説明

ニンニク由来の抗菌性物質およびその製造方法

【課題】 新規な抗菌性物質の提供
【解決手段】 ニンニク皮由来の抗菌性物質の製造方法において、下記の工程:(1)ニンニクの皮を用意する;(2)ニンニクの皮を、所望により粉砕した後、酢酸エチルで抽出して、酢酸エチル抽出物を得る;(3)酢酸エチル抽出物を、n−ヘキサンと酢酸エチルとから成る展開溶媒を用いてフラッシュカラムクロマトグラフィー処理して、3番目に溶出する画分III (Fr.III )を得る;(4)画分III 中の成分をシリカゲル箔層クロマトグラフィーにかけ、展開溶媒として塩化メチレン/エチルエーテル/n−ヘキサン(10:1:7)を用いるシリカゲル箔層クロマトグラフィーにおいて、およそ0.44のRf値を示す物質を採取する;を含んで成る方法、及びこれにより得られる新規抗菌性物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,ニンニク、特にニンニクの皮に由来する抗菌性物質、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青森県産のニンニク(Allium sativum L.)は全国シェアの約8割を占め、青森県の産業の重要な部分を構成している。ニンニクの可食部分を利用するために除去するニンニクの皮は膨大な量に昇り、現在、産業廃棄物として処理されており、その有効利用が望まれている。ニンニクの皮はニンニクの可食部に対する保護作用を有すると考えられ、ニンニクの皮には何らかの抗菌性物質の存在が予想されるが、そのような物質の存在は確認されていない。
【0003】
植物炭素病の一種であるリンゴ炭素病は、植物炭素病原菌であるコレトトリカム・アクテイタム(Colletotrichum acutatum)がリンゴの果実の表面に繁殖する植物病であり、このリンゴ炭素病に対しては、べノミル(Venomyl)、ジエトフェンカルブ(Diethofencarb)等の合成農薬使用されている。コレトトリカム・アクテイタム(Colletotrichum acutatum)に対するべノミル(Venomyl)の最少阻止濃度は1250μmであり、ジエトフェンカルブ(Diethofencarb)のそれは625μmであり、植物炭素病原菌に対する、より強力な農薬の開発が望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、青森県の重要な農産物であるニンニクの皮から、同じく青森県の重要な農産物であるリンゴの炭素病に対する農薬を得ようとするものであり、より具体的にはニンニクの皮から、植物炭素病などに有効な抗菌性物質を製造する方法、及びその新規な抗菌性物質を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく種々検討した結果、ニンニクの皮から、白色結晶性の新規な抗菌性物質を抽出することに成功し、本発明を完成した。
従って本発明は、ニンニク皮由来の抗菌性物質の製造方法において、下記の工程:
(1)ニンニクの皮を用意する;
(2)ニンニクの皮を、所望により粉砕した後、酢酸エチルで抽出して、酢酸エチル抽出物を得る;
(3)酢酸エチル抽出物を、n−ヘキサンと酢酸エチルとから成る展開溶媒を用いてフラッシュカラムクロマトグラフィー処理して、3番目に溶出する画分III (Fr.III )を得る;
(4)画分III 中の成分をシリカゲル箔層クロマトグラフィーにかけ、展開溶媒として塩化メチレン/エチルエーテル/n−ヘキサン(10:1:7)を用いるシリカゲル箔層クロマトグラフィーにおいて、およそ0.44のRf値を示す物質を採取する;
を含んで成る方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明に使用するニンニクとしては、暖地種である佐賀大ニンニク(佐賀県)、 定種(熊本、阿蘇)、壱州ニンニク(壱岐)、寒地種である福地ホワイト(青森県)、千葉大球(千葉県)などが挙げられ、いずれも使用することができるが、原料が大量に確保できるなどの実用的観点から、福地ホワイトなどが好ましい。
ニンニクの皮は、ニンニクの可食部を得た後の副産物として入手できる。抽出に先立ち、粉砕することが望ましい。粉砕は、常用の粉砕機を用いて行うことが出来る。
【0007】
ニンニクの皮の、酢酸エチルによる抽出は、例えば、ニンニクの皮1重量部に対して、1〜10重量部の酢酸エチルを用い、例えば10℃〜40℃の温度にて、1時間〜120時間、例えば12時間〜48時間、行なうことが出来る。抽出機としては、固形物の溶剤抽出に常用される抽出機を用いて行なうことが出来る。抽出後、濾過などの常用の固−液分離手段を用いて固−液分離して溶剤層を得る。次に、抽出液から溶剤を例えば蒸発により除去し、抽出物を得る。
【0008】
次に、上記の抽出物を、フラッシュカラムクロマトグラフィーにより分画する。カラム充填剤としては、Silica Gel 60N (Spherical Neutra) 40−100μmなどを使用することが出来る。抽出溶媒としては、例えば下記の溶媒を順次使用することが出来る。
(1)n−ヘキサン/酢酸エチル=2:1 900体積
(2)n−ヘキサン/酢酸エチル=1:1 200体積
(3)n−ヘキサン/酢酸エチル=1:2 420体積
(4)メタノール 500体積
上記の条件での分画により、3番目の画分(Fr.III )及び4番目の画分(Fr.IV)に抗菌活性化認められる。
【0009】
次に、上記のようにして得た画分III を、中圧フラッシュカラムクロマトグラフィーにより更に分画することが出来る。例えば、下記の溶媒を使用することが出来る。
(1)n−ヘキサン/酢酸エチル=1:1 100体積
(2)メタノール 100体積
上記の条件での操作により、第一の画分(Fr.III -1)に活性が回収される。
【0010】
上記のようにして得た抗菌性物質を更に精製するには、シリカゲル薄層クロマトグラフィーを用いることが出来る。得られた結晶は下記の理化学的性質を有する。NMR:7.6323(2H.d,T= );4.3135(1H,m);4.2834-4.0(1h,m);3.4829(1H,d,T= )。
【0011】
生物学的性質
この抗菌物質は、コレトトリカム・アクタツム(Colletotrichum acutatum)に対して、6μg/mlの最少阻止濃度を有する。この抗菌力は、植物炭素病に対する合成農薬であるべノミル(Venomyl)の最少阻止濃度は1250μm、及びジエトフェンカルブ(Diethofencarb)の最少阻止濃度625μmに比べて100倍以上強力である。
【実施例】
【0012】
次に、本発明を実施例により更に具体的に記載する。
実施例1.
ニンニクの皮150gを粉砕し、酢酸エチル2000mlを加え、室温にて24時間かき混ぜた後、吸引濾過を行い、抽出液と沈殿物を得た。抽出液は、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を留去し、抽出物628.1mgを得た。さらに、この沈殿物に酢酸エチル1500mlを加え、先程と同様の操作を行い抽出物282.8mgと沈殿物を得た。
【0013】
2回の抽出操作で得られた抽出物910.9mgを、カラム管(3.4cm×45cm)でフラッシュカラムクロマトグラフィー(Silica gel 60N spherical,neutral 40-100μm Cica-Reagent 関東化学(株)Cat.No.37561-79,181.8g)、展開溶媒として(1)n−ヘキサン/酢酸エチル=2:1 900ml、(2)n−ヘキサン/酢酸エチル=1:1 200ml、(3)n−ヘキサン/酢酸エチル=1:2 420ml、(4)メタノール 500ml、を用いて展開して分画を行い、3番目の画分(Fr.III, 35.9mg)及び4番目の画分(Fr.IV, 24.0mg)に抗菌活性が認められた。
【0014】
次に、上記のようにして得た画分Fr.IIIを、中圧フラッシュクロマトグラフィー装置(EYELA CERAMIC PUMP VSP-3050)で、カラム管(外径1.5cm×長さ22cm、シリカゲルMERCK Silica gel 60 0.040-0.063mm,1.09385.1000)を用いて分画を行った。展開溶媒として(1)n−ヘキサン/酢酸エチル=1:1 100ml、(2)メタノール 100mlを用いて分画し、第一の画分(Fr.III-1, 13.2mg)に活性が見られた。
【0015】
上記のようにして得た抗菌性物質(Fr.III-1, 11.4mg)をさらに精製するために、シリカゲル薄層クロマトグラフィー(20×20cm,MERCK Silica gel 60 F254,1.05715.0009)1枚、展開溶媒(n−ヘキサン/酢酸エチル=1:1)で分画し、Fr.III-1-iiを4.1mg得た。
さらに、Fr.III-1-ii(3.1mg)を上記と同様にしてシリカゲル薄層クロマトグラフィー1枚(展開溶媒は同じ)で分画し、Fr.III-1-ii-Cを2.0mg得た。
さらに、Fr.III-1-ii-C(1.0mg)を上記と同様にシリカゲル薄層クロマトグラフィー1枚(展開溶媒CH2Cl2/Et2O/n-ヘキサン=10:1:5)で分画し、Fr.III-1-ii-C-bを0.5mg得た。Fr.III-1-ii-C-bは分析用の薄層クロマトグラフィー(2×5cm、展開溶媒CH2Cl2/Et2O/n-ヘキサン=10:1:7)においてRf値は0.44であった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明の抗菌性物質のNMRスペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニンニク皮(保護葉、以下同じ)由来の抗菌性物質の製造方法において、下記の工程:
(1)ニンニクの皮を用意する;
(2)ニンニクの皮を、所望により粉砕した後、酢酸エチルで抽出して、酢酸エチル抽出物を得る;
(3)酢酸エチル抽出物を、n−ヘキサンと酢酸エチルとから成る展開溶媒を用いてフラッシュカラムクロマトグラフィー処理して、3番目に溶出する画分III (Fr.III )を得る;
(4)画分III 中の成分をシリカゲル薄層クロマトグラフィーにかけ、展開溶媒として塩化メチレン/エチルエーテル/n−ヘキサン(10:1:7)を用いるシリカゲル箔層クロマトグラフィーにおいて、およそ0.44のRf値を示す物質を採取する;
を含んで成る方法。
【請求項2】
前記抗菌物質が、コレトトリカム・アクテイタム(Colletotrichum acutatum)に対して、6μg/mlの最少阻止濃度を有する、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の方法により得られうる、ニンニク由来の抗菌性物質。
【請求項4】
請求項3に記載の抗菌性物質を含んで成る植物炭素病菌に対する農薬。

【図1】
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【公開番号】特開2006−76960(P2006−76960A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264415(P2004−264415)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会 講演予稿集2」に発表
【出願人】(504229284)国立大学法人弘前大学 (162)
【Fターム(参考)】