説明

ハットチャンネル部材のプレス成形方法

【課題】金型の剛性低下や作製工数増加を起こさず、強度低下を防止でき、縦壁部のそりや頭部コーナーの角度不良が発生し難いハットチャンネル部材のプレス成形方法を提供する。
【解決手段】金属板を、ハット型断面形状を有し、ハット頭部の長手方向の長さLのハットチャンネル部材に絞り成形する際に、ハット頭部の長手方向に沿って長さLを超えて隔てられた二箇所の位置に、ハット頭部の幅方向にわたって下記の式(1)を満足する高さDの凸部が形成されるように絞り成形後、凸部をトリムしてハット頭部の長手方向の長さをLにするハットチャンネル部材のプレス成形方法;D×(1/sinθ-1.1/tanθ) ≧ 0.05×L+0.1×S・・・(1)、θは凸部の傾斜部がハット頭部の水平部となす角度(°)、Sは凸部の傾斜部の始まる位置と最近のトリム位置までの距離を表し、かつ30°≦θ≦90°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板を用いたハットチャンネル部材のプレス成形方法、特に、寸法精度に優れたハットチャンネル部材のプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板などの金属板をプレス成形すると、離型後の成形品には弾性回復によりスプリングバックやねじれなどが起こり、所定の寸法精度が得られない、すなわち形状不良が発生することはよく知られている。
【0003】
近年、素材としての鋼板の高強度化が進んでいる自動車の車体部材では、こうした形状不良の問題がクローズアップされ、形状不良の発生し難い金属板のプレス成形方法がいくつか提案されている。なかでも、図1に示すようなハット型断面形状を有するハットチャンネル部材を絞り成形するときに発生する縦壁部のそりやハット頭部コーナーの角度不良への対策として、例えば、特許文献1には、天井部(ハット頭部)、縦壁部およびフランジ部よりなり、コの字型またはハの字型の断面形状にプレス成形されたハット型金属製部品(ハットチャンネル部材)であって、少なくとも縦壁部の一部に、プレス成形後の残留応力を緩和した幅10mm以下の穴を複数有するハット型金属製部品およびその製造方法が開示されている。また、特許文献2には、パンチとダイからなり、パンチ頭部近傍にダイ方向に伸びる凸部が設けられ、凸部―ダイ間のクリアランスと、凸部が設けられてないパンチ側壁部―ダイ間のクリアランスとが特定の関係を満たすように設定されたハットチャンネル部材用のプレス金型が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-778号公報
【特許文献2】特開2009-23000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のハット型金属製部品では、縦壁部に幅10mm以下の穴(空隙)を複数有するため強度低下を招くといった問題がある。また、特許文献2に記載のハットチャンネル部材用のプレス金型を用いた場合は、金型剛性の低下や金型作製工数の増加といった問題がある。
【0006】
本発明は、金型の剛性の低下や作製工数増加といった問題を起こさずに、強度低下を防止できるとともに、縦壁部のそりや頭部コーナーの角度不良が発生し難いハットチャンネル部材のプレス成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、ハットチャンネル部材のハット頭部の長手方向に沿って所定の長さを超えて隔てられた二箇所の位置に、ハット頭部の幅方向にわたって所定の高さの凸部が形成されるように絞り成形後、凸部をトリムして所定の長さにすることが効果的であることを見出した。
【0008】
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、金属板を、ハット型断面形状を有し、ハット頭部の長手方向の長さLのハットチャンネル部材に絞り成形する際に、前記ハット頭部の長手方向に沿って長さLを超えて隔てられた二箇所の位置に、前記ハット頭部の幅方向にわたって下記の式(1)を満足する高さDの凸部が形成されるように絞り成形後、該凸部をトリムして前記ハット頭部の長手方向の長さをLにすることを特徴とするハットチャンネル部材のプレス成形方法を提供する。
D×(1/sinθ-1.1/tanθ) ≧ 0.05×L+0.1×S・・・(1)
ここで、θは凸部の傾斜部がハット頭部の水平部となす角度(°)、Sは凸部の傾斜部の始まる位置と最近のトリム位置までの距離を表し、かつ30°≦θ≦90°である。
【0009】
本発明のプレス成形方法は、ハット型断面形状を有し、ハット頭部の長手方向に沿って長さLを超えて隔てられた二箇所の位置に、前記ハット頭部の幅方向にわたって上記の式(1)を満足する高さDの凸部が設けられたパンチを用いて絞り成形することにより実現可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明であるハットチャンネル部材のプレス成形方法により、金型の剛性の低下や作製工数増加といった問題を起こさずに、強度低下を防止できるとともに、縦壁部のそりや頭部コーナーの角度不良が発生し難いハットチャンネル部材を成形できるようになった。本発明のハットチャンネル部材のプレス成形方法は、自動車の車体部材の製造に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ハットチャンネル部材の一例を示す図である。
【図2】本発明のプレス成形方法の一例を模式的に示す図である。
【図3】図2(a)に示すトリム前のハットチャンネル部材の長手方向断面を示す図である。
【図4】本発明のプレス成形方法と従来法によって成形されたハットチャンネル部材の開き量Wを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図2に、本発明のプレス成形方法の一例を模式的に示す。
【0013】
まず、図2(a)に示すように、ハット頭部の長手方向に沿って目標とする長さLを超えて隔てられた二箇所の位置に、ハット頭部の幅方向にわたって、所定の高さDの凸部が形成されるように絞り成形する。このとき、高さDは、トリム前のハットチャンネル部材の長手方向断面を示した図3に定義した凸部の傾斜部がハット頭部の水平部となす角度θ(°)および凸部の傾斜部の始まる位置と最近のトリム位置までの距離Sとの間に、上記の式(1)の関係を満足する必要がある。ただし、30°≦θ≦90°である。
【0014】
このように長さLを超えた両端部に、ハット頭部の幅方向にわたって、上記の式(1)を満足した高さDの凸部を形成すると、凸部と凸部間の領域で肉余り状態が大きくなり、パンチ肩での外面側の引張応力と内面側の圧縮応力との差が小さくなる、すなわち曲げ応力が小さくなるので、成形後に縦壁部のそりや頭部コーナーの角度不良の発生を抑制できることになる。一方、高さDが上記の式(1)の関係を満足しないと、凸部と凸部間の領域で肉余り状態が十分に大きくならず、パンチ肩での曲げ応力を小さくできないので、縦壁部のそりや頭部コーナーの角度不良の発生を十分に抑制できなくなる。
【0015】
成形後は、所定の長さLになるように両端部の凸部をトリムすれば、図2(b)に示すような目標とする寸法精度のハットチャンネル部材が得られる。なお、パンチ肩での曲げ応力が小さいので、トリム時に縦壁部のそりや頭部コーナーの角度不良が発生することもない。
【0016】
こうした本発明の効果は、凸部の代わりに凹部を形成しても得られるが、その場合は凹部の深さDが上記の式(1)の関係を満足する必要がある。
【0017】
実際に、引張強度980MPa、板厚1.6mmの高強度鋼板を用いて、本発明のプレス成形方法と従来法によってハットチャンネル部材を製造し、ハットの開き量W を測定したところ、図4に示すように、本発明法ではWが小さく、より高い寸法精度が得られることがわかる。このとき、成形条件を揃えるため、縦壁部の板厚ひずみが同等となるようにしわ抑え力(BHF)を調整した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板を、ハット型断面形状を有し、ハット頭部の長手方向の長さLのハットチャンネル部材に絞り成形する際に、前記ハット頭部の長手方向に沿って長さLを超えて隔てられた二箇所の位置に、前記ハット頭部の幅方向にわたって下記の式(1)を満足する高さDの凸部が形成されるように絞り成形後、該凸部をトリムして前記ハット頭部の長手方向の長さをLにすることを特徴とするハットチャンネル部材のプレス成形方法;
D×(1/sinθ-1.1/tanθ) ≧ 0.05×L+0.1×S・・・(1)
ここで、θは凸部の傾斜部がハット頭部の水平部となす角度(°)、Sは凸部の傾斜部の始まる位置と最近のトリム位置までの距離を表し、かつ30°≦θ≦90°である。
【請求項2】
ハット型断面形状を有し、ハット頭部の長手方向に沿って長さLを超えて隔てられた二箇所の位置に、前記ハット頭部の幅方向にわたって下記の式(1)を満足する高さDの凸部が設けられたパンチを用いて絞り成形することを特徴とする請求項1に記載のハットチャンネル部材のプレス成形方法;
D×(1/sinθ-1.1/tanθ) ≧ 0.05×L+0.1×S・・・(1)
ここで、θは凸部の傾斜部がハット頭部の水平部となす角度(°)、Sは凸部の傾斜部の始まる位置と最近のトリム位置までの距離を表し、かつ30°≦θ≦90°である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−170994(P2012−170994A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36945(P2011−36945)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)