ナノコンポジットおよびその製造方法
本発明はナノコンポジットを形成する方法に関する。製法は、クレイを膨潤させるために、プリスティンクレイを水で処理する工程と、クレイを膨潤状態に維持しながら、水を有機溶媒と交換する工程と、膨潤したクレイを改質剤で処理する工程と、処理済みクレイを、モノマー、オリゴマーおよびポリマーおよびそれらの組み合わせから選択される物質と混合する工程とを含む。必要に応じて、前記物質を重合させ、前記溶媒は重合の前、最中または後のいずれかに除去される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノコンポジットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー/クレイナノコンポジットの大規模な製造を妨げる主たる問題の一つとして、高度なクレイ剥離(clay exfoliation)とポリマー/クレイ系中での均一な分散を達成して真のナノ構造を形成することが難しいことがある。予期されるポリマー/クレイナノコンポジットの高度な性能、たとえば、高い強度や弾性率、良好なバリア性、難燃性、および引っ掻き抵抗性などは、剥離したナノクレイの非常に大きな表面積、並びに、超高アスペクト比によって直接もたらされると考えられる。必要なクレイ剥離が行なわれない場合、硬質ポリマーマトリックスへのナノクレイ添加による特性の向上が非常に限られたものとなり、場合によっては悪影響もあることが報告されている。
【0003】
プリスティン(pristine)クレイは、好ましい出発物質である。しかしながら、プリスティンクレイの表面は親水性であり、ほとんどのポリマーと適合性がない。この問題を克服するために、クレイ表面を改質し剥離度を改善するための有機改質剤が広く用いられている。広く「オルガノクレイ」として知られる改質クレイは、たいてい有意量の有機改質剤を含有している。結果として、オルガノクレイの値段は高く、さらに、ナノコンポジット内に低分子量の残留改質剤が残り、これが製品の熱および機械的性能の低下をもたらすことがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ナノコンポジットの調製に対する新しい手法と、それによって得られるナノコンポジットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、ナノコンポジットを形成する方法であって、クレイを膨潤させるために、プリスティンクレイを水で処理する工程と、クレイを膨潤状態に維持しながら、水を有機溶媒と交換する工程と、膨潤したクレイを改質剤で処理する工程と、処理済みクレイを、モノマー、オリゴマーおよびポリマーおよびそれらの組み合わせから選択される物質と混合する工程と、必要に応じて、前記物質を重合させる工程とを有し、前記溶媒は重合の前、最中または後のいずれかに除去される、方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明によれば、まず最初にプリスティンクレイを水中に分散させて分散液を形成する。これにより、水がクレイのギャラリー空間に浸透することにより、個々のクレイ粒子を膨潤させる。
【0007】
次に、水分散液を有機溶媒で交換する。溶媒および交換の条件は、クレイの膨潤状態が維持されるように選択する。有機溶媒を用いることにより、クレイ粒子の剥離を向上させるとともに、改質剤の量を減少させることができる。本発明の少なくとも好ましい形態において、実質的に完全な剥離を達成することができる。
【0008】
本発明において用いる有機溶媒は、改質剤とクレイとの間の反応を促進するとともに、モノマー、オリゴマーまたはポリマー中でのクレイ層の均一な分散を容易にする。有機溶媒は、このようなモノマー、オリゴマーまたはポリマーに対する溶媒としても機能する。
【0009】
有機溶媒は、極性または非極性溶媒のいずれであってもよい。有機溶媒が非極性であって、水に対して混和性がない場合、そのような有機溶媒は、通常は極性溶媒とともに用いられるであろう。そのような溶媒系により、親水性クレイ層と、改質剤、またはモノマー、ポリマーもしくはオリゴマーとして用いられ得る疎水性分子とに対する系の相溶性を達成することができる。
【0010】
反応を低温度で行い、溶媒をその機能を果たした後に蒸発によって容易に除去できるようにするために、有機溶媒は低沸点のものであることが好ましい。
したがって、好ましい有機溶媒としては、限定はされないが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンなどのケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、およびtert−ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびブチレンブリコールなどのグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルおよびマロン酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルおよびテトラヒドロフランなどのエーテル類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンおよびo−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなど炭化水素類が挙げられる。その他のものとして、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルリン酸トリアミド、およびガンマブチロラクトンなどが挙げられる。上記溶媒は、単独で用いてもよいし、任意に組み合わせて用いてもよい。一般的には、沸点が100℃より低い溶媒または組み合わせが、取扱の容易さおよび低コストの観点から好ましい。
【0011】
本発明の製法において、まず最初にクレイを水と混合する。クレイの水に対する比は、1:1〜1:1000の間で変えることができる。好ましくは、1:2〜1:500であり、より好ましくは1:5〜1:200である。
【0012】
水の量の有機溶媒の量に対する比は、クレイが膨潤状態を維持できる範囲で広範囲に変えることができる。これらの量は1:1〜1:50の間で変えることができる。
ナノコンポジットの形成に用いるクレイは、従来技術において一般的に用いられるものである。したがって、スメクタイトおよびカオリンクレイのうちから選択可能である。本発明において使用するスメクタイトクレイは、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バイデライト、ノントロナイト(nontronote)、およびそれらの2つ以上の組み合わせのうちから選択することができる。より好ましくは、クレイは、ヘクトライト、モンモリロナイト、バイデライト、ステベンサイト、およびサポナイトのうちから選択される。典型的には、本発明において用いるクレイは、約7〜300meq/100gのカチオン交換容量を有する。
【0013】
本発明のナノコンポジットにおいて用いるクレイの量は、最終ナノコンポジットにおける要求特性に応じて変わるが、一般的には、組成物の全重量に対して約0.1重量%〜40重量%の範囲である。
【0014】
本発明の有機改質剤は、従来技術において言及されてたものであってよい。改質剤は通常は、クレイ表面およびポリマー鎖と反応する機能を有する。クレイ表面は親水性である。ポリマー鎖は疎水性のものから、ある程度の親水性をy有するものまで様々である。改質剤は、親水性官能基および疎水性官能基の両方を有することになる。したがって、改質剤は、界面活性剤、カップリング剤および相溶化剤のうちから選択可能である。適切な改
質剤は、アルキルアンモニウム塩、オルガノシラン、アルキル酸(またはそれらの機能誘導体、たとえば、酸塩化物または無水物など)、グラフト化コポリマー(grafted
copolymer)、およびブロックコポリマーから選択することができる。いずれの場合においても、改質剤は、クレイ層に結合可能な官能基と、ポリマーに結合可能な別の官能基とを有するように選択される。本発明の特徴は、使用する改質剤の量を従来の方法において提案されるよりもはるかに少なくできることである。したがって、改質剤の量は、0.15〜15重量パーセントの範囲内の量に低減することができる。
【0015】
ポリマーは、従来技術においてコンポジットに通常用いられる任意のポリマーから選択可能である。したがって、熱硬化性ポリマー、熱可塑性ポリマーおよびそれらの組み合わせから選択されるポリマーを用いることができる。ポリマーは、本発明の製法において、重合可能なモノマーとして組み込んでから、重合させることができる。そのようなポリマーとしては、エポキシ類、ポリエステル樹脂および硬化ゴムなどの熱硬化性ポリマー類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリイソプレンおよびそのコポリマーなどからなってもよいポリオレフィン類、オレフィンと他のモノマーとのコポリマー類、たとえばエチレン−酢酸ビニル、エチレン酸コポリマー、エチレン−ビニルアルコール、エチレン−エチルアクリレート、およびエチレン−メチルアクリレートなど、ポリアクリレート類、たとえばポリメチルメチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリイソブチルアクリレート、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、ポリ(アミノアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)など、または他のアルキルアクリレート類などの熱可塑性ポリマー;ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類;ABS,SAN,ASAおよびスチレン−ブタジエンなどのポリスチレンおよびコポリマー;ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドおよび熱可塑性ポリイミドなどの工業用樹脂;オレフィン系TPE、ポリウレタンTPE,およびスチレン系TPEなどのエラストマー類;PVCやポリビニリデンジクロライドなどの塩素化ポリマー;ポリジメチルシロキサン、シリコーンゴム、シリコーン樹脂などのシリコーン類;フッ素ポリマーおよび他の有用なモノマーとのコポリマー、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレン−プロピレン、ペルフルオロアルコキシ樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロフルオロエチレンコポリマー、フッ化ポリビニリデンおよびポリビニルフルオリドなどが挙げられる。さらなるポリマーとしては、ニトリル樹脂、ポリアミド(ナイロン)、ポリフェニレンエーテルおよびポリアミド−イミドコポリマーが挙げられる。また、スルホン系樹脂、たとえばポリスルホン、ポリエーテルスルホンおよびポリアリールスルホンも含まれる。本発明において有用な熱可塑性樹脂の他のファミリーは、アセタール系樹脂、アクリル系樹脂、およびセルロース系樹脂である。液晶ポリマー、ポリエステルコポリマーのファミリーを用いることもできる。さらに、上記樹脂の任意の組み合わせの混和性または非混和性の混合物およびアロイも本発明に対して有用である。
【0016】
コンポジット中のポリマーの量は、所望の用途に応じて全組成の約60重量%から約99.9重量%までの間で変えることができる。好ましいポリマー含量は、80%〜95.5%とすることができ、より好ましくは85%〜95.5%である。
【0017】
本発明について、以下の実施例を参照して説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
2グラムのCloisite(登録商標)93A(40重量%のアルキルアンモニウム
を含む市販のオルガノクレイ)を、60.8gのDowエポキシ樹脂DER332と、ホモジナイザーを用いて10000rpmの速度で2時間にわたって混合した。次にこの混合物を、16グラムの硬化剤(ETHACURE100LC)と攪拌により混合し、100℃で2時間および180℃で5時間にわたって硬化させた。最終産物は板状であり、これをいくつかの試験に供した。
光学顕微鏡写真を図1に示す。TEM顕微鏡写真を図3に示す。
【0019】
(実施例2)
145meq/100gのカチオン交換容量を有する精製ナトリウムモンモリロナイトを2gと、100mLの水とを攪拌しながら室温で24時間混合し懸濁液を形成した。懸濁液を攪拌しながら室温で1000mLのアセトン中で沈殿させ、室温にてアセトンで3回洗浄した。0.1gの量の3−アミノプロピルトリメトキシシランをカップリング剤として加えた。この混合物を室温で12時間攪拌した。次に、60.8gのDowエポキシ樹脂DER332を、ホモジナイザーを用いて、10000rpmの速度で2時間にわたって、前記改質クレイとよく混合した。混合物を50℃の真空乾燥機中で48時間乾燥させた後、16gの硬化剤(ETHACURE 100LC)と攪拌により混合し、100℃で2時間および180℃で5時間にわたって硬化させた。最終産物は板状であり、これをいくつかの試験に供した。
【0020】
光学顕微鏡写真を図2に示す。TEM顕微鏡写真を図4に示す。
光学顕微鏡(OM)による観察により、本発明の技術によって調製したナノコンポジットにおいて、クレイ粒子がマトリックス中に均一に分散していることが確認された。既存の技術によって調製したエポキシ/オルガノクレイコンポジットにおいて、凝集体の大きさは10〜20ミクロン(図1)である。上述のエポキシ/クレイナノコンポジットにおいては、クレイ粒子はマトリックス中に均一に分散しており、凝集体の大きさは1ミクロン未満(図2)である。
【0021】
透過型電子顕微鏡(TEM)による検討の結果から、クレイは高度に剥離しており、クレイ層はエポキシマトリックス中に均一に分散しており(図4)、既存の技術によって作成した試料のもの(図3)よりも有意に優れていることがわかる。
【0022】
エポキシ中へクレイを組み込むことにより、ヤング率(図5)および破壊靱性(図6)の両方が改善される。クレイの充填量が2.5重量%であるとき、破壊靱性が最大値を示す(図6)。文献中に報告されているデータと比較して、本発明の手法によって調製したナノコンポジットは、ヤング率および破壊靱性の両方について、より良好な性能を示す。図7および図8に一例を示す。これらの例において、データは正規化されて比較されている。本発明の手法によって調製したナノコンポジットは、クレイ含量に関係なく、より高いヤング率を示すことが明らかである。破壊靱性の最大値は、既存の手法によって調整した試料のものに比べて高い。
【0023】
本ナノコンポジットの動的機械特性を、エポキシ/オルガノクレイナノコンポジット(エポキシ/93A)のものと一緒に図9および図10に示す。本発明の手法によるナノコンポジットの貯蔵弾性率は、クレイの充填量とともに増加するが、Tgは大きく変化しなかった。しかしながら、エポキシ/オルガノクレイについては、貯蔵弾性率は同じ充填量においてより低く、Tgは劇的に低下した。
【0024】
図11および図12は、透過率の比較である。本発明の手法によってクレイの分散および剥離が向上しているため、新規なエポキシ/クレイナノコンポジットの透過率(図11)は、既存の手法を用いて調製したナノコンポジット(図12)のものに比べて良好である。
【0025】
(実施例3)
145meq/100gのカチオン交換容量を有する精製ナトリウムモンモリロナイトを2gと、100mLの水とを攪拌しながら室温で24時間混合し懸濁液を形成した。懸濁液を攪拌しながら室温で1000mLのアセトン中で沈殿させ、室温にてアセトンで3回洗浄した。0.1gの量の3−グリシドプロピルトリメトキシシランをカップリング剤として加えた。この混合物を室温で12時間攪拌した。次に、50gのCibaエポキシ樹脂LY5210を、ホモジナイザーを用いて、10000rpmの速度で2時間、前記改質クレイとよく混合した。混合物を50℃の真空乾燥機中で48時間乾燥させた後、25gの硬化剤(CibaHY2954)と攪拌により混合し、160℃で2時間および220℃で2時間硬化させた。最終産物は板状であり、これをいくつかの試験に供した。
【0026】
TEM顕微鏡写真からは、クレイが高度に剥離しており、クレイ層がエポキシマトリックス中に均一に分散しており(図13)、既存の技術によって作成した試料のもの(図3)に比べて著しく優れていることがわかる。
【0027】
ナノコンポジットの動的機械特性を図14および図15に示す。本発明の手法によって作成したナノコンポジットの貯蔵弾性率およびTgのいずれも、クレイの充填量とともに増加することがわかる。
クレイをエポキシ中に組み込むことによって、破壊靱性が向上する(図16)。クレイの充填量が2.5重量%であるとき、破壊靱性が最大値を示す。
【0028】
(実施例4)
145meq/100gのカチオン交換容量を有する精製ナトリウムモンモリロナイトを2gと、100mLの水とを攪拌しながら室温で24時間混合し懸濁液を作成した。懸濁液を攪拌しながら室温で1000mLのエタノール中で沈殿させ、室温にてエタノールで3回洗浄した。0.1gの量の3−アミノプロピルトリメトキシシランをカップリング剤として加えた。この混合物を室温で12時間攪拌した。次に、60.8gのDowエポキシ樹脂DER332を、ホモジナイザーを用いて、10000rpmの速度で2時間、前記改質クレイとよく混合した。混合物を60℃の真空乾燥機中で48時間乾燥させた後、16gの硬化剤(ETHACURE 100LC)と攪拌により混合し、100℃で2時間および180℃で5時間硬化させた。最終産物は板状であり、これをいくつかの試験に供した。
【0029】
TEM顕微鏡写真は、クレイが高度に剥離しており、クレイ層がエポキシマトリックス中に均一に分散しており(図17)、これは、既存の技術によって作成した試料のもの(図3)に比べて著しく優れていることを示す。
【0030】
(実施例5)
145meq/100gのカチオン交換容量を有する精製ナトリウムモンモリロナイトを2gと、100mLの水とを攪拌しながら室温で24時間混合し懸濁液を作成した。懸濁液を攪拌しながら室温で1000mLのアセトン中で沈殿させ、室温にてアセトンで3回洗浄した。0.1gの量の3−グリシドプロピルトリメトキシシランをカップリング剤として加えた。この混合物を室温で12時間攪拌した。次に、60.8gのDowエポキシ樹脂DER332を、ホモジナイザーを用いて、10000rpmの速度で2時間、前記改質クレイとよく混合した。混合物を50℃の真空乾燥機中で48時間乾燥させた後、16gの硬化剤(ETHACURE 100LC)と攪拌により混合し、100℃で2時間および180℃で5時間硬化させた。最終産物は板状であり、これをいくつかの試験に供した。
【0031】
TEM顕微鏡写真からは、クレイが高度に剥離しており、クレイ層がエポキシマトリックス中に均一に分散しており(図18)、既存の技術によって作成した試料のもの(図3)に比べて著しく優れていることがわかる。
【0032】
下記の表は、それぞれの実施例において使用した主成分と、最終産物の特性を示した関係する図をまとめたものである。
【0033】
【表1】
【0034】
したがって、本発明は、ポリマーマトリックス中に剥離クレイ粒子が均一に分散したナノコンポジットをさらに提供する。
本発明のナノコンポジットは、高弾性率および高硬度、高い加熱たわみ温度および高い熱安定性が要求される飛行機、自動車などの部品として、プリント回路基板、電子部品実装、電気部品などとして、高いバリア性と高い透明性が要求される飲料および食品用の容器、フィルムおよびコーティングとして、およびタイヤやチューブなどとして用いることができる。
【0035】
本発明はを好ましい実施形態を参照して説明してきたが、これらに限定されるものではない。さらに、製法における特定の材料や工程に言及していて、それに対する既知の均等物が存在する場合、そうした均等物も具体的に列挙したかのごとく本発明に組み込まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】従来技術の、エポキシDER332/オルガノクレイ(エポキシ/Cloisite93A)ナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)の研磨面の光学顕微鏡写真(縮尺バー:右:50μm)。
【図2】本発明による、エポキシDER332/プリスティンクレイナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)の研磨面の光学顕微鏡写真(縮尺バー:右:50μm)。
【図3】図1に示したのと同じ従来技術の、エポキシDER332/オルガノクレイ(エポキシ/Cloisite93A)ナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)のTEM顕微鏡写真。
【図4】本発明の技術によって調製した、エポキシDER332/クレイナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)のTEM顕微鏡写真。
【図5】ヤング率を用いて、本発明のエポキシDER332/クレイナノコンポジットの機械的特性を示す図。
【図6】破壊靱性を用いて、本発明のエポキシDER332/クレイナノコンポジットの機械的特性を示す図。
【図7】様々な方法によって調製した本発明のナノコンポジットのヤング率の比較を示す図(参照:Becker,Cheng,Varley,Simon,Macromolecules,2003,36,1616〜1625頁)。参照Aは、100℃で2時間、130℃で1時間、160℃で12時間、200℃で2時間にわたって硬化させた。参照Bは、160℃で12時間、200℃で2時間にわたって硬化させた。
【図8】様々な方法によって調製した本発明のナノコンポジットの破壊靱性の比較を示す図(参照:Becker,Cheng,Varley,Simon,Macromolecules,2003,36,1616〜1625頁)。参照Aは、100℃で2時間、130℃で1時間、160℃で12時間、200℃で2時間にわたって硬化させた。参照Bは、160℃で12時間、200℃で2時間にわたって硬化させた。
【図9】純エポキシ、本発明のエポキシDER332/クレイナノコンポジット、および従来技術のエポキシDER332/オルガノクレイナノコンポジット(エポキシ/Cloisite93A)について、貯蔵弾性率E’対温度の関係を示した図。
【図10】本発明のエポキシDER332/クレイナノコンポジット、および従来技術のエポキシDER332/オルガノクレイナノコンポジット(エポキシ/Cloisite93A)について、tanδ対温度の関係を示した図。図9および図10において、曲線aは純エポキシであり、曲線b、c、dおよびeは、それぞれ、クレイが1.0重量%、2.5重量%、3.5重量%および5.0重量%のものである。曲線fは、5.0重量%のCloisite93Aを含有している。
【図11】様々なクレイ濃度における、本発明によるナノコンポジットの光透過性を示した図。曲線a,b,cおよびdは、それぞれ、クレイが1.0重量%、2.5重量%、3.5重量%および5.0重量%のものである。
【図12】従来技術の手法による光透過性の比較を示す図である(参照:Dengら、Polymer International,2004,53,85〜91頁)。
【図13】本発明の技術によって調製したエポキシLY5210/クレイナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)のTEM顕微鏡写真。
【図14】本発明のエポキシLY5210/クレイナノコンポジットについて貯蔵弾性率E’対温度の関係を示した図。
【図15】本発明のエポキシLY5210/クレイナノコンポジットについてtanδ対温度の関係を示した図。図13および図14において、曲線aは純エポキシ、曲線bおよびcは、それぞれ、クレイが2.5重量%および5.0重量%のものである。
【図16】破壊靱性を用いて、本発明のエポキシLY5210/クレイナノコンポジットの機械的特性を示す図。
【図17】本発明の技術によって調製したエポキシDER332/クレイナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)のTEM顕微鏡写真。
【図18】本発明の技術によって調製したエポキシDER332/クレイナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)のTEM顕微鏡写真。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノコンポジットおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリマー/クレイナノコンポジットの大規模な製造を妨げる主たる問題の一つとして、高度なクレイ剥離(clay exfoliation)とポリマー/クレイ系中での均一な分散を達成して真のナノ構造を形成することが難しいことがある。予期されるポリマー/クレイナノコンポジットの高度な性能、たとえば、高い強度や弾性率、良好なバリア性、難燃性、および引っ掻き抵抗性などは、剥離したナノクレイの非常に大きな表面積、並びに、超高アスペクト比によって直接もたらされると考えられる。必要なクレイ剥離が行なわれない場合、硬質ポリマーマトリックスへのナノクレイ添加による特性の向上が非常に限られたものとなり、場合によっては悪影響もあることが報告されている。
【0003】
プリスティン(pristine)クレイは、好ましい出発物質である。しかしながら、プリスティンクレイの表面は親水性であり、ほとんどのポリマーと適合性がない。この問題を克服するために、クレイ表面を改質し剥離度を改善するための有機改質剤が広く用いられている。広く「オルガノクレイ」として知られる改質クレイは、たいてい有意量の有機改質剤を含有している。結果として、オルガノクレイの値段は高く、さらに、ナノコンポジット内に低分子量の残留改質剤が残り、これが製品の熱および機械的性能の低下をもたらすことがある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ナノコンポジットの調製に対する新しい手法と、それによって得られるナノコンポジットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、ナノコンポジットを形成する方法であって、クレイを膨潤させるために、プリスティンクレイを水で処理する工程と、クレイを膨潤状態に維持しながら、水を有機溶媒と交換する工程と、膨潤したクレイを改質剤で処理する工程と、処理済みクレイを、モノマー、オリゴマーおよびポリマーおよびそれらの組み合わせから選択される物質と混合する工程と、必要に応じて、前記物質を重合させる工程とを有し、前記溶媒は重合の前、最中または後のいずれかに除去される、方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明によれば、まず最初にプリスティンクレイを水中に分散させて分散液を形成する。これにより、水がクレイのギャラリー空間に浸透することにより、個々のクレイ粒子を膨潤させる。
【0007】
次に、水分散液を有機溶媒で交換する。溶媒および交換の条件は、クレイの膨潤状態が維持されるように選択する。有機溶媒を用いることにより、クレイ粒子の剥離を向上させるとともに、改質剤の量を減少させることができる。本発明の少なくとも好ましい形態において、実質的に完全な剥離を達成することができる。
【0008】
本発明において用いる有機溶媒は、改質剤とクレイとの間の反応を促進するとともに、モノマー、オリゴマーまたはポリマー中でのクレイ層の均一な分散を容易にする。有機溶媒は、このようなモノマー、オリゴマーまたはポリマーに対する溶媒としても機能する。
【0009】
有機溶媒は、極性または非極性溶媒のいずれであってもよい。有機溶媒が非極性であって、水に対して混和性がない場合、そのような有機溶媒は、通常は極性溶媒とともに用いられるであろう。そのような溶媒系により、親水性クレイ層と、改質剤、またはモノマー、ポリマーもしくはオリゴマーとして用いられ得る疎水性分子とに対する系の相溶性を達成することができる。
【0010】
反応を低温度で行い、溶媒をその機能を果たした後に蒸発によって容易に除去できるようにするために、有機溶媒は低沸点のものであることが好ましい。
したがって、好ましい有機溶媒としては、限定はされないが、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、およびシクロヘキサノンなどのケトン類、メタノール、エタノール、プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、sec−ブタノール、およびtert−ブタノールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびブチレンブリコールなどのグリコール類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルおよびマロン酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルおよびテトラヒドロフランなどのエーテル類、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,4−ジクロロブタン、トリクロロエタン、クロロベンゼンおよびo−ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンなど炭化水素類が挙げられる。その他のものとして、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルリン酸トリアミド、およびガンマブチロラクトンなどが挙げられる。上記溶媒は、単独で用いてもよいし、任意に組み合わせて用いてもよい。一般的には、沸点が100℃より低い溶媒または組み合わせが、取扱の容易さおよび低コストの観点から好ましい。
【0011】
本発明の製法において、まず最初にクレイを水と混合する。クレイの水に対する比は、1:1〜1:1000の間で変えることができる。好ましくは、1:2〜1:500であり、より好ましくは1:5〜1:200である。
【0012】
水の量の有機溶媒の量に対する比は、クレイが膨潤状態を維持できる範囲で広範囲に変えることができる。これらの量は1:1〜1:50の間で変えることができる。
ナノコンポジットの形成に用いるクレイは、従来技術において一般的に用いられるものである。したがって、スメクタイトおよびカオリンクレイのうちから選択可能である。本発明において使用するスメクタイトクレイは、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バイデライト、ノントロナイト(nontronote)、およびそれらの2つ以上の組み合わせのうちから選択することができる。より好ましくは、クレイは、ヘクトライト、モンモリロナイト、バイデライト、ステベンサイト、およびサポナイトのうちから選択される。典型的には、本発明において用いるクレイは、約7〜300meq/100gのカチオン交換容量を有する。
【0013】
本発明のナノコンポジットにおいて用いるクレイの量は、最終ナノコンポジットにおける要求特性に応じて変わるが、一般的には、組成物の全重量に対して約0.1重量%〜40重量%の範囲である。
【0014】
本発明の有機改質剤は、従来技術において言及されてたものであってよい。改質剤は通常は、クレイ表面およびポリマー鎖と反応する機能を有する。クレイ表面は親水性である。ポリマー鎖は疎水性のものから、ある程度の親水性をy有するものまで様々である。改質剤は、親水性官能基および疎水性官能基の両方を有することになる。したがって、改質剤は、界面活性剤、カップリング剤および相溶化剤のうちから選択可能である。適切な改
質剤は、アルキルアンモニウム塩、オルガノシラン、アルキル酸(またはそれらの機能誘導体、たとえば、酸塩化物または無水物など)、グラフト化コポリマー(grafted
copolymer)、およびブロックコポリマーから選択することができる。いずれの場合においても、改質剤は、クレイ層に結合可能な官能基と、ポリマーに結合可能な別の官能基とを有するように選択される。本発明の特徴は、使用する改質剤の量を従来の方法において提案されるよりもはるかに少なくできることである。したがって、改質剤の量は、0.15〜15重量パーセントの範囲内の量に低減することができる。
【0015】
ポリマーは、従来技術においてコンポジットに通常用いられる任意のポリマーから選択可能である。したがって、熱硬化性ポリマー、熱可塑性ポリマーおよびそれらの組み合わせから選択されるポリマーを用いることができる。ポリマーは、本発明の製法において、重合可能なモノマーとして組み込んでから、重合させることができる。そのようなポリマーとしては、エポキシ類、ポリエステル樹脂および硬化ゴムなどの熱硬化性ポリマー類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリイソプレンおよびそのコポリマーなどからなってもよいポリオレフィン類、オレフィンと他のモノマーとのコポリマー類、たとえばエチレン−酢酸ビニル、エチレン酸コポリマー、エチレン−ビニルアルコール、エチレン−エチルアクリレート、およびエチレン−メチルアクリレートなど、ポリアクリレート類、たとえばポリメチルメチルアクリレート、ポリブチルアクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリイソブチルアクリレート、ポリ(2−エチルヘキシルアクリレート)、ポリ(アミノアクリレート)、ポリ(ヒドロキシエチルメタクリレート)、ポリ(ヒドロキシプロピルメタクリレート)など、または他のアルキルアクリレート類などの熱可塑性ポリマー;ポリアリレート、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル類;ABS,SAN,ASAおよびスチレン−ブタジエンなどのポリスチレンおよびコポリマー;ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドおよび熱可塑性ポリイミドなどの工業用樹脂;オレフィン系TPE、ポリウレタンTPE,およびスチレン系TPEなどのエラストマー類;PVCやポリビニリデンジクロライドなどの塩素化ポリマー;ポリジメチルシロキサン、シリコーンゴム、シリコーン樹脂などのシリコーン類;フッ素ポリマーおよび他の有用なモノマーとのコポリマー、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレン−プロピレン、ペルフルオロアルコキシ樹脂、ポリクロロトリフルオロエチレン、エチレン−クロロフルオロエチレンコポリマー、フッ化ポリビニリデンおよびポリビニルフルオリドなどが挙げられる。さらなるポリマーとしては、ニトリル樹脂、ポリアミド(ナイロン)、ポリフェニレンエーテルおよびポリアミド−イミドコポリマーが挙げられる。また、スルホン系樹脂、たとえばポリスルホン、ポリエーテルスルホンおよびポリアリールスルホンも含まれる。本発明において有用な熱可塑性樹脂の他のファミリーは、アセタール系樹脂、アクリル系樹脂、およびセルロース系樹脂である。液晶ポリマー、ポリエステルコポリマーのファミリーを用いることもできる。さらに、上記樹脂の任意の組み合わせの混和性または非混和性の混合物およびアロイも本発明に対して有用である。
【0016】
コンポジット中のポリマーの量は、所望の用途に応じて全組成の約60重量%から約99.9重量%までの間で変えることができる。好ましいポリマー含量は、80%〜95.5%とすることができ、より好ましくは85%〜95.5%である。
【0017】
本発明について、以下の実施例を参照して説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0018】
(実施例1)
2グラムのCloisite(登録商標)93A(40重量%のアルキルアンモニウム
を含む市販のオルガノクレイ)を、60.8gのDowエポキシ樹脂DER332と、ホモジナイザーを用いて10000rpmの速度で2時間にわたって混合した。次にこの混合物を、16グラムの硬化剤(ETHACURE100LC)と攪拌により混合し、100℃で2時間および180℃で5時間にわたって硬化させた。最終産物は板状であり、これをいくつかの試験に供した。
光学顕微鏡写真を図1に示す。TEM顕微鏡写真を図3に示す。
【0019】
(実施例2)
145meq/100gのカチオン交換容量を有する精製ナトリウムモンモリロナイトを2gと、100mLの水とを攪拌しながら室温で24時間混合し懸濁液を形成した。懸濁液を攪拌しながら室温で1000mLのアセトン中で沈殿させ、室温にてアセトンで3回洗浄した。0.1gの量の3−アミノプロピルトリメトキシシランをカップリング剤として加えた。この混合物を室温で12時間攪拌した。次に、60.8gのDowエポキシ樹脂DER332を、ホモジナイザーを用いて、10000rpmの速度で2時間にわたって、前記改質クレイとよく混合した。混合物を50℃の真空乾燥機中で48時間乾燥させた後、16gの硬化剤(ETHACURE 100LC)と攪拌により混合し、100℃で2時間および180℃で5時間にわたって硬化させた。最終産物は板状であり、これをいくつかの試験に供した。
【0020】
光学顕微鏡写真を図2に示す。TEM顕微鏡写真を図4に示す。
光学顕微鏡(OM)による観察により、本発明の技術によって調製したナノコンポジットにおいて、クレイ粒子がマトリックス中に均一に分散していることが確認された。既存の技術によって調製したエポキシ/オルガノクレイコンポジットにおいて、凝集体の大きさは10〜20ミクロン(図1)である。上述のエポキシ/クレイナノコンポジットにおいては、クレイ粒子はマトリックス中に均一に分散しており、凝集体の大きさは1ミクロン未満(図2)である。
【0021】
透過型電子顕微鏡(TEM)による検討の結果から、クレイは高度に剥離しており、クレイ層はエポキシマトリックス中に均一に分散しており(図4)、既存の技術によって作成した試料のもの(図3)よりも有意に優れていることがわかる。
【0022】
エポキシ中へクレイを組み込むことにより、ヤング率(図5)および破壊靱性(図6)の両方が改善される。クレイの充填量が2.5重量%であるとき、破壊靱性が最大値を示す(図6)。文献中に報告されているデータと比較して、本発明の手法によって調製したナノコンポジットは、ヤング率および破壊靱性の両方について、より良好な性能を示す。図7および図8に一例を示す。これらの例において、データは正規化されて比較されている。本発明の手法によって調製したナノコンポジットは、クレイ含量に関係なく、より高いヤング率を示すことが明らかである。破壊靱性の最大値は、既存の手法によって調整した試料のものに比べて高い。
【0023】
本ナノコンポジットの動的機械特性を、エポキシ/オルガノクレイナノコンポジット(エポキシ/93A)のものと一緒に図9および図10に示す。本発明の手法によるナノコンポジットの貯蔵弾性率は、クレイの充填量とともに増加するが、Tgは大きく変化しなかった。しかしながら、エポキシ/オルガノクレイについては、貯蔵弾性率は同じ充填量においてより低く、Tgは劇的に低下した。
【0024】
図11および図12は、透過率の比較である。本発明の手法によってクレイの分散および剥離が向上しているため、新規なエポキシ/クレイナノコンポジットの透過率(図11)は、既存の手法を用いて調製したナノコンポジット(図12)のものに比べて良好である。
【0025】
(実施例3)
145meq/100gのカチオン交換容量を有する精製ナトリウムモンモリロナイトを2gと、100mLの水とを攪拌しながら室温で24時間混合し懸濁液を形成した。懸濁液を攪拌しながら室温で1000mLのアセトン中で沈殿させ、室温にてアセトンで3回洗浄した。0.1gの量の3−グリシドプロピルトリメトキシシランをカップリング剤として加えた。この混合物を室温で12時間攪拌した。次に、50gのCibaエポキシ樹脂LY5210を、ホモジナイザーを用いて、10000rpmの速度で2時間、前記改質クレイとよく混合した。混合物を50℃の真空乾燥機中で48時間乾燥させた後、25gの硬化剤(CibaHY2954)と攪拌により混合し、160℃で2時間および220℃で2時間硬化させた。最終産物は板状であり、これをいくつかの試験に供した。
【0026】
TEM顕微鏡写真からは、クレイが高度に剥離しており、クレイ層がエポキシマトリックス中に均一に分散しており(図13)、既存の技術によって作成した試料のもの(図3)に比べて著しく優れていることがわかる。
【0027】
ナノコンポジットの動的機械特性を図14および図15に示す。本発明の手法によって作成したナノコンポジットの貯蔵弾性率およびTgのいずれも、クレイの充填量とともに増加することがわかる。
クレイをエポキシ中に組み込むことによって、破壊靱性が向上する(図16)。クレイの充填量が2.5重量%であるとき、破壊靱性が最大値を示す。
【0028】
(実施例4)
145meq/100gのカチオン交換容量を有する精製ナトリウムモンモリロナイトを2gと、100mLの水とを攪拌しながら室温で24時間混合し懸濁液を作成した。懸濁液を攪拌しながら室温で1000mLのエタノール中で沈殿させ、室温にてエタノールで3回洗浄した。0.1gの量の3−アミノプロピルトリメトキシシランをカップリング剤として加えた。この混合物を室温で12時間攪拌した。次に、60.8gのDowエポキシ樹脂DER332を、ホモジナイザーを用いて、10000rpmの速度で2時間、前記改質クレイとよく混合した。混合物を60℃の真空乾燥機中で48時間乾燥させた後、16gの硬化剤(ETHACURE 100LC)と攪拌により混合し、100℃で2時間および180℃で5時間硬化させた。最終産物は板状であり、これをいくつかの試験に供した。
【0029】
TEM顕微鏡写真は、クレイが高度に剥離しており、クレイ層がエポキシマトリックス中に均一に分散しており(図17)、これは、既存の技術によって作成した試料のもの(図3)に比べて著しく優れていることを示す。
【0030】
(実施例5)
145meq/100gのカチオン交換容量を有する精製ナトリウムモンモリロナイトを2gと、100mLの水とを攪拌しながら室温で24時間混合し懸濁液を作成した。懸濁液を攪拌しながら室温で1000mLのアセトン中で沈殿させ、室温にてアセトンで3回洗浄した。0.1gの量の3−グリシドプロピルトリメトキシシランをカップリング剤として加えた。この混合物を室温で12時間攪拌した。次に、60.8gのDowエポキシ樹脂DER332を、ホモジナイザーを用いて、10000rpmの速度で2時間、前記改質クレイとよく混合した。混合物を50℃の真空乾燥機中で48時間乾燥させた後、16gの硬化剤(ETHACURE 100LC)と攪拌により混合し、100℃で2時間および180℃で5時間硬化させた。最終産物は板状であり、これをいくつかの試験に供した。
【0031】
TEM顕微鏡写真からは、クレイが高度に剥離しており、クレイ層がエポキシマトリックス中に均一に分散しており(図18)、既存の技術によって作成した試料のもの(図3)に比べて著しく優れていることがわかる。
【0032】
下記の表は、それぞれの実施例において使用した主成分と、最終産物の特性を示した関係する図をまとめたものである。
【0033】
【表1】
【0034】
したがって、本発明は、ポリマーマトリックス中に剥離クレイ粒子が均一に分散したナノコンポジットをさらに提供する。
本発明のナノコンポジットは、高弾性率および高硬度、高い加熱たわみ温度および高い熱安定性が要求される飛行機、自動車などの部品として、プリント回路基板、電子部品実装、電気部品などとして、高いバリア性と高い透明性が要求される飲料および食品用の容器、フィルムおよびコーティングとして、およびタイヤやチューブなどとして用いることができる。
【0035】
本発明はを好ましい実施形態を参照して説明してきたが、これらに限定されるものではない。さらに、製法における特定の材料や工程に言及していて、それに対する既知の均等物が存在する場合、そうした均等物も具体的に列挙したかのごとく本発明に組み込まれるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】従来技術の、エポキシDER332/オルガノクレイ(エポキシ/Cloisite93A)ナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)の研磨面の光学顕微鏡写真(縮尺バー:右:50μm)。
【図2】本発明による、エポキシDER332/プリスティンクレイナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)の研磨面の光学顕微鏡写真(縮尺バー:右:50μm)。
【図3】図1に示したのと同じ従来技術の、エポキシDER332/オルガノクレイ(エポキシ/Cloisite93A)ナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)のTEM顕微鏡写真。
【図4】本発明の技術によって調製した、エポキシDER332/クレイナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)のTEM顕微鏡写真。
【図5】ヤング率を用いて、本発明のエポキシDER332/クレイナノコンポジットの機械的特性を示す図。
【図6】破壊靱性を用いて、本発明のエポキシDER332/クレイナノコンポジットの機械的特性を示す図。
【図7】様々な方法によって調製した本発明のナノコンポジットのヤング率の比較を示す図(参照:Becker,Cheng,Varley,Simon,Macromolecules,2003,36,1616〜1625頁)。参照Aは、100℃で2時間、130℃で1時間、160℃で12時間、200℃で2時間にわたって硬化させた。参照Bは、160℃で12時間、200℃で2時間にわたって硬化させた。
【図8】様々な方法によって調製した本発明のナノコンポジットの破壊靱性の比較を示す図(参照:Becker,Cheng,Varley,Simon,Macromolecules,2003,36,1616〜1625頁)。参照Aは、100℃で2時間、130℃で1時間、160℃で12時間、200℃で2時間にわたって硬化させた。参照Bは、160℃で12時間、200℃で2時間にわたって硬化させた。
【図9】純エポキシ、本発明のエポキシDER332/クレイナノコンポジット、および従来技術のエポキシDER332/オルガノクレイナノコンポジット(エポキシ/Cloisite93A)について、貯蔵弾性率E’対温度の関係を示した図。
【図10】本発明のエポキシDER332/クレイナノコンポジット、および従来技術のエポキシDER332/オルガノクレイナノコンポジット(エポキシ/Cloisite93A)について、tanδ対温度の関係を示した図。図9および図10において、曲線aは純エポキシであり、曲線b、c、dおよびeは、それぞれ、クレイが1.0重量%、2.5重量%、3.5重量%および5.0重量%のものである。曲線fは、5.0重量%のCloisite93Aを含有している。
【図11】様々なクレイ濃度における、本発明によるナノコンポジットの光透過性を示した図。曲線a,b,cおよびdは、それぞれ、クレイが1.0重量%、2.5重量%、3.5重量%および5.0重量%のものである。
【図12】従来技術の手法による光透過性の比較を示す図である(参照:Dengら、Polymer International,2004,53,85〜91頁)。
【図13】本発明の技術によって調製したエポキシLY5210/クレイナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)のTEM顕微鏡写真。
【図14】本発明のエポキシLY5210/クレイナノコンポジットについて貯蔵弾性率E’対温度の関係を示した図。
【図15】本発明のエポキシLY5210/クレイナノコンポジットについてtanδ対温度の関係を示した図。図13および図14において、曲線aは純エポキシ、曲線bおよびcは、それぞれ、クレイが2.5重量%および5.0重量%のものである。
【図16】破壊靱性を用いて、本発明のエポキシLY5210/クレイナノコンポジットの機械的特性を示す図。
【図17】本発明の技術によって調製したエポキシDER332/クレイナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)のTEM顕微鏡写真。
【図18】本発明の技術によって調製したエポキシDER332/クレイナノコンポジット(クレイ含量2.5重量%)のTEM顕微鏡写真。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノコンポジットを形成する方法であって、クレイを膨潤させるために、プリスティンクレイを水で処理する工程と、水を有機溶媒と交換して、さらにクレイを膨潤状態に維持する工程と、膨潤したクレイを改質剤で処理する工程と、処理されたクレイを、モノマー、オリゴマーおよびポリマーおよびそれらの組み合わせから選択される物質と混合する工程と、必要に応じて、前記物質を重合させる工程とを有し、前記溶媒は重合の前、最中、および後のいずれかにおいて除去される、方法。
【請求項2】
前記ポリマーマトリックスは、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーおよびそれらの組み合わせのうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クレイは、スメクタイトおよびカオリンクレイのうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
クレイは、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バイデライト、ノントロナイト、およびそれらの2つ以上の組み合わせのうちから選択されるスメクタイトであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
クレイは、ヘクトライト、モンモリロナイト、バイデライト、ステベンサイト、およびサポナイトからなるクレイの群のうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記クレイは、約7〜300meq/100gのカチオン交換容量を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記クレイは、ポリマーコンポジットの全重量に対して約0.1重量%〜40重量%の範囲の量で存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
クレイ/水の比は、1:1〜1:1000の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記有機溶媒は、極性有機化学物質および非極性有機化学物質のうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
水/有機溶媒の比は、1:1〜1:50の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記改質剤は、界面活性剤、カップリング剤、および相溶化剤のうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記改質剤は、アルキルアンモニウム塩、オルガノシラン、アルキル酸およびその機能的誘導体、グラフト化コポリマーおよびブロックコポリマーのうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
カップリング剤は、クレイの重量に対して0.05重量%〜15重量%の範囲の量で存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
クレイ改質工程は、有機溶媒の存在下で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法によって製造したナノコンポジット。
【請求項1】
ナノコンポジットを形成する方法であって、クレイを膨潤させるために、プリスティンクレイを水で処理する工程と、水を有機溶媒と交換して、さらにクレイを膨潤状態に維持する工程と、膨潤したクレイを改質剤で処理する工程と、処理されたクレイを、モノマー、オリゴマーおよびポリマーおよびそれらの組み合わせから選択される物質と混合する工程と、必要に応じて、前記物質を重合させる工程とを有し、前記溶媒は重合の前、最中、および後のいずれかにおいて除去される、方法。
【請求項2】
前記ポリマーマトリックスは、熱可塑性ポリマー、熱硬化性ポリマーおよびそれらの組み合わせのうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クレイは、スメクタイトおよびカオリンクレイのうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
クレイは、モンモリロナイト、ヘクトライト、サポナイト、ソーコナイト、バイデライト、ノントロナイト、およびそれらの2つ以上の組み合わせのうちから選択されるスメクタイトであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
クレイは、ヘクトライト、モンモリロナイト、バイデライト、ステベンサイト、およびサポナイトからなるクレイの群のうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記クレイは、約7〜300meq/100gのカチオン交換容量を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記クレイは、ポリマーコンポジットの全重量に対して約0.1重量%〜40重量%の範囲の量で存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
クレイ/水の比は、1:1〜1:1000の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記有機溶媒は、極性有機化学物質および非極性有機化学物質のうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
水/有機溶媒の比は、1:1〜1:50の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記改質剤は、界面活性剤、カップリング剤、および相溶化剤のうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記改質剤は、アルキルアンモニウム塩、オルガノシラン、アルキル酸およびその機能的誘導体、グラフト化コポリマーおよびブロックコポリマーのうちから選択されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
カップリング剤は、クレイの重量に対して0.05重量%〜15重量%の範囲の量で存在することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
クレイ改質工程は、有機溶媒の存在下で行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法によって製造したナノコンポジット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2008−506808(P2008−506808A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521437(P2007−521437)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【国際出願番号】PCT/SG2004/000212
【国際公開番号】WO2006/006937
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(506205103)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (26)
【氏名又は名称原語表記】AGENCY FOR SCIENCE,TECHNOLOGY AND RESEARCH
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【国際出願番号】PCT/SG2004/000212
【国際公開番号】WO2006/006937
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(506205103)エージェンシー フォー サイエンス,テクノロジー アンド リサーチ (26)
【氏名又は名称原語表記】AGENCY FOR SCIENCE,TECHNOLOGY AND RESEARCH
【Fターム(参考)】
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