バイオナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法
【課題】バイオナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法を提供する。
【解決手段】1)赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類を採取して培養する工程と、2)前記培養された有害藻類に特異性があるウイルスを選別する工程と、3)前記選別されたウイルスのカプシド遺伝子をクローニングする工程と、5)前記クローニングされた遺伝子を組換え酵母ライブラリを製造してナノカプシドを大量産生する工程、及び6)前記大量産生されたナノカプシドに殺藻物質を搭載する工程、及び7)前記殺藻物質が搭載されたナノカプシドを海洋に散布する工程とを含むことを特徴とする。有害藻類制御方法は、赤潮または緑潮現象を起こす特定藻類に特異性があるウイルスを用いて特定藻類にのみ選択的に影響を及ぼすようにすることで、既存の黄土散布法やその他の赤潮現象防止方法の問題点である海洋生態系に及ぼす副作用を根本的に無くす効果が期待される。
【解決手段】1)赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類を採取して培養する工程と、2)前記培養された有害藻類に特異性があるウイルスを選別する工程と、3)前記選別されたウイルスのカプシド遺伝子をクローニングする工程と、5)前記クローニングされた遺伝子を組換え酵母ライブラリを製造してナノカプシドを大量産生する工程、及び6)前記大量産生されたナノカプシドに殺藻物質を搭載する工程、及び7)前記殺藻物質が搭載されたナノカプシドを海洋に散布する工程とを含むことを特徴とする。有害藻類制御方法は、赤潮または緑潮現象を起こす特定藻類に特異性があるウイルスを用いて特定藻類にのみ選択的に影響を及ぼすようにすることで、既存の黄土散布法やその他の赤潮現象防止方法の問題点である海洋生態系に及ぼす副作用を根本的に無くす効果が期待される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害藻類を制御する方法に関する発明であり、環境汚染、特に海洋汚染を防止することができる分野の技術に関するものである。
【0002】
また、本発明は、海洋汚染を防止するために有害藻類の制御に効果的な殺菌物質、その搭載技術及び散布方法に関するものである。
【0003】
一方、本発明は、ナノ水準のバイオカプシドを活用する技術と関連性があるのでバイオテクノロジー分野の技術とも関連する。
【背景技術】
【0004】
赤潮(red tide)現象というのは、海洋微生物(動植物プランクトン、原生動物、バクテリア)の爆発的な増殖によって海水が変色して、海洋生物が被害を被る現象をいう。赤潮現象を起こす原因生物は、植物プランクトンの珪藻類(diatom)、渦鞭毛藻類(dinoflagellate)、藍藻類(blue−green algae)、微細藻類(microalgae)などと、繊毛虫類などで、韓国で発見されたものだけでも50余種にもなる。プランクトンの種類によって海水の色は赤色に限らないで茶褐色、青色、白色などで現れたりする。
【0005】
韓国のような温帯地方の海水生態系では、富栄養化になると豊かな営養分を基にして夏期に水層が形成されて(stratification)、光量が高くなり、長い梅雨と水温が上昇することによって1次産生者である植物プランクトンの生長に有利な環境が造成されながら藻類の大発生が進行される。特に、韓国の沿岸で赤潮現象を起こす種の中で魚類や貝類を直接致死させる毒性物質を産生する種は、コクロディニウム(Cochlodinium)属、ギムノディニウム(Gymnodinium)属、ジロディニウム(Gyrodinium)属、ヘテロシグマ(Heterosigma)属など渦鞭毛藻類(dinoflagellate)に属する種である。
【0006】
韓国で赤潮現象を起こす生物を季節別に詳しくみると、春期にはスケルトネマ(Skeletonema)属、キートケロス(Chaetoceros)属に属する珪藻類などがあり、初夏にはヘテロシグマ(Heterosigma)属、プロロセントラム(Prorocentrum)属の小型渦鞭毛藻類などがあり、晩夏から秋期までは大型のセラチウム(Ceratium)属、ギムノディニウム(Gymnodinium)属、コクロディニウム(Cochlodinium)属の渦鞭毛藻類がある。年度別では、1995年から南海岸と東海南部海域でコクロディニウムポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)種が常習的に赤潮現象を起こしている。このような赤潮を防除するために従来は、黄土散布法、オゾン処理法、化学薬品散布法、生物学的処理法などを使用してきた。黄土散布による赤潮の防除は、黄土コロイド粒子が海水中の栄養物質、微少プランクトンなどの懸濁物質を凝集、吸着する特性を用いて赤潮微生物を黄土に凝集、沈澱させるものである。黄土散布による有毒性赤潮生物の除去効果は、種によって差があるが、コクロディニウム赤潮生物の除去効果は、室内実験と現場調査の結果70〜80%と示された。日本で実施された酸性白土の赤潮微生物防除でも、コクロディニウムの外14種の赤潮原因生物を対象に実験を行なった結果、吸着、沈降、細胞破壊などの効果を確認した。しかし、黄土を散布すると一時的な富裕物増加による副作用が発生して魚類のえらを詰まらせて斃死させる問題が発生する。生黄土を海洋に散布する場合、黄土塊及び不純物がそのまま沈降して赤潮生物を吸着、凝集する時間的余裕がなく、赤潮除去効率が下がり海底堆積層による2次環境汚染を誘発し得るという問題点がある。
【0007】
オゾン処理法は、2次汚染を誘発せず海洋生態系の撹乱が最小化される長所があるが、電力所要量が大きくて装置の規模が大きいオゾン発生器とともに別に発電機を船舶に搭載しなければならないので、専用船舶の建造が求められる一方、赤潮発生は一年の中で主に夏期に偏重するので遊休施設が過多に発生したり、赤潮時期に合わせて重量物であるオゾン発生装置と発電機を船舶に搭載または解体しなければならないという困難がある。特にオゾンは、保存が不可能なので赤潮が過多に発生してオゾン量が一時的に大きく必要となる場合には、海水に酸素量が過多に増加して生態系に悪影響を及ぼすのみならず赤潮防除能力が不十分であるという問題点がある。
【0008】
化学薬品散布法は、硫酸銅(CuSO4)、二酸化塩素(ClO2)、シマジン(Simazine)などを散布する方法であり、過去から用いられてきたが、その中で費用が最も安くて広く用いられる硫酸銅は、有害性渦鞭毛藻類にのみに特異的なのではなく、赤潮源である生物の他の異なる海洋生物にまで影響を及ぼし、水中の異なる生物に対する毒性及び腐食の側面で問題を起こし得、また前記硫酸銅は一時的な効果のみを示すので反復して使用しなければならず、藻類の赤潮発生時に隋伴する高いアルカリ性環境条件の下では、硫酸銅が不安定になるので多量に処理しなければならないので非経済的であるという短所がある。
【0009】
赤潮現象を制御するためのまた異なる方法として多くの生物学的な方法が試みられている。特に、天敵である動物性プランクトンと海洋細菌を利用したり有害ないし有毒性赤潮生物と栄養競争関係にありながら比較的に害が少ない赤潮の種類を人為的に誘発させたりして栄養塩類の消費を促進させる方法など、赤潮発生と繁殖を抑制する生物学的方法研究が活発に進行されている。
【0010】
これに対する具体的な文献としては、特許文献1を参考することができる。前記文献は、シュードモナス(Pseudomonas)属の微生物を用いたヘテロシグマ(Heterosigma)属の渦鞭毛藻類の抑制方法に関するもので、具体的にはヘテロシグマ属を抑制することができるシュードモナスフルオレセンス菌株HAK−13及びそれを用いた渦鞭毛藻類を抑制する方法に関するものである。前記方法は、
1)ヘテロシグマ属渦鞭毛藻類抑制能を有するシュードモナス属微生物を選別する工程と、
2)工程1)のシュードモナス属微生物を培養して培養物を獲得する工程と、
3)工程2)の培養物を赤潮発生海域に散布する工程とで構成されている。
【0011】
シュードモナスフルオレセンスHAK−13菌株は、栄養寒天培地(Nutrient agar;0.8%(w/v)Nutrient broth,1.5%agar powder)で18〜35℃の培養温度、1〜5日間の培養条件で培養して、これを代数成長段階のヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)D−075培養液に接種した結果、接種12時間後にヘテロシグマアカシオD−075菌株の細胞成長が急激に阻害されて90%以上の細胞数が減少し、接種48時間で完全死滅しただけでなく、シュードモナスフルオレセンスHAK−13菌株処理実験群と未処理対照群を肉眼で観察した時、シュードモナスフルオレセンス未処理対照群は赤い茶色であり、ヘテロシグマアカシオD−075菌株が大量繁殖した状態を示した。前記文献を通じてシュードモナスフルオレセンスは、渦鞭毛藻類に対する抑制能力を有しているので、前記菌株を用いる殺藻剤は、渦鞭毛藻類の発生による赤潮現象を防除するのに有用に使用することができる。
【0012】
しかし、これは赤潮現象を発生させる特定藻類に影響を及ぼす微生物を発見して大量産生しなければならないという点でいまだに常用化され得ずにいる。
【0013】
それで、本発明者等は、海洋汚染を防止することができる、有害藻類の制御効果が優秀な殺藻剤とその搭載及び散布技術に関して研究した結果、赤潮または緑潮現象を起こす特定有害藻類に特異性があるウイルスのカプシド遺伝子を用いて殺藻物質を搭載及び散布することで有害藻類のみを選択的に制御するようにすることによって、既存の黄土散布法や他の赤潮現象防止方法の問題点である海洋生態系汚染のような副作用を根本的に防止する効果があることを明らかにすることで本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】韓国登録特許公報第10−0758997号
【特許文献2】韓国公開特許公報第2002−0015344号
【特許文献3】JP11098979A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明で前述した従来の赤潮除去方法における問題点を解決することを主な課題とする。
【0016】
具体的に前述した課題は、赤潮誘発藻類に特異的に吸着/感染する特定のウイルスを選択して、その外部カプシドタンパク質のみをナノ粒子サイズの形態で大量産生する方法を提示することによって達成される。
【0017】
また本課題は、前記方法によって産生されたナノカプシドに、天然または新規な殺藻物質を搭載する方法を提示することによって、さらに効果的に達成され得る。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するために本発明は、
1)赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類を採取して培養する工程と、
2)前記培養された有害藻類に特異性があるウイルスを選別する工程と、
3)前記選別されたウイルスのカプシド遺伝子をクローニングする工程と、
4)前記クローニングされた遺伝子を組換え大腸菌または酵母で発現した後、ナノカプシドを大量産生する工程、及び
5)前記大量産生されたナノカプシドに殺藻物質を搭載する工程とを含むナノカプシドを用いた有害藻類制御方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、前記の課題をより効果的に解決するために、前記有害藻類に特異性のあるウイルスは、カプシド内部に核酸がなく、増殖力がなく、人体有害性がなく、カプシドタンパク質が殺藻物質の伝達体にのみ用いられることを特徴とするナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法を提供する。
【0020】
同時に、本発明では、ウイルスナノカプシドに搭載された殺藻物質は、キノン系化合物、チアゾリジンジオン(thiazolidinedione)系化合物及びマグネシウム有機クレイからなる群から選択されるいずれかひとつであることを特徴とし、前記殺藻物質をウイルスナノカプシドに搭載する方法は、遺伝子組換え方法を用いた共発現(coexpression)、または瓦解用または再結合用緩衝溶液で自己組立化(self assembly)法によって遂行される生物学的な方法によって遂行されることを特徴とするナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、赤潮または緑潮現象を起こす特定藻類に特異性があるウイルスを用いて特定藻類にのみ選択的に影響を及ぼすようにすることで、既存の黄土散布法やその他の異なる赤潮現象防止方法の問題点である海洋生態系に及ぼす副作用を根本的に無くす効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】酵母発現システムを用いたウイルスカプシドの大量産生過程を示した図である。
【図2】有害藻類である渦鞭毛藻類ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)に特異に感染する野生型HcRNAVウイルスのカプシド遺伝子配列(一番目行)、この遺伝子を酵母ピチア(Pichia)で発現可能になるように変形した遺伝子(二番目行)、及びこれらのアミノ酸配列(三番目行)情報を示した図である。
【図3】クローニングされた変形遺伝子のサイズを確認する電気泳動結果を示した図である。
【図4】酵母で発現されたHcRNAVカプシド遺伝子の発現結果を示した図である。
【図5】酵母で発現されたHcRNAVウイルスカプシドの電子顕微鏡写真である。
【図6】バイオナノカプシドに殺藻物質を搭載して有害藻類を攻撃して破壊する様子の模式図である。
【図7】蛍光物質FITCが搭載されたカプシドタンパク質の宿主特異的結合をキートケロス・サルスギネウム(C.salsugineum)を対象に調査した図である。
【図8】TD系化合物をコクロディニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)に処理した後、時間経過によって有害藻類が破壊される現象を示した図で:(a):化合物17を処理しないコクロディニウム・ポリクリコイデス;及び(b)〜(f):化合物17を1時間(b)、2時間(c)、3時間(d)、4時間(e)、または5時間(f)間処理したコクロディニウム・ポリクリコイデス。
【図9】TD系化合物をヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)に処理した後、時間経過によって有害藻類が破壊される現象を示した図で:(a):化合物17を処理しないヘテロシグマ・アカシオ;及び(b)〜(f):1μMの化合物17を1時間(b)、2時間(c)、4時間(d)、6時間(e)、8時間(f)、10時間(g)または10時間以上(h)処理したヘテロシグマ・アカシオ。
【図10】殺藻物質として用いられるマグネシウム有機クレイのFT−IR及び1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図11】合成されたマグネシウム有機クレイの電子顕微鏡写真(SEM及びTEMイメージ)を示した図である。
【図12】マグネシウム有機クレイの殺藻効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0024】
本発明は、
1)赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類を採取して培養する工程と、
2)前記培養された有害藻類に特異性があるウイルスを選別する工程と、
3)前記選別されたウイルスのカプシド遺伝子をクローニングする工程と、
4)前記クローニングされた遺伝子を組換え大腸菌または酵母で発現した後ナノカプシドを大量産生する工程、及び
5)前記大量産生されたナノカプシドに殺藻物質を搭載する工程とを含むナノカプシドを用いた有害藻類制御方法を提供する。
【0025】
前記方法において、前記赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類は、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)、キートケロス・サルスギネウム(Chaetoceros salsugineum)、コクロディニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)、ヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)、シャットネラ・マリーナ(Chattonella marina)及びプロトケラチウム・レティキュラータム(Protoceratium reticulatum)からなる群から選択されるいずれかひとつであることが好ましいが、これに限定されない。前記有害藻類は、6〜9月頃南海岸や西海岸でよく出没するが、それを採取して培養することができる。
【0026】
前記有害藻類を培養した後、有害藻類のみを特異に感染させるウイルスを選別して分離することができる。前記ウイルスは、カプシド内部に核酸がなくて増殖力がなく、人体有害性もなく、カプシドタンパク質を殺藻物質の伝達体にのみ用いることができる。前記ウイルスは、好ましくは55nmサイズの外壁(envelope)がない多面体形ウイルス(naked icosahedral nucleocapsid)であり得、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマRNAウイルス(Heterocapsa circularisquama RNA Virus,HcRNAV)、キートケロス・サルスギネウム核内封入体ウイルス(Chaetoceros salsugineum Nuclear Inclusion Virus,CsNIV)及びヘテロシグマ・アカシオRNAウイルス(Heterosigma akashiwo RNA virus,HaRNAV)からなる群から選択されるいずれかひとつであることがさらに好ましいが、これに限定されるのではない。
【0027】
前記ウイルスの中でHcRNAVは、ウイルスを構成するタンパク質中のカプシドにあたる遺伝子が1,080bp(配列番号1)のサイズを有し、前記遺伝子によって暗号化されるタンパク質は約360個のアミノ酸からなることが好ましいが、これに限定されるのではない。
【0028】
前記方法において、前記殺藻物質は有害藻類にのみ特異に反応する物質であり、これを使えば異なる生物には全く被害を及ぼさないので海洋生態系の破壊を最小化することができる。前記殺藻物質は具体的に、キノン系化合物、チアゾリジンジオン(thiazolidinedione)系化合物またはマグネシウム有機クレイであることが好ましいが、これに限定されるのではない。
【0029】
前記マグネシウム有機クレイは、Al2Si2O5(OH)4、MgsSi2O5(OH)4、Al2Si4O10(OH)2、Mg3Si4O10(OH)2、KAl2(AlSi3)O10(OH)2、Ca0.25(Si3.5Al0.5)Al2O10(OH)2および(Mg,Fe,Al)6(Si,Al)4O10(OH)8からなる群から選択されるいずれか一つ、またはこれらの混合物から選択することができる。また、前記キノン系化合物及びチアゾリジンジオン系化合物は、下記の化学式1及び2(有害藻類殺藻能があるキノン系化合物)、及び化学式3(有害藻類殺藻能があるチアゾリジンジオン)中のいずれか一つ、またはそれらの混合物から選択することができる。
【0030】
【化1】
【0031】
【化2】
【0032】
ここで、Rは置換または置換されないアルキル、置換または置換されない(ヘテロ)シクロアルキル、(ヘテロ)シクロアルケニルまたは(ヘテロ)アリールである。
【0033】
【化3】
化学式3
【0034】
ここで、R1は水素、ニトロ基、アミン、アルキル、メトキシ、トリフルオロメチル、カルボキシルまたはハロゲンで、R2は水素、メチル、エチル、または置換されない(ヘテロ)シクロアルキル、(ヘテロ)シクロアルケニルまたは(ヘテロ)アリールであり、nは0ないし5の整数である。
【0035】
前記殺藻物質は、それ自体としてまたはコーティング物質と結合してウイルスカプシドに搭載(encapsulation)することができる。そのように搭載されたバイオナノカプシドは、対象有害藻類(ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマなど)に結合して有害藻類の成長を阻害して殺藻させられる。殺藻物質を搭載する方法は、熱またはpHの変化によるウイルスの膨脹(swelling)を用いる物理的搭載方法と、遺伝子組換え方法を用いた共発現(coexpression)、または瓦解用または再結合用緩衝溶液を用いた自己組立化(self assembly)方法のような生物学的搭載方法を用いることができる。
【0036】
本発明者等は、前記ウイルスの中でHcRNAVを選別及び分離して、前記ウイルスのカプシド遺伝子をクローニングした後、それを組換え大腸菌または酵母で発現させてカプシドタンパク質を大量産生した。具体的に、前記1,080bpのHcRNAVカプシド遺伝子をpPICZベクターに入れてクローニングした後、酵母ピチア(Pichia)宿主でプラスミドを大量発現させた。発現のために酵母の発現工程では、グリセロールを基質に用いて、適正微生物濃度でメタノールを追加してHcRNAVカプシドタンパク質の発現を誘導することで大量のカプシドタンパク質を作ることができた。前記大量産生されたプラスミドは、1,080bpのサイズを有する遺伝子であることを確認し(図2参照)、最終産生されたカプシドタンパク質は、40kDaのサイズを有するタンパク質であることを確認することができた(図3参照)。したがって、PCRを通じて得た前記ウイルス遺伝子は大腸菌またはピチアに使用可能なシャトルベクターに入れてクローニングし、クローニングされた遺伝子は最終的にピチア宿主の大量発酵過程を通じてカプシドタンパク質として大量産生された(図1参照)。前記大量産生されたナノカプシドに殺藻物質を搭載するに際して、本発明者等は有害藻類にのみ特異に反応してこれを使えば異なる生物には全く被害を及ぼさない殺藻物質として、チアゾリジンジオン(thiazolidinedione,TD)系化合物またはマグネシウム有機クレイを用いた。その結果、大部分のTD系化学物は有害藻類であるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ、ヘテロシグマ・アカシオ及びコクロディニウム・ポリクリコイデスに対して高い殺藻効果を示した一方、無害藻類に対しては非常に低い毒性を示した(表1、表2、図8及び図9参照)、マグネシウム有機クレイの場合にも有害藻類のみを選択的に制御することが示された(表4、図12参照)。
【0037】
それで、本発明は、有害藻類のみを選択的に制御する効果を有する殺藻物質を有害藻類に特異的に結合する特定ウイルスのカプシド内に搭載することで、他の無害藻類に対する毒性なしに有害藻類のみを選択的に制御することができるので、これは海洋生態系破壊を最小化させることができる有害藻類制御方法として有用に用いることができる。
【0038】
以下、本発明を下記の実施例によってより詳細に説明する。
【0039】
但し、下記の実施例は本発明の内容を例示するだけのものであって、発明の範囲が実施例によって限定されるのではない。
【実施例1】
【0040】
有害藻類に特異性があるウイルスのカプシド遺伝子の大量産生
前記報告された有害藻類中の渦鞭毛藻類の一種であるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)を2009年8月2日から9月25日まで全羅南道麗水の沖合で分離及び選別した。選別された藻類をf/2培地に接種した後、20℃で培養した。HcRNAV109ウイルスの野生型カプシド遺伝子情報は、Genbank No. AB218609.1から得、1,080bpの遺伝子を酵母であるピチア(Pichia)で最適発現されるように変形させた後、pPICZAプラスミドに入れて最終的にpPICZA−CPベクターを製造した。クローニングしたpPICZA−CPベクターをピチアパストリス(Pichia pastoris)宿主に挿入した後、ゼオシン(zeocin)−YPD培地上で1次スクリーニングして分離した宿主をメタノール誘導培地で培養してHcRNAV遺伝子の発現を確認して40kDaの分子量を有するタンパク質を大量産生することができる組換え菌株を確保した。前記大量増殖されたプラスミド(plasmid)は、図2に示したように1,080bpのサイズを有する遺伝子であることを確認し(図2)、最終産生されたカプシドタンパク質は、40kDaのサイズを有するタンパク質であることを確認することができた(図3)。すなわち、該当のウイルス遺伝子は、PCRを通じて獲得が可能であり、この獲得された遺伝子は大腸菌またはピチアに使用可能なシャトルベクターに入れてクローニングすることができ、このクローニングされた遺伝子は最終的にピチア宿主の大量発酵過程を通じて産生することができることを確認した。発酵は、グリセロールを炭素源として流加培養で進行して、40時間以後に3.6ml/hのメタノールを供給しながらタンパク質発現を誘導した。
【実施例2】
【0041】
ウイルスカプシドに殺藻物質を搭載して散布
遺伝子組換え方法を用いてヘテロカプサ・サーキュラリスカーマRNAウイルス(Heterocapsa circularisquma RNA virus,HcRNAV)及びキートケロス・サルスギネウム核内封入体ウイルス(Chaetoceros salsugineum nuclear inclusion virus,CsNIV)のカプシド遺伝子をそれぞれピチアで共発現(coexpression)した後、Niセファロース(Ni Sepharose)カラムを用いて親和性クロマトグラフィー(affinity chromatography)方法で精製した。精製されたウイルスカプシドタンパク質の自己組立化(self assembly)を増大させるために蒸留水で1日間透析した。自己組立されたカプシドタンパク質の宿主特異的結合及び殺藻物質の搭載能力を調査するために、まずカプシドタンパク質を瓦解用緩衝溶液(dissociation buffer,10mM Tris−HCl,150mM NaCl,10mM EGTA,pH8.5)に1時間の間露出させて解離させた。解離されたカプシドタンパク質にTD系殺藻物質と特性が類似の蛍光物質FITCを添加した後、再結合緩衝溶液(reassociation buffer,10mM Tris−HCl,150mM NaCl,1mM CaCl2,pH8.5)で1日間透析して蛍光物質が搭載されたかどうかを確認することで搭載能を調査した。また、蛍光物質が搭載されたカプシドタンパク質を有害藻類と混ぜた後、3時間の間培養して蛍光顕微鏡下でカプシドタンパク質の宿主特異的結合を調査した。カプシドタンパク質に搭載されないFITCの藻類に対する非特異的結合を防止するために1日間さらに透析した後、タンパク質電気泳動を実施して蛍光物質が搭載されたカプシドタンパク質のみを確認した。海洋環境と同一条件を維持するために海水に保存した藻類にカプシドタンパク質を処理して3時間の間培養した。藻類に付着しないカプシドタンパク質を除去するためにフィルター滅菌された海水を用いて三回洗浄した後、FITCが搭載されたカプシドタンパク質がキートケロス・サルスギネウムに対して特異的に結合するかどうかを緑色(FITC)フィルターが装着された蛍光顕微鏡下で調査した。
【0042】
その結果、図7に示したように、蛍光物質FITCが搭載されたカプシドタンパク質の宿主特異的結合をキートケロス・サルスギネウムを対象に調査した結果、FITCが搭載されたカプシドタンパク質処理後、キートケロス・サルスギネウムの赤色フィルター条件で藻類の自己蛍光(auto fluorescence)(A)とFITC(緑色)フィルター条件で蛍光イメージ(A’)が示された。すなわち、キートケロス・サルスギネウム細胞表面で濃い緑色蛍光(FITC)が観察され、これを基にカプシドタンパク質が宿主特異的に結合するということが確認された。一方、対照群に蛍光物質(FITC)のみを藻類に処理して同一条件で調査した結果、赤色の藻類の自己蛍光(B)は観察された一方、FITC(緑色)蛍光(B’)は全く観察されなかった。これは産生したカプシドタンパク質が藻類に特異的に結合するということを示す(図7)。
【実施例3】
【0043】
有害藻類に対する選択的な殺藻効果
殺藻物質として下記の化学式4または5のチアゾリジンジオン(thiazolidinedione,TD)系化合物を用いて殺藻能スクリーン実験を遂行した。選択された有害藻類7種を対象に135種のTD化合物を濃度別に処理することで、殺藻能スクリーニングを進行した。マイクロプレートに同量の細胞を入れて0.05、0.1、1、2、5、10、20、50、100μMの濃度で処理した後、3日後にビルケルチュルク血球計数盤とセジウィック・ラフター(Sedgwick−Rafter)カウンティング・チャンバーを用いて細胞密度を測定した。測定された細胞密度で減少率(%)を計算して正確なIC50値を測定した。
【0044】
減少率(%)=(1−Tt/Ct)×100(T:処理細胞密度、C:対照群の細胞密度)
【0045】
その結果、下記の表1及び表2に示されたように、大部分のTD系化合物は有害藻類に対しては高い殺藻効果を示した一方、無害藻類に対しては非常に低い毒性を示した。その中でも化合物17が、無害藻類に対しては毒性を示さずに有害藻類に対しては最も高い殺藻効果を示した(表1及び表2)。また、図8に示されたように、1μMのTD系化合物17をコクロディニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)に処理した後、時間によって細胞の変化を観察した結果、8個の細胞が結合されていた正常な形態が、処理後2時間が経過して(c)各節部分が解け始め、4時間が経つと各細胞が離れて、5時間が経つと(f)離れた細胞が裂けて死滅する現象を示した(図8)。一方、図9に示されたように、1μMのTD系化合物17をヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)に処理した後、時間によって細胞の変化を観察した結果、処理後2時間が経過して細胞壁部分が裂けて細胞内物質が細胞外に流れ出ながら死滅する現象を示した(図9)。
【0046】
【化4】
【0047】
【化5】
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【実施例4】
【0050】
マグネシウム有機クレイの合成及び分析
本願発明で用いられるまた一つの殺藻物質である有機クレイは、金属塩化物試薬として塩化マグネシウム水和物(MgCl2,6H2O,Junsei98%)を用い、作用基がついたシラン化合物は3−アミノプロピルトリエトキシシラン(3−aminopropyl−triethoxysilane,APTES)(Aldrich98%)を用い、溶剤はエチルアルコール(95%、試薬用)、1N−NaOH溶液、アンモニア水(30%、試薬用)を用いて製造した。反応から得た生成物である有機クレイの合成有無を調べるために、次のような機器を用いて分析した。固体試料は、29Si−HPDEC NMR(Avance 400,Bruker,Germany)を用いてSi−OまたはSi−OH構造分析を行ない、D2Oに溶解するMetal−APTES化合物の1H−NMR(JEOL,300MHz,D2O)分析を通じてアミノプロピル末端グループがクレイに導入されたことを確認した。そして、FT−IR(NICOLET6700,Thermoscientific,米国)分析は、ブロム化カリウム(KBr)ペレットで製造して分析し、作用基すなわち、アミノプロピル(−(CH2)3NH2)の導入有無を確認した。X線回折(XRD)パターンは、X線回折計(X’Pert PRO,PANalytical B.V.)を用いて得、固体(パウダー)試料をCuKα radiation(20mA及び40kV)、2θは2゜から70゜まで2゜/分の速度で測定して結晶の構造を確認した。透過及び走査電子顕微鏡の分析から有機クレイの形態(morphology)を確認し、EDXを通じて金属/Si成分を分析して有機クレイの合成有無を確認した(図11)。塩化マグネシウム水和物1.68g(MgCl2 6H2O,8.3mmol)を50mlのエチルアルコールに溶解した溶液にAPTES 2.6ml(11.1mmol)を強く撹拌しながら徐々に加えると沈殿物が析出して、この反応物を室温で24時間反応させた。白色の沈殿物は遠心分離後エチルアルコールで3回以上洗浄した後、乾燥した。収得率は96%以上であり、IR、NMR、SEM、TEM、XRDなどを分析して合成有無を確認した。そして報告された方法どおりに水酸化ナトリウム溶液(1N NaOH,10ml)を触媒に用いて合成したが、反応物のpHが約9.87で、NaOH水溶液を入れない反応物のpH8.15よりは高いpH値を維持した。しかし、生成物の収得率の差は大きくなかった。
【0051】
その結果、図10で示されたように、FT−IR−スペクトルと1H−NMRでみると、Mg−APTESにアミノプロピルが導入されたことを確認することができた(図10)。構造特性のデータは、下記の表3に要約した。末端の導入基NH2伸縮震動は、3600〜3200cm−1、NH2曲げ振動(1658cm−1)で強い吸収帯を、Si−O−Si stretching(1020cm−1)で示すことから有機クレイが合成されたことを確認した(表3及び図11)。
【0052】
【表3】
【実施例5】
【0053】
マグネシウム有機クレイの殺藻効果
マグネシウム有機クレイを有害藻類3種(ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ、ヘテロシグマ・アカシオ及びコクロディニウム・ポリクリコイデス)に0.2mg/mlの濃度で処理した時、対照群に比べて80%以上の殺藻能を示すことを確認した。一方、無害藻類4種{ナヴィクラ・ペリクローサ(Navicula pelliculosa)、ファエオダチラム(Phaeodactylum)EPV、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)WT、アンフィディニウム属(Amphidinium sp.)}には、最大20%の殺藻能を示すことを確認した。また、商業用ミネラルクレイを同じ有害藻類に処理した時、有機クレイより効能が落ちることを確認した。これを通じて、低い濃度での有機クレイを用いて有害藻類のみを選択的に制御することが可能であることを確認した(図12)。また、表4のIC50値をみるとマグネシウム有機クレイが類似の化合物である黄土あるいは塩化アンモニウムより優れた値を示すことが分かり、製造に用いられた塩化マグネシウムとの比較でも低いIC50値を示し、高い殺藻能を有していることが証明された(表4)。
【0054】
【表4】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有害藻類を制御する方法に関する発明であり、環境汚染、特に海洋汚染を防止することができる分野の技術に関するものである。
【0002】
また、本発明は、海洋汚染を防止するために有害藻類の制御に効果的な殺菌物質、その搭載技術及び散布方法に関するものである。
【0003】
一方、本発明は、ナノ水準のバイオカプシドを活用する技術と関連性があるのでバイオテクノロジー分野の技術とも関連する。
【背景技術】
【0004】
赤潮(red tide)現象というのは、海洋微生物(動植物プランクトン、原生動物、バクテリア)の爆発的な増殖によって海水が変色して、海洋生物が被害を被る現象をいう。赤潮現象を起こす原因生物は、植物プランクトンの珪藻類(diatom)、渦鞭毛藻類(dinoflagellate)、藍藻類(blue−green algae)、微細藻類(microalgae)などと、繊毛虫類などで、韓国で発見されたものだけでも50余種にもなる。プランクトンの種類によって海水の色は赤色に限らないで茶褐色、青色、白色などで現れたりする。
【0005】
韓国のような温帯地方の海水生態系では、富栄養化になると豊かな営養分を基にして夏期に水層が形成されて(stratification)、光量が高くなり、長い梅雨と水温が上昇することによって1次産生者である植物プランクトンの生長に有利な環境が造成されながら藻類の大発生が進行される。特に、韓国の沿岸で赤潮現象を起こす種の中で魚類や貝類を直接致死させる毒性物質を産生する種は、コクロディニウム(Cochlodinium)属、ギムノディニウム(Gymnodinium)属、ジロディニウム(Gyrodinium)属、ヘテロシグマ(Heterosigma)属など渦鞭毛藻類(dinoflagellate)に属する種である。
【0006】
韓国で赤潮現象を起こす生物を季節別に詳しくみると、春期にはスケルトネマ(Skeletonema)属、キートケロス(Chaetoceros)属に属する珪藻類などがあり、初夏にはヘテロシグマ(Heterosigma)属、プロロセントラム(Prorocentrum)属の小型渦鞭毛藻類などがあり、晩夏から秋期までは大型のセラチウム(Ceratium)属、ギムノディニウム(Gymnodinium)属、コクロディニウム(Cochlodinium)属の渦鞭毛藻類がある。年度別では、1995年から南海岸と東海南部海域でコクロディニウムポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)種が常習的に赤潮現象を起こしている。このような赤潮を防除するために従来は、黄土散布法、オゾン処理法、化学薬品散布法、生物学的処理法などを使用してきた。黄土散布による赤潮の防除は、黄土コロイド粒子が海水中の栄養物質、微少プランクトンなどの懸濁物質を凝集、吸着する特性を用いて赤潮微生物を黄土に凝集、沈澱させるものである。黄土散布による有毒性赤潮生物の除去効果は、種によって差があるが、コクロディニウム赤潮生物の除去効果は、室内実験と現場調査の結果70〜80%と示された。日本で実施された酸性白土の赤潮微生物防除でも、コクロディニウムの外14種の赤潮原因生物を対象に実験を行なった結果、吸着、沈降、細胞破壊などの効果を確認した。しかし、黄土を散布すると一時的な富裕物増加による副作用が発生して魚類のえらを詰まらせて斃死させる問題が発生する。生黄土を海洋に散布する場合、黄土塊及び不純物がそのまま沈降して赤潮生物を吸着、凝集する時間的余裕がなく、赤潮除去効率が下がり海底堆積層による2次環境汚染を誘発し得るという問題点がある。
【0007】
オゾン処理法は、2次汚染を誘発せず海洋生態系の撹乱が最小化される長所があるが、電力所要量が大きくて装置の規模が大きいオゾン発生器とともに別に発電機を船舶に搭載しなければならないので、専用船舶の建造が求められる一方、赤潮発生は一年の中で主に夏期に偏重するので遊休施設が過多に発生したり、赤潮時期に合わせて重量物であるオゾン発生装置と発電機を船舶に搭載または解体しなければならないという困難がある。特にオゾンは、保存が不可能なので赤潮が過多に発生してオゾン量が一時的に大きく必要となる場合には、海水に酸素量が過多に増加して生態系に悪影響を及ぼすのみならず赤潮防除能力が不十分であるという問題点がある。
【0008】
化学薬品散布法は、硫酸銅(CuSO4)、二酸化塩素(ClO2)、シマジン(Simazine)などを散布する方法であり、過去から用いられてきたが、その中で費用が最も安くて広く用いられる硫酸銅は、有害性渦鞭毛藻類にのみに特異的なのではなく、赤潮源である生物の他の異なる海洋生物にまで影響を及ぼし、水中の異なる生物に対する毒性及び腐食の側面で問題を起こし得、また前記硫酸銅は一時的な効果のみを示すので反復して使用しなければならず、藻類の赤潮発生時に隋伴する高いアルカリ性環境条件の下では、硫酸銅が不安定になるので多量に処理しなければならないので非経済的であるという短所がある。
【0009】
赤潮現象を制御するためのまた異なる方法として多くの生物学的な方法が試みられている。特に、天敵である動物性プランクトンと海洋細菌を利用したり有害ないし有毒性赤潮生物と栄養競争関係にありながら比較的に害が少ない赤潮の種類を人為的に誘発させたりして栄養塩類の消費を促進させる方法など、赤潮発生と繁殖を抑制する生物学的方法研究が活発に進行されている。
【0010】
これに対する具体的な文献としては、特許文献1を参考することができる。前記文献は、シュードモナス(Pseudomonas)属の微生物を用いたヘテロシグマ(Heterosigma)属の渦鞭毛藻類の抑制方法に関するもので、具体的にはヘテロシグマ属を抑制することができるシュードモナスフルオレセンス菌株HAK−13及びそれを用いた渦鞭毛藻類を抑制する方法に関するものである。前記方法は、
1)ヘテロシグマ属渦鞭毛藻類抑制能を有するシュードモナス属微生物を選別する工程と、
2)工程1)のシュードモナス属微生物を培養して培養物を獲得する工程と、
3)工程2)の培養物を赤潮発生海域に散布する工程とで構成されている。
【0011】
シュードモナスフルオレセンスHAK−13菌株は、栄養寒天培地(Nutrient agar;0.8%(w/v)Nutrient broth,1.5%agar powder)で18〜35℃の培養温度、1〜5日間の培養条件で培養して、これを代数成長段階のヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)D−075培養液に接種した結果、接種12時間後にヘテロシグマアカシオD−075菌株の細胞成長が急激に阻害されて90%以上の細胞数が減少し、接種48時間で完全死滅しただけでなく、シュードモナスフルオレセンスHAK−13菌株処理実験群と未処理対照群を肉眼で観察した時、シュードモナスフルオレセンス未処理対照群は赤い茶色であり、ヘテロシグマアカシオD−075菌株が大量繁殖した状態を示した。前記文献を通じてシュードモナスフルオレセンスは、渦鞭毛藻類に対する抑制能力を有しているので、前記菌株を用いる殺藻剤は、渦鞭毛藻類の発生による赤潮現象を防除するのに有用に使用することができる。
【0012】
しかし、これは赤潮現象を発生させる特定藻類に影響を及ぼす微生物を発見して大量産生しなければならないという点でいまだに常用化され得ずにいる。
【0013】
それで、本発明者等は、海洋汚染を防止することができる、有害藻類の制御効果が優秀な殺藻剤とその搭載及び散布技術に関して研究した結果、赤潮または緑潮現象を起こす特定有害藻類に特異性があるウイルスのカプシド遺伝子を用いて殺藻物質を搭載及び散布することで有害藻類のみを選択的に制御するようにすることによって、既存の黄土散布法や他の赤潮現象防止方法の問題点である海洋生態系汚染のような副作用を根本的に防止する効果があることを明らかにすることで本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】韓国登録特許公報第10−0758997号
【特許文献2】韓国公開特許公報第2002−0015344号
【特許文献3】JP11098979A2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明で前述した従来の赤潮除去方法における問題点を解決することを主な課題とする。
【0016】
具体的に前述した課題は、赤潮誘発藻類に特異的に吸着/感染する特定のウイルスを選択して、その外部カプシドタンパク質のみをナノ粒子サイズの形態で大量産生する方法を提示することによって達成される。
【0017】
また本課題は、前記方法によって産生されたナノカプシドに、天然または新規な殺藻物質を搭載する方法を提示することによって、さらに効果的に達成され得る。
【課題を解決するための手段】
【0018】
前記課題を解決するために本発明は、
1)赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類を採取して培養する工程と、
2)前記培養された有害藻類に特異性があるウイルスを選別する工程と、
3)前記選別されたウイルスのカプシド遺伝子をクローニングする工程と、
4)前記クローニングされた遺伝子を組換え大腸菌または酵母で発現した後、ナノカプシドを大量産生する工程、及び
5)前記大量産生されたナノカプシドに殺藻物質を搭載する工程とを含むナノカプシドを用いた有害藻類制御方法を提供する。
【0019】
また、本発明は、前記の課題をより効果的に解決するために、前記有害藻類に特異性のあるウイルスは、カプシド内部に核酸がなく、増殖力がなく、人体有害性がなく、カプシドタンパク質が殺藻物質の伝達体にのみ用いられることを特徴とするナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法を提供する。
【0020】
同時に、本発明では、ウイルスナノカプシドに搭載された殺藻物質は、キノン系化合物、チアゾリジンジオン(thiazolidinedione)系化合物及びマグネシウム有機クレイからなる群から選択されるいずれかひとつであることを特徴とし、前記殺藻物質をウイルスナノカプシドに搭載する方法は、遺伝子組換え方法を用いた共発現(coexpression)、または瓦解用または再結合用緩衝溶液で自己組立化(self assembly)法によって遂行される生物学的な方法によって遂行されることを特徴とするナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、赤潮または緑潮現象を起こす特定藻類に特異性があるウイルスを用いて特定藻類にのみ選択的に影響を及ぼすようにすることで、既存の黄土散布法やその他の異なる赤潮現象防止方法の問題点である海洋生態系に及ぼす副作用を根本的に無くす効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】酵母発現システムを用いたウイルスカプシドの大量産生過程を示した図である。
【図2】有害藻類である渦鞭毛藻類ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)に特異に感染する野生型HcRNAVウイルスのカプシド遺伝子配列(一番目行)、この遺伝子を酵母ピチア(Pichia)で発現可能になるように変形した遺伝子(二番目行)、及びこれらのアミノ酸配列(三番目行)情報を示した図である。
【図3】クローニングされた変形遺伝子のサイズを確認する電気泳動結果を示した図である。
【図4】酵母で発現されたHcRNAVカプシド遺伝子の発現結果を示した図である。
【図5】酵母で発現されたHcRNAVウイルスカプシドの電子顕微鏡写真である。
【図6】バイオナノカプシドに殺藻物質を搭載して有害藻類を攻撃して破壊する様子の模式図である。
【図7】蛍光物質FITCが搭載されたカプシドタンパク質の宿主特異的結合をキートケロス・サルスギネウム(C.salsugineum)を対象に調査した図である。
【図8】TD系化合物をコクロディニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)に処理した後、時間経過によって有害藻類が破壊される現象を示した図で:(a):化合物17を処理しないコクロディニウム・ポリクリコイデス;及び(b)〜(f):化合物17を1時間(b)、2時間(c)、3時間(d)、4時間(e)、または5時間(f)間処理したコクロディニウム・ポリクリコイデス。
【図9】TD系化合物をヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)に処理した後、時間経過によって有害藻類が破壊される現象を示した図で:(a):化合物17を処理しないヘテロシグマ・アカシオ;及び(b)〜(f):1μMの化合物17を1時間(b)、2時間(c)、4時間(d)、6時間(e)、8時間(f)、10時間(g)または10時間以上(h)処理したヘテロシグマ・アカシオ。
【図10】殺藻物質として用いられるマグネシウム有機クレイのFT−IR及び1H−NMRスペクトルを示した図である。
【図11】合成されたマグネシウム有機クレイの電子顕微鏡写真(SEM及びTEMイメージ)を示した図である。
【図12】マグネシウム有機クレイの殺藻効果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0024】
本発明は、
1)赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類を採取して培養する工程と、
2)前記培養された有害藻類に特異性があるウイルスを選別する工程と、
3)前記選別されたウイルスのカプシド遺伝子をクローニングする工程と、
4)前記クローニングされた遺伝子を組換え大腸菌または酵母で発現した後ナノカプシドを大量産生する工程、及び
5)前記大量産生されたナノカプシドに殺藻物質を搭載する工程とを含むナノカプシドを用いた有害藻類制御方法を提供する。
【0025】
前記方法において、前記赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類は、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)、キートケロス・サルスギネウム(Chaetoceros salsugineum)、コクロディニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)、ヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)、シャットネラ・マリーナ(Chattonella marina)及びプロトケラチウム・レティキュラータム(Protoceratium reticulatum)からなる群から選択されるいずれかひとつであることが好ましいが、これに限定されない。前記有害藻類は、6〜9月頃南海岸や西海岸でよく出没するが、それを採取して培養することができる。
【0026】
前記有害藻類を培養した後、有害藻類のみを特異に感染させるウイルスを選別して分離することができる。前記ウイルスは、カプシド内部に核酸がなくて増殖力がなく、人体有害性もなく、カプシドタンパク質を殺藻物質の伝達体にのみ用いることができる。前記ウイルスは、好ましくは55nmサイズの外壁(envelope)がない多面体形ウイルス(naked icosahedral nucleocapsid)であり得、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマRNAウイルス(Heterocapsa circularisquama RNA Virus,HcRNAV)、キートケロス・サルスギネウム核内封入体ウイルス(Chaetoceros salsugineum Nuclear Inclusion Virus,CsNIV)及びヘテロシグマ・アカシオRNAウイルス(Heterosigma akashiwo RNA virus,HaRNAV)からなる群から選択されるいずれかひとつであることがさらに好ましいが、これに限定されるのではない。
【0027】
前記ウイルスの中でHcRNAVは、ウイルスを構成するタンパク質中のカプシドにあたる遺伝子が1,080bp(配列番号1)のサイズを有し、前記遺伝子によって暗号化されるタンパク質は約360個のアミノ酸からなることが好ましいが、これに限定されるのではない。
【0028】
前記方法において、前記殺藻物質は有害藻類にのみ特異に反応する物質であり、これを使えば異なる生物には全く被害を及ぼさないので海洋生態系の破壊を最小化することができる。前記殺藻物質は具体的に、キノン系化合物、チアゾリジンジオン(thiazolidinedione)系化合物またはマグネシウム有機クレイであることが好ましいが、これに限定されるのではない。
【0029】
前記マグネシウム有機クレイは、Al2Si2O5(OH)4、MgsSi2O5(OH)4、Al2Si4O10(OH)2、Mg3Si4O10(OH)2、KAl2(AlSi3)O10(OH)2、Ca0.25(Si3.5Al0.5)Al2O10(OH)2および(Mg,Fe,Al)6(Si,Al)4O10(OH)8からなる群から選択されるいずれか一つ、またはこれらの混合物から選択することができる。また、前記キノン系化合物及びチアゾリジンジオン系化合物は、下記の化学式1及び2(有害藻類殺藻能があるキノン系化合物)、及び化学式3(有害藻類殺藻能があるチアゾリジンジオン)中のいずれか一つ、またはそれらの混合物から選択することができる。
【0030】
【化1】
【0031】
【化2】
【0032】
ここで、Rは置換または置換されないアルキル、置換または置換されない(ヘテロ)シクロアルキル、(ヘテロ)シクロアルケニルまたは(ヘテロ)アリールである。
【0033】
【化3】
化学式3
【0034】
ここで、R1は水素、ニトロ基、アミン、アルキル、メトキシ、トリフルオロメチル、カルボキシルまたはハロゲンで、R2は水素、メチル、エチル、または置換されない(ヘテロ)シクロアルキル、(ヘテロ)シクロアルケニルまたは(ヘテロ)アリールであり、nは0ないし5の整数である。
【0035】
前記殺藻物質は、それ自体としてまたはコーティング物質と結合してウイルスカプシドに搭載(encapsulation)することができる。そのように搭載されたバイオナノカプシドは、対象有害藻類(ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマなど)に結合して有害藻類の成長を阻害して殺藻させられる。殺藻物質を搭載する方法は、熱またはpHの変化によるウイルスの膨脹(swelling)を用いる物理的搭載方法と、遺伝子組換え方法を用いた共発現(coexpression)、または瓦解用または再結合用緩衝溶液を用いた自己組立化(self assembly)方法のような生物学的搭載方法を用いることができる。
【0036】
本発明者等は、前記ウイルスの中でHcRNAVを選別及び分離して、前記ウイルスのカプシド遺伝子をクローニングした後、それを組換え大腸菌または酵母で発現させてカプシドタンパク質を大量産生した。具体的に、前記1,080bpのHcRNAVカプシド遺伝子をpPICZベクターに入れてクローニングした後、酵母ピチア(Pichia)宿主でプラスミドを大量発現させた。発現のために酵母の発現工程では、グリセロールを基質に用いて、適正微生物濃度でメタノールを追加してHcRNAVカプシドタンパク質の発現を誘導することで大量のカプシドタンパク質を作ることができた。前記大量産生されたプラスミドは、1,080bpのサイズを有する遺伝子であることを確認し(図2参照)、最終産生されたカプシドタンパク質は、40kDaのサイズを有するタンパク質であることを確認することができた(図3参照)。したがって、PCRを通じて得た前記ウイルス遺伝子は大腸菌またはピチアに使用可能なシャトルベクターに入れてクローニングし、クローニングされた遺伝子は最終的にピチア宿主の大量発酵過程を通じてカプシドタンパク質として大量産生された(図1参照)。前記大量産生されたナノカプシドに殺藻物質を搭載するに際して、本発明者等は有害藻類にのみ特異に反応してこれを使えば異なる生物には全く被害を及ぼさない殺藻物質として、チアゾリジンジオン(thiazolidinedione,TD)系化合物またはマグネシウム有機クレイを用いた。その結果、大部分のTD系化学物は有害藻類であるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ、ヘテロシグマ・アカシオ及びコクロディニウム・ポリクリコイデスに対して高い殺藻効果を示した一方、無害藻類に対しては非常に低い毒性を示した(表1、表2、図8及び図9参照)、マグネシウム有機クレイの場合にも有害藻類のみを選択的に制御することが示された(表4、図12参照)。
【0037】
それで、本発明は、有害藻類のみを選択的に制御する効果を有する殺藻物質を有害藻類に特異的に結合する特定ウイルスのカプシド内に搭載することで、他の無害藻類に対する毒性なしに有害藻類のみを選択的に制御することができるので、これは海洋生態系破壊を最小化させることができる有害藻類制御方法として有用に用いることができる。
【0038】
以下、本発明を下記の実施例によってより詳細に説明する。
【0039】
但し、下記の実施例は本発明の内容を例示するだけのものであって、発明の範囲が実施例によって限定されるのではない。
【実施例1】
【0040】
有害藻類に特異性があるウイルスのカプシド遺伝子の大量産生
前記報告された有害藻類中の渦鞭毛藻類の一種であるヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)を2009年8月2日から9月25日まで全羅南道麗水の沖合で分離及び選別した。選別された藻類をf/2培地に接種した後、20℃で培養した。HcRNAV109ウイルスの野生型カプシド遺伝子情報は、Genbank No. AB218609.1から得、1,080bpの遺伝子を酵母であるピチア(Pichia)で最適発現されるように変形させた後、pPICZAプラスミドに入れて最終的にpPICZA−CPベクターを製造した。クローニングしたpPICZA−CPベクターをピチアパストリス(Pichia pastoris)宿主に挿入した後、ゼオシン(zeocin)−YPD培地上で1次スクリーニングして分離した宿主をメタノール誘導培地で培養してHcRNAV遺伝子の発現を確認して40kDaの分子量を有するタンパク質を大量産生することができる組換え菌株を確保した。前記大量増殖されたプラスミド(plasmid)は、図2に示したように1,080bpのサイズを有する遺伝子であることを確認し(図2)、最終産生されたカプシドタンパク質は、40kDaのサイズを有するタンパク質であることを確認することができた(図3)。すなわち、該当のウイルス遺伝子は、PCRを通じて獲得が可能であり、この獲得された遺伝子は大腸菌またはピチアに使用可能なシャトルベクターに入れてクローニングすることができ、このクローニングされた遺伝子は最終的にピチア宿主の大量発酵過程を通じて産生することができることを確認した。発酵は、グリセロールを炭素源として流加培養で進行して、40時間以後に3.6ml/hのメタノールを供給しながらタンパク質発現を誘導した。
【実施例2】
【0041】
ウイルスカプシドに殺藻物質を搭載して散布
遺伝子組換え方法を用いてヘテロカプサ・サーキュラリスカーマRNAウイルス(Heterocapsa circularisquma RNA virus,HcRNAV)及びキートケロス・サルスギネウム核内封入体ウイルス(Chaetoceros salsugineum nuclear inclusion virus,CsNIV)のカプシド遺伝子をそれぞれピチアで共発現(coexpression)した後、Niセファロース(Ni Sepharose)カラムを用いて親和性クロマトグラフィー(affinity chromatography)方法で精製した。精製されたウイルスカプシドタンパク質の自己組立化(self assembly)を増大させるために蒸留水で1日間透析した。自己組立されたカプシドタンパク質の宿主特異的結合及び殺藻物質の搭載能力を調査するために、まずカプシドタンパク質を瓦解用緩衝溶液(dissociation buffer,10mM Tris−HCl,150mM NaCl,10mM EGTA,pH8.5)に1時間の間露出させて解離させた。解離されたカプシドタンパク質にTD系殺藻物質と特性が類似の蛍光物質FITCを添加した後、再結合緩衝溶液(reassociation buffer,10mM Tris−HCl,150mM NaCl,1mM CaCl2,pH8.5)で1日間透析して蛍光物質が搭載されたかどうかを確認することで搭載能を調査した。また、蛍光物質が搭載されたカプシドタンパク質を有害藻類と混ぜた後、3時間の間培養して蛍光顕微鏡下でカプシドタンパク質の宿主特異的結合を調査した。カプシドタンパク質に搭載されないFITCの藻類に対する非特異的結合を防止するために1日間さらに透析した後、タンパク質電気泳動を実施して蛍光物質が搭載されたカプシドタンパク質のみを確認した。海洋環境と同一条件を維持するために海水に保存した藻類にカプシドタンパク質を処理して3時間の間培養した。藻類に付着しないカプシドタンパク質を除去するためにフィルター滅菌された海水を用いて三回洗浄した後、FITCが搭載されたカプシドタンパク質がキートケロス・サルスギネウムに対して特異的に結合するかどうかを緑色(FITC)フィルターが装着された蛍光顕微鏡下で調査した。
【0042】
その結果、図7に示したように、蛍光物質FITCが搭載されたカプシドタンパク質の宿主特異的結合をキートケロス・サルスギネウムを対象に調査した結果、FITCが搭載されたカプシドタンパク質処理後、キートケロス・サルスギネウムの赤色フィルター条件で藻類の自己蛍光(auto fluorescence)(A)とFITC(緑色)フィルター条件で蛍光イメージ(A’)が示された。すなわち、キートケロス・サルスギネウム細胞表面で濃い緑色蛍光(FITC)が観察され、これを基にカプシドタンパク質が宿主特異的に結合するということが確認された。一方、対照群に蛍光物質(FITC)のみを藻類に処理して同一条件で調査した結果、赤色の藻類の自己蛍光(B)は観察された一方、FITC(緑色)蛍光(B’)は全く観察されなかった。これは産生したカプシドタンパク質が藻類に特異的に結合するということを示す(図7)。
【実施例3】
【0043】
有害藻類に対する選択的な殺藻効果
殺藻物質として下記の化学式4または5のチアゾリジンジオン(thiazolidinedione,TD)系化合物を用いて殺藻能スクリーン実験を遂行した。選択された有害藻類7種を対象に135種のTD化合物を濃度別に処理することで、殺藻能スクリーニングを進行した。マイクロプレートに同量の細胞を入れて0.05、0.1、1、2、5、10、20、50、100μMの濃度で処理した後、3日後にビルケルチュルク血球計数盤とセジウィック・ラフター(Sedgwick−Rafter)カウンティング・チャンバーを用いて細胞密度を測定した。測定された細胞密度で減少率(%)を計算して正確なIC50値を測定した。
【0044】
減少率(%)=(1−Tt/Ct)×100(T:処理細胞密度、C:対照群の細胞密度)
【0045】
その結果、下記の表1及び表2に示されたように、大部分のTD系化合物は有害藻類に対しては高い殺藻効果を示した一方、無害藻類に対しては非常に低い毒性を示した。その中でも化合物17が、無害藻類に対しては毒性を示さずに有害藻類に対しては最も高い殺藻効果を示した(表1及び表2)。また、図8に示されたように、1μMのTD系化合物17をコクロディニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)に処理した後、時間によって細胞の変化を観察した結果、8個の細胞が結合されていた正常な形態が、処理後2時間が経過して(c)各節部分が解け始め、4時間が経つと各細胞が離れて、5時間が経つと(f)離れた細胞が裂けて死滅する現象を示した(図8)。一方、図9に示されたように、1μMのTD系化合物17をヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)に処理した後、時間によって細胞の変化を観察した結果、処理後2時間が経過して細胞壁部分が裂けて細胞内物質が細胞外に流れ出ながら死滅する現象を示した(図9)。
【0046】
【化4】
【0047】
【化5】
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【実施例4】
【0050】
マグネシウム有機クレイの合成及び分析
本願発明で用いられるまた一つの殺藻物質である有機クレイは、金属塩化物試薬として塩化マグネシウム水和物(MgCl2,6H2O,Junsei98%)を用い、作用基がついたシラン化合物は3−アミノプロピルトリエトキシシラン(3−aminopropyl−triethoxysilane,APTES)(Aldrich98%)を用い、溶剤はエチルアルコール(95%、試薬用)、1N−NaOH溶液、アンモニア水(30%、試薬用)を用いて製造した。反応から得た生成物である有機クレイの合成有無を調べるために、次のような機器を用いて分析した。固体試料は、29Si−HPDEC NMR(Avance 400,Bruker,Germany)を用いてSi−OまたはSi−OH構造分析を行ない、D2Oに溶解するMetal−APTES化合物の1H−NMR(JEOL,300MHz,D2O)分析を通じてアミノプロピル末端グループがクレイに導入されたことを確認した。そして、FT−IR(NICOLET6700,Thermoscientific,米国)分析は、ブロム化カリウム(KBr)ペレットで製造して分析し、作用基すなわち、アミノプロピル(−(CH2)3NH2)の導入有無を確認した。X線回折(XRD)パターンは、X線回折計(X’Pert PRO,PANalytical B.V.)を用いて得、固体(パウダー)試料をCuKα radiation(20mA及び40kV)、2θは2゜から70゜まで2゜/分の速度で測定して結晶の構造を確認した。透過及び走査電子顕微鏡の分析から有機クレイの形態(morphology)を確認し、EDXを通じて金属/Si成分を分析して有機クレイの合成有無を確認した(図11)。塩化マグネシウム水和物1.68g(MgCl2 6H2O,8.3mmol)を50mlのエチルアルコールに溶解した溶液にAPTES 2.6ml(11.1mmol)を強く撹拌しながら徐々に加えると沈殿物が析出して、この反応物を室温で24時間反応させた。白色の沈殿物は遠心分離後エチルアルコールで3回以上洗浄した後、乾燥した。収得率は96%以上であり、IR、NMR、SEM、TEM、XRDなどを分析して合成有無を確認した。そして報告された方法どおりに水酸化ナトリウム溶液(1N NaOH,10ml)を触媒に用いて合成したが、反応物のpHが約9.87で、NaOH水溶液を入れない反応物のpH8.15よりは高いpH値を維持した。しかし、生成物の収得率の差は大きくなかった。
【0051】
その結果、図10で示されたように、FT−IR−スペクトルと1H−NMRでみると、Mg−APTESにアミノプロピルが導入されたことを確認することができた(図10)。構造特性のデータは、下記の表3に要約した。末端の導入基NH2伸縮震動は、3600〜3200cm−1、NH2曲げ振動(1658cm−1)で強い吸収帯を、Si−O−Si stretching(1020cm−1)で示すことから有機クレイが合成されたことを確認した(表3及び図11)。
【0052】
【表3】
【実施例5】
【0053】
マグネシウム有機クレイの殺藻効果
マグネシウム有機クレイを有害藻類3種(ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ、ヘテロシグマ・アカシオ及びコクロディニウム・ポリクリコイデス)に0.2mg/mlの濃度で処理した時、対照群に比べて80%以上の殺藻能を示すことを確認した。一方、無害藻類4種{ナヴィクラ・ペリクローサ(Navicula pelliculosa)、ファエオダチラム(Phaeodactylum)EPV、ナンノクロロプシス(Nannochloropsis)WT、アンフィディニウム属(Amphidinium sp.)}には、最大20%の殺藻能を示すことを確認した。また、商業用ミネラルクレイを同じ有害藻類に処理した時、有機クレイより効能が落ちることを確認した。これを通じて、低い濃度での有機クレイを用いて有害藻類のみを選択的に制御することが可能であることを確認した(図12)。また、表4のIC50値をみるとマグネシウム有機クレイが類似の化合物である黄土あるいは塩化アンモニウムより優れた値を示すことが分かり、製造に用いられた塩化マグネシウムとの比較でも低いIC50値を示し、高い殺藻能を有していることが証明された(表4)。
【0054】
【表4】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1)赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類を採取して培養する工程、
2)前記工程1)で培養された有害藻類に特異性があるウイルスを選別する工程、
3)前記工程2)で選別されたウイルスのカプシド遺伝子をクローニングする工程、
4)前記工程3)でクローニングされた遺伝子を組換え大腸菌または酵母で発現した後、ナノカプシドを大量産生する工程、及び
5)前記工程4)で大量産生されたナノカプシドに殺藻物質を搭載する工程とを含むナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項2】
前記赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類が、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)、キートケロス・サルスギネウム(Chaetoceros salsugineum)、コクロディニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)、ヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)、シャットネラ・マリーナ(Chattonella marina)及びプロトケラチウム・レティキュラータム(Protoceratium reticulatum)からなる群から選択されるいずれかひとつであることを特徴とする、請求項1に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項3】
前記殺藻物質が、マグネシウム有機クレイ、キノン系化合物及びチアゾリジンジオン(thiazolidinedione)系化合物からなる群から選択されるいずれかひとつであることを特徴とする、請求項1に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項4】
前記キノン系化合物が、下記の化学式1または2で表わされ、ここで下記の化学式1または化学式2のRは置換または置換されないアルキル、置換または置換されない(ヘテロ)シクロアルキル、(ヘテロ)シクロアルケニルまたは(ヘテロ)アリールであることを特徴とする、請求項3に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【化1】
【化2】
【請求項5】
前記チアゾリジンジオン系化合物が、下記の化学式3で表わされ、ここで下記の化学式3のR1は水素、ニトロ基、アミン、アルキル、メトキシ、トリフルオロメチル、カルボキシルまたはハロゲンで、R2は水素、メチル、エチル、または置換されない(ヘテロ)シクロアルキル、(ヘテロ)シクロアルケニルまたは(ヘテロ)アリールであり、nは0ないし5の整数であることを特徴とする、請求項3に記載のナノカプシドを用いた有害藻類制御方法。
【化3】
【請求項6】
前記有害藻類に特異性のあるウイルスは、カプシド内部に核酸がなく、増殖力がなくて人体有害性がなく、カプシドタンパク質が殺藻物質の伝達体にのみ用いられることを特徴とする、請求項1に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項7】
前記有害藻類に特異性のあるウイルスは、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマRNAウイルス(Heterocapsa circularisquama RNA Virus,HcRNAV)、キートケロス・サルスギネウム核内封入体ウイルス(Chaetoceros salsugineum Nuclear Inclusion Virus,CsNIV)及びヘテロシグマ・アカシオRNAウイルス(Heterosigma akashiwo RNA virus,HaRNAV)からなる群から選択されるいずれかひとつであることを特徴とする、請求項1に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項8】
前記ナノカプシドに殺藻物質を搭載する工程は、生物化学的な搭載方法及び物理化学的搭載方法のいずれか一つの方法、または2つの方法を混合した方法で遂行されることを特徴とする、請求項1に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項9】
前記生物学的な搭載方法は、遺伝子組換え方法を用いた共発現(coexpression)、または瓦解用または再結合用緩衝溶液(dissociation or re−association buffer)を用いた自己組立化(self assembly)法によって遂行されることを特徴とする、請求項8に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項1】
1)赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類を採取して培養する工程、
2)前記工程1)で培養された有害藻類に特異性があるウイルスを選別する工程、
3)前記工程2)で選別されたウイルスのカプシド遺伝子をクローニングする工程、
4)前記工程3)でクローニングされた遺伝子を組換え大腸菌または酵母で発現した後、ナノカプシドを大量産生する工程、及び
5)前記工程4)で大量産生されたナノカプシドに殺藻物質を搭載する工程とを含むナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項2】
前記赤潮及び緑潮現象を起こす有害藻類が、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(Heterocapsa circularisquama)、キートケロス・サルスギネウム(Chaetoceros salsugineum)、コクロディニウム・ポリクリコイデス(Cochlodinium polykrikoides)、ヘテロシグマ・アカシオ(Heterosigma akashiwo)、シャットネラ・マリーナ(Chattonella marina)及びプロトケラチウム・レティキュラータム(Protoceratium reticulatum)からなる群から選択されるいずれかひとつであることを特徴とする、請求項1に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項3】
前記殺藻物質が、マグネシウム有機クレイ、キノン系化合物及びチアゾリジンジオン(thiazolidinedione)系化合物からなる群から選択されるいずれかひとつであることを特徴とする、請求項1に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項4】
前記キノン系化合物が、下記の化学式1または2で表わされ、ここで下記の化学式1または化学式2のRは置換または置換されないアルキル、置換または置換されない(ヘテロ)シクロアルキル、(ヘテロ)シクロアルケニルまたは(ヘテロ)アリールであることを特徴とする、請求項3に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【化1】
【化2】
【請求項5】
前記チアゾリジンジオン系化合物が、下記の化学式3で表わされ、ここで下記の化学式3のR1は水素、ニトロ基、アミン、アルキル、メトキシ、トリフルオロメチル、カルボキシルまたはハロゲンで、R2は水素、メチル、エチル、または置換されない(ヘテロ)シクロアルキル、(ヘテロ)シクロアルケニルまたは(ヘテロ)アリールであり、nは0ないし5の整数であることを特徴とする、請求項3に記載のナノカプシドを用いた有害藻類制御方法。
【化3】
【請求項6】
前記有害藻類に特異性のあるウイルスは、カプシド内部に核酸がなく、増殖力がなくて人体有害性がなく、カプシドタンパク質が殺藻物質の伝達体にのみ用いられることを特徴とする、請求項1に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項7】
前記有害藻類に特異性のあるウイルスは、ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマRNAウイルス(Heterocapsa circularisquama RNA Virus,HcRNAV)、キートケロス・サルスギネウム核内封入体ウイルス(Chaetoceros salsugineum Nuclear Inclusion Virus,CsNIV)及びヘテロシグマ・アカシオRNAウイルス(Heterosigma akashiwo RNA virus,HaRNAV)からなる群から選択されるいずれかひとつであることを特徴とする、請求項1に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項8】
前記ナノカプシドに殺藻物質を搭載する工程は、生物化学的な搭載方法及び物理化学的搭載方法のいずれか一つの方法、または2つの方法を混合した方法で遂行されることを特徴とする、請求項1に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【請求項9】
前記生物学的な搭載方法は、遺伝子組換え方法を用いた共発現(coexpression)、または瓦解用または再結合用緩衝溶液(dissociation or re−association buffer)を用いた自己組立化(self assembly)法によって遂行されることを特徴とする、請求項8に記載のナノカプシドを用いた有害藻類の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−46516(P2012−46516A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180643(P2011−180643)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(510207069)インダストリー−アカデミック コーオペレイション ファウンデーション, チョソン ユニヴァーシティー (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(510207069)インダストリー−アカデミック コーオペレイション ファウンデーション, チョソン ユニヴァーシティー (2)
【Fターム(参考)】
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