説明

ナノワイヤ部材およびその製造方法

【課題】ナノワイヤの取り扱い性が良好なナノワイヤ部材およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基材12と、該基材12上に形成されたナノワイヤ10と、を含むことを特徴とするナノワイヤ部材である。SiおよびFeを含有する基材上にGaを介在させ、650℃以上で加熱処理を施すことを特徴とするナノワイヤ部材の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノワイヤ部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノワイヤは、ナノエレクトロニクスおよびナノスケールにおける光デバイスへの応用が期待される材料の一つである。ナノワイヤの製造方法としては、種々のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記製造方法によればナノワイヤを良好に製造できるが、製造後のナノワイヤの取り扱い性は低い。すなわち、製造後のナノワイヤは、細い線状で絡み合いやすかったり、隣接するナノワイヤ同士が衝突して破損しやすかったりする。ナノワイヤを種々の製品に応用しようとする際に製造工程中で玉状となってしまうことも多い。利用する直前に玉状となると、ナノワイヤをほぐす工程が必要となり、生産性を低下させてしまう。また、玉状となったナノワイヤを完全にほぐすこと自体が困難であり、利用できるナノワイヤの割合も減少してしまうことがある。
【特許文献1】特開2005−15258号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
以上から、本発明は、上記従来の課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、ナノワイヤの取り扱い性が良好なナノワイヤ部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明者らは、下記本発明に想到し当該課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、基材と、該基材上に形成されたナノワイヤと、を含むことを特徴とするナノワイヤ部材である。
【0006】
本発明のナノワイヤ部材には、下記第1〜第5の態様のうち、少なくとも1の態様が適用されることが好ましい。
【0007】
(1)第1の態様は、前記ナノワイヤの径および長さが均一である態様である。
(2)第2の態様は、前記ナノワイヤの成長方向が前記基材に対し垂直方向である態様である。
(3)第3の態様は、前記基材がSiを含み、前記基材の中心部のSi含有率が、前記基材の表面側のSi含有率よりも大きい態様である。
(4)第4の態様は、前記基材がSiおよびFeを含み、前記基材の中心部における前記Siと前記Feとの原子比(Fe/Si)が0.5〜1.5であり、前記基材の表面側における前記Siと前記Feとの原子比(Fe/Si)が2.5〜6である態様である。
(5)第5の態様は、パターニングされた領域に前記ナノワイヤが形成されている態様である。
【0008】
また、本発明は、SiおよびFeを含有する基材上にGaを介在させ、650℃以上で加熱処理を施すことを特徴とするナノワイヤ部材の製造方法である。
【0009】
本発明のナノワイヤ部材の製造方法には、下記第1〜第3の態様のうち、少なくとも1の態様が適用されることが好ましい。
(1)第1の態様は、前記加熱処理の温度を700〜900℃とする態様である。
(2)第2の態様は、少なくとも、前記加熱処理を施す際の真空度を133×10−3Pa以下とする態様である。
(3))第3の態様は、前記Gaの量を0.01〜0.6g/cmとし、前記基材の厚みを10μm以上とする態様である。
【0010】
なお、ここで「ナノワイヤ」とは、少なくとも径が15nm〜25nmの柱状物または針状物をいい、組成としてSiとOとを含むものをいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[ナノワイヤ部材]
図1(A)に示すように、本発明のナノワイヤ部材10は、ナノワイヤ12が基材14上に形成されて、この状態で保持された態様となっている。このような態様によれば、ナノワイヤ12同士が絡まりあったり、衝突して破損したり、脱落したりすることがほとんどなくなるため、取り扱い性を良好なものとすることができる。
【0012】
ナノワイヤ12の径および長さは均一であることが好ましい。均一であることで、全てのナノワイヤ12の外観的な品質を一定なものにすることができる。ここで、「径が均一」とは、平均径の変動係数が±5nmであることをいう。また、「長さが均一」とは、平均長さの変動係数が、例えば、平均長さが700μmの場合で±30μmであることをいう。上記のような平均径および平均長さ、並びにこれらの変動係数は、ナノワイヤ(ナノファイバー)をサンプリングし電子顕微鏡観察により測定し求めることができる。また、後述する本発明のナノワイヤの製造方法によれば、ナノワイヤ12の径および長さは均一なものとすることができる。
【0013】
ナノワイヤ12の成長方向(軸方向)は、図1(A)に示すように、基材14に対し垂直方向であることが好ましい。ナノワイヤ12の成長方向が基材14に対し垂直方向であることで、取り扱いをより良好なものとすることができる。
【0014】
基材14はSiを含み、前記基材の中心部のSi含有率が、基材12の表面側のSi含有率よりも高いことが好ましい。特に、基材14がSiおよびFeを含む場合、基材14の中心部におけるSiとFeとの原子比(Fe/Si)は0.5〜1.5であり、基材14の表面側におけるSiとFeとの原子比(Fe/Si)が2.5〜6であることが好ましい。このような範囲にあることで、ナノワイヤ12を高密度状態で安定して保持することができる。
【0015】
例えば、基材14がFeとSiとからなる場合、基材14の中心部におけるSiとFeとの原子比(Fe/Si)が1で、基材14の表面側におけるSiとFeとの原子比(Fe/Si)が3であると、基材14上にナノワイヤ12を高密度に形成させてこれらを保持することができる。これは、表面側のSiが優先的にナノワイヤとなるため、表面側にSiが多く存在するほうが、高密度なナノワイヤを効率よく形成できることを示唆しているものと考えられる。ここで、基材14の中心部とは、ナノワイヤ12が形成された領域で厚み方向の中央部分をいう。また、基材14の表面側とは前記中心部の直上部の表面をいう。
【0016】
基材12の形態としては、特に限定されず、板状、線状、球状など種々のものを適用することができる。また、パターニングされた領域にナノワイヤ12が形成されていてもよい。ナノワイヤ12を設ける領域は、図1(A)に示すように基材の主面上であってもよいが、図1(B)に示すように、公知の方法で基材14表面をパターニングし選択的にナノワイヤ12を設けることで、高機能化を図ることができる。また、種々の用途に利用することができる。
【0017】
[ナノワイヤ部材の製造方法]
SiおよびFeを含有する基材上にGaを介在させ、650℃以上で加熱処理を施す。Gaを介在させるには、まず、29.8℃程度で溶融したGa溶融液を調製し、基材上に塗布すればよい。塗布後、加熱処理を行うことでシリカ(SiOx)からなるナノワイヤが形成される。当該ナノワイヤは、その径および長さが均一で、その成長方向は基材に対し垂直方向となる。このようなナノワイヤの形成についての詳細な機構は明らかではないが、以下に説明するような現象によるものと考えられる。
【0018】
すなわち、650℃以上の加熱処理により、基材上のGaが基材の構成成分であるSiとFeとの間の相互作用(結合力)を弱くする。その結果、表面側のSiが拡散しやすくなる。FeはGaと何らかの相互作用をするようになる。表面側で拡散しやすくなったSiは、さらに「FeおよびGa」を介して、雰囲気内の酸素と反応しシリカ(SiOx)からなるナノワイヤが形成される。このナノワイヤは、Gaドット上にSiおよび酸素の供給元に向かって成長することから、基材に対し垂直方向に成長し、その径および長さが均一になるものと考えられる。また、加熱時間が長くなるに伴い、Gaの量も減少する。同様に、基材中のSiの量も減少する。かかる現象より、Gaの量および基材中のSiの量から、加熱時間を調整することで、ナノワイヤの形態(長さや径)を制御できる。特に、加熱時間を長くするとナノワイヤの長さ(ファイバー長)を大きくすることができる。なお、「径および長さが均一」の意義は、既述の通りである。
【0019】
ナノワイヤを良好に形成させることを考慮すると、加熱処理の温度は700〜900℃とすることが好ましい。加熱時間としては、20〜114時間とすることが好ましいが、望みのファイバー長で定めることが好ましい。加熱時間を適宜設定することで、既述のようにナノワイヤの長さを調整することができる。また、加熱時に酸素の濃度が高すぎると、基材表面に酸化皮膜が形成されることがある。酸化皮膜が形成されると、ナノワイヤの形成が阻害されること場合が多い。そこで、加熱処理は減圧下で行うことが好ましく、その際の真空度は133×10−3Pa(1×10−3Torr)以下とすることがより好ましく、133×10−6Pa〜133×10−4Paとすることがさらに好ましい。
【0020】
Gaの量は、0.01〜0.6g/cmとすることが好ましい。このような範囲により、Gaの量が不足することなく、成長後にFeSiとナノワイヤとの間に多量のGaが残留することをさけることができる。また、基材の厚みは、所望のファイバー長に依存するが、10μm以上とすることが好ましく、ファイバー長を大きくしたい場合は厚い基板を用いることができる。
【0021】
図1(B)に示すように、基材上に選択的にナノワイヤを形成するには、公知の方法でパターニングを行い、例えば、溝部16に溶融したGa18を塗布し、既述のように熱処理を行えばよい。
【0022】
以上のようなナノワイヤ部材は、部材上にナノワイヤが保持された状態で使用することが可能である。また、ナノワイヤ部材におけるナノワイヤは、例えば、ピンセット等で容易に分離できる。そのため、種々の用途に適用する直前までナノワイヤ部材としておき、適用する際にナノワイヤだけを分離してもよい。適用直前まで、ナノワイヤは基材上に安定して保持されているため、ナノワイヤの絡み合いや破損、脱落を防ぐことができる。
【0023】
二酸化ケイ素ナノワイヤは、ナノスケールの場合に青色発光することが知られている。従って、分離したナノワイヤは、発光材料として応用することができる。また、光学ヘッドや光学デバイス等への応用も期待される。分離したナノワイヤの直径が光の波長より小さい場合は、光ファイバーへの利用も考えられる。この場合、光はファイバーの外周を螺旋状に伝搬する。当該光ファイバーの応用としては、例えば、僅かなスペースを利用して多くの情報を送るデバイスが考えられる。また、医療品およびナノスケールのレーザー装置のような極めて小さい光機器、通信用およびセンサーツールにも適用することができる。センシングには大きさが非常に重要で、同じ場所により多くのファイバーが詰め込めるので、例えば、多くの毒素を一度に正確に検出できるようになる。
【0024】
さらに、ナノファイバーフィルターへの応用も考えられる。現在のエアフィルターのファイバー径は数マイクロメートルであり、サブミクロンから2μm程度の粒子の除去は非常に困難とされている。そこで、このようなミクロファイバーフィルターに、本発明のナノワイヤ部材から分離したナノワイヤを混合することで、サブミクロンから2μm程度の粒子の除去が可能となり、すべての微粒子の除去ができることになる。
【0025】
上記のようなナノファイバーフィルターは、例えば、自動車やトラックのエアフィルター、集塵機用のフィルターカートリッジ、タービンエンジン用のフィルター等に適用することができる。ナノファイバーフィルターとなるナノワイヤは、比表面積が大きいためフィルトレーション効率が高まることが期待される。その結果、ナノファイバーフィルターの寿命を長くすることができると予想される。
【0026】
また、本発明のナノワイヤ部材は、触媒の支持体としても利用できる。例えば、二酸化チタン微粒子といった触媒粒子をナノワイヤ上に担持することが考えられる。
【実施例】
【0027】
本発明を下記実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1:ナノワイヤの成長時間依存性)
FeSi基板(高純度化学研究所製FeSiフェロシリコンの粒状物を厚さ350μmの板状に成形)の表面に29.8℃に溶融したGaを塗布スティックにより塗布した。塗布量は、0.01g/cmであった。真空チャンバー内に上記基板を設置し、真空度133×10−4Pa(10−4Torr)、温度900℃で加熱処理を行った。加熱時間(成長時間)を1時間、8時間、20時間、および114時間として、それぞれについてのナノワイヤの成長状態を走査型電子顕微鏡により観察した結果(SEM写真)およびSEM写真をトレースした図をそれぞれ図2および図3に示す。また、ナノワイヤの成長時間と長さとの関係を図4に示す。
【0029】
図2〜図4より、ファイバー長は成長時間とともに増加するが、径は成長時間によらず一定であることがわかった。
【0030】
(実施例2:成長温度依存性)
加熱時間を20時間とし、温度を500℃、600℃、700℃、800℃、および900℃とした以外は、実施例1と同様にして、ナノワイヤの成長状態を走査型電子顕微鏡により観察した。SEM写真の結果およびSEM写真をトレースした図をそれぞれ図5および図6に示す。また、ナノワイヤの成長時間と長さとの関係を図7に示す。
【0031】
図5〜図7より、ファイバー長は成長温度が高くなるにつれて長くなるが、径は、700〜900℃の範囲で成長した場合ほぼ一定であることがわかった。
【0032】
(実施例3:ナノワイヤのPLスペクトル分析)
加熱時間を114時間とし、温度を900℃とした以外は、実施例1と同様にして、ナノワイヤ部材と作製した。このナノワイヤ部材に、Hd−Cd 325nm(50mW)を照射することにより、PLスペクトルの分析を行った。結果を図8に示す。
【0033】
図8より、波長460nm付近に強い発光が観測された。この発光は、酸素欠損によるものであると考えられる。この結果から、当該ナノワイヤ部材は、発光材料として有効であることがわかった。
【0034】
(比較例1)
Gaを介在させなかった以外は、実施例3と同様にして、ナノワイヤ部材の作製を試みた。しかし、反応後の基板には、ナノワイヤの存在は確認できなかった。
【0035】
(比較例2)
FeSi基板の代わりにSi基板(コマツ電子社製(111)基板;Si粒状物を厚さ0.4mの板状に成形)を使用した以外は、実施例3と同様にして、ナノワイヤ部材の作製を試みた。しかし、反応後の基板には、ナノワイヤの存在は確認できなかった。
【0036】
以上の結果から、ナノワイヤを基板上に形成するにはGaおよびFeの存在が必要であり、これらの存在により均一で安定したナノワイヤが得られることがわかった。900℃で114時間の熱処理を行って形成されたナノワイヤは、直径が20nmのアモルファスSiOxナノファイバーで、その密度は約1010本/cmと非常に高いものであった。また、本実施例では、熱処理の温度が700℃以上でSiOxナノファイバーの形成が確認され、その長さは温度および時間に依存することがわかった。さらに、本実施例のナノワイヤ部材のナノワイヤは、取り扱い時に絡み合ったり、脱落や破損したりすることがなかった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のナノワイヤ部材を例示する概略断面図であり、(A)は部材の一主面にナノワイヤを成長させた状態を示し、(B)は部材の一部に選択的にナノワイヤを成長させた状態を示す。
【図2】加熱時間を変化させてナノワイヤの成長状態を観察した結果(SEM写真)を示す図である。
【図3】加熱時間を変化させてナノワイヤの成長状態を観察した結果(トレース)を示す図である。
【図4】ナノワイヤの成長時間と長さとの関係を示す図である。
【図5】温度を変化させてナノワイヤの成長状態を観察した結果(SEM写真)を示す図である。
【図6】温度を変化させてナノワイヤの成長状態を観察した結果(トレース)を示す図である。
【図7】温度とナノワイヤの長さとの関係を示す図である。
【図8】ナノワイヤのPLスペクトル分析の結果を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
10・・・ナノワイヤ部材
12・・・ナノワイヤ
14・・・基材
16・・・溝部
18・・・Ga

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上に形成されたナノワイヤと、を含むことを特徴とするナノワイヤ部材。
【請求項2】
前記ナノワイヤの径および長さが均一であることを特徴とする請求項1に記載のナノワイヤ部材。
【請求項3】
前記ナノワイヤの成長方向が前記基材に対し垂直方向であることを特徴とする請求項1または2に記載のナノワイヤ部材。
【請求項4】
前記基材がSiを含み、前記基材の中心部のSi含有率が、前記基材の表面側のSi含有率よりも大きいことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノワイヤ部材。
【請求項5】
前記基材がSiおよびFeを含み、前記基材の中心部における前記Siと前記Feとの原子比(Fe/Si)が0.5〜1.5であり、前記基材の表面側における前記Siと前記Feとの原子比(Fe/Si)が2.5〜6であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノワイヤ部材。
【請求項6】
パターニングされた領域に前記ナノワイヤが形成されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノワイヤ部材。
【請求項7】
SiおよびFeを含有する基材上にGaを介在させ、650℃以上で加熱処理を施すことを特徴とするナノワイヤ部材の製造方法。
【請求項8】
前記加熱処理の温度を700〜900℃とすることを特徴とする請求項7に記載のナノワイヤ部材の製造方法。
【請求項9】
少なくとも、前記加熱処理を施す際の真空度を133×10−3Pa以下とすることを請求項7または8に記載のナノワイヤ部材の製造方法。
【請求項10】
前記Gaの量を0.01〜0.6g/cmとし、前記基材の厚みを10μm以上とすることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載のナノワイヤ部材の製造方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−7376(P2008−7376A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179528(P2006−179528)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】