説明

ナトリウム漏えい検出装置及び検出方法

【課題】正確な感度校正を行なうことを可能とし、かつ、配管内の流速分布の偏りをなくすことにより、小型で、検出精度が高いナトリウム漏えい検出装置及び検出方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るナトリウム漏えい検出装置は、サンプリングガスが導入される分岐配管1と、この分岐配管1の一方に接続された第1の配管6に設けられたイオン源8と捕集電極9と流量調節弁7と、前記分岐配管1の他方に接続された第2の配管4と、前記第1の配管6と第2の配管4に接続される合流配管5と、前記捕集電極9に接続された信号処理装置12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速増殖炉等に用いられるナトリウム漏えい検出装置及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速増殖炉の運転において、ナトリウム(Na)漏えい検出系は、微少なNa漏えいを早期に検出する役割を持つ。この検出系では、連続監視用検出器のひとつとして、空気中の微少なエアロゾルを検出できる放射線イオン化検出器(RID:Radioactive Ionization Detector)を用い、Naエアロゾルを監視している(特許文献1)。
【0003】
このような従来のイオン化式検出器は、検出感度は高いが、エアロゾル以外の要因、特に動作環境の温度変動によって出力信号の変動を受けやすい。このため、出力信号の温度依存性を改善し、本来の高感度を活かせる新型イオン化式検出器(MID:Micro Ionization Detector)が開発された(非特許文献1)。
【0004】
このイオン化式検出器(以下、「MID」という。)の検出原理を図2により説明する。
MIDは、配管6、イオン源8、捕集電極9、電流計10、電圧源11から構成される。図2に示すように、イオン源8で発生したイオンは、エアロゾルへのイオン付着と、イオン同士の再結合によりイオン量を減少させながら、サンプリングガスの流れによって捕集電極9まで輸送される。捕集電極9に到着したイオン量はイオン電流値として計測される。Naエアロゾルはイオン付着によるイオン電流値の低下として検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭63−022252 ナトリウム漏洩検出器
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“新型イオン化式ナトリウム微少漏えい検出器;G31”、日本原子力学会「2009年秋の大会」2009年9月16〜18日、P313
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したようにイオン化式検出器(MID)はイオン電流値の低下量に基づいてNaエアロゾルを検出するものであるが、イオン電流値の低下量は、エアロゾル量とともに、イオン再結合反応およびエアロゾルへのイオン付着反応の反応時間、すなわちイオン発生からコレクタに収集されるまでのイオン輸送時間に依存する。イオン輸送時間は、イオン源と捕集電極までの距離とイオンの輸送速度で決まり、イオン輸送の平均速度はサンプリングガスの流量で決まる。したがって、MIDのNaエアロゾル感度はサンプリングガス流量に依存する。
【0008】
また、サンプリングガスの流速分布に偏りがある場合、すなわち、例えば図2で示すx方向の流速がy方向位置により異なる場合、イオンの輸送速度はy方向位置で異なり、したがって、イオン輸送時間はy方向位置により異なる。イオン輸送時間がy方向位置により異なっていると、MIDに入射したNaエアロゾルはy方向位置によってイオン輸送時間が変わり、Naエアロゾル感度が変わる。
【0009】
このように、MIDのNaエアロゾル感度は、サンプリングガス流量に依存し、また、サンプリングガスの流速分布の偏りにより感度が不安定となる。
そのため、MIDを現場に設置する際に、流速分布の偏りが生じないようにすること、及び設置場所によって流量が異なることから異なる流量に対して現場から離れて設置されている感度校正設備で事前に感度校正を行なう必要がある。
【0010】
しかしながら、従来のMIDの感度校正設備では、設備の性能の制限により、得られる流量は実際の現場の流量よりも一桁程度少なく、現場と同等のサンプリングガス流量を得ることは困難であり、また、設置場所によって流量が異なるMIDに対し異なる流量で微細な校正作業を行なうことも時間とコストの関係から困難であった。
【0011】
さらに、現場ではサンプリング配管を通ったサンプリングガスを長尺の直管や整流板等で整流化してMIDに導くための十分な設置スペースを確保することができない場合が多く、配管内の流速分布の偏りをなくすことが困難であった。
【0012】
また、従来の放射線イオン化検出器(RID)では、現場での感度校正の際、Naエアロゾルの代替としてフロンまたは代替フロンガスをRIDに注入し、その際のRID出力信号を用いて校正を行なっているが、MIDはフロンまたは代替フロンガスに感度が無く、同様な校正手段を採用することができない。
【0013】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、正確な感度校正を行なうことを可能とし、かつ、配管内の流速分布の偏りをなくすことにより、小型で、検出精度が高いナトリウム漏えい検出装置及び検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係るナトリウム漏えい検出装置は、サンプリングガスが導入される分岐配管と、この分岐配管の一方に接続された第1の配管に設けられたイオン源と捕集電極と流量調節弁と、前記第1の分岐配管の他方に接続された第2の配管と、前記第1の配管と第2の配管に接続される合流配管と、前記捕集電極に接続された信号処理装置とを備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るナトリウム漏えい検出方法は、サンプリングガスが導入される分岐配管と、この分岐配管の一方に接続された第1の配管に設けられたイオン源と捕集電極と流量調節弁と、前記第1の分岐配管の他方に接続された第2の配管と、前記第1の配管と第2の配管に接続される合流配管と、前記捕集電極に接続された信号処理装置とを備えるナトリウム漏えい検出装置のナトリウム漏えい検出方法において、前記第1の配管に流れるサンプリングガスの流量を、前記第1の配管に設けられた流量調節弁により、感度校正設備で用いられた流量に等しくなるように調整することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るナトリウム漏えい検出方法は、サンプリングガスが導入される分岐配管と、この分岐配管の一方に接続された第1の配管に設けられたイオン源と捕集電極と流量調節弁と、前記分岐配管の他方に接続された第2の配管と、前記第1の配管と第2の配管に接続される合流配管と、前記捕集電極に接続された信号処理装置と、前記合流配管の下流に設けられた流量計と流量調節弁とを備えるナトリウム漏えい検出装置のナトリウム漏えい検出方法において、前記合流配管の下流に設けられた流量調整弁により第2の配管内の流量を低下させた時のイオン電流値と所定の流量を流した時のイオン電流値の差を求めて、この差と所定の流量を流した時のイオン電流値比を用いてイオン電流値の校正定数を導出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、サンプリングガス流量を分岐し一方の配管に流量調整弁を設けたことにより、正確な感度校正を行なうことができるので、高精度で信頼性の高いナトリウム漏えい検出装置及びその検出方法を提供することができる。
【0018】
また、漏洩検出後のガスを合流させることで、サンプリングガスの総流量に変化を与えず、ナトリウム漏えい検出装置の後段に設置された各種検出器等の特性に影響を与えることはない。
【0019】
さらに、分岐配管に2つのバッファタンクをそれぞれ設けたことにより、サンプリングガスの流速分布の偏りを無くし、小型で高精度のナトリウム漏えい検出装置及びその検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るナトリウム漏えい検出装置の全体構成図。
【図2】本発明のナトリウム漏えい検出装置の原理図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るナトリウム漏えい検出装置の全体構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係るナトリウム漏えい検出装置及び検出方法の実施形態を、図面を参照して説明する。
【0022】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係るナトリウム漏えい検出装置を図1を用いて説明する。
(構成)
本第1の実施形態に係るナトリウム漏えい検出装置は、サンプリングガスをサンプリング配管13を介して導入される分岐配管1と、分岐配管1にそれぞれ接続される2つのバッファタンク2、3と、バッファタンク2に接続される配管4と、バッファタンク3に接続される配管6と、配管4と配管6が接続される合流配管5と、配管6に配置されるイオン源8、捕集電極9及び流量調節弁7と、捕集電極9に接続される電流計10、電圧源11及び信号処理装置12とから構成される。
【0023】
(作用)
上記のように構成されたナトリウム漏えい検出装置の作用を説明する。
分岐配管1に流入したサンプリングガスは、ガスの流れが二つに分けられてバッファタンク2とバッファタンク3に流入し、配管4と配管6に導かれる。配管6内のサンプリングガス流量は、流量調節弁7により調整される。
【0024】
配管6内ではイオン源8から常時イオンが発生しており、発生したイオンはサンプリングガスと混合され、捕集電極9まで輸送される。捕集電極9には電圧源11により電圧が印加され、電流計10が接続されている。
【0025】
捕集電極9に到達したイオン量は電流計10によりイオン電流値として計測される。電流計10は信号処理装置12に接続され、信号処理装置12ではイオン電流値に対し、必要に応じて、イオン電流値のランダムな揺らぎを除去するための移動平均処理等を行なった後、イオン電流値の変動量と設定値との比較を行い、変動量が設定値を超えていた場合、ナトリウム漏えい警報信号を出力する。配管4と配管6内のサンプリングガスは合流配管5で合流し合流配管5の外へ流出する。
【0026】
このように、本実施形態では、分岐配管1でサンプリングガスの流れを二つに分け、MIDが設置されている配管6の流量を下げて、MID側を感度校正設備での感度校正時の流量と同等にすることで、流量が少ない感度校正設備での校正結果を現場において適用できるようにしている。
【0027】
また、流れを二つに分ける場合、分岐配管1の入口と合流配管5の出口で流量が変化しないことから、MID側の流量を下げても、合流配管5の出口に接続される他の検出器等の特性に影響を与えることはない。
【0028】
また、現場におけるサンプリングガス流量は、MIDの設置場所に応じて異なるが、流量調節弁7により、それら個々の流量条件に合わせて、MID側の配管6の流量を、感度校正設備での校正時の流量と同一になるように調節することで、設置場所での流量の違いに対応することができる。
【0029】
さらに、現場では、サンプリングガスの流速分布の偏りを無くすために長尺の直管や整流板等を設置する十分なスペースがないが、本実施形態のようにバッファタンク2、3を用いた場合は、整流化の性能は基本的にバッファタンクの容積で決まるため、設置スペースの体積が許す限りバッファタンクの容積を大きくする。これにより、長尺の直管や整流板等を設置する必要がなくなる。
【0030】
また、バッファタンク2、3は、一度流路を絞った状態でサンプリングガスをバッファタンクに導き、バッファタンクにより一気に流路を広げた方が、バッファタンク内の流速分布の偏りが減り、整流効果が高い。
【0031】
また、配管4内の流れの乱れは、合流配管5を経由して、配管6に伝わるため、配管6への流れを整流化するためには、配管4の流れも整流化した方が良い。そこで、図1に示すように、分岐配管1で流路を絞り、二つのバッファタンク2、3を用いて配管6のみならず配管4も整流化することで、小スペースでも配管6内のサンプリングガスを最大限整流化し、流速分布の偏りを無くすことができる。
【0032】
(効果)
以上説明したように、本第1の実施形態によれば、分岐配管1により、サンプリングガス流量を分岐し、MID側の配管6に流量調整弁を設けることにより、MIDが設置されている配管6の流量を、感度校正設備で用いた流量に調整することができるので、現状の感度校正設備を用いて、その校正結果を現場のMIDの校正に適用することができる。
【0033】
また、合流配管5によってガスの流れを合流させることで、サンプリングガスの総流量に変化を与えず、本ナトリウム漏えい検出装置の後段に設置された検出器等の特性に影響を与えることはない。
【0034】
さらに、2つのバッファタンクを設けたことにより、小スペースでサンプリングガスの整流化を可能とし、これにより、サンプリングガスの流速分布の偏りを無くし、ナトリウム漏えい検出装置の検出精度を向上させることができる。
【0035】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係るナトリウム漏えい検出装置を、図3を参照して説明する。なお、第1の実施形態と同一の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0036】
(構成)
本第2の実施形態は、MIDが装着された現場において、Naエアロゾルガスや模擬ガスを用いないNaエアロゾル感度校正に関する。
図3において、サンプリング配管13は分岐配管1に接続され、配管4と配管6に分岐されたのち合流配管5で合流される。合流配管5は、流量計14に接続され、流量計14は配管15に接続される。配管15は、他の検出器16からの配管と合流したのち分岐され、一方は流量調節弁17、他方はブロア18に接続されたのち合流される。
【0037】
(作用)
上記のように構成された第2の実施形態において、流量調節弁17を調節することで、配管4および配管6内のサンプリングガス流量は変化し、その際の流量の総和は流量計14で測定される。流量が変化した時のイオン電流値は、電流計10で測定され、信号処理装置12で演算処理される。
【0038】
以下に、現場でのNaエアロゾル感度校正手順(1)〜(5)を説明する。
(1)事前に、感度校正設備にてNaエアロゾルが無い場合のイオン電流値と規定量のNaエアロゾルがある場合のイオン電流値との差ΔIsを計測し、この差ΔIsとNaエアロゾルが無い場合のイオン電流値との比Rβを導出する。その際の配管6内のサンプリングガス流量はφとする。
【0039】
なお、感度校正設備は規定量のNaエアロゾルを発生した状態では、現場と同等の高流量は得られないため、例えば、バッファタンク2の入口に封止板等を貼り、配管4にはガスが流れず、配管6のみにガスが流れる状態にして流量φ1でのイオン電流値を測定する。
【0040】
(2)事前に、感度校正設備にて、配管6内のサンプリングガス流量をφ2に低下させNaエアロゾルが無い場合のイオン電流値を計測する。この際、サンプリングガス流量φ2は計測されたイオン電流値とサンプリングガス流量φ1時のイオン電流値との差が、ΔIsと等しくなる流量に設定する。この差と、サンプリングガス流量φ1時のイオン電流値との比Rαを導出する。この事前作業においてはRα=Rβとなる。
【0041】
(3)事前に、感度校正設備にて、配管6内のサンプリングガス流量と、合流配管5出口での流量(配管6と配管4の流量の合計)の相関を測定し、配管6内のサンプリングガス流量がφ1の時の合流配管5出口での流量φ1’と、配管6内のサンプリングガス流量がφ2の時の合流配管5出口での流量φ2’を決定する。
【0042】
ここでφ’は、現場での所定のサンプリングガス流量と一致するよう、配管1、バッファタンク2、バッファタンク3、配管4、配管6、合流配管5は設計されているものとする。補足すると、感度校正設備は規定量のNaエアロゾルを発生しない状態では、現場と同等の高流量は得られる。
【0043】
(4)現場にて、所定のサンプリングガス流量時(流量計14の指示値がφ1’時)のイオン電流値と、流量調節弁17を調整し、サンプリングガス流量をφ2’にした場合のイオン電流値との差から、Rαを算出する。これをRα’とする。
【0044】
(5)現場において規定量のNaエアロゾルがある場合のRβ(Rβ’とする)を、
Rβ’=Rβ×Rα’/ Rα (式1)
とし、このRβ’を校正定数とする。
【0045】
Rβ’を用いて、現場でのNaエアロゾルが無い場合のイオン電流値と規定量のNaエアロゾルがある場合のイオン電流値との差ΔIs’を、
ΔIs’= Rβ’×(現場での所定流量時(φ’)のNaエアロゾルが無い場合のイオン電流値) (式2)
とし、ΔIs’に所定のマージンを加えた値を設定値として、信号処理装置12に記録させる。
信号処理装置12では、監視中のイオン電流値と設定値の比較を行い(イオン電流値の変化量と設定値の比較)、設定値を超えた場合、Na漏えい警報信号を出力する。
【0046】
次に、上記校正手順及び校正方法が妥当であることを説明する。
MIDのイオン源で発生したイオン数の単位時間あたり変化率は以下の式3で表せる。
【数1】

【0047】
ここで、tは時間(s)、nはイオン数密度(n/cm)、Nはエアロゾル数密度(n/cm)、αはイオン再結合係数(cm/s)、βはエアロゾル付着係数(cm/s)である。右辺第1項は、イオン同士の再結合によるイオン数の低下を示す。右辺第2項は、エアロゾルへのイオン付着によるイオン数の低下を示す。MIDは右辺第2項を用いて、Naエアロゾルを検出する。
【0048】
エアロゾル有りの場合(β≠0)とエアロゾル無しの場合(β=0)において式3の解は以下である。
【数2】

【0049】
ここで、nα(t)とnβ(t)は、それぞれ、エアロゾル有りの場合(β≠0)とエアロゾル無しの場合(β=0)のイオン数密度であり、CとCは定数である。t=0(イオン発生直後)では、それぞれ、
【数3】

となる。
【0050】
ここでβ≠0とβ=0において、t=0でのイオン数密度(イオン源から発生したイオンの数密度)は等しいことから、CとCの間には、式8の関係がある。
【数4】

【0051】
イオン電流値はイオン数密度に比例することから、イオン源で発生したイオンが捕集電極9に到達し、電流計10で計測されるイオン電流値Iは式9、式10で表せる。
【数5】

【0052】
ここで、t1は、イオン源で発生したイオンが捕集電極9に到達するまでのイオン輸送時間である。Kはイオン数密度からイオン電流値への換算係数である。NaエアロゾルがMIDに入射すると、イオン電流値はKnα(t)(β=0)からKnβ(t)(β≠0)へ低下することから、次式に示すイオン電流低下量ΔIによってNaエアロゾル量は決定される。
【数6】

【0053】
ここで、Naエアロゾル数密度がNsの時のイオン電流低下量をΔIとするとΔIとNaエアロゾルが無い時の電流値との比、すなわち、Naエアロゾルが無い時からどれだけイオン電流値が低下したかを示す低下率Rβは式12で表せる。
【数7】

【0054】
式3より、イオン数密度は、イオン再結合によっても低下することと、式9により、ΔIは、イオン輸送時間に依存する。
したがって、Naエアロゾルが無い状態で、MID内のサンプリングガス流量を低下させ、イオン輸送時間をtに増加させ、イオン輸送時間tよりもイオン電流値をΔI低下させる場合を考える。この時、低下率Rαは以下の式13、式14で表せる。
【数8】

【0055】
感度校正設備での校正時に、式13のRα=Rβを満たすイオン輸送時間tが得られるサンプリングガス流量φを決定する。MIDを現場に適用した際に、Naエアロゾルが無い状態で、現場でのサンプリング流量をφに変化させ、イオン電流低下量を測定し、Rα(Rα’)を算出する。そして、先の式1、式2よりMIDを校正する。
このRα’を用いた校正方法の妥当性を、Rα’≠Rαとなることが想定されるケースに分けて説明する。
【0056】
(ケース1)感度校正設備よりも現場の方がサンプリングガスの圧力が低い場合
現場の方が感度校正設備よりもガス流量は大きく、ブロアによるガス吸引によりガス流量を得ているため、サンプリング配管内は、現場の方が圧力が低くなる方向である。圧力が低い場合、イオン数密度は低下する。これは(5)式のCが増加した状態である。(14)式より、Cが増加すると、t<tであるため、右辺第2項は増加し、Rαは低下する。
【0057】
一方、Rβについては(8)式と(12)式より、
【数9】

であり、式8より
【数10】

となり、Cが増加すると、Cは増加するのに対し、αtは不変であるため、式13の左辺第2項は低下し、Rβは増加する。
【0058】
したがって、圧力が低下すると、Rαは低下し、一方でRβは増加する。
すなわち、現場において、Rα(すなわちRα’)がRβ(すなわちRβ’)と等しいとして、Naエアロゾルの感度校正を行なった場合、実際よりもNaエアロゾル量を多めに評価するため、安全側に評価できる。
【0059】
(ケース2)現場でのイオン輸送時間t、tが、感度校正設備での校正時とは異なっている場合
現場では、配管4に比べて配管6に流れるサンプリング流量は一桁小さいため、配管6内は配管4よりも汚れ等が付着しやすい。長期間の使用では、流量調節弁7等の目詰まりによって、配管6の流量が低下する可能性がある。一方、流量計14で計測される流量φ’は、配管6での流量低下分は配管4で補填されるため、変化しない。
【0060】
したがって計測される流量φ’やφ’に変化が無くとも、配管6内の流量φとφが、感度校正設備での校正時よりも低下する可能性がある。長期間使用後の現場での感度校正では、Rα’≠ Rαとなる可能性がある。
【0061】
流量計14で計測される流量φ’やφ’に変化が無くとも、流量φとφが低下した場合、イオン輸送時間t、tは、感度校正設備での校正時より長くなる。ここで、イオン輸送時間t、tはt→k×t、t→k×t (k>1)となる場合を考える。
【0062】
この時、式12、式14、式16より、Rα’、Rβ’は次式で表せる。
【数11】

【0063】
式17と式18は、右辺第2項の分母のみが異なるので、Rα’、Rβ’の大小関係を比較するため、以下の右辺第2項の分母Dα’とDβ’の大小関係を評価する。
【数12】

【0064】
ここで、Dα’とDβ’の差をとると、次式となる。
【数13】

【0065】
ここで右辺第2項にはk>1によりe>1であることから以下の関係がある。
【数14】

【0066】
また、感度校正設備での校正時はRα=Rβであることと式14、式15より、
【数15】

の関係がある。
【0067】
よって、(22),(23)式と、k>1では、k<eであることにより、
【数16】

である。すなわち
【数17】

であることから、
【数18】

となり、この結果、
【数19】

となる。
【0068】
すなわち、現場において、Rα(すなわちRα’)がRβ(すなわちRβ’)と等しいとして、Naエアロゾルの感度校正を行なった場合、実際よりもNaエアロゾル量を多めに評価するため、安全側に評価できる。
【0069】
(効果)
本第2の実施形態によれば、現場において、流量調整弁17により配管6内の流量を低下させた時のイオン電流値と所定の流量を流した時のイオン電流値の差を求めて、この差と所定の流量を流した時のイオン電流値比を用いて、校正定数を導出することで、現場において、Naエアロゾルガスまたは代替ガスを用いることなく、MIDのNaエアロゾル感度を校正することができる。
【符号の説明】
【0070】
1…分岐配管、2…バッファタンク、3…バッファタンク、4…配管、5…合流配管、6…配管、7…流量調節弁、8…イオン源、9…捕集電極、10…電流計、11…電圧計、12…信号処理装置、13…サンプリング配管、14…流量計、15…配管、16…他の検出器、17…流量調節弁、18…ブロア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプリングガスが導入される分岐配管と、この分岐配管の一方に接続された第1の配管に設けられたイオン源と捕集電極と流量調節弁と、前記分岐配管の他方に接続された第2の配管と、前記第1の配管と第2の配管に接続される合流配管と、前記捕集電極に接続された信号処理装置とを備えることを特徴とするナトリウム漏えい検出装置。
【請求項2】
前記分岐配管と前記第1及び第2の配管との間にバッファタンクをそれぞれ設けたことを特徴とする請求項1記載のナトリウム漏えい検出装置。
【請求項3】
前記合流配管の下流に流量計と流量調節弁を設けたことを特徴とする請求項1又は2記載のナトリウム漏えい検出装置。
【請求項4】
サンプリングガスが導入される分岐配管と、この分岐配管の一方に接続された第1の配管に設けられたイオン源と捕集電極と流量調節弁と、前記分岐配管の他方に接続された第2の配管と、前記第1の配管と第2の配管に接続される合流配管と、前記捕集電極に接続された信号処理装置とを備えるナトリウム漏えい検出装置のナトリウム漏えい検出方法において、
前記第1の配管に流れるサンプリングガスの流量を、前記第1の配管に設けられた流量調節弁により、感度校正設備で用いられた流量に等しくなるように調整することを特徴とするナトリウム漏えい検出方法。
【請求項5】
サンプリングガスが導入される分岐配管と、この分岐配管の一方に接続された第1の配管に設けられたイオン源と捕集電極と流量調節弁と、前記分岐配管の他方に接続された第2の配管と、前記第1の配管と第2の配管に接続される合流配管と、前記捕集電極に接続された信号処理装置と、前記合流配管の下流に設けられた流量計と流量調節弁とを備えるナトリウム漏えい検出装置のナトリウム漏えい検出方法において、
前記合流配管の下流に設けられた流量調整弁により第2の配管内の流量を低下させた時のイオン電流値と所定の流量を流した時のイオン電流値の差を求めて、この差と所定の流量を流した時のイオン電流値比を用いてイオン電流値の校正定数を導出することを特徴とするナトリウム漏えい検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−203183(P2011−203183A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72506(P2010−72506)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】