説明

ハイブリドーマの作成方法、ハイブリドーマおよび抗体の生産方法

【課題】新規なヘモグロビンA1cに反応性を有するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ作成方法、ハイブリドーマ、および抗体生産方法に関する。免疫原性の高い抗原を使用したハイブリドーマ作成方法を提供する。
【解決手段】多価抗原ペプチドを糖化して免疫原に使用することを特徴とする、ヘモグロビンA1cに結合性を有する抗体産生ハイブリドーマの作成方法。糖化に用いる多価抗原ペプチドとして、例えば式(I)に示すような構造を含む多価抗原ペプチドを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化した多抗原性ペプチド(Multiple Antigen Peptide:以下 MAP)を免疫原に用いたハイブリドーマの作成方法、ハイブリドーマおよび抗体に関する。更に詳しくは、糖化ヘモグロビンに結合性を有する抗体産生ハイブリドーマの作成方法、ハイブリドーマおよび抗体の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、糖化蛋白、特に糖化ヒトヘモグロビンに対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの取得方法について、糖化されたヒトヘモグロビンA1cを免疫原とする技術が知られていた(例えば、特許文献1参照)。
しかし、かかる従来技術ではヒトヘモグロビンA1cの特徴である糖化されたベータ鎖N末端側以外に反応性を有する抗体も得られる。非常に数多くのクローンの中から所望の抗体を分泌する細胞を選抜しなければならず、スクリーニングに労力がかかるという問題点があった。
一方、かかる特異的な抗体が得られにくい、作業が労働集約的であるという問題点を解消すべく、ペプチド合成によりヒトヘモグロビンベータ鎖のN末端側の配列を有するペプチドを得たのち、グルコースと反応させて糖化し、その後キャリア蛋白質に結合させた合成抗原を免疫原に用いるという発明がなされた(例えば、特許文献2参照)。
しかし、かかる発明は特異性という点では改良されたものの、実際に下記参考例で示すようにペプチド抗原を合成しキャリア蛋白に結合させ免疫するも、免疫動物の抗体価の上昇が認められず、ハイブリドーマを得るための次のステップである細胞融合作業に進むことができなかった。依然として抗体が得られにくいという問題点があった。
また、キャリア蛋白に結合させることなく、抗原部位を含む多価抗原ペプチドを合成し、免疫原として使用する技術が知られていたが、糖化したペプチドに対する抗体作成に使用した例は知られていなかった。(例えば、非特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−280571
【特許文献2】特許3801133号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】James P. Tam, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85、 p5409−5413, 1988
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、抗体価上昇に優れた免疫原を用いてヘモグロビンA1cに反応性を有する抗体を産生するハイブリドーマの取得方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示す手段により、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、以下の構成からなる。
(1)多価抗原ペプチドを糖化して免疫原に使用することを特徴とする、ヘモグロビンA1cに結合性を有する抗体産生ハイブリドーマの作成方法。
(2)糖化に用いる多価抗原ペプチドとして、式I(式中のXは配列番号1のペプチドを示す)で示される構造を含むペプチドを合成して使用することを特徴とする、(1)記載の抗体産生ハイブリドーマの作成方法。
【0007】
【化1】

【0008】
(3)(1)記載の方法で作成されたハイブリドーマ。
(4)(2)記載の方法で作成されたハイブリドーマ。
(5)FERM P−21819で寄託されている(3)記載のハイブリドーマ。
(6)(5)記載のハイブリドーマを使用することを特徴とする抗体生産方法
(7)(5)記載のハイブリドーマによって生産される、ヘモグロビンA1cに結合性を有する抗体
【発明の効果】
【0009】
本発明により、抗原免疫で抗体価上昇が認められ、最終的にヘモグロビンA1cに対するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを得ることができた。得られたハイブリドーマは寄託されており、同ハイブリドーマからヘモグロビンA1cに対する抗体を容易に得ることもできる。またMAPを使用するため、従来法で必要であったペプチド糖化反応後のキャリア蛋白結合作業を省略でき、抗原調製ステップの簡略化も図れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は実施例6で示した本願発明のハイブリドーマから得られたモノクローナル抗体を用いた免疫比濁反応で、ヘモグロビンA1c添加量それぞれでの620nm吸光度タイムコースを15秒間隔の測定ポイントで記録した測定したグラフである。測定ポイント10ポイント目に第二試薬を加えている。
【図2】図2は実施例7で示した本願発明のハイブリドーマから得られたモノクローナル抗体を用いたヘモグロビンA1c測定エライザを行なったときの検量線グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳述する。
【0012】
本発明のハイブリドーマの作成方法では、ヒトヘモグロビンβ鎖N末端配列部分ペプチドとリジンを使った架橋体を含む多価抗原ペプチド(MAP)を糖化して用いる。
【0013】
多価抗原ペプチド(MAP)の合成は、公知のペプチド合成法で行なうことができ、例えばTamの方法が挙げられる(James P. Tam, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85、 p5409−5413, 1988 )。架橋体は、例えばβアラニンを固定した樹脂にリジン(Lysine)をステップワイズに反応結合させることにより目的とする架橋体を調製することができる。すなわち、βアラニンにリジンひとつの結合体は2量体の架橋体として、さらにリジンを反応させて得られるリジン3個結合体は4量体の架橋体として、さらにリジンを反応させて得られるリジン7個の結合体は8量体の架橋体として使用することができる。架橋体の分岐数は2以上であればとくに制限されないが、実用性の点から2〜8が好ましく、さらに好ましくは8である。これら架橋体に目的とするヒトヘモグロビンβ鎖N末端配列部分ペプチドの構成アミノ酸を通常の方法により順次反応結合させることによりMAPを合成することができる。
本発明記載のヒトヘモグロビンβ鎖N末端配列部分ペプチドとは、N末端にバリンを有しかつ該バリンから連続する3つ以上の公知のヒトヘモグロビンβ鎖部分アミノ酸配列を含む。好ましくはN末端のバリン以外にはアミノ基が含まない配列を選択する。例えばN末端のバリンから7アミノ酸を含む配列番号1が挙げられる。またヒトヘモグロビンβ鎖N末端配列部分ペプチドと架橋体の間にスペーサーとなる分子を結合させてもよい。スペーサーに関して特に限定しないが例えば6−アミノカプロン酸やグリシン(Glycine)などが挙げられる。このような多価抗原ペプチド(以下、MAP)の例として例えば式I(式中のXは配列番号1のペプチドを示す)に示した構造を含むペプチドが挙げられる。
【0014】
【化1】

【0015】
多価抗原ペプチド(MAP)の糖化は、グルコースとMAPとを溶液中で接触・反応させ、グルコースとMAPとの間の反応生成物のアマドリ転移により行なわれる。糖化は多価抗原ペプチド(MAP)上の未反応のアミノ基が検出されない程度まで行なうことが望ましいが、免疫原として使用するには部分的な糖化が確認できれば使用することができる。糖化反応後の糖化MAPは精製してもよい。精製方法として、公知の方法を使用することができる。例えば電荷の違いを利用して陽イオン交換樹脂を使用して未反応のペプチドと糖化MAPを分離する方法や分子サイズの違いを利用してゲル濾過や限外濾過膜を使用して未反応のグルコースと糖化MAPを分離する方法が挙げられる。
【0016】
本発明におけるハイブリドーマ抗体の作成方法は、糖化した多価抗原ペプチド(MAP)を使って公知の方法により免疫動物に免疫を行い、公知の方法により免疫細胞を取得した後、公知の方法によりミエローマと細胞融合実施し、公知の方法により融合細胞と非融合細胞との選択実施し、公知の方法により目的の抗体を産生する細胞のスクリーニング・クローニングを実施する。
【0017】
本発明のモノクローナル抗体およびハイブリドーマは上述の免疫原で免疫を行った後、公知のモノクローナル抗体作成法で作成することができる。例えば、単クローン抗体実験マニュアル 富田朔ニ・安東民衛/編 講談社サイエンティフィク 1987年、免疫研究法ハンドブック 藤原大美・淀井淳司/編 中外医学社 1996年、組織培養の技術[第3版]応用編 日本組織培養学会/編 朝倉書店 1999年、特開2008−92802記載内容に従い、作製することができる。抗体はIgM,IgGのいずれでもよいが、公知の蛋白分解酵素や遺伝子組み換え技術を用いて低分子化、例えばFabフラグメント、F(ab‘)2フラグメント、一本鎖Fvフラグメントなどにして使用することもできる。
【0018】
動物の免疫に使用する被免疫動物としては、公知のハイブリドーマ作製法に用いられる哺乳動物を使用することができる。例えばマウスの場合には、BALB/c メス 4〜12週令を用いることができる。
【0019】
動物の免疫は、上述の免疫原を動物の皮内、腹腔内、筋肉内または投与することによって行うことができる。投与スケジュールは被免疫動物の種類、個体差により異なるが、一般には、抗原投与回数2〜6回、投与間隔1〜2週間が好ましい。また抗原の投与量は動物の種類、個体差等により異なる。一般には10―100μg/匹・回程度といわれているが、投与量を変えて免疫を実施し血清中や血漿中抗体価の最も高い被免疫動物を選択することもできる。投与する際はアジュバントとよばれる免疫活性化物質と共に投与してもよい。たとえばアジュバントとして、フロイント完全アジュバンド、フロイント不完全アジュバント、CpG DNA,ムラミルジペプジド、リポポリサッカライドなどが挙げられる。
【0020】
細胞融合に際して、生体内免疫の場合では上記の抗原投与スケジュールの最終免疫日から1〜5日後に被免疫動物から抗体産生細胞を含む脾臓細胞またはリンパ細胞を無菌的に取り出す。これらの脾臓細胞またはリンパ細胞からの抗体産生細胞の分離は、公知の方法に従って行うことができる。
【0021】
細胞融合には上記の抗体産生細胞とミエローマ細胞を用いる。このミエローマ細胞には特段の制限はなく、公知の細胞株から適宜に選択して用いることができる。ただし、融合細胞からハイブリドーマを選択する際の利便性を考慮して、その選択手続きが確立しているHGPRT(Hypoxanthine−guanine phosphoribosyl transferase)欠損株を用いるのが好ましい。すなわち、マウス由来のX63−Ag8(X63),NS1−Ag4/1(NS−1),P3X63−Ag8.U1(P3U1),X63−Ag8.653(X63.653),SP2/0−Ag14(SP2/0),F0等などである。
【0022】
抗体産生細胞とミエローマ細胞との融合は、公知の方法に従い、細胞の生存率を極度に低下させない程度の条件で適宜実施することができる。そのような方法は、例えば、ポリエチレングリコールなどの高濃度ポリマー溶液中で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合する化学的方法、電気的刺激を利用する物理的方法などを用いることができる。
【0023】
融合細胞と非融合細胞の選択は、例えば、公知のHAT(ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン)選択法により行うのが好ましい。HAT培地や後述のクローニングなど細胞培養に使用する培地は、公知のものを使用すればよく、例えばRPMI1640、DMEM、eRDF、IMDMなどが使用できる。同時に動物血清や増殖因子、コンディションドメディウム、抗生物質等、蛋白質などを添加してもよいが、限界希釈などでクローニングを行う場合はこれらを組み合わせて添加することが好ましい。細胞を培養する温度は細胞が増殖する温度であればよいが例えば37℃でおこなうことができる。培地中に炭酸水素ナトリウムを加える場合には炭酸ガス存在下例えば培地中のpHが中性となる炭酸ガス5%乃至10%(v/v)で培養するのが好ましい。
【0024】
目的とするモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞のスクリーニングは、公知の抗体スクリーニング方法が使用でき、例えば酵素免疫検定法(EIA:Enzyme Immunoassay)、凝集法、セルソーター等により行うことができる。ヘモグロビンA1cに対する抗体をEIAでスクリーニングするのであれば例えばヘモグロビンA1cを含むヘモグロビン試料、ヒトヘモグロビンβ鎖N末端部分をグルコースで糖化した合成ペプチドや、免疫に使用した糖化MAPを固定化した担体を用いて、得られた細胞培養上清に含まれるヘモグロビンA1c結合活性を有する抗体の有無を検知することにより、所望の抗体を産生する細胞をスクリーングすることができる。スクリーニングの際は1種類の固定化物質から得られた反応性データで判断してもよいが、好ましくは各種固定化物質での反応性データを複数取得して、ヘモグロビンA1c特異的な抗体の有無を総合的に判断することが望ましい。例えば、ウマヘモグロビンはヒトヘモグロビンβ鎖N末端側部分配列と異なっていることが知られており、ヒトヘモグロビンA1cに結合性を有していてもウマヘモグロビンと反応性ある場合はヒトヘモグロビンA1c特異的な抗体ではないと考えて除外することができる。また例えば、ペプチド合成により得られたヒトヘモグロビンβ鎖N末端側部分配列の糖化有無による結合性の違いを比較することによって、糖化されたペプチドに特異的に反応する抗体の有無を検知することもできる。
【0025】
スクリーニングにより選択されたハイブリドーマ細胞は、公知の方法によりクローニングし、抗体産生に用いる。
【0026】
以上の通りの方法によって得たハイブリドーマ細胞は、液体窒素中または−80℃以下の冷凍庫中に凍結状態で保存することができる。細胞凍結時の細胞濃度は1x106/ml乃至1x107/mlの範囲が好ましく、凍結時安定化剤として培地に5乃至10%(v/v)ジメチルスルホキシドを添加してもよいし、市販の細胞凍結保存剤を用いて凍結保存してもよい。
【0027】
本発明のハイブリドーマは上記方法により得られたハイブリドーマである。本発明により得られたハイブリドーマの例として例えばヘモグロビンA1cに反応する抗体を産生するクローン0031は独立行政法人産業総合研究所特許生物寄託センターにFERM P−21819で寄託されている。
【0028】
本発明の抗体生産方法は上記の方法で作製したハイブリドーマ細胞を給源として用いる。公知の方法、例えば 動物細胞大量培養と有用物質生産 大石道夫監修 株式会社シーエムシー 1986年 記載の方法を用いて培養・精製することによって所望のモノクローナル抗体を得ることができる。特に限定されないが、例えばBALB/cAマウスに免疫しBALB/cA由来のミエローマと細胞融合したハイブリドーマであれば、あらかじめプリスタン等の鉱物油を投与した同系統マウスの腹腔に該細胞を移植すると1乃至3週間でモノクローナル抗体を含んだ腹水が得られる。また例えばハイブリドーマを培地中で培養するとハイブリドーマからモノクローナル抗体が分泌され、該抗体を含んだ培養上清が得られる。必要に応じて該抗体を含んだ腹水や培養上清は公知の抗体精製手法でより純度の高いモノクローナル抗体を得ることができる。培養時に使用する培地は血清を含まない市販の無血清培地、無血清無蛋白培地を使用するとさらに純度の高いモノクローナル抗体を得ることができる。
【0029】
細胞培養は培地中で細胞増殖に適した温度、炭酸ガス濃度、溶存酸素濃度環境下で行なう。特に限定されないが、例えば37℃5%(v/v)炭酸ガス濃度に設定されたインキュベーター内でのTフラスコで静置培養させる。また例えば滅菌されたポリエチレン製バッグ内に無菌的に5%(v/v)炭酸ガスを通気しながら37℃揺動培養させることもできる。培地には必要により公知の抗生物質・抗真菌剤、糖質、脂質やアミノ酸を追加することができる。抗生物質・抗真菌剤であれば例えば、硫酸ゲンタマイシン、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンフォテリシンBを細胞生育に影響しない程度添加することができる。糖質であれば例えば、グルコース、マルトースを添加することができる。アミノ酸であれば、例えばL−グルタミンを添加することができる。L−グルタミンは培養液中で不安定であるため例えば初期値として8mM添加しておくこともできるが、溶液中で安定なグルタミン誘導体であるL−グリシル−L−グルタミン、L−アラニル−L−グルタミンを代替あるいは追加で添加してもよい。添加のタイミングは培養開始する前でもよいが、例えばL−グルタミンやグルコースのように培養途中に分解・消費される成分などは培養途中に添加することもできるし、これら栄養源の混合物である培地自体を培養途中で添加してもよい。結果としてハイブリドーマ培養環境の良好化、培養期間の長期化、さらには培養液中の抗体分泌量を高めることが期待できる。ハイブリドーマ作成時と異なる培地を適用して細胞培養抗体生産を行う場合は、同培地に予め馴化させたハイブリドーマを使用することが好ましい。例えば同培地に直接ハイブリドーマをけん濁し、遠心分離操作により細胞と培地を分離、次いで同培地で比較的高い細胞濃度0.5乃至1x106/mlとなるよう再けん濁し、倍加速度と生存率など細胞の状況を観察しながら培養を繰り返す。直接同培地に馴化できない場合は従来の培地から混合比を段階的に上げながら行うこともできる。
【0030】
また本発明の抗体生産方法は上述のハイブリドーマで発現している抗体をコードする遺伝子あるいは結合活性を有する蛋白部分をコードする遺伝子断片を公知の技術で取得し、公知の遺伝子組換え技術により発現ベクターを組み込んだ形質転換体を培養することにより所望の抗体を得ることができる。また免疫後の脾臓細胞やリンパ細胞に含まれるヘモグロビンA1c特異的抗体産生細胞から得られる抗体遺伝子または遺伝子断片を利用してもよい。抗体生産により抗体が形質転換体内に蓄積される場合は公知の方法により形質転換体を回収し破砕することにより抗体を含んだ破砕液が得られる。抗体生産により形質転換体を培養した培地中に抗体が分泌される場合には形質転換体培養により該抗体を含んだ培養上清が得られる。必要に応じて該抗体を含んだ破砕液や培養上清は公知の抗体精製方法でより純度の高い抗体を得ることができる。
【0031】
抗体精製方法として例えば、硫安塩析、限外濾過膜濃縮、カラムクロマトグラフィーが挙げられる。カラムクロマトグラフィーに使用できる樹脂担体として、例えば陰イオン交換樹脂、プロテインAやプロテインG、プロテインL、糖化ペプチド化合物が結合されたアフィニティクロマトグラフィー樹脂、ハイドロキシアパタイト樹脂、リガンドとして例えば4−メルカプト−エチル−ピリジン、フェニル基などの結合した疎水クロマトグラフィー樹脂、架橋デキストラン樹脂やアガロース樹脂など分子量で樹脂内移動度の異なることを利用したゲルろ過担体などが挙げられる。これら精製操作を行う前にモノクローナル抗体のサブタイプを調べておき適切な精製手段を選択することが望ましい。例えば分泌されるモノクローナル抗体がIgMであれば、プロテインAクロマトグラフィーの適用難しいことから、限外濾過膜濃縮、硫安塩析、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過などの精製方法の中から要求品質と経済性とを勘案し手法選択して精製を行う。精製後の抗体は透析などの方法でpH中性でかつ適切な塩濃度を有する緩衝液にバッファー交換を行うことが好ましく、pH中性の緩衝液として例えば生理的食塩濃度のリン酸緩衝液(PBS(−))や生理的食塩濃度のトリス緩衝液(TBS)を用いることができる。本緩衝液のpHは5.5〜8.5、塩濃度として50mMから300mMの間が好ましい。
【0032】
このようにして得られたモノクローナル抗体は溶液状態や凍結状態で保存することができる。液状で保存する場合は防腐剤を添加したり、0.22μmメッシュの滅菌メンブランフィルターなどで無菌ろ過後滅菌容器中に保存することが好ましい。防腐剤は特に限定されないが、例えば0.05%(W/V)アジ化ナトリウムを添加することができる。容器の滅菌方法は公知の方法で実施すればよく、例えばγ線照射滅菌、UV照射滅菌、オートクレーブ滅菌、エチレンオキサイドガス滅菌などが挙げられる。保存容器は保存中抗体と反応しない不活性な素材を使用したものが使用でき、例えば、ガラス、ポリエチレン、ポリプロピレンである。抗体の結合活性を損なわない方法であれば保存容器表面に吸着しないよう表面加工を行った容器を使用してもよい。液状での保存温度は凍結しない温度であればよいが、蛋白変性を抑えるためできるだけ低温であることが好ましく、より好ましくは2乃至10℃である。また凍結を防止することのできる濃度で凍結防止剤を添加するとさらに低温で保存することもでき、例えば終濃度50%のグリセロールを添加すると−20℃でも凍結することなく液状で保存することができる。凍結状態で保存する場合は−20℃以下、より好ましくは−30℃以下で保存することが好ましい。保存時の抗体濃度は沈殿を生じない濃度で設定することができるが、好ましくは0.1乃至5mg/mlである。また安定化剤として蛋白質、水溶性ポリマー高分子、界面活性剤、糖類、糖アルコール、アミノ酸を添加することもできる。
【実施例】
【0033】
以下にヘモグロビンA1cに対する抗体を産生するハイブリドーマの作成実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0034】
実施例1 糖化MAPの合成
βアラニンからリジン7個で作製される8量体架橋体骨格に6−アミノカプロン酸を介しヒトヘモグロビンβ鎖N末端配列7アミノ酸(配列番号1)からなるペプチド7個を、Fmoc法にて化学合成導入し、MAPを得た。
MAP 15mg、D−グルコース5mgをピリジンと酢酸を1:1混合液2.2mlに溶解し、遮光密栓した容器に入れ、室温で1週間糖化反応させた。薄層クロマトグラフィー分析を行い、糖化反応前のMAPで認められたニンヒドリン反応が糖化反応後はほとんど認められず、また硫酸加熱により同スポット位置着色することから、MAPのアミノ基が糖化されたと判断し、反応を終了させた。反応液を減圧乾燥後、PBSで再溶解し、同緩衝液で平衡化されたPD10(GEヘルスケアバイオサイエンス)で脱塩を行い、糖化MAPを得た。
【0035】
実施例2 糖化MAPを免疫原とした免疫
糖化MAPを1mg/mlとなるよう注射用生理食塩水にて希釈し抗原液を調製した。抗原液0.2ml分を等量のコンプリートフロイントアジュバント(DIFCO LABORATORIES社製)と混合してエマルジョン化し、マウス(Balb/cA 、5週令、メス、日本クレア)の腹腔に1匹あたりエマルジョン100μL注入し、初回免疫を行った。さらにおよそ2週間間隔で4回、糖化MAPを同様に希釈して抗原液を調製し、インコンプリートアジュバント(DIFCO LABORATORIES社製)と抗原液を等量混合・エマルジョン化し、同様に同マウスに再度免疫を施した。5回目の免疫翌週に採血を行い、抗体価測定試料とした。
【0036】
比較例1 糖化ペプチドの合成および糖化ペプチド結合KLHの調製
ペプチド合成によりヒトヘモグロビンβ鎖N末端配列7アミノ酸のC末端にシステインを付加した配列番号2記載のペプチドを得た。同ペプチド10mg、D−グルコース10mgをピリジンと酢酸を1:1混合液2.2mlに溶解し、遮光密栓した容器に入れ、室温で1週間糖化反応させた。薄層クロマトグラフィー分析によりペプチドの糖化を確認した後、反応液を減圧乾燥させ、1mM EDTAを含むPBS緩衝液で再溶解した。Reduce−Imm Immobilized Reductant Columns(PIERCE社)を用い、ペプチドのシステイン残基に含まれるSH基を還元したのち、活性化マレイミド基を有するキャリア蛋白である Imject Maleimide Activated mcKLH(PIERCE社)6mgと混合し室温で2時間反応させ、次いでPBS緩衝液で平衡化されたPD10カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス)で脱塩を行い、糖化ペプチド結合KLHを得た。
【0037】
比較例2 糖化ペプチド結合KLHを免疫原とした免疫
糖化ペプチド結合KLHを1mg/mlとなるよう注射用生理食塩水にて希釈し抗原液を調製した。抗原液0.2ml分を等量のコンプリートフロイントアジュバント(DIFCO LABORATORIES社製)と混合してエマルジョン化し、マウス(Balb/cA 、5週令、メス、日本クレア)の腹腔に1匹あたりエマルジョン100μL注入し、初回免疫を行った。さらにおよそ2週間間隔で4回、糖化ペプチド結合KLHを同様に希釈して抗原液を調製し、インコンプリートアジュバント(DIFCO LABORATORIES社製)と抗原液を等量混合・エマルジョン化し、同様に同マウスに再度免疫を施した。5回目の免疫翌週に採血を行い、抗体価測定試料とした。
【0038】
実施例3 抗血清反応性の比較
実施例2に示した糖化MAPで免疫を行ったマウス4個体と、比較例2に示した糖化ペプチド結合KLHで免疫を行ったマウス4個体、計8個体の抗血清での抗体価測定を行った。
ヒトヘモグロビンA1cを10%含むヘモグロビン試料(シスメックス社製)を10μg/mlになるようPBSで希釈し、96穴エライザプレート(住友ベークライト社製)に室温1時間接触させ固定化した(ヒトヘモグロビンA1c含有試料固相)。次いで固定化溶液を廃棄後、1%BSAを含むPBSでブロッキングを行った。0.1%(v/v)ツイーン20を含むPBSで洗浄後、0.1%(w/v)BSAを含むPBSで希釈した抗血清希釈サンプル50uLと室温で1時間反応させた。0.1%(v/v)ツイーン20を含むPBSで洗浄後、0.1%(w/v)BSAを含むPBSで2000倍希釈した西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗マウスイムノグロブリン抗体(ダコサイトメーション社製)と室温で1時間反応させた。0.1%(v/v)ツイーン20を含むPBSで洗浄後、テトラメチルベンジジンを含む発色液(ダコサイトメーション社製)50μLを室温10分反応させた後1N硫酸50μLと混合して反応停止させ、プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。対照としてヒトヘモグロビン(シグマアルドリッチ社製)を同様に固定化したエライザプレート(ヒトヘモグロビン固相)でも同様に測定を行った。
糖化ペプチド結合KLHで免疫したマウス個体ではほとんど抗体価上昇見られなかったが、糖化MAPを抗原として免疫したマウス個体でヘモグロビンA1c特異的シグナルが高く、比較例に比べ免疫応答が高い結果が得られた。抗血清4000倍希釈試料を測定したときのヒトヘモグロビン固相で得られた吸光度に対するヒトヘモグロビンA1c含有試料固相での吸光度の比(OD比)を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例4 抗ヘモグロビンA1c抗体産生ハイブリドーマの作成
(1)細胞融合
実施例3の結果からもっとも反応性の高かったマウス個体1を選択し、細胞融合を実施した。最終免疫の4日後、同マウスに麻酔処置を行い、ひきつづき同マウス頚椎脱臼後、脾臓を無菌的に摘出して脾臓細胞を調製(3.8x108個)した。一方、骨髄腫細胞Sp2/0−Ag14を10%(v/v)牛胎児血清を含むe−RDF培地(極東製薬)で37℃5%炭酸ガス濃度下拡大培養を行い、次いで血清成分を含まないe−RDF培地に細胞けん濁した。このようにして得られたSp2/0−Ag14 7.5×107個と上述の脾臓細胞とを50ml容量の遠心管中にて混合し、200×g 10分遠心分離を行い、上清廃棄、チューブごとタッピングして細胞塊をほぐし、37℃環境下で50%ポリエチレングリコール1500液(ロシュ社)を1ml添加し細胞と混合、次いでe−RDF培地を1ml、3ml、10mlの順に添加した。200×g 10分遠心分離後、そのまま37℃で5分間放置し、その後上清を廃棄した。パスツールピペットを使って牛胎児血清7.5mlに融合細胞を縣濁し、うち4ml分を選択培養培地(100×HATサプリメント(GIBCO社)1/100容とCondimedH1(ロシュ社)1/10容、牛胎児血清1/10容を含むe−RDF培地)240mlに縣濁、ふたつき96穴浮遊細胞培養用プレート(住友ベークライト社製)20枚に120μlづつ各ウェルに無菌的に分注した。37℃5%(v/v)炭酸ガス条件下でHAT選択培養を行った。融合から10日後目視でコロニーが認められ、ハイブリドーマの出現を確認した。
(2)抗体産生ハイブリドーマのELISAによるスクリーニング
選択培養後の各ウェル培養上清30μlに0.1%(W/V)BSAを含むPBS緩衝液150μlを加えた希釈液を試料として用い、ヘモグロビンA1c固定化エライザプレートに対する反応性を指標とした一次スクリーニングを実施した。
ヘモグロビンA1c固定化エライザプレートは以下のようにして作成した。ヘモグロビンA1c10%含有するヘモグロビン試料(シスメックス社製)をPBS緩衝液で10μg/mlに希釈後、1ウェルあたりヘモグロビン希釈液50μlを96穴エライザプレート(住友ベークライト社製)に分注した後25℃2時間放置して固定化した。次いで液を廃棄後、0.1%(W/V)ツイーン20を含むPBS緩衝液を各ウェルに0.3ml分注・廃棄を3回繰り返して洗浄を行った後、1%(W/V)ウシ血清アルブミンを含むPBS緩衝液0.3mlを各ウェルに分注して1時間25℃で放置しブロッキングを行った。
次いで液を除去し洗浄後、選択培養上清50μLを分注し、25℃でヘモグロビンA1c固定化プレートと反応させた。液を除去し洗浄後、0.1%(W/V)ウシ血清アルブミンを含むPBS緩衝液にて2000倍に希釈して調整したペルオキシダーゼ標識ウサギ抗マウスイムノグロブリン抗体(ダコサイトメーション社製)50μlを分注し25℃1時間プレートと反応させた。液を除去し洗浄後、テトラメチルベンチジンを含む発色液(ダコサイトメーション社製)を各ウェル50μL分注し25℃で10分酵素反応させ、1N硫酸50μL分注して反応停止させ、プレートリーダーにて450nmの吸光度を測定した。
ウェル番号0031で着色が確認され強い反応性が認められた。さらに上記1次スクリーニングと同様の方法で、免疫原として使用した糖化MAPを固定化した96穴エライザプレートと、糖化を行なっていないMAPを固定化した96穴エライザプレート、さらにウマヘモグロビンを固定化した96穴エライザプレートとでそれぞれウェル番号0031の培養上清希釈試料の反応性を調べたところ、糖化MAPで反応性を示すがMAPやウマヘモグロビンで反応性を示さなかった。これらの結果から、本ウェルを選抜し、引き続きクローニングを実施することにした。
(3)ハイブリドーマのクローニング
限界希釈法によりクローニングを実施した。すなわちスクリーニングで選抜した各選択培養ウェルの細胞を100個となるよう無菌的にサンプリングし、それぞれクローニング培地(CondimedH1(ロシュ社)1/10容、牛胎児血清1/10容を含むe−RDF培地)20mlに対し、最終3個/mlになるよう縣濁し、ふたつき96穴浮遊細胞培養用プレート(住友ベークライト社製)各1枚96ウェルに200μlづつ無菌的に分注した。37℃5%(v/v)炭酸ガス条件下で10日間培養を行った。各ウェルのクローニング培養後上清30μlをサンプリングし、0.1%(w/v)BSAを含むPBS緩衝液150μlで希釈してELISA試料とし、1次スクリーニングと同様にELISAを実施し、反応性が認められた培養上清をサンプリングしたウェルから1ウェル選抜し1次クローニング後のハイブリドーマ0031を得た。本細胞を牛胎児血清1/10容を含むe−RDF培地にて拡大培養したのち、セルバンカー(十慈フィールド社製)に生細胞密度5x106個/mlとなるよう細胞を十分けん濁し、ガンマ線滅菌された1.8ml凍結チューブ(住友ベークライト社製)に該細胞けん濁液を1mlづつ分注し、密栓後−80℃フリーザーにて凍結保存した。なお、ハイブリドーマ0031は独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成21年6月18日 受託番号FERM P−21819として寄託されている。
【0041】
実施例5 クローン0031から得られる抗ヘモグロビンA1c抗体の精製
(1)0031培養上清の調製
液体窒素中で凍結保存されていたハイブリドーマ0031の入ったチューブを−80℃1時間保存後、37℃の温湯中ですばやく融解させた。それぞれ10%(v/v)牛胎児血清を含むe−RDF培地10mlの入った遠心管中に全量入れ、ピペット操作で細胞縣濁した。150×g 5分遠心し、上清を廃棄後、5mlの10%(v/v)牛胎児血清を含むe−RDF培地にピペット操作で細胞を浮遊させ、底面積25cm2浮遊細胞培養用フラスコにそれぞれ播種し37℃5%(v/v)炭酸ガス濃度下で培養した。2継代同培地で培養後、4mM L−アラニル−L−グルタミン、0.1%(w/v)プルロニックF−68を添加した、CD−Hybridoma Medium(インビトロジェン社)とe−RDF培地との等量混合培地で馴化を行い、馴化後さらに3継代同培地で培養した。その後培地15mlで細胞浮遊させ底面積75cm2浮遊細胞培養用フラスコに継代培養し、次いで培地45mlで細胞浮遊させ底面積225cm2浮遊細胞培養用フラスコに継代培養した。その後250mlエリンマイヤーフラスコ(コーニング社製)1本に培地80mlになるよう拡大し、20ml/分で5%(v/v)CO2ガス通気を行いながら37℃120rpmで旋回培養を開始した。最終250mlエリンマイヤーフラスコ6本まで培養スケールを拡大した後、1週間培養を維持し、培地中に抗体を十分分泌させた。なお培養途中で各フラスコにCD−Hybridoma Medium20ml追加1回、次いで80mMグルタミンを追加で添加したe−RDF培地10ml追加2回を行った。得られた細胞培養液を700×g 10分遠心分離し、ハイブリドーマ培養上清635mlを得た。
(2)モノクローナル抗体のサブタイピング
市販のイムノクロマトグラフィー法を使ったサブタイピング試薬(イソストリップ:ロシュ社)を使い、得られた培養上清をPBS緩衝液で10倍希釈した希釈液150μlを試料として分析した。ハイブリドーマ0031の培養上清に含まれるモノクローナル抗体のサブタイプはIgM κであった。
(3)0031精製抗体の調製
得られた培養上清は0.22μmフィルターでろ過を実施したのち、限外濾過膜ペリコンXLフィルター(分子量分画50Kダルトン用:日本ミリポア社製)にて濃縮を実施した。得られた抗体を含む濃縮液を一旦20%飽和度での硫酸アンモニウム塩析により不溶物を除去したのち、50%飽和度で硫酸アンモニウム塩析を行い、2段階目の塩析で得られた不溶物を遠心分離にて沈殿として回収した。得られた沈殿をPBS緩衝液9mlで再溶解し、0.05%(w/v)アジ化ナトリウムを含むPBS緩衝液1Lに対して透析を3回実施した。次いでガンマ線滅菌された0.22μmの低蛋白吸着メンブランフィルター(日本ミリポア社製)で0031精製抗体を濾過し、ガンマ線滅菌済プロピレン製15mlチューブ内で4℃保管した。
OD280nmの吸収により蛋白量を算出した結果、得られた0031精製抗体は70.2mgであった。またDTT還元処理した0031精製抗体をSDS−PAGE電気泳動しCBB染色後分析したところ、2つのバンドが検出された。分子量マーカー位置との比較から分子量2.5万と7.1万であり、それぞれκ鎖とμ鎖に対応する抗体由来の染色像と考えられた。
【0042】
実施例6 クローン0031から得られた抗ヘモグロビンA1c精製抗体を使った免疫比濁反応
(1)試薬調製
以下の試薬を調製した。
クローン0031から得られた精製抗体を1mg/mlになるよう、以下に示す組成の反応液で希釈し、第一試薬とした。また免疫原として使用した糖化MAPを60μg/mlになるよう反応液で希釈し、第二試薬とした。
反応液:20mM MOPS、0.15M 塩化ナトリウム、0.5%(w/v)Brij−35、3%(w/v)PEG6000、0.1%(w/v)アジ化ナトリウム pH6.5
(2)ヘモグロビンA1c含有試料の測定
76mg/dl ヘモグロビンA1cを含む市販HbA1cキャリブレータ(シスメックス社製)0,2,4,6,8μLを試料として、それぞれ第一試薬250μLと混合し、35℃5分放置した。96穴プレート(住友ベークライト社製)を用意し、第一試薬試料混合液を全量をそれぞれのウェルに移し、次いで第二試薬50μLを加えた。第二試薬添加前後での620nm吸光度経時変化をプレートリーダーで15秒間隔でモニターした。
第二試薬添加前と添加10分後との吸光度変化量を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
試料として添加したヘモグロビンA1c量増加に応じて、0031精製抗体と糖化MAPとの凝集が阻止され、620nmの吸光度変化(濁度)が小さくなった。本抗体は、既知濃度のヘモグロビンA1c試料を用いて検量線を作成することにより、ヘモグロビンA1cホモジニアス測定系適用可能と考えられた。
【0045】
実施例7 クローン0031から得られた抗ヘモグロビンA1c精製抗体を用いたエライザ法によるヘモグロビンA1c測定
(1)0031精製抗体のアルカリフォスファターゼ標識、標識抗体液の調製
クローン0031から得られた精製抗体0.2mgをアルカリフォスファターゼ標識キットNH2(同仁化学社製)にてアルカリフォスファターゼ標識を行い、200μlのアルカリフォスファターゼ標識抗ヘモグロビンA1c抗体を得た。0.7mg/mlブロッキングペプチドフラグメント(東洋紡製:BFP−301)、0.15M塩化ナトリウムを含む10mM トリス緩衝液で300倍希釈し、標識抗体液として使用した。
(2)試料前処理
希釈液として0.1M MES緩衝液 pH5.3を用いた。標準試料として、ウマヘモグロビン(シグマアルドリッチ社:HbA1c陰性試料として使用)、HbA1c5.0%キャリブレータと同10.7%キャリブレータ(シスメックス社製)をそれぞれを0.1mg/mlに希釈し、標準試料前処理液とした。また被験試料としてヘモグロビンA1c濃度未知のヒトヘモグロビン試料も同様に希釈し被験試料前処理液とした。
(3)エライザプレートを用いたヘモグロビンA1c測定
96穴エライザプレート(住友ベークライト製)各ウェルに50μl 各試料前処理液を分注し、室温で15分放置してエライザプレートに固定化した。液を廃棄後、0.1%(w/v)ツイーン20と0.15M塩化ナトリウムを含む10mM トリス緩衝液(以下 洗浄液)を各ウェル300μl分注3回洗浄を行い、次いで0.7mg/mlブロッキングペプチドフラグメント(東洋紡製:BFP−301)、0.15M塩化ナトリウムを含む10mM トリス緩衝液(以下 ブロッキング液)300μlを分注して室温15分放置しブロッキングを行なった。ブロッキング液を廃棄後、各ウェル洗浄液300μl分注3回の洗浄を行い、次いで標識抗体液50μlを分注し、室温15分放置して反応させた。標識抗体液を廃棄後、各ウェル洗浄液300μl分注3回の洗浄を行い、次いでアルカリフォスファターゼ基質液(BluePhos Microwell Phospatase Substrate System:KPL社製)50μlを分注し室温で15分反応させ、2.5%(w/v)EDTA溶液50μlで反応停止させて、プレートリーダーにて主波長620nm副波長450nmの吸光度を測定した。得られた吸光度を表3に示す。標準試料を検量線として被験試料中ヘモグロビンA1c濃度を求めたところ、4.5%と計算された。
【0046】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明により、今までマウスでは免疫原性低く得られにくかったヘモグロビンA1cに対するハイブリドーマを効率よく取得する方法が提供される。そのため免疫に使用するマウス匹数をより少なくできると考えられる。また確立したハイブリドーマから得られる抗体はエライザ法や免疫比濁法への適用も可能であることから種々抗体を利用したセンサー開発にも利用可能と考えられ、本発明は産業界に大きく寄与することが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多価抗原ペプチドを糖化して免疫原に使用することを特徴とする、ヘモグロビンA1cに結合性を有する抗体産生ハイブリドーマの作成方法。
【請求項2】
糖化に用いる多価抗原ペプチドとして、式I(式中のXは配列番号1のペプチドを示す)で示される構造を含むペプチドを合成して使用することを特徴とする、請求項1記載の抗体産生ハイブリドーマの作成方法。
【化1】

【請求項3】
請求項1記載の方法で作成されたハイブリドーマ。
【請求項4】
請求項2記載の方法で作成されたハイブリドーマ。
【請求項5】
FERM P−21819で寄託されている請求項3記載のハイブリドーマ。
【請求項6】
請求項5記載のハイブリドーマを使用することを特徴とする抗体生産方法。
【請求項7】
請求項5記載のハイブリドーマによって生産される、ヘモグロビンA1cに結合性を有する抗体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−50274(P2011−50274A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200217(P2009−200217)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】