説明

ハロアルケノンエーテルの製造のための化学的方法

本発明は、式(I)〔式中、R1はC1−C6ハロアルキル、R2はC1−C6アルキルまたはフェニルである〕のハロアルケノンエーテル製造の連続的方法に関し、その方法は以下:(i)溶媒を含む第一の連続撹拌槽型反応器にて、式(II)〔式中、R1はすでに定義した通りであり、R3はハロゲンである〕のハロゲン化物を式(III)〔式中、R2はすでに定義した通りである〕のビニルエーテルと反応させ、式(IV)の中間体化合物を形成させるステップ、ここで反応物中の式(III)のビニルエーテル濃度は15%w/w 以下であり;及び(ii)反応物を第一の連続撹拌槽型反応器から第二の連続撹拌槽型反応器に移すステップ、ここで第二の反応器内の条件は、式(I)のハロアルケノンエーテルを供給するために、上記式(IV)の中間体化合物からのハロゲン化水素(HR3)の除去を可能にする、を含む方法である。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハロアルケノンエーテル、特に4-エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンの製造のための改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のようなハロアルケノンエーテルの製造方法については知られている。したがって、欧州特許公開第1254883号公報には、ハロアルケノンエーテル製造のためのセミバッチ方法であって、塩基存在下で行われる方法が記載されている。国際公開第2004108647号には、塩基非存在下、及び/または得られるアルケノンのための安定化剤存在下で実施されるセミバッチ方法が記載されている。しかしながら、これらのセミバッチ方法はより大きなスケールでの工業的製造の点では不利益を示すことがある。特に、所望する生成物の工業的な量の製造のためには、公知のセミバッチ方法は大きい反応器の使用が必要となる。さらに、上記方法において塩基及び/または追加の溶媒を使用した場合には、例えばさらなる精製のステップが必要となる。なおさらには、ハロゲン化物が過剰のアルキルビニルエーテルに加えられるセミバッチ方法は、大量のアルキルビニルエーテルの使用を必要とし、それはアルキルビニルエーテルの重合を容易にひき起こし得るため、望ましくない。
【発明の概要】
【0003】
上記方法を連続的な方法で実施することのできる新しい改良された方法がこれまで開発されている。その方法はより商工業的に望ましく、公知の方法に関連した上記の不利益を克服している。特に、本発明に関する連続的な方法は、必要であれば塩基(またはその他安定化剤)、及び/または他の試薬/溶媒の非存在下で実施することが可能であり、セミバッチ方法に比べてより小さい反応器を使用することが可能であり、連続的な方法は典型的なセミバッチ方法より高い反応温度の使用を許すので優れた反応速度と収率を提供し、不安定な中間体化合物の貯蔵を回避し、任意の望ましくない副生成物の生成を最小限に抑える。
【0004】
そこで、本発明によれば、式(I):
【0005】
【化1】

【0006】
〔式中、R1はC1−C6ハロアルキル、R2はC1−C6アルキルまたはフェニルである〕
のハロアルケノンエーテル製造ための連続的な方法であって、以下:
(i)溶媒を含む第一の連続撹拌槽型反応器にて、式(II):
【0007】
【化2】

【0008】
〔式中、R1はすでに定義した通りであり、R3はハロゲンである〕
のハロゲン化物を式(III):
【0009】
【化3】

【0010】
〔式中、R2はすでに定義した通りである〕
のビニルエーテルと反応させ、式(IV):
【0011】
【化4】

【0012】
の中間体化合物を形成させるステップ、ここで反応物中の式(III)のビニルエーテル濃度は15%w/w 以下であり;及び
(ii)反応物を第一の連続撹拌槽型反応器から第二の連続撹拌槽型反応器に移すステップ、ここで第二の反応器内の条件は、式(I)のハロアルケノンエーテルを供給するために、上記中間体化合物からのハロゲン化水素(HR3)の除去を可能にする、
を含む方法が提供される。
【0013】
好ましい実施形態では、R1はCH2F、CHF2、CH3、C2H5 及びCF3から成る群から選択される。より好ましい実施形態では、R1はCF3である。
【0014】
他の好ましい実施形態では、R2はエチルである。
他の好ましい実施形態では、R3は塩素である。
【0015】
特に好ましい実施の形態では、上記R1がCF3、R2がエチル及びR3が塩素である4-エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンの製造のための方法である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
連続的形式で実施する方法を可能にするためには、第一の連続撹拌槽型反応器中の式(III)のアルキルビニルエーテルの濃度が15%w/w以下、さらには10%w/w以下、さらには5%w/w以下であることが重要であることが分かっている。
【0017】
第一の連続撹拌槽型反応器の溶媒はそこで反応が起こり得る任意の好適な溶媒でよい。好適な溶媒の例にはトルエン、塩化メチレン及び二塩化エチレンが含まれる。しかしながら、本発明の好ましい実施形態は、溶媒に式(I)の化合物、式(IV)の化合物、またはそれらの混合物を含む。溶媒として式(I)の化合物及び/または式(IV)の化合物を使用することは、さらなる溶媒の使用を回避し、さらなる精製のステップを回避し、望ましくない無駄な流れ(stream)の発生を回避する簡易化方法を提供し、それゆえ大幅なコストの削減を提供する。加えて、本発明の連続的方法において、式(I)の化合物及び/または式(IV)の中間化合物を溶媒として使われる場合、例えばトルエンと比較して、アセチル化のより早い速度が観察されることが分かっている。さらに上記方法の中で使われる式(II)のハロゲン化物が気体(例えば、トリフルオロアセチルクロリド)の場合には、それは式(I)の化合物及び/または式(IV)の化合物に容易に溶けることが分かっている。
【0018】
従って、本発明の連続的方法において、式(II)のハロゲン化物と式(III)のビニルエーテルは第一の連続撹拌槽型反応器に供給される。反応器中のハロゲン化物とビニルエーテルとのモル比は通常は0.8:1〜1:0.8であり、好ましくは0.9:1からである。
【0019】
通常、連続撹拌槽型反応器の中への供給割合は、1〜5時間で全反応器容量を交換するように調整される。
【0020】
第一の連続撹拌槽型反応器の内部の温度は、通常-20℃〜+35℃であり、より好ましくは-10℃〜+10℃である。
【0021】
本発明の方法は、反応器容量を最小限に抑えることができる二つの連続撹拌槽型反応器を含むことが明らかである。アセチル化反応を実施する連続撹拌槽型反応器を一つだけ用いることによる式(IV)の中間体化合物の収率は、90%以上となり得る。しかしながら、さらなる収率の向上のためには、当然のことながらその方法はさらなる反応器を含み得る。例えば、ハロゲン化水素の除去が行われる第二の連続撹拌槽型反応器に反応物が移される前に、第一の撹拌型反応器からの反応物は一つまたはそれ以上のさらなる連続撹拌槽型反応器に移され得る。本発明の特に好ましい実施の形態として、最初の撹拌型反応からの反応物を第二の連続撹拌槽型反応器に移す前に、管型(plug-flow)反応器に移す。一つまたはそれ以上のさらなる連続撹拌槽型反応器(複数)及び/または管型反応器(複数)を用いることによって、式(IV)の中間体化合物の収率は95%以上に上げることができる。
【0022】
管型反応器の内部の温度は第一の連続撹拌槽型反応器と同程度でよい。しかしながら、好ましい実施形態では、管型反応器の内部の温度は0℃〜+35℃であり、より好ましくは、10℃〜+35℃であり、この温度は速い速度で行われるこの反応を可能にし、管型反応器との結合に使われる冷却装置の必要性を否定し、よってコストをさらに削減することができる。
【0023】
管型反応器の滞留時間は、通常15分〜4時間であり、より好ましくは30分〜1時間である。
【0024】
ひとたび式(IV)の中間体化合物の形成が所望のレベルに達すると、反応物は第二の撹拌槽型反応器に移され、その反応器の条件は式(IV)の中間体化合物ハロゲン化水素の除去が起こり、式(I)のハロアルケノンエーテルが形成される条件である。
【0025】
当業者はハロゲン化物の除去に要求される条件の性質を容易に理解できるだろう。通常、ハロゲン化水素の除去は、高い温度、低い圧力、またはその組み合わせのもとで起こる。それ故、好ましい実施形態では、第二の連続撹拌槽型反応器の内部温度は+30℃〜+150℃であり、より好ましくは+70℃〜+110℃であり、さらに好ましくは+90℃〜+100℃である。実際には、+90℃以上の内部温度は、望ましくない副生成物の形成を避ける反応器の滞留時間の短縮になるため非常に有益である。
【0026】
これまで述べてきたように、ハロゲン化水素の除去の改善にために、第二の撹拌槽型反応器の内部の圧力は、場合によりに低下させることができる。それ故、好ましい実施形態では、第二の連続撹拌槽型反応器の内部の圧力は0〜500 mbarであり、より好ましくは250〜300 mbarである。第二の反応器の反応物の滞留時間は通常15分〜4時間であり、好ましくは60分〜3時間である。第二の連続撹拌槽型反応器からの反応物は反応器を介して再利用され、または式(IV)の中間体化合物から式(I)のハロアルケノンエーテルへの変換の改良のために必要であれば、さらなる連続撹拌槽型反応器に移行される、と理解できる。さらなるステップが使用される場合、変換のさらなる改善のための再利用のステップ中に第二の連続撹拌槽型反応器の内部圧力を下げることは有益である。
【実施例】
【0027】
一般的な手順
オーバーヘッド撹拌器と一側面に排出口を備えた200 mLのジャケット付き反応器を180 mLの4-エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンまたは4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタノンで満たした。反応器は水酸化ナトリウム水溶液を含むスクラバーに接続した。ジャケット温度は-10℃に調節し、内部の温度を-5℃〜10℃に維持した反応器にトリフルオロアセチルクロリド(TFAC)とエチルビニルエーテル(EVE)とを同時に供給した。全反応器容量は2〜3時間で交換し、供給の割合は適宜調節した。溢れ出る反応混合物は第一の反応器の排出口に取り付けられた管型反応器(PFR)に移行することができる。PFRの反応混合物の滞留時間は30分であった。PFRは室温で稼動させた。PFRの最後の反応混合物の分析はGCとNMR分析の両方で行った。通常、EVEの全消費がみられた。NMRにより、反応混合物中の4-エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンの含有量を決定し、通常3時間かそれ以上実施後には通常10%未満となることが分かった。4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタノンの化学収率は90%〜100%である。Cl-IM: 1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 5.96 (dd, J=7.0, 4.5 Hz, 1 H), 3.96 (dq, J=9.5, 7.0 Hz, 1 H), 3.61 (dq, J=9.5, 7.0 Hz, 1 H), 3.51 (dd, J=18.1 , 6.5 Hz, 1 H), 3.38 (dd, J=18.1, 4.5 Hz, 1 H), 1.24 (t, J=7.0 Hz, 3 H)。
【0028】
4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン/4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタノン混合物はオーバーヘッド撹拌器を備えた第二のジャケット付き反応器(200 mL容量) に供給した。反応器は水酸化ナトリウム水溶液を含むスクラバーに接続した。反応の初期において、反応器は4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタノンを含み、温度80℃及び周囲圧力、または80℃及び内部圧力350 mbarで行った。全反応器容量が変化するまでの時間は60〜120分であり;供給の割合は適宜調整した。得られる溢れ出た反応混合物を回収し、分析した。反応器が周囲圧力で運転した場合、回収した物質は十分に変換されていないことがあり、回収した物質は二回目の運転の反応器に再度供給した。この二回目の運転では反応器は350 mbarで行った。運転(複数)後、溢れ出た物質は75〜85%の4-エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンを含むことが分かった。
【0029】
4-エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン:1H-NMR (400 MHz, CDCl3): δ = 7.88 (d, J=12.6 Hz, 1 H), 5.84 (d, J=12.6 Hz, 1 H), 4.09 (q, J=7.0 Hz, 2 H), 1.38 (t, J=7.0 Hz, 3 H). 13C-NMR (100 MHz, CDCl3): δ= 180.8 (JC-F =35 Hz), 168.0, 116.4 (JC-F= 290 Hz), 98.0, 69.0, 14.3. GC分析: HP 6890、J&W DB-5カラム、15 m、直径530 μm、注入口:180℃、流量 He: 3.5 mL/分、9.7 kPa;検出器:30 mL H2/分、空気: 400 mL/分、300 ℃。 温度プログラム: T0=50℃、20℃/分で280℃まで上昇させ、5分保持する。 保持時間:Cl-IM:8.16 分、4-エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン: 8.90分。
【0030】
実施例1:
上記の一般的な手順を用いて、TFAC(854 g、6.45 mol)とEVE (419 g、5.81 mol)を反応させ、4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタノンを含む1244 gの粗混合物を得た。二つの連続的な運転(滞留時間は各60分、1回目は最初は周囲圧力、2回目は350 mbar)において、この混合物の1239 gは4-エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オンに変換され、4-エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン(802 g、4.77 mol、82%)を得た。
【0031】
実施例2:
上記の一般的な手順を用いて、TFAC(715 g、5.40 mol)とEVE (389 g、5.40 mol)を反応させ、4−クロロ−4−エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブタノンを含む1060 gの粗混合物を得た。それらのうち924 gが4-エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン(滞留時間は90分、350 mbar)に変換され、4-エトキシ−1,1,1−トリフルオロ−3−ブテン−2−オン(628 g、3.74 mol、79%)を得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

〔式中、R1はC1−C6ハロアルキル、R2はC1−C6アルキルまたはフェニルである〕
のハロアルケノンエーテル製造ための連続的な方法であって、以下:
(i)溶媒を含む第一の連続撹拌槽型反応器にて、式(II):
【化2】

〔式中、R1はすでに定義した通りであり、R3はハロゲンである〕
のハロゲン化物を式(III):
【化3】

〔式中、R2はすでに定義した通りである〕
のビニルエーテルと反応させ、式(IV):
【化4】

の中間体化合物を形成させるステップ、ここで反応物中の式(III)のビニルエーテル濃度は15%w/w 以下であり;及び
(ii)反応物を第一の連続撹拌槽型反応器から第二の連続撹拌槽型反応器に移すステップ、ここで第二の反応器内の条件は、式(I)のハロアルケノンエーテルを供給するために、上記式(IV)の中間体化合物からのハロゲン化水素(HR3)の除去を可能にする、
を含む、方法。
【請求項2】
前記式(III)のビニルエーテル濃度が10%w/w 以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第一の連続撹拌槽型反応器の溶媒が式(I)の化合物及び/または式(IV)の化合物を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記R1がCH2F、CHF2、CH3、C2H5 及びCF3から成る群から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記R1がCF3である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記R2がエチルである、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記R3が塩素である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記第一の連続撹拌槽型反応器の内部温度が、-20℃〜+35℃である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第一の連続撹拌槽型反応器の内部温度が、-10℃〜+10℃である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第一の撹拌型反応からの反応物を第二の連続撹拌槽型反応器に移す前に管型(plug-flow)反応器に移す、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記管型反応器の滞留時間が15分〜3時間である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記管型反応器の内部温度が0℃〜+35℃である、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記第二の連続撹拌槽型反応器の内部温度が+30℃〜+150℃である、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記第二の連続撹拌槽型反応器の内部温度が+90℃〜+100℃である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第二の連続撹拌槽型反応器の内部圧力が0〜500 mbarである、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−519195(P2012−519195A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552356(P2011−552356)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001267
【国際公開番号】WO2010/099922
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(500584309)シンジェンタ パーティシペーションズ アクチェンゲゼルシャフト (352)
【Fターム(参考)】