説明

バイオセンサチップ

【課題】 測定に必要な試料の採取量を少なくして、使用者の負担を軽減するとともに、ヘマトクリット値の影響を抑制できるバイオセンサチップを提供する。
【解決手段】 赤血球を含む血液中の成分を測定するバイオセンサチップ10であって、バイオセンサチップ10は、基板11と、カバー層12と、該基板11とカバー層12間に設けられた中空反応部19と、該中空反応部19に設けられた一対の検知用電極14,15と、該中空反応部19に血液を導入する試料導入口20と、該試料導入口20内に採取された血液と反応する酵素及びメディエータを含有する試薬層18と、を有し、中空反応部19の厚さが、90μm以下であり、血液が流れる方向における奥行きと幅の比が、奥行き寸法/幅寸法=1.8以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料導入口に採取された血液試料に含まれる物質を測定するバイオセンサチップに関し、特に中空反応部の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、試料を採取して化学物質の測定や分析を行うバイオセンサチップが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5に示すように、上記特許文献1に開示されたバイオセンサチップ100は、第1の絶縁基板101と第2の絶縁基板102とを積層しており、両絶縁基板101,102の間に一対の導電性軌道103,104が設けられている。第2の絶縁基板102の一端には切欠き102aが設けられており、両導電性軌道103,104はバイオセンサチップ100の一端に露出している。また、両絶縁基板101,102の他端側の側縁部には凹部105,106が設けられており、さらに第2の絶縁基板102の凹部106には開口部107が設けられている。そして、この開口部107には試薬108が設けられており、開口部107上には親水性のあるコーティング109を介して、凹部106と同様の凹部111を有する蓋部材112が取付けられている。従って、凹部105,106,111を穿刺された指等に押し付けることで、試料を開口部107内の試薬108に導いて測定を行う。
【特許文献1】特開2004−279433号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば糖尿病患者のように、血糖値を1日に何度も測定しなければならない者にとっては、試料である血液の採血量が多くなると負担が大きくなるので、測定に必要な血液の採取量を少なくすることが望ましい。一方、血糖値の測定においては、血液中に含まれる血球成分の値(主に赤血球の血液中に占める割合で、所謂、ヘマトクリット値と呼ばれている値)により血糖値がずれることが知られている。そのため、血液の採取量を少なくすると血液中に含まれる血球成分が、血糖値の測定結果に影響を与える虞がある。
【0005】
そこで本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、測定に必要な血液の採取量を少なくして、使用者の負担を軽減するとともに、ヘマトクリット値の影響を抑制できるバイオセンサチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するために、本発明に係る第1の特徴であるバイオセンサチップは、赤血球を含む血液試料中の成分を測定するバイオセンサチップであって、
前記バイオセンサチップは、基板と、カバー層と、該基板及びカバー層間に設けられた中空反応部と、該中空反応部に設けられた電極よりなる検知手段と、該中空反応部に前記血液試料を導入する試料導入口と、該試料導入口内に採取された血液試料と反応する酵素及びメディエータを含有する試薬層と、を有し、前記中空反応部の厚さが、90μm以下であり、当該血液試料が流れる方向における奥行きと幅の比が、奥行き寸法/幅寸法=1.8以下であることを特徴としている。
【0007】
このように構成された前記記載のバイオセンサチップによれば、試料導入口に連通する中空反応部の厚さが90μm以下であることで、血液試料の採取量を、例えば0.3μl以下の少量にすることができる。
中空反応部の厚さが薄くなると、血液試料中のヘマトクリット値によりバイオセンサチップの測定値に与える影響が問題となるが、発明者らは全血試料が流れる方向における奥行きと幅の比が奥行き寸法/幅寸法=1.8以下とすることにより、奥行き寸法が短くなってバイオセンサチップの測定値に及ぼす血液試料中のヘマトクリット値の影響を抑制できることを見いだした。
【0008】
また、本発明に係る第2の特徴であるバイオセンサチップは、前記酵素及びメディエータが自由拡散型であることを特徴としている。
【0009】
このように構成された前記記載のバイオセンサチップによれば、酵素及びメディエータが自由拡散型であるために、酵素及びメディエータが固定型である場合と比べて低感度にならないので、安定した測定を行うことができる。中空反応部の厚みが厚い場合には、酵素及びメディエータを電極付近に固定化せず、自由拡散させると電極近傍の濃度が低下するので低感度となるため自由拡散型は適当ではない。しかし、中空反応部の厚みが90μm以下と薄い場合には、そのような濃度低下の影響は軽微なものとなり、むしろ固定化のための酵素及びメディエータの保持体が感度を下げるため自由拡散型が好適である。
また、自由拡散型の酵素及びメディエータとは、酵素及びメディエータが化学的な反応により中空反応部に固定されているのではなく、物理的に中空反応部に吸着された状態を言う。固定化の例としては、カーボン電極に最初から混合したり、カルボジイミドやシフ塩基との化学反応や、酵素に修飾付与した反応部の化学反応により電極や電極付近の保持体と固定化させたり、高分子膜や高分子ゲル、ポリイオンコンプレックスの中に閉じ込めたりするなど様々な方法が考案されている。
【0010】
上記試薬層は、酵素、抗体、核酸、プライマー、ペプチド核酸、核酸プローブ、微生物、オルガネラ、レセプタ、細胞組織、クラウンエーテルなどの分子識別素子、メディエータ、挿入剤、補酵素、抗体標識物質、基質、無機塩類、界面活性剤、脂質のいずれか又はその組み合わせを含有させることができる。さらに、上記酵素としては、オキシダーゼ又はデヒドロゲナーゼなどの酵素、例えばグルコースオキシダーゼ、フルクトシルアミンオキシダーゼ、乳酸オキシダーゼ、尿酸オキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼ、アルコールオキシダーゼ、グルタミン酸オキシダーゼ、ピルビン酸オキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、他にコレステロールエステラーゼ、プロテアーゼ、DNAポリメラーゼのいずれか又はその組み合わせを用いることができる。
また、試薬層は、酵素単独ではなく、メディエータの組み合わせとして含有させるが、酵素単独でも良い。このメディエータとしては、フェリシアン化カリウム、フェロセン、ベンゾキノンから選択される。また、試薬層は塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの無機塩類とキンヒドロンとの組み合わせを含有させても良い。
【0011】
また、本発明に係る第3の特徴であるバイオセンサチップは、前記中空反応部の内壁面に、界面活性剤が塗布されていることを特徴としている。
【0012】
このように構成された前記記載のバイオセンサチップによれば、中空反応部の内壁面に界面活性剤が塗布されることで、血液試料に馴染む界面活性剤の働きでもって血液試料を試料導入口から中空反応部へ容易に導入することができる。このとき、中空反応部に連通させた空気導通路には、界面活性剤を塗布しないようにすれば、その空気導通路に、使用者が誤って血液試料を入れようとしても注入されることがないので、誤測定の防止を図ることができる。
【0013】
また、本発明に係る第4の特徴であるバイオセンサチップは、前記中空反応部の容積が0.3μl以下であることを特徴としている。
【0014】
このように構成された前記記載のバイオセンサチップによれば、中空反応部の容積が0.3μl以下であることで、血液試料の採取量を確実に0.3μl以下の少量にすることができる。
【0015】
更に、本発明に係る第5の特徴であるバイオセンサチップは、前記酵素がグルコースオキシダーゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼであり、前記血液試料中の血糖値を測定することを特徴としている。
【0016】
このように構成された前記記載のバイオセンサチップによれば、酵素としてグルコースオキシダーゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼを使用して血液中の血糖値が測定されるので好ましい。
測定対象として血液試料中の血糖値を測定するときは、前記酵素を用いるとヘマトクリット値の影響を抑制できるからである。また、グルコースデヒドロゲナーゼを酵素として用いる場合、補酵素としてフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)またはピロロキノリンキノン(PQQ)を用いることが好ましい。これらの補酵素はヘマトクリット値の影響を抑制できるからである。なお、グルコースデヒドロゲナーゼの補酵素としては、FADが好ましい。FADを補酵素に用いることにより、血液中のマルトース、キシロース、ガラクトース等の他の血液中の糖類の影響を受けることなく血糖(グルコース)の量を正確に測定することができるからである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るバイオセンサチップによれば、測定に必要な血液の採取量を少なくして、使用者の負担を軽減するとともに、ヘマトクリット値の影響を抑制できるバイオセンサチップを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図を参照して本発明の好適な実施形態を説明する。
【0019】
図1〜図4は本発明に係るバイオセンサチップの一実施形態を示すもので、図1は本発明の一実施形態に係るバイオセンサチップの平面図、図2は図1のバイオセンサチップの左側面図、図3は図1のバイオセンサチップの正面図、図4は図1のバイオセンサチップにおける中空反応部周りの一部破断外観斜視図である。
【0020】
図1〜図3に示すように、バイオセンサチップ10は、基板11と、カバー層12と、スペーサ13と、を主として備える。
【0021】
基板11の上面には、検知手段である一対の検知用電極14,15が実装されており、これらのうちの一方の検知用電極14は、先端の端子部16がL字形状に形成されている。また、他方の検知用電極15は、一方の検知用電極14と同様に先端の端子部17がL字形状に形成されており、両端子部16,17は、基板11の先端部で基板11の縦長方向に、予め定められた隙間を置いて配置されている。これら端子部16,17の間或いは近傍に、血液と反応する試薬層18が配置されている。
【0022】
基板11上には、絶縁層と粘着層とからなるスペーサ13を介してカバー層12が一体に積層されており、基板11とカバー層12との先細形状をなす先端部で、スペーサ13の縦長方向で後端部に向けて矩形に切除した中空反応部19が形成されている。この中空反応部19は、先端部が試料導入口20になっており、両電極14,15の端子部16,17が露出している。
【0023】
基板11は、後端部がカバー層12およびスペーサ13より突出しており、後端部上に、一対の検知用電極14,15の回路側接続部21,22が露出されている。これら回路側接続部21,22は、不図示の測定回路に電気的に接続される。
【0024】
中空反応部19の後端側には、この中空反応部19に直交配置された空気導通路23が形成されている。空気導通路23は、両側端部の外気開放部24が外気に開放されている。空気導通路23は、バイオセンサチップ10を左右に横切って貫通形成されており、中空反応部19とで合わされた形状が、T字状になるように配置されている。
【0025】
中空反応部19は、内壁25に界面活性剤26が塗布されている。界面活性剤26は、底面、側面および上面を含む内壁25に塗布されている。そのため、バイオセンサチップ10の使用時における方向性を考慮する必要がない。また、空気導通路23における外気開放部24の近傍には界面活性剤26が塗布されていないので、血液の空気導通路23への浸入を阻止して、試料が空気導通路23へ入り込んだ場合に、血液の採取量が多くなってしまわないようにしている。
【0026】
図4に示すように、試料導入口20に連通する中空反応部19は、容積が0.2μlであって、90μm以下である厚さT1が55μmであり、血液が流れる縦長方向である奥行き寸法L1が2260μmであり、幅寸法L2が1625μmであり、奥行き寸法L1と幅寸法L2との比が、1.8以下であるL1/L2=1.39に設定されている。そのため、血液の採取量を、0.3μl以下の少量にすることができるとともに、奥行き寸法が短くなって測定精度を高感度にすることができる。
【0027】
バイオセンサチップ10は、酵素及びメディエータが自由拡散型に設定されている。血液を試料導入口20に触れさせると界面活性剤26が塗布されているため速やかに中空反応部19へと注入される。なお、塗布されていない空気導通路23へは進行しないので、規定された少量の血液のみが試薬層18と反応して、検知用電極14,15の端子部16,17で電流値等に基づいて測定される。
【0028】
前述した酵素及びメディエータの自由拡散型とは、物理的に中空反応部に吸着された状態を言う。すなわち、血液が界面活性剤に吸着されて短時間で中空反応部内を拡散して行くので、0.3μl以下の少量の血液で高精度の測定を行うことができる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態のバイオセンサチップ10によれば、試料導入口20に連通する中空反応部19の厚さが90μm以下であることで、血液の採取量を、例えば0.3μl以下の少量にすることができる。中空反応部19の厚さが薄くなり過ぎると通常は、ヘマトクリット値の影響を受け易くなって好ましくないのだが、奥行きと幅との比が奥行き寸法/幅寸法=1.8以下とすることで、ヘマトクリット値の影響を軽減し、測定精度を向上することができる。これにより、測定に必要な血液の採取量を少なくして、使用者の負担を軽減するとともに、ヘマトクリット値の影響を抑制することができる。
【0030】
また、本実施形態のバイオセンサチップ10によれば、酵素及びメディエータが自由拡散型であるために、酵素及びメディエータが固定型である場合と比べて低感度にならないので、安定した測定を行うことができる。
【0031】
また、本実施形態のバイオセンサチップ10によれば、中空反応部19の内壁25面に界面活性剤26が塗布されることで、血液に馴染む界面活性剤26の働きで血液を試料導入口20から中空反応部19へ容易に導入することができる。このとき、中空反応部19に連通させた空気導通路23には、界面活性剤26が塗布されていないので、その空気導通路23に、使用者が誤って血液を入れようとしても注入されることがないので、誤測定の防止を図ることができる。
【0032】
(実施例)
次に、本発明に係るバイオセンサチップの作用効果を確認するために行った実施例について説明する。
【0033】
(乖離率標準偏差値測定)
被験者8名(ヘマトクリット値38〜52%)について、食前・食後の計4回である32点を測定し、対照機器の血糖値との乖離率を求めた。ここで、乖離率とは、(測定値−対照機器の血糖値)/(対照機器の血糖値)である。なお、対照機器はアークレイGA1150であり、32点の血糖値範囲は、91〜229mg/dLであった。この32点の乖離率は正規分布に従うが、この正規分布の標準偏差をもって、真の血糖値から乖離程度の指標とした。この値が小さいほどヘマトクリット値の影響が小さくなり、測定精度が良いことを意味する。
【0034】
比較例1として、キャビティ(中空反応部)が、1331μmの幅で、2760μmの奥行き寸法で、55μmの厚さ寸法で、奥行き/幅=2.07を用意し、比較例2として、キャビティが、612μmの幅で、6000μmの奥行き寸法で、55μmの厚さ寸法で、奥行き/幅=9.80を用意した。
【0035】
【表1】

【0036】
表1により明らかなように、比較例1は、乖離率標準偏差値が8.6となり、比較例2は、乖離率標準偏差値が19.0となった。これらに対して、中空反応部19の厚さT1が55μmを有し、奥行き寸法L1が2260μmで、幅寸法L2が1625μmであり、奥行き寸法L1と幅寸法L2との比が、L1/L2=1.39に設定されている実施例は、乖離率標準偏差値が5.9と低くなり、ヘマトクリット値の影響が小さく、測定精度を向上させることができるのがわかる。
【0037】
なお、本発明に係るバイオセンサチップは、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形や改良等が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係るバイオセンサチップの平面図である。
【図2】図1のバイオセンサチップの左側面図である。
【図3】図1のバイオセンサチップの正面図である。
【図4】図1のバイオセンサチップにおける中空反応部周りの一部破断外観斜視図である。
【図5】従来のバイセンサチップの分解斜視図である。
【符号の説明】
【0039】
10 バイオセンサチップ
20 試料導入口
19 中空反応部
25 内壁
26 界面活性剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤血球を含む血液試料中の成分を測定するバイオセンサチップであって、
前記バイオセンサチップは、基板と、カバー層と、該基板及びカバー層間に設けられた中空反応部と、該中空反応部に設けられた電極よりなる検知手段と、該中空反応部に前記血液試料を導入する試料導入口と、該試料導入口内に採取された血液試料と反応する酵素及びメディエータを含有する試薬層と、を有し、
前記中空反応部の厚さが90μm以下であり、当該血液試料が流れる方向における奥行きと幅の比が、奥行き寸法/幅寸法=1.8以下であることを特徴とするバイオセンサチップ。
【請求項2】
前記酵素及びメディエータが自由拡散型であることを特徴とする請求項1に記載のバイオセンサチップ。
【請求項3】
前記中空反応部の内壁面に、界面活性剤が塗布されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のバイオセンサチップ。
【請求項4】
前記中空反応部の容積が0.3μl以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のバイオセンサチップ。
【請求項5】
前記酵素がグルコースオキシダーゼ又はグルコースデヒドロゲナーゼであり、前記血液試料中の血糖値を測定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のバイオセンサチップ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−97877(P2009−97877A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−266834(P2007−266834)
【出願日】平成19年10月12日(2007.10.12)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)