説明

ネットワーク機器

【課題】 使用されるプロトコル及び通信端末のOSに制約されることなく、低消費電力状態からの起動中に、通信端末によるデータの送出を制御することが可能なネットワーク機器を提供する。
【解決手段】 ネットワーク複合機1は、LAN51を介して通信を行なうNIC10、及び通常電力状態と低消費電力状態とを取ることができ、通常電力状態にあるときに、受信されたデータを処理する記録部12等を備える。NIC10は、データを送受信する送受信部100と、記録部12の電力状態を判定する電力状態判定部102と、PC30からセッション確立要求信号が受信され、かつ記録部12が低消費電力状態であると判定された場合に起動信号を出力する起動信号出力部104と、記録部12が起動されるまでの間、PC30に対してセッションを張った状態でデータの送信を禁止させる持続接続制御を行う持続接続制御部106とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワークに接続して使用されるネットワーク機器に関し、特に、低消費電力状態を取り得るネットワーク機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO排出量削減等の観点から、電気機器の低消費電力化が社会的に求められている。例えばLAN等のネットワークに接続されるネットワーク機器においては、待機時にCPUやハードディスク等の電源を停止し、ネットワークに直接接続しているネットワークインターフェースコントローラ(以下「NIC」という)のみを動作させることにより省電力化を実現したものが知られている。このようなネットワーク機器の一例として、待機時にプリンタコントローラ、プリンタエンジン等への電力供給を停止する低消費電力状態に移行するネットワークプリンタがある。このようなネットワークプリンタでは、低消費電力状態にあるときにNICのみを稼働させておき、外部のホストコンピュータ(以下「通信端末」ともいう)から送られてくるプリントデータを待ち受けるとともに、プリントデータを受信したときに、プリンタコントローラ等を低消費電力状態から通常電力状態へ復帰させるように構成されている。
【0003】
ここで、プリンタコントローラ等の起動中はプリントデータの処理ができない。よって、起動中にプリントデータを受け取らないようにするために、プリンタコントローラ等を起動している間は通信端末とセッションを張らない構成とすることも考えられる。しかしながら、このような構成にした場合、通信端末は所定の時間を空けてセッション確立要求を繰り返し送出することとなる。そのため、プリンタコントローラ等の起動が終了し、通信端末とセッションを張ることが可能な状態になったとしても、通信端末からセッション確立要求が再送されるまではセッションを張ることができない。そのため、プリントデータの処理が可能になっているにもかかわらず、受信処理及びプリントデータのデータ処理を開始することができず、処理の開始が遅れるという問題が生じ得る。さらに、一定時間以上応答が無くタイムアウトした場合には、セッションを確立することができないと判断され、通信端末側でエラーとなるおそれがある。
【0004】
このような問題を解決するために、特許文献1には、PDLボードが動作可能な状態に復帰したことが確認できるまで、プリント要求の発信元(通信端末)に対して拒否信号(NACK)を送出し続けることにより、データ送信を禁止する複合機が開示されている。この複合機では、省エネモード中に、メインボードがインターフェース経由で端末装置からプリント要求を受信した場合、電源回路の機能が有効化されて省エネモードから待機モードを経て通常モードへの復帰が開始される。これと同時に、メインボードの制御部は、PDLボードの状態を監視し、PDLボードの動作可能状態への復帰完了が確認できるまで、プリント要求の発信元に対して拒否信号(NACK)を送出し、端末装置に対してデータ送信を禁止する。そして、復帰完了が確認できると、プリント要求を許可する信号(ACK)を発信元に対して送出し、データ送信を許可する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−311884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ネットワーク通信制御において、NACKを使用できるプロトコルは、特定のプロトコル(例えばLPRプロトコル(Line PRinter daemon protocol))に限られる。また、LPRを使用する場合であっても、ホストコンピュータがOS(Operating System)としてWindows(登録商標、以下同様)を採用している場合には、NACKは無視され有効に機能しない。したがって、特許文献1記載の複合機による制御方法では、LPR以外のプロトコルを利用する場合、及び、WindowsをOSとして採用している通信端末に対しては有効に機能しない。すなわち、汎用性に乏しいという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、使用されるプロトコル、及びデータの送信元である通信端末のOSに制約されることなく、低消費電力状態からの起動中に、通信端末によるデータの送出を制御することが可能なネットワーク機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るネットワーク機器は、ネットワークを介して通信端末と接続され、該通信端末との間で通信を行なう通信手段と、通信手段と通信路を介して接続され、第1電力状態と該第1電力状態よりも消費電力の少ない第2電力状態とを取ることができ、通信手段により受信された受信データを第1電力状態にあるときに処理する処理手段とを備える。上記通信手段は、通信端末との間でネットワークを介してデータを送受信する送受信手段と、処理手段の電力状態を判定する判定手段と、送受信手段により通信端末からのデータが受信され、かつ、判定手段により処理手段が第2電力状態であると判定された場合に、該処理手段の電力状態を第1電力状態に移行させるための移行信号を出力する移行手段と、送受信手段により通信端末からのセッション確立要求信号が受信され、かつ、移行手段により移行信号が出力された場合に、該通信端末との間にセッションを確立するとともに、処理手段の電力状態が第1電力状態に移行されるまでの間、セッションを張った状態で通信端末に対してデータの送信を禁止させる持続接続制御を実行する持続接続制御手段とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明に係るネットワーク機器によれば、通信手段と処理手段とを備えて構成され、例えば待機時に、処理手段が消費電力のより少ない第2電力状態(低消費電力状態)にされるとともに、通信手段のみが稼動されて、データの待ち受け動作が行われる。よって、データの待ち受け時に、ネットワーク機器の一部、すなわち通信手段を除いて消費電力がより少ない状態にすることができるため、ネットワーク機器の消費電力を低減することができる。また、ネットワークを介してセッション確立要求信号が受信された場合に、通信端末との間でセッションが確立されるとともに、処理手段に対して移行信号が出力される。そして、処理手段の電力状態が第1電力状態に移行(起動)するまでの間、セッションを張った状態を保持しつつ通信端末に対してデータの送信を禁止する持続接続制御が実行される。よって、使用されるプロトコル、及びデータの送信元である通信端末のOSに制約されることなく、第2電力状態からの起動中に通信端末によるデータの送出を制御することが可能となる。
【0010】
本発明に係るネットワーク機器では、通信手段が、通信端末から受信される受信データを一時的に格納する受信バッファを有し、送受信手段が、受信バッファの空き容量に応じた受信可能データ量を所定の通信プロトコルに従って通信端末へ送信し、持続接続制御手段が、判定手段により処理手段の電力状態が第1電力状態に移行したと判定されるまで、受信可能データ量が該通信端末の最小送信可能データ量よりも小さくなるように、受信バッファから読み出すデータ量を非持続接続制御時よりも少なくすることが好ましい。
【0011】
このようにすれば、処理手段の電力状態が第1電力状態に移行(起動)するまで、受信可能データ量が該通信端末の最小送信可能データ量よりも小さくなるように、受信バッファから読み出されるデータ量が非持続接続制御時(すなわち通常制御時)よりも少なくされる。よって、該通信端末から受信されるデータ量よりも受信バッファから読み出されるデータ量が少なくなるため、受信バッファの空き容量が減少し、受信可能データ量として該通信端末の最小送信可能データ量よりも小さな値(典型的にはゼロ)が該通信端末に対して送信される。その結果、セッションを張った状態で該通信端末による送信データの送出を抑制すること、すなわち持続接続制御を実現することが可能となる。
【0012】
本発明に係るネットワーク機器では、処理手段の電力状態が第1電力状態に移行したと判定された場合に、持続接続制御手段が、持続接続制御を終了してセッション確立信号を送信した通信端末に対してデータの送信を許可することが好ましい。
【0013】
この場合、処理手段の電力状態の第1電力状態への移行(起動)が完了し、受信データのデータ処理が可能となったときに、持続接続制御が終了される。これにより、通信端末に対してデータの送信が許可される。なお、持続接続制御が解除される時点では、既にセッションが張られているため、迅速にデータ通信を開始することができる。
【0014】
本発明に係るネットワーク機器では、持続接続制御手段が、持続接続制御を終了してセッション確立要求信号を送信した通信端末に対してデータの送信を許可する場合、受信可能データ量が該通信端末の最小送信可能データ量よりも大きくなるように、受信バッファから読み出すデータ量を持続接続制御時よりも多くすることが好ましい。
【0015】
この場合、処理手段の電力状態が第1電力状態に移行(起動)され、持続接続制御が終了されるときに、受信バッファから読み出されるデータ量が持続接続制御時よりも増やされ、受信バッファの空き容量(すなわち受信可能データ量)が通信端末の最小送信可能データ量よりも大きくされる。そして、その空き容量に応じたサイズが受信可能データ量としてセッション確立要求信号を送信した通信端末に送信される。そのため、該通信端末が送信データを送出することができるようになり、処理手段の電力状態が第1電力状態へ移行された後に、持続接続制御から通常制御に円滑に移行することが可能となる。
【0016】
本発明に係るネットワーク機器では、通信手段が、送受信手段によりデータが受信され、かつ、判定手段により処理手段が第2電力状態であると判断された場合に、処理手段の電力状態を第1電力状態に移行する必要があるか否かを判定する移行判定手段を備え、移行判定手段により処理手段の電力状態を第1電力状態に移行する必要があると判定された場合に、移行手段が移行信号を出力し、処理手段の電力状態が第1電力状態に移行されるまで、持続接続制御手段が、セッションを張った状態で通信端末に対してデータの送信を禁止させることが好ましい。
【0017】
この場合、処理手段の電力状態を第1電力状態に移行(起動)する必要がある場合にのみ、処理手段の電力状態が第1電力状態に移行される。そのため、処理手段の稼働時間を必要最小限に抑えることができる。よって、ネットワーク機器の消費電力をより低減することが可能となる。
【0018】
本発明に係るネットワーク機器では、通信手段が、移行判定手段により、処理手段の電力状態を第1電力状態に移行する必要がないと判定された場合に、送受信手段により受信されたデータに対する応答を生成する生成手段を有し、送受信手段が、移行判定手段により処理手段の電力状態を第1電力状態に移行する必要がないと判定された場合に、生成手段により生成された応答を通信端末へ出力することが好ましい。
【0019】
このようにすれば、処理手段の電力状態を第1電力状態に移行(起動)する必要がない場合には、処理手段の電力状態が第1電力状態に移行されることなく、通信手段側で受信データに対する応答が行われる。そのため、処理手段の電力状態の不必要な第1電力状態への移行を抑制することができる。よって、ネットワーク機器の消費電力をより低減することが可能となる。
【0020】
本発明に係るネットワーク機器では、持続接続制御手段が、判定手段により処理手段の電力状態が第1電力状態に移行したと判定されるまで、受信可能データ量として、通信端末の最小送信可能データ量よりも小さい値を所定の通信プロトコルに従って通信端末へ送信するように送受信手段を制御することが好ましい。
【0021】
このようにすれば、受信バッファからの読み出し量を調節することなく、送信データに含まれる受信可能データ量を直接操作することによって持続接続制御に持ち込むことが可能となる。
【0022】
なお、本発明に係るネットワーク機器では、上記所定の通信プロトコルとして、TCP/IPが好適に利用される。また、本発明に係るネットワーク機器では、上記処理手段として、通信手段により受信されたプリントデータを用紙にプリントアウトするプリンタが好適に用いられる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、使用されるプロトコル、及びデータの送信元である通信端末のOSに制約されることなく、低消費電力状態からの起動中に通信端末によるデータの送出を制御することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施形態に係るネットワーク複合機の全体構成を示すブロック図である。
【図2】ネットワーク複合機を構成するNICの送受信部の構成を示すブロック図である。
【図3】ネットワーク複合機による通信処理(持続接続制御処理)の第1の処理手順を示すフローチャート(第1ページ目)である。
【図4】ネットワーク複合機による通信処理(持続接続制御処理)の第1の処理手順を示すフローチャート(第2ページ目)である。
【図5】第1の処理手順におけるNICとPCとの間の通信手順を示すシーケンス図である。
【図6】ネットワーク複合機による通信処理(持続接続制御処理)の第2の処理手順を示すフローチャートである。
【図7】第2の処理手順におけるNICとPCとの間の通信手順を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。なお、ここでは、実施形態に係るネットワーク機器としてネットワーク複合機(MFP)を例にして説明する。また、ネットワーク複合機がLANを介してパーソナルコンピュータ(以下「PC」という。特許請求の範囲に記載の通信端末に相当)と接続されているネットワークシステムを例にして説明する。なお、例示するネットワークシステムは、理解を容易にするためにその構成を簡略化したものである。まず、図1及び図2を併せて用いて、ネットワーク複合機1の全体構成について説明する。図1は、LAN51に接続されたネットワーク複合機1の全体構成を示すブロック図である。図2は、ネットワーク複合機1を構成するNIC10の送受信部100の構成を示すブロック図である。
【0026】
ネットワーク複合機1は、待機時に低消費電力状態(省エネルギー状態)を取り得るネットワーク複合機であり、原稿を読み取り画像データを生成するスキャナ機能、読み取り生成した画像データを用紙に記録するコピー機能、及びファクシミリ通信により受信した画像データを用紙に記録するFAX受信機能に加え、LAN51を介して接続されているPC30から受信した画像データを用紙に記録するPCプリント機能を備えている。また、ネットワーク複合機1は、読み取った画像データをファクシミリ送信するFAX送信機能に加え、外部のPC30から受信した画像データをファクシミリ送信するPC−FAX機能を備えている。さらに、ネットワーク複合機1は、電子メールを利用してIP網経由で画像データを送受信するインターネットFAX(IFAX)機能等も有している。
【0027】
これらの各機能を実現するためにネットワーク複合機1は、NIC10、制御部11、記録部12、操作部13、表示部14、読取部15、コーデック16、画像記憶部17、モデム18、NCU19、IFAX制御部20、及び、Webサーバ21等を備えている。なお、上記各部は、例えばPCI(Peripheral Component Interconnect)又はPCI Express等のバス23(特許請求の範囲に記載の通信路に相当)を介して相互に通信可能に接続されている。ここで、NIC10は、特許請求の範囲に記載された通信手段に相当し、それ以外の制御部11〜Webサーバ21は、特許請求の範囲に記載の処理手段に相当する。なお、以下、記録部12が低消費電力状態(特許請求の範囲に記載の第2電力状態に相当)と通常電力状態(特許請求の範囲に記載の第1電力状態に相当)とを取り、PC30からLAN51を介してプリントデータが送られてくる場合を例にして説明する。
【0028】
NIC10は、各種通信プロトコルの送受信制御処理、及び各種通信プロトコル上のデータ解析処理及びデータ作成処理を行なうネットワークインターフェースである。NIC10は、LAN51を介してPC30に接続されており、PC30との間で、例えばTCP/IPに従ってデータの通信を行なう。なお、待機時すなわちネットワーク複合機1が低消費電力状態(省エネルギー状態)にあるときであっても、NIC10には電力が供給される。
【0029】
NIC10は、演算を行なうマイクロプロセッサ、マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、マイクロプロセッサにより制御されて通信処理を行う通信用チップ(IC)、及び通信用チップにより受信され、該通信用チップから読み出された受信データなどを一時的に記憶するRAM等により構成されている。なお、NIC10は、上述したマイクロプロセッサ、通信用チップ、ROM、RAM等がワンチップに収められたマイクロコンピュータを用いて構成してもよい。
【0030】
NIC10では、上述したハードウェアとソフトウェアの組み合わせにより、送受信部100、記憶部101、電力状態判定部102、起動要否判定部103、起動信号出力部104、応答データ生成部105、持続接続制御部106が構築されている。
【0031】
送受信部100は、例えばPC30からLAN51を介してネットワークパケット(プリントデータ等)を受信する。また、送受信部100は、応答データ生成部105等によって生成された応答データ等をLAN51を介してPC30へ出力する。すなわち、送受信部100は、特許請求の範囲に記載の送受信手段として機能する。そのため、送受信部100は、図2に示されるように、LANデバイス部100a、受信バッファ100f、送信バッファ100g、及びTCP/IPプロトコルスタック100hを有している。
【0032】
LANデバイス部100aは、Ethernet(登録商標、以下同様)などのインターフェースにおいて、論理信号と電気的な信号との変換を行うPHY(PHYsical Layer)部100b、及び、送信(TX)部100dと受信(RX)部100eとを含むMAC部100cを備えている。MAC部100cは、受信部100eを介して、PHY部100bから受信データ(Ethernetフレーム)を取り出し、受信ディスクリプタにより特定される受信バッファ100fに格納する。また、MAC部100cは、送信部100dを介して、送信データ(Ethernetフレーム)を送信ディスクリプタにより特定される送信バッファ100gからPHY部100bへ出力する。ここで、受信バッファ100f及び送信バッファ100gそれぞれは、リング構造(又はチェーン構造)のバッファである。また、受信ディスクリプタには、受信されたデータを格納している受信バッファ100fの先頭アドレス等が記録されており、送信ディスクリプタには、送信の順番を待っているデータが格納されている送信バッファ100gの先頭アドレス等が記録されている。
【0033】
TCP/IPプロトコルスタック100hは、ネットワーク上で機能を実現するために必要なプロトコルを選んで、階層状に積み上げたソフトウェア群であり、アプリケーション層、トランスポート層、インターネットプロトコル(IP)層、物理層から構成されている。パケットがTCP/IPプロトコルスタック100hを通過するとき、各層のプロトコルは、基本ヘッダにフィールドを追加したり、そこからフィールドを削除したりする。TCP/IPプロトコルスタックAPI(Application Programming Interface)のrecv関数は、TCP/IPプロトコルスタック100hを介して、受信バッファ100fから受信データ(TCPデータ)の読み出し(受信操作)を行うための関数である。このrecv関数を通して、送られてきたデータを取得することができる。一方、TCP/IPプロトコルスタックAPIのsend関数は、接続が確立されたソケットを通してデータを送信するための関数である。このsend関数を利用することにより、TCP/IPプロトコルスタック100hを介して、送信バッファ100gに送信データの書き込み(送信操作)を行うことができる。
【0034】
電力状態判定部102は、例えば、記録部12と接続されたポートのレベル(Hi又はLow)に基づいて、記録部12の電力状態を判定する。具体的には、電力状態判定部102は、ポートレベルがHi(5V)の場合には通常電力状態(通常モード)と判定し、Low(0V)のときには低消費電力状態(省エネモード)と判定する。すなわち、電力状態判定部102は、特許請求の範囲に記載の判定手段として機能する。
【0035】
起動要否判定部103は、送受信部100によりネットワークパケット(データ)が受信され、かつ、電力状態判定部102により記録部12が低消費電力状態であると判断された場合に、記録部12を起動(すなわち、記録部12の電力状態を通常電力状態に移行)する必要があるか否かを判定する。すなわち、起動要否判定部103は、特許請求の範囲に記載の移行判定手段に相当する。ここで、記録部12を起動する必要があるか否かは、例えば、NIC10のみで応答(レスポンス)可能かどうかで判断される。ちなみに、NIC10のみで応答可能な場合としては、例えば、TCP/IPレベルのコマンドであり、PC30から定期的にNIC10に対して送出されるIPPのGetPrinterAttribute応答、ARP応答、SNMP応答、ICMP応答(例えばPingパケット応答)等が挙げられる。一方、NIC10のみで応答を返すことができない場合としては、例えば、LPD、Port9100、IPP等のTCP/IPを用いたネットワークプリント制御が挙げられる。
【0036】
起動信号出力部104は、起動要否判定部103により記録部12を起動する必要があると判定された場合に、記録部12又は電力供給を制御する電力制御部に対して、該記録部12を低消費電力状態から通常電力状態へ移行させるための起動信号(特許請求の範囲に記載の移行信号に相当)を出力する。すなわち、起動信号出力部104は、特許請求の範囲に記載の移行手段として機能する。起動信号出力部104から起動信号が出力されると、記録部12への電力供給が開始される。そして、記録部12においてプログラムロード等の起動処理が実行され、記録部12が起動される。記録部12の起動が完了すると、上述したポートレベルがHiにセットされる。
【0037】
応答データ生成部105は、起動要否判定部103により、記録部12を起動する必要がないと判定された場合に、送受信部100により受信されたデータに対する応答(レスポンス)データを生成する。例えば、応答データ生成部105は、上述したGetPrinterAttribute、ARP、SNMP、ICMP等に対する応答データを生成する。すなわち、応答データ生成部105は、特許請求の範囲に記載の生成手段として機能する。なお、応答データ生成部105により生成された応答データは、送受信部100へ出力される。
【0038】
持続接続制御部106は、送受信部100により例えばPC30からのセッション確立要求信号が受信された場合、該セッション確立要求信号を送信したPC30との間にセッションを確立する。そして、持続接続制御部106は、電力状態判定部102の判定結果に基づいて、記録部12が通常電力状態であるか否か(すなわちプリント処理を行える状態であるか否か)を判断し、低消費電力状態である場合(すなわちプリント処理を行えない状態である場合)には、電力状態判定部102により記録部12が低消費電力状態から通常電力状態に遷移したと判定されるまで、セッションを張った状態でPC30に対してデータの送信を禁止する持続接続制御(キープアライブ)を実行する。一方、記録部12が通常電力状態である場合には、持続接続制御を実行することなくPC30に対してデータの送信を許可する。すなわち、持続接続制御部106は、特許請求の範囲に記載の持続接続制御手段として機能する。
【0039】
ここで、NIC10を構成する送受信部100は、上述したように、PC30等から所定のポートを通して受信される受信データを一時的に格納する、例えば4Kバイト程度の容量を持つ受信バッファ100fを有し、送受信部100は、受信バッファ100fの空き容量に応じた受信可能データ量をTCP/IPに従ってPC30等へ送信する。なお、受信バッファ100fの空き容量が所定値以下(例えば半分以下)になった場合には、受信可能データ量としてゼロを送信する構成としてもよい。また、持続接続制御部106は、記録部12が低消費電力状態であると判定された場合には、該記録部12が低消費電力状態から通常電力状態に遷移したと判定されるまで、受信可能データ量がPC30の最小送信可能データ量よりも小さくなるように、受信バッファ100fからrecv関数を用いて読み出すデータ量を非持続接続制御時(すなわち通常制御時)よりも少なく(例えば数バイト〜数十バイト)する。このように、受信バッファ100fからTCP/IPプロトコルスタック100hを介して読み出すデータ量を調節することにより、持続接続制御部106は、持続接続制御を実現する。
【0040】
また、持続接続制御部106は、持続接続制御を実行した場合に、記録部12が低消費電力状態から通常電力状態に遷移したと判定されたとき(すなわち起動されたとき)に持続接続制御を終了し、セッション確立要求信号を送信したPC30に対してデータの送信を許可する。ここで、持続接続制御部106は、持続接続制御を終了してPC30に対してデータの送信を許可する場合、受信可能データ量がPC30の最小送信可能データ量よりも大きくなるように、受信バッファ100fからrecv関数を用いて読み出すデータ量を持続接続制御時よりも多くする(例えば数百〜数Kバイト)ことにより通常制御(非持続接続制御)に移行させる。
【0041】
図1に戻り説明を続ける。制御部11は、演算を行なうマイクロプロセッサ、マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラム等を記憶するROM、演算結果等の各種データを一時的に記憶するRAM、及びバックアップデータを記憶するバックアップRAM等により構成されている。制御部11は、ROMに記憶されているプログラムを実行することにより、ネットワーク複合機1を構成するハードウェアを統合的に制御する。
【0042】
記録部12は、電子写真方式のプリンタであり、例えば、LAN51を介して接続されている外部のPC30から受信されるプリントデータ(例えばPDLデータなど)を用紙にプリントアウトする。また、記録部12は、読取部15により読み取られ生成された画像データ、及びFAX、IFAX等で受信された画像データを用紙にプリントアウトする。そのため、記録部12は、プリンタコントローラ12a、及びプリンタエンジン12bを備えている。なお、制御部11、記録部12等は、所定時間以上連続してプリントアウトが行われない場合に電源が遮断(オフ)され、低消費電力状態となる。一方、制御部11、記録部12等では、上述したように、起動信号出力部104から出力された起動信号を受けて電源供給が開始され、通常電力状態となる。
【0043】
プリンタコントローラ12aは、演算を行うマイクロプロセッサ、言語処理プログラム、フォントデータなどを記憶する不揮発性のフラッシュメモリ(ROM)、マイクロプロセッサに処理を実行させるための言語処理プログラム、フォントデータなどをフラッシュメモリからロードして記憶するとともに、演算結果などの各種データを一時的に記憶するRAMなどにより構成されている。プリンタコントローラ12aは、RAMにロードされた言語処理プログラムなどを実行することにより、プリントデータ(PDLデータ)をラスターデータに展開したり、プリンタエンジン12bを制御する機能を実現する。プリンタコントローラ12aは、展開したラスターデータをプリンタエンジン12bに出力する。
【0044】
プリンタエンジン12bは、印刷を行う印刷機構である。プリンタエンジン12bは、プリンタコントローラ12aによって制御され、プリンタコントローラ12aから入力されるラスターデータを用紙に印刷する。より詳細には、プリンタエンジン12bは、給紙、ドラムへの帯電、レーザの照射、トナーの塗布、用紙への転写、定着等の印刷工程を実行し、ラスターデータの印刷を行う。
【0045】
操作部13は、ネットワーク複合機1の各機能を利用するために用いられる複数のキー、例えば、テンキー、短縮キー、スタートキー、ストップキー、及び各種のファンクションキー等を備えている。表示部14は、LCD等を用いた表示装置であり、ネットワーク複合機1の動作状態及び/又は各種設定内容等を表示する。読取部15は、光源及びCCD等によって構成されており、紙文書等の原稿を設定された副走査線密度に応じてライン毎に読み取り、画像データを生成する。
【0046】
コーデック16は、読取部15で読み取られた画像データを符号化圧縮するとともに符号化圧縮されている画像データを復号する。画像記憶部17は、DRAM等で構成されており、コーデック16で符号化圧縮された画像データ、FAX受信された画像データ、及び、外部のPC30から受信されて符号化圧縮された画像データ等を記憶する。
【0047】
モデム(変復調器)18は、ディジタル信号とアナログ信号との間の変復調を行なう。また、モデム18は、ディジタル命令信号(DCS)等の各種機能情報の発生及び検出を行なう。NCU(Network Control Unit)19は、モデム18と接続されており、モデム18と公衆交換電話網(PSTN)50との接続を制御する。また、NCU19は、送信先のファクシミリ番号に対応した呼出信号の送出、及びその着信を検出する機能を備えている。
【0048】
IFAX制御部20は、インターネット環境を利用したIFAX機能を司る。IFAX制御部20は、SMTP(Simple Mail Transfer Protocol)に従って電子メールを送信する機能、及び、POP(Post Office Protocol)に従って電子メールを受信する機能を有している。IFAX制御部20は、送信原稿をTIFF形式等の画像データとして電子メールに添付し、メールアドレス(SMTPサーバ)宛てに送信する。また、IFAX制御部20は、設定された時間毎にPOPサーバから電子メールを受信して添付ファイルをプリントアウトする。Webサーバ21は、例えばHTMLで記述されたホームページ、ログインページ、及びファクシミリ操作ページ等のデータに対して、PC30からアクセスして所定のHTTPタスクを実行することを可能にする。
【0049】
次に、図3〜図5を併せて参照しつつ、ネットワーク複合機1の動作について説明する。図3は、ネットワーク複合機1による通信処理(持続接続制御処理)の第1の処理手順を示すフローチャートの第1ページ目である。また、図4は、同フローチャートの第2ページ目である。図5は、第1の処理手順におけるNIC10とPC30との間の通信手順を示すシーケンス図である。
【0050】
ステップS100では、SYN信号が受信されたか否か、すなわち、セッション確立要求(SYN信号)があるか否かの判断が行われる。SYN信号が受信されていない場合には、SYN信号が受信されるまで本ステップが繰り返して実行される。一方、SYN信号が受信されたときには、ステップS102に処理が移行する。
【0051】
ステップS102では、SYN信号のDestinationPortが、自機がサポートしているプロトコルのポート番号であるか否かについての判断が行われる。ここで、自機がサポートしているプロトコルのポート番号である場合にはステップS104に処理が移行する。一方、自機がサポートしていないプロトコルのポート番号であるときには、ステップS100に処理が移行し、上述したステップS100,S102の処理が再度実行される。
【0052】
ステップS104では、受信データに基づいて、低消費電力状態からの復帰が必要なプロトコルであるか否かについての判断が行われる。ここで、低消費電力状態からの復帰が必要であると判断された場合には、ステップS122に処理が移行する。一方、低消費電力状態からの復帰が必要ではないと判断されたときには、図4のステップS106に処理が移行する。
【0053】
ステップS106では、受信されたSYN信号に対する応答として、ACK/SYN信号が送信される。続くステップS108では、送信されたACK/SYN信号に対するレスポンスとして、PC30からのACK信号が受信されたか否かについての判断が行われる。ここで、ACK信号が受信された場合には、送信元との間でセッションが確立され、ステップS110に処理が移行する。一方、ACK信号がまだ受信されていないときには、ACK信号が受信されるまで本ステップが繰り返し実行される。
【0054】
セッションが確立された場合、ステップS110では、TCP/IPデータ(プリントデータ)の受信処理が行われる。そして、続くステップS112において、受信されたTCP/IPデータが記憶部101に格納される。続いて、ステップS114では、NIC10により、データに対する応答処理(レスポンス)が実行される。
【0055】
次に、ステップS116では、PC30からのFIN信号が受信されたか否かについての判断が行われる。ここで、FIN信号が受信されていないときには、FIN信号が受信されるまで本ステップが繰り返して実行される。一方、FIN信号が受信された場合、ステップS118において、PC30に対してACK/FIN信号が返信される。その後、ステップS120では、PC30からのACK信号が受信されたか否かについての判断が行われる。ここで、ACK信号が受信されていないときには、ACK信号が受信されるまで本ステップが繰り返して実行される。一方、ACK信号が受信された場合には、セッションが解除され、本処理が終了する。
【0056】
一方、上述したステップS104が肯定された場合、すなわち低消費電力状態からの復帰が必要であると判断された場合には、ステップS122において、記録部12(ネットワーク複合機1)が低消費電力状態であるか否かについての判断が行われる。ここで、記録部12が通常電力状態であると判断された場合には、図4のステップS124に処理が移行する。一方、記録部12が低消費電力状態であると判断されたときには、ステップS140に処理が移行する。
【0057】
ステップS124では、受信されたSYN信号に対する応答として、ACK/SYN信号が送信される。続くステップS126では、送信されたACK/SYN信号に対するレスポンスとして、PC30からのACK信号が受信されたか否かについての判断が行われる。ここで、ACK信号が受信された場合には、PC30との間でセッションが確立され、ステップS128に処理が移行する。一方、ACK信号がまだ受信されていないときには、ACK信号が受信されるまで本ステップが繰り返し実行される。
【0058】
セッションが確立された場合、ステップS128では、TCP/IPデータの受信処理が行われる。そして、続くステップS130において、受信されたTCP/IPデータが記憶部101に格納される。そして、ステップS132において、記憶部101に格納された受信データが記録部12に転送される。
【0059】
次に、ステップS134では、PC30からのFIN信号が受信されたか否かについての判断が行われる。ここで、FIN信号が受信されていないときには、ステップS128に処理が移行し、上述したステップS128〜S134の処理が繰り返して実行される。一方、FIN信号が受信された場合、ステップS136において、送信元に対してACK/FIN信号が返信される。その後、ステップS138では、送信元からのACK信号が受信されたか否かについての判断が行われる。ここで、ACK信号が受信されていないときには、ACK信号が受信されるまで本ステップが繰り返して実行される。一方、ACK信号が受信された場合には、セッションが解除され、本処理が終了する。
【0060】
上述したステップS122において、記録部12(ネットワーク複合機1)が低消費電力状態であると判断された場合、ステップS140では、受信されたSYN信号に対する応答として、ACK/SYN信号が送信される。なお、ACK/SYN信号が返されない場合、セッション確立要求を送ったPC30は、6秒、12秒、24秒、48秒、72秒と送信間隔を徐々に大きくしてセッション確立要求を繰り返し送信する。そして、72秒経過した時点でACK/SYN信号が返ってこないときには、セッション確立要求処理を打ち切る。続くステップS142では、送信されたACK/SYN信号に対するレスポンスとして、PC30からのACK信号が受信されたか否かについての判断が行われる。ここで、ACK信号が受信された場合には、PC30との間でセッションが確立され、ステップS144に処理が移行する。一方、ACK信号がまだ受信されていないときには、ACK信号が受信されるまで本ステップが繰り返し実行される。
【0061】
ステップS144では、記録部12を起動するための起動信号が出力され、記録部12への電源供給が開始される。続いて、ステップS146では、recv関数を用いて、受信バッファ100fから数バイト(例えば10バイト)ずつ受信データが読み出される。また、受信バッファ100fの空き容量に応じた受信可能データ量がTCP/IPに従ってPC30へ送信される(図5に示されるACK(win=xxxx),ACK(win=yyyy)、ここでxxxx,yyyyは受信可能データ量を表し、xxxx>yyyyである)。
【0062】
ステップS148では、受信バッファ100fからから読み出された受信データが記憶部101に記憶される。続いて、ステップS150では、記録部12が低消費電力状態から通常電力状態に遷移したか否か(すなわち起動されプリント処理が可能な状態になったか否か)についての判断が行われる。ここで、記録部12が通常電力状態に遷移したとき、すなわち起動が完了しプリント処理を行うことができるときには、ステップS152に処理が移行する。一方、記録部12が通常電力状態に遷移していない場合、すなわち起動中でプリント処理を行うことができない場合には、ステップS146に処理が移行し、ステップS146〜S150の処理が繰り返し実行される。その間、PC30から受信されるデータ量よりも受信バッファ100fから読み出されるデータ量が少なくなるため、受信バッファ100fの空き容量が時間経過に伴って次第に減少し、所定時間経過後に、PC30に対して受信可能データ量としてゼロ(又はゼロに近い値)が送信される(図5に示されるACK(win=0))。より詳細には、NIC10で受信データの読み出しが実行されることに伴ってPC30に対してACKが帰される。PC30はACKを受信すると、次のデータを(1回又は複数回に分けて)送信する。その際、PC30は、受信した受信可能データ量より小さいパケットサイズを設定してデータを送信する。よって、読み出しが1回実行されれば、(1回又は複数回)データが受信される。そのため、ステップS146では、1回の読み出し量が、ACK1回あたりの受信データ量よりも小さくなるように受信データの読み出しが行われる。その結果、セッションを張った状態でPC30による送信データの送出が抑制される持続接続制御に移行し、記録部12が起動するまで、持続接続制御が継続して実行される。
【0063】
より具体的には、図5に示されるように、ネットワーク複合機1がwindows sizeがゼロのACK(win=0)を返すと、PC30は、受信バッファ100fが空いたか否かを問い合わせる信号TCP Zero Window Probe(win=0)を定期的に送出する。この信号に対して、持続接続制御が継続されている間、NIC10は、受信バッファ100fに空き容量がないことを示す信号TCP Zero Window Probe ACK(win=0)を返す。すなわち、持続接続制御が維持されている間、TCP Zero Window Probe(win=0)に対してTCP Zero Window Probe ACK(win=0)が返信される。より詳細には、受信バッファ100fの空き容量が所定値(例えば、受信バッファ容量の半分)より少ない場合には、正確な空き容量を受信可能データ量として送信するのではなく、受信可能データ量としてゼロを送信する。従って、持続接続制御から通常制御に移行した直後においても、空き容量が所定値に達するまでは、受信可能データ量としてゼロが送信され、空き容量が所定値に達した後、正確な空き容量が受信可能データ量として送信される。なお、受信可能データ量として、ゼロの代わりに、PC30の最小送信可能データ量よりも小さい値を設定してもよい。
【0064】
記録部12の起動が完了した場合、ステップS152では、記憶部101に記憶された受信データが記録部12に転送される。続いて、ステップS154では、持続接続制御が解除され、通常のTCP/IPデータの受信処理(受信バッファ100fから数Kバイトずつ受信データを読み出す処理)が実行される。そのため、受信バッファ100fの空き容量が急激に増大することにより、持続接続制御が解除され、PC30に対してデータの送信が許可される。より具体的には、持続接続制御を解除するときには、受信バッファ100fからの読み出し量が持続接続制御時よりも大幅に増大されることにより、図5に示されるように、TCP Zero Window Probe(win=0)に対し、(TCP Zero Window Probe ACK(win=0)に代えて)受信可能データ量を示すACK(win=xxxx)が返信される。これにより、PC30によるデータ送信が開始される。
【0065】
次に、ステップS156では、受信されたTCP/IPデータが記憶部101に格納される。そして、続くステップS158において、記憶部101に格納された受信データが記録部12に転送される。
【0066】
続いて、ステップS160では、PC30からのFIN信号が受信されたか否かについての判断が行われる。ここで、FINが受信されていないときには、ステップS154に処理が移行し、上述したステップS154〜S160の処理が繰り返して実行される。一方、FIN信号が受信された場合、ステップS162において、送信元に対してACK/FIN信号が返信される。その後、ステップS164では、送信元からのACK信号が受信されたか否かについての判断が行われる。ここで、ACK信号が受信されていないときには、ACK信号が受信されるまで本ステップが繰り返して実行される。一方、ACK信号が受信された場合には、セッションが解除され、ステップS166に処理が移行する。
【0067】
ステップS166では、記録部12(ネットワーク複合機1)の低消費電力状態への移行を指示する信号が出力され、NIC10を除いて記録部12(ネットワーク複合機1)への電力供給が停止(遮断)される。その後、本処理が終了する。
【0068】
本実施形態によれば、NIC10と制御部11、記録部12〜Webサーバ21とを備えて構成され、例えば待機時に、記録部12等が低消費電力状態(省エネモード)にされるとともに、NIC10のみが稼動されて、データの待ち受け動作が行われる。よって、データの待ち受け時に、ネットワーク複合機1の一部、すなわちNIC10を除いて低消費電力状態にすることができるため、ネットワーク複合機1の消費電力を低減することができる。また、LAN51を介してセッション確立要求信号が受信された場合に、PC30との間でセッションが確立されるとともに、記録部12に対して起動信号が出力される。そして、記録部12が起動するまでの間、セッションを張った状態を保持しつつPC30に対してデータの送信を禁止する持続接続制御が実行される。よって、使用されるプロトコル、及びデータの送信元であるPC30のOSに制約されることなく、低消費電力状態からの起動中にPC30によるデータの送出を制御(禁止/許可)することが可能となる。
【0069】
また、本実施形態によれば、記録部12が起動するまで、受信可能データ量がPC30の最小送信可能データ量よりも小さくなるように、受信バッファ100fから読み出されるデータ量が非持続接続制御時(すなわち通常制御時)よりも少なくされる。よって、PC30から受信されるデータ量よりも受信バッファ100fから読み出されるデータ量が少なくなるため、受信バッファ100fの空き容量が減少し、受信可能データ量としてPC30の最小送信可能データ量よりも小さな値(典型的にはゼロ)がPC30に対して送信される。その結果、セッションを張った状態でPC30による送信データの送出を抑制すること、すなわち持続接続制御を実現することが可能となる。
【0070】
さらに、本実施形態によれば、記録部12の起動が完了し、プリントデータのプリントアウトが可能となったときに、持続接続制御が終了される。これにより、PC30に対してデータの送信が許可される。なお、持続接続制御が終了される時点では、既にセッションが張られているため、迅速にデータ通信を開始することができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、記録部12が起動され、持続接続制御が終了されるときに、受信バッファ100fから読み出されるデータ量が持続接続制御時よりも増やされ、受信バッファ100fの空き容量(すなわち受信可能データ量)がPC30の最小送信可能データ量よりも大きくされる。そして、その空き容量に応じたサイズが受信可能データ量としてセッション確立要求信号を送信したPC30に送信される。そのため、PC30が送信データを送出することができるようになり、記録部12の起動後に、持続接続制御から通常制御に円滑に移行することが可能となる。
【0072】
また、本実施形態によれば、記録部12を起動する必要がある場合にのみ、記録部12が起動される。そのため、記録部12の稼働時間を必要最小限に抑えることができる。よって、ネットワーク複合機1の消費電力をより低減することが可能となる。
【0073】
また、本実施形態によれば、記録部12を起動する必要がない場合には、記録部12が起動されることなく、NIC10側で受信データに対する応答が行われる。そのため、記録部12の不必要な起動を抑制することができる。よって、ネットワーク複合機1の消費電力をより低減することが可能となる。
【0074】
[第2制御形態]
上述した制御形態では、持続接続制御部106が、受信バッファ100fから読み出す受信データの量(すなわち受信可能データ量)を調節することにより持続接続制御を実現したが、記録部12が起動したと判定されるまで、実際の受信可能データ量に関係なく、自機の受信可能データ量として、PC30の最小送信可能データ量よりも小さい値(例えばゼロ)をPC30へ送信することにより持続接続制御を実現してもよい。よって、次に、図6及び図7を併せて参照しつつ、持続接続制御の第2の制御形態について説明する。ここで、図6は、ネットワーク複合機1による通信処理(持続接続制御処理)の第2の処理手順を示すフローチャートである。また、図7は、第2の処理手順におけるNIC10とPC30との間の通信手順を示すシーケンス図である。
【0075】
まず、ステップS200では、NIC10のIPアドレス、待ち受けポート番号を用いて、TCP/IP APIのBindが実行される。これにより、ジョブを受け付けるソケットと、IPアドレスとポート番号とから構成されるローカルアドレスとが関連付けられる(すなわちbindされる)。続いて、ステップS202では、TCP/IP APIのListenが実行されて、セッション確立可能状態にされる。これにより、ステップS200においてbindされたソケットでセッション確立要求(接続要求)を待ち受けることが可能となる。
【0076】
続くステップS204では、TCP/IP APIのAccept処理が実行されたか否かについての判断が行われる。ここで、Accept処理が実行され、セッション確立要求を受け付けることにより、セッションが確立する。より具体的には、図7に示されるように、SYN信号に対してACK/SYN信号を返すことによりセッションが確立する。その後、ステップS206に処理が移行する。一方、Accept処理が実行されていないときには、Accept処理が実行されるまで、本ステップが繰り返して実行される。
【0077】
ステップS206では、セッションが確立されたPC30の情報とNIC10のポート番号が記憶部101に保持される。続いて、ステップS208では、受信バッファ100f(受信ディスクリプタ)に新しい受信データ(Ethernetフレーム)が格納されたか否かについての判断が行われる。ここで、新しい受信データが格納されていない場合には、新しい受信データが格納されるまで、本ステップが繰り返して実行される。一方、新しい受信データが格納されたときには、ステップS210に処理が移行する。
【0078】
ステップS210では、受信バッファ100f(受信ディスクリプタ)のデータが、セッションが確立されたPC30からの受信データか否かについての判断が行われる。ここで、セッションが確立されたPC30からの受信データではない場合には、ステップS226において、TCP/IPプロトコルスタックに受信データが転送された後、本処理から一旦抜ける。一方、セッションが確立されたPC30からの受信データである場合には、ステップS212に処理が移行する。
【0079】
ステップS212では、受信された受信データ(Ethernetフレーム)が記憶部101に保持される。続くステップS214では、低消費電力状態の記録部12に対して、該記録部12を起動するための起動信号が出力され、記録部12への電源供給が開始される。
【0080】
続いて、ステップS216では、windows sizeがゼロのACKデータ(Eternetフレーム)が生成されて、送信バッファ100g(送信ディスクリプタ)に格納され、その後、送信される(図7に示されるACK(Window Size=0))。
【0081】
次に、ステップS218では、PC30から受信バッファ100fが空いたか否かを問い合わせる信号TCP Zero Window Probe(win=0)が受信されたか否かについての判断が行われる。ここで、該信号が受信されていない場合には、該信号が受信されるまで本ステップが繰り返して実行される。一方、該信号が受信されたときには、ステップS220に処理が移行する。
【0082】
ステップS220では、記録部12が低消費電力状態から通常電力状態に遷移したか否か、すなわち起動されプリント処理が可能な状態になったか否かについての判断が行われる。ここで、記録部12が通常電力状態に遷移していない場合、すなわち起動中でプリント処理を行うことができない場合には、ステップS222に処理が移行する。一方、記録部12が通常電力状態に遷移したとき、すなわち起動が完了しプリント処理を行うことができるときには、ステップS224に処理が移行する。
【0083】
記録部12が起動中である場合、持続接続制御が継続されて実行される。すなわち、NIC10は、受信バッファ100fに空き容量がないことを示す信号ACK(Window Size=0)を返す(図7参照)。すなわち、持続接続制御が維持されている間、TCP Zero Window Probeに対してACK(Window Size=0)が返信される。なお、この場合、実際の受信バッファ100fの空き容量(受信可能データ量)にかかわらず、受信可能データ量としてゼロが送信される。その後、ステップS218に処理が移行し、記録部12が起動するまで、上述したステップS218〜S222の処理が繰り返して実行され、持続接続制御が行われる。
【0084】
記録部12が通常電力状態に遷移したとき、すなわち起動が完了しプリント処理を行うことができるときには、ステップS224において、受信され記憶部101に記憶されている受信データ(Eternetフレーム)がTCP/IPプロトコルスタックを介して記録部12に転送される。また、持続接続制御が解除され、通常の返信処理(図7に示されるACK(Window Size=1460))が実行される。その後、本処理から一旦抜ける。
【0085】
本実施形態によれば、受信バッファ100fからの読み出し量を調節することなく、送信データに含まれる受信可能データ量を直接操作することによって持続接続制御に持ち込むことができる。よって、使用されるプロトコル、及びデータの送信元であるPC30のOSに制約されることなく、低消費電力状態からの起動中にPC30によるデータの送出をより適切に制御(禁止/許可)することが可能となる。
【0086】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、本発明に係るネットワーク機器としてネットワーク複合機を例に挙げたが、ネットワーク複合機には限られない。例えば、テレビなどのネットワーク家電、ネットワークに接続されて使用される工作機械、産業機械、無人搬送車などであってもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、低消費電力状態を取り得る対象として、記録部12を挙げて説明したが、IFAX制御部20、Webサーバ21等に対しても同様に処理することができる。さらに、上記実施形態では、記録部12(ネットワーク複合機1)が、低消費電力状態(省エネモード)と通常電力状態(通常モード)との2つの状態を取る構成としたが、より多くの電力状態、例えば、さらに中間の状態として待機状態(待機モード)を取り得るように構成されていてもよい。なお、その場合、低消費電力状態から待機状態に移行し、該待機状態でデータの処理を行った後、再び低消費電力状態に戻るような動作を行ってもよい。
【0088】
上記実施形態では、通信端末がPCである場合を例にして説明したが、通信端末はPCに限られない。例えば、通信端末はネットワーク複合機等であってもよい。また、用いる通信プロトコル等は上記実施形態には限られない。
【0089】
上記実施形態では、低消費電力状態にあるときに、NIC10全体へ電力が供給される構成としたが、このような構成には限られない。例えば、NICが複数の部分から構成されており、低消費電力状態にあるときには、その一部に対してのみ電力が供給され、他の部分に対しては電力の供給が停止される構成としてもよい。
【符号の説明】
【0090】
1 ネットワーク複合機
10 NIC
100 送受信部
100a LANデバイス部
100b PHY部
100c MAC部
100d 送信部
100e 受信部
100f 受信バッファ(受信ディスクリプタ)
100g 送信バッファ(送信ディスクリプタ)
100h TCP/IPプロトコルスタック
101 記憶部
102 電力状態判定部
103 起動要否判定部
104 起動信号出力部
105 応答データ生成部
106 持続接続制御部
11 制御部
12 記録部
13 操作部
14 表示部
15 読取部
16 コーデック
17 画像記憶部
18 モデム
19 NCU
20 IFAX制御部
21 Webサーバ
23 バス
30 パーソナルコンピュータ
51 LAN


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネットワークを介して通信端末と接続され、該通信端末との間で通信を行なう通信手段と、
前記通信手段と通信路を介して接続され、第1電力状態と該第1電力状態よりも消費電力の少ない第2電力状態とを取ることができ、前記通信手段により受信された受信データを前記第1電力状態にあるときに処理する処理手段と、を備え、
前記通信手段は、
前記通信端末との間で前記ネットワークを介してデータを送受信する送受信手段と、
前記処理手段の電力状態を判定する判定手段と、
前記送受信手段により前記通信端末からのデータが受信され、かつ、前記判定手段により前記処理手段が前記第2電力状態であると判定された場合に、該処理手段の電力状態を前記第1電力状態に移行させるための移行信号を出力する移行手段と、
前記送受信手段により前記通信端末からのセッション確立要求信号が受信され、かつ、前記移行手段により移行信号が出力された場合に、該通信端末との間にセッションを確立するとともに、前記処理手段の電力状態が前記第1電力状態に移行されるまでの間、セッションを張った状態で前記通信端末に対してデータの送信を禁止させる持続接続制御を実行する持続接続制御手段と、を有することを特徴とするネットワーク機器。
【請求項2】
前記通信手段は、前記通信端末から受信される受信データを一時的に格納する受信バッファを有し、
前記送受信手段は、前記受信バッファの空き容量に応じた受信可能データ量を所定の通信プロトコルに従って前記通信端末へ送信し、
前記持続接続制御手段は、前記判定手段により前記処理手段の電力状態が前記第1電力状態に移行したと判定されるまで、前記受信可能データ量が該通信端末の最小送信可能データ量よりも小さくなるように、前記受信バッファから読み出すデータ量を非持続接続制御時よりも少なくすることを特徴とする請求項1に記載のネットワーク機器。
【請求項3】
前記持続接続制御手段は、前記処理手段の電力状態が前記第1電力状態に移行したと判定された場合に、前記持続接続制御を終了して前記セッション確立信号を送信した前記通信端末に対してデータの送信を許可することを特徴とする請求項2に記載のネットワーク機器。
【請求項4】
前記持続接続制御手段は、前記持続接続制御を終了して前記セッション確立要求信号を送信した通信端末に対してデータの送信を許可する場合、前記受信可能データ量が該通信端末の最小送信可能データ量よりも大きくなるように、前記受信バッファから読み出すデータ量を前記持続接続制御時よりも多くすることを特徴とする請求項3に記載のネットワーク機器。
【請求項5】
前記通信手段は、前記送受信手段によりデータが受信され、かつ、前記判定手段により前記処理手段が前記第2電力状態であると判断された場合に、前記処理手段の電力状態を前記第1電力状態に移行する必要があるか否かを判定する移行判定手段を備え、
前記移行手段は、前記移行判定手段により前記処理手段の電力状態を前記第1電力状態に移行する必要があると判定された場合に、前記移行信号を出力し、
前記持続接続制御手段は、前記移行判定手段により前記処理手段の電力状態を前記第1電力状態に移行する必要があると判定された場合に、前記処理手段の電力状態が前記第1電力状態に移行されるまで、セッションを張った状態で前記通信端末に対してデータの送信を禁止させることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のネットワーク機器。
【請求項6】
前記通信手段は、前記移行判定手段により、前記処理手段の電力状態を前記第1電力状態に移行する必要がないと判定された場合に、前記送受信手段により受信されたデータに対する応答を生成する生成手段を有し、
前記送受信手段は、前記移行判定手段により前記処理手段の電力状態を前記第1電力状態に移行する必要がないと判定された場合に、前記生成手段により生成された応答を前記通信端末へ出力することを特徴とする請求項5に記載のネットワーク機器。
【請求項7】
前記持続接続制御手段は、前記判定手段により前記処理手段の電力状態が前記第1電力状態に移行したと判定されるまで、受信可能データ量として、前記通信端末の最小送信可能データ量よりも小さい値を所定の通信プロトコルに従って前記通信端末へ送信するように前記送受信手段を制御することを特徴とする請求項1に記載のネットワーク機器。
【請求項8】
前記所定の通信プロトコルは、TCP/IPであることを特徴とする請求項2〜7のいずれか1項に記載のネットワーク機器。
【請求項9】
前記処理手段は、前記通信手段により受信されたプリントデータを用紙にプリントアウトするプリンタであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のネットワーク機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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