説明

ナノスケール顔料粒子及びナノスケールキナクリドン顔料粒子を調製するためのプロセス

【課題】本発明の目的は、ナノスケールキナクリドン顔料粒子およびそのようなナノスケールキナクリドン顔料粒子を製造するための方法を提供することである。
【解決手段】本発明のナノスケール顔料粒子組成物は、少なくとも1種の官能性残基を含むキナクリドン顔料と、少なくとも1種の官能基を含む立体的にバルキーな安定剤化合物と、を含み、前記官能性残基が前記官能基と非共有結合的に会合し、そしてその会合された安定剤の存在によって、粒子の成長とアグリゲーションの程度が限定されて、ナノスケールサイズの粒子が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は一般的には、ナノスケールキナクリドン顔料粒子、そのようなナノスケールキナクリドン顔料粒子を製造するための方法、さらには、たとえばインキ組成物におけるそのような組成物の使用を目的とする。
【背景技術】
【0002】
顔料は、各種の用途たとえば、ペイント、プラスチックおよびインキにおいて有用な一つのタイプの着色剤である。染料は、インクジェット印刷インキのために選択される典型的な着色剤であったが、その理由は、それらが容易に溶解することが可能な着色剤であって、所定の基材たとえば紙の上にジェットされる画像の光学的コントラストのための主たる手段を提供し、また重要なこととしてインキの信頼性のあるジェッティングを妨害しないからである。染料はさらに、従来からの顔料に比較して、インキに対して膨張性の式域を有する、優れて輝度の高いカラー品質を与えてきた。しかしながら、染料はインキビヒクルの中に分子的に溶解するために、インキ性能の低下につながる望ましくない相互作用を受けやすく、そのような例としては、たとえば光線による光酸化(これは耐光堅牢度の低下につながる)、インキから紙またはその他の基材の中への染料の拡散(これは画像品質の低下および裏写りにつながる)、および画像と接触した他の溶媒の中へ染料が浸透する可能性(これは水/溶媒堅牢性の低下につながる)などが挙げられる。ある種の状況においては、顔料は、インクジェット印刷インキのための着色剤としてのより良好な代替え物となるが、その理由は、それらが不溶性であり、インキマトリックスの中に分子的に溶解することが不可能であるために拡散することがないが、これは染料が画像および/またはその上に画像が存在している基材の中を通過するのとは対照的である。さらに顔料は、染料よりははるかに安価であり、そのためあらゆる印刷インキにおいて使用するのに魅力的な着色剤である。
【0003】
インクジェット用インキのために顔料を使用する際に重要な問題点となるのは、それらの粒径が大きく、粒径分布が広いことであって、それらのことが組み合わさると、インキを信頼性高くジェッティングするには深刻な問題が生じる可能性がある(すなわち、インクジェットノズルが簡単に閉塞してしまう)。顔料が単一の結晶粒子の形態で得られることは希であって、むしろ結晶の大きなアグリゲートとして得られ、アグリゲートのサイズの分布が広い。顔料アグリゲートの着色特性は、そのアグリゲートのサイズと結晶のモルホロジーとに依存して、大きく変化する可能性がある。したがって、本発明の実施態様が取り組んでいるような、従来からの顔料粒子に伴う問題点を最小化または回避する、より小さな含量粒子が必要とされる。本発明のナノサイズ顔料粒子は、たとえばペイント、コーティング、およびインキ(たとえば、インクジェット用印刷インキ)およびその他の組成物において有用であって、それらにおいて、顔料は、たとえばプラスチック、オプトエレクトロニクス画像形成要素、写真要素、化粧品などで使用することができる。
【0004】
印刷インキは一般的には、それが意図する市場用途および所望の性能によって必要とされる、厳密な要求性能に従って配合される。オフィス用印刷のためであるか、商業的な印刷のためであるかにかかわらず、インキは具体的には、堅牢であって、応力条件下、たとえば研磨剤または鋭利なものに暴露されたり、あるいは(たとえば、画像形成された紙を折り曲げたり引っ掻いたりする)画像にしわをよらせるような動作に対する耐久性がある画像を形成することが要求される。たとえば、ピエゾ電気式インクジェット装置の典型的な設計においては、インクジェットヘッドに対して基材(受像部材または中間転写部材)が4〜6回転(インクリメンタル移動)する間に、適切に着色されたインキをジェットすることによって画像が適用される、すなわち、それぞれの回転の間には基材に対しての印刷ヘッドの並進が小さい。このアプローチ方法によって印刷ヘッドの設計が単純化され、移動が小さいことによって、液滴の良好な位置合わせが確保される。ジェットの操作温度では、液状インキの液滴が印刷デバイスから噴射され、そのインキの液滴が記録基材の表面に接触したときに、直接的か、あるいは中間の加熱転写ベルトもしくはドラムを介してかのいずれかによって、それらが速やかに固化して、固化されたインキ液滴の所定のパターンを形成する。
【0005】
インクジェットプリンタで典型的に使用されるホットメルトインキには、インキビヒクルの中に、少なくとも1種のワックスたとえば、クリスタリンワックスおよび/もしくはセミクリスタリンワックスと、少なくとも1種の非晶質樹脂とが含まれていることができる。そのような固体のインクジェット用インキは、鮮明なカラー画像を与える。いくつかの実施態様においては、それらのクリスタリンワックスベースのインキが、中間転写部材、たとえば転写ドラムまたはベルトの上で部分的に冷却されて、次いで受像媒体たとえば紙の上に転写される。たとえば紙のような基材の上に画像転写するこのような作用は、画像の液滴を広げ、より豊かな色彩と、より低い堆積高さ(pile height)を与える。固体インキの流動性が低いこともまた、紙の上での裏写りを防止する。しかしながら、クリスタリンワックスを使用することは、たとえばそれらが脆いために印刷物における限界も与え、耐摩耗性の画像を得るために必要とされるインキの堅牢性が低下する可能性がある。したがって、機械的な堅牢性を向上させることが望まれる。
【0006】
特許文献1には、50〜99重量%のナノサイズ顔料と1〜50重量%の低分子量ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒドポリマーとからなる有機ナノサイズ顔料の混合物、および直接顔料性有機顔料の調製のための粒子成長および結晶相ディレクターまたは顔料仕上げにおける使用が開示されている。
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,902,613号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ナノスケールキナクリドン顔料粒子およびそのようなナノスケールキナクリドン顔料粒子を製造するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のナノスケール顔料粒子組成物は、少なくとも1種の官能性残基を含むキナクリドン顔料と、少なくとも1種の官能基を含む立体的にバルキーな安定剤化合物と、を含み、前記官能性残基が前記官能基と非共有結合的に会合し、そしてその会合された安定剤の存在によって、粒子の成長とアグリゲーションの程度が限定されて、ナノスケールサイズの粒子が得られる。
【0010】
また、本発明のナノスケールキナクリドン顔料粒子を調製するためのプロセスは、(a)少なくとも1種の官能性残基を含む粗製キナクリドン顔料および(b)液状媒体を含む第一の溶液を調製する工程と、(a)前記官能性残基と非共有結合的に会合する1種または複数の官能基を有する立体的にバルキーな安定剤化合物および(b)液状媒体を含む第二の溶液を調製する工程と、前記第一の反応混合物を前記第二の反応混合物の中に組み合わせて第三の溶液を形成させる工程と、直接カップリング反応を起こさせて、前記官能性残基が前記官能基と非共有結合的に会合し、ナノスケールの粒径を有するキナクリドン顔料組成物を形成させる工程と、を含む。
【0011】
また、本発明のナノスケールキナクリドン顔料粒子を調製するためのプロセスは、酸の中で少なくとも1種の官能性残基を含むキナクリドン顔料を含む第一の溶液を調製する工程と、有機媒体、および前記顔料の官能性残基と非共有結合的に会合する1種または複数の官能基を有する立体的にバルキーな安定剤化合物を含む第二の溶液を調製する工程と、前記第一の溶液を用いて、前記第二の溶液を処理する工程と、前記第一の溶液からキナクリドン顔料粒子を沈殿させる工程であって、前記官能性残基が前記官能基と非共有結合的に会合し、前記キナクリドン顔料粒子がナノスケールの粒径を有する工程と、を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の開示の実施態様により、ナノスケールキナクリドン顔料粒子、およびそのようなナノスケールキナクリドン顔料粒子を製造するための方法が提供される。
【0013】
典型的にはD50として表される「平均」粒径は、粒径分布の第50パーセントにある中央粒径値として定義され、ここでその分布中の粒子の50%は、D50粒径値よりは大きく、その分布中の粒子の残りの50%は、D50値よりも小さい。本明細書で使用するとき「粒径」という用語は、透過型電子顕微鏡法によって得られる粒子の画像から誘導されるその顔料粒子の長さを指している。たとえば「ナノサイズ顔料粒子」というように使用されている、「ナノサイズ」(または「ナノスケール」:または「ナノスケールサイズ」)という用語は、たとえば平均粒径、D50が、約150nm未満、たとえば約1nm〜約100nm、または約10nm〜約80nmであることを指している。
【0014】
立体安定剤(steric stabilizer)は、たとえば、水素結合、ファンデルワールス力、および芳香族πスタッキングを介して、それ自体を顔料および/または顔料の前駆体の官能性残基と会合させる性能を有していて、そのためにナノ顔料粒子の秩序だった結晶化が起きる。「安定剤の相補的な官能性残基」の中で使用される「相補的」という用語は、その相補的な官能性残基が、有機顔料の官能性残基および/または顔料の前駆体の官能性残基とたとえば「水素結合」のような非共有的化学結合をすることが可能であるということを表している。
【0015】
「有機顔料への前駆体」の中で使用される「前駆体」という用語は、化合物(たとえば有機顔料)の全合成における先行中間体であるような各種の化学物質であることができる。いくつかの実施態様においては、有機顔料および有機顔料への前駆体は、同一の官能性残基を有していても、有していなくてもよい。いくつかの実施態様においては、有機顔料への前駆体は、着色化合物であっても、なくてもよい。いくつかの実施態様においては、有機顔料とその前駆体が、共通した構造的特徴または特性を有している場合には、「有機顔料/顔料の前駆体」という文言を用いれば、有機顔料と顔料の前駆体のそれぞれについて同じ説明を繰り返すよりも便利である。
【0016】
有機顔料/顔料の前駆体の官能性残基は、安定剤の相補的な官能性残基と非共有結合をすることが可能な各種の好適な残基であってよい。顔料の場合、官能性残基の例としては、カルボニル基(C=O)、および置換されたアミノ基たとえばフェニル−NH−フェニルなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。顔料の前駆体の場合には、官能性残基の例としては、カルボン酸基(COOH)、エステル基(COOR、ここでRは各種炭化水素である)、および置換されたアミノ基たとえば−NH−フェニル−Rおよび−NH−フェニル−R(ここでR、Rは同一であっても、異なっていてもよい)などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0017】
代表的な前駆体としては、下記の式1に示すような、アニリンテレフタル酸、および各種炭化水素鎖Rを有するそれらに対応するエステルが挙げられる。炭化水素鎖Rは、水素、1〜約20個の炭素を有する直鎖状または分岐状のアルキル基たとえば、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチルなど、または環状アルキル基たとえばシクロヘキシル、または各種芳香族環たとえばフェニルなどを表すことができるが、これらに限定される訳ではない。官能性残基RおよびRは、アニリン芳香族環のどの位置(たとえばオルト、メタ、パラ)に存在していてもよく、それらは互いに同一であっても異なっていてもよく、以下の官能基、H、メチル、メトキシおよびハライド(Cl、Br)が含まれる。
【化1】

【0018】
安定剤の相補的官能性残基は、安定剤の相補的な官能性残基と非共有結合をすることが可能な各種の好適な残基であってよい。相補的官能性残基を含む化合物の例としては以下のタイプのものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。たとえば、ベータ−アミノカルボン酸、および大きな芳香族残基たとえばフェニル、ベンジル、ナフチルなど、約5〜約20個の炭素を有する長い直鎖状または分岐状の脂肪族鎖たとえばペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルなどを含むそれらのエステル;ベータ−ヒドロキシカルボン酸、およびたとえば5〜約20個の炭素を有する長い直鎖状、環状または分岐状の脂肪族鎖、たとえばペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシルなどを含むそれらのエステル;長鎖脂肪族カルボン酸たとえばラウリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、ステアリン酸とのソルビトールエステル;ポリマー化合物たとえば、ポリビニルピロリドン、ポリ(1−ビニルピロリドン)−グラフト−(1−ヘキサデセン)、ポリ(1−ビニルピロリドン)−グラフト−(1−トリアコンテン)、およびポリ(1−ビニルピロリドン−コ−アクリル酸)等である。
【0019】
安定剤の立体的にバルキーな基は、粒子が自己集合してナノサイズの粒子となる程度を抑制する、各種適切な残基であってよい。いくつかの実施態様においては、「立体的にバルキーな」という文言は、分子に結合した大きな基の立体的な配置のことを指している。たとえば、各種の有機マゼンタ顔料たとえばピグメントレッド122、ピグメントレッド202、およびピグメントバイオレット19のための、各種市販されているスパン(SPAN)(登録商標)(ソルビトールとパルミチン酸、ステアリン酸およびオレイン酸とのエステル)の立体安定剤の基では、その酸の長い直鎖状脂肪族鎖が、充分に「立体的にバルキー」であって、ナノサイズ粒子の粒子自己集合の程度を抑制していると考えられる。
【0020】
ナノサイズ粒子に使用できる代表的な安定剤としては以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。たとえば、ソルビトールの、パルミチン酸(スパン(SPAN)(登録商標)40)、ステアリン酸(スパン(SPAN)(登録商標)60)およびオレイン酸(スパン(SPAN)(登録商標)85)とのモノおよびトリエステル(スパン(SPAN)(登録商標)類)等である。この場合、その酸の脂肪族鎖が立体的にバルキーであると考えられる。また、たとえば、シクロヘキサノールとの酒石酸エステルおよびアイソフォル(Isofol)20等である。この場合、シクロヘキサン残基およびアイソフォル(Isofol)の分岐鎖が立体的にバルキーであると考えられる。また、たとえば、ポリビニルピロリドン、ポリ(1−ビニルピロリドン)−グラフト−(1−ヘキサデセン)、ポリ(1−ビニルピロリドン)−グラフト−(1−トリアコンテン)、ポリ(1−ビニルピロリドン−コ−アクリル酸)のようなポリマー等である。この場合、ポリマーの鎖そのものが立体的にバルキーであると考えられる。
【0021】
前駆体/顔料の官能性残基と安定剤の相補的官能性残基との間の非共役的化学結合は、たとえば、ファンデルワールス力、イオン結合、水素結合、および/または芳香族πスタッキング結合によって得られている。いくつかの実施態様においては、その非共有結合がイオン結合および/または水素結合であるが、芳香族πスタッキング結合は除外される。いくつかの実施態様においては、その非共有結合が主として水素結合であってもよいし、あるいは主として芳香族πスタッキング結合であってもよい。
【0022】
ナノ顔料は、典型的には、より規則的な粒径分布およびアスペクト比を有しており、後者は好ましくは約(1:1)から約(4:1)までの範囲のアスペクト比(長さ:幅)を有し、その強度による中央粒径は、たとえばマルベルン・ゼータサイザー(Malvern Zetasizer)粒径分析計を用いた動的光散乱法により測定して約100nm未満である。
【0023】
本開示におけるプロセスと組成物の利点は、キナクリドン顔料の目的とする最終用途のための、粒径と組成の調節を、それらが可能とするところにある。たとえば、そのナノサイズ顔料粒子の色調は、より大きな顔料粒子の場合に見出される一般的な色相と同じである。しかしながら、いくつかの実施態様においては、ポリ(ビニルブチラール−コ−ビニルアルコール−コ−酢酸ビニル)のようなポリマーバインダ中に分散されたキナクリドン顔料のナノサイズ顔料粒子のクリア・マイラー(Clear Mylar)(登録商標)上への薄膜コーティングの色彩的特性が開示されているが、それでは、より低い色相角とより低いb値への顕著なシフトが示されていて、それによってより青色がかった色相となり、またa値についてはまったく変化がないか、あるいはわずかに上昇する。いくつかの実施態様においては、ナノサイズ顔料粒子、特にキナクリドン顔料の色彩的特性(色相角、L、a、b、およびC)が開示されていて、それらは、動的光散乱法または電子顕微鏡画像形成法のいずれかで測定される平均顔料粒径、さらには非共有結合的に会合した安定剤を含む顔料組成に直接関連し、それらで調節することが可能であるが、後者は、顔料合成の際に粒径を調節することを可能とし、さらには、コーティングその他の用途のためのある種のポリマーバインダの中での分散性を向上させることを可能とする。顔料粒子の粒径と粒径分布の両方が小さくなるので、それらの粒子の透明性が向上する。このことによって、コーティング法、スプレー法、ジェット法、押出し法などによって、顔料粒子を各種の媒体の上に分散させた場合、それらの顔料粒子の総体的な色純度がより高くなる。
【0024】
いくつかの実施態様においては、各種適切な反応剤の酸ペースト化(acid pasting)を使用して、顔料を可溶化させ、それによってナノ顔料粒子の中への再沈殿の作用より前に完全、またはほとんど完全に分子化させることができる。代表例として、硫酸、硝酸、塩酸も含めて各種のハロゲン化水素酸、リン酸、ホウ酸およびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0025】
ナノ顔料粒子を製造する沈殿相(precipitation phase)の間に、各種の液状媒体を使用することもできる。液状媒体の例としては、以下の有機化合物、たとえばN−メチル−2−ピロリジノン、ジメチルスルホキシド、およびN,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0026】
場合によっては、各種適切な沈殿剤を使用することができる。沈殿剤の例としては、アルコール類たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、好ましくは2−プロパノール;脱イオン水、およびそれらの混合物などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。
【0027】
反応における立体安定剤の担持量は、顔料に対して、約5〜約300モル%の間、たとえば約10〜約150モル%、または約20〜約70モル%である。場合によっては、最終的な反応混合物中のナノ顔料の濃度を変化させて、0.5%〜2重量%、たとえば0.75%〜1.5%、または約1重量%とすることができる。
【0028】
キナクリドン顔料を調製するには、加熱閉環経路、酸閉環経路、およびジハロゲンテレフタル酸法など、いくつかの方法が存在する。最初の二つの方法には、中央の芳香族環の全合成が含まれていて、これらは、顔料製造工業において広く使用されている。最後の経路は、合成ずみの芳香族系から出発するが、それには三つの工程が含まれる。第一の工程においては、芳香族原料の2,5−ジハロ−1,4−キシレンを酸化させて、2,5−ジハロ−テレフタル酸を製造し、それを第二の工程でアリールアミンと反応させて、2,5−アリール−アミノテレフタル酸を得る。最後の工程において、酸性条件下で2,5−アミノテレフタル酸を環化させて、キナクリドン顔料を製造する(式2)。
【化2】

【0029】
キナクリドンナノ顔料は、酸ペースト化および顔料の再構成(製造方法I)ならびに顔料の全合成(製造方法II)の、二つの方法で調製することができる。
【0030】
製造方法IIにおいては、最後の合成工程の際に安定剤を添加する。安定剤は、キナクリドンを製造するための最後の合成工程として酸性閉環を使用する、いずれの合成経路においても使用することができる。
【0031】
製造方法Iにおいては、顔料のたとえば濃硫酸中の溶液を、最適量の立体安定剤を含む適切な溶媒の溶液に、激しく撹拌しながらゆっくり添加する。添加の際には、温度を約20℃から約60℃未満に保つが、ただし、一つの実施態様においては、ナノ粒子へのキナクリドンの再沈殿ではこの温度範囲の内側または外側で、且つ等温で維持させるが、別の実施態様においては、ナノ粒子へのキナクリドンの再沈殿の際の温度は、この温度範囲の内側または外側で上下にサイクルさせることもできる。
【0032】
形成されるナノスケールキナクリドン顔料粒子は、たとえば各種の組成物中の着色剤として使用することが可能であるが、そのようなものとしてはたとえば、通常のペン、マーカーなどに使用されるインキも含めた液状(水性または非水性)インキビヒクルや、液状インクジェット用インキ組成物、固体または相変化インキ組成物などが挙げられる。たとえば、着色されたナノ粒子を配合して、約60〜約140℃の溶融温度を有する「低エネルギー」固体インキ、溶媒ベースの液状インキ、またはアルキルオキシル化モノマーからなる放射線もしくはUV硬化性液状インキ、さらには水性インキなど、各種のインキビヒクルとすることができる。
【0033】
本開示に従うインクジェット用インキ組成物には一般に、キャリヤー、着色剤、および1種または複数のさらなる添加剤が含まれる。そのような添加剤としてはたとえば、溶媒、ワックス、抗酸化剤、粘着付与剤、滑り助剤、硬化可能成分たとえば硬化可能モノマーおよび/またはポリマー、ゲル化剤、重合開始剤、増感剤、保湿剤、殺虫剤、保存剤などが挙げられる。言うまでもないことであるが、それらの成分の具体的なタイプおよび量は、インキ組成物の具体的なタイプ、たとえば液状、硬化性、固体状、ホットメルト、相変化、ゲルなどに依存する。
【0034】
一般的には、インキ組成物には1種または複数の着色剤が含まれる。インキ組成物の中には、各種所望の、または有効な着色剤を使用できるが、顔料、染料、顔料と染料との混合物、顔料の混合物、染料の混合物などが挙げられる。いくつかの実施態様においては、インキ組成物中で使用される着色剤は完全に、形成されたナノスケールキナクリドン顔料粒子からなる。しかしながら、また別な実施態様においては、ナノスケールキナクリドン顔料粒子を、1種または複数の慣用のまたはその他の着色剤物質と組み合わせて使用することも可能であり、この場合、そのナノスケールキナクリドン顔料粒子が、着色剤物質の実質的にほとんど(たとえば約90%、約95重量%またはそれ以上)であってもよいし、それらが着色剤物質の大半(たとえば少なくとも50重量%またはそれ以上)であってもよいし、あるいは、それらが着色剤物質の少量部分(たとえば約50重量%未満)であってもよい。ナノ顔料を使用した場合に従来からの顔料よりも有利となる主要な二つの点が存在するが、その第一は、インキ配合物を信頼性高くジェットすることが可能であること(印刷ヘッド信頼性)、その第二は、ナノ顔料の着色性能が向上しているために、インキ組成物中の顔料の担持量を低下させられることである。
【0035】
場合によっては、インキ組成物に抗酸化剤がさらに含まれていてもよい。
【0036】
場合によっては、インキ組成物に粘度調整剤がさらに含まれていてもよい。
【0037】
インキに対するその他の任意添加剤としては、清澄剤、粘着付与剤、接着剤、可塑剤などが挙げられる。そのような添加剤は、それらの用途に合わせて慣用される量で含まれていてよい。
【0038】
インキ組成物にはさらに、単一のキャリヤー物質、または2種以上のキャリヤー物質の混合物が含まれる。キャリヤー物質は、たとえば具体的なインキ組成物のタイプに応じて、変化させることができる。たとえば、水性インクジェット用インキ組成物では、適切なキャリヤー物質として、水、または水と1種または複数の他の溶媒との混合物を使用することができる。その他のインクジェット用インキ組成物では、水の存在下または非存在下に、キャリヤー物質としての1種または複数の有機溶媒を使用することができる。
【0039】
固体(または相変化)インクジェット用インキ組成物の場合には、そのキャリヤーに1種または複数の有機化合物が含まれていてよい。そのような固体インキ組成物のためのキャリヤーは、典型的には、室温(約20℃〜約25℃)では固体であるが、印刷表面上に噴射するために、そのプリンタの操作温度では液体となる。したがって、固体インキ組成物のために好適なキャリヤー物質には、たとえば、ジアミド、トリアミド、テトラアミドなども含めたアミド類が挙げられる。
【0040】
固体インキ組成物の中で使用することが可能なその他の好適なキャリヤー物質としては、たとえば、イソシアネート誘導樹脂およびワックス、たとえばウレタンイソシアネート誘導物質、尿素イソシアネート誘導物質、ウレタン/尿素イソシアネート誘導物質、それらの混合物などが挙げられる。
【0041】
さらなる好適な固体インキキャリヤー物質としては、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、エステルワックス、アミドワックス、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪酸アミドおよびその他のワックス状物質、スルホンアミド物質、各種の天然由来の樹脂状物質および多くの合成樹脂、オリゴマー、ポリマーおよびコポリマー、アイオノマーなど、さらにはそれらの混合物が挙げられる。1種または複数のそれらの物質を、脂肪酸アミド物質および/またはイソシアネート誘導物質との混合物で使用することもまた可能である。
【0042】
固体インキ組成物中のインキキャリヤーは、インキ中に各種所望の、あるいは効果的な量で存在させることができる。
【0043】
放射線、たとえば紫外光線硬化性インキ組成物の場合においては、そのインキ組成物には、典型的には、硬化性モノマー、硬化性オリゴマー、もしくは硬化性ポリマー、またはそれらの混合物であるキャリヤー物質が含まれる。その硬化性物質は典型的には、25℃で液状である。硬化性インキ組成物にはさらに、上述の着色剤およびその他の添加剤に加えて、その他の硬化性物質、たとえば硬化性ワックスなどが含まれていてもよい。
【0044】
いくつかの実施態様においては、その少なくとも1種の放射線硬化性オリゴマーおよび/またはモノマーは、カチオン硬化性、ラジカル硬化性などであってよい。
【0045】
放射線硬化性モノマーまたはオリゴマーは、たとえば、粘度低下剤として、組成物を硬化させた場合にはバインダとして、接着促進剤として、そして架橋剤として、各種の機能をする。好適なモノマーは、低分子量、低粘度、そして低表面張力であって、UV光のような放射線に暴露させると重合する官能基を含んでいてよい。
【0046】
そのインキ組成物が放射線硬化性インキ組成物であるような実施態様においては、そのインキ組成物には、少なくとも1種の反応性モノマーおよび/またはオリゴマーが含まれる。しかしながら、また別な実施態様では、1種もしくは複数の反応性オリゴマーだけ、1種もしくは複数の反応性モノマーだけ、または1種もしくは複数の反応性オリゴマーと1種もしくは複数の反応性モノマーとの組合せが含まれていてもよい。しかしながら、いくつかの実施態様においては、その組成物には、少なくとも1種の反応性(硬化性)モノマー、ならびに場合によっては1種または複数のさらなる反応性(硬化性)モノマーおよび/または1種または複数の反応性(硬化性)オリゴマーが含まれる。
【0047】
実施態様における硬化性モノマーまたはオリゴマーは、たとえばインキの約20〜約90重量%、たとえばインキの約30〜約85重量%、またはインキの約40〜約80重量%の量でインキの中に存在させる。いくつかの実施態様においては、その硬化性モノマーまたはオリゴマーは、25℃で、約1〜約50cP、たとえば約1〜約40cPまたは約10〜約30cPの粘度を有する。一つの実施態様においては、その硬化性モノマーまたはオリゴマーが25℃で約20cPの粘度を有している。さらに、いくつかの実施態様においては、その硬化性モノマーまたはオリゴマーが皮膚刺激性ではなく、それによって、そのインキ組成物を使用して印刷された画像が使用者に刺激を与えないということが望ましい。
【0048】
さらに、そのインキが放射線硬化性インキであるような実施態様においては、その組成物には、硬化性モノマーおよび硬化性ワックスも含めたインキの硬化性成分の重合を開始させる、重合開始剤、たとえば光重合開始剤がさらに含まれる。その重合開始剤は、組成物の中に可溶性であるべきである。いくつかの実施態様においては、その重合開始剤がUV活性化光重合開始剤である。
【0049】
いくつかの実施態様においては、その重合開始剤をラジカル重合開始剤とすることができる。他の実施態様においては、その重合開始剤をカチオン重合開始剤とすることができる。インキに加えられる重合開始剤の全量は、たとえば、インキの重量の約0.5〜約15%、たとえば約1〜約10%とするのがよい。
【0050】
インキ、たとえば放射線硬化性インキには、場合によっては、少なくとも1種のゲル化剤がさらに含まれていてもよい。そのゲル化剤は、たとえばジェッティングの前および/または後のインキ組成物の粘度を調節するために含まれている。
【0051】
そのインキ組成物には、ゲル化剤を各種適切な量、たとえばインキの約1%〜約50重量%の量で含むことができる。いくつかの実施態様においては、ゲル化剤を、インキの約2%〜約20重量%、たとえばインキの約5%〜約15重量%の量で存在させることが可能であるが、ただしその数値がこれらの範囲の外側であってもよい。
【0052】
未硬化の状態では、実施態様における放射線硬化性インキ組成物は低粘度の液体であって、容易にジェッティングすることができる。たとえば、いくつかの実施態様においては、そのインキは、60℃〜100℃の間の温度で、8mPa・s〜15mPa・s、たとえば10mPa・s〜12mPa・sの粘度を有している。いくつかの実施態様においては、そのインキは、50℃以下の温度、具体的には0℃〜50℃の温度で、10〜10mPa・sの粘度を有している。たとえば、紫外光線、電子ビームエネルギーなどの適当な硬化のためのエネルギー源に暴露させることによって、光重合開始剤がそのエネルギーを吸収し、反応を開始させ、その液状組成物を、硬化された物質へと転換させる。組成物中のモノマーおよび/またはオリゴマーは、硬化源に暴露されることで重合し、容易に架橋してポリマーネットワークを形成する官能基を含んでいる。このポリマーネットワークが、印刷画像に、たとえば耐久性、熱および光安定性、ならびに耐引っ掻き性および耐汚れ性を与える。
【0053】
硬化性インキ組成物とは対照的に、固体または相変化インキ組成物は、典型的には、約50℃以上、たとえば約50℃〜約160℃またはそれ以上の融点を有している。いくつかの実施態様においては、そのインキ組成物が、約70℃〜約140℃、たとえば約80℃〜約100℃の融点を有しているが、融点がこれらの範囲の外であってもよい。さらに、インキ組成物は一般的に、ジェッティング温度(たとえば、典型的には約75℃〜約180℃、または約100℃〜約150℃、または約120℃〜約130℃であるが、ジェッティング温度がこれらの範囲の外であってもよい)で、典型的には約2〜約30センチポワズ、たとえば約5〜約20センチポワズまたは約7〜約15センチポワズの溶融粘度を有しているが、溶融粘度がこれらの範囲の外であってもよい。
【0054】
本発明に開示のインキ組成物にはさらに、場合によっては、その他の物質が含まれていてもよいが、それは、そのインキを使用するプリンタのタイプに依存する。たとえば、キャリヤー組成物は典型的には、直接印刷モードか、あるいは間接もしくはオフセット印刷転写システムかのいずれかで使用するように設計されている。
【0055】
本発明に開示のインキ組成物は、各種所望の、または好適な方法によって調製することができる。
【0056】
インキ組成物に加えて、ナノスケールキナクリドン顔料粒子は、組成物に特定の着色を与えるのが望ましい、各種のその他の用途においても使用することができる。たとえば、ナノスケールキナクリドン顔料粒子は、ペイント、樹脂、レンズ、フィルター、印刷インキなどのための着色剤としての使用においても、その用途に従って、通常の顔料の場合と同様にして使用することも可能である。単なる例として示せば、実施態様のナノスケール顔料粒子は、トナー組成物のために使用することが可能であり、そのトナー組成物には、ポリマー粒子およびナノスケール顔料粒子、ならびにその他の任意の添加剤が含まれ、それらが成形されたトナー粒子となり、場合によっては内部添加剤または外部添加剤たとえば、流動助剤、電荷調節剤、電荷増進剤、充填剤粒子、放射線硬化剤もしくは粒子、表面剥離剤などを用いて処理される。次いでそのトナー粒子を、キャリヤー粒子と混合して、現像剤組成物を形成させることができる。そのトナーおよび現像剤組成物は、各種の電子写真印刷システムにおいて使用することができる。
【0057】
いくつかの実施態様においては、本発明には、水性液状ビヒクルおよび本発明において開示されたナノ顔料粒子を含むインキ組成物が含まれていてよい。その液状ビヒクルは、水だけからなっていてもよいし、あるいは水と水溶性または水混和性の有機成分との混合物が含まれていてもよい。
【0058】
さらに他の実施態様においては、ナノ顔料粒子に関する本発明を、レリーフ、グラビア、ステンシル、およびリソグラフィー印刷に使用されるインキに適用することもできる。
【実施例】
【0059】
<実施例1:ナノピグメントレッド202の調製>
市販のピグメントレッド202(バイエル(Bayer)、クィンド・マゼンタ(Quindo Magenta)RV−6883)(1.5g、0.004モル)を20mL濃硫酸の中に、撹拌しながら溶解させた。滴下ロートからバイオレット−インジゴ溶液を、100mLのN−メチル−2−ピロリジノン中にソルビタンモノパルミテート(4.0g、0.01モル)を含む溶液の中に、撹拌しながら60分かけて添加した。添加の間、その反応混合物の温度は40℃未満(好ましくは室温)に維持した。その懸濁液の色は、インジゴからチェリーレッド、そして最後にはラズベリーレッドに変色した。添加が終了してからさらに30分間、懸濁液を撹拌させておいた。ガラスフリットを用いてその懸濁液を濾過した。固形物を、ジメチルホルムアミドを用いて3回、ジメチルホルムアミドと脱イオン水の1:1混合物を用いて1回洗浄した。得られた固形物(1g)を一夜かけて凍結乾燥させた。透過型電子顕微鏡法で観察された粒子のモルホロジーおよび粒径範囲から、それらの粒子が約30〜約80nmの間の規則正しい卵形を有していることが判った。
【0060】
<実施例2:ナノピグメントレッド122の調製>
市販のピグメントレッド122(大日精化(Dainichiseika)、ECR−186Y)(1.5g、0.0044モル)を20mL濃硫酸の中に、撹拌しながら溶解させた。滴下ロートからバイオレット−インジゴ溶液を、100mLのN−メチル−2−ピロリジノン中にソルビタントリオレエート(2.95g、0.003モル)を含む溶液の中に、撹拌しながら60分かけて添加した。添加の間、その反応混合物の温度は40℃未満(好ましくは室温)に維持した。その懸濁液の色は、インジゴからチェリーレッド、そして最後にはラズベリーレッドに変色した。添加が終了してからさらに30分間、懸濁液を撹拌させておいた。最終的なスラリーに、滴下によりイソプロパノール(50mL)を加えた。ガラスフリットを用いて、得られた懸濁液を濾過した。固形物を、ジメチルホルムアミドを用いて3回、ジメチルホルムアミドと脱イオン水の1:1混合物を用いて1回洗浄した。得られた固形物(1g)を一夜かけて凍結乾燥させた;D50=89±1.2nm、GSD=1.5±0.02。透過型電子顕微鏡法で観察された粒子のモルホロジーおよび粒径範囲から、それらの粒子が約30〜約120nmの間の規則正しい微小板形状を有していることが判った。
【0061】
<実施例3:立体安定剤無しでのナノピグメントレッド122の調製>
市販のピグメントレッド122(大日精化(Dainichiseika)、ECR−186Y)(1.5g、0.0044モル)を20mL濃硫酸の中に、撹拌しながら溶解させた。滴下ロートからバイオレット−インジゴ溶液を、100mLのN−メチル−2−ピロリジノンの中に、撹拌しながら60分かけて添加した。添加の間、その反応混合物の温度は40℃未満(好ましくは室温)に維持した。その懸濁液の色は、インジゴからチェリーレッド、そして最後にはラズベリーレッドに変色した。添加が終了してからさらに30分間、懸濁液を撹拌させておいた。最終的なスラリーに、滴下によりイソプロパノール(50mL)を加えた。ガラスフリットを用いて、得られた懸濁液を濾過した。固形物を、ジメチルホルムアミドを用いて3回、ジメチルホルムアミドと脱イオン水の1:1混合物を用いて1回洗浄した。得られた固形物(1g)を一夜かけて凍結乾燥させた;D50=89±1.2nm、GSD=1.5±0.02。透過型電子顕微鏡法で観察された粒子のモルホロジーおよび粒径範囲から、それらの粒子が約30〜約200nmの間の、不規則なロッド状および微小板形状を有していることが判った。
【0062】
<実施例4:ナノピグメントレッド122の調製>
ジクロロテレフタル酸を以下のように合成した。250mLの丸底フラスコの中に、5g(0.028モル)の2,5−ジクロロ−p−キシレン、26g(0.165モル)の過マンガン酸カリウム、80mLのピリジンおよび20mLの脱イオン水を入れた。その混合物を12時間撹拌しながら100℃に加熱した。その懸濁液がまだ熱いうちに、褐色の酸化マンガンを濾過し、100mLの脱イオン水を用いて2回その褐色の固形物を再スラリー化させた。液状物を集め、真空中で溶媒を除去した。塩酸を用いて、得られた黄色がかったシロップ状の液状物を酸性化させて、pH1とした。ガラスフリットを用いて白色の固形物を濾過し、真空オーブン中50℃で一夜乾燥させた。収率:53〜87%。
【0063】
2,5−ジ−(p−トルイジノ)−テレフタル酸を以下のように合成した。アルゴン入口とマグネットスターラーを備えた3口丸底フラスコの中に以下のものを仕込んだ。p−トルイジン23.19g(0.216モル)、2,5−ジクロロ−テレフタル酸3.6g(0.014モル)、無水KCO4.6g(0.033モル)、無水酢酸銅(II)0.060g(0.00033モル)、ヨウ化カリウム0.750g(0.0045モル)、エチレングリコール16.8g(0.271モル)、および脱イオン水3.8g(0.211モル)。その混合物をアルゴン下で、12時間加熱し130℃とした。反応混合物を冷却して室温とし、50mLの脱イオン水を用いて希釈した。撹拌しながら塩酸を加えて、pHを1とした。ガラスフリットを使用して、得られた暗い固形物を濾過した。次いでその固形物を水酸化アンモニウム(3mL)および脱イオン水(250mL)を含むpH7の溶液に溶解させた。溶解しなかった固形物を濾過した。酢酸を用いて、得られた黄緑色の溶液を酸性化させて、pHを3〜4とした。酸性化させると、暗褐色の固形物が生成した。ガラスフリットを用いて固形物を濾過し、真空オーブン中100℃で一夜乾燥させた。得られた収率は31%であった。
【0064】
キナクリドンPR122ナノを下記のように合成した。マグネチックスターラーバーを備えた250mLの丸底フラスコの中に、以下のものを仕込んだ。15gのポリリン酸、1gの2,5,ジ−(p−トルイジノ)−テレフタル酸の粉体。その混合物を160℃で2時間加熱した。暗紫赤色となった。その反応混合物を放冷して室温とし、80mLの濃硫酸を用いて希釈した。得られた溶液を滴下ロートの中に移した。その紫色の溶液を、100mLのN−メチル−2−ピロリジノンおよび1.96g(0.002モル)のスパン(SPAN)85を入れた樹脂ケトルに、撹拌しながら滴下により添加した。滴下の際には、その温度を45℃未満に維持した。滴下が終了したら、その混合物を室温で30分間撹拌し、ガラスフリットを用いて濾過した。300mLのイソプロパノールを用いて、得られた固形物を再スラリー化させ、ガラスフリット上で濾過し、300mLの脱イオン水の中で再スラリー化させた。ガラスフリット上で濾過してから、生成物を48時間凍結乾燥させた。得られた収率は50%であった。(D50=100±1.4nm、GSD=1.71±0.04)。透過型電子顕微鏡法で観察された粒子のモルホロジーおよび粒径範囲から、それらの粒子が約50〜約100nmの間の薄くて丸い微小板からなる規則正しい形状を有していることが判った。
【0065】
<実施例5a:従来からの顔料を使用した分散体の調製>
実施例2で作った顔料の分散体を下記のようにして分散させた。0.062gのポリ(スチレン−b−4−ビニルピリジン)(ゼロックス・コーポレーション(Xerox Corporation)から入手)、および6.97gのトルエン(分析試薬グレード、カレドン・ラボラトリーズ(Caledon Laboratories)製)を30mLのボトルに加えた。これに、70.0gの直径1/8インチの440Cグレード25の鋼球(フーバー・プレシジョン・プロダクツ・インコーポレーテッド(Hoover Precision Products, Inc.)から入手可能)を加えた。そのボトルに実施例1において使用した市販の顔料0.14gを加え、ボトルが約7cm/sで回転するように速度を調節したボールミルの上に4日間置いた。そうして得られた分散体は、低粘度で、良好な濡れ特性を有していたので、良好に分散されていた。
【0066】
<実施例5b:従来からの顔料を使用した分散体の調製>
実施例5aと同様にして、実施例2において使用した市販の顔料の分散体を調製した。そうして得られた分散体は、低粘度で、良好な濡れ特性を有していたので、良好に分散されていた。
【0067】
<実施例5c:ナノ顔料を使用した分散体の調製>
実施例5aと同様にして、実施例1において作ったナノ顔料の分散体を調製した。そうして得られた分散体は、低粘度で、優れた濡れ特性を有していたので、良好に分散されていた。
【0068】
<実施例5d:ナノ顔料を使用した分散体の調製>
実施例5aと同様にして、実施例2において作ったナノ顔料の分散体を調製した。そうして得られた分散体は、低粘度で、優れた濡れ特性を有していたので、良好に分散されていた。
【0069】
<実施例5e:ナノ顔料を使用した分散体の調製>
実施例5aと同様にして、実施例3において作ったナノ顔料の分散体を調製した。そうして得られた分散体は、低粘度で、良好な濡れ特性を有していたので、良好に分散されていた。
【0070】
<実施例5f:ナノ顔料を使用した分散体の調製>
実施例5aと同様にして、実施例2において作ったナノ顔料の分散体を調製した。そうして得られた分散体は、低粘度で、優れた濡れ特性を有していたので、良好に分散されていた。この分散体もまた、実施例5a、5b、5c、5dおよび5eで作った分散体に比較して、極めて傑出したブルーシフトした色相を有していた。
【0071】
<実施例6a:ナノ顔料分散体の熱安定性>
実施例2で作った顔料の分散体を下記のようにして分散させた。30mLのボトルに、0.82gのステアリルアルコール(プロクター・ギャンブル・インコーポレーテッド(Proctor Gamble, Inc.)から入手可能)、1.53gのアイソパル(Isopar)V(アルファ・ケミカルズ・リミテッド(Alpha Chemicals Ltd.)から入手可能)、および4.12gの分析グレードn−ブタノール(カレドン・ラボラトリーズ・リミテッド(Caledon Laboratories Ltd.)から入手可能)を入れ、軽く温めてステアリルアルコールが溶解するようにした。冷却して室温としたこの均質溶液に、70.0gの直径1/8インチの440Cグレード25の鋼球(フーバー・プレシジョン・プロダクツ・インコーポレーテッド(Hoover Precision Products, Inc.)から入手可能)を加えた。0.047gの実施例1からの顔料をそのボトルに加え、ボトルが約7cm/sで回転するように速度を調節したボールミルの上に4日間置いた。得られた分散体の1.5gを1ドラムのバイアルに移し、120℃のオーブンの中に入れておいて、その分散体の粘度と熱安定性を定性的に評価した。室温ではアイソパル(Isopar)Vおよびステアリルアルコールのための相溶化剤として機能するn−ブタノールが徐々に蒸発留去されて、一相となったステアリルアルコール/アイソパル(Isopar)Vが120℃では顔料分散系のための単一のビヒクルとして残る。その低粘度の分散体は、120℃では優れた安定性を示し、17日の期間でもビヒクルからの顔料粒子の沈降はまったく観察されなかった。
【0072】
<実施例6b:ナノ顔料分散体の熱安定性>
実施例6aと同様にして、実施例4において作ったナノ顔料の分散体を調製した。その分散体は120℃では優れた安定性示し、2週間の期間でも顔料のビヒクルからの物理的な分離はまったく観察されなかった。分散体の粘度は120℃で8日後でも低いが、120℃で12日過ぎてはじめて高くなってきた。
【0073】
<実施例7:ナノ顔料PR122粒子を含むインキ濃縮物>
実施例2で作ったナノ顔料をベースとしてインキ濃縮物を作った。セグバリ(Szegvari)01アトリター(ユニオン・プロセス(Union Process)から入手可能)の中に、1800.0gの直径1/8インチの440Cグレード25の鋼球(フーバー・プレシジョン・プロダクツ・インコーポレーテッド(Hoover Precision Products, Inc.)から入手可能)を仕込んだ。600mLのビーカーの中に下記の成分を合わせて入れ、120℃で溶融混合させた。114.8gの蒸留ポリエチレンワックス(ベーカー・ペトロライト(Baker Petrolite)製)、11.1gのトリアミドワックス、22.3gのKE−100樹脂(アラカワ・コーポレーション(Arakawa Corporation)から市販)、0.3gのナウガード(Naugard)−445(抗酸化剤)(クロンプトン・コーポレーション(Crompton Corp)から入手可能)。上述の溶液に、8.04gのオロア(OLOA)(登録商標)11000(シェブロン・コーポレーション(Chevron Corporation)から入手可能)を加え、撹拌して完全に溶解させた。そうして得られた溶液をアトリター容器に定量的に移した。そのアトリター容器に、5.39gの実施例1からの顔料を加えた。次いでアトリターに多段インペラーを取り付けて、その速度を調節してインペラーの先端速度が約4.5cm/sになるようにした。その顔料添加混合物を一夜、約19時間かけて摩砕させると、それによって得られたインキ濃縮物は、優れた易流動性挙動を示したが、次いでそれをその溶融された状態で抜き出して、鋼球から分離させた。
【0074】
<実施例8:ナノ顔料PR122粒子を含むインキ濃縮物の希釈>
実施例7からの顔料添加インキ濃縮物を、下記の方法により希釈した。82.8gの実施例7における濃縮物を、以下のものを溶融させ完全に混合した溶液希釈剤57.2gを用いて希釈した。28.4gの希釈ポリエチレンワックス(ベーカー・ペトロライト(Baker Petrolite)製)、8.74gのトリアミドワックス、8.95gのS−180(ステアリルステアラミド、クロンプトン・コーポレーション(Crompton Corporation)から市販)、22.3gのKE−100樹脂(アラカワ・コーポレーション(Arakawa Corporation)から市販)、0.3gのナウガード(Naugard)−445(抗酸化剤、クロンプトン・コーポレーション(Crompton Corporation)から入手可能)、0.62gのオロア(OLOA)(登録商標)11000(シェブロン・コーポレーション(Chevron Corporation)から入手可能)。その溶液を加熱した分液ロートに入れてから、82.8gの実施例7における濃縮物に滴下により添加したが、その間、その濃縮物はオーブン中において400RPMで撹拌しておいた。濃縮物への希釈剤の添加が終了した後では、その作業インキの顔料濃度は2重量%であった。そのインキを3.5時間の間撹拌させておくと、それによって良好な濡れ特性と120℃で7日以上の良好な熱安定性とを示し、眼に見えるような沈降はまったく起きなかった。
【0075】
<実施例9:分散体から作ったコーティングの色彩データ>
以下の表1のデータは、実施例5a、5b、5c、5d、5eおよび5fにおいて調製したトルエンベースの分散体から、クリア・マイラー(Clear Mylar)(登録商標)の上に8パスコーティングして得られた相対的な色彩データを示す。色彩的特性を評価するためにエックス・ライト(X-RITE)938スペクトロデンシトメーターを使用した。下記のデータは、マゼンタO.D.=1.5となるように正規化したものである。
【0076】
【表1】

【0077】
表1のデータから明らかなように、ナノ顔料ベースのコーティングが、それらに対応する従来顔料類似物を使用したコーティングよりも高い彩度を示している。高い彩度、さらには顕著にブルーシフトした色相角が、実施例4に記載の合成PR122で実現された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノスケール顔料粒子組成物であって、
少なくとも1種の官能性残基を含むキナクリドン顔料と、
少なくとも1種の官能基を含む立体的にバルキーな安定剤化合物と、を含み、
前記官能性残基が前記官能基と非共有結合的に会合し、そして
その会合された安定剤の存在によって、粒子の成長とアグリゲーションの程度が限定されて、ナノスケールサイズの粒子が得られる、ナノスケール顔料粒子組成物。
【請求項2】
ナノスケールキナクリドン顔料粒子を調製するためのプロセスであって、
(a)少なくとも1種の官能性残基を含む粗製キナクリドン顔料および(b)液状媒体を含む第一の溶液を調製する工程と、
(a)前記官能性残基と非共有結合的に会合する1種または複数の官能基を有する立体的にバルキーな安定剤化合物および(b)液状媒体を含む第二の溶液を調製する工程と、
前記第一の反応混合物を前記第二の反応混合物の中に組み合わせて第三の溶液を形成させる工程と、
直接カップリング反応を起こさせて、前記官能性残基が前記官能基と非共有結合的に会合し、ナノスケールの粒径を有するキナクリドン顔料組成物を形成させる工程と、を含むプロセス。
【請求項3】
ナノスケールキナクリドン顔料粒子を調製するためのプロセスであって、
酸の中で少なくとも1種の官能性残基を含むキナクリドン顔料を含む第一の溶液を調製する工程と、
有機媒体、および前記顔料の官能性残基と非共有結合的に会合する1種または複数の官能基を有する立体的にバルキーな安定剤化合物を含む第二の溶液を調製する工程と、
前記第一の溶液を用いて、前記第二の溶液を処理する工程と、
前記第一の溶液からキナクリドン顔料粒子を沈殿させる工程であって、前記官能性残基が前記官能基と非共有結合的に会合し、前記キナクリドン顔料粒子がナノスケールの粒径を有する工程と、を含むプロセス。

【公開番号】特開2008−303392(P2008−303392A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−144499(P2008−144499)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(596170170)ゼロックス コーポレイション (1,961)
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION