説明

バイオプラスチックを用いた電子写真用トナー

【課題】 結着樹脂としてバイオプラスチックを含み、保存性および透明性を改善した電子写真用トナーを提供すること。
【解決手段】 10,000〜30,000の数平均分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂、着色剤、および100〜140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂を含む原料混合物を混練し、粉砕してなる電子写真用トナーであって、前記テルペン系樹脂が、結着樹脂100質量%に対し、1〜10質量%の量で含有されることを特徴とする電子写真用トナー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオプラスチックを用いた電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成は、静電荷像をトナーにより現像して可視化し、現像により得られたトナー像を用紙に転写した後、熱と圧力により定着させることにより行われる。
【0003】
上記トナーは、結着樹脂に着色剤や帯電制御剤などを配合した混合物を溶融混練し、粉砕及び分級して所定の粒度分布に調整することにより製造される。このようなトナーの結着樹脂として、従来、スチレン・アクリル樹脂や、ポリエステル樹脂などの石油由来の樹脂が使用されている。
【0004】
近年、環境への配慮から、廃棄時に環境への負荷の少ない生分解性樹脂、さらには、再生可能資源からつくられるバイオマスプラスチックを、トナー用樹脂として用いる方法が提案されている。なお、有限な資源への配慮と、環境負荷の低減に貢献する、バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックのことをバイオプラスチックと呼ぶ。
【0005】
特許文献1や特許文献2では、バイオプラスチックの中の1つであるポリ乳酸を主として使用したトナーが提案されている。粉砕トナーの結着樹脂としてポリ乳酸を使用する場合、高分子のポリ乳酸を使用すると製造工程で粉砕が困難になったり、定着時に低温定着が悪化したりするので、低分子ポリ乳酸を使用している。低分子ポリ乳酸は、末端のカルボキシル基が増えることによる影響や、残存するモノマーの影響などで、トナーの長期保存性に問題を有している。このように、バイオプラスチックをトナーの結着樹脂のメインとするには課題が多い。
【0006】
一方、テルペン系樹脂をトナーに含有させた例として、特許文献3および4が知られている。
【0007】
特許文献3では、ポリ乳酸系生分解性樹脂とテルペンフェノール共重合体のブレンド品を結着樹脂として含有するトナーが提案され、ポリ乳酸系生分解性樹脂とテルペンフェノール共重合体のブレンド比率は、80:20〜20:80、好ましくは30:70〜50:50であることが開示されている。特許文献3では、比較的多量のテルペンフェノール共重合体をトナーに含有させ、低温で定着された場合の定着強度を高め、揮発ガスの発生をなくし、フルカラートナーへの適応性を向上させている。
【0008】
特許文献4では、水素添加テルペン系樹脂を含有するトナーが提案されている。しかし、特許文献4は、結着樹脂としてスチレン樹脂やポリエステル樹脂、とくにスチレンアクリル系共重合体を使用しており、バイオプラスチックを使用したものでない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−262179号公報
【特許文献2】特開2007−197602号公報
【特許文献3】特開2001−166537号公報
【特許文献4】特開平6−67456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされ、結着樹脂としてバイオプラスチックを使用し、トナーの保存性および透明性を改善した電子写真用トナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、10,000〜30,000の数平均分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂、着色剤、および100〜140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂を含む原料混合物を混練し、粉砕してなる電子写真用トナーであって、前記テルペン系樹脂が、結着樹脂100質量%に対し、1〜10質量%の量で含有されることを特徴とする電子写真用トナーを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、結着樹脂として10,000〜30,000の数平均分子量のバイオプラスチックを用いた電子写真用トナーにおいて、トナーの原料混合物に、100〜140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂を、結着樹脂100質量%に対し、1〜10質量%の量で添加することにより、トナーの保存性および透明性が向上した電子写真用トナーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0014】
本発明者らは、上記問題点を解決すべく研究を行った結果、特許文献3のように比較的多量のテルペン系樹脂をバイオプラスチックトナーの原料混合物に添加すると、トナーの製造時に、混合羽根や粉砕分級機に融着が起こるという問題を新たに見出した(後述の比較例6〜9参照)。これに対し、結着樹脂として10,000〜30,000の数平均分子量のバイオプラスチックを用い、かかるトナー原料混合物に少量のテルペン系樹脂を添加すると、トナーの保存性および透明性を向上させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明の一実施形態に係る電子写真用トナーは、10,000〜30,000の数平均分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂、着色剤、および100〜140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂を含む原料混合物を混練し、粉砕してなる電子写真用トナーであって、前記テルペン系樹脂が、結着樹脂100質量%に対し、1〜10質量%の量で含有されることを特徴とする。
【0016】
本実施形態に係る電子写真用トナーにおいて、結着樹脂として使用するバイオプラスチックの数平均分子量は、10,000〜30,000、好ましくは15,000〜20,000である。本実施形態では、バイオプラスチックの数平均分子量が30,000を超える場合、粉砕性が劣り、10,000未満の場合、トナーの保存性が劣る。
【0017】
上述の所定の数平均分子量を有するバイオチックおよび着色剤を含むトナー原料混合物に、100〜140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂を、結着樹脂100質量%に対し、1〜10質量%の量で添加することにより、保存性および透明性を改善した電子写真用トナーを得ることが可能となった。
【0018】
本実施形態のトナーに添加されるテルペン系樹脂は、柑橘類等の植物(たとえばオレンジ)の精油に由来するテルペン化合物に、重合処理を行うことにより得られるテルペン樹脂、およびかかる天然由来のテルペン樹脂から誘導されるテルペン樹脂誘導体を意味し、たとえば、かかる天然由来のテルペン樹脂に更に水素添加処理を行うことにより得られる水素添加テルペン樹脂を含む。
【0019】
本実施形態において、テルペン系樹脂としては、100〜140℃の軟化点を有するものが使用され、たとえば、ヤスハラケミカル(株)より市販されるクリアロンP105(軟化点105℃)、クリアロンP115(軟化点115℃)、クリアロンP125(軟化点125℃)、クリアロンP135(軟化点135℃)などを使用することができる。軟化点は、市販のテルペン系樹脂を使用する場合、表示される物性値に従い、軟化点が範囲により表される場合、その中央の値を意味する。また、公知技術に従って植物の精油からテルペン系樹脂を合成した場合、流動特性評価装置により軟化点を決定することができる。本実施形態において、テルペン系樹脂の軟化点が100℃未満の場合、トナーの製造時に混合羽根や粉砕分級機に融着が起こり、トナーの保存性を高めることができないという問題があり、一方、軟化点が140℃を超えると粉砕性が劣るという問題がある。なお、軟化点測定方法としては、流動特性評価装置CFT-500D(島津社製)を使用し、荷重20kg、昇温速度6℃/minで測定したT1/2を軟化点とすることができる。
【0020】
テルペン系樹脂の数平均分子量は、500〜1500であることが好ましい。
【0021】
本実施形態において、テルペン系樹脂の含有量は、結着樹脂100質量%に対し、1〜10質量%、好ましくは5〜8質量%とすることができる。テルペン系樹脂の含有量は、トナー全体に対する値で表すと、1.19〜11.9質量%、好ましくは5.95〜9.52質量%とすることができる。
【0022】
テルペン系樹脂の含有量が、結着樹脂100質量%に対し、1質量%を下回ると、保存性や透明性を改善することができず、10質量%を上回ると、トナーの製造時に混合羽根や粉砕分級機に融着が起こる。
【0023】
本実施形態において、トナーに添加されるテルペン系樹脂は、トナー原料の混合の際に添加されてもよいし、トナー原料の溶融混練の際に添加されてもよい。
【0024】
本実施形態に係る電子写真用トナーにおいて、結着樹脂として使用されるバイオプラスチックは、ポリ乳酸を用いることが出来る。ポリ乳酸は、乳酸がエステル結合により結合したポリマーであり、近年、環境に優しい生分解性プラスチックとして注目を集めている。即ち、自然界には、エステル結合を切断する酵素(エステラーゼ)が広く分布していることから、ポリ乳酸は環境中でこのような酵素により徐々に分解されて、単量体である乳酸に変換され、最終的には二酸化炭素と水になる。
【0025】
本実施形態で使用されるポリ乳酸の製造方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。原料となるとうもろこし等の澱粉を発酵し、乳酸を得た後、乳酸モノマーから直接脱水縮合する方法や乳酸から環状二量体を経て、触媒の存在下で開環重合によって合成する方法がある。乳酸には、光学異性体が存在し、L−乳酸とD−乳酸があるが、これら単独または混合物のいずれの乳酸を使用しても良い。ポリ乳酸の数平均分子量は、重合時の反応条件を可変することで任意に調整することが可能である。
【0026】
商業的に販売されているポリ乳酸は耐熱性向上等のため、より高分子のポリ乳酸が得られる開環重合法で合成されたものであり、その数平均分子量は100,000以上のものが主流である。本実施形態で結着樹脂として使用されるバイオプラスチックは、10,000〜30,000の数平均分子量を有する。したがって、所望の数平均分子量のポリ乳酸は、市販のポリ乳酸を加水分解することにより得ることができる。
【0027】
ポリ乳酸を加水分解させる方法としては、恒温恒湿槽にポリ乳酸を置く方法が挙げられる。例えば、恒温恒湿槽を温度80℃、湿度80%RHに設定し、ポリ乳酸を処理すると、加水分解により分子量が低下し、数十時間でトナー用樹脂として適当な軟化温度、良好な粉砕性を得ることができる。
【0028】
また、ポリ乳酸を加水分解させる別の方法として、過熱水蒸気を使用する方法や、ポリ乳酸と水とを溶融混練する方法が挙げられる。
【0029】
本実施形態でトナー原料として使用される着色剤は、従来公知のものを使用できる。例えば、黒の着色剤としては、カーボンブラック、青系の着色剤としては、C.I.Pigment15:3、赤系の着色剤としては、C.I.Pigment57:1、122、269、黄色系の着色剤としては、C.I.Pigment74、180、185等が挙げられる。環境への影響を考慮すると、着色剤単体で安全性が高いものが好ましい。
【0030】
これら着色剤の含有量は、トナー全体に対して、1〜10質量%であることが好ましい。また、着色剤は、予め樹脂と着色剤を高濃度に分散したマスターバッチを使用しても良い。
【0031】
本実施形態のトナーには、必要に応じて、従来公知の離型剤を添加することができる。そのような離型剤としては、例えば、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス等のオレフィン系ワックスや、カルナウバワックス、ライスワックス、カイガラムシワックス等の天然ワックス、合成エステルワックス等が挙げられる。
【0032】
低温定着性や高速印字性能を向上させるには、60〜100℃程度と比較的低い融点を有する離型剤が好ましく、具体的には、カルナウバワックスや、合成エステルワックスが好ましい。環境への影響を考慮すると、天然物系のカルナウバワックスがより好ましい。離型剤の配合量は、トナー全体に対して、1〜15質量%であることが好ましい。
【0033】
本実施形態のトナーには、その原料として、必要に応じて、従来公知の帯電制御剤を添加することができる。例えば、正帯電制御剤として、4級アンモニウム塩、アミノ基を含有する樹脂等が、負帯電制御剤として、サルチル酸の金属錯塩、ベンジル酸の金属錯塩、カリックスアレン型のフェノール系縮合物、カルボキシル基を含有する樹脂などが挙げられる。帯電制御剤の添加量は、トナー全体に対して、0.1〜5質量%であることが好ましい。
【0034】
本実施形態のトナーには、バイオプラスチック以外に、必要に応じて、従来公知のトナー用樹脂を添加することができる。そのような樹脂としては、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂があるが、顔料分散性、低温定着性の観点から、トナー用に開発されたポリエステル樹脂が好ましい。これらの樹脂は単独であっても、2種類以上を混合しても構わない。これらの樹脂の配合量は、環境への影響を考慮すると、トナー全体に対して、0〜50質量%であることが好ましい。
【0035】
その他の材料として、粉砕性、定着性等の改善のため、低分子量の樹脂を添加することができる。ここで、低分子量の樹脂としては、分子量数百〜数千のオリゴマー領域の樹脂であり、粘着付与剤として市販されている。ロジン及びロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂等がある。
【0036】
本実施形態のトナーには、必要に応じて従来公知の加水分解抑制剤を添加することができる。加水分解抑制剤として、例えば、カルボジイミド系化合物、イソシアネート系化合物及びオキサゾリン系化合物などが挙げられる。このような加水分解抑制剤は、残存モノマーや分解により生じた水酸堪やカルボキシル機末端を封止し、加水分解の連鎖反応を抑制することができる。
【0037】
加水分解抑制剤としては、ポリカルボジイミド化合物であるカルボジライトLA−1(日清紡績(株)製)などが市販されている。加水分解抑制剤の添加量は、バイオプラスチックに対し、0.01〜15質量%であることが好ましく、1〜10質量%がより好ましい。
【0038】
本実施形態のトナーには、必要に応じて従来公知の結晶核剤を添加することができる。結晶核剤として、タルクなどの無機核剤、安息香酸ナトリウムなどの有機カルボン酸金属塩、リン酸エステル金属塩、ベンジリデンソルビトール、カルボン酸アミドなどの有機核剤、等が挙げられる。
【0039】
以上説明した電子写真用トナーは、従来公知の方法により製造することができる。
【0040】
例えば、特定の数平均分子量に調整されたバイオプラスチック、マスターバッチ化された着色剤、および必要に応じてその他添加剤を含む原料を混合した後、2軸混練機や加圧ニーダー、オープンロールなどの混練機で混練し、混練物を得る。この混練物を冷却した後、ジェットミル等の粉砕機で粉砕し、風力分級機等で分級することで、トナーを得ることができる。
【0041】
ここで、トナーの粒径は特に限定されないが、通常5〜10μmとなるように調整される。このようにして得られたトナーに対し、流動性向上、帯電性調整、耐久性向上のため、外添剤を添加することができる。
【0042】
外添剤としては、無機微粒子が一般的であり、シリカ、チタニア、アルミナ等が挙げられ、そのうち疎水化処理されたシリカ(日本アエロジル(株)、CABOT(株)より市販)が好ましい。無機微粒子の粒径は、1次粒子径として、7〜40nmのものが良く、機能向上のため、2種類以上を混ぜ合わせても良い。
【実施例】
【0043】
以下に本発明の実施例と比較例を示し、本発明についてより具体的に説明する。
【0044】
実施例1
<樹脂(低分子量ポリ乳酸)の作製>
海正生物ポリ乳酸「REVODE101B」を温度80℃、湿度80%RHに設定した恒温恒湿槽に入れ加水分解させた。処理時間を可変し、数平均分子量の異なるポリ乳酸を得た。各処理時間により得られたポリ乳酸の数平均分子量を下記表1に示す。
【表1】

【0045】
加水分解処理して得られた低分子量ポリ乳酸を結着樹脂として用いて、以下に記載のとおりトナーを製造した。
【0046】
<トナーの製造>
ヘンシェルミキサー(三井鉱山製)を用いて、上記加水分解処理して得られた低分子量ポリ乳酸、顔料(マゼンタ:セイカファーストカーミン1476T-7(大日精化製),シアン:シアニンブルー4920(大日精化製),イエロー:パリオトールイエローD1155(BASFジャパン製),ブラック:カーボンブラックMOGUL-L(キャボット・スペシャリティ・ケミカルズ・インク製))を攪拌する。次に、二軸押出機(池貝製)により溶融混練する。得られた混練物を冷却延伸してフェザーミル(ホソカワミクロン製)にて2mm以下に粉砕してマスターバッチを得た。得られた顔料マスターバッチと結着樹脂と離型剤と帯電制御剤とテルペン系樹脂をヘンシェルミキサーで攪拌した後、二軸押出機で溶融混練し、冷却後、衝突版式粉砕機(NPK製)を用いて粉砕、気流式分級機(NPK製)を用いて分級工程を経て、平均粒子径9μmの粉体を得た。得られた粉体に、外添剤として疎水性シリカRX200(日本アエロジル(株)製)を、結着樹脂100質量部に対して1質量部添加し、ヘンシェルミキサーで攪拌し粉体に表面処理をして、トナーを製造した。
【0047】
本実施例では、結着樹脂として、上述のとおり分子量を低減したポリ乳酸(数平均分子量30,000)100質量部、上述のとおり調製した顔料マスターバッチ4質量部、離型剤として、カルナウバワックス1号粉末(日本ワックス(株)製)3質量部、帯電制御剤として、LR−147(日本カーリット(株)製)1質量部、テルペン系樹脂として、クリアロンP135(ヤスハラケミカル(株)、水素添加テルペン樹脂、軟化点135℃)10質量部を使用した。
【0048】
トナーとキャリア(シリコン樹脂コートフェライトキャリア:平均粒径35μm)をナウターミキサーで混合し、二成分現像装置「C2250」(富士ゼロックス製)カラープリンタ毎分25枚機にトナーを実装し、通常環境(25℃、50%RH)において、普通紙(XEROX−P紙A4サイズ)を用いて印字し転写性、画像の評価を行った。
【0049】
実施例2〜3
実施例2〜3は、ポリ乳酸樹脂の分子量を本発明の範囲内で変動させた以外は、実施例1と同様にトナーを作製した。
【0050】
実施例4〜9
実施例4〜9は、テルペン系樹脂の添加量を本発明の範囲内で変動させた以外は、実施例1〜3と同様にトナーを作製した。
【0051】
実施例10〜18
実施例10〜18は、テルペン系樹脂として「クリアロンP105(ヤスハラケミカル(株)、水素添加テルペン樹脂、軟化点105℃)」を使用した以外は、それぞれ実施例1〜9と同様にトナーを作製した。
【0052】
比較例1〜3
比較例1〜3は、ポリ乳酸樹脂の分子量を本発明の範囲外で変動させた以外は、実施例1と同様にトナーを作製した。
【0053】
比較例4〜5
比較例4〜5は、テルペン系樹脂を添加しなかった以外は、それぞれ実施例1および3と同様にトナーを作製した。
【0054】
比較例6〜11
比較例6〜11は、テルペン系樹脂の添加量を本発明の範囲外で変動させた以外は、実施例1〜3と同様にトナーを作製した。
【0055】
比較例12〜13
比較例12〜13は、テルペン系樹脂として「クリアロンP85(ヤスハラケミカル(株)、水素添加テルペン樹脂、軟化点85℃)」を使用した以外は、それぞれ実施例1および3と同様にトナーを作製した。
【0056】
比較例14〜15
比較例14〜15は、テルペン系樹脂として「クリアロンP150(ヤスハラケミカル(株)、水素添加テルペン樹脂、軟化点150℃)」を使用した以外は、それぞれ実施例1および3と同様にトナーを作製した。
【0057】
比較例16〜17
比較例16〜17は、テルペン系樹脂として「クリアロンP85(ヤスハラケミカル(株)、水素添加テルペン樹脂、軟化点85℃)」を使用した以外は、それぞれ実施例7および9と同様にトナーを作製した。
【0058】
比較例18〜19
比較例18〜19は、テルペン系樹脂として「クリアロンP150(ヤスハラケミカル(株)、水素添加テルペン樹脂、軟化点150℃)」を使用した以外は、それぞれ実施例7および9と同様にトナーを作製した。
【0059】
それぞれのトナーについて、融着性、粉砕性、高温高湿条件の保存性、保存安定性、透明性を測定し、評価した。それぞれの評価方法および評価基準を以下に示す。
【0060】
試験1−融着性
製造工程にて混練をする前に事前に材料をヘンシェルミキサーにて混合する。その際、40Hz・2minで混合後、攪拌羽に材料が付着しているか目視で判断する。
(評価基準) ○:付着せず
△:若干付着物あり
×:付着物あり。
【0061】
試験2−粉砕性
粉砕・分級工程にて混練粗砕物を粉砕分級する際、トナーの母体となる粒子の収率(質量%)より判断する。実状として、収率が70%以上であれば問題ない。また、この時トナーの体積平均粒径は9μm、微粉として3μm以下の個数割合が5%以下、粗粉として、16μm以上の体積割合が3%以下となるように粉砕条件を調整する。
(評価基準) ○:収率65%以上
△:収率65〜50%
×:収率50%未満
−:トナー化できず。
【0062】
試験3−高温高湿条件保存性
50℃90%の恒温恒湿槽に5時間放置し、固まり具合で評価する。50ccビーカーに30cc目盛まで、(15g位)トナーを入れ、バネ秤で針がねが15mm進入した時の値を読む。
(評価基準) ○:0.5N未満
×:0.5N以上
−:トナー化できず。
【0063】
試験4−保存安定性
40℃90%の恒温恒湿槽に30日間放置し、固まり具合で評価する。50ccビーカーに30cc目盛まで、(15g位)トナーを入れ、バネ秤で針がねが15mm進入した時の値を読む。
(評価基準) ○:0.5N未満
×:0.5N以上
−:トナー化できず。
【0064】
試験5−透明性評価試験
トナーサンプルを、通常環境(25℃、50%RH)において、OHP用紙(厚み:0.125mm)を用いてベタ画像を印字した。得られた画像サンプルの画像の一部を切取り、分光光度計(島津製作所製:UV−2400PC)を用いて、400nm〜700nmの波長範囲の最大透過度を測定し、以下のような評価基準で透明性評価とした。
(評価基準) ○:最大透過度が60%〜80%実用上問題ない
×:最大透過度が60%未満で、実用上問題がある
−:トナー化できず。
【0065】
試験結果を下記表に示す。
【表2】

【表3】

【0066】
実施例1〜18は、数平均分子量10,000〜30,000のポリ乳酸を結着樹脂として使用し、100〜140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂を、結着樹脂100質量%に対し1〜10質量%の量で原料混合物に添加した。その結果、トナー製造時の融着性および粉砕性に問題を生じることなく、保存性および透明性の良好なトナーを得ることができた。
【0067】
比較例1は、ポリ乳酸の数平均分子量が120,000と大きく、粉砕性が悪かったため、トナー化を断念した。
比較例2は、ポリ乳酸の数平均分子量が38,000と大きく、粉砕性について良い結果が得られなかった。
【0068】
比較例3は、ポリ乳酸の数平均分子量が7,000と小さく、高温高湿条件保存性および保存安定性が悪かった。
比較例4および5は、テルペン系樹脂を添加しなかったため、保存性および透明性の効果が得られなかった。
【0069】
比較例6〜9は、テルペン系樹脂の添加量が多いため、トナー製造時に融着性の問題が生じた。
比較例10〜11は、テルペン系樹脂の添加量が少ないため、保存性および透明性の効果が得られなかった。
【0070】
比較例12〜13、16〜17は、添加したテルペン系樹脂の軟化点が低いことにより、トナー製造時に融着性の問題が生じ、保存性も悪かった。
比較例14〜15、18〜19は、添加したテルペン系樹脂の軟化点が高いことにより、粉砕性について良い結果が得られなかった。
【0071】
以上の結果より、10,000〜30,000の数平均分子量を有するバイオプラスチックのトナーにおいて、所定の軟化点のテルペン系樹脂を所定の量で添加することにより、高温高湿条件の保存性および長期間の保存安定性を向上させ、透明性の高い印字を行えることが分かった。
【0072】
本発明のトナーは、バイオプラスチック、カルナバワックス、テルペン樹脂の三種とも植物由来の物なので、バイオプラスチック中に高分散し、透明性の高い印字物が得られる。また、石油を原料とした材料が少ないので環境負荷を低減するという効果を奏する。
【0073】
以下に、本願出願の当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]10,000〜30,000の数平均分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂、着色剤、および100〜140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂を含む原料混合物を混練し、粉砕してなる電子写真用トナーであって、前記テルペン系樹脂が、結着樹脂100質量%に対し、1〜10質量%の量で含有されることを特徴とする電子写真用トナー。
[2]前記テルペン系樹脂が、水素添加テルペン樹脂であることを特徴とする[1]に記載の電子写真用トナー。
[3]前記バイオプラスチックがポリ乳酸であることを特徴とする[1]または[2]に記載の電子写真用トナー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
10,000〜30,000の数平均分子量を有するバイオプラスチックを含有する結着樹脂、着色剤、および100〜140℃の軟化点を有するテルペン系樹脂を含む原料混合物を混練し、粉砕してなる電子写真用トナーであって、前記テルペン系樹脂が、結着樹脂100質量%に対し、1〜10質量%の量で含有されることを特徴とする電子写真用トナー。
【請求項2】
前記テルペン系樹脂が、水素添加テルペン樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真用トナー。
【請求項3】
前記バイオプラスチックがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真用トナー。

【公開番号】特開2012−145733(P2012−145733A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3671(P2011−3671)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(000104124)カシオ電子工業株式会社 (601)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】