説明

ハニカム触媒体

【課題】ハニカム触媒体に熱が加えられた際に、触媒が活性化する温度まで素早く昇温するハニカム触媒体を提供する。
【解決手段】気孔率が50%以上で且つ隔壁断面における平均気孔径が20μm以上の筒状のハニカム構造体50と、SCR触媒60と、を備え、SCR触媒60が、ハニカム構造体50の隔壁1の気孔15の内部に所定量充填されるとともに、SCR触媒60が、隔壁1の表面全域を覆うように配設され、隔壁1の表面全域を覆うように配設されたSCR触媒60による層61の厚さが、20μm以上であるハニカム触媒体100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム触媒体に関する。更に詳しくは、排ガスの浄化に好適に用いられるハニカム触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のエンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、窒素酸化物(NO)が含まれている。地球環境影響等の観点から、排ガスに含まれる窒素酸化物の浄化が求められている。窒素酸化物(NO)の浄化には、SCR触媒を用いた浄化方法が有効である。このため、エンジン等から排出される排ガスの浄化(具体的には、排ガスに含まれる窒素酸化物の浄化)に、上記SCR触媒が広く使用されている。「SCR」とは、「Selective Catalytic Reduction:選択触媒還元」の略である。「SCR触媒」とは、還元反応によって被浄化成分を選択還元する触媒のことを意味する。特に、SCR触媒としては、窒素酸化物を選択還元する触媒を挙げることができる。
【0003】
SCR触媒を排ガスの浄化に使用する際には、触媒担体にSCR触媒を担持して、触媒体(触媒担持体ともいう)として用いられることがある。触媒担体としては、例えば、流体の流路となるセルを区画形成する隔壁を備えたハニカム構造体が用いられることがある。このようなハニカム構造体の隔壁に触媒を担持することを、触媒コートということがある。
【0004】
このようなハニカム触媒体を備えたガス処理装置として、例えば、流通基材と複合触媒を含むガス処理装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。上記流通基材は、入口軸端、出口軸端、入口軸端から出口軸端までの間で伸びる長さを有する壁要素、及び該壁要素によって規定され、軸方向に囲まれ、端部が開放されている複数の通路を有するものである。即ち、上記流通基材が、上述したハニカム構造体となる。複合触媒は、平均粒子径が約3ミクロンを超える粒子を含み、実質的に壁要素内に堆積したワッシュコートの状態のものである。特許文献1のガス処理装置は、壁要素の表面の平均粗さが、壁内に触媒を積載する前から実質的に変化しないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−516466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
窒素酸化物等の浄化を行うためのSCR触媒においては、そのSCR触媒の量が浄化性能に非常に大きな影響を与える。このため、SCR触媒による浄化性能を高めるためには、多量の触媒が必要となる。例えば、ハニカム構造体の隔壁にSCR触媒を担持したハニカム触媒体においては、多量の触媒コートが必要である。しかしながら、多量の触媒コートを行うと、圧損が増加してしまうという問題があった。
【0007】
また、ハニカム構造体の隔壁に触媒を担持したハニカム触媒体においては、触媒コートによる層の厚みによってセルの開口面積が減少して、ハニカム構造体の開口率が減少する。このため、更に、圧損の増加を招くという問題があった。
【0008】
また、SCR触媒が活性化するには、SCR触媒の温度がある程度高くなることが必要である。但し、エンジンを始動した直後は、ハニカム触媒体が温まっていない。従来のハニカム触媒体においては、ハニカム触媒体が温まるまでに時間がかかり、その間の浄化率が低くなるという問題もあった。
【0009】
また、エンジンから排出される排ガスには、多量の水蒸気が含まれている。エンジンを停止すると、エンジンから延びる排気管が冷える。排気管が冷えるのに伴い、排ガスに含まれていた水蒸気が凝縮して水(水分ともいう)になる。上記排気管には、ガス処理装置としてハニカム触媒体が配置されていることがある。このようなハニカム触媒体の気孔に、排ガスに含まれていた水蒸気が凝縮した水が溜まってしまう。ハニカム触媒体の気孔に水が溜まってしまうと、次のエンジンの始動時において、その水分を蒸発させる潜熱として、多量の熱を必要とする。このため、更に、ハニカム触媒体の温度上昇に時間がかかってしまうという問題もあった。
【0010】
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、内燃機関等から排出される排ガスの浄化に好適に用いられるハニカム触媒体を提供する。特に、ハニカム触媒体に熱が加えられた際に、触媒が活性化する温度まで素早く昇温するハニカム触媒体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、以下に示す、ハニカム触媒体が提供される。
【0012】
[1] 一方の端面から他方の端面に延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する筒状のハニカム構造体と、前記隔壁の気孔の内部に充填されるとともに、前記隔壁の表面全域を覆うように配設された、被浄化成分を選択還元するSCR触媒と、を備え、前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填されていない状態における、前記隔壁の気孔率が、50%以上であり、前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填されていない状態で、前記隔壁の厚さ方向の中央部で、前記隔壁を前記厚さ方向に垂直に切断した断面を撮像した顕微鏡写真から求められた前記隔壁の平均気孔径が、20μm以上であり、前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填された状態における、前記隔壁の、気孔径が3μm以上の気孔の気孔率が、30%以下であり、前記隔壁の表面全域を覆うように配設された前記SCR触媒による層の厚さが、20μm以上であるハニカム触媒体。
【0013】
[2] 前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填されていない状態で、前記隔壁の厚さ方向の中央部にて、前記隔壁を前記厚さ方向に垂直に切断した断面を撮像した顕微鏡写真から求められた前記隔壁の平均気孔径に対する、前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填されていない状態で、前記隔壁の表面を撮像した顕微鏡写真から求められた前記隔壁の平均気孔径の比の値が、60%以下である前記[1]に記載のハニカム触媒体。
【0014】
[3] 前記気孔の形状が、前記隔壁を前記隔壁の厚さ方向に垂直に切断した断面における前記気孔の開口面積が、前記隔壁の一方の表面から他方の表面に向けて、漸増して連続的に広くなった後に漸減して連続的に狭くなる略球状である前記[1]又は[2]に記載のハニカム触媒体。
【0015】
[4] 前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填された状態された状態で、前記隔壁の厚さ方向の中央部にて、前記隔壁を前記厚さ方向に垂直に切断した断面を撮像した顕微鏡写真から求められた前記隔壁の平均気孔径が、15μm以下である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のハニカム触媒体。
【0016】
[5] 前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填された状態における、前記隔壁の、気孔径が3μm以上の気孔の気孔率が、15%以下である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のハニカム触媒体。
【発明の効果】
【0017】
本発明のハニカム触媒体は、筒状のハニカム構造体と、SCR触媒と、を備えたものである。ハニカム構造体は、一方の端面から他方の端面に延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有するものである。SCR触媒は、隔壁の気孔の内部に充填されるとともに、隔壁の表面全域を覆うように配設されたものである。SCR触媒は、被浄化成分を選択還元するものである。そして、本発明のハニカム触媒体においては、SCR触媒が気孔の内部に充填されていない状態における、隔壁の気孔率が、50%以上である。また、SCR触媒が前記気孔の内部に充填されていない状態で、隔壁の厚さ方向の中央部で、隔壁を厚さ方向に垂直に切断した断面を撮像した顕微鏡写真から求められた隔壁の平均気孔径が、20μm以上である。更に、SCR触媒が気孔の内部に充填された状態における、隔壁の、気孔径が3μm以上の気孔の気孔率が、30%以下である。隔壁の表面全域を覆うように配設されたSCR触媒による層の厚さが、20μm以上である。このような本発明のハニカム触媒体によれば、内燃機関等から排出される排ガス中の被浄化成分を有効に浄化することができる。特に、本発明のハニカム触媒体は、排ガスに含まれる窒素酸化物(NO)を浄化する触媒体として好適に用いることができる。
【0018】
特に、本発明のハニカム触媒体は、上述したように、隔壁の表面全域がSCR触媒によって覆われたものである。そして、SCR触媒による層の厚さが、20μm以上である。このため、本発明のハニカム触媒体の隔壁の気孔内には、排ガス中の水蒸気が凝集した水分が溜まり難い。本発明のハニカム触媒体においては、気孔内に溜まった水分を蒸発させるための潜熱として、多量の熱を必要としない。従って、ハニカム触媒体に熱が加えられた際に、触媒が活性化する温度まで素早く昇温する。また、上述した隔壁の表面に配設されたSCR触媒以外に、隔壁の気孔の内部にも、十分な量のSCR触媒が充填されている。これにより、良好な浄化性能を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のハニカム触媒体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明のハニカム触媒体の一実施形態の、ハニカム構造体の一方の端面側を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明のハニカム触媒体の一実施形態の、セルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【図4】図3中のA−A’断面を模式的に示す断面図である。
【図5】図3中のBに示す領域を拡大した模式図である。
【図6】図3中のC−C’断面を拡大した模式図である。
【図7】図5に示す隔壁の気孔の内部に、SCR触媒が充填されていない状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0021】
(1)ハニカム触媒体:
図1〜図7に示すように、本発明の一の実施形態のハニカム触媒体100は、筒状のハニカム構造体50と、SCR触媒60と、を備えたものである。ハニカム構造体50が、SCR触媒60を担持するための触媒担体となる。ハニカム構造体50は、一方の端面11から他方の端面12に延びる流体の流路となる複数のセル2を区画形成する多孔質の隔壁1を有するものである。また、SCR触媒60は、隔壁1の気孔15の内部に充填されるとともに、隔壁1の表面全域を覆うように配設されたものである。SCR触媒60は、被浄化成分を選択還元するものである。以下、SCR触媒60を、隔壁1の気孔15の内部に充填し、且つ、隔壁1の表面全域を覆うように配設することを総称して、「SCR触媒60を隔壁1に担持する」ということがある。
【0022】
本実施形態のハニカム触媒体100においては、SCR触媒60が気孔15の内部に充填されていない状態における、隔壁1の気孔率が、50%以上である。この気孔率は、水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0023】
そして、SCR触媒60が気孔15の内部に充填されていない状態で、隔壁1の厚さ方向の中央部で、その隔壁1を厚さ方向に垂直に切断した断面を撮像した顕微鏡写真から求められた隔壁1の平均気孔径が、20μm以上である。以下、「隔壁の上記断面を撮像した顕微鏡写真から求められた隔壁の平均気孔径」のことを、「隔壁断面の平均気孔径」ということがある。上記断面は、例えば、図6に示す断面のことである。但し、図6においては、SCR触媒60が気孔15の内部に充填された状態を示している。
【0024】
更に、本実施形態のハニカム触媒体100においては、SCR触媒が気孔15の内部に充填された状態における、隔壁1の、「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」が、30%以下である。この気孔率は、後述するように水銀ポロシメータにより測定した値である。
【0025】
また、本実施形態のハニカム触媒体100においては、隔壁1の表面全域を覆うように配設されたSCR触媒60によって、隔壁1の表面に、SCR触媒60の層61が形成されている。本実施形態のハニカム触媒体100においては、このSCR触媒60の層61の厚さTが、20μm以上である。以下、「SCR触媒の層」のことを、「SCR触媒層」ということがある。
【0026】
本実施形態のハニカム触媒体100によれば、内燃機関等から排出される排ガス中の被浄化成分を有効に浄化することができる。特に、本実施形態のハニカム触媒体100は、排ガスに含まれる窒素酸化物(NO)を浄化する触媒体として好適に用いることができる。本実施形態のハニカム触媒体100の隔壁1の気孔15内には、排ガス中の水蒸気が凝集した水分が溜まり難い。本実施形態のハニカム触媒体100においては、気孔15内に溜まった水分を蒸発させるための潜熱として、多量の熱を必要としない。従って、ハニカム触媒体100に熱が加えられた際に、触媒が活性化する温度まで素早く昇温する。また、上述した隔壁1の表面に配設されたSCR触媒60以外に、隔壁1の気孔15の内部にも、十分な量のSCR触媒が充填されている。これにより、良好な浄化性能を実現することができる。
【0027】
具体的には、本実施形態のハニカム触媒体100においては、以下の2つの構成を採用することにより、隔壁1の残存空隙中に溜まる水分の量を減らすことを意図している。1つ目は、上記隔壁1の残存空隙の量を減らすことにより、水分が溜まる容積を減少させる。即ち、隔壁1の気孔15内に、特定量のSCR触媒60を充填させる。2つ目は、隔壁1の表面にSCR触媒層61を設けることにより、隔壁1の残存空隙に水分が到達するのを防ぎ、残存空隙に溜まる水分の量を減少させる。上記2つ目の構成においては、SCR触媒層61が、水分が残存空隙に到達するのを防ぐための抵抗となる。残存空隙とは、気孔内にSCR触媒を充填させた際に、気孔内がSCR触媒によって完全に塞がれずに形成される隙間のことである。
【0028】
なお、SCR触媒60自体にも気孔が形成されているため、SCR触媒60にも水分が吸着する。例えば、隔壁1の表面に配設されたSCR触媒層61にも水分が吸着する。しかし、SCR触媒層61に吸着した水分は、ハニカム触媒体100に熱が加えられた初期の段階で、物質拡散によってガス中に拡散し易い。このため、SCR触媒60に吸着した水分による、ハニカム触媒体の昇温を阻害する影響は、隔壁の残存空隙に溜まった水分によるものと比較して、極めて小さい。即ち、ハニカム触媒体100に熱が加えられた際に、触媒が活性化する温度までより素早く昇温させるためには、隔壁1の残存空隙に水分を如何に溜め込まないかが重要である。
【0029】
ここで、図1は、本発明のハニカム触媒体の一実施形態を模式的に示す斜視図である。図2は、本発明のハニカム触媒体の一実施形態の、ハニカム構造体の一方の端面側を模式的に示す平面図である。図3は、本発明のハニカム触媒体の一実施形態の、セルの延びる方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。図4は、図3中のA−A’断面を模式的に示す断面図である。図5は、図3中のBに示す領域を拡大した模式図である。図6は、図3中のC−C’断面を拡大した模式図である。図7は、図5に示す隔壁の気孔の内部に、SCR触媒が充填されていない状態を示す模式図である。図1〜図4に示すように、ハニカム構造体50は、最外周に位置する外周壁3を更に備えたものである。
【0030】
本明細書においては、「SCR触媒が気孔の内部に充填されていない状態」のことを、以下、「非充填状態」ということがある。非充填状態とは、図7に示すような隔壁1の状態のことを意味する。一方、「SCR触媒が気孔の内部に充填された状態」のことを、以下、「充填状態」ということがある。充填状態とは、図5及び図6に示すような隔壁1の状態のことを意味する。
【0031】
「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」とは、気孔径が3μm以上の気孔を、隔壁の気孔とみなして求められた気孔率のことを意味する。即ち、「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」は、気孔径が3μm未満の微細な気孔を、密実な部分と仮定して求められた気孔率である。このような気孔率の測定は、水銀ポロシメータを用いて、例えば、以下に示す方法によって行うことができる。まず、水銀ポロシメータを用いて、測定対象となる多孔質体の細孔径分布を求める。次に、この細孔径分布から、気孔径が3μm未満の気孔に相当する分布を除き、気孔径が3μm以上の気孔の気孔容積を求める。また、測定対象となる多孔質体の真比重を求める。気孔径が3μm以上の気孔の気孔容積と、多孔質体の真比重とから、「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」を求める。なお、水銀ポロシメータを用いて、気孔径が3μm以上の気孔の気孔容積を直接求めてもよい。
【0032】
充填状態における、隔壁の気孔率を、「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」として求める理由は、以下の通りである。SCR触媒には、気孔径が3μm未満の微細な気孔が形成されていることがある。そして、SCR触媒の気孔率は、例えば、30〜50%である。本実施形態のハニカム触媒体においては、隔壁の気孔内にSCR触媒を充填して、隔壁の残存空隙の量を減少させている。このため、SCR触媒の、隔壁の気孔内への充填状態を規定する際には、SCR触媒が密実なものと仮定した気孔率を用いることが好ましい。本発明においては、SCR触媒が密実なものと仮定した気孔率の代用として、上記「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」を用いることとした。
【0033】
本実施形態のハニカム触媒体100においては、SCR触媒60が、隔壁1の気孔15の内部に充填されるとともに、SCR触媒60が、隔壁1の表面全域を覆うように配設されている。即ち、隔壁1の気孔15の開口部分が、比較的に緻密なSCR触媒層61によって覆われている。また、隔壁1の気孔15の内部にも、特定の量のSCR触媒60が充填されている。このため、隔壁1の気孔15内の残存空隙に、排ガス中の水蒸気が凝集した際に生成される水分が溜まり難い。本実施形態のハニカム触媒体100においては、気孔15内に溜まった水分を蒸発させるための潜熱として、多量の熱を必要としない。従って、ハニカム触媒体100に熱が加えられた際に、SCR触媒60が活性化する温度まで素早く昇温する。
【0034】
また、SCR触媒層61の厚さTが20μm以上であり、且つ、隔壁1の気孔15の内部にも十分な量のSCR触媒60が充填されている。このため、本実施形態のハニカム触媒体100においては、良好な浄化性能を実現することができる。
【0035】
SCR触媒層61の厚さTが20μm以上であるということは、隔壁1の表面に配置されたSCR触媒層61の最も厚さが薄い部分での厚さが、少なくとも20μm以上ということである。SCR触媒層61の厚さTが20μm未満であると、隔壁1の気孔15の内部に水分が入り易くなってしまう。SCR触媒層61の厚さTは、20〜120μmであることが好ましく、30〜100μmであることが更に好ましく、40〜80μmであることが特に好ましい。SCR触媒層61の厚さTが120μmを超えると、SCR触媒層61が厚くなり過ぎて、圧損が増加してしまうことがある。
【0036】
SCR触媒層61の厚さTを測定する方法としては、以下のような方法を挙げることができる。まず、ハニカム構造体をセルの延びる方向に垂直に切断する。ハニカム構造体を切断する位置は、セルの延びる方向の中央部分であることが好ましい。次に、切断したハニカム構造体の断面を、SEM(走査型電子顕微鏡)によって撮影する。次に、得られた顕微鏡写真において、任意の5個のセルを選択し、そのセルの表面に配置されたSCR触媒層の厚さを測定する。SCR触媒層の厚さを測定する際には、顕微鏡写真中に撮像されたSCR触媒層において、その厚さが最も薄い位置での測定を行う。次に、得られた測定値(厚さ)の平均値を算出する。得られた測定値が、「SCR触媒層の厚さT」となる。
【0037】
また、上述したように、非充填状態における、隔壁の気孔率が50%以上である。非充填状態における、隔壁の気孔率が50%未満であると、ハニカム触媒体100の圧損が増大してしまう。即ち、非充填状態における、隔壁の気孔率が、50%未満であると、ハニカム構造体50自体の圧損が大きくなる。更に、排ガス中に含まれるNOの浄化に必要な量のSCR触媒60をハニカム構造体50に担持する際に、隔壁1の表面に配設されるSCR触媒60の量が多くなってしまうことがある。このような場合には、SCR触媒層61の厚さが過剰に厚くなってしまう。その結果、ハニカム触媒体100の圧損が増大してしまうことがある。
【0038】
非充填状態における、隔壁の気孔率は、50〜85%であることが好ましく、50〜70%であることが更に好ましく、50〜65%であることが特に好ましい。非充填状態における、隔壁の気孔率が85%を超えると、ハニカム構造体の強度が低下してしまうことがある。
【0039】
また、上述したように、非充填状態における、隔壁断面の平均気孔径が、20μm以上である。非充填状態における、隔壁断面の平均気孔径が、20μm未満であると、SCR触媒が気孔内部に充填されず、隔壁表面のSCR触媒層の厚さが過大になる。その結果、セルの水力直径が小さくなり過ぎて、ハニカム触媒体の圧損が増加してしまう。更に、ガス拡散が不十分となり、ハニカム触媒体の浄化性能も悪化する。
【0040】
非充填状態における、隔壁断面の平均気孔径は、20〜250μmであることが好ましく、30〜200μmであることが更に好ましく、40〜150μmであることが特に好ましい。
【0041】
以下、非充填状態における、隔壁断面の平均気孔径の測定方法について具体的に説明する。まず、SCR触媒が気孔の内部に充填されていない状態のハニカム構造体から、ハニカムブロックを切り出す。ハニカムブロックとしては、各辺の長さが20mmの立方体(20mm×20mm×20mm)を挙げることができる。次に、このハニカムブロックの気孔を樹脂埋めする。次に、樹脂埋めしたハニカムブロックを、荒研削によって隔壁表面近傍まで研削する。次に、仕上げ研磨により、隔壁の厚さ方向における中央部まで研磨して、研磨した隔壁の表面を鏡面仕上げする。鏡面仕上げした隔壁の表面(即ち、中央部まで研磨した隔壁の表面)を、SEM(走査型電子顕微鏡)により、1mm×1mmの視野について100倍の倍率で撮影する。上記「中央部まで研磨した隔壁の表面」が、本発明における「隔壁を厚さ方向に垂直に切断した断面」となる。
【0042】
隔壁の断面の撮像は、例えば、日立製作所製の走査型電子顕微鏡「S−3400N(商品名)」によって行うことができる。撮像の条件としては、加速電圧が15kV、倍率が100倍、視野が1mm×1mmとすることが好ましい。
【0043】
次に、撮像された顕微鏡写真を画像解析して、顕微鏡写真中の気孔内に描かれる内接円の直径を算出する。即ち、画像解析により、顕微鏡写真中の各気孔の内接円の直径を算出して求める。得られた内接円の直径から当該内接円の面積を求め、下記式(1)により、平均直径dmを求める。平均直径dmは、面積による重み付け平均された平均直径である。この平均直径dmの値を、「隔壁断面の平均気孔径」とする。
【0044】
dm=(1/ΣS)Σ(d) ・・・ (1)
(但し、上記式(1)において、dが各内接円の直径を示す。上記式(1)において、Sが各内接円の面積を示す。上記式(1)において、dmが平均直径を示す。)
【0045】
本実施形態のハニカム触媒体においては、充填状態における、隔壁の「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」が、30%以下である。充填状態における、隔壁の「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」が、30%超であると、隔壁の気孔内に充填されているSCR触媒の量が少なくなる。このような場合にも、ハニカム触媒体の浄化性能が低下してしまう。以下、「充填状態における、隔壁の、気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」のことを、単に、「充填状態における、隔壁の気孔率」ということがある。
【0046】
充填状態における、隔壁の気孔率は、15%以下であることが好ましく、10%以下であることが更に好ましい。このように構成することによって、隔壁の気孔内の残存空隙が少なくなり、その残存空隙に水分がより浸入し難くなる。
【0047】
充填状態における、隔壁の気孔率の下限値については特に制限はない。例えば、充填状態における、隔壁の気孔率の下限値としては、5%であることが好ましい。充填状態における、隔壁の気孔率が5%未満であると、SCR触媒へのガス拡散が不十分となり、逆に浄化性能が悪化することがある。
【0048】
ここで、上述した、非充填状態における隔壁断面の平均気孔径を、「平均気孔径d1」とする。また、非充填状態における、隔壁の表面を撮像した顕微鏡写真から求められた隔壁の平均気孔径を、「平均気孔径d2」とする。平均気孔径d1に対する、平均気孔径d2の比の値(即ち、「d2/d1×100」)が、60%以下であることが好ましい。上記比の値が60%以下であると、隔壁表面にSCR触媒が層状に配設された場合に、隔壁の気孔内の残存空隙への水分の侵入を有効に防止することができる。
【0049】
上記比の値は、30〜60%であることが好ましく、30〜50%であることが更に好ましく、30〜40%であることが特に好ましい。このような比の値とすることで、隔壁の表面に比して、隔壁の内部に大きな気孔が形成されることとなる。このため、隔壁の気孔内の残存空隙に水分がより浸入し難くなる。
【0050】
非充填状態における、隔壁の表面の平均気孔径d2は、以下のようにして測定することができる。まず、SCR触媒が気孔の内部に充填されていない状態の隔壁の表面を、顕微鏡写真によって撮像する。隔壁の断面の撮像は、例えば、日立製作所製の走査型電子顕微鏡「S−3400N(商品名)」によって行うことができる。撮像の条件については、隔壁断面の撮像と同じ条件であることが好ましい。
【0051】
次に、撮像された顕微鏡写真を画像解析して、顕微鏡写真中の気孔内に描かれる内接円の直径を算出する。即ち、画像解析により、顕微鏡写真中の各気孔の内接円の直径を算出して求める。各内接円の直径をdとし、且つ各内接円の面積をSとして、上記式(1)より、平均直径dmを求める。平均直径dmは、面積による重み付け平均された平均直径である。この平均直径dmの値を、「隔壁の表面の平均気孔径d2」とする。このように、隔壁の表面を撮像すること以外は、上述した「非充填状態における、隔壁断面の平均気孔径の測定方法」と同様の方法によって平均気孔径d2を求めることができる。
【0052】
また、隔壁に形成される気孔は、以下のような形状のものであることが好ましい。隔壁を隔壁の厚さ方向に垂直に切断した断面における気孔の開口面積が、隔壁の一方の表面から他方の表面に向けて、漸増して連続的に広くなった後に漸減して連続的に狭くなる形状。以下、このような気孔の形状のことを、「略球状」ということがある。気孔の形状を上記「略球状」とすることにより、隔壁の気孔内の残存空隙に水分がより浸入し難くなる。
【0053】
また、充填状態で、隔壁の厚さ方向の中央部にて、隔壁を厚さ方向に垂直に切断した断面を撮像した顕微鏡写真から求められた隔壁の平均気孔径が、15μm以下であるであることが好ましい。即ち、充填状態における、隔壁断面の平均気孔径が、15μm以下であることが好ましい。このように構成することによって、隔壁の気孔内の残存空隙に水分がより浸入し難くなる。充填状態における、隔壁断面の平均気孔径は、10〜15μmであることが更に好ましく、10〜12μmであることが特に好ましい。
【0054】
「充填状態における、隔壁断面の平均気孔径の測定」については、隔壁の気孔にSCR触媒が充填された状態で行われること以外は、上述した「非充填状態における、隔壁断面の平均気孔径の測定」と同様の方法にて行うことができる。「充填状態における、隔壁断面の平均気孔径の測定」では、隔壁の気孔内の残存空隙の平均気孔径が測定される。
【0055】
また、図1〜図7に示すように、ハニカム構造体50の隔壁1が、コージェライト、アルミニウムチタネート、炭化珪素、及びムライトからなる群より選択される少なくとも一種を主成分として含む材料からなることが好ましい。このように構成することによって、ハニカム構造体50の熱膨張を小さくすることができる。これにより、ハニカム構造体50の耐熱衝撃性を向上させることができる。主成分以外の成分としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ガラス等を挙げることができる。
【0056】
本明細書において、「主成分」とは、その構成材料中に含まれる成分が90質量%以上の成分のことを意味する。即ち、ハニカム構造体50の隔壁1は、コージェライト、アルミニウムチタネート、炭化珪素、及びムライトからなる群より選択される少なくとも一種を90質量%以上含む多孔質体からなることが好ましい。また、隔壁1が、上記成分を、95質量%以上含む材料からなることが更に好ましく、98質量%以上含む材料からなることが特に好ましい。
【0057】
また、ハニカム構造体50の隔壁1の厚さが、0.051〜0.254mmであることが好ましい。隔壁1の厚さを上記数値範囲とすることで、隔壁1の強度を維持しつつ、圧損を低減することができる。隔壁1の厚さが、0.051〜0.150mmであることが更に好ましく、0.051〜0.125mmであることが特に好ましい。
【0058】
「隔壁の厚さ」とは、ハニカム構造体50をセル2の延びる方向に垂直に切断した断面における、隣接する二つのセル2を区画する壁(隔壁1)の厚さのことを意味する。「隔壁の厚さ」は、例えば、画像解析装置(ニコン社製、「NEXIV、VMR−1515(商品名)」)によって測定することができる。
【0059】
ハニカム構造体50のセル密度が、15.5〜108.5個/cmであることが好ましい。セル密度を上記数値範囲とすることで、圧損の増大を有効に防止することができる。また、ハニカム構造体50の隔壁1にSCR触媒を担持した際に、高い浄化性能を得ることができる。「ハニカム構造体のセル密度」とは、セルの延びる方向に直交する断面における、単位面積当たりのセルの個数のことを意味する。ハニカム構造体50のセル密度が、46.5〜77.5個/cmであることが更に好ましく、46.5〜70個/cmであることが特に好ましい。
【0060】
ハニカム構造体50の形状については特に制限はない。例えば、ハニカム構造体の形状としては、ハニカム構造体の端面が円形の筒状(円筒形状)、上記端面がオーバル形状の筒状、上記端面が多角形の筒状を挙げることができる。上記多角形としては、四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等を挙げることができる。図1〜図4においては、ハニカム構造体50の形状が、端面が円形の筒状である場合の例を示す。
【0061】
セル2の延びる方向に直交する断面におけるセル2の形状としては、四角形、六角形、八角形、円形、又はこれらの組み合わせを挙げることができる。四角形の中でも、正方形、長方形が好ましい。
【0062】
SCR触媒は、被浄化成分を選択還元する触媒である。特に、本実施形態のハニカム触媒体においては、SCR触媒が、排ガス中のNOを選択還元するNO選択還元用SCR触媒であることが好ましい。NO選択還元用SCR触媒としては、ディーゼルエンジンの排ガス中のNOを選択還元して浄化する触媒を好適例として挙げることができる。
【0063】
SCR触媒としては、金属置換されたゼオライトを挙げることができる。ゼオライトを金属置換する金属としては、鉄(Fe)、銅(Cu)を挙げることができる。ゼオライトとしては、ベータゼオライトを好適例として挙げることができる。
【0064】
また、SCR触媒が、バナジウム、及びチタニアからなる群より選択される少なくとも1種を主たる成分として含有する触媒であってもよい。SCR触媒中のバナジウム、及びチタニアの含有量は、60質量%以上であることが好ましい。
【0065】
SCR触媒を隔壁に担持する量については、特に制限はない。以下、SCR触媒を隔壁に担持する量のことを、「担持量」ということがある。ハニカム構造体の単位体積当りの担持量(g/L)が、200g/L以上であることが好ましい。このように構成することによって、被浄化成分を良好に浄化することができる。SCR触媒の担持量(g/L)の上限については、例えば、400g/Lとすることが好ましい。SCR触媒の担持量が400g/L超であると、SCR触媒の量が多すぎて、圧損が増大することがある。このため、SCR触媒の担持量が、200〜350g/Lであることがより好ましく、200〜300g/Lであることが特に好ましい。
【0066】
(2)ハニカム触媒体の製造方法:
次に、本実施形態のハニカム触媒体を製造する方法について説明する。本実施形態のハニカム触媒体を製造する方法は、ハニカム構造体を作製する工程と、得られたハニカム構造体にSCR触媒を担持してハニカム触媒体を作製する工程と、を有する。
【0067】
(2−1)ハニカム構造体の作製:
まず、本実施形態のハニカム触媒体に用いられるハニカム構造体を作製する工程について説明する。
【0068】
ハニカム構造体を作製する工程においては、まず、セラミック原料を含有する成形原料を混合し混練して坏土を得る。セラミック原料としては、コージェライト化原料、アルミニウムチタネート、炭化珪素、及びムライトからなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。なお、コージェライト化原料とは、シリカが42〜56質量%、アルミナが30〜45質量%、マグネシアが12〜16質量%の範囲に入る化学組成となるように配合されたセラミック原料である。コージェライト化原料は、焼成されてコージェライトになるものである。
【0069】
また、成形原料は、上記セラミック原料に、分散媒、有機バインダ、無機バインダ、界面活性剤、造孔材等を更に混合して調製することが好ましい。各原料の組成比は、特に限定されず、作製しようとするハニカム構造体の構造、材質等に合わせた組成比とすることが好ましい。
【0070】
分散媒としては、水を用いることができる。分散媒の添加量は、セラミック原料100質量部に対して、10〜30質量部であることが好ましい。
【0071】
有機バインダとしては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、又はこれらを組み合わせたものとすることが好ましい。また、有機バインダの添加量は、セラミック原料100質量部に対して、0.5〜5質量部が好ましい。
【0072】
界面活性剤としては、エチレングリコール、デキストリン、脂肪酸石鹸、ポリアルコール等を用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。界面活性剤の添加量は、セラミック原料100質量部に対して、0.5〜2質量部が好ましい。
【0073】
造孔材としては、樹脂粒子、デンプン、カーボン等を用いることができる。造孔材の添加量は、得られるハニカム構造体の隔壁の気孔率が50%以上となる量であることが好ましい。例えば、造孔材の添加量は、セラミック原料100質量部に対して、2〜10質量部が好ましい。また、造孔材の大きさとしては、得られるハニカム構造体の隔壁断面の平均気孔径が、20μm以上となる大きさであることが好ましい。例えば、造孔材の平均粒子径が、15〜200μmであることが好ましい。また、熱膨張によって平均粒子径が大きくなる造孔材を用いてもよい。この場合には、膨張した状態における造孔材の平均粒子径が、15〜200μmであることが好ましい。
【0074】
成形原料を混練して坏土を形成する方法としては特に制限はなく、例えば、ニーダー、真空土練機等を用いる方法を挙げることができる。
【0075】
次に、得られた坏土を成形して、筒状のハニカム成形体を形成する。ハニカム成形体は、複数のセルを区画形成する隔壁を有するものである。坏土を成形してハニカム成形体を形成する方法としては特に制限はなく、押出成形、射出成形等の公知の成形方法を用いることができる。例えば、所望のセル形状、隔壁厚さ、セル密度を有する口金を用いて押出成形する方法等を好適例として挙げることができる。口金の材質としては、摩耗し難い超硬合金が好ましい。
【0076】
次に、得られたハニカム成形体を乾燥する。次に、乾燥したハニカム成形体を焼成する。これにより、流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を備えたハニカム構造体を得ることができる。
【0077】
乾燥方法は、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等を挙げることができる。なかでも、誘電乾燥、マイクロ波乾燥又は熱風乾燥を単独で又は組み合わせて行うことが好ましい。
【0078】
ハニカム成形体を焼成する前には、このハニカム成形体を仮焼することが好ましい。仮焼は、脱脂のために行うものである。仮焼の方法については特に制限はない。例えば、ハニカム成形体中の有機物の少なくとも一部を除去することができればよい。上記有機物としては、有機バインダ、界面活性剤、造孔材等を挙げることができる。有機バインダの燃焼温度は100〜300℃程度である。このため、仮焼は、酸化雰囲気において、200〜1000℃程度で、10〜100時間程度加熱することが好ましい。
【0079】
ハニカム成形体の焼成は、仮焼した成形体を構成する成形原料を焼結させて緻密化し、所定の強度を確保するために行われるものである。焼成の条件は、成形原料の種類により異なるため、その種類に応じて適当な条件を選択すればよい。例えば、コージェライト化原料を使用している場合には、焼成温度は、1350〜1440℃が好ましい。また、焼成時間は、最高温度でのキープ時間として、3〜10時間が好ましい。仮焼、本焼成を行う装置としては、電気炉、ガス炉等を挙げることができる。
【0080】
(2−2)ハニカム触媒体の作製:
次に、ハニカム構造体に、SCR触媒を担持してハニカム触媒体を作製する工程について説明する。ハニカム構造体としては、上述したハニカム構造体の作製工程によって得られたハニカム構造体を用いることができる。
【0081】
まず、SCR触媒を含む触媒スラリーを調製する。この触媒スラリーを、ハニカム構造体の隔壁にコートすることによって、ハニカム構造体の隔壁にSCR触媒を担持する。ハニカム構造体の隔壁に触媒スラリーをコートすることによって、隔壁の気孔内にも触媒スラリーが充填される。
【0082】
本実施形態のハニカム触媒体を作製する際には、充填状態における、隔壁の気孔率が、30%以下となるように、SCR触媒を担持する必要がある。即ち、本実施形態のハニカム触媒体を作製する際には、隔壁の気孔内に、SCR触媒をより多く充填することが好ましい。これにより、隔壁の気孔の残存空隙を少なくすることができる。即ち、充填状態における、隔壁の気孔率が低くなる。なお、ここでいう、「充填状態における、隔壁の気孔率」とは、「充填状態における、隔壁の、気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」のことである。
【0083】
隔壁の気孔内に、SCR触媒をより多く充填する方法としては、触媒スラリーの粘度を低くする方法を挙げることができる。触媒スラリーの粘度は、触媒スラリー中の水分の比率を調整することによってコントロールすることができる。触媒スラリーの粘度は、8mPa・s以下であることが好ましく、7〜5mPa・sであることが更に好ましく、7〜6mPa・sであることが特に好ましい。
【0084】
また、隔壁の気孔内に、SCR触媒をより多く充填する別の方法としては、触媒スラリーに含まれるSCR触媒の粒子径を小さくする方法を挙げることができる。触媒スラリーに含まれるSCR触媒の粒子径は、10μm以下であることが好ましく、3〜5μmであることが更に好ましく、4〜5μmであることが特に好ましい。
【0085】
また、触媒スラリーを、ハニカム構造体の隔壁にコートする際には、ハニカム構造体を容器に収納し、この容器内に、触媒スラリーを導入することが好ましい。触媒スラリーを容器内に導入する前に、ハニカム構造体を収納する容器内を真空引きすることが更に好ましい。容器内を真空引きすることにより、隔壁の気孔内に触媒スラリーがより多く充填される。
【0086】
ハニカム構造体の隔壁に触媒スラリーをコートした後、触媒スラリーを乾燥する。更に、乾燥した触媒スラリーを焼成してもよい。このようにして、本実施形態のハニカム触媒体を製造することができる。
【実施例】
【0087】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
まず、ハニカム触媒体に用いるハニカム構造体を作製した。ハニカム構造体を作製するセラミック原料としては、コージェライト化原料を用いた。コージェライト化原料に、分散媒、有機バインダ、分散剤、及び造孔材を添加して、成形用の坏土を調製した。分散媒の添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、30質量部とした。有機バインダの添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、1質量部とした。造孔材の添加量は、コージェライト化原料100質量部に対して、5質量部とした。
【0089】
コージェライト化原料としては、タルクを38.9質量部、カオリンを40.7質量部、及びアルミナを5.9質量部、含むものを用いた。タルクの平均粒子径は10μmであった。カオリンの平均粒子径は40μmであった。アルミナの平均粒子径は6μmであった。上記平均粒子径は、各原料の粒子の粒子径分布におけるメジアン径(d50)のことである。
【0090】
分散媒としては、水を用いた。有機バインダとしては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを用いた。分散剤としては、エチレングリコールを用いた。造孔材としては、平均粒子径が30μmの中空樹脂粒子を用いた。
【0091】
次に、得られた坏土を、ハニカム成形体を成形するための金型を用いて押出成形した。このようにして、ハニカム成形体を作製した。そして、ハニカム成形体をマイクロ波乾燥機で乾燥した。乾燥したハニカム成形体の両端面を切断して、所定の寸法に整えた。その後、熱風乾燥機で更にハニカム成形体を乾燥した。
【0092】
乾燥したハニカム成形体を、1445℃で、5時間焼成した。このようにしてハニカム構造体を作製した。ハニカム構造体の隔壁厚さは、0.1397mmであった。ハニカム構造体のセル密度は、46.5個/cmであった。ハニカム構造体の気孔率は、50%であった。隔壁断面の平均気孔径は、20μmであった。隔壁表面の平均気孔径は、10μmであった。隔壁断面の平均気孔径を(A)とし、隔壁表面の平均気孔径を(B)とした場合の、「(A)に対する、(B)の比の値」は、50%であった。「隔壁厚さ」、「セル密度」、「気孔率」、「隔壁断面の平均気孔径」、「隔壁表面の平均気孔径」、及び「(A)に対する、(B)の比の値」を表1に示す。表1に示す値は、本発明のハニカム触媒体における、非充填状態における値ということができる。「(A)に対する、(B)の比の値」は、「(Bの値)/(Aの値)×100」にて算出される値である。
【0093】
気孔率は、マイクロメリティクス社(Micromeritics社)製の「オートポアIII 9420(商品名)」によって測定した値である。
【0094】
また、「隔壁断面の平均気孔径」は、以下の方法によって測定した。まず、ハニカム構造体から、各辺の長さが20mmの立方体のハニカムブロックを切り出した。次に、このハニカムブロックの気孔を樹脂埋めした。次に、樹脂埋めしたハニカムブロックを、荒研削によって隔壁表面近傍まで研削した。次に、仕上げ研磨により、隔壁の厚さ方向における中央部まで研磨して、研磨した隔壁の表面を鏡面仕上げした。鏡面仕上げした隔壁の表面を、SEM(走査型電子顕微鏡)により、1mm×1mmの視野について100倍の倍率で撮影した。隔壁の断面の撮像は、日立製作所製の走査型電子顕微鏡「S−3400N(商品名)」によって行った。
【0095】
次に、撮像された顕微鏡写真を画像解析して、顕微鏡写真中の気孔内に描かれる内接円の直径を算出した。得られた内接円の直径から当該内接円の面積を求め、上記(1)により、平均直径dmを求めた。得られた平均直径dmの値を、「隔壁断面の平均気孔径」とした。
【0096】
「隔壁表面の平均気孔径」の測定については、隔壁の表面を撮像すること以外は、上述した「隔壁断面の平均気孔径」の測定と同様の方法によって行った。
【0097】
【表1】

【0098】
次に、得られたハニカム構造体にSCR触媒を担持して、ハニカム触媒体を作製した。SCR触媒としては、Cu置換ゼオライトを用いた。SCR触媒を担持する方法としては、浸漬法を用いた。
【0099】
実施例1のハニカム触媒体においては、SCR触媒の担持量を220g/Lとした。また、得られたハニカム触媒体の、気孔径が3μm以上の気孔の気孔率は、5%であった。得られたハニカム触媒体の隔壁断面の平均気孔径は10μmであった。SCR触媒層の厚さは、35μmであった。「SCR触媒の担持量」、「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」、「隔壁断面の平均気孔径」、及び「SCR触媒層の厚さ」を表2に示す。表2に示す値は、本発明のハニカム触媒体における、充填状態における値ということができる。SCR触媒層の厚さは、SCR触媒層の最薄部分の厚さである。例えば、隔壁の表面全域にSCR触媒層が形成されていない場合には、SCR触媒層の厚さは、SCR触媒層が形成されていない部分の厚さとして、0μmとして測定される。
【0100】
「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」は、マイクロメリティクス社(Micromeritics社)製の「オートポアIII 9420(商品名)」によって測定した値である。
【0101】
また、ハニカム触媒体の「隔壁断面の平均気孔径」の測定については、ハニカム構造体の「隔壁断面の平均気孔径」の測定と同様の方法によって行った。但し、ハニカム触媒体の「隔壁断面の平均気孔径」は、SCR触媒が隔壁の気孔内に充填された状態、即ち、充填状態で測定された平均気孔径である。
【0102】
【表2】

【0103】
次に、得られたハニカム触媒体について、以下の方法で、圧損、及び浄化率の評価を行った。また、得られた評価結果より、ハニカム触媒体についての総合評価を行った。結果を表3に示す。
【0104】
[圧損]
ハニカム触媒体に、室温条件下、10m/minの流速でエアーを流通させ、ハニカム触媒体の入口側における圧力と、出口側における圧力とを測定した。入口側における圧力と、出口側における圧力との圧力差を圧力損失(圧損(kPa))とした。圧損(kPa)が、8kPa未満の場合を「OK(合格)」とした。圧損(kPa)が、8kPa以上の場合を「NG(不合格)」とした。
【0105】
[浄化率]
作製したハニカム触媒体を、排気量2リッターのガソリンエンジン搭載車両の排気系に搭載した。米国規制(FTP)の規制運転モード(LA−4)を行って、炭化水素エミッションの測定を行った。触媒体無しでのエミッションとの比から浄化率を算出した。浄化率(%)が、90%以上の場合を「OK(合格)」とした。浄化率(%)が、90%未満の場合を「NG(不合格)」とした。
【0106】
[総合評価]
圧損及び浄化率の評価において、両方の評価結果が「OK(合格)」である場合に、総合評価を「OK(合格)」とした。圧損及び浄化率の評価において、少なくとも一方の評価結果が「NG(不合格)」である場合に、総合評価を「NG(不合格)」とした。
【0107】
【表3】

【0108】
(実施例2〜12、比較例1〜8)
実施例2〜12、及び比較例1〜8においては、まず、表1に示すようなハニカム構造体を作製した。次に、得られたハニカム構造体に、SCR触媒を担持してハニカム触媒体を作製した。実施例2〜12、及び比較例1〜8のハニカム触媒体のSCR触媒の担持量については、実施例1と同様の220g/Lとした。実施例2〜12、及び比較例1〜8においては、「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」、「隔壁断面の平均気孔径」、及び「SCR触媒層の厚さ」を表2に示すようにした。比較例7及び8においては、隔壁の表面全域にSCR触媒層を形成せずに、隔壁の表面の一部にSCR触媒層を形成した。このため、比較例7及び8においては、SCR触媒層の厚さ(最薄部分の厚さ)が0μmとなる。
【0109】
実施例1〜12、及び比較例1〜8における、触媒スラリー粘度(mPa・sec)と、触媒の粒子径(μm)は、以下の通りである。実施例1〜12及び比較例1〜6における触媒スラリー粘度は、6mPa・secである。比較例7における触媒スラリー粘度は、15mPa・secである。比較例8における触媒スラリー粘度は、20mPa・secである。実施例1、5、比較例5〜8における触媒の粒子径は、7μmである。実施例2、6における触媒の粒子径は、6μmである。実施例3、4、9〜12、比較例3、4における触媒の粒子径は、5μmである。実施例7、8、比較例1における触媒の粒子径は、8μmである。比較例2における触媒の粒子径は、10μmである。
【0110】
(結果)
表3に示すように、実施例1〜12のハニカム触媒体は、全ての評価について良好な結果を示すものであった。一方、比較例1及び2のハニカム触媒体は、非充填状態におけるハニカム構造体の気孔率が低すぎて、ハニカム触媒体の圧損が非常に高いものであった。比較例3及び4のハニカム触媒体は、非充填状態におけるハニカム構造体の隔壁断面の気孔率が小さ過ぎて、SCR触媒の気孔への充填性が悪化していた。このため、隔壁表面のSCR触媒層の厚さが過大になり、セルの水力直径が小さくなり過ぎてしまった。その結果、比較例3及び4のハニカム触媒体は、圧損が高いものであった。また、比較例3及び4のハニカム触媒体は、ガス拡散が不十分であるため、浄化率が低いものであった。
【0111】
また、比較例5及び6のハニカム触媒体は、浄化率が低いものであった。比較例5及び6のハニカム触媒体は、充填状態における「気孔径が3μm以上の気孔の気孔率」が高いものであった。即ち、比較例5及び6のハニカム触媒体では、隔壁の気孔に、気孔径が3μm以上の残存空隙が非常に多く存在していることとなる。この残存空隙に、排ガス中の水蒸気が凝集した水分が溜まり、浄化率が低下したと考えられる。
【0112】
また、比較例7及び8のハニカム触媒体は、浄化率が低いものであった。比較例7及び8のハニカム触媒体は、SCR触媒層の最薄部分の厚さが0μmであった。このため、SCR触媒層が形成されていない部分から、隔壁の気孔内(具体的には、残存空隙)に水分が浸入することとなる。このようにして、気孔の残存空隙に、排ガス中の水蒸気が凝集した水分が溜まり、浄化率が低下したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明のハニカム触媒体は、排ガスの浄化に利用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1:隔壁、2:セル、3:外周壁、11:一方の端面、12:他方の端面、15:気孔、50:ハニカム構造体、60:SCR触媒、61:層(SCR触媒層)、100:ハニカム触媒体、T:SCR触媒の層の厚さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の端面から他方の端面に延びる流体の流路となる複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁を有する筒状のハニカム構造体と、
前記隔壁の気孔の内部に充填されるとともに、前記隔壁の表面全域を覆うように配設された、被浄化成分を選択還元するSCR触媒と、を備え、
前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填されていない状態における、前記隔壁の気孔率が、50%以上であり、
前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填されていない状態で、前記隔壁の厚さ方向の中央部で、前記隔壁を前記厚さ方向に垂直に切断した断面を撮像した顕微鏡写真から求められた前記隔壁の平均気孔径が、20μm以上であり、
前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填された状態における、前記隔壁の、気孔径が3μm以上の気孔の気孔率が、30%以下であり、
前記隔壁の表面全域を覆うように配設された前記SCR触媒による層の厚さが、20μm以上であるハニカム触媒体。
【請求項2】
前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填されていない状態で、前記隔壁の厚さ方向の中央部にて、前記隔壁を前記厚さ方向に垂直に切断した断面を撮像した顕微鏡写真から求められた前記隔壁の平均気孔径に対する、前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填されていない状態で、前記隔壁の表面を撮像した顕微鏡写真から求められた前記隔壁の平均気孔径の比の値が、60%以下である請求項1に記載のハニカム触媒体。
【請求項3】
前記気孔の形状が、前記隔壁を前記隔壁の厚さ方向に垂直に切断した断面における前記気孔の開口面積が、前記隔壁の一方の表面から他方の表面に向けて、漸増して連続的に広くなった後に漸減して連続的に狭くなる略球状である請求項1又は2に記載のハニカム触媒体。
【請求項4】
前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填された状態された状態で、前記隔壁の厚さ方向の中央部にて、前記隔壁を前記厚さ方向に垂直に切断した断面を撮像した顕微鏡写真から求められた前記隔壁の平均気孔径が、15μm以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のハニカム触媒体。
【請求項5】
前記SCR触媒が前記気孔の内部に充填された状態における、前記隔壁の、気孔径が3μm以上の気孔の気孔率が、15%以下である請求項1〜4のいずれか一項に記載のハニカム触媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−53594(P2013−53594A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193436(P2011−193436)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】