説明

ハードカーボンブラック

【課題】高水準のグリップ特性を保持しながら、かつ非常に高度な耐摩耗性を有するハードカーボンブラックを提供する。
【解決手段】ハードカーボンブラックは、アグリゲートの形態から規定されるX、Y、Zのそれぞれの値が、下記式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方、および下記式(2)を同時に満足するアグリゲートの総数が個数分率で70%以上であって、かつ下記式(2)を満足するアグリゲートの個数分率が下記式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方を満足するアグリゲートの個数分率を上回る。
X>1.7 式(1−1)
Y >110であってZ >1.6 式(1−2)
Y >110であって1.6≧Z >1.3 式(2)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性とグリップ特性のバランスに優れるハードカーボンブラックに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム配合用のカーボンブラックは、その用途、目的に応じて様々な種類があり、比表面積やアグリゲートなど各種特性により分類されている。
これらのうち、タイヤトレッド用カーボンブラック、特に、高性能タイヤや高速走行を目的とした競技用タイヤに使用されるカーボンブラックにおいては高度の耐摩耗性と操縦安定性を実現することが要求されている。この2つの要求特性のうち、後者の操縦安定性を実現するには、ゴム組成物のグリップ特性を向上させることが重要である。
これらの要求性能を満たすためのカーボンブラックとしては、例えば、耐摩耗性を向上させるには比表面積が大きく高アグリゲート(ハイストラクチャー)であることが有効である。一方、グリップ特性を改善するには比表面積が大きく低アグリゲート(ローストラクチャー)であることが有効である。すなわち、高耐摩耗性とグリップ性の両立は二律背反する命題といえる。
【0003】
耐摩耗性とグリップ特性を高度にバランスさせるべく、カーボンブラックの様々な特性に着目した多くの特許出願がなされている。
【0004】
例えば、CTAB吸着比表面積が110〜200 m2/g、24M4DBP吸油量(吸収量)が95〜140ml/100gで、体面積平均径Daとその標準偏差σaがσa≦0.14Da+3.75の式を満足するカーボンブラックおよびゴム組成物が提案されている(特許文献1参照)。
このカーボンブラックの特徴は従来にない粒子径分布の均一さにあり、耐摩耗性の低下を招く過大粒子径の粒子とゴムへの分散が十分でない過小粒子径の粒子をそれぞれ相対的に少なくすることにより、高水準の操縦安定性と耐摩耗性の両立をもたらすものと考えられている。
【0005】
また、CTAB吸着比表面積が110〜200 m2/g、24M4DBP吸油量が95〜140ml/100gで、アグリゲートの最大頻度径(Dmod)とその半値幅(Dwh)、75%頻度値D75と25%頻度値D25の差(Dq)が、Dq/Dwh≦-0.0125Dmod+1.75の式を満足するカーボンブラックおよびゴム組成物が提案されている(特許文献2参照)。
このカーボンブラックの特徴は従来になくDqが小さい凝集体分布を示していることにあり、すなわち、従来のカーボンブラックに比べ、耐摩耗性に悪影響を与える大凝集体やゴムとの分散性に弊害を引き起こす小凝集体が相対的に少ないことによるものと考えられている。
【0006】
また、CTAB吸着比表面積が160〜220m2/g、N2SA(窒素吸着比表面積)/IA(ヨウ素吸着量)が-40〜-10、1.3×CTAB-155<N2SA-CTAB、<24M4DBPが110〜130、DBP-24M4DBPが40〜60、ΔDst(アグリゲートのストークス径分布の半値幅)≦0.75×24M4DBP-43の各条件を満足するようなカーボンブラックおよびゴム組成物も提案されている(特許文献3参照)。
【0007】
しかしながら、高性能タイヤ、特に、競技用タイヤにおいてはさらに高度な耐摩耗性と操縦安定性の実現が要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−306231号公報
【特許文献2】特開平11−12487号公報
【特許文献3】特開2003−292821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
解決しようとする問題点は、高水準のグリップ特性を保持しながら、かつ非常に高度な耐摩耗性を有するハードカーボンブラックとして未だ十分なものが得られていない点である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、高い耐摩耗性と高いグリップ特性を兼備し、高速走行を目的とした競技用タイヤ用として好適なカーボンブラックを提供するために、アグリゲート形態について鋭意検討した。その結果、アグリゲートの最大長および最小幅、投影面積、周囲長ならびに包絡面積から分類される2種類の特定の形状をもつアグリゲートを従来のカーボンブラックに比べて多くし、かつそれらのアグリゲート形態の割合を制御することにより、高度なグリップ特性を保持しながら耐摩耗性の向上が図れるカーボンブラックを得ることができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明に係るハードカーボンブラックは、下記式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方、および下記式(2)を同時に満足するアグリゲートの総数が個数分率で70%以上であって、かつ下記式(2)を満足するアグリゲートの個数分率が下記式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方を満足するアグリゲートの個数分率を上回ることを特徴とする。
X>1.7 式(1−1)
Y >110であってZ >1.6 式(1−2)
Y >110であって1.6≧Z >1.3 式(2)
ここで、X、Y、Zは、透過型電子顕微鏡によるアグリゲートの二次元投影画像を画像解析し、個々のアグリゲートの最大長および最小幅、投影面積、周囲長ならびに包絡面積から、それぞれ下記式(3)〜(5)で計算される値である
X=(最大長)/(最小幅) 式(3)
Y=(周囲長)2/(投影面積)×(1/4π)×100 式(4)
Z=(包絡面積)/(投影面積) 式(5)
【0012】
また、本発明に係るハードカーボンブラックは、好ましくは、CTAB吸着比表面積が150〜250m/gおよびDBP吸収量が100〜150ml/100gであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るハードカーボンブラックは、下記式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方、および下記式(2)を同時に満足するアグリゲートの総数が個数分率で70%以上であって、かつ下記式(2)を満足するアグリゲートの個数分率が下記式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方を満足するアグリゲートの個数分率を上回るので、タイヤ用ゴムに用いるときに、高水準のグリップ特性を保持しながら、かつ非常に優れた耐摩耗性を発現することができる。このため、高性能タイヤや高速走行を目的とした競技用タイヤに特に好適である。
X>1.7 式(1−1)
Y >110であってZ >1.6 式(1−2)
Y >110であって1.6≧Z >1.3 式(2)
ここで、X、Y、Zは、透過型電子顕微鏡によるアグリゲートの二次元投影画像を画像解析し、個々のアグリゲートの最大長および最小幅、投影面積、周囲長ならびに包絡面積から、それぞれ下記式(3)〜(5)で計算される値である
X=(最大長)/(最小幅) 式(3)
Y=(周囲長)2/(投影面積)×(1/4π)×100 式(4)
Z=(包絡面積)/(投影面積) 式(5)
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1はアグリゲートの最大長および最小幅を説明するための図である。
【図2】図2はアグリゲートの包絡面積と投影面積の関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態(以下、本実施の形態例という。)について、以下に説明する。
【0016】
本実施の形態例に係るハードカーボンブラックは、下記式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方、および下記式(2)を同時に満足するアグリゲートの総数が個数分率で70%以上であって、かつ下記式(2)を満足するアグリゲートの個数分率が下記式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方を満足するアグリゲートの個数分率を上回ることを特徴とする。ここで、下記式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方を満足するアグリゲートは、下記式(1−1)および下記式(1−2)を同時に満足するものを含む。
X>1.7 式(1−1)
Y >110であってZ >1.6 式(1−2)
Y >110であって1.6≧Z >1.3 式(2)
ここで、X、Y、Zは、透過型電子顕微鏡によるアグリゲートの二次元投影画像を画像解析し、個々のアグリゲートの最大長および最小幅、投影面積、周囲長ならびに包絡面積から、それぞれ下記式(3)〜(5)で計算される値である
X=(最大長)/(最小幅) 式(3)
Y=(周囲長)2/(投影面積)×(1/4π)×100 式(4)
Z=(包絡面積)/(投影面積) 式(5)
【0017】
本実施の形態例に係るハードカーボンブラックは、CTAB吸着比表面積が65m2/g以上程度の領域のカーボンブラックをいう。
図1に模式的に示すように、画像解析において、1個のアグリゲートの外周を2本の任意の平行線で挟んだときの最大長さがアグリゲートの最大長であり、最小幅がアグリゲートの最小幅である。
包絡面積と投影面積の関係を図2に模式的に示す。図2中、グレーの星形形状物は1つのアグリゲートを模式的に示したものである。
【0018】
上記した、アグリゲートの最大長および最小幅、投影面積、周囲長ならびに包絡面積の各特性値と、アグリゲートの個数分率は、透過型電子顕微鏡によるアグリゲートの二次元投影画像を画像解析し、以下の方法により得られる。
乾燥させたカーボンブラック試料1mgを試験管に入れ、クロロホルム2mlを加え、3分間超音波で分散させる。分散させた試料をカーボンブラック支持膜に固定し、透過型電子顕微鏡(直接倍率60000倍)で撮影する。得られた二次元投影画像を画像解析装置(NIRECO社製LUZEX−F)にかけ、アグリゲート毎に最大長、最小幅、投影面積、周囲長、包絡面積からX,Y,Zを計算し、式〈1−1〉もしくは式(1−2)のいずれか一方を満足するもの、式(2)を満足するものに分類する。この手順を1000個のアグリゲートについて行い、式〈1−1〉もしくは式(1−2)のいずれか一方を満足するもの、式(2)を満足するものの個数分率が算出される。
式(3)のXはアグリゲートの異方性を示す指標であり、値が大きいほど異方性が高い。式(4)のYはアグリゲートを平面視したときの形状を示す指標であり、値が100(理論最小値)で球形状であり、値が100よりも小さい場合は、球形状には及ばないが形状が滑らか、すなわち表面が平滑であり、一方、値が100よりも大きい場合は、ギザギザした構造をとる。式(5)のZは、アグリゲートの内部容積の程度を示し、値が小さいほど内部容積が小さい。Zの理論最小値は1である。
【0019】
本発明者らは、アグリゲート形態について検討した結果、異方性が高くかつ枝数の少ないアグリゲートはXが1.7を上回るか、またはYが110より大きくかつZが1.6より大きくなることを見出した(式(1−1)、(1−2))。一方、異方性が高く枝数が多くて凹凸に富むアグリゲートはYが110より大きくかつZが1.3より大きく1.6以下となることを見出した(式(2))。なお、Yが110以下では球状に近いアグリゲートとなり、Yが110以上であってもZが1.3以下ではCB表面が比較的平滑なアグリゲートとなる。
そして、上記の知見に基づき検討した結果、ハードカーボンブラックが、式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方、および式(2)を同時に満足するアグリゲートの総数が個数分率で70%以上であって、かつ式(2)を満足するアグリゲートの個数分率が式(1−1)もしくは式(1−2)のいずれか一方を満足するアグリゲートの個数分率を上回ると、従来のハードカーボンブラックに比べて、高水準のグリップ特性を保持しながら非常に優れた耐摩耗性を発現することを見出した。また、このため、高水準の耐摩耗性とグリップ特性を求められる競技用タイヤトレッドの配合ゴム等の用途に好適に用いることができることを見出した。
これに対して、市販のトレッド用ハードカーボンブラックについて調べた結果、カーボンブラックが、式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方、および式(2)を同時に満足するアグリゲートの総数が個数分率で70%未満であって、かつ式(2)を満足するアグリゲートの個数分率が式(1−1)もしくは式(1−2)のいずれか一方を満足するアグリゲートの個数分率以下であった。
【0020】
上記した本実施の形態例に係るハードカーボンブラックの作用効果について、さらに詳細に考察する。
カーボンブラックをゴムに配合すると、カーボンブラック表面のゴム分子は物理吸着等によってカーボンブラック表面に固着し、ゴム分子間の絡み合いも相俟って、カーボンブラック表面には分子運動性の乏しいゴム分子層が形成される。
この運動性の乏しいゴム分子の容積が増えるほど、モジュラスや耐摩耗性などの機械的強度が向上する。一方、このようなカーボンブラック表面近傍の運動性の乏しいゴム分子は変形時に分子間摩擦による発熱が高いものと考えられる。したがって、一般にカーボンブラックの比表面積が増大するほど分子運動性の乏しいゴム層の容積が増え、耐摩耗性が向上し、発熱が高くグリップ特性が良好となる。
カーボンブラックのゴム吸蔵能力を示すファクターとしてDBP吸収量があり、アグリゲート内部の空隙容積ならびにアグリゲート間の空隙容積の総和と考えられる。DBP吸収量が高いほど空隙容積の総和が大きいためにゴム分子を吸蔵しやすい。
ところで、高アグリゲート化はアグリゲート内部の空隙容積を増大させることによってアグリゲート内部にゴム分子を多く吸蔵し、変形に対してアグリゲート形態によって吸蔵したゴム分子の変形を和らげることにより耐摩耗性を向上する効果があると考えられる。しかしながら、過度の高アグリゲート化は加工性の悪化をもたらすため実用上は限界がある。
【0021】
このような背景のもと、アグリゲート形態の視点から耐摩耗性とグリップ特性について考察した結果、DBP吸収量が同等レベルのカーボンブラックであっても、アグリゲート内部の空隙容積とアグリゲート間の空隙容積の割合を制御することにより、カーボンブラックで運動性を抑制されるゴム分子の容積を耐摩耗性が向上するように大きくできれば、カーボンブラックで運動性を抑制されないゴム分子の容積が相対的に少なくなり、発熱性が向上し、グリップ特性を改善できることに想達した。
具体的には、上記の観点から、最大長と最小幅の比を異方性の指標に、周囲長から算出される面積と投影面積の比を凹凸度の指標に、また、包絡面積と投影面積の比をアグリゲート内部容積の指標にして耐摩耗性及びグリップ特性の関係を鋭意検討した結果、アグリゲートの異方性と凹凸度、内部容積に富むアグリゲートが一定割合以上存在し、かつ、異方性及び凹凸度の高いアグリゲートの割合に対して、凹凸度が高く内部容積が一定範囲にあるアグリゲートの割合を多くすることにより、高度な耐摩耗性と優れたグリップ特性が図れることを見出した。
【0022】
本実施の形態例に係るハードカーボンブラックは、CTAB吸着比表面積が150〜250m/gおよびDBP吸収量が100〜150ml/100gであることが好ましい。
ここで、DBP吸収量(単位:ml/100g)は、JIS K6217−4「ゴム用カーボンブラック-基本特性−第4部:オイル吸収量の求め方(圧縮試料を含む)」に準拠して測定される。また、CTAB吸着比表面積(単位:m/g)は、JIS K6217−3「ゴム用カーボンブラック-基本特性−第3部:比表面積の求め方−CTAB吸着法」に準拠して測定される。
【0023】
CTAB吸着比表面積が150m2/g未満では耐摩耗性やグリップ特性が低下するおそれがあり、一方、250m2/gを超えるときにおいてもゴム中のカーボンブラックの分散性が悪化して耐摩耗性が低下するおそれがある。
DBP吸収量が100ml/100g未満では必要なモジュラスが得られないおそれがあり、一方、150ml/100gを超えるとゴム組成物の粘度が高くなり、加工性が悪化するおそれがある。
【0024】
以上説明した本実施の形態に係るハードカーボンブラックは、その製造方法を限定するものではないが、ガスファーネス法やオイルファーネス法等のファーネス法の製法で製造されるものであることが好ましい。
本実施の形態に係るハードカーボンブラックは、例えば、炉の軸方向に装着した燃料バーナーの周囲から燃焼用空気を供給する空気導入口を有する燃焼室に引き続き、同軸的に連設された原料供給口を有する2〜3段階の狭径反応室と広径反応室からなるオイルファーネス炉を用い、原料の供給箇所や供給量、燃料油及び空気、酸素ガス又はその混合物からなる燃焼用ガスの供給量、反応停止時間等を調整することによって製造することができる。
2〜3段階の狭径反応室と広径反応室からなるオイルファーネス炉ではその段差形状によって、高温高速の燃焼ガスの縮流と拡大流れが存在する。一方、アグリゲート形態はカーボンブラック粒子同士の衝突頻度や衝突強度、衝突方向で決まるため、アグリゲート形態を制御するにはオイルファーネス炉の縮流や拡大流れを考慮して反応ポイントを制御しなければならない。
本実施の形態に係るハードカーボンブラックを製造するには、段差形状による燃焼ガスの縮流及び拡大流れを考慮し、適宜、原料供給箇所や供給量、燃料量、酸素ガス又はその混合物からなる燃焼用ガスの供給量、反応停止時間等を調整することが有効である。特に、狭径反応室の下流に位置するテ−パを有する広径反応室から原料を供給することが望ましい。
【実施例】
【0025】
実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0026】
(実施例1〜3および比較例1〜3)
炉の軸方向に装着した燃料バーナーの周囲から燃焼用空気を供給する空気導入口を有する燃焼室(内径900mm、長さ2100mm)に引き続き、半角15°のテ-パ角を有する縮小テ-パ部、円筒直管部(内径530mm、長さ400mm)、炉軸に対して直角方向に原料が供給できる原料供給口を供えた第1反応室(内径370mm、長さ3700mm)、第2反応室(内径254mm、長さ500mm)、半角15°のテ-パ角を有する第3反応室(長さ900mm)及び複数の反応停止用冷却水スプレー装置(QWNo.1-8)を備えた反応停止部(内径420mm)からなるファーネス炉を用いた。なお、原料供給口は、第1反応室に4箇所(FNo.1〜FNo.4)、第2反応室に1箇所(FNo.5)、第3反応室に3箇所(FNo.6〜FNo.8)設置されている。
原料に比重1.05(100/4℃)、BMCI 150、エングラー粘度(70/20℃)1.32、トルエン不溶分0.02%の石炭系原料油を、燃料に比重0.96(15/4℃)、灰分0.001%、エングラー粘度(40/20℃)1.11、トルエン不溶分0.007%の炭化水素油を用いて、原料供給箇所、原料供給量、燃料油供給量、燃焼空気供給量、反応停止箇所を変更して実施例1〜3、比較例1〜3のカーボンブラックを製造した。
このようにして得られたカーボンブラックの製造条件と特性値を表1、表2に示した。特性値でX値、Y値、Z値は個々のアグリゲートについて算出され条件(1)、条件(2)に沿ってその個数分率として算出される。個々のアグリゲートのX値、Y値、Z値の記述は困難であるため、参考として、X値、Y値、Z値の個数平均値を記載した。
また、表3には参考例1、2、3、4として、市販カーボンブラック(参考例1:新日化カーボン社製ニテロン#415UD、
参考例2:新日化カーボン社製ニテロン#430、 参考例3:新日化カーボン社製ニテロン#300IH、 参考例4:新日化カーボン社製ニテロン#200IS)の特性を示した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
実施例、比較例、参考例の各カーボンブラックを表4に示す配合で、混錬を行い、加硫条件160℃、20分で加硫を行ってゴム組成物とした。
【0031】
【表4】

【0032】
ゴム組成物の耐摩耗性とグリップ特性の評価を下記条件で行い、その結果を表5に示した。
ここで、耐摩耗性、グリップ特性は参考例2(ニテロン#430)を100としたときの対比指数で示した。耐摩耗性の対比指数が高いほど摩耗が少なく耐摩耗性が優れていることを示す。グリップ特性は対比指数が大きいほど発熱が大きくグリップ性が優れていることを示す。
(1)摩耗特性の評価
耐摩耗性の評価は岩本製作所社製ランボーン摩耗試験機を用いてスリップ率25%で下記の通りで行った。
装置 : 岩本製作所社製 単連ランボーン摩耗試験機
砥石 : 外径305mm、粒GC、粒度80、結合度K
サンプル : 外径49mm、内径23mm、幅5mm
砂 : カ-ボランダム90メッシュ
サンプル速度 : 50.8m/分(330rpm)
落砂量 : 15g/分
スリップ率 : 25%
荷重 : 3.5kg
(2)グリップ特性の評価
グリップ特性の評価は東洋精機社製粘弾性スペクトロメーターを用いて20℃の損失正接(以下、tanδ(20℃)で示す)を測定した。
装置 : 東洋精機社製粘弾性スペクトロメーター
サンプル : 長さ20mm、幅5mm、厚さ2mm
測定温度 : 20℃
周波数 : 20Hz
初期ひずみ : 10%
振幅 : 2%
【0033】
【表5】

【0034】
表5に示した通り、本発明で規定した条件を満たす実施例1〜3は全て高水準のグリップ特性を保持しながら、非常に優れた耐摩耗性を有していることがわかる。一方、本発明で規定した条件を満たしていない比較例1〜3は実施例ほど耐摩耗性とグリップ特性がバランスしていない。比較例2は条件(1)と条件(2)を満足するアグリゲートの合計が規定した条件を満たしていないため実施例2と比較すると高いグリップ特性を有するものの耐摩耗性が不十分である。比較例1、3は条件(2)を満足するアグリゲートの個数分率が条件(1)を満足する個数分率を下回るため、実施例1、3と比較すると高いグリップ特性を有するものの耐摩耗性が不十分である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方、および下記式(2)を同時に満足するアグリゲートの総数が個数分率で70%以上であって、かつ下記式(2)を満足するアグリゲートの個数分率が下記式(1−1)もしくは下記式(1−2)のいずれか一方を満足するアグリゲートの個数分率を上回ることを特徴とするハードカーボンブラック。
X>1.7 式(1−1)
Y >110であってZ >1.6 式(1−2)
Y >110であって1.6≧Z >1.3 式(2)
ここで、X、Y、Zは、透過型電子顕微鏡によるアグリゲートの二次元投影画像を画像解析し、個々のアグリゲートの最大長および最小径、投影面積、周囲長ならびに包絡面積から、それぞれ下記式(3)〜(5)で計算される値である
X=(最大長)/(最小径) 式(3)
Y=(周囲長)2/(投影面積)×(1/4π)×100 式(4)
Z=(包絡面積)/(投影面積) 式(5)
【請求項2】
CTAB吸着比表面積が150〜250m/gおよびDBP吸収量が100〜150ml/100gであることを特徴とする請求項1に記載のハードカーボンブラック。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−158627(P2012−158627A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17354(P2011−17354)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(597114915)新日化カーボン株式会社 (5)
【Fターム(参考)】