説明

ハードディスク装置およびそれに用いる空気整流翼

【課題】 ディスク間の空気の流れの整流化とディスク及びアクチュエータの振動を抑制することができるハードディスク装置およびそれに用いる空気整流翼を提供する。
【解決手段】 ハウジング2と、ハウジング2内に積み重ねた状態で回転可能に収納された複数のディスク3と、ハウジング2内にディスク3表面に対し移動可能に収納された、先端にデータ読み書き用ヘッド4を有するアクチュエータ5とから構成されるハードディスク装置1を対象とする。このハードディスク装置1において、ディスク3間であって、アクチュエータ5先端のヘッド4がディスク3上で移動する位置に対し、ディスク回転方向の下流側の直後に一定間隔をあけて、断面が流線形の空気整流翼6を設けている。また、本発明では、上述したハードディスク装置1を達成するために、基板上11に、複数の断面が流線形の板状体を、その流線形の断面が基板11と平行となるよう立設して構成した空気整流翼6を利用する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ハウジングと、ハウジング内に積み重ねた状態で回転可能に収納された複数のディスクと、ハウジング内にディスク表面に対し移動可能に収納された、先端にデータ読み書き用ヘッドを有するアクチュエータとから構成されるハードディスク装置およびそれに用いる空気整流翼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来から、ハウジングと、ハウジング内に積み重ねた状態で回転可能に収納された複数のディスクと、ハウジング内にディスク表面に対し移動可能に収納された、先端にデータ読み書き用ヘッドを有するアクチュエータとから構成されるハードディスク装置は、種々の構成のものが知られている。このような従来の構成のハードディスク装置において、複数のディスクは高速回転をしているため、また、アクチュエータがディスク間において障害物となるため、ディスク間に回転や障害物に伴う乱気流が発生していた。ディスク間に乱気流が発生すると、ディスク上で浮上させる必要のあるヘッドの飛行が不安定となる問題があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】このヘッドの飛行が不安定となる問題を解消するため、従来、ヘッドのデザインの変更、アクチュエータの形状の変更、ディスクの材質の変更などにより、間接的に気流の乱れを抑えようとしたが、ヘッドの飛行を安定にするには不十分であった。一方、ディスク間に整流用の部材を挿入する例として、特開昭58−70459号公報において、風によるジンバル部材の揺れを防止するためディスク間にスポイラーを設ける例が、また、特開平3−83202号公報において、ディスク間に回転により生じる気流の乱れを整える整流板を設ける例が知られている。しかしながら、これらの技術はいずれもアクチュエータの振動の防止のみを考えているため、近年ますます高速回転が要求されているディスク間でヘッドを安定に飛行させるには不十分であった。
【0004】本発明の目的は上述した課題を解消して、ディスク間の空気の流れの整流化とディスク及びアクチュエータの振動を抑制することができるハードディスク装置およびそれに用いる空気整流翼を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は、ハウジングと、ハウジング内に積み重ねた状態で回転可能に収納された複数のディスクと、ハウジング内にディスク表面に対し移動可能に収納された、先端にデータ読み書き用ヘッドを有するアクチュエータとから構成されるハードディスク装置を対象とする。このハードディスク装置において、ディスク間であって、アクチュエータ先端のヘッドがディスク上で移動する位置に対し、ディスク回転方向の下流側の直後に一定間隔をあけて、断面が流線形の空気整流翼を設けている。
【0006】本発明では、まず、断面が流線形の空気整流翼をディスク間に設けることで、ディスク間の空気の流れの良好な整流化を行うことができる。また、空気流れのスムーズな領域の変化をもたらすと同時に、変化領域内の整流された空気の圧力により、ディスクの振動を押さえ込む事を実現することができる。さらに、空気整流翼を、アクチュエータ先端のヘッドがディスク上で移動する位置に対し、ディスク回転方向の下流側の直後に一定間隔を開けて設けることで、アクチュエータ周りの乱流が抑えられ、アクチュエータの振動を抑制している。
【0007】本発明の好適例として、空気整流翼がハウジングに対し脱着自在に構成され、ディスク間に後付け可能に構成すると、空気整流翼をディスク間にセットする作業が簡単となり、また、空気整流翼の交換も簡単となる。また、複数の空気整流翼を一定間隔をあけて一体に構成すると、複数の空気整流翼のセットや交換をさらに簡単に行うことができる。さらに、アクチュエータ先端のヘッドと、空気整流翼のアクチュエータ先端のヘッドと対向する外縁部との間隔は、ハードディスク装置の大きさによって異なるが、少なくとも4mmすなわち4mm以上とすることで、ヘッドと空気整流翼との接触をなくすことができる。さらにまた、空気整流翼とディスクとの距離も、ハードディスク装置の大きさによって異なるが、空気整流翼の最大厚みの部分とディスクとの距離を、少なくとも0.3mmすなわち0.3mm以上とすることで、空気整流翼とディスクとの接触をなくすことができる。
【0008】また、本発明では、上述したハードディスク装置を達成するために、基板上に、複数の断面が流線形の板状体を、その流線形の断面が基板と平行となるよう立設して構成した空気整流翼を利用する。上述した構成の空気整流翼において、基板をハードディスク装置のハウジングに対し脱着自在とすることで、上述した簡単な空気整流翼のハードディスク装置へのセットを達成できるため好ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】図1(a)、(b)はそれぞれ本発明のハードディスク装置の概念を示す図であり、図1(a)はその平面図を示し、図1(b)は側面から見た図を示す。図1(a)、(b)において、本発明のハードディスク装置1は、ハウジング2と、ハウジング2内に積み重ねた状態で回転可能に収納された複数のディスク3と、ハウジング2内にディスク3の表面に対し移動可能に収納された先頭にデータ読み書き用ヘッド4を有するアクチュエータ5と、ディスク3間に設けた空気整流翼6とから構成されている。なお、図1(b)では、図面を簡単にするため、ハウジング2とアクチュエータ5を除いてある。
【0010】本発明の特徴は、ディスク3間に所定の空気整流翼6を設けた点である。空気整流翼6は、断面(図1(a)においてA−A線に沿った断面)が流線形を有している。また、空気整流翼6は、アクチュエータ5の先端のヘッド4がディスク3上移動する位置(図1(a)において一点鎖線Cで示す位置)に対し、ディスク3の回転方向(図1(a)において矢印で示す方向)の下流側の直後に一定間隔をあけて設けられている。ここで一定間隔の好ましい例では、アクチュエータ5の先端のヘッド4と、空気整流翼6のアクチュエータ5の先端のヘッド4と対向する外縁部6aとの間隔(これが一定間隔となる)を4mm以上とする。これはヘッド4と外縁部6aとの接触を完全に回避するためである。さらに、空気整流翼6は後述するようにハウジング2に対し脱着自在に構成され、ディスク3間に後付け可能に構成されている。さらにまた、空気整流翼6とディスク3との距離を0.3mm以上とし、空気整流翼6とディスク3との接触を完全に回避している。
【0011】図2は本発明のハードディスク装置に用いる空気整流翼6の一例の構成を示す斜視図である。図2において、空気整流翼6を、基板11上に、複数のここでは4枚の空気整流翼6を、その流線形の断面が基板11と平行になるよう立設して設けることで一体化している。また、図2に示す例では、基板11と空気整流翼6との間に、セットした際にハウジングの壁部の一部となる中間部材12を設けている。空気整流翼6の外縁部6aは、上述したように、アクチュエータ5のヘッド4の移動軌跡に従って円弧状に切り落とされている。なお、13はハウジング2にセットする際に利用する基板11に設けた取り付け孔である。
【0012】図3(a)、(b)は、空気整流翼6用に加工されたハウジング2をそれぞれ見る方向を変えて示した斜視図であり、図4(a)、(b)は、空気整流翼6をセットしたハウジング2をそれぞれ見る方向を変えて示した斜視図である。図3(a)、(b)に示すように、ハウジング2の側面に空気整流翼6をセットするための開口部21を形成し、開口部21に設けた取り付け孔22には予めネジを切っておき、これに基板11に設けた取り付け孔13にボルトを通して締結する事で、空気整流翼6をハウジング2にセットしている。そのため、ハードディスク装置1を組み立てた後、空気整流翼6のみを簡単にセットすることができ、取り換えも簡単である。
【0013】上述した本発明のハードディスク装置1およびそれに用いる空気整流翼6では、まず、断面が流線形の空気整流翼6をディスク3間に設けることで、両端がナイフの刃状の流線形の部分において、一方のナイフの刃状の部分から空気が入り他方のナイフの刃状の部分に抜けるため、ディスク3間の空気の流れを整流することができる。また、空気整流翼6が断面流線形状を有するため、空気流れのスムーズな領域の変化をもたらすと同時に、変化領域内の整流された空気の圧力により、ディスク3の振動を押さえ込むことができる。さらに、アクチュエータ5の先端のヘッドがディスク3上で移動する位置に対し、ディスク回転方向の下流側の直後に一定間隔をあけて設けているため、アクチュエータ5の周りの乱流が抑えられ、アクチュエータ5の振動を抑制することができる。
【0014】次に、本発明の効果を調べるため、実際に空気整流翼を設けた本発明のハードディスク装置におけるヘッドの状態と空気整流翼を有さない従来のハードディスク装置におけるヘッドの状態との比較、空気整流翼を有する本発明のハードディスク装置におけるアクチュエータの振動と空気整流翼を有さない従来のハードディスク装置におけるアクチュエータの振動との比較、および、空気整流翼を有する本発明のハードディスク装置と形状の異なる空気整流翼を有する従来のハードディスク装置との比較、をそれぞれ行った。以下それらの結果について説明する。
【0015】■空気整流翼を設けた本発明のハードディスク装置におけるヘッドの状態と空気整流翼を有さない従来のハードディスク装置におけるヘッドの状態との比較について:空気整流翼を設けた4台のハードディスク装置(各10本ヘッド)を準備し、ヘッドの位置による空気整流翼の効果を、ヘッドがディスクの外周部分に位置する場合(OD)、ヘッドがディスクの中間部分に位置する場合(MD)、ヘッドがディスクの内周部分に位置する場合(ID)におけるRRO(Repeatable Runout )、Msigma 、Sigmaの性能向上率を比較することにより評価した。
【0016】ここで、Sigma、Msigma 、RROは以下の通りである。図5にディスクの一例を示すように、通常のハードディスク装置においては、ディスクをセクタ(Sector)毎に記憶し、セクタ一周分をシリンダ(Cylinder)と呼んでいる。図5を参考にして説明すると、まず、Sigmaはヘッドの存在位置(シリンダ中心からの位置ずれ)の標準偏差を意味する。つまり、測定回数×セクタ数分のヘッド位置の標準偏差がSigmaとなる。式の意味から考えれば、Sigmaはあるシリンダにおけるヘッドのふらつき度合いを表すことになる。次に、Msigma は、各セクタにおけるヘッドの存在位置の標準偏差の平均として算出される。セクタがN個あったとしてセクタiにおけるヘッドの存在位置の標準偏差をMsigma(i)とすると、Msigma=(Msigma(1)+..+Msigma(N)/Nと定義される。これから、Msigma はあるシリンダにおけるヘッドの再現性の無いふらつき度合いを表すことになる。最後に、RROはRRO=Sigma−Msigmaで定義される。この式から、RROはあるシリンダにおけるヘッドの再現性のあるふらつき度合いを表すことになる。これは、ふらつきを振動周波数で解析した場合に、常にある周波数で同じような振動レベルを持つものとして示される。また、評価の指標としての性能向上率は、空気整流翼を有さない従来のハードディスク装置における各測定値に対する空気整流翼を有する本発明のハードディスク装置における各測定値の性能向上の割合を(%)の単位で示して求めた。
【0017】図6に外周部分(OD)における測定結果を、図7に中間部分(MD)における測定結果を、図8に内周部分(ID)における測定結果を、それぞれ示す。図6〜図8の結果から、外周部分、中間部分、内周部分のいずれの部分においても性能は向上し、いずれの部分においてもヘッドへの気流の影響を減少できることがわかった。また、各部のうち外周部分の性能向上が大きいことから、ヘッドが最も気流の影響を受けやすいとされる外周部分において、空気整流翼が大きく効いていることがわかった。
【0018】■空気整流翼を有する本発明のハードディスク装置におけるアクチュエータの振動と空気整流翼を有さない従来のハードディスク装置におけるアクチュエータの振動との比較について:空気整流翼を有する本発明のハードディスク装置と空気整流翼を有さない従来のハードディスク装置とにおいて、それぞれのアクチュエータの振動レベルを測定し、各周波数毎に空気整流翼を有する本発明のハードディスク装置における振動レベルをW(n)、空気整流翼を有さない従来のハードディスク装置における振動レベルをD(n)としたときに、振動レベルの改善比率を100-W(n)/D(n)*100 として求め評価した。図9に結果を示す。図9の結果から、ほとんどの周波数において改善比率は大幅なプラスとなり、アクチュエータの振動の低減に空気整流翼が効いている事が分かった。
【0019】■空気整流翼を有する本発明のハードディスク装置と形状の異なる空気整流翼を有する従来のハードディスク装置との比較について:断面が流線形の空気整流翼を有する本発明のハードディスク装置と断面が四角形で平板状の空気整流翼を有する従来のハードディスク装置とにおいて、それぞれディスクの外周部(OD)における上述したSigma、Msigma 、RROを測定し、空気整流翼を有さないハードディスク装置におけるそれらの値に対する性能向上率を求めた。図10に結果を示す。図10の結果から、空気整流翼を設けた例でも、その断面形状によって性能向上率が大きく異なり、本発明のように断面が流線形の空気整流翼でないとディスクのふらつきを十分に抑えることができないことがわかった。
【0020】
【発明の効果】以上の説明から明らかなように、本発明によれば、断面が流線形の空気整流翼をディスク間に設けているため、ディスク間の空気の流れの良好な整流化を行うことができる。また、空気流れのスムーズな領域の変化をもたらすと同時に、変化領域内の整流された空気の圧力により、ディスクの振動を押さえ込む事を実現することができる。さらに、空気整流翼を、アクチュエータ先端のヘッドがディスク上で移動する位置に対し、ディスク回転方向の下流側の直後に一定間隔を開けて設けているため、アクチュエータ周りの乱流が抑えられ、アクチュエータの振動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のハードディスク装置の概念を示す図であり、(a)はその平面図であり、(b)は側面から見た図である。
【図2】 本発明のハードディスク装置に用いる空気整流翼の一例の構成を示す斜視図である。
【図3】 (a)、(b)は空気整流翼用に加工されたハウジングをそれぞれ見る方向を変えて示した斜視図である。
【図4】 (a)、(b)は空気整流翼をセットしたハウジングをそれぞれ見る方向を変えて示した斜視図である。
【図5】 ディスクの構成の一例を示す図である。
【図6】 外周部分におけるRRO、Msigma 、Sigmaの性能向上率を示すグラフである。
【図7】 中間部分におけるRRO、Msigma 、Sigmaの性能向上率を示すグラフである。
【図8】 内周部分におけるRRO、Msigma 、Sigmaの性能向上率を示すグラフである。
【図9】 アクチュエータの振動レベルを評価するための周波数と所定のマグニチュード改善比率との関係を示すグラフである。
【図10】 空気整流翼の形状を評価するための、断面が流線形の空気整流翼と断面が四角形の平板状の空気整流翼において、外周部分におけるPRO、Msigma 、Sigmaの性能向上率を示すグラフである。
【符号の説明】
1 ハードディスク装置、2 ハウジング、3 ディスク、4 ヘッド、5 アクチュエータ、6 空気整流翼、6a 外縁部、11 基板、12 中間部材、13、22 取り付け孔、21 開口部

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ハウジングと、ハウジング内に積み重ねた状態で回転可能に収納された複数のディスクと、ハウジング内にディスク表面に対し移動可能に収納された、先端にデータ読み書き用ヘッドを有するアクチュエータとから構成されるハードディスク装置において、ディスク間であって、アクチュエータ先端のヘッドがディスク上で移動する位置に対し、ディスク回転方向の下流側の直後に一定間隔をあけて、断面が流線形の空気整流翼を設けたことを特徴とするハードディスク装置。
【請求項2】 空気整流翼がハウジングに対し脱着自在に構成され、ディスク間に後付け可能である請求項1記載のハードディスク装置。
【請求項3】 複数の空気整流翼が一定間隔をあけて一体に構成されている請求項1記載のハードディスク装置。
【請求項4】 アクチュエータ先端のヘッドと、空気整流翼のアクチュエータ先端のヘッドと対向する外縁部との間隔を4mm以上とする請求項1記載のハードディスク装置。
【請求項5】 空気整流翼とディスクとの距離を0.3mm以上とする請求項1記載のハードディスク装置。
【請求項6】 請求項1〜5のいずれか1項に記載のハードディスク装置に用いる空気整流翼であって、基板上に、複数の断面が流線形の板状体を、その流線形の断面が基板と平行となるよう立設して構成したことを特徴とする空気整流翼。
【請求項7】 基板が、ハードディスク装置のハウジングに対して脱着自在に構成される請求項6記載の空気整流翼。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2001−23347(P2001−23347A)
【公開日】平成13年1月26日(2001.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−183049
【出願日】平成11年6月29日(1999.6.29)
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレ−ション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION