ナノ複合材料の製造方法およびナノ複合材料
【課題】本発明は、カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法に関し、特に、高次に構造制御されたカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の有利な製造方法を提供するものである。
【解決手段】本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法は、カーボンナノチューブの表面に有機分子の自己組織化構造を形成させる第1工程と、該有機分子の末端に金属イオンを結合させる第2工程と、該金属イオンを還元して金属ナノ粒子を生成させる第3工程と、を有している。
【解決手段】本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法は、カーボンナノチューブの表面に有機分子の自己組織化構造を形成させる第1工程と、該有機分子の末端に金属イオンを結合させる第2工程と、該金属イオンを還元して金属ナノ粒子を生成させる第3工程と、を有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法に関し、特に、高次に構造制御されたカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の有利な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料は、優れた物理的および化学的特性等を有することが期待されるため、先進機能・構造材料のキーマテリアルとして注目されている(例えば、非特許文献1)。また、該複合材料を工業的に利用するためには、精密かつ効率的な製造方法の確立が不可欠であり、盛んに研究開発が進められている。
【0003】
カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法としては、アルキル基および金属表面との反応性を持つ官能基を有する有機化合物によって金属ナノ粒子が被覆されている有機複合金属ナノ粒子を有機溶媒に分散・可溶化し、該有機複合金属ナノ粒子を含んだ有機溶媒にカーボンナノチューブを攪拌混合した後、加熱処理により有機溶媒を乾燥させ、有機複合金属ナノ粒子の有機被膜を分解させることにより、カーボンナノチューブと金属ナノ粒子とを複合化させる方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の他の製造方法としては、カーボンナノチューブに結合能を有するペプチドを融合または化学的に結合させたケージタンパク質の内部空間に、無機金属原子または無機金属化合物のナノ粒子を保持させ、前記ペプチドのカーボンナノチューブとの親和性を利用して、カーボンナノチューブに無機金属原子又は無機金属化合物のナノ粒子を複数担持させる方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2009−190903号公報
【特許文献2】国際公開第2006/068250号
【非特許文献1】Materials Science: Nanotube composites,Nature,447 (2007)1066−1068.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在提案されているカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法においては、カーボンナノチューブと金属ナノ粒子とがランダムに複合化されているに過ぎず、高次に構造制御されたカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の効率的な製造方法は確立されていない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法に関し、特に、単分散した金属ナノ粒子をカーボンナノチューブ表面に選択的に均一坦持させる有利な方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法は、カーボンナノチューブの表面へ有機分子の自己組織化構造を形成させる第1工程と、該有機分子の末端に金属イオンを結合させる第2工程と、該金属イオンを還元して金属ナノ粒子を生成させる第3工程と、を有している。
【0009】
前記有機分子はイオン性界面活性剤であることが好ましく、ドデシル硫酸ナトリウムであることがより好ましい。加えて、前記自己組織化構造は螺旋状の超分子極微細構造であることが好ましい。また、前記カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであることが好ましく、前記金属ナノ粒子はパラジウムナノ粒子であることが好ましい。パラジウムナノ粒子は燃料電池、高性能触媒および水素吸蔵の分野で非常に多くのアプリケーションを有する材料であり、カーボンナノチューブ‐パラジウムナノ粒子複合材料も該分野での利用が期待される。また、前記還元には光還元を用いることができる。
【0010】
本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料は、単層カーボンナノチューブとパラジウムナノ粒子から構成され、該パラジウムナノ粒子が該単層カーボンナノチューブの表面に螺旋状に配列しているものである。また、本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料は、本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法によって製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法によれば、高次に構造制御されたカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料を簡便に製造することができる。特に、単分散した金属ナノ粒子を単層カーボンナノチューブの表面に選択的に均一坦持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法の概念図である。
【図2】第1工程において、単層カーボンナノチューブにSDSを用いた場合の模式図である。
【図3】第2工程において、SDSの末端にPd(II)イオンを結合させる場合の模式図である。
【図4】第3工程において、光還元を用いてPdナノ粒子を生成させる場合の模式図である。
【図5】本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の模式図である。
【図6】単層カーボンナノチューブのSEM写真である。
【図7】SDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのTEM写真である。
【図8】SDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのHR−TEM写真である。
【図9】SDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのHR−TEM写真である。
【図10】第3工程後に得られた試料のTEM写真である。
【図11】第3工程後に得られた試料のHR−TEM写真である。
【図12】第3工程後に得られた試料のSTEM−DFイメージである。
【図13】Pdナノ粒子の配列を観察した結果である。
【図14】Pdナノ粒子のHR−TEM写真である。
【図15】種々の試料に関するATR FT−IRスペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1にカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法の概念図を示す。本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法は、カーボンナノチューブの表面に有機分子の自己組織化構造を形成させる第1工程(S01)と、該有機分子の末端に金属イオンを結合させる第2工程(S02)と、該金属イオンを還元して金属ナノ粒子を生成させる第3工程(S03)と、を有している。
【0014】
第1工程(S01)においては、イオン性界面活性剤等の有機分子をカーボンナノチューブの表面に吸着させ、螺旋状の超分子極微細構造を自己組織化により形成させる。イオン界面活性剤としては、SDS(Sodium dodecyl sulfate:ドデシル硫酸ナトリウム)を用いることが好ましい。
【0015】
第1工程(S01)において、単層カーボンナノチューブにSDSを用いた場合の模式図を図2に示す。通常、単層カーボンナノチューブ20は分子間力によって複数本が凝集し、バンドル状になって存在する。ここで、単層カーボンナノチューブバンドル22を懸濁させた水溶液にSDSを添加すると、単層カーボンナノチューブ20の表面にSDSが吸着し、螺旋状の超分子極微細構造24が形成される。超分子極微細構造24の形成により単層カーボンナノチューブ20の一本一本が分離し、単層カーボンナノチューブ20が水中に完全に分散される。
【0016】
第2工程(S02)においては、カーボンナノチューブの表面に吸着させた有機分子の末端に、金属イオンを結合させる。第1工程で単層カーボンナノチューブにSDSを用いた後、第2工程(S02)において、SDS分子の末端にPd(II)イオン(パラジウム(II)イオン)を結合させる場合の模式図を図3に示す。
【0017】
第1工程(S01)で得られた単層カーボンナノチューブ20の分散液にPd(II)Cl2(塩化パラジウム(II))を添加すると、Pd(II)イオン26はPd(II)イオン26の陽イオンとSDS分子に存在する硫酸塩の陰イオンとの静電的相互作用により、超分子極微細化構造24の表面に選択的に結合される。
【0018】
第3工程(S03)においては、第2工程で結合させた金属イオンを還元し、金属ナノ粒子を生成させる。第1工程で単層カーボンナノチューブにSDSを用い、第2工程(S02)でSDS分子の末端にPd(II)イオンを結合させた後、第3工程において光還元を用いてPd(パラジウム)ナノ粒子を生成させる場合の模式図を図4に示す。
【0019】
第2工程(S02)で得られた、超分子極微細構造24に結合したPd(II)イオン26を光還元すると、Pdナノ粒子28が生成する。ここで、Pdナノ粒子28は、単層カーボンナノチューブ20の表面に吸着した超分子極微細構造24に沿って、螺旋状に生成する。また、Pdナノ粒子28の粒径は10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の模式図を図5に示す。本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料30は、本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法によって製造することができ、単層カーボンナノチューブ20とPdナノ粒子28から構成される。Pdナノ粒子28は単層カーボンナノチューブ20の表面に螺旋状に配列しており、水中においては、単層カーボンナノチューブ20は基本的にバンドルを形成することなく、一本一本が分離している。
【0021】
Pdナノ粒子28の螺旋状配列は単層カーボンナノチューブ20の直径方向に対して種々の傾斜角(図5に点線で記載)を有しており、例えば、該傾斜角は3°、6°、−6°、−24°である。加えて、周期配列したPdナノ粒子28の螺旋間隔(図5に点線で記載)は一定の値を有しており、例えば、該間隔は約4.5nmである。また、Pdナノ粒子28の粒径は10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例を図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
第1工程
50mgの単層カーボンナノチューブと500mgのSDSを50ccの蒸留水に添加し、約8時間の超音波処理を行った。該超音波処理の後、遠心分離を施すことで単層カーボンナノチューブ溶液を得た。
【0023】
図6に用いた単層カーボンナノチューブのSEM写真を示す。未処理の状態では単層カーボンナノチューブ同士が凝集し、バンドルを形成していることが確認できる。図7にSDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのTEM写真を示す。SDSを用いることで、単層カーボンナノチューブが効果的に分散されており、完全に一本の単層カーボンナノチューブになっているもの、および、僅かに数本の単層カーボンナノチューブが絡み合っている状態になっているものが確認できる。
【0024】
図8および図9にSDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのHR−TEM写真を示す。単層カーボンナノチューブ表面にSDSの配列に起因する縞模様が観察され、SDSが単層カーボンナノチューブの表面に螺旋状に吸着していることが分かる。また、螺旋間隔は4.5±0.5nmであった。
【0025】
第2工程および第3工程
第1工程で得た単層カーボンナノチューブ溶液10mgに対し、5mMのPdCl2溶液を添加した(第2工程)。第2工程で得た単層カーボンナノチューブ/PdCl2混合溶液に対し、UV紫外線(λ=254nm)を1時間照射した(第3工程)。
【0026】
図10、図11および図12に第3工程後に得られた試料のTEM写真、HR−TEM写真およびSTEM−DFイメージをそれぞれ示す。良好に分散した単層カーボンナノチューブの表面にPdナノ粒子が螺旋状に生成している様子が明瞭に観察できる。
【0027】
単層カーボンナノチューブの表面に生成したPdナノ粒子の粒径は2.5±0.5nmであり、配列したPdナノ粒子の螺旋間隔は4.5±0.5nmであった。また、該螺旋間隔は第1工程で単層カーボンナノチューブの表面に吸着させたSDSの螺旋間隔と一致している。この結果は、Pdナノ粒子が単層カーボンナノチューブの表面に存在するSDSに対して選択的に生成していることを示している。
【0028】
図13に単層カーボンナノチューブの表面に生成したPdナノ粒子の配列を観察した結果を示す。Pdナノ粒子はいずれも螺旋状に配列しているが、単層カーボンナノチューブの直径方向に対する螺旋の傾斜角は種々の値(3°、6°、−6°、−24°)を有していることが分かる。
【0029】
図14に単層カーボンナノチューブの表面に生成したPdナノ粒子のHR−TEM写真を示す。Pdに起因する原子配列が確認でき、生成したナノ粒子がPdであることが分かる。また、XRD測定によっても、生成したナノ粒子がPdであることを確認している。
【0030】
図15に種々の試料に関するATR FT−IRスペクトルを示す。図15において、aはSDS、bは単層カーボンナノチューブ、cはSDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブ、dはSDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブをアルコール洗浄した試料、eはPdナノ粒子を生成させた単層カーボンナノチューブ、fはPdナノ粒子を生成させた単層カーボンナノチューブをアルコール洗浄した試料のスペクトルである。
【0031】
SDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのIR吸収ピークはSDSのIR吸収ピークと比較して僅かに低波数側にシフトしている(aとcの比較)。該ピークシフトはSDSと単層カーボンナノチューブとの間に形成された疎水性の結合に起因するものと思われる。
【0032】
SDSで表面修飾された単層カーボンナノチューブのIR吸収ピークは、該SDSで表面修飾された単層カーボンナノチューブをアルコール洗浄・ろ過することで消失している(cとdの比較)。また、アルコール洗浄・ろ過後の試料のIR吸収ピークは未処理の単層カーボンナノチューブのIR吸収ピークと良い一致を示している(bとdの比較)。加えて、Pdナノ粒子を形成させた単層カーボンナノチューブであっても、アルコール洗浄・ろ過を施すことで、未処理の単層カーボンナノチューブとほぼ同じIR吸収ピークを示している(bとfの比較)。
【0033】
これらの結果は、単層カーボンナノチューブの表面に吸着させたSDS分子がアルコール洗浄によって容易に除去できることを意味しており、カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造に関して極めて有利である。また、SDSは環境に優しく入手しやすい試薬であり、低コストでカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料を製造することができる。
【符号の説明】
【0034】
20…単層カーボンナノチューブ
22…単層カーボンナノチューブバンドル
24…超分子極微細構造
26…Pd(II)イオン
28…Pdナノ粒子
30…カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料
【技術分野】
【0001】
本発明はカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法に関し、特に、高次に構造制御されたカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の有利な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料は、優れた物理的および化学的特性等を有することが期待されるため、先進機能・構造材料のキーマテリアルとして注目されている(例えば、非特許文献1)。また、該複合材料を工業的に利用するためには、精密かつ効率的な製造方法の確立が不可欠であり、盛んに研究開発が進められている。
【0003】
カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法としては、アルキル基および金属表面との反応性を持つ官能基を有する有機化合物によって金属ナノ粒子が被覆されている有機複合金属ナノ粒子を有機溶媒に分散・可溶化し、該有機複合金属ナノ粒子を含んだ有機溶媒にカーボンナノチューブを攪拌混合した後、加熱処理により有機溶媒を乾燥させ、有機複合金属ナノ粒子の有機被膜を分解させることにより、カーボンナノチューブと金属ナノ粒子とを複合化させる方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の他の製造方法としては、カーボンナノチューブに結合能を有するペプチドを融合または化学的に結合させたケージタンパク質の内部空間に、無機金属原子または無機金属化合物のナノ粒子を保持させ、前記ペプチドのカーボンナノチューブとの親和性を利用して、カーボンナノチューブに無機金属原子又は無機金属化合物のナノ粒子を複数担持させる方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
【特許文献1】特開2009−190903号公報
【特許文献2】国際公開第2006/068250号
【非特許文献1】Materials Science: Nanotube composites,Nature,447 (2007)1066−1068.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在提案されているカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法においては、カーボンナノチューブと金属ナノ粒子とがランダムに複合化されているに過ぎず、高次に構造制御されたカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の効率的な製造方法は確立されていない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法に関し、特に、単分散した金属ナノ粒子をカーボンナノチューブ表面に選択的に均一坦持させる有利な方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法は、カーボンナノチューブの表面へ有機分子の自己組織化構造を形成させる第1工程と、該有機分子の末端に金属イオンを結合させる第2工程と、該金属イオンを還元して金属ナノ粒子を生成させる第3工程と、を有している。
【0009】
前記有機分子はイオン性界面活性剤であることが好ましく、ドデシル硫酸ナトリウムであることがより好ましい。加えて、前記自己組織化構造は螺旋状の超分子極微細構造であることが好ましい。また、前記カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであることが好ましく、前記金属ナノ粒子はパラジウムナノ粒子であることが好ましい。パラジウムナノ粒子は燃料電池、高性能触媒および水素吸蔵の分野で非常に多くのアプリケーションを有する材料であり、カーボンナノチューブ‐パラジウムナノ粒子複合材料も該分野での利用が期待される。また、前記還元には光還元を用いることができる。
【0010】
本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料は、単層カーボンナノチューブとパラジウムナノ粒子から構成され、該パラジウムナノ粒子が該単層カーボンナノチューブの表面に螺旋状に配列しているものである。また、本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料は、本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法によって製造することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法によれば、高次に構造制御されたカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料を簡便に製造することができる。特に、単分散した金属ナノ粒子を単層カーボンナノチューブの表面に選択的に均一坦持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法の概念図である。
【図2】第1工程において、単層カーボンナノチューブにSDSを用いた場合の模式図である。
【図3】第2工程において、SDSの末端にPd(II)イオンを結合させる場合の模式図である。
【図4】第3工程において、光還元を用いてPdナノ粒子を生成させる場合の模式図である。
【図5】本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の模式図である。
【図6】単層カーボンナノチューブのSEM写真である。
【図7】SDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのTEM写真である。
【図8】SDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのHR−TEM写真である。
【図9】SDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのHR−TEM写真である。
【図10】第3工程後に得られた試料のTEM写真である。
【図11】第3工程後に得られた試料のHR−TEM写真である。
【図12】第3工程後に得られた試料のSTEM−DFイメージである。
【図13】Pdナノ粒子の配列を観察した結果である。
【図14】Pdナノ粒子のHR−TEM写真である。
【図15】種々の試料に関するATR FT−IRスペクトルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1にカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法の概念図を示す。本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法は、カーボンナノチューブの表面に有機分子の自己組織化構造を形成させる第1工程(S01)と、該有機分子の末端に金属イオンを結合させる第2工程(S02)と、該金属イオンを還元して金属ナノ粒子を生成させる第3工程(S03)と、を有している。
【0014】
第1工程(S01)においては、イオン性界面活性剤等の有機分子をカーボンナノチューブの表面に吸着させ、螺旋状の超分子極微細構造を自己組織化により形成させる。イオン界面活性剤としては、SDS(Sodium dodecyl sulfate:ドデシル硫酸ナトリウム)を用いることが好ましい。
【0015】
第1工程(S01)において、単層カーボンナノチューブにSDSを用いた場合の模式図を図2に示す。通常、単層カーボンナノチューブ20は分子間力によって複数本が凝集し、バンドル状になって存在する。ここで、単層カーボンナノチューブバンドル22を懸濁させた水溶液にSDSを添加すると、単層カーボンナノチューブ20の表面にSDSが吸着し、螺旋状の超分子極微細構造24が形成される。超分子極微細構造24の形成により単層カーボンナノチューブ20の一本一本が分離し、単層カーボンナノチューブ20が水中に完全に分散される。
【0016】
第2工程(S02)においては、カーボンナノチューブの表面に吸着させた有機分子の末端に、金属イオンを結合させる。第1工程で単層カーボンナノチューブにSDSを用いた後、第2工程(S02)において、SDS分子の末端にPd(II)イオン(パラジウム(II)イオン)を結合させる場合の模式図を図3に示す。
【0017】
第1工程(S01)で得られた単層カーボンナノチューブ20の分散液にPd(II)Cl2(塩化パラジウム(II))を添加すると、Pd(II)イオン26はPd(II)イオン26の陽イオンとSDS分子に存在する硫酸塩の陰イオンとの静電的相互作用により、超分子極微細化構造24の表面に選択的に結合される。
【0018】
第3工程(S03)においては、第2工程で結合させた金属イオンを還元し、金属ナノ粒子を生成させる。第1工程で単層カーボンナノチューブにSDSを用い、第2工程(S02)でSDS分子の末端にPd(II)イオンを結合させた後、第3工程において光還元を用いてPd(パラジウム)ナノ粒子を生成させる場合の模式図を図4に示す。
【0019】
第2工程(S02)で得られた、超分子極微細構造24に結合したPd(II)イオン26を光還元すると、Pdナノ粒子28が生成する。ここで、Pdナノ粒子28は、単層カーボンナノチューブ20の表面に吸着した超分子極微細構造24に沿って、螺旋状に生成する。また、Pdナノ粒子28の粒径は10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。
【0020】
本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の模式図を図5に示す。本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料30は、本発明のカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造方法によって製造することができ、単層カーボンナノチューブ20とPdナノ粒子28から構成される。Pdナノ粒子28は単層カーボンナノチューブ20の表面に螺旋状に配列しており、水中においては、単層カーボンナノチューブ20は基本的にバンドルを形成することなく、一本一本が分離している。
【0021】
Pdナノ粒子28の螺旋状配列は単層カーボンナノチューブ20の直径方向に対して種々の傾斜角(図5に点線で記載)を有しており、例えば、該傾斜角は3°、6°、−6°、−24°である。加えて、周期配列したPdナノ粒子28の螺旋間隔(図5に点線で記載)は一定の値を有しており、例えば、該間隔は約4.5nmである。また、Pdナノ粒子28の粒径は10nm以下であることが好ましく、5nm以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0022】
以下に本発明の実施例を図面を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
第1工程
50mgの単層カーボンナノチューブと500mgのSDSを50ccの蒸留水に添加し、約8時間の超音波処理を行った。該超音波処理の後、遠心分離を施すことで単層カーボンナノチューブ溶液を得た。
【0023】
図6に用いた単層カーボンナノチューブのSEM写真を示す。未処理の状態では単層カーボンナノチューブ同士が凝集し、バンドルを形成していることが確認できる。図7にSDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのTEM写真を示す。SDSを用いることで、単層カーボンナノチューブが効果的に分散されており、完全に一本の単層カーボンナノチューブになっているもの、および、僅かに数本の単層カーボンナノチューブが絡み合っている状態になっているものが確認できる。
【0024】
図8および図9にSDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのHR−TEM写真を示す。単層カーボンナノチューブ表面にSDSの配列に起因する縞模様が観察され、SDSが単層カーボンナノチューブの表面に螺旋状に吸着していることが分かる。また、螺旋間隔は4.5±0.5nmであった。
【0025】
第2工程および第3工程
第1工程で得た単層カーボンナノチューブ溶液10mgに対し、5mMのPdCl2溶液を添加した(第2工程)。第2工程で得た単層カーボンナノチューブ/PdCl2混合溶液に対し、UV紫外線(λ=254nm)を1時間照射した(第3工程)。
【0026】
図10、図11および図12に第3工程後に得られた試料のTEM写真、HR−TEM写真およびSTEM−DFイメージをそれぞれ示す。良好に分散した単層カーボンナノチューブの表面にPdナノ粒子が螺旋状に生成している様子が明瞭に観察できる。
【0027】
単層カーボンナノチューブの表面に生成したPdナノ粒子の粒径は2.5±0.5nmであり、配列したPdナノ粒子の螺旋間隔は4.5±0.5nmであった。また、該螺旋間隔は第1工程で単層カーボンナノチューブの表面に吸着させたSDSの螺旋間隔と一致している。この結果は、Pdナノ粒子が単層カーボンナノチューブの表面に存在するSDSに対して選択的に生成していることを示している。
【0028】
図13に単層カーボンナノチューブの表面に生成したPdナノ粒子の配列を観察した結果を示す。Pdナノ粒子はいずれも螺旋状に配列しているが、単層カーボンナノチューブの直径方向に対する螺旋の傾斜角は種々の値(3°、6°、−6°、−24°)を有していることが分かる。
【0029】
図14に単層カーボンナノチューブの表面に生成したPdナノ粒子のHR−TEM写真を示す。Pdに起因する原子配列が確認でき、生成したナノ粒子がPdであることが分かる。また、XRD測定によっても、生成したナノ粒子がPdであることを確認している。
【0030】
図15に種々の試料に関するATR FT−IRスペクトルを示す。図15において、aはSDS、bは単層カーボンナノチューブ、cはSDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブ、dはSDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブをアルコール洗浄した試料、eはPdナノ粒子を生成させた単層カーボンナノチューブ、fはPdナノ粒子を生成させた単層カーボンナノチューブをアルコール洗浄した試料のスペクトルである。
【0031】
SDSで表面修飾した単層カーボンナノチューブのIR吸収ピークはSDSのIR吸収ピークと比較して僅かに低波数側にシフトしている(aとcの比較)。該ピークシフトはSDSと単層カーボンナノチューブとの間に形成された疎水性の結合に起因するものと思われる。
【0032】
SDSで表面修飾された単層カーボンナノチューブのIR吸収ピークは、該SDSで表面修飾された単層カーボンナノチューブをアルコール洗浄・ろ過することで消失している(cとdの比較)。また、アルコール洗浄・ろ過後の試料のIR吸収ピークは未処理の単層カーボンナノチューブのIR吸収ピークと良い一致を示している(bとdの比較)。加えて、Pdナノ粒子を形成させた単層カーボンナノチューブであっても、アルコール洗浄・ろ過を施すことで、未処理の単層カーボンナノチューブとほぼ同じIR吸収ピークを示している(bとfの比較)。
【0033】
これらの結果は、単層カーボンナノチューブの表面に吸着させたSDS分子がアルコール洗浄によって容易に除去できることを意味しており、カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料の製造に関して極めて有利である。また、SDSは環境に優しく入手しやすい試薬であり、低コストでカーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料を製造することができる。
【符号の説明】
【0034】
20…単層カーボンナノチューブ
22…単層カーボンナノチューブバンドル
24…超分子極微細構造
26…Pd(II)イオン
28…Pdナノ粒子
30…カーボンナノチューブ‐金属ナノ粒子複合材料
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブの表面に有機分子の自己組織化構造を形成させる第1工程と、
前記有機分子の末端に金属イオンを結合させる第2工程と、
前記金属イオンを還元して金属ナノ粒子を生成させる第3工程と、
を有するナノ複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記有機分子がイオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記有機分子がドデシル硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜2いずれか1項に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記自己組織化構造が螺旋状の超分子極微細構造であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子がパラジウムナノ粒子であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記還元に光還元を用いることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項8】
単層カーボンナノチューブとパラジウムナノ粒子から構成され、
前記パラジウムナノ粒子が前記単層カーボンナノチューブの表面に螺旋状に配列していることを特徴とするナノ複合材料。
【請求項9】
請求項1〜7いずれか1項に記載の製造方法によって製造されたナノ複合材料。
【請求項1】
カーボンナノチューブの表面に有機分子の自己組織化構造を形成させる第1工程と、
前記有機分子の末端に金属イオンを結合させる第2工程と、
前記金属イオンを還元して金属ナノ粒子を生成させる第3工程と、
を有するナノ複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記有機分子がイオン性界面活性剤であることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記有機分子がドデシル硫酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜2いずれか1項に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記自己組織化構造が螺旋状の超分子極微細構造であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記カーボンナノチューブが単層カーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項6】
前記金属ナノ粒子がパラジウムナノ粒子であることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項7】
前記還元に光還元を用いることを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載のナノ複合材料の製造方法。
【請求項8】
単層カーボンナノチューブとパラジウムナノ粒子から構成され、
前記パラジウムナノ粒子が前記単層カーボンナノチューブの表面に螺旋状に配列していることを特徴とするナノ複合材料。
【請求項9】
請求項1〜7いずれか1項に記載の製造方法によって製造されたナノ複合材料。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−236095(P2011−236095A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110431(P2010−110431)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(510131258)
【出願人】(510130826)
【出願人】(510130837)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(510131258)
【出願人】(510130826)
【出願人】(510130837)
【Fターム(参考)】
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