説明

ニューロモーフィック回路

本発明の実施形態は、2つ以上の内部ニューロン計算ユニットを含むニューロモーフィック回路に向けられている。各内部ニューロン計算ユニットは、同期信号を受信するための同期信号入力と、入力信号を受信するための少なくとも1つの入力と、出力信号を送信するための少なくとも1つの出力を備える。メムリスティブシナプスは、第1の組をなす1つ以上の内部ニューロンからの出力信号を伝送する出力信号線を、第2の組をなす1つ以上の内部ニューロンに信号を伝送する入力信号線に接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2008年3月14日に提出された仮出願第61/036,864の利益を得ることを請求するものである。
本発明は、エレクトロニクス及びコンピュータハードウェア、特に、ニューロモーフィック回路(または神経形態回路。以下同じ)におけるシナプス様接合の物理特性の変化を通じて機械学習を行うための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ計算の歴史の初期には、コンピュータ科学者は、人間の脳を含む生物学的計算構造に興味を持つようになった。逐次(または順次)命令処理エンジンは、過去50年の間、プロセッサ速度及び部品密度の大幅な向上と共に技術的に急速に発展し、これらの進歩には、大容量記憶装置及びランダムアクセスメモリの容量及びアクセス速度の一層の向上が伴い、逐次命令処理エンジンに基づく現代のコンピュータシステムは、広範な実用性を提供すると共に、デジタルコンピュータの開発前には想像もつかなかった全く新しい産業を生み出ている。しかしながら、最大規模で最高速度の分散コンピュータシステム及びネットワークをもってしても未だ有効に解決できないみかけ上は簡単な多くの問題が存在する。1つのささいな例は、写真及びビデオ画像の理解(または解釈)である。人間は、しばしば、1秒足らずの間写真をちらっと見ただけで、2次元の写真によって表されている、対象物(または物体)、対象物の相互関係、及び、対象物の空間的構成(または配置)を正確に理解することができるが、一方、写真画像をこれと同等に理解することは、最も巧妙に設計されたアルゴリズムを実行する最大規模のコンピュータシステムの能力をもってしても不可能である。さらに、処理能力及び特徴密度(feature density。または集積度)は、2年毎に急速に2倍向上してきた(これは、「ムーアの法則」と呼ばれ、コンピュータの進歩を特徴付けてきた)が、この向上の傾斜がフラットになり始めており、特徴サイズがさらに小さくなることによって、今や物理的な制限や実用上の制約に直面している。これらの制限及び制約には、信号線が小さくなるにつれて電気抵抗が増加すること、特徴サイズが小さくなると特徴の容量が大きくなるためにより多くの熱量を発生するプロセッサから熱を除去することがさらに難しくなること、並びに、一層小さくなる特徴を製造する際に直面する困難さ、及び、さらに小さくなる特徴サイズのための製造施設並びに製造方法を設計することの困難さのために、プロセッサ及びメモリコンポーネントの欠陥及び故障率が高くなることが含まれる。
【0003】
集積回路内の特徴サイズがこれ以上小さくなると困難性が増すことがわかっているので、集積回路ベースの電子デバイスの計算能力(またはデータ処理能力。以下同じ)を高めるための様々な代替のアプローチが利用され始めてきた。1例として、プロセッサのベンダーは、種々のタスクを並列に実行する複数のコアに計算を分散させることによって計算能力を高めるマルチコアプロセッサを製造している。他の取り組みには、種々の分子エレクトロニクス技術を用いてナノスケールレベルの回路を作製すること、及び、誤り訂正符号の使用と類似の方式の情報科学に基づく理論的アプローチを適用して、電子通信媒体を通じたデータ信号の欠陥のある送信を改善することによって欠陥及び信頼性の問題に対処することが含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
伝統的なコンピューティングアプローチを改善し強化することによって性能を高めるための取り組みに加えて、種々の非伝統的なアプローチが研究されており、これには、生体コンピューティングが含まれる。膨大な研究努力が、人間の脳の構造及び機能の研究に費やされてきた。このような生体システムの基本的な計算エンティティの多くは、マイクロスケールの寸法においてだけでなく分子レベルにおいても生理学的に特定され特徴付けられている。例えば、ニューロン(神経)は、多くはまだ突き止められていないままだが、人間の脳内で信号処理及び信号伝送を担当する細胞のタイプであり、比較的良く理解されよく特徴付けられている。ニューロンの機能のこの理解によって、人工知能のニューラルネットワーク及びパーセプトロンネットワークのサブ分野を含むコンピュータサイエンスの多くの分野が生み出されてきた。パターン認識、複雑な現象の原因の診断、さまざまなタイプの信号処理及び信号雑音除去、並びに他の用途を含むさまざまな異なる用途に対処するために、ニューラルネットワークの多くの成功したソフトウェア実装が開発されてきた。しかしながら、人間の脳は構造的な観点からは超並列であり、このような並列性はソフトウェア実装及びニューラルネットワークによってシミュレーションすることができるが、それらのシミュレーションは、必然的に1つ又は比較的少数の逐次命令処理エンジン上で動作し、むしろコンピューティングシステム内の物理的な並列性を活用するので、一般にプロセッサーサイクルによる限界がある。このように、ニューラルネットワークは、雑音に対する耐性、学習能力、及び他の望ましい特性を提供することができるが、現在のところ、超並列生体計算構造の極めて高速且つ高帯域幅のコンピューティング能力を提供していない。
【0005】
製造された物理的なデバイスにおいて生体計算構造の極めて高速且つ高帯域幅のコンピューティング能力を達成するには、計算ノードの超並列相互接続ネットワーク上で計算タスクを実行する必要がある。物理的なニューラルネットワークを実施するための多くの異なる手法が提案されてきたが、それらの実施は、これまでのところ、比較的単純な生体構造の速度、並列性、及び計算能力にも達していない。加えて、超並列ハードウェアの設計及び製造は、多数の動的接続の信頼することができる製造、サイズ及び電力の制約条件、放熱、信頼性、プログラム可能であることを含む柔軟性、並びに他の多くのこのような考慮すべき事項を含む多数の異なる実際的な問題をはらんでいる。しかしながら、解決法を見つけることができるか否かが明らかではない多くの理論的問題とは異なり、人間の脳を含む計算生体構造が存在し、見事な計算妙技を規則的に行っているという事実は、同様の計算能力及び計算効率を有する計算装置を設計し構築するという目標が完全に可能であることを示唆していよう。
【0006】
現在の取り組みは、「ニューロモーフィック回路」と呼ばれるナノスケール回路を開発することに向けられている。この回路は、効率及び低電力性が劇的に向上した並列コンピュータマシンを有する生物有機体を提供する生物神経回路を模倣したものである。しかしながら、多くの現在のアプローチは、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)技術で実施された従来のロジックを利用して、シナプスと等価なニューロモーフィック回路を実施するが、これは、ニューロンと等価なニューロモーフィック回路を作製できる密度を、半導体チップの表面積の1平方センチメートル当たり数千のニューロンが存在する程度まで、厳しく制限している。リソグラフィーベースの論理回路において実施されるニューロン計算ユニットを相互接続するメムリスティブ(memristive)なシナプス様接合を用いてニューロモーフィック回路を実施するための種々のアプローチが提案されている。これらの提案された実施の多くにおいて、回路全体が、結局はメムリスティブ接合の物理的特性による制約を受けることになり、及び、望ましくないレベルの消費電力は、頻繁に直面することになる改善するのが困難な問題である。このため、ニューロモーフィック回路の研究者及び開発者、ニューロモーフィック回路を含む装置の製造者及びベンダー、並びに、最終的には、ニューロモーフィック回路を含む装置のユーザは、ニューロモーフィック回路の実装、及び、ニューロモーフィック回路内のシナプス様接合の物理的特性の制御された変化であってかつ決定論的な変化を通じたフレキシブルで実用的かつ低電力のシナプス様学習を提供する関連する方法の開発を続けている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、2つ以上の内部ニューロン計算ユニットを含むニューロモーフィック回路に向けられている。内部ニューロン計算ユニットの各々は、同期信号を受信するための同期信号入力、入力信号を受信するための少なくとも1つの入力、及び、出力信号を送信するための少なくとも1つの出力を備える。メムリスティブシナプスは、第1の組をなす1つ以上の内部ニューロンからの出力信号を伝送する出力信号線を、第2の組をなす1つ以上の内部ニューロンに信号を伝える入力信号線に接続する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一般化され、かつ定型化されたニューロンを示す。
【図2】より抽象的なニューロンの表現を示す。
【図3】神経細胞を抽象的に表している図であり、電気化学的勾配及び信号を制御し、該勾配及び該信号に応答し、並びに、ニューロン出力信号の発火(または興奮)を起動するために使用されるニューロンの外膜における電気化学的勾配及びチャネルの異なるタイプを示している。
【図4】ニューロン発火(またはニューロン興奮)を示す。
【図5】ニューロン発火(またはニューロン興奮)を示す。
【図6】動的ニューロン強化現象のモデルを示す。
【図7】典型的なニューラル・ネットワークのノードを示す。
【図8】活性化関数の1例を示す。
【図9】図8とは異なる活性化関数の1例を示す。
【図10】単純な3レベルニューラル・ネットワークを示す。
【図11A】現在利用可能な技術によって製作可能なナノワワイヤ接合のメムリスティブ特性を示す。
【図11B】現在利用可能な技術によって製作可能なナノワワイヤ接合のメムリスティブ特性を示す。
【図12A】メムリスティブなナノワイヤ接合によって接続された2つの信号線に印加された電圧信号に関して、時間に対する、メムリスティブなナノワイヤ接合のコンダクタンスを示す。
【図12B】メムリスティブなナノワイヤ接合によって接続された2つの信号線に印加された電圧信号に関して、時間に対する、メムリスティブなナノワイヤ接合のコンダクタンスを示す。
【図12C】メムリスティブなナノワイヤ接合によって接続された2つの信号線に印加された電圧信号に関して、時間に対する、メムリスティブなナノワイヤ接合のコンダクタンスを示す。
【図12D】メムリスティブなナノワイヤ接合によって接続された2つの信号線に印加された電圧信号に関して、時間に対する、メムリスティブなナノワイヤ接合のコンダクタンスを示す。
【図12E】メムリスティブなナノワイヤ接合によって接続された2つの信号線に印加された電圧信号に関して、時間に対する、メムリスティブなナノワイヤ接合のコンダクタンスを示す。
【図13】ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路の基本的な計算セルを示す。
【図14】シナプスの挙動をモデル化する2つのナノワイヤ間のメムリスティブ接合を示す。
【図15A】シナプスをモデル化するために使用されるメムリスティブ接合の本質的な電子的特性を示す。
【図15B】シナプスをモデル化するために使用されるメムリスティブ接合の本質的な電子的特性を示す。
【図16】ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路の種々の実施形態において基本的な計算ユニットとして機能する神経細胞(または神経系細胞)を示す。
【図17A】ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路内の計算セルの相互接続を示す。
【図17B】ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路内の計算セルの相互接続を示す。
【図18】ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路内の計算セルの階層的な相互接続を示す。
【図19A】図20以降の図で使用されるいくつかの表記上の取り決め事を示す。
【図19B】図20以降の図で使用されるいくつかの表記上の取り決め事を示す。
【図19C】図20以降の図で使用されるいくつかの表記上の取り決め事を示す。
【図20】例示的なニューロモーフィック回路のごく一部を示す。
【図21A】指数関数的減衰関数のパルス幅変調ベースの表現である。
【図21B】指数関数的減衰関数のパルス幅変調ベースの表現である。
【図22A】指数関数的減衰関数のパルス幅変調ベースの表現である。
【図22B】指数関数的減衰関数のパルス幅変調ベースの表現である。
【図23】本発明の1実施形態を表すニューロモーフィック回路内のニューロンの記号表現であり、該ニューロンは、他のニューロンによる信号送信と同期(または同調)してメムリスティブなシナプスを通じて信号を送信することができる。
【図24】本発明の実施形態にしたがう基本的な信号同期モデルを示す。
【図25A】指数関数的減衰関数のパルス幅変調表現である。
【図25B】図25Aとは異なる指数関数的減衰関数のパルス幅変調表現である。
【図26】本発明の実施形態にしたがうニューロモーフィック回路内の2つのニューロンを示す。それらのニューロンの出力及び入力には英数字によるラベルが付されている。
【図27A】本発明の実施形態にしたがうニューロモーフィック回路におけるニューロンによって生成されて送信される定電圧パルス信号を示す。
【図27B】本発明の実施形態にしたがうニューロモーフィック回路におけるニューロンによって生成されて送信される定電圧パルス信号を示す。
【図27C】本発明の実施形態にしたがうニューロモーフィック回路におけるニューロンによって生成されて送信される定電圧パルス信号を示す。
【図27D】本発明の実施形態にしたがうニューロモーフィック回路におけるニューロンによって生成されて送信される定電圧パルス信号を示す。
【図27E】本発明の実施形態にしたがうニューロモーフィック回路におけるニューロンによって生成されて送信される定電圧パルス信号を示す。
【図27F】本発明の実施形態にしたがうニューロモーフィック回路におけるニューロンによって生成されて送信される定電圧パルス信号を示す。
【図28A】本発明の実施形態にしたがう、図27A−図27Fに示す同期化された信号を生成するニューロモーフィック回路−ニューロン信号処理ロジックの1実施例を示す。
【図28B】本発明の実施形態にしたがう、図27A−図27Fに示す同期化された信号を生成するニューロモーフィック回路−ニューロン信号処理ロジックの1実施例を示す。
【図28C】本発明の実施形態にしたがう、図27A−図27Fに示す同期化された信号を生成するニューロモーフィック回路−ニューロン信号処理ロジックの1実施例を示す。
【図28D】本発明の実施形態にしたがう、図27A−図27Fに示す同期化された信号を生成するニューロモーフィック回路−ニューロン信号処理ロジックの1実施例を示す。
【図28E】本発明の実施形態にしたがう、図27A−図27Fに示す同期化された信号を生成するニューロモーフィック回路−ニューロン信号処理ロジックの1実施例を示す。
【図29A】本発明の実施形態にしたがう、図27A−図27Fに示す同期化された信号を生成するニューロモーフィック回路−ニューロン信号処理ロジックの1実施例を示す。
【図29B】本発明の実施形態にしたがう、図27A−図27Fに示す同期化された信号を生成するニューロモーフィック回路−ニューロン信号処理ロジックの1実施例を示す。
【図29C】本発明の実施形態にしたがう、図27A−図27Fに示す同期化された信号を生成するニューロモーフィック回路−ニューロン信号処理ロジックの1実施例を示す。
【図29D】本発明の実施形態にしたがう、図27A−図27Fに示す同期化された信号を生成するニューロモーフィック回路−ニューロン信号処理ロジックの1実施例を示す。
【図29E】本発明の実施形態にしたがう、図27A−図27Fに示す同期化された信号を生成するニューロモーフィック回路−ニューロン信号処理ロジックの1実施例を示す。
【図30】本発明の実施形態にしたがう、入力信号をニューロンに接続するために使用できる仮想接地回路の可能性のある1つの実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ニューロモーフィック回路のニューロンを相互接続するシナプス様接合の物理的状態の制御された変化であってかつ決定論的な変化による機械学習を提供するために、ニューロモーフィック回路、並びに、ニューロモーフィック回路によって実施され、または、ニューロモーフィックに実装される方法に向けられている。最初のサブセクションでは、ニューロモーフィック回路及びシナプス様接合を概観する。2番目のサブセクションでは、本発明の方法及びシステムの実施形態が説明される。
ニューロモーフィック回路及びシナプス様接合
ニューロモーフィック回路内部
生物学的ニューロン
ニューロンは、動物の脳に見られる細胞の1タイプである。ニューロンは、唯一の基本的な生物学的エンティティであるかはともかく、その1つであると考えられている。人間の脳は、1000億(1011)程度のニューロン、及び、ニューロン間に100兆(1014)程度の相互接続を含んでいると推定されている。人間の脳内のニューロン間のこの莫大な量の相互接続は、生物学的コンピューティング(バイオコンピューティング)の大規模並列処理(または超並列処理)特性に直接相関していると考えられている。
【0010】
ニューロンの各々は単一の細胞である。図1は、一般化され、かつ定型化されたニューロンの図である。ニューロン102は、細胞核106と、ミトコンドリアを含む種々の細胞小器官とを含む細胞体104、細胞体104から出ている樹状突起108などの多数の枝分かれした樹状突起、及び、多くの枝分かれした伸張部(branching extension)112で終端する一般的には非常に長い1つの軸索110を有する。一般的には、樹状突起は、他のニューロンから信号を受け取るための拡大されたニューロン表面領域をもたらし、一方、軸索は、該ニューロンから他のニューロンへ信号を送る役目を果たす。軸索112の末端枝は、他のニューロンの樹状突起と結合し、これより頻度は少ないが、細胞体とも結合する。単一のニューロンは、100000個もの異なる信号入力を受け取ることができる。同様に、ニューロンは、数十、数百、または、数千もの下流側のニューロンに信号を送ることができる。ニューロンは、樹状突起及び末端の軸索伸長部の数、分岐の程度、並びに、容積及び長さに関して、所与の個体内で大きく異なる。たとえば、軸索の長さの範囲は、1ミリメートルよりはるかに短い長さから1メール超までの長さにわたる。軸索の長さ及び接続性におけるこのフレキシビリティによって、信号経路の階層的なカスケード、並びに、脳内の信号伝達経路及びカスケードの極めて複雑な接続ベースの組織化が可能とされている。
【0011】
図2は、ニューロンのより抽象的な表現を示す。一般に、ニューロンは、入力204などの複数の入力から入力信号を受け取り、該入力の時間的及び空間的特性に応じて、出力信号206を発火する(発火信号を出力する)ことによって閾値強度より大きな入力刺激に応答するノード202であると考えることができる。換言すれば、ニューロンは、閾値処理、信号生成、及び信号出力機構と組み合わされた非常に複雑な入力信号積算器(統合器)であると考えることができる。信号積算器が、有限の時間期間にわたって、及び、ノード表面の十分に小さな領域内で十分な数の入力信号を累算するときには、ニューロンは、出力信号を発火させることによって応答する。
【0012】
上記したように、所与のニューロンによって受け取られる入力信号は、他のニューロンの末端の軸索枝と該所与のニューロンの樹状突起との間のシナプス接合によって該所与のニューロンに接続された該他のニューロンの出力信号によって生成される。ニューロン間のこれらのシナプス、すなわち、接続部は、接続の強さまたは重みを動的に調整している。接続の強さまたは重みの調整は、学習と記憶の両方に大きく寄与すると考えられており、脳内の並列計算の重要な部分を表している。
【0013】
ニューロンの機能は、複雑な電気化学的勾配及びイオンチャネルから得られ、及び、それらに依存している。図3は、神経細胞を抽象的に表した図であり、電気化学的勾配及び信号を制御し、かつ、該勾配及び該信号に応答し、並びに、ニューロン出力信号の発火(または興奮)を起動するために使用されるニューロンの外膜における異なるタイプの電気化学的勾配及びチャネルを示している。図3において、ニューロンは、球状の膜に囲まれた細胞302として表されており、その内容物304は、チャネル310などの種々のタイプのチャネルを含む2重壁の疎水性膜308によって外部環境306から分離されている。これらの種々のタイプのチャネルは、ニューロンの内部と外部環境との間に制御された化学的な連絡手段を提供する。
【0014】
ニューロンの特性に主たる責任があるチャネルは、外部環境からニューロンへと、及び/または、ニューロンの内部から外部環境へと特定の無機イオンを伝送可能にする選択性の高いイオンチャネルである。特に重要な無機イオンには、ナトリウムイオンNa、カリウムイオンK、カルシウムイオンCa2+、塩素イオンClが含まれる。イオンチャネルは、一般に、連続して開いているのではなく、種々のタイプの刺激に応答して、選択的に開かれたり閉じられたりする。電圧ゲート式チャネルは、ニューロン膜全体(または両端)にかかる電圧または電界に依存して開閉する。他のチャネルは、機械的応力によって選択的に開閉し、さらに他のタイプのチャネルは、配位子(リガンド)、すなわち、神経伝達物質を含む一般的に小分子の有機化合物の結合及び解放に応答して開閉する。いくつかの機能グループをイオンチャネルプロテインに追加したり該プロテインから除去することによって、イオンチャネルの挙動及び応答をさらに制御し変更することができる。かかる追加及び除去は、キナーゼ及びホスファターゼを含む種々のタイプの酵素によって実行され、これらの酵素は、種々のタイプの化学信号カスケードによって制御される。
【0015】
一般に、休止状態、すなわち、発火していない状態では、ニューロン内部では、外部環境318よりも、ナトリウムイオン312の濃度が低く、これに応じて、塩素イオン314の濃度も低いが、外部環境318よりもカリウムイオン316の濃度は高い。休止状態では、ニューロン膜全体において(または両端間に)有意な40−50mVの電気化学的勾配があり、該膜の内部は、外部環境に対して電気的に負である。電気化学的勾配は、主に、アクティブなNa−Kポンピングチャネル320によって生成され、該チャンネル320は、アデノシン三リン酸の形態で、化学エネルギーを使用して、2つのカリウムイオンが外部環境からニューロンの内部に運び込まれる毎にニューロンの内部から外部環境へと放出される3つのナトリウムイオンを絶えず交換する。ニューロンはまた、カリウムイオンがニューロンの内部から漏れて外部環境へ戻ることを可能にする受動性のKリークチャネル310を含んでいる。これによって、カリウムイオンを、イオン濃度勾配及び電気的勾配に関して平衡状態にすることが可能になる。
【0016】
ニューロン発火、すなわち、スパイキングは、ニューロン膜の局所的な脱分極(または減極。以下同じ)によって起動される。換言すれば、膜全体(または膜の両端)における通常は負の電気化学的勾配の急激な低下は、出力信号を作動させる結果となる。ニューロン発火を表すニューロン膜の波状のグローバルな(または膜全体に及ぶ)脱分極は、電圧ゲート式ナトリウムチャネル324によって促進(または容易)にされ、該チャネル324は、ナトリウムイオンがニューロンの内部に入って、Na−Kポンプチャネル320によって以前に確立された電気化学的勾配を下げることを可能にする。ニューロン発火は、活性状態の短いパルスを表し、該パルスの後に、ニューロンは発火前と同様の状態に戻り、この状態において、ニューロン膜全体における(または該膜の両端間の)通常の負の電気化学的勾配が再度確立される。電圧ゲート式カリウムチャネル326は、発火後のニューロン膜全体における(または該膜の両端間の)電気化学的勾配の再確立を容易にするために、膜の脱分極に応答して開いて、カリウムイオンの流出によって化学的カリウムイオン勾配を下げることができるようにする。ニューロン膜の局所的な脱分極によって開かれた電圧ゲート式カリウムチャネル324は、開いている状態では不安定であり、電圧ゲート式カリウムチャネル326とNa−Kチャネル/ポンプ320の両方の動作によって、不活性状態に比較的迅速に移行して、負の膜電位を再度確立できるようにする。
【0017】
ニューロン膜脱分極は、ニューロン細胞膜の小さな局所的な領域で始まり、軸索を下って軸索の末端枝までを含むニューロン細胞全体に波状に広がる。軸索の末端枝における脱分極は、細胞外放出(エキソサイトーシス)328による電圧ゲート式神経伝達物質放出を作動させる。発火しているニューロン(「シナプス前ニューロン」と呼ばれる)の軸索末端枝と、信号を受信しているニューロン(各々が「シナプス後ニューロン)と呼ばれる)の樹状突起との間のシナプス領域への該軸索の末端枝による神経伝達物質の放出は、シナプス前ニューロンからシナプス後ニューロンへの信号の送信を引き起こすシナプス後細胞の樹状突起上の受容体による、放出された神経伝達物質の結合をもたらす。シナプス後ニューロンにおける、神経伝達物質ゲート式イオンチャネル330及び332への伝達物質の結合は、興奮性入力信号と抑制性入力信号をそれぞれもたらす。ナトリウムイオンをニューロン330中に運ぶ神経伝達物質ゲート式イオンチャネルは、シナプス領域に隣接するニューロン膜の局所的な脱分極に寄与し、それゆえ、興奮性信号を提供する。これとは対照的に、神経伝達物質活性式塩素イオンチャネル332は、ニューロン細胞内への負に帯電した塩素イオンの導入をもたらし、これによって、該膜全体における(または該膜両端間の)通常の休止時の負電圧勾配が回復されまたは強化され、それゆえ、局所的な膜脱分極を抑制して、抑制性信号を提供する。神経伝達物質の放出は、ニューロンへのカルシウムの流入を可能にする電圧ゲート式カルシウムイオンチャネル329によっても促進(または容易に)される。
【0018】
Ca2+活性化カリウムチャネル334は、ニューロン内のカルシウムイオンの増加をもたらす高頻度の膜の脱分極及び信号発火の後の膜の脱分極能力を低下させるように機能する。長期間絶えず刺激を受けたニューロンは、それゆえに、刺激への反応性が低下する。初期には、カリウムイオンチャネルは、ニューロン発火に必要なしきい値刺激に近い刺激レベルへとニューロン発火レベルを低下させるように機能する。これによって、しきい閾値刺激領域近辺での全か無かのタイプ(all-or-nothing type)のニューロン応答を防止し、代わりに、ニューロンの刺激の範囲に対応するニューロン発火の頻度の範囲を提供する。ニューロン発火の大きさは、概ね一定であり、出力信号の強度は、ニューロン発火の頻度に反映する。
【0019】
ニューロンの他の興味ある特徴は、長期増強(long term potentiation)である。シナプス後細胞が、シナプス後膜が強く脱分極されているときに発火すると、シナプス後細胞は、シナプス前ニューロンからの後続の信号に対する応答性がより高くなりうる。換言すれば、シナプス前ニューロンとシナプス後ニューロンが時間的に近接して発火すると、相互接続の強さまたは重みが増加しうる。
【0020】
図4−図5は、ニューロン発火を図示している。図4において、休止状態のニューロン402は、膜404全体における(または該膜両端間の)負電圧勾配を呈する。休止状態のニューロンが、神経伝達物質を介して伝達された信号入力406を受け取ると、ニューロン膜の小さな領域408は、抑制性信号入力に対する刺激性信号入力の十分なアクセスを受けて、該ニューロン膜の408の小さな領域を脱分極させることができる。この局所的な脱分極は、電圧ゲート式ナトリウムチャネルを活性化させて、ニューロン膜を横断して軸索へと広がる波状のグローバルな脱分極を生じさせ、ナトリウムイオンが、ナトリウム-イオン-濃度勾配に沿ってニューロンに入るときに、ニューロン膜全体における(または該膜両端間の)電圧勾配を一時的に逆にする。電圧勾配の逆転によって、ニューロンが、発火、すなわち、スパイキング状態になり、上述したように、この状態において、軸索の末端枝は、神経伝達物質信号をシナプスに放出してシナプス後ニューロンに信号を送る。電圧ゲート式ナトリウムチャネルは迅速に不活性になり、電圧ゲート式カリウムチャネルは開き、休止状態の負電圧勾配が迅速に回復される(412)。図5は、スパイクすなわち発火中にニューロン膜上のそのポイントにおいて電圧勾配が逆転することを示している。一般に、電圧勾配は負である(520)が、ニューロン発火すなわちスパイキング、及び、出力信号が軸索を下って該軸索の末端枝まで伝搬することを表す波状の膜脱分極中は一時的に逆転する(522)。
【0021】
図6は、動的なシナプス強化現象に関するモデルを示す。図6は、シナプス前スパイキングとシナプス後スパイキングとの時間差をΔtとして横軸604に沿ってプロットし、シナプス強化Fを縦軸602にプロットしたものである。シナプス前ニューロンが、シナプス後ニューロンの発火に時間的に近接してそれより前に発火するときには、シナプス強化の量は、縦軸の左側におけるプロットされた曲線606の急激に増大する部分によって表されているように比較的大きい。Fのこのプロット部分はヘブ学習(Hebbian learning)に対応しており、この部分では、シナプス後ニューロン発火とシナプス前ニューロン発火における相関関係(相互関係)がシナプス強化につながる。これとは対照的に、シナプス前ニューロンが、シナプス後ニューロンの発火直後に発火するときは、縦軸の右側においてプロットされた曲線の急激に上昇する曲線部分608によって表されているようにシナプス強度は弱められる。シナプス前ニューロンとシナプス後ニューロンの発火が時間的に相関していないとき、換言すれば、Δtが大きいときは、原点から離れるにしたがって横軸に近付くプロットされた曲線の部分によって表されているように、シナプス強度は大きな影響を受けない。曲線610の右側部分の上の領域によって表されている、シナプス前ニューロン発火とシナプス後ニューロン発火の相関関係に対してシナプスが弱まるように応答するのは、プロットされた曲線612の左側部分の下の領域によって表されている、シナプス前ニューロン発火とシナプス後ニューロン発火の間の相関関係に起因するシナプス強化とは異なりうる。
【0022】
要約すれば、ニューロンは、閾値化機能及び出力信号生成機能と組み合わされた幾分漏れ(または減衰)のある入力信号漏洩積分器(leaky integrator)として機能する。一定の高い刺激に対するニューロン応答は時間と共に減少するが、ニューロンの興奮性刺激が高まるとニューロンの発火頻度は増加する。シナプス、すなわちニューロン間の接合部を、シナプス前及びシナプス前ニューロン発火における相関関係によって強くしたり弱くしたりすることができる。さらに、刺激を強くしない場合には、シナプス強度及びニューロン刺激はいずれも時間と共に小さくなる。ニューロンは、高度に分岐した樹状突起及び軸索の終端分岐、並びに、軸索の長さによってサポートされたニューロン間接続の極めて高い密度の結果として生物有機体内に超並列ニューロンネットワーク(超並列神経回路網)のための基本的な計算ユニットを提供する。
ニューラルネットワーク及びパーセプトロンネットワーク(perceptron network)
人工知能の分野に属するとみなされるニューラルネットワーク(神経回路網ともいう)は、当初は、生物学的な信号処理及び計算機能を活性化して利用することを試みによって動機付けされていたが、十分に有効かつ有用であることがわかってきたので、研究者及び開発者は、最近では、ニューラルネットワークのソフトウエア実施を容易にするための専用のハードウェアプラットフォームを開発しているだけでなく、ニューラルネットワークをハードウェアで直接構築することを試みている。ニューラルネットワークは、本質的に、計算機能を有する相互接続ノードの回路網である。図7は、典型的なニューラルネットワークのノード(以下、ニューラルネットワークノードという)を示す。ニューラルネットワークノードが、図2に示すニューロンのモデルを連想させることは驚くには当たらない。ニューラルネットワークノード702は、複数のn個の有向リンク(directed link)705〜708からの入力に加えて、特殊リンクjからの入力も受信し、軸索分岐のように分岐する場合がある出力リンク710上に出力信号を生成して、複数の異なる下流側ノードへ信号を送信する。有向入力リンク705〜708は、ニューラルネットワークの上流側ノードの出力信号若しくは出力信号からの分岐であるか、又は、第1レベルのノードの場合には、ニューラルネットワークへの或るタイプの入力に由来する。上流側ノードはそれぞれ活性度(または活性化)に関連付けられ、活性度はいくつかの実施態様では0から1の範囲に及ぶ。各入力リンクは重みに関連付けられている。したがって、図7に示すニューラルネットワークノードiは、活性度
【数1】


を有するn個の上流側ニューラルネットワークノードからn個の入力j,j,…,jを受信し、各入力j,j,…,jは、対応する現在の重み
【数2】


に関連付けられている。換言すれば、活性度はノードの特性であり、重みはノード間のリンクの特性である。ニューラルネットワークノードiは、受信した重み付けされた入力信号から活性度aを計算し、計算された活性度aに対応する信号を出力信号線710上に出力する。図7に示すように、ニューロンの非常に単純化したモデルを、
【数3】


と表すことができる。ここで、g()は非線形活性化関数である。図8及び図9は、活性化関数の2つの異なる例を示す。特殊入力信号線jは、一定の活性度
【数4】


を有する内部バイアスを表す。この内部バイアスに関連付けられた重み
【数5】


は、ノードのしきい値を設定するのに使用される。実際の入力信号線j,j,…,jから入力された重み付けされた活性度の合計が、
【数6】


のバイアス重みを超えていると、ニューロンは活性状態にあり、信号aを出力する。図8に示す第1の活性化関数g()は、ハードしきい値を表し、図9に示す第2の活性化関数g()は、ソフトしきい値を提供する。ニューロンのより一般的なモデルでは、ニューロン出力発火は、ニューロンへの重み付けされた入力の履歴の関数であり、しばしば、確率的であり、それゆえ、必ずしもしきい値を利用しない。出力信号aは、任意の種々の形態をとることができ、任意の種々の手段によるニューロン活性(ニューロン活動)の程度を反映することができる。該任意の種々の手段には、スパイク出力の持続時間、スパイク出力の頻度、各スパイクの電圧または電流の大きさを変更することや、線形信号の電圧または電流を変更することや、情報を信号に符号化する任意の他の手段が含まれる。
【0023】
図10は、単純な3レベルニューラルネットワークを示す。このニューラルネットワークは、4つの入力ノード1002〜1005、2つの中間ノード1008及び1009、及び最高レベルの出力ノード1012を含む。入力ノード1002〜1005は、それぞれニューラルネットワークへの1つ又は複数の入力を受信し、それぞれ、中間ノード1008及び1009の1つ以上へと内部接続、すなわちエッジを通って送られる出力信号を生成する。次に、中間ノードは、それら中間ノードを出力ノード1012に接続するエッジへの出力信号を生成する。信号がエッジに沿って入力ノードから出力ノードに向けて一方向のみに向けて送られるニューラルネットワークは、「フィードフォワードネットワーク(feed-forward network)」と呼ばれ、信号がより高レベルのノードからより低レベルのノードへと伝搬することを可能にする図10のエッジ1014及び1015などのフィードバックエッジを含むニューラルネットワークは、「回帰ネットワーク(recurrent network)」と呼ばれる。対応する任意の個数のノードをニューラルネットワークに含めることができると仮定すると、多層ニューラルネットワークを、任意の次元及び複雑度の一般的な非線形関数を表すのに使用することができる。
【0024】
ニューラルネットワークは、トレーニングされると、一般に複雑な非線形関数を実施して、出力信号を生成することにより入力信号に応答する。ニューラルネットワークを、断続的又は連続的に再トレーニングすることもでき、それにより、時間の経過と共に、ニューラルネットワークによって表される複雑な非線形関数は、以前の信号処理経験を反映する。
【0025】
本発明のさまざまな実施形態を表す、ニューラルネットワーク、パーセプトロンネットワーク、及び他の並列分散型動的ネットワークのノードの物理的なノード実装
現在までのほとんどのニューラルネットワークベースのシステムは、本質的に、ニューラルネットワークの挙動をソフトウェアシミュレーションしたものである。ノードは、データ構造及び付随するルーチンとして実施され、ノード及びエッジ重みは、従来の逐次命令実行形式で反復的に更新される。その結果、ニューラルネットワークの多くの役立つ特性を利用することができるが、ニューラルネットワークは、人間の脳を含む真の並列コンピューティングシステムで得られる計算速度を提供しない。その上、エッジ重みのダイナミクス及び漏洩積分(リーク積分)を含むニューロン様機能のシミュレーションは、特に逐次形式で繰り返し実行されると、計算的にかなり高価になる場合がある。
【0026】
この理由により、さまざまな異なる実施方策及び材料を使用して物理的なニューラルネットワークを構築する多くの試みがなされてきた。しかしながら、今日まで、どの物理的な実装も、単純な生物学的信号処理構造の密度及び計算効率に近づいてさえいない。多数の動的接続を設けるという問題、さまざまな製造及び組み立ての制約の問題、放熱に関する問題、信頼性に関する問題、及び他の多くの問題がある。
【0027】
従来の論理回路に類似するナノスケール回路を製造する際に悩みの種となる、種々のナノスケール金属−酸化物特性を含む、ナノワイヤ接合のメムリスティブ特性及び多くの他のメムリスティブ材料は、ニューラルネットワーク、並びに、相互接続された計算ノードを備える他の並列分散型動的処理ネットワークにおける動的エッジに必要な特性であることが分かっている。したがって、比較的単純に製造されたナノスケールナノワイヤ接合(部)は、プログラミング又はアルゴリズム計算の必要なく、ナノスケールサイズで動的エッジに機能性(または動的エッジ用の機能)を提供する。ノード間の接続数は、人間の脳を含む、ほとんどの自然に発生する信号処理構造及び計算構造におけるノード数を大きく超えるので、計算ノードのハードウェアネットワークを実施するのに使用される接続は、小さく、容易に製造することができ、且つエッジすなわちシナプスに必要な物理的特性に近い固有の物理的特性を有することが望ましく、その場合には、接続の動的性質をハードウェアへとプログラミングする必要も、ハードウェアベースの論理回路によってシミュレーションする必要もない。
【0028】
メムリスティック材料(memristic material)
図11A及び図11Bは、現在利用可能な技法によって製造することができるナノワイヤ接合部のメムリスティブ特性(memristivecharacteristics)を示す。図11Aは、単一のナノワイヤ接合部を示す。ナノワイヤ接合部は、第1の入力ナノワイヤ1104と第2の出力ナノワイヤ1106との間の接合部にメムリスティブ材料の1つ又は複数の層1102を備える。電流は、所定の電流範囲及び電圧範囲内では、以下の電流モデルに従う。
【数7】


ここで、wは接合部の状態変数であり、νは接合部の両端に印加される電圧であり、G(w,ν)は、通常は、電圧に関して非線形的に変化する、接合部のコンダクタンスである。時間に関する状態変数の変化率は、次式に示すように、現在時刻における状態変数の値及びナノワイヤ接合部に印加されている電圧の双方の関数である。
【数8】


メムリスティブ材料の導電率(導電性ともいう。以下同じ)を表す単一の状態変数wによってモデル化されるある部類のナノワイヤ接合部について、時間に関する状態変数、すなわち導電率、の変化率は、
【数9】


として近似することができる。ここで、K及びMは、0から最大値wmaxまでの|w|の値の範囲については一定である。この範囲外では、dw/dtは、0であると想定される。図11Bは、この数式のプロットを示す。図11Bの実線の曲線1108は、K及びMの想定された特定の値についての上記数式のプロットを示す。時間に関する導電率の変化率は、異なるタイプの接合部材料では、図11Bに破線でプロットされた鏡像の曲線1110をたどる場合もあるし、他のより複雑な非線形関数によって変動する場合もある。しかしながら、一般的には、ナノワイヤ接合部のメムリスティブな振る舞いは、コンダクタンスの変化が印加電圧に関して明らかに非線形であるような振る舞いである。電圧0の辺りの小電圧範囲1116における接合部の両端の正極性又は負極性のいずれかの小さな印加電圧は、接合部材料の導電率に有意な変化を生じさせないが、この範囲外では、正極性の印加電圧が次第に大きくなると、その結果、接合部材料の導電率の増加率が次第に大きくなり、一方、負極性の電圧が次第に大きくなると、その結果、接合部材料の導電率の変化率は急激に減少する。ナノワイヤ接合デバイスのコンダクタンスは、接合部材料の導電率に比例する。
【0029】
メムリスティブナノワイヤ接合部(memristive nanowire junction)のコンダクタンスの変化について上記で説明したモデルは、メムリスティブナノワイヤ接合部のコンダクタンスと印加電圧との間の関係のうちの1つの可能なタイプの関係しか表していないことが強調されるべきである。本発明の実施形態を表す計算ノード及び計算ノードネットワークの実施は、上記で説明した数学モデルに対応するためにコンダクタンスと印加電圧との間の関係には依存せず、所与の時間期間tの間、接合部の両端に1Vを印加することによって引き起こされるコンダクタンスの変化が、同じ時間tの間、該接合部の両端に2Vを印加することによって引き起こされるコンダクタンスの変化よりもかなり小さいということ、及び、第1の極性の印加電圧によって引き起こされるコンダクタンスの変化が、第2の極性の印加電圧とは逆の符号、すなわち逆の方向を有するということのみに依存する。所望のエッジ重み付けモデルを達成するために、異なる極性について時間tを調整することができるので、この関係は、上記で説明したモデル関係のようには鏡面対称性を有する必要はない。
【0030】
図12A−図12Eは、メムリスティブナノワイヤ接合部によって接続された2つの信号線に印加される電圧信号に関する、メムリスティブナノワイヤ接合部の経時的なコンダクタンスを示す。図12Aは、メムリスティブナノワイヤ接合部を記号表現で示している。メムリスティブナノワイヤ接合部1202は、「信号線1」と呼ばれる第1の信号線1204と、「信号線2」と呼ばれる信号線1206とを相互接続する。メモリスタ(memrister)1202に印加される電圧Δvはv−vである。ここで、v及びvは、それぞれ、信号線2と信号線1に現在印加されている電圧信号である。図12Bは、或る時間間隔にわたる、信号線1及び2に印加される電圧信号のプロット、並びにメムリスティブデバイスのコンダクタンスを示す。時間は、信号線1、信号線2、及びメムリスティブデバイスについて横方向に沿ってプロットされている。信号線1に現在印加されている電圧信号は、縦軸1214に関してプロットされ、信号線2に現在印加されている電圧は、第2の縦軸1216に関してプロットされ、メムリスティブデバイスのコンダクタンスは、第3の縦軸1218に関してプロットされている。図12C−図12Eはすべて、図12Bで使用されたのと同様の表記上の取り決め事を使用している。
【0031】
図12Bに示すように、横線1210及び1211によって表される定電圧vが双方の信号線に印加されているときは、メムリスティブデバイスのコンダクタンスは、初期コンダクタンスG 112に留まる。図12Cでは、短い正の電圧パルス1220が、第1の信号線に印加される。その短いパルスは、メムリスティブ接合部の両端に短時間の負の電位を生成し、その結果、正のパルスの時間間隔にわたってメムリスティブ接合部のコンダクタンスが減少する(1222)。図12Dは、信号線1及び2の双方に印加されるいくつかのパルスの影響を示す。第1のパルス1224が信号線1に印加された結果、図12Cと同様に、メムリスティブデバイスのコンダクタンスは若干(すなわち、少しだけ)減少する(1226)。短時間の負の電圧パルス1228が第2の信号線に印加されると、メモリスタのコンダクタンスはさらに、若干減少する(1230)。短時間の正のパルスが第2の信号線に印加された結果、メムリスティブデバイスのコンダクタンスは若干増加する(1234)。
【0032】
これまでに示したケースのすべてにおいて、第1の線及び第2の線に印加されたパルスは、時間的に互いから離れており、その結果、双方の信号線上の電圧パルスは、同じ時点では発生しない。したがって、小さな印加電圧は、メムリスティブデバイス材料の導電率の小さな変化率しかもたらさない電圧の範囲(図11Bの1116)内にある。一方、図12Eに示すように、逆極性の電圧が2つの信号線に同時に印加されると、その結果、メモリスタの両端に印加される電圧は、小電圧範囲(図11Bの1116)の範囲外となり、その結果、導電率の変化率は比較的大きくなる。図12Eでは、正極性の2つの同時の電圧パルス1240及び1242の結果、メムリスティブ接合部に印加される電圧は変化せず、したがって、メムリスティブデバイスのコンダクタンスは変化しない(1244)。一方、第1の信号線上の正のパルス1246及び第2の信号線上の負のパルス1248が同時に印加されると、その結果、メムリスティブデバイスに負極性の比較的大きな電圧が印加され、その結果、デバイスのコンダクタンスは負に大きく変化する(1250)。これとは対照的に、反転した極性の同時パルス1252及び1254の結果、デバイスのコンダクタンスは比較的大きく増加する(1256)。メムリスティブデバイス材料の導電率/電圧曲線が、図11Bにおいて破線の曲線によって表される逆の導電率変化の振る舞いを有することなるか、又は、Δvを計算するための電圧表記法の方向が反転された場合は、図12B−図12Eのコンダクタンス変化は、図示したものとは逆の方向を有することになる。
【0033】
要約すれば、メムリスティブナノワイヤ接合部、及び、メムリスティブ材料から製造される他のナノスケール特徴は、印加電圧の結果として非線形のコンダクタンス変化を示す。メムリスティブナノワイヤ接合部のコンダクタンスは、これまでの印加電圧の履歴を反映し、メモリスティブナノワイヤ接合部の所与の時点におけるコンダクタンスの変化率は、メムリスティブナノワイヤ接合部のコンダクタンスに加えて、その時点の印加電圧の大きさ及び極性に依存する。メムリスティブナノワイヤ接合部は極性を有し、コンダクタンス変化の符号は印加電圧の極性を反映している。メムリスティブナノワイヤ接合部は、したがって、ニューラルネットワーク、パーセプトロンネットワーク、又は計算エンティティの他のこのようなネットワークの動的エッジのモデル特性に対応する物理的特性を有する。
【0034】
提案されたニューロモーフィックアーキテクチャ
近年、シナプスが、ナノワイヤ間のメムリスティブ接合として、または、メムリスティブ材料から製造される他のナノスケール特徴として実施される、高ニューロン密度ニューロモーフィック集積回路用のアーキテクチャが提案されている。ナノワイヤ信号線は、生物学的神経回路の樹状突起及び軸索をまねており、半導体集積回路層の上のナノワイヤ相互接続層内に作製され、それゆえ、後述の説明において「ニューラルセル(neural cell:神経系細胞)」と呼ばれる計算機能を有するニューロンセル(神経細胞)、及び、マルチ計算セルモジュールを実装するための半導体集積回路表面が保持される。したがって、ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路は、デジタルロジックまたはアナログ回路ではなく、メムリスティブナノワイヤ接合を利用してシナプスを実装することができ、ニューラルセル間のシナプス及びシナプスベースの相互接続は、半導体集積回路層上のナノワイヤ相互接続層内に実装されて、3次元ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック回路アーキテクチャにおいてはるかに高いニューラルセル密度を提供する。
【0035】
図13は、ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路の基本的な計算機能を有するセル(以下、計算セルという)を示す。計算セルは、半導体集積回路層1302の定型領域(または正多角形領域)を含み、該領域から、4つの導電性ピン1304−1307が垂直に延びている。図13のナノワイヤ1308などの水平方向のナノワイヤは、パッド状構造1310などのパッド状構造を貫通する導電性ピンと相互接続し、ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路の二次元配列をなす計算セル中の計算セル1302の近傍内の複数の計算セルを横断して直線状に延びている。さらに後述するように、計算セル1302の半導体集積回路層は、ニューロンまたは他の基本的な計算デバイスのモデルを実施する種々の相互接続及びアナログコンポーネントを含み、それらのうちのいくつかについては、さらに詳細に後述する。4つの垂直ピン1304−1307は、計算セル1302の半導体集積回路層の部分内のアナログコンポーネント及び回路を、ナノワイヤ1380などのナノワイヤの層に相互接続するように機能する。次に、ナノワイヤは、シナプスをモデル化するナノワイヤ及びメムリスティブ接合を介して、該計算セルを近傍の計算セルに相互接続することができる。
【0036】
図14は、シナプスの挙動をモデル化する2つのナノワイヤ間のメムリスティブ接合を示す。図14において、第1の計算セル1402は、近傍の計算セル1404に隣接して配置されている。第1のナノワイヤ1406は、隣接する近傍の計算セル1404の垂直ピン1408に接続されている。第2のナノワイヤ1410は、図14の前面に示されている計算セル1402の垂直ピン1412に電子的に接続されている。第1のナノワイヤ1406と第2のナノワイヤ1410は、図14の破線の小さな円1414によって区切られた領域において互いにオーバーラップしており、このオーバーラップ領域は差し込み図1416で拡大されて示されている。第1のナノワイヤ1406と第2のナノワイヤ1410の間に、該第1のナノワイヤを第2のナノワイヤに電子的に相互接続するメムリスティック材料1418の小さな層がある。2つのナノワイヤ間のメムリスティブ接合を、差し込み図1419に示すように、2つの信号線1422と1424を相互接続するメモリスタシンボル1420によって記号的に表すことができる。さらに後述するように、相互接続層内のナノワイヤの各々は、メムリスティブ接合を介して多くの異なるナノワイヤと相互接続することができる。
【0037】
図15A及び図15Bは、シナプスをモデル化するために利用されるメムリスティブ接合の本質的な電子的性質を示す。図15A及び図15Bの両方とも、メムリスティブ接合についての電流/電圧プロットを示している。電圧は横軸1502に関してプロットされ、電流は縦軸1504に関してプロットされている。電圧曲線(電圧の振れの様子)が図15Aに示されている。電圧曲線を構成する連続的な電圧変化が、図15Aの電流/電圧プロット1516と位置合わせされてその下方に示された、第2の電圧軸1514に関してプロットされた電圧経路1512によって表されている。図15Aに示すように、電圧曲線は、0(ゼロ)の電圧1506から電圧Vmax1508まで着実に増加し、次に、負の電圧Vmax1510まで連続的に減少し、その後、0(図15Aの1506)へと増加する。電流/電圧プロットは、電圧曲線にわたってメムリスティブ材料の導電率がどのように変化するかを示している。
【0038】
最初に、メムリスティブ材料は低導電率状態にあるので、電圧が0(図15Aの1506)からVmax1508のすぐ下まで増加するときのプロット1518の第1の部分では、電流の大きさは比較的小さいままである。Vmaxの近くでは、メムリスティブ材料の抵抗が非線形的に急激に小さくなる、すなわち、導電率が急激に大きくなるので、電流は急速に上昇し始める(1520)。次に、電圧がVmaxからVmax1510まで下がるときに、プロット1522及び1524の各部分における対応する電圧値に対するメムリスティブ材料を流れる比較的大きな電流量からわかるように、メムリスティブ材料の導電率は高いままである。負電圧Vmaxの近くでは、メムリスティブ材料のコンダクタンスは突然、急激に減少し始める(1526)。電圧が再び0に向かって増加する(図15Aの1528)ときに、メムリスティブ材料は、保持されているVmaxにおける低コンダクタンス状態になる。図15Bに示すように、第2の電圧曲線1530は、破線1532によって示されている第1の電圧曲線にわたって生成されたコンダクタンスよりもメムリスティブ材料のコンダクタンスを大きくする。他の電圧曲線は、これまでの電圧曲線にわたって生成されるコンダクタンスよりもメムリスティブ材料のコンダクタンスをさらに大きくすることができる。したがって、連続的に上昇しまたは低下する印加電圧の下では、メムリスティブ材料のコンダクタンスは非線形性を呈示し、さらに、以前のコンダクタンス状態のメモリ機能を呈する。換言すれば、種々のタイプのメムリスティブ材料について、メムリスティブ材料の物理的状態wは、次式に示すように、メムリスティブ材料の現在の物理的状態と印加電圧の両方の関数として時間に関して変化する。
【数10】


メムリスティブ接合部を流れる電流iは、印加電圧と材料のコンダクタンスの関数であり、コンダクタンスgは、次式に示すように、メムリスティブ材料の現在の状態と印加電圧の両方の関数である。
【数11】


図15A及び図15Bに示すように、メムリスティブ接合部のコンダクタンスは、現在印加されている電圧、並びに、先行する時間期間にわたって印加された電圧の履歴に依存する。
【0039】
シナプスは一般に、シナプス前ニューロンiによって生成されて、該シナプスを介してシナプス後ニューロンjに向けて送られる信号を増幅しまたは減衰させる。いくつかのモデルでは、シナプスのゲイン(利得)または重みは、0.0から1.0の範囲であり、ゲイン0.0は信号を完全に減衰させることを表し、ゲイン1.0は信号を減衰させないことを表す。これらのモデルでは、ニューロンは活性化しており、ニューロンiの活性度xがあるしきい値よりも大きいときには、該ニューロンは出力信号を放出する。ニューロンの挙動の数学的モデルは次の節で提供される。シナプス前ニューロンiをシナプス後ニューロンjに相互接続するシナプスのゲインzijの変化率の1つの数学的モデルは、次のように表される。
【0040】
【数12】


ここで、zijは、シナプス前ニューロンiをシナプス後ニューロンjに相互接続するシナプスijの重みまたは該シナプスijによって生成されたゲイン、εは学習率、ωは忘却率、f(x)はニューロンiの活動度の非線形関数、g(x)はニューロンjの活動度の非線形関数、tは時間である。
【0041】
多くの場合において、f()及びg()は一般にシグモイド(S字形状)である。1つの例示的なシグモイド関数、すなわち、「S」字状関数は、tanh()である。シナプス前ニューロン及びシナプス後ニューロンの両方が高い活動度を有するときは、ゲインzijは急速に高くなる。項−ωzijは、項−ωzijの大きさが、シナプス後ニューロンの活動度g(x)の非線形関数の現在値よりも大きいときに、シナプスのゲインが時間とともに減少することを確実にする。シナプスの重みは、フィードバック項−ωzijのために、自由に増加または減少することはできない。該フィードバック項は、シナプスのシナプス重みが1.0に近付くときには該シナプスの重みを小さくし、該シナプスの重みが0.0に近付くときにはフィードバックを次第に小さくするように作用する。シナプスの挙動の数学的モデルは、ニューロン活動度の数学的モデルに依存し、該モデルは、互いに対して相互にフィードバックを行う。シナプスゲインの数学的モデルと、メムリスティブ接合部の導電率変化を記述する上記の式、特にコンダクタンス関数g(w,v)との比較から理解されるように、シナプスモデルのニューロン活動度の非線形関数f(x)及びg(x)は、ニューロン間の物理的電圧に関連し、所与の時点におけるゲインzijは、メムリスティブ接合部に印加された電圧の履歴に関連するので、メムリスティブ接合部のコンダクタンスはゲイン関数の物理的実施形態を提供することができ、該関数の時間導関数は上記の数学的モデルとして表される。メムリスティブナノワイヤ接合部のコンダクタンスの関数表現は、したがって、メムリスティブナノワイヤ接合部によって接続されたシナプス前ニューロンとシナプス後ニューロンの現在の活動度、並びに、メムリスティブナノワイヤ接合部の最近の印加電圧の履歴に依存する。したがって、メムリスティブナノワイヤ接合部の相互接続ナノワイヤは、上記の数学的モデルによって表されるシナプス挙動をモデル化するのに適した電流信号を通過させるための物理的特徴を提供する。
【0042】
図16は、ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路の種々の実施形態における基本的な計算ユニットとして機能するニューラルセルを示す。ニューラルセルは、ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路内の計算セルの1つのタイプである。上述したように、ニューラルセル1602は、4つの垂直導電性ピン1604−1607を備える。これらのピンは、それらのコンパス方位で参照され、図16の計算セルの右側にコンパス図1610がある。NWピン1604及びSEピン1605は、ニューラルセルから、NWピン1604及びSEピン1605に相互接続されたナノワイヤへと出力信号を伝える。SWピン1606及びNEピン1607はいずれも、それらのピンに接続されたナノワイヤからそれらのピンに入力された信号をニューラルセル1602に伝える。SWピン1606は抑制性信号をニューラルセルに伝え、NEピン1607は興奮性入力信号をニューラルセルに伝える。興奮性入力信号はニューラルセルの活動度を高める傾向があり、抑制性信号はニューラルセルの活動度を低下させる傾向がある。
【0043】
図16に示す基本的なニューラルセル1602は、一般に、ニューロンの種々の異なる数学的モデルのうちの1つを実施する。一般に、受け取った興奮性信号の頻度及び数が、抑制性信号の頻度及び数を大きく上回ると、ニューロンの活動度は、一般に、あるしきい値活動度値を超えて増加し、そのしきい値活動度値を超えた時点で、該ニューロンは、出力ピン1604及び1605を通じて出力信号を放出する。
【0044】
入力興奮性信号及び入力抑制性信号は、ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路の他のニューラルセルからシナプス様メムリスティブナノワイヤ接合部を介して受信され、ニューラルセル1602によって放出された出力信号は、シナプス様メムリスティブナノワイヤ接合部を通じて、ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路の他の計算セルへと送られる。ニューラルセル及びニューロモーフィック回路は、一般に、種々のフィードバック機構を備え、ニューロモーフィック回路内の個々のニューラルセルの活動度を制御し及び制約する非線形挙動を呈する。シナプスを介して密に相互接続された比較的少数のニューラルセルだけを含む適度なサイズのニューロモーフィック回路でさえ、かなり複雑な機能性を示す場合があり、該機能性は、閉形式(closed-form)数学的表現を用いてモデル化することはできない場合がしばしばあり、かつ、伝統的なブール論理ベースのデジタル論理回路では実施するのが難しい。図16において、入力1612及び出力1612は、4つの垂直ピンを通じた信号の受信及び信号の送信に加えて、全てのニューラルセルが、ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路の半導体集積回路レベル内に実装された追加のマイクロスケールまたはサブマイクロスケールの信号線を通じて、隣接する計算セルと相互接続できることを示している。
【0045】
図17A及び図17Bは、ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路内の計算セルの相互接続を示す。図17Aは、4ピン計算セルの3×3配列(3×3アレイ)を示す。上述したように、計算セル1702などの計算セルの各々は、2つの出力ピン1704及び1706、抑制性入力ピン1708、及び、興奮性入力ピン1710を含む。図17Bは、図17Aに示すような計算セルの3×3配列を示し、該配列上に、平行なナノワイヤの2つサブレイヤ(副層)とメムリスティブ材料のサブレイヤ(副層)から構成される相互接続層が実装されている。図17Bにおいて、計算セル1702の入力ピン1710などの各入力ピンは、左側のほぼ水平なナノワイヤ1714を右側のほぼ水平なナノワイヤ1716に結合し、左側と右側の両方のナノワイヤ1714及び1716を入力ピン1712に結合するパッド1712に接続している。したがって、計算セルの配列中の入力ピンに接続された全てのナノワイヤは、平行なナノワイヤの第1のサブレイヤを形成する。図17Bに示すように、ナノワイヤは、計算セルの3×3配列の上側水平エッジ1718と下側水平エッジ1720の方向に対してわずかに回転している。この回転によって、ナノワイヤは、左方向と右方向の両方向に水平に延びることができ、かつ、それらのナノワイヤがパッド及び垂直ピンを介して接続されている計算セル内にある、または、該計算セル外部にある任意の追加の垂直ピンの上にかぶさることなく多くの近傍の計算セルに及ぶことができる。計算セル1702内の出力ピン1704などの出力ピンの各々は、同様に、ほぼ垂直なナノワイヤに接続されている。したがって、計算セルの3×3配列内の出力ピンに接続されたナノワイヤは、ほぼ平行なナノワイヤの第2のサブレイヤを形成し、該第2のサブレイヤのナノワイヤは、第1のサブレイヤのナノワイヤとほぼ直交する。
【0046】
図17Bにおいて、ナノワイヤ間のメムリスティブナノワイヤ接合部は、2つのナノワイヤ間の交差部において充填された円盤1724などの小さな充填された円盤として図示されている。メムリスティブナノワイヤ接合部1724は、シナプス前ニューラルセル1726とシナプス後ニューラルセル1728を相互接続するシナプスをモデル化する。メムリスティブナノワイヤ接合部1724は、シナプス前計算セル1726の出力ピン1730をシナプス後ニューラルセル1728の抑制性入力ピン1732に相互接続する。複数のナノワイヤ相互接続層を、ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路の半導体集積回路層の上に実装することができる。複数の相互接続層によって、シナプス様メムリスティブナノワイヤ接合部を介して複数の階層的な論理レベルでニューラルセルを相互接続することが可能になる。複数の相互接続層のニューロモーフィック集積回路アーキテクチャによって、計算セルの非常に多くの可能性のある異なる相互接続構成が提供され、したがって、非常に多くの可能性のある異なるニューロモーフィック回路を実施するための極めてフレキシブルで有効な相互接続アーキテクチャが提供される。
【0047】
いくつかのハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路では、ナノワイヤ接合部を、オン及びオフ状態になるように、製造中に構成することができ、または、その後プログラムすることができる。この場合、オンに構成されたナノワイヤ接合部だけが電流を通してシナプス様の挙動を呈し、オフに構成されたナノワイヤ接合部は開いたスイッチとして動作する。他のハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路では、全てのナノワイヤ接合部がオン状態になるように構成され、各ナノワイヤ接合部のコンダクタンスは、該ナノワイヤを通る電圧信号のみによって決定される。
【0048】
図18は、ハイブリッド型マイクロスケール−ナノスケールニューロモーフィック集積回路内の計算セルの階層的な相互接続を示す。図18は、計算セルの24×28配列1802を示している。各セルには、該配列の下に設けられた論理レベルキー1804にしたがって論理レベルが割り当てられている。たとえば、暗くされた計算セル1806などの暗くされた計算セルは、第1の論理レベルを形成する。計算セルのこのような階層的論理的配置を、1つのナノワイヤ−相互接続層を用いて各レベルのニューラルセルを相互接続することによって実施することができる。たとえば、第1レベルの計算セルを、第1のナノワイヤ−相互接続層内のナノワイヤ及びメムリスティブナノワイヤ接合によって横方向に相互接続することができる。同様に、第2論理レベルのセルを、第2のナノワイヤ−相互接続層によって相互接続することができる。さらに、前方への相互接続及びフィードバック形の相互接続は、複数の相互接続レベルを横切ることができ、これによって、論理レベル間の信号の交換を可能にする。計算セルの階層的に順序化された層は、種々のタイプのパターン認識ニューロモーフィック回路、及び、複数の入力から推論を行う推論エンジンにおいて有用である。
【0049】
本発明の方法及びシステムの実施形態
上述したように、本発明の方法及びシステムの実施形態は、シナプス様接合部の物理的特性の制御された変化であってかつ決定論的な変化を通じた機械学習に向けられており、該シナプス様接合部を介して、ニューロモーフィック回路のニューロン処理ユニットが相互接続されている。本発明のいくつかの方法及びシステムの実施形態を図示し説明するために、種々の図表記上の取り決め事を使用する。図19A−図19Cには、後続の図面で使用されるいくつかの図表記上の取り決め事が示されている。先ず、図19に示すように、ニューロモーフィック回路のニューロンまたはニューロン処理ユニットは、後続の図面では、図19Aに示す記号1902によって表される。ニューロンは、単一の出力1904を生成して、単一の興奮性入力1906及び単一の抑制性入力1908を受け取る。もちろん、ニューロンを、2つ以上の出力を生成するように、または、興奮性入力と抑制性入力の一方のみを受け取るように、または、2つ以上の興奮性入力及び/または2つ以上の抑制性入力を受け取るように実施することもできる。しかしながら、以下の説明では、図19Aに示されている記号によってシンボル化された単純なニューロンが、本発明の種々の実施形態を説明するために使用されるニューロモーフィック回路の基礎となる。
【0050】
本発明の種々の実施形態を説明するために使用される例示的なニューロモーフィック回路では、シナプスは、メムリスティブ材料から作製され、図19Bに示す記号1910によって表される。図19Cは、電圧/電圧降下グラフにおいて、図19Bのメムリスティブ−シナプスシンボル1910に関連する電圧に関係する取り決め事を示している。メムリスティブシナプスは、非対称形であり、図19Bにおいて「a」でラベル付けされた、該記号の垂直バー部1912を有する一方の端部、及び、図19Bにおいて「b」でラベル付けされた、垂直バー部のない反対側の端部を有する。「a」でラベル付けされた端部に印加された電圧が、図19Cのグラフの縦軸の右側の部分にあるように、「b」でラベル付けされた端部に印加された電圧よりも大きい、すなわち、より正側にあるときは、図19Cにおける、上向きの矢印によって表されている2つの正の電圧降下1914及び1916で示すように、メムリスティブシナプス(の両端)における電圧降下は正であると考えられる。これとは逆に、「b」でラベル付けされている端部に印加された電圧が、「a」でラベル付けされた端部に印加された電圧よりも大きい、すなわち、より正側にあるときは、図19Cにおける、2つの下向きの矢印1918及び1920によって示すように、メムリスティブシナプス(の両端)における電圧降下は負であると考えられる。図19Cは、メムリスティブシナプスの2つの端部に印加される電圧の符号が原点1922以外では逆であるという特殊なケースを示しているが、電圧降下の符号の取り決め事は、メムリスティブシナプスの端部に印加される電圧におけるどのような違いにも適用される。
【0051】
図20は、例示的なニューロモーフィック回路のごく一部を示す。図20に示す例示的な回路において、線2005などの細い線で示されている第1のナノワイヤ−クロスバー層内の、それぞれ、「E1」、「E2」、「E3」と呼ばれる3つのニューロン2002−2004が、第2のナノワイヤ−クロスバー層内の、それぞれ、「O1」、「O2」、「O3」と呼ばれる3つのニューロン2006−2008の興奮性入力に信号を出力する。これらの入力線のごく一部のみが、斜め線2009などの斜め線として図20に示されている。太線2010などの太線で示されている第3のナノワイヤ−クロスバー層内の、それぞれ、「I1」、「I2」、「I3」と呼ばれる3つのニューロン2010−2012は、ニューロンO1、O2、O3の抑制性入力に信号を出力する。充填された円盤2011などの充填された円盤は、図の平面にほぼ垂直なバイアまたはピンを示し、ナノワイヤ−クロスバー層間接続を提供することに留意されたい。ニューロンO1、O2、O3の入力の各々が、興奮性であろうが抑制性であろうが、ニューロンE1、E2、E3と、ニューロンI1,I2、I3のいずれかによって出力された信号の総和を表す信号を受け取る。たとえば、ニューロンO1の興奮性入力2014は、ニューロンE1、E2、E3によって出力された信号e、e、eの組み合わせである興奮性信号oe1を受け取る。ノードE1、E2、E3からでる信号線は、それぞれ、3つのメムリスティブシナプスg11、g21、g31によってニューロンO1の興奮性入力2014と相互接続される。したがって、ニューロンO1の興奮性入力2014への全信号入力は、oe=eg11+eg12+eg13である。したがって、3つのニューロンO1、O2、O3に対する興奮性入力及び抑制性入力を、次の行列方程式によって計算することができる。
【数13】


本発明のいくつかの実施形態では、上記式で表されるように、gijは、メムリスティブ接合部のコンダクタンスを指すので、出力信号は電圧パルスであり、シナプスを通過した後は、該信号を、下流側のニューロンに対する入力における電流信号とみなすことができる。本発明の1実施形態では、後述するように、電流信号は、ニューロンの入力における電圧信号に変換して戻される。
【0052】
信号が電圧信号と電流信号のいずれと見なされるかに関係なく、図20から、ニューロモーフィック回路の出力ニューロンO1,O2、O3に対する入力は、入力ノードE1、E2、E3、及び、I1、I2、I3から出力される信号と、それらの入力ノードから出る信号線とそれらの出力ニューロンへの入力信号線とを相互接続するそれぞれのシナプス様接合部の物理的特性gijの両方に依存するということが理解される。現在説明している例示的なニューロモーフィック回路では、gijはメムリスティブ接合部のコンダクタンスを指している。しかしながら、代替的な実施形態では、シナプス様接合部の他の物理的特性を、シナプス様接合部を介する信号伝搬を変更するものと見なすことができる。現在説明している回路におけるメムリスティブシナプス様接合部のコンダクタンス、及び、より一般的な場合におけるシナプスの物理的特性は、ニューロモーフィック回路内のメモリ(記憶要素)を表し、該メモリの現在の状態は、生体内の記憶要素が、生体が知覚入力にどのように反応するかに影響を与えるのと同様に、ニューロモーフィック回路の出力に影響を与える。
【0053】
これまでに提案したいくつかのニューロモーフィック回路実装において、ニューロンは、完全にアナログデバイスであり、時間的に互いに同期化されていない。これらの実装では、メムリスティブ接合部のコンダクタンスは、シナプスを通る信号の前方への伝搬及び後方への伝搬によって非同期的に変更される。かかるニューロモーフィック回路は、スパイクタイミング依存可塑性(「STDP」)学習モデルや他の学習モデルにしたがう学習を呈することができるが、メムリスティブ接合部の物理的特性のために、及び、ナノスケール接合部を通って伝搬する連続信号に起因して、強い制約があり、結果として、多くの電力量を浪費して、比較的大きな熱量を生じる。
【0054】
上記した非同期型ニューロモーフィック回路モデルに関連する問題に対処するために、本発明の方法及びシステムの実施形態は、ニューロモーフィック回路内のニューロンのクロックベースの同期化を用いて、ニューロモーフィック回路を通る信号伝搬を調整し、これによって、連続信号ではなく、タイミングをとられた持続時間が比較的短い電圧パルス信号を用いて、シナプス様接合部の物理的特徴の制御された決定論的な変更を提供する。本発明の方法及びシステムの実施形態は、これまでに提案したアナログニューロモーフィック回路の制約の多くを除去し、これによって、任意の種々の異なる学習モデルを実施することができ、電力損失を受容可能なレベルまで制御可能である。本発明の実施形態によれば、所望であれば、単一のニューロモーフィック回路の異なるそれぞれの部分に異なる学習モデルを実装することさえも可能である。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態は、数値を符号化して送信するためにパルス幅変調(「PWM」)を利用する。図21A−図22Bは、指数関数的減衰関数のパルス幅変調ベースの表現を示す。図21Aは、正の実数直線の一部、及び、該線のセグメントの一部内、すなわち、該線のセグメントの一部によって表された実数の範囲内の特定の数値を示している。正の実数直線2102のその部分は、原点2104から最大値8.0(2106)までの連続する線セグメントを含んでいる。実数5.5(図21Aの2108)を検討する。実数5.5は、英数字列「5.5」として、または、浮動小数点値5.5として表わされることができるが、英数字列及び浮動小数点値を符号化して送信するためには、本発明の実施形態が指向するニューロモーフィック回路に実装するのが望ましいものよりもはるかに複雑な符号化及び復号化アルゴリズムが必要となるであろうし、また、そのような符号化の利用は、一般に、計算上非効率であろう。さらに、本発明の方法及びシステムの実施形態は、送信する数値に比例するか、または関連する特徴をメムリスティブ接合部に付与しうる電圧または電流信号への数値の完全なまたはほぼ直接的な符号化法に依存する。実数値5.5の直接符号化の1つの方法は、第2の持続時間を有するあるタイムスロットまたは時間期間における所定の第1の持続時間の定電圧パルスを使用することである。この場合、第1と第2の持続時間の比は5.5/8、すなわち、0.6875に等しく、これは、符号化することができる数の範囲内の最大数に対する符号化される数5.5の比である。したがって、図21Bのグラフ2118に示すように、持続時間2112のタイムスロット内の持続時間2110の電圧パルス2116を送信すると、比0.6875すなわち5.5/8が符号化される。したがって、電圧パルスを受信するエンティティ(たとえば構成要素)により、該電圧パルスによって表すことができる最大の実数である8.0に、固定長のタイムスロットの持続時間2112に対する電圧パルスの持続時間2116の比を乗じることによって、数5.5を得ることができる。
【0056】
図22Aは、縦軸2204が電圧を表し、横軸2206が時間を表す、指数関数的減衰関数2202のプロットを示す。指数関数的減衰関数は次のように表すことができる。
【数14】


ここで、Vは最大電圧(図22Aの2208)であり、tは時間であり、τは時定数である。
【0057】
この関数を、離散値に変換して、指数関数的減衰曲線2202に沿った選択されたポイントをパルス幅変調ベースの表現で表すことによって、図22Bに示すように、一連の定電圧パルスとして送ることができる。図22Bに示すグラフ2210は、図22Aのグラフと同様に、電圧を時間に対してプロットしたものであるが、図22Aの連続関数として示されている指数関数的減衰関数の離散表現を提示している。図22Bは、図22Aに示す連続関数を、時間軸2206に沿った「0」、「1」、「2」として図22Aに示す個々の時間ポイントでサンプリングすることによって図22Aから得られたものである。図21A及び図21Bを参照して説明したパルス幅変調技術は、これらの時間ポイントの各々においてサンプルされた連続関数の値を定電圧パルスへと符号化するために利用され、この場合、定電圧パルス2220−2222は、それぞれ、時刻「0」、「1」、「2」における指数関数的減衰関数の数値を表している。図22Bにおいて、定電圧パルスは、しきい値電圧2226より低い電圧値Vp2224を有することに留意されたい。しきい値2226は、ニューロモーフィック回路のメムリスティブシナプスのしきい値電圧値である。上述したように、メムリスティブシナプスに印加された電圧降下が、該システムのしきい値電圧値より低い値を有するときは、メムリスティブシナプスのコンダクタンスはほとんど変化しないが、該しきい値電圧値以上の量の電圧降下がメムリスティブシナプスに印加されているときは、該シナプスのコンダクタンスは大きく変化し、この場合、該しきい値電圧値を超える電圧値のさらなる各増分によってコンダクタンスの非線形的な増加が生じる。本発明の実施形態では、種々のタイプの各信号内の電圧パルスは、ニューロモーフィック回路内のメムリスティブシナプスのしきい値電圧値より低く維持されており、これによって、後述するように、シナプスのコンダクタンスは、所定の非常に特殊な環境の下で、前方へ伝搬する信号と後方へ伝搬する信号の組み合わせが、しきい値電圧より大きな電圧(以下、超しきい値電圧という)を生成するときのみ変化するようになっている。
【0058】
図21Aに示す連続的電圧減衰関数が、連続電圧信号としてシナプスに適用される場合には、シナプスのコンダクタンスの全変化量は、次のように近似できることに留意されたい。
【数15】


ここで、Aは、比較的大きな値の定数であり、しきい値電圧値を超えて印加された電圧降下で生じる大きなコンダクタンスの変化を反映している。Bは、非常に小さな値の定数であり、しきい値電圧値を下回って印加された電圧降下で生じるわずかなコンダクタンスの変化を反映している。tは、電圧f(t)がしきい値電圧に等しいときの時刻である。
【0059】
これによれば、
【数16】


が大きな数値を有するときに、コンダクタンスが大きく変化する。これとは対照的に、図22Bに示す離散表現された関数が電圧信号としてシナプスに印加される場合には、
【数17】


によって近似される、非常に小さなコンダクタンスの変化が生じるのみであろう。ここで、pwm(f(t))は、時刻tにおける電圧値のパルス幅変調ベースの表現の持続時間である。これは、連続信号を印加することによって生じる場合に比べて非常に小さなコンダクタンスの変化を生じるであろう。後述するように、本発明のいくつかの実施形態では、正電圧パルスの各々には、学習を実施するために使用される信号の多くにおいて、同じ持続時間の同じ大きさの負電圧パルスが付随し、このため、2つの信号が結合してしきい値を超える電圧降下(以下、超しきい値電圧降下という)をシナプスに生じるときには、特殊な場合を除いて、コンダクタンスの変化はシナプスにはほとんど生じない。
【0060】
図23は、本発明の1実施形態を表すニューロモーフィック回路内のニューロンの記号表現を示し、該ニューロンは、他のニューロンによる信号送信と同期(または同調)して、メムリスティブシナプスを介して信号を送信することができる。出力2302、興奮性入力2304、及び抑制性入力2306に加えて、ニューロンは、クロック入力2308、正の定電圧V入力2310、及び、負の定電圧入力V2312をさらに有する。本発明の1実施形態では、ニューロンによって生成されて送信される全ての信号は、仮想接地電圧であるV=0を基準として、VまたはV電圧のパルスを含む。V入力2310及びV入力2312は、ニューロン内部の回路に電圧を提供する。クロック入力2308は、一般に一定時間間隔またはチック(tick)で発生する一連の電圧スパイクからなるタイミング信号をニューロモーフィック回路内の全てのニューロンに提供して、それらのニューロンが互いに信号送信を同期できるようにする。
【0061】
図24は、本発明の実施形態にしたがう基本的な信号同期モデルを示す。図24において、横軸2402は、共通の取り決め事として右に向かって進行する時間を表す。時間は、フレームと呼ばれる一定間隔に分割され、各フレームはさらにスロットに分割される。図24では、フレーム境界を表す時間ポイント2404−2407は、それぞれ、「f」、「f」、「f」、及び「f」でラベル付けされている。したがって、フレームfは、時間ポイントf2404からf2405に及ぶ時間期間2410を指す。フレームfは、各々が、同じサイズの5つのタイムスロットs、s、s、s、及びsに分割され、時間ポイントf2404、s2412、s2413、s2414、s2415、及びf2405に対応する境界を有する。図24中のフレームの拡大表現2420によって示されているように、これらの5つのタイムスロットは、「COMM」、「LTP」、「LTP」、「LTD」、及び「LTD」スロットと呼ばれる。COMMスロットは、ニューロンスパイク及び他の任意のニューロン出力を送るために使用される。LTP及びLTPスロットは、1つのニューロンの出力から1つ以上のニューロンの入力へと長時間増強信号を送るために利用され、各LTP/LTPにおける電圧パルスは持続時間及び大きさが同じで符号が逆である。LTD及びLTDスロットは、1つのニューロンの入力端子から他のニューロンの出力端子へと長時間抑圧信号を送るために使用され、各LTD/LTDの対における電圧パルスもまた持続時間及び大きさが同じで符号が逆である。上述したように、2つ1組で符号が逆の電圧信号を送ることにより、同じ持続時間及び同じ大きさで符号が逆のパルスの対によって生成されたコンダクタンスの変化を相殺することによって、該対の1つだけのパルスの送信から生じるであろうしきい値を下回るわずかなコンダクタンスの変化でさえ回避される。したがって、図24に示すように、本発明の1実施形態を表すクロックベースの同期式ニューロモーフィック回路における信号送信は、一定時間間隔で繰り返すフレームにおいて生じ、各フレームはスロットに分割されており、各スロットは、異なるタイプの信号の送信を可能にする。フレーム及びスロットの境界は、1タイムスロット及び1フレームあたり一定数存在するクロックチック(クロックの刻み)と符合する(または同時に生じる)。
【0062】
図25A及び図25Bは、2つの異なる指数関数的減衰関数のパルス幅変調表現を示す。図25Aに示す第1の指数関数的減衰関数であるLTP関数は、LTP及びLTP信号の生成及び送信の基礎として使用される。この指数関数的減衰関数のサンプリング(または標本)及び対応するパルス幅が、該関数の右側の表2504に示されている。同様に、図25Bは、LTD及びLTD信号の生成の基礎として使用される第2の指数関数的減衰関数LTD2506を示す。この関数を表す種々のサンプル時刻で送信されるパルス幅が、該関数の右側の表2508に示されている。表2504及び2508は、一連の連続するフレームの各々に含まれているLTD及びLDP信号の各々のパルス幅を示しており、これらのフレームにおいてそれらの信号が送信されることに留意されたい。LTP関数は、STDP学習モデルの長時間増強側面にしたがってメムリスティブシナプスのコンダクタンスを変化させるために使用されるLTP信号の基礎として使用され、LTD関数は、STDP学習モデルにしたがうメムリスティブシナプスの長時間抑圧を達成するLTD信号の基礎として使用される。しかしながら、本発明の方法にしたがって、異なる関数及び対応するパルス幅変調値表を用いて、種々の異なる任意の学習モデルを実施することができる。LTP関数は、LTD関数よりも幾分速く減衰する、換言すれば、LTD関数よりも小さな時定数を有することに留意されたい。LTP関数とLTD関数の違いは、前のサブセクションで説明したように、図5に示すグラフの左側と右側との違いに対応する。
【0063】
図26は、本発明の実施形態にしたがうニューロモーフィック回路内の2つのニューロン、及び、それらのニューロンの出力及び入力に付された英数字のラベルを示す。第1のニューロン2602であるV1は、以下の説明では「前」ニューロンと呼ばれ、第2のニューロン2604であるV2は「後」ニューロンと呼ばれる。メムリスティブシナプス2606は、ニューロンV1の出力をニューロンV2の興奮性入力に結合する。本発明の説明された実施形態は、定電圧パルス信号を使用する。2つのニューロンの出力及び入力端子における任意の所与の時点における電圧は、図26に示す文字列で参照される。興奮性入力電圧は「e」という文字で終わり、抑制性入力は「i」という文字で終わり、出力端子電圧は小文字の「o」で終わる。これらのネーミングの取り決め事は、本発明の1実施形態にしたがうニューロモーフィック回路中のニューロンによって生成されて送信される信号の形態を示すために、図27A−図27Fで使用される。
【0064】
図27A−図27Fは、本発明の実施形態にしたがうニューロモーフィック回路中のニューロンによって生成されて送信される定電圧パルス信号を示す。図27A−図27Fは全て、同じ図表記上の取り決め事を使用している。各図面の一番下には、最初(または第1)のフレーム2702から始まる一連の連続するフレームの表現と、それらのフレームのうちのあるフレーム内のスロットが示されている。図26に示すニューロモーフィック回路の一部中の3つの異なるポイントの各々における電圧または電圧信号が、3つの整列されたグラフ2704−2706において横方向にプロットされて示されている。それらのグラフは、各頁の一番下にある連続するフレームの表現とも整列されている。
【0065】
図27Aは、スパイキングニューロン(スパイク発火したニューロン)によって生成された信号を示す。ニューロンの出力において生成された信号はグラフ2704にプロットされており、該ニューロンの興奮性入力及び抑制性入力において生成された信号はグラフ2705及び2706に示されている。本発明の説明された実施形態では、入力信号と組み合わせて、ある時点において、メムリスティブシナプス(の両端)に超しきい値電圧降下を生成して、STDPモデルなどの学習モデルにしたがう学習を達成するために、後方に伝搬する電圧信号と等価な物が入力信号線に出力されるということに留意されたい。スパイク2708の発生より前の、図27Aに示す4番目のフレーム(第4のフレーム)2710の開始時には、ニューロンによって出力された信号は、平坦、換言すれば、一定の仮想ゼロ電圧信号2712−2714である。スパイクはフレーム境界と整列している。したがって、フレーム2710の左側の境界より幾分先行する時点において、ニューロンV1内の内部処理回路は、4番目の2710及び後続のフレームにおいてスパイクを発すべきことを決定した。
【0066】
4番目のフレーム2710のCOMMスロット2716において、スパイキングニューロンV1は、該スロットにわたって正電圧パルス2718を出力する。これは、任意の下流側の受信ニューロンがその後いつスパイクを発すべきかを少なくとも部分的にそれら自身で決定するために利用できるスパイク信号である。4番目のフレームのLTP及びLTPタイムスロット2720−2721において、ニューロンは、図25A中の表2504の最初のエントリに示されているPWM値に等しい幅または持続時間を有する符号が逆の電圧パルスを出力する。正のパルス2723はLTPスロット2720において送信され、対応する負パルス2724はLTPスロット2721において放出される。LTD及びLTDスロット2725−2726において、スパイキングニューロンは、各々の入力端子において、持続時間または幅が図25B中の表2508の最初のエントリに示されている幅に等しい正電圧パルス2727及び負電圧パルス2728をそれぞれ放出する。後述するように、前方に伝搬するLTP信号は、後方に伝搬するLDP信号と結合して、メムリスティブシナプス(の両端)に超しきい値電圧降下を生じさせ、これによって、STDP学習モデルにしたがってシナプスのコンダクタンスを変化させることができる。
【0067】
次の5番目のフレーム(第5のフレーム)2729において、ニューロンV1は、図25A中の表2504の2番目のエントリに示されているパルス幅に等しいパラス幅を有するLTP2730とLTP2732のパルス対を、LTPタイムスロット2733及びLTPタイムスロット2734において出力し、正のLTD2735及び負のLTD2736信号2735−2748を、5番目のフレーム2729のLTD及びLTDタイムスロット2738及び2739において入力端子へと放出する。後続のフレーム2740及び2742において、LTPとLTP信号対2744及び2746は、LTP及びLTPタイムスロット2748及び2749において出力され(それらの信号の幅は、図25A中の表2504の3番目と4番目のエントリにしたがって減少している)、LTDとLTD信号対2750及び2752は、LTD及びLTDタイムスロット2754及び2756において入力端子へと放出される(それらのパルス幅は、図25B中の表2508の3番目と4番目のエントリにしたがって減少している)。このように、スパイキングニューロンは、LTP/LTP及びLTD/LTDの最大値信号と共に、1番目のフレームにおいてスパイクと同時に単一のスパイクパルス2718を放出し、その後、後続のフレームにおいて、LTP及びLTD関数が、表2504及び2508の0エントリで表されている完全な減衰状態に至るまでパルス幅を減少させながら、後続のクレームの各々でもってLTP/LTPの出力とLTD/LTD信号の放出を継続する。
【0068】
図27B−図27Fは、図27Aを参照して説明した信号に基づくSTDP学習を示す。図27B−図27Fの各々において、後ニューロンV2eの入力端子への信号出力、前ニューロンV1oの出力端子への信号出力、及び、2つのニューロン(図26の2606)を接続しているメムリスティブシナプス(の両端)における電圧降下が、それぞれの図面において第1、第2、第3の信号プロットとして示されている。
【0069】
図27Bは、同じフレーム中の、後ニューロンV2の興奮性入力における電圧、前ニューロンV1の出力における電圧、及び、後ニューロンと前ニューロンの両方が同時にスパイクを発したときの(それらを)接続しているメムリスティブシナプス(の両端)における電圧降下を示している。メムリスティブシナプス(の両端)における電圧は、図19B及び図19Cを参照して説明した電圧に関する取り決め事にしたがって、各時間ポイントにおいて、電圧V1o−V2eに等しい。メムリスティブシナプス(の両端)における超しきい値電圧降下は、図27Bにおいて、2760及び2762などのクロスハッチングで示されている。しきい値電圧の大きさは、破線2763で示されている。両方のニューロンが同時に、または、単一のフレーム2764内でスパイクを発するときには、前ニューロンが1番目のフレームのLTPタイムスロットにおいて最大値のLTP信号2766を出力しており、後ニューロンがそれと同じタイムスロットにおいて最大値の負パルス2768を出力しているときに超しきい値電圧が発生する。同様に、LTDタイムスロットにおいて、前ニューロンが最大値のLTD信号2770を送信し、前ニューロンが最大値の正のLTD信号2772を送信するときに超しきい値電圧2762が発生する。同時スパイキングの場合には、他の超しきい値電圧降下は生じず、また、正の超しきい値電圧降下2760と負の超しきい値電圧降下2762とは完全に相殺しあうので、同時スパイキングのために、メムリスティブシナプス2606のコンダクタンスは本質的に変化しない。
【0070】
図27Cは、前ニューロンが1番目のフレーム2774でスパイクを発し(スパイクを発することをスパイキングという)、後ニューロンが2番目のフレーム2776でスパイクを発する場合を示す。この場合には、単一の正の超しきい値電圧2778が、2番目のフレームのLTPタイムスロットにおいて生成されて、メムリスティブシナプスにおけるコンダクタンスを増加させ、それゆえ、STDPモデルにしたがう積極的なLTP学習をもたらす。図27Dに示すように、1番目のフレーム2784における前ニューロンのスパイキングに続いて後ニューロンが3番目のフレーム2782においてスパイキングをすると、単一の幾分より小さな超しきい値電圧2786が、3番目のフレームのLTPタイムスロット中に生成されて、2つのニューロンを結合するメムリスティブシナプスのコンダクタンスをより小さく増加させる。STDPモデルにしたがって、コンダクタンスの増加は、後ニューロンのスパイキングが、前ニューロンのスパイキングよりさらなるフレームだけ遅れるにつれて指数関数的に減少する。LTP及びLTD関数が完全に減衰すると、もはや導電率は変化しない。
【0071】
図27Eは、後ニューロンが1番目のフレーム2790でスパイクを発し、前ニューロンが2番目のフレーム2792でスパイクを発する場合を示す。これは、後ニューロンが前ニューロンのスパイキングの前にスパイクを発するという、ニューロン発火すなわちスパイキングの順序が通常と異なる場合である。この場合には、単一の超しきい値電圧2794が2番目のフレームで発生して、STDPモデルにしたがうLTDについて予測されるように、コンダクタンスの減少をもたらす。図27Fに示すように、後ニューロンが1番目のフレーム2795でスパイクを発し、前ニューロンが3番目のフレーム2796でスパイクを発する場合には、メムリスティブシナプス(の両端)における負の超しきい値電圧2798の持続時間は、図27Eに示すように、後ニューロンがスパイクを発したフレームの直後のフレームにおいて前ニューロンがスパイクを発する場合の持続時間よりも短い。したがって、STDP学習モデルのLTD特性にしたがって、スパイキングの順序が通常と異なるときにはシナプスのコンダクタンスは減少し、それらのスパイクがますます時間的に離れるにしたがい、コンダクタンスの減少の大きさは指数関数的に小さくなる。
【0072】
図28A−図29Eは、本発明の実施形態にしたがう、図27A−図27Fに示す同期信号を生成するニューロモーフィック回路−ニューロン信号処理論理回路の1実施例を示す。図28A−図29Eはすべて、図28Aを参照して次に説明する図表記上の同じ取り決め事を使用する。このニューロンの実施例は、クロック入力信号線2802、興奮性入力信号線2804、抑制性入力信号線2806、正の定電圧入力2808、負の定電圧入力2809、及び、出力信号線2810を有する。クロック入力は、4つの時分割多重逆多重デマルチプレクサ(「TDDDEMUX」)2812−2814、及び、1つの時分割多重マルチプレクサ(「TDM MUX」)2815を制御する。図21A−図22Bを参照して上述したように、2つのパルス幅変調ユニット2816及び2817(「PWMユニット」)は、入力連続電圧信号を対応する定電圧パルスに変換する。図28A−図29Eには示されていないが、PWMユニットは、入力クロック信号によって直接に、または、ニューロンプロセッサによって間接的に制御されて、適宜のタイミングで定電圧PWMパルスを出力する。ニューロン処理回路2820は、興奮性入力2822及び抑制性入力2824、クロック入力2826、及び正電圧入力2828を受信して、スパイク発生器2832によって生成されたスパイク信号2830及び2831を出力する。コンデンサC2834と抵抗器R 2836は結合して、LTP指数関数的減衰関数を特徴付ける時定数τを生じ、コンデンサC2838と抵抗器R2840は結合して、LTD指数関数的減衰関数を特徴付ける時定数τを生じる。
【0073】
図28A−図28Eの各々は、スパイキングニューロンの1番目のフレームの連続するタイムスロットの各々に対応する。したがって、図28A−図28Eは、スパイキングニューロンの1番目のフレーム(図27Aの2710)に対応する図27Aに示す電圧信号の生成を示している。タイムスロット0、すなわち、COMMタイムスロットにおいて、ニューロンプロセッサのスパイク発生器2832によって発生されたスパイク信号は、図28A−図28Eに示す4つのスイッチ2842−2845を閉じ、これらのスイッチは、1番目のフレームの間中閉じた状態とされる。クロック信号は、TDDDEMUXの各々に入力して、スロット0の出力をTDM MUXに入力させる。スイッチ2842はスパイク信号によって閉じられているので、TDM MUX 2815のタイムスロット0入力2848へのV電圧入力は、出力信号線2810へと通過し、それゆえ、該出力信号線は電圧値V2850を有する。スイッチ2843と2845は閉じているので、コンデンサC及びCは、1番目のフレームの間に全容量まで充電される。TDDDEMUX 2813のタイムスロット0入力2852に接続された信号はなく、それゆえ、興奮性入力2804または抑制性入力2806には信号は出力されない。
【0074】
図28Bに示すように、クロック入力2854が、1番目のフレームの2番目のタイムスロットすなわちLTPタイムスロットの開始を示しているときには、正のLTP信号がPWMユニット2817から出力される。この信号の持続時間は、電圧
【数18】


に対応するPWM値に概ね等しいが、1番目のフレームではtは0であるので、出力信号は最大の持続時間を有する。Vは、スイッチ2844を通って抑制性端子及び興奮性端子の両方に出力される。
【0075】
1番目のフレームの3番目のタイムスロットにおいて、図28Cに示すように、負電圧パルスが、PWMユニット2817から出力される。この信号の持続時間は、電圧
【数19】


から計算されたPWM値に対応する持続時間に概ね等しいが、1番目のフレームではt=0であるので、持続時間は最大である。興奮性入力及び抑制性入力はTDDDEMUX 2813を介してグランド(アース)に接続される。1番目のフレームの4番目のタイムスロットでは、V定電圧は反転されて、TDDMUX 2815を介して出力端子に出力される。正のLTD信号は、電圧
【数20】


に対応するPWM値に概ね等しい持続時間を有するが、1番目のフレームにおいて最大の持続時間を有しており、TDD DEMUX2813を介して抑制性入力端子と興奮性入力端子の両方に出力される。最後に、1番目のフレームの5番目のタイムスロットでは、出力端子は、TDM MUX 2815によってグランド(アース)に接続される。負のLTDパルスは、電圧
【数21】


に対応するPWM値に概ね等しい持続時間を有するが、1番目のフレームにおいて最大の持続時間を有しており、TDD DEMUX2813を介して興奮性入力端子及び抑制性入力端子に出力される。このように、図28A−図28E及び図27Aを検討すると、ニューロンスパイクの1番目のフレーム中にニューロンの端子に生じる電圧パルスの各々が、図28A−図28Eに示す実施例によってどのように生成されるかが容易に理解される。
【0076】
図29A−図29Eは、本発明の1実施形態を表す実施例によるスパイクが出力されないフレーム中の端子電圧の生成を示す。図29Aに示すように、スパイク信号線2830−2831上にスパイク信号が存在しないためにスイッチ2842−2845は開いている。これらのスイッチは、スパイクが出力されない全てのフレームにおいて開いたままである。スイッチ2843及び2845が開いているときは、コンデンサC及びCが時間とともに放電して、上述したように、LTP及びLTD指数関数的減衰関数を生じる。フレーム2710に続く図27Aの各フレームにおいて、類似の電圧信号が各端子に示されており、LTP/LTP及びLTD/LTD信号のパルス幅は後続するフレームにおいて狭くなっている。もちろん、LTP及びLTD関数が減衰しているとき、または、コンデンサC及びCが完全に放電しているときで、さらなるスパイキングが生じないときには、仮想接地である0V電圧だけが全てのニューロン端子に出力される。また、図28Aに示す実施例から明らかなように、以前のスパイクのLTP及びLTD関数が完全に減衰する前にニューロンがスパイクするときは、LTP及びLTD関数は、直近のスパイクによってリセットされて、コンデンサC及びCの充電によってそれらの最大値に設定される。
【0077】
最後に、図30は、本発明の実施形態にしたがう、ニューロンに入力信号を接続するために使用できる仮想接地回路の1つの可能性のある実施例を示す。仮想接地実施例は、加算増幅器3002を使用して全ての入力電流を合計し、その合計を出力電圧3004に変換する。
【0078】
特定の実施形態に関して本発明を説明したが、本発明をそれらの実施形態に限定することは意図されていない。本発明の思想の範囲内の変更が当業者には明らかであろう。たとえば、ニューロンを、1つ以上の抑制性入力及び/または1つ以上の興奮性入力から受信した入力に基づいて、同期信号を生成して複数の出力に送信するように実施することができる。上記実施例ではSTDPモデルについて説明したが、各ニューロンの出力端子及び入力端子で生成されて発生する信号を変更することによって種々の任意の異なる学習モデルを実施することができる。本発明の好適な実施形態にしたがって5タイムスロットのフレームが使用されたが、1フレームあたりで使用するスロットの数をこれより少なくしても多くしてもよい。たとえば、正及び負のスパイク電圧を、COMM及びCOMMタイムスロットにおいて出力して、望ましくないシナプスコンダクタンスの変化をさらに小さくすることができる。実施例は、電圧信号と電流信号の両方、または、電圧信号、または、電流信号を使用することができる。ほとんど無限個の異なるニューロン処理回路実施例を使用することができる。図28A−図29Eにおいて、ニューロンの信号生成及び信号送信部分の例示的な回路実施例を示したが、異なるコンポーネント(部品)、相互接続、及び構造化を用いることによって多くの他の実施例が可能である。上述の実施形態は、ニューロモーフィック回路の内部ニューロンに焦点を当てたが、それらの実施形態は、上流側のニューロンから信号を受信し、下流側のニューロンに信号を送信するものである。ニューロモーフィック回路は、しばしば、外部入力から信号を受信し、及び、外部出力に信号を送信するインターフェースニューロンを含む。いくつかの実施形態では、インターフェースニューロンは、外部入力を受信し及び外部出力へ出力するためにフレームベースの同期化を利用せずに、ニューロモーフィック回路の外部のデバイスの回路内で使用される別の決まり事に従う場合がある。
【0079】
上記では、本発明を十分に理解できるようにするために、説明を目的として特定の用語を使用した。しかしながら、本発明を実施するために特定の細部は必要ではないことが当業者には明らかであろう。本発明の特定の実施形態に関する上記説明は、例示及び説明のために提示されたものである。それらは、本発明を網羅することも本発明を開示した形態そのものに限定することも意図していない。上記の教示に照らして多くの修正及び変形が可能である。それらの実施形態は、本発明の原理及びその実用的応用を最も良く説明し、これによって、当業者が、意図する特定の用途に適するように種々の変更を加えつつ本発明及び種々の実施形態を最良に利用できるようにするために図示し及び説明された。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物によって画定されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上の内部ニューロン計算ユニットとメムリスティブシナプスを有するニューロモーフィック回路であって、
内部ニューロン計算ユニットの各々は、同期信号を受信するための同期信号入力と、入力信号を受信するための少なくとも1つの入力と、出力信号を送信するための少なくとも1つの出力を有し、
メムリスティブシナプスの各々は、第1の組をなす1つ以上の内部ニューロンからの出力信号を伝送する出力信号線を、第2の組をなす1つ以上の内部ニューロンに信号を伝送する入力信号線に相互接続する、ニューロモーフィック回路。
【請求項2】
内部ニューロンの各々は、前記同期信号を利用して時間をフレームに分割し、各フレームは、2つ以上のタイムスロットから構成される、請求項1のニューロモーフィック回路。
【請求項3】
各フレームの各タイムスロット中に、内部ニューロンの各々は、該タイムスロットに関連する特定のタイプの信号を送信及び/または受信することができる、請求項2のニューロモーフィック回路。
【請求項4】
各フレームの各タイムスロット中に内部ニューロンによって送信される信号は、他の信号と結合することなく、任意のメムリスティブシナプスに関してしきい値信号強度値以下になるサブしきい値信号であり、該信号は該メムリスティブシナプスを通ることからなる、請求項3のニューロモーフィック回路。
【請求項5】
各フレームが、
COMMタイムスロットと、
LTPタイムスロットと、
LTPタイムスロットと、
LTDタイムスロットと、
LTDタイムスロット
を有する、請求項4のニューロモーフィック回路。
【請求項6】
COMMタイムスロット中に、内部ニューロンは、下流側の1つ以上のニューロンに出力信号を送信することができ、
LTPタイムスロット中に、前記内部ニューロンは、LTP/LTP信号対の正のLTP信号を送信することができ、
LTPタイムスロット中に、前記内部ニューロンは、LTP/LTP信号対の負のLTP信号を送信し、
LTDタイムスロット中に、前記内部ニューロンは、LTD/LTD信号対の正のLTD信号を送信することができ、
LTDタイムスロット中に、前記内部ニューロンは、LTD/LTD信号対の負のLTD信号を送信する、
請求項5のニューロモーフィック回路。
【請求項7】
スパイキングと同時に生じる第1のフレーム中に、スパイキング内部ニューロンは、
前記COMMタイムスロット中にスパイク信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTPタイムスロット中に最大のLTP信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTPタイムスロット中に最大のLTP信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTDタイムスロット中に最大のLTD信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTPタイムスロット中に最大のLTP信号を1つ以上の入力に送信し、
前記LTDタイムスロット中に最大のLTD信号を1つ以上の入力に送信し、
前記LTDタイムスロット中に最大のLTD信号を1つ以上の入力に送信する、請求項6のニューロモーフィック回路。
【請求項8】
スパイキングに続く各フレーム中に、非スパイキング内部ニューロンは、
前記LTPタイムスロット中に、スパイキング時の最大値から指数関数的に減衰するLTP関数の現在値を表す大きさのLTP信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTPタイムスロット中に、スパイキング時の最大値から指数関数的に減衰するLTP関数の現在値を表す大きさのLTP信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTDタイムスロット中に、スパイキング時の最大値から指数関数的に減衰するLTP関数の現在値を表す大きさのLTD信号を1つ以上の入力に送信し、
前記LTDタイムスロット中に、スパイキング時の最大値から指数関数的に減衰するLTP関数の現在値を表す大きさのLTD信号を1つ以上の入力に送信する、請求項6のニューロモーフィック回路。
【請求項9】
メムリスティブシナプスを介して第2の内部ニューロンの入力に接続された出力を有する第1の内部ニューロンが、第1のフレームにおいてスパイクを発し、前記第2の内部ニューロンが、前記第1のフレームに続く第2のフレームにおいてスパイクを発するときで、前記第1の内部ニューロンのLTP関数がまだ0値に減衰していないときは、前記LTPタイムスロット中に前記第1の内部ニューロンによって送信されたLTP信号は、前記LTPタイムスロット中に前記第2の内部ニューロンによって該第2の内部ニューロンの1つ以上の入力へと送信された最大のLTP信号と結合して、前記メムリスティブシナプスに関してしきい値信号強度を上回る正の超しきい値信号を生成する、請求項6のニューロモーフィック回路。
【請求項10】
メムリスティブシナプスを介して第2の内部ニューロンの入力に接続された出力を有する第1の内部ニューロンが、第2のフレームにおいてスパイクを発し、前記第2の内部ニューロンが、前記第1のフレームに先行する第1のフレームにおいてスパイクを発するときで、前記第2の内部ニューロンのLDP関数がまだ0値に減衰していないときは、前記LDTタイムスロット中に前記第1の内部ニューロンによって1つ以上の出力へと送信されたLTD信号は、前記LTPタイムスロット中に前記第2の内部ニューロンによって該第2の内部ニューロンの1つ以上の入力へと送信されたLTD信号と結合して、前記メムリスティブシナプスを負方向へと促進する、しきい値信号強度を下回る負の超しきい値信号を生成する、請求項6のニューロモーフィック回路。
【請求項11】
前記メムリスティブシナプスは、正の超しきい値電圧が印加された結果として非線形の正のコンダクタンスの変化を呈し、負の超しきい値電圧が印加された結果として非線形の負のコンダクタンスの変化を呈し、及び、しきい値電圧値を下回る値の電圧が印加された結果として非常に小さなコンダクタンスの変化を呈する、請求項1のニューロモーフィック回路。
【請求項12】
内部ニューロンは、出力及び入力において電圧信号を放出し、入力において電流信号を受信して、受信した電流信号を仮想接地回路によって内部電圧信号に変換する、請求項1のニューロモーフィック回路。
【請求項13】
ニューロモーフィック回路において学習を行うための方法であって、
2つ以上の内部ニューロン計算ユニットとメムリスティブシナプスとを有するニューロモーフィック回路を提供するステップであって、各内部ニューロン計算ユニットは、同期信号を受信するための同期信号入力と、入力信号を受信するための少なくとも1つの入力と、出力信号を送信するための少なくとも1つの出力を有し、該メムリスティブシナプスの各々は、第1の組をなす1つ以上の内部ニューロンからの出力信号を伝送する出力信号線を、第2の組をなす1つ以上の内部ニューロンに信号を伝送する入力信号線に相互接続することからなる、ステップと、
前記ニューロモーフィック回路内の内部ニューロンによって、任意のメムリスティブシナプスに関してしきい値信号強度値以下の信号を送信するステップであって、該信号は該メムリスティブシナプスを通り、該信号は、メムリスティブシナプスを介して結合された内部ニューロンが両方とも指数関数的減衰関数の減衰時間内で発火する状況では、前記メムリスティブシナプスに関するしきい値信号強度値より値が大きな部分を有する信号を生成するために結合して、学習モデルにしたがって該メムリスティブシナプスのコンダクタンスを変化させることからなる、ステップ
を含む方法。
【請求項14】
各内部ニューロンは、前記同期信号を利用して時間をフレームに分割し、各フレームは2つ以上のタイムスロットから構成され、
各フレームの各タイムスロット中に、各内部ニューロンは、該タイムスロットに関連する特定のタイプの信号を送信及び/または受信することができる、請求項13の方法。
【請求項15】
各フレームは、COMMタイムスロットと、LTPタイムスロットと、LTPタイムスロットと、LTDタイムスロットと、LTDタイムスロットを有し、
前記COMMタイムスロット中に、内部ニューロンは、1つ以上の下流側のニューロンに出力信号を送信することができ、前記LTPタイムスロット中に、前記内部ニューロンは、LTP/LTP信号対の正のLTP信号を送信することができ、前記LTPタイムスロット中に、前記内部ニューロンは、LTP/LTP信号対の負のLTP信号を送信し、前記LTDタイムスロット中に、前記内部ニューロンは、LTD/LTD信号対の正のLTD信号を送信することができ、前記LTDタイムスロット中に、前記内部ニューロンは、LTD/LTD信号対の負のLTD信号を送信し、
スパイキングと同時に生じる第1のフレーム中に、内部ニューロンは、
前記COMMタイムスロット中にスパイク信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTPタイムスロット中に最大のLTP信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTPタイムスロット中に最大のLTP信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTDタイムスロット中に最大のLTD信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTPタイムスロット中に最大のLTP信号を1つ以上の入力に送信し、
前記LTDタイムスロット中に最大のLTD信号を1つ以上の入力に送信し、
前記LTDタイムスロット中に最大のLTD信号を1つ以上の入力に送信し、
スパイキングに続く各フレーム中に、非スパイキングニューロンは、
前記LTPタイムスロット中に、スパイキング時の最大値から指数関数的に減衰するLTP関数の現在値を表す大きさのLTP信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTPタイムスロット中に、スパイキング時の最大値から指数関数的に減衰するLTP関数の現在値を表す大きさのLTP信号を1つ以上の出力に送信し、
前記LTDタイムスロット中に、スパイキング時の最大値から指数関数的に減衰するLTP関数の現在値を表す大きさのLTD信号を1つ以上の入力に送信し、
前記LTDタイムスロット中に、スパイキング時の最大値から指数関数的に減衰するLTP関数の現在値を表す大きさのLTD信号を1つ以上の入力に送信する、請求項14の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11A−11B】
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【図12A】
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【図12B−12E】
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【図13】
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【図14】
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【図15A】
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【図15B】
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【図16】
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【図17A】
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【図18】
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【図19A】
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【図19B】
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【図19C】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23】
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【図24】
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【図25A】
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【図25B】
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【図26】
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【図27A】
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【図27B】
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【図27C】
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【図27D】
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【図27E】
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【図27F】
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【図28A】
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【図28B】
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【図28C】
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【図28D】
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【図28E】
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【図29A】
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【図29B】
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【図29C】
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【図29D】
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【図29E】
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【図30】
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【公表番号】特表2011−515747(P2011−515747A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−550652(P2010−550652)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【国際出願番号】PCT/US2008/011274
【国際公開番号】WO2009/113993
【国際公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)