説明

ナノファイバシート

【課題】水との接触により収縮するナノファイバシートを提供すること。
【解決手段】本発明のナノファイバシートは、水溶性高分子化合物及び水不溶性高分子化合物を含むナノファイバを含み、水との接触により収縮する。ナノファイバシート中の水溶性高分子化合物の割合は30〜90質量%であることが好ましい。前記ナノファイバ中には、前記水溶性高分子化合物及び前記水不溶性高分子化合物が混在状態で含まれていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水との接触により収縮するナノファイバシートに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノファイバは、例えば、ナノサイズ効果を利用した高透明性などの光学特性が要求される分野に応用されている。一例として、ナノファイバの直径を可視光の波長以下にすることで、透明なファブリックを実現できる。また、ナノファイバの直径を可視光の波長と同じにすることで、構造発色を発現させることができる。また、超比表面積効果を利用して、高吸着特性や高表面活性が要求される分野や、超分子配列効果を利用して、引張強度等の力学的特性や高電気伝導性等の電気的特性が要求される分野でも検討がなされている。このような特徴を有するナノファイバは、単繊維として用いられるほか、シート状の集積体であるナノファイバシートとしても用いられている。
例えば、特許文献1には、水溶性高分子を水などの溶媒に溶解した溶液を用い、電解紡糸法によって製造された水溶性電解紡糸シートが記載されている。
【0003】
ところで、弾性伸縮性を有するシートとして天然ゴムや合成ゴム等を含むゴム組成物をシートに成形したゴム弾性シートが知られている。このようなゴム弾性シートは、伸長させた状態を保持しておき、その保持を解除したときに収縮を開始するものであり、水との接触を契機として収縮を開始するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/031620号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナノファイバシートとして、水との接触により収縮するものが得られれば、ナノファイバシートに更なる付加価値を付与することができる。
【0006】
したがって本発明の課題は、水との接触により収縮するナノファイバシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水溶性高分子化合物及び水不溶性高分子化合物を含むナノファイバを含み、水との接触により収縮するナノファイバシートを提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のナノファイバシートは、水との接触により収縮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、電界紡糸法を行うために用いられる好適な装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明のナノファイバシートは、水溶性高分子化合物及び水不溶性高分子化合物を含むナノファイバを主体として構成されている。ナノファイバシートは、上記のナノファイバのみから構成されていることが好ましい。尤も、ナノファイバシートが、水溶性高分子化合物及び水不溶性高分子化合物を含むナノファイバに加えて他のナノファイバを含むことは妨げられない。しかし、良好な収縮性を得る観点から、ナノファイバシート中における、水溶性高分子化合物及び水不溶性高分子化合物を含むナノファイバの割合(質量%)は、5〜95%であることが好ましく、より好ましくは20〜90%であり、更に好ましくは30〜90%である。
【0011】
ナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10〜3000nm、特に10〜1000nmのものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、10000倍に拡大して観察し、その2次元画像から欠陥(ナノ繊維の塊、ナノ繊維の交差部分、ポリマー液滴)を除き繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に垂直に線を引き繊維径を直接読み取ることで測定することができる。ナノファイバの長さは本発明において臨界的でなく、ナノファイバの製造方法や、ナノファイバシートの具体的な用途に応じて、適切な長さのものを用いることができる。
【0012】
ナノファイバシートにおいて、ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又はナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、ナノファイバシートは、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、ナノファイバシートの製造方法によって相違する。
【0013】
ナノファイバシートを構成するナノファイバは、水溶性高分子化合物及び水不溶性高分子化合物を含有している点に特徴の一つを有する。ナノファイバがこれら2種類の成分を含有することで、このナノファイバを含むナノファイバシートは、水との接触により収縮するものとなり得る。水溶性高分子化合物及び水不溶性高分子化合物のうち、水不溶性高分子化合物は、ナノファイバの骨格を形成する材料である。水不溶性高分子化合物を含有することにより、水と接触させたときに、ナノファイバシートは、そのシートの形態を維持しながら収縮する。
【0014】
他方、水溶性高分子化合物は、水と接触することにより、膨潤及び/又は溶解し、それによって、ナノファイバシートが収縮する。
水溶性高分子化合物及び水不溶性高分子化合物は混在状態でナノファイバ中に含まれていることが好ましい。混在状態とは、例えば、水不溶性高分子化合物と水溶性高分子化合物が芯鞘状、もしくは層状に積層されていたり、水不溶性高分子化合物からなるナノファイバの内部に水溶性高分子化合物が海島状、ラメラ状に分散した状態となっていることをいう。
【0015】
本明細書において「水溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.5g以上が溶解する性質を有する高分子化合物をいう。
【0016】
本明細書において「水不溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.8g以上が溶解しない性質を有する高分子化合物をいう。
【0017】
ナノファイバにおける水溶性高分子化合物の割合は、5〜95質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜90質量%、更に好ましくは30〜90質量%である。この場合に併用される水不溶性高分子化合物の割合は、95〜5質量%であることが好ましく、より好ましくは80〜10質量%、更に好ましくは70〜10質量%である。
【0018】
水溶性高分子化合物及び水溶性高分子化合物の割合をこの範囲内に設定することによって、ナノファイバシートに、水との接触により収縮する性質を容易に付与することができると共に、ナノファイバシートに、水と接触してもシート状の形態を維持する耐水性を付与するこができる。
【0019】
ナノファイバを構成する水溶性高分子化合物としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β−グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分鹸化ポリビニルアルコール(後述する架橋剤と併用しない場合)、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子などが挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性高分子化合物のうち、ナノファイバの製造が容易である観点から、プルラン、並びに部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。
【0020】
一方、ナノファイバを構成する水不溶性高分子化合物としては、例えばナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、後述する架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などが挙げられる。これらの水不溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水不溶性高分子化合物のうち、溶液の状態で接着性成分と混合が容易であり、乾燥後に不溶化できる観点から、ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、後述する架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、乾燥することにより水不溶化する水溶性ポリエステル、ツエイン等を用いることが好ましい。
【0021】
ナノファイバは、上述の水溶性高分子化合物及び水不溶性高分子化合物からのみ構成されていてもよく、あるいはこれらの高分子化合物に加えて他の成分を含んでいてもよい。そのような成分としては、例えば架橋剤、顔料、添料、香料、界面活性剤、帯電防止剤、発泡剤などが挙げられる。架橋剤は、例えば上述の部分鹸化ポリビニルアルコールを架橋して、これを不溶化する目的で用いられる。顔料は、ナノファイバを着色する目的で用いられる。これらの成分は、ナノファイバ中に、好ましくはそれぞれ0.01〜70質量%含有される。
【0022】
本発明のナノファイバシートは、それ単独で単層で用いることもでき、他のシートと積層した多層構造のシートとして用いることもできる。ナノファイバシートと併用される他のシートとしては、例えば使用前のナノファイバシートを支持してその取り扱い性を高めるための基材シートが挙げられる。ナノファイバシートを、基材シートと組み合わせて用いることで、剛性が低いナノファイバシートを、例えばヒトの肌等の付着対象物に付着させるときの操作性が良好になる。
【0023】
ナノファイバシートの取り扱い性を向上させる観点から、基材シートは、そのテーバーこわさが0.01〜0.4mNm、特に0.01〜0.2mNmであることが好ましい。テーバーこわさは、JIS P8125に規定される「こわさ試験方法」により測定される。
【0024】
テーバーこわさとともに、基材シートの厚みも、ナノファイバシートの取り扱い性に影響を及ぼす。この観点から、基材シートの厚みは、該基材シートの材質にもよるが、5〜500μm、特に10〜300μmであることが好ましい。基材シートの厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50A(R5mm超硬球面測定子)を使用して測定できる。測定時にシートに加える荷重は0.01Nとする。
【0025】
また基材シートは、ナノファイバシートを付着対象物に転写させて用いる場合の転写性を向上させる観点から通気性を有することが好ましい。基材シートのガーレ通気度は、30秒/100ml以下、特に20秒/100ml以下であることが好ましい。基材シートのガーレ通気度は、JIS P8117に従い測定される。
【0026】
基材シートとしては、例えばポリオレフィン系の樹脂やポリエステル系の樹脂を始めとする合成樹脂製のフィルムや紙、不織布、これの積層体等を用いることができる。合成樹脂製フィルムにおけるナノファイバを堆積させる側の面にシリコーン樹脂の塗布やコロナ放電処理などの剥離処理を施しておくと、基材シートに支持させた状態でナノファイバシートを、人の皮膚等の付着対象物に付着させた後、基材シートのみを取り除いて、ナノファイバやナノファイバシートを付着対象物上に残すことが容易となる。基材シートとしてメッシュシートを用いることもでき、その場合も同様の効果が得られる。
【0027】
本発明のナノファイバシートは、水との接触により収縮する性質を有する。ナノファイバシートの用途は特に制限されず、ナノファイバにより発現する各種の性質や、水と接触させるだけで収縮させることができるという性質を利用して多種多様の用途に用いることができる。
例えば、他のものに付着した状態で収縮させることにより、該他のものに収縮力を作用させてそのものに変化を生じさせることができる。
【0028】
ナノファイバシートを付着対象物に付着させる方法としては、例えば、ナノファイバシート及び/又は付着対象物に、例えば天然ゴム、アクリル酸エステル共重合体等のアクリル系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ウレタン系樹脂、またはこれらの樹脂の共重合体からなる接着剤等を塗布や噴霧等により付着させ、その接着剤等を介してそれらを貼り合わせる方法や、ナノファイバシート及び/又は付着対象物に、水や水溶液、O/W型のエマルジョン等の水性液を塗布や噴霧等により付着させ、ナノファイバシートに水性液が接触して生じた接着力により該ナノファイバシートを付着対象物に付着させる方法等が挙げられる。
【0029】
ナノファイバシートの収縮は、ナノファイバシートを付着対象物に付着させるのに用いた水性液中の水によって生じさせることもできるし、付着対象物に付着させた後に、ナノファイバシートに、水性液を塗布や噴霧等したり、水性液を流しかけたりして生じさせることもできる。
ナノファイバシートを付着させる付着対象物としては、例えば、ヒトの皮膚や頭髪、体毛、ヒト以外の動物、例えばペット等の皮膚や毛、歯、植物の枝や葉、高分子材料表面、金属等の無機物等が挙げられる。
ナノファイバシートをヒトの肌に付着させた状態で収縮させることで、該肌を引き締めることができる。また、ナノファイバシートをヒトの頭髪や他の毛髪等に付着させた状態で収縮させることで、該毛髪をカールさせることもできる。
更に、ナノファイバシートの収縮現象を利用することで、水と接触したかどうかのセンサーとして使用することもできる。
ナノファイバシートを付着対象物に付着させるための水性溶液としては、各種公知の化粧水等を用いることもでき、ナノファイバシートに収縮を生じさせるための水としては、化粧水中の水や水蒸気、高湿度の空気中の水分を利用することもできる。
【0030】
本発明のナノファイバシートは、その収縮度が5〜80%であることが好ましく、より好ましくは10〜75%、更に好ましくは15〜70%である。収縮度の測定方法は実施例において後述する。
【0031】
ナノファイバシートの厚みは、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートの厚みは、ヒトの皮膚等の付着対象物に付着させて収縮させた際に、該付着対象物に大きな収縮力を作用させ得るようにする観点から、0.5〜1000μm、特に1〜500μmに設定することが好ましい。ナノファイバシートの厚みは、前述した基材シートの厚みと同様の方法で測定することができる。
【0032】
ナノファイバシートの坪量も、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、ヒトの皮膚等の付着対象物に付着させて収縮させた際に、該付着対象物に大きな収縮力を作用させ得るようにする観点から、該ナノファイバシートの坪量は、0.01〜100g/m2、特に0.1〜50g/m2に設定することが好ましい。
【0033】
本発明のナノファイバシートは、例えば電界紡糸法(エレクトロスピニング法、ESD)を用い、平滑な基板の表面にナノファイバを堆積させることで好適に製造することができる。図1には、エレクトロスピニング法を実施するための装置30が示されている。同図に示す電界紡糸法を実施するための装置30は、シリンジ31、高電圧源32、導電性コレクタ33を備えている。シリンジ31は、シリンダ31a、ピストン31b及びキャピラリ31cを備えている。キャピラリ31cの内径は10〜1000μm程度である。シリンダ31a内には、ナノファイバの原料となる原料液が充填されている。高電圧源32は、例えば10〜30kVの直流電圧源である。高電圧源32の正極はシリンジ31における原料液と導通している。高電圧源32の負極は接地されている。導電性コレクタ33は、例えば金属製の板であり、接地されている。シリンジ31におけるキャピラリ31cの先端と導電性コレクタ33との間の距離は、例えば30〜300mm程度に設定されている。図1に示す装置30は、大気中で運転することができる。運転環境に特に制限はなく、温度20〜40℃、湿度10〜50%RHとすることができる。
【0034】
本発明のナノファイバシートを得るためには、前記の原料液として、例えば、プルラン等の水溶性高分子化合物と、ナノファイバ形成後に不溶化処理(例えば、加熱処理等)により不溶化できるがナノファイバ形成前においては水溶性を示す水不溶性高分子化合物(完全鹸化ポリビニルアルコール等)とを水等の水性液に溶解して混合した水溶液を用いたり、例えばヒドロキシプロピルセルロース等の水及び他の溶剤に溶解する高分子化合物と例えばポリビニルブチラール等の水不溶性高分子とを溶剤に溶解して混合した溶液を用いたり、水不溶性高分子化合物のエマルジョンに、水溶性高分子化合物を添加して混合した混合液を用いたりすることができる。このような原料液を用いると共に、好ましくは前述した水溶性高分子化合物と水不溶性高分子化合物との比が前述した好ましい範囲となるようにして、上述した電界紡糸法を行うことで、本発明のナノファイバシートが得られる。但し、上記以外の原料液を用いて本発明のナノファイバシートを製造することも可能である。
【0035】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、ナノファイバの製造方法として、電界紡糸法を採用した場合を例にとり説明したが、ナノファイバの製造方法はこれに限られない。
【0036】
また、図1に示す電界紡糸法においては、形成されたナノファイバが板状の導電性コレクタ33上に堆積されるが、これに代えて導電性の回転ドラムを用い、回転する該ドラムの周面にナノファイバを堆積させるようにしてもよい。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0038】
〔実施例1〕
水溶性高分子化合物としてプルラン(林原商事(株))を用いた。また、水不溶性高分子化合物の原料として、ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール(PVA117、クラレ(株)鹸化度:99%以上)を用いた。これらを水に溶解して、電解紡糸用の原料液(ES用溶液)を得た。この原料液における各成分の濃度は、プルランが4.6%、完全鹸化ポリビニルアルコール(完全鹸化PVA)が7%、水が88.4%であった。
この原料液を用い、図1に示す装置によって、電解紡糸を行い、コレクタ33の表面に配置されたポリエチレンテレフタレートメッシュ(ボルティングクロス テトロンT−No.120T、東京スクリーン(株))の表面にナノファイバシートを形成した。電界紡糸法の条件は以下のとおりとした。
・印加電圧:30kV
・キャピラリ−コレクタ間距離:165mm
・水溶液吐出量:1.0ml/h
・環境:26℃、39%RH
【0039】
得られたナノファイバシートを、200℃で30分間加熱処理し、完全鹸化ポリビニルアルコールを結晶化させ水不溶化した。このようにして、水溶性高分子化合物(プルラン)及び水不溶性高分子化合物(完全鹸化PVA)を含有するナノファイバシートを得た。
【0040】
得られたナノファイバシートにおける各成分の割合は、プルランが40%、完全鹸化PVAが60%であった。
【0041】
〔実施例2〜4〕
原料液を調製する際のプルランとPVA117の配合比を表1に示すように代えた以外は、実施例1と同様にして、ナノファイバシート中のプルランと完全鹸化PVAの割合が、プルラン60%、完全鹸化PVA40%のナノファイバシート(実施例2)、プルラン80%、完全鹸化PVA20%のナノファイバシート(実施例3)、及びプルラン90%、完全鹸化PVA10%のナノファイバシート(実施例4)を得た。
【0042】
【表1】

【0043】
〔実施例5〕
原料液を調整する際に、プルラン(林原商事(株))、部分鹸化ポリビニルアルコール(PVA217 鹸化度:88%、クラレ(株))及び架橋剤(オルガチックスTC−310((株)マツモト交商製))を水に溶解して、電解紡糸用の原料液(ES用溶液)を得た。この原料液における各成分の濃度は、プルラン1.1%、部分鹸化PVA10.1%、架橋剤1.1%、水87.7%であった。架橋剤は、部分鹸化PVAを架橋させて耐水化するために加えた。それ以外は、実施例1と同様にして、プルラン、PVA及び架橋剤のナノファイバーシートにおける各成分の比率が、プルラン9%、PVA82%及び架橋剤9%のナノファイバシートを得た。
そして、得られたナノファイバシートを150℃30分間加熱処理し、部分鹸化PVAを架橋させ耐水化した。このようにして、水溶性高分子化合物(プルラン)及び水溶性高分子化合物を架橋により耐水化した水不溶性高分子化合物(部分鹸化PVA)を含有するナノファイバシートを得た。
【0044】
〔実施例6〕
水溶性高分子化合物としてプルラン(林原商事(株))を用いた。また、水不溶性高分子化合物の原料として、水溶性ポリエステル(Z−3310、互応化学(株))を用いた。これらを水に溶解して、電解紡糸用の原料液(ES用溶液)を得た。この原料液における各成分の濃度は、プルランが6.8%、水溶性ポリエステルが15.8%、水が77.4%であった。
この原料液を用い、図1に示す装置によって、電解紡糸を行い、コレクタ33の表面に配置されたポリエチレンテレフタレートメッシュ(ボルティングクロス テトロンT−No.120T、東京スクリーン(株))の表面にナノファイバシートを形成した。電界紡糸法の条件は以下のとおりとした。
得られたナノファイバシートにおける各成分の割合は、プルランが30%、水溶性ポリエステルが70%であった。
・印加電圧:25kV
・キャピラリ−コレクタ間距離:185mm
・水溶液吐出量:1.0ml/h
・環境:31℃、21%RH
【0045】
〔比較例1〕
プルランのみを水に溶解して原料液(ES用溶液)とした以外は、実施例1と同様にして、電解紡糸を行った。
〔比較例2〕
PVA117のみを水に溶解して原料液(ES用溶液)とした以外は、実施例1と同様にして、電解紡糸を行った。
【0046】
〔評価〕
〔ナノファイバの形成性〕
実施例及び比較例で得られたナノファイバシート又は堆積物を、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、以下の評価基準でナノファイバの形成性について評価した。その結果を表2に示す。
【0047】
〔評価基準〕
○:繊維径3000nm以下のほぼ均一な繊維径を持つナノファイバーが観察され、且つシートとして取り扱いができる。
△:繊維径3000nm以下のナノファイバーが観察されるが、コレクターから剥離することができない。もしくはシート強度が無く、取り扱いが出来ない。
×:繊維形態が観察されない。
【0048】
〔ナノファイバシートの収縮度〕
実施例及び比較例のうちナノファイバシートが得られたものについて、下記の方法により収縮度を測定した。その結果を表2に示す。
〔収縮度の測定方法〕
ナノファイバシートから縦横4cmの正方形状の測定片を切り出し、イオン交換水を満たしたトレイに浮べ、24時間静置する。その後、水面上のナノファイバシートの面積を算出して以下の式より収縮率を算出する。
初期ナノファイバシート面積:A1
水に浸漬した24時間後のナノファイバシート面積:A2
収縮率=(A1−A2)/A1×100 (%)
【0049】
【表2】

【0050】
表2に示す結果から明らかなように、本発明に係る実施例1〜6のナノファイバシートは、水との接触により良好な収縮性を示した。これに対して、比較例1においては、ナノファイバシートは水と接触することで瞬時に溶解してしまい、シート形状を維持することができなかった。また、比較例2においては、水と接触しても収縮は観察されなかった。
【符号の説明】
【0051】
30 装置
31 シリンジ
31a シリンダ
31b ピストン
31c キャピラリ
32 高電圧源
33 導電性コレクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子化合物及び水不溶性高分子化合物を含むナノファイバを含み、水との接触により収縮するナノファイバシート。
【請求項2】
前記ナノファイバシート中の水溶性高分子化合物の割合が30〜90質量%である請求項1記載のナノファイバシート
【請求項3】
前記水溶性高分子化合物及び前記水不溶性高分子化合物は混在状態で前記ナノファイバ中に含まれている請求項1又は2記載のナノファイバシート。
【請求項4】
前記水不溶性高分子化合物がポリビニルアルコールである請求項1〜3の何れか1項に記載のナノファイバシート。

【図1】
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【公開番号】特開2012−12716(P2012−12716A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148399(P2010−148399)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】