説明

ハエの幼虫からなる傷治療のための薬剤を製造する方法及び前記方法により製造された薬剤

ハエの幼虫による傷の治療は、前記幼虫がバクテリオファージでコンタミネーションされることによって改善される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に記載のとおりの傷治療のための薬剤の製造方法、請求項6の上位概念に記載のとおりの傷治療のための薬剤並びに請求項9の上位概念に記載のとおりの傷を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハエの幼虫、特にハエ属のギンバエの幼虫は傷治癒を促進する作用を有することは公知である。この生きた幼虫から分泌される分泌物は、組織増殖を刺激し、死んだ組織及びかさぶたをタンパク質分解により液化し、特定の種類の細菌、例えば連鎖球菌及びブドウ球菌において殺菌作用を有する。生きた幼虫を傷治療のために使用することは、例えばドイツ連邦共和国特許第19901134号A1明細書に記載されている。
【0003】
さらに、ドイツ連邦共和国特許第19925996号A1明細書からは、ハエの卵又は幼虫を早期発育段階で生活環を中断する周囲環境にもたらすことにより幼虫の製造及び適用を容易にすることは公知である。幼虫の飼育はこの方法により民間企業で滅菌して実施することができる。活性段階で使用する前の早期発育段階の卵又は幼虫は、成長を抑制する環境中にもたらされかつその成長を抑制する条件化でパッケージングされる。この卵もしくは幼虫はこの状態で使用者にまで輸送され、製造者又は使用者の下でこの状態で長期間貯蔵される。適用の前に、この卵もしくは幼虫を生活環を続行する条件にもたらすことで、幼虫はその活性段階に達し、この幼虫を傷に適用することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の根底をなす課題は、幼虫を用いた傷治療の効果を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題は、本発明の場合に、請求項1に記載の傷治療のための薬剤の製造方法により、請求項6記載の傷治療のための薬剤によって、請求項9に記載のとおりの傷治療のための方法により解決される。
本発明の有利な実施態様は、引用形式請求項において記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の基本思想は、バクテリオファージの適用による幼虫を用いた治療を促進することにある。
バクテリオファージ(ファージとも言う)は、細菌を宿主細胞とするウイルスである。前記ファージは細菌内へ侵入し、細菌細胞内部で増殖する。この溶原性ファージは、細菌中で溶原性状態をもたらし、その状態で細菌は生存することができる。溶菌性ファージ又は溶原性ファージは、細菌細胞中で極めて急速に増殖し、前記細胞を破壊するため、前記ファージは引き続く溶菌のために放出される。溶菌性ファージが細菌感染の治療のために使用されることは公知である。この場合、標的細菌に対してできる限り高い毒性を有するファージを使用する必要がある。前記ファージは特に感染治療のために適している、それというのも前記ファージは頻繁に使用される広スペクトル抗生物質とは反対に、その高い特異性に基づき副作用がほとんど生じないためである。特に、前記ファージは抗生物質に対して多剤耐性を有する病原菌を死滅させることができる。この場合に、前記ファージが、その栄養素の蓄えが消耗されるまで、つまり標的細菌がもはや存在しなくなるまで指数的に極めて急速に増殖するのが有利である。ウイルスにとって典型的なように、前記ファージは次いで非生物的な休止状態(ビリオン)で生き続けることができ、新たに特異的な標的細胞との接触が前記ファージの複製を再び作動させるまでその休止状態で保持することができる。
【0007】
本発明は、幼虫とバクテリオファージとの相乗作用に基づく。
前記幼虫は移動することができかつ本発明の場合には、治療すべき傷領域に動くことのできないファージをもたらすファージ用の輸送媒体及びキャリアとして使用される。この場合、幼虫は有利に壊死組織が存在し、従って高い感染の危険性がある傷領域中で活性となることが重要である。従って、幼虫を用いてファージの局所的な意図された適用が可能となる。この場合、幼虫をファージでコンタミネーションすることは付加的に、前記ファージが傷の液体によって洗い流されることなくその作用を改善するという利点も有する。
【0008】
前記ファージは、壊死した組織及び感染した組織を取り囲むかさぶた又は他のバリアを取り除くことも、それを通り抜けることもできない。ここでも、本発明の場合に、幼虫がその鋭い口器及び環状突起及びその壊死溶解性分泌物を用いてかさぶた又はバリアを攻撃しかつ取り除き、前記ファージが高い効率で有効に機能することができるという利点が生じる。
【0009】
前記ファージはその増殖のために及びその作用効果のためにできる限り正確に維持される周囲温度、例えば37℃及び有利にアルカリ性の環境を必要とする。ここでも、本発明の場合に有利に、幼虫がその分泌物によってアルカリ性の傷環境を作りだしかつ前記幼虫の物質代謝により傷表面で温度上昇が生じるという相互作用が生じる。それにより、幼虫はファージの増殖のために最適な周囲条件を作り出す。
【0010】
幼虫分泌物の抗菌作用は、特定の病原体、特に連鎖球菌及びブドウ球菌に限定される。長期間の幼虫を用いた治療の場合に、従ってアルカリ性の傷の環境によって、グラム陰性病原体、例えばシュードモナス属及びプロテウス属による傷の重複感染の発生を引き起こしかねない。この単純な幼虫治療の問題を、幼虫を選択されたファージでコンタミネーションすることにより回避するか又は少なくとも著しく軽減することができる。幼虫分泌物の抗菌性及び殺菌性の作用スペクトルは、付加的なファージの適用により著しく拡張される。
【0011】
傷感染の最適な予防及び治療を達成するために、多様な駆除すべき細菌に応じて選択することができる特異的なファージによって広いスペクトルが提供されることが有利である。それにより、ファージに対する耐性の発生を抑制することも可能である。
【0012】
ファージの適切な適用のためにハエはできる限り滅菌で飼育することが重要であるため、有利にすでにハエの卵は十分に病原菌不含で得られる。この卵の段階からの幼虫の飼育は滅菌条件下で行われる。選択されたファージ種でのコンタミネーションは、すでに卵の段階で又は後続する幼虫の段階で実施することができる。前記ファージは標的細菌が存在しない限り、その非生物的なビリオン−休止状態にとどまるため、幼虫の飼育は早期の、例えば卵の段階でのコンタミネーションでも可能である。
【0013】
有利に、製造元の工場でハエの卵又は幼虫は極めて早期の発育段階で生活環を中断する周囲環境にもたらされる。このような環境は、例えば温度低下で、真空中で又は保護ガス雰囲気中で又は湿分の除去で生じさせることができる。この状態で、バクテリオファージでコンタミネーションされた卵又は幼虫は製造元の工場で貯蔵され、かつ使用者に輸送することができる。使用者側でも、前記幼虫を傷治療に適用するまでさらに貯蔵することができる。適用を計画する前に、この卵もしくは早期発育段階の幼虫をこの成長阻害環境から、幼虫の生活環を継続することができる周囲環境にもたらすため、前記幼虫は短期間にその活性期にまで成長することができ、この活性期において幼虫は傷に適用される。貯蔵及び輸送の際に、このファージは、治療的な適用のために必要なこの幼虫製品の無病原菌の維持を付加的に保証することができる。
【0014】
幼虫分泌物とバクテリオファージとのこの相乗作用は、幼虫分泌物とファージとを一緒に、傷表面に適用される傷用パッドにもたらすことによっても利用することもできる。この幼虫分泌物は、生きた幼虫から傷用パッドに分泌させることができるか、この幼虫から洗い落とすことにより得ることができるか又は幼虫から抽出することもできる。幼虫分泌物の壊死溶解作用、ファージ作用を阻害する細菌の分解、及び傷環境のアルカリ化作用は、この場合でももたらされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハエの卵から、治療すべき傷中に適用可能な幼虫を飼育する傷治療のための薬剤の製造方法において、前記幼虫をバクテリオファージでコンタミネーションさせ、前記の適用可能な幼虫をバクテリオファージのキャリアとすることを特徴とする、傷治療のための薬剤の製造方法。
【請求項2】
少なくとも卵の段階から幼虫の飼育を滅菌条件下でもしくは病原菌の少ない条件下で実施することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
卵の段階においてバクテリオファージでのコンタミネーションを実施することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
幼虫が傷治療用に活性になる前に、幼虫の発育段階でバクテリオファージでのコンタミネーションを実施することを特徴とする、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
卵又は早期の幼虫の段階の幼虫をバクテリオファージでコンタミネーションし、前記卵及び前記早期発育段階の幼虫を貯蔵及び/又は輸送のために、生活環を停止する周囲環境にもたらすことを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
治療すべき傷中に適用可能な、ハエの生きた幼虫を含有する傷治療のための薬剤において、前記幼虫がバクテリオファージでコンタミネーションされていることを特徴とする、傷治療のための薬剤。
【請求項7】
前記幼虫がバクテリオファージでコンタミネーションされる前に病原体不含にされていることを特徴とする、請求項6記載の薬剤。
【請求項8】
前記幼虫は卵の段階でもしくは早期の幼虫の段階でバクテリオファージでコンタミネーションされ、前記幼虫の生活環を阻害する周囲環境中に封入されていることを特徴とする、請求項6又は7記載の薬剤。
【請求項9】
ハエの幼虫、特にギンバエ属のハエの幼虫を生きたままで傷に適用する、ハエの幼虫を用いた傷治療のための方法において、前記幼虫がバクテリオファージでコンタミネーションされていて、かつ前記幼虫は前記バクテリオファージを傷中に輸送することを特徴とする、傷治療のための方法。
【請求項10】
傷中の幼虫が、バクテリオファージの増殖を支援するアルカリ性の傷環境及び高めた温度を作り出すことを特徴とする、請求項9記載の方法。
【請求項11】
幼虫が幼虫の分泌物によりかつ場合により幼虫の口器によってかさぶた及び細菌を遮断する保護層を分解することを特徴とする、請求項9又は10記載の方法。
【請求項12】
ハエの幼虫の分泌物を傷用パッドに適用する、傷治療用の薬剤の製造方法において、前記傷用パッドにバクテリオファージを適用することを特徴とする、傷治療用の薬剤の製造方法。
【請求項13】
幼虫の分泌物を含浸させた傷用パッドを有する傷治療用の薬剤において、前記傷用パッドがバクテリオファージを含有することを特徴とする、傷治療用の薬剤。
【請求項14】
ハエの幼虫の分泌物を用いた傷治療のための方法において、前記分泌物にバクテリオファージを混合することを特徴とする、傷治療のための方法。

【公表番号】特表2007−505058(P2007−505058A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525670(P2006−525670)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【国際出願番号】PCT/EP2004/009244
【国際公開番号】WO2005/027943
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(501041942)フライシュマン,ウィルヘルム (4)
【Fターム(参考)】