説明

バイオセンサの製造方法およびバイオセンサ

【課題】酵素およびメディエータがキャビティの端部に偏析することなく反応層を形成することができる技術を提供する。
【解決手段】反応層106は、所定のイオン性物質が電離することによるイオンと反応してゲル化するゲル化剤201と、イオン性物質が溶解した試薬202,203とが、キャビティ103内において混合されることによりゲル化されて形成される。したがって、反応層106がゲル化されているため、反応層106に含まれる酵素およびメディエータの反応層106内における分散状態が固定されると共に、ゲル化されたときの反応層106の形状が維持されるので、例えば、ゲル化された反応層106が乾燥する際に、酵素およびメディエータがキャビティ103の端部に偏析することを防止することができ、酵素およびメディエータが均一に分散した状態の反応層106を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作用極および対極を含む電極系が設けられた電極層と、キャビティを形成するためのスリットが形成されて電極層に積層されるスペーサ層と、キャビティに連通する空気穴が形成されてスペーサ層に積層されるカバー層と、作用極および対極に設けられた反応層とを備えるバイオセンサの製造方法およびバイオセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
図4の従来のバイオセンサに示すように、作用極501および対極502並びに検知電極503を含む電極系と、測定対象物質と特異的に反応する酵素を含む反応層(図示省略)とを有するバイオセンサ500を用いて、試料に含まれる測定対象物質と反応層とが反応することで生成される還元物質を作用極501と対極502との間に電圧を印加して酸化することにより得られる酸化電流を計測することで測定対象物質の定量を行う物質の測定方法が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
図4に示すバイオセンサ500は、試料に含まれるグルコースを定量するためのセンサであって、ポリエチレンテレフタレーやポリイミドなどの絶縁性基板に電極が設けられて形成された電極層504と、カバー層506と、電極層504とカバー層506とに挟まれて配置されるスペーサ層505とが積層されて形成される。また、スペーサ層505には、試料が供給されるキャビティ507を形成するためのスリット505aが設けられており、電極層504にスペーサ層505を介してカバー層506が積層されて接着されることで、電極層504と、スペーサ層505のスリット505aの部分と、カバー層506とにより試料が供給されるキャビティ507が形成される。そして、スリット505aの開口部分によりバイオセンサ500の側面に形成される試料導入口からキャビティ507に試料が供給される。また、カバー層506には、毛細管現象による試料のキャビティ507への供給を円滑に行うために、キャビティ507の終端部と連通する空気穴506aが形成されている。
【0004】
また、電極層504には、作用極501および対極502と検知用電極503とが設けられ、これらの電極501〜503にそれぞれ電気接続される電極パターン501a〜503aが設けられることにより電極層504に電極系が形成されている。また、作用極501および対極502上には反応層が設けられており、作用極501および対極502と検知用電極503とは、それぞれバイオセンサ500に形成されたキャビティ507に露出するように電極層504に設けられている。
【0005】
したがって、液体から成る試料がキャビティ507に試料導入口から供給されると、キャビティ507に露出する各電極501〜503と反応層とが試料に接触すると共に、反応層は試料に溶解する。また、検知用電極503に試料が接触することにより、キャビティ507に試料が供給されたことが検知される。
【0006】
また、作用極501および対極502上に設けられた反応層には、試料に含まれるグルコースに特異的に反応するグルコースオキシダーゼと、メディエータ(電子受容体)としてのフェリシアン化カリウムとが含まれている。そして、フェリシアン化カリウムが試料に溶解することによるフェリシアン化イオンは、グルコースオキシダーゼと反応してグルコースがグルコノラクトンに酸化される際に放出される電子により還元体であるフェロシアン化イオンに還元される。したがって、バイオセンサ500に形成されたキャビティ507にグルコースを含む試料が試料導入口から供給されると、フェリシアン化イオンはグルコースが酸化されることにより放出される電子により還元されるため、試料に含まれて酵素反応により酸化されるグルコースの濃度に応じた量だけフェリシアン化イオンの還元体であるフェロシアン化イオンが生成される。
【0007】
このよう構成されたバイオセンサ500では、酵素反応の結果生じたメディエータの還元体を作用極501上で酸化することにより得られる酸化電流が試料中のグルコース濃度に依存した大きさとなるため、この酸化電流を計測することにより試料に含まれるグルコースの定量を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−320304号公報(段落0011〜0017、図1など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、一般的に、反応層は次のようにして形成される。すなわち、反応層は、電極層504にスペーサ層505が積層されて形成されるキャビティ507に、酵素やメディエータが溶解した試薬を滴下することにより形成される。ところが、このようにして反応層が形成された場合、滴下された試薬がキャビティ507内において乾燥する際に、試薬に含まれる酵素やメディエータがキャビティ507の端部に偏析するおそれがある。酵素やメディエータがキャビティ507の端部に偏析して反応層が形成されると、キャビティ507に血液などの試料が供給された際に、反応層に含まれる酵素やメディエータが供給された試料に均一に溶解しないため、バイオセンサ500を用いた測定対象物質の定量精度が劣化する。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、酵素およびメディエータがキャビティの端部に偏析することなく反応層を形成することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するために、本発明のバイオセンサの製造方法は、絶縁性基板の一方面に作用極および対極を含む電極系が設けられた電極層と、スリットが形成されて、前記スリットが前記作用極および前記対極の先端側に配置されて前記電極層の前記一方面に積層されるスペーサ層と、前記電極層および前記スリットにより形成されて試料が供給されるキャビティと、前記キャビティに連通する空気穴が形成されて前記キャビティを被覆して前記スペーサ層に積層されるカバー層と、前記キャビティに露出する前記作用極および前記対極の先端側に設けられ、測定対象物質と反応する酵素およびメディエータを含む反応層とを備えるバイオセンサの製造方法において、所定のイオン性物質が電離することによるイオンと反応してゲル化するゲル化剤と、前記イオン性物質が溶解した試薬とを、前記キャビティ内において混合して前記反応層を形成することを特徴としている(請求項1)。
【0012】
また、前記ゲル化剤が、カラギーナンまたはアルギン酸化合物であることを特徴としている(請求項2)。
【0013】
また、前記反応層は、前記イオン性物質として機能する前記メディエータを含む前記試薬と前記ゲル化剤とを前記キャビティ内において混合してメディエータ層を形成するメディエータ層形成工程と、前記イオン性物質および前記酵素を含む前記試薬と前記ゲル化剤とを前記メディエータ層上で混合して酵素層を形成する酵素層形成工程とにより形成されることを特徴としている(請求項3)。
【0014】
また、前記反応層は、前記イオン性物質および前記酵素を含む前記試薬と前記ゲル化剤とを前記キャビティ内において混合して酵素層を形成する酵素層形成工程と、前記イオン性物質として機能する前記メディエータを含む前記試薬と前記ゲル化剤とを前記酵素層上で混合してメディエータ層を形成するメディエータ層形成工程とにより形成されることを特徴としている(請求項4)。
【0015】
また、前記イオン性物質が、フェリシアン化化合物、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化カルシウムのいずれかであることを特徴としている(請求項5)。
【0016】
また、本発明のバイオセンサは、絶縁性基板の一方面に作用極および対極を含む電極系が設けられた電極層と、スリットが形成されて、前記スリットが前記作用極および前記対極の先端側に配置されて前記電極層の前記一方面に積層されるスペーサ層と、前記電極層および前記スリットにより形成されて試料が供給されるキャビティと、前記キャビティに連通する空気穴が形成されて前記キャビティを被覆して前記スペーサ層に積層されるカバー層と、前記キャビティに露出する前記作用極および前記対極の先端側に設けられ、測定対象物質と反応する酵素およびメディエータを含む反応層とを備えるバイオセンサにおいて、前記反応層は、所定のイオン性物質が電離することによるイオンと反応してゲル化するゲル化剤と、前記イオン性物質が溶解した試薬とが、前記キャビティ内において混合されて形成されていることを特徴としている(請求項6)。
【0017】
また、前記反応層は、前記イオン性物質として機能する前記メディエータを含む前記試薬と前記ゲル化剤とが混合されて形成されたメディエータ層と、前記イオン性物質および前記酵素を含む前記試薬と前記ゲル化剤とが混合されて形成された酵素層とを備えていることを特徴としている(請求項7)。
【発明の効果】
【0018】
請求項1,6の発明によれば、キャビティに露出する作用極および対極の先端側に設けられ、測定対象物質と反応する酵素およびメディエータを含む反応層は、所定のイオン性物質が電離することによるイオンと反応してゲル化するゲル化剤と、イオン性物質が溶解した試薬とが、キャビティ内において混合されることによりゲル化されて形成される。したがって、反応層がゲル化されているため、反応層に含まれる酵素およびメディエータの反応層内における分散状態が固定されると共に、ゲル化されたときの反応層の形状が維持されるので、例えば、ゲル化された反応層が乾燥する際に、酵素およびメディエータがキャビティの端部に偏析することを防止することができ、酵素およびメディエータが均一に分散した状態の反応層を形成することができる。
【0019】
また、酵素およびメディエータが反応層に均一に分散しているため、反応層がキャビティに供給された試料に溶解する際に、酵素およびメディエータが試料に均一に溶解するので、バイオセンサを用いた測定対象物質の定量精度の向上を図ることができる。
【0020】
また、反応層を形成する際に、ゲル化剤と、イオン性物質が溶解した試薬とを、個別にキャビティに滴下するだけでよく、従来の反応層の形成方法とほぼ同様の方法で反応層を形成することができるので、非常に実用的である。
【0021】
請求項2の発明によれば、カラギーナンまたはアルギン酸化合物によりゲル化剤を構成することにより実用的な構成でバイオセンサを製造することができる。
【0022】
請求項3,4,7の発明によれば、反応層は、イオン性物質として機能するメディエータを含む試薬とゲル化剤とが混合されて形成されたメディエータ層と、イオン性物質および酵素を含む試薬とゲル化剤とが混合されて形成された酵素層とが分離された状態で形成されるので、バイオセンサの保管状態において、反応層に含まれる酵素とメディエータとが反応するのを防止することができる。したがって、バイオセンサの保管状態において、酵素およびメディエータが反応することにより反応層に含まれる酵素およびメディエータが減少して、キャビティに試料が供給されたときに、試料に含まれる測定対象物質と酸化還元反応する酵素およびメディエータの量が減少するのを防止することができるので、バイオセンサを用いた測定対象物質の定量精度が劣化するのを抑制することができる。
【0023】
請求項5の発明によれば、フェリシアン化化合物、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化カルシウムのいずれかからなるイオン性物質が電離することによるカチオンにより、ゲル化剤を確実にゲル化することができるので実用的である。
【0024】
また、ゲル化剤をゲル化するイオン性物質としてフェリシアン化化合物を採用した場合、フェリシアン化化合物は、メディエータとして機能するため、メディエータおよびイオン性物質を同一の物質で構成することができるので、バイオセンサの製造コストの低減を図ることができる。
【0025】
また、ゲル化剤をゲル化するイオン性物質として酸化カルシウムを採用した場合、酸化カルシウムが試料に電離することによる2価のカチオンによりゲル化剤を確実にゲル化することができるので実用的である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態にかかるバイオセンサを示す図であって、(a)は分解斜視図、(b)は斜視図である。
【図2】図1のバイオセンサのキャビティ部分の横断面図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかるバイオセンサの製造方法を示す図であって、(a)〜(e)はそれぞれ異なる工程を示す。
【図4】従来のバイオセンサを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態にかかるバイオセンサおよびこのバイオセンサの製造方法について図1〜図3を参照して説明する。
【0028】
図1は本発明の一実施形態にかかるバイオセンサを示す図であって、(a)は分解斜視図、(b)は斜視図である。図2は図1のバイオセンサのキャビティ部分の横断面図である。図3は本発明の一実施形態にかかるバイオセンサの製造方法を示す図であって、(a)〜(e)はそれぞれ異なる工程を示す。
【0029】
この発明のバイオセンサ100は、作用極101および対極102を含む電極系と、メディエータおよび測定対象物質と反応する酵素を含む反応層106とを有し、測定器(図示省略)に装着されて使用されるものである。すなわち、測定器に装着されたバイオセンサ100の先端側に設けられたキャビティ103に供給された血液などの試料に含まれるグルコースなどの測定対象物質と、バイオセンサ100に設けられた反応層106とが反応することで生成される還元物質を、作用極101と対極102との間に電圧を印加して酸化することにより得られる酸化電流を計測することで、試料に含まれる測定対象物質の定量が行われる。
【0030】
すなわち、バイオセンサ100は、図1および図2に示すように、それぞれ、セラミック、ガラス、プラスチック、紙、生分解性材料、ポリエチレンテレフタレートなどの絶縁性材料により形成された、作用極101および対極102を含む電極系が設けられた電極層110と、キャビティ103に連通する空気穴105が形成されたカバー層130と、キャビティ103を形成するためのスリット104が形成され、電極層110およびカバー層130に挟まれて配置されるスペーサ層120とが、試料導入口103aが設けられる先端側が揃った状態で積層されて接着されることにより形成される。また、作用極101および対極102上には、試料に含まれるグルコースなどの測定対象物質と反応する酵素を含む反応層106が設けられている。そして、後端側から測定器2の所定の挿入口に挿入されて装着されることで、バイオセンサ100は測定器2に装着される。
【0031】
この実施形態では、電極層110は、ポリエチレンテレフタレートなどの絶縁性材料から成る絶縁性基板により形成される。また、電極層110を形成する絶縁性基板の一方面に、白金、金、パラジウムなどの貴金属やカーボン、銅、アルミニウム、チタン、ITO、ZnOなどの導電性物質から成る導電層が、スクリーン印刷やスパッタリング蒸着法により形成されている。そして、絶縁性基板の一方面に形成された導電層に、レーザ加工やフォトリソグラフィによるパターン形成が施されることにより、作用極101および対極102と、バイオセンサセンサチップ100が測定器に装着されたときに、作用極101および対極102のそれぞれと測定器とを電気的に接続する電極パターン101a,102aとを含む電極系が形成される。
【0032】
また、作用極101および対極102は、それぞれの先端側が、キャビティ103に露出するように配置される。また、作用極101および対極102のそれぞれの後端側の電極パターン101a,102aは、試料導入口103aと反対側の電極層110の端縁であって、スペーサ層120が積層されない電極層110の端縁まで延伸されて形成される。
【0033】
次に、上記したようにして形成された電極層110にスペーサ層120が積層される。スペーサ層120は、ポリエチレンテレフタレートなどの絶縁性材料から成る基板により形成され、基板の先端縁部のほぼ中央にキャビティ103を形成するためのスリット104が形成されている。そして、スリット104が、作用極101および対極102の先端側に配置されて、スペーサ層120が電極層110の一方面を部分的に被覆して積層されることにより、電極層110およびスリット104により試料が供給されるキャビティ103が形成される。
【0034】
続いて、電極層110にスペーサ層120が積層されて形成されるキャビティ103部分が、プラズマにより洗浄処理された後に、反応層106が形成される。なお、プラズマ洗浄工程において使用されるプラズマは、酸素プラズマ、窒素プラズマ、アルゴンプラズマなど、プラズマによる金属活性化処理において使用される種々のプラズマを使用することができ、減圧プラズマであっても大気圧プラズマであってもよい。
【0035】
図3(a)〜(e)に示すように、反応層106は、カバー層130がスペーサ層120に積層される前に、キャビティ103に露出する作用極101および対極102の先端側に、所定のイオン性物質が電離することによるイオンと反応してゲル化するゲル化剤201と、ゲル化剤をゲル化するイオン性物質およびカルボキシメチルセルロースやゼラチンなどの増粘剤、酵素、メディエータ、アミノ酸や有機酸などの添加物を含有する試薬202,203を滴下して混合することにより形成される。また、キャビティ104への血液などの試料の供給を円滑にするために、界面活性剤やリン脂質などの親水化剤がキャビティ104内壁に塗布される。
【0036】
具体的には、反応層106は、イオン性物質として機能するメディエータを少なくとも含む試薬202とゲル化剤201とが混合されて形成されたメディエータ層107と、イオン性物質および酵素を少なくとも含む試薬203とゲル化剤201とが混合されて形成された酵素層108とを備え、次のようにして形成される。
【0037】
すなわち、図3(a)に示すように、カラギーナンまたはアルギン酸化合物を含むゲル化剤201が滴下装置200からキャビティ103に所定量滴下される。次に、図3(b)に示すように、ゲル化剤201をゲル化するイオン性物質として機能する、例えば、フェリシアン化化合物から成るメディエータを少なくとも含む試薬202が、滴下装置200からキャビティ103に所定量滴下されることにより、ゲル化剤201および試薬202がキャビティ103内において混合されてメディエータ層107が形成される(メディエータ層形成工程)。
【0038】
続いて、図3(c)に示すように、ゲル化剤201が滴下装置200からキャビティ103に所定量滴下される。そして、図3(d)に示すように、塩化ナトリウムや塩化カリウム、塩化カルシウムなどのイオン性物質および酵素を少なくとも含む試薬203が、滴下装置200からキャビティ103に所定量滴下されることにより、ゲル化剤201および試薬203がメディエータ層107上で混合されて酵素層108が形成されることにより、反応層106が形成される(図3(e)、酵素層形成工程)。
【0039】
なお、上記した例では、メディエータ層107がキャビティ103に形成された後に、メディエータ層107上に酵素層108が形成されるが、酵素層108がキャビティ103に形成された後に、酵素層108上にメディエータ層107が形成されてもよい。また、上記した例では、ゲル化剤201がキャビティ103に滴下された後に、ゲル化剤201をゲル化するイオン性物質を含む試薬202,203がキャビティ103に滴下されているが、イオン性物質を含む202,203がキャビティ103に滴下された後に、ゲル化剤201がキャビティ103に滴下されてもよい。
【0040】
また、酵素としては、グルコースオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、ザルコシンオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、コレステロールエステラーゼ、クレアチニナーゼ、クレアチナーゼ、DNAポリメラーゼなどを用いることができ、これらの酵素を検出したい測定対象物質に応じて選択することで種々のセンサを形成することができる。
【0041】
例えば、グルコースオキシダーゼまたはグルコースデヒドロゲナーゼを用いれば血液試料中のグルコースを検出するグルコースセンサを形成でき、アルコールオキシダーゼまたはアルコールデヒドロゲナーゼを用いれば血液試料中のエタノールを検出するアルコールセンサを形成でき、乳酸オキシダーゼを用いれば血液試料中の乳酸を検出する乳酸センサを形成でき、コレステロールエステラーゼとコレステロールオキシダーゼとの混合物を用いれば総コレステロールセンサを形成できる。
【0042】
また、メディエータとしては、フェリシアン化カリウム、フェロセン、フェロセン誘導体、ベンゾキノン、キノン誘導体、オスミウム錯体、ルテニウム錯体などを用いることができる。
【0043】
また、増粘剤としては、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ポリエチレンイミン DEAEセルロース ジメチルアミノエチルデキストラン デキストランなどを用いることができる。親水化剤としては、TritonX100(シグマアルドリッチ社製)、Tween20(東京化成工業社製)、ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウムなどの界面活性剤、レシチンなどのリン脂質を用いることができる。
【0044】
また、試料に含まれるイオン濃度のばらつきを低減するために、リン酸などの緩衝剤を設けてもよい。
【0045】
次に、反応層106がキャビティ103に形成された後に、ポリエチレンテレフタレートなどの絶縁性材料から成る基板により形成されたカバー層130が、スペーサ層120に積層されることにより、バイオセンサ100が形成される。図1(a),(b)に示すように、カバー層130には、スペーサ層120に積層されたときにキャビティ103と連通する空気穴105が形成されており、カバー層130は、キャビティ103を被覆してスペーサ層120に積層される。
【0046】
なお、この実施形態では、バイオセンサ100は、血液中のグルコースの定量を行うことを目的に形成されており、測定対象物質としてのグルコースと特異的に反応する酵素としてFAD(フラビンアデニンジヌクレオチド)を補酵素とするGDH(グルコースデヒドロゲナーゼ)(以下、FAD−GDHと表記する)を含み、測定対象物であるグルコースとFAD−GDHとの反応により生成される電子により還元されて還元物質と成るメディエータとしてフェリシアン化カリウムを含む反応層106がキャビティ103に露出する作用極101および対極102の先端側に設けられている。
【0047】
このように構成されたバイオセンサ100では、先端の試料導入口103aに血液から成る試料を接触させることにより、毛細管現象により試料が空気穴105に向かって吸引されてキャビティ103に試料が供給される。そして、キャビティ103に供給された試料に反応層106が溶解することにより、試料中の測定対象物質であるグルコースとFAD−GDHとの酵素反応により電子が放出され、放出された電子によりフェリシアン化イオンが還元されて還元物質であるフェロシアン化イオンが生成される。そして、反応層106が試料に溶解することによる酸化還元反応により生成された還元物質を、バイオセンサ100の作用極101と対極102との間に電圧を印加して電気化学的に酸化することにより、作用極101と対極102との間に流れる酸化電流を計測することで試料中のグルコースの定量が測定器において行われる。
【0048】
以上のように、この実施形態によれば、キャビティ103に露出する作用極101および対極102の先端側に設けられ、測定対象物質と反応する酵素およびメディエータを含む反応層106は、所定のイオン性物質が電離することによるイオンと反応してゲル化するゲル化剤201と、イオン性物質が溶解した試薬202,203とが、キャビティ103内において混合されることによりゲル化されて形成される。
【0049】
したがって、反応層106がゲル化されているため、反応層106に含まれる酵素およびメディエータの反応層106内における分散状態が固定されると共に、ゲル化されたときの反応層106の形状が維持されるので、例えば、ゲル化された反応層106が乾燥する際に、酵素およびメディエータがキャビティ103の端部に偏析することを防止することができ、酵素およびメディエータが均一に分散した状態の反応層106を形成することができる。
【0050】
また、酵素およびメディエータが反応層106に均一に分散しているため、反応層106がキャビティ103に供給された試料に溶解する際に、酵素およびメディエータが試料に均一に溶解するので、バイオセンサ100を用いた測定対象物質の定量精度の向上を図ることができる。
【0051】
また、酵素およびメディエータのキャビティ103内における偏析を防止するために、粘度の高い試薬202,203をキャビティ103に滴下する必要がない。そのため、粘度の低い試薬202,203をキャビティ103に滴下することで、試薬202,203のキャビティ103への滴下量のばらつきを低減することができるので、反応層106に含まれる酵素およびメディエータの量が、バイオセンサ100ごとにばらつくのを低減することできる。したがって、バイオセンサ100を用いた測定対象物質の定量精度の向上を図ることができる。
【0052】
また、反応層106を形成する際に、ゲル化剤とイオン性物質が溶解した試薬とを、個別にキャビティ103に滴下するだけでよく、従来の反応層106の形成方法とほぼ同様の方法で反応層106を形成することができるので、非常に実用的である。
【0053】
また、カラギーナンまたはアルギン酸化合物によりゲル化剤を構成することにより実用的な構成でバイオセンサを製造することができる。
【0054】
また、反応層106は、イオン性物質として機能するメディエータを含む試薬202とゲル化剤201とが混合されて形成されたメディエータ層107と、イオン性物質および酵素を含む試薬203とゲル化剤201とが混合されて形成された酵素層108とが分離された状態で形成されるので、バイオセンサ100の保管状態において、反応層106に含まれる酵素とメディエータとが反応するのを防止することができる。したがって、バイオセンサ100の保管状態において、酵素およびメディエータが反応することにより反応層106に含まれる酵素およびメディエータが減少して、キャビティ103に試料が供給されたときに、反応層106において、試料に含まれる測定対象物質と酸化還元反応する酵素およびメディエータの量が減少するのを防止することができるので、バイオセンサ100を用いた測定対象物質の定量精度が劣化するのを抑制することができる。
【0055】
また、フェリシアン化化合物、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化カルシウムのいずれかからなるイオン性物質が電離することによるカチオンにより、ゲル化剤を確実にゲル化することができるので実用的である。
【0056】
また、ゲル化剤をゲル化するイオン性物質としてフェリシアン化化合物を採用した場合、フェリシアン化化合物は、メディエータとして機能するため、メディエータおよびイオン性物質を同一の物質で構成することができるので、バイオセンサ100の製造コストの低減を図ることができる。
【0057】
また、ゲル化剤をゲル化するイオン性物質として酸化カルシウムを採用した場合、酸化カルシウムが試料に電離することによる2価のカチオンによりゲル化剤を確実にゲル化することができるので実用的である。
【0058】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、上記したもの以外に種々の変更を行なうことが可能であり、例えば、上記したバイオセンサ100の反応層106に含まれる酵素およびメディエータの組合せを変更することによりエタノールセンサや乳酸センサなどを形成してもよい。
【0059】
また、上記した実施形態では、バイオセンサ100は、作用極101および対極102を有する二極電極構造に形成されているが、参照極をさらに設けることによりバイオセンサ100を三極電極構造に形成してもよい。この場合、対極102を接地して電圧出力部により参照極に参照電位を印加した状態で、作用極101に対極102を基準とする所定電位を印加すればよい。
【0060】
また、上記した実施形態では、作用極101と対極102との間に所定電圧を印加することにより、作用極101と対極102との間に流れる電流を監視することで、キャビティ103に血液試料が供給されたことが検出されるが、キャビティ103に試料が供給されたことを検知するための検知用電極をさらに設けてもよい。この場合、対極102と検知用電極との間に所定電圧を印加することにより、対極102と検知用電極との間に流れる電流を監視することで、キャビティ103に試料が供給されたことを検出すればよい。
【0061】
また、バイオセンサ100を形成する電極層110、スペーサ層120およびカバー層130のうち、少なくともカバー層130は、キャビティ103に血液試料が供給されたことを視認できるように透明な部材で形成するのが望ましい。
【0062】
また、本発明は、種々のバイオセンサの製造方法およびバイオセンサに適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
100 バイオセンサ
101 作用極
102 対極
103 キャビティ
104 スリット
105 空気穴
106 反応層
107 メディエータ層
108 酵素層
110 電極層
120 スペーサ層
130 カバー層
201 ゲル化剤
202,203 試薬

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基板の一方面に作用極および対極を含む電極系が設けられた電極層と、
スリットが形成されて、前記スリットが前記作用極および前記対極の先端側に配置されて前記電極層の前記一方面に積層されるスペーサ層と、
前記電極層および前記スリットにより形成されて試料が供給されるキャビティと、
前記キャビティに連通する空気穴が形成されて前記キャビティを被覆して前記スペーサ層に積層されるカバー層と、
前記キャビティに露出する前記作用極および前記対極の先端側に設けられ、測定対象物質と反応する酵素およびメディエータを含む反応層とを備えるバイオセンサの製造方法において、
所定のイオン性物質が電離することによるイオンと反応してゲル化するゲル化剤と、前記イオン性物質が溶解した試薬とを、前記キャビティ内において混合して前記反応層を形成する
ことを特徴とするバイオセンサの製造方法。
【請求項2】
前記ゲル化剤が、カラギーナンまたはアルギン酸化合物であることを特徴とする請求項1に記載のバイオセンサの製造方法。
【請求項3】
前記反応層は、
前記イオン性物質として機能する前記メディエータを含む前記試薬と前記ゲル化剤とを前記キャビティ内において混合してメディエータ層を形成するメディエータ層形成工程と、
前記イオン性物質および前記酵素を含む前記試薬と前記ゲル化剤とを前記メディエータ層上で混合して酵素層を形成する酵素層形成工程とにより形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のバイオセンサの製造方法。
【請求項4】
前記反応層は、
前記イオン性物質および前記酵素を含む前記試薬と前記ゲル化剤とを前記キャビティ内において混合して酵素層を形成する酵素層形成工程と、
前記イオン性物質として機能する前記メディエータを含む前記試薬と前記ゲル化剤とを前記酵素層上で混合してメディエータ層を形成するメディエータ層形成工程とにより形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のバイオセンサの製造方法。
【請求項5】
前記イオン性物質が、フェリシアン化化合物、塩化ナトリウム、塩化カリウムおよび塩化カルシウムのいずれかであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のバイオセンサの製造方法。
【請求項6】
絶縁性基板の一方面に作用極および対極を含む電極系が設けられた電極層と、
スリットが形成されて、前記スリットが前記作用極および前記対極の先端側に配置されて前記電極層の前記一方面に積層されるスペーサ層と、
前記電極層および前記スリットにより形成されて試料が供給されるキャビティと、
前記キャビティに連通する空気穴が形成されて前記キャビティを被覆して前記スペーサ層に積層されるカバー層と、
前記キャビティに露出する前記作用極および前記対極の先端側に設けられ、測定対象物質と反応する酵素およびメディエータを含む反応層とを備えるバイオセンサにおいて、
前記反応層は、
所定のイオン性物質が電離することによるイオンと反応してゲル化するゲル化剤と、前記イオン性物質が溶解した試薬とが、前記キャビティ内において混合されて形成されている
ことを特徴とするバイオセンサ。
【請求項7】
前記反応層は、
前記イオン性物質として機能する前記メディエータを含む前記試薬と前記ゲル化剤とが混合されて形成されたメディエータ層と、
前記イオン性物質および前記酵素を含む前記試薬と前記ゲル化剤とが混合されて形成された酵素層と
を備えていることを特徴とする請求項6に記載のバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−108791(P2013−108791A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252766(P2011−252766)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)