説明

ナノ構造のメソポーラスシリカに組み込まれたワクチン抗原からなる免疫原性複合体

本発明は、規則的なナノ構造のメソポーラスシリカ粒子と、免疫アジュバントとしての前記メソポーラスシリカ、好ましくは、シリカSBA−15に組み込まれた1つ以上の抗原と、を含むことを特徴とする“免疫原性複合体”と名付けられた生成物に関する。本発明の免疫複合体は、抗原をリンパ球に安全でかつ持続的に提示して、有効な免疫学的記憶を与えることを可能とするものである。また、本発明の免疫原性複合体は、より少量の抗原、および/または、より少ない接種回数で免疫学的保護を与えることを可能とするものである。さらに、本発明の免疫原性複合体は、反応性が高い個体、または、反応性が低い個体に対して均一かつ有効な免疫反応を誘発することを可能とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫学分野に関する。本発明は、アジュバントとして作用する均一で規則的なナノ構造のメソポーラスシリカ(highly ordered nanostructured mesoporous silica)の固体粒子に組み込まれた(または、カプセル化された)ワクチン抗原で構成された、免疫原性(immunogenicity)を高めるに有効な“免疫原性複合体(immunogenic complex)”と呼ばれる産物に関する。メソポーラスシリカによるカプセル化(encapsulation)は、マクロファージによる分解から抗原を保護し、そして、前記抗原のリンパ球への露出時間を延長させる。それにより、反応性が低いまたは高いいずれかの個体において、抗体の産生を引き起こすに有効な向上された免疫反応(または、免疫応答)を誘発する。本発明に係る免疫原性複合体は、別々のタイプの抗原(たんぱく質、生物活性ペプチド、毒素、ウイルス、および、バクテリアのワクチン)に対する一般的な免疫活性において有利な効果をもたらす。
【背景技術】
【0002】
ワクチン抗原に対するヒトの免疫反応は特定のファクタによって異なってくる。同じ条件下で同じ抗原でワクチン接種した複数の個体において、強度(intensity)および持続時間(duration)が異なる反応が現れる。そのような変化はワクチンの保護作用の強度および持続時間における決定的なファクタとも言える。
【0003】
標準化された抗原刺激を与えた場合、抗体の保護力価(protective titer of antibody)を生み出す応答が高いと分類された個体と、前記応答が低いかあるいは全くないと分類された個体とに分けることができる。
【0004】
そのような応答が高いグループおよび応答が低いグループのいずれにおいても免疫反応を引き起こすに有効でかつ安全な改善された方法が最も関心を浴びている。具体的に、前記方法の目的は、応答が高いグループについては、少量の抗原で、または、長期間にわたって聞く応答反応(抗原に対する再露出なしに)を引き起こすことにあり、そして、応答が低いグループについては、刺激で十分な保護反応を引き起こすことにある。
【0005】
現在に至っては、このような問題は、特定の抗原に対する生命体の特異的な免疫反応を延長させる物質として定義されているアジュバント(ajuvant)というものを使用し始めてから部分的に解決された。参考[Edelman, R.; Tacket, C.O.; Adjuvants Intern. Ver. Immunol, 7 (1990) 51]また、前記問題は、免疫系に提示される際にエピトープ(epitope;抗原決定基)の形態を変えることや、その免疫原性を上げることによって部分的に解決された。アジュバントに望ましいとされるその他の特性は、刺激期間を持続させ、抗原の提示時間を延ばし、そして、その代謝を遅延させることである。
【0006】
多くのアジュバントがマクロファージに対する毒性作用(toxic action)によりその活性を奏するということは知られている。特定の抗原に対する免疫反応を調節する、例えば、免疫グロブリンイソタイプ(例えば、IgG)の優勢発現(predominant expression)を引き起こすアジュバントが存在する。参考[Hadjipetrou-Kourounakis, L.; Moller,E.; Scand. J. Immunol., 19 (1984) 219]
【0007】
ヒト用のワクチン(human vaccine)において認可され、かつ広く使われているアジュバントは、水酸化アルミニウムまたはリン酸塩のようなアルミニウム塩の誘導体である。しかしながら、これらはIgGの抗体の好ましいサブクラスおよびそれに関与したサイトカインなどに関連して(質的に)選択的な免疫反応、または、長続きする免疫反応を引き起こす。
【0008】
そのほかに、完全フロインドアジュバント(IFA)およびフロインド不完全アジュバント(CFA)のような動物に良く使われているその他のアジュバントもある。しかし、これらのアジュバントは局所投与の際に小塊(nodule)、膿瘍(abscess)、肉芽腫(granuloma)を形成するという好ましくない効果を奏する。その他のアジュバントとして、Lipid A、マイクロスフェア、および、リポソーム等があるが、それらはヒトに対して使用するためのものである。
【0009】
したがって、免疫反応を改善させるより安全かつ有効な方法に関する関心は確かに前記応答が高いグループおよび応答が低いグループのいずれにも依然として存在する。物質分野(または、材料分野)における科学の進歩は、新しい化合物を作り出し、様々な分野におけるその適用の可能性を示している。
【0010】
無機ポーラス固体(inorganic porous solid)は触媒および分離処理に関する産業分野における重要な用途を提供している。これらの物質または材料は、それらが有する構造および表面特性に起因して、このナノ構造に対する分子のアクセスを許容し、それにより、それらの触媒活性および吸収活性を増加させる。
【0011】
現在使われているポーラス物質は、特有のマイクロ構造に基づいて大きく3種類に分類することができる。すなわち、前記3種類は準結晶性無定形支持材(paracrystalline amorphous support)、改質された層を有する物質(material with modified layer)、および、結晶性分子篩(crystalline molecular sieve)である。これらにおけるマイクロ(micro)およびメソ(meso)構造の差異は、それらの吸収(吸着)挙動および触媒挙動だけでなく、表面積、細孔の大きさ、および、その分布、X−線回折電子顕微鏡法(TEM)や電子回折法により研究される際の物質の様相(aspect)のような特性解析(characterization)において重要である。
【0012】
無定形および準結晶質物質は、産業上の利用において長期間にわたって使用されてきたポーラス無機固体における重要な一種である。これらの物質の典型的な例として、無定形シリカ(概して触媒を形成する際に用いられる)、そして、過渡的準結晶質アルミナ(酸固体触媒および石油改質された触媒に対する支持材として用いられる)が挙げられる。ここで用語“無定形(amorphous)”とは、物質が広範囲にわたって秩序を示すのではないが、部分的に、あるいは、ある程度秩序を持っている場合を表す。これらの物質を示すために用いられるその他の用語として“中立(無関係)x−線(indifferent x-ray)"がある。シリカのマイクロ構造は、密集した無定形シリカの10〜25nmの粒子からなり、粒子間の間隙(empty space)に起因した多孔性(porosity)を有している。これらの物質においては広範囲に及ぶ秩序(均一で規則的な配列)がないため、前記細孔の大きさは広い範囲において分布されている(つまり、細孔の大きさにおける偏差が大きい)。このような秩序の欠如はX-線回折分析から明らかであり、そのようなX線回折は特徴的なピークを有しない。
【0013】
過度的アルミナ(transitive alumina)のような準結晶性物質は、広範囲に及ぶ大きさの細孔を有するが、X-線回折標準から良く特徴付けられている。その準結晶性物質は幾つかの広いバンドを有することを特徴とする。これらの物質のマイクロ構造は、密集されたアルミナ相の小さい結晶質領域からなっており、そして、前記物質の細孔は前記領域間の不規則的な間隙から生じたものである。1つの物質または2つの物資の場合を考慮すると、物質における細孔の大きさを制御できる広い範囲に及ぶ秩序がなく、それらの大きさにおける変動性は通常非常に大きい。これらの物質における細孔の大きさは1.3ないし20nm範囲のメソポアー(または、メソ細孔)と呼ばれるバンドを含む。
【0014】
このように構造的に殆ど定められていない固体とは違って、細孔の大きさの分布範囲が非常に狭い物質が存在する。この物質は正確に再現可能な結晶質の特性から制御されていて、その構造はマイクロ構造とも呼ばれる。これらの物質は分子篩とも呼ばれるもので、最も有名なのはゼオライトである。
【0015】
そのような分子篩(天然または合成)は陽イオンを含む結晶質ケイ酸塩を含む。
【0016】
概して、細孔を持つ物質(または、ポーラス物質(porous material))は、その細孔の大きさによって分類することができる。例えば、細孔の大きさが、2nm未満の場合マイクロポーラス物質として、2〜50nmの場合メソポーラス物質として、そして、50nmを超える場合マクロポーラス物質として分類することができる。
【0017】
MCM−41、MCM−48などを含めて一連のメソポーラス物質が米国特許第5,057,296号および第5,102,543号などに記載されている。これらの分子篩はメソ細孔性の、大きさが均一で規則的に配列されたな構造を示す。MCM−41はハニカム(honeycomb)のような直接的なメソ細孔の6角形の配列を示し、そして、BET法により得られた比非表面積(specific surface area)が1000m2/gである。
【0018】
分子篩は、金型(mold)として有機または無機カチオンを用いて製造される。このようなメソポーラス分子篩は金型として表面活性剤を用いる液晶メカニズムを通じて合成され、そして、その製造工程において使用された合成条件または界面活性剤のタイプによって細孔の大きさが1.6〜10nmで調整できる、といった、メリットを有する。
【0019】
SBA−1、SBA−2,およびSBA−3として名付けられた分子篩は参考文献[Science (1995) 268:1324]に記載されている。それらのチャネルは規則的に配列されているが、その構成要素である原子(atom)は無定形シリカのものと類似した配列を示す。メソポーラス分子篩は規則的に配列された、ゼオライトに存在するものより大きいチャネルを有するが、それにより、比較的に大量の分子を触媒転換し、分離し、または、吸着するなどにおいて用いられる。
【0020】
米国特許第6,592,764によれば、酸媒体中で両親媒性のブロックコポリマー(block copolymer)を通じて、最も広範囲の(ultra-extensive)の大きさの細孔、および、熱水安定性(hydrothermal stability)を有する高品質メソポーラスシリカの一種が紹介されている。そのような部類としては、SBA−15があるが、そのSBA−15はハニカムに類似した六角形(2次元)の均一で規則的な構造(p6mm)を有するメソポーラス物質である。そのほかの構造、例えば、ケージ(cage)形状の立方体、または、3次元6角形などで形成され得る。500℃における焼成(calcination)を経て、BET比表面積が690〜1040m2/gで、細孔の体積が約2.5cm3/gで、面間距離(large interplanary distance)d(100)が7.45〜45nmで、細孔の大きさが4.6〜50nmで、そして、シリカ壁(silica wall)の厚さが3.1〜6.4nmであるポーラス構造が生成される。SBA−15は、トリ−ブロック・ポリオキシアルカリ(polyoxyalkaline)を含めて、市販の生分解可能で、非毒性の、両親和性ブロックポリマーを用いて、低温(35〜80℃)で広範囲な細孔壁の厚さおよび細孔の大きさを有するように製造することができる。
【0021】
SBA−15の独特な特性は様々な分野におけるその適用(即ち、利用可能性)を高めるばかりである。その応用分野は例えば、生物活性種(biologically active species)を固定する際に用いられる。しかしながら、免疫反応性におけるこれらの物質の効果ないし影響については報告されていない。つまり、免疫反応性における前記物質の利用可能性について示唆する文献は未だ存在しない。
【0022】
免疫反応、具体的にマクロファージに対する無定形シリカの影響または効果に関する実験は行なわたことがあったが、その実験においては、アジュバントとしてのシリカの役割が関与したものではない。参考文献[Allison, A. C.; Harington, J.S.; Birbeck, M.; J. Exp. Med., 124 ]1966 141; Kampschmidt, R.F.; Worthington, M. L.; Nesecher, M. I.; J. Leukocyte Biol., 39 (1986) 123; Lotzova, E.; Cudkowicx, G.; J. Immunol., 113 (1974) 798; Lotxova E.; Gallapher, M.T.; Trentin, J. J. Biomedicine, 22 (5) 387 1975; Vogel, S. N.; English, K.E.; O`brien, A.D.; Infect. Immun., 38 (1982) 681]
【0023】
そのほかの実験[Gennari, M.; Bolthillier, Y.; Ibanex, O.M.; Ferreira, V.C.A.; Mevel. J.C.; Reis. M.A.; Piatti. R.M.; Ribeiro. O.G.; Biozzi, G.; Ann. Inst. Pasteur Innunol., 138 (1987) 359]において、大量または少量の抗体を産生するように遺伝的に改質されたマウスが用いられ、前記マウスにコロイド状のシリカ懸濁液を連続して4日間投与した後、粒子状の抗原、いわゆる非相同の赤血球(heterologous erythrocyte)で免疫化した。このような研究から、反応性が低い動物における抗体の産生において有意義な増加が見られ、そして、このような増加はマクロファージに対するシリカの作用に直接かかわるものである。前記マクロファージに対するシリカの作用とは、その機能の一部に影響を及ぼし、これらの細胞の生存率または生存特性(viability)を変更させ、抗原代謝の減少をもたらし、それにより、抗原をリンパ球により良く提示できるようにするものである。
【0024】
従って、これらの効果は、マクロファージの作用性(functionality)に関連して区別可能な特徴を発現するマウス系統(strain)の反応と比較して分析実験を行なった。抗体に対する最小限または最大限の反応(応答)の表現型(phenotype)を有するマウスの系統を選択する実験モデルを用いて行なわれた。そのような系統は、連続的な世代(generation)を通じて個体間の異種交配(crossbreeding)を経て得た。約15世代を経て、抗体のレベルに対して極端な表現型を表す動物は、特定の抗原に対しての反応性を制御できる関連対立遺伝子(allele)の同型接合(homozygosis)を獲得していた。このようなモデルをもって、IVAの選択において抗体反応性が高い個体[H]または抗体反応性が低い個体[L]の系統を得ることができた。[Cabrera, W.H.; Ibanex, O.M<.; Oliveira, S.L.; Sant`Anna, O.A.; Siqueira, M.; Mouton, D.; Biozzi, G.; Immunogenetics, 16 (1982) 583]これらの動物における反応の差異には、抗原の効果的な提示をそれぞれ妨げるか、または、好む、より高い(LIVAマウス系統)、または、より低い(HIVAマウス系統)マクロファージの代謝活性が関係する。
【0025】
前記研究結果は、LIVAマウスを予め広範囲に無定形シリカの懸濁液で処理した後、抗原で免疫化させた場合、前記マウスが、HIVAマウスの反応レベル近くまで増加した量の抗体を産生することができたことを示す。一方で、参考文献[Biozzi, G.; Mouton, D.; Sant`Anna, O.A.; Passos, H.C.; Gennari, M.; Reis,l M.H.; Reffeira, V.C.S.; Heumann, A.M.; Bouthillier, Y.; Ibanes, O.M.; Stiffel, C.; Siqueira, M.; Cutrent Topics in Microbiology Immunology, 85 (1979) 31.]によれば、そのほかの類似した実験モデルにおいて、独立的な遺伝選択(independent genetic selection)により得られたHIIIおよびLIIIマウスを用いた場合、前述の通り無定形シリカ懸濁液で処理した後、反応性が低いマウスの抗体産生において変化は見られなかった。ここで注目すべきところは、これらのHIIIおよびLIIIマウスにおいて、抗体産生のレベルが高いまたは低いということは、マクロファージの作用性が関与するものでなく、リンパ球の能力が関与するものであることである。
【0026】
これらの研究は、免疫を誘導するために用いられた有効なアジュバントに関連して、前記アジュバントは、マクロファージの高い代謝活性に対し投与された抗原を保護し、そして、リンパ球に対し抗原の決定基(determinant)を適当に提示するということを示すほか、免疫付与プロセスにおいてマクロファージのインビボにおける役割を理解できるように基礎知識を与えるものであった。
【0027】
ワクチンキャンペーン(vaccine campaign)において、均一の免疫化産物およびプロセスが概して大規模の異種のグループに属する個体において採用されている。このような条件下で、様々な力価を有する抗体が産生されることや、決して保護的でない場合も見られる。前記事実は個体の一部に対して有効な免疫付与を行なうことを妨げるものに当たる。
【0028】
そのような事実は、前述のメカニズムにより説明することができ、そして、同種の個体の様々な表現型から起因したものである。ここにいう同種の個体の様々な表現型は有効な形態として解されても良いが、リンパ球に対するエピトープの提示の形態として解されてはいけない。
【0029】
たとえば、正常ないし非常に高いレベルのマクロファージ活性、または、低いないし正常なレベルのマクロファージ活性を有するものとして分類され得るリンパ球エフェクター活性(lynphocyte effector activity)を有する個体は、抗体の産生に関連してより迅速に反応する傾向を示す。それは、リンパ球によりより有効に同定されるべき抗原の蓋然性が高いからである。これらは、天然の集団において、“高応答者(high responder)”と呼ばれる個体である。
【0030】
それとは逆に、正常ないし低いリンパ球活性、および、非常に高いマクロファージ活性を示す個体は、投与された抗原を迅速に代謝する傾向を有する。このような現状はリンパ球に対して抗原を上手く提示することができず、その結果、効率のよくない免疫応答をもたらす。これらは、天然(自然)の集団において、“低応答者(low responder)”と呼ばれる個体である。この状況は、より抵抗性の高い病原体の自然選択を促す。
【0031】
現在のワクチン製剤に対して低い反応を示す個体の場合であっても、保護的な抗体の力価の産生を促しまたは優先するより有効なワクチンを開発する必要性が依然として存在する。従って、分化ファクタの影響を最小限化するために使用するアジュバントを選択する際に、このような分化した細胞の挙動を念頭に入れなければならない。
【0032】
このような概念を含んだ特許または特許出願はいまだ存在せず、そして、我々は、前記概念に基づいて作製した産物および/またはワクチンについて失敗を重ねてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本発明の目的は、ナノ構造のメソポーラスシリカに組み込まれた(カプセル化された)か、または、封入された抗原が高度に有効な免疫原性複合体を形成することを示すものである。そのような免疫原性複合体は、免疫反応を誘発するに有効であり、そして、前記ナノ構造のメソポーラスシリカは、培養したマクロファージの食作用能(phagocytic capacity)および生存率に何ら影響を及ぼさない。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明は高度に均一で規則的に配列された(highly ordered)ナノ構造のメソポーラスシリカによりカプセル化された、1つ以上の抗原(特に、天然抗原)により構成された新たな免疫原性複合体に関する。ここで、前記シリカはアジュバントとして作用し、それにより、免疫性(immunity)の誘発、抗原に対する抗体の産生、その天然型と区別できる構造(distinct concerning its nature)、および、複雑性(complexity)を改善させる。
【0035】
本発明に係る免疫原性複合体は、特定の割合で構成された、ナノ構造のメソポーラスシリカ粒子、および、抗原の組成物から得られた産物に関する。
【0036】
本発明の免疫原性複合体は、現に使われているプロセスおよび産物に対して低い反応性を示す個体に有効な免疫付与を可能とする。これは、リンパ球に対する抗原の安全かつ有効な提示に起因する。
【0037】
本発明の免疫原性複合体は1つ以上の抗原からなる。この抗原は、ナノ構造のメソポーラスシリカ粒子に組み込まれ(カプセル化され)、または、封入されている。免疫付与用のアジュバントとして有効に作用するほか、シリカ粒子はまた、生理活性種、この場合においては、免疫原に対するマトリックスまたは支持材として作用する。
【0038】
本発明の免疫原性複合体の形成において使用され得る抗原として、たんぱく質、生物活性ペプチド、毒素、および、ウイルスワクチン、および、バクテリアワクチンなどがある。
【0039】
様々なナノ構造のメソポーラスシリカ、好ましくは、SBA−15と名付けられたシリカが、本発明の免疫原性複合体を形成する際にアジュバントとして用いられる。
【0040】
高度に規則的に配列されたナノ構造のメソポーラスシリカ、特にSBA−15は、規則的な空洞(cavity)および2〜50nmの均一な大きさを有する酸化ケイ素粒子からなる。抗原はそれを組み込む(即ち、カプセル化する)ために設けられたナノサイズの空洞内に封入される。それと共に、前記メソポーラスシリカは、マクロファージによる分解から抗原を保護し、前記抗原をリンパ球に向かって漸進的に運搬し、かつ、前記リンパ球に対して抗原を提示する役割をする。それにより、免疫化プロセスにおける有効性が高まる。
【0041】
SBA−15シリカおよびそれに類似したメソポーラス物質の製造方法は参考文献[Zhao et al, Science (1998) 279:548;l J. Am. Chem. Soc. (1998) 120;6024; Matos et al., Chem. Mater. (2001) 13:1726]、および、米国特許第6,592,764号などに記載されている。
【0042】
本発明の目的はまた、免疫原性複合体を製造するために、ナノ構造のメソポーラスシリカへの抗原の封入またはカプセル化を提供することにある。
【0043】
シリカに抗原を組み込むこと(即ち、抗原のカプセル化)は、概してシリカ懸濁液と、抗原を含むように予め製造しておいた溶液との混合物(ここで、前記溶液は両方ともpH7.4の生理学的溶液で希釈したものである)を用いて行なうことができる。シリカに対する抗原の重量比(つまり、抗原:シリカ)は1:5ないし1:50であっても良く、好ましくは、1:25であっても良い。このような好ましい範囲の割合は25μgのシリカに対して抗原1μg程度であっても良い。このような製造プロセスは室温にて行なわれるのが好ましく、そして、接種する前に約2時間までに時折攪拌する条件下で維持させるのが好ましい。
【0044】
本発明の更なる目的は、予防用ワクチン製剤を製造するに免疫原性複合体を使用することにある。
【0045】
本発明に係る免疫原性複合体、並びに、薬学的に許容可能な担体、賦形剤、または、添加剤を含む医薬組成物は医薬および獣医学分野に適用される。
【発明の効果】
【0046】
本発明における1つの有利な点は、本発明に係る免疫原性複合体が、僅かな量の抗原で、概して抗原に対する反応が低い個体、または、高い個体のいずれかにおいて、同一の(identical)免疫反応を誘発することができるということである。
【0047】
抗原はワクチンを製造するに用いられる概して高価な原材料である。有効な免疫反応を誘発するに必要な量を減らすことは、多くの場合、ワクチンの製造にかかる費用を実質的に減らすことにつながる。
【0048】
一方で、同量の抗原を用いてより多量のワクチン製剤(即ち、投与量または容量)を製造するということは、前述の単なる経済的な面を上回ることを意味する。前記経済的な制限要素が無い場合であっても、生産速度が限られている抗原がある。病気が流行している間は、少量の抗原の免疫能を最適化、および、最大化することは、数約万の命を救うのに最も重要である。
【0049】
本発明の更なる別の重要な特徴は、抗原の提示する時間を増加させ、または、延ばし、刺激時間を延長するということである。その結果、より有効な免疫学的記憶(immunological memory)を引き起こすことができ、それにより、少量で優れた保護(protection)を与えることができる。ある種のワクチンは、有効な保護を与えるために、3回以上の投与、および、周期的な補強(periodic reinforcement)を必要とする。抗原の持続的な提示(sustained presentation)は、多くの症例において、再接種の回数を減らすことにつながる。
【0050】
前記能力は、公衆保健に大きな影響を与えるようなものである。なぜならば、主にマスメディアが広げた大規模のキャペーンにもかかわらず、わが子にワクチン接種を受けさせようとする親の(正規ワクチン接種プログラムに対する)低い関心もあるからである。少量で保護免疫を誘発するというのは、前記関心不足の問題を最小限に抑え、前記キャペーンを活用して、数約万人に至る子供に対する有効な免疫付与を可能とすることを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下に示した実施例は例示のために示したものであって、いかなる場合であっても本発明の保護範囲を制限するように解されてはならない。
【実施例1】
【0052】
免疫付与用アジュバントとしての免疫学的複合体の構成成分であるシリカSBA−15の製造、および、その特性解析
受容体(receptor)において、トリ−ブロックコポリマー(tri-block copolymer)PluronicP123を、脱イオン水(28g)および2MのHCl(122g)中で分散させ、40℃で磁器攪拌(magnetic stirring)を行なった。その後、TEOS8.6gを加えて、(均質な溶液を得るために)40℃で機械的な攪拌を行なった。約15分後、TEOSを加えた後、ゼリー状の沈殿物が形成された。このゲルを40℃で24時間攪拌という条件下で維持させ、その後、テフロン(登録商標)加工したオートクレーブに移し、そして、100℃の制御された温度の殺菌器内に2日間維持させた。その後、固体の生成物をろ過し、脱イオン水で洗浄し、室温で空気乾燥させた。最後に、合成したサンプルを540℃で100mLmin-1の流速の乾式(dry)N2の条件下でか焼処理(calcination)した。ここで、加熱速度は1℃min-1であった。540℃で5時間加熱してから、窒素ガスの流れを空気に変え(プロセスを中断することなく)、そして、さらにか焼処理を3時間続けた。
【0053】
六角形の対称構造のチャネルを有しているSBA−15の規則的な2次元構造は、小角度X−線回折(small angle x-Ray diffraction;SAXRD)、N2吸着測定法、および、投射型電子顕微鏡法(TEM)などを用いて評価した。ここで、N2吸着測定法は、前記物質を製造する際に存在していたポリマーの含量に関連して、構造および表面特性を解明するために行なわれた。物質の特性解析(characterization)の結果が表1、および、図1〜3に示されている。前述の特徴は、前記物質を、幾つかのホスト分子(molecular host)に対するマトリックスに適合させるものであった。以下に示す表1はSBA−15の特性解析の結果である。
【0054】
【表1】

【0055】
図1は、天然の状態(natural state;NC)および地面(ground;GC)において、か焼処理した六角形のSBA−15のサンプルに対して得られた小角度x−線回折分析の結果である。この結果によれば、規則的なメソポーラス物質の構造(回折のピーク)が、瑪瑙乳鉢(agate mortar)中で粉末を粉砕した後にも何ら変わっていないことがわかる。ピークの分析および指標化(indexation)は、組織化されていない拡散して分布したバックラウンド(non-structured spreading background)を除去してから行なわれた。
【0056】
図2は、か焼処理したシリカSBA−15に対する窒素吸着等温線を示す。ここで、SBA−15は、毛管凝縮(capillary condensation)のステップにおいて等温線の勾配(declivity)から推測できるように、高度に規則的な整列構造(ordination)を示している。
【0057】
図3は、投射型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。これは、か焼処理したシリカSBA−15の規則的な構造を解明するために用いられた。ここで、並行して整列されたチャネル(特に、前記種の物質のチャネル)が見られる。
【実施例2】
【0058】
SBA−15によるモデル抗原吸着の割合(%)の測定
抗原として牛血清アルブミン(BSA)を用いて、異なる割合のSBA−15の混合物を製造し、その後、各々の(異なる割合の)混合物を対象にして、シリカによる抗原の吸着率(パーセンテージ)を測定した。表2に示した結果によれば、25μgのSBA−15に対し1μgのBSA(の割合で)を使用した場合、SBA−15によるBSAの吸着率が最も高かった。表2は、牛血清アルブミン(66kDa)の吸着率が最も良いシリカSBA−15の混合割合について示している。
【0059】
【表2】

【0060】
しかしながら、本発明の免疫原性複合体を構成し得る抗原の多様性に照らして、抗原とSBA−15との割合を最適化する際には、抗原の複雑性について十分考慮を払うべきである。
【実施例3】
【0061】
マクロファージに対するSBA−15の効果のデモンストレーション(demonstration)
インビトロ実験から、ナノ構造のシリカSBA−15が、培地で30時間維持させた髄質(medulla)に起因したマクロファージの食作用能を何ら妨げることなく、またその生存に影響を及ぼすものでないことがわかった。逆に、これらの細胞を通じて食作用が増加することが示唆された。表3は、SBA−15で処理したか、あるいは、しなかったに関係なく、系統(strain)におけるイースト細胞の食作用プロセスは何ら影響を受けることがないということを示している。前記系統は、反応が低い個体に対して遺伝的に選択されたもの[LIVA]、遺伝的に相同性であるもの[SWISS]、または、同質遺伝子のもの[BALB/c]であった。表3は異なるマウス系統のマクロファージを用いて行なったインビトロ実験の結果を示す。
【0062】
【表3】

【実施例4】
【0063】
マウス系統に対して従来から用いられてきたアジュバントに比べた際の、抗−Intβ抗体および効−毒性イビボボカサンゴヘビ(anti-poison Micrurus ibiboboca)に対する免疫原性複合体のアジュバント効果
多量の抗体を産生する個体、即ち、反応性が高い個体(HIII種)、または、反応性が低い個体(LIVA種)に基づいて遺伝的に選択された4〜5匹のマウスからなるグループ、および同質遺伝子系統(isogenic line)(遺伝的に同一の動物)BALB/cのマウスを対象として幾つかの異なる実験を行なった。SBA−15の効果を検査・評価するために、SBA−15に吸着させたか、または、フロイント不完全アジュバント(IFA)と混合させたバクテリア大腸菌(Escherichia coli)の16.5kDaの組み換えたんぱく質、β-インチミン(β-intimine;Int1β)に対する反応を測定し、それを比較した。ここで、SBA−15を用いた場合、Int1β:SBA−15の割合は1:10であった。抗体形成(antibody formation)に対する反応性についての評価はまた、コブラ科、イビボボカサンゴヘビ属(Micrurus ibiboboca genus)の毒(液)をSBA−15に吸着させて[毒(液):SBA−15の割合は1:10であった]得た応答を、IFAと混合した同じ毒(液)に対する応答と比較することで行なわれた。ここで、前記イビボボカサンゴヘビ属の毒(液)は、84〜7kDaの分子量を有する少なくとも20個のたんぱく質からなる。これらの全ての実験は皮下経路で免疫付与することによって行なわれた。表4および5に示したデータ[平均±標準偏差(log2)]は、SBA−15がIFAと同等の効果を奏し、そして、高い抗体力価を有するとともに、免疫学的記憶を誘発するに有効であることを示している。
【0064】
表4は、免疫付与を行なってから15日が経過した時点において抗−Int1βの力価(log2)を示し、そして、表5は、免疫付与を行なってから15日が経過した時点において抗−サンゴヘビの力価(log2)を示している。
【0065】
【表4】

【0066】
【表5】

【0067】
さらに、SBA−15は、IFAを投与したときに起こる現状とは異なり、肉芽腫(granuloma)の形成を促すものではなく、局所における炎症反応を起こすことなく、そして、皮下投与で免疫接種を行なってから24〜26時間が経過した時点で測定したときに、多形単球および多形核のレベルを著しく減少させた。
【0068】
コントロールマウスに比べてSBA−15を投与したマウスの挙動(behavior)、および、生存率(vitality)における目立つような変化はなかった。また、11ヶ月後、前記マウス(処理したマウス)に形態学的変化などは見られなかった。
【実施例5】
【0069】
従来のアジュバントが用いられた場合と比べした際の、時間の関数における抗−Intβ抗原に対する免疫原性複合体(抗原:SBA−15)のアジュバント効果
更なる分析を行なうために、BALB/cマウスの各グループに対して、SBA−15、および、Al(OH)3中に吸着または混合させたInt1β(大腸菌から得たもの)を経口投与し、そして、SBA−15、Al(OH)3、および、IFA中に吸着または混合させたInt1βを、皮下および腹腔内投与することで免疫化を行なった。長期間に渡って抗−Int1βの反応を観察した。図4は異なる免疫化経路ごとの大腸菌のたんぱく質インチミン1βに対する反応(応答)を示している。周知のアジュバントAl(OH)3、フロイント不完全アジュバント(IFA)、および、SBA−15というナノ構造のシリカを用いて免疫化した後、一次応答反応(primary response; PR)が起こっている間(最大199日間)、同質遺伝子系統BALB/cの平均と標準偏差とを求めた。このような分析が行なっている間に抗体のレベル(特に、SBA−15に吸着させた抗原で免疫付与したグループにおいて)は常に高く維持されていた。
【0070】
前述の結果から、SBA−15が免疫原性、毒性を有さないし、抗体に対する高度の応答と共に有効な免疫学的記憶をもたらす有効な担体であることがわかる。
【0071】
本発明に係る規則的なナノ構造のメソポーラスシリカ、例えば、SBA−15はワクチン製剤または組成物のための好ましいシステムを提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】SBA−15シリカ(NC)(天然焼成または天然か焼)、および、SBA−15(GC)(地面にて焼成したもの)の小角度X−線回折を示す。
【図2】か焼処理したシリカSBA−15の細孔の大きさと、77Kにおける窒素吸着との等温線を示す。
【図3】か焼処理したシリカSBA−15の投射型電子顕微鏡写真(TEM)である。
【図4】(経口、腹腔内、および、皮下投与したときに)SBA−15のアジュバント特性とそのほかのアジュバントとを比較した場合、大腸菌のIgGイソタイプ抗−インチミン1βのマウス抗体を測定した結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細孔の大きさが2〜50nmである規則的なナノ構造のメソポーラスシリカ粒子で構成された免疫アジュバントと、前記メソポーラスシリカ粒子に組み込まれた1つ以上の抗原と、を含むことを特徴とする免疫原性複合体。
【請求項2】
前記抗原が、たんぱく質、生物活性ペプチド、毒素、ウイルスワクチン、および、バクテリアワクチンからなる群から選ばれる抗原であることを特徴とする請求項1に記載の免疫原性複合体。
【請求項3】
前記規則的なナノ構造のメソポーラスシリカ粒子が、メソポーラスシリカSBA−15であることを特徴とする請求項1に記載の免疫原性複合体。
【請求項4】
前記抗原と、前記アジュバントとが、1:5ないし1:50の割合で含まれていることを特徴とする請求項1に記載の免疫原性複合体。
【請求項5】
前記抗原と、前記アジュバントとが、1:25の割合で含まれていることを特徴とする請求項4に記載の免疫原性複合体。
【請求項6】
請求項1に記載の免疫原性複合体を使用してワクチン組成物を製造する方法において、前記ワクチン組成物が、前記免疫複合体を構成している前記抗原をリンパ球に安全でかつ持続的に提示して、有効な免疫学的記憶を与えることを可能とするものであることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の免疫原性複合体を使用してワクチン組成物を製造する方法において、前記ワクチン組成物が、前記免疫原性複合体を構成している前記抗原の免疫原性を高めることを可能とするものであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の免疫原性複合体を使用してワクチン組成物を製造する方法において、前記ワクチン組成物が、より少量の抗原、および/または、より少ない接種回数で免疫学的保護を与えることを可能とするものであることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の免疫原性複合体を使用してワクチン組成物を製造する方法において、前記ワクチン組成物が、反応性が高い個体、または、反応性が低い個体に対して均一かつ有効な免疫反応を誘発することを可能とするものであることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1に記載の免疫原性複合体を使用してワクチン組成物を製造する方法において、前記ワクチン組成物が、医薬および獣医学分野における有効な免疫付与、および/または、ワクチン接種に適用されるものであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1に記載の免疫原性複合体と、医薬的に許容可能な担体、賦形剤、または、添加剤と、を含有することを特徴とするワクチン組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−507859(P2009−507859A)
【公表日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−530281(P2008−530281)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【国際出願番号】PCT/BR2006/000182
【国際公開番号】WO2007/030901
【国際公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【出願人】(508075616)クリスタリア プロデュトス キミコス ファーマシューティコス リミターダ (3)
【出願人】(503339502)
【Fターム(参考)】