説明

ニトロプルシド及び抗菌剤を含有する医療機器

【課題】患者の脈管系へ導入するように構成された構造を含む医療機器を提供する。
【解決手段】構造は、ニトロプルシドナトリウム及び銀がその上に配置された表面を含んでいる。ニトロプルシドナトリウムは、血栓形成を低下させるのに充分な濃度を有する。医療機器を製造するために、ベース材料にニトロプルシドナトリウムを含浸し、ベース材料から医療機器を形成し、医療機器を抗菌剤で被覆する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、有益な生物学的性質を有する医療機器に関する。更に詳細には、本発明は、抗血栓形成特性と抗菌特性を有する医療機器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、現在、様々な医療手順に用いられている。典型的には、これらのカテーテルは、ポリウレタン、シリコーン等のようなポリマーから製造されている。一般的には、臨床現場で広く用いられている中心静脈カテーテルが患者への挿入から数日以内にフィブリンシースを生じることが知られている。カテーテルの機能を低下させることのほかに、カテーテル関連の血栓が起こり得る。
L. J. IgnarroがNitric Oxide: Biology and Pathobiology, Academic Press, San Diego (2000)に発表した研究には、脈管内皮の非血栓形成特性がこの内皮細胞によるNO(一酸化窒素)を血管内腔へ0.5〜1.0×10-10モルcm-2min-1の推定フラックスで連続放出するのに主に起因していることが示されている。NOの生理的放出を模倣することによって、カテーテルの生体適合性が改良され得ることが提案された。
NOは、L-アルギニンが一酸化窒素シンターゼとして知られる種類の酵素によってL-シトルリンに変換されるときにヒト体内において内因的に合成されるフリーラジカルである。NOは、心臓血管系、胃腸系、尿生殖器系、呼吸器系、中枢神経系、及び末梢神経系における一連の重要な生物学的過程を調整する。血小板粘着及び活性化の強力な阻害剤としてのNOの発見、(G. -R Wang et al (1998): 一酸化窒素による血小板阻止のメカニズム: サイクリックGMP依存性プロテインキナーゼによるトロンボキサン受容体の生体内リン酸化. PNAS95: 4888-4893)及び抗菌剤(S. Carlsson et al (2005) カテーテル関連の尿路感染症を防止する膀胱内一酸化窒素送達. Antimicrobial agents and Chemotherapy 49: 2352-2355; F. C. Fang (1997) 一酸化窒素関連の抗菌活性のメカニズム. J. Clin. Invest. Volume 99: 2818-2825; F. C. Fang et al (1997) パースペクティブシリーズ: ホスト/病原体相互作用. 一酸化窒素関連の抗菌活性のメカニズム. J. Clin. Invest. 99: 2818-2825)と抗炎症剤(R. M. Clancy et al (1998) 炎症及び免疫の一酸化窒素の役割. Arthritis & Rheumatism 41: 1111-1151 ; D. Vernet et al (2002) パイロニーの腱斑及びそのネズミモデルにおける筋線維芽細胞への線維芽細胞の分化に関する一酸化窒素の作用. Nitric xide 7: 262-276)としてのその確認がNO研究を生体材料の分野にまで広げてきた。
【0003】
ジアゼニウムジオレートやニトロソチオールのようなNO供与体を組み込むことを含む機器表面でNOを放出する能力を与えるためにさまざまな方法が用いられてきた(T. Peters (2006) 世界知的所有権機関(WIPO) 国際公開第06100156A3号パンフレットおよび欧州特許出願公開第01704879A1号明細書; J. H. Shin and M. H. Schoenfisch (2006)一酸化窒素放出による生体内センサの生体適合性の改善. The Analyst 131: 609-615; M.H. Schoenfisch, K.A. Mowery, M.V. Rader, N. Baliga, J.A. Wahr, M.E. Meyerhoff (2000)一酸化窒素放出による生体内センサの生体適合の改善: NO放出酸素検出用カテーテルの製造及び生体内評価. Anal. Chem. 72: 1119-1126; H.P. Zhang, G.M. Annich, J. Miskulin, K. Osterholzer, S.I. Merz, R.H. Bartlett, M.E. Meyerhoff (2002)血液適合性が改善された一酸化窒素放出シリコーンゴム: 調製、確認、及び生体内評価. Biomaterials 23:1485-1494; M.C. Frost, S.M. Rudich, H.P. Zhang, M.A. Maraschio, M.E.Meyerhoff (2002) 改善された一酸化窒素放出シリコーンゴムコーティングで調製された血管内電流測定酸素センサの生体内生体適合性及び分析性能. Anal. Chem. 74 (2002) 5942-5947)。しかしながら、これらのNO供与体は、合成が比較的複雑である場合があり、ある場合には、厳しい貯蔵条件が必要になる。血管内電気化学的酸素検出用カテーテルの表面上の触媒コーティングとして小さな金属銅粒子でドープされたポリマー膜の使用も記載されている(Y. Wu et al (2007)一酸化窒素をその場生成するS-ニトロソチオールの接触分解による血管内酸素センサの血液適合性の改善. Sensors and Actuators B 121: 36-46.)。このようなコーティングは、銅イオンを生じる銅粒子のゆっくりとした腐食によって血液境界面でNOをその場生成することができる。用いられる他の方法は、ニトロプルシドナトリウム(SNP)、遅いNO供与体のような有機金属ニトロシル化合物が溶解または分散されたポリマーコーティングで機器をコーティングすることであった(Rosen et al (1998)コーティングから一酸化窒素を放出して血小板凝集を仲介するニトロシル含有有機金属化合物を含有するポリマーで被覆されている表面が血流にさらすように適合された医療機器; 米国特許第5,797,887号明細書及びHerzog, Jr. et al (2003)血小板凝集の防止に有効な一酸化窒素放出有機金属ニトロシル化合物を含有するポリマーで被覆された医療機器; 米国特許第6,656,217号明細書.)。血液と接触しているときのニトロプルシドナトリウムは、生理的に適切なレベルでNOを放出する。
【0004】
カテーテル関連の血栓に加えて、米国疾病管理センター(CDC)は、毎年200,000〜400,000のカテーテル関連の血流感染症(CRBSI)の発症があると推定する。CRBSIの発生率を低下させるために用いられる1つの方法は、カテーテルポリマーに組み込まれているかまたは被覆するために用いられている抗菌剤の使用である。防腐剤(D. L. Veenstra et al (1999)カテーテル関連の血流感染症を予防する防腐剤含浸中心静脈カテーテルの有効性-メタアナリシスJAMA 281:261-267)または抗生物質(I. Raad et al (1997)カテーテル関連のコロニー形成及び血流感染症の予防のためのミノサイクリン及びリファンピンで被覆された中心静脈カテーテル. 無作為二重盲検試験. テキサスメディカルセンターカテーテル研究グループ. Ann Intern. Med. 127:267-274)で被覆されたカテーテルは、CRBSIの発生率を著しく下げるのに有効であることがわかった。しかしながら、これらのまたは他の抗菌剤がNOまたはNO供与体と適合するという指標がない。これに対して、NOのフリーラジカルの性質のために、抗菌剤の活性を不活性化するかまたは低下させることが予想され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、適合できる抗血栓形成剤と抗菌剤の組み合わせを有する埋め込み医療機器および/または少なくともある程度本明細書に記載された不利益を克服することができる抗血栓形成剤と抗菌剤の適合する組み合わせを有する埋め込み医療機器を製造する方法を提供することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の要求は本発明によってかなりの程度満たされ、一点においては抗血栓形成剤と抗菌剤の適合する組み合わせを有する埋め込み医療機器及び医療機器の製造方法が提供される。
本発明の実施態様は、医療機器に関する。医療機器は、ニトロプルシドと抗菌剤を有する表面を含む。
本発明の他の実施態様は、医療機器に関する。医療機器には、患者の脈管系に導入されるように構成される構造が含まれている。構造には、ニトロプルシドと銀がその上に配置された表面が含まれている。ニトロプルシドは、血栓形成を低下させるのに充分な濃度を有する。
本発明の更に他の実施態様は、医療用カテーテルの製造方法に関する。本方法では、ベース材料にニトロプルシドを含浸し、医療用カテーテルがベース材料から形成され、医療用カテーテルが抗菌剤で被覆されている。
従って、本明細書におけるその詳細な説明がより良く理解され得るように、また、当該技術へのこの貢献がより良く理解され得るように、むしろ広く記載されている。本発明の追加の実施態様が、後述されかつこれに添付される特許請求範囲の主題を形成することは当然のことである。
この点で、本発明の少なくとも一実施態様を詳細に説明する前に、本発明がその適用において構成の詳細にかつ以下の説明に記載されるかまたは図面に示される構成要素の配置に制限されないことを理解すべきである。本発明は、記載されているものに加えた実施態様が可能でありかつさまざまな方法で行われ実施されることが可能である。また、本明細書に使われる語法および用語、ならびに要約が説明のためであり、限定するものと考えてはならないことを理解すべきである。
このようなものとして、当業者は、本開示が基礎づけられる概念を本発明の幾つかの目的を行う他の構造、方法およびシステムを設計するための根拠として容易に用いることができることを理解するであろう。それ故、特許請求の範囲が本発明の真意および範囲から逸脱しない限りこのような等価な構成を含むものと考えることは重要である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は、抵抗(オーム)で測定された血小板凝集およびアデノシン三リン酸の放出量(nM)で測定された血小板活性化に対するニトロプルシドナトリウムの作用を示すグラフである。
【図2】図2は、ニトロプルシドナトリウムのみのコーティングからの一酸化窒素生成を、銀とニトロプルシドナトリウムの組み合わせのコーティングからの一酸化窒素生成と比較して示すグラフである。
【図3】図3は、時間とともに放出される一酸化窒素の濃度で測定されたクロルヘキシジン二酢酸塩、ニトロプルシドナトリウム、及び銀のコーティングの生体内における耐久性を示すグラフである。
【図4】図4は、時間とともに放出される一酸化窒素の濃度で測定されたゲンチアナバイオレット押出物を用いたニトロプルシドナトリウム、および銀のコーティングの生体内における耐久性を示すグラフである。
【図5】図5は、時間とともに放出される一酸化窒素の濃度で測定されたクロルヘキシジンパルミチン酸塩、ニトロプルシドナトリウム、及びゲンチアナバイオレットのコーティングの生体内における耐久性を示すグラフである。
【図6】図6は、シュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)に対するニトロプルシドナトリウムとクロルヘキシジンパルミチン酸塩、及びゲンチアナバイオレットの相乗効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施態様は、抗血栓形成医療機器及び感染耐性医療機器及びこのような医療機器を製造する方法を提供する。種々の実施形態において、医療機器は、NO(一酸化窒素)供与体として機能するニトロプルシド(以下“NP”)で被覆されているかまたは含浸されている。好ましい形態において、NPには、NPのナトリム塩、ニトロプルシドナトリウム(以下“SNP”)が含まれる。これらの医療機器には、例えば、埋め込みカテーテルが含まれ、好ましくは長期間にわたって一酸化窒素を放出する。SNPがクロルヘキシジンのような抗菌剤、抗菌性色素、銀及びリファンピンと相乗作用で機能して、特に耐性グラム陰性病原体に対する抗菌保護を強化した予想外の利点が発見された。抗菌性色素の具体的な例としては、ゲンチアナバイオレット、メチルバイオレット、ブリリアントグリーン、メチレンブルー等が挙げられる。本明細書に図示され説明されるように、NOを放出することによる抗血栓形成作用に与えることに加えて、SNPは、驚くべきことに、防腐剤及び抗生剤と組み合わせて存在する場合にシュードモナス・アエルギノーザのような耐性グラム陰性菌に対して相加効果または相乗効果を有する。SNPと組み合わせた抗菌剤としてよく知られる銀の存在によって一酸化窒素の放出が非常に改善されることは特に予想外である。抗菌医療機器を製造するのに用いられるSNPと防腐剤、抗生物質、抗菌金属及び色素との予想外の適合性及び生理的環境におけるこのような組み合わせの耐久性は、以前には報告されていなかった。
更に、他の適切な薬剤をバルク材料に組み込むことができることは本発明のこの及び他の実施態様の範囲内である。適切な薬剤の例としては、他の抗生物質、防腐剤、化学療法剤、抗菌性ペプチド、ミメティクス、抗血栓剤、線維素溶解剤、抗凝固剤、抗炎症剤、鎮痛剤、制吐剤、血管拡張剤、抗増殖剤、抗線維症剤、成長因子、サイトカイン、抗体、ペプチド、ペプチドミメティクス、核酸等が挙げられる。
【0009】
本発明の種々の実施態様で用いるのに適した医療機器には、カテーテル、チューブ、縫合、不織布、メッシュ、ドレイン、シャント、ステント、フォーム等が含まれ得る。本発明の実施態様で用いるのに適した他の装置には、血液、血液製剤、および/またはフィブリノーゲン液、組織、および/または産物と接合する機器のような抗血栓形成特性及び幅広いスペクトルの抗菌活性および/または抗真菌活性を有することから利益を得るものが含まれる。種々の実施態様において、SNP、銀、クロルヘキシジン、リファンピン、ゲンチアナバイオレット等は、医療機器の全部または一部の中にまたはそれの上に組み込まれ得る。具体的な例において、SNP、銀、クロルヘキシジン、及びゲンチアナバイオレットは、脈管カテーテルの先端領域にまたはそれの近傍に適用され得る。このように、生物活性成分は、血液および/または血液製剤と接触しやすいカテーテルの部分に又はそれの近傍で配置され得る。
本発明の実施態様に用いるのに適したクロルヘキシジンの形は、クロルヘキシジン塩基、医薬的に許容され得るクロルヘキシジン塩、例えば、二酢酸塩、ラウリン酸塩(ドデカン酸塩)、パルミチン酸塩(ヘキサデカン酸塩)、ミリスチン酸塩(テトラデカン酸塩)、ステアリン酸塩(オクタデカン酸塩)等が挙げられる。更に、具体的な例はクロルヘキシジン塩基、クロルヘキシジン二塩酸塩、及びクロルヘキシジンドデカン酸塩から製造されるが、本発明の実施態様はいずれか1つの形態に限定されない。代わりに、本明細書に用いられる用語‘クロルヘキシジン’は、クロルヘキシジン塩基、医薬的に許容され得るクロルヘキシジン塩、例えば、二酢酸塩、ドデカン酸塩、パルミチン酸塩、ミリスチン酸塩、ステアリン酸塩等のいずれか1つまたは混合物を意味する。例えば、他の適切なクロルヘキシジン塩は、2004年3月16日に発行されたTriclosan-Containing Medical Devicesと題する米国特許第6,706,024号明細書に見られ、この開示内容は本願明細書に全体として含まれるものとする。一般的には、クロルヘキシジンの適切な濃度は、約0.1%質量/質量(wt/wt)〜約30%wt/wtの範囲を含む。より詳しくは、適切なクロルヘキシジン範囲は、約3%wt/wt〜約20%wt/wtを含む。
【0010】
適切なベース材料には、一般的にはエラストマおよび/またはポリマー材料が含まれる。適切な塩基材料の例としては、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、例えば、熱可塑性物質、フルオロポリマー、ビニルポリマー、ポリオレフィン、コポリマーが挙げられる。SNP、銀、クロルヘキシジン、リファンピン、ゲンチアナバイオレットおよび/または他の生物活性剤を含有するベース材料を他のバルク材料の上に重層して、医療機器を製造することができる。例えば、1以上の生物活性成分を有するベース材料をバルク材料と同時に押し出して、医療機器における層または領域を形成することができる。
以下の実験において、ポリマーTecoflex-93A樹脂(Lubrizol、クリーブランド、オハイオ州)の使用が詳しく記載されている。しかしながら、いかなる適切なポリマーも本発明の実施態様の範囲内であることは理解されるべきである。他の適切なポリマーには、Lubrizol Corp., Wickliffe, OH 44092, U.S.A., INVISTA S.a, r.l. Wichita, KS 67220, U.S.A.、INVISTA S.a, r.l. Wichita, KS 67220, U.S.A.、GLS Corp., McHenry, Il 60050, U.S.A.及びColorite Polymers, Ridgefield, NJ 07657, U.S.A.によって製造されるものも含まれる。更に、クロルヘキシジン二酢酸塩(George Uhe、ガーフィールド、ニュージャージー州)、クロルヘキシジンドデカン酸塩(クロルヘキシジンラウリン酸塩またはクロルヘキシジンジラウリン酸塩)、及びクロルヘキシジンパルミチン酸塩が詳しく記載されている。しかしながら、適切なクロルヘキシジンまたはその塩が本発明の実施態様の範囲内であることは理解されるべきである。他の適切なクロルヘキシジン塩としては、クロルヘキシジンミリスチン酸塩(クロルヘキシジンテトラデカン酸塩)、クロルヘキシジンパルミチン酸塩(クロルヘキシジンヘキサデカン酸塩)、クロルヘキシジンステアリン酸塩(クロルヘキシジンオクタデカン酸塩)、及びGeorge Uhe Company Inc.、ガーフィールド、ニュージャージー州 07026 米国によって製造される種々の他のクロルヘキシジンが挙げられる。
【0011】
方法
実施例1: 適切な抗血栓形成剤としてのSNP-血小板凝集及び活性化に対する作用
新鮮なヒト血液を、3.8%クエン酸ナトリウムを含有するコレクションチューブに採血し、3時間以内に用いた。SNP(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)の新鮮な25%貯蔵液を0.85%生理食塩水中でつくった。500μlの血液を500μlの温かい0.85%生理食塩水と混合し、SNP(0.05%、0.1%、及び1%)を添加し、穏やかに撹拌しながら37℃で5分間インキュベートした。Chronolog Chromolumeを添加し、2分間インキュベートし、続いてアデノシン二リン酸(ADP)(10μM)を添加して、反応を開始させた。血小板凝集をオームで、アデノシン三リン酸(ATP)放出(nM)による活性化をChrono-Log凝集測定器、モデル700により測定した。
SNPを全血中0.1-1%の濃度で添加すると、図1に示されるように血小板凝集及び活性化が用量依存的方法で完全に阻止されるので、適切な抗血栓形成剤としてのSNPが示される。
【0012】
実施例2: 病原細菌に対するSNPと他の抗菌剤との相加作用/相乗作用
種菌調製:
シュードモナス・アエルギノーザATCC 27853の2、3のコロニーを5%ヒツジ血液を有するトリプチケースソイ寒天培地(以下“TSA”)に平板培養したワーキング二次培養物から取り出し、10mlのトリプチケースソイブロス(以下“TSB”)に添加した。バイアルをほぼ30秒間撹拌し、シェーカーインキュベーターにおいて4時間インキュベートした。インキュベートした後、バイアルを取り出し、もう1回撹拌した。種菌浮遊液の光学濃度は、670nmの波長を示した。その後、種菌浮遊液を1-5×106 cfu/mlの最終濃度に無菌の陽イオン調整ミューラー・ヒントンブロス(以下“CAMHB”)で希釈した。
抗菌剤調製:
SNPを滅菌脱イオン水に溶解し希釈して、96ウェルマイクロタイタープレートのウェルにおいて1%、0.9%、0.8%、0.7%、0.6%、0.5%、0.4%、0.3%、0.2%、及び0.1%のワーキング濃度を得た。クロルヘキシジン二酢酸塩(以下“CHA”)とゲンチアナバイオレット(以下“GV”)を滅菌水に溶解した。リファンピン(以下“Rif”)をジメチルスルホキシド(以下“DMSO”)に溶解した。銀ナノ粒子を滅菌水に分散させた。
プレート植菌及び培養:
滅菌96ウェルマイクロタイタープレートを以下を試験するために用いた: SNPのみ及びCHA、GV、Rif、及び銀と上述した濃度で組み合わせたSNP。すべての試験を3回の繰り返し実験で行った。
SNPのみ:
+ 90μL 2X CAMHB
+ 90μL PBS
+ 10μL SNP(20X)
+ 10μL微生物、2X CAMHBで希釈したもの
全量200μL
SNP組み合わせ:
+ 90μL 2X CAMHB
+ 80μL PBS
+ 10μL SNP(20X)
+ 10μL Drug 2(20X)
+ 10μL微生物、2X CAMHBで希釈したもの
全量200μL
【0013】
すべての試験ウェルが充填されると、プレートの蓋を取り替え、プレートをZiplockTMバッグに挿入し、蒸発しないように密封した。各プレートを37℃で微生物に応じて18-46時間振盪せずにインキュベートした。
最小/分画阻止濃度の定量
適当なインキュベーション時間が満たされた後、マイクロタイタープレートをインキュベーターから取り外した。次に、蓋を外したプレートは、Bio-Tekプレートリーダーにより670nmの波長を示した。
実験の結果から、他の抗菌剤と組み合わせて存在させた場合にSNPがP.アエルギノーザに対して相加効果あるいは相乗効果を有することがわかる。最も著しい結果は、SNPと銀の予想外の相乗効果である。これらの試験に用いたナノ銀粒子(例えば、銀のナノスケール粒子)は、0.2%の最小阻止濃度(以下“MIC”)を有する。ナノ銀粒子の阻止濃度は、表1に示されるように0.2%SNPの添加に応答して100分の1に、また、0.4%のSNPの添加に応答して500分の1に低下する。同様に、CHA、GV及びRifampinもSNPと組み合わせて用いた場合にP.アエルギノーザに対して単独で用いた場合と比較してより低い阻止濃度を有する(表1)。SNPのみの阻止濃度は、0.6%であった。
【0014】
表1 − シュードモナス・アエルギノーザに対する抗菌剤と組み合わせたSNPの適合性


【0015】
実施例 3: SNPの熱安定性及び増大したNO生成について銀(Ag)によるその相乗効果
プラスチックにおいてSNPを溶融処理することが可能であるかを決定するために、SNPをまず145℃で10分間加熱した。その後、加熱しないSNPまたは加熱したSNPを含有するコーティング溶液をNO放出カテーテルを調製するために用いた。次に、Tecothane押出物を0.1%-1%(w/v)ナノ銀(Sigma-Aldrich、セントルイス、ミズーリ州)を含むかまたはそれを含まない0.1-1%(w/v)SNPを含有するTecoflex/THF溶液中で浸漬被覆した。その後、浸漬被覆した押出物を室温30分間乾燥し、70℃で2時間硬化した。被覆した押出物は、一酸化窒素分析器(GE Analytical Instruments、ボールダー、コロラド州 80301米国によって製造されたSievers(登録商標) 280i)によりNO放出の特徴を有した。塩化第一銅の飽和溶液の存在下、S-ニトロソグルタチオン(以下“GSNO”)、生理的NO供与体から放出されたNOを、定量化のための標準曲線を作成するために用いた。
加熱したSNP(1% w/v)で被覆したTecothane押出物は、生理的に有効な範囲にある4-6nM/cm/分の一酸化窒素を生成することが可能であった。これは、SNPが製造のためにより高い温度プロセス(例えば、溶融処理)の範囲を広げる高温で実行可能であったことを示す。
予想外に、コーティングにおける銀とSNPとの存在によって、図2に示されるように2倍を超えてNO放出が増大した。
【0016】
実施例 4: SNPからのNO生成に対するクロルヘキシジンの影響
Tecothane押出物を、上記実施例3のように3.1%(w/w)CHAを含むかまたはそれを含まないSNP/Agコーティング溶液中で浸漬被覆した。被覆した押出物からのセグメントを、37oCで30日間クエン酸処理したヒト血漿中でインキュベートした。7日ごとのインキュベーション後に血漿を取り替えた。図3は、CHAの存在がSNP/AgコーティングからのNO放出を損なわずかつコーティングが37℃でヒト血漿中に30日間浸漬した後にさえ実行可能であることを示している。
【0017】
実施例 5: SNPからのNO生成に対するGVの作用
0.6%ゲンチアナバイオレットを含有する押出物を、上記実施例3のように銀を含むまたはそれを含まないSNP溶液に浸漬被覆した。被覆した押出物からのセグメントを、37oCで30日間クエン酸処理ヒト血漿中でインキュベートした。血漿を7日ごとのインキュベーション後に取り替えた。図4は、ゲンチアナバイオレットの存在によって銀が存在してもしなくてもSNPからの一酸化窒素放出を妨害しないことを示している。
【0018】
実施例 6: SNP、GV及びクロルヘキシジンパルミチン酸塩の組み合わせの溶融加工性及び生体内における耐久性
低溶融温度、LMT-Tecothane(登録商標)-93A樹脂(Lubrizol、クリーブランド、オハイオ州)を、1% w/wゲンチアナバイオレット(Yantai、中国)とエタノール溶液で被覆した。エタノール溶媒を化学換気フード内で一晩蒸発させ、次に、押出前に65℃及び30インチ(760mm)水銀(Hg)(1.04キログラム重毎平方センチメートル(kgf/cm2))の圧力で4時間乾燥した。
GVで被覆されていないかまたはそれで被覆された低溶融温度Tecoflex-93A樹脂を、クロルヘキシジンジパルミチン酸塩(以下“CHP”)(10% w/w)を含むかまたはこれを含まずにニトロプルシドナトリウム二水和物(1% w/w)とプラスチックバッグ内で混合した。この混合物を、5/8″のRandcastle一軸スクリュー押出機ホッパー(Randcastle Extrusion Systems, Inc.、Cedar Grove、ニュージャージー州 07009-1255米国)に注入した。マイクロ押出機をスクリュー速度について毎分7.8回転数(rpm)に設定し、バレルゾーン温度を122℃(251°F)〜154℃(310°F)に設定した。サイズ6フレンチ(fr)チューブをBH25ツーリング(B&H Tool Company、サンマルコス、カリフォルニア州 92078米国)から延伸した。
1%SNP及び10%CHPかまたは1%GVまたはこれらの双方による押出物を、37℃で1週間にわたってクエン酸処理ヒト血漿中でインキュベートした。プラズマに7日間浸漬した後にすべての3つの配合物を、図5に示されるように抗血栓形成性であることに必要なレベルでNOを生成することが可能であった。
【0019】
実施例 7: SNP/GV/CHP押出物への細菌付着
以下を含有する押し出されたチューブセグメントへの細菌付着を相互に比較した: 1) 5%SNP; 2) 1%GV + 10%CHP; 及び3) 1%GV + 10%CHP + 5%SNP。実施例6に記載したように押出しを行った。後のものを10%CHPを目標として調製した。
長さ1センチメートルのセグメントを、5%SNP、1%GV + 10%CHP、及び1%GV + 10%CHP + 5%SNPの押し出されたチューブの各々から切断し、紫外線(UV)にさらすことによって滅菌した。セグメントを、滅菌ヒト血漿中で0日、14日、及び27日間インキュベートした。血漿試料を、7日ごとのインキュベーション後に新鮮な血漿と取替えた。内側と外側の表面上にクロルヘキシジンコーティングを有するARROWGardブループラス(AGB+)カテーテルを、負の対照の1つとして含めた。
48ウェルマイクロタイタープレート(微生物当たり1つ)において、所定数の実験ウェルと対照ウェルに対応してウェルを900μlのTSBで充填した。ウェルを調製した後、滅菌鉗子を使って、1つの実験セグメントまたは対照セグメントを別々のウェルに落とした。その後、各微生物の浮遊液を調製した。
双方とも課題の微生物、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)ATCC 33591とシュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aerugionsa)ATCC 27853を以下のように調製した: 5%ヒツジ血液を有するTSAに平板培養した二次ワーキング培養物から2、3のコロニーを取り出し、10mlのTSBに添加した。バイアルをほぼ30秒間撹拌し、シェーカーインキュベーターで4時間インキュベートした。インキュベートした後、バイアルを取り出し、もう1回撹拌した。各種菌浮遊液の細菌吸光度が670nmの光学濃度を示した。次に、種菌浮遊液を1ミリリットル当たり1〜5×104コロニー形成単位の最終濃度(cfu/ml)に希釈した。
【0020】
100μl量の調整された浮遊液を用いて、試料ウェル(AGB+対照を含む)と発育対照ウエルに植菌して、1ウェル当たり3ログの微生物を生じた。すべての負の対照ウエルに100μl量のTSBを入れた。次に、マイクロタイタープレートのエッジ部の周りにParafilm(登録商標)で密封して、蒸発を最少限にし、37℃及び100rpmに設定したシェーカーインキュベーター内で24時間インキュベートした。
インキュベートした後、滅菌鉗子を用いて、各セグメントを取り出しかつリン酸緩衝生理食塩水(以下“PBS”)ですすいだ。浸漬したセグメントを前後に約5回振盪することによって3分割ペトリ皿の別々の部分において各セグメントを個々にすすいだ。すすいだ後、セグメントを他の48ウェルプレートに入れ、元の課題プレートとして配置されたが、1ウェル当たり1mlの滅菌デイ/エングレー(D/E)ニュートラライジングブロスを含有した。全48ウエルプレートを、超音波処理浴(250HT、VWR)に入れ、約50℃で20分間超音波処理した。超音波処理が完了すると、各ウェルから200μlを取り出し、PBSで連続希釈した。次に、10μlの各希釈液を12ウェルプレートにおけるD/Eニュートラライジング寒天培地の表面上で平板培養した。プレートを逆さにし、37℃で24時間インキュベートした。得られた細菌コロニーを計数し、付着のログ減少を試料と発育対照の間で算出した。
1%GV + 10%CHPの組み合わせはグラム陽性細菌、スタフィロコッカス・アウレウスに対して4週間まで保護することができるが、この組み合わせはグラム陰性細菌、シュードモナス・アエルギノーザに対してわずか3週間未満のみ有効であった。1%GVと10%CHPの組み合わせを有する5%SNPを添加すると、図6に示されるようにシュードモナス・アエルギノーザに対する保護を4週間に延長した(1ログ減少は、処理された対照に相対して付着した微生物の数の90%減少に対応する; 2ログ減少は99%; 3ログは99.9%等に留意のこと)。
本発明の種々の実施態様の重要な利点は、SNP、GV、Ag、および/またはクロルヘキシジン含有ポリマー構造を単一工程で製造する能力である。すなわち、従来の医療機器の製造中に行われる押出又は成形された構造に抗生剤を導入するその後の処理を省略することができる。そうすることで、時間と資金を節約することができる。
本発明の多くの特徴および効果が詳細な明細書から明らかであるので、添付の特許請求の範囲は本発明の真の精神と範囲内に入る本発明のこのようなすべての特徴および効果を包含することを意味する。更に、多数の修正および変更が当業者に容易に行われるので、図示され説明されている正確な構成及び操作に本発明を限定することは望ましくなく、従って、すべての適切な修正及び等価物は本発明に関し、本発明の範囲内に入るものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロプルシド及び抗菌剤を含む表面を備えた医療機器。
【請求項2】
ニトロプルシドナトリウム塩を更に含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項3】
抗菌剤が、クロルヘキシジン塩基および/またはその医薬的に許容され得る塩を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項4】
抗菌剤が、クロルヘキシジン二酢酸塩を含む、請求項3に記載の医療機器。
【請求項5】
抗菌剤が、クロルヘキシジンドデカン酸塩を含む、請求項3に記載の医療機器。
【請求項6】
抗菌剤が、クロルヘキシジンパルミチン酸塩を含む、請求項3に記載の医療機器。
【請求項7】
抗菌剤が、抗菌性色素を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項8】
抗菌性色素が、ゲンチアナバイオレット、メチルバイオレット、ブリリアントグリーン、及びメチレンブルーの1つ以上を含む、請求項7に記載の医療機器。
【請求項9】
抗菌剤が、銀を含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項10】
抗生剤を更に含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項11】
抗生剤が、リファンピンを含む、請求項10に記載の医療機器。
【請求項12】
ベース材料を含む管状構造を更に含む、請求項1に記載の医療機器。
【請求項13】
ベース材料が、ポリマーである、請求項1に記載の医療機器。
【請求項14】
ベース材料が、ポリウレタンである、請求項13に記載の医療機器。
【請求項15】
患者の脈管系へ導入するように構成される構造を含む医療機器であって、前記構造が、ニトロプルシドと銀がその上に配置された表面を含み、前記ニトロプルシドが血栓形成を低下させるのに充分な濃度を有することを特徴とする医療機器。
【請求項16】
ニトロプルシドナトリウム塩を更に含む、請求項15に記載の医療機器。
【請求項17】
クロルヘキシジン塩基および/またはその医薬的に許容され得る塩を更に含む、請求項15に記載の医療機器。
【請求項18】
クロルヘキシジン二酢酸塩を更に含む、請求項17に記載の医療機器。
【請求項19】
クロルヘキシジンドデカン酸塩を更に含む、請求項17に記載の医療機器。
【請求項20】
クロルヘキシジンパルミチン酸塩を更に含む、請求項17に記載の医療機器。
【請求項21】
抗菌性色素を更に含む、請求項15に記載の医療機器。
【請求項22】
抗菌性色素が、ゲンチアナバイオレット、メチルバイオレット、ブリリアントグリーン、及びメチレンブルーの1つ以上を含む、請求項21に記載の医療機器。
【請求項23】
抗生剤を更に含む、請求項15に記載の医療機器。
【請求項24】
抗生剤が、リファンピンを含む、請求項23に記載の医療機器。
【請求項25】
ベース材料が、ポリマーである、請求項15に記載の医療機器。
【請求項26】
ベース材料が、ポリウレタンである、請求項25に記載の医療機器。
【請求項27】
医療用カテーテルを製造する方法であって、
ベース材料にニトロプルシドを含浸する工程;
前記ベース材料から医療用カテーテルを形成する工程;および
前記医療用カテーテルを抗菌剤で被覆する工程
を含む、前記方法。
【請求項28】
ベース材料にニトロプルシドナトリウムを含浸する工程を更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
医療用カテーテルを銀で被覆する工程を更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
医療用カテーテルを銀のナノ・スケール粒子で被覆する工程を更に含む、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
医療用カテーテルをクロルヘキシジン塩基および/またはその医薬的に許容され得る塩で被覆する工程を更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
医療用カテーテルをクロルヘキシジン二酢酸塩で被覆する工程を更に含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
医療用カテーテルをクロルヘキシジンドデカン酸塩で被覆する工程を更に含む、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
医療用カテーテルをクロルヘキシジンパルミチン酸塩で被覆する工程を更に含む、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
ベース材料に抗菌性色素を含浸する工程を更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項36】
抗菌性色素が、ゲンチアナバイオレット、メチルバイオレット、ブリリアントグリーン、及びメチレンブルーの1つ以上を含む、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
医療用カテーテルを抗生剤で被覆する工程を更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項38】
抗生剤が、リファンピンを含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
ベース材料から管状構造を形成する工程を更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項40】
ベース材料が、ポリマーである、請求項27に記載の方法。
【請求項41】
ベース材料が、ポリウレタンである、請求項40に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−520126(P2012−520126A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−554096(P2011−554096)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/026339
【国際公開番号】WO2010/104760
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(500552489)テレフレックス・メディカル・インコーポレイテッド (11)
【Fターム(参考)】