説明

ノイラミニダーゼのための化学発光性基質、ノイラミニダーゼの検出のための検定およびそのためのキット

【課題】ノイラミニダーゼと反応して、光学的に検出できるエネルギーを放出可能な、高感度な化学発光性1,2−ジオキセタン化合物及び該化合物を用いたノイラミニダーゼ検出方法の提供。
【解決手段】一般式(I)


[式中、Tは、スピロ結合により該ジオキセタンの4員環部分と結合した、置換ポリシクロアルキル基であり、Xは、該部分Zの酵素による切断の際に、該1,2−ジオキセタンの化学発光性分解を誘発する炭素原子6〜30個のアリール基またはヘテロアリール基であり、Zは、酵素により切断可能な特定のD−ガラクト−ノヌロピラノ−ス残基を示す]で示される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、1998年11月17日に出願された仮出願である、米国特許出願第60/108,703号明細書に基づく優先権を主張する正規の国内出願である。その仮出願は、全体が、本明細書に参照として組み込まれる。
【0002】
発明の背景
発明の分野
本発明は、ノイラミニダーゼの検出のための化学発光検定において使用するための、新規な1,2−ジオキセタン基質に関する。本発明は、先行技術において直面した感度の課題を克服するために、化学発光性1,2−ジオキセタン試薬の高い感度を利用する。さらに、本発明は、そのようなジオキセタンを使用する方法およびキットに関する。
【0003】
先行技術の背景
極めて多様な疾患および感染が、ウイルスにより引き起こされる。これらのすべての既知の疾患および感染の中で、インフルエンザウイルスにより引き起こされる感染のような呼吸器感染は、最も多く見られる。急性呼吸器感染は、特に高齢の患者においては、致命的となる場合がある。したがって、ウイルスおよびウイルス感染の検出のための検定法の開発は、ますます重要になってきている。
【0004】
一般に、インフルエンザウイルスは、ノイラミニダーゼ活性を有する表面糖タンパク質を発現している。シアリダーゼとしても知られる酵素ノイラミニダーゼは、5.5という最適pHを有し、2−ケトシド結合したn−アセチルノイラミン酸(Neu5ac、シアル酸としても知られる)を含有する基質を加水分解する、よく特徴づけられている加水分解酵素である。このノイラミニダーゼ酵素に対する低い最適pH(5.5)が、適切な感度を有するノイラミニダーゼのための、検定を可能にすることを困難にしている。
【0005】
ノイラミニダーゼは、多様な生物学的な事象に関与するため、ノイラミニダーゼの検出は重要である。たとえば、この酵素の欠損は、常染色体劣性形質であるシアリドーシスをもたらす。さらに、ノイラミニダーゼの放出は、インフルエンザウイルスによる細胞の侵入を媒介することが知られている。
【0006】
インフルエンザウイルスの早期検出が、より効率的な治療を可能にするので、インフルエンザウイルスの早期検出のための、高感度の検定を可能にすることが望ましい。しかし、得られる臨床試料には、現在の技術により検出可能な充分な量のノイラミニダーゼが存在しない場合が多いため、従来の技術を使用して、早期の段階でインフルエンザウイルスを検出することは、極めて困難である。
【0007】
色原性/蛍光原性のノイラミニダーゼ基質が開発され、Liavらの米国特許第5,719,020号明細書に報告されている。これは、参照として本明細書に組み込まれる。この参考文献に提供された基質および検定は、検出の特異性および信頼性がある程度増強されているが、実際、色原性または蛍光原性のレポーター分子の使用は、検出メカニズムの多様な短所を抱えており、たとえば、米国特許第5,719,020号明細書に記載されている検定において必要な、詳細な収集および査定の工程に注意されたい。より単純で、より信頼性が高く、定量可能な検出系が望ましい。この特異的検定のための特異性に関する問題は、Reinhardら、Biol.Chem.、第373巻、63〜68頁(1992)にも論じられている。
【0008】
化学発光基質は、試料中の特定の物質の存在の、陽性の指標のための光を放出する。これらの化学発光基質を利用した化学発光検定は、放射性材料の使用および廃棄のための特別な手順を必要としないため、魅力的な検定法である。それに加えて、化学発光検定は、典型的には、検定された物質の検出のための複雑な、または入り組んだ装置を必要としない。さらに、化学発光検定は、全体的な発光効率を増強する水溶性エンハンサーにより増強することができる。典型的なエンハンサーは、参照として本明細書に組み込まれる米国特許第5,145,772号明細書に記載されている。
【0009】
本願の譲受人、トロピクス社(Tropix, Inc.)は、検出検定において使用するための、多数の化学発光性酵素基質を開発し、その多くは、1,2−ジオキセタンを利用している。これらの化学発光性酵素基質を扱っている代表的な特許は、米国特許第4,931,223号、第4,931,569号、第4,952,707号、第4,956,477号、第4,978,614号、第5,032,381号、第5,112,960号、第5,145,772号、第5,220,005号、第5,225,584号、第5,326,882号、第5,330,900号、第5,336,596号、第5,869,699号、第5,538,847号および第5,871,938号明細書を含み、これらはすべて参照として本明細書に組み込まれる。
【0010】
前掲の特許は、スピロ結合によりジオキセタンの4員環部分の炭素のうちの一つと結合した多環式基により安定化された、1,2−ジオキセタンを扱っている。電子に富む部分(moiety)、典型的にはアリール基、フェニル基またはナフチル基が、ジオキセタン環の残余の炭素と結合している。この部分に、酵素により切断可能な基が結合している。この基が切断されると、アニオンが生じ、それが分解して、ジオキセタンによる光の放出を引き起こす。さらに、前記の電子に富む成分を保持する炭素は、アルコキシ基またはその他の電子活性(electron-active)基を保持していてもよい。
【0011】
米国特許第5,112,960号に開示されているように、リン酸3−(4−メトキシスピロ〔1,2−ジオキセタン−3,2′−トリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカン〕−4−イル−フェニルおよびその塩(AMPPD(登録商標))のような、酵素により刺激可能な(enzyme-triggerable)ジオキセタンは、高度に効率的なレポーター分子である。優れた性能は、多環式基上の選択的な置換によって得られる。たとえば、塩素のような電子活性種による置換は、反応速度およびシグナル対ノイズ比(S/N)を劇的に改善することが示されている。AMPPD(登録商標)の塩素置換体CSPD(登録商標)は、トロピクス社より広く市販されている。フェニル部分またはナフチル部分にも塩素のような電子活性置換基を保持している、類似の構造を有する「第3世代」ジオキセタン化合物は、性能がさらに改善されている。これらの「第3世代」ジオキセタンもまた、トロピクス社より市販されている。ホスファート成分は、商標CDP(登録商標)およびCDP−STAR(登録商標)の下で入手可能である。化学発光性であるこれらのレポーター分子は、酵素刺激可能ジオキセタンと呼ばれる。現在のところ、アルカリ性ホスファターゼが、刺激剤として重要な、支配的な酵素である。
【0012】
化学発光検定一般に関して多くのことが既知であるが、現存する参考文献は、ノイラミニダーゼ酵素に特異的な刺激可能ジオキセタンを記載していない。そのうえ、現存する参考文献は、ノイラミニダーゼの高感度の検出のための、化学発光性検出検定またはそのような検定に用いるための基質を開示していない。したがって、ノイラミニダーゼの存在を検出するために用いることができる1,2−ジオキセタン化合物の必要性がある。このように、高度に高感度であり、単純化された手順により入手されうる試薬を使用する、ノイラミニダーゼ酵素の存在を検出するための検定法を見出すことは、依然として当業者の目標として残っている。
【0013】
発明の概要
前記の目的、および以下にさらに詳細に論じられるその他の目的は、化学発光性1,2−ジオキセタンに依存する化学発光検定によって果たされる。本発明の譲受人トロピクス社により開発されたその他のジオキセタンは、極めて多様な米国特許の主題である。本発明において有用な1,2−ジオキセタンは、一般的に、下記の式:
【0014】
【化1】

【0015】
〔式中、
Tは、スピロ結合により該ジオキセタンの4員環部分と結合した置換または非置換のポリシクロアルキル基であり(ここで、該置換基は、ヒドロキシル基、フッ素、塩素、炭素原子数1〜6の非置換の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヒドロキシまたは1〜3個のハロゲン原子で、一置換、二置換もしくは三置換された、炭素1〜6個のアルキル基、フェニル基、シアノ基およびアミド基からなる群より選ばれる);
Xは、フェニル、ナフチルおよびその他のヘテロアリールからなる群より選ばれ、そしてXは、電子活性置換基を1〜3個保持しており(ここで、各電子活性置換基は、ハロゲン(特にFおよびCl)、アルコキシ、アリールオキシ、トリアルキルアンモニウム、アルキルアミド、アリールアミド、アリールカルバモイル、アルキルカルバモイル、シアノ、ニトロ、エステル、アルキルスルホンアミド、アリールスルホンアミド、トリホリルメチル(triphorylmethyl)、アリール、アルキル、トリアルキル、トリアリールシリル、アルキルアリールシリル、アルキルアミドスルホニル、アリールアミドスルホニル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルチオエーテルならびにアリールチオエーテルからなる群より独立に選ばれ、アルキル部分またはアリール部分は、それぞれ炭素原子を1〜12個含む);
Zは、酵素により切断可能な、式II:
【0016】
【化2】

【0017】
〔式中、R1〜R3は、水素または炭素原子1〜4個のアルキル(分岐状もしくは直鎖状)である〕の基であり;
Rは、リン、窒素、硫黄および酸素からなる群より選ばれるヘテロ原子を1〜2個含有していてもよい、炭素原子1〜20個のアルキル、アリール、アラルキルまたはシクロアルキルであり、そしてRは、ハロゲン置換基を少なくとも1個保持していてもよい〕
によって表される。
【0018】
本発明のもう一つの目的は、そのような基質を使用した、ノイラミニダーゼを検出するための、診断用キットおよび方法を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ノイラミニダーゼ基質を示す。
【図2A】ノイラミニダーゼ基質の合成を説明するフローチャートである。
【図2B】ノイラミニダーゼ基質の合成を説明するフローチャートである。
【図3】ノイラミニダーゼにより誘導される光放出のメカニズムを説明するフローチャートである。
【図4】実験例1からの1,2−ジオキセタンノイラミニダーゼ基質のノイラミニダーゼ刺激により得られた化学発光シグナルをグラフで説明する図である。
【図5】酵素を含まないグラクソ緩衝液250μLで希釈されたジオキセタンストック5μLから得られたバックグラウンドノイズをグラフで説明する図である。
【図6】実験例2から得られた化学発光シグナルをグラフで説明する図である。
【図7】実験例3から得られた化学発光シグナルをグラフで説明する図である。
【図8】酵素を含まないリン酸ナトリウム緩衝液250mLで希釈されたジオキセタンストック5mlからのバックグラウンドノイズをグラフで説明する図である。
【図9】実験例5から得られた化学発光シグナルをグラフで説明する図である。
【図10】実験例6から得られた化学発光シグナルをグラフで説明する図である。
【0020】
発明の詳細な説明
本発明の好ましい実施態様の構造、合成および使用を、以下に記載する。
【0021】
構造
本発明は、分解する際に光エネルギーを生成することができる、一般式:
【0022】
【化3】

【0023】
〔式中、
Tは、スピロ結合により該ジオキセタンの4員環部分と結合した、置換または非置換のポリシクロアルキル基であり(該置換基は、ヒドロキシル基、フッ素、塩素、炭素原子数1〜6の非置換の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヒドロキシまたは1〜3個のハロゲン原子で、一置換、二置換もしくは三置換された炭素1〜6個のアルキル基、フェニル基、シアノ基およびアミド基からなる群より独立に選ばれる);
Xは、フェニル、ナフチルおよびその他のヘテロアリールからなる群より選ばれ、そしてXは、電子活性置換基を1〜3個保持しており(各電子活性置換基は、ハロゲン(特にFおよびCl)、アルコキシ、アリールオキシ、トリアルキルアンモニウム、アルキルアミド、アリールアミド、アリールカルバモイル、アルキルカルバモイル、シアノ、ニトロ、エステル、アルキルスルホンアミド、アリールスルホンアミド、トリホリルメチル、アリール、アルキル、トリアルキル、トリアリールシリル、アルキルアリールシリル、アルキルアミドスルホニル、アリールアミドスルホニル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルチオエーテルならびにアリールチオエーテルからなる群より独立に選ばれ、アルキル成分またはアリール成分はそれぞれ炭素原子を1〜12個含む);
Zは、酵素により切断可能な式II:
【0024】
【化4】

【0025】
〔式中、R1〜R3は、水素または炭素原子1〜4個のアルキル(分岐状もしくは直鎖状)である〕の基であり;
Rは、リン、窒素、硫黄および酸素からなる群より選ばれるヘテロ原子を1〜2個含有していてもよい、炭素原子1〜20個のアルキル、アリール、アラルキルまたはシクロアルキルであり、そしてRは、ハロゲン置換基を少なくとも1個保持していてもよい〕
の1,2−ジオキセタンを使用する。
【0026】
X、TまたはRのうちのいずれか、最も好ましくはRは、水性調製物中のジオキセタン試薬の溶解度を増強する基を、1個もしくは複数個保持していてもよい。この型の典型的な部分は、スルホニル基、COOHのようなカルボン酸部分、トリフルオロ置換基などを包含するフッ素もしくはハロゲンに基づく基を含む。好ましい実施態様においては、溶解度増強基が2個存在していてもよい。
【0027】
酵素作用と同時に光が生成できるよう、酵素分解の際の脱離基のpKaが充分に低くなるように、1,2−ジオキセタンのアグリコンが構築されているという点で、本発明による1,2−ジオキセタンは独特である。ノイラミニダーゼ酵素は、型および溶媒に応じて5.5〜7.8で変動するpHの最適範囲を有する。本発明のノイラミニダーゼ基質の熱安定性は、比較的高いpHにおいて、比較的大きい。
【0028】
特に、図1に表されるように、アリール部分Xが、パラ位またはメタ位に塩素部分のような電子活性置換基を保持する場合、分解の際の脱離基のpKaは、5.5〜7.8というノイラミニダーゼ酵素の最適pHにおいて、ジオキセタン化学発光の放出に特徴的な持続的なグロー特性を達成するために、充分な光が生成するのに充分なものであり、そのような持続的なグローは、高速スループットおよび自動化にとって望ましい。この場合、一工程検定(酵素との接触)が使用される。しかし、持続的なグロー放出が達成されるようにpHを上昇させる塩基の添加を必要とする基質を用いることにより、検定の速度および性能を調節することが望ましい場合も多い。この状況においては、アリール環(図1の場合、フェニル部分)は、酸素結合以外の付加的な電子活性置換基を保持していない。得られたオキシアニオンは、酵素の活性範囲より高い、たとえば約8.5より高いpHにおいて持続的なグローを与え、したがって、検出を反応から分離して、検定の条件を調節することができる。このように、本発明は、使用者の選択に応じて一工程または二工程のいずれかの検定を提供する。図1の分子を用いた二工程検定は、図3に例示されている。同様な検定を塩基の添加なしに実施することも可能であり、使用される実際のpHによっては、比較的低い強度のグローではあるが持続的な放出が、検出されるであろう。
【0029】
本発明によって提供される基質は、酵素作用および断片の刺激の両方と調和するpHにおける継続的な化学発光型検定を提供することができ、一工程または二工程のいずれかの検定を可能にする。この融通性は、有意な利点およびフォーマットの互換性を提供する。
【0030】
本発明は、化学発光の検出におけるエンハンサーの使用に役立つ。該エンハンサーは、一般に、ポリマー性オニウム塩(polymeric onium salts)、特にホスホニウム部分、スルホニウム部分、および好ましくはアンモニウム部分に基づく第四級塩に基づいている。ポリマーは、以下に示される一般式III:
【0031】
【化5】

【0032】
を有する。この式中、R1、R2およびR3は、炭素原子を1〜20個(両端を含む)有する直鎖状もしくは分岐状の非置換アルキル基、たとえば、メチル、エチル、n−ブチル、t−ブチル、ヘキシルなど;1個もしくは複数個のヒドロキシ、アルコキシ、たとえばメトキシ、エトキシ、ベンジルオキシもしくはポリオキシエチルエトキシ、アリールオキシ、たとえばフェノキシ、アミノもしくは置換アミノ、たとえばメチルアミノ、アミド、たとえばアセトアミドもしくはウレイド、たとえばフェニルウレイドで置換された炭素原子を1〜20個(両端を含む)有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基;あるいはフルオロアルカンもしくはフルオロアリール、たとえばヘプタフルオロブチル基、炭素環炭素原子を3〜12個(両端を含む)有する置換モノシクロアルキル基、たとえばシクロヘキシルもしくはシクロオクチル、1個もしくは複数個のアルキル基、アルコキシ基もしくは縮合ベンゾ基で置換された、環炭素原子を3〜12個(両端を含む)有する置換モノシクロアルキル基、たとえばメトキシシクロヘキシルもしくは1,2,3,4−テトラヒドロナフチル;非置換の、もしくは1個もしくは複数個のアルキル基、アルコキシ基もしくはアリール基で置換された、それぞれ炭素原子を5〜12個(両端を含む)有する、2個以上の縮合環を有するポリシクロアルキル基、たとえば1−アダマンチルもしくは3−フェニル−1−アダマンチル、非置換の、もしくは1個もしくは複数個のアルキル基、アリール基、フッ素基もしくはヒドロキシ基で置換された、少なくとも1個の環および全部で6〜20個の炭素原子を有する、アリール基、アルカリール基もしくはアラルキル基、たとえばフェニル、ナフチル、ペンタフルオロフェニル、エチルフェニル、ベンジル、ヒドロキシベンジル、フェニルベンジルもしくはデヒドロアビエチルであり;R1、R2およびR3のうちの少なくとも2個が、それらと結合している第四級窒素原子と一緒になって、炭素原子3〜5個(両端を含む)およびヘテロ原子1〜3個(両端を含む)を含有するようにベンゾ環化されていてもよい、飽和もしくは不飽和の、非置換もしくは置換の、窒素含有環、窒素および酸素を含有する環、または窒素および硫黄を含有する環、たとえば1−ピリジニウム、1−(3−アルキルもしくはアラルキル)イミダゾリウム、モルホリノ、アルキルモルホリニウム、アルキルピペリジニウム、アシルピペリジニウム、ピペリジノもしくはアシルピペリジノ、ベンゾオキサゾリウム、ベンゾチアゾリウムまたはベンズアミドアゾリウムを形成していてもよい。
【0033】
記号X-は、単独で、あるいは組み合わされて、ハロゲン化物、すなわちフッ化物、塩化物、臭化物またはヨウ化物、硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、たとえばメチルスルホン酸塩、アリールスルホン酸塩、たとえばp−トルエンスルホン酸塩、置換アリールスルホン酸塩、たとえばアニリノナフチレンスルホン酸塩(各種の同位体)、ジフェニルアントラセンスルホン酸塩、過塩素酸塩、アルカノアート、たとえばアセタート、アリールカルボキシラート、たとえばフルオレセインまたはフルオレセイン誘導体、ベンゾ複素環式アリールカルボキシラート、たとえば7−ジエチルアミノ−4−シアノクマリン−3−カルボキシラートのような部分を含みうる対イオンを表し、p−テレフタラートのような有機ジアニオンもまた、X-によって表すことができる。
【0034】
記号nは、そのようなポリ(ビニルベンジル第四級アンモニウム塩)の分子量が、固有粘度またはLALLS技術により決定した場合、約800〜200,000(重量平均)、好ましくは約20,000〜70,000の範囲となるような数を表す。
【0035】
Mが窒素である、これらのポリマー、関連するコポリマーおよび関連する出発材料の調製のための方法は、G.D.Jones ら、Journal of Polymer Science,25,201,1958;米国特許第2,780,604号;第3,178,396号;第3,770,439号;第4,308,333号;第4,340,522号;第4,424,326号明細書およびドイツ公開特許第2,447,611号公報に開示されている。
【0036】
記号Mはまた、リンまたは硫黄を表していてもよく、対応するスルホニウムポリマーまたはホスホニウムポリマーは、先行技術:米国特許第3,236,820号および第3,065,272号明細書に記載されている。
【0037】
本発明の2種のポリマーの調製方法は、参照として挙げられた米国特許に記載されており、本発明自体の特徴を構成しない。
【0038】
異なる側鎖オニウム基を2個以上含有するコポリマーも、本明細書に記載の本発明において使用することができる。
【0039】
【化6】

【0040】
記号X-、M、R1、R2、R3は前記と同義である。記号yおよびzは、コポリマーを構成する個々のモノマーのモル分率を表す。したがって、記号yおよびzは、常に合計が1になるよう、個々に0.01〜0.99の間を変動しうる。
【0041】
好ましい部分として、MはNであり、R1〜R3は個々に独立に、非置換であるか、またはヒドロキシ基、アミノ基、アミド基、ウレイド基でさらに置換された、炭素原子を1〜20個有するシクロアルキル、ポリシクロアルキル(たとえば、アダマンタン)、アラルキルもしくはアリールであるか、または組み合わされて、M原子とのスピロ結合を介して、複素環式(場合によりその他のN、SまたはOヘテロ原子を含む、芳香族、脂肪族またはそれらの混合物)のオニウム部分を形成している。
【0042】
Xは、好ましくは、所望により溶解度を改善し、イオン強度を変化させるために選ばれ、そして好ましくは、ハロゲン、硫酸塩、またはスルホン酸塩である。コポリマーにおいて、R1〜R3は各々、対応するR1〜R3と同一であってもよいし、または異なっていてもよい。好ましいポリマーの例は、
ポリビニルベンジルフェニルウレイドエチルジメチルアンモニウムクロリド(PUDMQ);
ポリビニルベンジルジメチルヒドロキシエチルアンモニウムクロリド(DMEQ);
ポリビニルベンジルベンゾイルアミノエチルジメチルアンモニウムクロリド(BAEDMQ);
ポリビニルベンジルベンジルジメチルアンモニウムクロリド(BDMQ);
ポリビニルベンジルトリブチルアンモニウムクロリド(TBQ);
ビニルベンジルトリヘキシルアンモニウムクロリド−ポリビニルベンジルトリブチルアンモニウムクロリドコポリマー(THQ−TBQ);および
ビニルベンジルベンジルジメチルアンモニウムクロリド−ポリビニルアミノエチルジメチルアンモニウムクロリドコポリマー(BDMQ−AEDMQ)
を包含する。
【0043】
これらのビニルベンジル第四級アンモニウム塩ポリマーは、適切な前駆体モノマーのフリーラジカル重合により、または対応する第三級アミンとポリビニルベンジルクロリドもしくは側鎖ベンジルクロリド官能基とを含有するコポリマーによる完全なアルキル化により、調製することができる。これと同じ手法を、クロロメチル化ポリフェニレンオキシドまたはポリエピクロロヒドリンのようなその他のポリマーアルキル化剤を用いて採用できる。この同じポリマーアルキル化剤は、オキサゾリン環開裂重合の開始剤として用いられ、加水分解後に、ポリエチレンイミングラフトコポリマーを生じる。ついで、そのようなコポリマーを、好ましくはアラルキル基で第四級化し、最終ポリマーを得ることができる。これらのポリマーは、参照として本明細書に組み込まれる米国特許第5,593,828号明細書において膜として詳細に記載されている。代替法として、参照として本明細書に組み込まれる米国特許第5,650,099号明細書のジカチオン性エンハンサーも用いることができる。
【0044】
ジオキセタンノイラミニダーゼ基質の合成
以下の実施例は、図2に示されたような1,2−ジオキセタンの代表的な合成例であり、特許請求の範囲の限界を限定するものではない。
【0045】
メチル(5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−β−D−ガラクト−ノヌロピラノシルクロリド)オナート(Methyl(5-acetamido-4,7,8,9,-tetra-O-acetyl-3,5-dideoxy-D-glycero-β-D-galacto-nonulopyranosyl chloride)onate)(図2の化合物3)
メチル(5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−β−D−ガラクト−ノヌロピラノシルクロリド)オナートを、Kuhn, R., Lutz, P. および McDonald, D. C., Chem. Ber., 99(1966) 611-617に記載された手順に従い、市販のN−アセチルノイラミン酸(図2の化合物1)から二工程で調製した。得られた粗メチル(5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−β−D−ガラクト−ノヌロピラノシルクロリド)オナートを、シリカゲルプラグにより精製し、80〜90%EtOAcを含むヘキサン200mLで溶離した。濾液を濃縮した後、メチル(5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−β−D−ガラクト−ノヌロピラノシルクロリド)オナート1.24g(2.43mmol)を、灰白色の粉末として得た。ついで、この生成物を、以下のカップリング反応において即座に用いた。
【0046】
メチル(2−クロロ−5−(メトキシ−5−クロロトリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカ−2−イリデンメチル)フェニル5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オナート(Methyl(2-chloro-5-(methoxy-5-chlorotricyclo〔3,3,1,13,7〕dec-2-ylidenemethyl)phenyl5-acetamido-4,7,8,9,-tetra-O-acetyl-3,5-dideoxy-α-D-glycero-D-galacto-2-nonulopyranosid)onate)(図2の化合物4)
2−クロロ−5−(メトキシ−5−クロロトリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカ−2−イリデンメチル)フェノール(1.65g、4.86mmol)および相間移動触媒であるテトラブチルアンモニウムハイドロゲンスルファート(0.83g、2.43mmol)を、100mLの丸底フラスコ内に仕込み、室温でCH2Cl212.5mLおよび0.5N NaOH17.5mLを添加した。得られた二相混合物を、上記の生成物(メチル(5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−D−グリセロ−β−D−ガラクト−ノヌロピラノシルクロリド)オナート1.24g(2.43mmol))を含むCH2Cl2の溶液5mLに添加した。
【0047】
1時間の激しい攪拌の後、反応混合物をCH2Cl2で希釈し、飽和炭酸水素ナトリウム溶液を含有する分液漏斗に注入した。有機層を分離した後、水層をさらにCH2Cl2で2回抽出した。ついで、合わせた有機層を、H2Oで洗浄し、無水Na2SO4物上で乾燥した。TLC(80%EtOAcを含むヘキサン)は、上下の薄い影を有するRf=0.48に、カップリング生成物、メチル(2−クロロ−5−(メトキシ−5−クロロトリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカ−2−イリデンメチル)フェニル5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オナートを示した。ついで、有機溶液に、10滴のET3Nを加え、濃縮した。
【0048】
次に、シリカゲルクロマトグラフィにより粗生成物を精製し、20%EtOAcを含むヘキサンで溶離し、未反応のエノールエーテルフェノール(図2の化合物7)を回収し、続いてヘキサン中の80〜90%EtOAcを含む溶離し、それによりメチル(2−クロロ−5−(メトキシ−5−クロロトリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカ−2−イリデンメチル)フェニル5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オナート1.242g(62.9%)を、薄黄色の固くて砕けやすい泡状物質として得た。
IR(CHCl3, cm-1): 3432, 3040, 2936, 1750, 1688, 1372, 1235および1040.
1H NMR(CDCl3)スペクトルは、複雑であったが、それでも試料が実際に、所望の生成物(化合物4)と、クロリド(化合物3)を脱塩酸化したグリカールとの、約4:3:1の混合物であることを明らかにした。
【0049】
NaOMeを含むMeOHでO−アセチル基を除去し、続いてグリカールを除去するため酢酸無水物を含むピリジンで再アシル化することにより、純粋な試料を得た。得られた1H NMRスペクトルは、メチルエステルならびにO−およびN−アセチルメチルのシグナルの等しい分割に基づいて、メチル(2−クロロ−5−(メトキシ−5−クロロトリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカ−2−イリデンメチル)フェニル5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オナートが、2個の同位体の1:1混合物として存在することを明らかに示した。ノイラミン酸環のH−3eに関する2.82ppmおよび2.86ppmの2組の三重線の存在は、両同位体がα−ピラノシドであることを示した。
1H NMR (CDCl3): δ 7.35 (d, J=8.2 Hz, 1H), 7.21 (m, 1H), 6.99 (m, 1H), 5.25-5.34 (m, 3H), 4.98-5.10 (m, 1H), 4.14-4.31 (m, 3H), 4.03 (m, 1H), 3.75 および 3.747 (2s, 3H, Me エステル), 3.43 (broad s, 1H), 3.30 (s, 3H, OMe), 2.86および 2.82 (2t, J=4.3 Hz, 1H), 2.13, 2.12, 2.10 および 2.07 (4s, 6H), 2.04 (s, 3H), 2.03 (s, 3H) ならびに 1.91 (s, 3H).
【0050】
同じ相間移動カップリング反応を、3−(メトキシ−5−クロロトリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカ−2−イリデンメチル)フェノール(図2の化合物8)に対して実施し、対応するカップリング生成物を得た。
IR (CHCl3, cm-1): 3440, 3018, 2920, 2860, 1795, 1690, 1375, 1238, 1138, 1045; 1H NMR (CDCl3): δ 7.26 (t, J=7.9 Hz), 7.04-7.10 (m, 2H), 6.97 (m, 1H), 5.27-5.37 (m, 4H), 4.97 (m, 1H), 3.68 (s, 3H, Me エステル), 3.28 (s, 3H, OMe), 3.24 (broad s, 1H), 2.72 (dd, J=12.9, 4.6 Hz, 1H, H-3e), 2.60 (broad s, 1H), 2.22 (t, J=12.7 Hz), 2.14, 2.12, 2.05, 2.04 ならびに 1.91 (5s, 15H, O- および N-Ac メチル基).
【0051】
(2−クロロ−5−(メトキシ−5−クロロトリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカ−2−イリデンメチル)フェニル5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オナートナトリウム塩(sodium(2-chloro-5-(methoxy-5-chlorotricyclo〔3,3,1,13,7〕dec-2-ylidenemethyl)phenyl5-acetamido-3,5-dideoxy-α-D-glycero-D-galacto-2-nonulopyranosid)onate)(図2の化合物5)
純粋でないピラノシド、メチル(2−クロロ−5−(メトキシ−5−クロロトリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカ−2−イリデンメチル)フェニル5−アセトアミド−4,7,8,9−テトラ−O−アセチル−3,5−ジデオキシ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オナート(1.76g、2.1mmol)を、0℃で、1N NaOH12mLを含むTHF6.5mLとMeOH6.5mLとの混合物中で脱保護した。0℃で5分間攪拌した後、混合物を室温で1時間攪拌した。次に、固体炭酸水素ナトリウム1.05gの添加により、pHを低下させた。大部分の炭酸水素塩が溶液に取り込まれなかったが、水で希釈して、最終的には透明な溶液が得られ、総容量は100mLとなった。
【0052】
次に、溶液をブフナー漏斗で濾過し、少量の水で濯ぎ、ポリスチレンが充填された1インチのカラムを用いた逆相調製用HPLCによって精製した。アセトニトリル−水勾配で、カラムを溶離した。ついで、生成物を含有する画分をプールし、凍結乾燥させ、(2−クロロ−5−(メトキシ−5−クロロトリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカ−2−イリデンメチル)フェニル5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オナートナトリウム塩658.9mg(46.6%)を、白い綿毛状の粉末として得た。
1H NMR (D2O): δ 7.42 (d, J=8.1 Hz, 1H), 7.32 (broad s, 1H), 7.02 (d, J=8.1 Hz, 1H), 3.72-3.93 (m, 5H), 3.59-3.68 (m, 2H), 3.31 (s, 1H), 3.31 (s, 3H, OCH3), 2.90-2.99 (m, 1H, H-3e), 2.67 (broad s, 1H), 2.08-2.30 (m, 6H, アダマンチル), 2.02 (s, 3H, N-Ac), 1.66-2.0 (m, 5 アダマンチル H および 1-H-3a).
【0053】
(2−クロロ−5−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2′−(5−クロロ)トリシクロ〔3,3,1,13,7}デカン}−4−イル−フェニル5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オナートナトリウム塩(sodium(2-chloro-5-(4-methoxyspiro{1,2-dioxetane-3,2′-(5-chloro)tricyclo〔3,3,1,13,7}decan}-4-yl-phenyl5-acetamido-3,5-dideoxy-α-D-glycero-D-galacto-2-nonulopyranosid)onate)(図2の化合物6)
(2−クロロ−5−(メトキシ−5−クロロトリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカ−2−イリデンメチル)フェニル5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オナートナトリウム塩(414.5mg、0.635mmol)の、CH2Cl2中の20mL15%MeOHの溶液中で、TPPストック溶液(2mg/mL CHCl3)20滴の存在下における光酸素化を、絶えず酸素を溶液中に通しながら、3〜5℃の温度で400Wのナトリウム蒸気灯で25分間照射することにより実施した。反応を、UVスペクトルを用い、すなわち、反応が進行するにつれて260.5nmから277.5nmへとシフトする生成物の最大吸収を用いてモニターした。次に、紫色のガラス状泡状物質が得られるまで、混合物を低温で回転蒸発器(rotovap)によって濃縮し、真空で輸送した(pumped)。得られた粗生成物は、飽和NaHCO3溶液2mLを含有するH2O30mLに可溶であった。ついで、生成物をブフナー漏斗で濾過し、水ですすぎ、最終容量を50mLとした。ついで、溶液を10mLずつ5等分し、前記の逆相HPLCカラムに注入した。カラムをアセトニトリル−水勾配で溶離した。HPLCは、ブロードなピークがシャープな主ピークの直前に溶離されることを明らかにした。これらの画分を別々にプールし、凍結乾燥し、それぞれ68.4mgおよび350mgを白色の粉末として得た。両方の生成物画分は、オックスフォードグリコサイエンシズ(Oxford Glycosciences)から得られたノイラミニダーゼ酵素(E.coli由来の組換え体)による処理の際に、化学発光を示した。
【0054】
(5−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2′トリシクロ〔3,3,1,13,7〕デカン}−4−イルフェニル5−アセトアミド−3,5−ジデオキシ−α−D−グリセロ−D−ガラクト−2−ノヌロピラノシド)オナートナトリウム塩(sodium(5-(4-methoxyspiro{1,2-dioxetane-3,2'tricyclo〔3,3,1,13,7}decan}-4-yl-phenyl5-acetamido-3,5-dideoxy-α-D-glycero-D-galacto-2-nonulopyranosid)onate)を、対応するアセタート保護された、相間移動カップリングされたエノールエーテルから、前記と同様にして調製し、ついで脱保護および光酸素化を行った。水性溶液から生成物をTLCのプレートにスポットすると、プレートを暗所で加熱した際、青色の化学発光を示した。この現象は、1,2−ジオキセタン生成物の存在を示していた。
【0055】
前述の合成は、試料中のノイラミニダーゼの存在を検出することができる本発明による1,2−ジオキセタン基質の形成の代表例であり、本発明の範囲を制限するものと見なされるべきではない。ナフタレンまたはヘテロアリール発光基を含む比較的長い波長を発光するジオキセタンのような、その他のジオキセタンも、本発明の範囲内であると見なされる。さらに、ジアルキルジオキセタンのような安定化基およびアダマンチル基または置換アダマンチル基も、本発明の範囲内であると意図される。
【0056】
本発明の1,2−ジオキセタンは、図3に記載されたような、二工程検定でノイラミニダーゼの存在を検出するために操作される。二工程検定において、ノイラミニダーゼは、工程1で作用する。工程2においては、遊離したジオキセタンが、単独の塩基により、または塩基と、光放出のさらなる増幅、もしくはその波長のシフトのためのエネルギー受容体をさらに含有していてもよい、モノマー性もしくはオリゴマー性のエンハンサー部分とによって刺激される。適切な塩基は、金属の水酸化物、炭酸塩など、ならびにアンモニウム塩およびアミン塩を包含する。ノイラミニダーゼの検出のための二工程検定は、M.Potier,ら、Anal.Biochem.,94,287-296,1979により開示された基本プロトコルに由来し、それは、7未満のpHにおける第一工程に続いて、pHが約10(またはそれ以上)へのpHの上方シフトを適用することにより、酵素生成物から蛍光シグナルが生成するであろうということを示している。
【0057】
実験例1
ジオキセタン489−102(図1の化合物)1.5mg(分子量684.5)を、pH約8.3の0.51M酢酸ナトリウム緩衝液0.5mLに溶解し、ジオキセタンストック溶液を形成させた。図5は、グラクソ(glaxo)pH5.5緩衝液(酵素なし)250μLで希釈されたジオキセタンストック5μLから得られたノイズを示すプロットである。示されたように、およそ0.2RLUの本質的に一定のノイズが存在する。
【0058】
次に、オックスフォード酵素0.2単位を、オックスフォード酵素400μLで希釈した。ついで、該酵素200μL(0.1単位)を、ジオキセタンストック10μLを添加し、37℃で15分間インキュベートした。ついで、溶液をターナー照度計(luminometer)に置いた。pH5.5で、一定の80RLUの光が検出された。すべてのターナー読み取り値を31.5℃に較正した。
【0059】
ついで、pH10の0.1AMP400μLをチューブに注入すると、約1.25分という半減期で崩壊する、10,000を越えるピーク光放出が生成した。図4の曲線の形は、インキュベーション時間中のほぼ完全な基質の消費を示している。
【0060】
実験例2
実験例1で調製したジオキセタンストック5μLを、オックスフォードシアリダーゼ0.05単位を含むpH5.5の緩衝液200μLに添加した。溶液(およそ基質110μM)を、37℃で15分間インキュベートした。ついで、溶液をターナー照度計に置き、約55RLUの、安定した光放出を認めた(図6参照)。この光放出は、図5に示すような、pH5.5における「酵素なし」のノイズより約275倍大きかった。次に、AMPpH10緩衝液400μLを注入すると、目盛りから逸脱する(すなわち、10,000RLUを越える)光スパイクが生成した。
【0061】
実験例3
酵素0.025単位の存在下で110μMの基質を用いて、実験例2を繰り返した。図7は、pH5.5において、得られた光レベル(56RLU)が実験例2で得られたレベルと類似していることを、図示している。これらの結果から、pH5.5における光放出が、酵素の濃度と相関していないことが決定された。次に、AMPpH10緩衝液をさらに400μL添加すると、8860RLUの光ピークおよび実験例2と同様の崩壊動態が生成した。
【0062】
実験例4
pH7.7の120μMリン酸ナトリウム緩衝液を、一塩基酸および二塩基酸のストック溶液から調製した。この緩衝液250μLおよび実験例1で調製したジオキセタンストック溶液5μLを、ターナー照度計中で、31.5℃でインキュベートした。図8は、pH7.7における約2RLUの安定したノイズレベルを証明している。これは、実験例1で示されたようなpH5.5(酵素なし)におけるノイズレベルの10倍である。
【0063】
実験例5
実験条件は、リン酸ナトリウム緩衝液の代わりにpH10のAMP緩衝液を用いたことを除き、実験例4に記載の条件と同一であった。この実験は、約2.3RLUという最大値を有する31.5℃におけるノイズを示した。図9に見られるように、ノイズは20分かけておよそ1.3RLUへと徐々に減少した。この実験例で用いられた基質には、酢酸塩緩衝液中での冷却保存を除き、事前のインキュベーションを施さなかった。
【0064】
実験例6
ジオキセタンストック5μLおよびリン酸塩緩衝液200μLの、pH7.7の溶液を作成し、31.5℃で数分間インキュベートした。インキュベーションの後、オックスフォードシアリダーゼ0.25単位を含む50μMの酢酸塩緩衝液50μLを添加した。化学発光が自然発生的に生成し、3.25分で1380RLUという最大値に上昇した(図10を参照)。曲線の崩壊部分におけるおよその半減期は、約5.5分であった。
【0065】
実験例7
工程2において第四級オニウムポリマーエンハンサーおよび塩基を使用して、オックスフォードX−501ノイラミニダーゼ酵素を用いた二工程検定を実施した。これらの条件は、2.7×10-7単位の酵素およびおよそ2.0というシグナル対ノイズ比の検出を許容した。酵素は、1mg当たり300単位の活性を示し、41,000という分子量を有していた。最適化されていない検出下限は、酵素2.19×10-15molであった。これは、オックスフォード酵素溶液の1:125,000希釈物に相当する。検定を、pHが5.5、6.0および6.5の、0.05M酢酸ナトリウム/0.1M NaCl緩衝溶液中で実施した。結果および条件を、表Aに要約する。
【0066】
シグマのメチルウンベリフェリル−N−アセチルノイラミン酸塩を蛍光基質として用いた実験は、1:4,000という希釈率で1.79というシグナル対ノイズ比を与え、このことは、化学発光性ノイラミニダーゼ−Star基質で得られた感度と比較して、劣った感度を示している。結果および条件を、表Bに要約する。
【0067】
実験例8
実験例7の二工程検定を、0.05M酢酸塩緩衝液の代わりに0.05Mリン酸塩/0.1M NaCl緩衝液を用いて実施した。検定を、pH7.7、7.3、7.0および6.5で実施した。結果および条件を、表Cに要約する。
【0068】
実験例9
工程2において第四級オニウムポリマーエンハンサーおよび塩基を使用して、オックスフォードX−501ノイラミニダーゼ酵素を用いた二工程検定を実施した。比較のために、2個の異なる緩衝液系:pH6.5のMESおよびpH5.5の酢酸ナトリウムを用いたことを除き、条件は実験例7と同様であった。結果および条件を、表Dに要約する。
【0069】
実験例10
工程2において第四級オニウムポリマーエンハンサーおよび塩基を使用して、オックスフォードX−501ノイラミニダーゼ酵素を用いた二工程検定を実施した。ノイラミニダーゼ基質を、37℃で、0.05Mリン酸塩/0.1M NaCl、pH7.7の緩衝溶液中で、30分間および60分間インキュベートした。結果および条件を、表Eに要約する。
【0070】
実験例11
第四級オニウムポリマーエンハンサーの存在下および非存在下の両方において、オックスフォードX−501ノイラミニダーゼ酵素を用いた二工程検定を実施した。結果および条件を、表Fに要約する。
【0071】
本願発明を一般的にも、特定の実施態様に関しても説明した。当業者に既知の極めて多様な代替法を、包括的な開示の中で選択することが可能であり、実施例は、特記しない限り、本発明を制限するものと解釈すべきではない。特に、ジオキセタンの種類、緩衝液の組成、シグナル検出装置、プロトコル時間、温度、および条件などの変形が、当業者には想到されよう。これらの変形は、本発明の範囲内にあると意図される。本発明は、特許請求の範囲に列挙したことを除いては、制限されるものではない。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
【表5】

【0077】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分解する際に光エネルギーを生成することができる、式I:
【化7】


〔式中、
Tは、スピロ結合により該ジオキセタンの4員環部分と結合した、置換または非置換のポリシクロアルキル基であり;
Xは、該部分Zの酵素による切断の際に、該1,2−ジオキセタンの化学発光性分解を誘発する炭素原子6〜30個のアリール基またはヘテロアリール基であり;
Zは、酵素により切断可能な、式II:
【化8】


〔式中、R1〜R3は、それぞれ独立に、Hまたは炭素原子1〜4個のアルキル(分岐状もしくは直鎖状)である〕の基であり;
Rは、炭素原子1〜20個のアルキル、アリール、アラルキルまたはシクロアルキルである〕
の、酵素により切断可能な化学発光性1,2−ジオキセタン。
【請求項2】
該置換ポリシクロアルキル基が、ヒドロキシル基、フッ素、塩素、炭素原子1〜6個の非置換の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、ヒドロキシまたはハロゲン原子1〜3個で、一置換、二置換もしくは三置換された、炭素1〜6個のアルキル基、フェニル基、シアノ基およびアミド基からなる群より選ばれるメンバーで置換されている、請求項1記載のジオキセタン。
【請求項3】
該部分Xが、ハロゲン、塩素、非クロロアルコキシ、アリールオキシ、トリアルキルアンモニウム、アルキルアミド、アリールアミド、アリールカルバモイル、アルキルカルバモイル、シアノ、ニトロ、エステル、アルキルスルホンアミド、アリールスルホンアミド、トリホリルメチル、アリール、アルキル、トリアルキル、トリアリールシリル、アルキルアリールシリル、アルキルアミドスルホニル、アリールアミドスルホニル、アルキルスルホニル、アリールスルホニル、アルキルチオエーテルおよびアリールチオエーテルからなる群より独立に選ばれる電子活性置換基1〜3個で置換されている、請求項1記載のジオキセタン。
【請求項4】
アルキル部分またはアリール部分が、それぞれ炭素原子を1〜12個含む、請求項3記載のジオキセタン。
【請求項5】
Rが、リン、窒素、硫黄および酸素からなる群より選ばれるヘテロ原子を1〜2個含有する、アルキル、アリール、アラルキルまたはシクロアルキルを含む、請求項1記載のジオキセタン。
【請求項6】
Rが、ハロゲン置換基を少なくとも1個含有する、請求項1記載のジオキセタン。
【請求項7】
試料中のノイラミニダーゼの存在を検出する方法であって、 請求項1記載の、酵素により切断可能な化学発光性1,2−ジオキセタンを、該試料と組み合わせて、反応混合物を形成させること;
該試料中に存在するノイラミニダーゼによる該部分Zの切断を保証するために充分な時間、該反応混合物をインキュベートすること;および
該組み合わせ工程の結果として生じた発光を検出し、その際、発光をノイラミニダーゼの存在の指標とすること
を含む方法。
【請求項8】
反応混合物が、化学発光エンハンサー化合物をさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
該発光検出工程の前に、該反応混合物に塩基を添加する、請求項7記載の方法。
【請求項10】
該エンハンサーが、水溶性のオニウムポリマー性塩である、請求項8記載の方法。
【請求項11】
該塩基が、発光を促進するために添加される、請求項8記載の方法。
【請求項12】
該発光が、照度計で測定される、請求項7記載の方法。
【請求項13】
発光の強度を該試料中のノイラミニダーゼの量の指標とする、請求項7記載の方法。
【請求項14】
試料中のノイラミニダーゼの存在を検出するための検定であって、
請求項1記載の、酵素により切断可能な化学発光性1,2−ジオキセタンを水性溶液中の試料と反応させ、反応混合物を形成させること;
該反応混合物をインキュベートすること;
光が放出されるか否かを決定するために、塩基およびエンハンサー化合物の存在下で該反応混合物をモニターし、その際、光の放出を該試料中のノイラミニダーゼの存在および/または量の指標とすること
を含む方法。
【請求項15】
該光が、照度計で測定される、請求項14記載の検定。
【請求項16】
試料中のノイラミニダーゼを検出するためのキットであって、
(1)請求項1記載の酵素により切断可能な化学発光性1,2−ジオキセタン;および
(2)該1,2−ジオキセタン化合物と該試料との混合物を、約5.5〜7.8のpHに維持する緩衝溶液
を含むキット。
【請求項17】
化学発光エンハンサー化合物を含む、請求項16記載のキット。
【請求項18】
該試料と該ジオキセタンとの混合物のpHを、該混合物のインキュベーション後に、該部分Zの切断に続く分解の際の該ジオキセタンの化学発光と一致する値に上昇させる塩基をさらに含む、請求項16記載のキット。
【請求項19】
Rが、水性調製物中のジオキセタンの溶解度を増強する基を少なくとも1個保持する、請求項1記載の化合物。
【請求項20】
Rが、水性調製物中のジオキセタン試薬の溶解度を増強する基を2個保持する、請求項19記載の化合物。
【請求項21】
Rが、カルボン酸部分を2個保持する、請求項19記載の化合物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−137035(P2011−137035A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−50149(P2011−50149)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【分割の表示】特願2000−582406(P2000−582406)の分割
【原出願日】平成11年11月17日(1999.11.17)
【出願人】(310009775)アプライド バイオシステムズ リミテッド ライアビリティー カンパニー (19)
【Fターム(参考)】