説明

バイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルム剥離方法

【課題】低毒性で取り扱いが容易で、配管や機器などに対する腐食のおそれのない、発泡性がなく、かつ、比較的低濃度の添加で強力なバイオフィルム剥離効果が得られるバイオフィルム剥離剤を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有することを特徴とするバイオフィルム剥離剤。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオフィルム剥離剤、及び、バイオフィルム剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空調用、冷凍用、あるいは各種プラントの冷却水系では、細菌、糸状菌、藻類等により、バイオフィルムが系内の配管や機器に付着し、熱効率の低下、配管の閉塞や流量低下、金属材部分の腐食等の障害が引き起こされる。
【0003】
このようなバイオフィルムに対しては、従来、薬剤を用いる方法が一般的であり、用いられる薬剤としては、付着したバイオフィルムを剥離ないし洗浄するバイオフィルム剥離剤、あるいは、バイオフィルムの付着を防止するスライムコントロール剤などが挙げられる。
【0004】
これらの薬剤の中で、スライムコントロール剤または殺菌剤は、水中の微生物濃度を低く保つことにより、スライムの付着ポテンシャルを低減させている。一般的にはスライムコントロール剤は、菌の酵素反応の阻害、細胞膜の変性作用により、殺菌または細菌の増殖を抑制する。一方、バイオフィルム剥離剤は、主に菌体外の粘着物質(一般的には多糖類)の粘性を低下させることにより、細菌の集合体を分散させ、付着面よりバイオフィルムを剥離する。従って、スライムコントロール剤として有効な薬剤であっても、バイオフィルム剥離剤としては有効でない場合があり、また、バイオフィルム剥離剤として有効であっても、スライムコントロール剤として有効でない場合がある。
【0005】
ここで、バイオフィルム剥離剤としては、特開平5−157719号公報(特許文献1)などで提案されているイソチアゾリン系などの有機系殺菌剤、あるいは、特開2003−267811公報(特許文献2)などで提案されている塩素化スルファミン酸などが用いられているが、そのバイオフィルム剥離力は低く、改善が求められている。
【0006】
また、強力な塩素剤や過酸化水素等の酸化剤を用いて一挙にバイオフィルムを剥離させる方法もしばしば行われるが、この場合、毒性、危険性が高いので薬剤の取り扱い性が悪く、かつ、処理後に中和処理を行う必要があるなど、作業が繁雑になる上に、配管や機器などに対する腐食の懸念も生じる。
【特許文献1】特開平5−157719号公報
【特許文献2】特開2003−267811公報
【特許文献3】特開2005−325036公報
【特許文献4】特開2006−21105公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の問題点を改善する、すなわち、低毒性で取り扱いが容易で、配管や機器などに対する腐食のおそれのない、発泡性がなく、かつ、比較的低濃度の添加で強力なバイオフィルム剥離効果が得られるバイオフィルム剥離剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のバイオフィルム剥離剤は上記課題を解決するため、請求項1に記載の通り、下記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有することを特徴とするバイオフィルム剥離剤である。
【化1】

(但し、上記一般式において、RおよびRは、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐の同一または異なるアルキレン基であり、RおよびRは、水素原子、同一または異なるハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基であり、Rは、炭素数2〜12の直鎖若しくは分岐のアルキレン基であり、Rは、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、Zは、水中で解離可能な陰イオンである。)
【0009】
本発明のバイオフィルム剥離剤は請求項2に記載の通り、請求項1に記載のバイオフィルム剥離剤において、前記一般式(1)において、RおよびRは、ピリジン環の3または4位置に結合しているメチレン基であり、RおよびRは、水素原子であり、Rは、テトラメチレン基であり、Rは、オクチル基、デシル基およびドデシル基から選ばれる基であり、Zは、水中で解離可能な陰イオンであることを特徴とする。
【0010】
本発明のバイオフィルム剥離剤は請求項3に記載の通り、請求項1に記載のバイオフィルム剥離剤において、前記一般式(1)で示される化合物が、1,4−ビス(3,3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンの塩であることを特徴とする。
【0011】
本発明のバイオフィルム剥離剤は請求項4に記載の通り、請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のバイオフィルム剥離剤において、フタルアルデヒド、及び/または、グルタルアルデヒドを有効成分として含有することを特徴とする。
【0012】
本発明のバイオフィルム剥離方法は、請求項5に記載の通り、前記請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のバイオフィルム剥離剤を水系水に添加することを特徴とするバイオフィルム剥離方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバイオフィルム剥離剤は、低毒性で取り扱いが容易で、配管や機器などに対する腐食のおそれのない、発泡性がなく、かつ、比較的低濃度の添加で強力なバイオフィルム剥離効果が得られるバイオフィルム剥離剤である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のバイオフィルム剥離剤は、下記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有する。
【0015】
【化2】

(但し、上記一般式において、RおよびRは、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐の同一または異なるアルキレン基であり、RおよびRは、水素原子、同一または異なるハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基であり、Rは、炭素数2〜12の直鎖若しくは分岐のアルキレン基であり、Rは、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、Zは、水中で解離可能な陰イオンである。)
【0016】
ここで、前記一般式(I)で示される化合物は特開2005−325036公報(特許文献3)、特開2006−21105公報(特許文献4)等で知られる化合物であるが、本発明者等は有効なバイオフィルム剥離剤の検討の過程で、かかる化合物のバイオフィルム剥離剤としての有効性を見出し、本発明に至った。
【0017】
前記一般式(I)で示される化合物の添加により、機器や配管に付着したバイオフィルムを変性させ、効果的に剥離させることができる。
【0018】
前記一般式(1)において、RおよびRは、ピリジン環の3または4位置に結合しているメチレン基であり、RおよびRは、水素原子であり、Rは、テトラメチレン基であり、Rは、オクチル基、デシル基およびドデシル基から選ばれる基であり、Zは、水中で解離可能な陰イオンであると、さらに高いバイオフィルム剥離性を得ることができるので好ましい。
【0019】
さらに、前記一般式(1)で示される化合物が、1,4−ビス(3,3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンの塩であるとより高いバイオフィルム剥離性を得ることができる。
【0020】
前記一般式(1)で示される化合物の水系水への添加濃度の好ましい範囲としては、通常、1mg/L以上1000mg/L以下である。1mg/L未満であると添加による効果が得られないおそれがあり、一方、1000mg/Lを越えて添加した場合、添加量の増加に伴うバイオフィルム剥離効果の向上が充分に得られない。さらに好ましい範囲としては5mg/L以上100mg/L以下である。
【0021】
さらに、前記一般式(I)で示される化合物と、フタルアルデヒド、及び/または、グルタルアルデヒドとともに目的水系水へ添加すると、相乗効果的に高いバイオフィルム剥離性を得ることができる。この場合、バイオフィルム剥離剤としてこれら前記一般式(1)で示される化合物とフタルアルデヒド、及び/または、グルタルアルデヒドとを1剤としてもよく、あるいは、A剤とB剤とから構成して、A剤には前記一般式(1)で示される化合物を、B剤にはフタルアルデヒド、及び/または、グルタルアルデヒドを、それぞれ配合してもよく、必要とする有効成分が目的水系水に添加できるようにするように適宜配合すればよいので、フタルアルデヒドとグルタルアルデヒドとの両者を併用するときにはA剤、B剤及びC剤の3剤に分けてもよい。
【0022】
このとき、前記一般式(I)で示される化合物とフタルアルデヒド、及び/または、グルタルアルデヒドとの配合割合は1:20〜100:1(境界値含む)であることが好ましい。この境界値より外での配合であると、2剤の配合による効果が充分得られないおそれがある。より好ましい配合割合は1:5〜20:1(境界値含む)である。このように2剤配合の際の添加濃度の好ましい範囲としては、相乗的な効果により前記一般式(1)で示される化合物単独での添加よりも少なくて充分な効果を得ることができるために、有効成分の合計濃度として、通常、1mg/L以上100mg/L以下である。1mg/L未満であると添加による効果が得られないおそれがあり、一方、100mg/Lを越えて添加した場合、添加量の増加に伴うバイオフィルム剥離効果の向上が充分に得られない。さらに好ましい範囲としては2mg/L以上50mg/L以下である。
【0023】
本発明のバイオフィルム剥離剤においては、そのバイオフィルム剥離効果が損なわれない限りにおいて、他の成分が添加されていても良く、例えばアクリル酸系、マレイン酸系、メタクリル酸系、スルホン酸系、イタコン酸系、または、イソブチレン系の各重合体やこれらの共重合体、燐酸系重合体、ホスホン酸、ホスフィン酸、あるいはこれらの水溶性塩などのスケール防止剤、例えば5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾロン系化合物、過酸化水素、ヒドラジン、塩素系殺菌剤(次亜塩素酸ナトリウム等)、臭素系殺菌剤及びヨウ素系殺菌剤、さらにグルタルアルデヒド、ピリチオン系化合物、ジチオール系化合物、メチレンビスチオシアネートなどのチオシアネート系化合物、ヨーネンポリマー、一般式(I)で表される化合物以外のビス型四級アンモニウム塩、ビス型四級アンモニウム塩以外の四級アンモニウム塩系化合物などのスライム防止剤、例えばベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール等のアゾール類、例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン系化合物、例えばニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸等のアミノカルボン酸系化合物、例えばグルコン酸、クエン酸、シュウ酸、ギ酸、酒石酸、フィチン酸、琥珀酸、乳酸等の有機カルボン酸など、各種の水処理剤を併用することができ、その場合も本発明に含まれる。
【0024】
本発明のバイオフィルム剥離方法は、上記のようなバイオフィルム剥離剤を、配管、水路あるいは機器などにバイオフィルムが付着した水系の水系水に添加することで実施される。
【実施例】
【0025】
以下に本発明のバイオフィルム剥離剤の実施例について具体的に説明する。
【0026】
<実施例1>
実際に稼働している冷房用冷却水系水にスライドグラス8枚を14日間浸漬し、スライドグラス表面にバイオフィルムを付着させた。これらを、最大平面が垂直になるようにそれぞれガラス製容器中の500mLの滅菌つくば市水に浸漬し、表1に示す薬品(薬品なし:コントロールも含む。表中略号は表1欄外に示す)を添加し、その後、60rpmで攪拌しながら、放置した。
【0027】
添加5時間後にそれぞれのスライドグラス表面に残留した付着物を拭い取って10mLの滅菌イオン交換水に再懸濁し、アデノシン三リン酸(ATP)濃度をATPアナライザー(東亜ディーケーケー社製AF−100)で測定した。このとき、アデノシン三リン酸濃度が低いほど付着微生物量が少ないこととなる。結果を表1に示す(表中”<10”は10pmol/L未満であることを示す)。
【0028】
【表1】

【0029】
表1より上記一般式(I)で示される化合物の1つである1,4−ビス(3、3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドによれば、極めて高いバイオフィルム剥離効果が得られることが判る。また、1,4−ビス(3、3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドとオルトフタルアルデヒドとをそれぞれ10mg/L、2mg/Lとなるように添加した混合添加系、及び、1,4−ビス(3、3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドとグルタルアルデヒドとをそれぞれ10mg/L、40mg/Lとなるように添加した混合添加系の2つの混合添加系でのアデノシン三リン酸濃度は共に10pmol/L未満であった。このように、これら混合添加系では薬剤の併用による相乗効果により高い効果が得られ、バイオフィルムは完全に剥離されたと考えられる。
【0030】
<実施例2>
実際に稼働している冷房用冷却水系水に上記一般式(I)で示される化合物の1つである1,4−ビス(3、3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドが25mg/Lになるように添加した。この添加前および添加1時間後に冷却塔下部水槽の一部(約10cm)の付着物を拭い取った。これら拭い取った付着物をそれぞれ10mLの滅菌イオン交換水に再懸濁させて、これらのアデノシン三リン酸濃度を測定することで付着微生物量を評価した。
【0031】
その結果、薬剤投入前のサンプルではアデノシン三リン酸濃度が1300pmol/Lであったのに対し、薬剤添加1時間後のサンプルでは54pmol/Lと云う結果が得られ、実際の冷却水系であっても1,4−ビス(3、3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドにより高いバイオフィルム剥離効果が得られることが確認された。
【0032】
この際、薬剤添加前の冷却水の濁度は1度であったが、薬剤添加1時間後には、15度に上昇した。これは薬剤の添加により剥離したバイオフィルムによるものと考えられ、実際にこの濁質分を遠心分離して顕微鏡で観察したところ、微生物塊であることが確認された。
【0033】
<実施例3>
実際に稼働している冷房用冷却水系水に上記一般式(I)で示される化合物の1つである1,4−ビス(3、3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドが8mg/L、オルトフタルアルデヒドが1mg/Lになるように添加した。この添加前および添加1時間後に冷却塔下部水槽の一部(約10cm)の付着物を拭い取った。10mLの滅薗イオン交換水にこれら付着物をそれぞれ再懸濁させて、これらのアデノシン三リン酸濃度を測定することで付着微生物量を評価した。
【0034】
その結果、薬剤添加前のサンプルではアデノシン三リン酸濃度950pmol/Lであったのに対し、薬剤添加後のサンプルでは18pmol/Lと云う結果が得られ、実際の冷却水系であっても1,4−ビス(3、3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイドとオルトフタルアルデヒドとの併用により極めて高いバイオフィルム剥離効果が得られることが確認された。
【0035】
この際、薬剤添加前の冷却水の濁度は0.5度未満であったが、薬剤添加1時間後には、12度に上昇した。これは薬剤の添加により剥離したバイオフィルムによるものと考えられ、実際にこの濁質分を遠心分離して顕微鏡で観察したところ、微生物塊であることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される化合物を有効成分として含有することを特徴とするバイオフィルム剥離剤。
【化1】


(但し、上記一般式において、RおよびRは、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐の同一または異なるアルキレン基であり、RおよびRは、水素原子、同一または異なるハロゲン原子、低級アルキル基または低級アルコキシ基であり、Rは、炭素数2〜12の直鎖若しくは分岐のアルキレン基であり、Rは、炭素数1〜18の直鎖若しくは分岐のアルキル基であり、Zは、水中で解離可能な陰イオンである。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、RおよびRは、ピリジン環の3または4位置に結合しているメチレン基であり、RおよびRは、水素原子であり、Rは、テトラメチレン基であり、Rは、オクチル基、デシル基およびドデシル基から選ばれる基であり、Zは、水中で解離可能な陰イオンである請求項1に記載のバイオフィルム剥離剤。
【請求項3】
前記一般式(1)で示される化合物が、1,4−ビス(3,3’−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンの塩であることを特徴とする請求項1に記載のバイオフィルム剥離剤。
【請求項4】
フタルアルデヒド、及び/または、グルタルアルデヒドを有効成分として含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のバイオフィルム剥離剤。
【請求項5】
前記請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のバイオフィルム剥離剤を水系水に添加することを特徴とするバイオフィルム剥離方法。

【公開番号】特開2009−215271(P2009−215271A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63761(P2008−63761)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000101042)アクアス株式会社 (66)
【出願人】(595137941)タマ化学工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】