説明

ナノ繊維の製造法

本発明は、ゾル・ゲル前駆体を用いた金属酸化物ナノ繊維の製造法に関する。本発明による方法により製造されたナノ繊維は、従来技術に比して高められた金属酸化物割合により傑出している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の詳細な説明
本発明は、ゾル・ゲル前駆体を使用した金属酸化物ナノ繊維の製造法に関する。本発明による方法により製造された、ポリマー成分、無機分及び場合により溶剤残分とからなる「未焼成繊維」は、従来技術に比して高められた無機分により傑出している。本発明による方法の範囲内では、焼成してポリマー成分を熱的に除去し、かつ無機分を所望の金属酸化物へと変換することによって、本発明による金属酸化物ナノ繊維が製造される。
【0002】
ナノ繊維は、テキスタイル製造、光学、電子工学、生物工学、薬学、医学及びプラスチック工学において、例えば濾過及び懸濁媒体として、ますます重要性を増している。ここで「ナノ繊維」なる概念は、その直径が約0.1〜999nmの範囲内にある(ナノスケールとも称される)繊維構造体に関するものである。この概念はさらに、ナノワイヤー及びナノチューブといったナノ構造体にも関するものであり、これらはいずれもナノスケールの横断面を有する。
【0003】
目下のところ通例のナノ繊維の製造法は、いわゆるエレクトロスピニングである。この場合、金属化合物、例えば金属塩並びに場合により他の添加剤を含有するポリマー溶液又はポリマー溶融物が、両電極を用いて強電界内に置かれる。静電荷によって溶液中に局所的な不安定性が生じ、これがまず円錐状の構造体となり、次いで繊維となる。ここで、この繊維が電極の方向へ移動する間に溶剤の大部分が蒸発し、かつこの繊維はさらに延伸される。引き続く繊維の焼成の際に、金属化合物が相応する金属酸化物へと変換される。このようにして、<1μmの直径を有する酸化物ナノ繊維が得られる。このような繊維の、例えば濾過用途での、ガスセンサーの部材としての、並びに触媒用途での使用は、工業的に重要である。
【0004】
ナノ繊維、特にZnOナノ繊維の製造は、例えばSiddheswaranらにより記載されている("preparation and characterisation of ZnO nanofibers by electrospinning", Cryst. Rest. Technol. 2006, 41, 447-449)。ここで、Siddheswaranらはまずポリビニルアルコール、酢酸亜鉛及び水からなる前駆体溶液を製造し、この溶液を高められた温度で粘性のゲルへと変換させている。これに引き続き、この前駆体溶液を噴射ベースのエレクトロスピニング装置を用いて(「ニードルエレクトロスピニング」)紡糸し、ナノ繊維にする。引き続き、このナノ繊維を焼成してZnO繊維にする。この方法で製造されたZnOナノ繊維は、極めて不均一な表面構造並びにばらばらの直径を有しており、接触箇所で融け合っており、さらにこれによって低いアスペクト比が生じる。
【0005】
SnO2ナノ繊維の製造法は、Zhangらにより記載されている("fabrication and ethanol-sensing properties of micro gas sensor based on electrospun SnO2-nanofibers", Sensors and Actuators B 2008, 67-73)。Zhangらは、ポリビニルアルコール、塩化錫(IV)及び水からなる前駆体溶液を製造し、これをエレクトロスピニング装置を用いて紡糸し、ナノ繊維にしている。引き続き、このナノ繊維を焼成してSnO2ナノ繊維にする。この方法で製造されたSnO2ナノ繊維はばらばらの直径を有しており、かつ同様に接触箇所で融け合っており、それにより低いアスペクト比が生じ、さらには不満足な金属負荷が生じる。
【0006】
本発明の課題は、0.1〜999nmの範囲内の直径を有する金属酸化物ナノ繊維の改善された製造法を提供することである。さらに、本発明の課題は、まず高い無機分を有する未焼成繊維を製造することができ、これを引き続き焼成する、金属酸化物ナノ繊維の製造法を提供することである。
【0007】
前記課題は、以下の工程:
(a)水、エタノール、メタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、テトラヒドロフラン及びジメチルホルムアミドの群から選択された少なくとも1の溶剤中の1以上の金属化合物の溶液を調製する工程、
(b)(a)で調製した溶液から、該金属化合物中に含まれる少なくとも1の金属をその水酸化物の形でアルカリ沈殿させて、懸濁液を得る工程、
(c)方法工程(b)で沈殿させた少なくとも1の水酸化物を分離する工程、
(d)方法工程(c)で分離した少なくとも1の水酸化物をアミン又は溶剤・アミン混合物中に再分散ないし溶解させて、ゾル・ゲル前駆体を得る工程、
(e)1以上のポリマー、1以上の溶剤並びに方法工程(d)で得たゾル・ゲル前駆体を含有する溶液を製造する工程、
(f)方法工程(e)で製造した溶液をエレクトロスピニング処理する工程、及び
(g)ポリマーを除去する工程
を含む、0.1〜999nmの範囲内の直径を有する金属酸化物繊維の製造法により解決される。
【0008】
ここで、上記方法により、ナノメートル範囲の直径を有する金属酸化物繊維を得ることができることが判明した。方法工程(f)で製造された「未焼成繊維」は、従来技術から公知である未焼成繊維に比して高められた無機分を有する。エレクトロスピニング工程のために製造される溶液は高い加水分解安定性を示し、空気中で約12ヶ月の期間にわたって貯蔵可能である。このことは特に有利であり、それというのも、それゆえに、方法工程(g)におけるポリマー除去、例えば焼成の際の質量損失が比較的わずかなためである。さらに、方法工程(g)で得られた繊維は、比較的わずかな多孔度及び粗度を有する。この効果は、無機成分が方法工程(f)の後ですでに(架橋した)金属水酸化物の形で存在し、従って方法のこの箇所ですでに所望の金属酸化物形と極めて類似していることにより増強される。ここで、方法工程(b)、(c)及び(e)で製造された特定の前駆体溶液ないし金属水酸化物を使用することによって、相応して高い金属分を有する未焼成繊維を製造することができる。
【0009】
方法工程(a)で1以上の金属化合物の溶液を製造する際に、1以上の金属化合物を、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、テトラヒドロフラン(THF)及びジメチルホルムアミドの群から選択された溶剤中か、又は2以上の上記溶剤の混合物中に溶解させる。溶剤中に溶解させる金属化合物の量は、広範囲にわたって変動してよい。一般に、金属化合物中に含まれる1以上の金属イオンは、溶液中で、0.1〜7モル/lの範囲内、有利には0.2〜1モル/lの範囲内の濃度を有する。金属化合物なる概念は、本発明の範囲内で、金属が有機又は無機リガンドとアニオン結合又は共有結合している化合物を意味する。少なくとも1の金属化合物は、例えばCu、Ag、Au、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Ni、Pd、Co、Rh、Ir、Sb、Sn、In、Al、Ga、Er及びZnの群から選択された1以上の金属の無機もしくは有機化合物又は塩である。本発明の有利な一実施態様によれば、金属化合物の金属はSb、Sn、In、Al、Ga及びZnの群から選択されている。特に有利な一実施態様によれば、これは、金属Sn、Sb又はInの化合物を含有する混合物か、又は、金属Sn及びSbの化合物を含有する混合物である。
【0010】
本発明の意味における無機化合物とは、有機アニオンとそれぞれの金属カチオンとからの組合せが存在する限りにおいて、例えば塩化物、硫酸塩及び硝酸塩である。本発明の意味における有機化合物とは、有機アニオンとそれぞれの金属カチオンとからの組合せが存在する限りにおいて、相応する金属との、カルボン酸の塩、例えばホルメート、アセテート、シトレート及びアセチルアセトネートである。
【0011】
方法工程(a)において1以上の金属化合物の溶液を調製ないし製造した後に、方法工程(b)において、少なくとも1の金属イオンをその水酸化物の形でアルカリ沈殿させる。方法工程(b)において、少なくとも1の金属又は金属イオンのアルカリ沈殿を、少なくとも1のアンモニウム化合物及び/又は少なくとも1のアルカリ金属水酸化物の添加により行う。アルカリ沈殿に使用可能な化合物は、一般にNR4OH[式中、Rは相互に無関係に、H又はC1〜C4アルキルである]、NH4OH、NH3、NaOH、KOH、NH4HCO3及び(NH42CO3、NH4F、NaF、KF及びLiF又は2、3もしくはそれを上回る上記化合物の混合物の群から選択されている。方法工程(b)においてアンモニウム化合物及び/又はアルカリ金属水酸化物を添加することによって、方法工程(a)で調製した溶液のpH値を、8〜12の範囲内、有利には9〜10の範囲内のpH値に調節する。アルカリ沈殿の実施に必要なアンモニウム化合物又はアルカリ金属水酸化物の量は、広範囲に変動してよい。ここで当業者は、上記範囲内のpH値が生じかつ金属イオンがその水酸化物の形で溶液から析出するような、相応する量を用いる。
【0012】
本発明の有利な一実施態様によれば、方法工程(b)においてアルカリ沈殿を実施する前に、溶液に、例えばアラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン及びε−カプロラクタムのようなアミノ酸の群から選択された少なくとも1の安定剤を添加する。この安定剤の割合は広範囲にわたって変化させることができ、方法工程(a)で調製した溶液に対して一般に0.5〜10質量%、有利には1〜5質量%である。
【0013】
本発明のもう1つの有利な実施態様によれば、方法工程(b)においてアルカリ沈殿の後に得られた懸濁液を、60〜200℃の範囲内の温度で、有利には100〜160℃の範囲内の温度で、1時間〜24時間の期間にわたって、有利には2〜6時間の範囲内の期間にわたって、1〜2バール絶対の範囲内の圧力で処理する。これにより、結晶形の金属酸化物前駆体の懸濁液が生じる。この懸濁液を、同様に、方法工程(e)で製造された混合物に、1〜99質量%の割合で添加することができる。本発明のもう1つの有利な実施態様によれば、この金属酸化物前駆体の分散液の製造という中間工程を、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン及びε−カプロラクタムの群から選択された安定剤の存在で実施する。
【0014】
方法工程(b)においてアルカリ沈殿を実施した後に、析出した水酸化物を、これに引き続く方法工程(c)において分離する。母液からの水酸化物の分離を、濾過、傾瀉及び/又は遠心分離により行う。析出した固形物を母液から分離する方法は当業者に公知であり、ここでは詳説しない。
【0015】
本発明の有利な一実施態様によれば、方法工程(c)で分離した1以上の金属水酸化物を洗浄する。洗浄のために、一般に、水、メタノール、エタノール、i−プロパノール及びn−プロパノール又はその混合物の群から選択された溶剤を使用する。ここで、例えばアンモニウムイオン、アルカリ金属イオン又は塩化物イオンを金属水酸化物から除去する。金属水酸化物中の妨害的な作用を有する可能性のある成分を完全に除去するために、洗浄プロセスを数回繰り返してよい。有利な一実施態様によれば、洗浄に用いる溶剤又は溶剤混合物は、方法工程(b)でアルカリ沈殿を行った際のpH値に相当するpH値を示す。
【0016】
方法工程(c)において1以上の金属水酸化物を分離した後に、又は、場合による洗浄工程の後に、沈殿物又は金属水酸化物を、アミン中か又は有利には溶剤・アミン混合物中に溶解させる。溶剤・アミン混合物中の溶剤は、本発明の有利な一実施態様によれば、水、メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−プロパノール、テトラヒドロフラン(THF)及びジメチルホルムアミド又はその混合物の群から選択されており、特に有利には該溶剤は水である。溶剤・アミン混合物中に含まれるアミンは、一般に、一般式NR3[式中、Rは相互に無関係に、H、1〜6個、有利には2〜4個、特に有利には2個の炭素原子を有する置換又は非置換の直鎖又は分枝鎖のアルキル基を表す]による1級、2級又は3級アミンである。
【0017】
「アルキル基」とは、直鎖又は分枝鎖であってよく、かつ1〜6個の炭素原子を鎖中に有することができる、直鎖脂肪族炭化水素基を意味する。分枝鎖とは、低級アルキル基、例えばメチル、エチル又はプロピルがアルキル直鎖に結合していることを意味する。アルキル基は、例えばメチル、エチル、1−プロピル、2−プロピル、1−ブチル、2−ブチル、2−メチル−1−プロピル(イソブチル)、2−メチル−2−プロピル(tert.−ブチル)、1−ペンチル、2−ペンチル、3−ペンチル、2−メチル−1−ブチル、3−メチル−1−ブチル、2−メチル−2−ブチル、3−メチル−2−ブチル、2,2−ジメチル−1−プロピル、1−ヘキシル、2−ヘキシル、3−ヘキシル、2−メチル−1−ペンチル及び3−メチル−1−ペンチルである。エチル及びプロピルが特に有利である。
【0018】
本発明の特に有利な一実施態様によれば、アミンはジエチルアミンである。
【0019】
溶剤対アミンの質量比は広範囲にわたって変化させることができ、一般に5〜10:1〜5の範囲内、有利には7〜8:3〜2の範囲内である。1以上の金属水酸化物の濃度は、方法工程(d)で製造された溶液又は分散液の全質量に対して、一般に5〜30質量%の範囲内、有利には10〜20質量%の範囲内、特に有利には15質量%の割合である。
【0020】
方法工程(d)で製造された混合物(ゾル・ゲル前駆体とも称される)は、金属酸化物ナノ繊維の製造の際に慣用される溶剤と、双方の濃度範囲を超えて混合することが可能である。さらに、前駆体中に複数の水酸化物が存在することによって、水酸化物の良好な混合がもたらされ、これによって、後に引き続いて製造されるナノ繊維における極めて均一な金属分布がもたらされる。本発明による方法の範囲内でいわゆるゾル・ゲル前駆体を使用することは有利であり、それというのも、エレクトロスピニングによりほぼ常に同量の未焼成繊維がもたらされるためである。
【0021】
方法工程(e)において、1以上のポリマー、1以上の溶剤、並びに、方法工程(d)で製造した混合物であるゾル・ゲル前駆体を含有する溶液を製造し、この溶液から、後で引き続き、金属酸化物ナノ繊維を製造する。一般に、方法工程(e)において、溶剤又は溶剤混合物を、1以上のポリマーに加えてゾル・ゲル前駆体も該溶剤又は溶剤混合物に可溶となるように選択する。ここで、可溶であるとは、ポリマー及びゾル・ゲル前駆体が、相応する溶剤又は溶剤混合物中で少なくともそれぞれ1質量%の溶解度を有することと解釈される。このために、ポリマーの極性とゾル・ゲル前駆体の極性と溶剤の極性とを相互に適合させなければならないことは、当業者に周知である。当業者であれば、これを、自身の包括的な専門知識を用いて行うことができる。
【0022】
一般に、方法工程(e)において使用する溶剤は、水、メタノール、エタノール、エタンジオール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、フェニルエチルアミン、アセトン、アセチルアセトン、アセトニトリル、ジエチレングリコール、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン(NMP)及びテトラヒドロフラン又は2以上の上記溶剤の混合物の群から選択されている。有利に、方法工程(e)において溶液の製造に使用する溶剤は、水、メタノール、エタノール、エタンジオール及びイソプロパノールから選択された1以上のものである。
【0023】
方法工程(e)で溶液の製造の際に使用するポリマーは、一般に、ポリエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリウレタン、ポリラクチド、ポリグリコシド、ポリビニルホルムアミド、ポリビニルアミン、ポリビニルイミン及びポリアクリロニトリル又は2以上の上記ポリマーの混合物の群から選択されている。ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドンが有利なポリマーであると判明した。上記ポリマーのコポリマー、例えば、ポリビニルアルコール・ポリビニルアセテートコポリマー又はコポリマーの混合物も、さらに好適であると判明した。
【0024】
一般に、本発明の意味における1以上のポリマーは、熱的に、化学的に、放射線化学的に、物理的に、生物学的に、プラズマを用いて、超音波を用いて、又は溶剤での抽出によって分解可能なポリマー材料である。方法工程(e)で製造した溶液中のポリマー割合は、広範囲で変動してよい。一般に、ポリマーの割合は、方法工程(e)で製造した溶液に対して、1〜20質量%の範囲内、有利には5〜15質量%の範囲内、特に有利には6〜10質量%の範囲内である。
【0025】
方法工程(e)で製造した溶液に対するゾル・ゲル前駆体の割合は、一般に、1〜20質量%の範囲内、有利には5〜10質量%の範囲内、特に有利には6〜10質量%の範囲内である。
【0026】
1以上の溶剤及び他の場合により存在する添加剤が、方法工程(e)で製造した溶液の残成分を形成する。
【0027】
本発明の一実施態様によれば、方法工程(e)で製造した溶液に、通常1〜100nmの範囲内の平均粒度を有する結晶質及び/又は非晶質の金属酸化物ナノ粒子を添加する。ここで、添加する粒子の割合は、方法工程(e)で製造した溶液又は懸濁液に対して、1〜99質量%の範囲内、有利には1〜40質量%の範囲内、特に有利には1〜20質量%の範囲内である。有利な一実施態様によれば、結晶質金属酸化物ナノ粒子はATO粒子(アンチモンドープ酸化錫粒子)及び/又はITO粒子(錫ドープ酸化インジウム粒子)である。
【0028】
本発明の一実施態様によれば、方法工程(e)で製造した溶液に、通常1〜100nmの範囲内の平均粒度を有する結晶質及び/又は非晶質の金属ナノ粒子を添加する。ここで、添加する粒子の割合は、方法工程(e)で製造した溶液に対して1〜99質量%の範囲内である。極めて有利な一実施態様によれば、ナノ粒子は、銀、金、銅又はアルミニウムからの粒子である。
【0029】
方法工程(e)で製造した溶液からの、1以上のポリマー、1以上の金属酸化物前駆体からなるナノ繊維の製造は、この溶液からエレクトロスピニングを用いて行う。エレクトロスピニング法は当業者に公知である。エレクトロスピニングは、例えば、刊行物に記載されている(Xia et al., Advanced Materials 2004, 16, 1151)エレクトロスピニング装置と同じか又は類似の構造のエレクトロスピニング装置を用いて行うことができる。エレクトロスピニングは、例えばWO2006/131081A1又はWO2007/137530A2に記載されているエレクトロスピニング装置を用いて行うこともできる。
【0030】
本発明による方法の方法工程(g)における1以上のポリマーの除去は、一般に、熱的に、化学的に、放射線化学的に、物理的に、生物学的に、プラズマを用いて、超音波を用いて、又は溶剤での抽出によって行われる。有利に、ポリマーの除去は熱的に焼成により行われる。ここで、焼成を、一般に1〜24時間の期間にわたって、有利には3〜6時間の期間にわたって、250〜900℃の範囲内の温度で、有利には300〜800℃の範囲内の温度で、特に有利には400〜700℃の範囲内の温度で行う。雰囲気は一般に空気雰囲気であってよいが、窒素雰囲気であってもよく、これは付加的に酸素又は水素を含有していてよい。本発明の有利な一実施態様によれば、焼成は、窒素約78体積%、酸素21体積%の雰囲気中、又は純粋な窒素中、又は窒素と水素(1〜4体積%)とからの混合物中、又は窒素と酸素(>21体積%)とからの混合物中で実施する。焼成の後に得られる金属酸化物繊維は、0.1nm〜999nmの範囲内、有利には10nm〜300nmの範囲内、有利には50nm〜200nmの範囲内の直径を有する。アスペクト比は、10〜1000の範囲内、有利には100〜500の範囲内である。
【0031】
本発明の有利な一実施態様によれば、ナノ繊維を、エレクトロスピニングの後でかつ焼成の前に乾燥させる。ここで、ナノ繊維の乾燥を、通常は80〜180℃の範囲内の温度で、有利には100〜150℃の範囲内の温度で、周囲雰囲気中で、空気中で、又は真空中で行う。
【0032】
本発明のもう1つの一実施態様によれば、方法工程(g)で製造した金属酸化物繊維を還元して相応する金属繊維にする、金属繊維の製造法が提供される。金属酸化物から相応する金属への還元方法は、当業者には一般に公知である。ここで、好適な還元剤は、水素、一酸化炭素、ガス状炭化水素、炭素、さらには、それほど貴ではない金属、即ち還元すべき金属に対して負の標準電位を有する金属、さらには水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、アルコール及びアルデヒドである。本発明のもう1つの一実施態様によれば、金属酸化物繊維を電気化学的に還元又は部分還元することができる。当業者は、自身の包括的な専門知識を用いてこの還元法を用いることができ、それにより<1μmの直径を有する相応する金属繊維が得られる。
【0033】
ナノ繊維を、金属酸化物及び金属の電気化学堆積に使用することもできる。
【0034】
得られたナノ繊維は、数多くの重要な磁気特性、電気的特性及び触媒特性を有しており、これらによって、該ナノ繊維はその実際的応用のために極めて有用となる。従って、該ナノ繊維は、マイクロエレクトロニクス及びオプトエレクトロニクスにおける種々の部材のための有望な新規材料である。触媒作用又は濾過における適用に関しても、多岐にわたる可能性がある。従って、本発明のもう1つの対象は、プラスチック用添加物としての、機械的補強のための、静電防止/導電性仕上げのための、難燃のための、プラスチックの伝熱性を改善するための;並びに、ガス及び液体濾過用の、特に高温濾過用のフィルター及びフィルター部材の要素としての、触媒の成分としての;Liイオン電池、太陽電池、燃料電池及び他の電子部品/エレメントの部材としての、本発明による金属酸化物繊維の使用である。
【0035】
本発明を以下の実施例により詳説する:
【実施例】
【0036】
実施例1 ATO(酸化アンチモン錫)ナノ繊維の合成
PVP(BASF SE社製Kollidon 92F)6.7質量%、ATO前駆体6.7質量%、水26.4質量%、エタノール48.9質量%及びジエチルアミン11.3質量%を含むゾル・ゲル前駆体溶液を、以下の通り製造した:
25質量%水酸化アンモニウム水溶液200gを、ガラスフラスコに入れた。強力な撹拌下に、エタノール960g及び濃HCl 16g中の塩化錫(IV)78.4g及び塩化アンチモン(III)5.2gの溶液を添加した。生じた沈殿物を遠心分離により分離し、pH10(アンモニア溶液で調節)の水で4回洗浄し、その際、その都度Ultraturraxを用いて再分散させた。得られた沈殿物を水及びジエチルアミン7:3の混合物に溶解させて、15質量%(金属酸化物含分に関して)ATO前駆体溶液を得た。上記ATO前駆体溶液200gをエタノール中の15%PVP溶液200gに溶解させ、次いでエタノール50mlをこれに添加した。これにより生じた溶液は以下の特性を有していた:
粘度(23.5℃):0.22Pa・s
伝導率(23.5℃):383μS/cm。
【0037】
この溶液のエレクトロスピニングを、ナノスパイダー装置(NS Lab 500S, Elmarco社, チェコ共和国在)を用いて行った。電極タイプ:6つのワイヤー型電極;電極間距離 25cm;電圧:82kV。
【0038】
得られた繊維(未焼成繊維とも称される)を、空気雰囲気下に焼成した。このために、5℃/分の加熱速度で550℃に加熱し、この550℃の温度を2時間保持したところ、明青色の固体の形のATOナノ繊維が得られた。
【0039】
この繊維の平均直径は100〜130nmの範囲内であった。
アスペクト比(長さ/直径):≫100:1、
比伝導率:0.9S/cm、ATO繊維とPVDF(バインダー)3質量%とからなる圧縮されたタブレットに関して4点法で測定したもの。
【0040】
実施例2 ATO(酸化アンチモン錫)ナノ繊維の合成
PVP(BASF SE社製Kollidon 92F)6.7質量%、ATO前駆体6.7質量%、水26.4質量%、エタノール48.9質量%及びジエチルアミン11.3質量%を含むゾル・ゲル前駆体溶液を、以下の通り製造した:
強力な撹拌下に、水560g中の塩化錫(IV)66g及び塩化アンチモン(III)5.8g及びε−カプロラクタム2.24gの溶液を製造した。この溶液を50℃に加熱し、この温度で25質量%水酸化アンモニウム水溶液142gを添加した。得られた懸濁液を、50℃で10時間撹拌した。生じた沈殿物を遠心分離により分離し、pH10(アンモニア溶液で調節)の水で4回洗浄し、その際、その都度Ultraturraxを用いて再分散させた。得られた沈殿物を水及びジエチルアミン7:3の混合物に溶解させて、15質量%(金属酸化物含分に関して)ATO前駆体溶液を得た。上記ATO前駆体溶液200gをエタノール中の15%PVP溶液200gに溶解させ、次いでエタノール50mlをこれに添加した。これにより生じた溶液は以下の特性を有していた:
粘度(23.5℃):0.22Pa・s
伝導率(23.5℃):383μS/cm。
【0041】
エレクトロスピニングを、ナノスパイダー装置(NS Lab 500S, Elmarco社, チェコ共和国在)を用いて行った。電極タイプ:6つのワイヤー型電極;電極間距離 25cm;電圧:82kV。
【0042】
得られた繊維(未焼成繊維とも称される)を、空気雰囲気下に焼成した。このために、5℃/分の加熱速度で550℃に加熱し、この550℃の温度を2時間保持したところ、明青色の固体の形のATOナノ繊維が得られた。
【0043】
実施例3 ATO(酸化アンチモン錫)ナノ繊維の合成
PVP(BASF SE社製Kollidon 92F)6.7質量%、ATO前駆体6.7質量%、水26.4質量%、エタノール48.9質量%及びジエチルアミン11.3質量%を含むゾル・ゲル前駆体溶液を、以下の通り製造した:
DL−アラニン16.9gを含有する25質量%水酸化アンモニウム水溶液200gを、ガラスフラスコに入れた。強力な撹拌下に、エタノール960g及び濃HCl 16g中の塩化錫(IV)78.4g及び塩化アンチモン(III)5.2gの溶液を添加した。その後、生じた懸濁液をオートクレーブ中で3.5時間、150℃に加熱した。冷却後、沈殿物を遠心分離により分離し、水で4回洗浄し、その際、その都度Ultraturraxを用いて再分散させた。得られた沈殿物を水及びジエチルアミン7:3の混合物に溶解させて、15質量%(金属酸化物含分に関して)ATO前駆体溶液を得た。上記ATO前駆体溶液200gをエタノール中の15%PVP溶液200gに溶解させ、次いでエタノール50mlをこれに添加した。
【0044】
エレクトロスピニングを、ナノスパイダー装置(NS Lab 500S, Elmarco社, チェコ共和国在)を用いて行った。電極タイプ:6つのワイヤー型電極;電極間距離 25cm;電圧:82kV。
【0045】
得られた繊維(未焼成繊維とも称される)を、空気雰囲気下に焼成した。このために、5℃/分の加熱速度で550℃に加熱し、この550℃の温度を2時間保持したところ、明青色の固体の形のATOナノ繊維が得られた。
【0046】
実施例4 ATO(酸化アンチモン錫)ナノ繊維の合成
PVP(BASF SE社製Kollidon 92F)6.7質量%、ATO前駆体6.7質量%、水26.4質量%、エタノール48.9質量%及びジエチルアミン11.3質量%を含むゾル・ゲル前駆体溶液を、以下の通り製造した:
強力な撹拌下に、水560g中の塩化錫(IV)66g及び塩化アンチモン(III)5.8g及びε−カプロラクタム2.24gの溶液を製造した。この溶液を50℃に加熱し、この温度で25質量%水酸化アンモニウム水溶液142gを添加した。得られた懸濁液を、50℃で10時間撹拌した。その後、生じた懸濁液をオートクレーブに入れ、150℃で3.5時間加熱した。冷却後、沈殿物を遠心分離により分離し、水で4回洗浄し、その際、その都度Ultraturraxを用いて再分散させた。得られた沈殿物を水及びジエチルアミン7:3の混合物に溶解させて、15質量%(金属酸化物含分に関して)ATO前駆体溶液を得た。上記ATO前駆体溶液200gをエタノール中の15%PVP溶液200gに溶解させ、次いでエタノール50mlをこれに添加した。
【0047】
エレクトロスピニングを、ナノスパイダー装置(NS Lab 500S, Elmarco社, チェコ共和国在)を用いて行った。電極タイプ:6つのワイヤー型電極;電極間距離 25cm;電圧:82kV。
【0048】
得られた繊維(未焼成繊維とも称される)を、空気雰囲気下に焼成した。このために、5℃/分の加熱速度で550℃に加熱し、この550℃の温度を2時間保持した。
【0049】
実施例5 ATO(酸化アンチモン錫)ナノ繊維の合成
PVP(Sigma-Aldirch, Mw 1300000)4.8質量%、ATO前駆体11.5質量%、水25.7質量%、エタノール10質量%、メタノール35.2質量%及びジエチルアミン12.8質量%を含有するゾル・ゲル前駆体溶液を、以下の通り製造した:
25質量%水酸化アンモニウム水溶液200gを、ガラスフラスコに入れた。強力な撹拌下に、エタノール960g及び濃HCl 16g中の塩化錫(IV)78.4g及び塩化アンチモン(III)5.2gの溶液を添加した。生じた沈殿物を遠心分離により分離し、pH10(アンモニア溶液で調節)の水で4回洗浄し、その際、その都度Ultraturraxを用いて再分散させた。得られた沈殿物を水及びジエチルアミン2:1の混合物に溶解させて、23質量%(金属酸化物含分に関して)ATO前駆体溶液を得た。上記ATO前駆体溶液200gをメタノール中の12質量%PVP溶液160gに溶解させ、次いでエタノール40gをこれに添加した。
【0050】
この溶液のエレクトロスピニングを、エレクトロスピニング装置(「ニードルエレクトロスピニング」、即ち、高圧装置と組み合わせた噴射ポンプ)を用いて行い、紡糸してナノ繊維とした。噴射ポンプの送り量を0.5ml/hに設定し、電圧7kVで電極間距離は8cmであった。
【0051】
得られた繊維(未焼成繊維とも称される)を、空気雰囲気下に焼成した。このために、5℃/分の加熱速度で550℃に加熱し、この550℃の温度を2時間保持したところ、明青色の固体の形のATOナノ繊維が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程:
(a)水、エタノール、メタノール、i−プロパノール、n−プロパノール、テトラヒドロフラン及びジメチルホルムアミドの群から選択された少なくとも1の溶剤中の1以上の金属化合物の溶液を調製する工程、
(b)(a)で調製した溶液から、少なくとも1の金属化合物の少なくとも1の金属を、その水酸化物の形でアルカリ沈殿させて、懸濁液を得る工程、
(c)方法工程(b)で沈殿させた少なくとも1の水酸化物を分離する工程、
(d)方法工程(c)で分離した少なくとも1の水酸化物を、アミン又は溶剤・アミン混合物中に再分散させる工程、
(e)1以上のポリマー、1以上の溶剤並びに方法工程(d)で製造した混合物を含有する溶液を製造する工程、
(f)方法工程(e)で製造した溶液をエレクトロスピニング処理する工程、及び
(g)ポリマーを除去する工程
を含む、0.1〜999nmの範囲内の直径を有する金属酸化物繊維の製造法。
【請求項2】
金属化合物が、Cu、Ag、Au、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Ni、Pd、Co、Rh、Ir、Sb、Sn、In、Al、Ga、Er及びZnの群から選択された金属の金属化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
方法工程(b)におけるアルカリ沈殿を、8〜12の範囲内のpH値で行う、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
方法工程(b)におけるアルカリ沈殿を、少なくとも1のアンモニウム化合物及び/又は少なくとも1のアルカリ金属水酸化物の添加により行う、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
方法工程(b)におけるアルカリ沈殿の前に、溶液に、アラニン、フェニルアラニン、バリン、ロイシン及びε−カプロラクタムの群から選択された少なくとも1の安定剤を添加する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
方法工程(b)で得られた懸濁液を、方法工程(c)の実施前に60〜200℃の範囲内の温度に加熱する、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
方法工程(c)で分離した金属水酸化物を洗浄する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
方法工程(d)における溶剤・アミン混合物が、水、メタノール、エタノール、i−プロパノール、n−プロパノール、テトラヒドロフラン(THF)及びジメチルホルムアミドの群から選択された少なくとも1の溶剤と、一般式NR3[式中、Rは相互に無関係に、H、1〜6個の炭素原子を有する置換又は非置換の直鎖又は分枝鎖のアルキル基を表す]による1級、2級又は3級アミンの群からの少なくとも1つとを含有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
方法工程(e)におけるポリマーが、ポリエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・ポリビニルアセテートコポリマー、ポリビニルアセテート、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリウレタン、ポリラクチド、ポリグリコシド、ポリビニルホルムアミド、ポリビニルアミン、ポリビニルイミン及びポリアクリロニトリル又は2以上の上記ポリマーの混合物の群から選択されている、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
方法工程(e)における少なくとも1の溶剤が、水、メタノール、エタノール、エタンジオール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、i−ブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、フェニルエチルアミン、アセトン、アセチルアセトン、アセトニトリル、ジエチレングリコール、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエン、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン及びテトラヒドロフラン又はその2以上の混合物の群から選択されている、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
方法工程(g)におけるポリマーの除去を、熱的に、化学的に、放射線化学的に、生物学的に、物理的に、プラズマを用いて、超音波を用いて、又は溶剤での抽出によって行う、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
方法工程(g)におけるポリマーの除去に引き続き、金属酸化物繊維を還元して相応する金属繊維にする、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
方法工程(e)で製造した溶液に、結晶質及び/又は非晶質の金属酸化物ナノ粒子及び/又は金属ナノ粒子を添加する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
請求項1から13までのいずれか1項記載の方法により得ることができる金属酸化物繊維。
【請求項15】
プラスチック用添加剤としての、請求項13記載の金属酸化物繊維の使用。

【公表番号】特表2013−510244(P2013−510244A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537343(P2012−537343)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国際出願番号】PCT/EP2010/066173
【国際公開番号】WO2011/054701
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】