説明

バイオプラスチックを用いた電子写真用トナー

【課題】 結着樹脂としてバイオプラスチックを含みながら、トナー保存性および耐久性を改善した電子写真用トナーを提供すること。
【解決手段】 結着樹脂として分子量3,000〜35,000のバイオプラスチックを含む、軟化点が100〜150℃である電子写真用トナーであって、バイオプラスチック100質量部に対して1〜20質量部の架橋剤を加えることにより、前記バイオプラスチックを架橋してなることを特徴とする電子写真用トナーを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオプラスチックを用いた電子写真用トナーに係り、特に耐久性に優れた電子写真用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式による画像形成は、静電荷像をトナーにより現像して可視化し、現像により得られたトナー像を用紙に転写した後、熱と圧力により定着させることにより行われる。
【0003】
上記トナーは、結着樹脂に着色剤や帯電制御剤などを配合した混合物を混練し、粉砕および分級して所定の粒度分布に調整することにより製造される。このようなトナーの結着樹脂として、従来、スチレン樹脂、アクリル樹脂や、ポリエステル樹脂などの石油由来の樹脂が使用されている。
【0004】
近年、環境への配慮から、廃棄時に環境への負荷の少ない生分解性樹脂、さらには、再生可能資源からつくられるバイオマスプラスチックを、トナー用樹脂として用いる方法が提案されている。なお、有限な資源への配慮と環境負荷の低減に貢献する、バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックのことをバイオプラスチックと呼ぶ。
【0005】
トナーの結着樹脂に生分解性を有する微生物系の脂肪族ポリエステルを使用する提案があるが(例えば、特許文献1参照)、得られたトナーは粉砕性が悪く、目的の粒度分布を得るのが困難である。また、トナーの軟化温度が高いため、定着温度を高く設定しなくてはならないという問題がある。
【0006】
このような問題を改善するため、生分解性樹脂に植物系のワックスを多量に添加することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、ワックスを多量に添加することでトナーの軟化温度を下げることは可能とはなるが、ワックス成分によりトナーが凝集し易くなるため、分級効率の低下による生産性の悪化や、トナーの流動性が悪化することで、現像機内でのトナー搬送性が劣るなどの問題が発生する。
【0007】
また、低温定着性や定着安定性のために、結着樹脂として、軟化点の異なる2種類の樹脂と生分解性樹脂を用いる提案がなされている(例えば、特許文献3参照)。このトナーでは、低軟化点樹脂が高軟化点樹脂と生分解性樹脂のつなぎの役割を果たし、結着樹脂中に生分解性樹脂が均一に分散される。しかしながら、このトナーでは、生分解性樹脂の結着樹脂中の配合率は13質量%程度であり、多くても33質量%にとどまる。明確な記載はないが、その理由は、生分解性樹脂の配合割合をこれ以上増やすと、生分解性樹脂の分散不良が起こり、耐久性、粉砕性が悪化するためと考えられる。
【0008】
また、バイオプラスチックのうち、脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸を使用したトナーは、実機での耐久性試験において、トナー同士の凝集や、非磁性1成分現像方式でのブレード融着などが発生し、従来のトナーと比較し、画像劣化が発生し易いことがわかった。
【0009】
以上のように、バイオプラスチックをトナーの結着樹脂の主成分とするには課題が多く、配合量も限られており、トナーの特性を維持しつつ、より多くのバイオプラスチックを配合できることが望まれている。
【0010】
本発明者らは、このようなバイオプラスチックをトナーの結着樹脂の主成分とする場合の問題点を、加水分解により分子量を低減させた分子量50,000以下のポリ乳酸を用いることにより改善することを試み、粉砕性、定着性の良好なトナー用樹脂を得ることができることを見出している。しかし、このような分子量を低減させたバイオプラスチックを用いても、定着工程でのオフセット性は不十分であり、ドクターブレードへの融着などの耐久性やトナー保存性の点で十分なトナーを得るには至らなかった。
【0011】
近年、電子写真技術を用いたプリンター、複写機は、省エネルギー化、高速化のため、定着工程でのトナー特性として、低温定着性、耐オフセット性が求められている。
【0012】
前記バイオプラスチックを用いたトナーは、バイオプラスチックの分子量を調整することで、溶融粘度を調整することが可能であり、定着温度を低減することが可能であるものの、樹脂中にゲル分を持たないため、定着工程での溶融時、十分な弾性が得られず、耐オフセット性が悪いことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平4−179967号公報
【特許文献2】特許第2597452号公報
【特許文献3】特開2006−91278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、以上の事情に鑑みてなされ、結着樹脂としてバイオプラスチックを含みながら、トナー保存性および耐久性を改善した電子写真用トナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、結着樹脂として分子量3,000〜35,000のバイオプラスチックを含む、軟化点が100〜150℃である電子写真用トナーであって、バイオプラスチック100質量部に対して1〜20質量部の架橋剤を加えることにより、前記バイオプラスチックを架橋してなることを特徴とする電子写真用トナーを提供する。
【0016】
このような電子写真用トナーにおいて、前記バイオプラスチックとしてポリ乳酸を用いることが出来る。
【0017】
また、前記架橋剤として、カルボジイミド化合物を用いることが出来る。
【発明の効果】
【0018】
本発明によると、結着樹脂としてバイオプラスチックを含みながら、トナー保存性および耐久性を改善した電子写真用トナーが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0020】
本発明者らは、分子量を低減させたバイオプラスチックを結着樹脂の主要成分として使用した電子写真用トナーが、トナー保存性および耐久性の点で十分満足するトナーではないことを見出した。
【0021】
これに対し、本発明者らは、分子量を調整したバイオプラスチックを用いるとともに、更に架橋剤を添加することにより、トナー保存性および耐久性改善効果が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0022】
即ち、本発明の一実施形態に係る電子写真用トナーは、結着樹脂として分子量3,000〜35,000のバイオプラスチックを含む、軟化点が100〜150℃である電子写真用トナーであって、バイオプラスチック100質量部に対して1〜20質量部の架橋剤を加えることにより、前記バイオプラスチックを架橋してなることを特徴とする。
【0023】
本実施形態に係る電子写真用トナーにおいて、使用するバイオプラスチックの分子量は、3,000〜35,000である。分子量が35,000を超える場合、軟化点が上昇し、粉砕性が悪く、トナー化が困難である。また、分子量が3,000未満の場合は、軟化点が低下し、保存性、定着性および耐久性の点で劣る。
【0024】
このように、所定の分子量を有するバイオプラスチックに、バイオプラスチック100質量部に対して1〜20質量部の架橋剤を添加することにより、耐久性およびトナー保存性を改善した電子写真用トナーを得ることが可能となった。
【0025】
即ち、本実施形態に係る電子写真用トナーでは、粉砕性を向上させるため、3,000〜35,000の分子量を有するバイオプラスチックを用いており、このように比較的分子量の低いバイオプラスチックを用いると耐久性が低下してしまうが、所定の量の架橋剤を添加することにより、トナーの製造前または製造中にバイオプラスチックが架橋され、得られたトナーの溶融時の粘度が向上し、定着工程において耐オフセット性を向上させることができる。
【0026】
また、架橋剤を添加することにより、トナー同士の融着による不具合や保存性が改善することも見られた。これは、樹脂が部分的に網目構造となり、樹脂自体の耐久性が向上したためと考えられる。
【0027】
なお、従来技術として、ポリエステル樹脂に架橋剤を加えた原料混合物の溶融混練を行って粉砕トナーを製造することが提案されている(特開2006−10940)。ポリエステル樹脂はゲル分を有するため、溶融混練時に分子鎖が切断され、粘度およびゲル分含有率が低下するが、架橋剤を添加することにより、溶融混練前と比較して粘度およびゲル分含有率の変化量は少なくなる。これに対して、本発明では、架橋剤を添加する点は同じであるが、ゲル分を有しないバイオプラスチックを用いるため、混練により分子鎖が切断されることがなく、架橋剤の添加により粘度を向上させることができ、架橋剤添加の効果が上記従来技術とは明確に異なる。
【0028】
本実施形態に係る電子写真用トナーにおいて使用する架橋剤は、バイオプラスチック100質量部に対して、1〜20質量部配合される。20質量部を超える場合、粉砕性が劣り、1質量部未満の場合、耐久性に劣り、保存性および定着性が不十分となる。
【0029】
架橋剤を添加することにより、バイオプラスチックが架橋され、樹脂の軟化点を上昇させることができる。トナーの良好な定着性および粉砕性を得るためには、最終的なトナーの軟化点として、100〜150℃の範囲とすることが必要である。
【0030】
本実施形態に係る電子写真用トナーにおいて結着樹脂として使用されるバイオプラスチックとしては、ポリ乳酸を用いることができる。ポリ乳酸は、乳酸がエステル結合により結合したポリマーであり、近年、環境に優しい生分解性プラスチックとして注目を集めている。即ち、自然界には、エステル結合を切断する酵素(エステラーゼ)が広く分布していることから、ポリ乳酸は環境中でこのような酵素により徐々に分解されて、単量体である乳酸に変換され、最終的には二酸化炭素と水になる。
【0031】
本実施形態で使用されるポリ乳酸の製造方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。原料となるとうもろこし等の澱粉を発酵し、乳酸を得た後、乳酸モノマーから直接脱水縮合する方法や乳酸から環状二量体ラクチドを経て、触媒の存在下で開環重合によって合成する方法がある。なお、乳酸には、光学異性体が存在し、L−乳酸とD−乳酸があるが、ポリ乳酸の製造には、これら単独または混合物のいずれの乳酸を使用しても良い。
【0032】
本実施形態で使用されるポリ乳酸の分子量は、重合時の反応条件を可変することで任意に調整することが可能である。ここで、商業的に販売されているポリ乳酸は、耐熱性向上等のため、より高分子のポリ乳酸が得られる開環重合法で合成されたものであり、その数平均分子量は100,000以上のものが主流である。しかし、本実施形態で使用されるポリ乳酸は、3,000〜35,000程度の比較的低分子のポリ乳酸であり、このように分子量が低いことにより、従来粉砕が困難であったポリ乳酸が、比較的容易に粉砕することが可能となり、ポリ乳酸を高濃度で添加することが可能となる。
【0033】
なお、ポリ乳酸の加水分解特性を利用し、例えばポリ乳酸を高温高湿環境中に放置して加水分解処理することにより、分子量を低減させたポリ乳酸を得ることも可能である。
【0034】
本実施形態に係る電子写真用トナーに使用される架橋剤としては例えば、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アミン化合物、オキサゾリン化合物、アジリジン化合物、シランカップリング剤、金属化合物などが挙げられる。その中で最も適しているのはカルボジイミド化合物である。
【0035】
カルボジイミド化合物は、3,000〜35,000の分子量に調製されたポリ乳酸との反応性がよく、混練工程において十分な架橋反応が行われると考えられる。
【0036】
架橋剤は、バイオプラスチックとあらかじめ反応させ、架橋したバイオプラスチックをトナー用樹脂として使用してもよく、また架橋剤を着色剤、離型剤などの材料とともに原料混合した後、溶融混練して反応させてもよい。
【0037】
本実施形態において使用される架橋剤は、架橋反応を起こさせるために加熱することを必要としない。
【0038】
本実施形態において使用される架橋剤は、ポリ乳酸の末端の官能基、即ちカルボキシル基および水酸基と架橋反応することにより、トナーの溶融粘度を高くし、それによって定着工程でのトナー特性が向上する。
【0039】
架橋剤の添加量は、ポリ乳酸100質量部に対して1〜20質量部であることが必要である。ポリ乳酸の分子量、架橋剤の種類に依存するが、架橋剤の添加量がポリ乳酸100質量部に対し、1質量部未満では架橋は少な過ぎて、架橋剤添加の効果が得られない。一方、ポリ乳酸100質量部に対して20質量部を超えると、架橋が過剰に進み、溶融粘度が高くなり過ぎて、低温定着性が悪化する。また、架橋反応により樹脂が硬くなる傾向があり、粉砕しにくくなるという欠点がある。
【0040】
また、前記軟化点を達成するためには、使用するポリ乳酸の分子量に応じて架橋剤の添加量を調整すればよい。
【0041】
本実施形態に係るトナーで使用される着色剤としては、従来公知のものを使用できる。例えば、黒の着色剤としては、カーボンブラック、青系の着色剤としては、C.I.Pigment15:3、赤系の着色剤としては、C.I.Pigment57:1、122、269、黄色系の着色剤としては、C.I.Pigment74、180、185等が挙げられる。環境への影響を考慮すると、着色剤単体で安全性が高いものが好ましい。
【0042】
これら着色剤の含有量は、トナー全体に対して、1〜10質量%であることが好ましい。また、着色剤は、予め樹脂と着色剤を高濃度に分散したマスターバッチの形として用いても良い。
【0043】
本実施形態に係るトナーには、必要に応じて、従来公知の離型剤を添加することができる。そのような離型剤としては、例えば、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、フィッシャートロプシュワックス等のオレフィン系ワックスや、カルナウバワックス、ライスワックス、カイガラムシワックス等の天然ワックス、合成エステルワックス等が挙げられる。
【0044】
低温定着性や高速印字性能を向上させるには、60〜100℃程度と比較的低い融点を有する離型剤が好ましく、具体的には、カルナウバワックスや、合成エステルワックスが好ましい。環境への影響を考慮すると、天然物系のカルナウバワックスがより好ましい。
【0045】
離型剤の配合量は、トナー全体に対して、1〜15質量%であることが好ましい。
【0046】
本実施形態に係るトナーには、必要に応じて、従来公知の帯電制御剤を添加することができる。これらの帯電制御剤のうち、例えば、正帯電制御剤としては、4級アンモニウム塩、アミノ基を含有する樹脂等が、負帯電制御剤として、サルチル酸の金属錯塩、ベンジル酸の金属錯塩、カリックスアレン型のフェノール系縮合物、カルボキシル基を含有する樹脂などが挙げられる。
【0047】
帯電制御剤の添加量は、トナー全体に対して、0.1〜5質量%であることが好ましい。
【0048】
本実施形態に係るトナーには、バイオプラスチック以外に、必要に応じて、従来公知のトナー用樹脂を添加することができる。そのような樹脂としては、スチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂があるが、顔料分散性、低温定着性の観点から、トナー用に開発されたポリエステル樹脂が好ましい。これらの樹脂は単独であっても、2種類以上を混合しても構わない。これらの樹脂の配合量は、環境への影響を考慮すると、トナー全体に対して、0〜50質量%であることが好ましい。
【0049】
その他の材料として、粉砕性、定着性等の改善のため、低分子量の樹脂を添加することができる。ここで、低分子量の樹脂としては、分子量数百〜数千のオリゴマー領域の樹脂であり、粘着付与剤として市販されている、ロジンおよびロジン誘導体、ポリテルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂等がある。
【0050】
以上説明した電子写真用トナーは、従来公知の方法により製造することができる。
【0051】
例えば、バイオプラスチックを含有する結着樹脂、着色剤、架橋剤、および必要に応じてその他添加剤を含む原料を混合した後、2軸混練機や加圧ニーダー、オープンロールなどの混練機で混練し、混練物を得る。この混練物を冷却した後、ジェットミル等の粉砕機で粉砕し、風力分級機等で分級することで、トナーを得ることができる。
【0052】
ここで、トナーの粒径は特に限定されないが、通常5〜10μmとなるように調整される。なお、流動性向上、帯電性調整、耐久性向上のため、外添剤を添加することもできる。
【0053】
外添剤としては、無機微粒子が一般的であり、シリカ、チタニア、アルミナ等が挙げられ、そのうち疎水化処理されたシリカ(日本アエロジル(株)、CABOT(株)より市販)が好ましい。無機微粒子の粒径は、1次粒子径として、7〜40nmのものが良く、機能向上のため、2種類以上を混ぜ合わせても良い。
【実施例】
【0054】
以下に本発明の実施例と比較例を示し、本発明についてより具体的に説明する。
【0055】
各物性値の測定方法を以下に示す。
【0056】
<トナー粒径の測定>
トナー粒径の測定
装置:マルチサイザーII(コールター社製)
試料:ビーカーに試料少量と精製水、界面活性剤を入れ、超音波洗浄器にて分散した。
【0057】
測定:アパーチャーは100μmで行い、カウントは50,000個で行い、体積平均粒径を得た。
【0058】
<分子量の測定>
装置:GPC(島津製作所社製)、検出器RI
分子量Mnは、分子量既知のポリスチレン試料によって作成した検量線を標準としてGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)にて測定される数平均分子量である。
【0059】
<軟化点の測定>
装置:フローテスター(島津製作所製、CFT−500D)
試料:1g
昇温速度:6℃/分
荷重:20kg
ノズル:直径1mm、長さ1mm
1/2法:試料の半分が流出した温度を軟化点とした。
【0060】
ポリ乳酸(REVODE101B、海正生物(株)製)を温度80℃、湿度80%RHに設定した恒温恒湿槽内に放置することにより加水分解処理を行った。処理時間を変更して加水分解処理を行い、分子量の異なるポリ乳酸(作製No.1〜11)を得た。
【0061】
下記表1に、加水分解の処理時間および加水分解されたポリ乳酸の分子量を示す。
【表1】

【0062】
上記表1に示すように、処理時間が増加するに従って、加水分解されたポリ乳酸の分子量は低下することがわかる。
【0063】
実施例1
結着樹脂として作製No.6のポリ乳酸(分子量:10,000、軟化点:120℃)82質量部、着色剤としてカーボンブラック(MOGUL L、CABOT(株)製)4質量部、離型剤としてカルナウバワックス1号粉末(日本ワックス(株)製)6質量部、架橋剤としてカルボジイミド化合物(HMV−8CA)8質量部をFMミキサー(標準羽装着、日本コークス(株)製)に投入し、混合した。
【0064】
得られた混合粉体を2軸押出機(スクリュウ径43mm、L/D=34)で溶融混練した後、延伸し、冷却し、ロートプレックス(2mmスクリーン、ホソカワミクロン(株)製)で粗砕した後、衝突式粉砕機(IDS−2、日本ニューマチック工業(株)製)および風力分級機(DSX−2、日本ニューマチック工業(株)製)にて、トナー平均粒径が9.0μmになるように粉砕および分級を行い、着色微粒子を得た。
【0065】
得られた微粒子100質量部に、外添剤として疎水性シリカ(RY200:1次粒子径12nm、日本アエロジル(株)製)を2質量部添加し、ヘンシェルミキサー(撹拌強化羽装着、三井鉱山(株)製)により3分間撹拌混合し、トナーを得た。
【0066】
実施例2および3、比較例1〜10
結着樹脂としてのポリ乳酸の分子量および配合量、架橋剤の種類および配合量を、下記表2に示す通り、変更したことを除いて、実施例1と同様にしてトナーを作製した。
【0067】
架橋剤には、実施例2および3、比較例2〜5ではカルボジイミド化合物(HMV−8CA、日清紡ケミカル(株)製)、比較例6ではエポキシ基含有シランカップリング剤(Z−6040、東レ・ダウコーニング(株)製)、比較例7ではオキサゾリン基含有ポリマー(エポクロスRPS−1005、日本触媒(株)製)、比較例8ではアジリジン化合物(PZ−33、日本触媒(株)製)、比較例9ではネオデカン酸グリシジルエステル(カージュラE、シェルジャパン(株)製)、比較例10ではチタンジイソプロポキシビス(オルガチックスTC−750、マツモトファインケミカル(株)製)をそれぞれ用いた。
【0068】
実施例4
ポリ乳酸および架橋剤の代わりに樹脂Aを90質量部用いたことを除いて、実施例1と同様にしてトナーを作製し、評価した。
【0069】
樹脂Aは以下の通り製造した。分子量10,000のポリ乳酸92質量部、カルボジイミド化合物(HMV−8CA、日清紡ケミカル(株)製)8質量部をFMミキサー(標準羽装着、日本コークス(株)製)で混合し、混合粉末を得た。得られた混合粉体を2軸押出機(スクリュウ径43mm、L/D=34)で溶融混練した後、延伸し、冷却し、ロートプレックス(2mmスクリーン、ホソカワミクロン(株)製)で粗砕し、樹脂Aを得た。樹脂Aの軟化点は138℃であった。
【0070】
それぞれのトナーについて、濃度安定性、保存性、定着性、粉砕性および耐久性を測定し、評価した。それぞれの特性の試験法および評価基準を以下に示す。
【0071】
試験1−濃度安定性
非磁性一成分現像装置(カシオページブレストN−5:カラープリンタ毎分29枚(A4横)機、プロセススピード129mm/sec、カシオ計算機(株)製)にトナーを実装し、通常環境(25℃、50%RH)において、普通紙(XEROX−P紙A4サイズ)を用いて、5%印字画像を14,000枚連続印字した。途中、2,000枚おきにA4ベタ画像を印字し、四隅と中央の5点について画像濃度を測定し、平均濃度を求める(その際、白スジ等による画像欠陥部分は測定しない)。各サンプリングポイントで求めた平均濃度のうち、最大値、最小値から次式により濃度安定性を求め、下記に示す基準で評価する。
【0072】
濃度安定性(%)=(平均濃度の最小値/平均濃度の最大値)×100
◎:濃度安定性が95%以上で良好
○:濃度安定性が85%以上で良好
△:濃度安定性が75%以上で実用上問題ないレベル
×:濃度安定性が75%未満で悪い
試験2−保存性
トナー10gをガラスビーカーに入れ、50℃、90%RHの恒温恒湿槽に8時間放置した後、トナーの凝集状態を目視で確認し、下記の基準で評価する。
【0073】
◎:トナーの凝集がまったく認められない。
【0074】
○:トナーの凝集がほとんど認められない。
【0075】
△:トナーの凝集がわずかに認められる。
【0076】
×:トナーの凝集がはっきりと認められる。
【0077】
試験3−定着性
試験1(濃度安定性)で用いたのと同様の装置の定着部分の温度を可変できるように改造し、定着試験機とする。試験1(濃度安定性)で用いたのと同様の装置で未定着画像を得た後、定着試験機にて、上ロールの定着温度を100〜200℃の範囲で10℃毎に可変し、未定着画像を定着した。その際、下ロールは上ロールの設定温度に対し10℃低い温度に設定した。
【0078】
画像サンプルのコールドオフセット、ホットオフセット、剥離爪跡を目視で評価し、非オフセット領域を求め、下記の基準で評価する。なお、プロセス速度は129.3mm/sec、用紙はXEROX P紙、A4サイズ(質量64g/m)で行う。また、定着器のオイル供給ロールは外して行う。
【0079】
◎:非オフセット領域が30℃以上である。
【0080】
○:非オフセット領域が20℃以上である。
【0081】
△:非オフセット領域が20℃未満である。
【0082】
×:非オフセット領域が10℃以下である。
【0083】
試験4−粉砕性
粉砕・分級工程にて混練粗砕物を粉砕分級する際、トナーの母体となる粒子の収率(質量%)より判断し、下記の基準で評価する。実情として、収率が65%以上であれば問題ない。この時、トナーの体積平均粒径は9μm、微粉として3μm以下の個数割合が5%以下、粗粉として、16μm以上の体積割合が3%以下となるように粉砕条件を調整する。
【0084】
◎:収率75%以上
○:収率65%以上
×:収率65%未満
試験5−耐久性
試験1と同様の装置を用い、通常環境下(25℃、50%RH)において、5%印字画像を14,000枚連続印字する。その際、ブレードにトナーの固形物が詰まったり、融着するなどして発生する画像不良の有無を観察し、下記の基準で評価する。
【0085】
◎:画像不良は全く見られない。
【0086】
○:画像不良がほとんど見られない。
【0087】
×:画像不良が発生
以上の試験結果を下記表2に示す。
【表2】

【0088】
上記表2から、次のことが明らかである。即ち、結着樹脂として3,000〜35,000の分子量を有するポリ乳酸、ポリ乳酸100質量部に対して1〜20質量部のカルボジイミド化合物を含む混合物を溶融混練し、粉砕および分級して得た実施例1〜3のトナー、ならびにポリ乳酸およびカルボジイミド化合物をあらかじめ溶融混練して作製した樹脂Aを用いて得た実施例4のトナーは、濃度安定性、保存性、定着性、粉砕性および耐久性のいずれも良好であった。カルボジイミド化合物は、前記特定の分子量に調整されたポリ乳酸との反応性が良く、混練工程において十分な架橋反応が行われているためと考えられる。
【0089】
これに対し、架橋剤を添加しない比較例1のトナーは保存性および定着性が不十分であり、耐久性に劣っていた。
【0090】
また、カルボジイミド化合物の添加量が、ポリ乳酸100質量部に対し20質量部を超える比較例2のトナーは、粉砕性に劣っていた。
【0091】
用いたポリ乳酸の分子量が35,000を超える比較例3のトナーは、軟化点が170℃と高く、粉砕性が悪いため、トナー化を断念した。一方、用いたポリ乳酸の分子量が3,000未満である比較例4のトナーは、軟化点が90℃と低く、保存性、定着性および耐久性に劣っていた。
【0092】
また、用いたポリ乳酸の分子量が35,000であり、ポリ乳酸100質量部に対し、カルボジイミド化合物を9.8質量部用いた比較例5のトナーは、軟化点が165℃と高く、定着性および粉砕性に劣っていた。これは、ポリ乳酸の分子量が高いのに対し、架橋剤量が多いためと考えられる。
【0093】
カルボジイミド化合物以外の架橋剤を用いた比較例6〜10のトナーは、耐久性に劣り、保存性および定着性も十分なものではなかった。これらの架橋剤は、長時間加熱することによって初めてバイオプラスチックの架橋反応を生ずるものであるため、トナーの製造条件下では、架橋反応が生じなかったためと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結着樹脂として分子量3,000〜35,000のバイオプラスチックを含む、軟化点が100〜150℃である電子写真用トナーであって、バイオプラスチック100質量部に対して1〜20質量部の架橋剤を加えることにより、前記バイオプラスチックを架橋してなることを特徴とする電子写真用トナー。
【請求項2】
前記バイオプラスチックがポリ乳酸であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真用トナー。
【請求項3】
前記架橋剤がカルボジイミド化合物であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真用トナー。

【公開番号】特開2012−37585(P2012−37585A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174816(P2010−174816)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(000104124)カシオ電子工業株式会社 (601)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】