説明

ナノスケールの金属被膜および該被膜を製造する方法

【課題】 ナノスケールの金属被膜を安価にてかつ少ない工程数にて容易に作製すること。
【解決手段】 金属塩分散液または金属錯体分散液を塗布する工程、および該塗布した分散液を加熱する工程を包含する方法を用いて金属被膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノスケールの金属被膜および該被膜を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、種々の金属ナノ粒子を水または有機溶媒に分散させた金属コロイド分散液を塗布して加熱することによって金属の被膜を作製し、電子配線(例えば、セラミックコンデンサの内部電極)として使用されている。一般に、積層セラミックコンデンサなどのセラミック積層電子部品またはセラミック多層基板は、貴金属粉末を含むペーストを未焼成セラミックグリーンシートに印刷した後に乾燥して作製された内部電極を積層し、高温で同時焼成することにより製造される。
【0003】
従って、内部電極としては、上記焼結温度において溶融することなくかつ酸化されない金属であることが必要とされ、そのために、金、銀、パラジウムまたは白金などのような高価な貴金属が用いられ、その結果、積層セラミックコンデンサ自体も、高価とならざるを得ない。そこで、近年、省資源および低コストの観点から、ニッケル、コバルトなどの卑金属材料が注目され、このような金属の実用化に向けて多くの研究がなされている。
【0004】
積層セラミックコンデンサの内部電極の厚さは、内部電極に用いる金属粉の大きさによって制限される。実用的な内部電極の厚みは、通常1〜2μmであるので、粒径が1μmよりも大きい粒子を用いる場合、電極層が不均一となり、導通不良を起こすおそれがある。さらに、積層工程において、内部電極層が誘電体層を貫通して、絶縁不良を起こしたりする。そのため、粒径が0.1〜1μm程度であるニッケル粒子は、粒形がほぼ均一であること、またはより小さなナノスケールの粒子であることが要求される。
【0005】
しかし、ニッケル、コバルトなどの卑金属は水中または空気中では酸化されやすいので、比表面積がバルクとは比較し得ない程度の大きなナノ粒子にすると酸化されやすい。従って、このような金属を用いてナノ粒子を作製することは困難であり、ナノ粒子を作製し得た場合であってもその後の保存および/または取り扱いが困難であった。
【0006】
上記課題を克服するための技術として、特許文献1には、球状の金属微粉末の製造方法が記載されている。ニッケルのコロイド水溶液を非水媒体と混合してW/O型エマルジョンとし、このエマルジョンから水を蒸発させて、金属コロイド粒子をゲル化して、0.1〜15μmの均一な粒径を有する微細な金属ニッケル粒子の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、銅、ニッケルまたはコバルトからなる金属ナノ粒子が極性溶媒中に分散された分散液が開示されている。さらに、特許文献3には、ニッケルのコロイド粒子、非極性高分子顔料分散剤および有機溶媒を含有するニッケルコロイド溶液、ならびにその製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2001−89803(平成13年4月3日公開)
【特許文献2】特開2003−147417(平成15年5月21日公開)
【特許文献3】特開2004−124237(平成16年4月22日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載される製造方法は、W/O型エマルジョンから、例えば、減圧下で吸引乾燥するなどによって水を蒸発させ、金属をゲル化させ、金属ゲルを油中乾燥するものであるため、水に比べて高沸点の非水媒体を使用する必要があり、また、工程数が多いものでもある。しかも、この製造方法では、ナノスケールの粒子径を有するニッケル粒子を得ることはできない。また、特許文献2に記載される製造方法は、金属塩溶液を保護剤とともに還元して該保護剤によって被覆・保護された金属粒子を得る工程、さらなる溶媒に分散させてコロイド溶液を得る工程、該コロイド溶液から被覆・保護された金属粒子を精製する工程を包含し、該コロイド溶液を得る工程と該精製する工程とを反復することによって被膜に用いるコロイド溶液を得るという、多くの工程を必要とする。特許文献3に記載される製造方法もまた、上記ニッケルコロイド溶液を還元して被膜に用いる溶液を得る工程を必要とする。
【0008】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸化されることなく保存することが容易である、ナノスケールの金属被膜を少ない工程数にて容易に作製するための金属溶液、ならびに該金属溶液を用いて作製した金属被膜およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、錯体または塩の形態で遷移金属イオンを含有する金属溶液を塗布した後に還元すれば、酸化していない遷移金属の被膜を簡便に得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明者らは、金属が酸化する影響を取り除くために、金属をナノ粒子化せず、塩または錯体の形態で分散液中に存在させて、被膜を作製する段階で還元させることを見出した。錯体または塩の形態で遷移金属イオンを薄膜化した後に加熱し還元することによって金属被膜を作製する技術は、これまでには存在しない。
【0010】
すなわち、本発明に係る金属被膜を製造する方法は、金属塩分散液または金属錯体分散液を塗布する工程、および該塗布した分散液を加熱する工程を包含することを特徴としている。
【0011】
本発明に係る金属被膜を製造する方法において、上記金属は遷移金属であることが好ましい。
【0012】
本発明に係る金属被膜を製造する方法において、上記金属は卑金属であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る金属被膜を製造する方法において、上記金属塩分散液または金属錯体分散液は、固体状の金属塩または金属錯体をボールミルで分散させて得られることが好ましい。
【0014】
本発明に係る金属被膜を製造する方法において、上記金属塩分散液または金属錯体分散液は、ポリマーをさらに含むことが好ましい。
【0015】
本発明に係る金属被膜は、上記のいずれかの方法によって製造されることを特徴としている。
【0016】
本発明に係る金属被膜は、体積抵抗値が1Ωcm以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る金属被膜において、上記金属は遷移金属であることが好ましい。
【0018】
本発明に係る金属被膜において、上記金属は卑金属であることが好ましい。
【0019】
本発明に係る金属被膜は、塗布した金属塩分散液または金属錯体分散液を加熱することによって生成されることが好ましい。
【0020】
本発明に係る金属被膜において、上記金属塩分散液または金属錯体分散液は、ポリマーをさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に従って金属を塩または錯体の形態で分散液とすれば、保存時の酸化を防ぐことができる。また、本発明を用いれば、水中または空気中で酸化されやすくナノ微粒子を作製しにくい遷移金属であっても、電子部品の電子配線などに首尾よく適用することができる。特に、本発明は、安価ではあるが酸化性の大きい金属(例えば、ニッケル、コバルト、銅など)を酸化させることなく保存し得る金属溶液を用いるので、所望の時期に安定なナノサイズ粒子の電子材料または磁性材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明は、金属被膜を製造する方法を提供する。一実施形態において、本発明に係る方法は、被覆を必要とする基板などに対して金属溶液を塗布する工程および該塗布した金属溶液を加熱する工程を包含する。本実施形態において、上記加熱する工程によって、金属溶液中の金属粒子が還元される。本実施形態において、金属溶液は、金属塩分散液または金属錯体分散液であることが好ましい。本明細書中において使用される場合、用語「コロイド溶液」は「分散液」と交換可能に使用され、1nm〜100nmの範囲内の粒経を有する微粒子を含有する溶液が意図される。
【0023】
本発明は、安価な金属被膜を得るために適用されることが好ましい。従って、本発明に係る金属被膜を製造する方法において、上記金属は、遷移金属であることが好ましく、卑金属であることがより好ましい。また本発明を適用すれば、保存期間中の金属酸化を防ぐことができる。よって、本発明に係る金属被膜を製造する方法において使用される好ましい金属としては、ニッケル、コバルト、銅のような酸化性の大きい金属が挙げられるがこれらに限定されない。
【0024】
本発明に用いる金属溶液が金属塩分散液の形態で提供される場合、該金属塩は、上記極性溶媒中に均一に分散するギ酸塩、酢酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、塩酸塩などであり得、ニッケルを含有する化合物であれば特に限定されず、例えば、塩化ニッケル(II)、塩化ニッケル(II)六水和物、臭化ニッケル(II)、フッ化ニッケル(II)四水和物、ヨウ化ニッケル(II)n水和物等のハロゲン化物;硝酸ニッケル(II)六水和物、過塩素酸ニッケル(II)六水和物、硫酸ニッケル(II)六水和物、リン酸ニッケル(II)n水和物、塩基性炭酸ニッケル(II)等の鉱酸化合物;水酸化ニッケル(II)、酸化ニッケル(II)、酸化ニッケル(III)等のニッケル無機化合物;酢酸ニッケル(II)四水和物、乳酸ニッケル(II)、シュウ酸ニッケル(II)二水和物、酒石酸ニッケル(II)三水和物、クエン酸ニッケル(II)n水和物等のニッケル有機酸化合物等であってもよい。
【0025】
本発明に用いる金属溶液が金属錯体分散液の形態で提供される場合、該金属錯体は、アセチルアセトナート錯体、1,5−オクタジエン錯体などであり得る。
【0026】
本発明に係る方法を用いれば、所望の膜厚を有する金属被膜を得ることができるが、電子材料分野での適用を考慮すると、1000nm以下の膜厚であることが好ましい。金属被膜を電子材料の分野に適用する場合は、該金属被膜が優れた抵抗性を有することが好ましいが、本発明に係る方法を用いて得られた金属被膜は、1000nm以下という非常に薄い膜厚であるにもかかわらず体積抵抗値が1Ωcm以下という非常に優れた性能を有する。
【0027】
本発明に係る金属被膜を製造する方法において、上記金属塩分散液または金属錯体分散液は、当該分野において公知の方法によって作製されればよく、例えば、固体状の金属塩または金属錯体をボールミルで分散させて得られることが好ましい。
【0028】
本発明に係る金属被膜を製造する方法において、より強固な金属被膜を作製するために、上記金属塩分散液または金属錯体分散液は、高分子分散剤としてのポリマーをさらに含むことが好ましい。本発明において使用される好ましいポリマーとしては、ディスパービック110、ディスパービックLP−6347、ディスパービック170、ディスパービック171、ディスパービック174、ディスパービック161、ディスパービック166、ディスパービック182、ディスパービック183、ディスパービック185、ディスパービック2000、ディスパービック2001、ディスパービック2050、ディスパービック2150、ディスパービック2070(以上ビックケミー社製)、ソルスパース24000、ソルスパース28000、ソルスパース32500、ソルスパース32550、ソルスパース31845、ソルスパース26000、ソルスパース36600、ソルスパース38500(以上アビシア社製)、EFKA−46、EFKA−47、EFKA−48、EFKA−4050、EFKA−4055、EFKA−4009、EFKA−4010、EFKA−400、EFKA−401、EFKA−402、EFKA−403(以上エフカケミカルズ社製)、フローレンDOPA−15B、フローレンDOPA−17、フローレンDOPA−22(以上共栄社製)、ディスパロン2150、ディスパロン1210(楠本化成製)等が挙げられる。
【0029】
本発明に係る方法において、金属の還元方法は加熱によるので、適用する金属溶液中に還元剤が含まれても含まれなくてもよい。還元剤を用いる場合は、当該分野において公知の種々の還元剤を用いることができる。
【0030】
また、本発明に係る方法において使用する金属溶液において、含有する金属粒子の酸化をより防止するために、該金属溶液は酸化防止剤を含んでもよい。酸化防止剤としては、当該分野において公知の種々の酸化防止剤を用いることができるが、イミダゾール、トリアゾールなどの金属表面に吸着するタイプのものを用いることが好ましい。
【0031】
つまり、本発明の目的は、少ない工程数にてナノスケールの金属被膜を容易に作製するための方法および該方法によって作製される金属被膜、ならびに該方法に用いる金属溶液を提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した溶媒、水溶性ポリマー、還元剤、酸化防止剤などの条件に存するのではない。したがって、実施例において例証した溶媒、ポリマー以外を使用する方法もまた本発明の範囲に属することに留意しなければならない。
【0032】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0033】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0034】
〔実施例1〕
ギ酸ニッケル二水和物(和光純薬工業製)をα−テルピネオール(和光純薬工業製)と1:1の重量比にて混合し、ジルコニアビーズを添加して12時間ボールミルにかけて、ニッケル塩分散液を得た。このニッケル塩分散液を刷毛でスライドガラスに薄く塗布し、約1時間室内に放置して溶媒を乾燥させた。
【0035】
このスライドガラスを5%H−N還元性ガス気流中にて300℃で30分間加熱して、ニッケル被覆したスライドガラスを得た。スライドガラス上のニッケル被膜の体積抵抗値をダブルブリッジ法にて測定した。結果を表1に示す。
【0036】
〔実施例2〕
ギ酸ニッケル二水和物、α−テルピネオールおよびDisperbyk−182(ビッグケミー製)を1:1:0.3の重量比にて混合し、ジルコニアビーズを添加して12時間ボールミルにかけて、ニッケル塩分散液を得た。このニッケル塩分散液を刷毛でスライドガラスに薄く塗布し、約1時間室内に放置して溶媒を乾燥させた。
【0037】
このスライドガラスを5%H−N還元性ガス気流中にて300℃で30分間加熱して、ニッケル被覆したスライドガラスを得た。スライドガラス上のニッケル被膜の体積抵抗値をダブルブリッジ法にて測定した。結果を表1に示す。
【0038】
〔実施例3〕
硝酸ニッケル六水和物(和光純薬工業製)水溶液を等量の水酸化ナトリウム(和光純薬工業製)水溶液と混合し、水酸化ニッケル沈殿を得た。この沈殿を水で洗浄した後、適量の水を加え、Disperbyk−182を水酸化ニッケルに対して重量比で1:1の割合にて混合し、十分に攪拌した。次いで、攪拌下にて水酸化ニッケルと等量のギ酸(和光純薬工業製)を添加し、さらに攪拌し続けて、最終的にギ酸ニッケル微粒子の分散液を得た。この微粒子を乾燥して粉末X線回折測定を行った結果、ギ酸ニッケル二水和物と一致するピークのみを観察した。さらに、このニッケル塩分散液を実施例1および2と同様に用いて、ニッケル被覆したスライドガラスを得た。スライドガラス上のニッケル被膜の体積抵抗値をダブルブリッジ法にて測定した。結果を表1に示す。
【0039】
〔比較例〕
特開2004−124237に記載の方法に従って、トルエンに分散させたニッケルナノ粒子を得た。このニッケル粒子分散液を刷毛でスライドガラスに薄く塗布し、約1時間室内に放置して溶媒を乾燥させた。
【0040】
このスライドガラスを5%H−N還元性ガス気流中にて300℃で30分間加熱して、ニッケル被覆したスライドガラスを得た。スライドガラス上のニッケル被膜の体積抵抗値をダブルブリッジ法にて測定した。結果を表1に示す。
【0041】
(表1:体積抵抗値)
【0042】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0043】
電子材料の分野における種々の部品を製造するために、導体ペーストまたは抵抗ペーストなどの厚膜ペーストが使用されており、該ペースト基板上に適用した後、高温で焼成することによって導電被膜または抵抗体被膜を形成する。すなわち、本発明の属する技術分野において、金属被膜は、優れた抵抗性を有することが非常に好ましい。本発明に従えば、優れた体積抵抗値を有する金属被膜を簡便に作製し得るので、電子材料分野における部品の開発に大きく貢献し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属塩分散液または金属錯体分散液を塗布する工程、および該塗布した分散液を加熱する工程を包含する、金属被膜を製造する方法。
【請求項2】
前記金属が遷移金属である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記金属が卑金属である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記金属塩分散液または金属錯体分散液が、固体状の金属塩または金属錯体をボールミルで分散させて得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記金属塩分散液または金属錯体分散液が、ポリマーをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記金属塩分散液または金属錯体分散液が、溶液中で金属塩または錯体を形成して得られる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法によって製造された金属被膜。
【請求項8】
体積抵抗値が1Ωcm以下である、請求項7に記載の金属被膜。
【請求項9】
体積抵抗値が1Ωcm以下である、金属被膜。
【請求項10】
前記金属が遷移金属である、請求項9に記載の金属被膜。
【請求項11】
前記金属が卑金属である、請求項9に記載の金属被膜。
【請求項12】
塗布した金属塩分散液または金属錯体分散液を加熱することによって生成された、請求項9に記載の金属被膜。
【請求項13】
前記金属塩分散液または金属錯体分散液が、ポリマーをさらに含む、請求項9に記載の金属被膜。

【公開番号】特開2006−257514(P2006−257514A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−77934(P2005−77934)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】