説明

ナノ粒子媒介性マイクロ波処置法

磁気ナノ粒子を使用し、細胞および組織を処置することを目的としたマイクロ波治療を促進するための方法が提供される。ナノ粒子は、マイクロ波放射を熱に変換するように設計され、さらにナノ粒子は、特異的な組織の標的化およびインサイチュ効果を高めるための他の機能性を含みうる。一実施形態では、ナノ粒子は組織系に導入され、マイクロ波場が適用される。ナノ粒子は、熱を放射することによって、マイクロ波エネルギーに対して反応し、それによって組織を加熱し、高熱(50℃より低い)または温熱療法(50℃より高い)を誘発する。ナノ粒子は、特定のマイクロ波周波数および/または全マイクロ波スペクトル、すなわち300MHz(3×10Hz)〜300GHz(3×1011Hz)を網羅しうるマイクロ波周波数の範囲で最適な熱発生応答を示すように設計してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、同時係属中の2008年4月9日に出願された表題「Nanoparticle−mediated microwave thermotherapy and tissue treatment methods based thereon」の米国仮特許出願第61/043,472号明細書(その全体が参照により本明細書中に援用される)に対する優先権およびその利益を主張する。
【0002】
1.技術分野
本発明は、磁気ナノ粒子およびナノ粒子媒介性マイクロ波処置法に関する。本発明はまた、ナノ粒子媒介性マイクロ波温熱療法を使用する、腫瘍および癌を処置するための方法に関する。本発明は、さらに、ナノ粒子媒介性マイクロ波処置を施すためのシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
2.発明の背景
2.1 良性前立腺過形成(BPH)
健常なヒト男性の前立腺は、クルミよりやや大きく、一般に老化によってサイズが大きくなる。米国における60〜70歳の間の過半数と70〜90歳の間の90パーセントに相当する男性が、良性前立腺肥大または前立腺肥大としても知られる良性前立腺過形成(BPH)の症候を有する(Verhamme K.M.,D.J.、Bleumink G.S.、「Incidence and prevalence of lower urinary tract symptoms suggestive of benign prostatic hyperplasia in primary care-the Triumph project.」 European Urology、2002年 42(4):323−328頁)。BPHでは、前立腺肥大は、尿道および膀胱に対して圧迫し、これは排尿困難、頻尿、尿路感染のリスク増大および尿閉の症候につながる(Verhamme K.M.,D.J.、Bleumink G.S.、「Incidence and prevalence of lower urinary tract symptoms suggestive of benign prostatic hyperplasia in primary care-the Triumph project.」 European Urology、2002年 42(4):323−328頁)。
【0004】
BPHの原因は未知であるが、それはホルモン活性に起因しうると考えられ、前立腺はまず思春期の間の12か月の期間を通して自然に成長し、これはおそらくは性ホルモンであるテストステロンのレベルに関連している(Verhamme K.M.,D.J.、Bleumink G.S.、「Incidence and prevalence of lower urinary tract symptoms suggestive of benign prostatic hyperplasia in primary care-the Triumph project.」 European Urology、2002年 42(4):323−328頁)。
【0005】
前立腺の構造および機能は、当該技術分野で周知である。膀胱の出口は尿道であり、尿道は尿を保持するために締め付ける肥厚筋線維から構成される内括約筋としても知られる膀胱頚部によって膀胱に接続されている。膀胱頚部の直後に、直腸に近接しかつ尿道の周囲にあるのが前立腺である。前立腺は、精液の10〜30%を占める透明でやや塩基性の流体を分泌し、保存する機能がある腺である。前立腺はまた、射精の間に精液を尿道へ放出しやすくするのに用いられる平滑筋組織を有する。精液の残りは、精液にとって必要なタンパク質、酵素、フルクトース、および脂肪酸誘導体を分泌する膀胱の後面上の腺の一対の精嚢によって生成される。精液はまた、前立腺近位の尿道に、また睾丸に由来する2つの輸精管を介して排出される。前立腺の下部は、さらに尿を保持するのに役立つ外括約筋である。次いで、尿道が、精液および尿が身体から排出されるペニスに沿って続いている。
【0006】
2.2 前立腺癌
前立腺癌は、男性において最も一般的に診断される癌であり、男性における癌死の肺癌に次いで2番目に多い死因である。それは、70歳を超えるすべての男性の半数程度および90歳を超えるほぼすべての男性において見出されると推定されている。1980年代に血液試験での前立腺特異抗原(PSA)についての発見以来、前立腺癌は今や、これまでよりずっと早期の段階で検出することが可能である。
【0007】
1999年には、250,000を超える新たな前立腺癌の症例があり、45,000名が死亡した。診断の平均年齢は72歳であり、症例の95%は45〜89歳の間で診断される。前立腺癌の発生率は、異なる民族の間で変動する。発生率は、アフリカ系アメリカ人において最高であり、アジア系アメリカ人において最低である。前立腺癌の死亡率はこの10年にわたって徐々に上昇しており、それは、米国人口が高齢化しており、心血管死亡率が低下しているという事実に起因する可能性が高い。
【0008】
前立腺癌のレベルを分類するためのいくつかの病期分類システムがある。最も広く認められているシステムがTNM分類である。ステージI−(T1)−腫瘍が前立腺に限局された状態であり、DREで検出するには小さすぎる。ちなみに、これはPSAの上昇によって偶然見出されるかまたは前立腺の経尿道的切除後に見出される癌である。ステージII−(T2)−腫瘍がまだ前立腺に限局されているが、この段階ではDREで検出感度があるほどに十分に大きい。ステージIII−(T3)−前立腺癌は前立腺被膜を貫通して広がっており、局所的に精嚢などの周囲組織に作用しうる。ステージIV−(T4)−癌がリンパ節または骨部位または肝臓もしくは肺などの他の器官に作用する転移性前立腺癌である。
【0009】
BPHと同様、前立腺癌は、悪性であり、転移性疾患および死亡につながりうる点を別にすれば、前立腺の腫瘍である。現行の治療的療法は、治療時のステージに依存し、疾患が限局化されるかまたはステージIおよびIIである時点で最も奏功する。治療的療法は、悪性前立腺組織を除去または破壊することを目標とした。外科的治療または前立腺全摘出術は全前立腺を除去し、出血、肺動脈塞栓、失禁およびインポテンスなどの周知の手術危険度を有する。最小侵襲治療は、放射線療法、凍結療法および高強度焦点式超音波を含む。すべてが、前立腺内部の腫瘍組織を破壊することによって癌を治療することを目標とする。すべてのこれらの治療は、失禁、インポテンス、狭窄形成、および瘻孔のリスクを有する。放射線療法は、膀胱腫瘍などの続発性癌のリスクを有する。これらの治療が最小侵襲である一方、現在、外来または「診療所(office)」での処置とみなされていない。
【0010】
2.3 経尿道的マイクロ波温熱療法(TUMT)
経尿道的マイクロ波温熱療法(TUMT)は、尿道から前立腺組織へのマイクロ波放射の送信に使用されるマイクロ波アンテナを有するカテーテルに基づくシステムからなる、BPHの症候のための一般的な処置である。デバイスは、マイクロ波放射を前立腺に送信し、組織壊死をもたらし、かつ尿道前立腺部を膨張させるのに十分な前立腺内温度が得られる。
【0011】
最新のTUMTデバイスは、高い前立腺内温度が最適な治療にとって必要であることを前提に設計される。さらに、閉塞性の前立腺内組織の特異的標的化は、直腸、尿道括約筋、およびペニスなどの非標的領域を損傷しないために重大である。加熱が非特異的であれば、患者の内部で重篤な合併症を引き起こし、さらにデバイスの停止をもたらすプログラム化された安全性機構によってTUMTデバイスの有効性を制限しうる(Larson T.R.,B.M.、Tri J.L.、Whitlock S.V.、「Contrasting heating patterns and efficiency of the Prostratron and Targis microwave antennae for thermal treatment of benign prostatic hyperplasia.」 Urology 1998年 51(6):908−915頁)。
【0012】
すべてのTUMTデバイスで、尿道から前立腺組織へのマイクロ波放射の送信に使用されるマイクロ波アンテナを有するカテーテルに基づくシステムが使用される。カテーテルは、膀胱内で膨らむバルーンの使用により、適切な位置で維持される。デバイスでは、尿道を保護するため、水がカテーテル内部を貫流する冷却システムが使用されることが多い。アンテナの設計を伴うこの冷却システム、出力レベル、および処置の持続時間は、組織壊死にとって十分な前立腺内温度を生成することが可能であり、また特定の加熱構成(geometry)が狙いである。例えば、Boston Scientific Prolieve TUMTデバイス(REF)では、マイクロ波アンテナの長さに沿って、尿道前立腺部を膨張しやすくするのに役立つバルーンが使用される。
【0013】
TUMTシステムの考えられる副作用および有効性は、デバイスの、前立腺内部の十分な加熱を有効に標的とする能力によって判定される。TUMTデバイスは、直腸、ペニス、および尿道などの領域を監視する温度プローブを装備し、これらの領域における予め設定された温度制限値を超える場合にはマイクロ波放射を停止させる安全性機構を有する。浮遊加熱によって影響を受けうる最も脆弱な領域は、外括約筋、膀胱頚部、ペニス、および直腸である。尿道括約筋に対する損傷は尿失禁につながり、ペニスに対する損傷は勃起機能の低下につながり、かつ直腸、具体的には肛門に対する損傷は便失禁につながりうる。
【0014】
2.4 マイクロ波適用におけるナノ粒子の使用
金ナノ粒子は、インビトロでタンパク質を遠隔加熱し、溶解させるのに使用されている(Neus G.Bastus M.J.K.、Roger Amigo、Dolors Grillo−Bosch、Eyleen Araya、Antonio Turiel、Amilcar Labarta、Ernest Giralt、Victor F.Puntes、「Gold nanoparticles for selective and remote heating of β−amyloid protein aggregates.」 Materials Science and Engineering C、2007年 27:1236−1240頁)。金ナノ粒子を有する場合と有しない場合のタンパク質溶液に、マイクロ波照射が施された。試験によると、粒子が、マイクロ波照射を介して、水溶液自体を加熱することなく発熱することが示された。Neusらの試験によると、彼らの方法が、異なる病理に関与するタンパク質および他の凝集体を除去するのに望ましい可能性がある場合、インビトロで複数のシステムに拡張できることが示唆された。
【0015】
治療として磁気ナノ粒子およびマイクロ波の使用が限られることは、米国特許第6,165,440号明細書、米国特許第6,955,639B2号明細書および米国特許第7,074,175B2号明細書においても開示されている。米国特許第6,955,639B2号明細書は、開示された条件および方法がインビボでの使用を意図した非標的組織の過剰な加熱をもたらすことから、生体外組織試料のみを対象としたこの技術の使用について記載している。
【0016】
インビボでの臨床的適用以外では、マイクロ波を使用して、ナノ粒子からの加熱を誘発しているが、これらの適用では、この効果は産業用途における溶液の加熱において試験された。カーボンナノチューブ、カーボンブラック、カーボンナノチューブ−鉄粒子複合体(A.Wadhawan D.G.,J.M.Perez、「Nanoparticle−assisted microwave absorption by single−wall carbon nanotubes.」 Applied Physics Letters、2003年 83(13):2683−2685頁)および磁気ナノ粒子(Arnold Holzwarth J.L.、T.Alan Hatton、Paul E.Laibinis、「Enhanced Microwave Heating of Nonpolar Solvents by Dispersed Magnetic Nanoparticles.」 Industrial & Engineering Chemistry Research、1998年 37:2701−2706頁)などのナノ粒子が使用されている。
【0017】
ナノ粒子媒介性の高熱および温熱療法については、試験も行われており、その結果、治験や商業利用がなされている。しかし、これらのプロセスにおいて、インビボでマイクロ波放射を使用している場合は全くない。カーボンナノチューブ、金および金含有ナノ粒子および磁気ナノ粒子は、臨床的に意義が高い加熱適用において先行的に使用されている(Nadine Wong Shi Kam M.O.C.、Jeffrey A.Wisdom、Hongjie Dai、「Carbon nanotubes as multifunctional biological transporters and near−infrared agents for selective cancer cell destruction.」 PNAS、2005年 102(33):11600−11605頁;Eijiro Miyako H.N.、Ken Hirano、Yoji Makita、Ken−ichi Nakayama、Takahiro Hirotsu、「Near−infrared laser−triggered carbon nanohorns for selective elimination of microbes.」 Nanotechnology 2007年 18:475103−475110頁;Xiaohua Huang I.H.E.−S.、Wei Qian、Mostafa A.El−Sayed、「Cancer Cell Imaging and Photothermal Therapy in the Near−Infrared Region by Using Gold Nanorods.」 JACS、2006年 128:2115−2120頁;Akira Ito K.T.、Kazuyoshi Kondo、Masashige Shinkai、Hiroyuki Honda、Kazuhiko Matsumoto、Toshiaki Saida、Takeshi Kobayashi、「Tumor regression by combined immunotherapy and hyperthermia using magnetic nanoparticles in an experimental subcutaneous murine melanoma.」 Cancer Science、2003年 94(3):308−313頁)。
【0018】
金ナノシェルは、磁気共鳴誘導下で腫瘍の近赤外線温熱療法を媒介するように使用されている(L.R.Hirsch,R.J.S.、J.A.Bankson、S.R.Sershen、B.Rivera、R.E.Price、J.D.Hazle、N.J.Halas、J.L.West、「Nanoshell−mediated near−infrared thermal therapy of tumors under magnetic resonance guidance.」 PNAS 2003年 100(23):13549−13554頁)。しかし、この技術は、近赤外線でのレーザー照射に対して特有である。近赤外線は、組織がほとんど透過される(すなわち発熱しない)場合の光のスペクトルである。この方法の制限は、レーザー光を処置のために送信するのに必要とされる設備および光の標的化組織への侵入深さを含む。
【0019】
磁気ナノ粒子は、インビボでの加熱適用において広く研究されたナノ材料であり、かつ前立腺癌の処置を目的とした重要な治験を経ている(Manfred Johannsen U.G.、Burghard Thiesen、Kasra Taymoorian、Chie Hee Cho、Norbert Waldofner、Regina Scholz、Andreas Jordan、Stefan A.Loening、Peter Wust、「Thermotherapy of Prostate Cancer Using Magnetic Nanoparticles:Feasibility,Imaging,and Three−Dimensional Temperature Distribution.」 Eeuropean Urology、2007年 52:1653−1662頁)。MagForce Nanotechnologies AG(Berlin,Germany)は、癌の高熱および温熱療法治療のためのこれらの材料および処置システムを商業化している(www.magforce.de)。
【0020】
Dann(表題「Cancer Therapy Treatment System」の米国特許第6,148,236号明細書、2000年11月14日に交付)は、「磁場の存在下で温度が上昇するシード(seed)」を含む「エネルギー放射要素」の使用について記載している。これらのシードはカートリッジ内に挿入され、それは標的組織内に移植される。シードは、磁場内に置かれる場合に、温度が上昇する放射性材料または非放射性材料から構成されうる(3欄、11−18行)。
【0021】
Ivkovら(表題「Thermotherapy Susceptors and Methods of Using Same」の米国特許出願公開第2008/0213382A1号明細書、2008年9月4日に公開)は、キロヘルツ周波数範囲の交流磁場(kHz AMF)が重視された温熱療法を促進するためのナノ粒子の使用について記載している。Ivkovらはまた、kHz AMFに対する考えられる代替案としてマイクロ波放射の使用について開示しているが、マイクロ波とともに使用されるナノ粒子の設計および特性については開示していない。
【0022】
しかし、インビボでの加熱適用において磁気ナノ粒子を使用する現在知られている方法の中で、インビボでの加熱においてマイクロ波を使用するものはない。磁気ナノ粒子の適用では、粒子のヒステリシス損失からの熱の放射を引き起こすキロヘルツ範囲の交流電磁場が使用されている。すべての他のナノ粒子の加熱適用では、粒子を励起し、熱を放射するため、近赤外線レーザー放射が使用されている。
【0023】
上述した研究では、キロヘルツ周波数範囲内での交流磁場によって高熱および温熱療法を促進するためのナノ粒子の使用について開示されている。しかし、これらの先行研究では、ナノ粒子からの加熱の促進がインビボで得られうるか否か、すなわち、マイクロ波照射がナノ粒子で標的化される組織内で組織単独の場合より多くの熱をもたらすか否かについて検討されなかった。それらでは、マイクロ波によって得られる加熱の差異が治療用途にとって十分である一方、非標的組織内で安全な温度を維持するか否かについても検討されなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
したがって、器官および組織内部の制御領域内、特に前立腺内にマイクロ波温熱療法を集約するための方法が当該技術分野で必要とされている。また、細胞レベルに至る制御を伴うマイクロ波温熱療法を集約するための方法も当該技術分野で必要とされている。さらに、粒子を励起し、熱を放射するための焦点マイクロ波を使用する磁気ナノ粒子の適用を用いるための方法が当該技術分野で必要とされている。焦点マイクロ波温熱療法のかかる方法であれば、BPH、前立腺癌および他のタイプの癌の処置において用いることが可能である。本願のセクション2またはいずれかの他のセクションにおけるいずれの参考文献の引用または特定も、かかる参考文献が本発明に対する先行技術として利用可能であることの承認として解釈されるべきでない。
【課題を解決するための手段】
【0025】
3.本発明の概要
細胞および組織をインビボで処置することを目的として、ナノ粒子を使用し、マイクロ波療法(例えば温熱療法)を促進するための方法が提供される。本方法は、通常より低いマイクロ波出力を用いることで、副作用に対するリスクを最小化できる一方、さらに有効な温熱量の標的化組織への局在化された正確な送達を可能にする。
【0026】
ナノ粒子は、マイクロ波放射を熱に変換するように設計される。マイクロ波活性ナノ粒子は、特定のマイクロ波周波数および/または全マイクロ波スペクトル、すなわち300MHz(3×10Hz)〜300GHz(3×1011Hz)を網羅しうるマイクロ波周波数の範囲で最適な熱発生応答を示すように設計してもよい。
【0027】
ナノ粒子は、特定の組織の標的化およびインサイチュでの効果を促進するための他の機能性を含んでもよい。ナノ粒子は、標的組織に特異的に結合する化学および/または生化学部分に結合されうる。
【0028】
一実施形態では、ナノ粒子は組織(または器官)系に導入され、マイクロ波場が適用される。ナノ粒子は、静脈内、動脈内、腔内、髄腔内、リンパ節、または局所的に(例えば、直接注入または、経皮や天然もしくは開口部経路(経口、肛門、局所など)を介する物理的配置など)導入または投与し、標的組織とその周辺に特定の負荷を行うことが可能である。
【0029】
ナノ粒子は、熱を放射することによって、マイクロ波エネルギーに対して反応し、それによって組織を加熱し、高熱(50℃未満)または温熱療法(50℃超)を誘発する。
【0030】
一態様では、処置を必要とする被験体における目的の細胞または組織を処置するための方法が提供される。本方法は、
マイクロ波活性ナノ粒子を細胞または組織に導入するステップと、
マイクロ波場を適用するステップと、
を含んでもよく、ここでマイクロ波活性ナノ粒子は、熱を放射することにより、マイクロ波場のマイクロ波エネルギーに対して反応し、
組織は加熱され、それによって組織において高熱または温熱療法を誘発する。
【0031】
一実施形態では、被験体は動物である。別の実施形態では、動物はヒトである。
【0032】
別の実施形態では、細胞または組織は、前立腺組織、腫瘍組織(例えば、良性または癌性)、固形癌組織、非固形癌組織、白血病細胞、骨髄癌細胞、リンパ行性癌(lymphogenic cancer)組織、膀胱組織、子宮組織、および子宮筋腫組織からなる群から選択される。
【0033】
別の実施形態では、マイクロ波場を適用するステップは、経尿道的適用、経直腸的適用、経皮的適用、および手術を介する直接的適用(例えば、観血的手術または当該技術分野で公知の他の適切な手術)からなる群から選択される。
【0034】
別の実施形態では、ナノ粒子は、ナノ粒子がマイクロ波の存在下で目的の細胞または組織の場合より損失が多いようにマイクロ波と相互作用するように設計または調整される。別の実施形態では、ナノ粒子は機能コーティング剤で機能化される。
【0035】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、生体適合性コーティング剤、無機コーティング剤、または親水性コーティング剤である。
【0036】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、目的の細胞または組織を標的化する標的化リガンドを含んでもよい。
【0037】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、目的の細胞または組織内でのナノ粒子の凝集を促進する材料を含んでもよい。
【0038】
別の実施形態では、ナノ粒子は、1〜500nmの直径を有する。
【0039】
別の態様では、処置を必要とする被験体における癌組織を処置するための方法が提供される。本方法は、
マイクロ波活性ナノ粒子を癌組織に導入するステップと、
マイクロ波場を適用するステップと、
を含んでもよく、ここでマイクロ波活性ナノ粒子は、熱を放射することにより、マイクロ波場のマイクロ波エネルギーに対して反応し、
癌組織は加熱され、それによって癌組織において高熱を誘発する。
【0040】
一実施形態では、被験体は動物である。別の実施形態では、動物はヒトである。
【0041】
別の実施形態では、細胞または組織は、前立腺組織、腫瘍組織(例えば、良性または癌性)、固形癌組織、非固形癌組織、白血病細胞、骨髄癌細胞、リンパ行性癌組織、膀胱組織、子宮組織、子宮筋腫組織からなる群から選択される。
【0042】
別の実施形態では、マイクロ波場を適用するステップは、経尿道的適用、経直腸的適用、経皮的適用、および手術を介する直接的適用(例えば、観血的手術または当該技術分野で公知の他の適切な手術)からなる群から選択される。
【0043】
別の実施形態では、ナノ粒子は、ナノ粒子がマイクロ波の存在下で目的の細胞または組織の場合より損失が多いようにマイクロ波と相互作用するように設計または調整される。別の実施形態では、ナノ粒子は機能コーティング剤で機能化される。
【0044】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、生体適合性コーティング剤、無機コーティング剤、または親水性コーティング剤である。
【0045】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、目的の細胞または組織を標的化する標的化リガンドを含んでもよい。
【0046】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、目的の細胞または組織内でのナノ粒子の凝集を促進する材料を含んでもよい。
【0047】
別の実施形態では、ナノ粒子は、1〜500nmの直径を有する。
【0048】
別の態様では、処置を必要とする被験体における目的の細胞または組織内でナノ粒子を凝集させるための方法が提供される。本方法は、ナノ粒子を細胞または組織に導入するステップを含んでもよく、ここでナノ粒子は機能コーティング剤で機能化される。
【0049】
別の実施形態では、本方法は、エネルギーを放射する供給源を適用するステップをさらに含んでもよい。
【0050】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、生体適合性コーティング剤、無機コーティング剤、または親水性コーティング剤である。
【0051】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、目的の細胞または組織を標的化する標的化リガンドを含む。
【0052】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、目的の細胞または組織内でのナノ粒子の凝集を促進する材料を含んでもよい。
【0053】
別の実施形態では、ナノ粒子は、1〜500nmの直径を有する。
【0054】
別の実施形態では、ナノ粒子は、放射エネルギー源からのエネルギーと相互作用するように設計または調整される。
【0055】
別の実施形態では、ナノ粒子は、ナノ粒子がマイクロ波の存在下で目的の細胞または組織の場合より損失が多いようにマイクロ波と相互作用するように調整される。
【0056】
さらに別の態様では、目的の細胞または組織を処置するためのナノ粒子が提供される。一実施形態では、ナノ粒子は、ナノ粒子がマイクロ波の存在下で目的の細胞または組織の場合より損失が多いようにマイクロ波と相互作用するように調整されるように設計され、機能コーティング剤で機能化される。
【0057】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、生体適合性コーティング剤、無機コーティング剤、または親水性コーティング剤である。
【0058】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、目的の細胞または組織を標的化する標的化リガンドを含んでもよい。
【0059】
別の実施形態では、機能コーティング剤は、目的の細胞または組織内でのナノ粒子の凝集を促進する材料を含んでもよい。
【0060】
別の実施形態では、ナノ粒子は、1〜500nmの直径を有する。
【0061】
さらに別の態様では、処置を必要とする被験体における目的の細胞または組織内でのマイクロ波放射の場の効果を制御するためのシステムが提供される。本システムは、
マイクロ波放射の供給源;
マイクロ波放射を監視するための電子システム;
マイクロ波放射の細胞または組織への送達のためのシステム;
マイクロ波放射を吸収するマイクロ波活性ナノ粒子;
ナノ粒子を投与するための注入または投与システム;
を含んでもよく、ここで
マイクロ波活性ナノ粒子は、熱を放射することにより、マイクロ波放射の場のマイクロ波エネルギーに対して反応し、かつ
細胞または組織は加熱され、それによって細胞または組織において高熱または温熱療法を誘発し、
それによってマイクロ波放射の場の効果が制御される。
【0062】
一実施形態では、効果は、本発明の方法を用いて、生物学的標的の水和を改変することによって制御される。別の実施形態では、マイクロ波放射場は、アンテナ設計を改良することによって改変される。別の実施形態では、効果は、例えば、経尿道的、経直腸的および入力の他の天然開口部経路、ならびに経皮的、および他の開放手術の接近経路を意図した設計において、直接冷却または圧力の生物学的標的への適用を用いることによって制御される。
【0063】
本発明の方法は、確立された、先進的な、臨床的に認められた通常の処置法を容易に統合できる点で有利である。さらに、マイクロ波放射を施すための既に十分に確立された基盤が存在する。本発明の改良されたマイクロ波治療法(例えば温熱療法)はまた、望ましくない組織または細胞を生体外で除去するように適合させることが可能である。
【0064】
4.図面の簡単な説明
本発明は、本明細書中で添付の図面を参照して説明され、ここで類似の参照文字は、いくつかの図面を通じて類似の要素を示す。本発明を理解しやすくするために、場合によって、本発明のさまざまな態様を誇張または拡大して示していることは理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1A】オレイン酸キャップされたFe粒子。TEMミクログラフ。詳細はセクション6を参照。
【図1B】オレイン酸キャップされたFe粒子。光散乱データから得られるサイズ分布。詳細はセクション6を参照。
【図1C】オレイン酸キャップされたFe粒子。ヒステリシスデータから得られる磁気特性。詳細はセクション6を参照。
【図2A】ナノ粒子の機能化を図示する。オレイン酸キャップされたナノ粒子、次いでリン脂質コーティング、およびタンパク質のリン脂質コーティングへの複合。
【図2B】ナノ粒子の機能化を図示する。機能化の図示を考慮して拡大表示される。
【図3A】リン脂質でキャップされたFe粒子。TEMミクログラフ。詳細はセクション6を参照。
【図3B】リン脂質でキャップされたFe粒子。光散乱データから得られるサイズ分布。詳細はセクション6を参照。
【図4】ファントム実験の設定。詳細はセクション6を参照。
【図5A】A33を標的化する一本鎖可変断片抗体とリン脂質でコーティングされたナノ粒子との複合。ナノ粒子上での抗体の存在を示すドットブロット。詳細はセクション6を参照。
【図5B】A33を標的化する一本鎖可変断片抗体とリン脂質でコーティングされたナノ粒子との複合。A33抗原を発現するSW1222大腸癌細胞(上部)を標的化し、かつA33抗原を発現しないHT29細胞(下部)を標的化しない細胞培養実験。詳細はセクション6を参照。
【図6】雄牛前立腺におけるナノ粒子で促進されたTUMTの生体外実験。詳細はセクション6を参照。
【図7A】イヌ前立腺におけるナノ粒子で促進されたTUMTのインビボ実験。グラフのデータ:黒四角:温度プローブ1、白四角:温度プローブ2、黒丸:温度プローブ3、白丸:温度プローブ4、黒の上向き三角:TUMT冷却水、白の上向き三角:MDS、黒の下向き三角:直腸の温度プローブ、破線:TUMTマイクロ波出力。ナノ粒子注入および温度プローブの位置づけの図面。詳細はセクション6を参照。
【図7B】イヌ前立腺におけるナノ粒子で促進されたTUMTのインビボ実験。グラフのデータ:黒四角:温度プローブ1、白四角:温度プローブ2、黒丸:温度プローブ3、白丸:温度プローブ4、黒の上向き三角:TUMT冷却水、白の上向き三角:MDS、黒の下向き三角:直腸の温度プローブ、破線:TUMTマイクロ波出力。イヌ1に対する実験。詳細はセクション6を参照。
【図7C】イヌ前立腺におけるナノ粒子で促進されたTUMTのインビボ実験。グラフのデータ:黒四角:温度プローブ1、白四角:温度プローブ2、黒丸:温度プローブ3、白丸:温度プローブ4、黒の上向き三角:TUMT冷却水、白の上向き三角:MDS、黒の下向き三角:直腸の温度プローブ、破線:TUMTマイクロ波出力。イヌ2に対する実験。詳細はセクション6を参照。
【図7D】イヌ前立腺におけるナノ粒子で促進されたTUMTのインビボ実験。グラフのデータ:黒四角:温度プローブ1、白四角:温度プローブ2、黒丸:温度プローブ3、白丸:温度プローブ4、黒の上向き三角:TUMT冷却水、白の上向き三角:MDS、黒の下向き三角:直腸の温度プローブ、破線:TUMTマイクロ波出力。イヌ3に対する実験。詳細はセクション6を参照。
【発明を実施するための形態】
【0066】
5.発明の詳細な説明
ナノ粒子を使用し、マイクロ波治療を媒介し、促進する、インビボで組織を処置するための方法が提供される。本方法は、発明者による、マイクロ波活性ナノ粒子が、器官および組織、例えば前立腺内部の制御領域内での細胞レベルに至る制御を伴うマイクロ波温熱療法を集約するのに使用可能であるという発見に基づくものである。ナノ粒子を使用する、かかるマイクロ波処置は、ナノ粒子を伴わない標的組織のマイクロ波処置の場合より多くの標的組織の熱をもたらす。このサイズの粒子を使用する利点は、熱伝達が周囲組織に対して迅速であり、かつ温度勾配が低下する点である。本方法はまた、通常より低いマイクロ波出力を用いることで、副作用に対するリスクを最小化できる一方、さらに有効な温熱量の標的化組織への局在化された正確な送達を可能にする。
【0067】
本発明の方法において使用されるナノ粒子は、マイクロ波放射を熱に変換するように設計される。一実施形態では、特定の組織の標的化およびインサイチュ効果を高めるための他の機能性を含むナノ粒子が使用される。
【0068】
一実施形態では、ナノ粒子が組織系に導入され、マイクロ波場が適用される。ナノ粒子は、熱を放射することによって、マイクロ波エネルギーに対して反応し、それによって組織を加熱し、高熱(50℃未満)または温熱療法(50℃超)を誘発する。マイクロ波活性ナノ粒子は、特定のマイクロ波周波数および/または全マイクロ波スペクトル、すなわち300MHz(3×10Hz)〜300GHz(3×1011Hz)を網羅しうるマイクロ波周波数の範囲で最適な熱発生応答を示すように設計してもよい。
【0069】
開示内容を明確にするため、本発明の詳細な説明は、限定はされないが、以下に示されるサブセクションに分けられる。
【0070】
5.1.マイクロ波温熱療法において使用されるナノ粒子
目的の細胞または組織を処置するためのナノ粒子が提供される。一実施形態では、ナノ粒子は、ナノ粒子がマイクロ波の存在下で目的の細胞または組織の場合より損失が多いようにマイクロ波と相互作用するように設計または調整される。ナノ粒子は、特定のマイクロ波周波数に対して反応するように設計(調整)される。したがって、細胞/組織環境下で低レベルの熱を発生する、特定のマイクロ波周波数、特定の出力(例えば低出力)で加熱されている細胞または組織の存在下で、ナノ粒子は、マイクロ波場に対して反応し、周囲細胞または組織より熱くなる(より多くの熱を放射する)。すべての組織が同じマイクロ波周波数に対して同じ様式で反応する(加熱される)ことはないことから、異なる組織が、異なるマイクロ波周波数に暴露され、所望されるマイクロ波効果を得ることが必要となる。特定のナノ粒子は、これらのマイクロ波周波数に対して調整され、必要とされる温度特性を提供しうる。
【0071】
ナノ粒子は、機能コーティング剤で機能化することが可能である。機能コーティング剤は、例えば、生体適合性コーティング剤、無機コーティング剤、または親水性コーティング剤であってもよい。機能コーティング剤は、目的の細胞または組織を標的化する標的化リガンドを含んでもよい。他の実施形態では、機能コーティング剤は、目的の細胞または組織内でナノ粒子の凝集を促進する材料を含んでもよい。かかる材料の例は当該技術分野で公知である(L.Josephsonら、Angew.Chem.Int.Ed.2001年、第40巻、第17号;Y.Junら、J.Am.Chem.Soc.2005年、127、5732−5733頁;J.M.Perezら、Nature Biotech.2002年、20、816−820頁;A.Tsourkasら、Angew.Chem.Int.Ed.2004年、43、2395−2399頁)。
【0072】
ナノ粒子を使用する1つの利点は、粒子が均一に分布される場合、熱伝達が、周囲媒体に対して迅速であり、かつ温度勾配を大幅に低下させる点である。高熱によって組織内へのナノ粒子の深浸潤が誘導されることを示す「サーマル・バイスタンダー(thermal bystander)効果」は、局所的に注入されるナノ粒子の分布までも促進する(Jordan A.,W.P.、Scholz R.、「Effects of magnetic fluid hyperthermia(MFH) on C3H mammary carcinoma in vivo.」 International Journal of Hyperthermia、1997年 13:587−605頁)。別の利点は、ナノ粒子が既存の医療基盤(clinical infrastructure)に組み入れることが可能である点である。さらなる利点は、機能化粒子が、特定の細胞内に選択的に取り込まれるように設計できることから、細胞に特異的な細胞内治療で治療の細胞レベルの制御が可能になる点である。
【0073】
通常より低いマイクロ波出力を用いることで、副作用に対するリスクを最小化できる一方、さらに有効な温熱量の標的化組織への局在化された正確な送達を可能にし、それにより、マイクロ波治療の欠点および制限が克服される。
【0074】
電磁放射の吸収に有用な金属ナノ粒子は、当該技術分野で公知である。熱を放射することによって、マイクロ波に対して反応する任意のナノ材料またはナノ粒子を
、本発明の方法において使用してもよい。これは、限定はされないが、カーボンナノチュ−ブ、金属ナノ粒子、および磁気ナノ粒子を含む。好ましい実施形態では、磁気ナノ粒子が、金属および極性液体の場合より大きいマイクロ波吸収特性を有することが多いことから使用される。ナノチュ−ブは、約1〜約10nmの直径および約100〜約数千nmの長さを有しうる。ナノ粒子は、約0.1nm〜約1000nmの直径を有しうる。特定の実施形態では、ナノ粒子は1〜500nmの直径を有する。
【0075】
例えば、米国特許第6,955,639号明細書(表題「Methods of enhancing radiation effects with metal nanoparticles」、Hainfeldら、2005年10月18日)は、直径が0.5〜400nmの金属ナノ粒子ならびにそれらを使用し、腫瘍などの標的組織を除去する場合でのX線の用量および有効性を高めるための方法を開示する。
【0076】
磁気ナノ粒子の特性、例えばその材料組成物、サイズ、および形状は、さまざまな組織タイプにより、その加熱特性およびその隔離に作用しうる。これらの特性の多くは、当該技術分野で公知の方法を用い、加熱特性を組織タイプ内部で見出される特定の条件セットに適合させることによって設計してもよい。例えば、特定の加熱特性および組織タイプに対して適合された磁性粒子を設計するための原則は、米国特許第7,074,175号明細書(表題「Thermotherapy via targeted delivery of nanoscale magnetic particles」 Handyら、2006年7月11日)、特に10−16欄において開示されている。
【0077】
粒子としての磁気材料は、強磁性共鳴の効果に起因するマイクロ波吸収から加熱を示す(Griffiths J.H.E.、「Anomalous High−Frequency Resistance of Ferromagnetic Metals.」 Nature、1946年 158(4019):670−671頁;C.Surig K.A.H.、「Interaction effects in particulate recording media studied by ferromagnetic resonance.」 Journal of Applied Physics、1996年 80(6):3427−3429頁)。磁気ナノ粒子内部の磁気双極子は、マイクロ波照射によって励起され、歳差運動をする可能性があり、磁気双極子間のカップリングおよびマイクロ波場は放射エネルギーを熱に変換する。エネルギー変換率は、適用されるマイクロ波周波数が粒子の共鳴周波数である場合に最大である。共鳴周波数は、粒子材料の磁気特性ならびに粒子のサイズおよび形状に依存する。この依存性は、マイクロ波吸収を粒子によって調節する方法を提供する(Arnold Holzwarth J.L.、T.Alan Hatton、Paul E.Laibinis、「Enhanced Microwave Heating of Nonpolar Solvents by Dispersed Magnetic Nanoparticles.」 Industrial & Engineering Chemistry Research、1998年 37:2701−2706頁)。
【0078】
粒子の材料のバルク特性によって左右されるようなより高い飽和磁化を有する粒子は、より多量のマイクロ波エネルギーを吸収する(Arnold Holzwarth J.L.、T.Alan Hatton、Paul E.Laibinis、「Enhanced Microwave Heating of Nonpolar Solvents by Dispersed Magnetic Nanoparticles.」 Industrial & Engineering Chemistry Research、1998年 37:2701−2706頁)。マイクロ波エネルギー吸収はまた、粒子の共鳴周波数が適用されるマイクロ波周波数に調整される場合に増大し、この共鳴周波数は、粒径の減少とともに低下する(Griffiths J.H.E.、「Anomalous High−Frequency Resistance of Ferromagnetic Metals.」 Nature、1946年 158(4019):670−671頁;C.Surig K.A.H.、「Interaction effects in particulate recording media studied by ferromagnetic resonance.」 Journal of Applied Physics、1996年 80(6):3427−3429頁)。
【0079】
5.2 ナノ粒子の合成
コバルト、鉄、ニッケル、およびこれらの金属の酸化物などの単金属磁気ナノ粒子の合成は、当該技術分野で公知である。追加的なヘテロ金属との金属合金は、合成されている。ヘテロ金属は、これらの材料の磁気特性に対して一層の制御をもたらす(Park H.Y.,J;Seo S;Kim K;Yoo KH.、2008年、「Multifunctional Nanoparticles for Photothermally Controlled Drug Delivery and Magnetic Resonance Imaging Enhancement」、Small 4(2):192−196頁;Digital Object Identifier(DOI):10.1002/smll.200700807)。合理的合成は、当該技術分野で公知のこれらの方法を用いて当業者によって容易に実施され、特定の周波数でマイクロ波放射を強力に吸収可能なナノ材料のライブラリーが構築されうる。
【0080】
特定の実施形態では、マイクロ波温熱療法などのナノ粒子媒介性の処置法において使用されるナノ粒子は、スピネルMFe(式中、MはMn、Fe、CoもしくはNiの+2カチオン)の、金属がドープされる磁気設計された酸化鉄(MEIO)ナノ粒子であってもよい(Lee J.H.,Y.M.;Jun J.W.;Jang J.T.;Cheon J.、「Artificially engineered magnetic nanoparticles for ultra−sensitive molecular imaging」 Nature medicine.Nature Medicine、2007年 13(1):95−99頁)。Leeらにおいて記載の本方法を用いて、極めて高い、調整可能なナノ磁性を有する磁気設計された酸化鉄(MEIO)ナノ粒子を合成することが可能である。有機媒体中、高温下で実施される、Leeらの人工合成プロトコルを用いて、サイズ、均一性、単結晶性、化学量論および高磁性が制御され、改良された高品質のナノ粒子を得ることが可能である。Leeらは、磁気スピンの大きさの異なる種々の金属ドーパントを有する一連のスピネルナノ粒子を特徴化し、評価することが可能な方法について説明している。
【0081】
粒子は、当該技術分野で公知の他の公表されたプロトコルに従って合成してもよい。例えば、4nmのFeナノ粒子は、フェニルエーテル中のFe(acac)、1,2−ヘキサデカンジオール、オレイン酸、およびオレイルアミンを窒素下で混合し、次いで260℃に加熱して作製され、30分間還流される。室温まで冷却後、黒色磁鉄鉱結晶は、過剰量のエタノールを添加後、遠心分離によって単離される(Jun Y.H.,Y.M.;Choi J.S;Suh J.S.;Cheon J.、「Nanoscale Size Effect of Magnetic Nanocrystals and Their Utilization for Cancer Diagnosis via Magnetic Resonance Imaging.」 JACS、2005年 127:5732−5733頁)。より大きいサイズのナノ結晶を得るため、より小さい4nmのFeナノ粒子が前述の追加的な前駆体材料と混合される場合、シード媒介性成長が使用される。ナノ粒子シードの量を制御することにより、さまざまなサイズを有するFeナノ粒子を形成することが可能である。例えば、62mgのFeシードナノ粒子が12nmのナノ粒子をもたらす一方、シードの質量を15mgに変化させることで16nmのFeナノ粒子が得られる(Sun S.Z.,H、「Size−Controlled Synthesis of Magnetite Nanoparticles.」 JACS、2002年 124:8204−8205頁)。CoFeなどのバイメタルの酸化鉄粒子を得るため、Co、MnもしくはNiの金属前駆体が添加される場合以外では、使用される鉄前駆体(Fe(acac))の半当量で上記プロトコルに従う。
【0082】
5.3 ナノ粒子の機能化
ナノ粒子は、当該技術分野で公知の方法を用いて機能化し、特定の特性、例えば生体適合性、親水性(水性懸濁液が得られる)、特定の細胞親和性およびインサイチュ効果を高めうる他の機能性を与えることが可能である。
【0083】
例えば、磁気ナノ粒子のコーティングまたは封入を用い、それらに生体適合性を与える(または生体適合性を改善する)ことが可能である。磁気ナノ粒子をコーティングするための材料および方法は、当該技術分野で公知である。例えば、米国特許第7,074,175号明細書(表題「Thermotherapy via targeted derivery of nanoscale magnetic particles」、Handyら、2006年7月11日)、11−12欄は、磁気ナノ粒子をコーティングするための適切な材料および方法を開示している。コーティングに適した材料は、合成および生物学的ポリマー、コポリマーおよびポリマー混合物、ならびに無機材料を含む。ポリマー材料は、アクリル酸塩、シロキサン、スチレン、酢酸塩、アルキレングリコール、アルキレン、酸化アルキレン、パリレン、乳酸、およびグリコール酸のポリマーのさまざまな組み合わせを含んでもよい。さらに、好適なコーティング材料は、ヒドロゲルポリマー、ヒスチジン含有ポリマー、およびヒドロゲルポリマーとヒスチジン含有ポリマーの組み合わせを含む。
【0084】
コーティング材料は、多糖類、ポリアミノ酸(polyaminoacid)、タンパク質、脂質、グリセロール、および脂肪酸などの生物学的材料の組み合わせを含んでもよい。コーティング材料として使用される他の生物学的材料は、ヘパリン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、キチン、キトサン、セルロース、デキストラン、アルギン酸塩、デンプン、炭水化物、およびグリコサミノグリカンであってもよい。タンパク質は、細胞外マトリックスタンパク質、プロテオグリカン、糖タンパク質、アルブミン、ペプチド、およびゼラチンを含んでもよい。これらの材料はまた、任意の好適な合成高分子材料と併用してもよい。
【0085】
無機コーティング材料は、金属、金属合金、およびセラミックの任意の組み合わせを含んでもよい。セラミック材料の例として、ハイドロキシアパタイト、炭化ケイ素、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩、フェライト、ホスホン酸塩、および元素の周期表のIV族元素の酸化物をあげてもよい。これらの材料は、任意の生物学的または合成ポリマーも含有する複合コーティング剤を形成しうる。磁性粒子が生体適合性の磁性材料から形成される場合、粒子自体の表面は、生体適合性コーティング剤として機能する。
【0086】
コーティング材料はまた、形質移入として知られるプロセスである、ナノ粒子の細胞への輸送を促進するのに役立つ場合がある。形質移入剤として知られる、かかる当該技術分野で公知のコーティング材料は、ベクター、プリオン、ポリアミノ酸、カチオン性リポソーム、両親媒性物質、および非リポソーム脂質またはそれらの任意の組み合わせを含む。好適なベクターは、プラスミド、ウイルス、ファージ、バイロン、ウイルスコートであってもよい。ナノ粒子コーティング剤は、形質移入剤と有機および無機材料との任意の組み合わせの複合材であってもよいことから、特定の組み合わせは、特定のタイプの異常細胞および組織または器官における特定の位置に適合させてもよい。
【0087】
本発明の方法において使用される親水性で生体適合性の機能ナノ粒子は、当該技術分野で公知の方法を用いて、疎水性ナノ粒子から作製してもよい。例えば、疎水性ナノ粒子は、当該技術分野で公知の方法を用いて、ナノ粒子表面上にイオン性基または極性基を導入することにより、水溶液中に懸濁可能(suspendable)にできる。「合成したままの(as−synthesized)」粒子の最初の表面特性に依存して、これは、例えば、当該技術分野で公知の化学吸着現象(例えばチオール−金属相互作用)を通じてナノ粒子表面に、共有結合を通じて、配位結合、イオン結合、π結合、または疎水相互作用を通じて合成プロセス内に導入されている可能性がある粒子表面上の反応基に分子を結合させることによって達成可能である。典型的には、分子は、粒子または粒子表面基に対して親和性を示す分子の一部と、場合によって複合材を親水性にする特性を有する分子の別の部分を有する「多機能性」であってもよい。また、分子のこの同じ部分または別の部分であれば、複合材を生体適合性にすることが可能であり、典型例であれば、ポリエチレングリコール(PEG)鎖で終端される分子となる。また、分子のこの同じ部分または別の部分であれば、追加的な材料をナノ粒子上に複合させるように、複合体表面上に追加的な機能性を導入することが可能である。
【0088】
ナノ粒子の機能化方法は、当業者にとって周知である。通常のナノ粒子の機能化方法の概説として、例えば、「Monodisperse magnetic nanoparticles for biomedical applications」、Xuら、Polymer International 56(7)、821−826頁(DOI:10.1002/pi.2251)を参照のこと。
【0089】
特定の実施形態では、リン脂質を使用し、合成したままの疎水性ナノ粒子を封入することで、それを水溶液中に懸濁可能にできる。この方法はまた、リン脂質の特性に依存して、粒子をさらなる機能化に適合させることが可能である(例えば、Benoit Dubertret P.S.、David J.Norris、Vincent Noireaux、Ali H.Brivanlou、およびAlbert Libchaber、「In Vivo Imaging of Quantum Dots Encapsulated in Phospholipid Micelles.」 Science 2002年 298(5599):1759−1762頁を参照)。
【0090】
5.4 標的化リガンドを使用するナノ粒子の機能化
特定の実施形態では、ナノ粒子が標的細胞または組織に選択的に結合することを確実にするため、1つ以上の標的化リガンドを、ナノ粒子に複合させるか、またはそれと結合させてもよい。かかる標的化リガンドは、当該技術分野で周知である。例えば、米国特許第7,074,175号明細書(表題「Thermotherapy via targeted derivery of nanoscale magnetic particles」、Handyら、2006年7月11日)、12−15欄は、標的細胞または組織に対する標的化マーカーにおいて有用な標的化リガンドを開示している。
【0091】
1つ以上の標的化リガンドとナノ粒子との会合は、標的細胞または組織に対する細胞または組織に特異的なマーカーの標的化を可能にする。用語リガンドは、例えば、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体断片、糖類、炭水化物、グリカン、サイトカイン、ケモカイン、ヌクレオチド、レクチン、脂質、受容体、ステロイド、神経伝達物質、Cluster Designation/Differentiation(CD)マーカー、およびインプリントポリマーなどを含む分子を標的化することが可能な化合物に関する。好ましいタンパク質リガンドとして、例えば、細胞表面タンパク質、膜タンパク質、プロテオグリカン、糖タンパク質、ペプチドなどがあげられる。好ましいヌクレオチドリガンドとして、例えば、完全ヌクレオチド、相補性ヌクレオチド、およびヌクレオチド断片があげられる。好ましい脂質リガンドとして、例えばリン脂質、糖脂質などがあげられる。リガンドは、磁気粒子またはコーティング剤に対して共有または非共有結合するか、またはそれと物理的に相互作用しうる。リガンドは、磁性粒子の未コーティング部分に対して、共有、非共有結合するか、または物理相互作用によって直接的に結合しうる。リガンドは、磁性粒子の未コーティング部分に対して、共有、非共有結合するか、または物理相互作用によって直接的に結合し、コーティング剤によって部分的に被覆されうる。リガンドは、バイオプローブのコーティング部分に対して、共有、非共有結合するか、または物理相互作用によって結合しうる。リガンドは、バイオプローブのコーティング部分に対して挿入されうる。
【0092】
抗体は、特定の細胞および組織の標的化を導入するため、ナノ粒子に結合しうる。抗原に特異的な結合部位を有する、任意の当該技術分野で公知の抗体または抗体誘導体、例えば、完全長抗体および抗体断片を使用してもよい。天然に存在する親和性または合成的に誘導された親和性を有する抗体または抗体誘導体を使用してもよい。ナノ粒子に複合可能な抗体(またはその断片もしくは誘導体)は、限定はされないが、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、組換え抗体、二重特異性抗体、および免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な断片、例えばscFv、F(ab)、dsFVおよびF(ab')2断片を含み、抗体をペプシンまたはパパインなどの酵素で処理することによって産生することが可能である。抗体の免疫学的に活性な断片を産生または発現するための方法は、当該技術分野で周知である(例えば、米国特許第5,648,237号明細書を参照)。他の断片は、組換え一本鎖抗体断片、ペプチドなどを含む。
【0093】
二重特異性抗体は、典型的には2つの異なる抗原に対して選択される2つの異なるエピトープに結合する非天然抗体である。二重特異性抗体の特性および設計は、当該技術分野で周知である。二重特異性抗体は、典型的には、2つの異なる断片の抗原結合領域(Fab)からなる。二重特異性抗体は、抗体を、Fc領域のみにおいてジスルフィド結合を切断することにより、2つの半分に切断することによって形成することが可能である。次いで、異なるFab領域を有する2つの抗体の半分を結合させ、典型的な「Y」抗体構造を有する二重特異性抗体が形成される。1つ以上の抗体に基づくリガンドは、ナノ粒子に複合しうる。実質的にあらゆる起源を有する抗体は、目的の細胞または組織に対する標的マーカーに結合することを条件にリガンドとして使用可能であるが、ヒト、キメラ、およびヒト化抗体は、ヒト患者の免疫原性応答を回避するのを補助する場合がある。
【0094】
抗体または他の標的化分子もしくはリガンドに複合するナノ粒子は、当該技術分野で周知であり、通常の方法を用いて合成することが可能である。例えば、抗体に複合され、かつ所望される組織に対する標的化に使用されるナノ粒子は、米国特許第6,165,440号明細書(表題「Radiation and nanoparticles for emhancement of drug delivery in solid tumors」 Esenaliev、2000年12月26日)に記載されている。米国特許第6,165,440号明細書は、抗体に複合されるナノ粒子、ならびに固形腫瘍の、光パルス放射(0.2um〜2umのスペクトル範囲内)によって誘導される温熱療法および超音波放射(20〜500kHzの周波数範囲内)によって誘導されるキャビテーションでの標的化および処置におけるその使用について開示する。
【0095】
米国特許第7,074,175号明細書(表題「Thermotherapy via targeted derivery of nanoscale magnetic particles」、Handyら、2006年7月11日)、12−15欄および図7は、特定の細胞または組織を標的化するためのナノ粒子に対するリガンドとして結合可能な抗体の特性を開示する。例えば、抗体リガンドは、断片結晶化(Fc)領域および断片抗原結合(Fab)領域を有する場合がある。Fab領域は、可変重鎖領域および定常重鎖領域とともに可変軽鎖領域および定常軽鎖領域を含む、抗体の抗原結合領域でありうる。抗体の生物学的活性は、概ね抗体分子のFc領域によって決定されうる。Fc領域は、補体活性定常重鎖およびマクロファージ結合定常重鎖を含みうる。Fc領域およびFab領域は、いくつかのジスルフィド結合によって結合されうる。免疫原性応答を回避するため、Fc領域を含まないリガンドが好ましい場合がある。これらのリガンドの例として、断片抗原結合断片(Fabs)、ジスルフィド安定化可変領域断片(dsFVs)、一本鎖可変領域断片(scFVs)、組換え一本鎖抗体断片、およびペプチドなどの抗体断片があげられうる。
【0096】
抗原結合断片(Fab)は、抗体の単一のFab領域を含みうる。単一のFab領域は、ジスルフィド結合によって可変重鎖および定常重鎖領域に結合された可変軽鎖および定常軽鎖領域を含みうる。
【0097】
ジスルフィド安定化可変領域断片(dsFV)は、ジスルフィド結合によって結合された抗体の可変重鎖領域および可変軽鎖領域を含みうる。ペプチドであってもよいリーダー配列は、可変軽鎖および可変重鎖領域に結合されうる。
【0098】
一本鎖可変領域断片(scFV)は、リンカーペプチドによって結合された抗体の可変重鎖領域および可変軽鎖領域を含みうる。リーダー配列は、可変重鎖領域に結合されうる。
【0099】
ナノ粒子に結合可能な他の標的化剤は、限定はされないが、特定の組織または細胞を標的化するように設計されたペプチドおよびオリゴヌクレオチド、例えばアプタマーまたはスピーゲルマーを含む。
【0100】
細胞または組織に対して親和性を有し、それによって取り込まれ、またはそれによって内部化または隔離される分子はまた、ナノ粒子への複合およびその組織の標的化のために使用されうる。かかる分子は、例えば、細胞の表面で会合される標的、細胞取り込み機構に関連した標的、または細胞内標的に対して親和性を有しうる。例えば、ヨウ素であれば、甲状腺組織の標的化のために使用されうる。葉酸であれば、葉酸塩受容体を過剰発現する癌細胞の標的化のために使用されうる。使用に適した他の小分子は、当業者にとって自明であろう。
【0101】
抗体は、ナノ粒子に複合され、ナノ粒子を特定の組織に対して標的化しうる。例えば、前立腺特異的膜抗原(PSMA)は、前立腺上皮細胞によって極めて制限された様式で発現される十分に特徴づけられたタイプ2の内在性膜糖タンパク質(integral membrane glycoprotein)である(He Liu P.M.、Sae Kim、Yan Xia、Ayyappan Rajasekaran、Vincent Navarro、Beatrice Knudsen、Neil H.Bander、「Monoclonal Antibodies to the Extracelular Domain of Prostate−specific Membrane Antigen Also React with Tumor Vascular Endothelium.」 Cancer Research、1997年 57:3629−3634頁)。J591は、PSMAの細胞外ドメインに対して1nMの親和性で結合する抗PSMA mAbであり、かつ11の治験の対象である(例えば、He Liu P.M.、Sae Kim、Yan Xia、Ayyappan Rajasekaran、Vincent Navarro、Beatrice Knudsen、Neil H.Bander、「Monoclonal Antibodies to the Extracellular Domain of Prostate−specific Membrane Antigen Also React with Tumor Vascular Endothelium.」 Cancer Research、1997年 57:3629−3634頁;Peter M.Smith−Jones S.V.、Stanley J.Goldsmith、Vincent Navarro、Catherine J.Hunter、Diego Bastidas、Neil H.Bander、「In vitro characterization of radiolabeled monoclonal antibodies specific for the extracellular domain of prostate−specific membrane antigen.」 Cancer Research、2000年 60:5237−5243頁を参照)。J591などの抗PSMA mAbは、良性過形成組織を標的化するため、ナノ粒子に複合されうる。
【0102】
リガンドをナノ粒子に複合するための方法は、当該技術分野で公知である(例えば、「Bioconjugate Techniques」、第2版、Greg T.Hermanson、Academic Press,Inc.、2008年(1202頁);米国特許第7,074,175号明細書、表題「Thermotherapy via targeted delivery of nanoscale magnetic particles」 Handyら、2006年7月11日、12−13欄を参照)。
【0103】
例えば、リガンドは、リンカー分子を使用してナノ粒子に共有結合されうる。リンカー分子は、当該技術分野で周知である。リンカー分子は、リガンドおよびナノ粒子またはナノ粒子上のコーティング剤に対して特定の官能基を標的化し、それによりこれらの任意の2つの間で共有結合を形成する作用剤である。結合反応において使用される官能基の例として、アミン、スルフヒドリル、炭水化物、カルボキシル、ヒドロキシルなどがあげられる。架橋剤は、ホモ二官能性(homobifunctional)またはヘテロ二官能性(heterobifunctional)架橋試薬、例えば、カルボジイミド、スルホ−NHSエステルリンカーなどであってもよい。架橋剤はまた、グルタルアルデヒドなどのアルデヒド架橋試薬であってもよい。架橋剤は、リガンドをナノ粒子またはコーティング剤に、好ましい方向で、詳細には標的化のために使用可能なリガンドの活性領域で結合するように選択してもよい。物理相互作用は架橋分子を必要とせず、リガンドは、例えば、吸収、吸着、または挿入などの非共有手段により、ナノ粒子またはコーティング剤に直接的に結合される。
【0104】
5.5 インビボでのナノ粒子の投与
本発明の方法によると、マイクロ波活性ナノ粒子が、目的の標的細胞、組織または器官に導入される。ナノ粒子は、当該技術分野で公知の方法および市販の注入または投与システムを用いて、インビボで標的細胞、組織若しくは器官に挿入されるか、あるいはインビボで標的細胞、組織若しくは器官又はその周辺に負荷されうる。
【0105】
ナノ粒子は、静脈内、動脈内、または局所的に投与され、標的組織やその周辺に特定の負荷が行われうる。
【0106】
インビボ投与に適した溶液中に懸濁されるナノ粒子は、当該技術分野で公知の方法を用いて、全身または局所に注入されるかまたは標的組織内部の特定の部位に移植もしくは「播種」されうる。全身注入は、処置されるべき部位に粒子を集中させるため、粒子が前立腺組織細胞の特異的標的化を可能にする機能性を示すことを必要としうる。局所的注入および播種は、コンピュータ断層撮影によって誘導可能であり(例えば、Manfred Johannsen U.G.、Burghard Thiesen、Kasra Taymoorian、Chie Hee Cho、Norbert Waldofner、Regina Scholz、Andreas Jordan、Stefan A.Loening、Peter Wust、「Thermotherapy of Prostate Cancer Using Magnetic Nanoparticles:Feasibility,Imaging,and Three−Dimensional Temperature Distribution.」 European Urology、2007年 52:1653−1662を参照)、粒子の、組織からの例えば血管系を通じた除去または拡散を阻止するように、標的化の機能性を与えうる。
【0107】
5.6 マイクロウェーバブル(microwaveable)材料
誘電および/または磁性もしくは分極損失をもたらすマイクロ波吸収材料は、当該技術分野で公知であり、当該技術分野で公知の通常の方法を用い、本発明の方法での使用を意図して設計することが可能である。材料による損失に関与する機構は、ナノスケール対マイクロおよびマクロスケールの範囲の材料の寸法に依存して異なる場合がある(B.Lua X.L.D.、H.Huanga、X.F.Zhanga、X.G.Zhua、J.P.Leia、J.P.Suna、「Microwave absorption properties of the core/shell−type iron and nickel nanoparticles.」 Journal of Magnetism and Magnetic Materials、2008年 320:1106−1111頁)。
【0108】
Fe3+とFe2+の間の電子移動は、イオンの跳躍および緩和をもたらす。Feは、酸化鉄ナノ粒子における特定の誘電損失に寄与する(B.Lua X.L.D.、H.Huanga、X.F.Zhanga、X.G.Zhua、J.P.Leia、J.P.Suna、「Microwave absorption properties of the core/shell−type iron and nickel nanoparticles.」 Journal of Magnetism and Magnetic Materials、2008年 320:1106−1111頁)。
【0109】
誘電加熱は、マイクロ波照射の周波数およびその周波数での誘電体の吸収特性を含む、当該技術分野で周知の多数の要素に依存する。すべての誘電材料は、特有の吸収スペクトル(周波数対加熱能力)を有する。例えば、従来の台所の電子レンジにおいては、マイクロ波周波数(2.45GHz)は、水を加熱するのに適するが、他の材料(例えば水が入ったカップ)を加熱するには適さない。マイクロ波放射の周波数を変えることにより、カップは、(水およびカップの相対的な誘電吸収特性に依存して)むしろ水より加熱されうる。したがって、誘電加熱を用いて水を加熱せずに水中で材料を加熱することは可能である。一旦材料が加熱されると、加熱された材料が断熱層で覆われない場合、熱は近隣の水に移動することになる。Martin M.、「Methods and Compositions for Directed Microwave Chemistry」 2008年、Mirari Biosciences,Inc.(USA)。
【0110】
本発明の方法で用いられるマイクロ波放射は、300MHz〜300,000MHz(約3m〜3cm)の範囲内であってもよい。誘電加熱はまた、より長い(ラジオ)波長(最大100m)で生じ、それを代わりに使用してもよい。概して、約3cm〜100mの誘電加熱周波数のスパン波長、また本発明の特定の実施形態では、誘電加熱周波数は、この範囲内である。使用される正確な周波数は、加熱されるべき誘電材料に依存しうる。誘電は、選択される周波数で溶媒の場合より損失が多い可能性がある。Martin M.、「Methods and Compositions for Directed Microwave Chemistry」 2008年、Mirari Biosciences,Inc.(USA)。
【0111】
一実施形態では、使用される周波数は、0.915GHz、2.45GHz、5.85GHz、および22.125GHzであってもよい。別の実施形態では、使用される周波数は、産業的、科学的、および医学的用途への使用を意図した米国政府に承認された周波数であってもよい。他の周波数もまた、(マイクロ波の通信用途との干渉を阻止するため)マイクロ波チャンバ内部での放射が十分に遮蔽されるという条件で使用してもよい(Martin M.、「Methods and Compositions for Directed Microwave Chemistry」 2008年、Mirari Biosciences,Inc.(USA))。
【0112】
一実施形態では、0.915GHzは、水がこの周波数で誘電加熱に対する感受性が最小であることから水性用途に使用される(Martin M.、「Methods and Compositions for Directed Microwave Chemistry 2008」、Mirari Biosciences,Inc.(USA)を参照)。
【0113】
【表1】

【0114】
電磁エネルギーを他の形態のエネルギー(熱)に変換する誘電材料の能力を示すパラメータは、散逸係数または損失正接(Tanδ)である。あらゆる材料において、Tanδは周波数依存性である。(所与の周波数で)選択される溶媒よりはるかに高いTanδ値を有する材料が、本発明にとって好ましい。周波数は、Tanδdielectric/JTanδsolvent比を最適化するように選択してもよい。したがって、好ましい実施形態では、誘電(所望される高吸収)および溶媒(所望される低吸収)のマイクロ波周波数および吸収特性が最適化される(Martin M.、「Methods and Compositions for Directed Microwave Chemistry」 2008年、Mirari Biosciences,Inc.(USA))。
【0115】
水性反応においては、(触媒作用が望まれる場合)溶媒より高い損失正接を有する誘電材料を使用することが好ましい。(溶媒としての)水より高いTanδ値を有する典型的な材料のリストが下記に示される。これらの材料、ならびに溶媒より高い損失正接を有する当該技術分野で周知の他の材料を、本発明において使用してもよい(Martin M.、「Methods and Compositions for Directed Microwave Chemistry」 2008年、Mirari Biosciences,Inc.(USA))。
【0116】
【表2】

【0117】
【表3】

【0118】
【表4】

【0119】
当該技術分野で周知の高い誘電定数を有する1つの材料はチタン酸バリウム(BaTiO)である。誘電定数は、(水における80に対して)200〜16,000である。チタン酸バリウムまたは高い誘電定数を有することで知られる他の材料は、膜中に形成し(Ewartら、米国特許第5,922,537号明細書)、また本発明の方法において使用してもよい。さらに、チタン酸バリウムに加え、低温で他の強誘電材料の薄膜および厚膜を形成するための方法は周知である。公知の高い誘電定数の無機チタン酸塩、ニオブ酸塩、および強誘電性ポリマーは、低温化学蒸着、レーザーフォトアブレーション堆積、ゾル−ゲルプロセス、RFマグネトロンスパッタリング、スクリーン印刷および焼成、(ポリマーの場合)スピンコーティング、および他の方法を含む多くのプロセスによって形成してもよい(Yang P.ら (1998年) Science 282、2244頁)。自然粘土も、成形可能な誘電体として使用してもよい(上の表を参照)。
【0120】
別の実施形態では、アルミナマグネタイト(aluminamagnetite)(Al−Fe)のw/wが1:1の混合物は、強力に発熱する誘電支持体として使用してもよい(Bram G.、Loupy A.、Majdoub M.、およびPetit A.(1991年) Chem.Ind.396)。粘土自体は、915MHzで、マイクロ波吸収体として、2450MHzの場合よりはるかによく水と区別される(上の表を参照)(Martin M.、「Methods and Compositions for Directed Microwave Chemistry」 2008年、Mirari Biosciences,Inc.(USA))。
【0121】
追加的な誘電材料は、マイクロ波照射の間に水などの溶媒より実質的に迅速に加熱するその能力について、誘電体をスクリーニングすることにより、従来の方法を用いて同定することが可能である。クラスIの誘電体(典型的には150未満の誘電定数)およびクラスIIの誘電体(典型的には600〜18,000の範囲内の誘電定数)を使用してもよい(技術パンフレット、Novacap,Inc.(Valencia Calif.))。他の好適な材料は、有機ポリマー、アルミニウム−エポキシ複合材、および酸化ケイ素を含む。マイクロ波周波数は、同様に変化しうる。この単純なスクリーニング手順であれば、実質的に水を温めることなく誘電材料に対して加熱を誘導する条件(周波数および材料)が得られることになる。特有の誘電特性などの魅力的品質を有する材料を発見するための材料のコンビナトリアル合成は、当該技術分野で周知である(例えば、Schultzら、米国特許第5,985,356号明細書を参照)。
【0122】
RF照射下で実質的に加熱し、かつ本発明の方法において使用可能な他の材料は、フェライトおよび強誘電体を含む。マイクロ波照射下で著しく加熱することが周知である他のタイプの材料は、さまざまなセラミック、すなわち酸化物(例えばAl)、非酸化物(例えばCrBおよびFeB)、および複合材(例えばSiC/SiO)である。極めて多数の材料が、それらのマイクロ波加熱特性を利用することにより、加工(焼結など)が施される(National Academy of Sciences(USA)、1994年)。
【0123】
複合材料は、マイクロ波によって加熱し、本発明の方法において使用してもよい。例えば、マイクロ波に対して通常透過性の材料は、極性液体または導電粒子を加えることによって加熱してもよい。アルミナ、ムライト、ジルコン、MgO、またはSiなどの耐火性酸化物を作製し、35SiC、Si、Mg、FeSi、およびCrといった導電性粒子の添加により、マイクロ波と有効にカップリングさせている。Al、SiO、およびMgOといった酸化物は、Fe、MnO、NiO、およびアルミン酸カルシウムなどの損失材料の添加により、有効に加熱されている。導電性粉末、例えばNb、TaC、SiC、MoSi、Cu、およびFeの混合物、ならびにZrO、YおよびAlなどの絶縁体は、マイクロ波と十分にカップリングしている。また、優れたカップラである溶液中のさまざまな材料(オキシ硝酸ジルコニウム、硝酸アルミニウム、および硝酸イットリウム)を加え、粉末化された絶縁酸化物のマイクロ波吸収を促進している。
【0124】
粉末、フレーク、球、針、チップ、または繊維を含むさまざまな形状の導電材料の添加を使用し、低損失材料の加熱を引き起こしてもよい。例えば、0.1〜100μmの範囲のサイズを有するカーボンブラックまたは金属片は、含有物として使用される場合、加熱特性を高めるために使用してもよい。かかる材料の性質および濃度は、通常の方法を使用して最適化してもよい。
【0125】
導電性ポリマーに基づくマイクロ波吸収材料は当該技術分野で公知であり、それもまた本発明の方法において使用してもよい(例えば、Laurent Olmedo P.H.、Franck Jousse、「Microwave Absorbing Materials Based on Conducting Polymers.」 Advanced Materials、1993年 5(5)を参照)。
【0126】
5.7 ナノ粒子媒介性温熱療法におけるマイクロ波放射
ナノ粒子媒介性温熱療法におけるマイクロ波照射は、非ナノ粒子媒介性(「通常の」)温熱療法における当該技術分野で公知の方法を用いて施してもよい。いくつかの実施形態では、(通常の温熱療法において使用されるマイクロ波出力に対して)通常より低いマイクロ波出力を使用してもよい。特定の実施形態では、300MHz(3×10Hz)〜300GHz(3×1011Hz)でのマイクロ波照射が施される。当該技術分野で公知の通常の方法を使用し、いずれのマイクロ波周波数が特定の細胞/組織に対して好適であるかを、例えば組織とナノ粒子の双方の誘電特性、さまざまな生体内および生体外組織モデルにおける組織とナノ粒子との間の公知であるかまたは観察可能な相互作用を考慮して(また、各用途に関与する物理現象の差異を理解して)選択してもよい。
【0127】
温熱療法をさまざまな標的組織および器官に施すためのデバイスは、当該技術分野で公知であり、市販されており、例としてTUMTデバイスがあげられる。かかるシステムは、典型的には、マイクロ波放射源、マイクロ波放射を監視するための電子システム、および放射線を組織に送達するためのシステムなどの当該技術分野で公知の部品を単一のデバイス内で組み合わせている。かかる部品はまた、別々に市販されている。
【0128】
数社が、1296MHzまたは915MHzのいずれかで稼働し、かつマイクロ波放射源、マイクロ波放射を監視するための電子システム、および放射線を組織に送達するためのシステムを組み合わせたFDA承認の商用の経尿道的マイクロ波温熱療法(TUMT)システムを開発している。したがって、下の表中に示されるように、高い飽和磁化値と1296MHzまたは915MHzに調整された共鳴周波数で専用設計されたナノ粒子は、これらのシステムと併用してもよい。
【0129】
【表5】

【0130】
さらに、全電磁スペクトルにわたる放射を含む、マイクロ波以外のエネルギーの放射源は、本発明の方法に従って使用してもよい。特定の実施形態では、複数の放射エネルギータイプを使用してもよい。多くの場合におけるさまざまな放射エネルギータイプに調整されたナノ粒子の混合物を使用してもよい。あるいは、複数の放射エネルギータイプに調整されたナノ粒子を使用してもよい。
【0131】
5.8 処置の方法
処置を必要とする被験体における目的の細胞または組織を処置するための方法が提供される。本方法は、
マイクロ波活性ナノ粒子を細胞または組織に導入するステップと、
マイクロ波場を適用するステップと、
を含んでもよく、ここで
マイクロ波活性ナノ粒子は、熱を放射することによって、マイクロ波場のマイクロ波エネルギーに対して反応し、かつ
組織は加熱され、それによって組織において高熱または温熱療法を誘発する。
【0132】
別の実施形態では、処置を必要とする被験体における癌組織を処置するための方法が提供される。本方法は、
マイクロ波活性ナノ粒子を癌組織に導入するステップと、
マイクロ波場を適用するステップと、
を含んでもよく、ここで
マイクロ波活性ナノ粒子は、熱を放射することによって、マイクロ波場のマイクロ波エネルギーに対して反応し、かつ
癌組織は加熱され、それによって癌組織において高熱を誘発する。
【0133】
一実施形態では、被験体は動物である。別の実施形態では、動物はヒトである。
【0134】
別の実施形態では、組織は、前立腺組織、腫瘍組織(例えば、良性または癌性)、固形癌組織、非固形癌組織(例えば、白血病、骨髄癌、またはリンパ行性癌組織)、膀胱組織、子宮組織、子宮筋腫組織からなる群から選択される。
【0135】
特定の実施形態では、BPHまたは前立腺癌などの前立腺障害を、ナノ粒子で促進されたマイクロ波温熱療法を用いて処置するための方法が提供される。前立腺障害の処置を目的としたナノ粒子で促進されたマイクロ波温熱療法のための方法は、(例えば診察室において実施される)最小侵襲外来患者治療として用いてもよい。ナノ粒子は、当該技術分野で公知の方法を用いて、溶液として広範性に前立腺に直接注入するかまたはシード凝集体として設置してもよい。ナノ粒子媒介性マイクロ波処置はまた、当該技術分野で公知の方法を用いて、例えばBPHまたは癌細胞を標的化するモノクローナル抗体で誘導し、目的の細胞または組織(例えば前立腺)に直接注入するかあるいは静脈内に投与してもよい。
【0136】
一実施形態では、マイクロ波エネルギーは、被験体の身体(または身体の一部)に全身性(非局所的)に送達され、この場合、標的化領域のナノ粒子はマイクロ波によって選択的に活性化されている。別の実施形態では、マイクロ波エネルギーは、被験体の身体の選択された領域または部分に局所的に送達される。例えば、非固形腫瘍(例えば骨髄癌)の場合、マイクロ波照射は、循環器系の一部、例えば選択された血液が流れる選択された血管に対して集約してもよい。
【0137】
前立腺におけるナノ粒子活性化のためのマイクロ波エネルギーは、経尿道的、経直腸的または経皮的経路を介して局所的に送達するか、または手術(例えば、観血的手術または当該技術分野で公知の他の適切な手術)を介して直接的に適用してもよい。
【0138】
局所組織に作用せず、標的組織破壊のためにナノ粒子活性化によって隔離される低エネルギーのマイクロ波エネルギーにより、標的組織破壊が最低限の副作用でもたらされうる。標的組織(例えば、BPH細胞、癌細胞、腫瘍細胞)の効率的破壊は、静脈内または経口鎮静から局所麻酔薬浸潤から局所および全身麻酔の範囲にわたる、最小の鎮痛または麻酔が必要とされる最小侵襲方法で得られうる。
【0139】
ナノ粒子で促進されたマイクロ波温熱療法のための方法は、固形もしくは非固形腫瘍または癌などの他の組織病変に同様に適用可能である。本方法は、腫瘍および癌を含む他の組織病変の処置における使用を目的として、目的の細胞または組織(例えば癌または腫瘍細胞)を機能化ナノ粒子で標的化することにより、当業者によって容易に適合されうる。
【0140】
特定の実施形態では、ナノ粒子で促進されたマイクロ波温熱療法は、膀胱における内皮細胞を侵す移行性細胞癌(TCC)の処置において用いてもよい。この実施形態では、TCC細胞を標的化するナノ粒子は、膀胱をナノ粒子懸濁液で満たすことにより、経皮投与を通じて患部に適用される。一旦、粒子がTCC細胞と会合すると、患部は洗浄され、非特異的に結合された粒子が除去され、次いでTUMTデバイスを使用することで、マイクロ波放射が患部に送達され、それにより、TCC細胞と会合した粒子が加熱され、癌が高熱または温熱療法で処置されうる。
【0141】
波長が長いマイクロ波エネルギー場を患部に送達し、かつナノ粒子による促進を適用できることから、処置可能な他の病変は、限定はされないが、子宮筋腫ならびに、例えば子宮、乳房、結腸、リンパ節、リンパ行性、骨髄およびその他多数を含む他の腫瘍および癌を含む。インビボ投与の追加的手段として、限定はされないが、皮下および経口投与があげられる。マイクロ波処置はまた、限定はされないが、経直腸的および経皮的適用を含む、当該技術分野で周知の方法を用い、経尿道的方法以外の手段によって行うことが可能である。
【0142】
処置を必要とする被験体における目的の細胞または組織内にナノ粒子を凝集させるための方法もまた提供される。本方法は、機能コーティング剤で機能化されたナノ粒子を細胞または組織内に導入するステップを含んでもよい。本方法は、エネルギーを放射する供給源を適用するステップをさらに含んでもよい。ナノ粒子は、放射エネルギー源からのエネルギーと相互作用するように設計または調整してもよい。特定の実施形態では、ナノ粒子は、マイクロ波の存在下で目的の細胞または組織の場合より損失が多いようにマイクロ波と相互作用するように調整される。
【0143】
5.9 処置システム
処置を必要とする被験体における目的の細胞または組織内でのマイクロ波放射の場の効果を制御するためのシステムが提供される。本システムは、
マイクロ波放射の供給源;
マイクロ波放射を監視するための電子システム;
マイクロ波放射の細胞または組織への送達用のシステム;
マイクロ波放射を吸収するマイクロ波活性ナノ粒子;
ナノ粒子を投与するための注入または投与システム;
を含んでもよく、ここで
マイクロ波活性ナノ粒子は、熱を放射することによって、マイクロ波放射の場のマイクロ波エネルギーに対して反応し、かつ
細胞または組織は加熱され、それによって細胞または組織において高熱または温熱療法を誘発し、それによってマイクロ波放射の場の効果が制御される。
【0144】
マイクロ波放射の供給源、マイクロ波放射を監視するための電子システム、マイクロ波放射の細胞または組織への送達用のシステム、およびナノ粒子を投与するための注入または投与システムは、当該技術分野で公知であり、市販されている。
【0145】
細胞または組織へのマイクロ波照射の有害であるかまたは好ましくない効果は、当該技術分野で周知であり、これらとしては、限定はされないが、狭窄、瘻孔または他の不測の結果としての好ましくない局所的損傷などの好ましくない合併症をもたらす近隣の組織または細胞の不測の破壊があげられる。
【0146】
一実施形態では、有害であるかまたは好ましくない効果は、本発明の方法を用いて、生物学的標的の水和を改変することによって制御される。別の実施形態では、マイクロ波放射場は、アンテナ設計を改良することによって改変される。別の実施形態では、効果は、例えば、経尿道的、経直腸的および他の天然開口部導入経路、ならびに経皮的、および他の開放手術の接近経路を意図した設計において、直接冷却または圧力の生物学的標的への適用を用いることによって制御される。
【0147】
以下の実施例は、例示目的で提供され、限定目的で提供されるものではない。
【実施例】
【0148】
6.実施例:ナノ粒子媒介性マイクロ波処置法
マイクロ波活性ナノ粒子は、細胞レベルまでの精度を有する前立腺内部での焦点マイクロ波温熱療法における使用を目的として作製可能である。4〜20nmの範囲の直径を有するナノ粒子を使用する利点は、熱伝達が、周囲組織に対して迅速であり、かつ温度勾配を低下させる点である。さらに、この技術は、マイクロ波出力の現行の処置レベルを下回る低下を可能にすることから副作用に対するリスクを最小にする一方、さらに有効な温熱量での標的化組織への局在化送達を可能にする。
【0149】
6.1 実施例1:前立腺に標的化される磁気ナノ粒子の設計、合成および特徴づけ
このセクションでは、前立腺抗原の方へ標的化されるマイクロ波活性磁気ナノ粒子の設計、合成および特徴づけについて述べる。
【0150】
最適化可能な主なパラメータは、
ナノ粒子のサイズおよび組成物ならびにマイクロ波誘導加熱容量
キャッピング化学反応
抗体とカップリングするための機能化
である。
【0151】
6.1.1 ナノ粒子の合成
合理的合成を行い、マイクロ波放射を強力に吸収できるナノ材料のライブラリーを構築する。スピネルMFe(Mは、Mn、Fe、CoまたはNiの+2カチオンである)の一連の金属がドープされる磁気設計された酸化鉄(MEIO)ナノ粒子(Lee J.H.,YM;Jun J.W.;Jang J.T.;Cheon J.、「Artificially engineered magnetic nanoparticles for ultra−sensitive molecular imaging;Nature medicine.」 Nature Medicine、2007年 13(1):95−99頁)について検討する。
【0152】
粒子を公表された文献のプロトコルに従って合成する。すなわち、4nmのFeナノ粒子を、フェニルエーテル中のFe(acac)、1,2−ヘキサデカンジオール、オレイン酸、およびオレイルアミンを窒素下で混合し、次いで260℃に加熱して作製し、30分間還流する。室温まで冷却後、黒色磁鉄鉱結晶を、過剰量のエタノールを添加後、遠心分離して単離する(Jun Y.H.,Y.M.;Choi J.S;Suh J.S.;Cheon J.、「Nanoscale Size Effect of Magnetic Nanocrystals and Their Utilization for Cancer Diagnosis via Magnetic Resonance Imaging.」 JACS、2005年 127:5732−5733頁)。より大きいサイズのナノ結晶を得るため、より小さい4nmのFeナノ粒子を先に述べた追加的な前駆体物質と混合する場合のシード媒介性成長を使用する。ナノ粒子シードの量を制御することにより、さまざまなサイズを有するFeナノ粒子を形成することができる。例えば、62mgのFeシードナノ粒子は12nmのナノ粒子をもたらす一方、シードの質量を15mgに改変することで16nmのFeナノ粒子が得られる(Sun S.Z.,H、「Size−Controlled Synthesis of Magnetite Nanoparticles.」 JACS、2002年 124:8204−8205頁)。CoFeなどのバイメタルの酸化鉄粒子を得るため、Co、MnまたはNiの金属前駆体を、使用される鉄前駆体(Fe(acac))の半当量で添加することを除き、上記のプロトコルに従う。
【0153】
上記の方法によると、直径が約6nmの超常磁性Feナノ粒子が、界面活性剤としてオレイン酸を使用する窒素下での第二鉄塩の熱分解を通じて合成されている。得られたFe粒子をオレイン酸キャップし、それは約6emu/gの飽和磁化を示す(図1A〜C)。
【0154】
6.1.2 水溶性ナノ粒子を作製するためのナノ粒子の機能化
ナノ粒子は、粒子を保護し、その有用性を高め、それを水溶性にする機能的キャップを提供するように機能化することが可能である(図2A〜B)。オレイン酸キャップされた「合成したままの」ナノ粒子は、公表された方法(Benoit Dubertret P.S.、David J.Norris、Vincent Noireaux、Ali H.Brivanlou、およびAlbert Libchaber、「In Vivo Imaging of Quantum Dots Encapsulated in Phospholipid Micelless.」 Science 2002年、298(5599):1759−1762頁)に従い、機能化することが可能である。つまり、粉末形態での「合成したままの」ナノ粒子を、カルボキシ末端化PEGリン脂質(1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[カルボキシ(ポリエチレングリコール)2000]、Avanti Polar Lipids,Inc.(Alabaster,AL))を有するクロロホルム中に懸濁する。クロロホルムを室温で蒸発させ、次いで残留物を80℃で加熱する。次いで、残留物を水で再構成し、懸濁液を超遠心分離によって500,000×gで回転させ、ここでは粒子を含有するミセルはペレットを形成する一方、空のミセルは懸濁された状態となる。次いで、上清を廃棄し、粒子−ミセルを水で再懸濁する。
【0155】
6.1.3 組織等価ファントムにおけるマイクロ波誘導加熱容量
Guyは、ヒト組織に対するマイクロ波放射の効果の前臨床試験において専用設計されたファントムモデル用の調合物を誘導している(Guy A.W.、「Analyses of Electromagnetic Fields Induced in Biological Tissues by Thermographic Studies on Equivalent Phantom Models」、IEEE Transactions on Microwave Theory and Techniques、第19巻、第2号、1968年2月:205−214頁)。Guyの方法に基づき、Chouらは、915MHzを含む特定の周波数で筋肉組織と類似の誘電特性を有する組織等価ファントムモデルを調製するための式を公表した(Chou C.K.,C.G.、Guy A.W.、Luk K.H.、「Formulas for Preparing Phantom Muscle Tissue at Various Radiofrequencies.」 Bioelectromagnetics、1984年5月:435−441頁)。このファントムは、ポリエチレン粉末、水、塩化ナトリウムおよびゲル化剤TX−151から構成される(Oil Center Research International(Lafayette,LA))。
【0156】
Chouらの公表されたプロトコルに従い、室温(22℃)で、37℃での実組織を再現するファントムを生成することができる。混合物を、Chouらに記載のように調製し、次いで直径が10cmおよび長さが30cmの、透明プラスチック製の円柱状キャスト(cylindrical cast)に注ぐ(図4)。Urologix Targis TUMTカテーテルアンテナをモールドの中央に位置づけ、次いでファントムを室温で凝固状態にする。ファントムが凝固した後、ペグ化(PEGylated)ナノ粒子を0.5ccの水に溶かした懸濁液を、ファントムモールド内の小孔を通して、Targisアンテナから2cm離して注入する。
【0157】
次いで、直径0.4mmの光ファイバ温度プローブ(T1 Fiber Optic Probe、Neoptix(Quebec,Canada))を、同じ孔を通して挿入し、プローブの先端がナノ粒子の容量の範囲内であるように位置づける。別の光ファイバプローブを、ファントムモールド内の別の小孔を通して挿入し、第1のプローブのちょうど反対であり、やはりアンテナから2cm離れた位置に位置づける。次いで、温度プローブをマイクロ波適用の間でのリアルタイム温度測定を可能にする温度センサ(Reflex Signal Conditioner、Neoptix(Quebec,Canada))に接続し、TargisカテーテルをTargisマイクロ波発生器および制御システムに接続する。
【0158】
実験の間、マイクロ波エネルギーを、30分経過後に臨床プロトコルに従って適用し、温度測定値を、Reflexセンサに接続されたラップトップコンピュータにおいて記録し、保存する。2つのプローブからの温度測定値をNeoptixによって提供されるソフトウェアを用いて経時的にプロットし、ナノ粒子注入の部位での加熱特性を分析する。
【0159】
ナノ粒子は、注入の部位で加熱の促進を引き起こすことから、通常の臨床手順と比較してマイクロ波エネルギーの低下を可能にする一方、依然としてナノ粒子容量における十分な温熱量をもたらすことになる。したがって、その後に、処置時間が通常のマイクロ波出力で減少し、かつマイクロ波出力が通常の処置時間で低下するような実験を行うことができる。かかる実験はまた、ナノ粒子濃度を変化させる一方、0.5ccの一定容量を施すことによって行うことができる。改良した手順の過程で、ナノ粒子容量以内での得られる温度測定値を分析することにより、この方法および最適な処置プロトコルの能力についてのデータを評価することが可能である。
【0160】
6.2 実施例2:機能的ナノ粒子を作製するためのナノ粒子の機能化
上記のリン脂質の機能化から得られるカルボキシ末端化された機能化ナノ粒子は、J591抗体に共有結合することにより、さらに修飾することが可能である。いずれの場合においても、ナノ粒子上のカルボキシル基は、EDC(1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩)およびスルホ−NHS(N−ヒドロキシスルホスクシンイミド)(Pierce Biotechnology(Rockford,IL,USA))を使用し、製造業者のプロトコルに従い、第一級アミン反応性のNHS−エステルに変換される。
【0161】
次いで、J591を、リン酸緩衝生理食塩水中に懸濁されたNHS−エステル修飾粒子に、ナノ粒子濃度に対して10倍の濃度で加える。混合物を2時間反応させ、その間、NHS−エステルは、タンパク質上の第一級アミンと反応し、安定なアミド結合を形成することになる。次いで、過剰な未複合タンパク質を、FPLCシステム(AKTA Explorer FPLC上でのSuperdex 200サイズ排除カラム、Amersham Biosciences(Piscataway,NJ,USA))上で使用するサイズ排除クロマトグラフィーを通じて、ナノ粒子複合体から分離する。
【0162】
次いで、ナノ粒子複合化抗体活性を、表面プラスモン共鳴(SR7000 SPR Refractometer、Reichert(Depew,NY,USA))を通じて評価し、その場合、PSMAに対する複合体の結合親和性を遊離J591に対して検証し、比較する。典型的なプロトコルでは、PSMAを、製造業者のプロトコルに従ってSPRチップ上に固定化する。次いで、J591抗体をチップ表面上に流すことができ、その場合、それは固定化PSMAに結合する。結合事象は、結合分子とチップに由来する表面プラズモンとの間の相互作用によって引き起こされる、チップ表面での屈折率の変化を測定するSPRシステムによって記録する。次いで、抗体は塩基性条件下でノックオフされ、さまざまな濃度の抗体について手順を繰り返す。次いで、集めた結合データを用い、J591−PSMA相互作用の動力学特性を判定することができる。この手順はまた、J591−機能化ナノ粒子を使用して実施でき、この方法では、ナノ粒子複合体の結合親和性を遊離J591の結合親和性と比較することができる。
【0163】
6.3 実施例3:インビトロ細胞培養試験
インビトロ試験は、ナノ粒子複合体の標的化能力ならびにナノ粒子に特異的なポリマー形成について評価することを目的として、前立腺上皮細胞に対して実施できる。これらの実験においては、機能化ナノ粒子を、疎水性蛍光色素アクリジンオレンジで染色し、それをナノ粒子が封入されたリン脂質の疎水性領域内に負荷することで、ナノ粒子凝集体の観察が蛍光共焦点顕微鏡を通じて可能になる。
【0164】
PSMAを発現する不死化良性前立腺過形成内皮細胞(BPH−1、German Collection of Microorganisms and Cell Cultures(Braunschweig,Germany))と、PSMAを発現しない前立腺内皮癌細胞(PC−3、American Type Culture Collection(Rockville,MD,USA))を、製造業者のプロトコルに従い、それぞれの培地において75cmの「T型フラスコ」内で培養する。次いで、細胞を中間対数期成長の間に継代培養し、培地1mL中の5000個の細胞を35mmの細胞培養ディッシュ(Corning)上に移す。細胞を37℃および5%COで12時間成長させる。12時間後、細胞培地中に懸濁したさまざまな濃度の蛍光標識ナノ粒子複合体を各細胞系に加え、次いで細胞を、さまざまな時間間隔において37℃および5%COでさらにインキュベートさせる。
【0165】
その後、細胞と特異的に会合しないあらゆる粒子を除去するため、細胞を新しい培地で洗浄する。洗浄後、培地1mLを各ディッシュに加え、細胞を赤色蛍光膜色素(FM464,Invitrogen)で10分間染色する。次いで、細胞を再び洗浄し、油浸レンズを使用する共焦点顕微鏡(Leica TCS SP2)下でのイメージングのため、新しい培地1mLとともに放置する。
【0166】
アクリジンオレンジで標識したリン脂質で封入されたFeナノ粒子を調製しており、それは、ヒト結腸内皮細胞癌において発現されるA33細胞表面糖タンパク質を標的化する抗体の可変領域の一本鎖断片(scFv)と複合されている。
【0167】
図5Aは、ナノ粒子上での抗体の存在を示すドットブロットを示す。
【0168】
図5Bは、A33抗原発現SW1222大腸癌細胞を標的化し(上部)、A33抗原非発現HT29細胞を標的化しない(下部)細胞培養実験を示す。
【0169】
共焦点顕微鏡を通じて(図5B)、A33発現SW1222細胞系に対する抗体複合化ナノ粒子の特異的親和性(scFv(+))を観察した。この親和性は、scFvの修飾バージョンに複合されたナノ粒子に対して有意に低下し、A33に対して親和性を示さなかった(scFv(−))。このように、J591複合化ナノ粒子を含有する試料は、BPH−1細胞に対する特定の標的化能力について分析可能である。
【0170】
6.4 実施例4:ナノ粒子の合成
6.4.1 ナノ粒子の成長
本実施例では、磁気ナノ粒子(MNP)の合成および機能化が成功したことについて示す。
【0171】
Junら(2005年、「Nanoscale Size Effect of Magnetic Nanocrystals and Their Utilization for Cancer Diagonosis via Magnetic Resonance Imaging.」 JACS、2005年 127:5732−5733頁)に従ってナノ粒子を合成した。つまり、4nmのFeナノ粒子を、フェニルエーテル中のFe(acac)、1,2−ヘキサデカンジオール、オレイン酸、およびオレイルアミンを窒素下で混合し、次いで260℃に加熱して作製し、30分間還流させた。室温まで冷却後、黒色磁鉄鉱結晶を、過剰量のエタノールを添加後、遠心分離することによって単離した。この結果、オレイン酸コーティング剤を有する単分散MNP(図1A〜C)が得られた。
【0172】
6.4.2 ナノ粒子コーティング剤
本研究に用いられるプラットフォーム機能化方法では、Benoit Dubertretら(Benoit Dubertret P.S.、David J.Norris、Vincent Noireaux、Ali H.Brivanlou、およびAlbert Libchaber、「In Vivo Imaging of Quantum Dots Encapsulated in Phospholipid Micelles.」 Science 2002年 298(5599):1759−1762頁)に従い、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン−N−[カルボキシ(ポリエチレングリコール)2000](PL−PEG−COOH)(Avanti Polar Lipids(Alabaster,AL,USA))を使用した。これらの分子は、さらなる化学修飾のために使用可能な末端にカルボン酸を有する45単位のポリエチレングリコール(PEG)に結合されたリン脂質から構成された。
【0173】
6.4.3 ナノ粒子の機能化
EDC(1−エチル−3−[3−ジメチルアミノプロピル]カルボジイミド塩酸塩)およびスルホ−NHS(Nヒドロキシスルホスクシンイミド)(Pierce Biotechnology(Rockford,IL,USA))を使用し、製造業者のプロトコルに従い、カルボキシル基を第一級アミン反応性のNHS−エステルに変換することにより、タンパク質をMNP−PL−PEG−COOHに結合させた(図2A〜B)。
【0174】
EDC/スルホ−NHSを含む過剰な試薬および過剰な未複合タンパク質を、Superdex 200樹脂およびAKTA Explorer FPLC(GE Healthcare)を使用するサイズ排除クロマトグラフィーを介して、MNP−複合溶液から除去した。
【0175】
6.5 実施例5:ナノ粒子の抗体媒介性細胞の標的化
ナノ粒子を、抗体断片で機能化し、その標的化能力について評価した。ナノ粒子を、結腸直腸癌において発現されるA33細胞表面糖タンパク質を認識するモノクローナル抗体A33に由来するヒト化一本鎖可変ドメイン断片抗体(scFv)で機能化した。
【0176】
正常なヒト胃腸上皮の細胞表面分化抗原(A33)は、95%の原発性および転移性結腸直腸癌細胞内で発現されるが、大部分の他の正常組織および腫瘍タイプにおいては存在しない。
【0177】
機能化後、A33scFv複合体の特徴づけを、ドットブロットを介して検証した(図5A)。MNPを、A33scFvおよび、A33抗原を標的化しないように修飾した対照A33scFvに複合化し、機能化をProtein−Lで評価した。
【0178】
細胞標的化を、SW1222(A33発現細胞)およびHT29(A33非発現細胞)を使用して検証した(図5B)。
【0179】
6.6 実施例6:前立腺におけるナノ粒子媒介性マイクロ波温熱療法
本実施例では、前立腺におけるナノ粒子媒介性マイクロ波温熱療法の適用が成功したことを示す。
【0180】
6.6.1 はじめに
米国における60〜70歳の間の過半数と70〜90歳の間の90パーセントに相当する男性が、尿道を塞ぐ、前立腺肥大としても知られる良性前立腺過形成(BPH)の症候を有する。
【0181】
経尿道的マイクロ波温熱療法(TUMT)は、尿道から前立腺組織へのマイクロ波放射の送信に使用されるマイクロ波アンテナを有するカテーテルに基づくシステムからなる、BPHの症候のための一般的な処置である。デバイスは、マイクロ波放射を前立腺に送信し、組織壊死および尿道前立腺部の膨張をもたらすのに十分な前立腺内温度が得られる。閉塞性の前立腺内組織の特異的標的化は、直腸、尿道括約筋、およびペニスなどの非標的領域を損傷しないために重大である。これは、TUMTデバイスの有効性を制限する。MNPの使用については、細胞レベルに至る精度での前立腺内部の焦点マイクロ波温熱療法における使用について検討した。この技術は、マイクロ波出力の現行の処置レベルを下回る低下を可能にすることで、標的化されない加熱に対するリスクを最小化できる一方、さらに有効な温熱量の標的化組織への局在化送達を可能にする。
【0182】
6.6.2 雄牛前立腺における生体外TUMT
TUMT実験を、生体外で雄牛前立腺に適用したUrologix TUMTデバイスを使用して実施した。3ccのリン脂質−PEGコーティング粒子を、雄牛前立腺の一方の側に2mg/mLで注射した。マイクロ波出力を、最大で40Wを約18分間適用し、前立腺内温度を光ファイバ温度プローブ(Reflex Signal Conditioner、Neoptix(Quebec,Canada))を使用して監視した。
【0183】
プローブ1は領域を監視する一方、MNPプローブ2はMNPで領域を全く監視しなかった。約7.5℃の温度の差異が約8分間にわたって得られ(図6)、これは本方法がインビボでの使用にとって実行可能であることを示す。
【0184】
6.6.3 イヌ前立腺におけるインビボでのTUMT
先行研究(上のセクション2で考察)では、キロヘルツ周波数範囲内の交流磁場を用いて高熱および温熱療法を促進するためのナノ粒子の使用が開示されている。しかし、これらの先行研究では、ナノ粒子からの加熱の促進がインビボで得られうるか否か、すなわち、マイクロ波照射がナノ粒子で標的化される組織内で組織単独の場合より多くの熱をもたらすか否かについて検討されなかった。それらでは、マイクロ波によって得られる加熱の差異が治療用途にとって十分である一方、非標的組織内で安全な温度を維持するか否かについても検討されなかった。インビボで得られる次の実験データは、治療的に関連のある熱の差異がマイクロ波照射によって確かに得られる一方、非標的組織内で安全な温度が維持されることを示す。臨床的に、これは、ナノ粒子を使用し、選択される組織および/または細胞を、破壊目的で、選択的に標的化し、より高い温度まで加熱できる一方、同じ器官内で近隣の細胞および/または組織を生存可能にする(すなわち、前立腺癌細胞を殺滅する一方、健常細胞を損傷のない状態にする)ことを示す。
【0185】
5〜6歳の間のイヌ(ビーグル犬)5匹に対して、インビボ実験を行った。イヌを、Urologix TUMTカテーテルを前立腺部位に設置したマイクロ波アンテナとともに尿道に挿入しながら鎮静させた。
【0186】
マイクロ波出力を施す前、0.5もしくは0.25ccのリン脂質−PEGコーティング粒子を、イヌ前立腺の右葉に注射した。次いで、4つの光ファイバ温度プローブ(Reflex Signal Conditioner、Neoptix(Quebec,Canada))を挿入した(図7A)。プローブを、(1)注射部位での前立腺上、(2)注射側の前立腺の側方、(3)注射の反対側の前立腺上、および(4)注射の反対側の前立腺の側方というように位置づけた。
【0187】
次いで、マイクロ波出力をさまざまな強度および間隔で適用した。図7B〜Dは、イヌ1〜3に対してマイクロ波を施す間での温度測定値をまとめる。Coolant、MDS、およびRectalと称される温度は、Urologix機器によって記録されたものであった。Coolantは、カテーテルのシース内を流れる冷却水の温度である。MDSは、マイクロ波アンテナの場所でのシース内(すなわち前立腺の部位での尿道内)でのこの水の温度である。Rectalは、直腸での温度である。
【0188】
図7Bは、0.5ccのナノ粒子溶液を第1のイヌに投与し、さまざまなマイクロ波出力による粒子の加熱応答を評価したものである。注射部位での前立腺温度は出力変動に直ぐに応答した一方、注射の反対側では単なる温度の漸増が認められた。未処置の前立腺組織の温度は処置を通じて40℃より低い(治療レベルの50℃をかなり下回る)ままであった一方、処置された組織は65℃超に達した。
【0189】
図7Cは、0.5ccのナノ粒子溶液を第2のイヌに投与し、マイクロ波出力を50Wの一定レベルで適用したものである。この実験では、ナノ粒子の注射は、投与後に前立腺の両側に対して拡散した。これは温度測定値において反映されており、それはプローブ1および3の双方での温度上昇において認められる。それに対し、50℃の治療温度が前立腺で得られた一方、前立腺の側方での温度は40℃より低いままであった。
【0190】
図7Dは、0.5ccのナノ粒子溶液を第3のイヌに投与し、マイクロ波出力を75Wに達する高い強度で適用したものである。注射の反対側の前立腺で50℃の治療温度が得られた一方、注射部位は77℃超に達した。さらに、前立腺の側方での温度は45℃より低いままであった。
【0191】
本発明は、本明細書中に記載される特定の実施形態により、範囲が限定されるべきではない。実際、本発明のさまざまな変更は、本明細書中に記載のものに加え、当業者には前述の説明から明白となろう。かかる変更は、添付の特許請求の範囲内に包含されるように意図されている。
【0192】
本明細書中に引用されるすべての参考文献は、あたかも各個別の刊行物、特許または特許出願が、あらゆる目的でその全体が参照により援用されるように具体的かつ個別に示される場合と同程度にあらゆる目的で、それら全体が参照により本明細書中に援用される。
【0193】
あらゆる刊行物の引用は、出願日に先行するその開示が目的であり、本発明が、先行発明に基づいてかかる刊行物に先行する権利が与えられないことの承認として解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置を必要とする被験体における目的の細胞または組織を処置するための方法であって、
マイクロ波活性ナノ粒子を前記細胞または組織に導入するステップと、
マイクロ波場を適用するステップと、
を含み、ここで前記マイクロ波活性ナノ粒子は、熱を放射することにより、前記マイクロ波場のマイクロ波エネルギーに対して反応し、
前記組織は加熱され、それによって前記組織において高熱または温熱療法を誘発する、
方法。
【請求項2】
前記細胞または組織は、前立腺組織、腫瘍組織、固形癌組織、非固形癌組織、白血病細胞、骨髄癌細胞、リンパ行性癌組織、膀胱組織、子宮組織、および子宮筋腫組織からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マイクロ波場を適用するステップは、経尿道的適用、経直腸的適用、経皮的適用、および手術を介する直接的適用からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ナノ粒子は、
マイクロ波の存在下で目的の細胞または組織の場合より損失が多いように、マイクロ波と相互作用するように調整され、かつ
機能コーティング剤で機能化される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記機能コーティング剤は、生体適合性コーティング剤、無機コーティング剤、または親水性コーティング剤である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記機能コーティング剤は、目的の細胞または組織を標的化する標的化リガンドを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記機能コーティング剤は、目的の細胞または組織内でのナノ粒子の凝集を促進する材料を含む、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記ナノ粒子は、1〜500nmの直径を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
処置を必要とする被験体における癌組織を処置するための方法であって、
マイクロ波活性ナノ粒子を前記癌組織に導入するステップと、
マイクロ波場を適用するステップと、
を含み、ここで
前記マイクロ波活性ナノ粒子は、熱を放射することによって、前記マイクロ波場のマイクロ波エネルギーに対して反応し、かつ
前記癌組織は加熱され、それによって前記癌組織内で高熱を誘発する、
方法。
【請求項10】
前記細胞または組織は、前立腺組織、腫瘍組織、固形癌組織、非固形癌組織、白血病細胞、骨髄癌細胞、リンパ行性癌組織、膀胱組織、子宮組織、子宮筋腫組織からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記マイクロ波場を適用するステップは、経尿道的適用、経直腸的適用、経皮的適用、および手術を介する直接的適用からなる群から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記ナノ粒子は、
マイクロ波の存在下で目的の細胞または組織の場合より損失が多いように、マイクロ波と相互作用するように調整され、かつ
機能コーティング剤で機能化される、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記機能コーティング剤は、生体適合性コーティング剤、無機コーティング剤、または親水性コーティング剤である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記機能コーティング剤は、目的の細胞または組織を標的化する標的化リガンドを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記機能コーティング剤は、目的の細胞または組織内でのナノ粒子の凝集を促進する材料を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記ナノ粒子は、1〜500nmの直径を有する、請求項9に記載の方法。
【請求項17】
目的の細胞または組織を処置するためのナノ粒子であって、
マイクロ波の存在下で目的の細胞または組織の場合より損失が多いように、マイクロ波と相互作用するように調整され、かつ
機能コーティング剤で機能化される、ナノ粒子。
【請求項18】
前記機能コーティング剤は、生体適合性コーティング剤、無機コーティング剤、または親水性コーティング剤である、請求項17に記載のナノ粒子。
【請求項19】
前記機能コーティング剤は、目的の細胞または組織を標的化する標的化リガンドを含む、請求項17に記載のナノ粒子。
【請求項20】
前記機能コーティング剤は、目的の細胞または組織内でのナノ粒子の凝集を促進する材料を含む、請求項17に記載のナノ粒子。
【請求項21】
1〜500nmの直径を有する、請求項17に記載のナノ粒子。
【請求項22】
処置を必要とする被験体における目的の細胞または組織内でのマイクロ波放射の場の効果を制御するためのシステムであって、
マイクロ波放射の供給源、
前記マイクロ波放射を監視するための電子システム、
前記マイクロ波放射を前記細胞または組織に送達するためのシステム、
前記マイクロ波放射を吸収するマイクロ波活性ナノ粒子、
前記ナノ粒子を投与するための注入または投与システム、
を含み、ここで
前記マイクロ波活性ナノ粒子は、熱を放射することによって、マイクロ波放射の場のマイクロ波エネルギーに対して反応し、かつ
前記細胞または組織は加熱され、それによって前記細胞または組織内で高熱または温熱療法を誘発し、
それによってマイクロ波放射の場の効果が制御される、システム。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【公表番号】特表2011−517604(P2011−517604A)
【公表日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504109(P2011−504109)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【国際出願番号】PCT/US2009/039652
【国際公開番号】WO2009/126571
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(508057896)コーネル・ユニバーシティー (12)
【氏名又は名称原語表記】CORNELL UNIVERSITY
【Fターム(参考)】