説明

ノーズ可動クロッシング構造

【課題】踏面形状が異なる車輪が走行する場合においても、可動ノーズクロッシングの乗り移り部において衝撃荷重による騒音や振動の発生を抑制する構造を得る。
【解決手段】一対の固定ウイングレール3,4と、各固定ウイングレール3,4にそれぞれ対向する各主レールを配設することで基準線側と分岐線側を形成し、前記各固定ウイングレール3,4間に位置する可動ノーズレール2により前記基準線側と分岐線側の転換を行う機構を備えたクロッシング構造において、前記各固定ウイングレール3,4の車輪乗り移り部におけるレール踏面について、各固定ウイングレール3,4に対応する主レールに対してそれぞれ反対側に位置する固定ウイングレール3,4の頭面を切削することで、可動ノーズレール幅に応じて可動ノーズレール2の先端側が広くなるように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道線路で使用される分岐器内のクロッシング構造に関し、特に、ノーズレールが可動する機能を有するノーズ可動クロッシング構造において、異なった踏面形状を有する車輪が走行する場合の騒音及び振動発生の抑制を図る構造に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路の分岐器100は、図6に示すように、右基本レール101,左基本レール102,右主レール103,左主レール104,右トングレール105,左トングレール106,右リードレール107,左リードレール108を敷設して基準線に対して分岐線が分岐される構造であり、基準線と分岐線との交差部分にクロッシングレール110が使用され、クロッシングレールに対向する位置の各主レール内側にガードレール109がそれぞれ設けられている。前記クロッシングレール110は、全てのレールを固定式とした固定クロッシング構造と、一部のレールを転換に応じて可動式とした可動クロッシング構造とに大別される。
【0003】
固定クロッシング構造は、図7に示すように、右ウイングレール111と左ウイングレール112とを対向して配置固定し、後端側のウイングレール間にノーズレール113を配置固定して構成されている。各ウイングレール間、各ウイングレールとノーズレール間には間隔材114が配置され、各レールは一定の間隔で固定されている。
【0004】
上記固定クロッシング構造によれば、その構造上、車輪が走行するウイングレールとノーズレールとの間に軌間線欠線部が生じるため、次の(a)〜(c)に示すような欠点がある。
(a)異線進入防止用のガードレール109(図6)を必要とし、また、ガードレール109に対して背面横圧が発生するので、列車通過速度が制限される。
(b)ウイングレール111,112とノーズレール113の間の車輪乗り移りの際、乗り移り衝撃が発生し、この部分に長時間の使用によって落ち込み損耗を引き起こす。
(c)ウイングレール111,112またはノーズレール113に落ち込み損耗が生じると、列車通過時に列車の動揺及び騒音と振動が発生する。
【0005】
一方、軌道を走行する車輪には、図8に示すような、基本踏面を有する車輪X(図8(a))、修正円弧踏面を有する車輪Y(図8(b))、擬似フランジ踏面を有する車輪Z(図8(c))が存在する。
【0006】
図9のような固定クロッシングに対して、図8(a)の基本踏面形状を有する車輪Xが背向で走行する場合、クロッシングの乗り移り部のA―A断面(図10(a))の状態からB−B断面(図10(b))の状態を経て、C−C断面(図10(c))へと走行しながらノーズレール113よりウイングレール112に下り段走行となる。
図8(b)の修正踏面形状を有する車輪Yが走行する場合、クロッシングの乗り移り部のA―A断面(図11(a))の状態からB−B断面(図11(b))の状態を経て、C−C断面(図11(c))へと走行しながらノーズレール113よりウイングレール112に上がり段走行となる。
図8(c)の擬似フランジ踏面形状を有する車輪Zが走行する場合、クロッシングの乗り移り部のA―A断面(図12(a))の状態からB−B断面(図12(b))の状態を経て、C−C断面(図12(c))へと走行しながらノーズレール113よりウイングレール112に上がり段走行となる。
【0007】
すなわち、クロッシングの踏面勾配と異なった踏面形状を有する車輪がクロッシング上を走行すると、車輪乗り移り部で上り段・下り段走行を車輪毎に繰り返すことから、衝撃荷重による騒音・振動が発生し、踏面に損傷の発生を誘発する要因となる。
【0008】
騒音及び振動の発生の抑制を目的として開発された可動クロッシング構造は、一部のレールを転換に応じて可動式とし、上述した軌間線欠線部を無くすことにより、ウイングレールとノーズレールの間の車輪乗り移りが円滑となり、長時間使用しても車輪の落ち込みによる損耗を引き起こさない構造としている。
【0009】
可動クロッシング構造は、例えば図13に示すように、ノーズレールとウイングレールとの欠線部を無くすため、可動ノーズレール113が各ウイングレール111,112に転換密着する構造となっている。可動ノーズレール113は、その先端下部にレールに交差する方向に転てつ棒115が連結されており、その転換動作により可動ノーズレール113の位置が変化するようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、鉄道の高速化及び鉄道沿線の環境対策面及び乗り心地向上面から、鉄道線路において低騒音及び低振動の列車動揺を抑制できる敷設構造が要求されている。可動クロッシング構造は、固定クロッシング構造に比較して騒音及び振動の発生は少ないが、図8で示したような複数の異なる車輪踏面形状の車輪が走行する在来線では、低騒音、低振動の効果が十分に発揮されないという問題があった。
【0011】
すなわち、在来線において可動クロッシングを敷設した場合、基本踏面を有する車輪X(図8(a))、修正円弧踏面を有する車輪Y(図8(b))、擬似フランジ踏面を有する車輪Z(図8(c))がそれぞれ可動クロッシングを走行するので、図10〜図12で説明した固定クロッシングの場合と同様に、車輪の形状の違いにより車輪の乗り移り部で上り段・下り段走行が車輪毎に繰り返して行われ、衝撃荷重による騒音及び振動が依然として発生し、また、クロッシングの耐用年数を縮める要因となる。
【0012】
本発明は上記実情に鑑みて提案されたもので、ノーズレールが可動する可動ノーズクロッシング構造において、踏面形状が異なる車輪が走行する場合においても、可動ノーズクロッシングの乗り移り部において衝撃荷重による騒音や振動の発生を抑制する構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため本発明は、一対の固定ウイングレールと、各固定ウイングレールにそれぞれ対向する各主レールを配設することで基準線側と分岐線側を形成し、前記ウイングレール間に位置する可動ノーズレールにより前記基準線側と分岐線側の転換を行う機構を備えたクロッシング構造において、次の構成を含むことを特徴としている。
前記各固定ウイングレールと前記可動ノーズレールとの相互で車輪が乗り移る際の各固定ウイングレールの車輪乗り移り部におけるレール踏面について、前記各固定ウイングレールに対応する主レールに対してそれぞれ反対側に位置する固定ウイングレールの頭面を可動ノーズレールの先端側が狭くなるように長手方向に斜めに切削することで、固定ウイングレールの踏面が前記可動ノーズレール幅に反比例するように先端側を広く形成する。
【0014】
請求項2は、請求項1のノーズ可動クロッシング構造において、前記可動ノーズレールに、その長手方向の中心に沿った頂線部を形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、各固定ウイングレールの車輪乗り移り部におけるレール踏面について、前記各固定ウイングレールに対応する主レールに対してそれぞれ反対側に位置する固定ウイングレールの踏面を前記可動ノーズレール幅に反比例するように可動ノーズレールの先端側が広くなるように頭面を長手方向に斜めに切削することで、踏面形状が異なる車輪が走行する場合に、この部分が車輪に当接することを防ぐことで、上がり段走行及び下り段走行の繰り返しを防止し、騒音及び振動の発生を抑制することを可能とした。
また、可動ノーズレールに頂線部を設けることで、車輪の踏面に対して確実に線接触させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のノーズ可動クロッシング構造の概略構成を示す平面説明図である。
【図2】本発明のノーズ可動クロッシング構造の要部構成を示す平面説明図である。
【図3】(a)(b)は基本踏面形状を有する車輪が可動クロッシングを乗り移る場合の断面説明図である。
【図4】(a)(b)は修正円弧踏面形状を有する車輪が可動クロッシングを乗り移る場合の断面説明図である。
【図5】(a)(b)は疑似フランジ踏面形状を有する車輪が可動クロッシングを乗り移る場合の断面説明図である。
【図6】分岐器の構成を示す平面説明図である。
【図7】固定クロッシング構造の平面説明図である。
【図8】(a)〜(c)は踏面形状が異なる車輪が軌道を走行する場合の断面説明図である。
【図9】固定クロッシング構造の平面説明図である。
【図10】(a)〜(c)は基本踏面形状を有する車輪が固定クロッシングを乗り移る場合の断面説明図である。
【図11】(a)〜(c)は修正円弧踏面形状を有する車輪が固定クロッシングを乗り移る場合の断面説明図である。
【図12】(a)〜(c)は疑似フランジ踏面形状を有する車輪が固定クロッシングを乗り移る場合の断面説明図である。
【図13】ノーズ可動クロッシング構造の要部を示す平面構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態の一例としてのノーズ可動クロッシング構造について、図1及び図2を参照しながら説明する。図中、図6と同様の構成を取る部分については同一符号を付している。
【0018】
ノーズ可動クロッシング構造は、図1に示すように、一端が転てつ棒1に連結される可動ノーズレール2と、右側の固定ウイングレール3及び左側の固定ウイングレール4と、各固定ウイングレールに対向する右主レール103及び左主レール104をそれぞれ床板(図示せず)上に設置して構成されている。
すなわち、ノーズ可動クロッシング構造は、一対の固定ウイングレール3,4と、各固定ウイングレールにそれぞれ対向する各主レール104,103を配設することで基準線側と分岐線側を形成し、固定ウイングレール間に位置する可動ノーズレール2により基準線側と分岐線側の転換を行う機構を備えている。
可動ノーズレール2は、転てつ棒1の操作により、先細となる先端部2aが固定ウイングレール3又は固定ウイングレール4に密着することで欠線部が無くなるようになっている。
【0019】
本発明の特徴的な構成は、クロッシングにおける車輪の乗り移り部での固定ウイングレール3及び固定ウイングレール4の断面形状にある。
すなわち、固定ウイングレール4と可動ノーズレール2との相互で車輪が乗り移る際の各固定ウイングレールの車輪乗り移り部におけるレール踏面について、固定ウイングレール4に対応する主レール103に対して反対側に位置する固定ウイングレール4の切削頭面部4a(図2における斜線部分)を対応する可動ノーズレール2の頭部幅に応じて可動ノーズレール2の先端側が狭くなるように長手方向に斜めに切削することで、固定ウイングレール4の踏面が可動ノーズレール2の頭部幅に反比例するように先端側を広く形成している。
すなわち、図2において、(イ)〜(ロ)部分は、固定ウイングレール4の踏面を可動ノーズレール2の頭部幅に反比例するように左側(先端側)が広くなり、(ハ)〜(二)部分は、固定ウイングレール4の頭面を可動ノーズレール2の頭部幅に応じて左側(先端側)が狭くなるように長手方向に斜めに切削して構成する。
同様に、固定ウイングレール3と可動ノーズレール2との相互で車輪が乗り移る際の固定ウイングレール3の車輪乗り移り部におけるレール踏面について、固定ウイングレール3に対応する主レール104に対して反対側に位置する固定ウイングレール3の切削頭面部3a(図2における斜線部分)を対応する可動ノーズレール2の頭部幅に応じて可動ノーズレール2の先端側が狭くなるように長手方向に斜めに切削することで、固定ウイングレール3の踏面が可動ノーズレール2の頭部幅に反比例するように先端側を広く形成している。
【0020】
すなわち、図2の固定ウイングレール4の乗り移り部においては、切削踏面部4aを図の上方側が低くなるように、且つ 右側の切削面の幅が広くなるように長手方向に斜めに切削する。
同様に、固定ウイングレール3の乗り移り部においては、切削踏面部3aを図の下方側が低くなるように、且つ 右側の切削面の幅が広くなるように長手方向に斜めに切削する。
【0021】
また、可動ノーズレール2には、乗り移り部において、長手方向の中心に沿うように頂線部2cを形成する。この頂線部2cは、可動ノーズレール2を固定ウイングレール4及び固定ウイングレール3に密着させ(基準線側、分岐線側を形成)、踏面を指示勾配に切削することで形成される。
【0022】
上述のように構成することで、列車が背向走行により進入するに際して、基本踏面形状を有する車輪X(図8(a))が走行する場合、クロッシングの乗り移り部のE―E断面(図3(a))の可動ノーズレール2からF−F断面(図3(b))の箇所で固定ウイングレール4に乗り移る。
【0023】
また、修正踏面形状を有する車輪Y(図8(b))が走行する場合、クロッシングの乗り移り部のE―E断面(図4(a))の可動ノーズレール2からF−F断面(図4(b))の箇所で固定ウイングレール4に乗り移る。
【0024】
擬似フランジ踏面形状を有する車輪Z(図8(c))が走行する場合、クロッシングの乗り移り部のE―E断面(図5(a))の可動ノーズレール2からF−F断面(図5(b))の箇所で固定ウイングレール4に乗り移る。
【0025】
図3〜図5から解るように、固定ウイングレール4の頭部の左側部分(図2に平面図における斜線部4a)が切削されることで、この部分が踏面形状の異なる各車輪と接触することを防止できる。
また、可動ノーズレール2に頂線部2cを形成することで、車輪と可動ノーズレール2とを面接触させることができる。
【0026】
対向走行時の乗り移りは、F−F断面からE−E断面へ車輪が乗り移ることになるが、レール踏面と車輪踏面との接触状態は背向走行と同様となる。
また、可動ノーズレール2が転換されて固定ウイングレール3側に接触した場合についても、背向及び対向走行時におけるレール踏面と車輪踏面との接触状態は図3〜図5と同様となる。
【0027】
上述したクロッシング構造によれば、クロッシングの踏面勾配と異なった踏面形状の車輪がクロッシング上を走行する場合であっても、ウイングレールの乗り移り部の踏面幅を斜めに切削することで、車輪乗り移り部で上り段・下り段走行することなくスムーズに、ノーズレール及びウイングレールへ乗り移ることができ、衝撃荷重による騒音、振動が発生を抑制することで、一般軌道と同等な騒音・振動を維持することが可能となる。
【符号の説明】
【0028】
1…転てつ棒、 2…可動ノーズレール、 2a…先端部、 2b…側面部、 2c…頂線部、 3…固定ウイングレール、 3a…切削頭面部、 4…固定ウイングレール、 4a…切削頭面部、 103…右主レール、 104…左主レール、 110…クロッシングレール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の固定ウイングレールと、各固定ウイングレールにそれぞれ対向する各主レールを配設することで基準線側と分岐線側を形成し、前記ウイングレール間に位置する可動ノーズレールにより前記基準線側と分岐線側の転換を行う機構を備えたクロッシング構造において、
前記各固定ウイングレールと前記可動ノーズレールとの相互で車輪が乗り移る際の各固定ウイングレールの車輪乗り移り部におけるレール踏面について、
前記各固定ウイングレールに対応する主レールに対してそれぞれ反対側に位置する固定ウイングレールの頭面を可動ノーズレールの先端側が狭くなるように長手方向に斜めに切削することで、固定ウイングレールの踏面が前記可動ノーズレール幅に反比例するように先端側を広く形成して成る
ことを特徴とするノーズ可動クロッシング構造。
【請求項2】
前記可動ノーズレールに、その長手方向の中心に沿った頂線部を形成した請求項1に記載のノーズ可動クロッシング構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−7017(P2011−7017A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154405(P2009−154405)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(391023725)株式会社峰製作所 (10)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)