説明

ナノ繊維製造装置

【課題】所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産可能とする。
【解決手段】電界紡糸装置20は、導電性の筐体100と、筐体100に絶縁部材152を介して取り付けられたコレクター150と、コレクター150に対向配置され、複数のノズル112を有するノズルブロック110と、ノズルブロック110とコレクターとの間に高電圧を印加する電源装置160と、コレクターを囲む位置に配設された補助ベルト及び補助ベルトを長尺シートの搬送速度に対応して回転させる補助ベルト駆動装置174とを備え、電源装置160は、正負電極の一方の電極が、コレクター150に接続され、他方の電極がノズルブロック110及び筐体100に接続され、絶縁部材152はその外周がコレクターの外周よりも外側に位置し、絶縁部材の厚さaがa≧6mmを満たし、絶縁部材152の外周とコレクター150の外周との距離をbとしたとき、a+b≧50mmを満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ繊維製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、長尺シートが搬送されていく所定の搬送方向に沿って電界紡糸装置が配置されたナノ繊維製造装置が知られている。また、このようなナノ繊維製造装置に用いられる電界紡糸装置として、ノズルブロックを接地した状態でコレクターに高電圧を印加して電界紡糸をする電界紡糸装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
図30は、特許文献1に記載されている電界紡糸装置900を説明するために示す図である。特許文献1に記載された電界紡糸装置900は、図30に示すように、ポリマー溶液を貯蔵する原料タンク901と、ポリマー溶液を吐出する紡糸ノズル904及びガス流れを形成するガスノズル906を有するノズルブロック902と、導電性要素からなるコレクター920と、収集基材918を搬送するための繰り出しロール924及び巻き取りロール926とを備える。なお、図30中、符号912は吸引ブロアを示し、符号914はガス収集管を示し、符号922は支持部材を示す。
【0004】
特許文献1に記載された電界紡糸装置900においては、コレクター920に負の高電圧を印加するとともにノズルブロック902を接地した状態で紡糸ノズル904からポリマー溶液を吐出することにより、搬送されていく収集基材上にナノ繊維を電界紡糸する。
【0005】
特許文献1に記載された電界紡糸装置900によれば、ノズルブロック902をはじめとして「紡糸ノズル904から吐出される前のポリマー溶液」、「ポリマー溶液を貯蔵する原料タンク901」、「ポリマー溶液を原料タンク901からノズルブロック902まで移送するポリマー溶液移送機構(例えば、配管や送りポンプなど。)」のすべてが接地電位となるため、原料タンク901やポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にする必要がなくなる。従って、原料タンク901やポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にものにすることに起因して電界紡糸装置の機構が複雑化することがなくなる。
【0006】
また、特許文献1に記載された電界紡糸装置900によれば、比較的単純な形状・構造にすることが可能なコレクター920に高電圧を印加するとともに、比較的複雑な形状・構造を有するノズルブロック902を接地した状態で電界紡糸するため、望ましくない放電や電圧降下を起こし難くなり、常に安定した条件の下で電界紡糸することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−506864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明の発明者の研究によれば、特許文献1に記載された電界紡糸装置のように、コレクターに高電圧を印加するとともにノズルブロックを接地した状態で電界紡糸する機構を有する電界紡糸装置であっても、実際上、コレクターと筐体その他の部材との間の絶縁が不十分になり易く、所望の性能を有するナノ繊維を製造するためにノズルブロックとコレクターとの間に極めて高い電圧(例えば35kV)を印加して電界紡糸を行うような場合には、コレクターと筐体その他の部材との間で絶縁破壊が起こったり、絶縁破壊が起こらないまでもリーク電流が望ましくないレベルにまで大きくなったりする場合があることがわかった。そうなると、結局、電界紡糸装置の運転を停止する必要が生じてしまうため、電界紡糸装置を長時間にわたって連続して運転することが困難となり、ひいては、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが困難となる。
【0009】
また、特許文献1に記載された電界紡糸装置900においては、コレクターに高電圧が印加されていることから、コレクターと長尺シートとの間に大きな静電引力が発生し、これに起因して長尺シートがコレクターに引き寄せられて、長尺シートの円滑な搬送が妨げられる場合がある。その結果、長時間にわたってナノ繊維を均一な条件で電界紡糸することが困難となったり、ひどいときには電界紡糸装置の運転自体を停止しなければならなくなったりしてしまい、均一な品質(例えば、ナノ繊維の平均直径、ナノ繊維の直径分布、ナノ繊維の堆積量、ナノ繊維層の目付、ナノ繊維層の厚さ、ナノ繊維層の通気度など。)を有するナノ繊維を高い生産性で大量生産することが困難となる。
【0010】
そこで、本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが可能なナノ繊維製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
[1]本発明のナノ繊維製造装置は、所定の搬送速度で搬送されていく長尺シートの搬送方向に沿って直列に配置され、前記長尺シートにナノ繊維を堆積させるための複数の電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置であって、前記電界紡糸装置は、導電性を有する筐体と、前記筐体に絶縁部材を介して取り付けられたコレクターと、前記コレクターに対向する位置に位置し、ポリマー溶液を吐出する複数のノズルを有するノズルブロックと、前記ノズルブロックと前記コレクターとの間に高電圧を印加する電源装置と、前記コレクターを取り囲む位置に回転自在に配設された絶縁性かつ多孔性のエンドレスベルトからなる補助ベルト及び当該補助ベルトを前記長尺シートの搬送速度に対応する回転速度で回転させる補助ベルト駆動装置とを備え、前記電源装置は、当該電源装置の正電極及び負電極のうち一方の電極が、前記コレクターに接続され、前記電源装置の正電極及び負電極のうち他方の電極が、前記ノズルブロック及び前記筐体に接続され、前記絶縁部材は、ノズルブロック側から前記コレクターを見たとき、当該絶縁部材の外周が、前記コレクターの外周よりも外側に位置し、前記絶縁部材の厚さを「a」とし、前記絶縁部材の外周と前記コレクターの外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たすことを特徴とする。
【0012】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、筐体又はノズルブロックを接地することにより、ノズルブロックをはじめとして「ノズルから吐出される前のポリマー溶液」、「ポリマー溶液を貯蔵する原料タンク」、「ポリマー溶液を原料タンクからノズルブロックまで移送するポリマー溶液移送機構(例えば、配管や送りポンプなど。)」のすべてが接地電位となるため、特許文献1に記載された電界紡糸装置の場合と同様に、原料タンクやポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にする必要がなくなる。従って、原料タンクやポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にものにすることに起因して電界紡糸装置の機構が複雑化することがなくなる。
【0013】
また、本発明のナノ繊維製造装置によれば、ノズルブロック側からコレクターを見たとき、絶縁部材の外周は、コレクターの外周よりも外側に位置し、絶縁部材の厚さを「a」とし、絶縁部材の外周と前記コレクターの外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たすため、コレクターと筐体その他の部材との間の絶縁が十分良好なものとなり、後述する試験例からも明らかなように、ノズルブロックとコレクターとの間に35kVを印加して電界紡糸を行うような場合であっても、コレクターと筐体その他の部材との間で絶縁破壊が起こらなくなることがわかった。また、リーク電流を所定範囲内にとどめることができることがわかった。その結果、本発明の電界紡糸装置によれば、電界紡糸装置の運転を停止する必要が生じる頻度を極めて低いレベルにまで低減することが可能となるため、電界紡糸装置を長時間にわたって連続して運転することが可能となり、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが可能となる。
【0014】
また、本発明のナノ繊維製造装置によれば、リーク電流を所定範囲内にとどめることができることが可能となるため、電源装置からの供給電流を常時監視することによって、電界紡糸装置の異常を早期発見することが可能となるという効果も得られる。
【0015】
また、本発明のナノ繊維製造装置によれば、一方の電極がコレクターに接続され、他方の電極がノズルブロックに接続されるとともに当該他方の電極の電位が接地電位に落とされた電源装置を備えるため、特許文献1に記載された電界紡糸装置の場合と同様に、比較的単純な形状・構造にすることが可能なコレクターに高電圧を印加するとともに、比較的複雑な形状・構造を有するノズルブロックを接地した状態で電界紡糸するため、望ましくない放電や電圧降下を起こし難くなり、常に安定した条件の下で電界紡糸することが可能となる。
【0016】
また、本発明のナノ繊維製造装置によれば、コレクターを取り囲む位置に回転自在に配設された絶縁性かつ多孔性のエンドレスベルトからなる補助ベルト及び当該補助ベルトを長尺シートの搬送速度に対応する回転速度で回転させる補助ベルト駆動装置を有する補助ベルト装置をさらに備えるため、コレクターと長尺シートとの間に大きな静電引力が発生したとしても、長尺シートとコレクターとの間に補助ベルトが存在するため、長尺シートがコレクターに引き寄せられたり、長尺シートの円滑な搬送が妨げられたりすることがなくなる。その結果、ナノ繊維を均一な条件で電界紡糸することが可能となることはもちろん、電界紡糸装置の運転自体を停止することもなくなり、均一な品質(例えば、ナノ繊維の平均直径、ナノ繊維の直径分布、ナノ繊維の堆積量、ナノ繊維不織布の厚さ、ナノ繊維不織布の通気度など。)を有するナノ繊維を高い生産性で大量生産することが可能となる。
【0017】
なお、本発明のナノ繊維製造装置においては、補助ベルトが長尺シートの搬送速度に対応する回転速度で回転するため、補助ベルトの存在に起因して長尺シートの搬送状態に悪影響を与えてしまうこともない。また、本発明のナノ繊維製造装置においては、補助ベルトが絶縁性かつ多孔性のエンドレスベルトからなるため、コレクターとノズルブロックとの間に形成される電界分布に大きな影響を与えることもない。
【0018】
本発明のナノ繊維製造装置においては、補助ベルトは、0.7mm〜10.0mmの厚さを有するポリマー基材からなることが好ましい。ポリマーとしては、ポリマーとしては、ポリエチレン、ポリアセチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、ナイロンなどのポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、非晶ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマーなどを好ましく用いることができる。補助ベルトには、0.001mm〜1.0mmの面積をもつ複数の孔が形成されていることが好ましい。
【0019】
[2]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記補助ベルト駆動装置は、前記補助ベルトを掛け回す複数の補助ベルト用ローラーと、前記複数の補助ベルト用ローラーのうち少なくとも1つの補助ベルト用ローラーを回転させる駆動モーターと、前記複数の補助ベルト用ローラーのうち1つの補助ベルト用ローラーについて、当該補助ベルト用ローラーの一方の端部における、前記補助ベルトの内側から外側に向かう方向に沿った当該補助ベルト用ローラーの位置を制御することにより、前記補助ベルト用ローラーの幅方向に沿った前記補助ベルトの位置を制御する補助ベルト位置制御装置とを有することが好ましい。
【0020】
このような構成とすることにより、補助ベルトを長尺シートの搬送速度に対応する回転速度で確実に回転させることができるようになる。また、当該補助ベルト用ローラーの傾きを適宜制御することが可能となり、補助ベルト用ローラーの幅方向に沿った補助ベルトの位置を長時間にわたって精度良く制御することが可能となる。
【0021】
[3]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記絶縁部材は、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、非晶ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマー、ポロブロビレン、高密度ポリエチレン又はポリエチレンからなることが好ましい。
【0022】
これらの材料は、高い絶縁性能、高い機械的強度及び高い加工性とを兼ね備えた材料であり、本発明の電界紡糸装置の絶縁部材として好適に用いることができる。
【0023】
[4]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記長尺シートを搬送する搬送装置と、前記搬送装置及び前記複数の電界紡糸装置の動作を制御する主制御装置とをさらに備え、前記主制御装置は、前記複数の電界紡糸装置の各電源装置から供給される電流量を各電界紡糸装置ごとに監視するとともに、所定の第1設定電流量よりも大きい電流が前記複数の電源装置のうちの1又は複数の電源装置から供給されていることを検知したときには、当該1又は複数の電源装置に対して電流供給を停止させる信号(以下、電流供給停止信号という。)を送信するとともに、前記長尺シートに堆積する単位面積当たりのナノ繊維の累積堆積量を所定の範囲内に収めるために前記搬送装置に対して前記搬送速度を減速させる信号(以下、搬送速度減速信号という。)を送信することが好ましい。
【0024】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、上記した構成の主制御装置を備えるため、たとえ長時間にわたって複数の電界紡糸装置を連続して運転するうちに、複数の電界紡糸装置のうち1つの電界紡糸装置についてだけ異常が発生したような場合であっても、当該異常を即座に検出することが可能となり、安全性の高いナノ繊維製造装置を実現することが可能となる。
【0025】
また、本発明のナノ繊維製造装置によれば、上記した構成の主制御装置を備えるため、たとえ長時間にわたって複数の電界紡糸装置を連続して運転するうちに、複数の電界紡糸装置のうち1つの電界紡糸装置についてだけ異常が発生したような場合であっても、異常が発生した電界紡糸装置の運転を停止させるだけで、残りの電界紡糸装置の運転は停止させないので、ナノ繊維の製造自体を停止しなくても済むようになる。
【0026】
従って、本発明のナノ繊維製造装置によれば、「電界紡糸装置が異常である」と判定する際の基準を甘く設定する必要がなくなる。よって、安全性を犠牲にすることなく、高い生産性でナノ繊維を大量生産することが可能となる。
【0027】
なお、本発明のナノ繊維製造装置によれば、上記した構成の主制御装置を備えるため、異常が発生した電界紡糸装置の運転を停止させたとしても、それに応じて搬送速度を減速させることにより、長尺シートに堆積する単位面積当たりのナノ繊維の累積堆積量を所定の範囲内に収めることが可能となる。その結果、均一な通気度や均一な厚さを有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0028】
なお、本発明において、ナノ繊維不織布とは、ナノ繊維を堆積させた長尺シートのことをいう。ナノ繊維不織布は、これをこのまま製品としてもよいし、ナノ繊維不織布から長尺シートを除いて「ナノ繊維層のみからなる不織布」を製造し、これを製品としてもよい。また、「ナノ繊維」とは、ポリマーからなり、平均直径が数nm〜数千nmの繊維のことをいう。また、「ポリマー溶液」とは、ポリマーを溶媒に溶解させた溶液のことをいう。
【0029】
[5]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記主制御装置は、所定の第2設定電流量よりも小さい電流が前記複数の電源装置のうちの1又は複数の電源装置から供給されていることを検知したときには、当該1又は複数の電源装置が異常状態である旨の警告(警告音又は警告表示)を出すことが好ましい。
【0030】
このような構成とすることにより、異常が発生した電界紡糸装置の運転状況を確認したり、異常が発生した電界紡糸装置の運転を停止させたりすることが可能となるため、より一層安全性の高いナノ繊維製造装置を実現することが可能となる。
【0031】
[6]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記主制御装置は、前記搬送速度を減速させる前の第1期間に電流供給を行っていた前記電源装置の台数をn台とし、前記搬送速度を減速させた後の第2期間に電流供給を行なう前記電源装置の台数をm台としたとき、前記第2期間における前記搬送速度を前記第1期間における前記搬送速度の「m/n」倍に制御することが好ましい。
【0032】
このような構成とすることにより、長尺シートに堆積する単位面積当たりのナノ繊維の累積堆積量を所定の範囲内に収めることが可能となる。
【0033】
[7]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記ノズルは、ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出するように上向きに取り付けられており、かつ、前記ノズルの先端部(以下、ノズル先端部という。)は、円筒を当該円筒の軸と斜めに交わる平面に沿って切断した形状を有し、前記ノズルブロックは、当該ノズルに前記ポリマー溶液を供給するポリマー溶液供給経路及び前記ノズルの吐出口からオーバーフローした前記ポリマー溶液を回収するポリマー溶液回収経路を有し、前記ノズルの吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら前記ノズルの吐出口から前記ポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するとともに、前記ノズルの吐出口からオーバーフローした前記ポリマー溶液を回収して前記ナノ繊維の原料として再利用可能とすることが好ましい。
【0034】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、上向きに取り付けられた複数のノズルの吐出口からポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するため、従来の下向きに取り付けられたノズルを用いたナノ繊維製造装置の場合に見られるようなドロップレット現象が発生することがなく、高品質なナノ繊維を製造することが可能となる。
【0035】
また、本発明のナノ繊維製造装置によれば、複数のノズルの吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながらナノ繊維を電界紡糸するため、常に十分な量のポリマー溶液がノズルに供給され、均一な品質を有するナノ繊維を製造することが可能となる。
【0036】
また、本発明のナノ繊維製造装置によれば、複数のノズルの吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することが可能であるため、原料の使用料を減らすことが可能となる結果、安価な製造コストでナノ繊維を製造することが可能となる。また、このことは省資源化の流れにも沿うものとなる。
【0037】
また、本発明のナノ繊維製造装置によれば、ノズル先端部が、円筒を当該円筒の軸と斜めに交わる平面に沿って切断した形状を有するため、ノズルの吐出口からオーバーフローするポリマー溶液が、ノズル先端部の部分で滞留することなく速やかに流れ落ちるようになる。このため、電界紡糸する過程でポリマー溶液から溶媒が揮発する量を極めて少なくするとともに、ノズルの吐出口の近傍において生成するポリマー固化物の量を極めて少なくすることが可能となる。その結果、本発明のナノ繊維製造装置によれば、ノズルの吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら電界紡糸する場合であっても、ポリマー固化物がナノ繊維に付着してナノ繊維の品質を低下させてしまうという問題を解決することが可能となる。
【0038】
[8]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記円筒の軸と、前記平面とのなす角度は、15°〜60°の範囲内にあることが好ましい。
【0039】
円筒の軸と平面とのなす角度を15°〜60°の範囲内にしたのは、当該角度が60°以下である場合には、ノズルの吐出口からオーバーフローするポリマー溶液が当該ノズル先端部の部分で滞留することなく、より一層速やかに流れ落ちるようになるからであり、当該角度が15°以上である場合には、ノズルの斜面の長さが長くなりすぎることに起因して電界紡糸条件がばらついてしまうということもなくなるからである。
【0040】
[9]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記ポリマー溶液回収経路は、前記ノズルの吐出口からオーバーフローした前記ポリマー溶液を受ける受部と、前記受部を覆うとともに前記ノズルを通す複数のノズル用孔を有する蓋部と、前記複数のノズル用孔から突出する前記ノズルの各側面を覆う複数のジャケットから形成されてなり、前記ジャケットの基端側をジャケット基端部とし、前記ジャケットの先端側をジャケット先端部とするとき、前記ジャケット先端部は、前記ジャケット基端部よりも細いことが好ましい。
【0041】
このような構成とすることにより、ノズルの側面を覆うジャケットの働きにより、ノズルの吐出口からオーバーフローするポリマー溶液から溶媒が揮発する量をより一層低減することが可能となる。
【0042】
また、ジャケット先端部はジャケット基端部よりも細いため、ノズルの吐出口からオーバーフローするポリマー溶液から溶媒が揮発する量をより一層低減することが可能となる。
【0043】
[10]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記ナノ繊維の原料となる前記ポリマー溶液を貯蔵する原料タンクと、回収された前記ポリマー溶液を再生するための再生タンクであって、再生された前記ポリマー溶液を貯蔵する再生タンクと、前記原料タンク又は前記再生タンクから供給された前記ポリマー溶液を貯蔵する中間タンクと、前記ノズルブロックの前記ポリマー溶液回収経路から前記再生タンクへ前記ポリマー溶液を移送する第1移送装置と、前記第1移送装置の移送動作を制御する第1移送制御装置と、前記原料タンク及び前記再生タンクから前記中間タンクへ前記ポリマー溶液を移送する第2移送装置と、前記第2移送装置の移送動作を制御する第2移送制御装置とをさらに備えることが好ましい。
【0044】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、複数のノズルの吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することが可能であるため、原料の使用料を減らすことが可能となる結果、安価な製造コストでナノ繊維を製造することが可能となる。また、このことは省資源化の流れにも沿うものとなる。
【0045】
なお、「移送装置」には、ポリマー溶液を通すパイプ、ポリマー溶液を移送するポンプなどが含まれる。また、「移送制御装置」には、ポリマー溶液の通過の可否及び通過量を制御するバルブ、当該バルブや上記したポンプの動作を制御する制御装置などが含まれる。
【0046】
[11]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記第2移送制御装置は、前記ポリマー溶液を、前記原料タンク及び前記再生タンクのうちいずれのタンクから前記中間タンクへ移送するかについて制御することが好ましい。
【0047】
このような構成とすることにより、再生されたポリマー溶液が再生タンク内に貯蔵されていないとき又は十分に貯蔵されていないときには、原料タンクから中間タンクへポリマー溶液を移送し、再生されたポリマー溶液が再生タンク内に十分に貯蔵されているときには、再生タンクから中間タンクへポリマー溶液を移送するといった、再生タンク内に貯蔵されるポリマー溶液の量に応じて中間タンクへ移送するポリマー溶液の供給元を適切に制御することが可能となる。
【0048】
なお、「原料タンク及び再生タンクのうちいずれのタンク」とは、原料タンク又は再生タンクのうち一方のタンクである場合と、原料タンク及び再生タンクの両方のタンクである場合との両方を含む。
【0049】
[12]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記再生タンクとして、複数の再生タンクを備え、前記第1移送制御装置は、前記ポリマー溶液を、前記複数の再生タンクのうちいずれの再生タンクへ移送するかについて制御し、前記第2移送制御装置は、前記ポリマー溶液を前記再生タンクから前記中間タンクへ移送する場合には、前記ポリマー溶液を前記複数の再生タンクのうちいずれの再生タンクから移送するかについても制御することが好ましい。
【0050】
このような構成とすることにより、回収したポリマー溶液を再生するタンクとして、複数の再生タンクを順番に(交互に)使用することにより、ナノ繊維の製造を止めることなく回収したポリマー溶液の再生を行うことが可能となる。
【0051】
[13]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記電界紡糸装置によりナノ繊維を堆積させた前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測装置と、前記通気度計測装置により計測された通気度に基づいて前記搬送速度を制御する搬送速度制御装置とをさらに備えることが好ましい。
【0052】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、通気度計測装置により計測された通気度に基づいて搬送速度を制御することが可能となるため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0053】
なお、本発明において、ナノ繊維を堆積させた長尺シートの通気度とは、長尺シート上に堆積させたナノ繊維層と、長尺シートとが積層された状態で通気度を計測した場合における通気度のことをいう。
【0054】
[14]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送速度制御装置は、前記通気度計測装置により計測された通気度と所定の目標通気度とのずれ量に基づいて前記搬送速度を制御することが好ましい。
【0055】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、例えば、上記ずれ量が大きい場合には、搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を大きくし、上記ずれ量が小さい場合には、搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を小さくするというような制御をすることが可能となるため、通気度の変動の程度に応じて搬送速度を適切に制御することが可能となる。
【0056】
[15]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記電界紡糸装置によりナノ繊維を堆積させた前記長尺シートの厚さを計測する厚さ計測装置と、前記厚さ計測装置により計測された厚さに基づいて前記搬送速度を制御する搬送速度制御装置とを備えることが好ましい。
【0057】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、厚さ計測装置により計測された厚さに基づいて搬送速度を制御することが可能となるため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して厚さが変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで厚さの変動量を所定の範囲に収める事が可能となり、その結果、均一な厚さを有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
なお、本発明において、ナノ繊維を堆積させた長尺シートの厚さとは、長尺シート上に堆積させたナノ繊維層と、長尺シートとが積層された状態で厚さを計測した場合における厚さのことをいう。
【0058】
[16]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記搬送速度制御装置は、前記厚さ計測装置により計測された厚さと所定の目標厚さとのずれ量に基づいて前記搬送速度を制御することが好ましい。
【0059】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、例えば、上記ずれ量が大きい場合には、搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を大きくし、上記ずれ量が小さい場合には、搬送速度の制御量(初期値からの変化量)を小さくするというような制御をすることが可能となるため、厚さの変動の大きさに応じて搬送速度を適切に制御することが可能となる。
【0060】
[17]本発明のナノ繊維製造装置においては、雰囲気調整された空気を前記電界紡糸装置に供給する空気供給装置と、前記電界紡糸装置で発生する揮発性成分(以下、VOCという。)を燃焼して除去するVOC処理装置とをさらに備え、前記空気供給装置は、前記VOC処理装置で前記VOCを燃焼した際に生じる燃焼熱によって生成した温風により乾燥させた除湿剤を用いて除湿空気を生成する除湿装置を有することが好ましい。
【0061】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、電界紡糸装置における雰囲気湿度及び雰囲気温度のうちの少なくとも雰囲気湿度を長時間にわたって適切な状態に保持することができる。すなわち、本発明のナノ繊維製造装置においては、VOCを燃焼した際に生じる燃焼熱によって生成した温風により乾燥させた除湿剤によって除湿空気を生成するようにしているため、除湿剤を長時間にわたって使用することができ、それによって、電界紡糸装置の雰囲気湿度を長時間にわたって適切に保持することが可能となる。
【0062】
なお、本発明において、「除湿空気」というのは、湿度がすべて取り除かれた空気を意味するものではなく、除湿剤によって所定の湿度にまで除湿された空気を意味するものである。
【0063】
[18]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記除湿装置は、前記除湿剤を収納する除湿剤収納部と、前記除湿空気とするための空気を取り入れる空気取り入れ部と、前記除湿空気を送出する除湿空気送出部と、前記燃焼熱によって生成した温風を取り入れる温風取り入れ部と、温風取り入れ部から取り入れた前記温風を外部に排出する温風排出部とを有し、前記取り入れた空気を除湿する際に用いた除湿剤を、前記温風取り入れ部から取り入れた温風により乾燥させて再生することが好ましい。
【0064】
このような構成とすることにより、除湿空気を生成して送出することができるとともに、除湿空気を生成することによって吸湿した除湿剤(以下、吸湿除湿剤という。)を、VOC処理を行う際に発生する燃焼熱によって生成した温風によって乾燥させて再生することができる。
【0065】
[19]本発明のナノ繊維製造装置においては、前記空気供給装置は、前記除湿空気とするための空気が流通する空気流通路と、前記除湿空気送出部から送出される除湿空気が流通する雰囲気調整空気流通路と、前記雰囲気調整空気流通路とは離間して設けられ、前記燃焼熱によって生成した温風を前記温風取入れ部に導く温風流通路と、前記除湿装置を駆動させる除湿装置駆動部とを有し、前記除湿装置駆動部は、前記除湿装置の前記空気取り入れ部が、前記空気流通路を流通してくる空気の取り入れが可能で、かつ、前記温風取り入れ部が、前記温風流通路を流通してくる温風の取入れが可能となるように前記除湿装置を駆動することが好ましい。
【0066】
このような構成とすることにより、除湿空気を生成する動作と、吸湿除湿剤を乾燥させて再生する動作とを繰り返して行うことができ、除湿剤を長時間使用することができる。
【0067】
本発明のナノ繊維製造装置によれば、高機能・高感性テキスタイルなどの衣料品、ヘルスケア、スキンケアなど美容関連用品、ワイピングクロス、フィルターなど産業資材、二次電池のセパレーター、コンデンサーのセパレーター、各種触媒の担体、各種センサー材料などの電子・機械材料、再生医療材料、バイオメディカル材料、医療用MEMS材料、バイオセンサー材料などの医療材料、その他の幅広い用途に使用可能なナノ繊維を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施形態1に係るナノ繊維製造装置1を説明するために示す図である。
【図2】実施形態1に係るナノ繊維製造装置1に用いられる電界紡糸装置20を説明するために示す図である。
【図3】電界紡糸装置20の要部拡大図である。
【図4】補助ベルト装置170を長尺シートWの搬送方向αに沿って見た図である。
【図5】実施形態における補助ベルト172を説明するために示す図である。
【図6】実施形態1に係るナノ繊維製造装置1に用いられる主制御装置60の動作を説明するために示す図である。
【図7】実施形態1に係るナノ繊維製造装置1に用いられる主制御装置60の動作を説明するために示す図である。
【図8】試験例1における実験結果を示すグラフである。
【図9】試験例2における実験結果を示すグラフである。
【図10】補助ベルト位置制御装置177を説明するために示す図である。
【図11】図11は、実施形態1における補助ベルト位置制御装置177の動作を説明するために示す図である。
【図12】実施形態1における張力制御装置179を説明するために示す図である。
【図13】実施形態3に係るナノ繊維製造装置3の正面図である。
【図14】実施形態3における電界紡糸装置20の正面図である。
【図15】実施形態3におけるノズルブロック110の断面図である。
【図16】実施形態3におけるノズルブロック110の要部を示す図である。
【図17】実施形態4に係るナノ繊維製造装置4を説明するために示す図である。
【図18】実施形態4に係るナノ繊維製造方法を説明するために示すフローチャートである。
【図19】通気度計測部41の動きを説明するために示す図である。
【図20】通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。
【図21】実施形態5に係るナノ繊維製造装置5を説明するために示す図である。
【図22】厚さ計測部42の動きを説明するために示す平面図である。
【図23】実施形態5に係るナノ繊維製造方法5を説明するために示すフローチャートである。
【図24】厚さk、平均厚さ<k>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。
【図25】実施形態6に係るナノ繊維製造装置6の正面図である。
【図26】実施形態6に係るナノ繊維製造装置6の平面図である。
【図27】空気供給装置80の構成を模式的に示す図である。
【図28】図27に示す空気供給装置80における除湿装置810を具体的に示す斜視図である。
【図29】電界紡糸装置20aを説明するために示す図である。
【図30】特許文献1に記載されている電界紡糸装置900を説明するために示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0069】
以下、本発明のナノ繊維製造装置について、図に示す実施形態に基づいて説明する。
【0070】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1を説明するために示す図である。図1(a)はナノ繊維製造装置1の正面図であり、図1(b)はナノ繊維製造装置1の平面図である。なお、図1においては、ポリマー溶液供給部及びポリマー溶液回収部の図示を省略してある。また、図1(a)においては、一部の構成要素は図2で示している。
図2は、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1に用いられる電界紡糸装置20を説明するために示す図である。
【0071】
図3は、電界紡糸装置20の要部拡大図である。図3(a)は電界紡糸装置20の要部拡大断面図であり、図3(b)は電界紡糸装置20の要部拡大平面図である。図4は、補助ベルト装置170を長尺シートWの搬送方向αに沿って見た図である。図5は、実施形態における補助ベルト172を説明するために示す図である。図6及び図7は、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1に用いられる主制御装置60の動作を説明するために示す図である。
【0072】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1は、図1に示すように、長尺シートWを所定の搬送速度Vで搬送する搬送装置10と、搬送装置10により長尺シートWが搬送されていく所定の搬送方向αに沿って直列に配置された複数の電界紡糸装置20と、通気度計測装置40と、「搬送装置10、電界紡糸装置20、後述する加熱装置30、通気度計測装置40、後述するVOC処理装置70、後述する不活性ガス供給装置190、ポリマー供給装置及びポリマー回収装置」を制御する主制御装置60とを備える。
【0073】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1においては、電界紡糸装置として、長尺シートWが搬送されていく所定の搬送方向αに沿って直列に配置された4台の電界紡糸装置20を備える。
【0074】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1は、電界紡糸装置20と通気度計測装置40との間に配置され、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する加熱装置30と、長尺シートWにナノ繊維を堆積させる際に発生する揮発性成分を燃焼して除去するVOC処理装置70と、主制御装置60からの信号を受信し、異常が検出された電界紡糸装置20における電界紡糸室102に不活性ガスを供給する不活性ガス供給装置190(図6及び図7参照)とをさらに備える。
【0075】
搬送装置10は、図1に示すように、長尺シートWを繰り出す繰り出しローラー11及び長尺シートWを巻き取る巻き取りローラー12並びに繰り出しローラー11と巻き取りローラー12との間に位置する補助ローラー13,18及び駆動ローラー14,15,16,17を備える。繰り出しローラー11、巻き取りローラー12及び駆動ローラー14,15,16,17は、図示しない駆動モーターにより回転駆動される構造となっている。
【0076】
電界紡糸装置20は、図2に示すように、導電性を有する筐体100と、筐体100に絶縁部材152を介して取り付けられたコレクター150と、コレクター150に対向する位置に位置し、ポリマー溶液を吐出する複数のノズル112を有するノズルブロック110と、コレクター150とノズルブロック110との間に高電圧を印加する電源装置160と、コレクター150とノズルブロック110とを覆う所定の空間を画定する電界紡糸室102と、長尺シートWが搬送されるのを補助する補助ベルト装置170とを備える。
【0077】
ノズルブロック110は、図2及び図3に示すように、複数のノズル112として、ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出する複数の上向きノズル112を有する。そして、ナノ繊維製造装置1は、複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するとともに、複数の上向きノズル112の吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することが可能となるように構成されている。ノズルブロック110は、直接接地されているか、筐体100を介して接地されている。なお、以下では、「上向きノズル」を単に「ノズル」と表記する場合もある。
【0078】
なお、本発明のナノ繊維製造装置には様々な大きさ及び様々な形状を有するノズルブロックを用いることができるが、ノズルブロック110は、例えば、上面から見たときに一辺が0.5m〜3mの長方形(正方形を含む)に見える大きさ及び形状を有する。また、ノズル112は、例えば、1.5cm〜6.0cmのピッチで配列されている。ノズル112の数は、例えば、36個(縦横同数に配列した場合、6個×6個)〜21904個(縦横同数に配列した場合、148個×148個)である。
【0079】
コレクター150は、上記したように、導電性を有する筐体100に絶縁部材152を介して取り付けられている。電源装置160の正極は、コレクター150に接続され、電源装置160の負極は、ノズルブロック110及び筐体100に接続されている。そして、図3に示すように、ノズルブロック110側からコレクター150を見たとき、絶縁部材152の外周はコレクター150の外周よりも外側に位置し、絶縁部材152の厚さを「a」とし、絶縁部材152の外周とコレクター150の外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たす。
【0080】
絶縁部材152は、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、非晶ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマー、ポロブロビレン、高密度ポリエチレン又はポリエチレンからなる。
【0081】
複数のノズル112の上端からコレクター150までの距離を「c」としたとき、「300mm≧c≧100mm」を満たす。
【0082】
補助ベルト装置170は、図2に示すように、コレクター150を取り囲む位置に回転自在に配置された絶縁性かつ多孔性のエンドレスベルトからなる補助ベルト172と、補助ベルト172を長尺シートWに対応する回転速度で回転させる補助ベルト駆動装置171とを備える。
【0083】
補助ベルト172は、図2又は図3に示すように、直径0.1mm〜2.0mmの糸を編むことにより作製された網状基材が積層された構造を有し、開口率は、1%〜40%の範囲内にあるエンドレスベルトであり、幅は、長尺シートWの幅に沿ったコレクター150の幅よりも広い。具体的には、例えば、直径0.27mm及び0.18mmのポリエチレンの糸が交互に配列した1層目と、直径0.35mmのポリアセチレンの糸と0.35mmのポリエチレンが交互に配列された2層目とを直径0.25mmのポリエチレンの糸の縦糸で編むことにより作製された網状基材であり(図5(a)参照。)、当該網状素材が積層された「2.5層」構造を有する(図5(b)参照。)ベルトを用いることができる。また、補助ベルト172の幅は2mで、複数の孔があり、開口率は4%であり、補助ベルトの1周は、コレクター150の長さなどにもよるが、例えば、6mのものを使用できる。
【0084】
補助ベルト駆動装置171は、図2及び図4に示すように、補助ベルトを掛け回す5つの補助ベルト用ローラー173a,173b,173c,173d,173e(以下、173と記載することもある。)と、補助ベルト用ローラー173を回転させる駆動モーター(図示せず。)と、補助ベルト用ローラー173aの幅方向に沿った補助ベルト172の位置を制御する補助ベルト位置制御装置174と、補助ベルト用ローラー173aの幅方向に沿った補助ベルト172の位置を計測する補助ベルト位置計測センサー175と、補助ベルト172にかかる張力を制御する張力制御装置178とを有する。
【0085】
補助ベルト172を掛け回す補助ベルト用ローラー173は、それぞれ幅方向に2.2mの長さを持つ。補助ベルト用ローラー173aは、補助ベルト位置制御装置174からの信号を受信し、補助ベルト用ローラー173aの一方の端部における、補助ベルト172の内側から外側に向かう方向に沿った補助ベルト用ローラー173aの位置を制御する。補助ベルト用ローラー173cは、張力制御装置178からの信号を受信し、補助ベルト172の内側から外側に向かう方向に沿った補助ベルト用ローラー173cの位置を制御する。補助ベルト用ローラー173dは、図示しない駆動モーター176により回転する。
【0086】
補助ベルト位置制御装置174は、補助ベルト用ローラー173aの一方の端部に取り付けられた回転自在に支持する支持軸を上下両側から挟むように配設された一対のエアースプリング装置176と、一対のエアースプリング装置の膨らみ量をそれぞれ独立に制御する膨らみ量制御装置177とを有する。
【0087】
膨らみ量制御装置177は、補助ベルト位置計測センサー175の計測結果に基づいて、補助ベルト用ローラー173aの一方の端部を上下に動かすことにより傾け、補助ベルトが長尺シートWの幅方向に沿った所定の位置となるように一対のエアースプリング装置176の膨らみ量を制御する信号を送信する。
【0088】
一対のエアースプリング装置176は、補助ベルト用ローラー173aの一方の端部を上下に動かすことにより、補助ベルト用ローラー173aを傾けることができる。例えば、下側のエアースプリング装置を膨らませるとともに上側のエアースプリング装置を萎ませることにより、補助ベルト用ローラー173aの一方の端部を上下に動かして、補助ベルト用ローラー173aを傾けることができる。また、下側のエアースプリング装置を萎ませ、上側のエアースプリング装置を膨らませることにより、補助ベルト用ローラー173aの支持軸側を下に動かすことにより傾けることもできる。一対のエアースプリング装置176としては一般的なエアースプリング装置を用いることができる。
【0089】
補助ベルト位置計測センサー175は、補助ベルト172の幅方向に沿った補助ベルトの位置を計測する位置センサーであり、計測結果を補助ベルト位置制御装置174に送る。位置センサーとしてはカメラを用いることができる。
【0090】
張力制御装置178は、補助ベルトにかかる張力を計測し、補助ベルト用ローラー173cを空気圧等によって移動させることにより、補助ベルト172にかかる張力を制御する。また、補助ベルト172を複数の補助ベルト用ローラー173に掛け回したり取り外したりする作業の際にも使用される。
【0091】
電源装置160は、図7に示すように、電流供給部164と、電流供給部164からの電流を計測する電流計測部166と、電流供給部164の動作を制御するとともに電流計測部166からの計測結果を処理する制御部162とを備える。そして、電源装置160は、図6に示すように、コレクター150と複数のノズル112との間に高電圧を印加するとともに、電源装置160から供給される電流量を計測し、計測値を主制御装置60へ送信する。また、主制御装置60から電流供給停止信号を受信したときには電力供給を停止する。
【0092】
加熱装置30は、電界紡糸装置20と通気度計測装置40との間に配置され、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。加熱温度は、長尺シートWやナノ繊維の種類によって異なるが、例えば、長尺シートWを50℃〜300℃の温度に加熱することができる。
【0093】
通気度計測装置40は、ナノ繊維の堆積した長尺シートWの通気度Pを計測するものであって、これについては実施形態4において詳細に説明する。
【0094】
不活性ガス供給装置190は、図6に示すように、不活性ガスを供給する不活性ガスボンベ192と、不活性ガスを各電界紡糸室102に供給する不活性ガス供給ライン194と、主制御装置60からの信号に応じて不活性ガスの供給制御を行う開閉バルブ196とを備える。
【0095】
主制御装置60は、搬送装置10、電界紡糸装置20、加熱装置30、通気度計測装置40、VOC処理装置70、不活性ガス制御装置192、ポリマー供給装置及びポリマー回収装置などを制御する。VOC処理装置70は、長尺シートにナノ繊維を堆積させる際に発生する揮発性成分を燃焼して除去する。
【0096】
上記のように構成された実施形態1に係るナノ繊維製造装置1を用いてナノ繊維不織布を製造する方法について説明する。
【0097】
まず、長尺シートWを搬送装置10にセットし、その後、長尺シートWを繰り出しローラー11から巻き取りローラー12に向けて所定の搬送速度Vで搬送させながら、各電界紡糸装置20において長尺シートWにナノ繊維を順次堆積させる。その後、加熱装置30により、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。これにより、ナノ繊維が堆積した長尺シートからなるナノ繊維不織布が製造される。
【0098】
以下に、実施形態1に係るナノ繊維製造方法における紡糸条件を例示的に示す。なお、以下に示す紡糸条件は、後述する他の実施形態においても共通するものである。
【0099】
長尺シートWとしては、各種材料からなる不織布、織物、編物などを用いることができる。長尺シートWの厚さは、例えば5μm〜500μmのものを用いることができる。長尺シートWの長さは、例えば10m〜10kmのものを用いることができる。
【0100】
ナノ繊維の原料となるポリマーとしては、例えば、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアミド(PA)、ポリウレタン(PUR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸グリコール酸(PLGA)、シルク、セルロース、キトサンなどを用いることができる。
【0101】
ポリマー溶液に用いる溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルエチルケトン、クロロホルム、アセトン、水、蟻酸、酢酸、シクロヘキサン、THFなどを用いることができる。複数種類の溶媒を混合して用いてもよい。ポリマー溶液には、一般的な導電性向上剤を添加剤として含有させてもよい。
【0102】
また、搬送速度は、例えば0.2m/分〜100m/分に設定することができる。ノズルブロック110とコレクター150とに印加する電圧は、10kV〜80kVに設定することができ、本発明においては50kV付近が好ましい。
【0103】
実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、筐体100又はノズルブロック110を接地することにより、ノズルブロック110をはじめとして「ノズル112から吐出される前のポリマー溶液」、「ポリマー溶液を貯蔵する原料タンク」、「ポリマー溶液を原料タンクからノズルブロック110まで移送するポリマー溶液移送機構(例えば、配管や送りポンプなど。)」のすべてが接地電位となるため、特許文献1に記載された電界紡糸装置の場合と同様に、原料タンクやポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にする必要がなくなる。従って、原料タンクやポリマー溶液移送機構を高耐電圧仕様にものにすることに起因して電界紡糸装置の機構が複雑化することがなくなる。
【0104】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、ノズルブロック110側からコレクター150を見たとき、絶縁部材152の外周は、コレクター150の外周よりも外側に位置し、絶縁部材152の厚さを「a」とし、絶縁部材152の外周とコレクター150の外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たすため、コレクター150と筐体100その他の部材との間の絶縁が十分良好なものとなり、後述する試験例からも明らかなように、ノズルブロック110とコレクター150との間に35kVを印加して電界紡糸を行うような場合であっても、コレクター150と筐体110その他の部材との間で絶縁破壊が起こらなくなる。また、リーク電流を所定範囲内にとどめることができる。その結果、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、電界紡糸装置の運転を停止する必要が生じる頻度を極めて低いレベルにまで低減することが可能となるため、電界紡糸装置を長時間にわたって連続して運転することが可能となり、所望の性能を有するナノ繊維を安定的に大量生産することが可能となる。
【0105】
[試験例1]
試験例1は、リーク電流を所定範囲内にとどめるためには、絶縁部材152の厚さ「a」をどれくらいにすればよいかを明らかにするための試験例である。表1は、試験例1における実験結果を示す表である。図8は、試験例1における実験結果を示すグラフである。
【0106】
【表1】

【0107】
試験例1においては、実施形態1におけるナノ繊維製造装置1(但し、厚さ「a」は5mm、6mm、10mm又は12mmとした。また、距離「b」は30mmに固定した。)を用いて、ノズルブロック110にポリマー溶液を供給しない状態で、電源装置160から供給される電流(この場合リーク電流)が所定の電流(例えば、0.01mA、0.02mA、0.03mA、0.04mA、0.05mA)となるようにコレクター150とノズルブロック110との間に電圧を印加する。そして、そのときのリーク電流と印加電圧とをグラフにプロットした。
【0108】
表1及び図8からも分かるように、絶縁部材152の厚さ「a」が6mm以上であれば、コレクター150とノズルブロック110との間に35kVの電圧を印加した場合であっても、リーク電流を0.01mA程度に抑えることが可能となる。また、絶縁部材152の厚さ「a」が12mm以上であれば、コレクター150とノズルブロック110との間に45kVの電圧を印加した場合であっても、リーク電流を0.01mA程度に抑えることが可能となる。
【0109】
[試験例2]
試験例2は、リーク電流を所定範囲内にとどめるためには、「絶縁部材152の表面に沿った絶縁部材152とコレクター150との間隔(a+b)」をどれくらいにすればよいかを明らかにするための試験例である。表2は、試験例2における実験結果を示す表である。図9は、試験例2における実験結果を示すグラフである。
【0110】
【表2】

【0111】
試験例2においては、実施形態1におけるナノ繊維製造装置1(但し、間隔「a+b」は50mm、60mm、80mm、100mm、120mm、140mm又は160mmとした。また、厚さ「a」は40mmに固定した。)を用いて、ノズルプレート110にポリマー溶液を供給しない状態で、電源装置160から供給される電流(この場合リーク電流)が一定電流(例えば、0.01mA、0.02mA、0.03mA、0.04mA、0.05mA)となるようにコレクター150とノズルブロック110との間に電圧を印加する。そして、そのときのリーク電流と印加電圧とをグラフにプロットする。
【0112】
表2及び図9からも分かるように、「間隔(a+b)」が50mm以上であれば、コレクター150とノズル112との間に35kVの電圧を印加した場合であっても、リーク電流を0.01mA程度に抑えることが可能となる。
【0113】
試験例1及び試験例2からも分かるように、絶縁部材152の厚さを「a」とし、絶縁部材152の外周とコレクター150の外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たす場合に、電界紡糸に寄与しないリーク電流を極めて低い値に抑制することが可能となる。このため、「電界紡糸装置が異常であると判断する上限の閾値電流量であるところの所定の第1設定電流量と、正常運転時の電流量との差」又は「電界紡糸装置が異常であると判断する下限の閾値電流量であるところの所定の第2設定電流量と、正常運転時の電流量との差」を極めて小さなものにすることが可能となる。その結果、異常の発見をより早期に行うことが可能となり、より一層安全性に優れたナノ繊維製造装置を実現することが可能となる。
【0114】
ところで、長尺シートWを繰り出しローラー11から巻き取りローラー12に向けて所定の搬送速度Vで搬送させながら、各電界紡糸装置20において長尺シートWにナノ繊維を順次堆積させる動作を行っている際には、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1においては、補助ベルトが適切な位置となるような補助ベルトの位置制御が行われる。以下に、補助ベルトの位置制御について説明する。
【0115】
図10は、補助ベルト位置制御装置174を説明するために示す図である。図11は、補助ベルト位置制御装置174の動作を説明するために示す図である。図11(a)〜図11(e)は各工程図である。図12は、張力制御装置178を説明するために示す図である。図12(a)は補助ベルト172にかかる張力を制御する作業を行う際の張力制御装置178にの動作を説明するために示す図である。図12(b)は補助ベルト172を補助ベルト用ローラーから取り外す作業を行う際の張力制御装置178の動作を説明するために示す図である。なお、図10〜図12において、図面の簡素化のため、補助ベルト172と補助ベルト用ローラー173以外の部分を省略している。
【0116】
まず、長尺シートWを搬送装置10にセットし、その後、長尺シートWを繰り出しローラー11から巻き取りローラー12に向けて所定の搬送速度で搬送させながら、各電界紡糸装置20において長尺シートWにナノ繊維を順次堆積させる。その後、加熱装置30により、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。これにより、ナノ繊維が堆積した長尺シートからなるナノ繊維不織布が製造される。
【0117】
このとき、補助ベルト装置170は、補助ベルト172を長尺シートWの搬送速度に対応する回転速度で回転させる。それと並行して、補助ベルト位置計測センサー175により、補助ベルト用ローラー173aの幅方向に沿った補助ベルト172の位置を計測し、さらに、張力制御装置178により、補助ベルト172にかかる張力を計測する。
【0118】
このとき、補助ベルト位置計測センサー175による計測により、補助ベルト用ローラー173aの幅方向に沿った補助ベルト172の位置が所定の位置からずれを生じたときには、補助ベルト位置制御装置174は、図10に示すように、補助ベルト用ローラー173aの一方の端部を上下に動かすことにより、補助ベルト用ローラー173aの幅方向に沿った補助ベルト172の位置を所定の位置となるように制御をする。
【0119】
例えば、補助ベルトが紙面の左側に偏ってきたとする(図11(a)〜図11(b)参照。)。この場合、補助ベルト位置計測センサー175による計測結果が補助ベルト位置制御装置174へ送信されると、補助ベルト位置制御装置174は、補助ベルト用ローラー173aの一方の端部(今回の場合は右端部)を下方に動かす変位量を算出し、算出された変位量に基づき、一対のエアースプリング装置176の膨らみ量を算出して、当該一対のエアースプリング装置176を制御する(図11(c))。その結果、補助ベルト172は紙面の右方向に移動し(図11(d))、最終的には正しい位置に戻る(図11(e))。
【0120】
また、張力制御装置179により、補助ベルト172にかかる張力が所定値よりも低くなったことを検知したときには、図12(a)に示すように、空気圧によって補助ベルト172の内側から外側に向かう方向に沿って補助ベルト用ローラー173cの位置を移動させる。これにより、補助ベルトの張力は所定値にまで戻る。
【0121】
また、図12(b)に示すように、(電界紡糸を開始するとき)補助ベルト172を複数の補助ベルト用ローラー173に掛け回したり(電界紡糸を終了したとき)補助ベルト172を複数の補助ベルト用ローラー173から取り外したりする作業を行う際には、当該作業を容易とする位置まで補助ベルト用ローラー173cを(補助ベルト172の内側から外側に向かう方向に沿って)移動させて、当該作業を容易化することができる。
【0122】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、コレクター150を取り囲む位置に回転自在に配設された絶縁性かつ多孔性のエンドレスベルトからなる補助ベルト172及び補助ベルト172を長尺シートWの搬送速度に対応する回転速度で回転させる補助ベルト駆動装置171を有する補助ベルト装置170をさらに備えるため、コレクター150と長尺シートWとの間に大きな静電引力が発生したとしても、長尺シートWとコレクター150との間に補助ベルト172が存在するため、長尺シートWがコレクター150に引き寄せられたり、長尺シートWの円滑な搬送が妨げられたりすることがなくなる。その結果、ナノ繊維を均一な条件で電界紡糸することが可能となることはもちろん、電界紡糸装置1の運転自体を停止することもなくなり、均一な品質(例えば、ナノ繊維の平均直径、ナノ繊維の直径分布、ナノ繊維の堆積量、ナノ繊維不織布の厚さ、ナノ繊維不織布の通気度など。)を有するナノ繊維を高い生産性で大量生産することが可能となる。
【0123】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1においては、補助ベルト172が長尺シートWの搬送速度に対応する回転速度で回転するため、補助ベルト172の存在に起因して長尺シートWの搬送状態に悪影響を与えてしまうこともない。また、本発明の電界紡糸装置20においては、補助ベルト172が絶縁性かつ多孔性のエンドレスベルトからなるため、コレクター150とノズルブロック110との間に形成される電界分布に大きな影響を与えることもない。
【0124】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、補助ベルト駆動装置171は、補助ベルト172を掛け回す複数の補助ベルト用ローラー173と、補助ベルト用ローラー173cを回転させる駆動モーター176とを有するため、補助ベルト172を長尺シートWの搬送速度に対応する回転速度で確実に回転させることができるようになる。
【0125】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、補助ベルト駆動装置171は、補助ベルト用ローラー173aの一方の端部における、補助ベルト172の内側から外側に向かう方向に沿った補助ベルト用ローラー173aの位置を制御することにより、補助ベルト用ローラー173aの幅方向に沿った補助ベルト172の位置を制御する補助ベルト位置制御装置174を有するため、当該補助ベルト用ローラー173aの傾きを適宜制御することが可能となり、補助ベルト用ローラー173aの幅方向に沿った補助ベルト172の位置を長時間にわたって精度良く制御することが可能となる。
【0126】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、補助ベルト位置制御装置174は、補助ベルト用ローラー173aの一方の端部を回転自在に支持する支持軸を両側から挟むように配設された一対のエアースプリング装置176と、一対のエアースプリング装置176の膨らみ量をそれぞれ独立に制御する膨らみ量制御装置182とを有するため、補助ベルト用ローラーの幅方向に沿った補助ベルトの位置を円滑に制御することが可能となる。
【0127】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、補助ベルト駆動装置171は、補助ベルト用ローラー173aの幅方向に沿った補助ベルト172の位置を計測する補助ベルト位置計測センサー175をさらに有し、補助ベルト位置計測センサー175の計測結果に基づいて、補助ベルト用ローラー173aの幅方向に沿った補助ベルト172の位置を制御するため、補助ベルト用ローラーの幅方向に沿った補助ベルトの位置をより一層精度良く制御することが可能となる。
【0128】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、補助ベルト駆動装置171は、補助ベルト用ローラー173cについて、補助ベルト172の内側から外側に向かう方向に沿った補助ベルト用ローラー173cの位置を制御して補助ベルト172にかかる張力を制御する張力制御装置178をさらに有するため、コレクター150と補助ベルト172との間に大きな静電引力が発生したとしても、補助ベルト172の張力を当該静電引力に対抗できる程の大きな値に調整することが可能となり、長尺シートWがコレクター150に引き寄せられることや、長尺シートWの円滑な搬送が妨げられることを確実に防止することができるようになる。
【0129】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、張力制御装置178は、補助ベルト172を複数の補助ベルト用ローラー173に掛け回したり複数の補助ベルト用ローラー173から取り外したりする作業を容易とする位置まで、補助ベルト172の内側から外側に向かう方向に沿った補助ベルト用ローラー173cの位置を制御可能であるため、補助ベルト172を複数の補助ベルト用ローラー173に掛け回したり複数の補助ベルト用ローラー173から取り外したりする作業を容易とすることが可能となる。
【0130】
また、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1によれば、補助ベルト172の幅は、長尺シートWの幅に沿ったコレクター150の幅よりも広いため、長尺シートWとコレクター150との間に補助ベルト172が確実に存在するようになり、長尺シートWがコレクター150に引き寄せられたり、長尺シートWの円滑な搬送が妨げられたりすることを確実に防止することが可能となる。
【0131】
なお、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1においては、1台の電界紡糸装置ごとに1台の補助ベルト装置を配設したナノ繊維製造装置を例にとって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、複数の電界紡糸装置20のうち「2つ」〜「全部」のコレクター150を取り囲むように配設された1又は複数の補助ベルト172及び当該1又は複数の補助ベルト172を長尺シートWの搬送速度に対応する回転速度で回転させる補助ベルト駆動装置171を有するナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0132】
[実施形態2]
実施形態2に係るナノ繊維製造装置2は、長時間にわたって複数の電界紡糸装置20を連続して運転するうちに、複数の電界紡糸装置20のうち1つの電界紡糸装置20についてだけ異常が発生したような場合には、当該異常を即座に検出可能とするものである。
なお、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2の構成は、基本的には実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の構成と同様であるので、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2の構成は図示を省略する。
【0133】
実施形態2に係るナノ繊維製造装置2においては、主制御装置60(図6参照。)は、コレクター150とノズルブロック110との間に35kVの電圧を印加した状態で電界紡糸を行っているとき、例えば0.24mAよりも大きい電流が複数の電源装置160のうち1又は複数の電源装置160から供給されていることを検知したときには、当該1又は複数の電源装置160に対して電流供給を停止させる電流供給停止信号を送信する。
【0134】
また、主制御装置60は、例えば0.18mAよりも小さい電流が複数の電源装置160のうち1又は複数の電源装置160から供給されていることを検知したときには、当該1又は複数の電源装置が属する電界紡糸装置が異常である旨の警告信号(例えば、警告音を出させる信号又は警告表示を出させる信号)を出す。
【0135】
このように、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2によれば、複数の電界紡糸装置20のうち1つの電界紡糸装置20についてだけ異常が発生したような場合、当該異常を即座に検出することが可能となり、安全性の高いナノ繊維製造装置を実現することが可能となる。このとき、異常が発生した電界紡糸装置の運転を停止させるだけで、残りの電界紡糸装置の運転は停止させないようにすることもできるので、ナノ繊維の製造自体を停止しなくても済むようになる。
【0136】
また、主制御装置60は、当該1又は複数の電源装置160に対して電流供給を停止させる電流供給停止信号を送信するときには、長尺シートWに堆積する単位面積当たりのナノ繊維の累積堆積量を所定の範囲内に収めるために搬送装置10に対して搬送速度を減速させる搬送速度減速信号を送信する。このため、異常が発生した電界紡糸装置の運転を停止させたとしても、それに応じて搬送速度を減速させることにより、長尺シートに堆積する単位面積当たりのナノ繊維の累積堆積量を所定の範囲内に収めることが可能となる。
【0137】
このとき、主制御装置60は、搬送速度を減速させる前の第1期間T1に電流供給を行っていた電源装置160の台数をn台とし、搬送速度を減速させた後の第2期間T2に電力供給を行なう電源装置160の台数をm台としたとき、第2期間T2における搬送速度V2を第1期間T1における搬送速度V1の「m/n」倍に制御する。このような制御を行うことにより、長尺シートに堆積する単位面積当たりのナノ繊維の累積堆積量を所定の範囲内に収めることが可能となる。なお、搬送速度Vの制御は、駆動ローラー14,15,16,17の回転速度を制御することにより行うことができる。
【0138】
また、主制御装置60は、当該1又は複数の電源装置160に対して電流供給を停止させる電流供給停止信号を送信するときには、不活性ガス供給装置190(図7参照。)に対して当該1又は複数の電源装置160が属する電界紡糸装置20における電界紡糸室102に不活性ガスを供給させる信号を送信することとしてもよい。これにより、火災などの事故を未然に防ぐことができ、より一層安全性の高いナノ繊維製造装置を実現することが可能となる。
【0139】
また、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2によれば、上記した構成の主制御装置60を備えるため、たとえ長時間にわたって複数の電界紡糸装置20を連続して運転するうちに、複数の電界紡糸装置20のうち1つの電界紡糸装置20についてだけ異常が発生したような場合(所定の第1設定電流量よりも大きい電流が複数の電源装置のうち1又は複数の電源装置から供給されていること検知した場合)であっても、当該異常を即座に検出することが可能となり、安全性の高いナノ繊維製造装置を実現することが可能となる。
【0140】
また、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2によれば、上記した構成の主制御装置60を備えるため、たとえ長時間にわたって複数の電界紡糸装置を連続して運転するうちに、複数の電界紡糸装置のうち1つの電界紡糸装置についてだけ異常が発生したような場合であっても、異常が発生した電界紡糸装置の運転を停止させるだけで、残りの電界紡糸装置の運転は停止させないので、ナノ繊維の製造自体を停止しなくても済むようになる。
【0141】
従って、実施形態2に係るナノ繊維製造装置2によれば、「電界紡糸装置が異常である」と判定する際の基準を甘く設定する必要がなくなる。よって、安全性を犠牲にすることなく、高い生産性でナノ繊維を大量生産することが可能となる。
【0142】
[実施形態3]
図13は、実施形態3に係るナノ繊維製造装置3の正面図である。図14は、実施形態3における電界紡糸装置20の正面図である。なお、図13及び図14においては、ノズルブロック110、原料タンク200、中間タンク230及び再生タンク270,272については断面図として表示している。
【0143】
図15は、実施形態3におけるノズルブロック110の断面図である。図16は、実施形態におけるノズルブロック110の要部を示す図である。図16(a)は図15における符号Aが示す範囲を拡大して示す図であり、図16(b)は図16(a)における符号Bが示す範囲を拡大して示す図であり、図16(c)はノズル基端部130の断面図であり、図16(d)はノズル112及びジャケット134の上面図である。
【0144】
なお、各図面は模式図であり、各構成要素の大きさは、必ずしも現実に即したものではない。また、上記した実施形態1においては、図1に示したように、電界紡糸装置20は4台としたが、実施形態3に係るナノ繊維製造装置3においては、図面の簡単化のため、電界紡糸装置20を2台としている。ただし、実施形態3に係るナノ繊維製造装置3においても、電界紡糸装置20は、実施形態1と同様に4台とすることも可能であることは勿論である。
【0145】
また、実施形態3に係るナノ繊維製造装置3の全体的な構成は、基本的には実施形態1に係るナノ繊維製造装置1と同様であり、図13において図1と同一構成要素には同一符号が付されている。実施形態3に係るナノ繊維製造装置3が実施形態1に係るナノ繊維製造装置と異なるのは、電界紡糸装置20であり、ここでは、電界紡糸装置20の構成について説明する。
【0146】
実施形態3における電界紡糸装置20は、図14に示すように、筐体100と、ノズルブロック110と、コレクター150と、電源装置160と、補助ベルト装置170と、原料タンク200と、第2移送装置210と、第2移送制御装置220と、中間タンク230と、供給装置240と、供給制御装置242と、第1移送装置250と、第1移送制御装置260と、再生タンク270,272とを備える。
【0147】
筐体100は、導電体からなる。ノズルブロック110は、図15に示すように、吐出口が上向きとなるように設けられている複数の上向きノズル112、ポリマー溶液供給経路114、ポリマー溶液回収経路120及び第2センサー142を有する。
【0148】
各上向きノズル112は、図16(a)に示すように、上向きノズル112の基端部であるノズル基端部130、上向きノズル112の中間部であるノズル中間部128及び上向きノズル112の先端部であるノズル先端部132からなる。上向きノズル112は、図示による詳しい説明は省略するが、上向きノズル112の基端側(ノズル基端部130の基端側)にポリマー溶液供給経路側ねじ部118(後述)と対応する上向きノズル側ねじ部を有する。上向きノズル112の内部は空洞になっており、当該空洞はポリマー溶液供給経路114内の空洞と連通している。上向きノズル112は、ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出する。上向きノズル112は導電体、例えば、銅、ステンレス鋼、アルミニウムなどからなる。
【0149】
ノズル先端部132は、図16(b)に示すように、円筒を当該円筒の軸と斜めに交わる平面に沿って切断した形状からなる。円筒の軸と平面とのなす角度θは、50°である。
【0150】
ノズル先端部132の先端側には斜面部133が形成され、当該斜面部133の先端は、ジャケット134の先端よりも上方に位置する。斜面部133の先端とジャケット134の先端との円筒の軸に沿った間隔h1は0.5mmである。
【0151】
斜面部133の基端は、ジャケット134の先端よりも下方に位置する。斜面部133の基端とジャケット134の先端との円筒の軸に沿った間隔h2は0.5mmである。
【0152】
上向きノズル112及びジャケット134を上向きノズル112の上方から円筒の軸に沿って見たとき(図16(d)参照。)、ジャケット134の内周に囲まれる領域の面積をS1とし、ノズル先端部132の外周に囲まれる領域の面積をS2とするとき、上向きノズル112及びジャケット134は、「S1−S2=3.3×S2」となるように構成されている。
【0153】
ノズル中間部128は、略円筒形状からなる。ノズル基端部130は、図16(c)に示すように、六角形の筒状形状からなる。
【0154】
ポリマー溶液供給経路114は、図15に示すように、略直方体形状を有し、内部に空洞を有し、この内部の空洞を介して供給装置240からのポリマー溶液を複数の上向きノズル112に供給する。ポリマー溶液供給経路114は、供給装置との接続部116を有し、当該供給装置との接続部116のところで供給装置240と接続されている。また、ポリマー溶液供給経路114は、ポリマー溶液供給経路側ねじ部118をさらに有する。ナノ繊維製造装置1においては、ポリマー溶液供給経路側ねじ部118と上向きノズル側ねじ部との嵌合によりポリマー溶液供給経路114と上向きノズル112とが結合されている。
【0155】
ポリマー溶液回収経路120は、受部121、溝部124、蓋部123及び複数のジャケット134から形成されてなる。ポリマー溶液回収経路120は、複数の上向きノズル112の吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収する。
受部121は、複数の上向きノズル112の吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を受ける。受部121は、ポリマー溶液供給経路114の上部に配置されている。受部121には、溝部124に向かってわずかに傾斜が設けられており、受けたポリマー溶液を溝部124に向かって導く機能を有する。
【0156】
溝部124は、受部121の側方に配置されている。溝部124は、底面において第1移送装置との接続部125を有し、当該第1移送装置との接続部125のところで第1移送装置250と接続されている。
蓋部123は、受部121を覆うとともに各上向きノズル112を通す複数のノズル用孔を有する。また、蓋部123は、ノズル用孔の周囲に蓋部側ねじ部122を有する。
【0157】
ジャケット134は、複数のノズル用孔から突出する各上向きノズル112の側面を覆う。ジャケット134は、ジャケット134の基端側であるジャケット基端部138と、ジャケット124の先端側であるジャケット先端部140を有する。ジャケット134においては、ジャケット先端部140は、ジャケット基端部138よりも細い。具体的には、ジャケット基端部138は、太さが一定の円筒状の形状を有し、ジャケット先端部140は、当該ジャケット先端部140とジャケット基端部138との接続部136から先端にかけて徐々に、具体的には一定の割合で太さが減少する円筒状の形状を有する(図16(a)及び図16(d)参照。)。
【0158】
ジャケット134は、図示による詳しい説明は省略するが、ジャケット基端部138の基端側に蓋部側ねじ部122と対応するジャケット側ねじ部を有する。
ナノ繊維製造装置1においては、蓋部側ねじ部122とジャケット側ねじ部との嵌合により蓋部123とジャケット134とが結合されている。
【0159】
第2センサー142は、ポリマー溶液回収経路120におけるポリマー溶液の液面高さを測定する。具体的には、第2センサー142は溝部124の壁面に配置されており、溝部124に溜まったポリマー溶液の液面高さを測定する。第2センサー124は、例えば、光ファイバーセンサーからなる。
【0160】
原料タンク200は、ナノ繊維の原料となるポリマー溶液を貯蔵する。原料タンク200は、ポリマー溶液の分離や凝固を防ぐための撹拌装置201を内部に有する。原料タンク200には、第2移送装置210のパイプ212が接続されている。
【0161】
第2移送装置210は、原料タンク200又は再生タンク270,272から中間タンク230へポリマー溶液を移送する。第2移送装置210は、原料タンク200と中間タンク230とを接続するパイプ212と、再生タンク270,272と中間タンク230とを接続するパイプ214とを有する。なお、パイプ212の末端は第1貯蔵部236(後述。)に接続されており、パイプ214の末端はパイプ212に接続されている。
【0162】
第2移送制御装置220は、第2移送装置210の移送動作を制御する。第2移送制御装置220は、バルブ222,224,226,228を有する。
バルブ222は、原料タンク200からのポリマー溶液の移送を制御する。また、バルブ224は、原料タンク200及び再生タンク270,272から中間タンク230へ流入するポリマー溶液の量を制御する。バルブ224による制御は、後述する第1センサー239で計測された液面高さに応じて行われる。
バルブ226は、再生タンク270からのポリマー溶液の移送を制御する。また、バルブ228は、再生タンク272からのポリマー溶液の移送を制御する。
【0163】
第2移送制御装置220は、上記したバルブ222,224,226,228により、ポリマー溶液を、原料タンク200及び再生タンク270,272のうちいずれのタンクから中間タンク230へ移送するかについて制御する。また、第2移送制御装置220は、バルブ224により、第1センサー239で計測された液面高さに応じて、第2移送装置210の移送動作を制御する。また、第2移送制御装置220は、バルブ226,228により、ポリマー溶液を再生タンク270,272から中間タンク230へ移送する場合には、ポリマー溶液を複数の再生タンク270,272のうちいずれの再生タンクから移送するかについても制御する。
【0164】
中間タンク230は、原料タンク200又は再生タンク270,272から供給されたポリマー溶液を貯蔵する。中間タンク230は、当該中間タンク230の下端が各上向きノズル112の上端よりも上方に位置するように配置されている。中間タンク230は、隔壁232と、気泡除去フィルター234と、第1センサー239とを有する。
【0165】
隔壁232は、ポリマー溶液が供給される供給部位を覆う。
気泡除去フィルター234は、隔壁232の底部に配設され、通過するポリマー溶液から気泡を除去する。気泡除去フィルター234は、例えば、0.1mm程度の目を有する網状の構造を有する。
【0166】
中間タンク230においては、隔壁232及び気泡除去フィルター234により、気泡除去フィルター234によって気泡が除去される前のポリマー溶液を貯蔵する第1貯蔵部236と、気泡除去フィルター234によって気泡が除去された後のポリマー溶液を貯蔵する第2貯蔵部238とが画成されている。
第2貯蔵部238は、供給経路240によりポリマー溶液供給経路114と接続されており、これにより、ナノ繊維製造装置1においては、第2貯蔵部238に貯蔵されたポリマー溶液がノズルブロック110のポリマー溶液供給経路114に供給される。
【0167】
第1センサー239は、第2貯蔵部238におけるポリマー溶液の液面高さを測定する。第1センサーは、例えば、光ファイバーセンサーからなる。
【0168】
供給装置240は、1本のパイプからなり、中間タンク230の第2貯蔵部238に貯蔵されたポリマー溶液をノズルブロック110のポリマー溶液供給経路114に供給する。なお、供給装置は、1つのノズルブロックにつき最低1本あればよい。
供給制御装置242は、供給装置240に設けられた1つのバルブからなり、供給装置240の供給動作を制御する。
【0169】
第1移送装置250は、パイプ252及びポンプ254を有し、ノズルブロック110のポリマー溶液回収経路120から再生タンク270,272へポリマー溶液を移送する。
ポンプ254は、ノズルブロック110近辺より上方にある再生タンク270,272へポリマー溶液を移送する動力を発生させる。
【0170】
第1移送制御装置260は、第1移送装置250の移送動作を制御する。第1移送制御装置260は、バルブ264,266及びポンプ254の制御装置(図示せず。)を備える。
バルブ264は、ポリマー溶液回収経路から再生タンク270へのポリマー溶液の移送動作を制御する。
バルブ266は、ポリマー溶液回収経路から再生タンク272へのポリマー溶液の移送動作を制御する。
【0171】
第1移送制御装置260は、上記バルブ264,266により、ポリマー溶液を、複数の再生タンク270,272のうちいずれの再生タンクへ移送するかについて制御する。
また、第1移送制御装置260は、上記バルブ264,266及びポンプ254の制御装置により、第2センサー142で測定されたポリマー溶液の液面高さに応じて、第1移送装置250の移送動作を制御する。
【0172】
複数の再生タンク270,272は、回収されたポリマー溶液を再生するための再生タンクであって、再生されたポリマー溶液を貯蔵する。再生タンク270,272は、ポリマー溶液の分離や凝固を防ぐための撹拌装置271,273をそれぞれ内部に有する。
【0173】
上記構成要素により、実施形態3に係るナノ繊維製造装置3は、複数の上向きノズルの吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することを可能としたナノ繊維製造装置となる。
【0174】
実施形態3に係るナノ繊維製造方法は、複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するとともに、複数の上向きノズル112の吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することを可能とするナノ繊維製造方法である。
【0175】
まず、ポリマー溶液を、第2移送装置210のパイプ212を用いて、原料タンク200から中間タンク230へ移送する。次に、中間タンク230内で気泡除去フィルター234を通って第1貯蔵部232から第2貯蔵部234に移動したポリマー溶液を、供給装置240を通じてポリマー溶液供給経路114に供給する。ナノ繊維製造装置1は、当該ポリマー溶液供給経路114に供給された複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸する。
【0176】
また、実施形態3に係るナノ繊維製造装置3は、オーバーフローしたポリマー溶液をポリマー溶液回収経路120で回収する。ポリマー溶液がポリマー溶液回収経路120の溝部124にある程度溜まったところで第1移送装置250を用いて再生タンク270へ移送し、回収する。
【0177】
再生タンク270に所定の量のポリマー溶液が溜まった後に、第1移送制御装置260により第1移送装置250による移送先を再生タンク272に切り替える。これにより、オーバーフローしたポリマー溶液は再生タンク272に回収されることとなり、再生タンク270で後の工程を行っているときに、再生タンク270にオーバーフローしたポリマー溶液が入ってしまうことがない。
【0178】
次に、回収したポリマー溶液における溶媒及び添加剤の含有率を測定する。当該測定は、再生タンク270中のポリマー溶液の一部をサンプルとして抜き取り、当該サンプルを分析することにより行うことができる。ポリマー溶液の分析は、既知の方法で行うことができる。
【0179】
次に、当該測定結果に基づいて、必要な量の溶媒及び添加剤その他の成分をポリマー溶液に添加する。これにより、回収されたポリマー溶液が再生される。その後に、当該再生タンク270内のポリマー溶液を第2移送装置210のパイプ212を用いて中間タンク230へ移送する。再生タンク270内のポリマー溶液を原料タンク200内のポリマー材料に代えて、又は原料タンク200内のポリマー材料とともに電界紡糸に用いることにより、再生タンク270内のポリマー溶液をナノ繊維の原料として再利用することができる。
【0180】
なお、再生タンク272に所定の量のポリマー溶液が溜まった後には、再生タンク270に所定の量のポリマー溶液が溜まった後にしたのと同様の方法により再生タンク272内のポリマー溶液をナノ繊維の原料として再利用することができる。
【0181】
実施形態3に係るナノ繊維製造装置3によれば、上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するため、従来の下向きに取り付けられたノズルを用いたナノ繊維製造装置の場合に見られるようなドロップレット現象が発生することがなく、高品質なナノ繊維を製造することが可能となる。
【0182】
また、実施形態3に係るナノ繊維製造装置3によれば、上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながらナノ繊維を電界紡糸するため、常に十分な量のポリマー溶液がノズルに供給され、均一な品質を有するナノ繊維を製造することが可能となる。
【0183】
また、実施形態3に係るナノ繊維製造装置3によれば、上向きノズル112の吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用することが可能であるため、原料の使用料を減らすことが可能となる結果、安価な製造コストでナノ繊維を製造することが可能となる。また、このことは省資源化の流れにも沿うものとなる。
【0184】
また、実施形態3に係るナノ繊維製造装置3によれば、ノズル先端部が、円筒を当該円筒の軸と斜めに交わる平面に沿って切断した形状を有するため、上向きノズル112の吐出口からオーバーフローするポリマー溶液が、ノズル先端部の部分で滞留することなく速やかに流れ落ちるようになる。このため、電界紡糸する過程でポリマー溶液から溶媒が揮発する量を極めて少なくするとともに、上向きノズル112の吐出口の近傍において生成するポリマー固化物の量を極めて少なくすることが可能となる。その結果、実施形態3に係るナノ繊維製造装置3によれば、上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら電界紡糸する場合であっても、ポリマー固化物がナノ繊維に付着してナノ繊維の品質を低下させてしまうという問題を解決することが可能となる。
【0185】
また、実施形態3に係るナノ繊維製造装置3によれば、原料タンク200と、再生タンク270,272と、中間タンク230と、第1移送装置250と、第1移送制御装置260と、第2移送装置210と、第2移送制御装置220とを備えるため、回収したポリマー溶液を再生タンク270,272に移送した後、当該ポリマー溶液の組成を測定するとともに、当該測定結果に応じてポリマー溶液に溶媒その他の必要な成分を添加することで、当該ポリマー溶液を元のポリマー溶液の組成と同じか極めて近い組成を有するポリマー溶液に再生することが可能となる。このため、実施形態に係るナノ繊維製造装置1によれば、オーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用可能としながら、電界紡糸過程における紡糸条件(この場合ポリマー溶液の組成)を長時間にわたって一定に保つことが可能となり、均一な品質を有するナノ繊維を大量生産することが可能となる。
【0186】
[実験例]
実施形態3に係るナノ繊維製造装置3を用いて、複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら複数の上向きノズル112の吐出口からポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するとともに、複数の上向きノズル112の吐出口からオーバーフローしたポリマー溶液を回収してナノ繊維の原料として再利用した。具体的には、回収したポリマー溶液を再生タンク270,272に移送した後、当該ポリマー溶液の組成を測定するとともに、当該測定結果に応じてポリマー溶液に溶媒その他の必要な成分を添加することによりポリマー溶液を再生した。
【0187】
表3は、原料となるポリマー溶液の組成を示す表である。表4は、回収したポリマー溶液の組成を示す表である。表5は、再生したポリマー溶液の組成を示す表である。なお、表3〜表5における「相対重量」は、ポリウレタンの重量を100としたときにおける各物質の相対重量を表している。
【0188】
[表3]
物質名 相対重量
ポリウレタン(ポリマー) 100.0
ジメチルホルムアミド(溶媒) 240.0
メチルエチルケトン(溶媒) 160.0
【0189】
[表4]
物質名 相対重量
ポリウレタン(ポリマー) 100.0
ジメチルホルムアミド(溶媒) 199.2
メチルエチルケトン(溶媒) 85.4
【0190】
[表5]
物質名 相対重量
ポリウレタン(ポリマー) 100.0
ジメチルホルムアミド(溶媒) 240.0
メチルエチルケトン(溶媒) 160.0
【0191】
表3〜表5に示すように、実験例によれば、当該ポリマー溶液を元のポリマー溶液の組成と同じか極めて近い組成を有するポリマー溶液に再生することができた。
【0192】
上記実験例においては、回収したポリマー溶液に、ポリウレタン100g当たり40.8gのジメチルホルムアミド及び74.6gのメチルエチルケトンを添加することにより、ポリマー溶液を再生した。
【0193】
なお、上記実施形態3に係るナノ繊維製造装置3において説明した各種の数値(例えば、円筒の軸と平面とのなす角度θ、斜面部133の先端とジャケット134の先端との円筒の軸に沿った間隔h1、斜面部133の基端とジャケット134の先端との円筒の軸に沿った間隔h2など)は、上記した各数値に限定されるものではなく、適宜、最適な値を設定することができる。例えば、円筒の軸と平面とのなす角度θは、50°に限られるものではなく、15°〜60°の範囲内にあるナノ繊維製造装置に本発明を適用することができる。
【0194】
[実施形態4]
図17は、実施形態4に係るナノ繊維製造装置4を説明するために示す図である。実施形態4に係るナノ繊維製造装置4は、図17に示すように、通気度計測装置40により計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する搬送速度制御装置50を備えている。搬送速度制御装置50は、主制御装置60(図1(b)参照。)が有する複数の機能のうちの1つとして当該主制御装置60に設けられる。
なお、実施形態4に係るナノ繊維製造装置4の全体的な構成は、基本的には実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の構成(図1参照。)と同様であるので、実施形態4に係るナノ繊維製造装置4の全体的な構成は図示を省略する。
【0195】
通気度計測装置40は、図17に示すように、長尺シートWの通気度Pを計測する通気度計測部41と、通気度計測部41を長尺シートWの幅方向に沿って所定の周期Tで往復移動させる駆動部43と、駆動部43及び通気度計測部41の動作を制御するとともに、通気度計測部41からの計測結果を受けて処理する制御部44を備える。駆動部43と、制御部44は、本体部42に配設されている。通気度計測装置40としては、公知の通気度計測装置を用いることができる。
【0196】
通気度計測装置40は、計測された通気度Pの値をそのまま搬送速度制御装置50に送信することもできるし、計測された通気度Pを所定の周期T又は当該周期Tのn倍に相当する時間(但し、nは自然数)で平均して得られる平均通気度<P>の値を搬送速度制御装置50に送信することもできる。
【0197】
搬送速度制御装置50は、通気度計測部40により計測された通気度P又は平均通気度<P>に基づいて搬送装置10が搬送する長尺シートWの搬送速度Vを制御する。例えば、長時間の電界紡糸過程において通気度Pが大きくなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度Vを遅くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を増大させることにより通気度を小さくする。
【0198】
一方、長時間の電界紡糸過程において通気度が小さくなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度を速くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を低減させることにより通気度を大きくする。なお、搬送速度Vの制御は、駆動ローラー14,15,16,17の回転速度を制御することにより行うことができる。
【0199】
図18は、実施形態4に係るナノ繊維製造方法を説明するために示すフローチャートである。図19は、通気度計測部41の動きを説明するために示す図である。図19(a)〜図19(f)は各工程図である。なお、図19中、正弦曲線状に示される曲線は通気度計測部41が長尺シートW上で通気度を計測した部位を繋ぐ軌跡である。
【0200】
図20は、通気度P、平均通気度<P>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図20(a)は通気度Pの時間変化を表すグラフであり、図20(b)は平均通気度<P>の時間変化を表すグラフであり、図20(c)は搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図20(a)及び図20(b)中、符号P0は目標通気度を示し、符号Pは許容される通気度の上限を示し、符号Pは許容される通気度の下限を示す。図20(c)中、符号Vは搬送速度の初期値を示す。
【0201】
実施形態4に係るナノ繊維製造方法は、図18のフローチャートに示すように、「長尺シート搬送・電界紡糸」、「通気度計測」、「平均通気度算出」、「ずれ量ΔP算出」の「搬送速度制御」の各工程を含む。
【0202】
1.長尺シートの搬送・電界紡糸(S10)
長尺シートWを搬送装置10にセットし、その後、長尺シートWを繰り出しローラー11から巻き取りローラー12に向けて所定の搬送速度Vで搬送させながら、各電界紡糸装置20において長尺シートWにナノ繊維を順次堆積させる。その後、加熱装置30により、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。これにより、ナノ繊維が堆積した長尺シートからなるナノ繊維不織布が製造される。
【0203】
このとき、以下の手順により、電界紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの通気度Pを計測するとともに、通気度計測装置40により計測された通気度Pに基づいて搬送速度Vを制御する。なお、実施形態1においては、図20(a)〜図20(c)に示すように、時間t経過前の期間については搬送速度の制御を行わず、時間t経過後の期間については搬送速度の制御を行うこととしている。以下の変形例1及び2においても同様である。
【0204】
2.通気度計測(S12)
まず、図19(a)〜図19(f)に示すように、通気度計測部41を長尺シートWの幅方向yに沿って所定の周期T(例えば1秒)で往復移動させながら、長尺シートWの通気度を計測する。通気度計測部41による通気度の計測は例えば10ms毎に行う。その結果、図20(a)に示すようなグラフが得られる。
【0205】
3.平均通気度算出(S14)
次に、通気度計測部41により計測された通気度Pを所定の周期T(例えば1秒)で平均することにより平均通気度<P>を算出する。その結果、図20(b)に示すようなグラフが得られる。
【0206】
4.ずれ量ΔP算出(S16)
次に、上記の平均通気度<P>と、所定の目標通気度Pとのずれ量ΔPを算出する。
【0207】
5.搬送速度制御(S18〜S24)
次に、上記ずれ量ΔPに基づいて搬送速度Vを制御する。
例えば、長時間の電界紡糸過程において通気度Pが大きくなる方向に紡糸条件が変動した場合(ずれ量ΔPが正の場合)には、搬送速度Vを遅くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を増大させることにより通気度を小さくする。一方、長時間の電界紡糸過程において通気度が小さくなる方向に紡糸条件が変動した場合(ずれ量ΔPが負の場合)には、搬送速度Vを速くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を低減させることにより通気度を大きくする(図20(c)参照。)。これにより、時間t経過後、徐々に通気度Pは所定の目標通気度Pの値に収斂する。
【0208】
実施形態4に係るナノ繊維製造装置4によれば、通気度計測装置により計測された通気度に基づいて搬送速度を制御することが可能となる。このため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。なお、実施形態4に係るナノ繊維製造装置4においては、製造するナノ繊維不織布の通気度Pは、0.15cm/cm/s〜200cm/cm/sに設定することができる。
【0209】
また、実施形態4に係るナノ繊維製造装置4によれば、通気度Pと目標通気度とのずれ量ΔPに基づいて搬送速度Vを制御するため、例えば、上記ずれ量ΔPが大きい場合には、搬送速度Vの制御量(初期値Vからの変化量)を大きくし、上記ずれ量ΔPが小さい場合には、搬送速度Vの制御量(初期値Vからの変化量)を小さくするというような制御をすることが可能となり、通気度の変動の程度に応じて搬送速度を適切に制御することが可能となる。
【0210】
また、実施形態4に係るナノ繊維製造装置4によれば、搬送速度制御装置50が、平均通気度<P>に基づいて搬送速度Vを制御することが可能であるため、長尺シートWの幅方向yにおいて通気度Pに分布がある場合であっても、平均通気度<P>に基づいて搬送速度Vを制御することで、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0211】
また、実施形態4に係るナノ繊維製造装置4によれば、所定の搬送速度Vで搬送されていく長尺シートWにナノ繊維を堆積させるとともに、ナノ繊維が堆積した長尺シートWの通気度Pを計測し、当該長尺シートWの通気度Pに基づいて長尺シートWの搬送速度Vを制御することとしているため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して通気度が変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで通気度の変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0212】
なお、実施形態4に係るナノ繊維製造装置4は、均一な通気度を有する長尺シートに均
一な通気度を有するナノ繊維を堆積させることにより均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産する場合はもちろん、それほど均一ではない通気度を有する長尺シートにそれに応じた通気度を有するナノ繊維を堆積させることにより全体として均一な通気度を有するナノ繊維不織布を大量生産する場合にも好適に用いることができる。
【0213】
[実施形態5]
図21は、実施形態5に係るナノ繊維製造装置5を説明するために示す図である。図21(a)は厚さ計測装置90と搬送速度制御装置50と搬送装置10との関係を示すブロック図であり、図21(b)は厚さ計測部92の構成を示す図である。図22は、厚さ計測部92の動きを説明するために示す平面図である。
なお、実施形態5に係るナノ繊維製造装置5は、上記した実施形態4に係るナノ繊維製造装置4において、通気度計測装置40を厚さ計測装置90に換えた構成となっており、その他の構成は実施形態4に係るナノ繊維製造装置4と同様である。
【0214】
実施形態5に係るナノ繊維製造装置5は、図21に示すように、電界紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの厚さkを計測する厚さ計測装置90と、厚さ計測装置90により計測された厚さkに基づいて搬送速度Vを制御する搬送速度制御装置50とを備える。
【0215】
厚さ計測装置90は、図21(a)に示すように、3つの厚さ計測部92と、当該3つの厚さ計測部92の動作を制御するとともに、3つの厚さ計測部92により計測された距離に基づいて長尺シートの厚さを算出する機能を有する本体部91とを備える。厚さ計測装置90は、厚さ計測部92が計測した厚さに関する情報を搬送速度制御装置50に送信する。搬送速度制御装置50は、受信した当該厚さに関する情報に基づいて、搬送装置10が長尺シートWを搬送する際の長尺シートWの搬送速度Vを制御する。
【0216】
厚さ計測部92は、図21(b)に示すように、長尺シートWを挟んで向かい合うように配置され、三角測距方式により長尺シートWまでの距離を計測する一対のレーザー測距装置93,94からなる。レーザー測距装置93,94は、レーザーダイオード95と、当該レーザーダイオード95から射出されたレーザー光を投光する投光レンズ96と、投光レンズ96から投光され、長尺シートWの表面(一方の面又は他方の面)により反射されたレーザー光を受光する受光レンズ97と、受光レンズ97により受光されたレーザー光を受けるCCD素子からなる受光回路98とを備える。
【0217】
このとき、受光回路98上に形成されるビームスポットの位置は長尺シートWの表面(一方の面又は他方の面)までの距離L,Lにより変化するため、その変化量を読み取ることにより距離L,Lを計測することができる。長尺シートWの厚さkは、一対のレーザー測距装置93,94間の距離をLとしたとき、「k=L−(L+L)」の関係式により算出することができる。レーザー測距装置93,94としては、一般的なレーザー測距装置を用いることができる。
【0218】
厚さ計測装置90は、図22に示すように、上記した3つの厚さ度計測部42として、長尺シートWの幅方向yにおける異なる複数の位置(長尺シートの幅方向yにおける中央部、左端部、右端部)に配置された3つの厚さ計測部42を備える。
【0219】
厚さ計測装置90は、計測された厚さkの値をそのまま搬送速度制御装置50に送信することもできるし、3つの厚さ計測部42で計測された厚さkを平均して得られる平均厚さ<k>の値を搬送速度制御装置50に送信することもできる。
【0220】
搬送速度制御装置50は、厚さ計測部40により計測された厚さk又は平均厚さ<k>に基づいて搬送装置10が搬送する長尺シートWの搬送速度Vを制御する。例えば、長時間の電界紡糸過程において厚さkが薄くなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度Vを遅くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を増大させることにより厚さkを厚くする。一方、長時間の電界紡糸過程において厚さkが厚くなる方向に紡糸条件が変動した場合には、搬送速度を速くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を低減させることにより厚さkを薄く。なお、搬送速度Vの制御は、駆動ローラー14,15,16,17の回転速度を制御することにより行うことができる。
【0221】
図23は、実施形態5に係るナノ繊維製造方法を説明するために示すフローチャートである。図24は、厚さk、平均厚さ<k>及び搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図24(a)は厚さkの時間変化を表すグラフであり、図24(b)は平均厚さ<k>の時間変化を表すグラフであり、図24(c)は搬送速度Vの時間変化を表すグラフである。図24(a)及び図24(b)中、符号dは目標厚さを示し、符号dは許容される厚さの上限を示し、符号dは許容される厚さの下限を示す。図24(c)中、符号Vは搬送速度の初期値を示す。
【0222】
実施形態5に係るナノ繊維製造方法は、図23のフローチャートに示すように、「目標厚さ設定」、「長尺シート搬送・電界紡糸」、「厚さ計測」、「平均厚さ算出」、「ずれ量Δk算出」の「搬送速度制御」の各工程を含む。
【0223】
1.目標厚さ設定(S10)
製造するナノ繊維不織布の厚さを目標厚さkとして設定する。
【0224】
2.長尺シート搬送・電界紡糸(S12)
長尺シートWを搬送装置10にセットし、その後、長尺シートWを繰り出しローラー11から巻き取りローラー12に向けて所定の搬送速度Vで搬送させながら、各電界紡糸装置20において長尺シートWにナノ繊維を順次堆積させる。その後、加熱装置30により、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。これにより、ナノ繊維が堆積した長尺シートからなるナノ繊維不織布が製造される。
【0225】
このとき、以下の手順により、電界紡糸装置20によりナノ繊維を堆積させた長尺シートWの厚さkを計測するとともに、厚さ計測装置90により計測された厚さkに基づいて搬送速度Vを制御する。なお、実施形態1においては、図24(a)〜図24(c)に示すように、時間t経過前の期間については搬送速度の制御を行わず、時間t経過後の期間については搬送速度の制御を行うこととしている。以下の変形例1及び2においても同様である。
【0226】
3.厚さ計測(S14)
まず、図22に示すように、3台の厚さ計測部42により、長尺シートWの厚さkを計測する。厚さ計測部42による厚さの計測は例えば10ms毎に行う。その結果、図24(a)に示すようなグラフが得られる。
【0227】
4.平均厚さ算出(S16)
次に、3台の厚さ計測部41により計測された厚さkを平均することにより平均厚さ<k>を算出する。その結果、図24(b)に示すようなグラフが得られる。
【0228】
5.ずれ量Δk算出(S18)
次に、上記の平均厚さ<k>と、所定の目標厚さkとのずれ量Δkを算出する。
【0229】
6.搬送速度制御(S20〜S26)
次に、上記ずれ量Δkに基づいて搬送速度Vを制御する。
例えば、長時間の電界紡糸過程において厚さkが薄くなる方向に紡糸条件が変動した場合(ずれ量Δkが負の場合)には、搬送速度Vを遅くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を増大させることにより厚さkを厚くする。一方、長時間の電界紡糸過程において厚さが厚くなる方向に紡糸条件が変動した場合(ずれ量Δkが正の場合)には、搬送速度Vを速くして単位面積当たりのナノ繊維の堆積量を低減させることにより厚さを薄くする(図24(c)参照。)。これにより、時間t経過後、徐々に厚さkは所定の目標厚さkの値に収斂する。
【0230】
実施形態5に係るナノ繊維製造装置5によれば、厚さ計測装置90により計測された厚さkに基づいて搬送速度Vを制御することが可能となる。このため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して厚さが変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで厚さの変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な厚さを有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。なお、実施形態5に係るナノ繊維製造装置5においては、製造するナノ繊維不織布の厚さkは、例えば、1μm〜100μmに設定することができる。
【0231】
また、実施形態5に係るナノ繊維製造装置5によれば、厚さ計測装置90により計測された厚さkと所定の目標厚さkとのずれ量Δkに基づいて搬送速度Vを制御するため、例えば、上記ずれ量Δkが大きい場合には、搬送速度Vの制御量(初期値Vからの変化量)を大きくし、上記ずれ量Δkが小さい場合には、搬送速度Vの制御量(初期値Vからの変化量)を小さくするというような制御をすることが可能となり、厚さの変動の程度に応じて搬送速度を適切に制御することが可能となる。
【0232】
また、実施形態5に係るナノ繊維製造装置5によれば、厚さ計測装置90が、厚さ計測部として、長尺シートWの幅方向yにおける異なる位置に配置された3台の厚さ計測部92を備えるため、長尺シートの幅方向yの広域にわたって厚さを計測することが可能となり、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0233】
また、実施形態5に係るナノ繊維製造装置5によれば、搬送速度制御装置50が、3台の厚さ計測部40により計測された厚さkを平均して得られる平均厚さ<k>に基づいて搬送速度Vを制御することが可能であるため、長尺シートWの幅方向yにおいて厚さkに分布がある場合であっても、平均厚さ<k>に基づいて搬送速度Vを制御することで、より適切に搬送速度の制御をすることが可能となる。
【0234】
実施形態5に係るナノ繊維製造装置5によれば、所定の搬送速度Vで搬送されていく長尺シートWにナノ繊維を堆積させるとともに、ナノ繊維が堆積した長尺シートWの厚さkを計測し、当該長尺シートWの厚さkに基づいて長尺シートWの搬送速度Vを制御することとしているため、長時間の電界紡糸過程において紡糸条件が変動して厚さが変動したとしても、それに応じて搬送速度を適切に制御することで厚さの変動量を所定の範囲に収めることが可能となり、その結果、均一な厚さを有するナノ繊維不織布を大量生産することが可能となる。
【0235】
なお、上記実施形態5に係るナノ繊維製造装置5における厚さ計測装置90は、上記実施形態5に係るナノ繊維製造装置5に示すような方法により厚さを計測する厚さ計測装置に限られるものではなく、例えば、撮像手段によって撮像した画像などに基づいて厚さを計測するような厚さ計測装置であってもよい。
【0236】
また、実施形態5に係るナノ繊維製造装置5は、均一な厚さを有する長尺シートに均一
な厚さを有するナノ繊維を堆積させることにより均一な厚さを有するナノ繊維不織布を大量生産する場合はもちろん、それほど均一ではない厚さを有する長尺シートにそれに応じた厚さを有するナノ繊維を堆積させることにより全体として均一な厚さを有するナノ繊維不織布を大量生産する場合にも好適に用いることができる。
【0237】
[実施形態6]
図25は、実施形態6に係るナノ繊維製造装置6の正面図である。図26は、実施形態1に係るナノ繊維製造装置1の平面図である。なお、図25及び図26においては、ポリマー溶液供給部及びポリマー溶液回収部の図示を省略してある。
【0238】
また、実施形態6に係るナノ繊維製造装置6においては、図面の簡単化のため、電界紡糸装置20を2台としている。ただし、実施形態6に係るナノ繊維製造装置6においても、電界紡糸装置20は、例えば実施形態1及び実施形態2と同様に4台とすることも可能であることは勿論である。また、図25及び図26において図1と同一構成要素には同一符号が付されている。
【0239】
実施形態6に係るナノ繊維製造装置6は、雰囲気調整された雰囲気調整空気を電界紡糸装置20に供給する空気供給装置80(図26参照。)を有している。また、電界紡糸装置20は、図26に示すように、長尺シートWにナノ繊維を堆積させる際に発生する揮発性成分を排出させる揮発性成分排出口610と、空気供給装置70によって雰囲気調整された空気(雰囲気調整空気という。)を取り入れる雰囲気調整空気取り入れ口620とを備える。
【0240】
なお、電界紡糸装置20側における揮発性成分排出口610の末端は、揮発性成分を排出することが可能な位置にあればよく、この条件を満たす限りにおいては、例えば、電界紡糸装置20のノズルブロック110近辺にあってもよいし、電界紡糸装置20の直上にあってもよいし、電界紡糸装置20が設置されている部屋の天井にあってもよい。
【0241】
VOC処理装置70は、長尺シートWにナノ繊維を堆積させる際に発生する揮発性成分(VOC)を燃焼して除去するものであり、VOCを燃焼する際に生じる燃焼熱によって生成した温風を空気供給装置80に送出するための温風排出部(図示せず。)を有している。温風排出部によって排出される温風は、空気供給装置80に供給される。なお、VOC処理装置70から排出される温風の温度は、40℃〜140℃である。
【0242】
空気供給装置80は、シリカゲルなどの除湿剤を用いて空気を除湿して除湿空気を生成する機能及び除湿することによって吸湿した除湿剤(吸湿除湿剤という。)を乾燥させて再生する機能を有する除湿装置810を有している。
【0243】
図27は、空気供給装置80の構成を模式的に示す図である。空気供給装置80は、図27に示すように、除湿装置810と、除湿装置810に送り込むべき空気(除湿空気と
するための空気)が流通する空気流通路820と、湿度及び温度などが適切に調整された
雰囲気調整空気が流通する雰囲気調整空気流通路830と、VOC処理装置70でVOCを燃焼した際に生じる燃焼熱によって生成した温風が流通する温風流通路840と、除湿装置810を通過した温風を排出させるための温風排出路850と、除湿装置810を駆動するための除湿装置駆動部860とを有している。なお、除湿装置810の詳細は後述する。
【0244】
空気流通路820は除湿空気とするための空気を除湿装置810に送り込むためのものであり、当該空気流通路820には、空気取り入れ口としてのダンパー821と、除湿装置810に空気を流入させる前の段階で当該空気が所定範囲の温度となるように温度調整を行う温度調整部822と、温度調整した空気を除湿装置810に送り込む送風機823とが設けられている。
【0245】
温度調整部822は、冷却部822Cとヒーター822Hとを有しており、これら冷却部822Cとヒーター822Hとを適宜選択的に動作させることによって除湿装置810に送り込むべき空気が適切な温度となるように温度調整することができる。これは、空気流通路820を流通する空気はいわゆる外気であるため、季節など種々の状況に応じて温度が変化する可能性があるからである。このため、除湿装置810に送り込むべき空気の温度が高すぎる場合には、冷却部822Cを動作させることによって、除湿装置810に送り込むべき空気の温度が適温となるようにし、逆に、除湿装置810に送り込むべき空気の温度が低すぎる場合には、ヒーター822Hを動作させることによって、除湿装置810に送り込むべき空気の温度が適温となるようにする。
【0246】
なお、除湿装置810に送り込むべき空気の温度をこのように調整する場合、具体的には、除湿装置810に送り込むべき空気の温度が、電界紡糸装置20において適切とされる雰囲気温度にできるだけ近い温度となるようにすることが好ましい。例えば、電界紡糸装置20において適切とされる雰囲気温度が25℃であるとすれば、除湿装置810に送り込むべき空気の温度が25℃に近い温度となるように温度調整する。
【0247】
このように、除湿装置810に送り込むべき空気の温度を予め適切な温度としておくことによって、除湿装置810によって生成された除湿空気の温度を、雰囲気調整空気流通路830に設けられている温度調整部831(後述する。)で調整する際に、大幅な温度調整が不要となるため、除湿空気の湿度を同じく雰囲気調整空気流通路830に設けられている湿度調整部832(後述する。)で調整する際に、湿度を高精度に調整することができる。
【0248】
雰囲気調整空気流通路830は、雰囲気調整空気を各電界紡糸装置20に送り込むためのものであり、当該雰囲気調整空気流通路830には、除湿装置810によって生成された除湿空気の温度が電界紡糸装置20において適切な温度となるように温度調整を行う温度調整部831と、当該除湿空気の湿度が電界紡糸装置20において適切な湿度となるように湿度調整を行う湿度調整部832と、雰囲気調整空気を電界紡糸装置20に送出するための送風機833とが設けられている。
【0249】
温度調整部831は、冷却部831Cとヒーター831Hとを有しており、冷却部831C及びヒーター831Hを適宜選択的に動作させることによって、各電界紡糸装置20に送出する空気が適切な温度となるように温度調整することができる。
【0250】
温風流通路840は、VOC処理装置60から排出される温風を除湿装置810に送り込むためのものであり、当該温風流通路840には、温風の温度調整を行うための温風温度調整のヒーター841が設けられている。ヒーター841は、VOC処理装置70から送られてくる温風の温度が除湿剤を再生させるために必要な温度に達していない場合に、温風を適切な温度にまで上昇させるためのヒーターである。なお、温風流通路840には、VOC処理装置70から送られてくる温風の不純物を除去するためのフィルター842を必要に応じて設けるようにしてもよい。
【0251】
温風排出路850は、除湿装置810を通過した温風を排出するためのものであり、当該温風排出路850には、除湿装置810を通過した温風を外部に排出させるための送風機851が設けられている。
【0252】
図27に示す空気供給装置80においては、空気流通路820、雰囲気調整空気流通路830、温風流通路840及び温風排出路850における空気の流れを矢印で示しているが、実際には、それぞれに空気流通用のダクトが設けられており、当該ダクト内を空気が流通するようになっている。
【0253】
ところで、除湿装置810は、除湿剤を収納する除湿剤収納部811と、空気取り入れ部812と、除湿空気を送出する除湿空気送出部813と、VOC処理装置70から排出される温風を取り入れる温風取り入れ部814と、温風を外部に排出する温風排出部815とを有している。なお、実施形態6に係るナノ繊維製造装置6においては、除湿剤収納部811全体が1つの空間部となっており、当該空間部に除湿剤が充填されているものとする。
【0254】
このように構成された除湿装置810は、除湿剤を用いて除湿空気を生成するとともに除湿空気を生成することによって吸湿した吸湿除湿剤を、温風取り入れ部814から取り入れた温風により乾燥させて再生し、再生した除湿剤を用いて除湿空気を生成するという動作を繰り返し行う。
【0255】
図28は、図27に示す空気供給装置80における除湿装置810を具体的に示す斜視図である。図27及び図28により除湿装置810を詳細に説明する。除湿装置810の外観形状は、両端が円形の端面となっている円筒状の箱体をなし、一方の端面810L(図3においては左側の端面)及び他方の端面810R(図27においては右側の端面)の中心を貫く中心軸xを中心に回転可能となっている。除湿装置810は、除湿装置駆動部(モーターとする。)860に動力伝達ベルト861によって連結されており、除湿装置駆動部860によって例えば矢印c方向に回転する。
【0256】
除湿装置810の内部には除湿剤収納部811が存在し、当該除湿剤収納部811には除湿剤(図示せず。)が充填されている。また、除湿装置810の一方の端面810L及
び他方の端面810Rは、空気の流通が可能で、かつ、充填されている除湿剤が外部に流出することがないような素材で形成されている。
【0257】
また、除湿装置810の一方の端面810Lには、空気を送り込むための空気取り入れ部812と、除湿装置810を通過した温風を排出させる温風排出部815とが中心軸xを挟んで存在し、除湿装置810の他方の端面810Rには、除湿空気を送出する除湿空気送出部813と、温風を取り込むための温風取り込み部814とが存在する。
【0258】
空気取り入れ部812は、空気流通路820を流通する空気の取り入れが可能な位置に存在し、温風排出部815は、除湿剤を通過した温風を温風排出路850に排出可能な位置に存在している。また、除湿空気送出部813は、除湿空気を雰囲気調整空気流通路830に送出可能な位置に存在し、温風取り込み部814は、温風流通路840を流通してくる温風の取り込みが可能な位置に存在する。
【0259】
そして、空気取り入れ部812及び除湿空気送出部813は、一方の端面810L及び他方の端面810Rにおける中心軸xから外れた位置にそれぞれが対向して存在している。また、温風取り入れ部814及び温風排出部815は、一方の端面810L及び他方の端面810Rにおける中心軸xから外れた位置で、かつ、空気取り入れ部812及び除湿空気送出部813とは異なる位置にそれぞれが対向して存在している。
【0260】
なお、除湿装置810は、中心軸xを中心に回転するものであるため、空気取り入れ部812、温風排出部815、除湿空気送出部813及び温風取り込み部814は除湿装置810において固定的な位置に設けられているものではなく、除湿装置810の回転に伴って変化する。
【0261】
すなわち、図27においては、現時点において、空気流通路820を流通する空気の取り入れが可能な位置に存在している部分を除湿装置810の空気取り入れ部812とし、除湿空気を雰囲気調整空気流通路830に送出可能な位置に存在している部分を除湿装置810の除湿空気送出部813とし、温風流通路840を流通してくる温風の取り込みが可能な位置に存在している部分を除湿装置810の温風取り込み部814とし、除湿剤を通過した温風を温風排出路850に排出可能な位置に存在している部分を除湿装置810の温風排出部815として示している。
【0262】
ところで、除湿装置810を回転させる際は、除湿装置810を連続的に回転させるようにしてもよく、所定の回転角度ごとに間欠的に回転させるようにしてもよい。除湿装置810を連続的に回転させる場合には、除湿空気の生成に必要な時間と吸湿除湿剤の再生に必要な時間とを考慮して回転速度を設定することが好ましい。すなわち、除湿装置810が回転して行く間に、空気取り入れ部から取り入れた空気を所定湿度にまで除湿可能とするとともに、温風によって吸湿除湿剤を十分に乾燥可能とする速度で回転させる。
【0263】
また、除湿装置810を所定角度ごとに間欠的に回転させる場合には、除湿空気の生成に必要な時間と吸湿除湿剤の再生に必要な時間とを考慮して、間欠的な回転における回転の停止時間を設定することが好ましい。すなわち、空気取り入れ部から取り入れた空気を所定湿度にまでに除湿するに要する時間及び吸湿除湿剤を十分に乾燥させるに要する時間だけ回転を停止させたのち、回転を再開して所定角度だけ回転させるという動作を繰り返す。
【0264】
以上のように構成された実施形態6に係るナノ繊維製造装置6における電界紡糸の動作を説明する。まず、長尺シートWを搬送装置10にセットし、その後、長尺シートWを繰り出しローラー11から巻き取りローラー12に向けて所定の搬送速度で搬送させながら、各電界紡糸装置20において長尺シートWにナノ繊維を順次堆積させる。
【0265】
その後、加熱装置30により、ナノ繊維を堆積させた長尺シートWを加熱する。これにより、ナノ繊維が堆積した長尺シートからなるナノ繊維不織布が製造される。
【0266】
このようにして、ナノ繊維不織布を連続的に生産することが可能となる。このとき、均一な物性を有するナノ繊維不織布を連続的に製造するには、紡糸条件を長時間にわたって適切に保持することが重要である。紡糸条件として、各電界紡糸装置20における雰囲気湿度及び雰囲気温度を適切な湿度及び温度を長時間にわたって保持すること重要である。なお、以下では、電界紡糸装置20における雰囲気湿度及び雰囲気温度を単に湿度及び温度と表記する場合もある。
【0267】
実施形態6に係るナノ繊維製造装置6においては、空気供給装置80によって、雰囲気調整された空気を各電界紡糸装置20に供給するようにしている。空気供給装置80は、図27及び図28に示すように、除湿装置810の空気取り入れ部812から取り入れた空気を除湿剤によって除湿空気としたのち、当該除湿空気を除湿空気送出部813から送出する。除湿空気送出部813から送出された除湿空気は、冷却部831C、湿度調整部832及びヒーター831Hを通過することにより、各電界紡糸装置20において最適な湿度及び温度となるように湿度調整及び温度調整がなされる。そして、当該湿度調整及び温度調整がなされた雰囲気調整空気が各電界紡糸装置20に供給される。
【0268】
なお、各電界紡糸装置20において最適な湿度及び温度というのは、どのようなナノ繊維不織布を製造するかなどによっても異なるが、湿度については20%〜60%の範囲となるように湿度調整することが好ましく、温度については20℃〜40℃の範囲となるように温度調整することが好ましい。
【0269】
そして、このような範囲のいずれかの湿度及び温度に調整された場合、当該湿度及び温度を保持した状態(恒湿度及び恒温度の状態)で電界紡糸を行うことが好ましい。例えば、各電界紡糸装置20において最適な湿度及び温度が、湿度については30%、温度については25℃であるとした場合、各電界紡糸装置20に送出すべき空気を当該湿度(30%)と当該温度(25℃)とに設定し、かつ、当該湿度及び温度を保持した状態で電界紡糸を行うことが好ましい。
【0270】
一方、各電界紡糸装置20においては、電界紡糸を行う際、揮発性成分が高濃度で発生する。この揮発性成分は、VOC処理装置70に送出されて、VOC処理装置70によってVOCを燃焼させて除去する処理が行われる。そして、VOCを燃焼させて除去する際の燃焼熱によって生成した温風は、空気供給装置80に送出される。
【0271】
VOC処理装置70から送出されてくる温風は、空気供給装置80における温風流通路840を通ってフィルター842を介してヒーター841に送られる。ヒーター841は、温風の温度が除湿剤を再生させるに必要な温度に達していない場合に、当該温風を適切な温度にまで上昇させるものであり、温風の温度が除湿剤を再生させるに適した温度であれば、特に動作せずに温風を通過させる。ヒーター841を通過した温風は、除湿装置810の温風取り入れ部814に供給され、除湿装置810に収納されている吸湿除湿剤を乾燥させて吸湿前の除湿剤に再生することができる。
【0272】
ところで、除湿装置810は、除湿装置駆動部860によって回転しているため、除湿空気を生成することによって吸湿した状態の吸湿除湿剤は、除湿装置810が回転して行くことよって、温風取り入れ部814からの温風に晒される位置となる。また、温風取り入れ部814からの温風によって、すでに再生された状態の除湿剤は、除湿装置810が回転して行くことよって、空気取り入れ部812から取り入れた空気に晒される位置となる。このような動作を繰り返すため、除湿空気の生成と吸湿除湿剤の再生とが繰り返し行われることとなる。
【0273】
また、除湿空気は、雰囲気調整空気流通路830を流通する過程で、湿度及び温度が所定湿度及び所定温度となるように湿度調整及び温度調整される。なお、湿度調整及び温度調整された湿度及び温度には、多少の誤差も許容される。例えば、湿度を30%とすべき場合においては、30%±5%程度が許容範囲であり、温度を25℃とすべき場合においては、25℃±1.0℃程度が許容範囲である。
【0274】
このように、実施形態6に係るナノ繊維製造装置6によれば、各電界紡糸装置20において最適な湿度及び温度に調整された空気(雰囲気調整空気)を各電界紡糸装置20に供給することができる。それによって、各電界紡糸装置20においては、均一な物性を有するナノ繊維不織布を連続的に大量生産することができる。
【0275】
また、実施形態6に係るナノ繊維製造装置6によれば、除湿空気を生成することによって吸湿した吸湿除湿剤は、VOCを燃焼する際の燃焼熱によって生成した温風を用いて再生されるため、同じ除湿剤を繰り返し使用可能としている。このように、実施形態6に係るナノ繊維製造装置6においては、本来は廃棄されてしまうエネルギーを有効利用することができる。
【0276】
また、実施形態6に係るナノ繊維製造装置6によれば、電界紡糸装置として、長尺シートWが搬送されていく所定の搬送方向αに沿って直列に配置された複数の電界紡糸装置20を備えているため、複数の電界紡糸装置20のそれぞれにおいて長尺シートW上にナノ繊維を次々と堆積させることが可能となり、均一な物性を有するナノ繊維不織布をより一層高い生産性で大量生産することが可能となる。
【0277】
上記した除湿装置810は、除湿剤収納部811全体が1つの空間部となっていて、当該空間部に除湿剤が充填されているものを例示したが、このような構成に限られるものではなく、中心軸xを含む平面で除湿装置810の内部をn分割(nは2以上の自然数)することによってn個の除湿剤収納室を形成するようにし、n個の除湿剤収納室それぞれに前記除湿剤が充填されているような構成としてもよい。
【0278】
以上、本発明を上記の実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。その趣旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば、次のような変形も可能である。
【0279】
(1)上記各実施形態においては、電界紡糸装置として4台の電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置を例にとって本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、3台又は5台以上の電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0280】
(2)上記各実施形態においては、電源装置を各電界紡糸装置ごとに備えるナノ繊維製造装置を例にとって本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、1台の電源装置から各電界紡糸装置に電力を供給するとともに、各電界紡糸装置に供給される電流量を計測し主制御装置に送信することが可能な電源装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0281】
(3)上記各実施形態においては、電源装置160の正極がコレクター150に接続され、電源装置160の負極がノズルブロック110に接続された電界紡糸装置を用いて本発明のナノ繊維製造装置を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、電源装置の正極がノズルに接続され、電源装置の負極がコレクターに接続された電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0282】
(4)上記実施形態においては、1つの電界紡糸装置に1つのノズルブロックが配設されたナノ繊維製造装置を用いて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。図29は、電界紡糸装置20aを説明するために示す図である。例えば、図29に示すように、1つの電界紡糸装置20aに2つのノズルブロック110a1,110a2が配設されたナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできるし、2つ以上のノズルブロックが配設されたナノ繊維製造装置に本発明を適用することもできる。
【0283】
この場合、すべてのノズルブロックでノズル配列ピッチを同一にすることもできるし、各ノズルブロックでノズル配列ピッチを異ならせることもできる。また、すべてのノズルブロックでノズルブロックの高さ位置を同一にすることもできるし、各ノズルブロックでノズルブロックの高さ位置を異ならせることもできる。
【0284】
(5)本発明のナノ繊維製造装置においては、長尺シートの幅方向に沿ってノズルブロックを所定の往復運動周期で往復運動させる機構を備えていてもよい。当該機構を用いてノズルブロックを所定の往復運動周期で往復運動させながら電界紡糸を行うことにより、長尺シートの幅方向に沿ったポリマー繊維の堆積量を均一化することができる。この場合、ノズルブロックの往復運動周期や往復距離を、電界紡糸装置毎又はノズルブロック毎に独立して制御可能としてもよい。このような構成とすることにより、すべてのノズルブロックを同じ周期で往復運動させることもできるし、各ノズルブロックを異なる周期で往復運動させることもできる。また、すべてのノズルブロックで往復運動の往復距離を同一にすることもできるし、各ノズルブロックで往復運動の往復距離を異ならせることもできる。
【符号の説明】
【0285】
1・・・ナノ繊維製造装置、10・・・搬送装置、20,20a・・・電界紡糸装置、30・・・加熱装置、32・・・ヒーター、40・・・通気度計測装置、41,41a・・・通気度計測部、60・・・主制御装置、70・・・VOC処理装置、80・・・空気供給装置、90・・・厚さ計測装置、100・・・筐体、110,110a1,110a2・・・ノズルブロック、112・・・ノズル、114・・・ポリマー溶液供給経路、120・・・ポリマー溶液回収経路、132・・・ノズル先端部、134・・・ジャケット、136・・・ジャケット先端部とジャケット基端部との接続部、138・・・ジャケット基端部、140・・・ジャケット先端部、150・・・コレクター、152・・・絶縁部材、160・・・電源装置、170・・・補助ベルト装置、171・・・補助ベルト駆動装置、172・・・補助ベルト、173,173a,173b,173c,173d,173e・・・補助ベルト用ローラー、174・・・補助ベルト位置制御装置、175・・・補助ベルト位置計測センサー、176・・・一対のエアースプリング装置、177・・・膨らみ量制御装置、178・・・張力制御装置、200・・・原料タンク、210・・・第2移送装置、220・・・第2移送制御装置、230・・・中間タンク、250・・・第1移送装置、260・・・第1移送制御装置、270,272・・・再生タンク、810・・・除湿装置、811,811a〜811f・・・除湿剤収納部、812・・・空気取り入れ部、813・・・除湿空気送出部、814・・・温風取り入れ部、815・・・温風排出部、820・・・空気流通路、822,831・・・温度調整部、830・・・雰囲気調整空気流通路、832・・・湿度調整部、840・・・温風流通路、860・・・除湿装置駆動部、α・・・搬送方向、c・・・除湿装置710の回転方向、k・・・厚さ、P・・・通気度、ΔP,Δk・・・ずれ量、V・・・搬送速度、W・・・長尺シート、y・・・長尺シートWの幅方向、x・・・中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の搬送速度で搬送されていく長尺シートの搬送方向に沿って直列に配置され、前記長尺シートにナノ繊維を堆積させるための複数の電界紡糸装置を備えるナノ繊維製造装置であって、
前記電界紡糸装置は、
導電性を有する筐体と、
前記筐体に絶縁部材を介して取り付けられたコレクターと、
前記コレクターに対向する位置に位置し、ポリマー溶液を吐出する複数のノズルを有するノズルブロックと、
前記ノズルブロックと前記コレクターとの間に高電圧を印加する電源装置と、
前記コレクターを取り囲む位置に回転自在に配設された絶縁性かつ多孔性のエンドレスベルトからなる補助ベルト及び当該補助ベルトを前記長尺シートの搬送速度に対応する回転速度で回転させる補助ベルト駆動装置と、
を備え、
前記電源装置は、当該電源装置の正電極及び負電極のうち一方の電極が、前記コレクターに接続され、前記電源装置の正電極及び負電極のうち他方の電極が、前記ノズルブロック及び前記筐体に接続され、
前記絶縁部材は、ノズルブロック側から前記コレクターを見たとき、当該絶縁部材の外周が、前記コレクターの外周よりも外側に位置し、前記絶縁部材の厚さを「a」とし、前記絶縁部材の外周と前記コレクターの外周との距離を「b」としたとき、「a≧6mm」を満たし、かつ、「a+b≧50mm」を満たすことを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ繊維製造装置において、
前記補助ベルト駆動装置は、
前記補助ベルトを掛け回す複数の補助ベルト用ローラーと、
前記複数の補助ベルト用ローラーのうち少なくとも1つの補助ベルト用ローラーを回転させる駆動モーターと、
前記複数の補助ベルト用ローラーのうち1つの補助ベルト用ローラーについて、当該補助ベルト用ローラーの一方の端部における、前記補助ベルトの内側から外側に向かう方向に沿った当該補助ベルト用ローラーの位置を制御することにより、前記補助ベルト用ローラーの幅方向に沿った前記補助ベルトの位置を制御する補助ベルト位置制御装置と、
を有することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のナノ繊維製造装置において、
前記絶縁部材は、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、非晶ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、液晶ポリマー、ポロブロビレン、高密度ポリエチレン又はポリエチレンからなることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記長尺シートを搬送する搬送装置と、前記搬送装置及び前記複数の電界紡糸装置の動作を制御する主制御装置とをさらに備え、
前記主制御装置は、各電源装置から供給される電流量を各電界紡糸装置ごとに監視するとともに、所定の第1設定電流量よりも大きい電流が前記複数の電源装置のうちの1又は複数の電源装置から供給されていることを検知したときには、当該1又は複数の電源装置に対して電流供給を停止させる信号(以下、電流供給停止信号という。)を送信するとともに、前記長尺シートに堆積する単位面積当たりのナノ繊維の累積堆積量を所定の範囲内に収めるために前記搬送装置に対して前記搬送速度を減速させる信号(以下、搬送速度減速信号という。)を送信することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載のナノ繊維製造装置において、
前記主制御装置は、所定の第2設定電流量よりも小さい電流が前記複数の電源装置のうちの1又は複数の電源装置から供給されていることを検知したときには、当該1又は複数の電源装置が異常状態である旨の警告(警告音又は警告表示)を出すことを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載のナノ繊維製造装置において、
前記主制御装置は、前記搬送速度を減速させる前の第1期間に電流供給を行っていた前記電源装置の台数をn台とし、前記搬送速度を減速させた後の第2期間に電流供給を行なう前記電源装置の台数をm台としたとき、前記第2期間における前記搬送速度を前記第1期間における前記搬送速度の「m/n」倍に制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記ノズルは、ポリマー溶液を吐出口から上向きに吐出するように上向きに取り付けられており、かつ、前記ノズルの先端部(以下、ノズル先端部という。)は、円筒を当該円筒の軸と斜めに交わる平面に沿って切断した形状を有し、
前記ノズルブロックは、当該ノズルに前記ポリマー溶液を供給するポリマー溶液供給経路及び前記ノズルの吐出口からオーバーフローした前記ポリマー溶液を回収するポリマー溶液回収経路を有し、
前記ノズルの吐出口からポリマー溶液をオーバーフローさせながら前記ノズルの吐出口から前記ポリマー溶液を吐出してナノ繊維を電界紡糸するとともに、前記ノズルの吐出口からオーバーフローした前記ポリマー溶液を回収して前記ナノ繊維の原料として再利用可能とすることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項8】
請求項7に記載のナノ繊維製造装置において、
前記円筒の軸と、前記平面とのなす角度は、15°〜60°の範囲内にあることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のナノ繊維製造装置において、
前記ポリマー溶液回収経路は、前記ノズルの吐出口からオーバーフローした前記ポリマー溶液を受ける受部と、前記受部を覆うとともに前記ノズルを通す複数のノズル用孔を有する蓋部と、前記複数のノズル用孔から突出する前記ノズルの各側面を覆う複数のジャケットから形成されてなり、
前記ジャケットの基端側をジャケット基端部とし、前記ジャケットの先端側をジャケット先端部とするとき、前記ジャケット先端部は、前記ジャケット基端部よりも細いことを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記ナノ繊維の原料となる前記ポリマー溶液を貯蔵する原料タンクと、
回収された前記ポリマー溶液を再生するための再生タンクであって、再生された前記ポリマー溶液を貯蔵する再生タンクと、
前記原料タンク又は前記再生タンクから供給された前記ポリマー溶液を貯蔵する中間タンクと、
前記ノズルブロックの前記ポリマー溶液回収経路から前記再生タンクへ前記ポリマー溶液を移送する第1移送装置と、
前記第1移送装置の移送動作を制御する第1移送制御装置と、
前記原料タンク及び前記再生タンクから前記中間タンクへ前記ポリマー溶液を移送する第2移送装置と、
前記第2移送装置の移送動作を制御する第2移送制御装置と、
をさらに備えることを特徴としたナノ繊維製造装置。
【請求項11】
請求項10に記載のナノ繊維製造装置において、
前記第2移送制御装置は、前記ポリマー溶液を、前記原料タンク及び前記再生タンクのうちいずれのタンクから前記中間タンクへ移送するかについて制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項12】
請求項11に記載のナノ繊維製造装置において、
前記再生タンクとして、複数の再生タンクを備え、
前記第1移送制御装置は、前記ポリマー溶液を、前記複数の再生タンクのうちいずれの再生タンクへ移送するかについて制御し、
前記第2移送制御装置は、前記ポリマー溶液を前記再生タンクから前記中間タンクへ移送する場合には、前記ポリマー溶液を前記複数の再生タンクのうちいずれの再生タンクから移送するかについても制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記電界紡糸装置によりナノ繊維を堆積させた前記長尺シートの通気度を計測する通気度計測装置と、
前記通気度計測装置により計測された通気度に基づいて前記搬送速度を制御する搬送速度制御装置と、
をさらに備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項14】
請求項13に記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送速度制御装置は、前記通気度計測装置により計測された通気度と所定の目標通気度とのずれ量に基づいて前記搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
前記電界紡糸装置によりナノ繊維を堆積させた前記長尺シートの厚さを計測する厚さ計測装置と、
前記厚さ計測装置により計測された厚さに基づいて前記搬送速度を制御する搬送速度制御装置と、
をさらに備えることを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項16】
請求項15記載のナノ繊維製造装置において、
前記搬送速度制御装置は、前記厚さ計測装置により計測された厚さと所定の目標厚さとのずれ量に基づいて前記搬送速度を制御することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載のナノ繊維製造装置において、
雰囲気調整された空気を前記電界紡糸装置に供給する空気供給装置と、
前記電界紡糸装置で発生する揮発性成分(以下、VOCという。)を燃焼して除去するVOC処理装置とをさらに備え、
前記空気供給装置は、前記VOC処理装置で前記VOCを燃焼した際に生じる燃焼熱によって生成した温風により乾燥させた除湿剤を用いて除湿空気を生成する除湿装置を有することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項18】
請求項17に記載のナノ繊維製造装置において、
前記除湿装置は、
前記除湿剤を収納する除湿剤収納部と、前記除湿空気とするための空気を取り入れる空気取り入れ部と、前記除湿空気を送出する除湿空気送出部と、前記燃焼熱によって生成した温風を取り入れる温風取り入れ部と、温風取り入れ部から取り入れた前記温風を外部に排出する温風排出部とを有し、
前記取り入れた空気を除湿する際に用いた除湿剤を、前記温風取り入れ部から取り入れた温風により乾燥させて再生することを特徴とするナノ繊維製造装置。
【請求項19】
請求項18に記載のナノ繊維製造装置において、
前記空気供給装置は、
前記除湿空気とするための空気が流通する空気流通路と、
前記除湿空気送出部から送出される除湿空気が流通する雰囲気調整空気流通路と、
前記雰囲気調整空気流通路とは離間して設けられ、前記燃焼熱によって生成した温風を前記温風取入れ部に導く温風流通路と、
前記除湿装置を駆動させる除湿装置駆動部と、
を有し、
前記除湿装置駆動部は、
前記除湿装置の前記空気取り入れ部が、前記空気流通路を流通してくる空気の取り入れが可能で、かつ、前記温風取り入れ部が、前記温風流通路を流通してくる温風の取入れが可能となるように前記除湿装置を駆動することを特徴とするナノ繊維製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2012−122154(P2012−122154A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272078(P2010−272078)
【出願日】平成22年12月6日(2010.12.6)
【出願人】(508231821)トップテック・カンパニー・リミテッド (40)
【氏名又は名称原語表記】TOPTEC Co., Ltd.
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】