説明

ナノエマルションの製造方法

本発明は、(i)少なくとも1種類の両親媒性脂質及び少なくとも1種類の可溶化脂質を含む油相を形成し;(ii)ナノエマルションを形成するのに十分な剪断力の影響下で油相を水相中に分散させ;そして、(iii)かくして形成されたナノエマルションを回収する;工程を含む、少なくとも1種類の水性連続相及び少なくとも1種類の油性分散相を含むナノエマルションの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノエマルションの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ミニエマルション、超微粒エマルション、或いは更にはサブミクロンエマルションとしても知られているナノエマルションは、分散相が一般に10〜200nmの間の平均径を有するエマルションである。
【0003】
エマルションは連続相及び分散相から構成される2種類の非混和性液体物質の混合物であることが思い起こされるであろう。一方の物質が第2の物質(連続相)中に小液滴(分散相)の形態で分散する。この混合物は、「乳化剤」又は「界面活性剤」と呼ばれる、それ自体が2つの相の間の界面に位置する両親媒性分子の作用によって安定に保持される。エマルションは準安定超分子構造である。これらの構造を図3Bに示すが、これはポリマーソーム及びミセルとは異なる。
【0004】
ポリマーソーム(リポソームを含む群)は、数十〜数千ナノメートルの範囲の平均径を有する小胞である。これらの小胞は1以上の界面活性剤の二重層から構成され、これにより小胞内媒体を外部媒体から分離することが可能になり、2つの媒体は同じタイプのものであり、殆どの場合水性である(図3A)。
【0005】
ミセルは、直径が数ナノメートルの自己集合界面活性剤の凝集体から構成される。界面活性剤は、それ自体で、その親水性部分を外側(溶媒)に向けて、その疎水性連鎖をミセルの中心に向けて配向するように配列する(図3C)。
【0006】
水中油ナノエマルションを製造するための数多くの方法が公知である。
而して、界面活性剤を連続相中、即ち水中に可溶化する方法が提案されている(Jafari, S.M.; He, Y.; Bhandari, B., 超音波及びミクロ流動化技術によるサブミクロンエマルションの製造, Journal of Food engineering 2007, 82, (4), 478-488、及びJafari, S.M.; He, Y.; Bhandari, N., 超音波及びミクロ流動化によるナノエマルションの製造−比較, International Journal of Food Properties 2006, 9, (3), 475-485、並びにMason, T.G.; Wilking, J.N.; Meleson, K.; Chang, C.B.; Graves, S.M., ナノエマルション:形成、構造、及び物理特性, Journal of Physics: Condensed Matter 2006, 18, (41), R635-R666)。
【0007】
しかしながら、多くの界面活性剤、特にリン脂質は、水相中及び油相中に容易に溶解しない。したがって、小径の分散相を有するナノエマルションを得るために必要な量の界面活性剤をこれらの相の1つの中に含ませることは困難である。
【0008】
大量の界面活性剤を可溶化することを可能にするために、界面活性剤を溶媒中に可溶化し、次にこれを蒸発させて界面活性剤の膜を形成することが提案されている。次に、界面活性剤の膜を分散させるために、水又は水溶液を加えて混合物を超音波処理する。次に、得られるリポソームの溶液中に油を分散させる。得られる二相溶液を、再び超音波処理するか又はミクロ流動化装置で処理してナノエマルションを生成させる(Vyas, T.K.; Shahiwala, A.; Amiji, M.M., 新規なナノエマルション配合物中での投与によるサクイナビルの改良された経口生物学的利用能及び脳輸送, International Journal of Pharmaceutics 2008, 347 (1-2), 93-101、及びUS−2005/0079131)。しかしながら、この方法は、長い時間がかかり、多数の超音波処理工程を必要とする。更に、ナノエマルション中の残留リポソームの存在を排除することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0079131号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Jafari, S.M.; He, Y.; Bhandari, B., 超音波及びミクロ流動化技術によるサブミクロンエマルションの製造, Journal of Food engineering 2007, 82, (4), 478-488
【非特許文献2】Jafari, S.M.; He, Y.; Bhandari, N., 超音波及びミクロ流動化によるナノエマルションの製造−比較, International Journal of Food Properties 2006, 9, (3), 475-485
【非特許文献3】Mason, T.G.; Wilking, J.N.; Meleson, K.; Chang, C.B.; Graves, S.M., ナノエマルション:形成、構造、及び物理特性, Journal of Physics: Condensed Matter 2006, 18, (41), R635-R666
【非特許文献4】Vyas, T.K.; Shahiwala, A.; Amiji, M.M., 新規なナノエマルション配合物中での投与によるサクイナビルの改良された経口生物学的利用能及び脳輸送, International Journal of Pharmaceutics 2008, 347 (1-2), 93-101
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の主目的は、上記の欠点の1つ以上を解決するナノエマルションの製造方法を提案することである。
特に、本発明の目的は、小径の分散相を有するナノエマルションに近づく簡単な方法を提案することである。
【0012】
本発明の他の目的は、分散相の寸法及び/又は界面の生理化学特性を制御することを可能にするナノエマルションの製造方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この目的は、少なくとも1種類の低可溶性界面活性剤、特にリン脂質を、可溶化脂質の存在によって油相中に可溶化するナノエマルションの製造方法によって達成される。
したがって、本発明は、
(i)少なくとも1種類の両親媒性脂質及び少なくとも1種類の可溶化脂質を含む油相を形成し;
(ii)ナノエマルションを形成するのに十分な剪断力の影響下で油相を水相中に分散させ;そして
(iii)かくして形成されたナノエマルションを回収する;
工程を含む、少なくとも1種類の水性連続相及び少なくとも1種類の油性分散相を含むナノエマルションの製造方法に関する。
【0014】
本発明方法は、特に
−単一工程の超音波処理しか含まない;
−相当量の界面活性剤を溶解させることができ、したがって小径の分散相を有するナノエマルションを製造することができる;
−水相は界面活性剤の低い割合を有し、したがってより粘稠でなく、速やかに乳化することができるので、迅速である;及び
−リポソームの形成が回避され、したがって均一なナノエマルションに近づけることができる;
という有利性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、従来技術にしたがう超音波処理によるナノエマルションの製造の概要図である。
【図2】図2は、本発明の好ましい態様にしたがう超音波処理によるナノエマルションの製造の概要図である。
【図3】図3は、全て水を連続相として有する、ミセル系(c)及びポリマーソーム(a)と比較して見たナノエマルション(b)の構造の概要図である。
【図4】図4は、実施例1にしたがって製造したナノエマルションの寸法分布(体積加重)を示し、体積%を寸法(nm)の関数として示す。
【図5】図5は、界面活性剤/共界面活性剤の等モル比における界面活性剤の全量の関数としての、実施例1(■)及び実施例2にしたがうナノエマルションの分散相の平均径を示す。
【図6】図6は、界面活性剤及び共界面活性剤の量の関数としての、実施例1(■)及び実施例3にしたがうナノエマルションの分散相の平均径を示す。
【図7】図7は、実施例1にしたがって製造したナノエマルションの平均径の時間経過に伴う推移を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の意義の範囲において、
−「液滴」という用語は、液体油の液滴それ自体、及び用いる油が結晶性油である水中油エマルションからの固体粒子を包含する。後者の場合においては、「固体エマルション」という用語もしばしば用いる。
【0017】
−「脂質」という用語は、主として炭素、水素、及び酸素から構成され、水のものよりも低い密度を有する小分子を指す。脂質は、ワックスにおけるように固体状態であっても、又は油におけるように液体であってもよい。
【0018】
−「両親媒性」という用語は、親水性基及び疎水性基を有する種を指す。両親媒性化合物は界面活性特性を有する。即ち、それらは2つの表面の間の表面張力を変化させる。
−「リン脂質」という用語は、ホスフェート基を有する脂質、特にホスホグリセリドを指す。殆どの場合においては、リン脂質は、場合によっては置換されているホスフェート基によって形成されている親水性末端、及び脂肪酸連鎖によって形成されている2つの疎水性末端を含む。特定のリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、及びスフィンゴミエリンが挙げられる。
【0019】
−「レシチン」という用語は、ホスファチジルコリン、即ちコリン、ホスフェート、グリセロール、及び2種類の脂肪酸から形成される脂質を指す。より広範には、これは、これらが主としてホスファチジルコリンから構成される限りにおいて植物又は動物由来の生体源から抽出されるリン脂質を包含する。これらのレシチンは、一般に異なる脂肪酸を有するレシチンの混合物から構成される。
【0020】
−本発明の意義の範囲において、「ナノエマルション」という用語は、分散相が10〜200nmの間、好ましくは10〜150nmの間、特に10〜80nmの間の平均径を有するエマルションを指す。
【0021】
[油相]:
本発明方法を用いて製造されるナノエマルションは、油相及び水相を含む。
油相は、少なくとも1種類の両親媒性脂質及び少なくとも1種類の可溶化脂質を含む。
【0022】
安定なナノエマルションを形成するためには、一般に、組成物中に少なくとも1種類の両親媒性脂質を界面活性剤として含ませることが必要である。
1種類又は複数の界面活性剤の両親媒性によって、油の液滴が水性連続相内で安定化する。通常、ナノエマルションを製造するために少なくとも2種類の界面活性剤を用いる。また、界面活性剤はナノエマルションの所期の用途における他の効果も有する場合がある。
【0023】
本発明によれば、油相は少なくとも1種類の両親媒性脂質を含む。
これらの両親媒性脂質は天然又は合成由来のものであってよい。これらは、好ましくは、リン脂質、コレステロール、リソ脂質、スフィンゴミエリン、トコフェロール、糖脂質、ステアリルアミン、又はカルジオリピンから選択される。
【0024】
レシチンが好ましい両親媒性脂質である。
1つの特定の態様においては、両親媒性脂質の全部又は一部は、マレイミド、チオール、アミン、エステル、オキシアミン、又はアルデヒド基のような反応性官能基を有していてよい。この変異形態により、官能性化合物を界面においてグラフトさせることができる。反応性両親媒性脂質は、界面において形成される層中に含ませて分散層を安定化させ、水相中に存在する反応性化合物との結合に寄与する。
【0025】
一般に、油相は、1〜99重量%、好ましくは5〜75重量%、特に20〜60重量%の両親媒性脂質を含む。
可溶化脂質は、それを可溶化することを可能にするのに十分な両親媒性液体に対する親和性を有する脂質である。両親媒性脂質がリン脂質である場合においては、可能な可溶化脂質は、特にグリセロール誘導体、特にグリセロールを脂肪酸でエステル化することによって得られるグリセリドである。
【0026】
用いる可溶化脂質は、有利には、用いる両親媒性脂質に基づいて選択される。これは、一般に所望の可溶化をもたらすような近似する化学構造を有する。これは、油又はワックスであってよい。
【0027】
特にリン脂質に対する好ましい可溶化脂質は、脂肪酸のグリセリドであり、特に飽和脂肪酸、特に8〜18個の炭素原子、更により好ましくは12〜18個の炭素原子を有する飽和脂肪酸のグリセリドである。
【0028】
好ましくは、0重量%〜20重量%のC脂肪酸、0重量%〜20重量%のC10脂肪酸、10重量%〜70重量%のC12脂肪酸、5重量%〜30重量%のC14脂肪酸、5重量%〜30重量%のC16脂肪酸、及び5重量%〜30重量%のC18脂肪酸を含む飽和脂肪酸グリセリドを用いる。
【0029】
GattefosseからSuppocire (登録商標)NCの商品名で販売されている室温において固体の半合成グリセリド混合物が特に好ましい。タイプNのSuppocire(登録商標)グリセリドは、脂肪酸とグリセロールの直接エステル化によって得られる。これらはC〜C18飽和脂肪酸の半合成グリセリドであり、その定性−定量組成を下表に示す。
【0030】
可溶化脂質の量は、油相中に存在する両親媒性脂質のタイプ及び量の関数として広範囲に変化させることができる。
一般に、油相は、1〜99重量%、好ましくは5〜75重量%、特に10〜50重量%の可溶化脂質を含む。
【0031】
【表1】

【0032】
好ましくは、油相は1種類以上の他の油を更に含む。
本発明方法において用いる油は、好ましくは8未満、更により好ましくは3〜6の間の親水性−親油性バランス(HLB)を有する。
【0033】
有利には、油は、エマルションの形成前にいかなる化学的又は物理的変性も行わないで用いる。
提案された用途においては、油は生体適合性油、特に天然(植物性若しくは動物性)又は合成由来の油から選択することができる。
【0034】
このタイプの油としては、特に、天然植物由来の油、例えば特に大豆、亜麻仁、ヤシ、落花生、オリーブ、ブドウ種、及びヒマワリ油、並びに合成油、例えば特にトリグリセリド、ジグリセリド、及びモノグリセリドが挙げられる。これらの油は、それらの自然形態であっても、精製されていても、又はエステル交換されていてもよい。
【0035】
好ましい油は大豆油及び亜麻仁油である。
一般に、油相は、1〜70重量%、好ましくは2〜50重量%、特に5〜30重量%の油を含む。
【0036】
当然のこととして、油相には、適当量の着色剤、安定剤、防腐剤、蛍光物質、又は薬学的活性成分のような他の添加剤を含ませることもできる。
本発明方法においては、異なる油成分をまず混合してエマルションの分散相のための油状プレミックスを形成する。場合によっては、成分の1つ又は完全な混合物を適当な有機溶媒中の溶液中に配置し、次に溶媒を蒸発させて分散相のための均一な油状プレミックスを残留させることによって混合を容易にすることができる。
【0037】
更に、全ての成分が液体である温度においてプレミックスを形成することが好ましい。
[水相]:
本発明方法において用いる水相は、好ましくは、水及び/又は緩衝剤、例えばホスフェート緩衝剤、例えばPBS(「ホスフェート緩衝剤食塩水」)又は他の食塩水溶液、特に塩化ナトリウムから構成される。
【0038】
更に、場合によってはこれは、他の成分、好ましくは例えば共界面活性剤を含む。
本発明によるエマルションにおいて用いることのできる共界面活性剤は、好ましくは水溶性界面活性剤である。
【0039】
水溶性界面活性剤は、好ましくは、エチレンオキシド単位(PEO又はPEG)、或いはエチレンオキシドとプロピレンオキシド単位から構成される少なくとも1つの連鎖を含む。好ましくは、連鎖中の単位の数は2〜500の範囲である。
【0040】
共界面活性剤の例としては、特に、ポリエチレングリコール/ホスファチジルエタノールアミンの共役化合物(PEG−PE)、脂肪酸とポリエチレングリコールのエーテル、例えばICI Americas Inc.によってBrij(登録商標)の商品名で販売されている製品(例えば、Brij (登録商標)35、58、78、又は98)、脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル、例えばICI Americas Inc.によってMyrj(登録商標)の商品名で販売されている製品(例えば、Myrj (登録商標)45、52、53、又は59)、並びにエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマー、例えばBASF AGによってPluronic(登録商標)の商品名で販売されている製品(例えば、Pluronic (登録商標)F68、F127、L64、L61、10R4、17R2、17R4、25R2、又は25R4)又はUnichema Chemie BVによってSynperonic(登録商標)の商品名で販売されている製品(例えば、Synperonic (登録商標)PE/F68、PE/L61、又はPE/L64)が挙げられる。
【0041】
水相は、好ましくは0〜50重量%、好ましくは1〜30重量%、特に5〜20重量%の水溶性共界面活性剤を含む。
好ましい態様においては、連続相は、グリセロール、糖類、オリゴ糖類又は多糖類、ガム、又は更にはタンパク質、好ましくはグリセロールのような増粘剤も含む。実際、より高い粘度の連続相を用いると乳化が容易になり、したがって超音波処理時間を減少させることができる。
【0042】
水相は、有利には、0〜50重量%、好ましくは1〜30重量%、特に5〜20重量%の増粘剤を含む。
当然のこととして、水相には、適当量の着色剤、安定剤、及び防腐剤のような他の添加剤を更に含ませることができる。
【0043】
エマルションの連続相のための水性プレミックスは、異なる成分を選択された水性媒体と単純に混合することによって形成することができる。
[乳化]:
本発明方法においては、ナノエマルションは、剪断力の影響下で適当量の油相及び水相を分散させることによって製造する。
【0044】
油相と水相の割合は大きく変動させることができる。しかしながら、通常は、ナノエマルションは、1〜50重量%、好ましくは5〜40重量%、特に10〜30重量%の油相、及び50〜99重量%、好ましくは60〜95重量%、特に70〜90重量%の水相で製造する。
【0045】
有利には、その後、油相を液体状態で水相中に分散させる。相の1つが室温において固化する場合には、2つの相を有する混合物を融解温度以上の温度に加熱することが好ましい。
【0046】
剪断力の影響下での乳化は、好ましくは超音波処理装置又はミクロ流動化装置を用いて行う。好ましくは、水相、次に油相を所望の割合で適当な円筒形の容器中に導入し、超音波処理装置を媒体中に浸漬し、ナノエマルションを得るのに十分に長い時間、通常は数分間稼働させる。
【0047】
これにより、油滴の平均径が10nmより大きく200nm未満である均質なナノエマルションが得られる。
コンディショニングの前に、エマルションを例えば濾過によって希釈及び/又は滅菌することができる。濾過工程により、また、エマルションの製造中に形成される可能性がある凝集体を排除することも可能になる。
【0048】
例示の目的で与える実施例、及び添付の図面を用いて本発明を更に詳細に説明する。
【実施例】
【0049】
実施例1:
油中水ナノエマルションの形成:
適当な容器内において、0.125gの大豆油(Sigma-Aldrich)、0.375gのSuppocire (登録商標)NC(Gattefosse)の商品名で販売されている半合成グリセリド、及び0.350gのLipoidによってLipoid (登録商標)S75の商品名で販売されている大豆レシチン(75%のホスファチジルコリンで強化)から構成されるプレミックスを調製した。
【0050】
これらの化合物をクロロホルム中に溶解し、次に溶液を低圧で蒸発させ、50℃で乾燥して、冷却すると固化する粘稠油の形態のプレミックスを得た。得られた混合物を、乳化のために液体に保持するために50〜60℃に加熱した。
【0051】
0.125gのグリセロール、0.55gのICI Americas Inc.によってMyrj (登録商標)53の商品名で販売されている50モルのエチレンオキシドを有するポリオキシエチレンステアレート、及びホスフェート緩衝剤溶液:PBSを混合して混合物を4.150gにすることによって連続相を形成した。この溶液を乳化の前に加熱状態(50〜60℃)に保持した。
【0052】
次に、水溶液を油/レシチン混合物に加えた。次に、2相溶液を、溶液中に約1cm浸漬した直径が3mmの円錐形プローブを備えたAV505(登録商標)超音波処理装置(Sonics, Newtown)と接触させた。最大出力の30%に設定された超音波処理装置により、以下のパルスシーケンス:10秒の超音波処理/30秒の休止;を用いて溶液を5分間超音波処理した。超音波処理中は溶液を40℃に保持した。
【0053】
動的光散乱(Zetasizer nano ZS, Malvern Instrument)によって、製造されたエマルションの分散相の平均径を測定した。
かくして得られたナノエマルションの分散相は35nmの平均径を有していた(図4)。表1に、得られたナノエマルションの配合の組成を要約する。図7に、実施例1にしたがって製造したナノエマルションの時間経過に伴う安定性を示す。
【0054】
【表2】

【0055】
実施例2A〜2K:
界面活性剤及び共界面活性剤の合計量の効果:
実施例1の配合に対する界面活性剤の効果を研究するために、レシチン及びMyrj 53の量を変化させたがそれらの間のモル比[レシチン/(レシチン+Myrj 53)]を0.67の値に一定に保持して実施例1を繰り返した。分散相の量及び組成は実施例1の配合と比較して変化させなかった。緩衝剤溶液の量を変化させ、結果として5gの溶液を得た。
【0056】
大量の共界面活性剤が存在する実施例2A及び2Bにおいては、溶液が十分に粘稠であったのでグリセロールを緩衝剤溶液に置き換えた。表2に、実施例1に示したようにして調製した異なる配合に関して用いた濃度を要約する。
【0057】
【表3】

【0058】
得られるナノエマルションの分散相の平均径は界面活性剤の合計量が増加するにつれて減少することが分かる(図5参照)。実施例1の配合は図5において四角によって示す。
したがって、界面活性剤の量を調節することによってナノエマルションの分散相の寸法を制御することができる。しかしながら、2つの異なるパターンを区別することができる:界面活性剤が0.5ミリモルより少ない場合においては平均径は界面活性剤の量に伴って速やかに変動し、一方この濃度より高い場合には平均径は大きくは変化しない。したがって、界面活性剤の量における僅かな変動はナノエマルションの分散相の最終的な寸法に小さな効果しか与えないことを考慮すると、0.5ミリモルよりも多い界面活性剤を含む配合はより安定であると思われる。
【0059】
実施例3A〜3F:
界面活性剤/共界面活性剤のモル比の効果:
次に、界面活性剤/共界面活性剤の比を変動させたが、界面活性剤のモル量は一定に保持して実施例1を繰り返した。
【0060】
大量の共界面活性剤が存在する実施例3A〜3Fにおいては、溶液が十分に粘稠であったのでグリセロールを緩衝剤溶液に置き換えた。表3に、実施例1に示すようにして調製した異なる配合に関して用いた濃度を要約する。
【0061】
【表4】

【0062】
得られたエマルションの分散相の寸法はレシチン及びMyrj 53の濃度の関数として与えられ、みかけの配合を四角で表す。データを図6のグラフにおいて示す。
液滴の寸法は界面活性剤の量に伴って減少するが、同様にコ共界面活性剤の量に伴って減少することが分かる。更に、共界面活性剤の効果はこの点において相当により重要であると思われることを注目することができる。
【0063】
したがって、界面活性剤/共界面活性剤の比により、エマルションの界面の組成を同時に変化させることによって分散相の径を制御することも可能になる。
実施例4:
共界面活性剤の親水性連鎖の長さの効果:
共界面活性剤の親水性連鎖の長さの効果を研究するために、Myrj 53を異なる長さのポリオキシエチレン鎖を有する共界面活性剤に置き換えて実施例1の配合を繰り返した。
【0064】
以下の共界面活性剤:Tween(登録商標)80、Myrj(登録商標)45、Myrj(登録商標)49、及びMyrj(登録商標)59を試験した。下表4にこれらの共界面活性剤の特性を要約する。
【0065】
実施例1の配合における共界面活性剤を、等モル量、即ち0.233ミリモルで置き換えた。
【0066】
【表5】

【0067】
実施例5:
等モル量の界面活性剤及び共界面活性剤を含む配合における共界面活性剤の親水性連鎖の長さの効果:
実施例4において行った実験の第2のシリーズを用いて、しかしながら界面活性剤及び共界面活性剤が等モル量(0.344ミリモル)で存在する配合に基づいて、共界面活性剤の親水性連鎖の長さの効果の研究を確認した。
【0068】
分散相の平均径の観点での結果を、実施例4及び5に関して下表5に要約する。
【0069】
【表6】

【0070】
共界面活性剤における親水性連鎖の長さは、実施例4の配合に関して得られたエマルションの分散相の平均径に多少の影響を与えることが分かった。具体的には、エマルションの分散相の平均径は連鎖の長さが増加するにつれて大きく減少する。
【0071】
しかしながら、非常に長い連鎖を有する共界面活性剤(Myrj 59)を用いる実施例4のナノエマルションは不安定であることが判明したことに注意すべきである。また、分散相の非常に小さな径(15.3nm)により、ナノエマルションよりもミセル溶液が存在することも示唆される。
【0072】
他方において、界面活性剤が等モルである実施例5の配合は、分散相の径が30nm付近で保持されるナノエマルションを与える。したがって、この場合においては、粒子の径に大きな影響を与えることなく親水性連鎖の長さを変化させることができる。
【0073】
実施例6A〜6G:
分散相の組成の効果:
最後に、油及び可溶化脂質のタイプ及び割合を変化させることによって、分散相の平均径に対する油相の組成の効果を研究した。
【0074】
実施例1の配合においては、分散相は75重量%の可溶化脂質(Suppocire(登録商標)NC)及び25重量%の大豆油の混合物から構成される。可溶化脂質は飽和中鎖脂肪酸に富み、一方、大豆油はω6タイプの不飽和酸(C18:2)に富み、亜麻仁油はω3タイプの不飽和酸(C18:3)に富む。
【0075】
したがって、分散相が、純粋な可溶化脂質、或いは可溶化脂質と大豆油又は亜麻仁油との混合物から構成されたナノエマルションが製造された。可溶化脂質及び油に関するナノエマルションのそれぞれの組成を下表8において重量%で示す。
【0076】
一方、実施例5の配合を保持すると、この配合は、実施例1の配合と比較することによってレシチンの量を減少させる有利性を有し、したがって可溶化脂質の量を減少させることができ、一方レシチンの良好な可溶化を行うことができる。油相を除いたナノエマルションの配合を下表7に要約する。
【0077】
【表7】

【0078】
下表8に、示した組成を用いて得られたナノエマルションにおける分散相の平均径を要約する。
【0079】
【表8】

【0080】
これらの結果は、エマルションの分散相の組成をその径を変動させることなく変化させることができ、これによりナノエマルションの分散相の径に影響を与えることなく可溶化特性を変化させることができることを示す。
【0081】
したがって、上記に記載の方法によって、安定で均一なナノエマルションを速やかに且つ容易に得ることができる。本方法により更に、上記に記載したように、用いる界面活性剤の濃度及びタイプによって、分散相の平均径、ナノエマルションの界面及び又は分散相を制御することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)少なくとも1種類の両親媒性脂質及び少なくとも1種類の可溶化脂質を含む油相を形成し;
(ii)ナノエマルションを形成するのに十分な剪断力の影響下で油相を水相中に分散させ;そして
(iii)かくして形成されたナノエマルションを回収する;
工程を含む、少なくとも1種類の水性連続相及び少なくとも1種類の油性分散相を含むナノエマルションの製造方法。
【請求項2】
両親媒性脂質が、天然又は合成由来の、リン脂質、コレステロール、リソ脂質、スフィンゴミエリン、トコフェロール、糖脂質、ステアリルアミン、又はカルジオリピンから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
両親媒性脂質がリン脂質である、請求項1又は2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
可溶化脂質が少なくとも1種類の脂肪酸グリセリドを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
可溶化脂質が、少なくとも1種類の8〜18個の炭素原子を有する飽和脂肪酸グリセリドを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
油相が少なくとも1種類の油を更に含む、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
油が3〜6の間の親水性−親油性バランス(HLB)を有する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
油相が大豆油及び亜麻仁油から選択される少なくとも1種類の油を含む、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
水相が共界面活性剤を更に含む、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
共界面活性剤が、エチレンオキシド単位、又はエチレンオキシドとプロピレンオキシド単位から構成される少なくとも1種類の連鎖を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
共界面活性剤が、ポリエチレングリコール/ホスファチジルエタノールアミンの共役化合物(PEG−PE)、脂肪酸とポリエチレングリコールのエーテル、脂肪酸とポリエチレングリコールのエステル、及びエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロックコポリマーから選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
エマルションの連続相が生理学的に許容しうる緩衝剤を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
剪断力の影響を超音波によって生成させる、請求項1〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
構成成分の全部又は一部を適当な溶媒中の溶液中に配置し、次に溶媒を蒸発させることによって油相を形成する、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−517768(P2010−517768A)
【公表日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−549457(P2009−549457)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050249
【国際公開番号】WO2008/104717
【国際公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(591150395)
【Fターム(参考)】