドステロン分泌の阻害、および腎臓におけるレニン分泌の阻害を誘引する。ANPおよびBNPは共にナトリウム利尿および血管内容積の低下を誘引し、効果は抗利尿ホルモン(ADH)の拮抗によって増幅される。CNPの生理学的作用はANPおよびBNPのものとは異なる;CNPは血圧降下作用を有するが、有意な利尿またはナトリウム利尿作用は有さない。ナトリウム利尿ペプチドの血中レベルの上昇がある種の疾病状態で観察されており、これはそれらの疾病(卒中、うっ血性心不全(CHF)、心虚血、全身性高血圧、および急性心筋梗塞を含む)の病態生理学において役割を担っていることを示唆している。例えば国際特許WO 02/089657; WO 02/083913;およびWO 03/016910参照(それぞれ参照により、全ての表、図、および特許請求の範囲を含むその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0008】
ナトリウム利尿ペプチドは単独で、集合的に、そして/または更なるタンパク質と共に、種々の心血管症状における疾病マーカーおよび予後の指標として役立ちうる。例えば、BNPは心室で合成され、左心室圧、呼吸困難の程度、および神経ホルモンの調節状態と相関関係を有し、このためこのペプチドは心不全の第1の可能性のあるマーカーである。血漿BNP濃度の測定は、潜在的に明らかな心不全を発症し、心血管事象のリスクを高くしうる左室収縮期機能不全の病因論および程度に関わらず、種々の血管異常を有する患者を同定するための、非常に効果的かつコストパフォーマンスのよい大量スクリーニング技術として発展している。CHF患者の診断および管理の助けとなる簡単な血液試験の発見により、疾病に伴う莫大なコストに好ましい影響が与えられる。
【0009】
循環器系からのナトリウム利尿ペプチドの除去は、主に循環器系中でのクリアランス受容体への結合および酵素分解の影響を受ける。例えばChoら, Heart Dis. 1: 305-28, 1999; Smithら, J. Endocrinol. 167: 239-46, 2000を参照されたい。更に、ヒトプロBNPは血清中で分解されるため、循環しているプレプロBNPが無傷の108アミノ酸の形態である可能性は低いことが報告されている。Huntら, Peptides 18: 1475-81, 1997。しかし、(特に血液由来サンプル(例えば血清、血漿、全血)中での)ナトリウム利尿ペプチドの安定性に関する報告には混乱がある。例えばNormanら(Biochem. Biophys. Res. Commun. 28: 175: 22-30, 1991)は中性エンドペプチダーゼがヒトBNPを残基2と3の間、残基4と5の間、および残基17と18の間で開裂しうることを報告しているが、Smithら(J. Endocrinol. 167: 239-46, 2000)は、ヒトBNPは精製された中性エンドペプチダーゼによって有意な分解を受けないと報告している。同様に、Shimizuら(Clin. Chem. Acta 305: 181-6, 2001)、Gobinet-Georgesら(Clin. Chem. Lab. Med. 38: 519-23, 2000)、およびMurdochら(Heart 78: 594-7, 1997)は、ある種の血液由来サンプル中で、または血液を一定の条件下で採取した場合に、BNPが安定であることを報告している。Shimizuらはより最近の報告(Clin. Chem. Acta 316: 129-35, 2002)で、全血中のBNPの94%が2個のアミノ末端残基が除去された消化型であり、血漿中のBNPは多くの未同定型に分解されたことを示している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明はナトリウム利尿ペプチドおよびその前駆体から誘導されるポリペプチドの同定および使用に関する。本発明は、例としてBNPを使用し、生体サンプル(最も好ましくは血液由来サンプル)中で生成されるナトリウム利尿ペプチドの多くの分解産物について記載する。それらのフラグメントの生成は進行中の過程であり、特に、ナトリウム利尿ペプチドの組織への放出を誘発する事象の開始からサンプルを採取または分析するまでの経過時間;サンプルの採取からサンプルの分析までの経過時間;問題の組織サンプルの型;保存状態;存在するタンパク分解酵素の量;などの関数でありうるので、1つ以上のナトリウム利尿ペプチドについてのアッセイの設計およびそれらのアッセイの実施に際しては、この分解を考慮し、正確な予後または診断の結果を得る必要がありうる。
【0011】
下記のようにある実施態様では、本明細書に記載する複数のナトリウム利尿ペプチド(例えばBNP)フラグメントを検出するために調製した抗体または抗体カクテルを使用してアッセイを実施してもよい。この複数のフラグメントの存在または量により、成熟ナトリウム利尿ペプチド(またはナトリウム利尿ペプチド前駆体)そのものを単に測定するより正確な予後または診断の結果が得られうる。例えば成熟ナトリウム利尿ペプチドのみを検出して分解フラグメントを検出できない抗体では、異常に低いアッセイ結果が得られうる(例えばBNPは存在するが分解されている場合、BNPが存在しないか、またはBNPが低濃度であると示される)。
【0012】
別の実施態様では、複数のナトリウム利尿ペプチド(例えばBNP)フラグメント間を識別する個別の抗体を使用して、種々のフラグメントの存在または量を個別に検出してもよい。この個別の検出の結果から、一つのアッセイで複数のフラグメントを検出するより正確な予後または診断の結果が得られる。例えば、様々な重み因子を種々のフラグメント測定値に適用し、元々サンプル中に存在するナトリウム利尿ペプチドの量をより正確に算出してもよい。更に、種々のフラグメントの相対量を使用して事象の開始からの時間の長さを算出してもよく、これは上記のように、それらのフラグメントの生成は、特に、ナトリウム利尿ペプチドの組織への放出を誘発する事象の開始からサンプルを採取または分析するまでの経過時間の関数でありうるためである。
【0013】
更に別の実施態様では、ナトリウム利尿ペプチド(例えばBNP)フラグメントの生成を阻害する1つ以上の化合物とサンプルを混合してもよい。そのような実施態様では、1つ以上のタンパク分解阻害剤および/またはキレーターを生体サンプルに添加して、アッセイによって正確に検出されない可能性のあるナトリウム利尿ペプチドフラグメントの分解を阻害してもよい。
【0014】
本明細書に記載する方法および組成物によって、当該分野における、種々の心血管疾患(卒中、うっ血性心不全(CHF)、心虚血、全身性高血圧、および/または急性心筋梗塞を含む)の診断および識別に使用する迅速、高感度、かつ特異性のある診断アッセイの必要性を満たすことができる。更に、本発明の方法および組成物を使用して患者の治療、および更なる診断および/または予後の指標および指標パネルの開発を容易にすることもできる。
【0015】
第1の観点では、本発明は、成熟ANP、BNP、およびCNP、それらの前駆体分子、そして前駆体分子が開裂して成熟ANP、BNP、およびCNPペプチドになる際に生成されるフラグメント以外の、1つ以上の精製された(好ましくは実質的に精製された)ナトリウム利尿ペプチドフラグメントに関する。上記のように、本発明について、それらのフラグメントの代表的な起源としてヒトBNPを使用して記載する。ヒトBNPは108アミノ酸の前駆体分子(以下、BNP1-108と記載)のタンパク分解によって誘導される。成熟BNPまたは“BNPナトリウム利尿ペプチド”はこの前駆体のアミノ酸77-108に相当する32アミノ酸の分子であり、以下BNP77-108と記載する。残りの残基1-76を以下、BNP1-76と記載する。
【0016】
108アミノ酸のBNP前駆体プロBNP(BNP1-108)の配列は以下である(下線は成熟BNP(BNP77-108)):
【0017】
【化1】

【0018】
BNP1-108はより大型の前駆体プレプロBNPとして合成され、これは以下の配列を有する(太字は“プレ”配列):
【0019】
【化2】

【0020】
126アミノ酸のANP前駆体プロANP(ANP1-126)の配列は以下である(下線は成熟ANP(ANP99-126)):
【0021】
【化3】

【0022】
ANP1-126はより大型の前駆体プレプロANPとして合成され、これは以下の配列を有する(太字は“プレ”配列):
【0023】
【化4】

【0024】
126アミノ酸のCNP前駆体プロCNP(CNP1-126)の配列は以下である(イタリックは成熟CNP型CNP-53(CNP74-126)、下線はCNP-22(CNP105-126)):
【0025】
【化5】

【0026】
種々の実施態様において、本発明はプレプロBNP、BNP1-108、BNP1-76、およびBNP77-108以外の精製された(好ましくは実質的に精製された)BNP関連ポリペプチドに関する。好ましい実施態様では、本発明はBNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP69-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、 BNP39-86、BNP53-85、BNP66-98、BNP30-103、BNP11-107、BNP9-106、およびBNP3-108からなる群から選択される1つ以上の実質的に精製されたBNP関連ポリペプチドに関する。好ましい実施態様では、BNP1-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP86-108、BNP77-107、BNP77-106、BNP77-103、BNP1-13、およびBNP62-76はその個々の精製された形態で除外される。
【0027】
更に、BNPフラグメントを含むナトリウム利尿ペプチドフラグメントは1つ以上の酸化可能なメチオニン(酸化されてメチオニンスルホキシドまたはメチオニンスルホンとなる)を含みうる。1つ以上のメチオニンの酸化状態の変化によって、それらのフラグメントを検出するアッセイの能力が変化しうる。従って、上記の実質的に精製された還元型のナトリウム利尿ペプチドフラグメントに加え、本発明は、成熟ANP、BNP、およびCNP、それらの前駆体分子、そして前駆体分子が開裂して成熟ANP、BNP、およびCNPペプチドになる際に生成されるフラグメント以外の、1つ以上の精製された(好ましくは実質的に精製された)ナトリウム利尿ペプチドフラグメントで、1つ以上のメチオニンが酸化されているものにも関する。好ましくは1つ以上の実質的に精製されたBNP関連ポリペプチドはBNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP69-108、BNP77-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、 BNP39-86、BNP53-85、BNP66-98、BNP30-103、BNP11-107、BNP9-106、およびBNP3-108(これらは1つ以上のメチオニンが酸化されている)からなる群から選択される。これらのペプチドの1つ以上が含まれるナトリウム利尿ペプチドの存否は、後述するように、免疫アッセイ、質量分析、高圧液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーにより測定される。
【0028】
本明細書で使用する“フラグメント”という用語は、フラグメントが誘導されるポリペプチドの少なくとも6個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドをいう。従って、BNP1-108(プロBNP)のフラグメントとは、BNP1-108の少なくとも6個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドをいう;成熟BNPのフラグメントとは、BNP77-108の少なくとも6個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドをいう;プロBNPが開裂して成熟BNPになる際に生成されるポリペプチドのフラグメントとは、BNP1-76の少なくとも6個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドをいう。同様に、ANP1-126(プロANP)のフラグメントとは、ANP1-126の少なくとも6個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドをいう;成熟ANPのフラグメントとは、ANP99-126の少なくとも6個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドをいう;プロANPが開裂して成熟ANPになる際に生成されるポリペプチドのフラグメントとは、BNP1-98の少なくとも6個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドをいう;そして、CNP1-126(プロCNP)のフラグメントとは、CNP1-126の少なくとも6個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドをいう;成熟CNPのフラグメントとは、CNP74-126またはCNP105-126の少なくとも6個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドをいう;プロCNPが開裂して成熟CNPになる際に生成されるポリペプチドのフラグメントとは、CNP1-73またはCNP1-104の少なくとも6個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドをいう。好ましい実施態様において、フラグメントとは、フラグメントが誘導されるポリペプチドの少なくとも10個の連続するアミノ酸;フラグメントが誘導されるポリペプチドの少なくとも15個の連続するアミノ酸;またはフラグメントが誘導されるポリペプチドの少なくとも20個の連続するアミノ酸を含むポリペプチドをいう。
【0029】
本明細書で使用する“ナトリウム利尿ペプチドフラグメント”という用語は、上記のように以下からなる群から選択されるナトリウム利尿ペプチドのフラグメントをいう:成熟ANP、BNP、もしくはCNP、生合成前駆体プレプロANP、プレプロBNP、プレプロCNP、プロANP、プロBNP、もしくはプロCNP、またはペプチドのプロ形態から成熟ANP、BNP、もしくはCNPを除去した後に残余するポリペプチド。
【0030】
最も好ましくは、フラグメントは生体サンプル(例えば血液、血清、または血漿サンプル、そして最も好ましくはヒト血液、血清、または血漿)中に“天然に存在する”。これは、ヒトまたは動物由来の無添加生体サンプルからフラグメントを得てもよいことを意味する。“無添加”とは、サンプルを採取した後、フラグメントまたはその前駆体を外来的に添加していないサンプルをいう。血液、血清、または血漿中に天然に存在するフラグメントの例を本明細書に記載する。フラグメントが、そのようなサンプルにプロANP、プロBNP、プロCNP、および/またはそのフラグメントを添加し、サンプル中の内在性因子(例えばプロテアーゼ)により更なるフラグメントを生成させることが可能になる結果として存在する場合、他の好ましいフラグメントが、血液、血清、または血漿“から生成される”と言われる。ヒト血液、血清、または血漿から生成されるフラグメントの例も以下に記載する。フラグメントが天然に存在するか、またはそのようなサンプルから生成される場合、フラグメントが血液、血清、または血漿中に“存在する”。
【0031】
本明細書でポリペプチドに関連して使用する“精製された”という用語は、完全に純粋である必要はない。そうではなく、目的のポリペプチドが、他のタンパク質に比較した(質量ベースでの)存在度が生体サンプル中より高い個別の環境にあることを意味する。“個別の環境”とは単一の媒体(例えば単一の溶液、単一のゲル、単一の沈殿など)を意味する。精製されたポリペプチドは多くの方法によって得てもよく、それらには例えば実験室での合成、クロマトグラフィー、分離用電気泳動、遠心分離、沈殿、アフィニティー精製などがある。1つ以上の目的の“精製された”ポリペプチドは、好ましくは個別の環境のタンパク質含量が少なくとも10%である。1つ以上の“実質的に精製された”ポリペプチドは、個別の環境のタンパク質含量が少なくとも50%、より好ましくは個別の環境のタンパク質含量が少なくとも75%、そして最も好ましくは個別の環境のタンパク質含量が少なくとも95%である。タンパク質含量の測定はLowryらの方法(J. Biol. Chem. 193: 265, 1951)の変法(Hartree, Anal Biochem 48: 422-427, 1972)により、ウシ血清アルブミンをタンパク質標準物質として使用して行う。
【0032】
関連する観点では、本発明の精製したナトリウム利尿ペプチドフラグメントを方法に使用して、1つまたは1群のフラグメントを認識する抗体を生成してもよい。種々の実施態様において、多くのナトリウム利尿ペプチドフラグメントに共通する配列を含むポリペプチドを選択し、これを使用してこの共通の配列を認識する抗体を生成してもよい;それらの抗体は、配列が共通していて立体的に結合が可能であるように発現されるフラグメントのそれぞれを認識する。別の実施態様では、特定のフラグメントまたはフラグメント群に特徴的な配列を含むようにフラグメントを選択し、これを使用してその特定のフラグメントまたはフラグメント群のみを認識する抗体を生成してもよい。それらの抗体は、選択したフラグメントを抗体によって認識されないフラグメントとは“識別する”と言われる。従って、本発明は1つ以上のあらかじめ選択したナトリウム利尿ペプチドフラグメントに結合するように選択した抗体、並びにその生成および選択方法にも関する。
【0033】
種々の実施態様において、本発明は以下からなる群から選択される複数のBNP関連ポリペプチドに結合するように選択される抗体に関する:BNP1-108、BNP1-76、BNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP69-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、 BNP39-86、BNP53-85、BNP66-98、BNP30-103、BNP11-107、BNP9-106、およびBNP3-108。本発明はそれらの抗体の選択方法にも関する。好ましくはそれらの抗体はBNP77-108から生成される複数のBNPペプチドに結合するように、より好ましくは複数のBNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、そして最も好ましくはBNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108のそれぞれに結合するように選択される。他の好ましい実施態様では、抗体はまた、メチオニンの酸化状態に関係なくBNP関連ポリペプチドに結合するように選択される。
【0034】
種々の実施態様において、本発明は以下からなる群から選択される複数のBNP関連ポリペプチドに特異的に結合するように選択された抗体に関する:BNP1-108、BNP1-76、BNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP69-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、 BNP39-86、BNP53-85、BNP66-98、BNP30-103、BNP11-107、BNP9-106、およびBNP3-108。本発明はそれらの抗体の選択方法にも関する。好ましくはそれらの抗体はBNP77-108から生成される複数のBNPポリペプチドに特異的に結合するように、より好ましくは複数のBNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、最も好ましくはBNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108のそれぞれに結合するように選択される。他の好ましい実施態様では、抗体はまた、メチオニンの酸化状態に関係なくBNP関連ポリペプチドに特異的に結合するように選択される。
【0035】
種々の別の実施態様では、本発明は第1の群(BNP1-108、BNP1-76、BNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP69-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、 BNP39-86、BNP53-85、BNP66-98、BNP30-103、BNP11-107、BNP9-106、およびBNP3-108からなる群から選択される1つ以上のBNP関連ポリペプチドを含む)と、第2の群(BNP1-108、BNP1-76、BNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP69-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、 BNP39-86、BNP53-85、BNP66-98、BNP30-103、BNP11-107、BNP9-106、およびBNP3-108からなる群から選択される1つ以上の別のBNP関連ポリペプチドを含む)を識別するように選択された抗体に関する。本発明はまた、それらの抗体の選択方法にも関する。好ましくは、第1および/または第2の群のメンバーはBNP77-108から生成されるBNPペプチドを含み、最も好ましくは第1および/または第2の群のメンバーはBNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108を含む。他の好ましい実施態様では、抗体はまた、メチオニンの酸化状態に基づいてBNP関連ポリペプチドを識別するように選択される。
【0036】
本明細書で使用する“抗体”という用語は、抗原またはエピトープに特異的に結合する能力のある、単数もしくは複数のイムノグロブリン遺伝子またはそれらのフラグメントから誘導されるか、それをモデルとして生成されるか、または実質的にそれにコードされるペプチドまたはポリペプチドをいう。例えばFundamental Immunology, 第3版, W.E. Paul編, Raven Press, N.Y. (1993);Wilson (1994) J. Immunol. Methods 175:267-273;Yarmush (1992) J. Biochem. Biophys. Methods 25:85-97を参照されたい。抗体という用語は抗原結合部分、すなわち抗原に結合する能力を保持する“抗原結合部位”(例えばフラグメント、サブ配列、相補性決定領域(CDR))を含み、それらには以下が含まれうる:(i)Fabフラグメント(VL、VH、CL、およびCH1ドメインからなる一価フラグメント);(ii)F(ab')2フラグメント(ヒンジ領域でのジスルフィド架橋によって連結した2つのFabフラグメントを含む二価フラグメント);(iii)Fdフラグメント(VHおよびCH1ドメインからなる);(iv)Fvフラグメント(抗体の1つのアームのVLおよびVHドメインからなる);(v)dAbフラグメント(VHドメインからなる)(Wardら, (1989) Nature 341:544-546);および(vi)単離された相補性決定領域(CDR)。1本鎖抗体、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、および分子生物学的方法(例えばファージディスプレー法)によって得られる抗体も、“抗体”という用語に含まれる。好ましい抗体は“オムニクローナル”抗体である。これはファージディスプレーライブラリーから選択される異なる抗体分子の混合物を意味し、それぞれの抗体は標的抗原に最低109M-1から1010M-1のアフィニティーで特異的に結合する。
【0037】
“特異的に結合する”という用語は、抗体がその意図する標的のみに結合することを示すものではない。むしろ、意図する標的へのアフィニティーが非標的分子に対するアフィニティーと比較して約2倍高ければ、抗体は特異的に結合する。好ましくは抗体の標的分子に対するアフィニティーは、非標的分子に対するそのアフィニティーより少なくとも約5倍、好ましくは10倍、より好ましくは25倍、更に好ましくは50倍、そして最も好ましくは100倍以上高い。好ましい実施態様では、抗体または他の結合物質および抗原間の特異的結合とは、少なくとも106M-1の結合アフィニティーを意味する。好ましい抗体は少なくとも約107M-1、好ましくは108M-1から109M-1または1010M-1のアフィニティーで結合する。
【0038】
本明細書でナトリウム利尿ペプチドフラグメントおよびBNP関連ポリペプチドに関して使用する“複数”という用語は、アミノ酸配列が異なる2つ以上の分子種をいう。
【0039】
当業者に理解されるように、(例えばファージディスプレーまたはモノクローナル抗体法によって得られた)個別の抗体は、抗体が結合しうる共通のエピトープを有する複数のフラグメントに結合するようにして得てもよい。あるいは、所望の範囲の結合アフィニティーとなるように個別の抗体をプールしてもよい。本明細書で使用する“抗体”という用語は、存在するそれぞれの抗体分子が同一である組成物(特に“個別の抗体”と呼ぶ)または存在する抗体分子が異なりうる組成物(例えばプールされた組成物またはポリクローナル組成物)の両方をいう。
【0040】
種々の実施態様では、抗体を1つ以上のナトリウム利尿ペプチドフラグメントに対する特定のアフィニティーに基づくのではなく、イムノアッセイのような結合アッセイで得られるシグナルに基づいて選択する。当業者に認識されるように、種々の結合アッセイフォーマットが当該分野で知られており、多くの場合、1つ以上の標的分子に対する特定の抗体アフィニティーより重要であるのは、好適なアッセイを構築するための抗体の使用である。例えば競合結合アッセイは、固相表面に結合した受容体(例えば抗体)を含んでもよい。試験サンプル中の目的の分析物は、標識された分子(これも受容体に結合する)と結合に関して競合する。受容体に結合した標識された分子の量(従ってアッセイシグナル)は試験サンプル中の目的の分析物の量に反比例する。この場合、固相に結合した単一の抗体を使用する。あるいはまた、サンドイッチイムノアッセイでは、第1の抗体(一般に、固相に結合したもの)および第2の抗体(一般に、検出可能な標識にコンジュゲートしたもの)がそれぞれ試験サンプル中の目的の分析物に結合する。受容体に結合した標識された分子の量(従ってアッセイシグナル)は試験サンプル中の目的の分析物の量に正比例する。
【0041】
従って、別の観点では、サンプル中に存在する種々のナトリウム利尿ペプチドフラグメントの存在または量を測定する。それらの分析は、好ましくは本発明の抗体を使用するイムノアッセイで行うが、他の方法も当業者に周知である(例えばバイオセンサーの使用、または当該分野で知られるナトリウム利尿ペプチドの天然の受容体の使用)。好適なイムノアッセイ(例えば酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、競合結合アッセイ、サンドイッチイムノアッセイなど)のいずれを利用してもよい。1つ以上のナトリウム利尿ペプチドフラグメントへの抗体の特異的免疫結合は直接的または間接的に検出できる。直接標識には抗体に結合させた蛍光または発光タグ、金属、色素、放射性核種などがある。間接標識には当該分野で周知の種々の酵素、例えばアルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼなどがある。第2の分子(例えば検出可能な標識)に結合した抗体を、本明細書では“抗体コンジュゲート”と記述する。当業者に理解されるように、ナトリウム利尿ペプチドの天然の受容体が存在し、これらの受容体を、抗体と同様に使用して結合アッセイを提供してもよい。
【0042】
種々の実施態様において、本発明はBNP1-108、BNP1-76、BNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP69-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、 BNP39-86、BNP53-85、BNP66-98、BNP30-103、BNP11-107、BNP9-106、およびBNP3-108からなる群から選択される複数のBNP関連ポリペプチドの存在または量に関係する単一のシグナルを得るために構成されるイムノアッセイに関する。好ましくは、それらのイムノアッセイは、BNP77-108から生成される複数のBNPペプチドの存在または量、より好ましくは複数のBNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、そして最も好ましくはBNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108のそれぞれに関係する単一のシグナルを提供するように構成される。他の実施態様では、メチオニンの酸化状態に関係なくBNP関連ポリペプチドの存在または量に関係する単一のシグナルを提供するようにイムノアッセイを構成する。
【0043】
好ましい実施態様では、イムノアッセイは、複数のナトリウム利尿ペプチドフラグメント、最も好ましくは複数の上記BNP関連ポリペプチドの同数の分子から、5ファクター以内、最も好ましくは2ファクター以内のシグナルを与える。
【0044】
別の種々の実施態様では、本発明は第1の群(BNP1-108、BNP1-76、BNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP69-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、 BNP39-86、BNP53-85、BNP66-98、BNP30-103、BNP11-107、BNP9-106、およびBNP3-108からなる群から選択される1つ以上のBNP関連ポリペプチドを含む)と第2の群(BNP1-108、BNP1-76、BNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP69-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、 BNP39-86、BNP53-85、BNP66-98、BNP30-103、BNP11-107、BNP9-106、およびBNP3-108からなる群から選択される1つ以上の別のBNP関連ポリペプチドを含む)を識別するシグナルを提供するために構成されたイムノアッセイに関する。好ましくは、第1および/または第2の群のメンバーはBNP77-108から生成されるBNPペプチドを含み、最も好ましくは第1および/または第2の群のメンバーはBNP77-108、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108を含む。他の好ましい実施態様では、イムノアッセイはまた、メチオニンの酸化状態に基づいてBNP関連ポリペプチドを識別するように構成される。
【0045】
イムノアッセイが同一アッセイ条件下で同じ分子数の第2の群のポリペプチドから得られるシグナルより少なくとも10ファクター高い第1の群ポリペプチドの結合に関係するシグナルを与える場合、イムノアッセイは第1の群のポリペプチドと第2の群のポリペプチドを“識別する”と言われる。より好ましくは、シグナルは少なくとも20ファクター、より好ましくは少なくとも50ファクター、そして最も好ましくは少なくとも100ファクター以上高い。
【0046】
第1の群のポリペプチドのメンバーに対するアフィニティーが、第2の群のメンバーに対するアフィニティーに比較して約2倍高い場合、抗体は第1の群のポリペプチドと第2の群のポリペプチドを“識別する”と言われる。好ましくは第1の群のポリペプチドのメンバーに対する抗体のアフィニティーは第2の群のメンバーに対するアフィニティーより少なくとも5倍、好ましくは10倍、より好ましくは25倍、更に好ましくは50倍、そして最も好ましくは100倍以上である。
【0047】
抗体がシグナルを生成するのに必要な複合体の形成に関与する場合、イムノアッセイからのシグナルは“抗体への結合に依存する”と言われる。例えば、固相抗体および第2の抗体コンジュゲート(それらはそれぞれ分析物に結合してサンドイッチを形成しなければならない)を使用して構成されるサンドイッチ・イムノアッセイでは、固相抗体および第2抗体はそれぞれシグナルの生成に必要な複合体の形成に関与する。単一の抗体を使用し、分析物が分析物コンジュゲートと結合に関して競合する競合イムノアッセイでは、単一の抗体がシグナルの生成に必要な複合体の形成に関与する。当業者に理解されるように、多くの更なるイムノアッセイ方式が提供されうる。
【0048】
本明細書に記載するアッセイを実施するための装置は、好ましくは複数の個別の、独立してアドレスすることが可能な位置または“診断ゾーン”(それらはそれぞれ目的の特定のペプチドまたはペプチド群に関係する)を含む。例えば複数の個別のゾーンはそれぞれ、異なるペプチドに結合する受容体(例えば抗体)を含んでもよい。あるいはまた、1つ以上のゾーンがそれぞれ、複数のペプチドに結合する受容体(例えば抗体)を含んでもよい。サンプルと装置との反応に次いで、診断ゾーンからシグナルが生成されるが、これを後に目的のペプチドの存在または量と相関させてもよい。
【0049】
本明細書で使用する“個別の”という用語は表面の非連続的なエリアをいう。すなわち、2つのエリアのいずれの一部でもない境界線が完全にそれらのエリアのそれぞれを包囲する場合、この2つのエリアは不連続である。本明細書で使用する“独立してアドレスすることが可能な”という用語は、特定のシグナルが得られうる、表面の不連続なエリアを言う。当業者に認識されるように、抗体ゾーンは互いに独立していてもよいが、表面上で互いに接触していてもよい。
【0050】
本明細書で使用する“試験サンプル”という用語は、1つ以上の目的の分析物の存在または量が未知であり、アッセイ(好ましくはイムノアッセイ)で測定されるサンプルをいう。好ましくは試験サンプルは被験体(例えば患者)の診断、予後、または評価の目的で採取した体液である。ある実施態様では、進行中の症状の帰結または症状に対する治療計画の効果を測定する目的でそれらのサンプルを得てもよい。好ましい試験サンプルには血液、血清、血漿、脳脊髄液、尿、および唾液がある。更に、当業者に認識されるように、試験サンプルによっては分画または精製操作(例えば全血の血清または血漿成分への分離)後のほうが分析が容易となる。好ましいサンプルは細菌、ウィルス、および動物(例えばイヌおよびネコ)から得てもよい。特に好ましいサンプルはヒト由来である。対照として、“標準サンプル”は1つ以上の分析物についてのアッセイ以前に1つ以上の目的の分析物の存在または量が知られているサンプルをいう。
【0051】
本明細書で使用する“疾病サンプル”という用語は、所定の疾病に罹患していることが確認されている被験体から得た組織サンプルをいう。臨床における診断方法は当業者に周知である。例えばKelley's Textbook of Internal Medicine, 第4版, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA, 2000;The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, 第17版, Merck Research Laboratories, Whitehouse Station, N.J., 1999を参照されたい。
【0052】
当業者に理解されるように、1つ以上の目的のナトリウム利尿ペプチドフラグメントの存在または量は、疾病の存在もしくは不在、または疾病に関係する将来的な有害な帰結の尤度に関係してもよい。しかしながら、アッセイから得られるシグナルは1つ以上のナトリウム利尿ペプチドフラグメントの存在または量と関係している必要はない:むしろ、シグナルは疾病の存在もしくは不在、または疾病に関係する将来的な有害な帰結の尤度と直接関係してもよい。例えば、シグナルのレベルxはy pg/mLのフラグメントがサンプル中に存在することを示してもよい。次いで、表によってy pg/mLの同フラグメントがうっ血性心不全を示すことを表してもよい。どれだけのフラグメントが存在するかを測定することなく、単純にシグナルレベルxをうっ血性心不全に直接関係づけることも同等に有効でありうる。それらのシグナルは本発明の抗体を使用するイムノアッセイから得るのが好ましいが、他の方法も当業者に周知である。
【0053】
別の観点では、試験サンプルを1つ以上のプロテアーゼ阻害剤と接触させて、サンプルに含有されるナトリウム利尿ペプチドおよびナトリウム利尿ペプチドフラグメントの分解を防止する。これはサンプル回収前に(すなわち体内で)起こるペプチドおよびペプチドフラグメントの分解は防止しないが、これらの方法によって更なる分解は阻止できる。種々のペプチドおよびフラグメントの同一性および量は組織へのペプチド放出を誘発する事象の開始からサンプルを回収または分析するまでの経過時間に依存しうるので、更なる分解を阻止することによってサンプルは誘発事象の開始をより良好に反映しうる。
【0054】
本発明の方法に使用するための好適なプロテアーゼ阻害剤およびキレート剤には、それらに限定されるわけではないが以下がある:フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、ジイソプロピルフルオロホスフェート(DFP)、Pefabloc SC(フッ化4-(2-アミノエチル)-ベンゼンスルホニル)、アンチパイン、カルパイン阻害剤IおよびII、キモスタチン、L-1-クロロ-3-[4-トシルアミド]-7-アミノ-2-ヘプタノン(TLCK)、ダイズトリプシン阻害剤、アンチトロンビンIII、アプロチニン、3,4-ジクロロイソクマリン、フッ化4-アミジノ-フェニルメチルスルホニル(APMSF)、ロイペプチン、ベスタチン、E-64、EDTA、EGTA、ヒルジン、α-2-マクログロブリン、ペプスタチン、ホスホラミドン、およびTIMP-2。それらの添加した試験サンプルを本明細書に記載するアッセイ法に使用してもよい。
【0055】
別の実施態様では、サンプル中に存在する種々のナトリウム利尿ペプチドフラグメントの存在または量を測定する。それらの分析は好ましくは本発明の抗体を使用するイムノアッセイで実施するが、他の方法も当業者に周知である(例えばバイオセンサーの使用、または当該分野で知られるナトリウム利尿ペプチドの天然の受容体の使用)。好適なイムノアッセイ、例えば酵素結合イムノアッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、競合結合アッセイ、サンドイッチイムノアッセイなどを利用してもよい。1つ以上のナトリウム利尿ペプチドフラグメントへの抗体の特異的免疫学的結合は直接的または間接的に検出できる。直接標識には抗体に結合した蛍光または発光タグ、金属、色素、放射性核種などがある。間接的標識には当該分野で知られる種々の酵素、例えばアルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼなどがある。第2の分子(例えば検出可能な標識)に結合した抗体を、本明細書では“抗体コンジュゲート”という。当業者に理解されるように、ナトリウム利尿ペプチドの天然の受容体が存在し、それらの受容体を抗体と同様に使用して結合アッセイを提供してもよい。
【0056】
更に別の態様では、本発明は既知の量の1つ以上の精製された(好ましくは実質的に精製された)、成熟ANP、BNP、およびCNP、その前駆体分子、そして前駆体分子が開裂して成熟ANP、BNP、およびCNPペプチドとなる際に生成されるフラグメント以外のナトリウム利尿ペプチドフラグメントを含む標準溶液に関する。それらの標準溶液は、本明細書に記載する種々のアッセイにおいてポジティブおよび/またはネガティブコントロールサンプルとしての使用が見いだされうる。種々の実施態様では、本発明は精製された(好ましくは実質的に精製された)、BNP1-108、BNP1-76、およびBNP77-108以外のBNP関連ポリペプチドに関する。好ましい実施態様では、本発明は既知量の1つ以上の精製された(好ましくは実質的に精製された)、BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP69-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、BNP39-86、BNP53-85、BNP66-98、BNP30-103、BNP11-107、BNP9-106、およびBNP3-108からなる群から選択される関連ポリペプチドを含む1つ以上の標準溶液に関する。
【0057】
ある観点では、試験サンプルと実質的に同等の組成物(例えば、目的のナトリウム利尿ペプチドフラグメントの溶媒として血液、血清、血漿などを含有する溶液)を使用してそれらの標準溶液を調製するのが有利でありうる。そのような場合、添加したナトリウム利尿ペプチドフラグメントの分解を阻害するために1つ以上のプロテアーゼ阻害剤またはキレート剤を含有するのも有利でありうる。好適なプロテアーゼ阻害剤およびキレート剤には、限定されるわけではないが以下がある:フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、ジイソプロピルフルオロホスフェート(DFP)、Pefabloc SC(フッ化4-(2-アミノエチル)-ベンゼンスルホニル)、アンチパイン、カルパイン阻害剤IおよびII、キモスタチン、L-1-クロロ-3-[4-トシルアミド]-7-アミノ-2-ヘプタノン(TLCK)、ダイズトリプシン阻害剤、アンチトロンビンIII、アプロチニン、3,4-ジクロロイソクマリン、フッ化4-アミジノ-フェニルメチルスルホニル(APMSF)、ロイペプチン、ベスタチン、E-64、EDTA、EGTA、ヒルジン、α-2-マクログロブリン、ペプスタチン、ホスホラミドン、およびTIMP-2。
【0058】
別の観点では、1つ以上の本発明の抗体、抗体コンジュゲート、および/または標準溶液を、ナトリウム利尿ペプチドフラグメントの存在または量を測定するためのキットとして提供してもよい。これらのキットは、好ましくは試験サンプルに対して本明細書に記載する少なくとも1つのアッセイを実施するための装置および試薬を含む。それらのキットは好ましくはそれらの測定の1つ以上を行うのに十分な試薬および/または食品医薬品局(FDA)が認定する標識を含有する。
【0059】
更に別の観点では、本発明は患者に使用するための治療計画を決定する方法に関する。好ましくはこの方法は、成熟ANP、BNP、およびCNP、それらの前駆体分子、そして前駆体分子が開裂して成熟ANP、BNP、およびCNPペプチドになる際に生成されるフラグメント以外の1つ以上のナトリウム利尿ペプチドフラグメントの存在または量を測定すること、並びにこの存在または量を疾病または予後兆候と関連づけることを含む。本明細書に記載するように、種々の心血管および脳血管疾患(卒中、うっ血性心不全(CHF)、心虚血、全身性高血圧、および/または急性心筋梗塞を含む)の診断および識別はANP、BNP、および/またはCNPレベルに関係しうる。ひとたび診断が得られれば、その診断に従って治療計画を選択する。
【0060】
更に別の観点では、本発明は既知のポリペプチドに関係する、生体サンプル(好ましくは血液、血清、または血漿サンプル)中に存在する新規のポリペプチドの同定法に関する。これらの方法では、1つ以上の既知のポリペプチド(例えばBNP)に対して親和性を有する抗体を、構造的に十分関係があってその抗体に対する結合親和性を共有するが、あらかじめサンプル中に存在すると予知できない別のポリペプチドを結合させるための親和性プローブとして使用する。その後、本明細書に記載する方法でポリペプチドの配列を得る。ひとたび得られたら、その配列を本明細書に記載する他の観点で使用し、以下を行ってもよい:例えば、既知のポリペプチドと未知のポリペプチドを識別できる抗体を、ここでも本明細書に記載する方法に従って選択する;未知のポリペプチドが診断または予後のマーカーとして有用かどうかを確認する;および/または標準溶液もしくは単離したペプチドを提供する。
【0061】
本明細書で使用する“予測されていないポリペプチド”という用語は、分析すべき特定の型の生体サンプルにおいて天然に存在することがそれまでに証明されていないポリペプチドをいう。ポリペプチドは好ましくは血液、血清、または血漿サンプル、そして最も好ましくはヒト血液、血清、または血漿サンプルにおいて予測されない。
【0062】
本明細書で使用する“アミノ酸配列の測定”という用語は、特定のポリペプチドのアミノ酸配列を得る方法をいう。それらの方法は以下を含みうる:直接シーケンシング(例えばエドマン分解による);質量分析による同定(観察されたm/zを予測される、または既知のポリペプチド配列と比較することを含んでもよい)(例えばCagneyおよびEmili, Nature Biotechnol. 20: 163-170 (2002)参照);ペプチドマッピング;など。
【0063】
上記の本発明の概要は非制限的なものであり、本発明の他の特徴および利点は以下に記載する本発明の詳細な説明および特許請求の範囲から明白になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0064】
予後および診断のマーカーとしてのナトリウム利尿ペプチドフラグメントの使用
上記のように、ある種の疾病状態においてナトリウム利尿ペプチドのレベルが高いことが発見されており、それらの疾病(卒中、うっ血性心不全(CHF)、心虚血、全身性高血圧、および急性心筋梗塞を含む)の病因論における役割が示唆されている。例えば以下を参照されたい:WO 02/089657;WO 02/083913;WO 03/016910;Huntら, Biochem. Biophys. Res. Comm. 214: 1175-83 (1995);Venugopal, J. Clin. Pharm. Ther. 26: 15-31, 2001;およびKalraら, Circulation 107: 571-3, 2003;それぞれ参照によりその全体(全ての表、図面、および請求の範囲を含む)が本明細書に組み込まれる。ナトリウム利尿ペプチドは単独で、集合的に、および/または更なるタンパク質と共に、種々の心血管症状における疾病マーカーおよび予後指標として役立ちうる。
【0065】
ナトリウム利尿ペプチドの循環器系からの除去は分解経路に関係することが報告されている。実際に、中性エンドペプチダーゼ(これは、ある環境下でナトリウム利尿ペプチドを開裂する)の阻害剤はある種の心血管障害の治療に有望であることが示唆されている。例えばTrindadeおよびRouleau, Heart Fail. Monit. 2: 2-7, 2001を参照されたい。しかしながら、臨床サンプル中のナトリウム利尿ペプチドの測定は一般に、成熟BNP、ANP、および/またはCNP;その前駆体分子(すなわちプロBNP、プロANP、およびプロCNP);そしてプロ型が開裂して成熟ナトリウム利尿ペプチドを生成する際に生ずるフラグメントの測定に焦点を合わせている。本発明は初めて、生体サンプル中で、それらの分子の分解によって生成される多くのフラグメントについて記載する。以下に主としてBNP関連フラグメントに関して記載するが、当業者に理解されるように、本明細書に記載する一般的なコンセプトはANPおよびCNP関連フラグメントにも等しく適用される。
【0066】
1つ以上のナトリウム利尿ペプチドを測定する際、臨床サンプル中に存在しうる分解フラグメントを考慮しなければ、診断または予後の方法の正確さに深刻な結果を与えうる。例えば単純なケースで、サンドイッチイムノアッセイをBNPについて行い、存在するBNPの全てが2つのフラグメントに分解されており、イムノアッセイにおいてその1つは固相抗体に対応するエピトープを含み、他方はシグナル生成に使用される抗体コンジュゲートに対応するエピトープを含む場合を検討する。両方のエピトープを含むBNPフラグメントは存在しないので、イムノアッセイからシグナルは得られず、従って元来サンプル中にはBNPが存在しなかったという、誤った憶説に導かれる。
【0067】
同様に、別の単純なケースを検討する。溶液中に存在するBNPと標識されたBNPが固相抗体への結合を競合する競合アッセイにおいて、固相が上記のフラグメントの両方を認識するポリクローナル抗体で形成される場合を考えると、それぞれは抗体固相に結合し、標識されたBNPと結合を競合する。そのような状況では、サンプル中に実際に存在するBNPの2倍が検出されるという、誤った憶説に導かれる。
【0068】
本明細書に記載するように、実際には、状態はこれらの単純な状態より更に複雑でありうる。BNP1-108、BNP1-76、およびBNP77-108(プロBNP、プロフラグメント、および成熟BNPを表す)に加え、以下の分解フラグメントがヒト血清または血漿中で同定されている:BNP77-106、BNP79-106、BNP76-107、BNP69-108、BNP79-108、BNP80-108、BNP81-108、BNP83-108、BNP39-86、BNP53-85、BNP66-98、BNP30-103、BNP11-107、BNP9-106、およびBNP3-108。更に、それらのアミノ酸を含有するフラグメント中のメチオニン残基は酸化されうるため、分解パターンは更に複雑となる。この分解を考慮しなければ、存在するBNP量の算定が不正確となり、それに付随して診断または予後を誤る可能性がある。
【0069】
更に、これらのフラグメントを考慮しなければ、診断または予後に使用するための有用な情報を逃しうる。上記のように、それらのフラグメントの生成は進行性の過程であり、特に、ナトリウム利尿ペプチドの組織への放出を誘発する事象の開始からサンプルを採取または分析するまでの経過時間;サンプルの採取からサンプルの分析までの経過時間;問題の組織サンプルの型;保存状態;存在するタンパク分解酵素の量;などの関数でありうる。分解の相対的パターンの測定により、有害事象の時間;プロテアーゼ阻害剤での治療の成功または不成功;サンプルの保存が適切であったかどうか、などが示唆されうる。更に、個々のフラグメントを、ナトリウム利尿ペプチドに関係しない更なるマーカーと共に、またはそれらを伴わずに、マーカーパネル中のマーカーとして使用してもよい。更なる無関係マーカーにはWO 02/089657;WO 02/083913;およびWO 03/016910(それぞれ、全ての表および特許請求の範囲を含め、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されるものがある。
【0070】
当業者に理解されるように、本明細書に記載する方法は一般的にポリペプチドに適用でき、本明細書に詳細に記載するナトリウム利尿ペプチドの分析は単に例証に過ぎない。同様の分析の対象となりうる他の好適なポリペプチドには以下がある:アンギオテンシンI、アンギオテンシンII、バソプレシン、カルシトニン、カルシトニン遺伝子関連ペプチド、ウロジラチン、ウロテンシンII、遊離型心臓トロポニンI、遊離型心臓トロポニンT、トロポニンTおよびトロポニンCの一方または両方を含む複合体である心臓トロポニンI、トロポニンIおよびトロポニンCの一方または両方を含む複合体である心臓トロポニンT、総心臓トロポニンI、総心臓トロポニンT、肺表面活性タンパク質D、D-ダイマー、アネキシンV、エノラーゼ、クレアチンキナーゼ、グリコーゲンホスホリラーゼ、心臓型脂肪酸結合タンパク質、ホスホグリセリン酸ムターゼ、S-100、S-100ao、プラスミン-α2-アンチプラスミン複合体、β-トロンボグロブリン、血小板第4因子、フィブリノペプチドA、血小板由来成長因子、プロトロンビンフラグメント1+2、P-セレクチン、トロンビン-抗トロンビンIII複合体、フォン・ウィルブラント因子、組織因子、血栓前駆体タンパク質、ヒト好中球エラスターゼ、誘導型酸化窒素合成酵素、リゾホスファチジン酸、マロンジアルデヒド修飾型低密度リポタンパク質、マトリックスメタロプロテアーゼ-1、マトリックスメタロプロテアーゼ-2、マトリックスメタロプロテアーゼ-3、マトリックスメタロプロテアーゼ-9、TIMP1、TIMP2、TIMP3、C反応性タンパク質、インターロイキン-1β、インターロイキン-1受容体アンタゴニスト、インターロイキン-6、腫瘍壊死因子α、可溶性細胞接着分子-1、血管細胞接着分子、単球走化因子タンパク質-1、カスペース-3、ヒト・リポカリン型プロスタグランジンD合成酵素、マスト細胞トリプターゼ、好酸球カチオン性タンパク質、KL-6、プロカルシトニン、ハプトグロビン、s-CD40リガンド、S-FASリガンド、アルファ2アクチン、塩基性カルポニン1、CSRP2エラスチン、LTBP4、平滑筋ミオシン、平滑筋ミオシン重鎖、トランスゲリン、アルドステロン、アンジオテンシンIII、ブラジキニン、エンドセリン1、エンドセリン2、エンドセリン3、レニン、APO B48、膵臓エラスターゼ1、膵臓リパーゼ、sPLA2、トリプシノーゲン活性化ペプチド、α-エノラーゼ、LAMP3、ホスホリパーゼD、PLA2G5、タンパク質D、SFTPC、デフェンシンHBD1、デフェンシンHBD2、CXCL-1、CXCL-2、CXCL-3、CCL2、CCL3、CCL4、CCL8、プロカルシトニン、タンパク質C、血清アミロイドA、s-グルタチオン、s-TNF P55、s-TNF P75、TAFI、TGFβ、MMP-11、脳型脂肪酸結合タンパク質、CA11、CABP1、CACNA1A、CBLN1、CHN2、開裂型Tau、CRHR1、DRPLA、EGF、GPM6B、GPR7、GPR8、GRIN2C、GRM7、HAPIP、HIF1α、HIP2 KCNK4、KCNK9、KCNQ5、MAPK10、n-アセチルアスパラギン酸、NEUROD2、NRG2、PACE4、ホスホグリセリン酸ムターゼ、PKCガンマ、プロスタグランジンE2、PTEN、PTPRZ1、RGS9、SCA7、セクレタゴジン、SLC1A3、SORL1、SREB3、STAC、STX1A、STXBP1、BDNF、シスタチンC、ニューロキニンA、P物質、インターロイキン-1、インターロイキン-11、インターロイキン-13、インターロイキン-18、インターロイキン-4、およびインターロイキン-10。
【0071】
また当業者に理解されるように、本明細書に記載する方法は、一般的にポリペプチドが目的の抗体への結合能力を共有する別のより大きなポリペプチドのタンパク分解フラグメントであるかどうかを同定するためにも適用できる。既知の例では、ポリペプチドホルモン、カルジオジラチンはプロANPの一部と同一の配列を有する。従ってプロANPに結合する抗体はカルジオジラチンと交差反応しうる。血液サンプル中でカルジオジラチンが未知の場合、交差反応性を利用し、抗体に結合するそれらの更なるポリペプチドを同定することによってその存在を確認することができた。
【0072】
目的の抗体への結合能力を共有する予測されていないポリペプチドが同定されれば、その血清中の存在をキャラクタライズして、以下に記載するような疾病マーカーとして使用してもよい。更に、種々のポリペプチドを識別するように抗体を選択してもよい。上記のカルジオジラチン/プロANPの例に戻り、プロANPに関するアッセイが特定の疾病状態に関係することが明らかになっていれば、カルジオジラチンはその関係に関与するか、またはその関係を混乱させる可能性がある。目的の抗体が予測されるプロANPポリペプチド以外にも結合するという知見に基づいて、更なるキャラクタリゼーションが可能となる。
【0073】
抗体の選択
1つ以上のナトリウム利尿ペプチドフラグメントを認識する抗体の生成および選択はいくつかの方法で行いうる。例えば一つの方法は、目的のフラグメントを精製するか、または(例えば当該分野で周知の固相ペプチド合成法を使用して)目的のフラグメントを合成するものである。例えばGuide to Protein Purification, Murray P. Deutcher編, Meth. Enzymol. Vol 182 (1990);Solid Phase Peptide Synthesis, Greg B. Fields編, Meth. Enzymol. Vol 289 (1997)参照。当業者に認識されるように、目的のフラグメント全体ではなく、あるペプチド群に共通する領域を使用して、その共通の領域を含有するフラグメント群を認識する抗体を生成および/または同定してもよい。同様に、一つの、または一群のフラグメント間で共通しない領域を使用して、フラグメント群間を識別する抗体を生成および/または同定してもよい。
【0074】
次いで選択されたポリペプチドを(例えばマウスまたはウサギに)注射してポリクローナルまたはモノクローナル抗体を生成してもよい。当業者に認識されるように、抗体を生成するために多くの方法が利用でき、それらには例えばAntibodies, A Laboratory Manual, Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988), Cold Spring Harbor, N.Y.に記載されるものがある。当業者に認識されるように抗体を擬態する結合フラグメントまたはFabフラグメントを遺伝情報から種々の方法で調製することもできる(Antibody Engineering: A Practical Approach (Borrebaeck, C.編), 1995, Oxford University Press, Oxford; J. Immunol. 149, 3914-3920 (1992))。
【0075】
更に、ファージディスプレー技術を使用した、選択された標的への結合に関するポリペプチドライブラリーの調製およびスクリーニングが多くの文献で報告されている。例えばCwirlaら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87, 6378-82, 1990;Devlinら, Science 249, 404-6, 1990;ScottおよびSmith, Science 249, 386-88, 1990;およびLadnerら, 米国特許第5,571,698号を参照されたい。ファージディスプレー法の基本コンセプトはスクリーニングすべきポリペプチドをコードするDNAと同ポリペプチド間の物理的結合の確立である。この物理的結合は、ポリペプチドをコードするファージゲノムを封入するカプシドの一部としてポリペプチドを提示するファージ粒子によって提供される。ポリペプチドとその遺伝物質間の物理的結合の確立によって、異なるポリペプチドを有する非常に多くのファージの同時大量スクリーニングが可能となる。標的に対する親和性を有するポリペプチドを提示するファージは標的に結合し、これらのファージは標的に対するアフィニティースクリーニングによって濃縮される。これらのファージから提示されるポリペプチドの同一性はそのそれぞれのゲノムから測定できる。その後、これらの方法を使用して、所望の標的に対する結合親和性を有することが確認されたポリペプチドを慣例的な方法によって大量合成することができる。例えば米国特許第6,057,098号(全ての表、図面、および特許請求の範囲を含め、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)を参照されたい。
【0076】
次いで、それらの方法で生成された抗体の選択を行うために、目的の精製されたナトリウム利尿フラグメントとの親和性および特異性に関して第1のスクリーニングを行い、必要により、結合から除外することが所望されるナトリウム利尿フラグメントとの抗体の親和性および特異性とその結果を比較してもよい。スクリーニング法は、精製されたナトリウム利尿フラグメントをマイクロタイタープレートの個々のウェルに固定化することを含んでもよい。その後、可能性のある抗体または抗体群を含有する溶液を各マイクロタイターウェルに注入し、約30分間から2時間インキュベートする。目的のフラグメントに対する抗体が溶液中に存在すれば、固定化されたナトリウム利尿フラグメントに結合する。次いで、マイクロタイターウェルを洗浄し、標識された二次抗体(例えば、産生される抗体がマウス抗体の場合、アルカリホスファターゼにコンジュゲートさせた抗マウス抗体)をウェルに添加し、約30分間インキュベートした後、洗浄する。基質をウェルに添加し、色素反応によって、固定化されたナトリウム利尿フラグメントに対する抗体がどこに存在するかが明らかになる。
【0077】
そのようにして同定された抗体を、その後、選択したアッセイ計画において目的のナトリウム利尿フラグメントに対する親和性および特異性について更に分析してもよい。標的タンパク質に関するイムノアッセイの開発において、精製された標的タンパク質は、選択された抗体を使用してイムノアッセイの感度および特異性を判断するための標準物質として機能する。種々のフラグメントに対する種々の抗体の結合親和性は異なりうる;(例えばサンドイッチアッセイにおける)ある種の抗体対は互いに立体的に干渉しうるなどの理由により、抗体のアッセイ挙動は、抗体の絶対的な親和性および特異性より重要な基準でありうる。
【0078】
別の好ましい実施態様では、抗体または結合フラグメントは、メチオニン残基の酸化によって変化を受けない、または酸化型と還元型を区別できるエピトープを標的とする。上記の抗体の生成および/または同定のために種々の酸化型および還元型ポリペプチドが可能である。
【0079】
当業者に認識されるように、多くの方法で抗体または結合フラグメントの生成並びに種々のナトリウム利尿フラグメントに対する親和性および特異性に関するスクリーニングおよび選択を行うことができるが、これらの方法は本発明の範囲を変更するものではない。
【0080】
ナトリウム利尿ペプチドフラグメントのキャラクタリゼーション
ナトリウム利尿ペプチドの種々の領域に対する抗体が得られれば、これらの抗体を使用して試験サンプルからフラグメントを捕捉して更なるキャラクタリゼーションを行い、存在する種々のペプチドの配列を同定することができる。個々のペプチドを得、当業者に周知のマイクロシーケンシング法を使用してシーケンシングを行ってもよい。例えばA Practical Guide to Protein and Peptide Purification for Microsequencing, Paul T. Matsudaira編, Academic Press, San Diego, 1989を参照されたい。質量分析法を使用したペプチドマスフィンガープリンティングおよびアミノ酸分析は、そのようにして得られたペプチドを同定するのに特に好適である。例えばWestermeier and Naven, Proteomics in Practice: A Laboratory Manual of Proteome Analysis, Wiley-VCH Verlag-GmbH, Weinheim, 2002を参照されたい。
【0081】
本明細書で使用する“質量分析”または“MS”という用語は、イオンをその質量・電荷比または“m/z”に基づいてフィルタリング、検出、および測定する方法をいう。一般に、1つ以上の目的の分子をイオン化し、次いでそのイオンを質量分析装置に導入し、そこでイオンは磁場および電場の組み合わせによって、質量(“m”)および電荷(“z”)に依存する空間中の軌道に従う。例えば以下を参照されたい:米国特許第6,204,500号(“Mass Spectrometry From Surfaces”);第6,107,623号(“Methods and Apparatus for Tandem Mass Spectrometry”);第6,268,144号(“DNA Diagnostics Based On Mass Spectrometry”);第6,124,137号(“Surface-Enhanced Photolabile Attachment And Release For Desorption And Detection Of Analytes”);Wrightら,“Proteinchip surface enhanced laser desorption/ionization (SELDI) mass spectrometry: a novel protein biochip technology for detection of prostate cancer biomarkers in complex protein mixtures”;Prostate Cancer and Prostatic Diseases 2: 264-76 (1999);およびMerchantおよびWeinberger, “Recent advancements in surface-enhanced laser desorption/ionization-time of flight-mass spectrometry”, Electrophoresis 21: 1164-67 (2000)(それぞれ、全ての表、図面、および特許請求の範囲を含め、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。
【0082】
例えば“四重極”または“四重極イオントラップ”装置では、振動する高周波電場中のイオンは、電極間に施与されるDC電位、RFシグナルの振幅、およびm/zに比例する力を経験する。電圧および振幅は、特定のm/zを有するイオンだけが四重極の端から端までを通過し、他の全てのイオンは偏向するように選択することができる。従って、四重極装置は装置に注入されたイオンの“質量フィルター”として、および“質量検出器”としての両方の機能を果たすことができる。
【0083】
更に、多くの場合“タンデム質量分析計”または“MS/MS”の使用により、MS法の分解能を向上することができる。この方法において、MS装置で目的の分子から生成された前駆体イオンまたはイオン群をフィルターした後、これらの前駆体イオンをフラグメント化して1つ以上のフラグメントイオンとし、それらを第2のMS操作で分析してもよい。前駆体イオンを注意深く選択することにより、目的の分析物によって生成されるイオンだけがフラグメンテーションチャンバーへ通過し、ここで不活性ガス原子との衝突によってフラグメントイオンが生成される。前駆体およびフラグメントイオンは共に、所定のイオン化/フラグメンテーション条件下で再現可能な様式で生成されるので、MS/MS法は非常に有力な分析手段となりうる。例えばフィルトレーション/フラグメンテーションの組み合わせを使用して干渉物質を除去することができ、これは生体サンプルのような複雑なサンプルに特に有用でありうる。
【0084】
更に近年の技術の進歩により(例えばマトリックス支援レーザー脱離イオン化法を飛行時間型分析器と組み合わせたもの(“MALDI-TOF”)または表面増強レーザー脱離イオン化法を飛行時間型分析器と組み合わせたもの(“SELDI-TOF”))、非常に短いイオンパルスにおいて分析物をフェムトモルレベルで分析することが可能となる。飛行時間型分析器をタンデムMSと組み合わせた質量分析計も当業者に周知である。更に、複数の質量分析段階を組み合わせることができ、それらは“MS/MS”および“MS/MS-TOF”(MS/MS-MALDI-TOFおよびMS/MS-SELDI-TOFを含む)として知られる。タンパク質のキャラクタリゼーションおよび同定のための好ましい装置および方法は以下に開示されている:米国特許出願第2002/0182649号;米国特許第6,225,047号;Issaqら, Biochem. Biophys. Res. Commun. 292: 587-92 (2002);およびIssaqら, Anal. Chem. 75: 149A-155A (2003)(それぞれ、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。
【0085】
イオンの生成は種々の方法によって行うことができ、それらには、限定されるわけではないが電子イオン化法、化学イオン化法、高速原子衝撃法、電解脱離法、およびマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(“MALDI”)、表面増強レーザー脱離イオン化法(“SELDI”)、光イオン化法、電子スプレーイオン化法、および誘導結合プラズマがある。
【0086】
マーカーパネルにおけるナトリウム利尿ペプチド分解産物の使用
疾病の診断、特に鑑別診断のための1つ以上のマーカーを同定するための方法および系は既に報告されている。疾病状態の診断に有用なマーカーを同定するための好適な方法は米国特許出願第10/331,127号(“METHOD AND SYSTEM FOR DISEASE DETECTION USING MARKER COMBINATIONS”, attorney docket no. 071949-6802, 2002年12月27日出願, 全ての表、図面、および特許請求の範囲を含め、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に詳細に記載されている。当業者に認識されるように、マーカーの単変量分析を実施し、複数のマーカーの単変量分析からのデーターを合わせて、種々の疾病状態を鑑別するためのマーカーパネルを創製することができる。
【0087】
診断に有用なマーカーパネルの開発において、可能性のある多くのマーカーのデータを、ある種のマーカーの存在またはレベルについての試験によって一群の被験体から得てもよい。被験体群を2組に分け、好ましくは第1の組と第2の組はそれぞれほぼ同数の被験体を有する。第1の組は疾病を有する(より一般的には第1の疾病状態にある)ことが確認されている被験体を含む。例えばこの第1の組の患者は最近発病した人か、または特定の型の疾病を有する人であってもよい。症状の確認はMRIまたはCTのような、より精密および/または高価な試験によって行ってもよい。以下、この第1の組の被験体を“疾病を有する(群)”と記載する。
【0088】
第2の組の被験体は単純に、第1の組に属さない被験体である。この第2の組の被験体は“疾病を有さない”、すなわち正常な被験体であってもよい。あるいはまた、この第2の組の被験体は“疾病を有する”被験体が示す症状に類似する1つの症状または一群の症状を示すように選択してもよい。更に別の選択肢として、第2の組は発病から異なる時点での被験体であってもよい。
【0089】
これらの組の被験体から得られるデータには複数のマーカーのレベルがあり、本発明の目的では、個別に、または群として測定されるナトリウム利尿ペプチドの1つ以上のフラグメントが含まれる。好ましくは同じセットのマーカーに関するデータが各患者で得られる。このセットのマーカーには、特定の疾病または症状の検出に関係があると考えられる、全ての候補となるマーカーが含まれてもよい。実際に関連性が明らかになっている必要はない。本明細書に記載する方法および系の実施態様を使用して、いずれの候補マーカーが疾病または症状の診断に最も関係があるかを判定してもよい。2組の被験体における各マーカーのレベルは、例えばガウス分布のように、広い範囲にわたって分布しうる。しかしながら、分布に適合する必要はない。
【0090】
多くの場合、マーカーによっては患者が疾病を有するか有さないかを最終的に同定することができない。例えばある患者で測定されたマーカーレベルが重複した範囲内に入る場合、検査の結果は患者の診断に役立たない。疾病または状態の検出のために、人為的なカットオフを用いてポジティブおよびネガティブの検査結果を鑑別してもよい。カットオフをどこに設けても、単一のマーカーの診断手段としての有効性に変わりはない。カットオフを変化させると、単一のマーカーの使用の結果得られる偽陽性数と偽陰性数の間にトレードオフが起こるだけである。それらの重複を有する検査の有効性は、多くの場合ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を使用して表される。ROC曲線は当業者に周知である。
【0091】
ROC曲線の横軸は1-特異度を表し、これは偽陽性率と共に増加する。曲線の縦軸は感度を表し、真陽性率と共に増加する。従って、選択した特定のカットオフで、1-特異度の値を決定し、相当する感度を得てもよい。ROC曲線下の面積は測定されたマーカーレベルによって疾病または症状の正しい同定ができる可能性の尺度である。従って、ROC曲線下の面積を用いて検査の有効性を判定することができる。
【0092】
上記のように、単一マーカーのレベル測定には有用性に限界がありうる。更なるマーカーの測定により更なる情報が得られるが、無関係である可能性がある2つの測定値のレベルを適切に組み合わせるのは困難である。本発明の実施態様にかかる方法および系において、疾病を有する患者と疾病を有さない患者の組との種々のマーカーレベルに関係するデータを使用して、有用なパネル応答が得られるパネルマーカーを開発してもよい。データはMicrosoft Access、Oracle、他のSQLデータベースのようなデータベースで処理してもよいし、単にデータファイルとしてもよい。データベースまたはデータファイルは、例えば患者を識別するもの(例えば氏名または番号)、存在する種々のマーカーのレベル、および患者が疾病を有するか疾病を有さないか、などを含んでもよい。
【0093】
次に、まず人為的なカットオフ領域を各マーカーについて選択してもよい。最初にカットオフ領域の位置をいずれかの地点で選択するが、選択は以下に記載する最適化の過程に影響を与えうる。これに関して、考えられる最適位置付近を選択することによって最適化する者は収束を迅速に行うことができうる。好ましい方法では、まずカットオフ領域を2組の患者の重複領域のほぼ中央に設定する。ある実施態様では、単純にカットオフ領域がカットオフポイントであってもよい。他の実施態様では、カットオフ領域はゼロを超える長さを有しうる。これに関して、カットオフ領域は中央値の値および長さの程度によって規定されうる。実際問題として、最初のカットオフ領域の範囲の選択は、予め選択された各被験体組のパーセンタイルに従って決定してもよい。例えば、この点を超えると予め選択されたパーセンタイルの疾病患者が測定されるという点を、カットオフ領域の右端(上限)として使用してもよい。
【0094】
その後、各患者についての各マーカーの値を指標にマッピングしてもよい。指標は,カットオフ領域の下で1つの値を,カットオフ領域の上で別の値を割り当てる。例えば,マーカーが一般に疾病を有しない患者についてより低い値を,疾病を有する患者についてより高い値を有する場合,ゼロ指標を特定のマーカーについての低い値に割り当て,これは陽性の診断の尤度が低い可能性を示す。他の実施態様においては,指標は多項式に基づいて計算してもよい。多項式の係数は,疾病を有する被験体および疾病を有しない被験体のマーカー値の分布に基づいて決定してもよい。
【0095】
種々のマーカーの相対的な重要度は重み因子によって示してもよい。最初に重み因子を各マーカーの係数として設定してもよい。カットオフ領域の場合のように、重み因子の最初の選択は許容される値のいずれで行ってもよいが、選択は最適化の過程に影響を与えうる。この点に関して、考えられる最適位置付近を選択することによって最適化する者は収束を迅速に行うことができうる。好ましい方法では、許容される重み係数は0から1までの範囲であり、各マーカーの最初の重み係数を0.5と設定してもよい。好ましい実施態様では、各マーカーに対する最初の重み係数は、そのマーカー自体の有効性と関係しうる。例えば、単一のマーカーについてROC曲線を作製してもよく、ROC曲線下の面積をそのマーカーの最初の重み係数として使用してもよい。
【0096】
次に、パネル応答を2組のそれぞれの各被験体について算出してもよい。パネル応答は各マーカーレベルをマッピングする指標および各マーカーの重み係数の関数である。好ましい態様では、各被験者(j)のパネル応答(R)は以下のように表わされる:
j=Σwii,j,
式中、iはマーカー指数、jは被験者指数、wiはマーカーiの重み係数、Iは指標値(被験者jについてのマーカーiのマーカーレベルをこれにマッピングする)、そしてΣは全候補マーカーiの合計である。
【0097】
マーカー値ではなく指標値を使用する利点は、その特定のマーカーに関する疾病有するか疾病を有さないかの診断の確率は異常に高いまたは低いマーカーレベルでも変化しないことである。概して、あるレベルより高いマーカー値は一般的に、ある状態を示す。そのレベルより高いマーカー値が示す状態は同じ確実性である。従って、異常に高いマーカー値が、その病状の確率が異常に高いことを示さないかもしれない。カットオフ領域の片側で一定であるような指標を使用することにより、この懸念が無くなる。
【0098】
パネル応答は、マーカーレベルおよび他の因子(例えば患者の人種および性別)を含むいくつかのパラメーターの一般的関数であってもよい。パネル応答に関与する他の因子には一定時間にわたる特定のマーカーの値の傾きがありうる。例えば、患者が最初に病院に到着した時点で特定のマーカーを測定してもよい。同じマーカーを1時間後に再び測定し、変化のレベルをパネル応答に反映させてもよい。更に、他のマーカーから更なるマーカーを誘導し、これはパネル応答の値に寄与させてもよい。例えば2つのマーカー値の比をパネル応答の算出における因子としてもよい。
【0099】
各被験者組における各被験者のパネル応答が得られたら、ここで各組のパネル応答の分布を分析してもよい。有効なパネルの選択を容易にするために目的関数を定義してもよい。一般に目的関数はパネルの有効性を示すはずであり、例えば疾病を有する組の被験体のパネル応答と疾病を有さない組の被験体のパネル応答の重複によって表されうる。このように、例えば重複を最小化することによって目的関数を最適化してパネルの有効性を最大限にしてもよい。
【0100】
好ましい実施態様では、2組の被験体のパネル応答を表すROC曲線を使用して目的関数を定義してもよい。例えば目的関数はROC曲線下の面積を反映してもよい。曲線下の面積を最大化することによって、マーカーパネルの有効性を最大化してもよい。他の実施態様では、ROC曲線の他の特徴を利用して目的関数を定義してもよい。例えばROC曲線の傾きが1となる点は有用な特徴となりうる。他の実施態様では、感度および特異度の積が最大になる点(“knee”と呼ばれることもある)を使用してもよい。ある実施態様では、kneeでの感度が最大でありうる。更なる実施態様では、既定の特異度レベルでの感度を使用して目的関数を定義してもよい。他の実施態様では、既定の感度レベルでの特異度を使用してもよい。更に別の実施態様では、これらのROC曲線の特徴の2つ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0101】
パネル中のマーカーの1つが診断すべき疾病または症状に特異的である可能性がある。それらのマーカーがある閾値より高い、または低い値で存在する場合、パネル応答は“陽性”試験結果を返すように設定することができる。しかしながら、閾値が満足なものでない場合、それでもマーカーレベルを目的関数に寄与する可能性のあるものとして使用できる。
【0102】
最適化アルゴリズムを使用して目的関数を最大化または最小化してもよい。最適化アルゴリズムは当業者に周知であり、それらにはSimplex法および他の制約付き最適化法を含むいくつかの一般に利用できる最小化または最大化関数がある。当業者に理解されるように、いくつかの最小化関数は、局所的最小値ではなく大域的最小値の検討に関して他より優れている。最適化過程において、各マーカーのカットオフ領域の位置および大きさを変化させてマーカー毎に少なくとも2の自由度としてもよい。それらの可変パラメータを、本明細書では独立変数と記載する。好ましい実施態様では、各マーカーの重み係数は最適化アルゴリズムの反復に際して変化させてもよい。種々の実施態様では、これらのパラメータの順列を独立変数として使用してもよい。
【0103】
上記のパラメータに加えて、各マーカーのセンスを独立変数として使用してもよい。例えば多くの場合、あるマーカーがより高いレベルであることは一般に疾病を有する状態を表しているのか疾病を有さない状態を表しているのかわからない。そのような場合、最適化過程を両側で調査するのが有用でありうる。実際には、これはいくつかの方法で行うことができる。例えば、ある実施態様では、センスは最適化過程で正と負を反転させてもよいような真に独立した独立変数であってもよい。あるいは、センスは重み係数を負にすることによって行ってもよい。
【0104】
ある種の制約を有する最適化アルゴリズムを提供することもできる。例えば、得られたROC曲線が特定の値より高い曲線下面積となるようにしてもよい。0.5の曲線下面積を有するROC曲線は完全な無作為性を示し、1.0の曲線下面積は2組が完全に分離していることを表す。従って、特に目的関数が曲線下面積を導入しない場合、許容される最小値、例えば0.75を制約として使用してもよい。他の制約には特定のマーカーの重み係数に対する制限がある。更なる制限により全ての重み係数の合計を特定の値、例えば1.0に制限してもよい。
【0105】
最適化アルゴリズムの反復は一般に独立したパラメータを変化させて制約を満たしつつ、目的関数を最小化または最大化する。最適化過程で反復回数を制限してもよい。更に、目的関数における2つの連続する反復間の相違が既定の閾値未満になり、それによって最適化アルゴリズムが局所的最小化または最大化の領域に達したことが示された時点で、最適化過程を終了してもよい。
【0106】
従って、最適化過程により各マーカーの重み係数およびマーカー値を指標にマッピングするためのカットオフ領域を含むマーカーパネルが得られうる。必要とされるマーカーレベルの測定がより少ない、低コストのパネルを開発するために、一定のマーカーをパネルから除去してもよい。この点に関して、パネル中の各マーカーの寄与の有効性を測定するために、マーカーの相対的な重要度を同定してもよい。ある実施態様では、最適化過程で得られる重み係数を使用して、各マーカーの相対的な重要度を決定してもよい。係数が最も低いマーカーを除去してもよい。
【0107】
ある場合には、重み係数の低さが重要性の低さを示すわけではない。同様に重み係数の高さが重要度の高さを示さない場合もある。例えば関係するマーカーが診断と無関係である場合、最適化過程から高い係数が得られうる。この場合、係数を低くさせる利点は無いかもしれない。この係数の変化は目的関数の値に影響を与えないかもしれない。
【0108】
治療計画の決定のためのBNPおよびそのフラグメントの使用
有用な診断または予後指標(例えば本明細書に記載するナトリウム利尿ペプチドフラグメント)は、臨床医が治療計画の選択肢の中から選択を行う助けとなる。例えば急性冠症候群後の心臓トロポニンTまたはIが上昇した患者は、早期の積極的戦略(有効な抗血小板および抗血栓療法を含む)および早期の血管再生から特定の利益を得られると考えられる。Hammら, N. Engl. J. Med. 340: 1623-9 (1999);Morroら, J. Am. Coll. Cardiol. 36: 1812-7 (2000);Cannonら, Am. J. Cardiol. 82: 731-6 (1998)。更に、心筋梗塞後のC反応性タンパク質が上昇した患者はHMG-CoAレダクターゼ阻害剤療法から特定の利益を得られると考えられる。Ridkerら, Circulation 98: 839-44 (1998)。うっ血性心不全に罹患した患者において、ACE阻害剤によってBNPレベルが用量依存的に低下することが、予備的研究により示唆されている。Van Veldhuisenら, J. Am. Coll. Cardiol. 32: 1811-8 (1998)。
【0109】
同様に、種々のナトリウム利尿ペプチドフラグメントのレベルに基づく“個体に合わせた(tailoring)”利尿および血管拡張治療により、帰結が向上されうる。例えばTroughtonら, Lancet 355: 1126-30 (2000)を参照されたい。最後に、16患者の1回の予備的研究から得られた知見によれば、Q波心筋梗塞後のプラシーボではなくACE阻害剤へのランダム化は、その後の6ヶ月間にわたるBNPレベルの低下と関連する。Motwaniら, Lancet 341: 1109-13 (1993)。BNPは心臓および腎臓に有益な効果を有する拮抗的調節ホルモンであるので、BNP濃度の変化は心室機能の向上および心室壁圧の低下を表していると考えられる。最近の報告では、NTプロBNPおよびBNPアッセイの相関性が証明されている(Fischer ら, Clin. Chem. 47: 591-594 (2001))。本発明の更なる目的は、個別の、または群としてのナトリウム利尿ペプチドフラグメントの濃度を利尿および血管拡張療法のガイドとして使用し、患者の帰結を向上できることである。更に、急性冠症候群患者の予後指標として使用するための個別の、または群としてのナトリウム利尿ペプチドフラグメントの測定は、本発明の範囲内である。
【0110】
うっ血性心不全で入院した患者の最近の研究で示唆されたところによると、連続的なBNP測定により、1回の測定に比べて多くの予後に関する情報が得られうる;すなわち、BNPが持続的に高い場合より、治療後に低下した場合に、予後が向上していることがアッセイによって示される。Chengら, J. Am. Coll. Cardiol. 37: 386-91 (2001)。従って、ナトリウム利尿ペプチドフラグメントの連続測定により、患者におけるマーカーの予後および/または診断に関する価値が上がり、従ってこれは本発明の範囲内である。
【0111】
アッセイ測定戦略
試験サンプル中のポリペプチドまたはタンパク質を検出および分析するための多くの方法および装置が当業者に知られている。好ましい実施態様では、イムノアッセイ装置および方法がしばしば使用される。例えば以下を参照されたい:米国特許第6,143,576号;第6,113,855号;第6,019,944号;第5,985,579号;第5,947,124号;第5,939,272号;第5,922,615号;第5,885,527号;第5,851,776号;第5,824,799号;第5,679,526号;第5,525,524号;および第5,480,792号(それぞれ参照によりその全体(全ての表、図面、および請求の範囲を含む)が本明細書に組み込まれる)。これらの装置および方法は標識された分子を種々のサンドイッチ、競合、または非競合アッセイフォーマットで使用し、目的の分析物の存在または量に関係するシグナルを生成することができる。更に、ある種の方法および装置(例えばバイオセンサーおよび光イムノアッセイ)を使用して、標識された分子を必要とせずに分析物の存在または量を測定してもよい。例えば米国特許第5,631,171号;および第5,955,377号を参照されたい(それぞれ参照によりその全体(全ての表、図面、および請求の範囲を含む)が本明細書に組み込まれる)。当業者に認識されるように、ロボット(限定されるわけではないがBeckman Access、Abbott AxSym、Roche ElecSys、Dade Behring Stratusシステムがある)は本明細書に記載するイムノアッセイを実施する能力のあるイムノアッセイ分析装置の1つである。抗体のマーカーへの特異的免疫結合は直接的または間接的に検出できる。直接標識には抗体に結合させた蛍光または発光タグ、金属、色素、放射性核種などがある。間接標識には当業界で知られる種々の酵素、例えばアルカリホスファターゼ、ホースラディッシュペルオキシダーゼなどがある。
【0112】
1つ以上のポリペプチドに特異的な、固定化した抗体の使用も本発明で企図される。抗体は種々の固体支持体、例えば磁気またはクロマトグラフマトリックス粒子、アッセイ個所の表面(例えばマクロタイターウェル)、固体基板物質片または膜(例えばプラスチック、ナイロン、紙)などに固定化できる。固体支持体上のアレイに単数または複数の抗体をコーティングしてアッセイストリップを作製してもよい。次いでこのストリップを試験サンプルに浸漬し、その後、迅速に洗浄および検出工程を行って測定可能なシグナル(例えば着色スポット)を生成させてもよい。
【0113】
1つの試験サンプルで複数のポリペプチドの分析を個別に、または同時に行ってもよい。個別の、または逐次アッセイに好適な装置には臨床実験分析器、例えばElecSys(Roche)、the AxSym(Abbott)、the Access(Beckman)、the ADVIA(登録商標)、CENTAUR(登録商標)(Bayer)イムノアッセイシステム、the NICHOLS ADVANTAGE(登録商標)(Nichols Institute)イムノアッセイシステムなどがある。好ましい装置またはタンパク質チップは1つの表面上で複数のポリペプチドのアッセイを同時に行うものである。特に有用な物理学的フォーマットは、複数の異なる分析物の検出のための、複数の分離した、特定可能な位置づけをされた表面を含む。それらのフォーマットにはタンパク質マイクロアレイまたは“タンパク質チップ”(例えばNgおよびIlag, J. Cell Mol. Med. 6: 329-340 (2002)参照)およびある種のキャピラリー装置(例えば米国特許第6,019,944号参照)がある。これらの実施態様では、それぞれの個別の表面位置は、それぞれの位置での検出のために1つ以上の分析物(例えば1つ以上の本発明のポリペプチド)を固定化するための抗体を含んでもよい。あるいは表面は、表面の分離した位置に固定化された1つ以上の個別の粒子(例えばマイクロ粒子またはナノ粒子)を含んでもよく、ここでマイクロ粒子は検出のために分析物(例えば1つ以上の本発明のポリペプチド)を固定化する抗体を含む。
【0114】
更に、(例えば経時的な時点で)同一個体由来の複数のサンプルを試験することの価値は当業者に認識されるところである。そのような一連のサンプルの試験によって、一定時間にわたるポリペプチドレベルの変化を同定できる。ポリペプチドの増加または減少、並びにそれらのレベルが変化しないことにより、疾病状態に関する有用な情報が得られるが、それらの情報には、限定されるわけではないが以下がある:事象の開始からのおおよその時間の同定、救済可能な組織の存在および量、薬物療法の妥当性、再潅流または症状の消散によって示される種々の療法の有効性、同様の症状を有する種々の型の疾病の識別、事象の重篤度の同定、疾病の重篤度の同定、および患者の帰結の同定(将来的な事象のリスクを含む)。
【0115】
上記のポリペプチドからなり、必要により疾病の診断、予後、または識別に有用な他のタンパク質マーカーを含むパネルを構築し、鑑別診断に関係する情報を得てもよい。それらのパネルを構築して1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、もしくはそれ以上、または個別の分析物(1つ以上の本発明のポリペプチドを含む)を検出してもよい。当業者は単一の分析物または分析物のサブセットの分析を行い、種々の臨床状況において臨床的な感度または特異度を最適化することができる。これらには、限定されるわけではないが以下がある:救急、緊急治療、重症治療、集中治療、モニタリングユニット、入院患者、外来患者、診療室、病院、およびヘルススクリーニングの状況。更に、当業者は上記の状況のそれぞれにおいて1つの分析物または分析物のサブセットを診断閾値の調節と併せて使用し、臨床的な感度および特異度を最適化することができる。アッセイの臨床的感度はアッセイによって正確に予測される疾病を有する被験体のパーセンテージ、そしてアッセイの特異度はアッセイによって正確に予測される疾病を有さない被験体のパーセンテージで定義される(Tietz Textbook of Clinical Chemistry, 第2版, Carl Burtis and Edward Ashwood編, W.B. Saunders and Company, p. 496)。
【0116】
分析物の分析は種々の物理学的フォーマットでも実施できる。例えばマイクロタイタープレートまたは自動化を使用して大量の試験サンプルの処理を容易にすることができる。あるいはまた、1つのサンプルフォーマットを開発して、例えば救急搬送または救急室の状況で、即時の処置および診断をタイムリーに行えるようにできる。
【0117】
上記のように、サンプルは採取した後でも、ナトリウム利尿ペプチドまたはそのフラグメントは分解され続けうる。従って、アッセイに先立ってサンプルに1つ以上のプロテアーゼ阻害剤を添加することは有益でありうる。多くのプロテアーゼ阻害剤が当業者に知られており、代表的な阻害剤は例えば以下に見られる:The Complete Guide for Protease Inhibition, Roche molecular Biochemicals, 1999年6月3日アップデートhttp://www.roche-applied-science.com/fst/products.htm?/prod_inf/manuals/protease/prot_toc.htm(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。種々のメタロプロテアーゼおよびカルシウム依存性プロテアーゼが血液由来サンプルに存在することが知られているので、EGTAおよび/またはEDTAのようなキレート剤もプロテアーゼ阻害剤として作用する。
【実施例】
【0118】
以下の実施例は本発明を例証するためのものである。これらの実施例は本発明の範囲をいかなる様にも制限することを意図しない。
【0119】
実施例1:血液サンプリング
血液は、好ましくは20ゲージのマルチ採血針および真空チューブを使用して静脈穿刺で採取するが、少量の場合は指先穿刺、足定穿刺、耳たぶ穿刺などでも十分でありうる。全血採取では、訓練を受けた研究員がEDTAを含有する採血チューブに血液検体を回収する。血清採取では、訓練を受けた研究員がトロンビンを含有する採血チューブに血液検体を回収する。血液を5-10分間凝塊させ、遠心分離によって血清を不溶性物質から分離する。血漿採取では、訓練を受けた研究員がクエン酸塩を含有する採血チューブに血液検体を回収し、12分間以上遠心分離する。サンプルは使用まで4℃で保存するか、またはより長期の保存には-20℃以下で凍結させてもよい。全血は好ましくは凍結させない。
【0120】
実施例2:生化学分析
BNPの測定は標準的なイムノアッセイ技術を使用して行う。これらの技術は抗体を使用してタンパク質標的を特異的に結合させることを伴う。BNPに対する抗体を、N-ヒドロキシスクシンイミドビオチン(NHS-ビオチン)をNHS-ビオチン約5部/抗体の割合で使用してビオチン化する。次いで、ビオチン化した抗体を標準アビジン384ウェルマイクロタイタープレートのウェルに添加し、プレートに結合しなかったビオチン化抗体を除去する。これによってマイクロタイタープレート内に抗BNP固相が形成された。別の抗BNP抗体を、標準的な技術を使用し、SMCCおよびSPDP(Pierce, Rockford, IL)を使用してアルカリホスファターゼにコンジュゲートさせる。TECAN Genesis RSP 200/8 Workstationでイムノアッセイを実施する。試験サンプル(10μL)をマイクロタイタープレートのウェルにピペッティングし、60分間インキュベートする。次いでサンプルを除去し、ウェルを洗浄バッファー(150mM NaCl、0.1%アジ化ナトリウム、および0.02% Tween-20を含有する20mMホウ酸塩(pH 7.42)からなる)で洗浄する。その後、アルカリホスファターゼ-抗体コンジュゲートをウェルに添加し、更に60分間インキュベートし、その後、抗体コンジュゲートを除去し、ウェルを洗浄バッファーで洗浄する。基質(AttoPhos(登録商標), Promega, Madison, WI)をウェルに添加し、蛍光産物の生成速度と試験サンプル中のBNP濃度の関係を調べる。
【0121】
実施例3:負荷試験サンプル中のBNPペプチドの同定
精製したBNP(BNP1-108またはBNP77-108のいずれか)をヒト血液、血清、および血漿試験サンプルに添加し、22℃で5分間から24時間インキュベートする。このインキュベート後、サンプルを次の分析に施与してサンプル中に存在するBNP由来ペプチドを同定する。
【0122】
抗BNP抗体(マウスモノクローナルまたは組換えヒト抗体)でコーティングしたチップに基づくプラットフォーム(Ciphergen Biosystems ProteinChip(登録商標))を使用して試験サンプルを分析した。表面を調製するために、加湿チャンバー中、室温で2時間インキュベートすることによって、Staphylococcus種由来のタンパク質Aもしくはタンパク質G、またはHaemophilus種由来のタンパク質DをPS2 ProteinChip(登録商標)表面上のエポキシドに固定化する。残されたエポキシド部位を0.5Mエタノールアミン/リン酸バッファー(PBS)、pH8.0で15分間ブロッキングした後、ProteinChip(登録商標)を0.5% Triton X-100/PBSで1回、PBSで3回、それぞれ15分間洗浄する。ProteinChip(登録商標)を空気乾燥する。それぞれの所望する抗体の約2μLを、個々のアレイ位置に2-3mg/mLでアプライする。チップを加湿環境下で1-10時間インキュベートする。ProteinChip(登録商標)をTriton X-100/PBSで1回、PBSで3回、それぞれ15分間洗浄し、空気乾燥し、これですぐ使用できる状態となる。
【0123】
アレイ位置を加湿環境下、室温で10分間から24時間、サンプルに暴露する。未結合の物質を除去するために、所望のレベルのストリンジェンシーとなるように選択した1つ以上の好適なバッファーで洗浄する(すなわち、非特異なバックグラウンド結合のような低アフィニティーで結合している物質の除去)。好適なバッファーには、PBS;0.05% v/v Tween 20含有PBS;0.1-3M尿素含有PBS;150mM NaCl、0.1% アジ化ナトリウム、および0.02% Tween-20を含有する20mM ホウ酸塩(pH 7.42);および0.1M尿素、50 mM CHAPS、150 mM KCl、pH 7-8がある。このリストは制限を意味するものではなく、更なるバッファーは当業者によって容易に選択される。
【0124】
SELDI-TOF-MSを使用して、質量分析によって抗BNP抗体へ結合したポリペプチドの同一性を測定する。例えば米国特許第5,719,060号;第5,894,063号;第6,020,208号;6,027,942号;および6,124,137号を参照されたい(それぞれ、全ての表および特許請求の範囲を含め、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)。表面の乾燥後、マトリクス溶液(例えばシナピン酸)をアプライする。それぞれのアレイ位置をレーザー吸収/イオン化ソースで検査し、生成されたイオンをSELDI-TOFで分析する。観察されたm/zを予測された分子量にマッチングさせて、ペプチドIDを得る。米国特許出願第2002/0182649号(参照により本明細書に組み込まれる)に開示されるMS/MS法を使用して、更なる解像度が得られる。
【0125】
以下のBNPフラグメントが負荷血漿サンプルで同定された:BNP77-106;BNP79-106;BNP79-108;BNP77-108;BNP69-100;BNP76-107;BNP39-86;BNP53-85;BNP66-98;BNP30-103;BNP11-107;およびBNP9-106。更に、メチオニンの酸化は、所定のフラグメントの予測される分子量より15-16ダルトン高く観察される。1または2個のメチオニンの明かな酸化が、メチオニン残基を含有するフラグメントで観察された。更に、観察されたフラグメントのピーク下面積の合計によって得られた“総BNP”測定値は、添加されたBNPの全てが使用した抗体によって検出されたわけではないことを示唆していた。これによって、BNPフラグメントがこれらのサンプル中に存在するという結論が得られる。
【0126】
実施例4:患者試験サンプル中のBNPペプチドの同定
数人の胸痛の臨床評価を示すヒト患者から得た血漿、血清、または血液で実施例3に記載するものと同じ分析を行う。臨床医によって初期の患者スクリーニングを実施し、慣例的な医学的方法により診断を得る。臨床症候時に各患者から血漿サンプルを得、“見かけのBNP”濃度をイムノアッセイによって、標準物質として精製BNPを使用して測定する。
【0127】
10患者についての結果の概要を以下の表に示す:
【0128】
【表1】

【0129】
以下のBNPフラグメントが種々のサンプルからの血漿サンプル中で同定された:BNP3-108;BNP77-108;BNP79-108;BNP80-108;BNP81-108;およびBNP83-108。未だBNP配列との関係が明らかになっていない更なるピークが以下の分子量で観察された:約2576;約2676;約2792;約3154;約3370。更なる未同定のポリペプチドも抗体に捕捉された。
【0130】
更に、4量体BNP77-108の分子量に相当するフラグメントもあるサンプルで観察された(m/z 約12,900)。特定の機構に拘束されることは望まないが、チオール/ジスルフィド相互交換が、アセチルコリンエステラーゼを含むタンパク質で報告されている。ジスルフィド交換反応は、遊離チオールによるジスルフィドの硫黄原子への求核攻撃から起こる。BNP77-108はシステイン残基を含有し、これは通常、分子内ジスルフィド結合形成に関与するので、高濃度の成熟BNPの形成により、還元型および酸化型BNPの相互作用によって多量体型が形成されうる。
【0131】
更に、BNPフラグメントのバリエーションは、診断依存的であることが見出された。例えば、患者21231は高レベルの観察可能なBNP3-108および中度の“見かけのBNP”濃度を示したが、患者9240はBNP3-108はほとんど示さないにも関わらず、“見かけのBNP”濃度はこれよりはるかに高かった。従って、BNP3-108は単独でも、あるいは抗体が結合する多くの更なるフラグメントを反映するBNP濃度を伴っても、不安定狭心症または心筋梗塞をうっ血性心不全から識別しうる。
【0132】
本発明について、当業者がこれを生成および使用するのに十分詳細に記述および例証したが、種々の変更、修飾、および改良は本発明の意図および範囲を逸脱することなく明白である。
【0133】
当業者に容易に認識されるように、本発明はその本来のものに加え、目的を実施し、言及した目標および利益を得るために十分適合的である。本明細書に提供する実施例は好ましい態様を表すものであり、例証的なもので、本発明の範囲を限定することを意図しない。当業者はその修飾および他の使用を行いうる。それらの修飾は本発明の意図の範囲内であり、特許請求の範囲で定義される。
【0134】
当業者に容易に明白なように、本発明の範囲および意図を逸脱することなく、本明細書に開示する本発明に種々の置換および修飾を施与してもよい。
【0135】
本明細書に記載する特許および文献は全て、本発明が属する分野の技術者のレベルを示すものである。全ての特許および文献は、個々の文献が明白かつ独立して参照により組み込まれることを示されるのと同程度に、参照により本明細書に組み込まれる。
【0136】
本明細書に例証的に記載する本発明は、いずれかの要素(単数または複数)、制限(単数または複数)(本明細書には特に開示していない)がない状態で実施してもよい。従って、例えばそれぞれの場合で、“含む”、“本質的に・・・からなる”、および“からなる”という用語はいずれも、他の2つの用語のいずれと置き換えてもよい。使用した用語および表現は制限ではなく説明の用語として使用するもので、それらの用語および表現の使用において、表示および記載する特徴と同等のものおよびその一部を除外する意図はなく、認識されるように、請求する本発明の範囲内で種々の修飾が可能である。従って、好ましい態様および必要に応じた特徴によって本発明を明確に開示したが、当業者は本明細書に開示するコンセプトの修飾および変更を行ってもよく、それらの修飾および変更は添付する特許請求の範囲で規定される本発明の範囲内にあるとみなされることは理解されるべきである。
【0137】
他の態様は別記の特許請求の範囲に記載する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験サンプル中の1つ以上の分析物の存在または量を測定するためにイムノアッセイを標準化する方法であって、
成熟ANP、成熟BNP、成熟CNP、カルジオジラチン、プレプロANP、プレプロBNP、プレプロCNP、プロANP、プロBNP、プロCNP、またはプロANP、プロBNP、もしくはプロCNPから成熟ANP、BNP、もしくはCNPを除去して得られるものに相当するフラグメント以外の実質的に精製されたヒトナトリウム利尿ペプチドフラグメントの標準サンプル中の存在または量に関係するコントロールイムノアッセイシグナルを測定するステップと、
前記コントロールイムノアッセイシグナルを使用して前記試験サンプル中の単数または複数の前記分析物のうちの1つの存在または量に関係する試験イムノアッセイシグナルをイムノアッセイ結果に関係づけるステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記標準サンプルがBNP1-108、BNP1-76、またはBNP77-108以外のBNP1-108 のフラグメントを1つ以上含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記標準サンプルがBNP77-108以外のBNP77-108のフラグメントを1つ以上含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記試験サンプルがヒトサンプルであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記試験サンプルは、血液、血漿、または血清である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
抗体を選択する方法であって、
ヒト血液、血清、または血漿中に天然に存在する、前記抗体が結合するプロANP、プロBNP、またはプロCNPの複数のフラグメントを測定するステップと、
前記選択された抗体の提供のために、前記複数のフラグメントに結合する1つ以上の抗体を同定するステップと、
を含み、
1つ以上の前記フラグメントは、成熟ANP、成熟BNP、成熟CNP、カルジオジラチン、プレプロANP、プレプロBNP、プレプロCNP、プロANP、プロBNP、プロCNP、またはプロANP、プロBNP、もしくはプロCNPから成熟ANP、BNP、もしくはCNPを除去して得られるものに相当するフラグメントではない、方法。
【請求項7】
前記選択された抗体は、複数の個別の抗体をプールすることによって得られる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記選択された抗体は、前記複数のフラグメントのそれぞれのメンバーに共通する領域に結合する抗体を選択することによって得られる、請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記選択された抗体は、モノクローナル抗体である、請求項6記載の方法。
【請求項10】
前記選択された抗体は、ファージディスプレーによって同定される、請求項6記載の方法。
【請求項11】
前記選択された抗体は、オムニクローナル抗体である、請求項6記載の方法。
【請求項12】
前記選択された抗体を固相に結合させるステップを更に含む、請求項6記載の方法。
【請求項13】
前記選択された抗体を検出可能な標識にコンジュゲートさせるステップを更に含む、請求項6記載の方法。
【請求項14】
前記複数のフラグメントは、複数のプレプロBNPのフラグメントを含む、請求項6記載の方法。
【請求項15】
前記複数のフラグメントは、複数のBNP1-108のフラグメントを含む、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記複数のフラグメントは、複数のBNP77-108のフラグメントを含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
抗体を選択する方法であって、
プレプロANP、プレプロBNP、またはプレプロCNPのフラグメントを1つ以上含む第1群とプレプロANP、プレプロBNP、またはプレプロCNPの異なるフラグメントを1つ以上含む第2群を識別する1つ以上の抗体を選択するステップを含み、
前記第1群および前記第2群の一方または両方は、成熟ANP、成熟BNP、成熟CNP、カルジオジラチン、プレプロANP、プレプロBNP、プレプロCNP、プロANP、プロBNP、プロCNP、またはプロANP、プロBNP、もしくはプロCNPから成熟ANP、BNP、もしくはCNPを除去することによって得られるものに相当するフラグメントではない、ヒト血液、血清、または血漿中に天然に存在する1つ以上のフラグメントを含む、方法。
【請求項18】
前記選択された抗体は、複数の個別の抗体をプールすることによって得られる、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記選択された抗体は、前記第1群のメンバーに共通で前記第2群のメンバーには存在しない領域に結合する抗体を選択することによって得られる、請求項17記載の方法。
【請求項20】
前記選択された抗体は、モノクローナル抗体である、請求項17記載の方法。
【請求項21】
前記選択された抗体は、ファージディスプレーによって同定される、請求項17記載の方法。
【請求項22】
前記選択された抗体を固相に結合させるステップを更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項23】
前記選択された抗体を検出可能な標識にコンジュゲートさせるステップを更に含む、請求項17記載の方法。
【請求項24】
前記第1群および前記第2群は、それぞれBNP1-108のフラグメントを含む、請求項17記載の方法。
【請求項25】
前記第1群および前記第2群は、それぞれBNP77-108のフラグメントを含む、請求項17記載の方法。
【請求項26】
ヒト血液、血清、または血漿試験サンプル中の複数の目的のナトリウム利尿ペプチドフラグメントの存在または量を測定する方法であって、
ヒト血液、血清、または血漿中に天然に存在するプロANP、プロBNP、またはプロCNPの複数のフラグメントに結合する抗体を使用するイムノアッセイを実施するステップと、
前記イムノアッセイからのシグナルを前記試験サンプル中の目的の前記ナトリウム利尿ペプチドフラグメントの存在または量と関係づけるステップと、
を含み、
前記複数のフラグメントのうちの1つ以上は、成熟ANP、成熟BNP、成熟CNP、カルジオジラチン、プレプロANP、プレプロBNP、プレプロCNP、プロANP、プロBNP、プロCNP、またはプロANP、プロBNP、もしくはプロCNPから成熟ANP、BNP、もしくはCNPを除去することによって得られるものに相当するフラグメントではなく、
前記イムノアッセイからのシグナルは、前記抗体への結合に依存する、方法。
【請求項27】
前記抗体は、複数の個別の抗体をプールすることによって得られる、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記抗体は、前記複数のフラグメントに共通する領域に結合する抗体を選択することによって得られる、請求項26記載の方法。
【請求項29】
前記抗体は、モノクローナル抗体である、請求項26記載の方法。
【請求項30】
前記抗体は、ファージディスプレーによって得られる、請求項26記載の方法。
【請求項31】
前記抗体は、固相に結合している、請求項26記載の方法。
【請求項32】
前記抗体は、検出可能な標識にコンジュゲートされている、請求項26記載の方法。
【請求項33】
前記複数のフラグメントは、BNP1-108のフラグメントを含む、請求項26記載の方法。
【請求項34】
前記複数のフラグメントは、BNP77-108のフラグメントを含む、請求項26記載の方法。
【請求項35】
前記目的のナトリウム利尿ペプチドフラグメントの存在または量を、試験サンプルを採取するヒトにおける疾病の存在または不在と関係づけるステップを更に含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記疾病が卒中、うっ血性心不全(CHF)、心虚血、全身性高血圧、急性冠症候群、および急性心筋梗塞からなる群から選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
前記目的のナトリウム利尿ペプチドの存在または量を、試験サンプルを採取するヒトにおける将来的な有害反応事象の確率と関係づけるステップを更に含む、請求項35記載の方法。
【請求項38】
前記将来的な有害反応事象は、脳血管痙攣に起因する血管損傷、卒中後の患者における遅延性神経障害の発症、死亡、心筋梗塞、およびうっ血性心不全からなる群から選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
生体サンプル中の既知のポリペプチドに構造的に関係する1つ以上の予測されていないポリペプチドを同定する方法であって、
(a) 前記既知のポリペプチドに結合する抗体を前記生体サンプルに接触させ、前記抗体が結合しない物質を除去することによって前記予測されていないポリペプチドをアフィニティー精製するステップと、
(b) 前記予測されていないポリペプチドのアミノ酸配列または組成を決定するステップと、
を含む、方法。
【請求項40】
前記抗体は、固相に結合している、請求項39記載の方法。
【請求項41】
前記抗体は、抗体アレイ上の個別の位置にある、請求項39記載の方法。
【請求項42】
前記アミノ酸配列または組成は、質量分析によって得られる、請求項39記載の方法。
【請求項43】
前記アミノ酸配列または組成は、SELDI-TOF質量分析によって得られる、請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記予測されていないポリペプチドは、成熟ANP、成熟BNP、成熟CNP、カルジオジラチン、プレプロANP、プレプロBNP、プレプロCNP、プロANP、プロBNP、プロCNP、またはプロANP、プロBNP、もしくはプロCNPから成熟ANP、BNP、もしくはCNPを除去することによって得られるものに相当するフラグメントのタンパク分解フラグメントである、請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記既知のポリペプチドと前記予測されていないポリペプチドを識別する1つ以上の抗体を選択するステップを更に含む、請求項39記載の方法。
【請求項46】
前記予測されていないポリペプチドが疾病の診断または予後の指標となるかどうかを確認するステップを更に含む、請求項39記載の方法。
【請求項47】
前記生体サンプルは、疾病サンプルから採取される、請求項39記載の方法。
【請求項48】
1つ以上の前記予測されていないポリペプチドを前記既知のポリペプチドから識別する抗体を選択するステップと、
1つ以上の前記予測されていないポリペプチドに関するイムノアッセイにおいて前記抗体を使用するステップと、
を更に含む、請求項39記載の方法。

【公表番号】特表2006−523849(P2006−523849A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−513121(P2006−513121)
【出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【国際出願番号】PCT/US2004/012024
【国際公開番号】WO2004/094459
【国際公開日】平成16年11月4日(2004.11.4)
【出願人】(500204577)バイオサイト インコーポレイテッド (14)
【Fターム(参考)】