説明

ノズルチップ及び医療用吸引装置

【課題】さほど熟練を要さずに異物等を十分に吸引できる、ノズルチップを提供する。
【解決手段】医療用吸引装置の吸引チューブ先端に取り付け可能な管状のノズルチップ10は、ノズルチップ10の先端に管軸方向に対して所定の傾斜角度で傾斜した開口面を有する開口部12と、ノズルチップ10の先端位置Q1から基端側に向けて伸びるスリット13とを備えている。ノズルチップ10の管軸方向に沿った開口部12の長さをL1、ノズルチップ10の管軸方向に沿ったスリット13の長さをM1としたとき、L1≦M1の関係を満たすように構成されている。さらには、ノズルチップ10先端の開口面の傾斜角度をθとしたとき、30°≦θ≦60°の関係を満たすように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用吸引装置に用いられるノズルチップ、及び医療用吸引装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明に該当する医療用吸引装置として、例えば、気管支などにつまった唾液や痰等(以下、異物等という)を吸引して除去するために用いる喀痰吸引装置が挙げられる。この喀痰吸引装置は、自発的に呼吸できない患者の治療の際に使用される。
自発的に呼吸できない患者を治療する際、患者の気道を確保して酸素を供給するために、患者の口または喉に気管切開チューブを挿入することがある。自発的に呼吸できない患者は、自らの意志で手足を動かすことが出来ない。よって、患者の気管支に異物等がつまった場合、看護師が喀痰吸引装置を使い、異物等を吸引する措置がとられている。
この喀痰吸引装置は、主に吸引機と吸引チューブとノズルチップから構成されている。吸引機は吸引チューブを介してノズルチップと接続され、ノズルチップを気管切開チューブ内に挿入して異物等を吸引する。ノズルチップは管状になっており、先端にある吸引口より異物等を吸引可能に構成されている。なお、ノズルチップは、衛生上、使い捨てするために取り付け・取り外し可能になっていることが多い。
従来のノズルチップとして、特許文献1では、管状体の胴部表面に吸引調整孔を備えたノズルチップが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−150052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載のノズルチップでは、吸引調整孔を開口させたまま吸引を行うと、ノズルチップ先端での吸引を十分に行うことが出来ない。これは、吸引調整孔が吸引口よりも吸引機側にあるので、吸引調整孔から空気が入ってしまい、吸引口における吸引力が低下するからである。故に異物等を吸引する場合、吸引調整孔を塞ぐ必要がある。
【0005】
しかしながら、前記従来のノズルチップでは、異物等を吸引するために吸引調整孔を完全に塞ぐと、患者の気管支粘膜(以下、患者粘膜という)がノズルチップ先端に吸付いてしまう。その結果、ノズルチップ先端の吸引口が塞がれてしまい、異物等を吸引できなくなる場合がある。
このような理由から、患者粘膜の吸引口への吸付きを防ぎつつノズルチップ先端の異物等を十分に吸引するためには、試行錯誤しながら吸引調整孔の開口の度合いを調整しなければならず、吸引作業に熟練を要していた。
【0006】
本発明は、前記の課題を解決する為になされたもので、さほど熟練を要さずに異物等を十分に吸引できる、ノズルチップ及び医療用吸引装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[1]本発明のノズルチップは、
医療用吸引装置の吸引チューブ先端に取り付け可能な管状のノズルチップ(10)であって、
前記ノズルチップ(10)の先端には、
前記ノズルチップ(10)の管軸方向に対して所定の傾斜角度で傾斜した開口面を有する開口部(12)と、
前記ノズルチップ(10)の先端位置(Q1)から前記ノズルチップ(10)の基端側に向けて伸びるスリット(13)とが形成され、
前記管軸方向に沿った前記開口部(12)の長さをL1とし、
前記管軸方向に沿った前記スリット(13)の長さをM1としたとき、
「L1≦M1」の関係を満たすように構成されていることを特徴としている。
【0008】
本発明のノズルチップ(10)は、背景技術の欄に記載した従来のノズルチップと同様、主に吸引チューブを介して吸引機と接続して使用する。なお、本発明では吸引機側を基端、患者粘膜に対向する側を先端と定義する。
【0009】
ノズルチップ(10)に形成された開口部(12)は、ノズルチップ(10)の管軸方向に対して所定の角度で傾斜する開口面を有している。このように開口面を形成することで、ノズルチップ先端を患者粘膜に押し当てた時に、ノズルチップ(10)の外から内へ通じる空気の通路を確保することが出来るため、ノズルチップ先端が患者粘膜に吸付いてしまうのを防止することが出来る。また、傾斜した開口面にすることで、ノズルチップ先端が先細りの形状になるため、患者粘膜の狭い場所にもノズルチップ先端を押し当てることが出来る。
【0010】
スリット(13)は、ノズルチップ先端位置(Q1)から基端側に向かって伸びるよう形成されている。このように、ノズルチップ先端位置(Q1)からスリット(13)を形成すると、ノズルチップ先端をコントロールするだけで、スリット(13)を異物等に正確に接触させることができる。
ところで、唾液や痰などは、液体または液体に近い物質であるため表面張力の影響を受け易い。スリットの隙間では表面張力が働くため、ノズルチップ先端のスリット(13)に異物等が触れると、異物等はノズルチップ基端側に向かって吸い上げられるようにスリット(13)を移動してゆく。故に、ノズルチップ先端を異物等に接触させるだけで、異物等を吸い上げることが可能になる。
【0011】
本発明のノズルチップ(10)によれば、傾斜した開口面を有するとともに、ノズルチップ先端位置(Q1)からスリット(13)が形成されているため、患者粘膜の吸付きを防ぎつつ、異物等を吸い上げることができる。つまり、吸引調整孔による吸引力調整を要さずとも異物等を吸い上げることができる。
【0012】
ここで、ノズルチップがL1>M1になるよう形成されていると、吸引した異物等がスリット基端側に溜り、吸引できなくなる場合がある。
一方、本発明のノズルチップ(10)では、L1≦M1になるよう形成されているため、異物等がスリット基端側に溜まらずにそのまま吸引される。つまり、吸い上げた異物等を逃さずに吸引することが出来る。
【0013】
このように本発明のノズルチップ(10)を使うと、患者粘膜の吸付きを防ぎながらノズルチップ先端の異物等を吸い上げることができ、さらに一度吸い上げた異物等を逃さずに吸引することが出来る。よって、吸引力調整のための熟練を要すことなく、ノズルチップ先端の異物等を十分に吸引することが可能になる。
【0014】
なお、スリット(13)の形状は直線状に限定されず、例えば曲線状であっても波線状であっても、表面張力による液体の移動効果が得られるのであれば、形状は問わない。スリット幅は0.1mm以下が望ましいが、これは0.1mm以下の幅であると表面張力による液体移動の効果をより得やすいからである。
ノズルチップ(10)の素材としては、樹脂や金属などを用いることが出来る。樹脂材料としては塩化ビニールやシリコン樹脂等の軟質樹脂を好ましく用いることが出来る。
【0015】
[2]前記[1]に記載のノズルチップ(10)においては、前記開口面の前記傾斜角度をθとしたとき、「30°≦θ≦60°」であることが好ましい。
【0016】
開口面の傾斜角度θが30°未満であれば、ノズルチップ先端は著しく尖った形状となり、外部からの押圧力により折れ曲がり易い。ノズルチップ先端が折れ曲がってしまうと、吸引作業が困難になる。
一方、開口面の傾斜角度θが60°より大きいと、開口面はノズルチップの管軸方向に対して垂直に近い角度になる。通常、ノズルチップを気管切開チューブ内に挿入する際、ノズルチップの管軸方向を患者粘膜表面に対して略垂直になるよう挿入することが多い。よって、開口面の傾斜角度θが60°よりも大きいと、開口面と患者粘膜の表面が、平行に近い位置関係になってしまう。その結果、開口部は患者粘膜によって塞がれ易くなってしまい、吸引作業が困難になる。
このように、開口面の傾斜角度θが30°未満または60°よりも大きいと、吸引作業が困難になる場合がある。故に、開口面の傾斜角度θを30°≦θ≦60°に形成することで、スリット(13)を異物等に正確に接触させることが容易で、開口部が患者粘膜によって塞がれにくい、吸引作業性の良いノズルチップ(10)となる。
【0017】
[3]本発明のノズルチップは、
医療用吸引装置の吸引チューブ先端に取り付け可能な管状のノズルチップ(20)であって、
前記ノズルチップ(20)の先端には、
V字状にカットされた部分であって、V字の谷が基端側に向いた形状をなす少なくとも一つのV字カット部(22)と、
前記ノズルチップ(20)の先端位置(Q2)から前記ノズルチップ(20)の基端側に向けて伸びる少なくとも一つのスリット(23)とが形成され、
前記ノズルチップ(20)の管軸方向に沿った、前記V字カット部(22)の長さをL2とし、
前記管軸方向に沿った前記スリット(23)の長さをM2としたとき、
「L2≦M2」の関係を満たすように構成されていることを特徴としている。
【0018】
本発明のノズルチップ(20)の先端には、V字カット部(22)とスリット(23)が形成されている。
V字カット部(22)は、V字の谷が基端側に向いた形状をなしている。このようにV字カット部(22)を形成することで、前記[1]に記載のノズルチップ(10)と同様、ノズルチップ(20)の外から内へ通じる空気の通路を確保することが出来るため、ノズルチップ先端が患者粘膜に吸付いてしまうのを防止することが出来る。
また、前記[1]に記載のノズルチップ(10)と同様に、スリット(23)はノズルチップ先端位置(Q2)から基端側に伸びるように形成されている。このように、スリット(23)が形成されているノズルチップ先端を、異物等に接触させるだけで、スリット(23)の表面張力によって異物等を吸い上げることが出来る。
【0019】
すなわち、本発明のノズルチップ(20)によれば、V字カット部(22)を有するとともに、ノズルチップ先端位置(Q2)からスリット(23)が形成されているため、患者粘膜の吸付きを防ぎつつ、異物等を吸い上げることができる。つまり、吸引調整孔による吸引力調整を要さずとも異物等を吸い上げることができる。
【0020】
また、本発明のノズルチップ(20)によれば、L2≦M2になるよう形成されているため、前記[1]に記載のノズルチップと同様、異物等がスリット基端側に溜まらずにそのまま吸引される。つまり、吸い上げた異物等を逃さずに吸引することが出来る。
【0021】
このように本発明のノズルチップ(20)を使うと、患者粘膜の吸付きを防ぎながらノズルチップ先端の異物等を吸い上げることができ、さらに一度吸い上げた異物等を逃さずに吸引することが出来る。よって、吸引力調整のための熟練を要すことなく、ノズルチップ先端の異物等を十分に吸引することが可能になる。
【0022】
なお、スリット(23)の形状は直線状に限定されず、例えば曲線状であっても波線状であっても、表面張力による液体の移動効果が得られるのであれば、形状は問わない。スリット幅は0.1mm以下が望ましいが、これは0.1mm以下の幅であると表面張力による液体移動の効果をより得やすいからである。
ノズルチップ(20)の素材としては、樹脂や金属などを用いることが出来る。樹脂材料としては塩化ビニールやシリコン樹脂等の軟質樹脂を好ましく用いることが出来る。
【0023】
[4]前記[1]から[3]のいずれか一項に記載のノズルチップにおいては、
前記スリット(13,23)の先端側端部のスリット幅をWとし、
前記スリット(13,23)の基端側端部のスリット幅をYとしたとき、
「W>Y」の関係を満たすように構成されていることが好ましい。
【0024】
幅が徐々に狭くなるスリットでは、スリット幅がより狭い方へと液体は移動してゆく。そのため、先端側のスリット幅よりも基端側のスリット幅を狭くすることで、スリット基端側への異物等の吸い上げを容易にすることが出来る。
【0025】
[5]本発明の医療用吸引装置(70)は、前記[1]から[4]のいずれか一項に記載のノズルチップ(10,20)を備えていることを特徴としている。
【0026】
前記した本発明のノズルチップ(10,20)を備えることにより、吸引力調整のための熟練を要すことなく、ノズルチップ先端の異物等を十分に吸引することが可能な、医療用吸引装置(70)となる。
【0027】
なお、特許請求の範囲及び本欄(課題を解決するための手段の欄)に記載した各部材等の文言下に括弧をもって付加された符号は、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容の理解を容易にするために用いられたものであって、特許請求の範囲及び本欄に記載された内容を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】実施形態1における、喀痰吸引装置70の概要図。
【図2】実施形態1における、ノズルチップ10の斜視図。
【図3】実施形態1におけるノズルチップ10の、スリット13と開口部12の管軸方向の長さの関係を示す部分拡大図。
【図4】実施形態1における、ノズルチップ10の開口面の傾斜角度θを示す部分拡大図。
【図5】実施形態1の変形例における、スリット13の先端側端部と基端側端部の関係を示す部分拡大図。
【図6】実施形態2における、ノズルチップ20の斜視図。
【図7】実施形態2における、スリット23とV字カット部22の管軸方向の長さの関係を示す部分拡大図。
【図8】実施形態1のノズルチップ10における、開口部縁の変形例を示す部分拡大図。
【図9】実施形態1のノズルチップ10における、開口面の変形例を示す部分拡大図。
【図10】実施形態1のノズルチップ10における、開口部に蓋を設けた変形例を示す図。
【図11】実施形態2における変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明のノズルチップおよび医療用吸引装置について、図に示す実施の形態に基づいて説明する。以下の説明においては、種々ある医療用吸引装置のうち喀痰吸引装置を例示して説明する。
なお、発明を理解し易くするため、各図面は実際の物品と異なった縮尺をもって描かれている。
【0030】
[実施形態1]
[喀痰吸引装置70]
図1は喀痰吸引装置70の概要図である。
実施形態1の喀痰吸引装置70は、吸引機60と吸引チューブ50とノズルチップ10から構成されている。吸引機60と吸引チューブ50を接続し、吸引チューブ50の先端にノズルチップ10を装着している。
[吸引機60]
吸引機60には、ポンプが内蔵または外部接続されている(図示せず)。このポンプの吸引力が吸引チューブ50を介してノズルチップ10に伝わることで、喀痰吸引装置70が異物等を吸引する。
真空ポンプやシリンジポンプ、チューブポンプなど、吸引力を発生させる効果があればポンプの種類は特に問わない。また吸引力を発生するものであれば、ベンチュリ効果を有するアスピレータなどをポンプの代わりに用いても良い。
[吸引チューブ50]
吸引チューブ50はゴムや塩化ビニールなどの軟質素材で形成された管状になっており、その先端でノズルチップ10と接続する。
吸引チューブ50の素材としては、先端に取り付けるノズルチップ10の操作性から軟質素材が好ましいが、管状を形成できるものであれば硬質樹脂や金属等であっても良い。
【0031】
[ノズルチップ10]
図2は、ノズルチップ10の斜視図である。
図3は、ノズルチップ10の、スリット13と開口部12の管軸方向の長さの関係を示す部分拡大図である。図3(a)は、ノズルチップ10の開口面12を手前側に向けた図であり、図3(b)は開口面12を奥側に向けた図である。
図4は、ノズルチップ10の開口面の傾斜角度θを示す部分拡大図である。
図5は、変形例であるノズルチップ10a、10bにおける、スリット13の先端側端部と基端側端部の関係を示す部分拡大図である。
【0032】
図2に示すとおり、ノズルチップ10は、管状をなしている。患者粘膜と接触するため、ノズルチップ10の素材としては、例えば塩化ビニールやシリコン樹脂などの軟質樹脂が好ましい。
ノズルチップ10の基端から先端までの長さは、例えば15cm〜25cmに設定される。ノズルチップ10の長さが15cmより短いと、吸引作業時に気管切開チューブの内まで吸引チューブ50の一部が入るため吸引作業が困難になるほか、吸引チューブ50表面に異物等が付着してしまう可能性がある。一方、ノズルチップ10の長さが25cmより長いと、ノズルチップ先端の微妙な位置コントロールが難しくなる。よって、ノズルチップ10の長さを15cm〜25cmに設定すると、ノズルチップ10の交換だけですむため、患者ごとに吸引チューブ50を洗浄する必要が無くなり、またノズルチップ先端の位置コントロールを容易に行なうことができる。故に、衛生性やメンテナンス性や操作性で優れたノズルチップになる。
ノズルチップ10の外径は、例えば4mm〜7mmに設定される。これはノズルチップ10を挿入する気管切開チューブ(図示せず)の内径が10mm〜13mm程度であるためである。ノズルチップの外径が7mmより大きいと、気管切開チューブに挿入しにくくなり、外径が4mmより小さいと、その細さから把持しにくくなる。故に、外径を4mm〜7mmに設定することで、気管切開チューブに挿入し易く、把持し易いノズルチップになる。
【0033】
ノズルチップ10は、その先端に開口部12を有し、ノズルチップ10の管軸方向11(図3、4にて一点鎖線で示す)に対して一定の傾斜角度θで傾斜する開口面を備えている。この傾斜角度θを、30°≦θ≦60°に形成する。
なお、開口面の傾斜角度θとは、図4に示すとおり、ノズルチップ10の管軸方向11と開口面とが形成する角度である。
【0034】
図3において、ノズルチップ10の先端位置Q1を通り管軸方向11に垂直な面をN1、開口面の縁において面N1から最も離れた点をP1、スリット13の最も基端側の点をR1とする。面N1から点P1までの距離が開口部12の管軸方向の長さL1であり、面N1から点R1までの距離がスリット13の管軸方向の長さM1である。
図3では、L1とM1の関係が図示されているが、この両者の関係は、L1<M1になっている。
【0035】
図3(b)に示すように、スリット13は、ノズルチップ10の先端位置Q1から基端側に向かって、管軸方向11と略平行に伸びるように形成されている。
スリット幅は、先端から基端に向かって徐々に縮小する形状になっている。言い換えれば、スリット13の先端の幅をW、基端の幅をYとすると、W>Yの関係になっている。
このW>Yの関係を満たすのであれば、図5(a)に示す変形例1のノズルチップ10aのように、基端の幅YがY>0であっても良いし、図5(b)に示す変形例2のノズルチップ10bのように、スリット幅が基端から先端付近の所定位置まで一定で、所定位置よりも先端側で拡大するような形状であっても良い。
【0036】
以上のように構成された実施形態1に係るノズルチップ10によれば、傾斜した開口面を有するとともに、ノズルチップ先端位置Q1からスリット13が形成されているため、患者粘膜の吸付きを防ぎつつ、異物等を吸い上げることができる。つまり、吸引調整孔による吸引力調整を要さずとも異物等を吸い上げることができる。
【0037】
また、実施形態1に係るノズルチップ10によれば、開口部12の管軸方向の長さL1と、スリット13の管軸方向の長さM1の関係が、L1≦M1になるよう形成されているため、異物等がスリット13の基端側に溜まらずにそのまま吸引される。つまり、吸い上げた異物等を逃さずに吸引することが出来る。
【0038】
実施形態1に係るノズルチップ10によれば、スリット13の先端の幅Wよりも基端の幅Yが狭くなっているため、スリット13の基端側への異物等の吸い上げを容易にすることが出来る。
【0039】
このように実施形態1に係るノズルチップ10を使うと、患者粘膜の吸付きを防ぎながらノズルチップ先端の異物等を吸い上げることができ、さらに一度吸い上げた異物等を逃さずに吸引することが出来る。よって、吸引力調整のための熟練を要すことなく、ノズルチップ先端の異物等を十分に吸引することが可能になる。
【0040】
実施形態1に係る喀痰吸引装置70は、前記のノズルチップ10を備えているため、吸引力調整のための熟練を要すことなく、ノズルチップ先端の異物等を十分に吸引することができる、優れた喀痰吸引装置となる。
【0041】
[実施形態2]
実施形態2におけるノズルチップ20は、基本的には実施形態1におけるノズルチップ10とよく似た構成を有するが、ノズルチップ先端の形状が、実施形態1のノズルチップ10とは異なる。
【0042】
[ノズルチップ20]
図6は、ノズルチップ20の斜視図である。
図7は、スリット23とV字カット部22の管軸方向の長さの関係を示す部分拡大図である。図7(a)はノズルチップ20のV字カット部22を手前側に向けた図であり、図7(b)はV字カット部22を側面に向けた図である。
【0043】
図6に示すとおり、実施形態2におけるノズルチップ20は管状をなしている。ノズルチップ20の素材やサイズおよび外径に関しては、実施形態1のノズルチップ10と同様であるため、ここでは説明を省略する。
実施形態2におけるノズルチップ20の先端には、V字カット部22とスリット23がそれぞれ1ヶ所ずつ存在する。このV字カット部22は、V字の谷が基端側に向いた形状をなしており、ノズルチップ20の外から内へ通じる空気の通路を確保できる。
【0044】
図7において、ノズルチップ20の先端位置Q2を通り管軸方向21(図7にて一点鎖線で示す)に垂直な面をN2、V字カット部22において面N2から最も離れた点をP2、スリット23の最も基端側の点をR2とする。面N2から点P2までの距離がV字カット部22の管軸方向の長さL2であり、面N2から点R2までの距離がスリット23の管軸方向の長さM2である。
図7では、L2とM2の関係が図示されているが、この両者の関係はL2<M2になっている。
【0045】
スリット23は、ノズルチップ20の先端位置Q2から基端側に向かって、管軸方向21と略平行に伸びるように形成されている。スリット23の幅および形状については、実施形態1のノズルチップ10と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0046】
また、実施形態2のノズルチップ20は、図6及び図7(b)に示すとおり、ノズルチップ20の先端が著しく尖っていない形状になっている。
【0047】
以上のように構成された実施形態2に係るノズルチップ20によれば、V字カット部22を有するとともに、ノズルチップ20の先端位置Q2からスリット23が形成されているため、患者粘膜の吸付きを防ぎつつ、異物等を吸い上げることができる。つまり、吸引調整孔による吸引力調整を要さずとも異物等を吸い上げることができる。
【0048】
また、実施形態2に係るノズルチップ20によれば、L2≦M2になるよう形成されているため、実施形態1のノズルチップ10と同様、異物等がスリット23の基端側に溜まらずにそのまま吸引される。つまり、吸い上げた異物等を逃さずに吸引することが出来る。
【0049】
このように実施形態2に係るノズルチップ20を使うと、患者粘膜の吸付きを防ぎながらノズルチップ先端の異物等を吸い上げることができ、さらに一度吸い上げた異物等を逃さずに吸引することが出来る。よって、吸引力調整のための熟練を要すことなく、ノズルチップ先端の異物等を十分に吸引することが可能になる。
【0050】
なお、前記実施形態は本発明の一具体例を例示したものにすぎない。本発明の範囲は前記実施形態に限られるものではなく、その技術思想の範囲内で種々の変形が可能である。
【0051】
(1)例えば吸引チューブを用いずに、ノズルチップ10,20を吸引機60に直接接続させることも可能である。この場合において、吸引機が握りこぶし程度の大きさだと、片手で吸引機を持つことでノズルチップ先端の位置操作も可能となるため、携帯性かつ操作性に優れた喀痰吸引装置になる。
【0052】
(2)前記実施形態1および2においては、ノズルチップ10,20の形状を略直線の管としているが、本発明はこれに限定されない。例えば「くの字」などの形状もありうる。この「くの字」型のノズルチップは、気管切開チューブにノズルチップの先端を挿入する際、ノズルチップの先端の挿入状態が見やすくなるという利点がある。
また図2および図6においては、ノズルチップ10,20の断面形状を円形としているが、本発明はこれに限定されない。例えば、三角形などの多角形からなる断面形状もありうる。
【0053】
(3)前記実施形態1および2においては、開口部12およびV字カット部22の縁が略円形になっているが、本発明はこれに限定されない。図8に示すように、縁に切込み14等を設けても良い。開口部12およびV字カット部22の縁に切込み14が入っているものは、開口部等が患者粘膜によって塞がれた時、切込み14によってノズルチップ10,20の外から内への空気の通路を確保することが出来る。その結果、患者粘膜との吸付きをさらに防ぐことができる。
なお切込み14の形状は、図8に示した形状に限定されない。
【0054】
(4)前記実施形態1および2においては、スリット13,23の形状が略直線となっているが、略曲線であっても波線であっても、表面張力による液体の移動効果が得られるのであれば、形状は問わない。
スリット13,23を表面張力を向上させるような形状にしたり、スリット13,23に表面張力を高める効果を持つ薬剤を塗布しても良い。スリット13,23付近のみ、表面張力の高い素材を使用することもありうる。このようにスリット13,23に表面張力を向上させる加工を施すことで、より効率よく吸引できるノズルチップ10,20となる。
【0055】
(5)前記実施形態1においては、開口面は略平面になっているが、本発明はこれに限定されない。例えば、図9(a)、図9(b)に示すような略曲面や、図9(c)に示すような波状面であっても良い。特に波状面の場合、患者粘膜表面が開口部12に接近しても、患者粘膜表面と開口部12の間に空気の流路を形成することが出来る。この結果、患者粘膜と開口部の吸付きをさらに防ぐことができる。
【0056】
(6)前記実施形態1においては、図10のように複数のブラインド状部材15を設けても良い。この場合、異物等を吸引する際に吸引の妨害にならない程度の隙間(ブラインド状部材15の配置間隔)を設ける。
【0057】
(7)前記実施形態2においては、スリット23は二つ以上であっても良い。V字カット部22についても同様で、二つ以上であっても良い。例えば図11のように、スリット23とV字カット部22をそれぞれ二つずつ有する形状も考えられる。
ノズルチップ20aはスリット23を二つ有するので、場合によってスリットを使い分けることができる。例えば、吸引する異物等の種類によって、スリットを使い分ける場合が挙げられる。
またノズルチップ20aはV字カット部22を二つ有するので、患者粘膜表面によって一つのV字カット部が塞がれた場合でも、他のV字カット部により空気の通路が確保できるため、患者粘膜の吸付きを効率的に防ぐことができる。
【0058】
(8)本発明の実施形態では喀痰吸引装置を用いて説明しているが、本発明の医療用吸引装置はこれに限定されない。喀痰吸引装置のほかにも、例えば歯科用の唾液吸引装置や、手術時に臓器からにじみ出る体液を吸引するような吸引装置等も含まれる。また、体液を遠心分離し沈殿した細胞を収集する体液処理装置等に付随した、医療用吸引装置にも利用可能である。
【符号の説明】
【0059】
10、10a、10b、10c、10d、10e、10f、10g、20、20a ノズルチップ
11、21 ノズルチップの管軸方向
12 開口部
13、23 スリット
14 切込み
15 ブラインド状部材
22 V字カット部
50 吸引チューブ
60 吸引機
70 喀痰吸引装置
L1 開口部の管軸方向の長さ
L2 V字カット部の管軸方向の長さ
M1、M2 スリットの管軸方向の長さ
N1、N2 ノズルチップ先端位置を通り、管軸方向に対して垂直な面
P1 開口部縁における、面N1から最も離れた点
P2 V字カット部における、面N2から最も離れた点
Q1、Q2 先端位置
R1、R2 スリットの最も基端側の点
Y スリットの基端側端部の幅
W スリットの先端側端部の幅
θ 開口面の傾斜角度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用吸引装置の吸引チューブ先端に取り付け可能な管状のノズルチップ(10)であって、
前記ノズルチップ(10)の先端には、
前記ノズルチップ(10)の管軸方向に対して所定の傾斜角度で傾斜した開口面を有する開口部(12)と、
前記ノズルチップ(10)の先端位置(Q1)から前記ノズルチップ(10)の基端側に向けて伸びるスリット(13)とが形成され、
前記管軸方向に沿った前記開口部(12)の長さをL1とし、
前記管軸方向に沿った前記スリット(13)の長さをM1としたとき、
「L1≦M1」の関係を満たすように構成されていることを特徴とするノズルチップ(10)。
【請求項2】
前記開口面の前記傾斜角度をθとしたとき、
「30°≦θ≦60°」であることを特徴とする請求項1に記載のノズルチップ(10)。
【請求項3】
医療用吸引装置の吸引チューブ先端に取り付け可能な管状のノズルチップ(20)であって、
前記ノズルチップ(20)の先端には、
V字状にカットされた部分であって、V字の谷が基端側に向いた形状をなす少なくとも一つのV字カット部(22)と、
前記ノズルチップ(20)の先端位置(Q2)から前記ノズルチップ(20)の基端側に向けて伸びる少なくとも一つのスリット(23)とが形成され、
前記ノズルチップ(20)の管軸方向に沿った、前記V字カット部(22)の長さをL2とし、
前記管軸方向に沿った前記スリット(23)の長さをM2としたとき、
「L2≦M2」の関係を満たすように構成されていることを特徴とするノズルチップ(20)。
【請求項4】
前記スリット(13,23)の先端側端部のスリット幅をWとし、
前記スリット(13,23)の基端側端部のスリット幅をYとしたとき、
「W>Y」の関係を満たすように構成されていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載のノズルチップ(10,20)。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載のノズルチップ(10,20)を備えたことを特徴とする医療用吸引装置(70)。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−264138(P2010−264138A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119297(P2009−119297)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000200035)川澄化学工業株式会社 (103)
【Fターム(参考)】