説明

ナノ粒子分散液晶およびその製造方法、液晶表示装置

【課題】簡便に製造することのできるナノ粒子分散液晶およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ナノ粒子分散液晶は、液晶材料中に、液晶材料との相溶性を向上させる処理(化学修飾)が施されていないナノ粒子が分散されている。また、液晶分子がナノ粒子表面に物理吸着しているためナノ粒子同士は凝集していない。ナノ粒子分散液晶は、スパッタ蒸着等の物理蒸着によって極めて簡便に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子分散液晶およびその製造方法、液晶表示装置に関するものであり、特に化学修飾が施されていないナノ粒子が分散されたナノ粒子分散液晶、簡便なナノ粒子分散液晶の製造方法、そのようなナノ粒子分散液晶を備えた液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイの高速化,高精細化,および高機能化を実現するアプローチの1つに、液晶にナノ粒子を分散する手法がある。ナノ粒子が分散された液晶(ナノ粒子分散液晶)は、複屈折率や誘電異方性が増加することによりスイッチング速度の増加や駆動閾値電圧の低下など、電界に対する応答特性が向上することが知られている(非特許文献1,2)。しかし、ナノ粒子と液晶とは混ざりにくいため、ナノ粒子が凝集しやすい。従って、液晶にナノ粒子を分散させるには、液晶とナノ粒子との相溶性が非常に重要なパラメータとなる。
【0003】
そこで、液晶とナノ粒子との相溶性を向上させるために、ナノ粒子の表面に適切な修飾基(メソゲン基など)が化学的に合成されている。これにより、ナノ粒子は、液晶中に分散されやすくなる。
【0004】
例えば、特許文献1では、ナノ粒子の表面(周囲)に液晶分子が形成された液晶相溶性粒子が製造されている。具体的には、この液晶相溶性粒子は、液晶分子を含む溶液中で金属イオンを還元して、ナノ粒子表面に液晶分子を結合させることによって形成される。このようにして形成された液晶相溶性粒子は、液晶分子がナノ粒子の表面に化学結合しているため、ナノ粒子表面が、液晶分子によって保護されている。従って、この液晶相溶性粒子が、液晶層に良好に分散する。つまり、ナノ粒子が液晶層中に良好に分散される。
【0005】
一方、特許文献2には、特殊な性質を示すイオン液体中で、ナノ粒子を製造する方法が開示されている。具体的には、スパッタリング法により、ナノ粒子前駆体であるターゲット材をスパッタ蒸着することによって、イオン液体中にナノ粒子が形成される。
【0006】
なお、特許文献2には、用いるイオン液体の種類によって得られるナノ粒子の粒子径が異なることも開示されている。具体的には、イオン液体として親水性の高いイミダゾリウム系化合物を用いた場合には、疎水性の高い脂肪族系化合物を用いた場合よりも、得られるナノ粒子の粒子径が大きくなる。
【0007】
また、非特許文献3には、スパッタリング法により、有機オイルに、ナノ粒子を分散させる方法が開示されている。具体的には、まず、回転ドラムを回転させ容器中の有機オイルを回転ドラム表面に付着させることによって、回転ドラム表面に液体薄膜を形成する。次に、その液体薄膜に、チャンバ内で形成されたナノ粒子を付着させる。ナノ粒子が付着した液体薄膜は、回転ドラムの回転によって、再び容器に戻される。このような処理を繰り返すことによって、容器内の有機オイルに徐々にナノ粒子が分散される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−347618号公報(2004年12月9日公開)
【特許文献2】特開2007−231306号公報(2007年9月13日公開)
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】H. Qi and T. Hegmann. J. Mater. Chem.18, 3288 (2008).
【非特許文献2】T. Miyama et al., Jpn. J. Appl. Phys., 43, 2580 (2004).
【非特許文献3】M. Wagener and B. Gunther, Progr. Colloid Polym. Sci., 111, 78-81 (1998).
【非特許文献4】S. Kobayashi, T. Miyama, N. Nishida, Y. Sakai, H. Shiraki, Y. Shiraishi and N. Toshima. Journal of Display Technology., 2, 121 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1の方法は、液晶相溶性粒子を合成するために、非常に複雑な合成プロセスが必要になるという問題がある。一方、特許文献2および非特許文献3の方法は、液晶中にナノ粒子を分散する方法ではない。
【0011】
具体的には、特許文献1では、ナノ粒子表面に適切な修飾基を付与することで初めて、ナノ粒子が液晶に分散する。このため、液晶中にナノ粒子を分散するためには、液晶相溶性粒子の化学合成が必要不可欠である。つまり、ナノ粒子の表面に、液晶との相溶性を向上させるための化学修飾(表面修飾)が必要である。
【0012】
しかし、このような化学修飾を施した液晶相溶性粒子を形成するためには、適切な修飾基を形成するための合成経路を検討する必要がある。しかも、液晶相溶性粒子は溶液中で化学合成されるため、反応溶液中に存在する副生成物(塩や分解生成物など)を除去する必要がある。従って、液晶相溶性粒子の製造には、非常に複雑な合成プロセスが必要になる。また、合成された液晶相溶性粒子の純度も低くなる。さらに、合成経路を確立したとしても、化学修飾したナノ粒子(液晶相溶性粒子)が、実際に液晶に分散する機能を有するかは不明であると共に、ナノ粒子が凝集する場合もある。例えば、アルキル基を付与した金属ナノ粒子は、液晶中に分散せずに凝集してしまう。
【0013】
このように、特許文献1の方法は、製造プロセスが非効率でありスループットに問題がある。それに加えて、合成された液晶相溶性粒子の純度が低く、適用範囲も非常に制限される。
【0014】
一方、特許文献2の方法は、イオン液体の特殊性を利用したナノ粒子の製造方法が開示されているにすぎず、液晶中にナノ粒子を分散させることへの適用を示唆する記載は一切ない。具体的には、特許文献2は、イオン液体の独特な性質に着目し、新規なナノ粒子の製造方法を開示するものである。このため、特許文献2において、「イオン液体」は必要不可欠である。
【0015】
しかし、一般的に液晶性を示す材料はイオン液体ではないため、イオン液体と液晶とはうまく混ざり合わない。このため、特許文献2の方法は、液晶中にナノ粒子を分散させるためには適していない。
【0016】
しかも、特許文献2に記載されているように、「イオン液体」は、陽イオンと陰イオンのみから構成される塩にもかかわらず、常温で液体である一連の化合物である。また、「イオン液体」は、高温安定性であり、液体温度範囲が広い、蒸気圧が略ゼロ、イオン性でありながら低粘性、高い酸化・還元耐性などの特性を有する。
【0017】
これに対し、「液晶」は、固体と液体の間の中間的な物質の状態(相)であり、棒状あるいは円盤状の形状を有する分子においてみられ、分子のイオン性にはよらない。「液晶」は有限の蒸気圧を有し(室温でサブPa程度)、特定の温度ないしは濃度で液晶相を発現するものであり、誘電率、屈折率、導電率、粘性などの物理的性質の異方性を有している。
【0018】
このように、特許文献2の「イオン液体」はイオンからなる特殊な液体を指すものであり、構成分子および物性において、「液晶」とは全く異なる。従って、特許文献2において必須の構成要件である「イオン液体」を「液晶」に置き換えることはできない。
【0019】
また、特許文献2は、あくまでナノ粒子の製造方法であるため、製造されたナノ粒子は、イオン液体から回収される。つまり、特許文献2では、イオン液体中のナノ粒子をそのまま使用すること、言い換えればイオン液体を除去せずにイオン液体中にナノ粒子を分散させることは全く意図されていない。
【0020】
一方、非特許文献3の方法も、有機オイルにナノ粒子を保持させる方法が開示されるにすぎず、揮発性を有する液晶中にナノ粒子を分散させることへの適用やナノ粒子分散液晶を応用することを示唆する記載は一切ない。
【0021】
非特許文献3では、回転ドラムによって容器中の有機オイルをすくい上げ、回転ドラム表面に液体薄膜を形成している。そして、形成された液体薄膜にナノ粒子を分散させるために、チャンバ内(気中)で凝集して形成された、有限な大きさをもつナノ粒子を付着させる処理を繰り返している。このため、気中でナノ粒子が成長しすぎてしまうと液中に均一にナノ粒子を分散させることは極めて困難となり、界面活性剤などを添加する必要があった。しかしながら、界面活性剤などの液晶に親和性の無い不純物を添加することは材料の液晶としての特性の劣化につながってしまうため、作製されたナノ粒子分散液晶を応用することを考えると、非特許文献3の方法を液晶に適用することは好ましくない。さらに、非特許文献3の方法では、通常のスパッタリング法には用いられない特殊な回転ドラムが必要不可欠であり、簡便であるとはいえず、汎用性も乏しい。さらに、有機オイル中にナノ粒子を分散させるために、多大な時間を必要とする。
【0022】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、化学修飾が施されていないナノ粒子が液晶材料中に分散しているナノ粒子分散液晶、そのナノ粒子分散液晶の簡便な製造方法、並びにそのナノ粒子分散液晶を備えた液晶表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者等は、鋭意検討した結果、従来のような化学的手法ではなく、物理蒸着によって、ナノ粒子を凝集させずに液晶材料中に分散できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0024】
すなわち、本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法は、上記の課題を解決するために、物理蒸着によりターゲット材から形成されたナノ粒子を液晶材料中に分散させることを特徴としている。
【0025】
液晶材料にナノ粒子を添加すると、スイッチング速度,屈折率異方性,誘電異方性などの性質が向上する。しかし、液晶材料とナノ粒子とは混ざりにくいため、液晶材料にナノ粒子を単に添加しただけでは、ナノ粒子が凝集しやすい。
【0026】
そこで、従来は、ナノ粒子表面に適切な修飾基を化学修飾して、液晶材料にナノ粒子を分散させていた。しかし、この場合、化学修飾したナノ粒子を形成するための合成経路を検討する必要がある。また、合成経路を確立したとしても、化学修飾したナノ粒子を液晶材料に添加して実際に機能するかは不明である。また、ナノ粒子によっては、ナノ粒子同士が凝集する場合もある。つまり、ナノ粒子表面を化学修飾する方法は、適用範囲が制限される上、製造プロセスも効率的ではない。
【0027】
これに対し、上記の発明によれば、物理蒸着によってターゲット材から放出された原子または分子が液晶材料に到達する。到達したターゲット材の原子または分子は、流動性を有する液晶材料内に侵入して集合する。その結果、その原子または分子が液晶材料中で成長し、ナノ粒子が形成される。
【0028】
一方、液晶分子は、成長したナノ粒子の表面(周囲)に物理吸着する。このため、ナノ粒子表面が液晶分子によってある程度覆われると、ナノ粒子の成長がとまる。さらに、ナノ粒子表面は、液晶分子で覆われているため、ナノ粒子の凝集を防ぐことができる。従って、ナノ粒子が凝集することなく、液晶材料中にナノ粒子を分散させることができる。
【0029】
このように、上記の発明によれば、物理蒸着によって、ターゲット材から直接ナノ粒子が形成される。このため、従来のように、表面に化学修飾を施したナノ粒子を化学合成する必要も、副生成物を除去する必要もない。しかも、ナノ粒子表面に液晶分子が物理吸着するため、ナノ粒子同士が凝集しない。従って、化学修飾を施すことなくナノ粒子の凝集を抑制しつつ、高純度のナノ粒子が分散したナノ粒子分散液晶を簡便に製造することができる。
【0030】
本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法において、上記物理蒸着は、スパッタ蒸着であることが好ましい。
【0031】
上記の発明によれば、高温および高真空(高減圧)を必要としないスパッタ蒸着によって、ナノ粒子分散液晶が製造される。また、スパッタ蒸着は、他の物理蒸着に必要な坩堝が不要である。これにより、液晶材料の熱分解および蒸発を防ぎつつ、短時間のスパッタリング時間で高純度のナノ粒子を形成することができる。従って、ナノ粒子分散液晶の製造時間を短縮することができる。
【0032】
本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法において、上記ターゲット材から放出された原子または分子を、上記液晶材料中で凝集させてナノ粒子を形成することが好ましい。
【0033】
上記の発明によれば、液晶材料中でナノ粒子が形成される。つまり、ターゲット材から放出された原子または分子は、液晶材料中に侵入する前に凝集しない。これにより、ナノ粒子の凝集をより確実に防ぐことができる。従って、より高純度のナノ粒子が分散されたナノ粒子分散液晶を製造することができる。
【0034】
本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法において、上記物理蒸着は、上記ターゲット材と液晶材料とを近接させて物理蒸着を行ってもよい。
【0035】
上記の発明によれば、ターゲット材と液晶材料とが近接している。これにより、ターゲット材から放出された原子または分子が、液晶材料中へ侵入する前に凝集するのを防ぐことができる。従って、より高純度のナノ粒子が分散されたナノ粒子分散液晶を、短時間で製造することができる。
【0036】
本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法において、上記物理蒸着は、上記液晶材料を静置した状態で行ってもよい。
【0037】
上記の発明によれば、液晶材料を静置した状態で物理蒸着を行う。このため、非特許文献1で使用される特殊な回転ローラを必要としない。これにより、スパッタリング装置等の蒸着装置を改良することなく、ナノ粒子分散液晶を製造することができる。また、回転ローラに液体薄膜を形成してナノ粒子を分散させる必要もない。従って、より短時間でナノ粒子分散液晶を製造することができる。
【0038】
本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法において、上記液晶材料は、フラストレート相を示すものであることが好ましい。
【0039】
上記の発明によれば、フラストレート相を示す液晶材料中に、ナノ粒子が分散したナノ粒子分散液晶が製造される。しかも、製造されたナノ粒子分散液晶は、液晶相(フラストレート相)を発現する温度範囲が、拡大するという注目すべき効果を示す。従って、フラストレート相(特にブルー相)の最大の欠点を克服したナノ粒子分散液晶を製造することができる。
【0040】
つまり、本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法は、フラストレート相(特にブルー相)を示す液晶材料の発現温度範囲を拡大する方法として利用することができる。すなわち、このフラストレート相(特にブルー相)を示す液晶材料の発現温度範囲を拡大する方法は、物理蒸着によりターゲット材から形成されたナノ粒子を、フラストレート相(特にブルー相)を示す液晶材料中に分散させることを特徴とするものである。
【0041】
本発明のナノ粒子分散液晶は、上記の課題を解決するために、液晶材料中に、液晶材料との相溶性を向上させる処理が施されていないナノ粒子が分散されていることを特徴としている。
【0042】
上記の発明によれば、液晶材料との相溶性を向上させる処理(化学修飾)が施されていないナノ粒子が、液晶材料中に分散されている。このため、従来のように、化学修飾を施したナノ粒子を化学合成する必要がない。従って、簡便に製造できるナノ粒子分散液晶を実現することができる。
【0043】
本発明のナノ粒子分散液晶において、上記液晶材料を構成する液晶分子が、ナノ粒子の表面に物理吸着していることが好ましい。
【0044】
上記の発明によれば、液晶材料を構成する液晶分子が、ナノ粒子の表面に物理吸着しており、従来(特許文献1)のように化学結合(化学吸着)していない。これにより、ナノ粒子表面に化学修飾が施されていなくても、ナノ粒子の凝集を防ぐことができる。従って、ナノ粒子が凝集せずに液晶材料中に分散したナノ粒子分散液晶を実現することができる。
【0045】
本発明のナノ粒子分散液晶において、上記液晶材料が、フラストレート相を示すものであることが好ましい。
【0046】
上記の発明によれば、フラストレート相を示す液晶材料中に、ナノ粒子が分散している。しかも、このナノ粒子分散液晶は、液晶相(フラストレート相)を発現する温度範囲が、拡大するという注目すべき効果を示す。従って、フラストレート相(特にブルー相)の最大の欠点を克服したナノ粒子分散液晶を実現することができる。
【0047】
本発明の液晶表示装置は、上記の課題を解決するために、前記いずれかに記載のナノ粒子分散液晶を含む液晶層を備えることを特徴としている。
【0048】
上記の発明によれば、液晶表示装置が、ナノ粒子分散液晶を含む液晶層を備えているため、液晶表示装置の高速化,高精細化,および高機能化を実現することができる。
【発明の効果】
【0049】
以上のように、本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法は、物理蒸着によりターゲット材から形成されたナノ粒子を液晶材料中に分散させる。また、本発明のナノ粒子分散液晶は、液晶材料中に、液晶材料との相溶性を向上させる処理が施されていないナノ粒子が分散されている。それゆえ、化学修飾を施すことなくナノ粒子を分散させることによって、ナノ粒子分散液晶を簡便に製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】純粋な4−ペンチル−4−シアノビフェニル(5CB)および金蒸着した5CBの消失スペクトルである。
【図2】純粋な5CBおよび金蒸着した5CBの相転移挙動を示す偏光顕微鏡像を示す図であって、(a)は純粋な5CBの図であり、(b)は金蒸着した5CBの図である。
【図3】純粋な5CBおよび金蒸着した5CBの誘電率の周波数依存性を示すグラフであって、(a)は短軸方向の誘電率であり、(b)は長軸方向の誘電率である。
【図4】金蒸着した5CBの透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図5】純粋な混合型ネマティック液晶(E47)および金蒸着した混合型ネマティック液晶(E47)を示す図である。
【図6】金蒸着した混合型ネマティック液晶(E47)の透過型電子顕微鏡像を示す図である。
【図7】金蒸着した混合型ネマティック液晶(E47)を用いたTN液晶セルの駆動閾値電圧の印加周波数依存性を示す図である。
【図8】銀ナノ粒子を添加した5CBの消失スペクトルを示す図である。
【図9】純粋なコレステリックブルー相を示す液晶および金蒸着したコレステリックブルー相を示す液晶の反射スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下、本発明について図1〜図9に基づいて説明する。なお、以下の説明は、本発明の一実施形態を示すものであって、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0052】
(1)ナノ粒子分散液晶
本発明のナノ粒子分散液晶は、液晶材料と、液晶材料との相溶性を向上させる処理(化学修飾)が施されていないナノ粒子とからなり、液晶材料中に、ナノ粒子が分散されたナノ粒子−液晶分散系である。本発明のナノ粒子分散液晶は、化学修飾を施したナノ粒子を化学合成する必要がない。従って、簡便に製造できるナノ粒子分散液晶を実現することができる。
本発明のナノ粒子分散液晶は、
ここで、液晶材料とは、固体と液体の中間層である液晶相を発現する材料である。液晶材料は、一般的に室温でサブPa程度の低い蒸気圧を有する。液晶材料は、誘電率,屈折率,導電率などの物理的性質の異方性を有する。本発明に適用可能な液晶材料は、このような性質を有するものであれば、特に限定されるものではない。また、液晶材料は、単体であっても、複数種類の液晶混合物であってもよい。また、液晶材料の分子構造,液晶相,および物理的性質は特に限定されない。
【0053】
具体的には、液晶材料は、リオトロピック液晶であっても、サーモトロピック液晶であってもよい。サーモトロピック液晶は、カラミティック液晶,ディスコティック液晶,およびサニディック液晶のいずれであってもよい。
【0054】
液晶相は、ネマティック相,スメクティック相(スメクティックA相〜I相の各相),コレスティック相,カラムナー相,ディスコティックカラムナー相,バナナ相のいずれであってもよく、またブルー相やTGB(Twist Grain Boundary)相などのフラストレート相であってもよい。ブルー相は、ブルー相I,ブルー相II,ブルー相IIIのいずれであってもよく、コレスティックブルー相,スメクティックブルー相であってもよい。フラストレート相は、液晶中に局所的に不安定な領域を含むマクロ構造を形成する相である。言い換えれば、フラストレート相は、液晶中に、局所的な配向の矛盾点を持ちながらも、全体として安定に存在する相である。例えば、ブルー相は、フラストレート相の典型例である。また、液晶相は、キラル液晶相であってもよく、アキラル液晶相であってもよい。
【0055】
具体的な液晶分子は、特に限定されるものではなく、シアノビフェニル類,コレステリル類,炭酸エステル類,フェニルエステル類,シッフ塩基類,ベンジジン類,アゾキシベンゼン類,キラル基を持つ強誘電性液晶,液晶高分子などの各種液晶分子を用いることができる。例えば、4−ペンチル−4−シアノビフェニル(5CB),または,メルク社より提供されているE−47,E−44,MLC−6610などの混合系液晶などを挙げることができる。
【0056】
ここで、現在、液晶ディスプレイ分野に応用されている液晶材料は、サーモトロピック液晶であり、その液晶相はネマティック相を示す。このため、本発明においても、液晶材料は、サーモトロピック液晶であって、ネマティック相を発現するものであることが好ましい。これにより、液晶表示装置の高速化,高精細化,および高機能化を実現することができる。
【0057】
また、フラストレート相(特にブルー相)を示す液晶は、光学的あるいは電気光学的にユニークな性質を示す。例えば、ブルー相を示す液晶は、応答速度が1ms以下と非常に速い上、光学的に等方性で、可視光波長オーダーの周期の3次元格子構造を有する。このため、ブルー相を示す液晶を用いた液晶表示装置は、視野角依存性がなく、配向膜や、ラビングなどの配向処理がいらない。従って、ブルー相を示す液晶を用いた液晶表示装置は、飛躍的な高性能化と、低コスト化とを両立できる次世代の液晶表示装置として大きな注目を集めている。ただし、ブルー相を示す液晶は、液晶相を発現する温度範囲が、他の液晶と比べて極端に狭いため、この温度範囲の狭さが、ブルー相を示す液晶の実用化を妨げる最大の問題となっている。すなわち、この温度範囲を拡大することが、フラストレート相、特にブルー相の実用化の道を切り開くために、必要不可欠となる。
【0058】
本発明において、フラストレート相、特にブルー相(コレスティックブルー相)を示す液晶材料中に、ナノ粒子が分散したナノ粒子分散液晶は、ナノ粒子の分散により高速化,高精細化,および高機能化を実現することができる。それだけではなく、そのナノ粒子分散液晶は、液晶相(フラストレート相)を発現する温度範囲が、拡大するという注目すべき効果を示す。従って、フラストレート相、特にブルー相を示す液晶材料の最大の欠点を克服したナノ粒子分散液晶を実現することができる。
【0059】
一方、このような液晶材料中に分散されるナノ粒子は、粒子径(長径)が100nm以下である微粒子であれば特に限定されるものではない。本発明のナノ粒子分散液晶において、ナノ粒子の適切な粒子径は、液晶材料の種類によって異なるため、特に限定されるものではない。しかし、ナノ粒子の粒子径は、1nm〜20nmであることが好ましく、1nm〜10nmであることがより好ましく、1nm〜5nmであることが特に好ましい。これにより、ナノ粒子によって液晶の配向が大きく乱すことがなく液晶の物性を変化させることが可能となる。
【0060】
また、ナノ粒子は、純物質であってもよく、混合物であってもよい。さらに、純物質は、単体であってもよく、化合物であってもよい。また、ナノ粒子は、気体、液体、固体のいずれであってもよいが、好ましくは固体である。ナノ粒子は、金属、半金属、無機酸化物、半導体,磁性体,有機物などの幅広い材料を単独でまたは複数種類を組み合わせて適用することができる。
【0061】
金属としては、例えば、金,銀,銅,白金,パラジウム,アルミニウム,タングステン,鉛,亜鉛,コバルト,ニッケル,インジウム,アルミニウム,鉄,ロジウム,マンガン,クロム,モリブデン,カドミウム,チタン,ルテニウム,オスミウムなどが挙げられる。
【0062】
半金属としては、例えば、ビスマス,テルルなどが挙げられる。
【0063】
無機酸化物としては、例えば、Al,MgO,MoO,Nb,SiO,SnO,BaTiO,TiO,UO,V,WO,ZrO,Fe,CuO,CdO,In,Co,HfOなどが挙げられる。
【0064】
半導体としては、例えば、ZnS,CdS,ZnSe,ZnTe,CdTe,CdSeなどが挙げられる。
【0065】
磁性体としては、FePt,CoPt,MPt,Mpdなどが挙げられる。
【0066】
有機物としては、C60系、カーボンナノチューブなどが挙げられる。
【0067】
本発明のナノ粒子分散液晶において、ナノ粒子は、液晶材料との相溶性を向上させる処理が施されていない。ここで、「液晶材料との相溶性を向上させる処理」とは、互いに混ざりにくいナノ粒子と液晶材料との相溶性を高めるために、ナノ粒子表面に何らかの処理が施されていることを示す。例えば、特許文献1のように、液晶中にナノ粒子を良好に分散させるために、ナノ粒子の表面(周囲)に、液晶分子または液晶様分子を化学合成することなどを示す。
【0068】
本発明のナノ粒子分散液晶において、液晶材料を構成する液晶分子は、ナノ粒子の表面に物理吸着しており、従来(特許文献1)のように化学結合(化学吸着)していないことが好ましい。これにより、ナノ粒子表面に化学修飾が施されていなくても、ナノ粒子の凝集を防ぐことができる。従って、ナノ粒子が凝集せずに液晶材料中に分散したナノ粒子分散液晶を実現することができる。
【0069】
なお、「物理吸着」とは、化学結合を伴わない物理的な力による吸着を示す。例えば、ファンデルワールス力などの弱い分子間力(ファンデルワールス力)による吸着が挙げられる。従って、「液晶分子がナノ粒子の表面に物理吸着する」とは、液晶分子がナノ粒子表面に、ファンデルワールス力等によって物理吸着した状態を示す。これに対し、特許文献1では、液晶分子がナノ粒子の表面に化学結合(化学吸着)している。従って、本発明と特許文献1とでは、ナノ粒子の表面の状態が全く異なる。
【0070】
本発明のナノ粒子分散液晶において、ナノ粒子の含有量は、液晶材料とナノ粒子との組み合わせや、ナノ粒子分散液晶の性質によって異なるため、特に限定されるものではない。ただし、ナノ粒子の含有量が多すぎると、ナノ粒子が凝集する、あるいは液晶性を喪失する可能性があるため、これらのことが起こらない程度の含有量であることが好ましい。例えば、ナノ粒子の含有量は、ナノ粒子分散液晶の全重量に対して、0.1wt%〜5wt%であることが好ましく、0.1wt%〜3%がより好ましい。これにより、ナノ粒子が凝集せず、また液晶性を喪失せずに、液晶材料中にナノ粒子が分散する。
【0071】
また、本発明のナノ粒子分散液晶において、ナノ粒子は凝集していないことが最も好ましい。言い換えれば、ナノ粒子が凝集して形成されたナノ粒子凝集体が、ナノ粒子分散液晶中に、存在しないことが最も好ましい。ここで、ナノ粒子凝集体とは、ナノ粒子が凝集して形成された粒子径が100nmより大きな塊を示す。ナノ粒子凝集体は、ナノ粒子分散液晶の特性に影響を及ぼさない範囲で、ナノ粒子分散液晶中に存在していてもよい。例えば、ナノ粒子分散液晶中に、1重量%以下のナノ粒子凝集体が存在していてもよい。
【0072】
本発明のナノ粒子分散液晶は、通常の液晶のように流動性と異方性を兼ね備えている為、液晶表示装置の材料として利用することができる。液晶にナノ粒子が含まれていることによって、フレデリクス転移の閾値電圧の低下,誘電異方性の増加,スイッチング速度の増加などの特性を向上させることができる。従って、液晶表示装置の高速化,高精細化,および高機能化を実現することができる。
【0073】
また、本発明のナノ粒子分散液晶は、単独で利用することもできるが、液晶材料の高機能化を目的として、種々の添加物を添加することもできる。このような添加物としては、例えば、フラストレート相(特にブルー相)を示す液晶材料の発現範囲を拡大するために、高分子またはキラルドーパントを添加してもよい。より具体的には、フラーレン,カーボンナノチューブ,デンドリマー等を添加して、ブルー相の発現範囲を拡大してもよい。なお、添加物は、液晶材料に分散されやすくするため、適当なメソゲン基等の修飾基を有するものであることが好ましい。
【0074】
以上のように、本発明のナノ粒子分散液晶は、液晶材料中に、化学修飾が施されていないナノ粒子が分散されている。このため、従来のように、化学修飾を施したナノ粒子を化学合成する必要がない。従って、簡便に製造できるナノ粒子分散液晶を実現することができる。
【0075】
(2)ナノ粒子分散液晶の製造方法
上述のように、本発明のナノ粒子分散液晶は、化学修飾が施されていないナノ粒子が、液晶材料中に分散されているため、化学修飾を施したナノ粒子を化学合成する必要がない。また、液晶材料の蒸気圧は低いため、数Pa程度の低真空(低減圧)であれば蒸発しない。従って、本発明のナノ粒子分散液晶は、物理蒸着によって、極めて簡便に製造することができる。
【0076】
すなわち、本発明のナノ粒子分散液晶は、物理蒸着によりターゲット材から形成された原子や分子を液晶材料中でナノサイズの粒子に成長させることにより製造することができる。
【0077】
ここで、「物理蒸着(PVD)」とは、高温加熱,スパッタリングなどの物理的方法によってターゲット材を蒸発させ、ターゲット材から放出された原子または分子を、液晶材料に付着させることを示す。具体的には、「物理蒸着」には、例えば、スパッタリング,真空蒸着,イオンプレーティングなどが含まれる。
【0078】
一方、物理蒸着に用いられるターゲット材は、物理蒸着によって原子または分子が放出されるものである。すなわち、ターゲット材は、ナノ粒子前駆体である。ターゲット材は、形成するナノ粒子に応じて選択すればよく、特に限定されるものではない。例えば、ターゲット材は、上述のナノ粒子として例示した金属,半金属,無機酸化物,半導体,磁性体,有機物などの幅広い材料を適用することができる。これにより、幅広い材料のナノ粒子を、液晶材料中に分散させることができる。
【0079】
ここで、本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法では、化学蒸着法(CVD法)や物理蒸着法(PVD)等の乾式製膜法により基板上にターゲット材を析出させる方法と同様の装置および手順で実施可能である。例えば、物理蒸着法における基板の代わりに、液晶材料を用いる。これにより、物理蒸着によってターゲット材から放出された原子または分子が集合しナノ粒子が形成され、液晶材料中に、ナノ粒子を分散させることができる。
【0080】
ただし、上述のように、液晶材料は、自己組織化能が強いが、流動性を有するため、一般的に室温でサブPa程度の有限の蒸気圧を有する。また、液晶材料は、高温で分解する可能性がある。例えば、液晶材料が5CBの場合、蒸気圧は90℃でおよそ0.23Paであり、100℃で数分放置すると熱分解し液晶性を示さなくなる。液晶材料の沸点および蒸気圧は、液晶材料の種類,液晶材料の分子構造などによって異なる。このため、物理蒸着の条件は、液晶材料に応じて設定すればよく、特に限定されるものではない。ただし、物理蒸着は、液晶材料が蒸発や分解しない程度の真空条件(真空度)および温度条件で行うことが好ましい。
【0081】
このような液晶材料の性質および坩堝が不要であること、並びに高純度のナノ粒子を形成できることを考慮すると、物理蒸着は、スパッタ蒸着(スパッタリング法)であることが好ましい。スパッタ蒸着は、あまり高温を必要とせず、また液晶材料が蒸発してしまうような高真空も必要としない。つまり、スパッタ蒸着は、低真空条件下で高純度のナノ粒子を形成することができる。このため、液晶材料の熱分解および蒸発を防ぎつつ、短時間のスパッタリング時間で高純度のナノ粒子を形成することができる。従って、ナノ粒子分散液晶の製造時間を短縮することができる。
【0082】
ここで、スパッタ蒸着を行うスパッタリング装置の構成は、特に限定されるものではなく、従来公知の蒸着装置を用いることができる。例えば、スパッタリング装置は、真空にすることが可能な蒸着チャンバと、蒸着チャンバの上面に設置されターゲット材を装着可能な陰極と、陰極に対向する位置に設置された陽極とを備えたものを使用することができる。この場合、ターゲット材を陰極に装着し、液晶材料を入れた容器または液晶材料を滴下した基板を、陽極上に配置する。そして、蒸着チャンバ内を、真空又はガス雰囲気下(例えばアルゴンガスなど)にした状態で、陰極に高電圧を印加する。これにより、蒸着チャンバ内にグロー放電が発生し、グロー放電によって生じたガスイオンがターゲット材に衝突することにより、ターゲット材を構成している原子または分子がスパッタ蒸発される。そして、ターゲット材からたたき出された原子または分子が、対向する液晶材料に到達する。到達した原子または分子は、流動性を有する液晶材料内に侵入して集合する。その結果、その原子または分子が液晶材料中で成長し、ナノ粒子が形成され、分散する。つまり、このナノ粒子は、ターゲット材を構成している原子または分子から構成される。このようにして形成されたナノ粒子は、ターゲット材から直接形成されるため、純度が高く、副生成物もない。しかも、ナノ粒子表面も化学修飾されていない。
【0083】
一方、液晶材料を構成する液晶分子は、成長したナノ粒子の表面(周囲)に物理吸着する。このため、ナノ粒子表面が液晶分子によってある程度覆われると、ナノ粒子の成長がとまる。さらに、ナノ粒子表面は、液晶分子で覆われているため、ナノ粒子の凝集を防ぐことができる。従って、ナノ粒子が凝集することなく、液晶材料中にナノ粒子を分散させることができる。
【0084】
このようなスパッタ蒸着などの物理蒸着によって、ターゲット材からナノ粒子が形成され、形成されたナノ粒子が液晶材料中に分散する原理は、以下のように説明することができる。
【0085】
通常、ある大きさのナノ粒子を極少量液晶材料に添加した場合、ナノ粒子間の距離が離れているため、凝集したり液晶材料の配向を乱したりすることなく液晶中に分散する。しかし、ナノ粒子間に働く相互作用が強い場合や、ナノ粒子の添加量が多くなりすぎる(ナノ粒子濃度が高くなりすぎる)と、ナノ粒子同士が凝集してしまう。そこで、従来は、ナノ粒子表面に、液晶材料との相溶性を高めるための修飾基を付与することによって、物理的にナノ粒子間が接触しない(凝集しない)ようにするなどの処理が施される。
【0086】
これに対し、本発明では、物理蒸着によりターゲット材を構成する原子、分子、またはそれら少数からなるクラスターを放出させて、その原子、分子、またはクラスターを液晶材料に衝突(付着)させる。このため、その原子または分子が液晶材料に接触した時点では、液晶材料の配向は乱されない。また、液晶材料は流動性を有するため、液晶材料に衝突した原子、分子、またはクラスターは、次々に液晶材料中に侵入して集合する。これにより、ボトムアップ的に、数nm程度大のナノ粒子が形成される。一方、ナノ粒子が形成される段階で、液晶材料を構成する液晶分子は、成長したナノ粒子表面(周囲)に物理吸着によって結合する。このように、ナノ粒子表面に物理吸着した液晶分子は、ナノ粒子の成長を妨げると共に、ナノ粒子同士の凝集を防ぐように働く。このため、ナノ粒子の成長は、ある程度の大きさで止まる。従って、ナノ粒子同士が凝集せずに液晶材料中に分散したナノ粒子分散液晶が製造される。
【0087】
このように、物理蒸着によってナノ粒子を形成すると、基本的に、液晶材料中でナノ粒子が形成される。また、この場合、液晶材料の種類に応じて、ナノ粒子の大きさ(粒子径)が変化する。すなわち、特許文献2では、ナノ粒子前駆体を付着する溶媒としてイオン液体が用いられている。そして、そのイオン液体の種類に応じて、形成されるナノ粒子の粒子径が異なっている。例えば、イオン液体の親水性の度合いによって、ナノ粒子の粒子径が制御されている。
【0088】
一方、本発明においても、イオン液体と同様に流動性のある液晶材料を、ターゲット材から放出された原子、分子、またはクラスターを衝突させる溶媒として用いている。このため、液晶材料の物性(親水性の度合い,粘弾性係数等)によって、その液晶材料中に分散できる程度の大きさのナノ粒子にまでしか成長しない。従って、液晶材料の種類に応じて、ナノ粒子の粒子径を調整することができる。例えば、後述の実施例では、液晶材料として5CBを用いた場合、粒子径が3nm程度の金ナノ粒子が形成されている。一方、液晶材料として、混合型ネマティック液晶E−47を用いた場合には、1nm程度の金ナノ粒子が形成されている。
【0089】
本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法において、液晶材料中のナノ粒子の含有量は、蒸着時間等の蒸着条件によって調整することができる。上述のように、ナノ粒子の含有量は、液晶材料とナノ粒子との組み合わせ、ナノ粒子分散液晶の性質によって異なるため、特に限定されるものではない。つまり、蒸着条件も、特に限定されるものではない。ただし、ナノ粒子の含有量が多すぎると、ナノ粒子が凝集する可能性があるため、凝集しない程度の含有量となるように蒸着条件を設定することが好ましい。例えば、ナノ粒子の含有量が、ナノ粒子分散液晶の全重量に対して、0.1wt%〜5wt%となるように蒸着条件を設定することが好ましく、0.1wt%〜3%となるように蒸着条件を設定することがより好ましい。これにより、ナノ粒子が凝集せずに、液晶材料中にナノ粒子を分散することができる。
【0090】
なお、上記の説明では、スパッタ蒸着の場合の製造方法について説明しているが、他の物理蒸着についても、同様の原理で液晶材料中にナノ粒子を分散させることができる。
【0091】
このように、本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法では、物理蒸着によって、ターゲット材から直接ナノ粒子が形成される。このため、従来のように、表面に化学修飾を施したナノ粒子を化学合成する必要も、副生成物を除去する必要もない。しかも、ナノ粒子表面に液晶分子が物理吸着するため、ナノ粒子同士が凝集しない。従って、化学修飾を施すことなくナノ粒子の凝集を抑制しつつ、高純度のナノ粒子が分散したナノ粒子分散液晶を簡便に製造することができる。
【0092】
なお、スパッタ蒸着は、例えば、DCスパッタ方式、RFスパッタ方式、マグネトロンスパッタ方式、イオンビームスパッタ方式などを用いることが可能である。
【0093】
また、スパッタ蒸着の条件(ナノ粒子を形成する条件)は、空気中でも、ガス雰囲気下でもよい。ガス雰囲気下で行う場合、アルゴンガスなどの希ガスを用いるのが一般的である。より高純度のナノ粒子を製造するためには、蒸着チャンバを一度高真空まで排気したのち、希ガスを蒸着チャンバに導入することが好ましい。この場合、排気の最中には液晶材料を蒸着チャンバ(メインチャンバ)脇のロードロック室にいれておき、希ガス導入後、蒸着チャンバに導入することが好ましい。これにより、液晶材料が排気中に蒸発してしまうのを防ぐことが可能である。この手法によってナノ粒子を形成すれば、副生成物なども出さずに、短時間のスパッタリング時間で高純度のナノ粒子を大量に製造することが可能である。
【0094】
なお、物理蒸着を行う際、液晶材料は液晶相を示している必要はなく、等方相の状態であってもよい。すなわち、ターゲット材を構成している原子または分子を付着させるときの液晶材料の状態は、液晶相であっても、等方相であってもよい。
【0095】
また、物理蒸着を行う際に、ナノ粒子は、ターゲット材から放出された原子または分子は、蒸着チャンバ内で凝集させて形成しても、液晶材料中で凝集させて形成しても、その両方で凝集させて形成してもよい。しかし、液晶材料中でナノ粒子を形成すると、ターゲット材から放出された原子または分子は、液晶材料中に侵入する前に凝集しない。これにより、ナノ粒子の凝集(ナノ粒子凝集物の形成)をより確実に防ぐことができる。従って、より高純度のナノ粒子が分散されたナノ粒子分散液晶を製造することができる。それゆえ、ターゲット材から放出された原子または分子を、液晶材料中で凝集させてナノ粒子を形成することが好ましい。
【0096】
また、物理蒸着の際の、ターゲット材と液晶材料との距離は、特に限定されるものではないが、ターゲット材と液晶材料とを近接させて物理蒸着を行うことが好ましい。これにより、ターゲット材から放出された原子または分子が、液晶材料中へ侵入する前に凝集するのを防ぐことができる。従って、より高純度のナノ粒子が分散されたナノ粒子分散液晶を、短時間で製造することができる。なお、ターゲット材と液晶材料との距離は、蒸着条件,蒸着装置のスケール,ターゲット材の種類などによって異なるため、一定ではない。ターゲット材と液晶材料との距離は、ターゲット材から放出された原子または分子が、液晶材料中へ侵入する前に凝集しなければよく、例えば、3〜10cmであることが好ましく、3〜5cmであることがより好ましい。
【0097】
また、物理蒸着は、液体材料を静置した状態で行うことが好ましい。このように、液晶材料を静置した状態で物理蒸着を行うと、非特許文献1で使用される特殊な回転ローラを必要としない。これにより、スパッタリング装置等の蒸着装置を改良することなく、ナノ粒子分散液晶を製造することができる。また、回転ローラに液体薄膜を形成してナノ粒子を分散させる必要もない。従って、より短時間でナノ粒子分散液晶を製造することができる。なお、物理蒸着は、液晶材料とナノ粒子との分散性をよくするために、液晶材料(試料)を攪拌しながら行ってもよい。つまり、用いる液晶材料の性質に応じて、液晶材料を静置した状態で、または、攪拌しながら、物理蒸着を行うことができる。
【0098】
また、本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法において、液晶材料も特に限定されるものではない。例えば、上述のようにサーモトロピック液晶であって、ネマティック相を発現する液晶材料であれば、現存する液晶表示装置の高速化,高精細化,および高機能化を実現することができる。
【0099】
一方、フラストレート相、特にブルー相(コレスティックブルー相)を示す液晶材料であれば、液晶表示装置の高速化,高精細化,および高機能化に加えて、液晶相(フラストレート相)を発現する温度範囲が拡大するという注目すべき効果を示す。従って、フラストレート相、特にブルー相の最大の欠点を克服したナノ粒子分散液晶を製造することができる。
【0100】
以上のように、本発明のナノ粒子分散液晶の製造方法においては、物理蒸着によって液晶材料にナノ粒子を分散させる(ドープする)。このような物理蒸着によれば、ターゲット材からナノ粒子を直接形成するため、従来のようにナノ粒子表面を化学修飾する必要がない。従って、極めて簡便にナノ粒子分散液晶を製造することができる。また、液晶材料中には副生成物が存在しないため、副生成物を除去する煩雑なプロセスも必要なく、高純度のナノ粒子が形成される。しかも、化学修飾する場合に比べて、製造プロセスが圧倒的に有利である。従って、種々のナノ粒子−液晶分散系を、極めて簡便に製造することができる。また、特にスパッタ蒸着を適用できるため、ターゲット材の選択の自由度が非常に高い。
【0101】
(3)ナノ粒子分散液晶の応用
上述のように、本発明のナノ粒子分散液晶およびその製造方法では、従来(特許文献1)のように、ナノ粒子表面を、メソゲン基やチオール基によって化学的に修飾する必要がない。つまり、ナノ粒子に修飾基を全く付与せずとも高純度のナノ粒子を液晶材料中に高分散させることが可能である。しかも、本発明のナノ粒子分散液晶は、物理蒸着という極めて簡便な手法によって、製造することができる。このため、ターゲット材の選択範囲も豊富である。従って、本発明は、特に、液晶ディスプレイ分野、液晶を用いた光デバイスの分野、メタマテリアルの開発等において、大きなインパクトを与えるものであり、経済効果も非常に高い。
【0102】
(a)液晶表示装置
本発明のナノ粒子分散液晶は、液晶材料にナノ粒子が添加されているため、液晶材料の性能の向上が可能になる。例えば、複屈折率(屈折率異方性)や誘電異方性が増加することによりスイッチング速度の増加や駆動閾値電圧の低下など、電界に対する応答特性を向上させることができる。従って、液晶表示装置の高速化,高精細化,および高機能化を実現することができる。
【0103】
具体的には、本発明のナノ粒子分散液晶は、従来公知の液晶表示装置の液晶層に適用することができる。例えば、互いに対向配置された1対のガラス基板と、各ガラス基板の外側に配置された偏光板と、ガラス基板間に封入された液晶層とを備えた液晶表示装置において、この液晶層が、本発明のナノ粒子分散液晶を含有していてもよい。この液晶層は、本発明のナノ粒子分散液晶からなるもの(従来の液晶層をナノ粒子分散液晶に置き換えたもの)であってもよいし、従来の液晶層に本発明のナノ粒子分散液晶を添加したものであってもよい。なお、液晶層は、ナノ粒子分散液晶からなるものであってもよい。つまり、液晶層中のナノ粒子分散液晶の含有量は、ナノ粒子分散液晶の種類に応じて設定すればよく、特に限定されるものではない。
【0104】
一方、本発明のナノ粒子分散液晶における液晶材料が、フラストレート相、特にブルー相を示す液晶材料であれば、フラストレート相、特にブルー相を示す液晶材料を含む液晶層を備えた液晶表示装置として応用することができる。これにより、フラストレート相、特にブルー相を示す液晶材料の最大の欠点を克服し、次世代の液晶表示装置を実現することができる。
【0105】
このような液晶表示装置は、液晶材料中に、金属または強誘電体等のナノ粒子が分散されているため、複屈折や誘電率異方性の向上、閾値電圧の低下、応答速度の高速化を図ることができる。また、極めて簡便にナノ粒子分散液晶を製造することが可能なため、液晶材料を用いた情報ディスプレイの性能を向上させることができる。
【0106】
(b)その他の応用
1)レーザ分野
本発明のナノ粒子液晶分散液晶において、特定の大きさのナノ粒子を液晶中に分散させることによって、特定の波長において散乱強度が増大する。一方、ネマティック液晶に色素などのゲイン媒質を添加すると、ランダムな散乱過程を介して反転分布が形成され、レーザ発振する。レーザ発振が起こる閾値はいかに効率よく散乱が起こるかによって決まるため、ナノ粒子によって散乱をより効率的に起こすことにより、低閾値でレーザ発振させることが可能となる。
【0107】
2)光通信分野
液晶材料のような異方性媒質にナノ粒子を分散することにより、屈折率が可変な材料や負の屈折率をもつ材料の実現可能性が示されている。従って、本発明のナノ粒子分散液晶を用いてそのような新規材料を実現することができる。
【0108】
3)ナノ粒子活用分野
本発明において、液晶材料中に分散されたナノ粒子は、単離して取り出すことができる。このため、本発明は、化学修飾(表面処理)されていない無修飾ナノ粒子の製造方法に応用することができる。すなわち、液晶材料を溶媒として、液晶材料中で無修飾ナノ粒子を製造することができる。また、製造される無修飾ナノ粒子自身を、液晶材料中で化学反応に用いることも可能である。なお、無修飾ナノ粒子は、高活性光触媒,オプトエレクトロニクス素子,生体分子マーカーなどの機能材料として利用可能である。
【実施例】
【0109】
以下に、本発明の実施例を具体的に説明する。ただし、本発明に適用可能な液晶分子,液晶相,およびナノ粒子は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0110】
〔実施例1〕
(1)金ナノ粒子が分散したネマティック液晶5CBの製造および機能化
高さおよそ7mmに切ったガラススクリュー管(胴径18mm)に、4−ペンチル−4シアノビフェニル(5CB)をおよそ0.3gのせた。ここでスクリュー管を高さ7mmに切ったのは、液晶がこぼれないようにするためと、スパッタ原子を効率的に液晶に到達させるためである。なお、液晶がこぼれなければ、スライドガラスなどの平らな基板に液晶を添加しても問題ない。次に、蓋をせずにスクリュー管を、スパッタ蒸着装置内に置き、ターゲット材として金を用いて、スパッタリングを行った(蒸着チャンバ雰囲気:空気、圧力:20Pa、蒸着電流:約4.5mA、蒸着時間:30秒〜20分、ターゲット材と液晶との距離:3cm)。スパッタ後、スクリュー管内の液晶材料を回収した。
【0111】
(2)金蒸着による色の変化および吸収スペクトルの測定
図1は、純粋な5CBおよび金蒸着した5CBの消失スペクトルである。具体的には、図1は、純粋な5CBおよび金蒸着した5CBを厚さ350μmのガラスサンドイッチセルに浸透し、温度を40℃として試料を等方相とした場合の吸収スペクトルである。5CBはもともと可視光波長領域で透明であるが、金を蒸着することによって、着色していることが確認できる。吸収は、波長520nm付近に肩をもち、金ナノ粒子の表面プラズモン吸収に起因することから、スパッタ蒸着によって5CB中に金ナノ粒子が添加されたことが確認された。
【0112】
(3)相転移挙動の変化
図2は、純粋な5CBおよび金蒸着した5CBの相転移挙動を示す偏光顕微鏡像を示す図であって、(a)は純粋な蒸着前の5CBの図であり、(b)は20分間金蒸着した5CBの図である。具体的には、蒸着前の5CB、および、20分間金蒸着した5CBを厚さおよそ5mmの一様配向処理の施されたガラスサンドイッチセルに封入し、40℃から1℃/minで降温したときの相転移時の偏光顕微鏡像を示す。
【0113】
図2のように、金を蒸着することにより、5CBの相転移温度、および相転移時の挙動に変化が観測された。すなわち、図2の(a)のように、蒸着前の5CBでは透明点はおよそ35.4℃であった。これに対し、図2の(b)のように、20分間金を蒸着した5CBでは、透明点はおよそ33℃であった。また、相転移時の挙動に関しても、図2の(a)のように、純粋な5CBでは液晶と等方相領域との境界が視野を走査するように相転移が起こる。これに対し、図2の(b)のように、金蒸着したものでは10μm程度のドメインが無数に現れ、ドメインが拡大しながらくっつき、最終的に一様なテクスチャが得られた。このような結果から、液晶材料中でナノ粒子は凝集せずに分散し、その相転移挙動に影響を及ぼしていることが確認された。
【0114】
(4)誘電率の変化
図3は、純粋な5CBおよび金蒸着した5CBの誘電率の周波数依存性を示すグラフであって、(a)は短軸方向の誘電率であり、(b)は長軸方向の誘電率である。すなわち、インピーダンスアナライザ(Agilent 4294A)を用いて測定した、金蒸着した5CBの誘電率の周波数依存性を示す。液晶材料は、垂直配向処理および平行配向処理を施したセル厚およそ6μmのガラスサンドイッチセルに封入し、測定を行った。測定条件は、測定周波数範囲:40Hz−10MHz、変調振幅:300mVである。測定範囲の周波数では、5CBは元来周波数依存性を示さないが、金蒸着を施した場合には明確なデバイタイプの誘電緩和が100Hz−1kHzの間で確認された。
【0115】
このような結果は、液晶様分子で表面修飾した金属微粒子を液晶に添加した例で報告されているものと同様の現象であり(非特許文献4参照)、不均一誘電体におけるMaxwell−Wagner効果として知られている。このことから、スパッタ蒸着によってナノ粒子が5CB中に分散し、電気特性に影響を及ぼしていることが確認された。
【0116】
(5)透過電子顕微鏡観察
20分間金を蒸着した5CBをアセトンで希釈し、カーボングリッド上で乾燥した後、乾燥透過電子顕微鏡(Hitachi H−7650、加速電圧100keV)によって観察を行った。アセトンで希釈したのは、元々の溶媒の液晶を除去するためである。図4は、金蒸着した5CBの透過型電子顕微鏡像を示す図である。図4のように、5CBを金蒸着すると、粒子径(ナノ粒子の大きさ)およそ3nm、平均偏差0.49nmのナノ粒子が凝集することなく分散していることが確認された。
【0117】
〔実施例2〕
(1)金ナノ粒子が分散した混合型ネマティック液晶E−47の製造および機能化
スパッタ蒸着を施す液晶を、メルク社より販売されている混合型ネマティック液晶E−47とし、実施例1と同様の条件でスパッタ蒸着を行い、スパッタ後、スクリュー管内の液晶材料を回収した。
【0118】
(2)金蒸着による色の変化
図5は、金蒸着した混合型ネマティック液晶(E−47)を示す図である。すなわち、図5は、純粋な混合型ネマティック液晶(E−47)および金蒸着(6分,20分)した混合型ネマティック液晶(E−47)を示す図である。図5のように、もともと光散乱によって白濁しているE−47が、金を蒸着することによって黄色に着色した。なお、金ナノ粒子の表面プラズモン共鳴による赤色の着色が見られないことから、分散しているナノ粒子の粒子径は1nmオーダーであることが予想される。また、図示しないが、蒸着時間が長いほど濃くなったことから、蒸着時間が長いほど金ナノ粒子の濃度が高くなっていることが確認された。
【0119】
(3)E−47中の金ナノ粒子の透過電子顕微鏡観察
金を20分間スパッタ蒸着したE−47を、アセトンに希釈し、カーボングリッドで乾燥させた後に、透過電子顕微鏡(Hitachi H−7650、加速電圧100keV)によって観察した。図6は、金蒸着したE−47の透過型電子顕微鏡像を示す図である。図6のように、図中の補助丸印で示した箇所などに、粒子径1nm程度もしくはそれ以下の大きさのナノ粒子が形成されていることが確認できる。よって、混合型液晶E−47を用いた場合であっても、混合型液晶E−47中にナノ粒子が作製され、分散していることが確認された。
【0120】
(4)実施例1との比較
実施例1において5CBにスパッタ蒸着した場合と比較して、実施例2のようにE−47に蒸着を行った場合には、金ナノ粒子の大きさ(粒子径)が小さくなることが確認された。すなわち、液晶材料の物性によって、形成されるナノ粒子の大きさが変化することが確認された。
【0121】
(5)金ナノ粒子を分散させてE−47液晶を用いたねじれネマティック液晶における駆動閾値電圧の低下
金を20分間スパッタ蒸着したE−47をねじれネマティック液晶セルに封入し、液晶の電気光学応答特性を評価した。ねじれネマティックセルは、それぞれの基板にポリイミド(JSR:AL1254)をスピンコートし一方向にラビングしたのち、ラビング方向が直交するように重ね合わせることによって作製した。セル厚は9μmとし、対向するITO透明電極によりセル厚方向に電界を印加した。電気光学応答特性は、素子を直交偏光子の間に置き、波長632nmの単色光を入射したときの透過率の印加電界依存性を測定することによって調べた。素子に様々な周波数の矩形派を印加したときの、透過率が50%となる閾値電圧の値を図7に示す。金ナノ粒子が添加されたE−47では、20Hz−10000Hzの周波数領域において、ナノ粒子を添加していないE−47よりも閾値電圧が低下していることが確認された。閾値電圧の減少率は、最大で15%程度であった。このことより、ナノ粒子を分散させることにより液晶の性能を向上させることができる。
【0122】
〔実施例3〕
(1)銀ナノ粒子が分散したネマティック液晶5CBの製造および機能化
ターゲット材を銀とし、実施例1と同様の条件下で6分間スパッタ蒸着を行い、スパッタ後、スクリュー管内の液晶材料を回収した。
【0123】
(2)銀による液晶材料御の着色
図8は、銀ナノ粒子を添加した5CBの消滅スペクトルを示す図である。銀をスパッタ蒸着した5CBを厚さ350μmガラスサンドイッチセルに封入し、温度を40℃に保ちCCDマルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス:PMA-11)を用いて測定を行った。金を蒸着した場合と異なり、波長450nm以下で大きな光損失が確認された。このスペクトルに対応し、銀を蒸着した5CBでは黄色の着色が確認された。
【0124】
(3)実施例1との比較
純粋な液晶は光散乱により白濁して見えるのに対し、実施例1では金ナノ粒子が5CB中に分散することにより、赤黒い着色が見られた一方、銀を蒸着した場合では黄色の着色が確認された。2つの試料とも沈殿物などの見られない均一なものであったことから、2つの試料の色の違いは、液晶中に高分散しているナノ粒子の光学特性(複素誘電率)の差に起因すると考えられる。すなわち、液晶中に分散させるナノ粒子の構成原子を変化させることにより、光学特性を変化させることができる。
【0125】
〔実施例4〕
(1)金ナノ粒子が分散したコレステリックブルー液晶の作製
ターゲット材を金とし、また液晶材料を、コレステリックブルー相を発現する低分子混合液晶((46.5wt%)5CB+(46.5wt%)JC1041XX+(7.0wt%)ISO−(6OBA))として、実施例1と同様の条件で0.0186gの液晶材料に5分間スパッタ蒸着を行い、スパッタ後、サンプルを取り出した。
【0126】
(2)コレステリックブルー相の発現温度範囲の拡大
コレステリックブルー相は、自己組織的に3次元周期構造を形成するため、可視光波長領域にブラッグ回折に起因する反射ピークを示す。このため、試料の温度を制御しながら反射ピークを測定することで、コレステリックブルー相の発現温度範囲を調べることが可能である。
【0127】
そこで金をスパッタした低分子混合液晶を厚さ6μmのガラスサンドイッチセルに封入し、温度を0.1℃/minで降温しながら偏光顕微鏡観察および反射スペクトル計測を行った。図9は、純粋なコレステリックブルー相を示す液晶および金蒸着したコレステリックブルー相を示す液晶の反射スペクトルである。つまり、図9では、試料の反射スペクトルの温度依存性が示されている。純粋な液晶材料はコレステリックブルー相をおよそ3.2℃の温度範囲で発現した。これに対し、金ナノ粒子を添加した液晶材料は、その発現温度がおよそ8.2℃に拡大した。この結果は、ナノ粒子がコレステリックブルー相などのフラストレート相の発現温度範囲を拡大することが可能であることを示している。
【0128】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明によれば、金属、誘電体、半導体などのナノ粒子を液晶材料中に分散させることによって、液晶材料に新たな機能を付与することが可能である。このため、本発明は、情報ディスプレイ分野,レーザ分野,光通信分野,ナノ粒子活用分野等の各分野に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理蒸着によりターゲット材から形成されたナノ粒子を液晶材料中に分散させることを特徴とするナノ粒子分散液晶の製造方法。
【請求項2】
上記物理蒸着は、スパッタ蒸着であることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子分散液晶の製造方法。
【請求項3】
上記ターゲット材から放出された原子または分子を、上記液晶材料中で凝集させてナノ粒子を形成することを特徴とする請求項1または2に記載のナノ粒子分散液晶の製造方法。
【請求項4】
上記物理蒸着は、上記ターゲット材と液晶材料とを近接させて物理蒸着を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ粒子分散液晶の製造方法。
【請求項5】
上記物理蒸着は、上記液晶材料を静置した状態で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノ粒子分散液晶の製造方法。
【請求項6】
上記液晶材料は、フラストレート相を示すものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノ粒子分散液晶の製造方法。
【請求項7】
液晶材料中に、液晶材料との相溶性を向上させる処理が施されていないナノ粒子が分散されていることを特徴とするナノ粒子分散液晶。
【請求項8】
上記液晶材料を構成する液晶分子が、ナノ粒子の表面に物理吸着していることを特徴とする請求項7に記載のナノ粒子分散液晶。
【請求項9】
上記液晶材料が、フラストレート相を示すものであることを特徴とする請求項7または8に記載のナノ粒子分散液晶。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載のナノ粒子分散液晶を含む液晶層を備えることを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−42748(P2011−42748A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192065(P2009−192065)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】