説明

ハードキャンディ

【課題】メントールの清涼感と有機酸の酸味とを共に有していながら、それぞれの成分に由来する独特の苦味、刺激が低減され、しかも抗菌性などの機能性も備えたハードキャンディを提供すること。
【解決手段】フラバン骨格を有するポリフェノール0.035〜0.22重量%、有機酸0.5〜1.2重量%、メントール0.005〜0.06重量%を含有するハードキャンディ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メントールと有機酸を含有するハードキャンディに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のキャンディ市場の中で、特にハードキャンディにおいては、のど飴といわれる商品カテゴリーが増加傾向にある。例えば、(株)富士経済出版社の「2009年マーケティング便覧」によると、ハードキャンディ市場が約920億円(2009年度見込み)であり、そのうちのど飴カテゴリーに属する商品は約500億円(2009年度見込み)とされている。この様にキャンディの中でも特にハードキャンディに対する消費者ニーズは、のど飴に集中してきている。
【0003】
のど飴というカテゴリーに属するハードキャンディには、喉に良いといわれるハーブやハーブエキスの配合や、ビタミンCなどが強化された商品など多種多様にわたる。そのようなのど飴に、特に共通しているポイントは、メントールなどで感じる「清涼感」や酸味で感じる「爽快感」などであり、喉を含めた口腔内に与える官能的要素が重要視されている。この「清涼感」や「爽快感」の強弱はメントールやその誘導体または有機酸などの添加量に比例し、強弱が付くことが知られている。さらにメントールと有機酸を併用する場合、それらの添加量が増加するにつれ、顕著に苦味や刺激を感じることは良く知られている。すなわち、メントールと有機酸を併用する場合、メントールと有機酸に由来する苦味と刺激が強くなるため、メントールなどから得られる「清涼感」と有機酸などの酸味から得られる「爽快感」を共存させることは非常に困難であり、のど飴市場の味のバリエーションや新しい嗜好性を持ち合わせた商品開発の妨げになっている。
【0004】
メントールの苦味や刺激をマスキングする手法としては、多数提案されてきた。例えば、植物油脂やビタミンEなどが提案されている(特許文献1,2)。しかしながら、本発明者らが調べたところ、これらの手法をもってしても、メントールと有機酸の共存下における苦味のマスキングは十分に達成されない。また、大豆、乳タンパク質によるマスキング提案もされている(特許文献3,4)が、これらの手法でも、メントールと有機酸の共存下における苦味のマスキングが不完全である上に、大豆や乳タンパク質の含有量が多くなると、のど飴に好ましくない呈味を付加させる傾向がある。
【0005】
ところで、ポリフェノールを含み、抗酸化作用を有するホップには、渋み、苦味が存在しており、摂取する際にはその面がデメリットとして働く。この問題を解決する方法の一つにメントールが使われており、その清涼感でホップの渋み、苦味を緩和させている(特許文献5)。また抗菌、消臭さらに抗酸化を期待できる緑茶ポリフェノールを使用した口中スプレーの分野でも、そのポリフェノールの渋みを低減させる方法としてメントールが使用されている(特許文献6)。これらの知見は基本的に抗酸化物質であるポリフェノール等を中心に、そのマスキングという観点からメントールを使用しており、メントールと有機酸による清涼感と爽快感を有しながらも、苦味が低減されたのど飴を得るものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】HYPERLINK "" 特開2004−018829号公報
【特許文献2】特許第4460019号公報
【特許文献3】特開2000−32913号公報
【特許文献4】特開2004−73196号公報
【特許文献5】特開2000−159691号公報
【特許文献6】特許第2988928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、メントールの清涼感と有機酸の酸味とを共に有していながら、それぞれの成分に由来する独特の苦味、刺激が低減され、しかも抗酸化作用や抗菌性などの機能性も備えたハードキャンディを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記問題解決のために鋭意研究を行った結果、驚くべきことにフラバン骨格を有するポリフェノールを添加することによって、メントールと有機酸による苦味、刺激がマスキングされるという事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の要旨は、フラバン骨格を有するポリフェノール0.035〜0.22重量%、有機酸0.5〜1.2重量%、メントール0.005〜0.06重量%を含有するハードキャンディに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明のハードキャンディとは、フラバン骨格を有するポリフェノールによってメントールと有機酸による苦味や刺激が低減され、また前記ポリフェノールの抗酸化作用を含む機能性が付与されたのど飴である。このため、これまでになかった新規の効用、効果性および味を持たせた全く新しいのど飴を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のハードキャンディは、フラバン骨格を有するポリフェノール0.035〜0.22重量%、有機酸0.5〜1.2重量%、メントール0.005〜0.06重量%を含有していることを特徴とする。
【0012】
本発明に使用できるポリフェノールは下記式(1):
【0013】
【化1】

【0014】
により表されるフラバン骨格を有するフラボノイド類のポリフェノールである。フラボノイド類としては、フラボン、フラボノール、フラバノン、フラバノロール、イソフラボン、アントシアニン、フラバノール、カルコン、オーロンを基本骨格とする化合物が含まれ、その具体例としては、カテキン、アントシアニン、ルチン、イソフラボンが挙げられる。また、本発明のポリフェノールとしては、前記の単量体ポリフェノールが2個以上結合した重合型のタンニンも含まれる。本発明で使用できるフラバン骨格を有するポリフェノールはこれらに限定されるわけではないが、抗酸化作用を含む機能性を得やすいという観点からアントシアニンが好ましい。
【0015】
また、前記ポリフェノールは、様々な原料に含まれるが、本発明では、原料の種類についても特に限定はない。例えば、茶、ワイン、ブルーベリーに含まれるカテキン、ブルーベリー、ビルベリー、ハスカップに含まれるアントシアニン、ミカンやソバに含まれるルチン、茶、赤ワイン、柿に含まれるタンニンなどが挙げられる。
【0016】
なお、ポリフェノール類としては、前記フラボノイド類以外にも、フェノール酸(クロロゲン酸)、エラグ酸、クルクミンなども含まれるが、本発明では、後述の実施例に示すように、これらの非フラボノイド類のポリフェノールでは所望の効果が奏されない。
【0017】
本発明では、前記の特定のポリフェノールを用いることで、有機酸とメントールを併用した場合に、メントールの清涼感と有機酸の酸味とを共に有していながら、両成分に由来する独特の苦味、刺激を低減し、しかも前記ポリフェノールに由来する抗菌性などの機能性をハードキャンディに付与することが可能になる。
【0018】
前記ポリフェノールの状態は、粉末または溶液であっても良く、特に制限はない。溶液とする場合の溶媒としては、水であればよい。
【0019】
本発明において、前記ポリフェノールは固形重量でハードキャンディ全体の0.035〜0.22重量%で添加される。前記ポリフェノールの含有量が0.035重量%未満ではメントールおよび有機酸の苦味をマスキングできず、0.22重量%より多くなるとポリフェノールの渋みが目立つようになる。
【0020】
本発明に使用できる有機酸には、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、フマル酸、酢酸などが挙げられるが、本発明で使用できる有機酸はこれらに限定されるわけではない。
【0021】
本発明において、有機酸は固形重量でハードキャンディ全体の0.5〜1.2重量%で添加される。前記有機酸の含有量が0.5重量%未満では酸味が感じられず、味が重く感じられ、1.2重量%より多くなるとメントールの苦味が強くなり、また舌への刺激が強くなる。
【0022】
本発明に使用できるメントールには、天然のメントール、合成メントールの単独もしくは混合品である。
【0023】
本発明において、メントールは固形重量でハードキャンディ全体の0.005〜0.06重量%で添加される。前記メントールの含有量が0.005重量%未満ではメントール清涼感が感じられず、0.06重量%より多くなるとメントールの苦味、刺激が目立つようになる。
【0024】
本発明のハードキャンディとしては、砂糖、水飴を主原料とするキャンディや糖アルコールを主原料とするシュガーレスキャンディであればよい。また、本発明のハードキャンディには、副原料として果汁、種実、乳製品、澱粉、小麦粉、油脂、香料、調味料等を任意に添加することができる。
【0025】
本発明のハードキャンディは、通常のハードキャンディと同様にして製造することができる。例えば、砂糖、水飴、糖アルコールなどの糖液を加熱溶解し、濃縮した生地飴に前記フラバン骨格を有するポリフェノール、有機酸、メントール、必要であれば副原料を添加混合し、次いで、所望の形に成形して、冷却することで得ることができる。
【0026】
前記のようにして得られた本発明のハードキャンディは、任意に他のキャンディと組み合わせることも可能である。
【実施例】
【0027】
次に実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。なお、実施例中の数字は重量%を意味する。
【0028】
(実施例1〜3、比較例1〜4)
糖質として砂糖600部と酵素水飴540部とを加熱溶解した後、125℃で濃縮して得られた生地飴に、メントール、クエン酸及びアントシアニンを下記表1に示す固形重量の含有量となるように加えた。次いで、スタンピング成形して、室温で冷却することで、ハードキャンディを得た(形状:平丸、単重:3.5g)。
【0029】
【表1】

【0030】
次に、得られたハードキャンディを20〜40代までの男女計40名に舐めてもらい、苦味、舌への刺激、酸味、清涼感の有無について調査した。その結果を表2に示す。
なお、前記評価は、「ある」「少しある」「ない」の3段階の基準で、最も数の多かった評価を表2に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
表2に示したように、実施例1〜3のハードキャンディは、いずれも苦味、舌への刺激が感じにくいとされ、一方で酸味と共に清涼感があった。また、これらのハードキャンディは、いずれもアントシアニンに由来する抗酸化作用、抗菌性などの機能性にも優れたものである。
【0033】
一方、比較例1、3のハードキャンディについては、メントールの苦味と刺激が感じられた。また、比較例2のハードキャンディについては、メントールではなくアントシアニンの苦味、渋みが感じられた。また、比較例4のハードキャンディに関しては、苦味、刺激はないもののメントールによる清涼感もなかった。
【0034】
(実施例4、5、比較例5〜7)
次にポリフェノールの違いによって奏される効果に違いが生じるかを検証した。表3に示すようにフラボン骨格を有するポリフェノールとして、フラボノイド類ポリフェノールである「アントシアニン」、「カテキン」、「イソフラボン」、およびフラボノイド類ポリフェノールではない「フェノール酸」、「エラグ酸」、「クルクミン」を用いた以外は、メントールとクエン酸の添加量は実施例1と同様にしてハードキャンディを得た。
【0035】
【表3】

【0036】
得られたハードキャンディについては、20〜40代までの男女40名に舐めてもらうことにより、苦味、刺激の有無を評価した。その結果を表4に示す。
【0037】
なお、表4の効果を示す記号は、
「◎」メントールおよびクエン酸の苦味、刺激が緩和されている
「○」メントールおよびクエン酸の苦味、刺激がある程度緩和されている
「△」メントールおよびクエン酸の苦味、刺激がわずかに緩和されている
「×」メントールおよびクエン酸の苦味、刺激が全く緩和されていない
を示している。

なお、表4には最も数の多かった評価を示した。
【0038】
【表4】

【0039】
表4に示されるように、フラボノイド類ポリフェノールである「アントシアニン」、「カテキン」、「イソフラボン」に苦味、刺激の低減効果が見られるのに対し(実施例1、4、5)、フラバン骨格を有さないポリフェノールである、フェノール酸、エラグ酸、クルクミンではいずれも苦味、刺激の低減効果はないか弱かった(比較例5、6、7)。したがって、メントールおよびクエン酸の苦味、刺激の低減は、フラボノイド類ポリフェノールに特有の性質であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラバン骨格を有するポリフェノール0.035〜0.22重量%、有機酸0.5〜1.2重量%、メントール0.005〜0.06重量%を含有するハードキャンディ。

【公開番号】特開2012−29622(P2012−29622A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171828(P2010−171828)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(390020189)ユーハ味覚糖株式会社 (242)
【Fターム(参考)】