説明

ニューカッスル病ウイルス感染性クローン、ワクチンおよび診断アッセイ

【課題】 本発明はクローン化した完全長cDNAから感染性ニューカッスル病ウイルスを完全に生成させる方法、および前記方法により生成した、また前記方法から誘導したワクチンおよび診断アッセイに関する。
【解決手段】 該方法は遺伝子修飾によりNDVゲノムを修飾する可能性を提供し、突然変異、欠失、および/または挿入の導入を可能とする。該方法はNDVの毒性を修飾するために使用し得るものであり、それによって高い特性の新しい弱毒化生ワクチンを生成させることができる。該方法はNDVの抗原性構造を修飾するために使用し得るものであり、したがって、NDV野生株と血清学的に識別し得る生菌NDVマーカーワクチンの生成を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は家禽のニューカッスル病のウイルスの感染に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューカッスル病ウイルス(NDV)は、死に到る、最も多様な鳥類伝染病原菌の一つである。ニューカッスル病は明らかに新しい病気として、いくつかの地理的に異なる場所でほとんど同時期に発生し、しかもその病気のタイプと重篤度が非常に多様であることから、学名を付けるに当たりいくつかの問題を引き起こした。
【0003】
この病気は、偽性鶏ペスト、偽性家禽ペスト、鳥類ペスト、鳥類ジステンパー、鳥類気脳炎と命名されている。この病気が重大となったのは、主として、20世紀において家禽産業が、各国間における集約的な取引に依存する非常に効率のよい国際的産業に発展したためである。
【0004】
ニューカッスル病は、1926年にジャワ(インドネシア)およびタイン川上流のニューカッスル(イギリス)で最初に発生したと一般的に推測されている(Kraneveld、1926(非特許文献1);Doyle、1927(非特許文献2))。ニューカッスル病という名前は、他の病気と間違われる可能性がある記述的な名前を避け、仮の名前としてドイルによって作り出された。後に、重篤度において劣る他の病気が、NDVと見分けがつかないウイルスが原因であることが明らかとなった。アメリカにおいては、比較的軽度の呼吸器系の病気が鳥類気脳炎と名付けられ、NDVが原因であることが示された(Beach、1944(非特許文献3))。2,3年以内に、鶏において非常に軽度の病気の原因となる、または、病気の原因とならない、多くのNDVの単離が世界中で行われた。
【0005】
以下の方法は、この病気の拡大に関係するものであった:1)生活している鳥、野生の鳥、猟用鳥類、レース用鳩、商用家禽の移動、2)人間や備品の移動、3)家禽製品の移動、4)風媒による拡大、5)家禽の餌の汚染、6)水の汚染、7)不活性化が不完全な、または、異種起源のワクチン。OIEによれば、ニューカッスル病は、生後1日のひよこにおける大脳内病原性指数(ICPI)が0.7またはそれ以上をもつ鳥類パラミクソウイルス血清型1(APMV−1)のウイルスが原因の家禽の病気である。悪性のウイルスは、残基117におけるF2タンパク質およびF(フェニルアラニン)のC末端、F1タンパク質のN末端における多数の基本的アミノ酸の存在によって確認することも出来る。このアミノ酸配列を実証できなければICPIテストによる特徴づけを必要とするであろう。「家禽」と言う語は、繁殖用、消費用の肉、卵の生産用、狩猟のための供給補充用として、飼育されている鶏、七面鳥、ホロホロ鳥、アヒル、がちょう、うずら、鳩、キジ、やまうずら、走鳥類などを言う。
【0006】
アレクサンダー(Alexander)(1988)によれば、ニューカッスル病を初めて認識してから、この病気の三つの動物疫病汎流行があった。第一は、この病気の初期の発生にあたるもので、東南アジアで起こったと思われる。1926年にイギリスで発生したような孤立した突然の発生は、この病気が主としてアジアを経てヨーロッパへゆっくり移動する前に起こった思いがけないものであった。
【0007】
第二の流行は、1960年代の後半に中東ではじまったようであり、1973年までにはほとんどの国々に広がっていた。第二の流行がより急速に広がったのは、おそらく、相当な国際的な取引となった家禽産業の大変革によるものであった。
【0008】
第三の流行は、主として、鳩などの飼われている鳥に影響した(Vindevogel and Duchatel、1988(非特許文献4))。この病気は見たところ1970年代後半に中東で起こったようである。1981年までに、ヨーロッパに広がり、その後、主として、競技やショーでの鳥間の接触の結果として、および、かかる鳥の国際的取引の結果として急速に世界の各地に広がった。
【0009】
今日もなお、ニューカッスル病は、アジア、アフリカ、アメリカおよびヨーロッパの多くの国々において広範囲に広がっている。オセアニアの国々だけは比較的この病気が起こらないようである(Spradbrow、1988(非特許文献5))。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Kraneveld,F.C.(1926)A poultry disease in the Dutch East Indies.Ned.Indisch Bl.Diergeneesk.38:448-450
【非特許文献2】Doyle,T.M.(1927)A hitherto unrecorded disease of fowls due to a filter-passing virus.J.Comp.Pathol.Ther.40:144-169
【非特許文献3】Beach,JR.(1944)The neutralization in vitro of avian pneumoencephalitis virus by Newcastle disease immune serum. Science 100:361-362.
【非特許文献4】Vindevogel and Duchatel、1988
【非特許文献5】Spradbrow,P.B(1988)Geographical distribution.In D.J.Alexander(ed),Newcastle Disease,pp.247-255.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
NDVは、Mononegavirales目、パラミクソウイルス科、パラミクソウイルス亜科、Rubulavirus属に属している。通常、鳥類パラミクソウイルスタイプ−1と呼ばれているNDVは別として、鳥類パラミクソウイルスタイプ−2から−9と称される他の8つの血清型は、赤血球凝集抑制テストや血清中和テストにおいて、それらの抗原の関係性に基づいて区別することが可能である(Alexander、1993)。
【0012】
血清学的グループ分けの一致にもかかわらず、異なる血清型のウイルス間でいくつかの交差した関係がある。
【0013】
NDV遺伝子は、陰性極性で、ウイルスタンパク質をコードするメッセンジャーRNAに相補的な一本鎖RNA分子である。RNA遺伝子はおよそ大きさでは15,200ヌクレオチドであり、以下の遺伝子産生物(遺伝子RNAの3‘末端から5’末端に記録されている)をコードしている:ヌクレキャプシドタンパク質(NP)、りんタンパク質(P)、マトリクスタンパク質(M)、融合タンパク質(F)、赤血球凝集ノイラミニダーゼ(HN)、そして大きなポリメラーゼタンパク質(L)(Chamber et al、1986年)。
【0014】
このRNAは、NP、PおよびLタンパク質との複合体で、リボ核酸キャプシド粒子(RNP)を形成し、該RNPは、内部にMタンパク質が並んでいるエンベロープによって囲まれている。このエンベロープは、宿主の吸着と侵入に関係するFとHNタンパク質を含んでいる。
【0015】
NDVの複製は、他のパラミクソウイルス属によって使用される方法と類似している。最初の段階は、HNタンパク質によって媒介される宿主受容体へのウイルスの吸着である。宿主細胞膜とウイルスエンベロープとの融合は、HNとFタンパク質の両方の働きに依存しており、ウイルスの複製される細胞質にRNPが放たれる結果となる。
【0016】
ウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RNPの一部である)は、mRNAとして働き、ウイルスタンパク質合成のための細胞の翻訳部分に使用される相補的な転写物を産生する。NPタンパク質の蓄積により、RNAポリメラーゼ複合体は、転写から複製にスウィッチングされ、結果として、完全長のゲノムおよび相補ゲノムRNA分子の合成がなされる。
【0017】
新たに形成されたRNPは、細胞原形質膜に蓄積されているF、HNタンパク質、およびMタンパク質の働きによって細胞膜において包膜される。新たに形成されたウイルス粒子は、出芽メカニズムによって、感染した細胞から放出される。NDVの複製についてのより詳細な情報については、Pieeples(1988年)を参照。パラミクソウイルス属の分子生物学についての最近の論文については、LambとKolalofsky(1996年)を参照。
【0018】
商用家禽(すなわち、鶏、七面鳥、きじ、ほろほろ鳥、アヒル、ガチョウ、はと)を別にすれば、とらわれていたり、半家禽状態であったり、渡り鳥である水鳥を含む野生の鳥の多くは、NDVに感染しやすく、主要な感染源となっているかもしれない(Kaleta and Baldauf、1988)。
【0019】
NDV株の病原性は、宿主によってかなり異なっている。最も抵抗のある種は、水生の鳥のようであり、一方、最も感染しやすい鳥は、一時的に、または永久的に群れを作る群居する鳥である。鶏は最も感染しやすいが、しかしながらアヒルやガチョウは、感染するかもしれないが、鶏にとっては死に到るウイルス株であったとしても、臨床的な兆候をほとんど、または、まったく示さない。
【0020】
ニューカッスル病は、ウイルスの異なる単離体と菌株が、この病気の大きな重篤度の差をもたらしているという点において複雑な病気である。ビヤード(Beard)とハンソン(Hanson)(1984年)は、NDV株と単離体を、十分に感染しやすい鶏に見られるうる病気の兆候に関係する異なる病理型にグループ分けした:1)内臓に多量出血性の損傷が目立つ急性の致死感染を引き起こす、内臓向性の速現性NDV、および、呼吸器や神経系の兆候が先行し、内臓損傷は起こらない、高い致死率の神経向性の速現性NDV、2)いくらかの鳥類に低致死率で急性の呼吸系の病気や神経系の兆候を示す亜病原性のNDV、3)軽度の、または不顕性の呼吸系感染を示す長い潜伏期間をもつNDV、または腸器官系において主に複製するように思われる無毒性のウイルスである無病候性の腸NDV。さまざまなグループと関連している、それらの兆候の間にあるいくつかの重複が報告されている。
【0021】
ウイルスは、呼吸器系や腸器官、または目を通って体内に侵入してくる。気管においてウイルスは繊毛運動によって広がり、そして、細胞から細胞へ広がっていく。最初に入ってきた場所における初期の増殖の後、ウイルス血症のエピソードの間、ウイルスは脾臓、肝臓、腎臓、そして肺へと運ばれる。ウイルスのいくつかの株は、病気の兆候が明らかになる前に鳥たちが死んでしまうかもしれないほど非常に急速に、肝臓や腎臓のような必須器官に達する。
【0022】
ほとんどのウイルスは、有意な量の抗体が存在するようになる前に、血液を通って、中枢神経系に到達する。オウム類において起こっていると推測される長期間の保菌状態は、家禽産業にとっては恐ろしい存在となる可能性がある。長い潜伏期間を有するウイルスと速現性のウイルスの両方を長い間保菌する状態は、鶏にも存在しうる(Heuschele and Easterday、1970)。
【0023】
NDVの複製の間、前駆体の糖タンパクFOがF1とF2に切断され、子孫ウイルスが感染性となることが必要である(Rott and Klank、1988年)。この翻訳後の切断は宿主プロテアーゼによって媒介される。切断が行われなければ、非感染性のウイルス粒子が産生され、ウイルスの複製は進行し得ない。伝染力の強いウイルスのF0タンパク質は、広範囲のプロテアーゼによって切断可能であるが、しかしながら、感染力の低いウイルスのF0タンパク質は、その感受性に限界があり、これらのウイルスは、in vivoにおけるいくつかの型の宿主細胞内でのみ増殖することができ、通常、in vitroでは増殖できない。
【0024】
長い潜伏期間を持つウイルスは、呼吸器系や腸器官のようにトリプシンに似た酵素のある領域において複製されるのみであるのに対し、感染力の強いウイルスは、組織や器官の範囲で複製可能であり、致命的な全身感染という結果となる。
【0025】
F0前駆体のアミノ酸配列は、低い感染力のウイルスは、F2鎖とF1鎖をつなげている単一のアルギニン(R)を持っていることを示し、それに対し、感染力の強い株は、切断の部位で、K/R−X−K/R−R−Fなどの2つのペアを形成する付加的必須アミノ酸を有していることを示している。さらに、感染力の強い株のF2鎖は、通常、フェニルアラニン残基で始まっているが、感染力のない株のF2鎖は、通常、ロイシンで始まっている。
【0026】
NDVのいくつかの株の場合は、HNタンパク質も、生物学的に活性となるには切断を必要とする前駆体として産生される(ガルテン その他 1980年、ミラー その他 1988年)。
【0027】
FおよびHNタンパク質の切断可能性に加えて、ウイルスの他の要因も病理型に寄与している可能性がある。マダンスキー(Madansky)およびブラット(Bratt)(1978、1981a、1981b)は、転写と翻訳の変化は、ウイルスの増殖と細胞間の拡大、および/または細胞変性を調節可能であることを示した。
【0028】
NDVの感染に対する最初の免疫応答は、細胞媒介であり、生ワクチン株で感染後、2、3日で検出可能である。これはおそらく、測定可能な抗体応答が見られる前に、ワクチン接種された鳥に、対抗に対する防御が早くから記録されていたことを示している(Gough and Alexander、1973)。
【0029】
感染後約一週間で、循環する抗体は、再感染から宿主を保護するであろう。初期の段階で、IgMが関与し、IgGが続く。力価と防御は約三週間後にピークに達し、ブースティングがなければ次第に低下していく。これは、年をとった鳥に対しては、再びワクチンを接種させることが必要であることを意味している。
【0030】
呼吸器系のルートで投与された生ワクチンのみが、血清と同様にすべての粘膜の表面で抗体を刺激する。不活性ワクチンは、筋肉内ルートで投与されたときでさえ、血清抗体が高濃度であるにもかかわらず、呼吸器官において局部の抵抗を誘発しない。
【0031】
このことは、局所免疫性と体系的免疫性の両方を誘発させるには、上部呼吸器官にウイルス抗原を与えることが可能な生ワクチンが重要であることを強調している。小さな小滴が下部呼吸器官の内部にしみとおり、それによって、主に体液性免疫応答を刺激し、一方、粒の粗い小滴が、上部呼吸器官において局部免疫を刺激する。
【0032】
したがって、広範囲の小滴サイズによるエーロゾルが、全体として最良の局所的および体液性免疫を生じる。
【0033】
しかし、高レベルの抗体価を生じる現行ワクチンにより徹底的に予防接種しているにもかかわらず、ウイルスは今なお粘膜表面から回収されることに留意すべきである。
【0034】
米国ではニューカッスル病の同定が不活化ワクチンを使用させることになった(Hofstad、1953)。地方病ウイルスのある種のものが極めて軽度の病気を発病させるという観察が、亜病原性生ワクチン・ロアキン(Roakin)の開発に先ず帰着した(Beaudette et al.、1949)が、続いてより緩和なヒッチナー(Hitchner)B1株(Hitchner and Johnson、1948)およびラソタ(LaSota)株(Goldhaft、1980)の開発に至り、それらが現在最も広く使用される生ワクチンである。
【0035】
NDV生ワクチンは2つのグループ、長潜伏期性および亜病原性に分けることができる。亜病原性株はその強い毒性のために鳥類の二次予防接種についてのみ適している。免疫応答性は生ワクチンの病原性が増大するにつれて増大する。したがって、重篤な反応なしに所望レベルの防御を得るために、徐々に毒性の強くなるワクチンを連続的に使用するか、または生ワクチンに続いて不活化ワクチンを使用することからなる予防接種プログラムが現在使用されている。
【0036】
生ワクチンの主たる利点の一つは、該ワクチンが安価な集団投与技法により投与し得ることである。共通した投与方法は飲料水によることである。しかし、飲料水による投与は、過剰の熱や光によって、また、飲料水中の殺ウイルス性不純物により、ウイルスが不活化されている可能性があるので、注意深くモニターしなければならない。
【0037】
多数のトリを短時間に予防接種するのが容易なために、スプレーおよびエーロゾルによる生ワクチンの集団投与もまた非常にポピュラーである。粒子が生じる条件を制御することによって適正な粒子サイズを得ることが重要である。
【0038】
現在使用されている生ワクチンは幾つかの欠点を有する。ワクチンは今なお環境条件と複雑な感染の存在に左右されて病気の徴候を引起すことがある。それ故に、一次予防接種では非常に穏やかなウイルスを使用することが重要であり、結果として、複数回の予防接種が通常必要とされる。さらに、母性誘導抗体が長潜伏期性生ワクチンによる一次予防接種の成功を妨げる可能性がある。
【0039】
不活化ワクチンは通常感染性尿膜腔液から製造されるが、該尿膜腔液はホルマリンまたはベータプロピオラクトンで処理してウイルスを殺し、適当なアジュバントと混合する。不活化ワクチンは筋肉内または皮下注射により投与する。不活化ワクチンは製造にも投与にも費用がかかる。
【0040】
しかし、不活化油性乳剤ワクチンは生ワクチン程に母仔免疫の悪影響を受けず、日齢のヒナに使用することができる。不活化ワクチンの利点は予防接種したトリの有害反応のレベルが低いこと、防御抗体のレベルが高いこと、そして防御期間の長いことである。上記ワクチンのいずれもが野生型NDVを血清学的に識別し得ない。
【0041】
組換えウイルス・ワクチンの開発は家禽産業における多年にわたる興味の対象であった。この概念は対象疾病作因の決定的な免疫化エピトープ遺伝子をベクターウイルスの非必須遺伝子に挿入することである。このように、組換えウイルスによる予防接種はベクターウイルスならびに対象疾病作因双方に対し免疫化するに至る。
【0042】
数種のウイルスが家禽用の有力な生菌ウイルスワクチンとして評価されている。最も注目された鳥類ウイルスは鶏痘ウイルス(FPV)と七面鳥のヘルペスウイルス(HVT)である。鶏痘ウイルスは大型のゲノムをもつDNAウイルスであり、したがって、外来遺伝子を担持する余地をもつと考えられる。
【0043】
弱毒化すると、FPVは臨床的疾病を引き起こさず、一般にニワトリのワクチンとして使用される。HVTもDNAウイルスであり、マレック病ウイルス(MDV)族の血清型として分類される。HVTはニワトリに対しては非病原性であり、しかもMDVに対して交差防御的であり、一般にマレック病に対しニワトリを予防接種するために使用する。
【0044】
ニューカッスル病に対する防御は組換えHVTまたはFPVワクチンを使用することにより誘発し得ることが示されている(Morgan et al., 1992, 1993; Heckert et al. 1996; Boursnell et al., 1990; Taylor et al., 1990)。
【0045】
しかし、NDV Fタンパク質またはFおよびHNタンパク質双方を発現するような組換えワクチンによる予防接種に続くニューカッスル病に対する防御の始まりは、常套の生菌または不活化NDVワクチンでの予防接種に続く防御の始まりよりも大幅に遅延するが、その理由は恐らく組換えワクチンが、組換えワクチンにより発現されるNDVタンパク質上に見出されるエピトープ以外に、広範囲の十分に免疫的なスペクトルを有し抗原的に関連するNDVエピトープを提供しないか、または免疫系に適切に提示されないからである。
【0046】
さらに、局所的(粘膜、呼吸器または腸内の)防御は組換え体を接種したトリにおいて有効に誘発されなかった。これは決定的な欠点であるが、その理由は呼吸器病に対する一次予防接種に使用したワクチンが、野外条件で飼育したニワトリに感染する毒性ウイルスの感染と伝播を防御する局所免疫を誘発しなければならないからである。
【0047】
宿主を防御し得るNDVに対する抗体は、ウイルス中和試験により測定することができる。しかし、中和応答は赤血球凝集抑制(HI)応答と平行していると思われるので、後者の試験は多くの場合、防御応答、特に予防接種後の応答を評価するために用いる。
【0048】
FおよびHNタンパク質双方に対する抗体はNDVを中和し得る。しかし、Fタンパク質に対する抗体は生体内および生体外試験においてHNに対する抗体よりもより顕著な中和反応を誘発すると思われる(Meulemans et al., 1986)。
【0049】
トリの血清中にNDVに対する特異抗体が存在したとしても、NDVの感染株に関する情報は僅かであり、したがって、診断的価値は限られる。
【0050】
殆どの国で鳥類の長潜伏期性NDV株が偏在すること、また、少なくとも血清学的に野生型NDVと区別し得ない生ワクチンが殆ど普遍的に使用されていることは、単に感染したことを証明することが適用すべき抑制手段についての正当な理由にはなっていないことを意味する。野外での疾病がウイルスの真の毒力についての信頼し得ない尺度である可能性があるので、発見されるウイルスについてさらに特性化することが必要である。
【0051】
現在、感染株の特性化を可能とするニューカッスル病診断の唯一の方法は、ウイルスの単離と、引続いての病原性試験である。現在3つの生体内試験法がこの目的に使用される;1)卵での平均死亡時間(MDT);2)1日齢ヒナの脳内病原性指標(ICPI);3)6週齢のトリにおける静脈内病原性指標(IVPI)。
【0052】
これらの試験法は多くの欠点、例えば、動物の入手可能性、乏しい再現性、および比較的長期の試験などに悩まされている。最後ではあるが大事なことは、これらの試験法がワクチンを接種したまたは野生型株を感染させた家禽類の簡単な血清学的同定を許さないことである。
【0053】
生体内試験法に替わり得るものとして、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)が毒性分離株と非毒性分離株との間を区別するために成功裏に使用され
ている(Stauber et al., 1995; Kant et al., 1997)が、しかし、さらに血清学的な区別は不可能である。
【0054】
家禽類の飼育とその製品の交易は今や国際ベースで、多くの場合多国籍企業の管理下に組織化されている。ニューカッスル病の脅威はかかる交易上の顕著な抑制となっていることを示している。
【0055】
ニューカッスル病の成功裏の抑制は、すべての国が発生を報告するようになったときにのみ取り組むことになろう。しかし、国際間の取決めは異なる国での疾病監視の程度に大きな違いがあるために単純ではない。ある国では予防接種をせず、如何なる形状であってもNDVを家禽類に取込ませようとしないが、その理由は予防接種した家禽が野生型のNVDに感染した家禽と区別し得ないからである。
【0056】
別の国では特定の生ワクチンの使用のみを許可しており、他のワクチンは受け入れ難い毒性をもつと考えている。さらに他の国では循環型の毒性の高いウイルスが存在し続けており、明白な病気が予防接種により隠蔽されるという理由で、そのままでは認められない。
【0057】
多くの国では、起こり得るニューカッスル病発生を抑制するための法律が存在する。国家的抑制手段は持ち込みと拡散を防止することに向けられる。殆どの国が家禽製品、卵、および生きた家禽の商取引に制限を設けている。殆どの国が取分けオウム病鳥類の輸入に際しての検疫手続を確立している。
【0058】
一部の国では感染した鳥類の強制的屠殺、その接触物、および産物について根絶政策を適用している。他の国は発生がなくても鳥類の予防的接種を要求し、一方、一部の国は緩衝帯を確立するために発生地周辺で包囲種痘の政策を採っている。
【0059】
明らかなことは、ニューカッスル病の制御に使用し得るよりよいワクチンとよりよい診断方法が必要なことである。生ワクチンの集団投与に際し、個々のトリが受ける用量に大きな差異のあることと、また、若いヒナでの母仔免疫レベルに変動のあることのために、生ワクチンによる接種後反応が避けられない。このことが予防接種を強制される国における農夫の主要関心事の一つである。
【0060】
さらに、多くのワクチンが分集団の混合物である。クローン化する場合、これらの分集団はその免疫原性および病原性において互いに有意に異なる可能性がある(Hanson, 1988)。
【0061】
しかし、現在使用されている生ワクチンおよび不活化ワクチンの最も大きな欠点は、予防接種を受けた動物が現在用いられているスクリーニング技法、例えば、赤血球凝集抑制またはウイルス中和試験により感染した動物と区別し得ないという事実である。
【0062】
毒性のある野生ウイルスが今なお予防接種した群れに広がる可能性があるが、その理由は病気の症状が予防接種により隠蔽されるからである。生体内技法によりウイルスの単離と毒性の特性化が大規模で実行不能である以上、血清学的に野生ウイルスと識別し得る新しい効果的な弱毒化生ワクチンが是非とも必要である。
【0063】
NDVマーカーワクチンと呼ぶ(また、診断法とキットを伴う)かかるワクチンは、抗原性と関連するNDVエピトープの最大限可能な免疫スペクトルを提供すべきものであり、かつ、野生型NDVと血清学的にまったく異なるべきであるが、今なお入手し得ない。
【課題を解決するための手段】
【0064】
本発明は遺伝子修飾により鳥類のパラミクソウイルスゲノムを修飾する方法を提供し、遺伝子修飾した鳥類のパラミクソウイルスおよび鳥類パラミクソウイルス・マーカーワクチンを提供する。
【0065】
現代分子生物学技術の出現が、マイナス鎖ウイルスを含む多くのRNAウイルスの遺伝子修飾を可能としている。この技法はしばしば“逆遺伝”と言われる。先ず、ウイルスRNAの(完全長)cDNAコピーを提供し、それに続いてこのDNAを感受性細胞内で転写して、感染性RNAを産生させ、それが再び感染性ウイルス粒子を産生するようにする。
【0066】
一般に、標準的な分子生物学技術によりこれまでcDNAについてなされた修飾により、遺伝子的に修飾したRNAウイルスを得ることが可能である。しかし、このことはNDVまたは鳥類パラミクソウイルスについて具体化されたことはなく、鳥類パラミクソウイルスの複製事象研究のために、鳥類パラミクソウイルス・ゲノム・フラグメントのミニゲノム・フラグメントまたはプラスミドを生成させ、それによって感染性のコピーウイルスをどのように構築すべきかについての理解を得ることが、未だに可能ではない。
【0067】
驚くべきことに、本明細書においては、当該鳥類パラミクソウイルスのゲノムが今までに配列決定されたすべてのパラミクソウイルス・ゲノムの中で最も小型であるということをこの度完全に確立したが、取分けNDVゲノムの5’末端配列が、以前に確立されたもの、また、他のパラミクソウイルス科と比較して期待されたものよりもかなり長い。本発明はこの度初めて完全な鳥類パラミクソウイルス・ゲノムの配列を提供し、かつ、かかるウイルスの完全長またはミニゲノム長のcDNAを提供する。
【0068】
本発明は、鳥類パラミクソウイルスの感染性コピー生成を可能とする鳥類パラミクソウイルス・ゲノムの5'-末端に相当する核酸配列を少なくとも含んでなる鳥類パラミクソウイルスcDNAをこのように提供するが、当該cDNAは、好ましくは完全長のcDNAを含んでなる。しかし、本発明はまた、鳥類パラミクソウイルス・ゲノムの5'-末端に相当する核酸配列を少なくとも含んでなるcDNAを提供するが、それによって複製鳥類パラミクソウイルス・ミニゲノムの生成を可能とする。かかるミニゲノムは、有利にはRNAの転写および/または修飾核酸配列からのタンパク質発現に使用し得る。本発明はニューカッスル病ウイルスから少なくとも部分的に誘導される本発明のcDNAを提供するが、例えば、その場合の当該ニューカッスル病ウイルスは長潜伏期性ウイルスであり、好ましくは、ラソタ(LaSota)株ATCC VR−699などのワクチン株から誘導される。
【0069】
本発明はさらに核酸における削除、挿入、突然変異、復帰突然変異などの修飾を含む、本発明に従ったcDNAを提供する。例えば、当該修飾が修飾プロテアーゼ切断部位をエンコードする核酸を含むcDNAが、例えば、当該切断部位が融合(F)タンパク質のプロテアーゼ切断部位であるcDNAが提供される。
【0070】
さらに他の実施の形態において、本発明は、当該修飾がハイブリッド・ウイルスタンパク質、例えば、本発明の実験の部に記載したようなハイブリッド赤血球凝集素−ノイラミニダーゼ(HN)タンパク質などをエンコードする核酸を含む、本発明によるcDNAを提供する。本発明はまた、当該修飾がマトリックス(M)タンパク質などのウイルスタンパク質をエンコードする核酸において欠失を含む、本発明によるcDNAを提供する。
【0071】
本発明はさらに異種抗原をエンコードする核酸をさらに供給する本発明のcDNAを提供するが、好ましくはその場合の当該抗原は家禽の病原、例えば下記のごとき病原から由来する。本発明によるcDNAから得られるRNAまたはそれから由来するタンパク質もまた提供される。
【0072】
近年、多くの非分節マイナス鎖RNAウイルスが完全に特性化され、当該ウイルスのクローン化cDNAを細胞にトランスフェクションすることにより完全に感染性のウイルスを生成させることが可能となり、それらのゲノムの複製と発現に関する基礎研究が最高潮に達した(Conzelmannによる概説、1996)。
【0073】
今日まで、非分節マイナス鎖RNAウイルスの感染性ウイルスは、例えば、狂犬病ウイルス(Schnell et al., 1994, Conzelmann; EPO702085A1)、(Schnell et al., 1994; EPO702085A1)、水疱性口内炎ウイルス(Lawson et al., 1995; Whelan et al., 1995)、センダイウイルス(Garcin et al., 1995)、麻疹ウイルス(Radecke et al., 1995; Schneider et al., 1997; EPO780475A1)、ヒト呼吸器シンシチウム・ウイルス(Collins et al., 1995)、牛疫ウイルス(Baron and Barrett, 1997)、およびヒト・パラインフルエンザ・ウイルス3型(Hoffman and Banerjee, 1997, Conzelmann; EPO702085A1)、(Schnell et al.,1994; EPO702085A1)のクローン化cDNAから生成させていた。
【0074】
しかし、上記の感染性コピーウイルスのすべては、種々起源の宿主、組織または細胞において生体内ならびに生体外双方において増殖可能であり、適切な細胞系において容易なcDNAトランスフェクションと感染性ウイルス粒子の複製および生成を可能とする。
【0075】
かかる可能性はNDVについては存在せず、ワクチンを供給し得る長潜伏期性NDV株については確実に存在しない。かかるNDV株の毒性は広範な細胞内で複製するその能力と関連しており、毒性株は生体外および生体内で容易に複製可能であるが、一方、ワクチン株は生体内のみで複製し得るという事実に反映されている。
【0076】
このように、NDVについて歯止め22の位置づけは明らかである。例えば、感染性cDNAから感染性コピーウイルスを生成させる試みは、恐らく感染性ウイルスを結果として生じる可能性のある一方、かかるウイルスは一般にワクチンとしての使用に適さないが、その理由はこのように生成させた感染性ウイルスが余りに毒性が強いためにワクチンとしての使用を果たし得ないからである;それが細胞系に対してcDNAをトランスフェクションした後に生成、複製され得るという事実が、NDVの毒力の性質について上記で検討したように、Foタンパク質をF1とF2に容易に切断し得ることを反映している。
【0077】
cDNAに対する親材料としてワクチン株を使用してもこの問題を解決することにはならない;ワクチン株、特に長潜伏期型のワクチン株は容易に切断し得るFoタンパク質を含み、初代ウイルスが複製し続けるのを不可能にしている。トランスフェクションに使用する細胞にはまったく感受性がなく、非切断Foタンパク質をもつワクチン型ウイルスの一回またはそれ以上の複製を持続させる。
【0078】
本発明はこの問題の解決法を手際よく提供し、それと共に感染性コピーNDV、例えば、ワクチンに使用するためのNDVを提供する。
【0079】
本発明は感染性コピー・ニューカッスル病ウイルスの生成法を提供するものであり、該方法はウイルスRNAとの複合体を形成するウイルスNP、PおよびLタンパク質を発現し得る細胞に、当該ウイルスのクローン化完全長またはゲノム長cDNAをトランスフェクションすることを含み、また、さらに当該ウイルスのFoタンパク質切断を可能とするタンパク質分解活性を有する増殖培地中で当該細胞をインキュベートすることを含む。
【0080】
我々の系では、NPを発現するプラスミドの同時トランスフェクションを省くことができる。NPはNP遺伝子が抗ゲノムRNAの5’末端に続く最初の遺伝子である故に、恐らく完全長cDNAから発現される。真核細胞mRNAは通常単シストロン性であるので、遠位遺伝子の発現は期待されない。しかし、NDV遺伝子の相対位置が変化している完全長cDNAを生成させることは可能である。もしかかるcDNAの最初の遺伝子がPまたはL遺伝子であるならば、同時トランスフェクションしたプラスミドから対応する遺伝子産物を発現させる必要はない。
【0081】
完全長cDNAを用いる代りとして、複製応答能のあるサブゲノムRNAを産生させ、かつ、鳥類パラミクソウイルスタンパク質の完全な補体を共に発現する2つ以上のサブゲノムRNAを使用することが可能である。たとえRNAが別々に詰込まれていたとしても、得られるウイルス様粒子は同時感染と遺伝子機能の補完性により連続的複製のために使用することができる。
【0082】
好適な実施の形態において、本発明は当該タンパク質分解活性がトリプシン様酵素などの酵素に由来するか、または当該タンパク質分解活性を有する組成物に由来する場合の方法を提供する。特に好適な実施の形態において、当該増殖培地はタンパク質分解活性を有する尿膜液を含んでなる。Foタンパク質の切断は感染性ウイルスの生成にとって必要である。外部からタンパク質分解活性を加えずに長潜伏期性株から感染性ウイルスを生成させることが可能である。孵化鶏卵の尿膜腔にトランスフェクションした細胞の上清を接種することにより、尿膜液に存在するタンパク質分解活性がFoタンパク質を切断し、融合適格F1−F2複合体を生成させることができる。かかる活性化Fタンパク質をもつビリオンは感受性細胞に感染することが可能であって、所望のタンパク質分解活性を発現する細胞での複製が感染性の子孫を生み出す。トランスフェクションした細胞の上清に所望のタンパク質分解活性を与える代りとして、例えば、NDVに対し許容性であって、かつ、当該タンパク質分解活性をすでに発現している細胞を使用することが可能である。かかる細胞系を用い、外部からタンパク質分解活性を加えることなしに感染性の長潜伏期性NDVを生成させる。かかる細胞系は当該活性を特定する遺伝子をもつ細胞系の安定なトランスフェクションにより生成させることもできる。さらに、ウイルス・エンベロープ内に野生型Fタンパク質を発現する安定なトランスフェクション細胞を生成させ、それによって細胞に侵入する手段をもつ感染性粒子(それ自体は野生型Fタンパク質をエンコードするゲノム情報を備えていない)を提供することが可能である。感染性長潜伏期性ウイルスの救済もNDVヘルパーウイルスをトランスフェクション細胞に感染させることにより可能である。かかるヘルパーウイルスを本質的に必要とするのは、それを抗体に対して選択し得る場合であり、例えば、ヘルパーウイルスを除去し、長潜伏期性ウイルスとは反応しない抗体を中和することによる。最終的に、3種の必須NDVタンパク質NP、PおよびLの1つ、2つ、またはすべてを発現する安定にトランスフェクションした細胞系を構築することができる。かかる細胞系は3種の必須NDVタンパク質のサブセットのみを同時発現するか、または感染性コピーウイルスの生成を維持するためにまったく同時発現しないことが必要である。
【0083】
好適な実施の形態において、本発明はトランスフェクションに使用される当該細胞がニワトリの一次または二次細胞または細胞系由来である方法を提供する。本明細書で提供するのは、例えば、CERまたはCEF細胞であって、これらは、一般に殆ど生体外細胞として、NDVのFoタンパク質、例えば、ラソタ(LaSota)株のタンパク質を切断するのに必要な、適切なプロテアーゼを欠いている。しかし、例えば、他の鳥類から由来する細胞も使用することができる。
【0084】
本発明はさらに感染性コピー・ニューカッスル病ウイルスの生成法を提供するものであり、該方法は、例えば、図3に同定した当該ウイルスのクローン化完全長またはゲノム長のcDNAを細胞にトランスフェクションすることを含み、またさらに、当該ウイルスのFoタンパク質を切断し得るタンパク質分解活性を有する増殖培地中で当該細胞をインキュベートすることを含み、さらに、当該細胞を培養し、当該培養細胞から由来する物質を孵化鶏卵の尿膜腔に接種することにより感染ウイルスを回収することを含む。当該物質は、例えば、当該細胞培養物由来の(収獲または凍結融解した)細胞または細胞残渣または上清を含む。
【0085】
例えば、本明細書で記載するのは感染性ウイルスの回収方法であるが、該方法ではトランスフェクションしたCEF単層の上清を孵化鶏卵の尿膜腔に接種した。4日後に、尿膜液を収獲し、赤血球凝集反応アッセイにより分析し、次いでさらに鶏卵に継代した。
【0086】
さらに、本発明は、尿膜液を収獲し、孵化鶏卵に再接種することにより当該感染性コピー・ニューカッスル病ウイルスを継代することをさらに含む方法を提供する。
【0087】
本発明の好適な実施の形態においては、当該ウイルスが、例えば、NDVの無毒性野外事例由来またはNDVのラソタ(LaSota)株などのNDVワクチン株由来の長潜伏期性ウイルスであることを特徴とする方法が提供される。さらに、1つまたはそれ以上の突然変異、欠失、および/または挿入の導入またはその他の修飾を可能とする遺伝子修飾により、鳥類パラミクソウイルス・ゲノムを修飾する方法が提供される。例えば、Vタンパク質などのウイルスタンパク質をエンコードするcDNAを修飾することにより、また、当該修飾したcDNAを完全長cDNAにクローニングし、当該完全長cDNAから感染性コピーウイルスを生成させることにより、例えば、鳥類パラミクソウイルスの毒性を弱毒化または修飾する方法が提供され、それによって改善された性質を有する新規NDV株または新規弱毒化生ワクチンを生成させる。
【0088】
遺伝子産物の修飾による弱毒化の他に、転写および/複写に関わるヌクレオチド配列の修飾によっても鳥類パラミクソウイルスを弱毒化することが可能である。かかる修飾は、多様な細胞において生体外および生体内双方で切断し得る、また結果として古典的なワクチン株よりもより免疫原性である野生型様Fタンパク質を発現する弱毒化株を結果として与える。
【0089】
好適な実施の形態において、本発明はニューカッスル病ウイルスなどの鳥類パラミクソウイルスの毒性を弱毒化または修飾する方法であって、ウイルスタンパク質のプロテアーゼ切断部位を、当該切断部位をエンコードするcDNAを修飾することにより修飾することを含み、さらに、当該cDNAを、例えば、ニューカッスル病ウイルスのゲノム長cDNAにクローニングし、感染性コピー・ニューカッスル病ウイルスを生成させることを含む方法を提供する。当該切断部位は、例えば、ニューカッスル病ウイルスのFまたはHNタンパク質におけるプロテアーゼ切断部位である。弱毒化は一般に毒性の低下に限定されるが、比較的無毒性のNDV株を用い、例えば、特定の細胞型において複製が増加する傾向を与えることにより毒性の高くなったかかる株の子孫を提供することも今や可能である。このように、まったく異なる毒物特性をNDVに与えることも今や可能である。
【0090】
本発明はニューカッスル病ウイルスなどの鳥類パラミクソウイルスを抗原性について修飾する方法であって、少なくとも1つの免疫優性エピトープを取込んでいるウイルスタンパク質の少なくとも一部をエンコードするcDNAを修飾することを含み、さらに、当該cDNAをニューカッスル病ウイルスのゲノム長cDNAにクローニングし、感染性コピー・ニューカッスル病ウイルスを生成させることを含む方法を提供する。
【0091】
例えば、本発明は、例えば、提供されたNDV(ワクチン)の感染性コピーを産生する方法を用いてNDVを(さらに)修飾する方法を提供し、組換えマーカーNDVワクチンを産生する方法が提供され、マーカーワクチンは抗原性に適切なNDVエピトープの、最も可能性の高いまたは必要度の高い免疫スペクトルを含み、さらに、明瞭な血清学的に適切なエピトープまたはマーカーが組換え技術により取除かれているために、血清学的に野生型NDVとは別個のものである。本発明はNDVなどの鳥類パラミクソウイルスの抗原性構造を修飾する方法を提供し、かくして、例えば、鳥類パラミクソウイルスの野生株と血清学的に区別し得る生菌NDVマーカーワクチンの生成を可能とする。
【0092】
一実施の形態において、本発明は感染性コピーNDVを提供し、その場合のNDVのHNタンパク質は、当該HNタンパク質の一部をエンコードするcDNAを鳥類パラミクソウイルス、例えば、タイプ2またはタイプ4から由来するHNタンパク質の一部をエンコードするcDNAと組換えることにより修飾されている。当該ハイブリッドHNタンパク質はこのようにして得た感染性コピーNDV株に対し血清学的なマーカーとして働くか、または鳥類パラミクソウイルスの指向性を他の細胞および/または組織に変えるように働く。本発明により提供されるこれらのいわゆるマーカー株は、世界中を巡る商業用の鳥の群れにおいて、NDVの流行を評価するための非常に貴重な道具であるワクチンの生成を可能とする。さらに、かかるマーカーワクチンの大規模適用は、感染した鳥の群れの徹底的なスクリーニングと鎮圧の過程により、NDVの完全な撲滅に導くであろう。
【0093】
さらに、他の病原から1つまたはそれ以上の抗原を発現し、かつ、複数の疾病に対する予防接種に使用し得る感染性コピーNDV株を生成する方法が提供される。例えば、かかる感染性コピーNDVウイルスは、例えば、トリ・インフルエンザ(AI)(赤血球凝集素(H5およびH7)およびノイラミニダーゼ)、鳥類白血病ウイルス(ALV)(エンベロープタンパク質(gp85))、ニワトリ貧血症ウイルス(CAV)(VP1+VP2)、メレック病ウイルス(MDV)(糖タンパク質B(gB)、gH)、感染性喉頭気管支炎ウイルス(ILT)(gB、gH、gD)、感染性嚢病ウイルス(IBDV)(VP2およびVP3)、七面鳥鼻気管炎ウイルス(TRT)(融合(F)タンパク質)、鳥類パラミクソウイルス−2、−3、−6(PMV)(F−タンパク質、赤血球凝集素ノイラミニダーゼ(HN)、またはその他)、感染性気管支炎ウイルス(IBV)(ぺプロマータンパク質、核タンパク質)、レオウイルス(シグマタンパク質)、アデノウイルス、肺炎ウイルス、サルモネラ腸炎、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、大腸菌、ボルデテラ・アビアム(Bordetella avium; 以前はアルカリゲネス・フェカリス(Alcaligenes faeclis)、ヘモフィルス・パラガリナルム(Haemophilus paragallinarum)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、オルニトバクテリウム・リノトラキエレ(Ornithobacterium rhinotracheale)、リエメレラ(以前はパスツレラ(Pasteurella))アナチペスチファー(Riemerella anatipestifer)、マイコプラズマ(Mycoplasmata)(マイコプラズマ・ガリセプチクム(M. gallisepticum)、マイコプラズマ・シノビエ(M. synoviae)、マイコプラズマ・メレアグリディス(M. mereagridis)、マイコプラズマ・アイオワエ(M. iowae))、またはアスペルギルス(Aspergilli)(アスペルギルス・フラーブス(A. flavus)、アスペルギルス・フミガーツス(A. fumigatus))などから得られる異種タンパク質をエンコードする異種cDNAを含んでなる。
【0094】
本発明は他の家禽病原からの抗原を発現させるワクチン・ベクターとして使用し得る鳥類パラミクソウイルスまたはそれから由来する株を提供する。幾つかの性質がNDVを呼吸器または腸内疾患に対する予防接種用の理想的なワクチン・ベクターとする。1)NDVは孵化鶏卵において非常に高い力価まで容易に培養することができる。2)孵化鶏卵におけるNDVの大量培養が比較的安価である。3)NDVワクチンは比較的安定で、集団投与法、例えば、飲料水により、またはスプレーもしくはエーロゾル製剤により簡単に投与することができる。4)NDVの自然感染経路は呼吸器管および/または腸管によるが、多くの他の家禽病原の主たる自然感染経路であもある。5)NDVは、循環している移行抗体が存在しているにもかかわらず、局所免疫を誘発することができる。
【0095】
NDVは強力な抗腫瘍性ならびに免疫刺激性を有することが示されている(総説として参照:Schirrmacher et al., 1998)(Schirrmacher, V., Ahlert, T., Steiner, H.-H., Herold-Mende, C., Gerhards, R. and Hagmuller, E. (1998) ウイルス修飾腫瘍細胞による免疫化;腫瘍学セミナー25:677〜696)。NDVはヒト正常細胞において活発に複製され得るようには見えないが、ヒト癌細胞の選択的NDV−介在致死が認められた。局所NDV治療後、ヒト腫瘍異種移植片のウイルス腫瘍崩壊および完全寛解がヌードマウスで認められた。このことは腫瘍治療に対するNDVの使用に通じる。しかし、問題はかかる適用が局所治療に限定されることである。
【0096】
NDVの感染はインターフェロン、ケモカイン、および他の潜在的に重要な遺伝子産物を誘発し、多形質発現性免疫刺激性を腫瘍細胞に誘導する。この概念は、NDVを感染させた新鮮な有効試料からなる自家腫瘍細胞ワクチンの産生に使用されている。このタイプのワクチンは自家腫瘍ワクチン−NDVまたはATV−NDVと呼ばれる(Schirrmacher et al., 1998)。NDV感染細胞はガンマ線照射により不活化するが、この照射は細胞分裂を阻止するが、感染細胞の細胞質においてなおNDVの複製を可能とする。ATV−NDVを患者に接種した後、T細胞がNDV−誘発ケモカインを介して能力を回復する。これらT細胞の一部はT細胞レセプターを発現し、それが細胞表面で主要組織適合性複合体クラスI分子と複合体を形成して腫瘍関連抗原からのペプチドと相互作用し得る。この相互作用は結果として細胞毒性T細胞応答を誘発し、自家腫瘍細胞を特異的に致死させる。
【0097】
本発明はNDV感染により誘発されるケモカインと免疫刺激性タンパク質の、レパートリーと量とが調節されることを提供する。本発明は異種遺伝子を取込み、発現するように修飾した組換えNDVを生成する方法を提供する。かかる組換えNDVは感染細胞において免疫刺激性タンパク質のレパートリーと量を改変するために使用し得る。一実施の形態において、本発明は、ヒト・インターフェロン、ケモカインまたは他の免疫刺激性タンパク質をエンコードする遺伝子を取込み、発現する組換えNDVを提供する。当該組換えNDVは通常のATV−NDVよりもより強力なATV−NDV産生のために使用される。例えば、サイトカイン、IFN−α、−β、TNF−α、IL−1、IL−6;ケモカイン、ランテス(RANTES)、IP−10;他の遺伝子、例えば、HSP、ACTH、エンドルフィン、iNOS、EPA/TIMP、NFkB。NDVの多形質発現性免疫刺激性は、感染疾患に対する動物およびヒトの予防接種用のアジュバントとしても使用し得る。本発明の一実施の形態において、感染作用因子の適切な抗原をエンコードする外来遺伝子はNDVゲノムに導入され、感染細胞による抗原と免疫刺激タンパク質の同時発現が感染作用因子に対する強い免疫応答を誘発する。本発明の他の実施の形態において、NDVの免疫刺激性は、抗原と特異的免疫刺激タンパク質を同時に発現するNDV組換え体を使用することでさらに増強される。好適な実施の形態において、本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の関連抗原を単独または免疫刺激タンパク質との併用において発現するNDV組換え体の使用により、AIDS(後天性免疫不全症候群)ワクチンを生成させるために使用される。
【0098】
NDVはまた感染性疾患に対して動物およびヒトに予防接種を行うためのアジュバントとしても使用される。本発明の一実施の形態において、感染性作用因子の適切な抗原をエンコードする異種または外来性遺伝子はNDVゲノムに導入され、感染細胞による抗原と免疫刺激タンパク質の同時発現が感染作用因子に対する強い免疫応答を誘発する。本発明の他の実施の形態において、NDVの免疫刺激性は、抗原と特異的免疫刺激タンパク質を同時に発現するNDV組換え体を使用することでさらに増強される。好適な実施の形態において、本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の関連抗原を単独または免疫刺激タンパク質との併用において発現するNDV組換え体の使用により、AIDS(後天性免疫不全症候群)ワクチンを生成させるために使用される。
【0099】
また、自己制限非伝染性(キャリアー)ワクチンとして使用し得る条件致死NDV欠失突然変異体を生成させる方法が提供される。NDV欠失変異体は生成されても、内部細胞膜でNDVの出芽に関与するマトリックス(M)タンパク質を発現できない。本発明は、例えば、Mタンパク質は発現し得ないが、細胞に感染し、細胞から細胞への伝播により拡散し得る、表現型に相補性であるNDV株を提供する。しかし、突然変異ウイルスは非相補性細胞上感染性の子孫を生成することができない。このことは、表現型に相補性であるNDV欠失突然変異体が、環境に拡散することのできない安全な自己制限ワクチンとして使用し得ることを示している。かかる非伝染性ワクチンは、最も重要な生ワクチンの利点、すなわち、有効性と、最も重要な死菌ワクチンの利点、すなわち、安全性が組み合わさっている。
【0100】
本発明は、ニューカッスル病ウイルス、または、例えば、孵化鶏卵または適当な細胞にて継代し、またはさらに培養することによって誘導したその株、すなわち、本発明により提供される方法により得られる感染性コピーウイルスから誘導した株を提供する。
【0101】
例えば、NDVは、弱毒化、毒性修飾、抗原性修飾した感染性コピーニューカッスル病ウイルスを生成する少なくとも1つの方法で修飾したものであって、異種抗原を発現するかまたは非伝染性またはその組合わせであるNDVが提供される。
【0102】
このようにして、本発明は、例えば、明瞭な毒性の特質または明瞭な抗原特性を担持することで特徴づけられるNDVワクチンであって、マーカーワクチンを目的とするか、および/または他の病原から由来する異種抗原を発現するためのものであるか、伝染性および/または非伝染性型のものであるNDVワクチンを提供する。
【0103】
かかるワクチンは死菌ワクチンであっても、生ワクチンであってもよい。好ましくは、かかるワクチンは生菌ワクチンであるが、本発明により提供される死菌ワクチンは生菌ワクチンが、例えば、商業上の制限により、または疾患管理当局が定めた他の条件のために、適用できないか、適用し難い状況下で有利である。
【0104】
本発明はこのようにして、当該血清学的に関連した免疫優性エピトープまたはマーカーに対する抗体を検出するための診断法および対応するテスト・キットをも提供し、それによって家禽におけるNDVおよび/または他の家禽類疾病を抑制する、および/または撲滅する方法を実施するための方法および/または手段を提供する。本発明は新規・有効なワクチンであって、野生型ウイルスおよび旧型ウイルスとから血清学的に識別し得るワクチンを提供する。かかる新規ワクチンはNDVマーカーワクチンと称し、抗原的に適切なNDVエピトープの最も可能性の高い免疫スペクトルを提供し、さらに随伴する診断法とキットを適用することにより野生型NDVから血清学的に区別される。
【0105】
本発明は未予防接種動物または本発明方法によるNDVワクチンを接種した動物を、野生型NDVに感染した動物または未修飾亜病原性または長潜伏期性NDV−ワクチン株を接種した動物から識別する方法を提供し、該方法は最少量の1サンプル(例えば、血清、血液、卵または眼液)を当該動物から採取し、当該サンプルについて、当該野生型または未修飾NDVによって発現されるが、本発明のワクチンによっては発現されない免疫優性エピトープまたはマーカーに対する抗体の存在を決定することを含む。
【0106】
本発明は、当該抗体がNDVのHNまたはFタンパク質、例えば、本明細書の実験の部に記載したハイブリッドタンパク質に対するものである場合の方法を提供する。本発明は、例えば、当該動物が家禽類からなる群から選択される、好ましくはニワトリである場合の診断方法を提供する。
【0107】
また、本発明は動物間で血清学的に識別する方法に使用する診断キットを提供する。本発明の一実施の形態においては、簡単で迅速な赤血球凝集阻害(HI)試験を用い、予防接種した動物と感染した動物間の識別をする。NDVのHNの完全球状頭部が他の血清型HNの対応部分と置換わっているマーカーワクチンを接種した動物は、NDVのHNに対し抗体を誘発しないので、NDVビリオンによる赤血球凝集反応を阻害しない。
【0108】
HI試験においてマーカーワクチンビリオンを使用することにより、ハイブリッドHNタンパク質に対する抗体を検出し、予防接種の有効性に対する尺度として用いることができる。代替法として、NDVのFタンパク質に対する抗体を検出するELISAを使用して、予防接種の有効性を測定する。
【0109】
HI試験の他にも、ELISAを用い、NDVのHNに対する抗体の存在を決定することができる。かかる試験において使用される抗原は、例えば、組換えDNA技法により発現されるNDVのHNであるか、またはNDVのHNからの保存ペプチドである。遮断ELISAを用いることもできる。この事例では、NDVのHNの保存ペプチドに対する1種またはそれ以上のモノクローナル抗体を使用し、競合する抗体がワクチン接種した動物からのサンプルに存在するか否かを決定する。ELISA試験は、もしマーカーワクチンがキメラHNタンパク質のみを含んでいるならば、あるいはNDVのHNの少数のエピトープが置換わっている場合、有利に使用することができる。
【0110】
本発明をさらに本明細書の実験の部において説明するが、これらは本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】転写ベクターpOLTV5はPattnaikら(1992)によって記述された転写ベクターの誘導体である。構築の詳細については本文参照のこと。プラスミドはT7DNA依存性RNAポリメラーゼプロモーター(肉太活字で示した)と、それに続く単一のStuIおよびSmaI制限部位、およびデルタ型肝炎ウイルス(HDV)からの自己触媒性リボザイムを含む。DNAフラグメントはStuIおよびSmaI部位の間にクローン化されることが可能であり、T7RNAポリメラーゼを用いてインヴィトロまたはインヴィヴォのいずれかにおいて転写されることが可能である。結果として生じる転写物の5´末端は、インサートにはコード化されていない二つの余分のG−残基を含む。リボザイムの働きにより、当該転写物の3´末端はインサートの最後のヌクレオチドに正確に対応する。
【図2】ミニゲノムプラスミド、pOLTV535(図2A)およびpOLTV553(図2B)の構造。ニニゲノムプラスミドは、転写プラスミドpOLTV5(図1を参照)を主成分とし、分泌されたアルカリ性ホスファターゼ(SEAP)をコード化している遺伝子の側面に並んでいる、LaSota系NDVの3´領域(nt 1〜119)と、5´領域( nt 14970〜15186)とを含む。T7RNAポリメラーゼによるpOLTV535の転写は、反ゲノムRNA(または[+]−RNA)を生じるが、一方pOLTV553の転写は、ゲノムRNA(または[−]−RNA)を生じる。ウイルス転写の開始および終止シグナルである、開始(S)および終止(E)ボックスが示されている。SEAP遺伝子の開始コドンには下線が付されている。各々1ntずつ長さの異なるミニゲノムプラスミド(各々pOLTV535N0〜N5およびpOLTV553N0〜N5)を生じるClaI部位のインサーション(N0〜N5)の配列も示されている。
【図3】LaSota系NDVのゲノムのヌクレオチド配列および、推定されるNDV遺伝子のアミノ酸配列。示した配列は反ゲノム鎖に対応しており、5´から3´の方向へ、ssDNAの形で示されている。この図に示された配列は、全NDVゲノムにわたる二つの独立した重複するサブゲノムcDNAのセットの完全なシーケンシングにより決定された共通配列のものである。残りのアンビギュイティー(おそらくPCRのエラーの結果)は、第3の独立したクローンのセットについての関連領域のシーケンシングによって解明された。重複するサブゲノムcDNAクローンから組立てられた完全長のcDNAクローンpNDFL+(図4参照)の配列は、以下の位置においてNDVの共通配列のそれと異なっている(括弧間共通配列):nt 1755,G(A);nt 3766,A(G);nt 5109,G(A);nt 6999,T(C);nt 7056,G(A);nt 9337,G(A);nt 9486,A(T);nt 10195,T(C);nt 13075,A(G)。これらの差は結果として3つのアミノ酸の変化を生じる(括弧間共通配列):Fタンパク質、R189(Q);HNタンパク質S200(P)L−タンパク質N369(I)。
【図4】(A)重複するサブゲノムcDNAクローンからの完全長のNDVcDNAの組立てに用いられた総体的な方法。cDNAは、LaSota系NDVの3´および5´末端をすでに含んでいるプラスミドpOLTV535(図2参照)において組立てられた。結果として生じるプラスミドはpNDFL+と名付けられ、感染性NDVの生成に使用された。 (B)重複するサブゲノムcDNAクローンからの完全長のNDVcDNAの組立てのための詳細なクローニング法。Cmは、表現形のタグとして一時的に導入されたクロラムフェニコール耐性遺伝子を示す(詳細は本文参照)。 (C)遺伝学的に変異された完全長のNDVcDNAの生成のための詳細なクローニング法。変異は、F遺伝子に導入された3つのヌクレオチドの変化から成り、その結果Fタンパク質のタンパク質分解部位のアミノ酸配列の変異を生じる(詳細は本文参照)。
【図5】(A)pOLTV535系 T7RNAポリメラーゼによる転写は反ゲノムRNA(または[+]−RNA)を生じるが、それは細胞によりSEAPタンパク質に直接翻訳されることが可能である。ヘルパーウイルスによる細胞感染の後(またはNP、P、およびLをコード化しているプラスミドの同時トランスフェクションの後)、ゲノムRNA(または[−]−RNA)合成のため、反ゲノムRNAがウイルスポリメラーゼ複合体によって使用される。ゲノムRNAは次に、ウイルスポリメラーゼ複合体によりmRNA(特異的な転写開始[S]および終止[E]ボックスの使用による)および反ゲノムRNAの両者の合成に用いられる。 (B)pOLTV553系T7RNAポリメラーゼによる転写はゲノムRNA(または[−]−RNA)を生じるが、それはSEAPタンパク質に翻訳されることができない。ヘルパーウイルスによる細胞感染の後(またはNP、P、およびLをコード化しているプラスミドの同時トランスフェクションの後)、mRNA(特異的な転写開始[S]および終止[E]ボックスの使用による)および反ゲノムRNAの両者の合成のため、ゲノムRNAがウイルスポリメラーゼ複合体によって使用される。
【図6】NDVLaSotaおよび他のパラミクソウイルスの、5´末端の核酸配列のアラインメントが、ルブラウイルス(Rubulavirus)属の4つの仲間、パラミクソウイルスの3つの仲間、およびモルビリウイルス(Morbillivirus)属の3つの仲間にわたるNDVの配列の比較として示されている。配列はL遺伝子の終止ボックスから5´末端まで(3´〜5´cDNA)描かれている。 NDV,ニューカッスル病ウイルス;hPIV2,ヒトパラインフルエンザウイルス2;MuV,おたふくかぜウイルス;SV5およびSV41,各々シミアンウイルス5および41;SeV,センダイウイルス;bPIV3,およびhPIV3 各々ウシおよびヒトのパラインフルエンザウイルス;CDV,イヌジステンパーウイルス;MeV はしかウイルス;RPV,牛疫ウイルス。全ゲノムのヌクレオチド(nt)配列は、以下のように取得された(受託番号):NDV(AF077761);hPIV2(X57559);MuV(AB000388);SV5(AF052755);SV41(X64275);bPIV3(D84095);hPIV3(Z11575);CDV(L13194);MeV(X16565);RPV(Z30697)。
【実施例】
【0112】
実施例
材料および方法
標準クローニング法は、別に記載しない場合は、Sambrookらの方法(1989)によって行った。複製連鎖反応(PCR)によって生成したDNA断片を含む全構成分は、塩基配列分析によって確認した。下に挙げるプライマーの配列において、下線を引いた塩基はNDVの配列に対応し、NDVゲノム内のポジションを表示する。クローニングに使用した制限部位の塩基配列は、太字で示す。
細胞およびウイルス
ウシ胎児血清5%ならびに1000U/mlペニシリン、1000μg/mlストレプトマイシン、20μg/mlファンギゾン、500μg/mlポリミキシンBおよび10mg/mlカナマイシンからなる抗生物質ミックスを2%含むGMEM/EMEM(1:1)中でCER細胞(Smithら、1976)を培養した。QT35細胞(Moscoviciら、1977;Cho、1982)は、FCS5%および抗生物質ミックス2%を追加した、GibcoBRL/Life Technologiesによって供給された培地(カタログ番号No.041−91536;Fort Dodgeが独占権をもつ組成物)で培養した。QM5細胞(AntinおよびOrdahl、1991)は、燐酸トリプトースブイヨン10%、FCS10%および混合抗生物質2%を追加したM199培地で培養した。
【0113】
NDV株LaSotaはATCC(ATCC VR−699)から入手し、有胚鶏卵で2回経代培養した。cDNAの構築およびクローニングを始める前に、該ウイルスは、ニワトリ原発性胚繊維芽細胞(CEF)上でのプラーク精製を3回繰り返して精製した。この目的のために、ウシ胎児血清5%、抗生物質ミックス2%、尿膜腔液5%、MgCl230mM、DEAE−デキストラン(Sigma)200μg/mlおよび寒天Nobel(Difco)0.8%を含むGMEM/EMEM(1:1)で培養したCEF細胞上に該ウイルスを滴下した。プラーク精製の第3回目から得られたウイルス(クローンE13−1と表示する)を有胚鶏卵で培養し、接種後4日目に尿膜腔液を採取し、そのアリコートを−70℃で保存した。T7 RNAポリメラーゼを発現する組替え鶏痘ウイルスfpEFLT7pol(Brittonら、1996;以後FPV−T7と称す)は、Michael Skinner博士からの恵贈品であり、QT35細胞上で培養した。
【0114】
ウイルスRNAの単離
操作はすべて、RNアーゼの存在しないガラス容器またはプラスチック容器で行い、溶液はすべて、1%ジエチルピロカルボネート(DEPC)で処理したRNアーゼ除去の水で作成した。Beckman SW40遠心機による、21,000rpm、4℃で70分間の遠心分離により、尿膜腔液からウイルスをペレット化した。このペレットをホモジナイズ化緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.5),50mM NaCl,5mM EDTA,0.5% SDS)に再懸濁し、絶えず攪拌しながら37℃で90分間プロテイナーゼK(200μg/ml)で処理した。溶菌液を、等量のフェノール/クロロホルム(1:1)(pH5.4)で2回、等量のクロロホルムで1回抽出した。ウイルスRNAは、3M NaOAc(pH5.3)および2.5倍量の100%エタノールを添加して水相から沈殿させた。沈殿は、遠心により採取して、70%エタノールで1回洗浄し、水に再懸濁させ、分割して−70℃で保存した。
【0115】
逆転写
ウイルスRNA(1.5μg)を、12μlの容量にプライマー500ngを含む液と混合し、70℃で10分間インキュベートした。5xRT緩衝液(250mM Tris−HCl,pH8.3,375mM KCl,15mM MgCl2;GibcoBRL/Life Technologies)4μl、0.1M DTT 2μlおよび10mM dNTP's 2μl(各2.5mM)を添加し、混合液を42℃で2分間インキュベートした。最終容量20μl中で、逆転写酵素(Superscript II;GibcoBRL/Life Technologies)200単位を添加し、ついで42℃で60分間インキュベートすることにより逆転写を行った。
【0116】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)
NDVゲノムの3'および5'末端を決定するために使用したPCR反応(下記参照)はすべて、Taq DNAポリメラーゼ(Perkin Elmer)を用いて行った。個々のNDV遺伝子または大サブゲノムcDNAのクローニングのために、プルーフリーディングDNAポリメラーゼPwoか、TaqとPwoの混合物(Expand High FidelityキットまたはExpand Long Templateキット)を、メーカー(Boehringer Mannheim)の指示書に従って使用した。試料はすべて、指示された回数のPCRサイクルの開始前に94℃で2分間インキュベートした。指示された回数のPCRサイクルの後、試料を、PCRサイクルの伸長反応時間の少なくとも3倍の時間、伸長反応温度でインキュベートした。PCR断片を、高純度PCR製品精製キット(Boehringer Mannheim)で直接精製するか、またはアガロースゲル電気泳動の後、QiaexII抽出キット(Qiagen)を基本的にメーカーの指示どおりに使用して精製した。
【0117】
塩基配列分析
塩基配列はすべて、PRISM Ready Reaction Dye Deoxy Terminator Cycle Sequencingキット(Perkin Elmer)を用いて決定した。反応混合液(5μl)をGeneAmp2400サーモサイクラー中で25サイクルの線形増幅(94℃で10秒、50℃で5秒、および60℃で4分)にかけた。その後、反応混合体をエタノールで沈殿させ、70%エタノールで1回洗浄し、TSR緩衝液(Perkin Elmer)15μlで再懸濁させ、94℃で2分間加熱した後、Applied BiosystemsのAB310自動シークエンサーにかけた。
【0118】
NDV株LaSotaの全ゲノムの配列決定に用いたプライマーの塩基配列は、公表されている配列から、またはこの配列決定計画の間に確立された配列から引き出した。プライマー類を表1に示す。
【0119】
NDV株LaSotaのゲノムの3'および5'末端のクローニングおよび配列決定
NDVゲノムの3'および5'末端の塩基配列は、RACE法(cDNA末端の迅速増幅法)を用いて決定した。プライマーp360(5'−GGCGATGTAATCAGCCTAGTGCTT−3';nt 14756−14779)(NDVのL−遺伝子の公表された塩基配列(Yusoffら、1987)から引き出した)を用いる、最終容量20μlでの逆転写反応には、NDV RNAを使用した。一本鎖cDNA(RT混合物の2.5μl)を、アンカープライマーALG3(5'−CACGAATTCACTATCGATTCTGGATCCTTC−3')8pmolに添加し、Tessierら(1986)による記載のとおりに、50mM Tris−HCl、pH8.0、10mM MgCl2、10μg/ml BSA、25% PEG、1mM HCC、20μM ATPおよびT4 RNA リガーゼ(New England Biolabs)10単位を含む反応混合液20μlの中で、室温で一夜連結反応をさせた。連結反応の1μlを、プライマーp375(5'−CAATGAATTCAAAGGATATTACAGTAACT−3';nt 14964−14983)およびALG4(5'−GAAGGATCCAGAATCGATAG−3')を用いるPCR反応におけるテンプレートとして使用した。後者のプライマーは、アンカープライマーALG3に対し相補的である。PCRの条件(40サイクル)は次のとおりである:94℃で1分間、55℃で1分間および72℃で2分間。PCR生成物を精製し、T−ベクターpBluescript−TSK(IchiharaおよびKurosawa、1993)中にクローニングした。あるいはその代わりに、精製したPCR生成物をKlenow DNAポリメラーゼIで処理して平滑末端を作り、プラスミドpGEM4Z(Promega)のHincII部位にクローニングした。13個の独立クローン(8×pBleuscriptII−TSKおよび5×pGEM4Z)を配列して、NDV株LaSotaゲノムの5'末端の塩基配列を決定した。3'末端の塩基配列は、二つの独立した方法によって決定した。方法Iでは、Schutzeら(1995)によって記載されているとおりに、T4 RNAリガーゼを用いることによって、プライマーALG3をウイルスRNAの3'末端に連結させた。反応混合液(最終容量10μl)には、NDV RNA 2.5μg、ALG3 100pmol、10× T4 RNAリガーゼ緩衝液(500mM Tris−HCl、pH7.8、100mM MgCl2、100mM DTT、10mM ATP)1μl、DMSO 1μl、10μM ヘキサミン−塩化コバルト 1μl、RNアーゼ(Promega)1μlおよびT4 RNAリガーゼ(New England Biolabs)10単位が含まれていた。この混合液を室温で1夜インキュベートし、この連結反応の5μlを、プライマーとしてALG4を用いる逆転写反応のテンプレートして使用した。プライマーALG4およびp376(5'−GAGCCTTAAGGAGCTGTCGTACTATC−3';nt 137−164)(この塩基配列は、NDVの3'末端の公表された塩基配列(Ishidaら、1986)から引き出した)を用いるPCR反応にRT−反応の1μlを使用した。PCR条件は、5'RACEについて上に記載したのと同じであった。方法IIにおいては、方法Iについて記載したのと同じ条件で、T4 RNAリガーゼを用いることによってウイルス性NDV RNAの3'と5'末端を互いに連結した。連結反応混合液の5μlを、プライマーp360を用いる逆転写反応においてテンプレートとして使用した。プライマーp375およびp376を用い、かつ5'RACEについて上に記載したPCR条件を用いるPCR反応に、RT反応の1μlを使用した。PCR生成物は、Klenow DNAポリメラーゼIで処理して平滑末端を作り、プラスミドpGEM4ZのHincII部位(Promega)にクローニングした。10個の独立したクローン(方法Iから4個、方法IIから6個)の配列を分析して、NDV株LaSotaのゲノムの3'末端の塩基配列を決定した。
【0120】
転写ベクターの構築
基本レプリコンとしてプラスミドpOK12(VieiraおよびMessing、1991)を用いることによって低コピー番号の転写ベクターを構築した。プラスミドpOK12をPvuIIで消化し、複製開始起点およびカナマイシン−抵抗遺伝子を含むDNA断片を単離した。このDNA断片を、転写ベクター2.0(Andrew Ball博士の恵贈品;Pattnaikら、1992)から得たEco47III−AflII断片(AflII部位は、Klenow DNAポリメラーゼIを用いて平滑にした)に連結した。得られたプラスミドからXbaI−NheI断片を削除して、できるだけ多くの特定の制限部位を減らした。得られたプラスミドをpOLTV5と称す(図1)。転写ベクターpOLTV5には、特異なStuIおよびSmaI制限部位が後続するT7 DNA依存性RNAポリメラーゼプロモーター、D型肝炎ウイルス(HDV)由来の自己触媒性リボザイムおよびバクテリオファージT7由来の転写終結シグナルが含まれている。StuI部位とSmaI制限部位の間にクローニングされた断片は、T7RNAポリメラーゼを用いることによって、インビトロでもインビボでも転写することができる。転写の後、得られた転写産物の5'末端には、プラスミドによってコードされた2個のG残基が含まれている。HDVリボザイムの自己触媒作用により、転写産物の3'末端は、クローニングされたDNA断片の正確な末端塩基に対応している(Pattnaikら、1992)。
【0121】
ミニゲノムプラスミドの構築
NDVの複製および転写の要件を調べるために、全NDV遺伝子を置換したレポーター遺伝子を側に配置しているNDVの3'および5'末端部分を含んだミニゲノムプラスミドを構築した(図2)。NDVの3'および5'末端領域に対応するDNA断片を、Pwo DNAポリメラーゼ(30サイクル;94℃で15秒、50℃で30秒および72℃で30秒)を用いること、ならびにテンプレートとして3'および5'RACE断片(上記参照)を含んだプラスミドを用いることによるPCR法によって産生した。
【0122】
3'領域(nt 1〜119)は、プライマー3UIT(5'−ACCAAACAGAGAATCCGTGAGTTACGA−3'、nt 1〜27)およびSEAP3(5'−ATCGATACTGGTCAGCATGCTGGCAGAAGGCTTTCTCG−3'、nt 102〜119)を用いることによって作った。5'領域(nt 14973〜15186)は、プライマーSEAP5(5'−GCATGCTGACCAGTATCGATATTACAGTAACTGTGACT−3'、nt 14973〜14990)および5NDV(5'−ACCAAACAAAGATTTGGTGAATGACGA−3'、nt 15158〜15186)を用いることによって作った。2個のDNA断片を、プライマー3UITおよび5NDVを用いることによる重複PCR法(重複は、上に示したプライマーの塩基配列においてイタリックで示してある)で結合した。得られたDNA断片(これは、20個の塩基によって分離されたNDVの3'および5'末端の融合である)を、T4ポリヌクレオチドキナーゼの処理によってホスホリル化し、StuIおよびSmaIで切断してウシ腸管ホスファターゼ(Boehringer Mannheim)で脱ホスホリル化した転写プラスミドpOLTV5(図1)中の両方の位置にクローニングした。最後に、分泌したアルカリ性ホスファターゼをコードするSEAP−遺伝子を、SphIおよびClaIでの消化によってプラスミドpSEAP−Basic(Clontech)から回収し、NDVの3'と5'末端の間のSphI部位とClaI部位の間にクローニングした。得られたプラスミドは、それぞれ、pOLTV535およびpOLTV553と称した。プラスミドpOLTV535のT7 RNAポリメラーゼを用いるインビボまたはインビトロの転写により、アンチゲノムRNA(〔+〕−RNA)が生成する。一方、プラスミドpOLTV553の転写により、ゲノムRNA(〔−〕RNA)が生成する。
【0123】
プラスミドpOLTV535N0〜−N5およびpOLTV553N0〜−N5は、それぞれ、pOLTV535およびpOLTV553の中のSEAP−遺伝子とNDVの5'末端との間に存在するClaI部位に自己相補性オリゴヌクレオチドを挿入することによって産生させた(図2参照)。使用したオリゴヌクレオチド:N0には、5'−CGCGAGCTCG−3';N1には、5'−CGCGAGSCTCG−3';N2には、5'−CGCGAGCGCTCG−3';N3には、5'−CGCGAGCWGCTCG−3';N4には、5'−CGCGAGCATGCTCG−3';N5には、5'−CGCGAGCASTGCTCG−3'(ここでW=AまたはT;S=CまたはG)であった。
【0124】
プラスミドpOLTV535およびpOLTV553中のT7プロモーターの修飾
NDVの標準5'および3'末端を含むインビトロまたはインビボの転写産物を生成させるために、プラスミドpOLTV535およびpOLTV553中のT7プロモーターを、転写がNDVの3'および5'末端の最初の塩基から始まるように修飾した。
【0125】
1)BGlI−制限部位、2)T7プロモーターの末端にある2個のG残基がA残基で置換されるように修飾したT7プロモーター(イタリックで表示)の塩基配列、ならびに3)NDVの3'末端(nt 1〜21)または5'末端(nt 15164〜15186)、を含むプライマーを設計した。プライマーBGL3F2(5'−GATATGGCCATTCAGGCTTAATACGACTCACTATAACCAAACAGAGAATCCGTGAG−3')およびSEAP3(上記参照)を用いて、pOLTV535中のSEAP遺伝子の起点までに修飾したT7プロモーターおよびNDVの全3'末端を含むDNA断片を作製した。同様に、プライマーBGL5F2(5'−GATATGGCCATTCAGGCTTAATACGACTCACTATAACCAAACAAAGATTT
GGTGAATG−3')およびSEAP5を用いることによって、pOLTV553中のSEAP遺伝子の終点までに修飾したT7プロモーターおよびNDVの全5'末端を含むDNA断片を作製した。得られた断片を、それぞれ、BglIとSphI(3'末端)で、またはBglIとClaI(5'末端)で消化し、pOLTV535中のBglI−SphI断片またはpOLTV553中のBglI−ClaI断片に置換するのに使用した。得られたプラスミドは、それぞれ、pOLTV735およびpOLTV753と称した。プラスミドpOLTV735N3およびpOLTV753N3は、SEAP遺伝子と、それぞれ、pOLTV735およびpOLTV753の中にあるNDVの5'末端との間に位置するClaI部位に、自己相補性オリゴヌクレオチド(5'−CGCGAGCWGCTCG−3';W=AまたはT)を挿入することによって作製した。
【0126】
SEAPレポータープラスミドの構築
真核生物の発現ベクターpCIneo(Promega)のXhoI部位とSmaI部位との間に、プラスミドpSEAP−Basic(Clontech)から得たSEAP−遺伝子を含むXhoI−ClaI断片(ClaI部位は、Klenow DNAポリメラーゼIを用いて平滑にした)をクローニングすることによってプラスミドpCIneoSEAPを構築した。プラスミドpSEAP−Basicには、バクテリオファージT7プロモーターに加えてヒトサイトメガロウイルス(hCMV)が含まれている。T7プロモーターだけから作製した転写産物によるSEAP発現を検査・定量するために、hCMVプロモーターを欠いた他のプラスミドを構築した。この目的のために、HindIIIでの部分消化とそれに続くBglIIでの完全消化によって、pCIneoからhCMVプロモーターを削除した。hCMVプロモーターを削除したDNA断片(Clontechの番号付けによれば、nt 756〜5469)を単離し、T4 DNAポリメラーゼで処理して平滑末端を作成し、T4 DNAリガーゼを用いて再環化した。得られたプラスミドは、pCIneoDと称した。最後に、SEAP遺伝子を、pSEAP−BacisからMluI−AccI断片として回収し、pCIneoD中、MluI部位とClaI部位の間にクローニングした。得られたプラスミドをpCIneoD SEAPと称した。
【0127】
トランスフェクション
細胞を、24穴のペトリ皿に植付け、1夜増殖させて60〜80%の集密度にし、感染多重度(m.o.i.)1で、37℃1時間、FPV−T7に感染させた。この細胞に、基本的にメーカー(GibcoBRL/Life Technologies)の指示どおりにLipofectAMINEおよびOptiMem3μlを用いて、ミニゲノムプラスミドDNA0.5μgをトランスフェクションした。37℃で4時間(CER細胞)または16時間(QM5細胞)インキュベートした後、細胞に、多重感染度5で1時間、NDV(Dutch virulent isolate番号152608;ウエル当たり200μl)に感染させるか、または感染させないままで放置した。接種物を吸引し、完全培地1mlで置換し、細胞を37℃でさらにインキュベートした。コトランスフェクションのために、6穴のペトリ皿で細胞を増殖させ、上記と同じようにFPV−T7に感染させた。細胞は、LipofectANINE 8μlまたはFuGeneTM6(Bohringer Mannheim)9μlを使用することによって、ミニゲノムプラスミドDNA 0.25μg、pCIneoNP 0.4μg、pCIneoP 0.2μgおよびpCIneoL(c)またはpCIneo 0.2μgをコトランスフェクションした。感染性ウイルスを産生するために、ミニゲノムプラスミドを、全鎖長NDV cDNAを含んだ転写プラスミドに置換した。
【0128】
SEAP活性の定量
Phospha−LightTM Chemiluminescent Reporter Assay for Secreted Alkaline Phosphatase kitを基本的にメーカー(Tropix)の記載どおりに使用して、96穴の使い捨てプレート上で、トランスフェクションした細胞の培地に分泌されたSEAPの量を測定した。化学発光を、液体シンチレーションカウンター(Wallac 1450 microbeta PLUS)を用いて定量した。
【0129】
NDV株LaSotaの全ゲノムに亘るcDNAのクローニングおよび塩基配列の決定
NDV株LaSotaの全ゲノムをクローニングし、塩基配列を決めるために、RT−PCRによって大サブゲノムcDNAクローンを作製し、pGEM−Tの中にクローニングした。上記のごとく、プライマー3UITを用いて第1鎖cDNAを合成し、RT反応の1μlを、Expand Long Template PCRキット(Boehringer Mannheim)を用いるPCR反応に使用した。PCR法は、94℃で10秒間、58℃で30秒間および68℃で6分間のサイクル5回、さらに94℃で10秒間、58℃で30秒間、および68℃で6分間のサイクル10回からなっていた。その中で、68℃での伸長反応時間は、サイクルごとに20秒ずつ延ばした。PCR断片は、基本的にメーカー(Promega)が記載しているとおりにpGEM−Tクローニングキットを使用してpGEM−T中にクローニングした。連結反応混合液をE.Coli株SURE II(Strategene)に形質転換した。2回の独立したRT−PCR反応(AおよびB)を行い、おのおのでcDNAクローンの類似セットを得た。サブゲノムcDNAクローンの塩基配列は、NDV−特異的プライマー(表1)を用いて、かつ挿入体の側に配置しているプライマーによって決定した。クローンのAおよびBシリーズの塩基配列を比較した後、残っているあいまいさをcDNAの第3独立シリーズ(Cシリーズ)の相当領域の塩基配列を決めることによって取り除いた。NDV株LaSotaの塩基配列を図3に示す。
【0130】
NDVの全鎖長ゲノムcDNAクローンの構築
出発プラスミドとしてpOLTV535を用いることによって転写プラスミドpOLTV5に全鎖長NDV cDNAを集めた。これらのDNA断片を、図4Bに示すように通常の制限酵素を用いて重複点で結合した。一連のクローニング段階で、ポジション3521および12355でClaI部位を結合することによって生成した、ClaI部位によって分離されたヌクレオチド1〜3521および12355〜15186を含むプラスミド(p535−DIと命名)を構築した。他の系列のクローニング段階で、ヌクレオチド3521〜12355(ClaI断片)を含むNDVゲノムの一部を含んだプラスミド(pGEM−Bと命名)を構築した。クローニングを容易にするために、後者のClaI断片に、プラスミドpACYC184から得たクロラムフェニコール抵抗性(Cm)遺伝子を標識に付けた(ChangおよびCohen、1978)。この目的のために、プライマーCAT−F(5'−GCGTACGTCTAGACTGGTGTCCCTGTTGATACCGG−3')およびCAT−R(5'−GCTCTAGACGTACGACCCTGCCCTGAACCGACG−3')を用いるPCRによってpACYC184からCm遺伝子を回収した。PCR法は、Pwo DNAポリメラーゼを用いて行い、94℃で30秒、60℃で45秒および72℃で60秒のサイクル30回からなっていた。得られたPCR断片をBsiWIで消化し、pGEM−Bの特定BsiWI部位にクローニングし、pGEM−B(CAT)を得た。pGEM−B(CAT)から得たClaI断片は、p535−DIの特定ClaI部位にクローニングして、pNDFL(CAT)を得た。最後に、このプラスミドからCm遺伝子を、BsiWIでの消化とそれに続くE.coli株DH5aの再連結および形質転換によって除去した。得られたプラスミドをpNDFL+と称した。これには、転写プラスミドpOLTV5の中のT7プロモーターおよびHDVリボザイムの間にクローニングしたNDV cDNA全塩基配列が含まれている。
【0131】
個々のNDV遺伝子のクローニングおよび発現
NDV LaSota遺伝子の各々を含むDNA断片をRT−PCR法によって作成し、pCIneo中にクローニングした。クローニングの後、断片すべての塩基配列を、挿入配列を側に持つプライマーを用いることによって、かつ遺伝子特異的プライマーによって決定した。
【0132】
NP−遺伝子:プライマー386(5'−GAGCAATCGAAGTCGTACGGGTAGAAGGTG−3'、nt 40〜69)を逆転写に使用した。プライマー365(5'−GTGTGAATTCCGAGTGCGAGCCCGAAG−3';nt 77〜94)および892(5'−TTGCATGCCTGCAGGTCAGTACCCCCAGTC−3';nt 1577〜1593)を、Pwo DNAポリメラーゼを用いるPCR法に使用した。次のPCRプロフィール(30サイクル)を使用した:95℃で30秒、65℃で40秒および72℃で45秒。得られたDNA断片をEcoRIで消化し、pCIneo中、EcoRI部位とSmaI部位との間にクローニングした。NPタンパク質の発現は、モノクローナル抗体38(Russellら、1983)を用いて、Peetersら(1992)によって記載されている免疫ペルオキシダーゼ単層検定法(IPMA)で確認した。
【0133】
p−遺伝子:プライマーpRTl(5'−CAAAGAATTCAGAAAAAAGTACGGGTAGAA−3';nt 1794〜1814)を逆転写に使用した。プライマーpRTlおよびp2(5'−GCAGTCTAGATTAGCCATTCACTGCAAGGCGC−3';nt 3053〜3071)を、Pwo DNAポリメラーゼを用いるPCR法に使用した。次のPCRプロフィール(30サイクル)を使用した:95℃で30秒間、65℃で40秒間および72℃で60秒間。得られたDNA断片をEcoRIとXbaIで消化し、pCIneo中、EcoRI部位とXbaI部位との間にクローニングした。Pタンパク質の発現は、モノクローナル抗体688(Russellら、1983)を用いて、IPMAで確認した。
【0134】
M−遺伝子:プライマー3UIT(5'−ACCAAACAGAGAATCCGTGAGTTACGA−3';nt 1〜27)を逆転写に使用した。プライマーNDV5M(5'−GGGTGCTAGCGGAGTGCCCCAATTGTGCCAA−3';nt 3268〜3288)およびNDV3M(5'−TCTCCCCGGGGCAGCTTATTTCTTAAAAGGAT−3';nt 4368〜4389)を、Expand High Fidelityキットを用いるPCR法に使用した。このPCR法は、95℃で15秒間、55℃で30秒間および68℃で2分間のサイクル5回、ついで68℃での伸長反応時間をサイクルごとに20秒ずつ長くしたサイクル15回からなっていた。得られたDNA断片をT4 DNAポリメラーゼで処理して平滑端を作り、NheIで消化し、pCIneo中、NheI部位とSmaI部位との間にクローニングした。Mタンパク質の発現は、モノクローナル抗体424(Russellら、1983)を用いてIPMAで確認した。
【0135】
F−遺伝子:プライマー3UIT(上記参照)を逆転写に使用した。プライマーNDV5F(5'−ACGGGCTAGCGATTCTGGATCCCGGTTGG―3';nt 4508〜4526)およびNDV3F(5'−ACTACCCGGGAAACCTTCGTTCCTCAT−3';nt 6212〜6231)を、M−遺伝子について上に記載した条件を用いて、Expand High Fidelityキットを用いるPCR法に使用した。得られたDNA断片をT4DNAポリメラーゼで処理して平滑末端を作り、NheIで消化し、pCIneo中、NheI部位とSmaI部位との間にクローニングした。Fタンパク質の発現は、モノクローナル抗体8E12A8C3(ID−DLO、哺乳動物ウイルス学の部門)を用いて、IPMAで確認した。
【0136】
HN−遺伝子:プライマー3UITを逆転写に使用した。プライマーNDV5HN(5'−GTAGGCTAGCAAGAGAGGCCGCCCCTCAAT−3';nt 6335〜6354)およびNDV3HN(5'−CGAGCCCGGGCCGGCATTCGGTTTGATTCTTG−3';nt 8205〜8227)を、M−遺伝子について上に記載した条件を用いて、Expand High Fidelityキットを用いるPCR法に使用した。得られたDNA断片をT4DNAポリメラーゼで処理して平滑末端を作り、XmaIによる消化の後、pCIneo中、平滑にした(Klenow DNAポリメラーゼによる)NheI部位とXmaI部位との間にクローニングした。HN−タンパク質の発現は、モノクローナル抗体86(Russellら、1983)を用いてIPMAで確認した。
【0137】
L−遺伝子:SacIIおよびSalIで消化することによって、cDNAクローンpGEM−L7a(図4A)からL−遺伝子を回収した。SalIでの消化の前に、SacII部位をT4DNAポリメラーゼの処理によって平滑にした。得られた断片は、pCIneo中、平滑にした(Klenow DNAポリメラーゼによる)NheI部位とSalI部位の間にクローニングした。L−遺伝子のT7プロモーターとATG開始コドンの間にある5'非翻訳領域には、Lタンパク質の正しい発現を阻害するかもしれない2個のフレーム外ATGコドンが含まれていた。したがって、第一ATGを欠き、第二ATGがPCR突然変異誘発によってAAGに変化した新しいプラスミドを、下記のように、構築した。プライマー5LE(E)(5'−CAATGGAATCAAGGCAAAACAGCTCAGGTAAATAATACGGG−3';nt 8332〜8374)および3LE(B)(5'−GTGAATCTAGAATGCCGGATCCGTACGAATGC−3';nt 8847〜8870)を、プラスミドpGEM−L7a(図4)を用いるPCR反応に使用した。本PCR法は、Pwo DNAポリメラーゼを用いて行い、94℃で30秒間、60℃で45秒間および72℃で60秒間のサイクル30回からなっていた。得られたDNA断片をEcoRIとXbaIで消化し、pCIneo中、EcoRI部位とXbaI部位との間にクローニングして、プラスミドpCIneoL(N)を作成した。続いて、L−遺伝子(nt 8852〜15046)の残りの部分を含んでいるpGEM−L7aから得たBsiWI−SalI断片をpCIneoL(N)中、BsiWI部位とSalI部位の間にクローニングし、プラスミドpCIneoL(c)を作成した。Lタンパク質に対する抗体は入手不能なので、Lタンパク質の発現は、免疫化学によっては確認できなかった。
【0138】
F−遺伝子への遺伝的標識の導入
クローニングした全鎖長cDNAから感染性ウイルスを産生させうることを明白に示すために、PCR突然変異誘発によってF遺伝子に遺伝的タグを導入した。この目的のために、2個の重複PCR断片を用いてF遺伝子をクローニングした。第一PCR断片は、プライマー類NDV5F(上記参照)およびプライマーF5R(5'−AAGCGCCCTGTCTCCCCCTCCAGATGTAGTCAC−3';nt 4859〜4894)を使用することによって生成した。太字で示した残基は、F1とF2との間のタンパク質分解的切断部位のアミノ酸配列を、NDV LaSota株(GGRQGR|L)の配列から毒性のあるNDV株(GRRQRR|F)のための共通切断部位のそれに変えるために、プライマーに導入した変換部分である。第二PCR断片は、プライマーF3F(5'−GGGGAGACAGGGCGCTTATAGGCGCCATTATTGG−3';nt 4875〜4911)およびIV09(5'−CTCTGTCGACACAGACTACCAGAACTTTCAC−3';nt 6246〜6266)を使用することによって産生した。PCR法は、Pwo DNAポリメラーゼで行い、94℃で15秒間、55℃で30秒間および72℃で2分間のサイクル25回からなっていた。2個の重複PCR断片(重複は、プライマーの塩基配列においてイタリックで示す)は、プライマーNDV5FとIV09を用い、かつ同一のPCR条件を用いる第二PCR法で、結合させた。得られた断片(F遺伝子の全ORFを含み、ビルレント共通切断部位をコードしている)をNheIとSalIで消化し、pCIneo中、NheI部位とSalI部位との間にクローニングして、pCIneoFwtを産生した。pCIneoFwtから得たStuI−NotI断片(nt 4646〜4952)を使用して、p535−DI中、ClaI部位とScaI部位との間にpGEM−Bから得たClaI−ScaI断片(nt 3521〜10311)を挿入することによって構築したプラスミドp535−S中の対応する断片を置換した(図4C参照)。得られたプラスミドは、p535−S[Fwtc]と称した。pACYC184(上記参照)由来のCm−抵抗性遺伝子を含むPCR断片を、XbaI断片としてプラスミドp535−S[Fwtc]の特定XbaI部位(NDVの塩基配列のポジション6172)にクローニングして、プラスミドp535−S[Fwtc]Cmを産生した。続いて、このプラスミドのCmで標識を付けたApaI−SpeI断片(nt 2285〜8094)を用いて、全鎖長cDNA クローンpNDFL+の対応する断片を置換した。最後に、XbaIでの消化とそれに続くT4DNAリガーゼを用いる再環化によって、このプラスミドからCm遺伝子を除去した。得られたプラスミド(遺伝的に標識を付けた全鎖長NDV cDNAを含んでいる)をpNDFL+[Fwt]と称した。
【0139】
個々のNDV遺伝子を発現する、安定に形質転換した細胞系の生成
プラスミド類pCIneoNP、pCIneoP、pCIneoM、pCIneoF、pCIneoFwtおよびpCIneoHNを使用して、個別にこれらのタンパク質を発現する、安定に形質転換した細胞系を生成させた。トランスフェクションの前日に、6cmのペトリ皿にCER細胞を播種し、一夜インキュベートして60〜80%の集密度を得た。この細胞を、基本的にメーカー(GibcoBRL/Life Technologies)の指示どおりにLipofectAmineとOptiMemの12μlを用いて、プラスミドDNA2μgでトランスフェクションした。48時間後、細胞にトリプシン処理をし、希釈液を、10cmペトリ皿中、G418(Boehringer Mannheim)500μg/mlを含む培地に播種した。3日毎に、培地を新しい培地に置換したが、その際G418を100μg/mlずつ増量し、最終濃度は800μg/mlに至った。G418 800μg/ml含有培地に細胞を入れたままにし、トランスフェクションの3週間後、個々のコロニーをつまんで、96穴のペトリ皿に移した。クローニングした細胞系について、一過性発現試験について上に記載したのと同じようにIPMAを用いて、個々のNDV遺伝子の発現を調べた。
【0140】
NP、P、MまたはFを構成的に発現する細胞系を確認することができ、単離した。しかしながら、HNタンパク質を発現する細胞系を産生させることはできなかった。恐らく、HNの構成的発現が細胞に対して有毒になるのであろう。
T7 RNAポリメラーゼを発現する、安定に形質転換させた細胞系の生成
T7 RNAポリメラーゼをコードする遺伝子は、EcoRIとSalIでの消化によってプラスミドpRT7NT(Rene van Gennip、ID−DLO、哺乳動物ウイルス学の部門)から回収した。得られた断片には、バキュロウイルスp10プロモーターの背後に隠れて存在するT7 RNAポリメラーゼ遺伝子が含まれている。このDNA断片を、プラスミドpCIneo0中、EcoRI部位とSalI部位の間にクローニングして、プラスミドpCIneo107を産生した。プラスミドpCIneo0は、T7プロモーターを欠いているが、NheIでの切断、続いてのScaIによる部分切断、付着末端へのKlenow DNAポリメラーゼの導入、ならびにT4 DNA リガーゼによる再環化によってpCIneo107から誘導した。EcoRIとPacIによる消化、続いての平滑末端を作成するためのT4 DNAポリメラーゼ処理、および再環化によって、pCIneo107からバキュロウイルスの塩基配列を除去した。得られたプラスミドをpCIneo007と称した。T7 RNAポリメラーゼの発現は、細胞をpCIneo007とpPRh01でコトランスフェクションすることによって確認した。後者のプラスミドには、T7プロモーターの背後にクローニングされ、内在性リボソーム侵入部位(Rene van Gennip、私信)を含む古典的なブタコレラウイルスのE2が含まれている。E2タンパク質の発現は、モノクローナル抗体V4(Wensvoortら、1986)を用いるIPMAで測定した。T7 RNAポリメラーゼを発現する安定に形質変換したCER細胞を、10cmのペトリ皿を使用したことおよびpCIneo007 DNA 5μgとLipofectAmine 25μlで細胞をトランスフェクションしたことを除いて上記と同じように、産生し、単離した。T7 RNAポリメラーゼの発現について個々の細胞系を調べるために、細胞を、プラスミドpPRh01でトランスフェクションし、E2の発現(T7 RNAポリメラーゼに依存する)を、モノクローナル抗体V4を用いてIPMAで測定した。T7 RNAポリメラーゼを発現した数個の細胞系を同定した。1細胞系(CER−C9と称する)をその後の実験に使用した。
【0141】
HN遺伝子およびハイブリッド−HN遺伝子のクローニングおよび発現
上記したように、プライマー3UITを使用して、NDVの一本鎖cDNAならびにトリパラミクソウイルスの血清型2および4(APMV2およびAPMV4)を作製した。その後のPCR反応はすべて、94℃で15秒間、55℃で30秒間および72℃で2分間のサイクル25回の条件を用いて行った。
【0142】
APMV2のHN遺伝子の全コード領域は、プライマーIV03(5'−GGGGGATTCCCCATTCAATGAAGGGTCTAC−3')およびIV05(5'−GATCCCCGGGTCTTAAACCAGGCTTCGCAATG−3')(塩基配列は、APMV2のHN遺伝子の配列(GenBank登録番号D14030)から引き出した)を用いるPCR法によって回収した。APMV4のHN遺伝子の全コード領域は、プライマーIV06(5'−GGGGGAATTCTGGTAGGGTGGGGAAGGTAGC−3')およびIV08(5'−ATTGCCCGGGGGGTAACTAATCAGGATCTCAG−3') (塩基配列は、APMV4のHN遺伝子の配列(GenBank登録番号D14031)から引き出した)を用いて、PCR法によって回収した。得られたPCR断片を(直ちに、またはpGEM−Tでのサブクローニングの後に)EcoRIとXmaIで消化し、pCIneo中、EcoRI部位とXmaI部位の間にクローニングした。得られたプラスミドは、それぞれ、pCIneoHN2およびpCIneoHN4と称した。
【0143】
NDV株LaSotaのHN遺伝子とAPMV2および4のHN遺伝子との間のハイブリッドを、次のように重複PCR法によって構築した。NDV株LaSotaのHN遺伝子のN末端部(aa 1−141)を、プライマーIV01B(5'−GTAGGAATTCAAGAGAGGCCGCCCCTCAAT−3';nt 6325〜6354)およびIV10(5'−AATGAGTTCTTTGCCTATCCCCCC−3';nt 6811〜6834)を用いて、Pwo DNAポリメラーゼで増幅した。APMV2のHN遺伝子のC末端部(aa 142〜580)を、プライマーIV11B(5'−GGGGGGATAGGCAAAGAACTCATTCAAGGAGATGCATCTGCAGGC−3')およびIV05を用いてPwo DNAポリメラーゼで増幅した。得られたPCR断片を、重複PCR(重複はイタリックで表示)においてプライマーIV01BおよびIV05を用いることによって、かつExpand High Fidelity酵素ミックスを用いることによって連結させた。得られたPCR断片を(直ちに、またはpGEM−Tにおけるサブクローニングの後)、EcoRIとXmaIで消化させ、pCIneo中、EcoRI部位とXmaI部位との間にクローニングした。得られたプラスミドには、NDVのaa 1〜141およびAPMV2のaa 142〜580からなるハイブリッドHN遺伝子が含まれており、これをpCIneoHN1/2141と称した。
【0144】
APMV4のHN遺伝子のC末端部(aa 143〜569)を、プライマーIV14B(5'−GGGGGGATAGGCAAAGAACTCATTGTAGATGATGCATCTGCAGGCCTAAATTTCC−3')およびIV08を用いることによって増幅した。この断片は、プライマーIV01BおよびIV08を用いて、重複PCRにおいてNDVのHN遺伝子のN末端部(上記参照)と連結させた。得られたPCR断片を、(直ちに、またはpGEM−Tにおいてサブクローニングした後)EcoRIとXmaIで消化し、pCIneo中、EcoRI部位とXmaI部位との間にクローニングした。得られたプラスミドは、NDVのaa 1〜141とAPMV4のaa 143〜569とからなっているハイブリッドHN遺伝子を含んでおり、pCIneoHN1/4141と称した。
【0145】
上記の構築に類似して、NDVのaa 1〜143とAPMV2のaa 144〜580、またはNDVのaa 1〜143とAPMV4のaa 145〜569からハイブリッドHN遺伝子を構築した。これらの構築のために、下記のプライマーのペアを使用してPCR断片を得た;NDV aa 1〜143には、プライマーIV01BとIV13(5'−ATCTACAATGAGTTCTTTGCCTATC−3';nt 6816〜6840);APMV2 aa 144〜580には、プライマーIV14B(5'−GGGGGGATAGGCAAAGAACTCATTGTAGATGATGCATCTGCAGGCCTAAATTTCC−3')とIV05;APMV4 aa 145〜569には、プライマーIV15B(5'−GGGGGGATAGGCAAAGAACTCATTGTAGATCAAACAGCTGACTACACAGCAG−3')とIV08。これらのPCR断片を、(直ちに、またはpGEM−Tにおいてサブクローニングした後)EcoRIとXmaIで消化し、pCIneo中、EcoRI部位とXmaI部位との間にクローニングした。得られたプラスミドは、それぞれ、pCIneo1/2143およびpCIneo1/4143と称した。HNタンパク質の発現を調べるために、CER細胞またはQM5細胞をFPV−T7に感染多重度(m.o.i.)1で1時間感染させ、プラスミド類pCIneoHN、pCIneoHN2、pCIneoHN4、pCIneoHN1/2141、pCIneoHN1/2143、pCIneoHN1/4143およびpCIneoHN1/4143、そしてトランスフェクションの24時間後、その単層を室温で45分間、ニワトリ赤血球の1%PBS懸濁液で覆った。その後、その単層をPBSで注意深く3回洗浄し、トランスフェクションした細胞への赤血球の付着を顕微鏡で調べた。HNおよびFタンパク質の共発現後の細胞融合の誘導を調べるために、CER細胞またはQM5細胞を、pCIneoFwtと、pCIneo−HN1、pCIneoHN2、pCIneoHN4、pCIneoHN1/2141、pCIneoHN1/2143、pCIneoHN1/4141またはpCIneoHN1/4143のいずれかとコトランスフェクションした。2〜3日間インキュベートした後、その単層をPBSで洗浄し、Giemsa溶液(水で30倍希釈)で15分間染色し、顕微鏡で調べた。
【0146】
全鎖長ゲノムNDV cDNAへのハイブリッド−HN遺伝子のクローニング
オリゴヌクレオチドHN12a(5'−GGCCGCATATTCTAGAGTTAACGACTTA−3')とHN12b(5'−CTAGTAAGTCGTTAACTCTAGAATATGC−3')とを用いて、一つの合成リンカー(HN12と表示)をpGEM−T(Promega)のNotI部位とSpeI部位との間に挿入した。オリゴヌクレオチドHN14a(5'−GGCCGCATATTCTAGAGTTAACGA−3')とHN14b(5'−CTAGTCGTTAACTCTAGAATATGC−3')とを用いて、一つの合成リンカー(HN14)をpGEM−T(Promega)のNotI部位とSpeI部位との間に挿入した。得られたプラスミドは、それぞれ、pGEM−HN12およびpGEM−HN14と称した。これらのプラスミドをNotIとXbaIで消化し、プラスミドp535−S[Fwtc]Cmから得たNotI−SpeI断片(nt 3390〜7488)をクローニングするために使用した。得られたプラスミドは、それぞれ、pGEM−HN1/2NSおよびpGEM−HN1/4NSと称した。これらのプラスミドのHN遺伝子を、それぞれ、プラスミドpCIneoHN1/2143およびpCIneoHN1/4143から得たハイブリッドHN遺伝子で置換した(「HN遺伝子およびハイブリッド−HN遺伝子のクローニングおよび発現」のセクション参照)。この目的のために、pCIneoHN1/2143およびpCIneoHN1/4143をNheIとSmaIで消化し、プラスミドpGEM−HN1/2NSおよびpGEM−HN1/4NSのNheI部位とHpaI部位との間にクローニングして、それぞれ、pGEM+HN12およびpGEM+HN14を得た。
【0147】
後者のプラスミドを用いて、NDVの全鎖長ゲノムcDNAクローンにハイブリッドHN遺伝子を導入した。この目的のために、プラスミドpGEM+HN12およびpGEM+HN14を、NotIとSpeIで消化し、HN12またはHN14遺伝子のいずれかを含む断片を用いて、pNDFL+の対応する断片を置換し、それぞれ、pNDFL+HN1/2143CmおよびpNDFL+HN1/4143Cmを産生した。これらのプラスミドから、XbaIでの消化とそれに続くT4 DNAリガーゼを用いる再環化によってCm遺伝子を取り除いた。「6の法則」を満たすために、自己相補性オリゴヌクレオチドを用いて、これらのプラスミドの特定SpeI部位にリンカーを導入した。リンカーH2(5'−CTAGCGAGCGCTCG−3')をプラスミドpNDFL+HN1/2143に、リンカーH3(5'−CTAGCGAGCWGCTCG−3)をプラスミドpNDFL+HN1/4143に挿入して、それぞれ、プラスミドpNDFL+HN1/2143(H2)およびpNDFL+HN1/4143(H3)を産生した。
【0148】
NDV LaSotaのHNタンパク質にある特異的エピトープの削除
MAb 4D6によって認識される(Longら、1986;Meulemansら、1986)、NDV LaSotaのHNタンパク質中の特異的エピトープ、すなわちアミノ酸346〜354(PDEQDYQIR)を、この配列をAPMV−2(NRTDIQQTI)またはAPMV−4(PDPLQDQIL)のいずれかのHNタンパク質の相当する配列に置換することによって、削除した。この目的のために、プラスミドpCIneoHN(「個々のNDV遺伝子のクローニングおよび発現」のセクション参照)をテンプレートとして用いて、重複PCR断片を作製した。APMV−2配列のために、プライマー類IV01(5'−GTAGACGCGTAAGAGAGGCCGCCCCTCAAT−3')およびプライマー3HN2(5'−GATAGTTTGCTGTATATCAGTCCGATTGCATGTGTCATTGTATCGCTTGTATATCAC−3')を用いて第一PCR断片を作製した。第二PCR断片は、プライマー5HN2(5'−AATCGGACTGATATACAGCAAACTATCATGGCCAAGTCTTCGTATAAGCCTGGAGCC−3')およびNDV3−HN(5'−CGAGCCCGGGCCGGCATTCGGTTTGATTCTTG−3')を用いて作製した。得られた断片を結合させて、プライマー類IV01B(5'−GTAGGAATTCAAGAGAGGCCGCCCCTCAAT−3')およびプライマーNDV3−HNを用いる第三PCR法のためのテンプレートとして使用した。APMV−4配列のために、第一PCR断片を、プライマー類IV01およびプライマー3HN4(5'−TAAGATCTGATCTTGCAGCGGGTCAGGGCATGTGTCATTGTATCGCTTGTATATCAC−3')を用いて作製した。第二PCR断片は、プライマー5HN4(5'−CCTGACCGCTGCAAGATCAGATCTTAATGGCCAAGTCTTCGTATAAGCCTGGAGCC−3')およびNDV3−HNを用いることによって作製した。得られた断片を結合して、プライマーIV01BおよびNDV3−HNを用いる第三PCR法のためのテンプレートとして使用した。プライマー3HN2/5HN2および3HN4/5HN4は、一部相補的であり、それぞれ、HN2配列(NRTDIQQTI)およびHN4(PDPLQDQIL)のための遺伝子コードを含んでいる。PCR法は、Expand Long Template PCRキット(Boehringer Mannheim)を用いて行った。このPCR法は、94℃で10秒間、58℃で30秒間および68℃で2分間のサイクル30回、続いて68℃で4分間のサイクル1回からなっていた。PCR断片は、EcoNIとBsu36Iで消化し、pCIneoHNのEcoNI部位とBsu36I部位との間にクローニングした。得られたプラスミドは、それぞれ、pCIneoHN1(HN2e)およびpCIneoHN1(HN4e)と称した。検討した一過性発現は、修飾したタンパク質が正しく発現されて、ニワトリ赤血球を用いる赤血球吸着ウイルス試験から判断されるように、細胞表面に輸送されたことを示した。
【0149】
さらに、NDVのHNの線状エピトープに対抗するよう向けられており、アミノ酸346〜354からなる(または、少なくともそれを含む)MAb 6D4は、修飾HNタンパク質とは反応しなかった。
【0150】
プラスミドpCIneoHN1(HN2e)およびpCIneoHN1(HN4e)をNarIとSpeIで消化し、修飾HN遺伝子を含む断片を、それぞれ、pGEM−HN1/2NSおよびpGEM−HN1/4NSのNarI部位とSpeI部位との間にクローニングした。得られたプラスミド(pGEM−HN1(HN2e)およびpGEM−HN1(HN4e)と表示)をNotIとSpeIで消化し、pMDFL+中のNotI−SpeI断片と置換するのに使用した。得られたプラスミドは、それぞれ、pNDFL−HN(HN2e)CmおよびpNDFL−HN(HN4e)Cmと称した。これらのプラスミドから、XbaIで消化させて再連結することによってCm遺伝子を取り除いた。得られたプラスミドは、それぞれ、pNDFL−HN(HN2e)およびpNDFL−HN(HN4e)と称した。
【0151】
結果
NDV株LaSotaのゲノムの3'および5'末端部の塩基配列
NDVゲノムの推定3'末端の配列は、ここで用いたND株(LaSota)とは異なる株(D26)ではあるが、すでに公表されている(Ishidaら、1986)。Yusoffら(1987)は、L遺伝子およびNDV株Beaudette CのL遺伝子の背後にある比較的大きな非コード領域の配列を公表した。しかしながら、本出願に示すように、この配列には、感染性模写NDVを生成することを不可能にするウイルスゲノムの5'末端全体が含まれていなかった。マイナス鎖RNAウイルスのゲノムの3'および5'末端部は、複製および転写の基本的な機能を果たす(LambおよびKolakofsky、1996)。それゆえ、逆遺伝学による感染性ウイルスの作製(Conzelmann、1996)に使用することができる、全鎖長NDV cDNAを作製するためには、ウイルスゲノムの正確な3'および5'末端を含めることが絶対的に必須である。したがって、われわれは、3'および5'RACE法(cDNA末端の迅速増幅法)を利用して、NDV株LaSotaのゲノムRNAの3'および5'両末端の正確な塩基配列を決定した。5'末端は、一本鎖アンカープライマー(ALG3)を、ゲノムRNAの5'末端の逆転写によって産生した一本鎖cDNAに連結した後、PCR法によって回収した。アンカープライマーに相補的なプライマー(ALG4)およびNDV特異的プライマーを用いることによって、5'末端を含んだPCR生成物を産生した。
【0152】
NDVの3'末端をクローニングするために、T4 RNAリガーゼを用いて、一本鎖アンカープライマーALG3をウイルスRNAの3'末端に連結し、プライマーALG4およびNDV特異的プライマーを用いてPCRにより増幅させた(方法I)。別法としては、NDV RNAの3'および5'末端を、T4 RNAリガーゼを用いて互いに連結し、得られたコンカテナン(concatenated)RNAを、連結点をそばに置いたNDV特異的プライマーを用いるRT−PCR法に使用した(方法II)。3'および5'RACE生成物は、TベクターpBluescriptII−TSK(IchiharaおよびKurosawa、1993)またはpGEM4Zの中にクローニングし、数個の独立したクローンを単離し、塩基配列を決定した。結果は、表2にまとめてある。
【0153】
3'および5'末端の直接の比較を可能にするために、塩基配列はDNAの形で示し、ゲノム鎖の3'末端は、アンチゲノム鎖の5'末端として表示する。ゲノムRNAのレベルでは、3'末端は、3'−UGGUUUGUCUCUUAGと読める。一方、5'末端の配列は、UUUAGAAACAAACCA−5'と読める。この3'末端の配列は、公表されたNVD株D26の3'末端配列(Ishidaら、1986)にほぼ類似している。しかしながら、5'末端の配列は、NDV株LaSotaが、NDV株BeaudetteCのL遺伝子の公表された配列(Yusoffら、1987)と比較すると、64個の塩基が余計に存在することを示した(図6)。
【0154】
ヘルパーウイルスによるNDVミニゲノムの複製
NDVの3'および5'末端が複製および転写に機能しているかどうかを決定するために、NDVの3'末端(nt 1〜119)、分泌アルカリホスファターゼ(SEAP)をコードしているレポーター遺伝子およびNDVの5'末端(nt 14973〜15186)からなったミニゲノムを構築した(図2)。
【0155】
これらのミニゲノムを、転写ベクターpOLTV5中で両方向にクローニングして、それぞれ、プラスミドpOLTV535およびpOLTV553を産生した(構築の詳細は「材料および方法」参照)。プラスミドpOLTV5(図1)には、T7 RNAポリメラーゼプロモーターが含まれ、その結果、特異StuIおよびSmaI制限部位、D型肝炎ウイルス由来の自己触媒リボザイムおよびバクテリオファージT7由来の転写終結シグナルが含まれている(Pattnaikら、1992)。プラスミドpOLTV535のT7 RNAポリメラーゼを用いるインビボまたはインビトロの転写により、アンチゲノムRNA(または[+]−RNA)が生成し、一方、プラスミドpOLTV553の転写では、ゲノムRNA(または[−]−RNA)が生成する(図5)。
【0156】
プラスミドpOLTV535およびpOLTV553によって産生したミニゲノムRNAが、ヘルパーウイルスとしてNDVを用いることによって複製されかつ発現されるかどうかを調べるために、構成的に(CER−C9細胞、「材料および方法」参照)、またはT7 RNAポリメラーゼを発現する鶏痘組換え体fpEFLT7pol(Brittonら、1995;以後FPV−T7と称す)で感染させた後にT7 RNAポリメラーゼを発現したCER細胞を使用した。CER−C9細胞およびFPV−T7感染CER細胞を、ミニゲノムプラスミドpOLTV535およびpOLTV553でトランスフェクションし、37℃で3時間インキュベートした後、細胞を、1時間NDVに感染させるか、または未感染のままに放置した。トランスフェクションの約24時間後、培地から細胞を採取して、SEAP活性を検定した。結果は、pOLTV535でトランスフェクションしたFPV−T7感染細胞においてSEAP発現が非常に高いことを示した。これは驚くべきことではない。何故なら、T7 RNAポリメラーゼによる転写により、アンチゲノム[+]−RNAが生成し、これが鶏痘酵素によってキャップを付けられ、宿主細胞によって効果的に翻訳されるからである。pOLTV553でトランスフェクションした細胞において、T7 RNAポリメラーゼによる転写によって、ゲノム[−]−RNAが生成するが、これがSEAPタンパク質に翻訳されるためには、ヘルパーウイルスによって[+]−RNAに変換されねばならない(図5参照)。両方の場合に、非感染性細胞と比較して、NDV感染細胞におけるSEAP発現の増加は認められなかった。反対に、NDV感染細胞のSEAP発現は、非感染細胞におけるよりも常に約2倍低かった(データは示さず)。pOLTV535をトランスフェクションした細胞に関しては、これは、T7 RNAポリメラーゼによって作り出された転写によるSEAP発現のレベルがすでに非常に高いことで説明できるかもしれない。
【0157】
しかしながら、pOLTV553でトランスフェクションした細胞において、ここではSEAPの効果的な発現がウイルスポリメラーゼ複合体によるアンチゲノム[+]−RNAまたはmRNAへのゲノム[−]−RNAの転換に依存しているが、われわれはNDV感染後のSEAP発現の増加を期待したのであった。
【0158】
われわれは、このミニゲノムがNDVによって発現され、複製されることがなかった二つの理由を考慮することができる。第一に、ミニゲノムRNAの大きさがいわゆる「6の法則」(CalainおよびRoux、1993;Kolakofskyら、1998)に従っていないことである。この法則によれば、パラミクソウイルスゲノムは、その長さが6の倍数のntであるときにのみ、効果的に複製されるのである。第二に、ミニゲノムRNAの5'末端に存在する2個の余分のG残基が、ウイルスポリメラーゼ複合体による正しい複製および/または転写を妨害するのかもしれない。ゲノムの複製が「6の法則」に依存しているかどうかを確認するために、われわれは、サイズで1ntだけ大きくした短い自己相補オリゴヌクレオチドの1系列を、ミニゲノムプラスミドpOLTV535およびpOLTV553の特異的ClaI部位に挿入した(図2)。得られたプラスミド(pOLTV535N0〜N5およびpOLTV553N0〜N5)は、サイズが1〜6ntだけ異なっており、したがってそれらの一つによって、「6の法則」に合致するミニゲノムRNAが生成するに違いない。これらのプラスミドを用いて、上に記載したように、CER細胞またはFPV−T7感染CER−C9細胞をトランスフェクションした。その結果、プラスミドpOLTV535N3およびpOLTV553N3だけがNDV感染後のSEAP活性の上昇を引き起こした。これらのプラスミドからT7 RNAポリメラーゼによって生成したミニゲノムRNAの長さは、計算すると6n+2であった。ミニゲノムRNAの5'末端には2個の余分のG残基が存在するので、これらの結果は、ミニゲノムRNAの真正の3'末端と5'末端の間に存在するRNA配列のサイズだけが「6の法則」に関係していることを示唆している。このことは、T7 RNAポリメラーゼの転写開始を、RNAに組み入れた最初のヌクレオチドがNDVの3'または5'末端のヌクレオチドとなるように変えたミニゲノムプラスミドを構築することによって確認された(「材料および方法」参照)。これらのプラスミドのトランスフェクションは、プラスミドpOLTV735N3およびpOLTV753N3によって生成したミニゲノムRNAだけがヘルパーウイルスによって複製されることを示した(実験結果は示さず)。これらの発見は、再度、NDVの複製が6の法則に厳密に依存していることを示唆している。さらに、これらの発見は、ミニゲノムRNAの5'末端にある余分のG残基2個は正確な複製を妨害しないことを示している。他のパラミクソウイルス科由来のミニゲノムプラスミド(またはDIプラスミド)でも同様の結果が得られた(Pattnaikら、1992;HartyおよびPalese、1995)。
【0159】
ヘルパーウイルスによるNDVミニゲノムのパッケージング
ミニゲノムRNAがNDVヘルパーウイルスでパッケージされるか否かを決定するために、トランスフェクションした細胞の培地を新しい単層に移し、1時間の吸着の後、その単層をPBSで3回洗浄し、さらに完全培地でインキュベートした。24時間のインキュベーションの後、培地中のSEAP活性を測定した。その結果、SEAP活性はミニゲノムプラスミドpOLTV553N3でトランスフェクションした細胞からの培地で処理した細胞にだけ存在することが判った(表4)。この発見は、ミニゲノムRNAが、NDVエンベロープにパッケージされ得ることおよびこれらの粒子が細胞を感染させ得ることを示している。さらに、これらの結果が示していることは、パッケージングが複製に依存していることであり、このことは、ウイルス性NP、PおよびLタンパク質と複合体を形成するRNA分子だけがウイルス様粒子にパッケージされることを示している。
【0160】
NP、PおよびLタンパク質を発現するプラスミドによるNDVミニゲノムの複製
ミニゲノムRNAも基本的なNP、PおよびLタンパク質をコードしているプラスミドによって複製されるかどうかを決定するために、われわれは、FPV−T7に感染した細胞でコトランスフェクション実験を行った。ミニゲノムプラスミドならびに、それぞれ、プラスミドpCIneoNP、−Pおよび−L(c)からなるプラスミドの組み合わせで細胞をトランスフェクションした。ネガティブコントロールとして、pCIneoL(c)(基本的Lタンパク質をコードしている)を、ベクタープラスミドpCIneoで置換した。その結果(表5)、NP、PおよびLタンパク質をコードしているプラスミドは事実、ミニゲノムRNAを複製し得ることが判明した。さらにこれらの結果は、ヘルパーウイルスによるミニゲノム複製に類似して、NP、PおよびLタンパク質による複製もまた、6の法則に依存していることを示している。
【0161】
NDV株LaSotaの全ゲノムの塩基配列
全NDVゲノムに亘るサブゲノムcDNA断片をRT−PCR法によって構築した(図4)。PCRエラーの数を最小限に保つために、プルーフリーディング酵素ミックス(Expand Long Template;Boehringer Mannheim)を、限られた回数のPCRサイクル(15サイクル)と組み合わせて使用した。NDV RNAの3'末端に相補的であるプライマー3UITを逆転写のために使用し、そして遺伝子特異的プライマーをPCR法のために使用した。起こり得るPCRエラーを確認するために、3つの独立したRT反応を行い、サブゲノムcDNAの3つの独立した組を作製した。サイズにおいて約4kbから7kbまでばらついているcDNAをpGEM−T中にクローニングした。公表されたNDV配列から引き出したプライマーを用いることによって、あるいはこの配列決定プロジェクトの間に引き出されたNDV配列から取り出したプライマーによって、二組のcDNAの塩基配列を決定した(表1)。残っている不確かさは、第3組のcDNAクローンの相当領域の配列決定をすることで解消した。NDV株LaSotaのゲノムは、15186ntからなっている(図3)が、これは、このゲノムが、今日までに全配列が確立されたパラミクソウイルスゲノム全体の中で最小のゲノムであることを示している(Kolakofsky、1998)。
【0162】
転写プラスミドpOLTV5中の全鎖長NDV cDNAクローンの構築
NDV株LaSotaの全鎖長cDNAクローンを構築するために、図4に示されている戦略に従って、全NDVゲノムに亘る重複cDNAクローンを共有制限部位で結合した。転写プラスミドpOLTV5から導出されるミニゲノムプラスミドpOLTV535(上記参照)の中に全NDV cDNAを集めた。
【0163】
図4Bに見られるように、全NDV cDNAの構築の最終段階は、pGEM−Bから得た約8.8kb ClaI(nt 3521〜12355)断片を、両側にCalI部位を配置しているNDV配列(すなわち、それぞれ、nt 1〜3521および12355〜15186)を含んだp535−DIにクローニングすることであった。この段階は、非常に困難であることが判った。われわれは、正確なクローンを産生することに何度も失敗した。そこで、pGEM−BのClaI断片に、プラスミドpACYC184から得たクロラムフェニコール抵抗性(Cm)遺伝子を標識として付けた。Cm遺伝子を持つClaI断片を単離して、p535−DIのClaI部位にクローニングし、CmとKm両者に対して抵抗する形質変換体を選び出した。形質変換体は、増殖が遅いので、抗生物質の選択を、Cmは15μg/ml、Kmは10μg/mlに落とし、インキュベーション温度を37℃から32℃に下げた。最後に、このプラスミドからCm遺伝子を、BsiWIでの消化とそれに続くT4 DNAリガーゼを用いる再環化で除去した。E.coliの形質転換の後、Cm感受性の両方についてスクリーニングすることによって、適切なプラスミドを持つ細胞を、表現型によって同定した。転写プラスミドpOLTV5のSmaI部位とStuI部位との間にクローニングした全鎖長NDV cDNAからなる、得られたプラスミドをpNDFL+と称した。
【0164】
全鎖長cDNAからの感染性NDVの産生
クローニングしたcDNAだけから感染性NDVを産生するために、ミニゲノムプラスミドについて上に記載したように、pCIneoNP、−Pおよび−L(c)を用いるコトランスフェクション実験において、プラスミドpNDFL+を使用した。ミニゲノムプラスミドpOLTV553N3を用いること、およびSEAP発現を測定することによってCERおよびCEF細胞のトランスフェクションを監視した。ネガティブコントロールとしては、pCIneoL(c)をpCIneoに置換した。コトランスフェクションの後、5%尿膜腔液を含む培地で3〜6日間細胞をインキュベートした。尿膜腔液の添加は必要である。なぜなら、CERおよびCEF細胞は、NDV株LaSotaのFタンパク質を切断するために必要とされる適当なプロテアーゼを欠いているからである。
【0165】
Fタンパク質の開裂は、感染性ウイルスの細胞から細胞への伝播および産生のために絶対必要である。3日間のインキュベーションの後、われわれは、Fタンパク質に対するモノクローナル抗体を用いて固定単層の免疫学的染色を行った。その結果、抗体で染色した細胞はpNDFL(+)、pCIneoNP、−PおよびL(c)でトランスフェクションした単層にのみ存在することが判明した。この結果は、ゲノムの複製および発現がこれらの細胞で起こっていることを示した。コトランスフェクション実験でpCIneoL(c)をpCIneoに置換した場合には、染色した細胞は認められなかった。
【0166】
感染性ウイルスを回収するために、トランスフェクションしたCEF単層の上清を有胚鶏卵の尿膜腔に注入した。4日後、尿膜腔液を採取し、血球凝集反応検定法で分析し、さらに卵中で経代培養した。その結果、pNDFL(+)、pCIneoNP、−Pおよび−L(c)の複合体でトランスフェクションした細胞の上清だけが、血球凝集検定法で陽性の反応を示した。血球凝集反応陽性を示した尿膜腔液は、続いて、異なるNDV株間を区別するのに使用することのできるモノクローナル抗体7B7、8C11、5A1、7D4および4D6(Longら、1986)を用いて、血球凝集抑制検定法で分析した。この検定法の結果では、接種した卵から回収したNDV株は、元のLaSota株と同じ活性を示した。接種した鶏卵から回収したウイルスは、元のLaSota株からのものと区別するためにNDFLと称した。
【0167】
完全長cDNAからの遺伝的に修飾したNDVの作成
共存形質移入(コトランスフェクション)を用いて、クローニングした完全長のNDVのcDNAから感染性ウイルスを回収することができることをはっきりと示すために、プラスミドpNDFL(+)に遺伝子タグを導入した。この目的のために、PCRの変異誘発(詳細は材料と方法の項参照)によって、Foタンパク質におけるプロテアーゼ切断部位のアミノ酸配列を、LaSota株の配列(GGRQGR/L)から毒性NDV株のコンセンサス配列(GRRQRR/F)に変更した。上記共存形質移入システムを用いて、ウイルスを作成するために、出来上ったプラスミドpDNFL+[Fwt]を使用した。共存形質移入したCEF細胞の培養液を接種した胚含有卵の尿膜腔液から感染性ウイルスを回収した。HI試験では、LaSota株に特異的な7D4を含むあらゆるMAbは、新しく作成したウイルスとの間で元々のLaSota株との反応性と同一の反応性を示した。Fタンパク質のプロテアーゼ切断部位をコードする領域の核酸配列はRT−PCRによって決定した。結果は当該核酸配列が、元々のLaSota配列を修飾するのに使用された変異プライマーに導入された核酸の正確な変更を含むことを示した。この知見は、当該ウイルスがプラスミドpDNFL+[Fwt]に由来することを示し、(遺伝的に修飾された)NDVが、クローニングした完全長NDVcDNAから完全に作成できることを明らかにしている。NDVのFoタンパク質のプロテアーゼ切断部位は毒性に対する鍵となる決定基である。
【0168】
一般的に、Foタンパク質のプロテアーゼ切断部位におけるアミノ酸配列は、様々なNDV株における毒性にとって鍵となる決定基であると思われている。プロテアーゼ切断部位のアミノ酸配列を遅現性(非毒性)から速現性(毒性)のNDV株の配列に変更した遺伝的に修飾したLaSota株の作成によって、この仮定を試す独特の機会が提供された。従って、新しく作成したウイルスNDFL[Fwt]の大脳内病原性指数(ICPI)を測定し、NDFL株及びLaSota株(クローンE13−1)のICPIと比較した。その結果、NDFL[Fwt]のICPIは1.3であり、NDFL(ICPI=0.0)及びクローンE13−1(ICPI=0.3)株の値よりもはるかに高いことが示された。このような結果は、予想通り、NDVの毒性はFoタンパク質におけるプロテアーゼ切断部位のアミノ酸配列によって大きく左右されることを示している。
【0169】
血清学的なマーカーの導入
NDVにおける包膜糖タンパク質F及びHNはウイルスで最も免疫原性のあるタンパク質である。感染後、F及びHNタンパク質は、強い抗体中和反応を引き出す。そのような抗体中和反応の誘導は、(広く用いられているLaSota株のような)非毒性NDV株によるワクチン接種が上手く行く基礎となる。
【0170】
しかしながら、NDVワクチン株に対する抗体反応は毒性のあるNDV野生株に対する抗体反応と区別することができない。従って、血清学的な方法によって毒性のある野生株による感染を追跡することはできない。野生型ウイルスによる感染がワクチン接種により隠され、野生株によって起きた臨床的な徴候が見落とされる可能性があり、又はワクチンのせいにすらされるので、この状況は望ましくない。ワクチン接種と感染を上手く区別することは、NDV撲滅には必須のことなので、我々は、ワクチン接種に使用することができ、NDV野生株と血清学的に区別できるような遺伝的に修飾したNDVの開発に乗り出した(いわゆる標識ワクチン)。
【0171】
NDV標識ワクチンを開発するために、(主要な)抗原の1つで1個又は数個の免疫的に優勢なエピトープを欠失する、又は修飾することができるようにウイルスは遺伝的に修飾されなければならない。必須タンパク質部位の欠失は、当該タンパク質の生物機能を損なう可能性がある。従って、我々は、タンパク質の生物機能を保ったままで、修飾したタンパク質に対する抗体のレパトアが元々のタンパク質に対するものとは異なるような方法で、NDVの免疫的に優勢な包膜タンパク質の1つを修飾することを選択する。以下に特定するような理由で、我々は発明の実施態様を1つ選択し、NDVのHNタンパク質を修飾する。NDVの感染は、宿主細胞の原形質膜とビリオン包膜との融合によって開始する。この工程のためにFタンパク質とHNタンパク質の両方が必要となる。Fタンパク質とHNタンパク質は物理的に相互作用し、この相互作用には膜の融合が必要であることが明らかにされている(Deng et al., 1995)。その上、その相互作用は型特異的である、即ち、F及びHNタンパク質は、融合活性を示すには同一ウイルスに由来しなければならないことが示されている。NDVにおけるHNタンパク質の相互作用するドメインはタンパク質のいわゆる柄領域又は茎領域に位置し、HNタンパク質の外部ドメインである92個のアミノ酸配列を含んでいる(Deng et al., 1995)。NDVのアミノ酸1〜141とヒトのパラインフルエンザ3型のアミノ酸141〜572(hPIV3)から成るハイブリッドHNタンパク質は、NDVのFタンパク質と共に共存発現させた場合、融合活性を保持していることが示された。このような知見は、NDVの柄領域とそれに続く別の鳥類のパラミクソウイルスの血清型のHNタンパク質の球状頭部から成るハイブリッドHNタンパク質を抱く遺伝的に修飾されたNDV株が生存可能であることを示唆している。
【0172】
更に、そのような株はNDVとは異なった抗HN抗体反応を引出す。Fタンパク質に対する中和抗体反応は、ウイルス感染のチャレンジに対して効果的に防御できるほど十分なので、そのような遺伝的に修飾されたNDV株は、標識ワクチンに必須の2つの必要事項、即ち、疾患に対する防御と血清学的な区別を満たしている。
【0173】
NDVのアミノ酸1〜141及び鳥類パラミクソウイルス2型のアミノ酸142〜580(APMV2)(HN1/2141と命名)又はNDVのアミノ酸1〜143及びAPMV2のアミノ酸144〜580(HN1/2143と命名)のどちらかの融合から成るハイブリッドHN遺伝子を構築した。
【0174】
同様に、NDVのアミノ酸1〜141及びAPMV4のアミノ酸143〜569(HN1/4141と命名)又はNDVのアミノ酸1〜143及びAPMV4のアミノ酸145〜569(HN1/4143と命名)のどちらかの融合から成るハイブリッドHN遺伝子を構築した。有核細胞の発現ベクターpCIneoでハイブリッド遺伝子をクローニングし、NDVのFタンパク質を含むプラスミドと共に共存形質移入実験に用いた。この目的で、F2とF1の間のタンパク質分解切断部位をLaSota配列から毒性NDV株のコンセンサス配列(材料と方法の項を参照)のものに変更するようにFタンパク質を修飾した。CEF細胞及びQM5細胞における共存形質移入実験によって、HN1/2141及びHN1/2143の両方共、HN1/4141及びHN1/4143同様に、Fwtタンパク質と共に共存発現させた場合、細胞融合を誘導することが示された。このような結果は、ハイブリッドHNタンパク質とFタンパク質との複合体が生物活性を持つことを示している。ハイブリッドHNタンパク質HN1/2143及びHN1/4143を用いて、完全長クローンpNDFL+における元々のHN遺伝子と入れ替え、pNDFL−HN1/2143及びpNDFL−HN1/4143を得た。上記共存形質移入システムを用いて、感染性ウイルスを作成するために続いて後者2つのプラスミドを使用した。形質移入した単層培養細胞の培養上清を接種した胚含有卵の尿膜腔液から生きた組換えウイルス(NDFL−NH1/2143及びNDFL−HN1/4143と命名された)を単離することができた。
【0175】
各2つの組換え産物におけるハイブリッドHN遺伝子の存在はRT−PCRによって確認した。赤血球凝集抑制試験によって、NDVに対するモノクローナル抗体及び多価抗血清は組換えウイルスNDFL−NH1/2143及びNDFL−HN1/4143によるニワトリ赤血球の凝集を阻止できないことが示された。このような結果は、従来のNDVワクチンとは血清学的に区別することができるワクチンとしてNDFL−NH1/2143及びNDFL−HN1/4143株を使用してもよいことを示している。
【0176】
組換えNDVからのヘテロ接合体タンパク質の発現
外来遺伝子をNDVゲノムに挿入することができるかどうかを調べるために、我々は、SEAPリポーター遺伝子を持つ組換えウイルスを構築した。SEAP遺伝子は、プラスミドpOLTV535に由来し、NDVの典型的な転写開始ボックスと転写停止ボックスを含むように修飾した。転写開始ボックスと転写停止ボックスが後に続いたSEAP遺伝子を含むDNA断片をプラスミドpNDFL+[Fwt]のXmnI部位(nt109)に挿入した。共存形質移入システムによってNDFL−APと命名した感染性ウイルスを作成し、RT−PCRによってSEAP遺伝子の存在を確認した。NDFL−AP株を感染させた細胞は、極めて高いレベルでSEAPタンパク質を発現した。SEAPタンパク質の比活性を用いて、我々はNDFL−APを感染させた細胞に発現されているタンパク質のx%がSEAPタンパク質から成っていることを算出した。このような結果は、組換えNDVから極めて高いレベルでヘテロ接合体遺伝子が発現されうることを示している。
【0177】
トランス型相補性細胞株におけるNDV欠失変異の作成
NDVのMタンパク質の発現を除くために、BsaAI(nt3087)によるpNDFL+[Fwt]の消化とその後のHindIII(nt4252)による部分消化によってM遺伝子の大部分を削除した。HindIII末端をKlenowDNAポリメラーゼで埋めた後、T4DNAリガーゼによって再び環状化し、E.coliを形質転換するのに用いた。pNDFL+[Fwt]dMと命名された出来上ったプラスミドを用いて、NDVのMタンパク質を発現しているトランス型相補性のCER−M細胞において共存形質移入によってウイルスを作成した。形質移入した単層培養細胞の培養上清でCER−M細胞を3回継代し、ウイルスの存在を分析した。3回継代した培養上清が赤血球凝集試験(HA)及び赤血球凝集抑制試験(HI)の陽性結果を生じたということを証拠としてウイルスが得られた。ウイルスをNDFL−dMと命名した。NDFL−dMを用いて単層CEF細胞に感染させた場合、Fタンパク質に対するモノクローナル抗体を用いてIPMAで見られるように、ウイルスは依然として細胞から細胞への伝染することによって広がっていくことができた。予想通り、Mタンパク質に対するモノクローナル抗体を用いたIPMAではMタンパク質の発現を明らかにすることはできなかった。培養上清を用いてCEF細胞又はCEF−M細胞に感染させた場合、IPMAによってこのような単層培養細胞において複製しているウイルスの存在を示すことはできなかった。このような知見は感染性ウイルスは非相補性CEF細胞では作られなかったことを示している。感染させたCEF細胞から得た培養上清を接種した胚含有卵では、HA試験又はHI試験で調べたとき、子孫ウイルスを生じなかったという観察によってこの知見は裏付けられた。
【0178】
より良いNDVワクチンの必要性、及び特にNDV標識ワクチンの必要性に促されて我々は、遺伝的修飾ができる逆遺伝システムを開発した。本明細書で我々は、クローニングした完全長cDNAに完全に由来する感染性NDVの作成を記載する。我々は、Fタンパク質のプロテアーゼ切断部位の特異性を決定するたった3個のヌクレオチドによってNDVの毒性を劇的に変えられることを明らかにする。この場合、プロテアーゼ切断部位は、LaSota株の切断部位から毒性NDV株のコンセンサス切断部位のプロテアーゼ切断部位に変更した。この遺伝的に修飾されたNDV株を作成するために、我々は、Fタンパク質の切断可能性が鍵となる決定基(しかし唯一の決定基ではない)であるという公式な証明を届ける。同じ逆遺伝学的アプローチを用いて、切断部位を意のままに他のいかなるアミノ酸配列にも変更することができる。これによって毒性レベルのスペクトルを呈する一連のNDV株の作成が導かれる。
【0179】
in vivo(生体内)
既に上述したように、F及びHMタンパク質の切断可能性のほかに、他のウイルス因子が病原性に寄与している可能性があることが示されている。転写及び翻訳における改変がウイルス及び又は細胞病原性の増殖や細胞から細胞への広がりに介在する可能性がある。NDVの感染性cDNAによって転写や複製を含む配列の酵素的な改変ができるようになる。これによって現実には存在しない毒性への最適な免疫原性を保った新しいNDVワクチンの設計が導かれる可能性がある。
【0180】
安全性は生ワクチンの最も重要な特徴の1つである。しかしながら、NDVを含めて多くの生ワクチンでは、免疫原性は逆に毒性に関係することが多い。従って、免疫原性を失わずに生ワクチンをさらに減毒化することは、遺伝的修飾を使用することができる改変の最も所望のものの1つである。この点に関して、センダイ・ウイルスのVタンパク質の発現を除くことによってマウスにおけるin vivo病原性を著しく低下させたというのは価値ある記述である(Kato et al., 1997)。センダイ・ウイルスと同様に、NDVもまたRNA編集として知られるメカニズムによってVタンパク質を生じる(Steward et al., 1993)。NDVのVタンパク質の発現を除くことによってもin vivoで減毒化された表現型を生じる可能性があることが予測可能である。
【0181】
NDVの毒性の変更とは別に、我々は、NDV野生株と血清学的に区別できる株を作成できるような方法で、NDVの抗原の性質を修飾することが可能であることを明らかにする。このような所謂、標識ワクチンは、世界中の商業的な群集団におけるNDVの流行を見極めるのに貴重なツールである。
【0182】
更に、そのような標識ワクチンを大規模に適用するということは、徹底的なスクリーニング過程と感染した群れの一掃することによって完全な撲滅を導くことになる。本明細書で我々は、外来遺伝子をNDVのゲノムに挿入できることを明らかにする。このような外来遺伝子は、感染細胞に極めて高レベルで発現されうる。このことは、他の(トリの)病原体に由来する抗原を発現するためにワクチン・ベクターとしてNDVを使用できることを示している。いくつかの特徴によってNDVは、呼吸器疾患又は腸疾患に対するワクチン接種にとって理想的なワクチン・ベクターとなっている。 1)NDVは、胚含有卵において極めて高い力価で容易に培養することができる。 2)胚含有卵におけるNDVの大量培養は比較的安価である。3)NDVワクチンは相対的に安定であり、飲み水への添加、スプレー又はエアゾール形状によって簡単に投与することができる。4)NDVの自然感染経路は呼吸器及び/又は腸管によるものであり、それは、他の多くの鳥類病原体の主要な自然感染経路である。5)NDVは、循環する母体抗体が存在するにもかかわらず、局所免疫を誘導することができる。
【0183】
最後に我々は、トランス型相補性細胞株を用いて、NDVの可変欠失変異を作成することができることを明らかにする。内細胞膜でのNDVの出芽に関与するマトリックス(M)タンパク質を発現できないNDV欠失変異を作成した。我々は、Mタンパク質を発現できない、表現型上相補性のあるNDV株が、依然として細胞に感染することができ、細胞から細胞への伝染によって広がることができることを明らかにする。しかしながら、変異ウイルスは、非相補性細胞では感染性の子孫を生じることはできない。この知見は、表現型の上で相補性のあるNDV欠失変異体は、環境に広がることができない安全な自己制約的ワクチンとして使用してもよいことを示している。そのような非伝染性ワクチンは、例えば安全性のような、例えば死菌ワクチンの最も重要な利点を伴った有効性のような、生ワクチンの最も重要な利点を兼ね備えている。
【0184】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【0185】
【表2−1】

【表2−2】

【0186】
【表3】

【0187】
【表4】

【0188】
【表5】

【0189】








【特許請求の範囲】
【請求項1】
鳥類パラミクソウイルス(Paramyxovirus)の感染性コピー生成を可能とする鳥類パラミクソウイルス・ゲノムの5'-末端に相当する核酸配列を少なくとも含んでなる鳥類パラミクソウイルスcDNA。
【請求項2】
完全長cDNAを含んでなることを特徴とする請求項1記載のcDNA。
【請求項3】
複製鳥類パラミクソウイルス・ミニゲノム生成を可能とする鳥類パラミクソウイルス・ゲノムの5'-末端に相当する核酸配列を少なくとも含んでなることを特徴とするcDNA。
【請求項4】
ニューカッスル病ウイルスから少なくとも一部由来することを特徴とする請求項1、2または3記載のcDNA。
【請求項5】
前記ニューカッスル病ウイルスが長潜伏期性ウイルス、好ましくはワクチン株由来のものであることを特徴とする請求項4記載のcDNA。
【請求項6】
前記ワクチン株がラソタ(LaSota)株ATCC VR−699であることを特徴とする請求項5記載のcDNA。
【請求項7】
さらに核酸内に修飾を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のcDNA。
【請求項8】
前記修飾が修飾プロテアーゼ切断部位をエンコードする核酸を含んでなることを特徴とする請求項7記載のcDNA。
【請求項9】
前記切断部位が融合(F)タンパク質のプロテアーゼ切断部位であることを特徴とする請求項8記載のcDNA。
【請求項10】
前記修飾がハイブリッド・ウイルスタンパク質をエンコードする核酸を含むことを特徴とする請求項7記載のcDNA。
【請求項11】
前記タンパク質が赤血球凝集素−ノイラミニダーゼ(HN)タンパク質であることを特徴とする請求項10記載のcDNA。
【請求項12】
前記修飾がウイルスタンパク質をエンコードする核酸において欠失を含むことを特徴とする請求項7記載のcDNA。
【請求項13】
前記ウイルスタンパク質がマトリックス(M)タンパク質であることを特徴とする請求項12記載のcDNA。
【請求項14】
異種抗原をエンコードする核酸をさらに含むことを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載のcDNA。
【請求項15】
前記抗原が家禽病原に由来することを特徴とする請求項14記載のcDNA。
【請求項16】
免疫刺激タンパク質またはその部分をエンコードする核酸をさらに含むことを特徴とする請求項14または15記載のcDNA。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれかに記載のcDNAから得られるRNA。
【請求項18】
請求項1ないし16のいずれかに記載のcDNAを少なくとも1つの細胞にトランスフェクションすることを含む感染性コピー・鳥類パラミクソウイルスの生成方法。
【請求項19】
前記細胞がウイルス・ヌクレオカプシド(NP)、ホスホ−(P)または大型ポリメラーゼ(L)タンパク質を少なくとも発現し得るものであることを特徴とする請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記ウイルスの融合タンパク質切断を可能とすることをさらに含むことを特徴とする請求項18または19記載の方法。
【請求項21】
タンパク質分解活性を含む増殖培地中で前記細胞をインキュベートすることをさらに含むことを特徴とする請求項18ないし20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
前記増殖培地が前記タンパク質分解活性を有する尿膜液を含むことを特徴とする請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記細胞がニワトリ細胞由来のものであることを特徴とする請求項18ないし22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
請求項18ないし23のいずれかに記載の方法により得られる感染性コピー・鳥類パラミクソウイルス。
【請求項25】
請求項24記載のウイルスを含んでなるワクチン。
【請求項26】
請求項25記載の生ワクチン。
【請求項27】
前記感染性コピー・鳥類パラミクソウイルスがニューカッスル病ウイルス(NDV)に少なくとも部分的に由来するものであることを特徴とする請求項25または26記載のワクチン。
【請求項28】
未予防接種動物または請求項27記載のNDVワクチンを接種した動物を、野生型NDVに感染した動物または未修飾亜病原性または長潜伏期性NDV株を接種した動物から識別する方法であって、最少量の1サンプルを前記動物から採取し、前記サンプルについて、前記野生型または未修飾NDVによって発現されるが、前記ワクチンによっては発現されない免疫優性エピトープまたはマーカーに対する抗体の存在を決定することを含んでなる方法。
【請求項29】
前記抗体がNDVのHNまたはFタンパク質に対するものであることを特徴とする請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記動物が家禽類からなる群から選択される、好ましくはニワトリであることを特徴とする請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
請求項28ないし30のいずれかに記載の方法に使用する診断キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3−1】
image rotate

【図3−2】
image rotate

【図3−3】
image rotate

【図3−4】
image rotate

【図3−5】
image rotate

【図3−6】
image rotate

【図3−7】
image rotate

【図3−8】
image rotate

【図3−9】
image rotate

【図3−10】
image rotate

【図3−11】
image rotate

【図3−12】
image rotate

【図3−13】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B−1】
image rotate

【図4B−2】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−261387(P2009−261387A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23349(P2009−23349)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【分割の表示】特願2005−347888(P2005−347888)の分割
【原出願日】平成11年6月17日(1999.6.17)
【出願人】(500579327)イーデー−レーリスタット,インスティチュート フォール ディールハウデレイ エン ディールゲゾントヘイト ベー.フェー. (2)
【氏名又は名称原語表記】ID−Lelystad,Instituut voor Dierhouderij en Diergezondheid B.V.
【住所又は居所原語表記】Edelhertweg 15,Lelystad,the Netherlands
【Fターム(参考)】