説明

バイオフィルム形成促進剤

【課題】乳酸菌バイオフィルムの形成を促進する作用を有し、医薬品、食品、食品添加剤、工業用添加剤等として利用できるバイオフィルム形成促進剤の提供。
【解決手段】フルクトースを含有する、乳酸桿菌、ロイコノストック属乳酸球菌及びペディオコッカス属乳酸球菌から選ばれる1以上の乳酸菌のバイオフィルム形成促進剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌のバイオフィルム形成促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオフィルムは、細菌やカビ等の微生物が固体や液体の表面に付着し、分泌物等と共に形成される微生物の群落である。微生物は環境中あるいは人体内に生息する場合にバイオフィルムを形成していることが多く、微生物がバイオフィルムを形成すると、洗浄除去や薬剤、熱等のストレスに対して浮遊の状態にある場合に比べ強固になることが知られている。
このような微生物バイオフィルムについては、皮膚等の人体組織での形成により疾病が引き起こされること、野菜等の生鮮食料品や加工食品原料及び調理器具に形成されたバイオフィルムが腐敗、変敗及び食中毒の原因となること等が知られている。
【0003】
一方で、微生物のバイオフィルムは、医療場面や産業上、有益な作用を発揮し、産業上利用されている。例えば、メンブレンバイオフィルムリアクターによる水質浄化、細胞外多糖による石油汚染海洋環境の浄化、クオラムセンシング(微生物細胞間情報伝達)を利用した微生物による石油分解能の効率化、植物表面のバイオフィルムによるバイオレメディエーション、固体面への醗酵細菌バイオフィルム形成による物質産生の促進が一例として挙げられる。
また、バイオフィルムは、環境低負荷型プロダクツに応用されており、その例として、環境低負荷型船底塗料としてのバイオフィルム(バイオゼリー);根面バイオフィルムを利用した有機肥料の養液栽培;吸水保水性バイオポリマー、油水分離バイオポリマーなど高機能性バイオポリマーなどが挙げられる。
【0004】
当該微生物バイオフィルムの形成を促進する方法としては、例えば、木材チップなど天然素材を付着担体として用いるシュードモナス(Pseudomonas)属細菌のバイオフィルム形成促進方法(特許文献1)、新規ブテノライドを用いることによる海洋細菌のバイオフィルム形成促進方法(特許文献2)が知られている。
【0005】
ところで、乳酸菌は、古くから発酵乳、乳酸菌飲料、発酵バター等の乳製品等の食品を製造する際に用いられているが、乳酸菌自体も整腸効果等の様々な薬理効果を有すること、或いはバクテリオシンなど抗菌効果を有する物質を分泌することから、健康食品や医薬品等の素材として利用されている。これら乳酸菌は何らかの担体に付着した状態でより有効に作用することが知られており、例えば、消化管の有用細菌の宿主細胞への付着による腸内環境改善(非特許文献1)や、乳酸菌の泌尿生殖管や腸管への付着による細菌の感染防止(非特許文献2,3)等の医療への応用が報告され、また、産業上の有効利用として乳酸発酵リアクターへの応用(非特許文献4)も報告されている。
【0006】
乳酸菌のバイオフィルムにおいては、う蝕菌であるストレプトコッカス(Streptococcus)属菌に関して、スクロースを単一の炭素源として供給することにより、ストレプトコッカス ミュータンス(Streptococcus mutans)がEPS(細胞外多糖)、脂質、核酸を多く含むバイオフィルムを多く形成すること(非特許文献5)、貧窒素下、かつスクロース、グルコース、フルクトースなどの炭素源過剰存在下で、う蝕菌であるストレプトコッカス ゴルドニ(Streptococcus gordonii)においてバイオフィルム中の菌数が増加すること(非特許文献6)、さらに口腔プラークにおいては、スクロースあるいはグルコースとフルクトースの両方を添加した場合にプラーク中のストレプトコッカス属菌の菌数が増加するという報告がある(非特許文献7、8)。
また、腸球菌であるエンテロコッカス フェカーリス(Enterococcus faecalis)において、グルコース、マルトース、マンノース、フルクトースを炭素源とした場合、スクロース、ラクトース、トレハロースと比較してバイオフィルム形成量が多いことが報告されている(非特許文献9)。
一方、乳酸桿菌においてはスクロースの添加により口腔プラーク中の、ラクトバチルス(Lactobasillus)属菌の菌数が増加することが知られている(非特許文献7、8)のみでバイオフィルム形成量に関わる報告はない。
【0007】
フルクトースは、微生物培養培地添加物や食品添加物として用いられており、乳酸菌においても液体培養の際に微生物の増殖を促進することが(特許文献3〜5)、フルクトースとグルコースの両方を添加した場合に口腔プラーク内のラクトバチルス属菌の菌数が増加することが報告されている(非特許文献7、8)。
【0008】
しかしながら、フルクトースが乳酸桿菌並びにう蝕菌及び腸球菌以外の乳酸球菌のバイオフィルムの形成に如何なる影響を与えるか否かについてはこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−313159号公報
【特許文献2】特開平6−135954号公報
【特許文献3】特開2004−215561号公報
【特許文献4】特開昭61−231966号公報
【特許文献5】特開2007−31345号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】FEMS Immunology and Medical Microbioloby 26 pp137-142(1999)
【非特許文献2】Infection Disease in Obstetrics and Gynecolology volume 2008 Article ID 549640(2008)
【非特許文献3】In Proceedings of Lactic'94. pp201-212 (1994)
【非特許文献4】Applied and Enbironmental Microbiology 63(7)pp2533-2542(1997)
【非特許文献5】Applied and Enviornmental Microbiology 72(10)6734-6742(2006)
【非特許文献6】Infection and Immunity 71(8)4759-4766(2003)
【非特許文献7】Caries Reaserch 41(5)406-412(2007)
【非特許文献8】Caries Reasearch 40(6) 546-549 (2006)
【非特許文献9】BMC Microbiology 6(60)1-8(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、乳酸菌バイオフィルムの形成を促進する作用を有し、医薬品、食品、食品添加剤、工業用添加剤等として利用できるバイオフィルム形成促進剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、乳酸菌のバイオフィルム形成について検討したところ、フルクトースが特定の乳酸菌のバイオフィルム形成を有意に促進することを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、フルクトースを含有する、乳酸桿菌並びにう蝕菌及び腸球菌以外の乳酸球菌から選ばれる1以上の乳酸菌のバイオフィルム形成促進剤に係るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の乳酸菌のバイオフィルム形成促進剤は、乳酸桿菌、或いはう蝕菌及び腸球菌以外の乳酸球菌のバイオフィルム形成を有意に促進する作用を有する。従って、本発明によれば、腸内環境改善、整腸、泌尿生殖管及び腸管等への細菌の感染防止、乳酸発酵の促進のための医薬品、医薬部外品、各種飲食品、食品添加剤、工業用添加剤及びペットフードを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
フルクトースは、一般的な化学合成によって製造されたもの、発酵によって製造されたもの、天然物中から単離・精製されたもの、或いはこれらを含有する天然物のまま使用してもよい。例えば、トマト、ニンジン、タマネギなどの野菜由来のものを使用することもできる。フルクトースは単独で使用しても、少なくとも1種以上の他の糖類と組み合わせて使用してもよい。
【0016】
ここで、本発明において、バイオフィルム形成促進とは、乳酸菌が分泌物や沈着物と共に形成する群落(バイオフィルム)の形成を促進することをいう。尚、バイオフィルムの形成は、形成初期に担体表面に付着した細菌が、定着と脱離を繰り返しながら徐々に生息数を増やし、分泌物や沈着物と共群落となる過程であることから、バイオフィルム形成促進作用は、微生物の増殖促進作用とは異なるものである。
本発明の乳酸菌のバイオフィルム形成促進に関わる乳酸菌としては、う蝕菌及び腸球菌以外の乳酸球菌、乳酸桿菌であるが、乳酸桿菌、ロイコノストック(Leuconostoc)属乳酸球菌、ペディオコッカス(Pediococcus)属乳酸球菌、ラクトコッカス(Lactococus)属乳酸球菌が好ましい。また、当該乳酸桿菌としては、ラクトバチルス(Lactobacilus)属乳酸桿菌、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属乳酸桿菌が好ましい。
【0017】
ラクトバチルス属乳酸桿菌の好適な具体例としては、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス ガセリ(Lactobacilus gasseri)、ラクトバチルス ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)、ラクトバチルス アセトトレランス(Lactobacilus acetotolerans)、ラクトバチルス アシドフィラス(Lactobacilus acidophilus)、ラクトバチルス ブチネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチルス デルブレッキー サブスピーシーズ デルブレッキー(Lactobacilus delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバチルス デルブレッキー サブスピーシーズ ブルガリカス(Lactobacilus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス デルブレッキー サブスピーシーズ ラクティス(Lactobacilus delbrueckii subsp. lactis)、ラクトバチルス ファーメンタム(Lactobacilus fermentum)、ラクトバチルス フルクチボランス(Lactobacillus fructivorans)、ラクトバチルス ホモヒオチ(Lactobacillus homohiochii)、ラクトバチルス ケフィア(Lactobacillus kefir)、ラクトバチルス リンドネリ(Lactobacillus rindneri)、ラクトバチルス パラブチネリ(Lactobacillus parabuchneri)、ラクトバチルス パラカゼイ サブスピーシーズ パラカゼイ(Lactobacillus paracasei subsp. paracasei)、ラクトバチルス パラカゼイ サブスピーシーズ トレランス(Lactobacillus paracasei subsp. tolerans)、ラクトバチルス パラケフィア(Lactobacillus parakefir)、ラクトバチルス ペントサス(Lactobacillus pentosus)、ラクトバチルス ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス サケ(Lactobacillus sake)、ラクトバチルス サルバリウス サブスピーシーズ サリシニウス(Lactobacillus salivarius subsp. salicinius)、ラクトバチルス サルバリウス サブスピーシーズ サルバリウス(Lactobacillus salivarius subsp. salivarius)、ラクトバチルス ヴァギナリス(Lactobacilus vaginalis)、ラクトバチルス ラムノサス(Lactobacilus rhamnosus)、ラクトバチルス カゼイ(Lactobacilus casei)、ラクトバチルス アジリス(Lactobacilus agilis)、ラクトバチルス アリメンタリウス(Lactobacilus alimentarius)、ラクトバチルス アミロフィラス(Lactobacilus amylophilus)、ラクトバチルス アミロボラス(Lactobacilus amylovorus)、ラクトバチルス アニマリス(Lactobacilus animalis)、ラクトバチルス アビアリウス サブスピーシーズ アラフィノサス(Lactobacilus aviarius subsp. araffinosus)、ラクトバチルス アビアリウス サブスピーシーズ アビアリウス(Lactobacilus aviarius subsp. aviarius)、ラクトバチルス バイファーメンタンス(Lactobacillus bifermentans)、ラクトバチルス カテナフォーミス(Lactobacillus catenaformis)、ラクトバチルス コリノイデス(Lactobacillus collinoides)、ラクトバチルス コリニフォーミス サブスピーシーズ コリニフォーミス(Lactobacilus coryniformis subsp. coryniformis)、ラクトバチルス コリニフォーミス サブスピーシーズ トルクエンス(Lactobacilus coryniformis subsp. torquens)、ラクトバチルス クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス カーバタス(Lactobacillus curvatus)、ラクトバチルス ファーシミニス(Lactobacilus farciminis)、ラクトバチルス フルクトサス(Lactobacillus fructosus)、ラクトバチルス ガリナラム(Lactobacillus galinarum)、ラクトバチルス グラミニス(Lactobacillus graminis)、ラクトバチルス ハムステリ(Lactobacillus hamsteri)、ラクトバチルス ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトバチルス ヒルガーディ(Lactobacillus hilgardii)、ラクトバチルス インテスティナリス(Lactobacillus intestinalis)、ラクトバチルス ジェンセニイ(Lactobacillus jensenii)、ラクトバチルス ジョンソニイ(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス ケフィラノファシエンス(Lactobacillus kefiranofaciens)、ラクトバチルス ケフィアグナム(Lactobacillus kefirgranum)、ラクトバチルス マレファーメンタンス(Lactobacillus malefermentans)、ラクトバチルス マリ(Lactobacillus mali)、ラクトバチルス マルタロミカス(Lactobacillus maltaromicus)、ラクトバチルス ムリナス(Lactobacillus murinus)、ラクトバチルス オリス(Lactobacillus oris)、ラクトバチルス ポンティス(Lactobacillus pontis)、ラクトバチルス ルミニス(Lactobacillus ruminis)、ラクトバチルス サンフランシスコ(Lactobacilus sunfrancisco)、ラクトバチルス シャーペアエ(Lactobacilus sharpeae)、ラクトバチルス スエビカス(Lactobacilus suebicus)、ラクトバチルス ビツリナス(Lactobacilus vitulinus)等が挙げられる。
【0018】
また、ビフィドバクテリウム属乳酸桿菌の好適な具体例としては、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)、ビフィドバクテリウム ブレブ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム アングァタム(Bifidobacterium angulatum)、ビフィドバクテリウム アニマリス(Bifidobacterium animalis)、ビフィドバクテリウム アステロイデス(Bifidobacterium asteroides)、ビフィドバクテリウム ボウム(Bifidobacterium boum)、ビフィドバクテリウム カテナラタム(Bifidobacterium catenulatum)、ビフィドバクテリウム コエリナム(Bifidobacterium choerinum)、ビフィドバクテリウム コリネフォーム(Bifidobacterium coryneforme)、ビフィドバクテリウム クニカリ(Bifidobacterium cuniculi)、ビフィドバクテリウム デンティウム(Bifidobacterium dentium)、ビフィドバクテリウム ガリカム(Bifidobacterium gallicum)、ビフィドバクテリウム ガリナラム(Bifidobacterium gallinarum)、ビフィドバクテリウム インディカム(Bifidobacterium indicum)、ビフィドバクテリウム マグナム(Bifidobacterium magnum)、ビフィドバクテリウム メリシカム(Bifidobacterium merycicum)、ビフィドバクテリウムミニマム(Bifidobacterium minimum)、ビフィドバクテリウム シュードカテナラタム(Bifidobacterium pseudocatenulatum)、ビフィドバクテリウム シュードロンガム(Bifidobacterium pseudolongum)、ビフィドバクテリウム シクラエロフィラム(Bifidobacterium psychraerophilum)、ビフィドバクテリウム プロラム(Bifidobacterium pullorum)、ビフィドバクテリウム ルミナンティアム(Bifidobacterium ruminantium)、ビフィドバクテリウム サエクラレ(Bifidobacterium saeculare)、ビフィドバクテリウム スカードビイ(Bifidobacterium scardovii)、ビフィドバクテリウム シミアエ(Bifidobacterium simiae)、ビフィドバクテリウム ズブティリ(Bifidobacterium subtile)、ビフィドバクテリウム サーマアシドフィラム(Bifidobacterium thermacidophilum)、ビフィドバクテリウム サーモフィラム(Bifidobacterium thermophilum)、ビフィドバクテリウム ウリナリス(Bifidobacterium urinalis)等のビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)等が挙げられる。
【0019】
また、上記ロイコノストック属乳酸球菌の好適な具体例としては、ロイコノストック メッセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)、ロイコノストック シトリウム(Leuconostoc citreum)、ロイコノストック ラクティス(Leuconostoc lactis)、ロイコノストック アルゲンティナム(Leuconostoc argentinum)、ロイコノストック カーノサム(Leuconostoc carnosum)、ロイコノストック ファラックス(Leuconostoc fallax)、ロイコノストック ゲリダム(Leuconostoc gelidum)、ロイコノストック シュードメセンテロイデス(Leuconostoc psudomesenteriodes)等が挙げられる。
【0020】
上記ペディオコッカス属乳酸球菌の好適な具体例としては、ペディオコッカス ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカス アシドラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス ダムノサス(Pediococcus damnosus)、ペディオコッカス デクストリニカス(Pediococcus dextrinicus)、ペディオコッカス イノピナタス(Pediococcus inopinatus)、ペディオコッカス パルバラス(Pediococcus parvulus)、ペディオコッカス ウリナエエクイ(Pediococcus urinaeequi)等が挙げられる。
【0021】
上記ラクトコッカス属乳酸球菌の好適な具体例としては、ラクトコッカス ラクティス (Lactococcus lactis)等が挙げられる。
【0022】
これら乳酸菌のうち、乳酸桿菌、ロイコノストック属乳酸球菌、ペディオコッカス属乳酸球菌が好ましく、ラクトバチルス属乳酸桿菌及びペディオコッカス ペントサセウスがより好ましく、ラクトバチルス属乳酸桿菌がさらに好ましく、バイオフィルム形成促進の点で、ラクトバチルス プランタラム、ラクトバチルス ガセリが特に好ましい。
【0023】
本発明のフルクトースは、後記実施例1及び2に示すように、乳酸桿菌や、ロイコノストック属乳酸球菌及びペディオコッカス属乳酸球菌のバイオフィルム形成を有意に促進する作用を有する。従って、本発明のフルクトースは、当該乳酸菌のバイオフィルム形成促進剤として使用することができ、また、当該バイオフィルム形成促進剤を製造するために使用することができる。
【0024】
本発明の乳酸菌のバイオフィルム形成促進剤を用いることで、腸内環境改善、整腸、泌尿生殖管及び腸管等への細菌の感染防止、乳酸発酵の促進を可能にする。
従って、本発明の乳酸菌のバイオフィルム形成促進剤は、腸内環境改善、整腸、泌尿生殖管及び腸管等への細菌の感染防止、乳酸発酵の促進を目的とした医薬品、医薬部外品、各種飲食品、食品添加剤、工業用添加剤及びペットフードとして使用できる。
本発明の乳酸菌のバイオフィルム形成促進剤は、例えば、ヒト又は動物へ投与する他、バイオフィルム形成が望まれる種々の環境、例えば野菜、腸壁、発酵装置に散布、噴霧、塗布又は摂取させる等の方法で使用できる。
【0025】
本発明のバイオフィルム形成促進剤を医薬品として使用する場合、任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、経口、経腸、経粘膜、注射等が挙げられるが、経口投与が好ましい。
経口投与のための製剤の剤型としては、例えば錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、徐放性製剤、懸濁液、エマルジョン剤、内服液、糖衣錠、丸剤、細粒剤、シロップ剤、エリキシル剤等が挙げられる。非経口投与としては、静脈内注射、筋肉注射剤、吸入、輸液、坐剤、吸入薬、噴霧剤、エアゾール剤、塗布剤、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。
【0026】
上記製剤は、フルクトースに、薬学的に許容される担体を配合することができる。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、流動性促進剤、吸収助剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定化剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、湿潤剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、固着剤、香料、被膜剤、噴射剤等が挙げられる。
【0027】
また、上記製剤には、更に、窒素化合物、アミノ酸、ビタミン他、各種薬効成分等を配合することができる。
【0028】
窒素化合物としては、例えば、酵母エキス;肉エキス;ペプトン、ソイトン等の天然系窒素源;塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等のアンモニウム塩等の無機窒素化合物が挙げられる。
【0029】
アミノ酸としては、例えば、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、システイン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、アスパラギン等が挙げられる。
【0030】
ビタミン類としては、例えば、ビオチン、葉酸、ピリドキサール、リボフラビン、チアミン、ビタミンB12、デオキシリボシド、オレイン酸等が挙げられる
【0031】
上記製剤中のフルクトースの含有量は、特に限定されるものではなく、通常の投与量で、フルクトースが作用点で効果を発揮し得る量であればよく、製剤の種類によって異なるが、経口投与製剤の場合、製剤全質量の0.01〜100質量%程度であり、0.03〜100質量%が好ましい。
【0032】
本発明のバイオフィルム形成促進剤を医薬品として使用する場合の投与量は、患者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与の場合の成人1人当たりの1日の投与量は、通常、フルクトースとして0.5〜5gが好ましい。また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与され得るが、1日1回〜数回に分けて投与することが好ましい。
【0033】
本発明の乳酸菌のバイオフィルム形成促進剤を各種飲食品として使用する場合、一般飲食品のほか、腸内環境改善、整腸、泌尿生殖管及び腸管等への細菌の感染防止をコンセプトとし、必要に応じてその旨表示した美容飲食品、病者用飲食品、栄養機能飲食品又は特定保健用飲食品等の機能性飲食品に応用できる。
【0034】
飲食品の形態は、固形、半固形または液状であり得る。飲食品の例としては、パン類、麺類、クッキー等の菓子類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、コーヒー飲料等の飲料、スープ類、調味料、栄養補助食品等、及びそれらの原料が挙げられる。また、上記の経口投与製剤と同様、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等であってもよい。
【0035】
斯かる形態の飲食品は、フルクトースの他、他の飲食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤、固着剤、分散剤、湿潤剤、更には前記と同様の窒素化合物、アミノ酸、ビタミン等を適宜組み合わせて配合し、調製することができる。
【0036】
また、飲食品中におけるフルクトースの含有量は、特に限定されるものではなく、通常の摂取量で、フルクトースが作用点で効果を発揮し得る量であればよく、その使用形態により異なるが、飲料の形態では、0.01〜50質量%程度であり、0.03〜50質量%が好ましい。また、錠剤や加工食品などの固形食品形態では、0.01〜70質量%程度であり、0.03〜70質量%が好ましい。
【0037】
本発明の乳酸菌のバイオフィルム形成促進剤を工業用添加剤として使用する場合、乳酸発酵の促進等をコンセプトとし、必要に応じてその旨表示した、粉末剤、錠剤、噴霧剤、散布剤、油剤、乳剤、水和剤、塗布剤、エアゾール剤として応用できる。
【0038】
上記工業用添加剤は、フルクトースの他、他の工業用添加材料や、溶剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、増粘剤、固着剤、分散剤、湿潤剤、抗菌剤、消泡剤等を適宜組み合わせて配合し、調製することができる。
【0039】
また、工業用添加剤中におけるフルクトースの含有量は、特に限定されるものではなく、その使用形態により異なるが、通常0.01〜100質量%であり、0.03〜100質量%が好ましい。
【実施例】
【0040】
実施例1 ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)のバイオフィルム形成に対する促進効果
1.糖類
フルクトース(和光純薬工業)、スクロース(和光純薬工業)、ガラクトース(和光純薬工業)、マルトース(和光純薬工業)、対照としてグルコース(和光純薬工業)を用いた。
【0041】
2.供試菌株
ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum) JCM1149(Japan Collection of Microorganisms)、ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum) M606環境分離菌)を用いて実験を行った。ラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum) M606はMRS培地(OXOID)を用いた集積培養法によりタマネギより分離した株で、同様の性質の株はタマネギから容易に分離可能である。
【0042】
3.実験方法
供試菌株を10ml MRS液体試験管培地(peptone(OXOID) 10.0g、Lab-lemco Powder(OXOID) 8.0g、Yeast extract(OXOID) 4.0g、グルコース 20.0g、Tween80 1ml、K2HPO4 2.0g、CH3COONa・3H2O 5.0g、Citric Acid Triammonium 2.0g、MgSO4・7H2O 0.2g、MnSO4・4H2O 0.05g(54g/l)pH6.2)で静置培養(35℃24時間)した後10倍希釈したものを供試菌液とした。
【0043】
1)バイオフィルムの調製と形成促進効果の評価は次のように行った。
PVC(ポリビニルアルコールクロライド)製の24穴マイクロプレート(平底)を用い、ウェルごとにカバーグラス(顕微鏡観察用)を1枚ずつ入れた容器に、MRS液体培地からグルコースを除去した培地に0.11Mの糖類(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マルトース、スクロース)を添加した液体培地(1000μl/well)を分注した後、供試菌液(100μl/well)を添加し、容器にフタをして35℃24〜48時間静置で培養を行った。
培養液を取り除いた後、付着している菌体及び分泌物や沈着物をバイオフィルムとし、0.1%クリスタルバイオレット水溶液(Crystal Violet(関東化学))を添加(1000μL/well)し、バイオフィルムを染色した。
クリスタルバイオレット水溶液を除き、水道水(1000μl/well)で2回洗浄後、ガラス上に固着して残存していたバイオフィルムを定量した。
バイオフィルムの定量は染色したバイオフィルムより99.5%エタノール(1000μL/well)を用いてクリスタルバイオレットを抽出した抽出液の吸光度(595nm)を測定することで行った。
【0044】
2)一方バイオフィルム中の菌体量は次のように測定した。
培養後のバイオフィルムをピペッティングにて破壊し、バイオフィルム中の菌を培養液に懸濁後、吸光度(600nm)を測定することで行った。
3)バイオフィルム形成量はバイオフィルム形成率として次のように算出した。
バイオフィルム形成率=バイオフィルム染色抽出液の吸光度測定値(測定波長:595nm)/バイオフィルム中の菌体懸濁液の吸光度測定値(測定波長:600nm)
4)なお、糖類としてグルコースを用いたものをコントロールとした。
【0045】
結果を表1に示す。ここでバイオフィルム形成量は、コントロールの形成量を100とした場合の比率で示した。
【0046】
【表1】

【0047】
上記の通り、フルクトースの添加によりラクトバチルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)のバイオフィルム形成促進効果が認められた。
【0048】
実施例2 種々の乳酸菌のバイオフィルム形成に対する促進効果
1.糖類
フルクトース(和光純薬工業)、スクロース(和光純薬工業)、対照としてグルコース(和光純薬工業)、を用いた。
【0049】
2.供試菌株
Lactobacillus brevis JCM1059(Japan Collection of Microorganisms)、Lactobacilus gasseri JCM1131(Japan Collection of Microorganisms)、Leuconostoc mesenteroides NBRC3426(NITE Biological Resource Center)、Leuconostoc mesenteroides NBRC3832(NITE Biological Resource Center)、Pediococcus pentosaceus JCM5890(Japan Collection of Microorganisms)、Bifidobacterium bifidum NBRC100015(NITE Biological Resource Center)を用いて実験を行った。
【0050】
3.実験方法
供試菌株を10ml MRS液体試験管培地(peptone(OXOID) 10.0g、Lab-lemco Powder(OXOID) 8.0g、Yeast extract(OXOID) 4.0g、グルコース20.0g、Tween80 1ml、K2HPO4 2.0g、CH3COONa・3H2O 5.0g、Citric Acid Triammonium 2.0g、MgSO4・7H2O 0.2g、MnSO4・4H2O 0.05g(54g/l)pH6.2)で静置培養(35℃24時間)した後10倍希釈したものを供試菌液とした。
【0051】
1)バイオフィルムの調製と形成促進効果の評価は次のように行った。
PVC(ポリビニルアルコールクロライド)製の24穴マイクロプレート(平底)を用い、ウェルごとにカバーグラス(顕微鏡観察用)を1枚ずつ入れた容器に、MRS液体培地からグルコースを除去した培地に0.11Mの糖類(グルコース、フルクトース、スクロース)を添加した液体培地(1000μl/well)を分注した後、供試菌液(100μl/well)を添加し、容器にフタをして35℃24〜48時間静置で培養を行った。
培養液を取り除いた後、付着している菌体及び分泌物や沈着物をバイオフィルムとし、0.1%クリスタルバイオレット水溶液(Crystal Violet(関東化学))を添加(1000μL/well)し、バイオフィルムを染色した。
クリスタルバイオレット水溶液を除き、水道水(1000μl/well)で2回洗浄後、ガラス上に固着して残存していたバイオフィルムを定量した。
バイオフィルムの定量は染色したバイオフィルムより99.5%エタノール(1000μL/well)を用いてクリスタルバイオレットを抽出した抽出液の吸光度(595nm)を測定することで行った。
【0052】
2)一方バイオフィルム中の菌体量は次のように測定した。
培養後のバイオフィルムをピペッティングにて破壊し、バイオフィルム中の菌を培養液に懸濁後、吸光度(600nm)を測定することで行った。
3)バイオフィルム形成量はバイオフィルム形成率として次のように算出した。
バイオフィルム形成率=バイオフィルム染色抽出液の吸光度測定値(測定波長:595nm)/バイオフィルム中の菌体懸濁液の吸光度測定値(測定波長:600nm)
4)なお、糖類としてグルコースを用いたものをコントロールとした。
【0053】
結果を表2に示す。ここでバイオフィルム形成量は、コントロールの形成量を100とした場合の比率で示した。
【0054】
【表2】

【0055】
上記の通り、フルクトースの添加によりラクトバチルス(Lactobacillus) 属及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium) 属乳酸菌桿菌並びにロイコノストック(Leuconostoc)属及びペディオコッカス(Pediococcus) 属乳酸球菌のバイオフィルム形成促進効果が認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルクトースを含有する、乳酸桿菌、ロイコノストック属乳酸球菌及びペディオコッカス属乳酸球菌から選ばれる1以上の乳酸菌のバイオフィルム形成促進剤。
【請求項2】
フルクトースを含有するラクトバチルス プランタラム及びラクトバチルス ガセリから選ばれる乳酸桿菌バイオフィルム形成促進剤。

【公開番号】特開2010−195711(P2010−195711A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42249(P2009−42249)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 「第60回 日本生物工学会大会」及び「日本微生物生態学会第24回大会講演要旨集」において文書をもって発表
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】